効率的なサブバンド適応FIRフィルタリング
【課題】音声チャネルを備えた音声システムの提供。
【解決手段】デジタルフィルタが各チャネルに実装されるデジタル音声プロセッサを備える音声システムであって、各チャネルのデジタルフィルタが広帯域入力音声信号を受信し、受信音声信号を複数サブバンドに分割し、等帯域幅のサブバンド信号を提供する様に構成され、かつ、サブバンド信号スペクトルが入力音声信号のスペクトルを構成する解析フィルタバンク22、各サブバンド用で、各フィルタリングサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタ、フィルタリングサブバンド信号を受信し、広帯域出力音声信号を提供する為に結合する様に構成される合成フィルタバンク22‘を備え、遅延が各サブバンド信号に関連付けられ、サブバンド信号の内の1つの遅延が解析フィルタバンクの上流の広帯域入力音声信号に適用され、残留遅延が解析フィルタバンクの下流の残サブバンド信号に適用される、音声システム。
【解決手段】デジタルフィルタが各チャネルに実装されるデジタル音声プロセッサを備える音声システムであって、各チャネルのデジタルフィルタが広帯域入力音声信号を受信し、受信音声信号を複数サブバンドに分割し、等帯域幅のサブバンド信号を提供する様に構成され、かつ、サブバンド信号スペクトルが入力音声信号のスペクトルを構成する解析フィルタバンク22、各サブバンド用で、各フィルタリングサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタ、フィルタリングサブバンド信号を受信し、広帯域出力音声信号を提供する為に結合する様に構成される合成フィルタバンク22‘を備え、遅延が各サブバンド信号に関連付けられ、サブバンド信号の内の1つの遅延が解析フィルタバンクの上流の広帯域入力音声信号に適用され、残留遅延が解析フィルタバンクの下流の残サブバンド信号に適用される、音声システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声アプリケーションでのサブバンド信号処理に関し、特に、所望されるターゲット転送関数の計算上効率的な実装を提供するサブバンドFIRフィルタのセットを設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IIRフィルタ(無限インパルス応答フィルタ)と対照的に、FIRフィルタ(融点インパルス応答フィルタ)は、所望される転送関数(つまり、大きさ及び位相応答)を有するデジタルフィルタを実現する可能性を提供する。したがって、所望される転送関数は、最小位相となるように設計できるだけではなく、最大位相、又は混合相となるように設計することもできる。さらに、しばしば音声信号処理で所望される、線形位相転送関数も実装できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特に音声信号処理では、動作中のメモリ要件だけではなく計算上の作業も増加させる、FIRフィルタを使用するときには、必要とされるフィルタ長は、しばしばかなり長くなる。これは、おもに2つの物理的な要因による。第1に、大部分の音声用途に存在する室内インパルス応答の減衰期間はかなり長く、その結果、FIRフィルタを使用するときには、相応して長いフィルタ長につながる。第2に、人間の聴覚系は、異なる周波数バンドで不均一な周波数分解能を提供するように適応されている。人間の聴覚系は、低周波はきわめてよく分解する。つまり、周波数差は低い絶対周波数でよく認識されるのに対し、高周波はそれほど容易に識別されない。例えば、両方の場合とも周波数差は100Hzであるが、100Hzのトーンが200Hzのトーンから容易に区別され得るのに対し、人間の耳では5100Hzトーンから5000Hzのトーンを区別するのが困難である。すなわち、人間の聴覚系の周波数分解能は周波数が高くなるにつれて減少する。この現象は周知であり、バーク尺度、メル尺度、及びERB(同等矩形帯域幅)尺度等の人間の聴覚系に適応された心理音響周波数尺度を形成する。
【0004】
研究は、内装(カーペット、布張りをした家具等)の結果として、エネルギーの分解が低速であるため、試聴室の室内インパルス応答が、特に低周波で著しく長いことを示している。音声再生システムによって生じる音圧がバス周波数範囲(つまり、200Hz未満)で最大であるのに対し、人間の聴覚系は低周波音声信号により敏感でなくなるという事実によって、この影響はさらに強くなっている。
【0005】
これら全ての要因を統合した見解は、典型的な試聴室の特性だけではなく、人間の聴覚系の特性によって、音声信号処理システムで十分な音声品質を提供するためには、FIRフィルタの長さが特定の最小長さよりも短くないことが要求される。例えば、バス周波数範囲で約10Hzの必須周波数分解能を提供するには、44100Hzのサンプリング周波数での音声チャネルごとに、4410フィルタ係数のFIRフィルタが必要となり、それによって現代的な音声システムは最大16のチャネルを有する。
【0006】
長いFIRフィルタが動作中に多大な計算作業及び/又は高メモリ要件を伴うので、標準的なデジタル音声信号処理の使用を可能にするためには、音声アプリケーションでのFIRフィルタの効率的な実装に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
少なくとも1つの音声チャネルのある音声システムが開示される。音声システムは、チャネルごとに少なくとも1つのデジタルフィルタが実装されるデジタル音声プロセッサを含む。各チャネルのデジタルフィルタは、広帯域入力音声信号を受信し、その入力音声信号を複数のサブバンドに分割し、このようにして等しい帯域幅を有するサブバンド信号を提供し、サブバンド信号のスペクトルが入力音声信号のスペクトルを作るように構成される解析フィルタバンクと、各サブバンド用であり、このようにしてそれぞれフィルタリングされたサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタと、フィルタリングされたサブバンド信号を受信し、1つの広帯域出力音声信号を提供するためにそれらを結合するように構成される合成フィルタバンクとを含み、遅延は各サブバンド信号に関連付けられ、サブバンド信号の内の1つの遅延が解析フィルタバンクの上流にある広帯域入力音声信号に適用され、残留遅延が解析フィルタバンクの下流の残りのサブバンド信号に適用される。対応するフィルタリング方法が開示される。
【0008】
本発明は、以下の図面及び説明を参照するとよりよく理解できる。図中、類似する参照番号は、対応する部分を示す。
【0009】
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
少なくとも1つのデジタルフィルタが各チャネルに実装されるデジタル音声プロセッサを備える少なくとも1つの音声出力チャネルのある音声システムであって、各チャネルの前記デジタルフィルタが、
広帯域入力音声信号を受信し、前記受信した音声信号を複数のサブバンドに分割し、このようにして等しい帯域幅を有するサブバンド信号を提供するように構成される解析フィルタバンクであって、前記サブバンド信号の前記スペクトルが前記入力音声信号の前記スペクトルを構成する解析フィルタバンクと、
各サブバンド用のサブバンドFIRフィルタであって、このようにしてそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタと、
前記フィルタリングされたサブバンド信号を受信し、広帯域出力音声信号を提供するためにそれらを結合するように構成される合成フィルタバンクと、
を備え、
遅延が各サブバンド信号に関連付けられ、前記サブバンド信号の内の1つの前記遅延が前記解析フィルタバンクの上流の前記広帯域入力音声信号に適用され、前記残留遅延が前記解析フィルタバンクの下流の前記残りのサブバンド信号に適用される、
音声システム。
(項目2)
前記遅延されていない入力音声信号を受信し、追加サブバンド信号として、前記解析フィルタバンクでタッピングされていない最低周波数サブバンドの前記サブバンド信号を提供する低域通過フィルタと、
前記それぞれのサブバンドFIRフィルタの上流又は加硫で前記最低周波数サブバンド信号に適用される遅延と、
をさらに備え、
前記広帯域入力音声信号に適用される前記遅延が、前記解析フィルタバンクでタッピングされる前記サブバンドと関連付けられる最短の遅延に一致する、
上記の項目に記載のシステム。
(項目3)
前記サブバンドFIRフィルタのフィルタ係数の前記数が、銭サブバンドフィルタの前記周波数分解能が、少なくともほぼ前記人間の耳の前記周波数分解能に相当するように設定される、
上記項目のいずれか1つの項目に記載のシステム。
(項目4)
少なくとも第1の音声チャネルと、第2の音声チャネルとを備え、
各広帯域入力音声信号が、前記解析フィルタバンクでタッピングされる全てのチャネルの全てのサブバンド信号の最短の遅延によって与えられる等しい遅延で遅延される、
上記項目のいずれか1つの項目に記載のシステム。
(項目5)
前記解析フィルタバンク(複数の場合がある)及び前記合成フィルタバンク(複数の場合がある)が、前記入力音声信号をブロック単位で処理する偶数で積み重ねられるGDTFフィルタであり、前記サブバンド信号が、前記ブロックサイズに対応する係数で、前記広帯域信号に比較してダウンサンプリングされ、
前記処理されたサブバンド信号の前記最低周波数及び前記最高周波数のサブバンド信号が実数値であり、前記他のサブバンド信号が複素数値である、
上記項目のいずれか1つの項目に記載のシステム。
(項目6)
前記低域通過フィルタが、前記解析フィルタバンク(複数の場合がある)によって使用されるプロトタイプフィルタに相当する、上記項目のいずれか1つの項目に記載のシステム。
(項目7)
音声システムの少なくとも1つの音声出力チャネル内に提供される少なくとも1つの音声信号をフィルタリングするための方法であって、各チャネルのために、
所与の周波数バンド内にあるスペクトルを有する、フィルタリングされる広帯域入力音声信号を受信することと、
前記入力音声信号の前記周波数バンドを、複数のサブバンドに分割し、このようにしてサブバンド信号を提供することであって、前記サブバンド信号の前記スペクトルが前記入力音声信号の前記スペクトルを構成する、提供することと、
各サブバンド信号をフィルタリングし、このようにしてサブバンドごとにそれぞれのFIR又はIIRフィルタを使用してそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供することと、
広帯域出力音声信号を提供するために、前記フィルタリングされたサブバンド信号を結合することと、
を含み、
遅延が各サブバンドに関連付けられ、前記サブバンドの内の1つの前記遅延が、前記周波数バンドを分割する前に前記広帯域入力音声信号に適用され、前記残留遅延が前記周波数バンドを分割後に前記残りのサブバンド信号に適用される、
方法。
(項目8)
前記周波数バンドを分割することが、前記入力信号をブロック単位で処理する第1の偶数で積み重ねられたGDTF解析フィルタバンクを使用して実行され、
前記周波数バンドを分割することが、前記広帯域信号と比較して、前記ブロックサイズに相当する係数分、前記サブバンド信号を前記ダウンサンプリングすることをさらに含み、
前記フィルタリングされたサブバンド信号を結合することが、前記第1のフィルタバンクに対応し、前記広帯域出力信号をブロック単位で提供する第2の偶数で積み重ねられたGDTF合成フィルタバンクを使用して実行される、
上記の項目に記載の方法。
(項目9)
前記遅延していない入力音声信号を低域通過フィルタリングし、追加サブバンド信号として、前記最低周波数サブバンドの前記サブバンド信号を提供することと、
それぞれのFIR又はIIRフィルタを使用して前記最低周波数サブバンド信号をフィルタリングし、このようにして対応するフィルタリングされたサブバンド信号を提供することと、
FIRフィルタリングの前又は後に前記最低周波数サブバンド信号を表示することと、
をさらに含む、上記項目のいずれか1つの項目に記載の方法。
(項目10)
前記サブバンドFIRフィルタのフィルタ係数の前記数が、前記サブバンドフィルタの前記周波数分解能が前記人間の耳の前記周波数分解能に少なくともほぼ一致するように設定される、上記項目のいずれか1つの項目に記載の方法。
(項目11)
前記音声システムが、第1の音声出力チャネル及び第2の音声出力チャネルを備え、
各広帯域入力音声信号が、前記周波数バンドを除算することによって得られる全てのチャネルの全てのサブバンド信号の最短遅延によって与えられる等しい遅延で遅延される、
上記項目のいずれか1つの項目に記載の方法。
(項目12)
前記低域通過フィルタリングが、低域通過フィルタとして、前記周波数バンドを分割するために使用される前記GDFTフィルタバンク(複数の場合がある)によって使用されるプロトタイプフィルタに相当するフィルタを使用することを含む、
上記項目のいずれか1つの項目に記載の方法。
【0010】
(摘要)
少なくとも1つの音声チャネルのある音声システムが開示される。音声システムは、チャネルごとに少なくとも1つのデジタルフィルタが実装されるデジタル音声プロセッサを含む。各チャネルのデジタルフィルタは、広帯域入力音声信号を受信し、複数のサブバンドに入力音声信号を分割し、このようにして等しい帯域幅を有するサブバンドを提供するように構成される解析フィルタバンクであって、サブバンドの信号のスペクトルが入力音声信号のスペクトルを構成する解析フィルタバンクと、各サブバンド用であり、このようにしてそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタと、フィルタリングされたサブバンド信号を受信し、それらを結合し、広帯域出力音声信号を提供するように構成される合成フィルタバンクとを含み、遅延が各サブバンド信号と関連付けられ、サブバンド信号の内の1つの遅延が解析フィルタバンクの上流で広帯域入力音声信号に適用され、残留遅延が解析フィルタバンクの下流で残りのサブバンド信号に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】FIRフィルタのフィルタ係数の適応計算のための基本信号処理構造を示し、FIRフィルタは所定のターゲット関数P(z)にほぼ一致する転送関数G(z)を表す。
【図2】図1の構造の変型を示し、それによって図1の全帯域FIRフィルタG(z)がサブバンドFIRフィルタGm(z)のセットで置き換えられる。
【図3】全帯域フィルタG(z)に代わることができるサブバンドFIRフィルタGm(z)のセットを含む信号処理構造を示す図である。
【図4】それぞれがサブバンドFIRフィルタ及び遅延回線を含む、多くのサブバンドを含む適応FIRフィルタ設計のための信号処理構造を示す図である。
【図5】サブバンドFIRフィルタの長さを適応するときに低周波サブバンドを強調するためのバーク尺度に基づいた重み付け係数を示す図である。
【図6】図偶数で積み重ねられたフィルタバンク及び奇数で積み重ねられたフィルタバンクの規模応答を概略で示す図である。
【図7a】複数のサブバンドフィルタ内で分割されるFIRフィルタの構造を概略で示す図である。
【図7b】図7aの例の簡略化された代替策を概略で示す図である。7a
【図8】メモリ要件が削減された図6のフィルタバンクの代替策を示す図である。
【図9】図8の例を改善するためのオプションを示す図である。
【図10】2つの別々の音声チャネル内のフィルタを含む例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、FIRフィルタ20のフィルタ係数gk (k = 0, 1, ..., K−1)の適応計算のための基本信号処理構造を示し、それによって下付き文字kはフィルタ係数の指数を示し、Kはフィルタ長を示す。FIRフィルタ20は、フィルタ係数gkの適応が成功した後に、基準システム10の所定のターゲット関数P(z)にほぼ一致する(離散)転送関数G(z)を有する。適応フィルタ設計手順を実行するために、基準フィルタ10及びFIRフィルタ20には、例えば、ホワイトノイズ又はFIRターゲット転送関数P(z)の通過帯域を含む帯域幅を有する任意の他の信号である、試験信号(入力信号x[n])が供給される。FIRフィルタ20の出力信号y[n]は、基準システム10の出力信号から、つまり所望される信号d[n]から減算される(減算器30)。差d[n]−y[n]は、エラー信号e[n]として使用され、適応部21に供給される。適応部21は、各サンプル時間間隔中に、エラー信号及び入力信号x[n](本文脈では基準信号としても示される)からFIRフィルタ係数gkの更新されたセットを計算するように構成される。最小二乗平均(LMS)アルゴリズム又は正規化最小二乗平均(NLMS)アルゴリズムが、フィルタ係数の適応のために利用され得る。ただし、この目的のためには、さまざまな適応アルゴリズムが活用されてもよい。適応アルゴリズムの収束後、FIRフィルタ係数gkは、ターゲット転送関数P(z)の最適近似である転送関数G(z)を表す。
【0013】
FIRフィルタを使用するときの計算作業を削減するための1つのオプションは、フィルタリングされる信号のスペクトルを多くの狭帯域信号(サブバンド信号)に分割し、各狭帯域信号を別々にフィルタリングすることである。全帯域信号のいくつかのサブバンド信号への分割は、いわゆる解析フィルタバンク(AFB)によって実現され得る。同様に、サブバンド信号は、対応する合成フィルタバンク(SFB)を用いて単一の全帯域信号に(再)結合され得る。以下では、全帯域信号は、例えば所望される信号d[n]のように下付き文字なしで示され、nは時間インデックスである。さらに、例えばdm[n]のような下付き文字を有する信号は、対応する全帯域信号d[n]の分解であるサブバンド信号のセットを示す。それによって、下付き文字mは、サブバンドの数(m = 1, 2, ..., M)を示す。同様に、離散全帯域転送関数G(z)は、多くのサブバンド転送関数Gm(z)に分解され得る。
【0014】
図2は、図1の基本信号処理構造に類似した、それによって適応FIRフィルタ20が、サブバンドFIRフィルタのセット20’で置き換えられる基本信号処理構造を示す。この目的のため、全帯域入力信号x[n]は、AFB22を使用することによって数Mのサブバンド入力信号xm[n](m = 1, 2, ..., Mである)に分割される。同様に、所望される全帯域信号d[n]は、AFB11を使用して(再び、m = 1, 2, ..., M)数Mのサブバンド信号dm[n]に分けられる。各サブバンドFIRフィルタは、狭帯域転送関数Gm(z)を実現し、下付き文字mは再びサブバンドの数を示す。各サブバンドフィルタGm(z)は、そのフィルタ係数gmkによってあらわされてもよく、それによってkは、k=0からk=Km−1(Kmは、m番目のサブバンド内のフィルタGm(z)のフィルタ長さである)に及ぶフィルタ係数のインデックスを示す。各FIRフィルタGm(z)は、対応するエラー信号em[n] = dm[n] − ym[n]を受信し、それぞれのサブバンドmごとに更新されたフィルタ係数gmk (k = 1, 2, ..., Km−1) のそれぞれのセットを計算する、適応部と関連付けられている(適応部のセットは図2で数字21’で示される)。
【0015】
図1の例と同様に、M個のサブバンドFIRフィルタGm(z)の各1つのフィルタ係数gmkは、適応アルゴリズムの収束後に、全てのサブバンド転送関数Gm(z)の組み合わせから生じる総転送特性が所定のターゲット関数P(z)に一致するように適応される。
【0016】
適切なフィルタ係数gmkの計算後、FIRフィルタGm(z)のセット20’は、音声信号をフィルタリングするための図3に示されるように、解析フィルタバンク(AFB22)と対応する合成フィルタバンク(SFB22’)との間で操作されてよい。この場合、AFB22、FIRフィルタバンク20’、及びSFB22’は、例えば音声システムの等化フィルタを表すことがある、ターゲット関数P(z)にほぼ一致する転送関数G(Z)をともに実装する。現代の音声システムでのように、リスナーにとって所望されるサウンドインプレッションを生じさせるために、大きさだけではなく位相が等化にさらされる。したがって、ターゲット関数P(z)は、一般的に、非線形位相特性のある非最小位相フィルタを表す。
【0017】
解析フィルタバンクと、サブバンドフィルタのセットと、合成フィルタバンクとを含む、図3の信号処理構造が、(計算作業及びメモリ要件という点で)同じ転送関数の「通常の」FIRフィルタよりもより効率的であるのかという質問に対する回答は、とりわけ解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクの効率的な実装形態の可用性に依存している。人間の聴覚系の不均一な周波数分解能を説明するために、低い中心周波数があるサブバンドの帯域幅が、より高い中心周波数のあるサブバンドの帯域幅よりも狭いフィルタバンクを使用することが望ましいだろう。かかる心理音響的に動機付けされる全帯域信号の、帯域幅が可聴周波数範囲内のそれぞれのサブバンドの位置に依存するサブバンド信号のセットへの分割を実現するいくつかの手法が存在する。しかしながら、異なる帯域幅のサブバンドのセットに1つの入力スペクトルを不均一に分割することを可能にする効率的なフィルタバンクは既知ではない。それにも関わらず、技術では、全帯域信号の、等しい帯域幅のサブバンド信号のセットへの分割を可能にする他の方法が既知である。一例は、単一のプロトタイプフィルタ、及びほぼあらゆる信号処理環境で利用できるFFTアルゴリズムを利用する、S.Weissらによって説明されるオーバーサンプリングされたGDFTフィルタバンクの高速実装形態である(IEE Electronics Lettersの第36巻、1502−1503ページ、2000年のS. Weiss、「Fast Implementation of Oversampled Modulated Filter Banks」を参照すること)。
【0018】
上記を要約すると、効率的な実装形態は不均一な帯域幅のサブバンドを処理するために利用できないので、等しい帯域幅のサブバンドを用いて動作するフィルタバンクを使用する必要がある。ただし、等しく幅広いサブバンドの機能不全を緩和するために、それぞれのサブバンドに割り当てられるFIRフィルタの異なるフィルタ長が選ばれてよい。すなわち、FIRフィルタは、高周波分解能が要求されるサブバンドにおいてよりも、低周波分解能が要求されるサブバンド内でより少ないフィルタ係数を含む。高周波分解能が要求されるサブバンドは、通常、、可聴周波数範囲の下部にあるサブバンドである。したがって、人間の聴覚系の周波数分解能に相当する周波数分解能は、等しく幅広いサブバンドを用いて動作する効率的なフィルタバンクを使用することによって達成され得る。
【0019】
上述されたように、ターゲット関数P(z)は、一般に、周波数上での非線形グループ遅延特性を有する非最小位相フィルタである。異なるサブバンドでの異なるグループ遅延から生じる異なる信号伝搬遅延を補償するために、遅延回線は、遅延回線の上流又は下流にある各サブバンドFIRフィルタに接続されてよい。したがって、遅延等化は、計算上、非効率的である追加のFIRフィルタ係数を使用して達成される必要はない。フィルタ係数の数だけではなく、遅延値も実現されるターゲット転送関数P(z)(つまり、大きさ及び位相応答)に依存するので、フィルタ係数の数(つまり、フィルタ「タップ」の数、及び遅延値は、「適応タップ割り当て」アルゴリズム及び「適応遅延割り当て」アルゴリズムを使用して、本明細書中でいかに説明されるように、サブバンドごとに適応的に決定され得る。その結果、M個のサブバンドFIRフィルタGm(z)を設計するときには、フィルタ係数(図1の係数gmkを参照すること)だけではなく、係数の数KM及び追加遅延△mも適応的に決定される。図4は、サブバンドFIRフィルタ設計に使用される信号処理構造を示す。図4の例は、図2の構造の改良版であり、各サブバンド信号経路に追加の遅延、及びグローバル「適応割り当て及び遅延割り当て部」を備えている。4は、図2の構造の改良版を示し、4の例は、図2の構造の改良版であり、各サブバンド信号経路に追加の遅延、及びグローバル「適応割り当て及び遅延割り当て部」を備えている。
【0020】
図2の例でのように、全体入力信号x[n](例えば、帯域が制限されたホワイトノイズ)が、ターゲット転送関数うP(z)のあるシステム10に供給され、このようにして所望される信号d[n]を生成する。入力信号x[n]だけではなく、所望される信号d[n]も、それぞれ数Mのサブバンド信号dm[n] 及び xm[n]に分割される。図4の例は、最初のサブバンド及び最後のサブバンド(m = 1及びm = M)と関連付けられた構成要素及び信号だけを示す。サブバンド入力信号xm[n]は、転送関数Gm(z)がある適応FIRフィルタに供給され、このようにしてフィルタリングされたサブバンド信号ym[n]を生成する。フィルタリングされた各サブバンド信号ym[n]は、対応する所望される信号dm[n]から差し引かれ、サブバンドごとにエラー信号em[n]を生じさせる。適応部は、それぞれのFIRフィルタGm(z)のフィルタ係数gmk(つまり、フィルタのインパルス応答{gm0, gm1, ..., gm(K−1)})を最適化するための各FIRフィルタGm(z)に割り当てられ、それによってフィルタ係数gmkの最適セットがそれぞれのエラー信号em[n]のノルム(例えば、累乗)を最小限に抑える。
【0021】
遅延Dmを提供する遅延回線は、各サブバンドFIRフィルタGm(z)に上流で又は下流で接続される。さらに、以下にさらに詳細に説明される適応タップ割り当て及び適応遅延割り当てアルゴリズムに従って、遅延回線Dmの対応する遅延値だけではなく、FIRフィルタGm(k)のフィルタ長Kmも動的に適応するように構成される、「適応タップ割り当て及び適応遅延割り当て部」40が設けられる。
【0022】
上述された適応タップ割り当て(つまり、FIRフィルタ長の適応)にはさまざまな手法が考えられ得る。1つの手法は、総エラー信号e[n](それによって、e[n] = e1[n] + e2[n] + ...+ eM[n])が最小値に達するまで、サブバンドFIRフィルタGm(z)のフィルタ長Kmを変えることである。実際には、かかる方法は優れた結果を出すが、、フィルタ係数の数の各変更後に、適応フィルタが再び収束する時間を要するので、きわめて時間がかかる。上述の手法と同様に優れた結果を出すが、要する時間がはるかに少ない別の手法は、S個の一番端のフィルタ係数gm(Km−1), gm(Km−2), ..., gm(Km−S)のエネルギーを検討する。サブバンドのフィルタGm(z)のフィルタ長Kmは、上述のS個の一番端のフィルタ係数のエネルギーがほぼ等しくなるまで変えられる。この手法は、サブバンドフィルタが経時的に急激に減衰することを必要とし、それは現実世界のシステムではつねに当てはまらなくてはならない。各サブバンドフィルタのS個の一番端のフィルタタップのエネルギーを比較することによって、サブバンドフィルタGm(z)がどれほどよくターゲット関数P(z)を近似し、信号減衰挙動がターゲット関数P(z)のインパルス応答の信号減衰挙動に似ているサブバンドフィルタインパルス応答を達成するように、サブバンドフィルタ全体でフィルタ係数を分散し直すためのガイドラインとなり、最小限に抑えることができるエラーに関して最適とみなすことができる。
【0023】
以下に、適応タップ割り当てアルゴリズムの例がさらに詳しく説明される。他のM/2サブバンド信号は、第1のM/2サブバンドの信号の共役複素数のコピーであるため、実数値の全帯域入力信号x[n]の場合(図2を参照すること)、M/2サブバンドだけを処理する必要があることに留意するべきである。したがって、それぞれのサブバンドFIRフィルタ転送関数は、以下の関係性に準拠し、
【0024】
【数1】
それによって、アスタリスクは共役複素数演算子を示す。
【0025】
したがってサブバンドフィルタGm(z)のフィルタ長Km(それによって、m = 1, 2, ..., M/2)は、Q個のサンプル(つまり、サブバンドシステム内のサンプル)の期間で修正される。しかしながら、全てのサブバンドフィルタGm(z)のフィルタ係数の総数gmk[n]は一定のままである。すなわち、1つ又は複数のサブバンドフィルタのフィルタ長が増加する場合、別のサブバンドフィルタのフィルタ長は、フィルタ係数の総数を一定に保つように削減されなければならない。したがって、Q個のサンプルの期間では、M/2サブバンドFIRフィルタのそれぞれの長さは、ΔK 個の係数分削減される。したがって、さらに以下に説明される特定の基準に従って、M個のサブバンドフィルタ全体で分散し直されるΔK・M/2個の「自由な」係数がある。
【0026】
上記の「分散し直し」は、以下の方程式で表されてよい。
【0027】
【数2】
上式ではm = 1, 2, ...であり、M/2はサブバンドの数を示す。式 cm[n/Q]は、フィルタタップ(つまり、フィルタ係数)の分散の上述された基準を表す。上述されたように、1つの有用な基準は、サブバンドエラー信号em[n]のエネルギーである。この場合、cm[n/Q]は以下のように表すことができる。
【0028】
【数3】
上式では、m = 1, 2, ...であり、M/2及びRはエラー信号が平均化されるサンプルの数である。ただし、適応サブバンドFIRフィルタは、方程式(3)が評価される前に集束しなければならず、結果的に、RはQよりもはるかに小さくなる必要がある(つまり、R << Q)。別の基準は、それぞれのサブバンドFIRフィルタの一番端のS個のフィルタ係数のエネルギーを検討する。この場合、cm[n/Q] は以下として表すことができ、
【0029】
【数4】
上式ではm = 1, 2, ...であり、M/2及びKmはそれぞれのサブバンドでの現在のフィルタ長Km[n]である。代わりに、サブバンド入力信号xm[n]のnエネルギーは、一番端のS個のフィルタ係数とともに検討され得る(方程式5を参照すること)。この場合、cm[n/Q]は、以下として表すことができる。
【0030】
【数5】
上述されたように、方程式(3)に従った基準は最善の結果を生じさせるが、評価するのに時間がかかる。方程式(5)に従った基準は、AEC(音響エコーキャンセル)システムの場合でのように、ターゲットシステムが時間的に変化し、入力信号が任意に着色されるときに使用されるべきである。本ケースでは、つまり入力信号x[n]がホワイトノイズとなるように設計者によって選択されることがあるサブバンドFIRフィルタ設計の場合、方程式(4)は優れた品質結果を出すと同時に、高速適応を可能にする。
【0031】
心理音響的な態様を説明するために、方程式(3)、(4)、又は(5)に定義される式cmは、対応する重み付け係数wmで重み付けされてよい。つまり、式 cm[n/Q]は、方程式(3)、(4)、又は(5)の wm・cm[n/Q]で置き換えられる。重み付け係数wmは、人間の聴覚系の周波数分解能が検討されるように選ばれる必要がある。バーク尺度を使用すると、係数wm は、以下のように計算でき、
【0032】
【数6】
上式では、fc,m は、fc,m = (2m−1)・fS/(2・M)として計算されてよく、fS がHz単位のサンプリング周波数であるm番目のサブバンドの(Hz単位の)中心周波数を示す。方程式(6)に従って計算された正規化重み付け係数wmの例のセットは、図5に示され、それによって多くの16のサブバンドが検討された(M/2=16)。
【0033】
上述されたように、方程式(2)に従った係数の分散し直しは、サブバンドエラー信号em[n](方程式(3)と比較すること)のエネルギー又はサブバンドフィルタ係数gmk(k = {Km−S, ..., Km−1}であり、方程式(4)と比較すること)の部分(例えば、一番端のS個のフィルタ係数)のエネルギー、又はサブバンドフィルタ係数gmk及びサブバンド入力信号xm[n] (方程式(5)と比較すること)のエネルギーの組み合わせを「等化する」。したがって、異なるエネルギーを元にした基準が考えられる。アルゴリズムの「目標」は、サブバンド全体で信号エネルギーを等しく分散することである。この目標は最適化プロセスの所望される結果であるので、上述されたアルゴリズムも最小化(又は最大化)タスクとして見ることができる。
【0034】
理想的な場合、上述された基準cm[n/Q](方程式(3)から(5)を参照すること)は、各サブバンドMで等しい値を有し、それによって以下となる。
【0035】
【数7】
すなわち、サブバンドと見なされるM/2の内のそれぞれ1つで、基準cm[n]は、全てのサブセット上で総計された cm[n]という合計値よりも小さい係数2/Mである。上述された最小化タスクに戻ると、最小限に抑えられる品質関数は、以下のように書くことができる。
【0036】
【数8】
上述されたように、FIRフィルタGm(z)は、一般的に、異なる信号伝搬遅延を生じさせる異なるサブバンドでの異なるグループ遅延を有する。かかる異なる遅延を補償するために、各FIRフィルタは各サブバンドでフィルタの上流で又は加硫で調整可能な遅延回線に接続される。再び、サブバンドの遅延値は、「適応遅延割り当て」として以下に説明されるように反復して最適化できる。
【0037】
「適応タップ割り当て」として上述されたサブバンド内のFIRフィルタに適応的に割り当てられるFIRフィルタ係数は、有限インパルス応答を生じさせる矩形ウィンドウ関数での乗算により切り捨てられた無限インパルス応答と見なすことができる。各サブバンドFIRフィルタのために、この矩形ウィンドウ関数が(時間軸に沿って)シフトされてよく、それによってそれぞれの時間シフトは対応するFIRフィルタに接続される遅延回線の有効遅延を表す。
【0038】
本明細書に説明される適応遅延割り当てアルゴリズムは、各サブバンドに、それぞれのFIRフィルタの最大エネルギー有限インパルス応答を生じさせる、遅延値(つまり、上述された矩形ウィンドウの時間シフト)を見つけることをターゲットにしている。すなわち、それぞれの遅延回線に遅延値を割り当てるとき、エネルギー又は対応するFIRフィルタ係数だけが検討される。しかし、必ずしもこれが唯一の成功する手法であるわけはない。代替策として、遅延値は、総エネルギー信号e[n] = e1[n] + e2[n] + ...+ eM/2[n]のノルムが最小限に抑えられるように選ばれてよい。すでに適応タップ割り当てアルゴリズムに関して上述されたように、かかる基準を使用すると、十分に優れた結果が生じるが、収束は遅くなる。代わりに、遅延値は、それぞれのFIRフィルタ係数の総エネルギーが最大となるように選ばれてよい。
【0039】
しかしながら、サブバンドフィルタのFIRインパルス応答(つまり、FIRフィルタ係数)は、一般的に、サブバンドへの変換に起因する原因因子と因果因子を含むので、最適遅延値を見つけるための他の基準はそれぞれのインパルス応答の原因部分及び因果部分のエネルギーを等化するようにターゲットされ得る。つまり、それぞれのサブバンドFIRインパルス応答の第1の半分のエネルギーと第2の半分のエネルギーの差異は最小限に抑えられなければならない。かかる最適化戦略は、以下のように簡潔に要約されてよい。
【0040】
サブバンドmごとに、それぞれのサブバン路FIRインパルス応答gmkの第1の部分及び第2の部分を定義し、FIRインパルス応答の第1の部分及び第2の部分のエネルギーを計算する。V個のサンプルの期間で以下を繰り返す。
(A) FIRインパルス応答 gmkのエネルギーが、インパルス応答の第2の部分のエネルギーよりも大きい場合には、それぞれの遅延回線Dmの遅延をPタップ(例えば、P=1)分増加する。
(B) FIRインパルス応答gmkの第1の部分のエネルギーが、インパルス応答の第2の部分のエネルギーよりも低い場合には、それぞれの遅延回線DmをPタップ分(例えば、P=1)減少する。ただし、最小遅延はゼロである。
(C)両方のエネルギーが等しい場合は、遅延を未変更のままにする。
【0041】
FIRインパルス応答を等しい長さの2つの部分に分割したくなることがある。しかし、これは最大値がインパルス応答のほぼ真中に位置するインパルス応答に対してだけ良好な結果を生じさせる。左側にその最大値を有する原因インパルス応答を検討すると、上記の最適化戦略は、エネルギーが等しく分散されるまで、上述の矩形ウィンドウを右に時間シフトし、このようにしてインパルス応答の左側にゼロを挿入し、これは明らかに望ましくない。したがって、FIRインパルス応答の上述された第1の部分及び第2の部分がそれぞれのインパルス応答の全長をカバーするのではなく、変数Uによって定められ、0<U<1である、その上部マージン及び下部マージンだけをカバーする場合に、実践では、よりすぐれた結果が達成される。例を示すと、U=0.6である場合は、エネルギーを計算するときにフィルタ係数の60パーセントだけが検討され、それによって下部30パーセントは上述の第1の部分を形成し、上部30パーセントは対応する第2の部分を形成する。したがって、m番目のサブバンドでは、それぞれ第1の部分及び第2の部分のエネルギーEmL and EmUは以下の通りである。
【0042】
【数9】
【0043】
【数10】
したがって、EmU < EmLの場合、遅延値Dmは増加され、EmU > EmLの場合減少され、EmU = EmLの場合未変更のままとされる、又は以下の数学用語で表される。
【0044】
【数11】
一般に、適応遅延割り当てアルゴリズムは、最小化タスクとして見ることができ、それによって、各サブバンドで、それぞれの遅延値Dmが、品質基準 c’m[n/V] = |EmU−EmL|が最小値に達するまで変えられ、それによってインデックスn/Vは、基準がV番目のサンプル時間ごとしか評価されないことを示す。
【0045】
タップの数分1つのサブバンドの遅延回線の遅延値Dmを調整する(例えば、増加する)ときには、対応するフィルタインパルス応答(FIRフィルタ係数)が左にシフトされ、このようにして(遅延回線及びFIRフィルタの遅延を含む)総遅延を一定に保つことに留意する必要がある。これによって、遅延値Dmの変動に起因するFIRフィルタ係数の長い再適応化に対するニーズが回避される。ただし、適応タップ割り当てだけではなく適応遅延割り当てが実行される適応期間は、LMS/NLMSアルゴリズムの適応ステップ幅よりもかなり長くなければならず、したがってFIRフィルタ係数gmkの適応は、適応タップ割り当て及び適応遅延割り当てが開始されるときには定常状態にある。
【0046】
各サブバンドの追加遅延の適応調整だけではなく、フィルタ長の適応調整も有用に組み合わせることができるが、それぞれの適応方法(適応タップ割り当て及び適応遅延割り当て)は、互いとは無関係に単独で使用され得る。例えば、フィルタ係数の数は(例えば、バーク尺度に従って)サブバンドごとに事前に定義されてよく、遅延 Dmは、上述されたように適応的に調整されてよい。さらに、フィルタ長の適応決定は、別々の遅延部を使用しなくても、又は一定の所定の遅延を用いて、上述されたように適応タップ割り当て方法に従って形成されてよい。これは、特に、所望されるターゲット関数P(z)が線形位相又は最小位相転送関数である場合に適切であり得る。
【0047】
効率的なサブバンドFIRフィルタ構造を設計するためのフィルタ設計方法を説明してきたが、かかるサブバンドFIRフィルタ構造を効率的に実装するための例が、さらに詳しく説明される。第1に、解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクが詳しく説明される。サブバンドFIRフィルタを実装するための効率的な信号処理構造は、次いで、図7及び図8に関して説明される。
【0048】
上述されたように、解析フィルタバンク及び対応する合成フィルタバンク(図3のフィルタバンク22及び22‘を比較すること)は、実数値の全帯域入力信号x[n]を複素数値サブバンド信号のセットxm[n]に分割し、複素数値のフィルタリングされたサブバンド信号ym[n]を実数値の出力信号y[n]に再結合する。しかし、実数値サブバンド信号だけと動作する他のフィルタバンクも使用できる。この場合、サブバンドFIRフィルタはより効率的に実装され得る。しかし、実数値フィルタバンクは、対応する複素数値フィルタバンクの2倍の多さのMAC(乗算―蓄積動作)を必要とする。さらに、サブバンドは複雑なサブバンド信号を使用するとき係数Mによってアンダーサンプリングされることがあるのに対し、対称的に、実数値フィルタバンクを使用するときは、最大アンダーサンプリング係数はM/2に過ぎない。最後に、サブバンドFIRフィルタの必須フィルタ長は実数値サブバンド信号を使用するときに必要となるフィルタ長の半分に過ぎない。これは、複素数値AFB及びSFBの使用には、実数値フィルタバンクよりも少ない計算作業が必要になることを示している。しかし、両方のタイプのフィルタバンクとも、本発明での使用に適用できる。
【0049】
複素数値フィルタバンクを使用するとき、偶数で積み重ねられたフィルタバンク又は奇数で積み重ねられたフィルタバンクのどちらかを選ぶことができる。両方のタイプとも、汎用化離散フーリエ変換アルゴリズム(GDFTアルゴリズム)によって効率的に実装され得る。図6は、奇数に積み重ねられた(図6b)フィルタバンクだけではなく偶数で積み重ねられた(図6a)のサブバンドも示す。一見して、M個のサブバンドの半分は、Mこのサブバンドの他方の半分の複素共役コピーであり、結果的に数M/2の複素数値サブバンド信号だけが処理されなければならないので、奇数で積み重ねられた(図6b)のフィルタバンクの使用が好ましく見える。封数で積み重ねられたGDFTフィルタバンクを使用するとき、最低のサブバンド及び最高のサブバンドは実数値であるが、他のサブバンドの半分の帯域幅しか有していない。その結果、数M/2+1のサブバンド信号が処理されなければならず、それによって最低のサブバンドの信号は実数値である。結果として、複素数値サブバンドと比較すると、メモリ要件は半分にすぎず、必須MACは最低のサブバンドの4分の1にすぎない。最低のサブバンドのFIRフィルタ (G1(z))が、(例えば、バーク又は任意の他の心理音響的に適応された周波数尺度に従って周波数分解能と比較されるとき)最も多くのフィルタ係数g1k を有するという事実を考えると、処理されるサブバンドの総数はM/2からM/2+1に増加するが、総効率は必要とされるメモリに関して25パーセント向上し、必要とされるMACに関して50パーセント向上する。
【0050】
以下では、複数のサブバンドフィルタGm(z)及びそれぞれの遅延Dmに分解された(所望される)デジタルFIRフィルタの実装形態が、説明例として音声システムのアプリケーションを使用して説明される。図7aに示される構造は、音声チャネルごとに実装されてよい。すなわち、各音声チャネルに解析フィルタバンク22及び対応する合成フィルタバンク22‘が提供される。この文脈では、「音声チャネル」は増幅器によって提供される出力チャネルを指し、入力信号の数は指さない(増幅器が2つの入力チャネル(ステレオ入力)しか有さないが、例えば5.1サラウンドサウンド出力には6つの出力チャネルを有してよいことに留意すること)。デジタルFIRフィルタは、上述されたフィルタ設計方法に従って設計され得る。しかし、任意のFIRフィルタは、本明細書に説明されるフィルタ構造及び方法を使用して実装されてよい。解析フィルタバンク22(m=1,2,3、...、M)によって提供されるM個のサブバンド信号xm[n] のそれぞれは、(対応するサブバンドフィルタGm(z)を適用することによって)別々にフィルタリングされ、(対応する遅延Dmを適用することによって)遅延される。上述されたように、FIRフィルタGm(z)のフィルタ長が、人間の聴覚系の周波数特性を考慮に入れるように設定されるのに対し、等しく幅広いサブバンドが使用される場合、フィルタバンクは計算上効率的にしか実現できないので、個々のサブバンドの帯域幅は等しい。それぞれの遅延Dmは、FIRフィルタGm(z)の必要とされるフィルタタップを削減するために各サブバンドに適用される。一般的に、フィルタ長及び遅延は、任意の設定することができ、上述される適応タップ割り当て方法及び適応遅延割り当て方法に従って調整されてよい。遅延を除き、図7aのフィルタ構造は、図3に関してすでに説明された基本構造に相当する。
【0051】
フィルタバンク22及び22‘は、さらに詳細に以下に説明される。図6に関してすでに説明されたように、偶数で積み重ねられたGDFTフィルタバンクの適用は、人間の耳の周波数分解能に一致するサブバンドフィルタ長を使用するときに特に望ましい。すなわち、最低サブバンドに適用されるFIRフィルタは、最高の周波数分解能、したがって最高の数のフィルタ係数を有さなければならない。偶数で積み重ねられたGDFTフィルタバンクを使用するとき、弧の最低のサブバンドは実数値であり、したがってメモリ要件は4分の1削減され、必要される計算時間は、奇数で積み重ねられたGDFTフィルタバンクが使用される代替策に比較して半減される。2つ以上の音声チャネルには、通常、サブバンドで実装されるFIRフィルタが提供され、したがってフィルタバンクのこの選択はかなりの改善を伴う。
【0052】
メモリ要件は、サブバンド数と必要とされるメモリとの間の依存性を検討するときにさらに削減されてよい。一方、サブバンドの増加する数は、個々のサブバンドの帯域幅の減少を伴う。その結果、プロトタイプフィルタは、必ずさらに多くのフィルタ係数を生じさせるより険しい通過帯域/ストップバンド遷移を有さなければならず、したがって特に遅延回線を実装するために必要とされるメモリ量が増加する。他方、多数のサブバンドは、(FFTアルゴリズムで使用される)より大きなブロックサイズを伴い、その結果として、内部メモリを外部メモリにスワップするためにより多くの計算時間を使用することができ、このようにして必要とされる内部メモリを削減する。サブバンド数を決定するときには妥協策を見つけ出さなければならないことが上記から明らかとなるはずである。分析は、音声用途の場合、M=16、M=32、及びM=64のサブバンドのために良好な結果を得ることができ、それによってN=M/2のアンダーサンプリングが適用される。すなわち、M=32サブバンドを使用するとき、サブバンド信号のサンプリングレートは、N=16という係数で削減されてよく、FFTブロックサイズも16に設定される。後者の例(M=32)では、17のサブバンド(M/2+1)だけが実際に処理されなければならず、それによって(最高のサブバンドだけではなく)最低のサブバンドは上述されたように実数値である。
【0053】
大量の計算時間を消費するだろう長い初期化を生じさせずに、可能な限り多くの内部メモリをより安価な外部メモリにスワップすることも望ましい。サブバンド遅延Dmを実装するために必要とされるメモリは、外部メモリにスワップされるには適切であると思われる。しかし、これは多数のメモリ転送初期化を生じさせるだろう。例えば、10の音声チャネルの内の17のサブバンドがブロックごとに(読み取り及び書き込みのために)17回のメモリ転送初期化を必要とする。これは初期化毎に3ミップスを仮定するとき、1020ミップスの計算力が必要とされることを意味する。この問題は、図7bに示される完全帯域(広帯域)ドメインの中に最も短いサブバンド遅延を「移動させる」ことによって、図7aに示される構造を再配置するときに緩和できる。図7bの例では、最も短いサブバンド遅延DMINが第1の遅延D1である。広帯域ドメインの対応する遅延は、「バルク遅延」として示され、DBULK=N・DMINに等しい。残りのサブバンド遅延は、図7bに示されるようにDMIN分削減される。
【0054】
上述されたように、17回の初期化の代わりに(読み取りアクセス用及び書き込みアクセス用に)1つの転送初期化だけしか必要でないので、広帯域バルク遅延は、外部メモリにスワップされてよい。残りの―ただし、今はさらに短い―サブバンド遅延が内部メモリに残る。ただし、図7bに示されている解決策はさらに改善され得る。最低サブバンドのFIRフィルタが最長インパルス応答(つまり、フィルタタップの最大数)、したがって残りの遅延よりもはるかに短い最短遅延を有するので、他のサブバンド遅延のために必要とされる(内部)メモリは依然として多い。この状況は、サブバンドフィルタ構造から最低のサブバンドを「抽出し」、図8に示されるように別々にそれを処理することによって、図7bの構造を修正するときにさらに改善されてよい。
【0055】
図7bの例と対照的に、バルク遅延DBULKは、(通常は最低のサブバンドの遅延D1である)最短のサブバンド遅延に基づいて形成されるのではなく、むしろ例えばD2のような第2の最短の遅延に基づいて形成される。遅延D3−D2、D4−D2、 D5−D2等の間の差は図7bの例においてよりはるかに小さいので、必要とされるメモリの達成可能な削減はより大きくなる。したがって、広帯域入力信号x[n]は、フィルタバンクプロトタイプフィルタ22‘を称してフィルタリングされ、次いで係数N(デシメータ25)でダウンサンプリングされ 、係数2M(利得26)で乗算され、最後に元のサブバンド遅延D1で遅延され、第1のサブバンドの出力信号y1[n]を得るために対応する(実数値の)サブバンドFIRフィルタでフィルタリングされる。残りのサブバンド出力信号y2[n], y3[n], ..., yM/2+1[n]は図7bの例においてと同様に取得される。唯一の相違点は、図7bの例においてよりも大きく、相応してより短いサブバンド遅延D3−D2, D4−D2, D5−D2を生じさせるバルク遅延DBULK,のサイズである。全てのサブバンド出力信号ym[n]は、前の例と同じように広帯域出力信号y[n]に結合される。
【0056】
FIRフィルタ22‘(つまり、AFBプロトタイプフィルタP(z))を実装するための計算作業、及び以後のダウンサンプリングを削減するために、FIRフィルタ22’及びデシメータ25は、計算上より効率的である対応する多相フィルタによって置き換えられてよい(図9を参照すること)。図9の図では、フィルタ転送関数P0(z)、P1(z)等はフィルタ係数 [p0, pN, p2N, ...]、[p1, pN+1, p2N+1, ...]等を含むフィルタを表し、それによって係数p0、p1、 p2,等がAFBプロトタイプフィルタP(z)のフィルタ係数を表している。
【0057】
図8又は図9の例を使用すると、本例(17のサブバンド、10のチャネル)では340回の初期化から20回の初期化へ、メモリ転送初期化の大幅な削減が可能になる。これらは、全てのチャネルのバルク遅延をスワップし、一度にスワップし直すことができるように、バルク遅延を等化することによってさらに2に削減されてよい。この手順は図10に示される。
【0058】
本発明及びその優位点は詳細に説明されてきたが、添付特許請求の範囲によって定められる本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多様な変更、置換、及び改変を本明細書に加えることができることが理解されるべきである。
【0059】
さらに、本発明の範囲は、本明細書に説明されるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及びステップの特定の実施形態に制限されることが意図されていない。統合者は、本発明の開示から、本明細書に説明される対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行する、又は実質的に同じ結果を達成する、現在存在している、又は後に開発されるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及びステップが本発明に従って活用され得ることを容易に理解する。したがって、添付特許請求の範囲は、それらの範囲内で、かかるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及びステップを含むことが意図される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声アプリケーションでのサブバンド信号処理に関し、特に、所望されるターゲット転送関数の計算上効率的な実装を提供するサブバンドFIRフィルタのセットを設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IIRフィルタ(無限インパルス応答フィルタ)と対照的に、FIRフィルタ(融点インパルス応答フィルタ)は、所望される転送関数(つまり、大きさ及び位相応答)を有するデジタルフィルタを実現する可能性を提供する。したがって、所望される転送関数は、最小位相となるように設計できるだけではなく、最大位相、又は混合相となるように設計することもできる。さらに、しばしば音声信号処理で所望される、線形位相転送関数も実装できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特に音声信号処理では、動作中のメモリ要件だけではなく計算上の作業も増加させる、FIRフィルタを使用するときには、必要とされるフィルタ長は、しばしばかなり長くなる。これは、おもに2つの物理的な要因による。第1に、大部分の音声用途に存在する室内インパルス応答の減衰期間はかなり長く、その結果、FIRフィルタを使用するときには、相応して長いフィルタ長につながる。第2に、人間の聴覚系は、異なる周波数バンドで不均一な周波数分解能を提供するように適応されている。人間の聴覚系は、低周波はきわめてよく分解する。つまり、周波数差は低い絶対周波数でよく認識されるのに対し、高周波はそれほど容易に識別されない。例えば、両方の場合とも周波数差は100Hzであるが、100Hzのトーンが200Hzのトーンから容易に区別され得るのに対し、人間の耳では5100Hzトーンから5000Hzのトーンを区別するのが困難である。すなわち、人間の聴覚系の周波数分解能は周波数が高くなるにつれて減少する。この現象は周知であり、バーク尺度、メル尺度、及びERB(同等矩形帯域幅)尺度等の人間の聴覚系に適応された心理音響周波数尺度を形成する。
【0004】
研究は、内装(カーペット、布張りをした家具等)の結果として、エネルギーの分解が低速であるため、試聴室の室内インパルス応答が、特に低周波で著しく長いことを示している。音声再生システムによって生じる音圧がバス周波数範囲(つまり、200Hz未満)で最大であるのに対し、人間の聴覚系は低周波音声信号により敏感でなくなるという事実によって、この影響はさらに強くなっている。
【0005】
これら全ての要因を統合した見解は、典型的な試聴室の特性だけではなく、人間の聴覚系の特性によって、音声信号処理システムで十分な音声品質を提供するためには、FIRフィルタの長さが特定の最小長さよりも短くないことが要求される。例えば、バス周波数範囲で約10Hzの必須周波数分解能を提供するには、44100Hzのサンプリング周波数での音声チャネルごとに、4410フィルタ係数のFIRフィルタが必要となり、それによって現代的な音声システムは最大16のチャネルを有する。
【0006】
長いFIRフィルタが動作中に多大な計算作業及び/又は高メモリ要件を伴うので、標準的なデジタル音声信号処理の使用を可能にするためには、音声アプリケーションでのFIRフィルタの効率的な実装に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
少なくとも1つの音声チャネルのある音声システムが開示される。音声システムは、チャネルごとに少なくとも1つのデジタルフィルタが実装されるデジタル音声プロセッサを含む。各チャネルのデジタルフィルタは、広帯域入力音声信号を受信し、その入力音声信号を複数のサブバンドに分割し、このようにして等しい帯域幅を有するサブバンド信号を提供し、サブバンド信号のスペクトルが入力音声信号のスペクトルを作るように構成される解析フィルタバンクと、各サブバンド用であり、このようにしてそれぞれフィルタリングされたサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタと、フィルタリングされたサブバンド信号を受信し、1つの広帯域出力音声信号を提供するためにそれらを結合するように構成される合成フィルタバンクとを含み、遅延は各サブバンド信号に関連付けられ、サブバンド信号の内の1つの遅延が解析フィルタバンクの上流にある広帯域入力音声信号に適用され、残留遅延が解析フィルタバンクの下流の残りのサブバンド信号に適用される。対応するフィルタリング方法が開示される。
【0008】
本発明は、以下の図面及び説明を参照するとよりよく理解できる。図中、類似する参照番号は、対応する部分を示す。
【0009】
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
少なくとも1つのデジタルフィルタが各チャネルに実装されるデジタル音声プロセッサを備える少なくとも1つの音声出力チャネルのある音声システムであって、各チャネルの前記デジタルフィルタが、
広帯域入力音声信号を受信し、前記受信した音声信号を複数のサブバンドに分割し、このようにして等しい帯域幅を有するサブバンド信号を提供するように構成される解析フィルタバンクであって、前記サブバンド信号の前記スペクトルが前記入力音声信号の前記スペクトルを構成する解析フィルタバンクと、
各サブバンド用のサブバンドFIRフィルタであって、このようにしてそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタと、
前記フィルタリングされたサブバンド信号を受信し、広帯域出力音声信号を提供するためにそれらを結合するように構成される合成フィルタバンクと、
を備え、
遅延が各サブバンド信号に関連付けられ、前記サブバンド信号の内の1つの前記遅延が前記解析フィルタバンクの上流の前記広帯域入力音声信号に適用され、前記残留遅延が前記解析フィルタバンクの下流の前記残りのサブバンド信号に適用される、
音声システム。
(項目2)
前記遅延されていない入力音声信号を受信し、追加サブバンド信号として、前記解析フィルタバンクでタッピングされていない最低周波数サブバンドの前記サブバンド信号を提供する低域通過フィルタと、
前記それぞれのサブバンドFIRフィルタの上流又は加硫で前記最低周波数サブバンド信号に適用される遅延と、
をさらに備え、
前記広帯域入力音声信号に適用される前記遅延が、前記解析フィルタバンクでタッピングされる前記サブバンドと関連付けられる最短の遅延に一致する、
上記の項目に記載のシステム。
(項目3)
前記サブバンドFIRフィルタのフィルタ係数の前記数が、銭サブバンドフィルタの前記周波数分解能が、少なくともほぼ前記人間の耳の前記周波数分解能に相当するように設定される、
上記項目のいずれか1つの項目に記載のシステム。
(項目4)
少なくとも第1の音声チャネルと、第2の音声チャネルとを備え、
各広帯域入力音声信号が、前記解析フィルタバンクでタッピングされる全てのチャネルの全てのサブバンド信号の最短の遅延によって与えられる等しい遅延で遅延される、
上記項目のいずれか1つの項目に記載のシステム。
(項目5)
前記解析フィルタバンク(複数の場合がある)及び前記合成フィルタバンク(複数の場合がある)が、前記入力音声信号をブロック単位で処理する偶数で積み重ねられるGDTFフィルタであり、前記サブバンド信号が、前記ブロックサイズに対応する係数で、前記広帯域信号に比較してダウンサンプリングされ、
前記処理されたサブバンド信号の前記最低周波数及び前記最高周波数のサブバンド信号が実数値であり、前記他のサブバンド信号が複素数値である、
上記項目のいずれか1つの項目に記載のシステム。
(項目6)
前記低域通過フィルタが、前記解析フィルタバンク(複数の場合がある)によって使用されるプロトタイプフィルタに相当する、上記項目のいずれか1つの項目に記載のシステム。
(項目7)
音声システムの少なくとも1つの音声出力チャネル内に提供される少なくとも1つの音声信号をフィルタリングするための方法であって、各チャネルのために、
所与の周波数バンド内にあるスペクトルを有する、フィルタリングされる広帯域入力音声信号を受信することと、
前記入力音声信号の前記周波数バンドを、複数のサブバンドに分割し、このようにしてサブバンド信号を提供することであって、前記サブバンド信号の前記スペクトルが前記入力音声信号の前記スペクトルを構成する、提供することと、
各サブバンド信号をフィルタリングし、このようにしてサブバンドごとにそれぞれのFIR又はIIRフィルタを使用してそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供することと、
広帯域出力音声信号を提供するために、前記フィルタリングされたサブバンド信号を結合することと、
を含み、
遅延が各サブバンドに関連付けられ、前記サブバンドの内の1つの前記遅延が、前記周波数バンドを分割する前に前記広帯域入力音声信号に適用され、前記残留遅延が前記周波数バンドを分割後に前記残りのサブバンド信号に適用される、
方法。
(項目8)
前記周波数バンドを分割することが、前記入力信号をブロック単位で処理する第1の偶数で積み重ねられたGDTF解析フィルタバンクを使用して実行され、
前記周波数バンドを分割することが、前記広帯域信号と比較して、前記ブロックサイズに相当する係数分、前記サブバンド信号を前記ダウンサンプリングすることをさらに含み、
前記フィルタリングされたサブバンド信号を結合することが、前記第1のフィルタバンクに対応し、前記広帯域出力信号をブロック単位で提供する第2の偶数で積み重ねられたGDTF合成フィルタバンクを使用して実行される、
上記の項目に記載の方法。
(項目9)
前記遅延していない入力音声信号を低域通過フィルタリングし、追加サブバンド信号として、前記最低周波数サブバンドの前記サブバンド信号を提供することと、
それぞれのFIR又はIIRフィルタを使用して前記最低周波数サブバンド信号をフィルタリングし、このようにして対応するフィルタリングされたサブバンド信号を提供することと、
FIRフィルタリングの前又は後に前記最低周波数サブバンド信号を表示することと、
をさらに含む、上記項目のいずれか1つの項目に記載の方法。
(項目10)
前記サブバンドFIRフィルタのフィルタ係数の前記数が、前記サブバンドフィルタの前記周波数分解能が前記人間の耳の前記周波数分解能に少なくともほぼ一致するように設定される、上記項目のいずれか1つの項目に記載の方法。
(項目11)
前記音声システムが、第1の音声出力チャネル及び第2の音声出力チャネルを備え、
各広帯域入力音声信号が、前記周波数バンドを除算することによって得られる全てのチャネルの全てのサブバンド信号の最短遅延によって与えられる等しい遅延で遅延される、
上記項目のいずれか1つの項目に記載の方法。
(項目12)
前記低域通過フィルタリングが、低域通過フィルタとして、前記周波数バンドを分割するために使用される前記GDFTフィルタバンク(複数の場合がある)によって使用されるプロトタイプフィルタに相当するフィルタを使用することを含む、
上記項目のいずれか1つの項目に記載の方法。
【0010】
(摘要)
少なくとも1つの音声チャネルのある音声システムが開示される。音声システムは、チャネルごとに少なくとも1つのデジタルフィルタが実装されるデジタル音声プロセッサを含む。各チャネルのデジタルフィルタは、広帯域入力音声信号を受信し、複数のサブバンドに入力音声信号を分割し、このようにして等しい帯域幅を有するサブバンドを提供するように構成される解析フィルタバンクであって、サブバンドの信号のスペクトルが入力音声信号のスペクトルを構成する解析フィルタバンクと、各サブバンド用であり、このようにしてそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタと、フィルタリングされたサブバンド信号を受信し、それらを結合し、広帯域出力音声信号を提供するように構成される合成フィルタバンクとを含み、遅延が各サブバンド信号と関連付けられ、サブバンド信号の内の1つの遅延が解析フィルタバンクの上流で広帯域入力音声信号に適用され、残留遅延が解析フィルタバンクの下流で残りのサブバンド信号に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】FIRフィルタのフィルタ係数の適応計算のための基本信号処理構造を示し、FIRフィルタは所定のターゲット関数P(z)にほぼ一致する転送関数G(z)を表す。
【図2】図1の構造の変型を示し、それによって図1の全帯域FIRフィルタG(z)がサブバンドFIRフィルタGm(z)のセットで置き換えられる。
【図3】全帯域フィルタG(z)に代わることができるサブバンドFIRフィルタGm(z)のセットを含む信号処理構造を示す図である。
【図4】それぞれがサブバンドFIRフィルタ及び遅延回線を含む、多くのサブバンドを含む適応FIRフィルタ設計のための信号処理構造を示す図である。
【図5】サブバンドFIRフィルタの長さを適応するときに低周波サブバンドを強調するためのバーク尺度に基づいた重み付け係数を示す図である。
【図6】図偶数で積み重ねられたフィルタバンク及び奇数で積み重ねられたフィルタバンクの規模応答を概略で示す図である。
【図7a】複数のサブバンドフィルタ内で分割されるFIRフィルタの構造を概略で示す図である。
【図7b】図7aの例の簡略化された代替策を概略で示す図である。7a
【図8】メモリ要件が削減された図6のフィルタバンクの代替策を示す図である。
【図9】図8の例を改善するためのオプションを示す図である。
【図10】2つの別々の音声チャネル内のフィルタを含む例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、FIRフィルタ20のフィルタ係数gk (k = 0, 1, ..., K−1)の適応計算のための基本信号処理構造を示し、それによって下付き文字kはフィルタ係数の指数を示し、Kはフィルタ長を示す。FIRフィルタ20は、フィルタ係数gkの適応が成功した後に、基準システム10の所定のターゲット関数P(z)にほぼ一致する(離散)転送関数G(z)を有する。適応フィルタ設計手順を実行するために、基準フィルタ10及びFIRフィルタ20には、例えば、ホワイトノイズ又はFIRターゲット転送関数P(z)の通過帯域を含む帯域幅を有する任意の他の信号である、試験信号(入力信号x[n])が供給される。FIRフィルタ20の出力信号y[n]は、基準システム10の出力信号から、つまり所望される信号d[n]から減算される(減算器30)。差d[n]−y[n]は、エラー信号e[n]として使用され、適応部21に供給される。適応部21は、各サンプル時間間隔中に、エラー信号及び入力信号x[n](本文脈では基準信号としても示される)からFIRフィルタ係数gkの更新されたセットを計算するように構成される。最小二乗平均(LMS)アルゴリズム又は正規化最小二乗平均(NLMS)アルゴリズムが、フィルタ係数の適応のために利用され得る。ただし、この目的のためには、さまざまな適応アルゴリズムが活用されてもよい。適応アルゴリズムの収束後、FIRフィルタ係数gkは、ターゲット転送関数P(z)の最適近似である転送関数G(z)を表す。
【0013】
FIRフィルタを使用するときの計算作業を削減するための1つのオプションは、フィルタリングされる信号のスペクトルを多くの狭帯域信号(サブバンド信号)に分割し、各狭帯域信号を別々にフィルタリングすることである。全帯域信号のいくつかのサブバンド信号への分割は、いわゆる解析フィルタバンク(AFB)によって実現され得る。同様に、サブバンド信号は、対応する合成フィルタバンク(SFB)を用いて単一の全帯域信号に(再)結合され得る。以下では、全帯域信号は、例えば所望される信号d[n]のように下付き文字なしで示され、nは時間インデックスである。さらに、例えばdm[n]のような下付き文字を有する信号は、対応する全帯域信号d[n]の分解であるサブバンド信号のセットを示す。それによって、下付き文字mは、サブバンドの数(m = 1, 2, ..., M)を示す。同様に、離散全帯域転送関数G(z)は、多くのサブバンド転送関数Gm(z)に分解され得る。
【0014】
図2は、図1の基本信号処理構造に類似した、それによって適応FIRフィルタ20が、サブバンドFIRフィルタのセット20’で置き換えられる基本信号処理構造を示す。この目的のため、全帯域入力信号x[n]は、AFB22を使用することによって数Mのサブバンド入力信号xm[n](m = 1, 2, ..., Mである)に分割される。同様に、所望される全帯域信号d[n]は、AFB11を使用して(再び、m = 1, 2, ..., M)数Mのサブバンド信号dm[n]に分けられる。各サブバンドFIRフィルタは、狭帯域転送関数Gm(z)を実現し、下付き文字mは再びサブバンドの数を示す。各サブバンドフィルタGm(z)は、そのフィルタ係数gmkによってあらわされてもよく、それによってkは、k=0からk=Km−1(Kmは、m番目のサブバンド内のフィルタGm(z)のフィルタ長さである)に及ぶフィルタ係数のインデックスを示す。各FIRフィルタGm(z)は、対応するエラー信号em[n] = dm[n] − ym[n]を受信し、それぞれのサブバンドmごとに更新されたフィルタ係数gmk (k = 1, 2, ..., Km−1) のそれぞれのセットを計算する、適応部と関連付けられている(適応部のセットは図2で数字21’で示される)。
【0015】
図1の例と同様に、M個のサブバンドFIRフィルタGm(z)の各1つのフィルタ係数gmkは、適応アルゴリズムの収束後に、全てのサブバンド転送関数Gm(z)の組み合わせから生じる総転送特性が所定のターゲット関数P(z)に一致するように適応される。
【0016】
適切なフィルタ係数gmkの計算後、FIRフィルタGm(z)のセット20’は、音声信号をフィルタリングするための図3に示されるように、解析フィルタバンク(AFB22)と対応する合成フィルタバンク(SFB22’)との間で操作されてよい。この場合、AFB22、FIRフィルタバンク20’、及びSFB22’は、例えば音声システムの等化フィルタを表すことがある、ターゲット関数P(z)にほぼ一致する転送関数G(Z)をともに実装する。現代の音声システムでのように、リスナーにとって所望されるサウンドインプレッションを生じさせるために、大きさだけではなく位相が等化にさらされる。したがって、ターゲット関数P(z)は、一般的に、非線形位相特性のある非最小位相フィルタを表す。
【0017】
解析フィルタバンクと、サブバンドフィルタのセットと、合成フィルタバンクとを含む、図3の信号処理構造が、(計算作業及びメモリ要件という点で)同じ転送関数の「通常の」FIRフィルタよりもより効率的であるのかという質問に対する回答は、とりわけ解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクの効率的な実装形態の可用性に依存している。人間の聴覚系の不均一な周波数分解能を説明するために、低い中心周波数があるサブバンドの帯域幅が、より高い中心周波数のあるサブバンドの帯域幅よりも狭いフィルタバンクを使用することが望ましいだろう。かかる心理音響的に動機付けされる全帯域信号の、帯域幅が可聴周波数範囲内のそれぞれのサブバンドの位置に依存するサブバンド信号のセットへの分割を実現するいくつかの手法が存在する。しかしながら、異なる帯域幅のサブバンドのセットに1つの入力スペクトルを不均一に分割することを可能にする効率的なフィルタバンクは既知ではない。それにも関わらず、技術では、全帯域信号の、等しい帯域幅のサブバンド信号のセットへの分割を可能にする他の方法が既知である。一例は、単一のプロトタイプフィルタ、及びほぼあらゆる信号処理環境で利用できるFFTアルゴリズムを利用する、S.Weissらによって説明されるオーバーサンプリングされたGDFTフィルタバンクの高速実装形態である(IEE Electronics Lettersの第36巻、1502−1503ページ、2000年のS. Weiss、「Fast Implementation of Oversampled Modulated Filter Banks」を参照すること)。
【0018】
上記を要約すると、効率的な実装形態は不均一な帯域幅のサブバンドを処理するために利用できないので、等しい帯域幅のサブバンドを用いて動作するフィルタバンクを使用する必要がある。ただし、等しく幅広いサブバンドの機能不全を緩和するために、それぞれのサブバンドに割り当てられるFIRフィルタの異なるフィルタ長が選ばれてよい。すなわち、FIRフィルタは、高周波分解能が要求されるサブバンドにおいてよりも、低周波分解能が要求されるサブバンド内でより少ないフィルタ係数を含む。高周波分解能が要求されるサブバンドは、通常、、可聴周波数範囲の下部にあるサブバンドである。したがって、人間の聴覚系の周波数分解能に相当する周波数分解能は、等しく幅広いサブバンドを用いて動作する効率的なフィルタバンクを使用することによって達成され得る。
【0019】
上述されたように、ターゲット関数P(z)は、一般に、周波数上での非線形グループ遅延特性を有する非最小位相フィルタである。異なるサブバンドでの異なるグループ遅延から生じる異なる信号伝搬遅延を補償するために、遅延回線は、遅延回線の上流又は下流にある各サブバンドFIRフィルタに接続されてよい。したがって、遅延等化は、計算上、非効率的である追加のFIRフィルタ係数を使用して達成される必要はない。フィルタ係数の数だけではなく、遅延値も実現されるターゲット転送関数P(z)(つまり、大きさ及び位相応答)に依存するので、フィルタ係数の数(つまり、フィルタ「タップ」の数、及び遅延値は、「適応タップ割り当て」アルゴリズム及び「適応遅延割り当て」アルゴリズムを使用して、本明細書中でいかに説明されるように、サブバンドごとに適応的に決定され得る。その結果、M個のサブバンドFIRフィルタGm(z)を設計するときには、フィルタ係数(図1の係数gmkを参照すること)だけではなく、係数の数KM及び追加遅延△mも適応的に決定される。図4は、サブバンドFIRフィルタ設計に使用される信号処理構造を示す。図4の例は、図2の構造の改良版であり、各サブバンド信号経路に追加の遅延、及びグローバル「適応割り当て及び遅延割り当て部」を備えている。4は、図2の構造の改良版を示し、4の例は、図2の構造の改良版であり、各サブバンド信号経路に追加の遅延、及びグローバル「適応割り当て及び遅延割り当て部」を備えている。
【0020】
図2の例でのように、全体入力信号x[n](例えば、帯域が制限されたホワイトノイズ)が、ターゲット転送関数うP(z)のあるシステム10に供給され、このようにして所望される信号d[n]を生成する。入力信号x[n]だけではなく、所望される信号d[n]も、それぞれ数Mのサブバンド信号dm[n] 及び xm[n]に分割される。図4の例は、最初のサブバンド及び最後のサブバンド(m = 1及びm = M)と関連付けられた構成要素及び信号だけを示す。サブバンド入力信号xm[n]は、転送関数Gm(z)がある適応FIRフィルタに供給され、このようにしてフィルタリングされたサブバンド信号ym[n]を生成する。フィルタリングされた各サブバンド信号ym[n]は、対応する所望される信号dm[n]から差し引かれ、サブバンドごとにエラー信号em[n]を生じさせる。適応部は、それぞれのFIRフィルタGm(z)のフィルタ係数gmk(つまり、フィルタのインパルス応答{gm0, gm1, ..., gm(K−1)})を最適化するための各FIRフィルタGm(z)に割り当てられ、それによってフィルタ係数gmkの最適セットがそれぞれのエラー信号em[n]のノルム(例えば、累乗)を最小限に抑える。
【0021】
遅延Dmを提供する遅延回線は、各サブバンドFIRフィルタGm(z)に上流で又は下流で接続される。さらに、以下にさらに詳細に説明される適応タップ割り当て及び適応遅延割り当てアルゴリズムに従って、遅延回線Dmの対応する遅延値だけではなく、FIRフィルタGm(k)のフィルタ長Kmも動的に適応するように構成される、「適応タップ割り当て及び適応遅延割り当て部」40が設けられる。
【0022】
上述された適応タップ割り当て(つまり、FIRフィルタ長の適応)にはさまざまな手法が考えられ得る。1つの手法は、総エラー信号e[n](それによって、e[n] = e1[n] + e2[n] + ...+ eM[n])が最小値に達するまで、サブバンドFIRフィルタGm(z)のフィルタ長Kmを変えることである。実際には、かかる方法は優れた結果を出すが、、フィルタ係数の数の各変更後に、適応フィルタが再び収束する時間を要するので、きわめて時間がかかる。上述の手法と同様に優れた結果を出すが、要する時間がはるかに少ない別の手法は、S個の一番端のフィルタ係数gm(Km−1), gm(Km−2), ..., gm(Km−S)のエネルギーを検討する。サブバンドのフィルタGm(z)のフィルタ長Kmは、上述のS個の一番端のフィルタ係数のエネルギーがほぼ等しくなるまで変えられる。この手法は、サブバンドフィルタが経時的に急激に減衰することを必要とし、それは現実世界のシステムではつねに当てはまらなくてはならない。各サブバンドフィルタのS個の一番端のフィルタタップのエネルギーを比較することによって、サブバンドフィルタGm(z)がどれほどよくターゲット関数P(z)を近似し、信号減衰挙動がターゲット関数P(z)のインパルス応答の信号減衰挙動に似ているサブバンドフィルタインパルス応答を達成するように、サブバンドフィルタ全体でフィルタ係数を分散し直すためのガイドラインとなり、最小限に抑えることができるエラーに関して最適とみなすことができる。
【0023】
以下に、適応タップ割り当てアルゴリズムの例がさらに詳しく説明される。他のM/2サブバンド信号は、第1のM/2サブバンドの信号の共役複素数のコピーであるため、実数値の全帯域入力信号x[n]の場合(図2を参照すること)、M/2サブバンドだけを処理する必要があることに留意するべきである。したがって、それぞれのサブバンドFIRフィルタ転送関数は、以下の関係性に準拠し、
【0024】
【数1】
それによって、アスタリスクは共役複素数演算子を示す。
【0025】
したがってサブバンドフィルタGm(z)のフィルタ長Km(それによって、m = 1, 2, ..., M/2)は、Q個のサンプル(つまり、サブバンドシステム内のサンプル)の期間で修正される。しかしながら、全てのサブバンドフィルタGm(z)のフィルタ係数の総数gmk[n]は一定のままである。すなわち、1つ又は複数のサブバンドフィルタのフィルタ長が増加する場合、別のサブバンドフィルタのフィルタ長は、フィルタ係数の総数を一定に保つように削減されなければならない。したがって、Q個のサンプルの期間では、M/2サブバンドFIRフィルタのそれぞれの長さは、ΔK 個の係数分削減される。したがって、さらに以下に説明される特定の基準に従って、M個のサブバンドフィルタ全体で分散し直されるΔK・M/2個の「自由な」係数がある。
【0026】
上記の「分散し直し」は、以下の方程式で表されてよい。
【0027】
【数2】
上式ではm = 1, 2, ...であり、M/2はサブバンドの数を示す。式 cm[n/Q]は、フィルタタップ(つまり、フィルタ係数)の分散の上述された基準を表す。上述されたように、1つの有用な基準は、サブバンドエラー信号em[n]のエネルギーである。この場合、cm[n/Q]は以下のように表すことができる。
【0028】
【数3】
上式では、m = 1, 2, ...であり、M/2及びRはエラー信号が平均化されるサンプルの数である。ただし、適応サブバンドFIRフィルタは、方程式(3)が評価される前に集束しなければならず、結果的に、RはQよりもはるかに小さくなる必要がある(つまり、R << Q)。別の基準は、それぞれのサブバンドFIRフィルタの一番端のS個のフィルタ係数のエネルギーを検討する。この場合、cm[n/Q] は以下として表すことができ、
【0029】
【数4】
上式ではm = 1, 2, ...であり、M/2及びKmはそれぞれのサブバンドでの現在のフィルタ長Km[n]である。代わりに、サブバンド入力信号xm[n]のnエネルギーは、一番端のS個のフィルタ係数とともに検討され得る(方程式5を参照すること)。この場合、cm[n/Q]は、以下として表すことができる。
【0030】
【数5】
上述されたように、方程式(3)に従った基準は最善の結果を生じさせるが、評価するのに時間がかかる。方程式(5)に従った基準は、AEC(音響エコーキャンセル)システムの場合でのように、ターゲットシステムが時間的に変化し、入力信号が任意に着色されるときに使用されるべきである。本ケースでは、つまり入力信号x[n]がホワイトノイズとなるように設計者によって選択されることがあるサブバンドFIRフィルタ設計の場合、方程式(4)は優れた品質結果を出すと同時に、高速適応を可能にする。
【0031】
心理音響的な態様を説明するために、方程式(3)、(4)、又は(5)に定義される式cmは、対応する重み付け係数wmで重み付けされてよい。つまり、式 cm[n/Q]は、方程式(3)、(4)、又は(5)の wm・cm[n/Q]で置き換えられる。重み付け係数wmは、人間の聴覚系の周波数分解能が検討されるように選ばれる必要がある。バーク尺度を使用すると、係数wm は、以下のように計算でき、
【0032】
【数6】
上式では、fc,m は、fc,m = (2m−1)・fS/(2・M)として計算されてよく、fS がHz単位のサンプリング周波数であるm番目のサブバンドの(Hz単位の)中心周波数を示す。方程式(6)に従って計算された正規化重み付け係数wmの例のセットは、図5に示され、それによって多くの16のサブバンドが検討された(M/2=16)。
【0033】
上述されたように、方程式(2)に従った係数の分散し直しは、サブバンドエラー信号em[n](方程式(3)と比較すること)のエネルギー又はサブバンドフィルタ係数gmk(k = {Km−S, ..., Km−1}であり、方程式(4)と比較すること)の部分(例えば、一番端のS個のフィルタ係数)のエネルギー、又はサブバンドフィルタ係数gmk及びサブバンド入力信号xm[n] (方程式(5)と比較すること)のエネルギーの組み合わせを「等化する」。したがって、異なるエネルギーを元にした基準が考えられる。アルゴリズムの「目標」は、サブバンド全体で信号エネルギーを等しく分散することである。この目標は最適化プロセスの所望される結果であるので、上述されたアルゴリズムも最小化(又は最大化)タスクとして見ることができる。
【0034】
理想的な場合、上述された基準cm[n/Q](方程式(3)から(5)を参照すること)は、各サブバンドMで等しい値を有し、それによって以下となる。
【0035】
【数7】
すなわち、サブバンドと見なされるM/2の内のそれぞれ1つで、基準cm[n]は、全てのサブセット上で総計された cm[n]という合計値よりも小さい係数2/Mである。上述された最小化タスクに戻ると、最小限に抑えられる品質関数は、以下のように書くことができる。
【0036】
【数8】
上述されたように、FIRフィルタGm(z)は、一般的に、異なる信号伝搬遅延を生じさせる異なるサブバンドでの異なるグループ遅延を有する。かかる異なる遅延を補償するために、各FIRフィルタは各サブバンドでフィルタの上流で又は加硫で調整可能な遅延回線に接続される。再び、サブバンドの遅延値は、「適応遅延割り当て」として以下に説明されるように反復して最適化できる。
【0037】
「適応タップ割り当て」として上述されたサブバンド内のFIRフィルタに適応的に割り当てられるFIRフィルタ係数は、有限インパルス応答を生じさせる矩形ウィンドウ関数での乗算により切り捨てられた無限インパルス応答と見なすことができる。各サブバンドFIRフィルタのために、この矩形ウィンドウ関数が(時間軸に沿って)シフトされてよく、それによってそれぞれの時間シフトは対応するFIRフィルタに接続される遅延回線の有効遅延を表す。
【0038】
本明細書に説明される適応遅延割り当てアルゴリズムは、各サブバンドに、それぞれのFIRフィルタの最大エネルギー有限インパルス応答を生じさせる、遅延値(つまり、上述された矩形ウィンドウの時間シフト)を見つけることをターゲットにしている。すなわち、それぞれの遅延回線に遅延値を割り当てるとき、エネルギー又は対応するFIRフィルタ係数だけが検討される。しかし、必ずしもこれが唯一の成功する手法であるわけはない。代替策として、遅延値は、総エネルギー信号e[n] = e1[n] + e2[n] + ...+ eM/2[n]のノルムが最小限に抑えられるように選ばれてよい。すでに適応タップ割り当てアルゴリズムに関して上述されたように、かかる基準を使用すると、十分に優れた結果が生じるが、収束は遅くなる。代わりに、遅延値は、それぞれのFIRフィルタ係数の総エネルギーが最大となるように選ばれてよい。
【0039】
しかしながら、サブバンドフィルタのFIRインパルス応答(つまり、FIRフィルタ係数)は、一般的に、サブバンドへの変換に起因する原因因子と因果因子を含むので、最適遅延値を見つけるための他の基準はそれぞれのインパルス応答の原因部分及び因果部分のエネルギーを等化するようにターゲットされ得る。つまり、それぞれのサブバンドFIRインパルス応答の第1の半分のエネルギーと第2の半分のエネルギーの差異は最小限に抑えられなければならない。かかる最適化戦略は、以下のように簡潔に要約されてよい。
【0040】
サブバンドmごとに、それぞれのサブバン路FIRインパルス応答gmkの第1の部分及び第2の部分を定義し、FIRインパルス応答の第1の部分及び第2の部分のエネルギーを計算する。V個のサンプルの期間で以下を繰り返す。
(A) FIRインパルス応答 gmkのエネルギーが、インパルス応答の第2の部分のエネルギーよりも大きい場合には、それぞれの遅延回線Dmの遅延をPタップ(例えば、P=1)分増加する。
(B) FIRインパルス応答gmkの第1の部分のエネルギーが、インパルス応答の第2の部分のエネルギーよりも低い場合には、それぞれの遅延回線DmをPタップ分(例えば、P=1)減少する。ただし、最小遅延はゼロである。
(C)両方のエネルギーが等しい場合は、遅延を未変更のままにする。
【0041】
FIRインパルス応答を等しい長さの2つの部分に分割したくなることがある。しかし、これは最大値がインパルス応答のほぼ真中に位置するインパルス応答に対してだけ良好な結果を生じさせる。左側にその最大値を有する原因インパルス応答を検討すると、上記の最適化戦略は、エネルギーが等しく分散されるまで、上述の矩形ウィンドウを右に時間シフトし、このようにしてインパルス応答の左側にゼロを挿入し、これは明らかに望ましくない。したがって、FIRインパルス応答の上述された第1の部分及び第2の部分がそれぞれのインパルス応答の全長をカバーするのではなく、変数Uによって定められ、0<U<1である、その上部マージン及び下部マージンだけをカバーする場合に、実践では、よりすぐれた結果が達成される。例を示すと、U=0.6である場合は、エネルギーを計算するときにフィルタ係数の60パーセントだけが検討され、それによって下部30パーセントは上述の第1の部分を形成し、上部30パーセントは対応する第2の部分を形成する。したがって、m番目のサブバンドでは、それぞれ第1の部分及び第2の部分のエネルギーEmL and EmUは以下の通りである。
【0042】
【数9】
【0043】
【数10】
したがって、EmU < EmLの場合、遅延値Dmは増加され、EmU > EmLの場合減少され、EmU = EmLの場合未変更のままとされる、又は以下の数学用語で表される。
【0044】
【数11】
一般に、適応遅延割り当てアルゴリズムは、最小化タスクとして見ることができ、それによって、各サブバンドで、それぞれの遅延値Dmが、品質基準 c’m[n/V] = |EmU−EmL|が最小値に達するまで変えられ、それによってインデックスn/Vは、基準がV番目のサンプル時間ごとしか評価されないことを示す。
【0045】
タップの数分1つのサブバンドの遅延回線の遅延値Dmを調整する(例えば、増加する)ときには、対応するフィルタインパルス応答(FIRフィルタ係数)が左にシフトされ、このようにして(遅延回線及びFIRフィルタの遅延を含む)総遅延を一定に保つことに留意する必要がある。これによって、遅延値Dmの変動に起因するFIRフィルタ係数の長い再適応化に対するニーズが回避される。ただし、適応タップ割り当てだけではなく適応遅延割り当てが実行される適応期間は、LMS/NLMSアルゴリズムの適応ステップ幅よりもかなり長くなければならず、したがってFIRフィルタ係数gmkの適応は、適応タップ割り当て及び適応遅延割り当てが開始されるときには定常状態にある。
【0046】
各サブバンドの追加遅延の適応調整だけではなく、フィルタ長の適応調整も有用に組み合わせることができるが、それぞれの適応方法(適応タップ割り当て及び適応遅延割り当て)は、互いとは無関係に単独で使用され得る。例えば、フィルタ係数の数は(例えば、バーク尺度に従って)サブバンドごとに事前に定義されてよく、遅延 Dmは、上述されたように適応的に調整されてよい。さらに、フィルタ長の適応決定は、別々の遅延部を使用しなくても、又は一定の所定の遅延を用いて、上述されたように適応タップ割り当て方法に従って形成されてよい。これは、特に、所望されるターゲット関数P(z)が線形位相又は最小位相転送関数である場合に適切であり得る。
【0047】
効率的なサブバンドFIRフィルタ構造を設計するためのフィルタ設計方法を説明してきたが、かかるサブバンドFIRフィルタ構造を効率的に実装するための例が、さらに詳しく説明される。第1に、解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクが詳しく説明される。サブバンドFIRフィルタを実装するための効率的な信号処理構造は、次いで、図7及び図8に関して説明される。
【0048】
上述されたように、解析フィルタバンク及び対応する合成フィルタバンク(図3のフィルタバンク22及び22‘を比較すること)は、実数値の全帯域入力信号x[n]を複素数値サブバンド信号のセットxm[n]に分割し、複素数値のフィルタリングされたサブバンド信号ym[n]を実数値の出力信号y[n]に再結合する。しかし、実数値サブバンド信号だけと動作する他のフィルタバンクも使用できる。この場合、サブバンドFIRフィルタはより効率的に実装され得る。しかし、実数値フィルタバンクは、対応する複素数値フィルタバンクの2倍の多さのMAC(乗算―蓄積動作)を必要とする。さらに、サブバンドは複雑なサブバンド信号を使用するとき係数Mによってアンダーサンプリングされることがあるのに対し、対称的に、実数値フィルタバンクを使用するときは、最大アンダーサンプリング係数はM/2に過ぎない。最後に、サブバンドFIRフィルタの必須フィルタ長は実数値サブバンド信号を使用するときに必要となるフィルタ長の半分に過ぎない。これは、複素数値AFB及びSFBの使用には、実数値フィルタバンクよりも少ない計算作業が必要になることを示している。しかし、両方のタイプのフィルタバンクとも、本発明での使用に適用できる。
【0049】
複素数値フィルタバンクを使用するとき、偶数で積み重ねられたフィルタバンク又は奇数で積み重ねられたフィルタバンクのどちらかを選ぶことができる。両方のタイプとも、汎用化離散フーリエ変換アルゴリズム(GDFTアルゴリズム)によって効率的に実装され得る。図6は、奇数に積み重ねられた(図6b)フィルタバンクだけではなく偶数で積み重ねられた(図6a)のサブバンドも示す。一見して、M個のサブバンドの半分は、Mこのサブバンドの他方の半分の複素共役コピーであり、結果的に数M/2の複素数値サブバンド信号だけが処理されなければならないので、奇数で積み重ねられた(図6b)のフィルタバンクの使用が好ましく見える。封数で積み重ねられたGDFTフィルタバンクを使用するとき、最低のサブバンド及び最高のサブバンドは実数値であるが、他のサブバンドの半分の帯域幅しか有していない。その結果、数M/2+1のサブバンド信号が処理されなければならず、それによって最低のサブバンドの信号は実数値である。結果として、複素数値サブバンドと比較すると、メモリ要件は半分にすぎず、必須MACは最低のサブバンドの4分の1にすぎない。最低のサブバンドのFIRフィルタ (G1(z))が、(例えば、バーク又は任意の他の心理音響的に適応された周波数尺度に従って周波数分解能と比較されるとき)最も多くのフィルタ係数g1k を有するという事実を考えると、処理されるサブバンドの総数はM/2からM/2+1に増加するが、総効率は必要とされるメモリに関して25パーセント向上し、必要とされるMACに関して50パーセント向上する。
【0050】
以下では、複数のサブバンドフィルタGm(z)及びそれぞれの遅延Dmに分解された(所望される)デジタルFIRフィルタの実装形態が、説明例として音声システムのアプリケーションを使用して説明される。図7aに示される構造は、音声チャネルごとに実装されてよい。すなわち、各音声チャネルに解析フィルタバンク22及び対応する合成フィルタバンク22‘が提供される。この文脈では、「音声チャネル」は増幅器によって提供される出力チャネルを指し、入力信号の数は指さない(増幅器が2つの入力チャネル(ステレオ入力)しか有さないが、例えば5.1サラウンドサウンド出力には6つの出力チャネルを有してよいことに留意すること)。デジタルFIRフィルタは、上述されたフィルタ設計方法に従って設計され得る。しかし、任意のFIRフィルタは、本明細書に説明されるフィルタ構造及び方法を使用して実装されてよい。解析フィルタバンク22(m=1,2,3、...、M)によって提供されるM個のサブバンド信号xm[n] のそれぞれは、(対応するサブバンドフィルタGm(z)を適用することによって)別々にフィルタリングされ、(対応する遅延Dmを適用することによって)遅延される。上述されたように、FIRフィルタGm(z)のフィルタ長が、人間の聴覚系の周波数特性を考慮に入れるように設定されるのに対し、等しく幅広いサブバンドが使用される場合、フィルタバンクは計算上効率的にしか実現できないので、個々のサブバンドの帯域幅は等しい。それぞれの遅延Dmは、FIRフィルタGm(z)の必要とされるフィルタタップを削減するために各サブバンドに適用される。一般的に、フィルタ長及び遅延は、任意の設定することができ、上述される適応タップ割り当て方法及び適応遅延割り当て方法に従って調整されてよい。遅延を除き、図7aのフィルタ構造は、図3に関してすでに説明された基本構造に相当する。
【0051】
フィルタバンク22及び22‘は、さらに詳細に以下に説明される。図6に関してすでに説明されたように、偶数で積み重ねられたGDFTフィルタバンクの適用は、人間の耳の周波数分解能に一致するサブバンドフィルタ長を使用するときに特に望ましい。すなわち、最低サブバンドに適用されるFIRフィルタは、最高の周波数分解能、したがって最高の数のフィルタ係数を有さなければならない。偶数で積み重ねられたGDFTフィルタバンクを使用するとき、弧の最低のサブバンドは実数値であり、したがってメモリ要件は4分の1削減され、必要される計算時間は、奇数で積み重ねられたGDFTフィルタバンクが使用される代替策に比較して半減される。2つ以上の音声チャネルには、通常、サブバンドで実装されるFIRフィルタが提供され、したがってフィルタバンクのこの選択はかなりの改善を伴う。
【0052】
メモリ要件は、サブバンド数と必要とされるメモリとの間の依存性を検討するときにさらに削減されてよい。一方、サブバンドの増加する数は、個々のサブバンドの帯域幅の減少を伴う。その結果、プロトタイプフィルタは、必ずさらに多くのフィルタ係数を生じさせるより険しい通過帯域/ストップバンド遷移を有さなければならず、したがって特に遅延回線を実装するために必要とされるメモリ量が増加する。他方、多数のサブバンドは、(FFTアルゴリズムで使用される)より大きなブロックサイズを伴い、その結果として、内部メモリを外部メモリにスワップするためにより多くの計算時間を使用することができ、このようにして必要とされる内部メモリを削減する。サブバンド数を決定するときには妥協策を見つけ出さなければならないことが上記から明らかとなるはずである。分析は、音声用途の場合、M=16、M=32、及びM=64のサブバンドのために良好な結果を得ることができ、それによってN=M/2のアンダーサンプリングが適用される。すなわち、M=32サブバンドを使用するとき、サブバンド信号のサンプリングレートは、N=16という係数で削減されてよく、FFTブロックサイズも16に設定される。後者の例(M=32)では、17のサブバンド(M/2+1)だけが実際に処理されなければならず、それによって(最高のサブバンドだけではなく)最低のサブバンドは上述されたように実数値である。
【0053】
大量の計算時間を消費するだろう長い初期化を生じさせずに、可能な限り多くの内部メモリをより安価な外部メモリにスワップすることも望ましい。サブバンド遅延Dmを実装するために必要とされるメモリは、外部メモリにスワップされるには適切であると思われる。しかし、これは多数のメモリ転送初期化を生じさせるだろう。例えば、10の音声チャネルの内の17のサブバンドがブロックごとに(読み取り及び書き込みのために)17回のメモリ転送初期化を必要とする。これは初期化毎に3ミップスを仮定するとき、1020ミップスの計算力が必要とされることを意味する。この問題は、図7bに示される完全帯域(広帯域)ドメインの中に最も短いサブバンド遅延を「移動させる」ことによって、図7aに示される構造を再配置するときに緩和できる。図7bの例では、最も短いサブバンド遅延DMINが第1の遅延D1である。広帯域ドメインの対応する遅延は、「バルク遅延」として示され、DBULK=N・DMINに等しい。残りのサブバンド遅延は、図7bに示されるようにDMIN分削減される。
【0054】
上述されたように、17回の初期化の代わりに(読み取りアクセス用及び書き込みアクセス用に)1つの転送初期化だけしか必要でないので、広帯域バルク遅延は、外部メモリにスワップされてよい。残りの―ただし、今はさらに短い―サブバンド遅延が内部メモリに残る。ただし、図7bに示されている解決策はさらに改善され得る。最低サブバンドのFIRフィルタが最長インパルス応答(つまり、フィルタタップの最大数)、したがって残りの遅延よりもはるかに短い最短遅延を有するので、他のサブバンド遅延のために必要とされる(内部)メモリは依然として多い。この状況は、サブバンドフィルタ構造から最低のサブバンドを「抽出し」、図8に示されるように別々にそれを処理することによって、図7bの構造を修正するときにさらに改善されてよい。
【0055】
図7bの例と対照的に、バルク遅延DBULKは、(通常は最低のサブバンドの遅延D1である)最短のサブバンド遅延に基づいて形成されるのではなく、むしろ例えばD2のような第2の最短の遅延に基づいて形成される。遅延D3−D2、D4−D2、 D5−D2等の間の差は図7bの例においてよりはるかに小さいので、必要とされるメモリの達成可能な削減はより大きくなる。したがって、広帯域入力信号x[n]は、フィルタバンクプロトタイプフィルタ22‘を称してフィルタリングされ、次いで係数N(デシメータ25)でダウンサンプリングされ 、係数2M(利得26)で乗算され、最後に元のサブバンド遅延D1で遅延され、第1のサブバンドの出力信号y1[n]を得るために対応する(実数値の)サブバンドFIRフィルタでフィルタリングされる。残りのサブバンド出力信号y2[n], y3[n], ..., yM/2+1[n]は図7bの例においてと同様に取得される。唯一の相違点は、図7bの例においてよりも大きく、相応してより短いサブバンド遅延D3−D2, D4−D2, D5−D2を生じさせるバルク遅延DBULK,のサイズである。全てのサブバンド出力信号ym[n]は、前の例と同じように広帯域出力信号y[n]に結合される。
【0056】
FIRフィルタ22‘(つまり、AFBプロトタイプフィルタP(z))を実装するための計算作業、及び以後のダウンサンプリングを削減するために、FIRフィルタ22’及びデシメータ25は、計算上より効率的である対応する多相フィルタによって置き換えられてよい(図9を参照すること)。図9の図では、フィルタ転送関数P0(z)、P1(z)等はフィルタ係数 [p0, pN, p2N, ...]、[p1, pN+1, p2N+1, ...]等を含むフィルタを表し、それによって係数p0、p1、 p2,等がAFBプロトタイプフィルタP(z)のフィルタ係数を表している。
【0057】
図8又は図9の例を使用すると、本例(17のサブバンド、10のチャネル)では340回の初期化から20回の初期化へ、メモリ転送初期化の大幅な削減が可能になる。これらは、全てのチャネルのバルク遅延をスワップし、一度にスワップし直すことができるように、バルク遅延を等化することによってさらに2に削減されてよい。この手順は図10に示される。
【0058】
本発明及びその優位点は詳細に説明されてきたが、添付特許請求の範囲によって定められる本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多様な変更、置換、及び改変を本明細書に加えることができることが理解されるべきである。
【0059】
さらに、本発明の範囲は、本明細書に説明されるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及びステップの特定の実施形態に制限されることが意図されていない。統合者は、本発明の開示から、本明細書に説明される対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行する、又は実質的に同じ結果を達成する、現在存在している、又は後に開発されるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及びステップが本発明に従って活用され得ることを容易に理解する。したがって、添付特許請求の範囲は、それらの範囲内で、かかるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及びステップを含むことが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのデジタルフィルタが各チャネルに実装されるデジタル音声プロセッサを備える少なくとも1つの音声出力チャネルのある音声システムであって、各チャネルの前記デジタルフィルタが、
広帯域入力音声信号を受信し、前記受信した音声信号を複数のサブバンドに分割し、このようにして等しい帯域幅を有するサブバンド信号を提供するように構成される解析フィルタバンクであって、前記サブバンド信号の前記スペクトルが前記入力音声信号の前記スペクトルを構成する解析フィルタバンクと、
各サブバンド用のサブバンドFIRフィルタであって、このようにしてそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタと、
前記フィルタリングされたサブバンド信号を受信し、広帯域出力音声信号を提供するためにそれらを結合するように構成される合成フィルタバンクと、
を備え、
遅延が各サブバンド信号に関連付けられ、前記サブバンド信号の内の1つの前記遅延が前記解析フィルタバンクの上流の前記広帯域入力音声信号に適用され、前記残留遅延が前記解析フィルタバンクの下流の前記残りのサブバンド信号に適用される、
音声システム。
【請求項2】
前記遅延されていない入力音声信号を受信し、追加サブバンド信号として、前記解析フィルタバンクでタッピングされていない最低周波数サブバンドの前記サブバンド信号を提供する低域通過フィルタと、
前記それぞれのサブバンドFIRフィルタの上流又は加硫で前記最低周波数サブバンド信号に適用される遅延と、
をさらに備え、
前記広帯域入力音声信号に適用される前記遅延が、前記解析フィルタバンクでタッピングされる前記サブバンドと関連付けられる最短の遅延に一致する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記サブバンドFIRフィルタのフィルタ係数の前記数が、銭サブバンドフィルタの前記周波数分解能が、少なくともほぼ前記人間の耳の前記周波数分解能に相当するように設定される、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
少なくとも第1の音声チャネルと、第2の音声チャネルとを備え、
各広帯域入力音声信号が、前記解析フィルタバンクでタッピングされる全てのチャネルの全てのサブバンド信号の最短の遅延によって与えられる等しい遅延で遅延される、
請求項1から3の1つに記載のシステム。
【請求項5】
前記解析フィルタバンク(複数の場合がある)及び前記合成フィルタバンク(複数の場合がある)が、前記入力音声信号をブロック単位で処理する偶数で積み重ねられるGDTFフィルタであり、前記サブバンド信号が、前記ブロックサイズに対応する係数で、前記広帯域信号に比較してダウンサンプリングされ、
前記処理されたサブバンド信号の前記最低周波数及び前記最高周波数のサブバンド信号が実数値であり、前記他のサブバンド信号が複素数値である、
請求項1から4の1つに記載のシステム。
【請求項6】
前記低域通過フィルタが、前記解析フィルタバンク(複数の場合がある)によって使用されるプロトタイプフィルタに相当する、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
音声システムの少なくとも1つの音声出力チャネル内に提供される少なくとも1つの音声信号をフィルタリングするための方法であって、各チャネルのために、
所与の周波数バンド内にあるスペクトルを有する、フィルタリングされる広帯域入力音声信号を受信することと、
前記入力音声信号の前記周波数バンドを、複数のサブバンドに分割し、このようにしてサブバンド信号を提供することであって、前記サブバンド信号の前記スペクトルが前記入力音声信号の前記スペクトルを構成する、提供することと、
各サブバンド信号をフィルタリングし、このようにしてサブバンドごとにそれぞれのFIR又はIIRフィルタを使用してそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供することと、
広帯域出力音声信号を提供するために、前記フィルタリングされたサブバンド信号を結合することと、
を含み、
遅延が各サブバンドに関連付けられ、前記サブバンドの内の1つの前記遅延が、前記周波数バンドを分割する前に前記広帯域入力音声信号に適用され、前記残留遅延が前記周波数バンドを分割後に前記残りのサブバンド信号に適用される、
方法。
【請求項8】
前記周波数バンドを分割することが、前記入力信号をブロック単位で処理する第1の偶数で積み重ねられたGDTF解析フィルタバンクを使用して実行され、
前記周波数バンドを分割することが、前記広帯域信号と比較して、前記ブロックサイズに相当する係数分、前記サブバンド信号を前記ダウンサンプリングすることをさらに含み、
前記フィルタリングされたサブバンド信号を結合することが、前記第1のフィルタバンクに対応し、前記広帯域出力信号をブロック単位で提供する第2の偶数で積み重ねられたGDTF合成フィルタバンクを使用して実行される、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記遅延していない入力音声信号を低域通過フィルタリングし、追加サブバンド信号として、前記最低周波数サブバンドの前記サブバンド信号を提供することと、
それぞれのFIR又はIIRフィルタを使用して前記最低周波数サブバンド信号をフィルタリングし、このようにして対応するフィルタリングされたサブバンド信号を提供することと、
FIRフィルタリングの前又は後に前記最低周波数サブバンド信号を表示することと、
をさらに含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記サブバンドFIRフィルタのフィルタ係数の前記数が、前記サブバンドフィルタの前記周波数分解能が前記人間の耳の前記周波数分解能に少なくともほぼ一致するように設定される、請求項7から9の1つに記載の方法。
【請求項11】
前記音声システムが、第1の音声出力チャネル及び第2の音声出力チャネルを備え、
各広帯域入力音声信号が、前記周波数バンドを除算することによって得られる全てのチャネルの全てのサブバンド信号の最短遅延によって与えられる等しい遅延で遅延される、
請求項7から10の1つに記載の方法。
【請求項12】
前記低域通過フィルタリングが、低域通過フィルタとして、前記周波数バンドを分割するために使用される前記GDFTフィルタバンク(複数の場合がある)によって使用されるプロトタイプフィルタに相当するフィルタを使用することを含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも1つのデジタルフィルタが各チャネルに実装されるデジタル音声プロセッサを備える少なくとも1つの音声出力チャネルのある音声システムであって、各チャネルの前記デジタルフィルタが、
広帯域入力音声信号を受信し、前記受信した音声信号を複数のサブバンドに分割し、このようにして等しい帯域幅を有するサブバンド信号を提供するように構成される解析フィルタバンクであって、前記サブバンド信号の前記スペクトルが前記入力音声信号の前記スペクトルを構成する解析フィルタバンクと、
各サブバンド用のサブバンドFIRフィルタであって、このようにしてそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供するサブバンドFIRフィルタと、
前記フィルタリングされたサブバンド信号を受信し、広帯域出力音声信号を提供するためにそれらを結合するように構成される合成フィルタバンクと、
を備え、
遅延が各サブバンド信号に関連付けられ、前記サブバンド信号の内の1つの前記遅延が前記解析フィルタバンクの上流の前記広帯域入力音声信号に適用され、前記残留遅延が前記解析フィルタバンクの下流の前記残りのサブバンド信号に適用される、
音声システム。
【請求項2】
前記遅延されていない入力音声信号を受信し、追加サブバンド信号として、前記解析フィルタバンクでタッピングされていない最低周波数サブバンドの前記サブバンド信号を提供する低域通過フィルタと、
前記それぞれのサブバンドFIRフィルタの上流又は加硫で前記最低周波数サブバンド信号に適用される遅延と、
をさらに備え、
前記広帯域入力音声信号に適用される前記遅延が、前記解析フィルタバンクでタッピングされる前記サブバンドと関連付けられる最短の遅延に一致する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記サブバンドFIRフィルタのフィルタ係数の前記数が、銭サブバンドフィルタの前記周波数分解能が、少なくともほぼ前記人間の耳の前記周波数分解能に相当するように設定される、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
少なくとも第1の音声チャネルと、第2の音声チャネルとを備え、
各広帯域入力音声信号が、前記解析フィルタバンクでタッピングされる全てのチャネルの全てのサブバンド信号の最短の遅延によって与えられる等しい遅延で遅延される、
請求項1から3の1つに記載のシステム。
【請求項5】
前記解析フィルタバンク(複数の場合がある)及び前記合成フィルタバンク(複数の場合がある)が、前記入力音声信号をブロック単位で処理する偶数で積み重ねられるGDTFフィルタであり、前記サブバンド信号が、前記ブロックサイズに対応する係数で、前記広帯域信号に比較してダウンサンプリングされ、
前記処理されたサブバンド信号の前記最低周波数及び前記最高周波数のサブバンド信号が実数値であり、前記他のサブバンド信号が複素数値である、
請求項1から4の1つに記載のシステム。
【請求項6】
前記低域通過フィルタが、前記解析フィルタバンク(複数の場合がある)によって使用されるプロトタイプフィルタに相当する、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
音声システムの少なくとも1つの音声出力チャネル内に提供される少なくとも1つの音声信号をフィルタリングするための方法であって、各チャネルのために、
所与の周波数バンド内にあるスペクトルを有する、フィルタリングされる広帯域入力音声信号を受信することと、
前記入力音声信号の前記周波数バンドを、複数のサブバンドに分割し、このようにしてサブバンド信号を提供することであって、前記サブバンド信号の前記スペクトルが前記入力音声信号の前記スペクトルを構成する、提供することと、
各サブバンド信号をフィルタリングし、このようにしてサブバンドごとにそれぞれのFIR又はIIRフィルタを使用してそれぞれのフィルタリングされたサブバンド信号を提供することと、
広帯域出力音声信号を提供するために、前記フィルタリングされたサブバンド信号を結合することと、
を含み、
遅延が各サブバンドに関連付けられ、前記サブバンドの内の1つの前記遅延が、前記周波数バンドを分割する前に前記広帯域入力音声信号に適用され、前記残留遅延が前記周波数バンドを分割後に前記残りのサブバンド信号に適用される、
方法。
【請求項8】
前記周波数バンドを分割することが、前記入力信号をブロック単位で処理する第1の偶数で積み重ねられたGDTF解析フィルタバンクを使用して実行され、
前記周波数バンドを分割することが、前記広帯域信号と比較して、前記ブロックサイズに相当する係数分、前記サブバンド信号を前記ダウンサンプリングすることをさらに含み、
前記フィルタリングされたサブバンド信号を結合することが、前記第1のフィルタバンクに対応し、前記広帯域出力信号をブロック単位で提供する第2の偶数で積み重ねられたGDTF合成フィルタバンクを使用して実行される、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記遅延していない入力音声信号を低域通過フィルタリングし、追加サブバンド信号として、前記最低周波数サブバンドの前記サブバンド信号を提供することと、
それぞれのFIR又はIIRフィルタを使用して前記最低周波数サブバンド信号をフィルタリングし、このようにして対応するフィルタリングされたサブバンド信号を提供することと、
FIRフィルタリングの前又は後に前記最低周波数サブバンド信号を表示することと、
をさらに含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記サブバンドFIRフィルタのフィルタ係数の前記数が、前記サブバンドフィルタの前記周波数分解能が前記人間の耳の前記周波数分解能に少なくともほぼ一致するように設定される、請求項7から9の1つに記載の方法。
【請求項11】
前記音声システムが、第1の音声出力チャネル及び第2の音声出力チャネルを備え、
各広帯域入力音声信号が、前記周波数バンドを除算することによって得られる全てのチャネルの全てのサブバンド信号の最短遅延によって与えられる等しい遅延で遅延される、
請求項7から10の1つに記載の方法。
【請求項12】
前記低域通過フィルタリングが、低域通過フィルタとして、前記周波数バンドを分割するために使用される前記GDFTフィルタバンク(複数の場合がある)によって使用されるプロトタイプフィルタに相当するフィルタを使用することを含む、
請求項9に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−249294(P2012−249294A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−121895(P2012−121895)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【出願人】(504147933)ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー (165)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−121895(P2012−121895)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【出願人】(504147933)ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー (165)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]