説明

動体検知装置及び動体検知方法

【課題】電磁波発信源の変調方式や伝播環境の変化による強度変化にかかわらず、それらの影響を受けない安定した動体検知を可能とする。
【解決手段】電磁波センサ1−1は、アンテナ1−2によって受信した特定の発信源からの電磁波の電界強度を、そのレベルに応じた電気信号に変換する。2つの電磁波センサ1−1からの電気信号は、それぞれ信号線1−3を介して変換回路1−6に接続される。変換回路1−6では、信号の時間波形を周波数領域での信号表現に変え、信号処理回路1−4に入力する。信号処理回路は、周波数毎にそれらの値の比を計算し、結果を判定回路1−5に出力する。判定回路1−5では、このように信号処理回路1−4から送られた周波数領域での信号の変化を常時モニタし、その変動の大きさが一定のしきい値を超えた場合などに、ランプ、ブザーなどの警報を発出したり、その接続するネットワーク上に警報信号を転送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を利用して室内の人や物体の動きを検知する動体検知装置及び動体検知方法に関するものであり、使用する電磁波源の変調方式や伝播環境等による強度変動に左右されない技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅やオフィス等の屋内への侵入犯罪の増加に伴い、宅内への侵入や室内での人の動きを検知する人感センサの需要が高まっている。このような人感センサの従来技術には、赤外線を用いたセンサや、モニタ画像を用いた検知技術、電磁波を用いた検知技術などが存在する。
【0003】
赤外線センサには、赤外線の送受信経路に人や動く物体が入った場合の受信強度の変化を検知するものや、人が発する熱による赤外線を直接感知するものがある。前者の赤外線センサは、送受信機間の限られた範囲しか検知が出来ないため、広範囲の検知を行うためには多数の送受信機を設置する必要がある。また、後者の赤外線センサは、熱による感知であるため、周囲の温度条件により感度が変動し、高温下では誤動作する可能性が高い。
【0004】
モニタ画像による検知技術は、一般にテレビカメラが撮影した画像をもとに、その画面上での動体の検知を行なうものである。例えば、現画像フレームと前画像フレームの差分を解析し、その差分値の変化から、人などの移動物体を検知することができる。画像センサは、テレビカメラ等の機器を用いるため設備コストが高く、また屋内を継続的に撮影するような場合には、プライバシーにかかわる場所での画像撮影に心理的な抵抗感を持たれることが多い。また、赤外線を用いる場合と同じく、死角となる場所では全く動作の検知ができないため、広範囲で死角を無くすためには異なる位置から多数のカメラで監視を行う必要がある。
【0005】
電磁波を利用した検知技術には、電磁波を発生する手段と受信手段とを組み合わせて用いるアクティブ型のセンサ技術と、電磁波源としては既存の電磁波を用いるパッシブ型のセンサ技術がある。アクティブ型のセンサは主にレーダの原理を利用し、送信装置から放射した特定の波長、振幅の電磁波が、周囲の物体で反射されて戻ってくる状態を受信装置でモニタし、その状態の変化により人や動体を検知するものである。アクティブ型センサは、検知感度が高く、ドップラー効果を利用したFM−CWレーザなどでは動体の移動速度を検知することも可能であるが、特別な電磁波の送信装置が必要となり、周囲の電子機器等に妨害を与えないような配慮が必要となる。
【0006】
一方のパッシブ型センサは、テレビ、ラジオなどの放送波や、携帯電話基地局、無線LANのアクセスポイント(親機)の発する電磁波など、環境に存在する既存の電磁波を利用するものである。
【0007】
特定の電磁波源からの信号を室内で受信する場合、その電磁波は複数の経路を通って受信アンテナに到達する。受信時の電界強度は、これらの複数の電磁波が干渉(マルチパス干渉)した結果として定まる値となる。受信機のある室内の物理的な状態が時間的に全く変化していなければ、この受信電界強度は一定である。一方、室内で人などの電磁波を反射、吸収する物体が動いている場合、マルチパス干渉の状態が変化し、受信電界強度が変動して、室内に動体があることが検知される(特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献1)。
【0008】
パッシブ型センサは、既存の電磁波を用いて簡易な装置で人感検知ができ、また電磁波の回折性により見通し外の部分まで検知が可能であるため、赤外線センサ等と比べて広い検知範囲を有する。また、検知感度が環境の温度に依存せず、室温と全く同温の物体の動きも感知が可能である。一方で、既存の電磁波を利用し、その振幅変動により動体の検知を行う仕組みであるため、電磁波信号源としてはFM変調波などの振幅変調成分の無い信号を用いる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−195573号公報
【特許文献2】特開平7−141577号公報
【特許文献3】特開2008−282347号公報
【特許文献4】特開平9−274077号公報
【特許文献5】特開2009−229318号公報
【特許文献6】特開昭59−24396号公報
【特許文献7】特開平5−166074号公報
【特許文献8】特開平7−115384号公報
【特許文献9】特開平9−180070号公報
【特許文献10】特開平11−308162号公報
【特許文献11】特開2005−338967号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】平澤, 鈴木, 馬杉, 秋山, “無線LAN ビーコン信号を用いた侵入者検知方法に関する検討”、信学技報、USN2009−25、Vol. 109、No 131、pp. 153−156、July 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、電磁波を用いたパッシブ型の人感センサは、既存の電磁波を信号源としてその受信強度の変動で動体を検知することを基本としているため、振幅変調成分のある信号をそのまま用いることが出来ないという問題点があった(特許文献1、特許文献3)。
【0012】
一方、無線LANのアクセスポイントなど、あらかじめ通信に使用していたり、無線伝送方式がはっきりしていて、変調方式などが把握できている電磁波送信源については、通信時の符号誤り率の定常時からの変動を利用して侵入者の検知を行う方法(特許文献2)や、スペクトル拡散方式を使用して、あらかじめ分かっている拡散符号との相関ピーク信号の状態変化を利用して侵入者の検知を行う方法(特許文献4)が考案されている。しかしながら、これらはいずれも素性が把握できている既知の信号源を使用する必要があり、適用できる電磁波信号源が限定されるという問題点があった。
【0013】
また、例えば無線LANの制御信号であるビーコン信号など、あらかじめ分かっている特定の時間に同振幅が繰り返される信号を用いて、受信後に信号処理を行うことによって検知する方法(特許文献5)が考案されているが、このような適当な制御信号等が存在しない電磁波信号源もあり、やはり一般的な解決方法にはならないという問題点があった。
【0014】
なお、変調方式などの信号源の素性があらかじめ把握できている場合には、あらかじめ人などの動体が存在しない状態で、電界強度の時間波形やその周波数スペクトル、マルチパスの伝達関数などを観測し、これを基準値として保存した後、これらの観測値がその基準値とある程度異なった場合に、それを人の侵入などとして検知する方法が考案されている(特許文献6〜特許文献10)。
【0015】
またこれとは逆に、人が侵入し動いている時の信号レベルの変動パターンを基準パターンとして記憶しておき、観測された変動パターンがこの基準パターンにある程度一致した時に、人の侵入として検知する方法もある。(特許文献11)
これらのいずれの方法についても、あらかじめ人などの動体が存在しない状態で、電界強度の時間波形やその周波数スペクトル、マルチパスの伝達関数などを記憶、保存する必要がある。その前提として、電磁波信号源が無変調であるか、あるいは変調がかかっている場合でもそれが単調な変調の繰返しなどの場合にのみ適用可能なものであり、AM放送波のように時間的に不規則に変調されている信号や、ランダムに変調された信号には適用できない。
【0016】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、電磁波発信源の変調方式や伝播環境の変化による強度変化にかかわらず、それらの影響を受けない安定した動体検知を可能とする動体検知装置及び動体検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記のような課題を解決するため、本発明の電磁波を用いた動体検知装置では、パッシブ型の電磁波センサを複数個用意し、それぞれのセンサを室内の異なる位置に設置する。
【0018】
センサを2個使用する場合、それぞれのセンサで個別に受信した、特定の電磁波発信源から受信した電磁波の受信信号は、変換回路において一定の時間間隔毎に信号の時間波形が記憶、蓄積され、それらは離散フーリエ変換などを用いて時間領域の信号から周波数領域で表現された信号に変換される。こうして得られた周波数領域の信号は、それぞれ一箇所の信号処理回路に入力される。信号処理回路では、これら2つの周波数領域の信号について周波数毎にその比を計算し、その結果を検出データとして出力する。
【0019】
この検出データは、前記の一定の時間間隔毎に時系列に出力される。これらのデータは、室内に人などの移動動体がない場合には時系列には変動をしないが、移動物体が存在すると、時系列のデータが変動する。その変動が一定のレベルより大きいなど一定の条件を満たした場合に、室内に人などの動体がいると検知、判断する。
【0020】
以下、本発明の動体検知装置の動作原理を説明する。
【0021】
信号源からそれぞれの電磁波センサに到る信号の経路(マルチパス)は2つのセンサで全く異なるため、マルチパス干渉状態はこれら2つのセンサについてそれぞれ異なるものとなる。それぞれのマルチパスの伝達関数は、マルチパス干渉状態が時間的に変化しなければ一定となるが、室内に動く物体などが存在する場合には、マルチパス干渉状態が時間的に変化し、これらの伝達関数は共に時間的に変化する。一般には、これら2つの伝達関数の変化の状態は、それぞれのマルチパスで異なる。そのため、2つの伝達関数の比を計算すると、移動物体が存在しない場合にはその比は一定値となり、移動物体が存在する場合には、その比は移動の様子に合わせて時間的に変化することとなる。
【0022】
なお、一般に伝達関数は、元の電磁波発信源の信号の時間波形もしくはその信号の周波数領域での表現が分かっていれば、受信信号から算出することが可能である。しかし、電磁波発信源の信号が、時間的に不規則に変調された信号やランダムに変調された信号のように、あらかじめ発信源の特性が分からない場合には、伝達関数を求めることが出来ない。
【0023】
しかしながら、前記のように2つの異なるマルチパスの伝達関数の比を取ることによって、元の電磁波発信源の変調の状態にかかわらず、伝達関数の変化を抽出することが出来る。
【0024】
以上のような手段によって、信号源の変調に左右されることなく物体の動きの有無のみが検出できることとなり、電磁波信号源の種別や変調方式に制約を受けることのない動体検知装置が実現される。
【0025】
また、上記の2個のセンサから信号処理回路に送られる信号の伝送遅延時間には多少の違いがある場合があり、信号源が高速に振幅変調されている場合にはこの遅延時間の違いにより、検知感度が低下する可能性がある。そのため、上記の2つのセンサの一方、もしくは両方と、信号処理回路との間に、伝送遅延時間を両者で一致させるための遅延調整回路を挿入することによって、より感度の良い動体検知が可能となる。
【0026】
なお、3個以上の多数のセンサを設置する場合、これら多数のセンサ間の任意の2つのセンサとの間で、上記のような検出データを求め、それら複数の検出データを比較することで、より正確な動体検知が可能である。例えば、ある2つのセンサの組み合わせがたまたま似通ったマルチパス干渉状況である場合、検出感度が通常よりも低下する可能性があるが、この場合でも、マルチパス干渉状況の異なる他のセンサでの検出結果を併せて参照し、総合的に判定を行うことによって、検知の確度を高めることが可能である。
【0027】
上記のように信号処理回路からの周波数領域で表現された出力信号を用いることによって、例えば人や物の移動時に特徴的な周波数範囲がある場合、その周波数範囲に関しては移動による変動が大きいが、別の周波数範囲では変動が少ない、といった場合が存在する。この場合、そのような移動による変動が大きい周波数領域を選択し、その部分だけを動きの有無の検出、判定に用いることで、特定の移動物の動きの特徴に特化した検出を行うことが出来る。このことを利用すると、不要な変動の影響を除去することによる判定精度を向上や、例えば人とペット(動物)など動きの特徴の異なる移動体を区別した選択的な動作検知が可能となる。
【0028】
本発明においては、上記に述べた手段によって、電磁波信号源の種別や変調方式、周波数等にかかわらず、信号源の放射電界強度が時間変動するような場合であっても、安定した確度の高い動体検知が可能となる。また、複数個のセンサからの情報をリアルタイムに比較して検知、判定を行うため、簡単な回路構成で装置を実現でき、設置や移設の際にも特別な初期設定は不要となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電磁波発信源の変調方式や伝播環境の変化による強度変化にかかわらず、それらの影響を受けない安定した動体検知が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施例を説明する図
【図2】本発明の第1の実施例の説明を補足する図
【図3】本発明の第1の実施例の説明を補足する図
【図4】本発明の第1の実施例の説明を補足する図
【図5】本発明の第1の実施例の説明を補足する図
【図6】本発明の第2の実施例を説明する図
【図7】本発明の第3の実施例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0032】
図1に、本発明に係る動体検知装置の第1の実施例の構成を示す。
【0033】
図1に示す2つの電磁波センサ1−1は、電磁波を受信可能なアンテナ1−2を有し、信号線1−3によって変換回路1−6と接続された後、信号処理回路1−4と接続される。信号処理回路1−4の出力は判定回路1−5に接続される。
【0034】
電磁波センサ1−1は、アンテナ1−2によって受信した特定の発信源からの電磁波の電界強度を、そのレベルに応じた電気信号に変換するAM検波・復調機能を有する。電磁波センサには必要に応じて、上記の特定の発信源の電磁波の占める周波数帯域のみを選択する同調回路や、信号レベルが小さい場合に増幅する信号増幅回路、またより選択度の高い受信機能を実現するためにヘテロダイン検波を行うための周波数変換回路や中間周波数フィルタ、中間周波数増幅回路等を組み込んでも良い。
【0035】
2つの電磁波センサ1−1でAM検波・復調された電気信号は、それぞれ信号線1−3を介して変換回路1−6に接続される。変換回路1−6では、電磁波センサ1−1の出力信号を一定時間記憶、蓄積し、その特定時間内の信号の時間波形を周波数領域での信号表現(周波数スペクトルともいう)に変えて出力する機能を有する。このような時間領域/周波数領域変換の計算には、フーリエ変換やラプラス変換、ウェーブレット変換などの変換手段が使用できる。例えば、前述の時間波形をアナログデジタル変換(A/D変換)した特定時間分の波形データに、高速離散フーリエ変換(FFT)を施すことで、周波数領域で記述された信号を得ることが出来る。このようにして得られた周波数領域で表現された信号は信号処理回路1−4に入力される。信号処理回路は、これら2つの電磁波センサ1−1からの信号を受け、周波数毎にそれらの値の比を計算し、結果を判定回路1−5に出力する。
【0036】
前述のA/D変換後の時系列データについて、時間領域/周波数領域変換を行うための特定時間を少しずつ新しいデータの側にずらして行くことによって、周波数領域で表現された入力信号の時間変化を、時間を追って観測することができる。
【0037】
判定回路1−5では、このように信号処理回路1−4から送られた周波数領域での信号の変化を常時モニタし、その変動の大きさが一定のしきい値を超えた場合などに、ランプ、ブザーなどの警報を発出したり、その接続するネットワーク上に警報信号を転送するなど、異常の識別と警報発出を行う機能を有する。
【0038】
次に、本発明に係る動体検知装置の第1の実施例の動作の仕組みを、図1、図2および図3を用いて説明する。図2および図3は、本発明に係る動体検知装置の第1の実施例の動作の仕組みを説明するための図である。
【0039】
図2では、本発明に係る動体検知装置の第1の実施の一例として、電磁波の発信源2−6が、放送波や携帯電話の基地局から発出される電磁波など、対象となる部屋2−9の外部から到来する場合について示している。このとき発信源2−6からの電磁波は、図中2−7に実線で示したような複数の経路(マルチパス)を経て一方の電磁波センサ2−1のアンテナ2−2に到達し、それらが干渉した結果が電磁波センサ2−1で受信、復調される。マルチパスの経路2−7は、電磁波の発信源2−6、アンテナ2−2、および部屋2−9の壁や床、天井、家具などの電磁波反射体の位置関係によって決まるものであり、それらが何も変化しない場合には、マルチパス2−7の経路状態やアンテナ2−2の位置での干渉の状態は変化せずに一定の状態を保つ。従って、図2および図3に示すように、このときの電磁波の発信源2−6の送信出力の周波数領域での表現3−1をF(ω)とし、マルチパスの伝達関数をHa(ω)とすると、電磁波センサ2−1の出力信号の周波数領域での表現3−2はHa(ω)・F(ω)と表すことが出来る。
【0040】
もう一方の電磁波センサ2−1については、発信源2−6からの電磁波は図2に点線で示したような別のマルチパス経路2−8を経て電磁波センサ2−1で受信されるが、発信源2−6、アンテナ2−2、および部屋2−9の構成物などの位置関係が変わらなければ、マルチパス干渉状態は同様に変化せず、電磁波センサ2−1の出力信号の周波数領域での表現3−3はHb(ω)・F(ω)と表すことが出来る。
【0041】
これら2つの電磁波センサ2−1からの出力信号は、変換回路2−9で周波数領域の表現に変換され、信号処理回路2−4でその比3−4が計算されて出力されることとなる。前述の例のように、それぞれの出力信号の周波数領域での表現3−2および3−3がそれぞれHa(ω)・F(ω)およびHb(ω)・F(ω)であれば、これらの比である信号処理回路2−4の出力3−4をK(ω)とすると、K(ω)=Ha(ω)/Hb(ω)、となり、これは信号発信源2−6の送信出力F(ω)に依存しない値となる。
【0042】
もし、発信源2−6、アンテナ2−2の位置や部屋2−9の壁、床、天井、構成物などの位置関係が変わらず、部屋2−9の中に人などの電磁波の状態を乱す移動物体がなければ、信号処理回路2−4の出力3−4(K(ω))は常に変化せず、時間によらない一定の値を保つ。
【0043】
これに対して、本発明に係る動体検知装置の第1の実施例で、部屋の中に人など電磁波の状態を乱す移動物体が動いている場合について、その動作の仕組みを図4および図5を用いて説明する。
【0044】
図4は、本発明に係る動体検知装置の第1の実施の一例において、人など電磁波の状態を乱す移動物体4−10が存在する場合の動作を示している。図中の2つの電磁波センサ4−2では、それぞれ別のマルチパス4−7、4−8を経由した電磁波が受信される。このとき、移動物体4−10が部屋4−9の中で移動し、これらのマルチパス4−7、4−8の中の経路を移動物体4−10が遮る場合が生じると、そのパスは遮断、吸収されたり、または反射や散乱により新たなマルチパスが作り出されることとなり、結果としてマルチパス4−7、4−8の状態は変化することとなる。
【0045】
このとき、2つの電磁波センサ4−1が別の位置に設置されていると、それぞれのマルチパス4−7と4−8は異なる経路であるため、移動物体4−10によるマルチパス状態の乱れ方も、一般にはマルチパス4−7とマルチパス4−8とで異なることとなる。従って、一方の電磁波センサ4−2の出力の周波数領域での表現5−2をFa’(ω)=Ha’(ω)・F(ω)、とし、同様にもう一方の電磁波センサ4−2の出力の周波数領域での表現5−3をFb’(ω)=Hb’(ω)・F(ω)、とあらわすことが出来る。
【0046】
従って、これらの比を取った信号処理回路4−4の出力5−4(K’(ω))は、K’(ω)=Ha’(ω)/Hb’(ω)、となる。2つのマルチパス4−7と4−8に対する移動物体4−10の影響は一般に異なるため、K’(ω)はこれらの差異を反映して時間的な変動を示すこととなる。
【0047】
以上のことから、部屋2−9の中に人などの電磁波の状態を乱す移動物体がなければ、信号処理回路2−4の出力3−4は時間的に一定の値(K(ω)=Ha(ω)/Hb(ω))を保ち、変動しない。一方で、移動物体4−10が電磁波状態を乱すと、信号処理回路4−4の出力5−4は、その動きが2つのマルチパスに与える影響の差に基づく変動(K’(ω)=Ha’(ω)/Hb’(ω))を受けることとなる。
【0048】
信号処理回路2−4、4−4の出力は、判定回路2−5、4−5によってモニタされ、このデータが時間によらず一定であれば部屋の中の状態に変化は無く、このデータが時間と共に変動した場合には、人などの物体が部屋の中で動いていると判断できる。
【0049】
このようにして、本発明の動体検知装置によって、ある部屋の中に人や物体が侵入したり、中で動いている状態を、簡易な装置で、電磁波の送信源の変調方式や時間変動に左右されずに、検知し警報発出することが可能となる。
【0050】
なお、前述の実施例において、アンテナ1−2、2−2、4−2については、無指向性アンテナも指向性のあるアンテナも使用することが可能である。ただし、特定の部屋の中での不感地帯をなるべく減らすためには、なるべく指向性の無いアンテナを用いることが望ましい。
【0051】
信号線1−3、2−3、4−3については、導電性の電線、ケーブルや光ケーブルなどの有線伝送方式を利用することができるが、同様の機能を赤外線通信インタフェースや、無線LANやBluetoothなどの無線通信インタフェースなどの、無線伝送方式を用いて実現することも可能である。但し、無線伝送方式を用いる場合には、動体検知装置で検知に使用する送信源の周波数と異なる周波数の無線信号を用いるなどして、動体検知機能に悪影響を与えないように配慮することが必要である。
【0052】
また、信号処理回路においては、電磁波センサからの2つの入力信号の周波数領域での表現の比を、周波数毎に計算するにあたって、分母となる信号がある時点では0となる場合も想定され、その場合計算が不能となる。このような不具合を避けるため、例えば分母となる信号の瞬時値が0の場合、その計算は回避して、その1つ前の計算結果を再び出力するなどの工夫をすることで、常に安定した信号処理を継続することが出来る。
【0053】
判定回路において信号処理回路の出力の変動をもとに人や物の侵入、動作を判定する方法としては、例えば変動の大きさが一定のしきい値を超えるかどうかで判定を行う方法や、一定期間変動をモニタし、その期間での変動の統計的な値、例えば平均値に対する分散値などを算出して、それが一定のしきい値を超えるかどうかで判定を行う方法など、適用する部屋の環境や、検知する対象となる人、物などに応じて、様々な判定方法の中から適切な方法を採用することができる。
【0054】
本発明の動体検知装置が使用する電磁波の送信源に関しては、単一の継続した電磁波発信源であれば、その変調方式や電波伝搬条件の変化による強度変動など左右されずに動作するため、様々な種類の送信源が適用可能である。例えば、TVやラジオなどの放送波や、携帯電話、PHS等の基地局からの無線信号、無線LANやBluetooth、UWB等のアクセスポイントからの無線信号、地下や不感地域などで各種無線・放送信号を再送信した信号、等が広く使用可能である。そのため、通常は特定の条件を備えた無線送信源を新たに導入する必要性は無いが、上記のような既存の電磁波発信源がないような特別な状況や、特に信頼性の高い動体検知を行いたい場合などについては、新たに必要な仕様の無線送信源を用意し、導入しても良い。
【0055】
図6に、本発明に係る動体検知装置の第2の実施例の構成を示す。図6の動体検知装置は、電磁波センサ6−1と変換回路6−7との間に、遅延調整回路6−6を設けたことを特徴としている。
【0056】
通常、本発明の動体検知装置において、前述の電磁波発信源から発出された電磁波が受信され、信号処理回路に到達するまでに要する伝送時間は、一方の電磁波センサを介する場合ともう一方の電磁波センサを介する場合でほぼ等しく、その差は前記の電磁波の周期に比べて無視できる場合が多い。ところが、電磁波の周波数が高い場合や、2つの電磁波センサに接続された信号線での伝送時間の差が大きい場合には、その電磁波の周期に比べて前記の伝送時間差が無視できない場合が生じる。この場合、この伝送時間差によって、信号を時間領域/周波数領域変換するタイミングに誤差が生じ、その誤差がK(ω)、K’(ω)に影響することによって、誤検知の原因となる可能性がある。
【0057】
このような不具合を防ぐため、図6に示したように、電磁波センサ6−1と変換回路6−7との間に、信号の伝送遅延量を調整する機能を持った遅延調整回路6−6を設け、遅延量を適切に調整することによって、前記の到達時間差を無視できる程度に小さくすることができる。遅延調整回路6−6は全ての電磁波センサ6−1と変換回路6−7との間に入れても良いが、より遅延量の小さい側の電磁波センサ6−1の後段にのみ設置しても良い。
【0058】
遅延調整回路6−6での遅延量の調整は、装置設置の際に手作業で調整しても良いし、例えば異動物体がない状態で前述の信号処理回路の出力6−4の出力が一定となるように、自動調整する機能を設けることもできる。これには例えば、遅延量を少しづつ増やしながら信号処理回路の出力6−4の時間変動量を一定期間モニタしておき、その結果を元に変動量が最も小さくなった場合の遅延量に最終的に調整するなどの方法が可能である。
【0059】
以上のように、本発明の動体検知装置の第2の実施例においては、遅延調整回路を設けることにより、周波数が高い電磁波を用いた場合などでも前述の伝送時間差を生じず、信号発信源の送信出力に依存しない安定した検知が可能となる。
【0060】
図7に、本発明に係る動体検知装置の第3の実施例の構成を示す。図7の動体検知装置は、3つ以上の複数の電磁波センサ7−1と、それに必要に応じて接続される遅延調整回路7−6を設け、それらのうちの特定の2つからの信号を受け取り、これらの信号レベルの比を計算する1つ以上の信号処理回路7−4と、これら信号処理回路7−4からの出力を全て受け取り、移動物体の有無の判定や警報発出を行う判定回路7−5とを設けることを特徴としている。
【0061】
信号処理回路7−4では、2つの変換回路7−7からの周波数領域で表現された信号を受け取り比を取ることで、前述の動体検知装置の第1の実施例、第2の実施例で説明したのと同様の原理で、これら2つの電磁波センサ7−1のマルチパスに対する移動物体の影響の差異をもとに、移動物体の有無を検知する。第3の実施例においては、3つ以上の電磁波センサ7−1のうち、特定の2つの電磁波センサ7−1の組み合わせで移動検知を行うことが出来るが、3つ以上の電磁波センサ7−1から2つを選ぶ組み合わせが異なる場合、一般に信号処理回路7−4の出力の変動の様子は異なるものとなる。
【0062】
前述の第1および第2の実施例で示したように、2つの電磁波センサを用いる場合には、2つのマルチパスの経路や、これらの経路に対する移動物体の影響がほぼ同じになる場合も、まれにではあるが考えられ、このときには移動物体の検知感度は低下する。しかしながら、この第3の実施例のように、3つ以上の電磁波センサ7−1を用いて、その中の2つによる検知を、異なる電磁波センサの組み合わせで2回以上同時に行うことによって、マルチパスの経路や状況のばらつきが大きくなり、前述のような理由で検知感度が低下する確率を非常に低くすることが出来る。
【0063】
これに加えて、得られた複数の検知結果を、全て判定回路に入力して、総合的に判定を行うことで、より感度良く信頼性の高い移動体検知が可能となる。例えば、これらの入力変動を平均化することで、マルチパス条件による感度のばらつきを回避したり、最も大きな変動を記録した入力信号を採用することで検知感度を向上させたり、全ての入力信号のうちのいくつかの信号の変動がしきい値を超えたときにのみ、移動体を検知したと判定することによって検知の信頼性を上げ、誤検知を減らすなど、移動体検知の様々な性能を向上させることが出来る。
【0064】
また、アンテナ7−2に強い指向性を持ったアンテナを用いて、あらかじめマルチパスの方向や部屋内での位置を限定させて置くことなどにより、移動体の存在する位置を大まかに推定することも可能となる。
【0065】
次に、本発明に係る動体検知装置の第4の実施例について説明する。上記の本発明の動体検知装置の第1、第2、第3のいずれの実施例においても、判定回路において信号処理回路から出力された、周波数領域で表現された出力信号のうち、特定の周波数範囲のみを選択的に抽出し、その信号の変動をもとに動きを判定することが可能である。特定の周波数範囲のみを抽出する具体的な方法としては、例えば出力信号がFFTを用いて変換されたものであれば、その特定の周波数範囲のフーリエ変換値のみを選択するだけで良い。このような選択操作を行うことにより、人や物の移動に特徴的な周波数範囲がある場合、移動による変動が大きい周波数領域だけを動きの検出、判定に用いることで、例えば人とペット(動物)など動きの特徴の異なる移動体を区別することが可能となる。また、対象とする移動体でない別の移動体など、不要な変動の影響を除去することによってノイズを低減し、特定の動体の判定精度を向上させることが出来る。
【0066】
以上の全ての実施例においては、複数の変換回路や遅延調整回路、信号処理回路、判定回路を同一の筐体に実装しても良いし、別筐体とすることも可能である。また、アンテナは電磁波センサに付随させても良いが、電磁波センサは前述の信号処理回路や判定回路と同一筐体に収納し、これから同軸ケーブルや平衡ケーブルなどを介してアンテナを設置することも可能である。
【0067】
複数のアンテナはそれぞれできるだけ異なる位置に設置するほうが望ましいが、アンテナの位置を少しずらすだけでマルチパス状態が変化するような場合には、アンテナ、電磁波センサを含めて前述の信号処理回路や判定回路と同一の筐体に収納し、全体を1つの装置にすることもできる。
【0068】
以上述べたように、本発明の動体検知装置及び動体検知方法により、特定の電磁波発信源からの電磁波をモニタしそのマルチパス状態の変動を利用して移動物体の検知を行う際、電磁波発信源の変調方式や伝播環境の変化による強度変化にかかわらず、それらの影響を受けない安定した動体検知を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1−1、2−1、4−1、6−1、7−1: 電磁波センサ
1−2、2−2、4−2、6−2、7−2: アンテナ
1−3、2−3、4−3、6−3、7−3: 信号線
1−4、2−4、4−4、6−4、7−4: 信号処理回路
1−5、2−5、4−5、6−5、7−5: 判定回路
1−6、2−9、4−10、6−7、7−7: 変換回路
2−6、4−6: 電磁波の発信源
2−7、4−7: マルチパス経路の一例
2−8、4−8: マルチパス経路の別の一例
2−9、4−9: 部屋
3−1、5−1: 発信源の送信出力の時間変化
3−2、5−2: 一方の電磁波センサの出力信号レベル
3−3、5−3: 別の一方の電磁波センサの出力信号レベル
3−4、5−4: 信号処理回路の出力
4−10: 移動物体
6−6、7−6: 遅延調整回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号をアンテナで受信し、当該無線信号の振幅成分に応じた出力信号を出力する、異なる位置に配置された2つの電磁波センサと、
上記電磁波センサの1つから出力信号を受け取り、当該出力信号を予め設定した周波数領域での表現に変換して出力することを、一方の電磁波センサと他方の電磁波センサについて行う2つの変換回路と、
上記2つの変換回路から出力信号を受け取り、当該出力信号の比を算出して出力する信号処理回路と、
上記信号処理回路から出力信号を受け取り、当該出力信号の変動が予め設定した判定条件を満たしたなら警報を発出する判定回路と
を備えることを特徴とする動体検知装置。
【請求項2】
無線信号をアンテナで受信し、当該無線信号の振幅成分に応じた出力信号を出力する、異なる位置に配置された3つ以上の電磁波センサと、
上記電磁波センサの1つから出力信号を受け取り、当該出力信号を周波数領域での表現に変換して出力することを、異なる電磁波センサについて行う3つ以上の変換回路と、
上記3つ以上の変換回路のうちの2つからの出力信号を受け取り、当該出力信号の比を算出して出力することを、異なる変換回路の組み合わせで行う2つ以上の信号処理回路と、
上記2つ以上の信号処理回路から出力信号を受け取り、当該出力信号の変動が予め設定した判定条件を満たしたなら警報を発出する判定回路と
を備えることを特徴とする動体検知装置。
【請求項3】
少なくとも1つの上記電磁波センサからの出力信号の信号路に、伝送遅延時間を調節可能な遅延調整回路を備えることを特徴とする請求項1または2記載の動体検知装置。
【請求項4】
上記判定回路は、上記信号処理回路からの出力信号における予め設定した周波数範囲を抽出し、当該周波数範囲における変動が予め設定した判定条件を満たしたなら警報を発出する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の動体検知装置。
【請求項5】
異なる位置に配置された2つの電磁波センサが、無線信号をアンテナで受信し、当該無線信号の振幅成分に応じた出力信号を出力し、
上記一方の電磁波センサから出力信号を受け取り、当該出力信号を予め設定した周波数領域での表現に変換し、上記他方の電磁波センサから出力信号を受け取り、当該出力信号を当該周波数領域での表現に変換し
上記周波数領域において上記2回の変換結果の比を算出し、
上記周波数領域において算出された比の変動が予め設定した判定条件を満たしたなら警報を発出する
ことを特徴とする動体検知方法。
【請求項6】
異なる位置に配置された3つ以上の電磁波センサが、無線信号をアンテナで受信し、当該無線信号の振幅成分に応じた出力信号を出力し、
上記電磁波センサの1つから出力信号を受け取り、当該出力信号を予め設定した周波数領域での表現に変換することを、異なる電磁波センサについて3回以上行い、
上記3回以上の変換結果のうちの2つの上記周波数領域における比を算出することを、異なる変換結果の組み合わせで2回以上行い、
上記周波数領域において上記2回以上算出された比の変動が予め設定した判定条件を満たしたなら警報を発出する
ことを特徴とする動体検知方法。
【請求項7】
少なくとも1つの上記電磁波センサからの出力信号の伝送遅延時間を調節することを特徴とする請求項5または6記載の動体検知方法。
【請求項8】
上記周波数領域において算出された比から予め設定した周波数範囲を抽出し、当該周波数範囲における変動が予め設定した判定条件を満たしたなら警報を発出する
ことを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の動体検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−247633(P2011−247633A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118357(P2010−118357)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】