動力伝達装置の潤滑装置
【課題】EV走行時に動力伝達装置に潤滑油を供給することができる動力伝達装置の潤滑装置を提供すること。
【解決手段】遊星歯車機構10と、回転駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプ3と、ワンウェイクラッチ4とを備え、遊星歯車機構のサンギア11は第一回転電機MG1に、キャリア14はエンジン1に、リングギア13は駆動輪29および第二回転電機MG2にそれぞれ接続され、オイルポンプは、ワンウェイクラッチを介して第一回転電機と接続されており、ワンウェイクラッチは、ハイブリッド車両100の前進走行時のリングギアの回転方向を正方向として、第一回転電機が負方向に回転する場合の第一回転電機の回転を伝達してオイルポンプを回転駆動する。
【解決手段】遊星歯車機構10と、回転駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプ3と、ワンウェイクラッチ4とを備え、遊星歯車機構のサンギア11は第一回転電機MG1に、キャリア14はエンジン1に、リングギア13は駆動輪29および第二回転電機MG2にそれぞれ接続され、オイルポンプは、ワンウェイクラッチを介して第一回転電機と接続されており、ワンウェイクラッチは、ハイブリッド車両100の前進走行時のリングギアの回転方向を正方向として、第一回転電機が負方向に回転する場合の第一回転電機の回転を伝達してオイルポンプを回転駆動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの回転によって駆動されるオイルポンプによってハイブリッド車両の動力伝達装置に潤滑油を供給する技術が知られている。例えば、特許文献1には、エンジンの出力軸がワンウェイクラッチを介してオイルポンプの駆動軸と連結されたハイブリッド型車両の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−324262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EV走行時には、エンジンが停止されるため、オイルポンプが停止することとなる。これにより、被潤滑部の潤滑不足や冷却不足が生じる虞がある。EV走行時に潤滑油を供給できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、EV走行時に動力伝達装置に潤滑油を供給することができる動力伝達装置の潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置の潤滑装置は、遊星歯車機構と、回転駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプと、ワンウェイクラッチとを備え、前記遊星歯車機構のサンギアは第一回転電機に、キャリアはエンジンに、リングギアは駆動輪および第二回転電機にそれぞれ接続され、前記オイルポンプは、前記ワンウェイクラッチを介して前記第一回転電機と接続されており、前記ワンウェイクラッチは、ハイブリッド車両の前進走行時の前記リングギアの回転方向を正方向として、前記第一回転電機が負方向に回転する場合の前記第一回転電機の回転を伝達して前記オイルポンプを回転駆動することを特徴とする。
【0007】
上記動力伝達装置の潤滑装置において、更に、前記エンジンと前記オイルポンプとを接続する第二ワンウェイクラッチを備え、前記第二ワンウェイクラッチは、前記エンジンが正方向に回転する場合の前記エンジンの回転を前記オイルポンプに伝達し、前記第一回転電機の負方向の回転速度が前記エンジンの正方向の回転速度よりも高速である場合、前記ワンウェイクラッチを介して伝達される前記第一回転電機の回転が前記オイルポンプを回転駆動し、前記エンジンの正方向の回転速度が前記第一回転電機の負方向の回転速度よりも高速である場合、前記第二ワンウェイクラッチを介して伝達される前記エンジンの回転が前記オイルポンプを回転駆動することが好ましい。
【0008】
上記動力伝達装置の潤滑装置において、更に、前記エンジンと接続され、前記エンジンの回転によって回転駆動されて潤滑油を吐出する第二オイルポンプを備えることが好ましい。
【0009】
上記動力伝達装置の潤滑装置において、前記オイルポンプと前記第二オイルポンプとは同軸上に隣接して配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る動力伝達装置の潤滑装置は、遊星歯車機構と、回転駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプと、ワンウェイクラッチとを備える。遊星歯車機構のサンギアは第一回転電機に、キャリアはエンジンに、リングギアは駆動輪および第二回転電機にそれぞれ接続される。オイルポンプは、ワンウェイクラッチを介して第一回転電機と接続されている。ワンウェイクラッチは、ハイブリッド車両の前進走行時のリングギアの回転方向を正方向として、第一回転電機が負方向に回転する場合の第一回転電機の回転を伝達してオイルポンプを回転駆動する。よって、本発明に係る動力伝達装置の潤滑装置によれば、EV走行時にオイルポンプによって動力伝達装置に潤滑油を供給することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態のハイブリッド車両の要部を示すスケルトン図である。
【図2】図2は、EV走行時の遊星歯車機構の共線図である。
【図3】図3は、HV走行による動力分流時の共線図である。
【図4】図4は、HV走行による動力循環時の共線図である。
【図5】図5は、停車発電時の共線図である。
【図6】図6は、第2実施形態のハイブリッド車両の要部を示すスケルトン図である。
【図7】図7は、オイルポンプの近傍の断面図である。
【図8】図8は、第2実施形態の動力伝達装置の潤滑装置における潤滑油供給経路の概念図である。
【図9】図9は、リングギアの径方向内方に配置されたオイルポンプを有する動力伝達装置の潤滑装置を示す図である。
【図10】図10は、動力伝達装置の潤滑装置の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態に係る動力伝達装置の潤滑装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[第1実施形態]
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、動力伝達装置の潤滑装置に関する。図1は、第1実施形態に係るハイブリッド車両の要部を示すスケルトン図である。
【0014】
図1に示す本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1は、遊星歯車機構10、オイルポンプ3、第一ワンウェイクラッチ4および第二ワンウェイクラッチ5を備える。また、ハイブリッド車両100の動力伝達装置は、遊星歯車機構10、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、カウンタドライブギア15、カウンタドリブンギア23、ドライブピニオンギア24、リダクションギア25、デフリングギア26および差動機構27を含む。
【0015】
エンジン1の回転軸2は、エンジン1から軸方向の一方に向けて延在している。回転軸2は、例えば、ハイブリッド車両100の車幅方向に延在している。エンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを回転運動に変換して回転軸2に出力する。
【0016】
遊星歯車機構10は、エンジン1のトルクを駆動輪29と第一回転電機MG1とに分割する動力分割プラネタリギアである。遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、サンギア11、ピニオンギア12、リングギア13およびキャリア14を有する。サンギア11は、回転軸2と同軸上に配置されている。リングギア13は、サンギア11と同軸上であってかつサンギア11の径方向外側に配置されている。ピニオンギア12は、サンギア11とリングギア13との間に配置されており、サンギア11およびリングギア13とそれぞれ噛み合っている。ピニオンギア12は、キャリア14によって回転自在に支持されている。キャリア14は、回転軸2と接続されており、回転軸2と一体回転する。従って、ピニオンギア12は、キャリア14と共に回転軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつキャリア14によって支持されてピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
【0017】
サンギア11は、第一回転電機MG1のロータシャフト6と接続されている。第一回転電機MG1は、回転軸2と同軸上であって、かつ遊星歯車機構10を挟んでエンジン1側と反対側に配置されている。ロータシャフト6は、第一回転電機MG1のロータの回転軸であり、エンジン1の軸方向に延在している。ロータシャフト6は中空の円筒形状であり、ロータシャフト6の内部をエンジン1の回転軸2が軸方向に貫通している。
【0018】
リングギア13は、内歯歯車であり、リングギア13の外周面には、カウンタドライブギア15が配置されている。リングギア13とカウンタドライブギア15とは一体回転する複合ギアを構成している。
【0019】
カウンタドライブギア15は、カウンタドリブンギア23と噛み合っている。また、カウンタドリブンギア23は、リダクションギア25と噛み合っている。リダクションギア25は、第二回転電機MG2のロータシャフト30に連結されたギアである。リダクションギア25は、カウンタドリブンギア23よりも小径であり、第二回転電機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア23に伝達する。リングギア13は、カウンタドライブギア15、カウンタドリブンギア23およびリダクションギア25を介して第二回転電機MG2と接続されている。
【0020】
ドライブピニオンギア24は、カウンタドリブンギア23と同軸上に配置されており、カウンタドリブンギア23と一体回転する。カウンタドライブギア15からカウンタドリブンギア23に伝達されるエンジン1および第一回転電機MG1のトルクと、リダクションギア25からカウンタドリブンギア23に伝達される第二回転電機MG2のトルクとは、合成されてドライブピニオンギア24に伝達される。
【0021】
ドライブピニオンギア24は、デフリングギア26と噛み合っている。デフリングギア26は差動機構27を介して出力軸28と接続されている。出力軸28は、ハイブリッド車両100の駆動輪29と接続されている。つまり、リングギア13は、カウンタドライブギア15、カウンタドリブンギア23、ドライブピニオンギア24、デフリングギア26、差動機構27および出力軸28を介して駆動輪29に接続されている。
【0022】
第一回転電機MG1および第二回転電機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転電機MG1および第二回転電機MG2は、インバータを介してバッテリと接続されている。第一回転電機MG1および第二回転電機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転電機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第一回転電機MG1および第二回転電機MG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
【0023】
オイルポンプ3は、ポンプシャフト9が回転駆動されることにより潤滑油を吐出するものである。オイルポンプ3が吐出する潤滑油は、遊星歯車機構10、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2等の動力伝達装置の被潤滑部に供給される。オイルポンプ3としては、例えば、トロコイド式のオイルポンプを用いることができる。オイルポンプ3は、回転軸2における軸方向のエンジン1側と反対側の端部に配置されている。オイルポンプ3は、第一回転電機MG1よりも軸方向のエンジン1側と反対側に配置されており、かつ軸方向において第一回転電機MG1と互いに対向している。
【0024】
ポンプシャフト9は、オイルポンプ3の本体からエンジン1側に向けて軸方向に延在している。ポンプシャフト9には、第一ワンウェイクラッチ4および第二ワンウェイクラッチ5が配置されている。第一ワンウェイクラッチ4は、第二ワンウェイクラッチ5よりもエンジン1側に配置されている。
【0025】
第一ワンウェイクラッチ4は、ロータシャフト6とポンプシャフト9との間に介在している。より詳しくは、オイルポンプ3のポンプシャフト9は、第一ワンウェイクラッチ4、ポンプドリブンギア8およびポンプドライブギア7を介して第一回転電機MG1のロータシャフト6と接続されている。第一ワンウェイクラッチ4の内輪はポンプシャフト9と連結されており、外輪はポンプドリブンギア8と連結されている。ポンプドリブンギア8は、ポンプシャフト9と同軸上に配置されており、ポンプドライブギア7と噛み合っている。ポンプドライブギア7は、第一回転電機MG1のロータシャフト6と連結されたギアである。ポンプドライブギア7は、ロータシャフト6における軸方向のエンジン1側と反対側の端部に配置されている。ポンプドライブギア7とポンプドリブンギア8とのギア比は、例えば、1とすることができる。
【0026】
第一ワンウェイクラッチ4は、ロータシャフト6が負方向に回転する場合のロータシャフト6の回転をポンプシャフト9に伝達し、ロータシャフト6が正方向に回転する場合のロータシャフト6の回転がポンプシャフト9に伝達されることを規制する。ここで、正の回転方向とは、ハイブリッド車両100の前進走行時のリングギア13の回転方向であり、負の回転方向とは、正の回転方向と反対の回転方向である。オイルポンプ3は、ポンプシャフト9が正方向に回転駆動されることで潤滑油を吐出する。つまり、「オイルポンプ3を回転駆動する」とは、ポンプシャフト9を正方向に回転駆動することを示す。
【0027】
ロータシャフト6が負方向に回転すると、ポンプドライブギア7はロータシャフト6と共に負方向に回転し、これと噛み合うポンプドリブンギア8は正方向に回転する。第一ワンウェイクラッチ4は、ポンプドリブンギア8がポンプシャフト9に対して正方向に相対回転する場合に係合してポンプドリブンギア8の正方向の回転をポンプシャフト9に伝達する。一方、ロータシャフト6が正方向に回転すると、ポンプドライブギア7は正方向に回転し、ポンプドリブンギア8は負方向に回転する。第一ワンウェイクラッチ4は、ポンプドリブンギア8がポンプシャフト9に対して負方向に相対回転する場合に開放してポンプドリブンギア8とポンプシャフト9とを切り離す。これにより、ポンプドリブンギア8とポンプシャフト9との動力の伝達が遮断され、ポンプドリブンギア8は空転する。このように、第一ワンウェイクラッチ4は、第一回転電機MG1が負方向に回転する場合の第一回転電機MG1の回転を伝達してオイルポンプ3を回転駆動するものであり、言い換えるならば、第一回転電機MG1がオイルポンプ3に対して駆動側となってオイルポンプ3を回転駆動できるときの第一回転電機MG1の回転を伝達する。
【0028】
第二ワンウェイクラッチ5は、エンジン1の回転軸2とポンプシャフト9との間に介在している。より詳しくは、オイルポンプ3のポンプシャフト9は、第二ワンウェイクラッチ5、ドリブンスプロケット21、チェーン22およびドライブスプロケット20を介してエンジン1の回転軸2と接続されている。
【0029】
第二ワンウェイクラッチ5の内輪はポンプシャフト9と連結されており、外輪はドリブンスプロケット21と連結されている。ドリブンスプロケット21は、ポンプシャフト9と同軸上に配置されている。回転軸2におけるエンジン1側と反対側の端部には、ドライブスプロケット20が連結されている。ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21とには、無端のチェーン22が掛け渡されている。チェーン22を介してドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21との動力の伝達がなされる。ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21とのギア比は、例えば、1とすることができる。なお、ポンプドライブギア7とポンプドリブンギア8とのギア比γ1と、ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21とのギア比γ2とを一致させて、ギア比γ1およびγ2を1とは異なるギア比としてもよい。例えば、オイルポンプ3における損失を低減できるようにギア比γ1およびγ2が定められてもよい。
【0030】
第二ワンウェイクラッチ5は、回転軸2が正方向に回転する場合の回転軸2の回転をポンプシャフト9に伝達し、回転軸2が負方向に回転する場合の回転軸2の回転がポンプシャフト9に伝達されることを規制する。回転軸2が正方向に回転すると、ドライブスプロケット20は正方向に回転し、これと連動してドリブンスプロケット21が正方向に回転する。第二ワンウェイクラッチ5は、ドリブンスプロケット21がポンプシャフト9に対して正方向に相対回転する場合に係合してドリブンスプロケット21の正方向の回転をポンプシャフト9に伝達する。一方、第二ワンウェイクラッチ5は、ドリブンスプロケット21がポンプシャフト9に対して負方向に相対回転する場合に開放してドリブンスプロケット21とポンプシャフト9とを切り離す。これにより、ドリブンスプロケット21とポンプシャフト9との動力の伝達が遮断され、ドリブンスプロケット21は空転する。つまり、第二ワンウェイクラッチ5は、エンジン1が正方向に回転する場合のエンジン1の回転をオイルポンプ3に伝達するものであり、言い換えるならば、エンジン1がオイルポンプ3に対して駆動側となってオイルポンプ3を回転駆動できるときのエンジン1の回転を伝達する。
【0031】
従って、第一回転電機MG1の負方向の回転速度がエンジン1の正方向の回転速度よりも高速である場合、第一ワンウェイクラッチ4を介して伝達される第一回転電機MG1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。第一回転電機MG1の負方向の回転速度がエンジン1の正方向の回転速度よりも高速であると、ポンプドリブンギア8の回転数がドリブンスプロケット21の回転数よりも高回転となる。これにより、第一ワンウェイクラッチ4は係合し、第二ワンウェイクラッチ5は空転する。つまり、第一ワンウェイクラッチ4を介して伝達される第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。
【0032】
また、エンジン1の正方向の回転速度が第一回転電機MG1の負方向の回転速度よりも高速である場合、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。エンジン1の正方向の回転速度が第一回転電機MG1の負方向の回転速度よりも高速であると、ドリブンスプロケット21の回転数がポンプドリブンギア8の回転数よりも高回転となる。これにより、第一ワンウェイクラッチ4は空転し、第二ワンウェイクラッチ5は係合する。つまり、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。
【0033】
ハイブリッド車両100では、ハイブリッド走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。ハイブリッド走行とは、エンジン1、第一回転電機MG1あるいは第二回転電機MG2のうち少なくともエンジン1を動力源としてハイブリッド車両100を走行させる走行モードである。第一回転電機MG1は、エンジン1の反力受けとして機能し、エンジン1のトルクをキャリア14からリングギア13に伝達させる。ハイブリッド走行では、エンジン1に加えて、第二回転電機MG2を動力源としてもよい。なお、ハイブリッド走行において、第二回転電機MG2を発電機として機能させてもよく、無負荷の状態で空転させることもできる。
【0034】
EV走行は、エンジン1を停止し、第一回転電機MG1あるいは第二回転電機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する走行モードである。なお、EV走行において、走行状況やバッテリの充電状態等に応じて第一回転電機MG1あるいは第二回転電機MG2の少なくともいずれか一方に発電を行わせるようにしてもよく、第一回転電機MG1あるいは第二回転電機MG2の少なくともいずれか一方を空転させるようにしてもよい。
【0035】
本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1は、第一回転電機MG1が負方向に回転する場合の第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3を回転駆動して潤滑油を供給することができる。従来、ハイブリッド車両において、エンジンの回転によって駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプ(以下、「エンジンオイルポンプ」と称する。)を備えたものが知られている。こうしたハイブリッド車両において、EV走行時にはエンジンの停止に伴いエンジンオイルポンプも停止するため、潤滑油の供給が不足する場合があった。
【0036】
例えば、第二回転電機MG2が動力伝達装置の上部に配置されている場合、EV走行時に第二回転電機MG2に対する潤滑油の供給が不足する虞がある。第一回転電機MG1と第二回転電機MG2とが別軸上に配置される複軸式の動力伝達装置において、第二回転電機MG2が上部に配置される場合、第二回転電機MG2に対する潤滑油の供給を確保できることが望まれる。また、プラグインハイブリッド車両では、EV走行領域が広いため、第二回転電機MG2に対する潤滑油の供給不足が生じやすいという問題がある。
【0037】
これに対して、電動式のオイルポンプを追加することでEV走行時の潤滑油供給量を確保することが考えられる。しかしながら、電動オイルポンプを追加すると、コストアップにつながるという問題がある。
【0038】
(EV走行時の潤滑油供給)
本実施形態の動力伝達装置の潤滑油供給装置1−1によれば、EV走行時に第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3を回転駆動することができる。これにより、EV走行時に第二回転電機MG2を含む動力伝達装置の各部に潤滑油を供給することが可能である。
【0039】
図2は、EV走行時の遊星歯車機構10の共線図である。図2において、縦軸は各回転要素の回転数を示す。図2において、符号Sはサンギア11および第一回転電機MG1の回転数、符号Cはキャリア14およびエンジン1の回転数、符号Rはリングギア13の回転数を示す。EV走行時には、エンジン1が運転を停止し、第二回転電機MG2の出力トルクによってハイブリッド車両100が走行する。従って、リングギア13は正方向に回転し、キャリア14が停止するため、サンギア11および第一回転電機MG1のロータシャフト6が負方向に回転する。この場合、第一回転電機MG1の負方向の回転速度がエンジン1の正方向の回転速度よりも高速であるため、第一ワンウェイクラッチ4を介して伝達される第一回転電機MG1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。なお、このときに第二ワンウェイクラッチ5が空転することで、エンジン1は停止状態に保たれる。
【0040】
よって、EV走行時にオイルポンプ3が圧送する潤滑油によって第二回転電機MG2を含む動力伝達装置の各部に潤滑油を適切に供給することができる。また、第一回転電機MG1の回転数は、車速の増加に応じて増加する。よって、高車速時には、低車速時よりもオイルポンプ3による潤滑油の供給量が増加する。
【0041】
(HV走行時の潤滑油供給)
次に、他の走行モードにおける潤滑油の供給について説明する。図3は、HV走行による動力分流時の共線図、図4は、HV走行による動力循環時の共線図である。図3および図4には、HV走行モードとして、THS(Toyota Hybrid System)走行時の共線図が示されている。図3に示すように、HV走行時に第一回転電機MG1およびサンギア11の回転(S軸)が正回転であると、エンジン1の動力はサンギア11を介して第一回転電機MG1に伝達される動力と、リングギア13(R軸)を介して駆動輪29に伝達される動力とに分流される。第一回転電機MG1は、エンジン1の反力受けとして機能し、発電を行って負トルクを発生させる。
【0042】
第一回転電機MG1が正回転することから、第一回転電機MG1の負方向の回転速度は0である。つまり、エンジン1の正方向の回転速度は、第一回転電機MG1の負方向の回転速度よりも高速である。従って、第一ワンウェイクラッチ4は空転し、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。
【0043】
図4に示すように、HV走行時に第一回転電機MG1およびサンギア11(S軸)の回転が負回転であると、第一回転電機MG1は負トルクを発生して負回転する力行状態となる。この場合、第二回転電機MG2が回生発電を行い、その電力によって第一回転電機MG1を力行駆動する動力循環の状態となる。動力循環状態は、キャリア14およびエンジン1が正回転し、サンギア11および第一回転電機MG1が負回転する状態である。
【0044】
従って、動力循環状態では、エンジン1の正方向の回転あるいは第一回転電機MG1の負方向の回転のいずれか高速の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。言い換えると、エンジン1の回転あるいは第一回転電機MG1の回転のいずれかによって常時オイルポンプ3を回転駆動することが可能であり、動力伝達装置の各部に適切に潤滑油を供給することができる。
【0045】
図5は、停車発電時の共線図である。停車発電時には、リングギア13の回転数は0である。エンジン1は発電のために運転されて正回転しているため、サンギア11および第一回転電機MG1の回転は正回転である。第一回転電機MG1は、正回転しながら発電を行い、負トルクを発生する。
【0046】
停車発電時には、第一回転電機MG1の回転が正回転であるため、第一回転電機MG1の負方向の回転速度は0である。よって、第一ワンウェイクラッチ4は空転し、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1によれば、EV走行時に第一回転電機MG1が負方向に回転するときの第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3を回転駆動することができ、EV走行時に第二回転電機MG2を含む被潤滑部に対して潤滑油を供給することができる。また、走行モードに応じて、エンジン1の回転あるいは第一回転電機MG1の回転のいずれかによって適宜オイルポンプ3が回転駆動される。これにより、走行モードにかかわらずオイルポンプ3によって動力伝達装置の被潤滑部に対して潤滑油を供給することが可能である。本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1によれば、電動オイルポンプを追加する場合よりも低コストでEV走行時の第二回転電機MG2等を冷却・潤滑することが可能となる。
【0048】
なお、ポンプドライブギア7とポンプドリブンギア8とのギア比γ1と、ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21とのギア比γ2とを異なるギア比としてもよい。ポンプドリブンギア8の回転速度がドリブンスプロケット21の回転速度よりも大きい場合、第一ワンウェイクラッチ4を介して伝達される第一回転電機MG1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。一方、ドリブンスプロケット21の回転速度がポンプドリブンギア8の回転速度よりも大きい場合、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。ギア比γ1およびギア比γ2は、それぞれ第一ワンウェイクラッチ4を介して動力が伝達されるときのオイルポンプ3の損失および第二ワンウェイクラッチ5を介して動力が伝達されるときのオイルポンプ3の損失を低減できるように定められてもよい。
【0049】
ここで、ポンプドリブンギア8は、ポンプシャフト9と同軸上に配置され、かつ第一ワンウェイクラッチ4を介してポンプシャフト9と接続された第一回転要素であり、第一回転電機MG1の負回転が伝達されてポンプシャフト9を回転駆動する方向に回転する。また、ドリブンスプロケット21は、ポンプシャフト9と同軸上に配置され、かつ第二ワンウェイクラッチ5を介して回転軸2と接続された第二回転要素であり、エンジン1の正回転が伝達されてポンプシャフト9を回転駆動する方向に回転する。そして、オイルポンプ3は、ポンプドリブンギア8あるいはドリブンスプロケット21のいずれか高速で回転する回転要素の回転によって回転駆動される。
【0050】
ギア比γ1とギア比γ2とを異なるギア比としても、EV走行時には第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。また、HV走行の動力循環時(図4参照)には、ギア比γ1,γ2に応じて、エンジン1の回転あるいは第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。ギア比γ1,γ2を適宜定めることにより、オイルポンプ3の回転数を走行状態に応じた適切な回転数とするようにすれば、オイルポンプ3を駆動することによる損失を低減することや、適量の潤滑油を被潤滑部に供給することが可能となる。
【0051】
[第2実施形態]
図6から図8を参照して、第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態のハイブリッド車両の要部を示すスケルトン図である。本実施形態に係る動力伝達装置の潤滑装置1−2において、上記第1実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1と異なる点は、第一回転電機MG1の回転によって回転駆動されて潤滑油を吐出する第一オイルポンプ31と、エンジン1の回転によって回転駆動されて潤滑油を吐出する第二オイルポンプ32とが別に設けられている点である。
【0052】
図6に示すように、エンジン1の回転軸2におけるエンジン1側と反対側の端部には、第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32が配置されている。第一オイルポンプ31と第二オイルポンプ32とは同軸上に隣接して配置されている。
【0053】
図7は、オイルポンプの近傍の断面図である。第一オイルポンプ31と第二オイルポンプ32とはケース34の壁部を挟んで軸方向において互いに対向している。ケース34は、動力伝達装置を収納するトランスアクスルケースである。ケース34の内壁面には、エンジン1側に向けて軸方向に突出する突出部34aが形成されている。突出部34aは、円筒形状であり、エンジン1の回転軸2と同軸上に配置されている。
【0054】
第一オイルポンプ31は、トロコイド式のポンプであり、蓋31aと、ドライブロータ31bと、ドリブンロータ31cと、ポンプシャフト31dとを有する。ドライブロータ31bおよびドリブンロータ31cは、突出部34aの内方に配置されている。突出部34aは、第一オイルポンプ31のポンプケースとして機能する。蓋31aは、突出部34aの外部の空間に対してドライブロータ31bおよびドリブンロータ31cを密封するように突出部34aの開口部を閉塞し、油室を形成している。ドライブロータ31bは、ポンプシャフト31dおよびワンウェイクラッチ33を介して第一回転電機MG1のロータシャフト6と接続されている。
【0055】
ワンウェイクラッチ33は、第一回転電機MG1が負回転するときの第一回転電機MG1の回転をポンプシャフト31dに伝達し、第一回転電機MG1が正回転するときには第一回転電機MG1の回転をポンプシャフト31dに伝達することを規制する。すなわち、ワンウェイクラッチ33は、ポンプシャフト31dに対してロータシャフト6が相対的に負方向に回転するときにポンプシャフト31dとロータシャフト6とを係合して動力を伝達する。一方、ワンウェイクラッチ33は、ポンプシャフト31dに対してロータシャフト6が相対的に正方向に回転するときは、ポンプシャフト31dとロータシャフト6とを切り離し、動力の伝達を遮断する。
【0056】
第二オイルポンプ32は、第一オイルポンプ31と同様にトロコイド式のポンプとすることができる。第二オイルポンプ32は、ポンプケース32aと、ドライブロータ32bと、ドリブンロータ32cと、ポンプシャフト32dとを有する。ポンプケース32aは、一端が閉塞した円筒形状であり、ケース34の外壁面に対して開口部を当接させるように固定されている。これにより、ポンプケース32aの開口部はケース34の外壁面によって閉塞され、ポンプケース32aの内部に油室が形成される。ポンプケース32a内には、ドライブロータ32bおよびドリブンロータ32cが配置されている。ドライブロータ32bは、ポンプシャフト32dと連結されている。ポンプシャフト32dは、エンジン1の回転軸2と同軸上に配置され、かつ回転軸2と連結されており、回転軸2と一体回転する。
【0057】
ケース34には、吸入油路35および吐出油路36が形成されている。吸入油路35は、潤滑油を貯留するオイルパン等の貯留部に接続されている。また、吸入油路35は、第一オイルポンプ31の吸入口および第二オイルポンプ32の吸入口にそれぞれ接続されている。第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32は、共通の吸入油路35を介して潤滑油を吸入する。
【0058】
吐出油路36は、第一オイルポンプ31の吐出口および第二オイルポンプ32の吐出口にそれぞれ接続されている。つまり、第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32は、共通の吐出油路36を介して潤滑油を送り出す。吐出油路36は、オイル受け部等を介して、あるいは直接、被潤滑部に接続されている。例えば、ケース34内の上部にオイル受け部を設け、このオイル受け部を介して第一回転電機MG1および第二回転電機MG2等の被潤滑部に潤滑油を供給するようにしてもよい。
【0059】
第一オイルポンプ31は、第一回転電機MG1の負回転によって回転駆動される。第一回転電機MG1が負回転する場合、第一回転電機MG1の回転によってポンプシャフト31dおよびドライブロータ31bが回転駆動される。これにより、ドライブロータ31bがドリブンロータ31cを回転駆動することで、吸入油路35からロータ31b、31cの間に潤滑油が吸入され、かつ圧縮されて吐出油路36に潤滑油が吐出される。
【0060】
第二オイルポンプ32は、エンジン1の回転によって回転駆動される。エンジン1の回転によってポンプシャフト32dおよびドライブロータ32bが回転駆動される。これにより、ドライブロータ32bがドリブンロータ32cを回転駆動することで、吸入油路35からロータ32b、32cの間に潤滑油が吸入され、かつ圧縮されて吐出油路36に潤滑油が吐出される。
【0061】
図8は、本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−2における潤滑油供給経路の概念図である。吐出油路36は、第一オイルポンプ31に接続される第一吐出油路36aと、第二オイルポンプ32に接続される第二吐出油路36bとに分岐している。第一吐出油路36aには、リリーフバルブ37aおよび逆止弁38aが配置され、第二吐出油路36bには、リリーフバルブ37bおよび逆止弁38bが配置されている。また、第一吐出油路36aと第二吐出油路36bとの合流部よりも下流側、すなわち被潤滑部側には、熱交換機39が配置されている。
【0062】
熱交換機39は、潤滑油と熱媒体との熱交換を行う。第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32が吐出する潤滑油は、熱交換機39を介して第二回転電機MG2等の被潤滑部に供給される。熱交換機39は、冷却水等の冷却媒体と潤滑油との熱交換によって潤滑油を冷却することができる。冷却された潤滑油は、第二回転電機MG2等の被潤滑部を潤滑・冷却することができる。
【0063】
リリーフバルブ37a,37bは、吐出油路36の油圧を制限する。リリーフバルブ37a,37bは、油圧が予め定められたリリーフ圧を超えると開弁して吐出油路36内の潤滑油を排出する。これにより、第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32が共に高回転となった場合等に吐出油路36の油圧が過度に上昇することが抑制され、熱交換機39等が保護される。
【0064】
逆止弁38a,38bは、オイルポンプ31,32から被潤滑部へ向かう潤滑油の流れを許容し、被潤滑部からオイルポンプ31,32へ向かう潤滑油の流れを規制する。逆止弁38a,38bは、リリーフバルブ37a,37bよりも熱交換機39側の位置、すなわちリリーフバルブ37a,37bに対して潤滑油の流れ方向の下流側の位置に配置されている。逆止弁38a,38bによって、オイルポンプ31,32への潤滑油の逆流が規制される。具体的には、例えば、EV走行時に第一オイルポンプ31が稼働して第二オイルポンプ32が停止する場合や、停車発電時に第二オイルポンプ32が稼働して第一オイルポンプ31が停止する場合など、オイルポンプ31,32の1つのみが稼働するときの潤滑油の逆流が規制される。
【0065】
本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−2は、エンジン1が回転するときにはエンジン1の回転によって第二オイルポンプ32が回転駆動されて潤滑油を吐出する。また、第一回転電機MG1が負回転するときには第一回転電機MG1の回転によって第一オイルポンプ31が回転駆動されて潤滑油を吐出する。よって、EV走行時(図2参照)は第一オイルポンプ31が回転駆動されて被潤滑部に潤滑油を供給し、第二オイルポンプ32は停止する。また、HV走行の動力分流時(図3参照)には、第二オイルポンプ32が回転駆動されて被潤滑部に潤滑油を供給し、第一オイルポンプ31は停止する。HV走行の動力循環時(図4参照)には、第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32がそれぞれ回転駆動されて被潤滑部に潤滑油を供給する。停車発電時には、第二オイルポンプ32が回転駆動されて被潤滑部に潤滑油を供給し、第一オイルポンプ31は停止する。このように、HV走行時や停車発電時だけでなくEV走行時にも被潤滑部に対して潤滑油を供給することが可能となり、第二回転電機MG2等における潤滑・冷却の不足を抑制することができる。
【0066】
[その他の例]
なお、図9および図10を参照して説明するように、リングギア13が両持ち支持されている場合、オイルポンプがリングギア13の径方向内方に配置されてもよい。図9は、リングギアの径方向内方に配置されたオイルポンプを有する動力伝達装置の潤滑装置1−3を示す図、図10は、動力伝達装置の潤滑装置1−3の要部を示す断面図である。図10には、図9のA−A断面が示されている。
【0067】
リングギア13は、回転体16の内周面に配置されている。回転体16は、中空の円筒形状であり、回転軸2と同軸上に配置されている。カウンタドライブギア15は、回転体16の外周面に配置されている。つまり、リングギア13、回転体16およびカウンタドライブギア15は、一体回転する複合ギアを構成しており、オイルポンプ40は複合ギアの内方に配置されている。回転体16の両端部は、軸受18,19を介してケース34によってそれぞれ支持されている。軸受18は、回転体16におけるリングギア13よりも軸方向のエンジン1側を支持している。一方、軸受19は、回転体16におけるリングギア13よりも軸方向のエンジン1側と反対側を支持している。
【0068】
ケース34は、回転軸2が挿入される突出部34bを有する。突出部34bは、円筒形状であり、ケース34の内部に向けて突出している。言い換えると、突出部34bは、軸方向のエンジン1側と反対側に向けて突出している。突出部34bは、内周面が軸受を介して回転軸2を支持すると共に、外周面が軸受18を介して回転体16を支持している。オイルポンプ40は、突出部34bの先端に形成された凹部に配置されている。凹部には、ドライブロータ40bおよびドリブンロータ40cが配置されており、凹部の開口部は、蓋40aによって閉塞されている。ドライブロータ40bと接続されたポンプシャフト40dは、ドライブロータ40bから軸方向のエンジン1側と反対側に向けて軸方向に延在している。吐出油路36は、ケース34に形成されている。オイルポンプ40が吐出する潤滑油は、吐出油路36を介して第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、遊星歯車機構10等の被潤滑部に導かれる。
【0069】
オイルポンプ40は、第一ワンウェイクラッチ41を介してリングギア13と接続され、第二ワンウェイクラッチ42を介して回転軸2と接続されている。具体的には、ポンプシャフト40dの径方向外側には、リング部材17が配置されている。リング部材17は、円環形状であり、回転体16の内周面に嵌合している。図10に示すように、リング部材17の内周面と、ポンプシャフト40dの外周面との間には、スプラグ41aが配置されている。第一ワンウェイクラッチ41は、リング部材17を外輪とし、ポンプシャフト40dを内輪としている。スプラグ41aは、ポンプシャフト40dに対してリング部材17が正方向に相対回転する場合にポンプシャフト40dおよびリング部材17にそれぞれ噛み合って両者を係合する。一方、スプラグ41aは、ポンプシャフト40dに対してリング部材17が負方向に相対回転する場合、ポンプシャフト40dとリング部材17との係合を開放し、トルクの伝達を遮断する。
【0070】
ポンプシャフト40dの内周面と回転軸2の外周面との間には、スプラグ42aが配置されている。第二ワンウェイクラッチ42は、ポンプシャフト40dを外輪とし、回転軸2を内輪としている。スプラグ42aは、ポンプシャフト40dに対して回転軸2が正方向に相対回転する場合にポンプシャフト40dおよび回転軸2にそれぞれ噛み合って両者を係合する。一方、スプラグ42aは、ポンプシャフト40dに対して回転軸2が負方向に相対回転する場合、ポンプシャフト40dと回転軸2との係合を開放し、トルクの伝達を遮断する。
【0071】
従って、動力伝達装置の潤滑装置1−3では、回転軸2の回転あるいはリングギア13の回転のいずれか高速の回転がポンプシャフト40dに伝達されてオイルポンプ40を回転駆動する。リングギア13の回転が回転軸2の回転よりも高速である場合、リングギア13の回転が第一ワンウェイクラッチ41を介してオイルポンプ40を回転駆動する。一方、回転軸2の回転がリングギア13の回転よりも高速である場合、回転軸2の回転が第二ワンウェイクラッチ42を介してオイルポンプ40を回転駆動する。これにより、HV走行時や停車発電時だけでなく、EV走行時にもオイルポンプ40が回転駆動されて潤滑油が被潤滑部に供給される。
【0072】
また、動力伝達装置の潤滑装置1−3は、オイルポンプ40、第一ワンウェイクラッチ41および第二ワンウェイクラッチ42が回転体16の内方に配置され、かつ軸受18と軸受19との間に配置されている。これにより、遊星歯車機構10のリングギア13が両持ち支持されている動力伝達装置であっても、リングギア13あるいはエンジン1のいずれかの回転によってオイルポンプ40を回転駆動する潤滑装置が実現可能となる。ハイブリッド車両100が走行しているか、あるいはエンジン1が回転していればオイルポンプ40が駆動されて潤滑油を吐出するため、被潤滑部を適切に潤滑・冷却することが可能となる。
【0073】
上記の各実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0074】
1−1,1−2,1−3 動力伝達装置の潤滑装置
1 エンジン
3 オイルポンプ
4 第一ワンウェイクラッチ(ワンウェイクラッチ)
5 第二ワンウェイクラッチ
10 遊星歯車機構
11 サンギア
12 ピニオンギア
13 リングギア
14 キャリア
29 駆動輪
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの回転によって駆動されるオイルポンプによってハイブリッド車両の動力伝達装置に潤滑油を供給する技術が知られている。例えば、特許文献1には、エンジンの出力軸がワンウェイクラッチを介してオイルポンプの駆動軸と連結されたハイブリッド型車両の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−324262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EV走行時には、エンジンが停止されるため、オイルポンプが停止することとなる。これにより、被潤滑部の潤滑不足や冷却不足が生じる虞がある。EV走行時に潤滑油を供給できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、EV走行時に動力伝達装置に潤滑油を供給することができる動力伝達装置の潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置の潤滑装置は、遊星歯車機構と、回転駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプと、ワンウェイクラッチとを備え、前記遊星歯車機構のサンギアは第一回転電機に、キャリアはエンジンに、リングギアは駆動輪および第二回転電機にそれぞれ接続され、前記オイルポンプは、前記ワンウェイクラッチを介して前記第一回転電機と接続されており、前記ワンウェイクラッチは、ハイブリッド車両の前進走行時の前記リングギアの回転方向を正方向として、前記第一回転電機が負方向に回転する場合の前記第一回転電機の回転を伝達して前記オイルポンプを回転駆動することを特徴とする。
【0007】
上記動力伝達装置の潤滑装置において、更に、前記エンジンと前記オイルポンプとを接続する第二ワンウェイクラッチを備え、前記第二ワンウェイクラッチは、前記エンジンが正方向に回転する場合の前記エンジンの回転を前記オイルポンプに伝達し、前記第一回転電機の負方向の回転速度が前記エンジンの正方向の回転速度よりも高速である場合、前記ワンウェイクラッチを介して伝達される前記第一回転電機の回転が前記オイルポンプを回転駆動し、前記エンジンの正方向の回転速度が前記第一回転電機の負方向の回転速度よりも高速である場合、前記第二ワンウェイクラッチを介して伝達される前記エンジンの回転が前記オイルポンプを回転駆動することが好ましい。
【0008】
上記動力伝達装置の潤滑装置において、更に、前記エンジンと接続され、前記エンジンの回転によって回転駆動されて潤滑油を吐出する第二オイルポンプを備えることが好ましい。
【0009】
上記動力伝達装置の潤滑装置において、前記オイルポンプと前記第二オイルポンプとは同軸上に隣接して配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る動力伝達装置の潤滑装置は、遊星歯車機構と、回転駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプと、ワンウェイクラッチとを備える。遊星歯車機構のサンギアは第一回転電機に、キャリアはエンジンに、リングギアは駆動輪および第二回転電機にそれぞれ接続される。オイルポンプは、ワンウェイクラッチを介して第一回転電機と接続されている。ワンウェイクラッチは、ハイブリッド車両の前進走行時のリングギアの回転方向を正方向として、第一回転電機が負方向に回転する場合の第一回転電機の回転を伝達してオイルポンプを回転駆動する。よって、本発明に係る動力伝達装置の潤滑装置によれば、EV走行時にオイルポンプによって動力伝達装置に潤滑油を供給することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態のハイブリッド車両の要部を示すスケルトン図である。
【図2】図2は、EV走行時の遊星歯車機構の共線図である。
【図3】図3は、HV走行による動力分流時の共線図である。
【図4】図4は、HV走行による動力循環時の共線図である。
【図5】図5は、停車発電時の共線図である。
【図6】図6は、第2実施形態のハイブリッド車両の要部を示すスケルトン図である。
【図7】図7は、オイルポンプの近傍の断面図である。
【図8】図8は、第2実施形態の動力伝達装置の潤滑装置における潤滑油供給経路の概念図である。
【図9】図9は、リングギアの径方向内方に配置されたオイルポンプを有する動力伝達装置の潤滑装置を示す図である。
【図10】図10は、動力伝達装置の潤滑装置の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態に係る動力伝達装置の潤滑装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[第1実施形態]
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、動力伝達装置の潤滑装置に関する。図1は、第1実施形態に係るハイブリッド車両の要部を示すスケルトン図である。
【0014】
図1に示す本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1は、遊星歯車機構10、オイルポンプ3、第一ワンウェイクラッチ4および第二ワンウェイクラッチ5を備える。また、ハイブリッド車両100の動力伝達装置は、遊星歯車機構10、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、カウンタドライブギア15、カウンタドリブンギア23、ドライブピニオンギア24、リダクションギア25、デフリングギア26および差動機構27を含む。
【0015】
エンジン1の回転軸2は、エンジン1から軸方向の一方に向けて延在している。回転軸2は、例えば、ハイブリッド車両100の車幅方向に延在している。エンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを回転運動に変換して回転軸2に出力する。
【0016】
遊星歯車機構10は、エンジン1のトルクを駆動輪29と第一回転電機MG1とに分割する動力分割プラネタリギアである。遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、サンギア11、ピニオンギア12、リングギア13およびキャリア14を有する。サンギア11は、回転軸2と同軸上に配置されている。リングギア13は、サンギア11と同軸上であってかつサンギア11の径方向外側に配置されている。ピニオンギア12は、サンギア11とリングギア13との間に配置されており、サンギア11およびリングギア13とそれぞれ噛み合っている。ピニオンギア12は、キャリア14によって回転自在に支持されている。キャリア14は、回転軸2と接続されており、回転軸2と一体回転する。従って、ピニオンギア12は、キャリア14と共に回転軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつキャリア14によって支持されてピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
【0017】
サンギア11は、第一回転電機MG1のロータシャフト6と接続されている。第一回転電機MG1は、回転軸2と同軸上であって、かつ遊星歯車機構10を挟んでエンジン1側と反対側に配置されている。ロータシャフト6は、第一回転電機MG1のロータの回転軸であり、エンジン1の軸方向に延在している。ロータシャフト6は中空の円筒形状であり、ロータシャフト6の内部をエンジン1の回転軸2が軸方向に貫通している。
【0018】
リングギア13は、内歯歯車であり、リングギア13の外周面には、カウンタドライブギア15が配置されている。リングギア13とカウンタドライブギア15とは一体回転する複合ギアを構成している。
【0019】
カウンタドライブギア15は、カウンタドリブンギア23と噛み合っている。また、カウンタドリブンギア23は、リダクションギア25と噛み合っている。リダクションギア25は、第二回転電機MG2のロータシャフト30に連結されたギアである。リダクションギア25は、カウンタドリブンギア23よりも小径であり、第二回転電機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア23に伝達する。リングギア13は、カウンタドライブギア15、カウンタドリブンギア23およびリダクションギア25を介して第二回転電機MG2と接続されている。
【0020】
ドライブピニオンギア24は、カウンタドリブンギア23と同軸上に配置されており、カウンタドリブンギア23と一体回転する。カウンタドライブギア15からカウンタドリブンギア23に伝達されるエンジン1および第一回転電機MG1のトルクと、リダクションギア25からカウンタドリブンギア23に伝達される第二回転電機MG2のトルクとは、合成されてドライブピニオンギア24に伝達される。
【0021】
ドライブピニオンギア24は、デフリングギア26と噛み合っている。デフリングギア26は差動機構27を介して出力軸28と接続されている。出力軸28は、ハイブリッド車両100の駆動輪29と接続されている。つまり、リングギア13は、カウンタドライブギア15、カウンタドリブンギア23、ドライブピニオンギア24、デフリングギア26、差動機構27および出力軸28を介して駆動輪29に接続されている。
【0022】
第一回転電機MG1および第二回転電機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転電機MG1および第二回転電機MG2は、インバータを介してバッテリと接続されている。第一回転電機MG1および第二回転電機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転電機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第一回転電機MG1および第二回転電機MG2としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
【0023】
オイルポンプ3は、ポンプシャフト9が回転駆動されることにより潤滑油を吐出するものである。オイルポンプ3が吐出する潤滑油は、遊星歯車機構10、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2等の動力伝達装置の被潤滑部に供給される。オイルポンプ3としては、例えば、トロコイド式のオイルポンプを用いることができる。オイルポンプ3は、回転軸2における軸方向のエンジン1側と反対側の端部に配置されている。オイルポンプ3は、第一回転電機MG1よりも軸方向のエンジン1側と反対側に配置されており、かつ軸方向において第一回転電機MG1と互いに対向している。
【0024】
ポンプシャフト9は、オイルポンプ3の本体からエンジン1側に向けて軸方向に延在している。ポンプシャフト9には、第一ワンウェイクラッチ4および第二ワンウェイクラッチ5が配置されている。第一ワンウェイクラッチ4は、第二ワンウェイクラッチ5よりもエンジン1側に配置されている。
【0025】
第一ワンウェイクラッチ4は、ロータシャフト6とポンプシャフト9との間に介在している。より詳しくは、オイルポンプ3のポンプシャフト9は、第一ワンウェイクラッチ4、ポンプドリブンギア8およびポンプドライブギア7を介して第一回転電機MG1のロータシャフト6と接続されている。第一ワンウェイクラッチ4の内輪はポンプシャフト9と連結されており、外輪はポンプドリブンギア8と連結されている。ポンプドリブンギア8は、ポンプシャフト9と同軸上に配置されており、ポンプドライブギア7と噛み合っている。ポンプドライブギア7は、第一回転電機MG1のロータシャフト6と連結されたギアである。ポンプドライブギア7は、ロータシャフト6における軸方向のエンジン1側と反対側の端部に配置されている。ポンプドライブギア7とポンプドリブンギア8とのギア比は、例えば、1とすることができる。
【0026】
第一ワンウェイクラッチ4は、ロータシャフト6が負方向に回転する場合のロータシャフト6の回転をポンプシャフト9に伝達し、ロータシャフト6が正方向に回転する場合のロータシャフト6の回転がポンプシャフト9に伝達されることを規制する。ここで、正の回転方向とは、ハイブリッド車両100の前進走行時のリングギア13の回転方向であり、負の回転方向とは、正の回転方向と反対の回転方向である。オイルポンプ3は、ポンプシャフト9が正方向に回転駆動されることで潤滑油を吐出する。つまり、「オイルポンプ3を回転駆動する」とは、ポンプシャフト9を正方向に回転駆動することを示す。
【0027】
ロータシャフト6が負方向に回転すると、ポンプドライブギア7はロータシャフト6と共に負方向に回転し、これと噛み合うポンプドリブンギア8は正方向に回転する。第一ワンウェイクラッチ4は、ポンプドリブンギア8がポンプシャフト9に対して正方向に相対回転する場合に係合してポンプドリブンギア8の正方向の回転をポンプシャフト9に伝達する。一方、ロータシャフト6が正方向に回転すると、ポンプドライブギア7は正方向に回転し、ポンプドリブンギア8は負方向に回転する。第一ワンウェイクラッチ4は、ポンプドリブンギア8がポンプシャフト9に対して負方向に相対回転する場合に開放してポンプドリブンギア8とポンプシャフト9とを切り離す。これにより、ポンプドリブンギア8とポンプシャフト9との動力の伝達が遮断され、ポンプドリブンギア8は空転する。このように、第一ワンウェイクラッチ4は、第一回転電機MG1が負方向に回転する場合の第一回転電機MG1の回転を伝達してオイルポンプ3を回転駆動するものであり、言い換えるならば、第一回転電機MG1がオイルポンプ3に対して駆動側となってオイルポンプ3を回転駆動できるときの第一回転電機MG1の回転を伝達する。
【0028】
第二ワンウェイクラッチ5は、エンジン1の回転軸2とポンプシャフト9との間に介在している。より詳しくは、オイルポンプ3のポンプシャフト9は、第二ワンウェイクラッチ5、ドリブンスプロケット21、チェーン22およびドライブスプロケット20を介してエンジン1の回転軸2と接続されている。
【0029】
第二ワンウェイクラッチ5の内輪はポンプシャフト9と連結されており、外輪はドリブンスプロケット21と連結されている。ドリブンスプロケット21は、ポンプシャフト9と同軸上に配置されている。回転軸2におけるエンジン1側と反対側の端部には、ドライブスプロケット20が連結されている。ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21とには、無端のチェーン22が掛け渡されている。チェーン22を介してドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21との動力の伝達がなされる。ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21とのギア比は、例えば、1とすることができる。なお、ポンプドライブギア7とポンプドリブンギア8とのギア比γ1と、ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21とのギア比γ2とを一致させて、ギア比γ1およびγ2を1とは異なるギア比としてもよい。例えば、オイルポンプ3における損失を低減できるようにギア比γ1およびγ2が定められてもよい。
【0030】
第二ワンウェイクラッチ5は、回転軸2が正方向に回転する場合の回転軸2の回転をポンプシャフト9に伝達し、回転軸2が負方向に回転する場合の回転軸2の回転がポンプシャフト9に伝達されることを規制する。回転軸2が正方向に回転すると、ドライブスプロケット20は正方向に回転し、これと連動してドリブンスプロケット21が正方向に回転する。第二ワンウェイクラッチ5は、ドリブンスプロケット21がポンプシャフト9に対して正方向に相対回転する場合に係合してドリブンスプロケット21の正方向の回転をポンプシャフト9に伝達する。一方、第二ワンウェイクラッチ5は、ドリブンスプロケット21がポンプシャフト9に対して負方向に相対回転する場合に開放してドリブンスプロケット21とポンプシャフト9とを切り離す。これにより、ドリブンスプロケット21とポンプシャフト9との動力の伝達が遮断され、ドリブンスプロケット21は空転する。つまり、第二ワンウェイクラッチ5は、エンジン1が正方向に回転する場合のエンジン1の回転をオイルポンプ3に伝達するものであり、言い換えるならば、エンジン1がオイルポンプ3に対して駆動側となってオイルポンプ3を回転駆動できるときのエンジン1の回転を伝達する。
【0031】
従って、第一回転電機MG1の負方向の回転速度がエンジン1の正方向の回転速度よりも高速である場合、第一ワンウェイクラッチ4を介して伝達される第一回転電機MG1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。第一回転電機MG1の負方向の回転速度がエンジン1の正方向の回転速度よりも高速であると、ポンプドリブンギア8の回転数がドリブンスプロケット21の回転数よりも高回転となる。これにより、第一ワンウェイクラッチ4は係合し、第二ワンウェイクラッチ5は空転する。つまり、第一ワンウェイクラッチ4を介して伝達される第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。
【0032】
また、エンジン1の正方向の回転速度が第一回転電機MG1の負方向の回転速度よりも高速である場合、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。エンジン1の正方向の回転速度が第一回転電機MG1の負方向の回転速度よりも高速であると、ドリブンスプロケット21の回転数がポンプドリブンギア8の回転数よりも高回転となる。これにより、第一ワンウェイクラッチ4は空転し、第二ワンウェイクラッチ5は係合する。つまり、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。
【0033】
ハイブリッド車両100では、ハイブリッド走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。ハイブリッド走行とは、エンジン1、第一回転電機MG1あるいは第二回転電機MG2のうち少なくともエンジン1を動力源としてハイブリッド車両100を走行させる走行モードである。第一回転電機MG1は、エンジン1の反力受けとして機能し、エンジン1のトルクをキャリア14からリングギア13に伝達させる。ハイブリッド走行では、エンジン1に加えて、第二回転電機MG2を動力源としてもよい。なお、ハイブリッド走行において、第二回転電機MG2を発電機として機能させてもよく、無負荷の状態で空転させることもできる。
【0034】
EV走行は、エンジン1を停止し、第一回転電機MG1あるいは第二回転電機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する走行モードである。なお、EV走行において、走行状況やバッテリの充電状態等に応じて第一回転電機MG1あるいは第二回転電機MG2の少なくともいずれか一方に発電を行わせるようにしてもよく、第一回転電機MG1あるいは第二回転電機MG2の少なくともいずれか一方を空転させるようにしてもよい。
【0035】
本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1は、第一回転電機MG1が負方向に回転する場合の第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3を回転駆動して潤滑油を供給することができる。従来、ハイブリッド車両において、エンジンの回転によって駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプ(以下、「エンジンオイルポンプ」と称する。)を備えたものが知られている。こうしたハイブリッド車両において、EV走行時にはエンジンの停止に伴いエンジンオイルポンプも停止するため、潤滑油の供給が不足する場合があった。
【0036】
例えば、第二回転電機MG2が動力伝達装置の上部に配置されている場合、EV走行時に第二回転電機MG2に対する潤滑油の供給が不足する虞がある。第一回転電機MG1と第二回転電機MG2とが別軸上に配置される複軸式の動力伝達装置において、第二回転電機MG2が上部に配置される場合、第二回転電機MG2に対する潤滑油の供給を確保できることが望まれる。また、プラグインハイブリッド車両では、EV走行領域が広いため、第二回転電機MG2に対する潤滑油の供給不足が生じやすいという問題がある。
【0037】
これに対して、電動式のオイルポンプを追加することでEV走行時の潤滑油供給量を確保することが考えられる。しかしながら、電動オイルポンプを追加すると、コストアップにつながるという問題がある。
【0038】
(EV走行時の潤滑油供給)
本実施形態の動力伝達装置の潤滑油供給装置1−1によれば、EV走行時に第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3を回転駆動することができる。これにより、EV走行時に第二回転電機MG2を含む動力伝達装置の各部に潤滑油を供給することが可能である。
【0039】
図2は、EV走行時の遊星歯車機構10の共線図である。図2において、縦軸は各回転要素の回転数を示す。図2において、符号Sはサンギア11および第一回転電機MG1の回転数、符号Cはキャリア14およびエンジン1の回転数、符号Rはリングギア13の回転数を示す。EV走行時には、エンジン1が運転を停止し、第二回転電機MG2の出力トルクによってハイブリッド車両100が走行する。従って、リングギア13は正方向に回転し、キャリア14が停止するため、サンギア11および第一回転電機MG1のロータシャフト6が負方向に回転する。この場合、第一回転電機MG1の負方向の回転速度がエンジン1の正方向の回転速度よりも高速であるため、第一ワンウェイクラッチ4を介して伝達される第一回転電機MG1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。なお、このときに第二ワンウェイクラッチ5が空転することで、エンジン1は停止状態に保たれる。
【0040】
よって、EV走行時にオイルポンプ3が圧送する潤滑油によって第二回転電機MG2を含む動力伝達装置の各部に潤滑油を適切に供給することができる。また、第一回転電機MG1の回転数は、車速の増加に応じて増加する。よって、高車速時には、低車速時よりもオイルポンプ3による潤滑油の供給量が増加する。
【0041】
(HV走行時の潤滑油供給)
次に、他の走行モードにおける潤滑油の供給について説明する。図3は、HV走行による動力分流時の共線図、図4は、HV走行による動力循環時の共線図である。図3および図4には、HV走行モードとして、THS(Toyota Hybrid System)走行時の共線図が示されている。図3に示すように、HV走行時に第一回転電機MG1およびサンギア11の回転(S軸)が正回転であると、エンジン1の動力はサンギア11を介して第一回転電機MG1に伝達される動力と、リングギア13(R軸)を介して駆動輪29に伝達される動力とに分流される。第一回転電機MG1は、エンジン1の反力受けとして機能し、発電を行って負トルクを発生させる。
【0042】
第一回転電機MG1が正回転することから、第一回転電機MG1の負方向の回転速度は0である。つまり、エンジン1の正方向の回転速度は、第一回転電機MG1の負方向の回転速度よりも高速である。従って、第一ワンウェイクラッチ4は空転し、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。
【0043】
図4に示すように、HV走行時に第一回転電機MG1およびサンギア11(S軸)の回転が負回転であると、第一回転電機MG1は負トルクを発生して負回転する力行状態となる。この場合、第二回転電機MG2が回生発電を行い、その電力によって第一回転電機MG1を力行駆動する動力循環の状態となる。動力循環状態は、キャリア14およびエンジン1が正回転し、サンギア11および第一回転電機MG1が負回転する状態である。
【0044】
従って、動力循環状態では、エンジン1の正方向の回転あるいは第一回転電機MG1の負方向の回転のいずれか高速の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。言い換えると、エンジン1の回転あるいは第一回転電機MG1の回転のいずれかによって常時オイルポンプ3を回転駆動することが可能であり、動力伝達装置の各部に適切に潤滑油を供給することができる。
【0045】
図5は、停車発電時の共線図である。停車発電時には、リングギア13の回転数は0である。エンジン1は発電のために運転されて正回転しているため、サンギア11および第一回転電機MG1の回転は正回転である。第一回転電機MG1は、正回転しながら発電を行い、負トルクを発生する。
【0046】
停車発電時には、第一回転電機MG1の回転が正回転であるため、第一回転電機MG1の負方向の回転速度は0である。よって、第一ワンウェイクラッチ4は空転し、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1によれば、EV走行時に第一回転電機MG1が負方向に回転するときの第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3を回転駆動することができ、EV走行時に第二回転電機MG2を含む被潤滑部に対して潤滑油を供給することができる。また、走行モードに応じて、エンジン1の回転あるいは第一回転電機MG1の回転のいずれかによって適宜オイルポンプ3が回転駆動される。これにより、走行モードにかかわらずオイルポンプ3によって動力伝達装置の被潤滑部に対して潤滑油を供給することが可能である。本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1によれば、電動オイルポンプを追加する場合よりも低コストでEV走行時の第二回転電機MG2等を冷却・潤滑することが可能となる。
【0048】
なお、ポンプドライブギア7とポンプドリブンギア8とのギア比γ1と、ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット21とのギア比γ2とを異なるギア比としてもよい。ポンプドリブンギア8の回転速度がドリブンスプロケット21の回転速度よりも大きい場合、第一ワンウェイクラッチ4を介して伝達される第一回転電機MG1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。一方、ドリブンスプロケット21の回転速度がポンプドリブンギア8の回転速度よりも大きい場合、第二ワンウェイクラッチ5を介して伝達されるエンジン1の回転がオイルポンプ3を回転駆動する。ギア比γ1およびギア比γ2は、それぞれ第一ワンウェイクラッチ4を介して動力が伝達されるときのオイルポンプ3の損失および第二ワンウェイクラッチ5を介して動力が伝達されるときのオイルポンプ3の損失を低減できるように定められてもよい。
【0049】
ここで、ポンプドリブンギア8は、ポンプシャフト9と同軸上に配置され、かつ第一ワンウェイクラッチ4を介してポンプシャフト9と接続された第一回転要素であり、第一回転電機MG1の負回転が伝達されてポンプシャフト9を回転駆動する方向に回転する。また、ドリブンスプロケット21は、ポンプシャフト9と同軸上に配置され、かつ第二ワンウェイクラッチ5を介して回転軸2と接続された第二回転要素であり、エンジン1の正回転が伝達されてポンプシャフト9を回転駆動する方向に回転する。そして、オイルポンプ3は、ポンプドリブンギア8あるいはドリブンスプロケット21のいずれか高速で回転する回転要素の回転によって回転駆動される。
【0050】
ギア比γ1とギア比γ2とを異なるギア比としても、EV走行時には第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。また、HV走行の動力循環時(図4参照)には、ギア比γ1,γ2に応じて、エンジン1の回転あるいは第一回転電機MG1の回転によってオイルポンプ3が回転駆動される。ギア比γ1,γ2を適宜定めることにより、オイルポンプ3の回転数を走行状態に応じた適切な回転数とするようにすれば、オイルポンプ3を駆動することによる損失を低減することや、適量の潤滑油を被潤滑部に供給することが可能となる。
【0051】
[第2実施形態]
図6から図8を参照して、第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態のハイブリッド車両の要部を示すスケルトン図である。本実施形態に係る動力伝達装置の潤滑装置1−2において、上記第1実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−1と異なる点は、第一回転電機MG1の回転によって回転駆動されて潤滑油を吐出する第一オイルポンプ31と、エンジン1の回転によって回転駆動されて潤滑油を吐出する第二オイルポンプ32とが別に設けられている点である。
【0052】
図6に示すように、エンジン1の回転軸2におけるエンジン1側と反対側の端部には、第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32が配置されている。第一オイルポンプ31と第二オイルポンプ32とは同軸上に隣接して配置されている。
【0053】
図7は、オイルポンプの近傍の断面図である。第一オイルポンプ31と第二オイルポンプ32とはケース34の壁部を挟んで軸方向において互いに対向している。ケース34は、動力伝達装置を収納するトランスアクスルケースである。ケース34の内壁面には、エンジン1側に向けて軸方向に突出する突出部34aが形成されている。突出部34aは、円筒形状であり、エンジン1の回転軸2と同軸上に配置されている。
【0054】
第一オイルポンプ31は、トロコイド式のポンプであり、蓋31aと、ドライブロータ31bと、ドリブンロータ31cと、ポンプシャフト31dとを有する。ドライブロータ31bおよびドリブンロータ31cは、突出部34aの内方に配置されている。突出部34aは、第一オイルポンプ31のポンプケースとして機能する。蓋31aは、突出部34aの外部の空間に対してドライブロータ31bおよびドリブンロータ31cを密封するように突出部34aの開口部を閉塞し、油室を形成している。ドライブロータ31bは、ポンプシャフト31dおよびワンウェイクラッチ33を介して第一回転電機MG1のロータシャフト6と接続されている。
【0055】
ワンウェイクラッチ33は、第一回転電機MG1が負回転するときの第一回転電機MG1の回転をポンプシャフト31dに伝達し、第一回転電機MG1が正回転するときには第一回転電機MG1の回転をポンプシャフト31dに伝達することを規制する。すなわち、ワンウェイクラッチ33は、ポンプシャフト31dに対してロータシャフト6が相対的に負方向に回転するときにポンプシャフト31dとロータシャフト6とを係合して動力を伝達する。一方、ワンウェイクラッチ33は、ポンプシャフト31dに対してロータシャフト6が相対的に正方向に回転するときは、ポンプシャフト31dとロータシャフト6とを切り離し、動力の伝達を遮断する。
【0056】
第二オイルポンプ32は、第一オイルポンプ31と同様にトロコイド式のポンプとすることができる。第二オイルポンプ32は、ポンプケース32aと、ドライブロータ32bと、ドリブンロータ32cと、ポンプシャフト32dとを有する。ポンプケース32aは、一端が閉塞した円筒形状であり、ケース34の外壁面に対して開口部を当接させるように固定されている。これにより、ポンプケース32aの開口部はケース34の外壁面によって閉塞され、ポンプケース32aの内部に油室が形成される。ポンプケース32a内には、ドライブロータ32bおよびドリブンロータ32cが配置されている。ドライブロータ32bは、ポンプシャフト32dと連結されている。ポンプシャフト32dは、エンジン1の回転軸2と同軸上に配置され、かつ回転軸2と連結されており、回転軸2と一体回転する。
【0057】
ケース34には、吸入油路35および吐出油路36が形成されている。吸入油路35は、潤滑油を貯留するオイルパン等の貯留部に接続されている。また、吸入油路35は、第一オイルポンプ31の吸入口および第二オイルポンプ32の吸入口にそれぞれ接続されている。第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32は、共通の吸入油路35を介して潤滑油を吸入する。
【0058】
吐出油路36は、第一オイルポンプ31の吐出口および第二オイルポンプ32の吐出口にそれぞれ接続されている。つまり、第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32は、共通の吐出油路36を介して潤滑油を送り出す。吐出油路36は、オイル受け部等を介して、あるいは直接、被潤滑部に接続されている。例えば、ケース34内の上部にオイル受け部を設け、このオイル受け部を介して第一回転電機MG1および第二回転電機MG2等の被潤滑部に潤滑油を供給するようにしてもよい。
【0059】
第一オイルポンプ31は、第一回転電機MG1の負回転によって回転駆動される。第一回転電機MG1が負回転する場合、第一回転電機MG1の回転によってポンプシャフト31dおよびドライブロータ31bが回転駆動される。これにより、ドライブロータ31bがドリブンロータ31cを回転駆動することで、吸入油路35からロータ31b、31cの間に潤滑油が吸入され、かつ圧縮されて吐出油路36に潤滑油が吐出される。
【0060】
第二オイルポンプ32は、エンジン1の回転によって回転駆動される。エンジン1の回転によってポンプシャフト32dおよびドライブロータ32bが回転駆動される。これにより、ドライブロータ32bがドリブンロータ32cを回転駆動することで、吸入油路35からロータ32b、32cの間に潤滑油が吸入され、かつ圧縮されて吐出油路36に潤滑油が吐出される。
【0061】
図8は、本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−2における潤滑油供給経路の概念図である。吐出油路36は、第一オイルポンプ31に接続される第一吐出油路36aと、第二オイルポンプ32に接続される第二吐出油路36bとに分岐している。第一吐出油路36aには、リリーフバルブ37aおよび逆止弁38aが配置され、第二吐出油路36bには、リリーフバルブ37bおよび逆止弁38bが配置されている。また、第一吐出油路36aと第二吐出油路36bとの合流部よりも下流側、すなわち被潤滑部側には、熱交換機39が配置されている。
【0062】
熱交換機39は、潤滑油と熱媒体との熱交換を行う。第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32が吐出する潤滑油は、熱交換機39を介して第二回転電機MG2等の被潤滑部に供給される。熱交換機39は、冷却水等の冷却媒体と潤滑油との熱交換によって潤滑油を冷却することができる。冷却された潤滑油は、第二回転電機MG2等の被潤滑部を潤滑・冷却することができる。
【0063】
リリーフバルブ37a,37bは、吐出油路36の油圧を制限する。リリーフバルブ37a,37bは、油圧が予め定められたリリーフ圧を超えると開弁して吐出油路36内の潤滑油を排出する。これにより、第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32が共に高回転となった場合等に吐出油路36の油圧が過度に上昇することが抑制され、熱交換機39等が保護される。
【0064】
逆止弁38a,38bは、オイルポンプ31,32から被潤滑部へ向かう潤滑油の流れを許容し、被潤滑部からオイルポンプ31,32へ向かう潤滑油の流れを規制する。逆止弁38a,38bは、リリーフバルブ37a,37bよりも熱交換機39側の位置、すなわちリリーフバルブ37a,37bに対して潤滑油の流れ方向の下流側の位置に配置されている。逆止弁38a,38bによって、オイルポンプ31,32への潤滑油の逆流が規制される。具体的には、例えば、EV走行時に第一オイルポンプ31が稼働して第二オイルポンプ32が停止する場合や、停車発電時に第二オイルポンプ32が稼働して第一オイルポンプ31が停止する場合など、オイルポンプ31,32の1つのみが稼働するときの潤滑油の逆流が規制される。
【0065】
本実施形態の動力伝達装置の潤滑装置1−2は、エンジン1が回転するときにはエンジン1の回転によって第二オイルポンプ32が回転駆動されて潤滑油を吐出する。また、第一回転電機MG1が負回転するときには第一回転電機MG1の回転によって第一オイルポンプ31が回転駆動されて潤滑油を吐出する。よって、EV走行時(図2参照)は第一オイルポンプ31が回転駆動されて被潤滑部に潤滑油を供給し、第二オイルポンプ32は停止する。また、HV走行の動力分流時(図3参照)には、第二オイルポンプ32が回転駆動されて被潤滑部に潤滑油を供給し、第一オイルポンプ31は停止する。HV走行の動力循環時(図4参照)には、第一オイルポンプ31および第二オイルポンプ32がそれぞれ回転駆動されて被潤滑部に潤滑油を供給する。停車発電時には、第二オイルポンプ32が回転駆動されて被潤滑部に潤滑油を供給し、第一オイルポンプ31は停止する。このように、HV走行時や停車発電時だけでなくEV走行時にも被潤滑部に対して潤滑油を供給することが可能となり、第二回転電機MG2等における潤滑・冷却の不足を抑制することができる。
【0066】
[その他の例]
なお、図9および図10を参照して説明するように、リングギア13が両持ち支持されている場合、オイルポンプがリングギア13の径方向内方に配置されてもよい。図9は、リングギアの径方向内方に配置されたオイルポンプを有する動力伝達装置の潤滑装置1−3を示す図、図10は、動力伝達装置の潤滑装置1−3の要部を示す断面図である。図10には、図9のA−A断面が示されている。
【0067】
リングギア13は、回転体16の内周面に配置されている。回転体16は、中空の円筒形状であり、回転軸2と同軸上に配置されている。カウンタドライブギア15は、回転体16の外周面に配置されている。つまり、リングギア13、回転体16およびカウンタドライブギア15は、一体回転する複合ギアを構成しており、オイルポンプ40は複合ギアの内方に配置されている。回転体16の両端部は、軸受18,19を介してケース34によってそれぞれ支持されている。軸受18は、回転体16におけるリングギア13よりも軸方向のエンジン1側を支持している。一方、軸受19は、回転体16におけるリングギア13よりも軸方向のエンジン1側と反対側を支持している。
【0068】
ケース34は、回転軸2が挿入される突出部34bを有する。突出部34bは、円筒形状であり、ケース34の内部に向けて突出している。言い換えると、突出部34bは、軸方向のエンジン1側と反対側に向けて突出している。突出部34bは、内周面が軸受を介して回転軸2を支持すると共に、外周面が軸受18を介して回転体16を支持している。オイルポンプ40は、突出部34bの先端に形成された凹部に配置されている。凹部には、ドライブロータ40bおよびドリブンロータ40cが配置されており、凹部の開口部は、蓋40aによって閉塞されている。ドライブロータ40bと接続されたポンプシャフト40dは、ドライブロータ40bから軸方向のエンジン1側と反対側に向けて軸方向に延在している。吐出油路36は、ケース34に形成されている。オイルポンプ40が吐出する潤滑油は、吐出油路36を介して第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、遊星歯車機構10等の被潤滑部に導かれる。
【0069】
オイルポンプ40は、第一ワンウェイクラッチ41を介してリングギア13と接続され、第二ワンウェイクラッチ42を介して回転軸2と接続されている。具体的には、ポンプシャフト40dの径方向外側には、リング部材17が配置されている。リング部材17は、円環形状であり、回転体16の内周面に嵌合している。図10に示すように、リング部材17の内周面と、ポンプシャフト40dの外周面との間には、スプラグ41aが配置されている。第一ワンウェイクラッチ41は、リング部材17を外輪とし、ポンプシャフト40dを内輪としている。スプラグ41aは、ポンプシャフト40dに対してリング部材17が正方向に相対回転する場合にポンプシャフト40dおよびリング部材17にそれぞれ噛み合って両者を係合する。一方、スプラグ41aは、ポンプシャフト40dに対してリング部材17が負方向に相対回転する場合、ポンプシャフト40dとリング部材17との係合を開放し、トルクの伝達を遮断する。
【0070】
ポンプシャフト40dの内周面と回転軸2の外周面との間には、スプラグ42aが配置されている。第二ワンウェイクラッチ42は、ポンプシャフト40dを外輪とし、回転軸2を内輪としている。スプラグ42aは、ポンプシャフト40dに対して回転軸2が正方向に相対回転する場合にポンプシャフト40dおよび回転軸2にそれぞれ噛み合って両者を係合する。一方、スプラグ42aは、ポンプシャフト40dに対して回転軸2が負方向に相対回転する場合、ポンプシャフト40dと回転軸2との係合を開放し、トルクの伝達を遮断する。
【0071】
従って、動力伝達装置の潤滑装置1−3では、回転軸2の回転あるいはリングギア13の回転のいずれか高速の回転がポンプシャフト40dに伝達されてオイルポンプ40を回転駆動する。リングギア13の回転が回転軸2の回転よりも高速である場合、リングギア13の回転が第一ワンウェイクラッチ41を介してオイルポンプ40を回転駆動する。一方、回転軸2の回転がリングギア13の回転よりも高速である場合、回転軸2の回転が第二ワンウェイクラッチ42を介してオイルポンプ40を回転駆動する。これにより、HV走行時や停車発電時だけでなく、EV走行時にもオイルポンプ40が回転駆動されて潤滑油が被潤滑部に供給される。
【0072】
また、動力伝達装置の潤滑装置1−3は、オイルポンプ40、第一ワンウェイクラッチ41および第二ワンウェイクラッチ42が回転体16の内方に配置され、かつ軸受18と軸受19との間に配置されている。これにより、遊星歯車機構10のリングギア13が両持ち支持されている動力伝達装置であっても、リングギア13あるいはエンジン1のいずれかの回転によってオイルポンプ40を回転駆動する潤滑装置が実現可能となる。ハイブリッド車両100が走行しているか、あるいはエンジン1が回転していればオイルポンプ40が駆動されて潤滑油を吐出するため、被潤滑部を適切に潤滑・冷却することが可能となる。
【0073】
上記の各実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0074】
1−1,1−2,1−3 動力伝達装置の潤滑装置
1 エンジン
3 オイルポンプ
4 第一ワンウェイクラッチ(ワンウェイクラッチ)
5 第二ワンウェイクラッチ
10 遊星歯車機構
11 サンギア
12 ピニオンギア
13 リングギア
14 キャリア
29 駆動輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車機構と、
回転駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプと、
ワンウェイクラッチと
を備え、
前記遊星歯車機構のサンギアは第一回転電機に、キャリアはエンジンに、リングギアは駆動輪および第二回転電機にそれぞれ接続され、
前記オイルポンプは、前記ワンウェイクラッチを介して前記第一回転電機と接続されており、
前記ワンウェイクラッチは、ハイブリッド車両の前進走行時の前記リングギアの回転方向を正方向として、前記第一回転電機が負方向に回転する場合の前記第一回転電機の回転を伝達して前記オイルポンプを回転駆動する
ことを特徴とする動力伝達装置の潤滑装置。
【請求項2】
更に、前記エンジンと前記オイルポンプとを接続する第二ワンウェイクラッチを備え、
前記第二ワンウェイクラッチは、前記エンジンが正方向に回転する場合の前記エンジンの回転を前記オイルポンプに伝達し、
前記第一回転電機の負方向の回転速度が前記エンジンの正方向の回転速度よりも高速である場合、前記ワンウェイクラッチを介して伝達される前記第一回転電機の回転が前記オイルポンプを回転駆動し、
前記エンジンの正方向の回転速度が前記第一回転電機の負方向の回転速度よりも高速である場合、前記第二ワンウェイクラッチを介して伝達される前記エンジンの回転が前記オイルポンプを回転駆動する
請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑装置。
【請求項3】
更に、前記エンジンと接続され、前記エンジンの回転によって回転駆動されて潤滑油を吐出する第二オイルポンプを備える
請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑装置。
【請求項4】
前記オイルポンプと前記第二オイルポンプとは同軸上に隣接して配置されている
請求項3に記載の動力伝達装置の潤滑装置。
【請求項1】
遊星歯車機構と、
回転駆動されて潤滑油を吐出するオイルポンプと、
ワンウェイクラッチと
を備え、
前記遊星歯車機構のサンギアは第一回転電機に、キャリアはエンジンに、リングギアは駆動輪および第二回転電機にそれぞれ接続され、
前記オイルポンプは、前記ワンウェイクラッチを介して前記第一回転電機と接続されており、
前記ワンウェイクラッチは、ハイブリッド車両の前進走行時の前記リングギアの回転方向を正方向として、前記第一回転電機が負方向に回転する場合の前記第一回転電機の回転を伝達して前記オイルポンプを回転駆動する
ことを特徴とする動力伝達装置の潤滑装置。
【請求項2】
更に、前記エンジンと前記オイルポンプとを接続する第二ワンウェイクラッチを備え、
前記第二ワンウェイクラッチは、前記エンジンが正方向に回転する場合の前記エンジンの回転を前記オイルポンプに伝達し、
前記第一回転電機の負方向の回転速度が前記エンジンの正方向の回転速度よりも高速である場合、前記ワンウェイクラッチを介して伝達される前記第一回転電機の回転が前記オイルポンプを回転駆動し、
前記エンジンの正方向の回転速度が前記第一回転電機の負方向の回転速度よりも高速である場合、前記第二ワンウェイクラッチを介して伝達される前記エンジンの回転が前記オイルポンプを回転駆動する
請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑装置。
【請求項3】
更に、前記エンジンと接続され、前記エンジンの回転によって回転駆動されて潤滑油を吐出する第二オイルポンプを備える
請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑装置。
【請求項4】
前記オイルポンプと前記第二オイルポンプとは同軸上に隣接して配置されている
請求項3に記載の動力伝達装置の潤滑装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−86654(P2013−86654A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228981(P2011−228981)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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