説明

効率的な健康状態の評価および改善された処置プロトコール

全身的な健康状態を評価するための方法、および治療剤の有効性を評価するための方法が開示される。これら方法は、血液サンプルもしくは他の体液に対して行われ得、内皮細胞の細胞死をもたらす工程、上記死細胞を染色する工程、およびそれらを顕微鏡観察する工程を包含する。さらに、本発明は、血中でエタノールおよび/もしくはDMSOの非毒性レベルを維持しながら、抗脈管形成剤を投与することによる、新生物疾患もしくは望ましくない脈管形成によって特徴付けられる他の状態のための組み合わせ処置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、全身的な健康状態(wellbeing)について被験体の評価的スクリーニングにおいて有用な診断試験に関する。より具体的には、本発明は、循環内皮細胞についての、および一般に、内皮細胞の検出のための安価かつ簡便なアッセイに関する。さらに、本発明は、所望でない新生血管構造によって特徴付けられる状態(新生物状態を含む)の処置のための改善されたプロトコルに関する。
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
循環する微小血管(内皮)細胞が種々の疾患状態(例えば、心疾患、心血管疾患および糖尿病)についての重要なマーカーであることは、一般に認識されている(非特許文献1)。しかし、このような細胞を循環系において検出することは、他の細胞(例えば、血小板)の介入が原因で問題となる。タイプ、もしくは抗体標識(例えば、CD31に対して指向される抗体の使用)による細胞の分離を伴う方法は、時間の掛かる工程を要し、しばしば、高価な装置を要する。
【0003】
PCT出願US 2006/047954(特許文献1として公開され、本明細書に参考として援用される。これは、本明細書中の出願人の研究を記載する)は、上記サンプル中の新生物細胞とは対照的に、CD31での標識を介して、もしくは経験した観察を介して、内皮細胞を最初に同定することによって、腫瘍生検の微小凝集物の抗新生物療法において使用される薬物の効果を評価するための方法を開示する。上記サンプルは、候補薬物に供した後に、死細胞によって取り込まれるが、生細胞によって排除される色素で染色され、次いで、生細胞によって受容される色素で対比染色される。上記サンプルが、選択された特定の色素組み合わせ(生細胞によって排除される青色/緑色色素)について顕微鏡下で観察される場合、対比染色で染色された生細胞のバックグラウンドのピンク色の「パンケーキ」中の「ブルーベリー」として死細胞が示される。従って、どの細胞が癌細胞であるか、およびどの細胞が内皮細胞であるかの知識によって、所定の薬物が上記癌細胞、内皮細胞もしくはそれらの両方に影響を及ぼすか否かを決定することが可能である。一般に、脈管形成を阻害することが公知の薬物(例えば、アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ))が、このアッセイにおいて死滅を露見させる内皮細胞を生じる一方で、上記腫瘍細胞は影響を受けないままであることが示される。直接的な抗新生物薬物は、内皮細胞ではなく、腫瘍細胞自体の死滅を生じる。
【0004】
ここで内皮細胞は、生存しないようにされる場合、生細胞によって排除される色素を吸収するのみならず、異なる外観を有する(このことは、内皮細胞を他の死細胞の存在下ですら認識可能にする)ことが見いだされた。従って、上記サンプルを、内皮細胞を死滅させることが公知の薬剤に供し、経験を積んでいない目にすら顕微鏡下で死滅した内皮細胞を直ぐに認識可能にする適切な色素で染色することによって、内皮細胞の存在について、不均質サンプル(例えば、血漿)、または特許文献1に記載される上記微小凝集物の脱凝集した(disaggregated)形態もしくは抽出物を評価することは実践的になる。このことは、循環内皮細胞について迅速かつ効率的な試験を可能にする。ここでこのような細胞の上昇したレベルは、上記被験体における外傷状態を示す。
【0005】
驚くべきことに、非毒性溶媒であるDMSOおよびエタノールが、それ自体、抗血管新生効果を有し、細胞培養物中の血管内皮増殖因子(VEGF)のレベルを低下させ得ることもまた、見いだされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/075440号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bos,C.J.ら,J.Am.Col.Cardiol.(2006)48:1538〜1547
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の開示)
一局面において、本発明は、ヒトもしくは他の脊椎動物被験体における循環内皮細胞を検出および定量するための方法に関し、上記方法は、体液のサンプルを、内皮細胞に対して毒性である薬剤に供し、続いて、上記サンプルを、生細胞によって排除されるが、非生細胞によって取り込まれる色素で処理する工程、および上記サンプルを、顕微鏡下で検鏡して、上記サンプル中の容易に同定可能な内皮細胞を検出し、望ましい場合、これを計数する工程を包含する。上記被験体の循環系における内皮細胞の数の増大は、種々の状態(例えば、糖尿病、心血管問題など)、ならびに外傷(例えば、筋挫傷(muscular strain)および挫傷)の指標である。
【0009】
従って、この局面において、本発明は、脊椎動物被験体における循環内皮細胞を検出および必要に応じて定量するための方法に関し、上記方法は、
(a)試験されるべき被験体から得られた体液と、内皮細胞に対して細胞傷害性である薬剤とを接触させる工程;
(b)上記細胞を、生細胞によって排除されるが、死細胞によって取り込まれる色素で処理する工程;
(c)得られた細胞を、顕微鏡下で観察する工程、および
(d)上記培養物中の上記内皮細胞を、上記内皮細胞の小さなサイズ、角のある外見および強い色によって同定する工程、
を包含する。
【0010】
使用できる体液としては、血液、血漿およびリンパが挙げられる。
【0011】
望ましい場合、内皮細胞の数が計数され得、上記循環系における内皮細胞の濃度が計算され得る。上記方法はまた、生細胞によって取り込まれる染料で対比染色する工程を包含し得る。
【0012】
上記方法は、上記試験される被験体における循環中の内皮細胞の数に対する上記被験体に投与される薬剤の効果を評価することによって、治療剤の有効性を評価するために使用され得る。動物モデルは、本発明のこの局面において特に有用であるが、ヒトもしくは獣医学的な患者における処置の有効性も、同様に評価され得る。
【0013】
本明細書で記載されるように処理される場合、上記内皮細胞の特徴的な性質が原因で、本発明の方法は、上記引用のPCT公報に記載される必要とされる微小凝集物を脱凝集し、上記脱凝集された形態もしくは抽出された形態を、このような細胞の量もしくは存在について評価することによって、腫瘍中の内皮細胞を評価するために使用され得ることもまた、見いだされた。
【0014】
さらに、本発明のアッセイ方法は、驚くべきことに、上記非毒性物質DMSOおよびエタノールが、抗脈管形成薬物の効果を強化し得ることを明らかにした。なぜなら、それら自体がこの効果を示し得るからである。従って、別の局面において、本発明は、所望でない新生血管構造によって特徴付けられる状態を処置するための改善された方法に関し、上記方法は、このような処置を必要とする被験体に、抗血管新生薬剤を、非毒性であるが、上記主要薬物の抗血管新生効果を高めるに十分である、エタノールおよび/もしくはDMSOの血中レベルを維持しながら投与する工程を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1A〜1Cは、CD31染色と比較して、本発明の方法に従って、内皮細胞を選択的に染色する効果を示す。図1Aは、ファストグリーンで懸濁培養物を染色し、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)で対比染色し、次いで、抗CD31で対比染色した結果を示す。図1Bは、ファストグリーン/H&Eでのみ染色した細胞を示す。図1Cは、ベバシズマブで処理し、次いで、上記ファストグリーン/H&Eで染色した培養細胞を示す。
【図2】図2A〜2Hは、ベバシズマブと比較して、種々のキナーゼインヒビター薬物が抗血管新生効果を発揮する能力を示す。
【図3】図3A〜3Hは、ベバシズマブと、キナーゼ阻害薬との組み合わせが内皮細胞死滅をもたらす能力を示す。
【図4】図4Aおよび図4Bは、末梢血球を含むサンプルに対して決定される場合、内皮細胞死滅に対するイマチニブおよびベバシズマブの組み合わせ効果を示す。
【図5】図5Aおよび図5Bは、サンプル中の内皮細胞を定量するために使用される画像を示す。
【図6】図6は、内皮細胞および非ホジキンリンパ腫(NHL)細胞に対する種々の薬物の効果を示すグラフである。
【図7】図7は、エタノールおよびDMSOの抗血管新生細胞効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明を実施する態様)
本発明は、被験体の全身の健康状態(general physical condition)を評価し、そして例えば、スポーツ傷害もしくは過活動の外傷の影響の存在を評価するために有用な診断ツールを提供する。
【0017】
正常な被験体の全身の慣用的健康診断の状況において、循環内皮細胞の正常レベルの所見は、内皮細胞の数の多さと、糖尿病および心血管問題のような状態との既知の関連に鑑みると、さらなる試験から上記被験体を斟酌し得る。このような状態を検出するように設計された試験は、厳密にいうと、正常な内皮細胞数にも拘わらず、必須ではない。
【0018】
他方で、異常に高い循環内皮細胞の所見は、さらなる評価の必要性を示す。少量の血液サンプルに基づく簡単な試験の利用可能性は、個体を勇気づけて、彼らの全体の健康状態を評価することにおいて魅力的であり得、このような試験は、一人の医師の診療所においてのみならず、実地看護師(nurse practitioner)もしくはドラッグ・ストアなどにおける他の医療補助専門家によって今や提供される便利な立地においても行われ得る。
【0019】
本発明の方法は、単純な装置および評価する職員の最小限の訓練のみを必要とする。このことは、生細胞から排除される色素を取り込み得る死滅した内皮細胞が、特徴的な外見を有するので、確かである。上記内皮細胞は、非常に濃く染色され、角があり、夾雑している細胞より小さい。上記内皮細胞は、リンパ球サイズの約1/3である。
【0020】
上記細胞の直接的な観察および肉眼によるスコア付けは有効である一方で、上記方法は、機器による定量にも役に立つ。以下に例示されるのは、上記アッセイの結果を定量するためのImageJソフトウェアの使用である。
【0021】
本明細書で使用される場合、「抗血管新生薬剤」もしくは「抗脈管形成剤」、「抗新生脈管構造」もしくは「抗微小血管薬剤」もしくは「内皮細胞に対して細胞傷害性の薬剤」は、内皮細胞を死滅させ得、従って、血管新生を低下させ得る薬剤を示すために交換可能に使用される。これら薬剤は、VEGFと、VEGFレセプターと、もしくは脈管形成を促進するために必須の他の因子と相互作用し得る。
【0022】
一般に、このような薬剤は、所望でない新生血管構造によって特徴付けられる状態を処置することにおいて有用である。これらとしては、癌、黄斑変性および良性肥大のような他の状態が挙げられる。
【0023】
本発明のアッセイにおいて、血液サンプルは、必要に応じて、遠心分離、重力沈降、示差的細胞溶解もしくは赤血球を除去するための他の技術(しかし、厳密にいえば、これは、不要である)に供され、得られた血漿は、内皮細胞に対して細胞傷害性であることが公知の薬剤(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)に対して指向される抗体もしくは他の抗血管新生薬剤)で処理される。簡便な選択は、市販されているアバスチン(登録商標)である。
【0024】
上記抗脈管形成剤での処理後、上記サンプルは、非生細胞に対して特異的な、適切な色素(例えば、ファストグリーン)で処理される。本発明の方法は、これら特定の色素に限定されない。これら特徴を有する任意の色素が、使用され得る。
【0025】
次いで、上記細胞は、顕微鏡スライドへと遠心分離により落とされ、評価される。
【0026】
望ましい場合、上記顕微鏡スライド上の細胞は、例えば、ライト−ギムザ、H&Eもしくは他の適切な染色で対比染色され得る。これら特定の色素を使用することは必須ではないが、それらは、簡便な実施形態である。
【0027】
前述のプロセスは、体液に対して適用可能であるだけでなく、PCT公報WO 2007/075440に記載されるように、腫瘍から得られた微小凝集物サンプルの抽出物もしくは脱凝集された形態にも適用可能である。上記微小凝集物の新生脈管構造は、上記微小凝集物の三次元構造を保持するための足場を提供するようであり、従って、1つの脱凝集する方法は、抗脈管形成剤(例えば、ベバシズマブ)での処理である。上記足場が破壊される場合、遊離した内皮細胞は、培養培地へと放出される。前述の方法は、その後放出された上記細胞の存在および/もしくは量を評価するために適用され得る。
【0028】
この方法はまた、試験されるべき処理で組織サンプル(例えば、上記PCT公報の微小凝集物)を処理し、上記組織サンプルを脱凝集するかもしくはそこから上記細胞を抽出し、上記内皮細胞集団に対する処理の効果を評価することによって、上記内皮細胞集団に対して意図された療法の効果を評価するために使用され得る。この場合、上記抽出物もしくは脱凝集物(disaggregation)は、それ自体、上記内皮細胞を死滅させるべきではない。上記死滅内皮細胞は、検出され得、所望される場合、生細胞によって排除されるが、死細胞によって取り込まれる色素で上記死滅内皮細胞を処理し、得られた細胞を、顕微鏡下で観察することによって、上記のように計数され得る。上記死滅内皮細胞は、それらの小さなサイズ、しばしば角のある外見、およびしばしば強くかつ屈折性の色(intense and refractile color)によって認識される。
【0029】
エタノールおよびDMSOの両方が、抗脈管形成効果を発揮し得かつ内皮細胞に対して細胞傷害性であることもまた、見いだされた。エタノールおよびDMSOは、抗脈管形成剤である主要薬物と組み合わせて使用され得る。なぜなら、それらは、少量で使用される場合、非毒性であるからである。従って、1種以上の抗脈管形成薬物での一次療法に加えて、被験体は、血中のアルコールもしくはDMSOの非毒性レベルを維持するように処置され得る。DMSOは、例えば、IV注射によって投与される一方で、血中アルコールレベルは、従来のアルコール含有飲料の形態でアルコールを経口投与することによって便宜的に維持され得る。ブレサライザー試験は、適切なアルコールレベルを処置の間に維持することを確実にするために使用され得る。以下の実施例6に示されるように、the University of Pennsylvaniaの患者を、抗血管新生薬剤および赤ワインの組み合わせで首尾よく処置した。さらに、the University of Heidelbergからの不確かな証拠が存在する。ここで1.5lのワインを毎日消費する乳癌患者は、抗血管新生薬剤トラスツズマブでの治療に対して5年+寛解を示した。このことは、Eichbaum,M.H.R.,Anticancer Drugs(2005)16:199−200によって報告されている。上記患者が慢性アルコール中毒であり、制御されたプロトコルを施されない場合、このことは、本発明の組み合わせ治療を表さないことに注意すべきである。
【0030】
(調製A)
生検から得られた細胞培養法を使用して、実験手順を行った以下の実施例において、これらを以下のように調製した。上記調製は、本質的に上記のPCT公報WO 2007/075440に示されるとおりである。
【0031】
新鮮な生検もしくは流体吸引物を、癌もしくは他の病気を有する患者から、または正常なドナーから得る。
【0032】
標本を、代表的には、本発明の方法の実施のために、処置を受けさせる病院の解剖病理学実験室を介して、またはある場合には、手術室もしくは外科医/内科医の診療所から直接提出する。固形腫瘍標本(固定剤に曝されてもおらず、凍結もされていない)を、冷却輸送培地(CO非依存培地(CO−independent medium)、InvitroGen/GIBCO,Grand Island,NY(ペニシリン/ストレプトマイシン、アンホテリシンB、インスリン/セレン/トランスフェリン、および10% 低エンドトキシン、熱非働化ウシ胎仔血清を補充))中に置く。次いで、標本を、頑丈なStyrofoam(登録商標)輸送ボックス(−20℃まで凍結した「ブルーアイス(blue ice)」の350gのブロックを含む)の中に置く。次いで、これらを、翌日午前中配達サービス(priority overnight delivery service)もしくは地元宅配業者(local land courier)のいずれかによって輸送する。流体標本を、十分に混合して、細胞クラスタを懸濁し、次いで、滅菌した500ml ポリプロピレン輸送ボトルに注ぐ。10〜15ユニットのヘパリン硫酸を、提出した流体1mlあたりに添加する。
【0033】
上記処置を受けさせる病院からの公式組織病理報告のコピーを、受領すべきである。
【0034】
固形腫瘍を、1mmより小さな小片(標準的使い捨て10mlピペットへ吸引するのに十分小さい)へと高品質の湾曲した外科用ハサミで細かく切り刻む。上記腫瘍が移され得る培地を、組織のみじん切りの上清とともに確保しておく。ハサミで細かく切り刻んだ腫瘍小片を、抗生物質および10% ウシ胎仔血清を含むRPMI−1640中、コラゲナーゼ/DNaseで消化する。標本を、50ml 使い捨てポリプロピレン遠心分離管中で消化し、攪拌プレート上で、プラスチックで被覆した磁性式撹拌子で穏やかに攪拌することによって補助する。標本を、完全な大まかな消化が起こるまで、このように攪拌する−代表的には、1〜3gの標本に対して約2〜3時間。次いで、サイトスピンスライド(cytospin slide)を、全ての細胞画分(輸送培地、組織のみじん切りからの上清、および酵素消化物)から調製し、先に記載されるように(Weisenthalら,「A Novel Dye Exclusion Method for Testing in vitro Chemosensitivity of Human Tumors」,Cancer Res.(1983)43:749-757)ファストグリーン−H&Eで染色する。
【0035】
流体標本を、上記標本中の全ての細胞を集めるために、その全体を遠心分離にかける。次いで、細胞を、上記RPMI−1640ベースの培地中で再懸濁し、サイトスピンを、上記のように調製する。
【0036】
その結果を正規化するために、アッセイの始めに、処置に曝されない上記細胞の条件を示す「0日目」スライドを調製し、陰性コントロール(曝されない細胞)の「最終培養物(end culture)」スライドもまた調製する。
【0037】
内皮細胞についてアッセイするために、例えば、10%(容積/容積)、または例えば、1%(容積/容積)もしくは中間のパーセンテージの抗血管新生薬物含有溶液もしくはビヒクルコントロール(最も代表的には、0.9% NaCl)と混合する。培養のためにプレートされる細胞懸濁物/薬物溶液(もしくはビヒクル)の最終容積は、0.12mlであり得る。培養を、加湿した37℃インキュベーター中で、標準化された期間にわたってポリプロピレンの丸底96ウェル培養ディッシュ中で行う。
【0038】
ストック溶液を、一般に、所望の濃度の10倍〜100倍で調製し、単回使用0.5mlコニカルポリプロピレンチューブへとアリコートに分け、使用するまで−70℃において凍結する。いくつかの薬物は、製造業者の推奨に従って、冷蔵庫温度で維持する。
【0039】
細胞を、各薬物の指示濃度と、および望ましい場合には、指示濃度の希釈物と培養する。ここで上記指示濃度は、練習セットのアッセイもしくは文献から決定する。陰性コントロールは、一般に、0.9% NaCl、および/もしくはビヒクル(ここには抗血管新生薬物が溶解されている)からなる。複製の96ウェルプレートを試験する。
【0040】
さらに、腫瘍細胞単離の詳細、細胞培養条件、スライド調製および染色は、Weisenthal.org.のウェブサイトに記載される。
【0041】
以下の実施例は、例示のために提供されるが、本発明を限定するために提供されるのではない。
【実施例】
【0042】
(実施例1 内皮細胞の検出)
調製Aに示される手順を使用して、膵臓類癌腫を、2.5mg/ml ベバシズマブの存在下および非存在下での懸濁培養において、96時間後に可視化した。上記培養物を、上記ファストグリーン/H&E染色/対比染色で染色した。図1Bは、ベバシズマブで処理しなかったコントロール培養物の結果を示す。上記内皮細胞がほとんど見えないことは明らかである。図1Aは、CD31染色が、上記内皮細胞を同定するために使用される場合に、上記コントロール培養物(ベバシズマブで処理していない)の結果を示す。繰り返すと、それらは、特に顕著ではない。図1Cは、上記培養物が、内皮細胞死滅を生じるベバシズマブで処理された場合の結果を示す。上記内皮細胞の外見は、極めて印象的である。上記参照のWO 2007/075440公報に記載される特徴的な「ブルーベリーパンケーキ(blueberry pancake)」の外見が、観察される。
【0043】
(実施例2 種々の化学療法剤の比較)
実施例1の培養物を、2.5mg/mlのベバシズマブと比較して、種々の候補化学療法剤で処理し、実施例1に記載されるように染色した。上記種々の薬物を、抗微小血管効果について0+から5+までのスケールでスコア付けすることによって評価した。5+は、最高の考えられるスコアである。図2A〜2Hに示されるように、ゲフィチニブは、0にしかスコア付けされなかった;スニチニブ(sunitinib)は、1+にスコア付けし、ソラフェニブ(sorafenib)は、3+にスコア付けし、そしてエルロチニブ(erlotinib)およびベバシズマブ(bevacizumab)の両方を、4+にスコア付けした。上記「ニブ」薬物は、キナーゼ阻害薬である。
【0044】
さらなる結果を、表1にまとめ、ここでスライドを、上記のように抗微小血管効果について、そしてWeisenthal.orgウェブサイトに記載されるように、直接的な抗腫瘍効果についてもスコア付けした。この決定のために、表1に提供される結果は、前の段落のスコア付けシステムの10×倍数である。その表はまた、使用される各薬物の濃度を示す。ベバシズマブを、0.9% NaClを含むビヒクル中および0.5% DMSO/0.5% エタノールの培養培地中の最終濃度を生じたビヒクル中の両方に分与した。ゲフィチニブおよびスニチニブを、0.9% NaCl中に分与したが、エルロチニブ、ソラフェニブ、およびイマチニブを、最終0.5% DMSO/0.5% エタノール濃度を提供するように分与した。
【0045】
【表1】

図2に提供されるスコアに10をかけ算し、平均して、列2に示される抗血管スコア(AVS)を与えた;上記ビヒクル単独についての平均AVS(VAVS)は、列3に示し、それらの差異の統計的有意性のレベルを、列4に示す。上記AVSスコアを、列5に示されるように、引き算によってビヒクルの効果について補正した。上記抗腫瘍スコア(AT)を、列6に示す。
【0046】
最後に、抗腫瘍スコアに対するAVS(ビヒクルの効果について補正した)の比を、最後の列に示す。
【0047】
上記表への参照から明らかであるように、ベバシズマブは、他の薬物と比較して、比較的高い比を有する。上記DMSO/EtOH組み合わせ(0.9% NaClと比較して)自体は、有意な抗微小血管効果を有することもまた、明らかである。
【0048】
(実施例3 組み合わせの相乗効果)
不十分にしか識別されていない乳癌の標本を、前の実施例において示される手順において使用し、上記のように、種々の薬物および薬物組み合わせで試験した。図3A〜3Hは、その結果を示す。図3Aは、コントロール培養物に対してファストグリーン/H&Eで染色した後の外見を示す。図3B、図3Cおよび図3Dは、エルロチニブ、イマチニブおよびベバシズマブ単独で処理した場合の外見を示す。ベバシズマブは+1としてスコア付けされたものの、どれも特に有効ではなかったように見えた。ベバシズマブと、エルロチニブ(図3E)もしくはイマチニブ(図3F)いずれかとの組み合わせは、遙かにより良好な結果を示した。図3Gおよび図3Hは、図3Fに示される結果の単により高い倍率のものである。
【0049】
(実施例4 末梢血への適用)
末梢血の慢性リンパ性白血病細胞を、ベバシズマブ(2.5mg/ml)の非存在下および存在下で4日間にわたって培養し、上記のように染色および対比染色した。その結果を、図4に示す。図4Aは、ベバシズマブなしの培養物を示す。内皮細胞が認められ得るが、上記内皮細胞は、上記ベバシズマブが内皮細胞死滅を引き起こした図4Bより明らかに見えづらい。上記内皮細胞は、取り囲んでいる細胞よりも小さな寸法の屈折性の角のある小さな細胞として容易に明らかである。これら細胞は、リンパ球の大きさの約1/3であり、直径約3μである。
【0050】
(実施例5 細胞数の定量)
リンパ節生検を、非ホジキンリンパ腫患者から得、処理し、上記のように染色した。図5Aは、ベバシズマブで4日間培養した細胞の200×写真である。死滅内皮細胞の存在は、容易に明白である。上記細胞はまた、定量を補助するために、国立衛生研究所(NIH)から入手可能な公に入手可能な「ImageJ」ソフトウェアを使用して画像化され得る。その画像を、上記死滅内皮細胞のみを表現(paint)するようにゲートされる(geted)8ビットの白黒閾値に変換する。表現された特徴のみを計数し、ソフトウェアによって測定した。得られた画像を図5Bに示す。
【0051】
同じサンプルを、種々の薬物およびビヒクル組み合わせに対して試験した。その結果を図6に示す。
【0052】
個々のゲートされた特徴および同様に総面積(もとは、平方ピクセル単位(in pixels squared))の両方についての客観的な自動化ImageJスコアが示される。上記ゲートされた特徴(推定死滅内皮細胞)の生のスコアを、各領域を2回画像分析する(最初に、目的の特徴(推定死滅内皮細胞)のみをゲートするように設定した検出閾値で、次いで、上記スライド上の全ての特徴を検出するために再度(このことは、細胞抽出物中の総DNAに対して遺伝子コピーを正規化するのに似ている))ことによって一様でない細胞分布について正規化する。上記ImageJソフトウェアをインストールする1ヶ月前に得た主観的(0+〜5+)手動抗血管スコアがさらに示される。上記試験した薬物および溶媒の各々の直接的抗腫瘍細胞効果がさらに示される。
【0053】
示されるように、ビヒクルとしての0.9% NaClは、本質的に抗腫瘍活性も、抗微小血管活性も有さなかった。しかし、DMSO/EtOHは、顕著な抗微小血管活性を有したが、直接的抗腫瘍活性を有さなかった。この特定のサンプルにおいて、ドキソルビシンおよびフルダラビンは、直接的な抗腫瘍効果を有したが、抗微小血管薬剤としては比較的効果がなかった。ベバシズマブは、本質的に、予測されるようには直接的抗腫瘍効果を有さなかった一方で、ソラフェニブ、イマチニブ、およびより低い程度には、エルロチニブは、腫瘍細胞に対して直接的に作用した。それらの抗微小血管効果は、ビヒクル単独のものに匹敵するようである。
【0054】
エタノールおよびDMSOの効果を、同じサンプルを使用して図7に示されるように、さらに確認した。これらの効果は、最終培地の0.125%の比較的低い投与濃度においてすら達成可能であった。
【0055】
(実施例6 血中アルコールの効果の臨床例)
脳に転移した、肺の腺癌に罹患したthe University of Pennsylvaniaの患者を、化学療法および顕著な影響なしの脳の放射線療法で予め多量に処置しておいた。その後、彼を、ブレサライザーを用いて、0.1%を上回る血中アルコールを保持するために、赤ワインを飲みながら4日間、アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ)およびタルセバ(登録商標)(エルロチニブ)で、処置した。彼の脳のその後のMRIは、複数の脳腫瘍の退縮を示した。
【0056】
(実施例7 複数の被験体から得られたリンパ性細胞(lymphatic cell)の存在下での内皮細胞の検出)
5名のリンパ腫患者および2名の正常ボランティアのリンパサンプルを培養し、上記のように染色した。各場合において、培養物を、可視性および検出しやすさに対する内皮細胞死滅の効果を評価するために、ベバシズマブで処理したか、または処理しなかった。結果の定量を、ImageJソフトウェアを使用して実施例4に記載されるとおりであった。その結果を、表2に示す。
【0057】
【表2】

表2が示すように、内皮細胞の可視性は、ベバシズマブの添加によって、上記リンパ腫患者の全てにおいて多いに増強された。正常ボランティア6は、そのサンプルにおいて少数の内皮細胞のみを有した一方で、正常ボランティア7は、高レベルの内皮細胞を有した。このことは、ボランティア6が、脱落した(sloughed)内皮細胞と関連した状態がなく、ボランティア7はそうではないことを示唆する。
【0058】
(実施例8 細胞培養物中の血管内皮増殖因子(VEGF)のレベルに対するEtOH/DMSOの効果)
EtOH/DMSOが微小血管/内皮細胞の死滅をもたらす、観察された能力は、これら溶媒が、細胞培養物中のVEGFのレベルを低下させる能力に起因し得る。腫瘍細胞がVEGFを分泌し、新生脈管構造の増殖にVEGFが必要とされることは、公知である。よって、多くの腫瘍細胞培養物を、これら溶媒で処理した。上記培養物中のVEGFのレベルを、570nmの光学密度を450nmの光学密度から引き算することによって測定した。その結果を、図3に示す。
【0059】
【表3−1】

【0060】
【表3−2】

表3は、0濃度については0.058および1,000 pg/mlについては2.180の読み取りを有する0〜1,000pg/mlのVEGFについての標準曲線を示す。上記表はまた、培地、培地+血清、および0.9% NaClのサンプルは、0のVEGF濃度を示すことを示す。10% DMSO中で保存された腫瘍サンプルについては、ごく低レベルのVEGFのみが、観察された。新鮮な乳房腫瘍細胞については、VEGFのレベルは、スケール外(off-scale)であったが、予測されるように、ベバシズマブを使用して、0にし得た。特に重要なのは、上記表の最後に示される患者6に由来する細胞である。新鮮な乳房腫瘍細胞は、非常に高いVEGFの値を示した。0.5% EtOHおよび0.5% DMSOの組み合わせは、ほぼゼロへとこれらレベルを低下させることができた。
【図4A】

【図4B】

【図5A】

【図5B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物被験体における循環内皮細胞を検出し、必要に応じて定量するための方法であって、該方法は、
(a)試験されるべき被験体から得られた体液と、抗血管新生薬剤とを接触させる工程;
(b)該細胞を、生細胞によって排除されるが、死細胞によって取り込まれる色素で処理する工程;および
(c)生じた細胞を顕微鏡下で観察する工程、ならびに
(d)その培養物中の該内皮細胞を、該内皮細胞の小さなサイズ、しばしば角のある外見、およびしばしば強くかつ屈折性の色によって同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記色素は、ファストグリーンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞は、生細胞を染色する色素でさらに処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生細胞を染色する色素は、ヘマトキシリン/エオシン(H&E)もしくはライト−ギムザである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記内皮細胞を定量する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記体液は、血液もしくは血漿である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
治療剤の有効性を評価するための方法であって、該方法は、前記薬剤で処置した試験被験体における循環内皮細胞のレベルと、以下のいずれか:
(i)該薬剤で処置する前の該被験体における循環内皮細胞のレベル;もしくは
(ii)該薬剤で処置していないコントロール被験体における循環内皮細胞のレベル;
とを比較する工程を包含し、
それによって、節(i)もしくは(ii)の被験体と比較して、該試験被験体における循環内皮細胞の低下したレベルは、該薬剤の有効性を示し、そしてここで該評価は、請求項1に記載の方法によって行われる、
方法。
【請求項8】
組織サンプル中の内皮細胞を検出し、必要に応じて定量するための方法であって、該方法は、
(a)該サンプルを脱凝集して、該サンプル中に含まれる任意の内皮細胞を遊離させる工程、
(b)必要な場合、該遊離させた細胞を、抗血管新生薬剤で処理する工程;
(c)該細胞を、生細胞によって排除されるが、死細胞によって取り込まれる色素で処理する工程;および
(d)得られた細胞を、顕微鏡下で観察する工程、ならびに
(e)その培養物中の該内皮細胞を、該内皮細胞の小さなサイズ、しばしば角のある外見、およびしばしば強くかつ屈折性の色によって同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項9】
前記抗血管新生薬剤は、ベバシズマブである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記色素は、ファストグリーンである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞は、生細胞を染色する色素でさらに処理される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記生細胞を染色する色素は、ヘマトキシリン/エオシン(H&E)もしくはライト−ギムザである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記内皮細胞を定量する工程をさらに包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
微小凝集物中の細胞の生存性に対する処理の効果を決定するための方法であって、該方法は、
(a)少なくとも生きた内皮細胞および本来取り囲んでいる生きた非内皮細胞から構成される組織サンプルと、該処理とを接触させる工程、
(b)必要であれば、いかなるさらなる内皮細胞死ももたらすことなく、該微小凝集物を遊離の任意の内皮細胞へと脱凝集する工程、
(c)該細胞を、生細胞によって排除されるが、死細胞によって取り込まれる色素で処理する工程;
(d)得られた細胞を、顕微鏡下で観察する工程、および
(e)該培養物中の該内皮細胞を、該内皮細胞の小さなサイズ、しばしば角のある外見、およびしばしば強くかつ屈折性の色によって同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項15】
前記色素は、ファストグリーンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞は、生細胞を染色する色素でさらに処理される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記生細胞を染色する色素は、ヘマトキシリン/エオシン(H&E)もしくはライト−ギムザである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
被験体における所望でない新生血管構造によって特徴付けられる状態を処置するための方法であって、該方法は、該処置の必要な被験体に、抗脈管形成剤を、毒性水準未満(sub−toxic)を維持する血中レベルのエタノールおよび/もしくはDMSOと組み合わせて投与する工程を包含する、方法。
【請求項19】
前記抗脈管形成剤は、内皮細胞死をもたらす、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記脈管形成剤は、血管内皮増殖因子(VEGF)のインヒビターである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗脈管形成剤は、ベバシズマブである、請求項20に記載の方法。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−522528(P2011−522528A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510737(P2011−510737)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/045062
【国際公開番号】WO2009/143478
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510309639)
【Fターム(参考)】