説明

動力伝達装置

【課題】連結部の潤滑構造を簡素化でき、組付性を向上することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】第1の回転部材3と、第1のケーシング5と、第1の回転部材3と連結部7を介して一体回転可能に連結される第2の回転部材9と、第1のケーシング5に組付けられる第2のケーシング11と、ケーシング5,11の内部空間を区画するシール手段とを備えた動力伝達装置1において、シール手段が、第1のケーシング5と第1の回転部材3との間に設けられた第1のシール部材13と、第2のケーシング11と第2の回転部材9との間に設けられた第2のシール部材15とを有し、連結部7を収容空間17に配置し、収容空間17に、ケーシング5,11とを組付けたときに、第2のシール部材15のシールを解除させ、第2のケーシング11の内部空間と収容空間17とを連通させるシール解除部材19を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つのケーシング内にそれぞれ回転部材を収容し、この2つの回転部材を連結部を介して一体回転可能に連結する動力伝達装置としては、ケーシングとしてのトランスミッションケースとトランスファケースと、それぞれのケーシングに収容された回転部材としてのデフケースと中空軸と、この回転部材の連結部がトランスミッションケース内に配置されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この動力伝達装置では、回転部材の連結部が配置された部分の軸方向一側にシール部材が配置され、トランスミッションケースの内部空間とトランスファケースの内部空間とが区画されている。このため、回転部材の連結部は、トランスミッションケース内に収容された潤滑油によって潤滑されている。
【0004】
ところで、上記特許文献1のような動力伝達装置では、トランスミッションケースとトランスファケースとを組付けた後でなければ、トランスミッションケースの内部に潤滑油を収容することができないシール構造となっている。このため、トランスミッションケース側とトランスファケース側とを別々に取り扱うことができず、分解性や搬送性が低下してしまっていた。加えて、トランスミッションケースとトランスファケースとを組付けた後に潤滑油を給油しなければならないので、組付性も低下していた。
【0005】
これに対して、ケーシングとしてのベル・ハウジングと分配ハウジングと、それぞれのケーシングに収容された回転部材としてのデフケースと連結中空軸と、それぞれのケーシングの内部空間と外部とを区画するシール部材とケーシングとによって形成された収容空間内に回転部材の連結部が配置されたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この動力伝達装置では、回転部材の連結部が配置された収容空間がベル・ハウジングの内部空間と分配ハウジングの内部空間とから独立された空間となっている。このため、ベル・ハウジングと分配ハウジングとを分解したとしても、それぞれのケーシングが密封構造となっているので、外部に潤滑油が漏洩することがなく、それぞれのケーシングの機構を別々に取り扱うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−314796号公報
【特許文献2】特開2008−110748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2のような動力伝達装置では、回転部材の連結部が配置された収容空間が他の空間から独立されているため、回転部材の連結部をケーシングに収容された潤滑油によって潤滑することができなかった。このため、連結部を潤滑するためには、連結部に直接グリスなどの潤滑剤を塗布するか、収容空間と外部とを連通する孔部などを設けて潤滑油を給油するなど、連結部の潤滑構造が複雑化すると共に、組付性も低下していた。
【0009】
そこで、この発明は、連結部の潤滑構造を簡素化でき、組付性を向上することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、第1の回転部材と、この第1の回転部材を収容する第1のケーシングと、前記第1の回転部材と連結部を介して一体回転可能に連結される第2の回転部材と、この第2の回転部材を収容し前記第1のケーシングに組付けられる第2のケーシングと、前記第1のケーシングの内部空間と前記第2のケーシングの内部空間とを区画するシール手段とを備えた動力伝達装置であって、前記シール手段は、前記第1のケーシングと前記第1の回転部材との間に設けられ前記第1のケーシングの内部空間と外部とを区画する第1のシール部材と、前記第2のケーシングと前記第2の回転部材との間に設けられ前記第2のケーシングの内部空間と外部とを区画する第2のシール部材とを有し、前記連結部は、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングと前記第1のシール部材と前記第2のシール部材との間に形成された収容空間に配置され、前記収容空間には、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングとを組付けたときに、前記第1のシール部材と前記第2のシール部材とのうちいずれか一方のシール部材のシールを解除させ、ケーシングの内部空間と前記収容空間とを連通させるシール解除部材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置であって、前記シール解除部材は、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングとを組付けたときに、前記シール解除部材を移動させる移動操作部と、前記シール解除部材の移動により前記一方のシール部材のシールを解除させる解除操作部とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の動力伝達装置であって、前記移動操作部は、前記一方のシール部材が設けられた回転部材とは反対側の他方の回転部材と前記シール解除部材との間に設けられ、前記解除操作部は、前記一方のシール部材と前記シール解除部材との間に設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の動力伝達装置であって、前記移動操作部は、前記一方のシール部材が設けられたケーシングとは反対側の他方のケーシングと前記シール解除部材との間に設けられ、前記解除操作部は、前記一方のシール部材と前記シール解除部材との間に設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、前記解除操作部は、前記シール解除部材の移動により前記一方のシール部材と前記一方のシール部材が設けられた回転部材との間に隙間を形成させることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、前記シール解除部材は、前記一方のシール部材が設けられたケーシングに固定される固定部を有し、前記解除操作部は、前記一方のシール部材と前記固定部との間に設けられ前記シール解除部材の移動により前記一方のシール部材と前記固定部との間に隙間を形成させることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、前記一方のシール部材と前記シール解除部材とは、一体に設けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の発明は、第1の回転部材と、この第1の回転部材を収容する第1のケーシングと、前記第1の回転部材と連結部を介して一体回転可能に連結される第2の回転部材と、この第2の回転部材を収容し前記第1のケーシングに組付けられる第2のケーシングと、前記第1のケーシングの内部空間と前記第2のケーシングの内部空間とを区画するシール手段とを備えた動力伝達装置であって、前記シール手段は、前記第1のケーシングと前記第1の回転部材との間に設けられ前記第1のケーシングの内部空間と外部とを区画する第1のシール部材と、前記第2のケーシングと前記第2の回転部材との間に設けられ前記第2のケーシングの内部空間と外部とを区画する第2のシール部材とを有し、前記連結部は、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングと前記第1のシール部材と前記第2のシール部材との間に形成された収容空間に配置され、前記第1のシール部材と前記第2のシール部材とのうちいずれか一方のシール部材と、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とのうちいずれか一方の回転部材との少なくとも一方には、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とが回転したときに、一方のシール部材のシールを解除させ、ケーシングの内部空間と前記収容空間とを連通させるシール解除部が設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の動力伝達装置であって、前記シール解除部は、前記一方の回転部材に設けられ前記一方の回転部材の回転により前記一方のシール部材と前記一方の回転部材との間に隙間を形成させるらせん溝であることを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の発明は、請求項8又は9記載の動力伝達装置であって、前記一方のシール部材は、前記一方のシール部材が設けられたケーシングの内部空間に収容された潤滑油に対して耐性の低い素材で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の動力伝達装置は、シール手段が第1のケーシングと第1の回転部材との間に設けられ第1のケーシングの内部空間と外部とを区画する第1のシール部材と、第2のケーシングと第2の回転部材との間に設けられ第2のケーシングの内部空間と外部とを区画する第2のシール部材とを有するので、第1のケーシング側と第2のケーシング側とを別々に取り扱うことができ、分解性や搬送性を向上することができる。
【0021】
また、連結部が配置された収容空間に第1のケーシングと第2のケーシングとを組付けたときに、第1のシール部材と第2のシール部材とのうちいずれか一方のシール部材のシールを解除させ、ケーシングの内部空間と収容空間とを連通させるシール解除部材が設けられているので、第1のケーシングと第2のケーシングとを組付けることにより、一方のシール部材が設けられたケーシングの内部空間に収容された潤滑油を収容空間に供給することができる。このため、連結部に対するグリスの塗布や、外部からの収容空間に対する潤滑油の供給構造を必要とすることがなく、第1のケーシングと第2のケーシングとを組付けるだけで、収容空間に潤滑油を供給することができ、連結部を確実に潤滑することができる。
【0022】
従って、連結部が配置された収容空間周辺の大きな設計変更を伴うことなく、第1のケーシングと第2のケーシングとを組付けるだけで収容空間に潤滑油を供給することができるので、連結部の潤滑構造を簡素化でき、組付性を向上することができる。
【0023】
請求項2の動力伝達装置は、シール解除部材が第1のケーシングと第2のケーシングとを組付けたときに、シール解除部材を移動させる移動操作部と、シール解除部材の移動により一方のシール部材のシールを解除させる解除操作部とを有するので、第1のケーシングと第2のケーシングとの組付動作とシール解除部材によるシール解除動作とを連動させることができ、装置の組付性を向上させることができる。
【0024】
請求項3の動力伝達装置は、移動操作部が一方のシール部材が設けられた回転部材とは反対側の他方の回転部材とシール解除部材との間に設けられ、解除操作部が一方のシール部材とシール解除部材との間に設けられているので、シール解除部材が他方の回転部材と一方のシール部材との間に配置され、第1のケーシングと第2のケーシングとの組付けにおいて他方の回転部材でシール解除部材の移動操作部を押圧することにより、シール解除部材を介して一方のシール部材のシールを確実に解除することができる。
【0025】
請求項4の動力伝達装置は、移動操作部が一方のシール部材が設けられたケーシングとは反対側の他方のケーシングとシール解除部材との間に設けられ、解除操作部が一方のシール部材とシール解除部材との間に設けられているので、シール解除部材が他方のケーシングと一方のシール部材との間に配置され、第1のケーシングと第2のケーシングとの組付けにおいてケーシング同士が近接することにより、シール解除部材の解除操作部によって一方のシール部材のシールを確実に解除することができる。
【0026】
請求項5の動力伝達装置は、解除操作部がシール解除部材の移動により一方のシール部材と一方のシール部材が設けられた回転部材との間に隙間を形成させるので、ケーシングの内部空間と収容空間とを確実に連通させ、収容空間内に十分に潤滑油を流入させることができる。
【0027】
請求項6の動力伝達装置は、シール解除部材が一方のシール部材が設けられたケーシングに固定される固定部を有し、解除操作部が一方のシール部材と固定部との間に設けられシール解除部材の移動により一方のシール部材と固定部との間に隙間を形成させるので、シール解除部材の周辺に配置された部材の形状を変更することがなく、既存の部材に対して適用でき、シール解除部材の汎用性を向上することができる。
【0028】
請求項7の動力伝達装置は、一方のシール部材とシール解除部材とが一体に設けられているので、部品点数を削減でき、組付性をさらに向上することができる。
【0029】
請求項8の動力伝達装置は、シール手段が第1のケーシングと第1の回転部材との間に設けられ第1のケーシングの内部空間と外部とを区画する第1のシール部材と、第2のケーシングと第2の回転部材との間に設けられ第2のケーシングの内部空間と外部とを区画する第2のシール部材とを有するので、第1のケーシング側と第2のケーシング側とを別々に取り扱うことができ、分解性や搬送性を向上することができる。
【0030】
また、一方のシール部材と一方の回転部材との少なくとも一方に第1の回転部材と第2の回転部材とが回転したときに、一方のシール部材のシールを解除させ、ケーシングの内部空間と収容空間とを連通させるシール解除部が設けられているので、第1の回転部材と第2の回転部材とが回転することにより、一方のシール部材が設けられたケーシングの内部空間に収容された潤滑油を収容空間に供給することができる。このため、外部からの収容空間に対する潤滑油の供給構造を必要とすることがなく、第1の回転部材と第2の回転部材とが回転するだけで、収容空間に潤滑油を供給することができ、連結部を確実に潤滑することができる。
【0031】
従って、連結部が配置された収容空間周辺の大きな設計変更を伴うことなく、第1の回転部材と第2の回転部材とが回転するだけで収容空間に潤滑油を供給することができるので、連結部の潤滑構造を簡素化でき、組付性を向上することができる。
【0032】
請求項9の動力伝達装置は、シール解除部が一方の回転部材に設けられ一方の回転部材により一方のシール部材と一方の回転部材との間に隙間を形成させるらせん溝であるので、回転部材の回転によりらせん溝によって一方のシール部材を摩耗して確実にケーシングの内部空間と収容空間とを連通させ、収容空間内に十分に潤滑油を流入させることができる。
【0033】
請求項10の動力伝達装置は、一方のシール部材が一方のシール部材が設けられたケーシングの内部空間に収容された潤滑油に対して耐性の低い素材で形成されているので、一方のシール部材が潤滑油によって浸食され、回転部材の回転による一方のシール部材のシール解除を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置の組付前の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置の組付前の要部拡大断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る動力伝達装置の組付前の要部拡大断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る動力伝達装置の組付前の要部拡大断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る動力伝達装置の組付前の要部拡大断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係る動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【図11】本発明の第5実施形態に係る動力伝達装置の組付前の断面図である。
【図12】本発明の第6実施形態に係る動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1〜図12を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0036】
(第1実施形態)
図1〜図4を用いて第1実施形態について説明する。
【0037】
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、第1の回転部材としてのデフケース3と、このデフケース3を収容する第1のケーシングとしてのトランスミッションケース5と、デフケース3と連結部7を介して一体回転可能に連結される第2の回転部材としての中空軸9と、この中空軸9を収容しトランスミッションケース5に組付けられる第2のケーシングとしてのトランスファケース11と、トランスミッションケース5の内部空間とトランスファケース11の内部空間とを区画するシール手段とを備えている。
【0038】
そして、シール手段は、トランスミッションケース5とデフケース3との間に設けられトランスミッションケース5の内部空間と外部とを区画する第1のシール部材13と、トランスファケース11と中空軸9との間に設けられトランスファケース11の内部空間と外部とを区画する第2のシール部材15とを有し、連結部7は、トランスミッションケース5とトランスファケース11と第1のシール部材13と第2のシール部材15との間に形成された収容空間17に配置され、収容空間17には、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、第2のシール部材15のシールを解除させ、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とを連通させるシール解除部材19が設けられている。
【0039】
また、シール解除部材19は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材19を移動させる移動操作部21と、シール解除部材19の移動により第2のシール部材15のシールを解除させる解除操作部23とを有する。
【0040】
さらに、移動操作部21は、第2のシール部材15が設けられた中空軸9とは反対側のデフケース3とシール解除部材19との間に設けられ、解除操作部23は、第2のシール部材15とシール解除部材19との間に設けられている。
【0041】
また、解除操作部23は、シール解除部材19の移動により第2のシール部材15と中空軸9との間に隙間を形成させる。
【0042】
図1〜図4に示すように、動力伝達装置1は、差動機構25と、方向変換機構27と、断続機構29とを備えている。差動機構25は、ピニオン(不図示)と、一対のサイドギヤ31(片側のみ図示)と、デフケース3とを備えている。ピニオンは、デフケース3と一体に回転駆動され、デフケース3の回転によって公転する。また、ピニオンは、一対のサイドギヤ31に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ31に差回転が生じると回転駆動されるように自転可能にデフケース3に支持されている。
【0043】
一対のサイドギヤ31は、デフケース3に相対回転可能に支持され、ピニオンと噛み合っている。この一対のサイドギヤ31は、内周側にスプライン形状の連結部33が設けられ、駆動軸35(片側のみ図示)がサイドギヤ31と一体回転可能に連結され、デフケース3に入力された駆動力を出力する。
【0044】
デフケース3は、軸方向両側に形成されたボス部(片側のみ図示)でそれぞれベアリング(片側のみ図示)を介して静止系部材としてのトランスミッションケース5に回転可能に収容支持されている。このデフケース3にはリングギヤ(不図示)が固定され、このリングギヤがトランスミッション(不図示)側からの駆動力を伝達する動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合い、駆動力が伝達されてデフケース3を回転駆動させる。このような差動機構25は、トランスミッションケース5内に収容されている。
【0045】
トランスミッションケース5は、車体フレームなどの静止系部材(不図示)に固定され、エンジンや電動モータなどの駆動源(不図示)からの駆動力を変速させる変速機構としてのトランスミッション(不図示)や差動機構25などを収容している。このトランスミッションケース5に収容されたトランスミッションから伝達された駆動力は、差動機構25のデフケース3を介してピニオンに伝達され、一対のサイドギヤ31に連結された駆動軸35から左右輪(不図示)に配分されると共に、デフケース3と連結した中空軸9に分岐されて方向変換機構27に伝達される。
【0046】
方向変換機構27は、中空軸9と、出力軸37と、方向変換ギヤ組39とを備えている。中空軸9は、中空状に形成され、軸方向両側を一対のベアリング41,43を介して静止系部材としれのトランスファケース11に回転可能に支持されている。また、中空軸9の内周側には、差動機構25のサイドギヤ31に連結された駆動軸35が中空軸9と相対回転可能に挿通されている。また、中空軸9の軸方向端部の外周には、差動機構25のデフケース3に一体回転可能に連結されるスプライン形状の連結部7が形成され、中空軸9に駆動力が入力される。この中空軸9に入力された駆動力は、出力軸37に出力される。
【0047】
出力軸37は、軸心が中空軸9の軸心に対して交差する方向、詳細には直交方向に配置され、軸方向両側を一対のベアリング(片側のみ図示)を介してトランスファケース11に回転可能に支持されている。この出力軸37の軸方向端部には、出力側の動力伝達機構(不図示)に連結された出力部材(不図示)が一体回転可能に連結され、中空軸9側からの駆動力が方向変換ギヤ組39を介して出力側の伝達機構に出力される。
【0048】
方向変換ギヤ組39は、大径のリングギヤ45と、小径のピニオン47とからなるハイポイドギヤ組で変速駆動されるように構成されている。リングギヤ45は、中空軸9上に形成されたフランジ部49にボルトを介して一体回転可能に固定されている。このリングギヤ45は、ピニオン47と噛み合い、駆動力が中空軸9から出力軸37側へ方向変換されて伝達される。ピニオン47は、出力軸37の軸方向端部に出力軸37と連続する一部材として形成されている。このピニオン47に伝達された駆動力は、出力軸37から出力部材を介して出力側の伝達機構に出力される。
【0049】
このような方向変換機構27は、差動機構25側から中空軸9を介して入力された駆動力を方向変換ギヤ組39によって方向変換し、出力軸37を介して出力側の伝達機構に出力する。また、中空軸9と中空軸9の内周に挿通された駆動軸35との間、すなわち差動機構25におけるデフケース3とサイドギヤ31との間は断続機構29によって断続され、差動機構25の差動が断続される。
【0050】
断続機構29は、内側回転部材51と、外側回転部材53と、断続部55と、アクチュエータ57とを備えている。内側回転部材51は、軸方向の一端側が中空状に形成され、内周にスプライン形状の連結部59が形成されている。この連結部59には、駆動軸35の軸方向端部側の外周が内側回転部材51と一体回転可能に連結されている。また、内側回転部材51の外周には、断続部55の内側クラッチ板が係合される係合部61が形成されている。また、内側回転部材51の軸方向の他端側外周には、スプライン形状の連結部63が形成され、車輪側に連結されたフランジ部材65が内側回転部材51と一体回転可能に連結されている。この内側回転部材51の外周側には、Xリング67,69とベアリング71,73とを介して外側回転部材53が内側回転部材51と相対回転可能に配置されている。なお、Xリング67,69は、シール手段としても機能しており、外側回転部材53の内部と外部とを区画している。
【0051】
外側回転部材53は、クラッチハウジング75と、ロータ77とを備えている。クラッチハウジング75は、筒状に形成され軸方向一側の小径の筒部の外周にスプライン形状の連結部79が形成されている。この連結部79には、中空軸9の軸方向端部側の内周が外側回転部材53と一体回転可能に連結されている。また、クラッチハウジング75の小径の筒部と大径の筒部とを連結する壁部には、外側回転部材53の内部に封入される潤滑油を供給させる供給孔81が設けられ、この供給孔81は潤滑油の供給後に蓋部材83によって閉塞される。また、クラッチハウジング75の軸方向他側の大径の筒部の内周には、断続部55の外側クラッチ板が係合される係合部85が形成されている。このクラッチハウジング75の軸方向他側の端部内周には、ねじ形状の連結部87が形成され、ナット89とのダブルナット機能によりロータ77と一体回転可能にねじ締結されている。
【0052】
ロータ77は、磁性材料からなり、アクチュエータ57の電磁石97と軸方向に隣接配置され、電磁石97の励磁による磁束を透過して磁路を形成させる。なお、ロータ77とクラッチハウジング75との径方向間にはシール手段としてのOリング91が配置され、Xリング67,69と共に外側回転部材53の内部と外部とを区画している。また、トランスファケース11とクラッチハウジング75との径方向間及びトランスファケース11とフランジ部材65との間にはシール93,95が配置され、外側回転部材53の外部空間とトランスファケース11の外部とが区画されている。このような外側回転部材53と内側回転部材51とは、断続部55によって駆動力の伝達が断続される。
【0053】
断続部55は、複数の内側クラッチ板と、複数の外側クラッチ板とを備えている。複数の内側クラッチ板は、内側回転部材51の外周に形成された係合部61に軸方向移動可能で内側回転部材51と一体回転可能に係合されている。複数の外側クラッチ板は、複数の内側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、外側回転部材53のクラッチハウジング75の内周に形成された係合部85に軸方向移動可能で外側回転部材53と一体回転可能に係合されている。この断続部55は、複数の内側クラッチ板と複数の外側クラッチ板とで構成された多板クラッチであり、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチとなっている。この断続部55は、アクチュエータ57によって制御可能に断続操作される。
【0054】
アクチュエータ57は、ロータ77を含め、電磁石97と、アーマチャ99と、パイロットクラッチ101と、カム機構103と、プレッシャリング105とを備えている。電磁石97は、ベアリングを介して外側回転部材53に支持されると共に、静止系部材であるトランスファケース11に対して回り止め部材107によって回り止めされ、電磁コイル109とコア111とを備えている。コア111は、リード線113を介して通電を制御するコントローラ(不図示)に接続されており、コントローラの制御によって断続部55に必要な摩擦トルクを生じさせるように電磁コイル109に通電される。この電磁石97の励磁により、アーマチャ99が吸引移動される。
【0055】
アーマチャ99は、磁性材料からなり、外側回転部材53内に軸方向移動可能で軸方向にパイロットクラッチ101を挟んでロータ77と対向配置されている。このアーマチャ99は、電磁石97が励磁されたとき、コア111、ロータ77、パイロットクラッチ101、アーマチャ99を介した磁力線が循環されて形成される磁束ループによって電磁石97側に吸引移動され、パイロットクラッチ101を接続させる。
【0056】
パイロットクラッチ101は、外側回転部材53内でロータ77とアーマチャ99との軸方向間に配置され、クラッチハウジング75の係合部85に軸方向移動可能で外側回転部材53と一体回転可能に連結する複数の外側プレートと、カムリング115の外周に複数の外側プレートに対して軸方向間に配置され軸方向移動可能でカムリング115と一体回転可能に連結する内側プレートとで構成されている。このパイロットクラッチ101の締結トルクは、カム機構103を介して軸方向推力に変換され、プレッシャリング105で断続部55を押圧して所定の駆動トルクが伝達される。
【0057】
カム機構103は、カムリング115とプレッシャリング105とに周方向に形成されたカム面を対向させ、この間に介在させたカムボール117を備えている。カムリング115は、内側回転部材51の外周に軸方向移動可能に配置され、パイロットクラッチ101の内側プレートが一体回転可能に連結されている。カムボール117は、カムリング115とプレッシャリング105とに形成されたカム面の間に配置されている。このカムボール117は、パイロットクラッチ101の接続によってカムリング115とプレッシャリング105との間に差回転が生じることにより、パイロットクラッチ101に生じる摩擦トルクに応じた強さでプレッシャリング105を断続部55の接続方向へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0058】
プレッシャリング105は、内側回転部材51の外周に軸方向移動可能に配置されている。このプレッシャリング105は、カム機構103で生じるスラスト力によって断続部55の接続方向に軸方向移動され、断続部55に押圧力を付与して接続させ、内側回転部材51と外側回転部材53とを接続させる。
【0059】
このような断続機構29は、電磁石97への通電制御によってアーマチャ99が吸引移動され、パイロットクラッチ101を押圧し、パイロットクラッチ101が制御された摩擦トルクをもって接続される。パイロットクラッチ101が接続されるとカム機構103でカムスラスト力が発生してプレッシャリング105が断続部55側に押圧移動される。このプレッシャリング105の移動により断続部55が接続され、内側回転部材51と外側回転部材53とが接続される。この内側回転部材51と外側回転部材53との接続により、中空軸9と駆動軸35、すなわちデフケース3とサイドギヤ31とが接続され、差動機構25での差動が制限される。この断続機構29や方向変換機構27は、トランスファケース11内に収容されている。
【0060】
トランスファケース11は複数の分割ケースからなり、一側に組付部119が形成され、トランスミッションケース5に対して組付けられる。なお、組付部119のトランスミッションケース5とトランスファケース11との間には、シール手段としてのOリング121が配置され、収容空間17の内部と外部とを区画している。このトランスファケース11の内部空間とトランスミッションケース5の内部空間とは、第1のシール部材13と第2のシール部材15とを有するシール手段によって区画されている。
【0061】
第1のシール部材13は、トランスミッションケース5とデフケース3との間に配置され、トランスミッションケース5の内部空間と外部とを区画している。また、デフケース3とサイドギヤ31との間にはシール123が配置され、このシール123も第1のシール部材として機能している。この第1のシール部材13によって内部空間と外部とが区画されたトランスミッションケース5には、ギヤの噛み合い部や摺動部を潤滑・冷却するトランスミッションオイルが封入されている。このように第1のシール部材13を設けることにより、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付ける前の状態では、トランスミッションケース5からトランスミッションオイルが外部に漏洩することがなく、トランスミッションケース5側の機構を独立して設計することができる。
【0062】
第2のシール部材15は、トランスファケース11と中空軸9との間に配置され、トランスファケース11の内部空間と外部とを区画している。また、トランスファケース11の分割ケースの結合部及び中空軸9とクラッチハウジング75との間にはシール手段としてのOリング125,127が配置され、このOリング125,127も第2のシール部材として機能している。この第2のシール部材15によって内部空間と外部とが区画されたトランスファケース11には、方向変換ギヤ組39や摺動部を潤滑・冷却するトランスファオイルが封入されている。このように第2のシール部材15を設けることにより、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付ける前の状態では、トランスファケース11からトランスファオイルが外部に漏洩することがなく、トランスファケース11側の機構を独立して設計することができる。
【0063】
このようにトランスミッションオイルが封入されたトランスミッションケース5と、トランスファオイルが封入されたトランスファケース11との間に位置するデフケース3と中空軸9との連結部7は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けた状態で形成される収容空間17に配置されている。
【0064】
収容空間17は、第1のシール部材13の外部側と第2のシール部材15の外部側とトランスミッションケース5の内周とトランスファケース11の内周との間に形成されている。この収容空間17には、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付ける前ではどちらのオイルも供給されず、連結部7は潤滑されていない。このため、収容空間17には、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、第2のシール部材15のシールを解除させ、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とを連通させるシール解除部材19が設けられている。
【0065】
シール解除部材19は、筒状に形成され、移動操作部21と、解除操作部23とを備えている。移動操作部21は、シール解除部材19の軸方向一側に設けられ、デフケース3の軸方向の端面129とシール解除部材19の軸方向一側の端面131とが当接する当接部となっている。この移動操作部21は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材19の端面131がデフケース3の端面129と当接することにより、シール解除部材19をトランスファケース11側に移動させる。このシール解除部材19の移動により、解除操作部23によって第2のシール部材15のシールが解除される。
【0066】
解除操作部23は、シール解除部材19の軸方向他側に設けられ、第2のシール部材15のリップ部133とシール解除部材19の軸方向他側の端部135とが当接する当接部137と、シール解除部材19の端部135の外周に形成された溝部139とを備えている。当接部137は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材19の移動により第2のシール部材15のリップ部133がシール解除部材19の端部135によって上方に押し上げられ、第2のシール部材15のリップ部133がシール解除部材19の端部135の外周に乗り上げるように機能する。溝部139は、シール解除部材19の端部135の外周に周方向に複数形成され、第2のシール部材15のリップ部133がシール解除部材19の端部135の外周に乗り上げたときに、第2のシール部材15のリップ部133とシール解除部材19の端部135の外周との間に隙間を形成させるように機能する。この解除操作部23により、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、当接部137によって第2のシール部材15のシールが解除され、溝部139によって第2のシール部材15と中空軸9との間に隙間が形成される。このとき、シール解除部材19の端面131とデフケース3の端面131との間はシールされていないので、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とが連通されてトランスファオイルを収容空間17内に供給することができ、デフケース3と中空軸9との連結部7を確実に潤滑することができる。なお、連結部7への潤滑油の供給を確実にするために、シール解除部材19の端面131とデフケース3の端面129との間に加えて、シール解除部材19に上方と下方とを連通する孔部141が設けられている。
【0067】
このような動力伝達装置1では、シール手段がトランスミッションケース5とデフケース3との間に設けられトランスミッションケース5の内部空間と外部とを区画する第1のシール部材13と、トランスファケース11と中空軸9との間に設けられトランスファケース11の内部空間と外部とを区画する第2のシール部材15とを有するので、トランスミッションケース5側とトランスファケース11側とを別々に取り扱うことができ、分解性や搬送性を向上することができる。
【0068】
また、連結部7が配置された収容空間17にトランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、第2のシール部材15のシールを解除させ、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とを連通させるシール解除部材19が設けられているので、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けることにより、第2のシール部材15が設けられたトランスファケース11の内部空間に収容された潤滑油を収容空間17に供給することができる。このため、連結部7に対するグリスの塗布や、外部からの収容空間17に対する潤滑油の供給構造を必要とすることがなく、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けるだけで、収容空間17に潤滑油を供給することができ、連結部7を確実に潤滑することができる。
【0069】
従って、連結部7が配置された収容空間17周辺の大きな設計変更を伴うことなく、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けるだけで収容空間17に潤滑油を供給することができるので、連結部7の潤滑構造を簡素化でき、組付性を向上することができる。
【0070】
また、シール解除部材19がトランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材19を移動させる移動操作部21と、シール解除部材19の移動により第2のシール部材15のシールを解除させる解除操作部23とを有するので、トランスミッションケース5とトランスファケース11との組付動作とシール解除部材19によるシール解除動作とを連動させることができ、装置の組付性を向上させることができる。
【0071】
さらに、移動操作部21が第2のシール部材15が設けられた中空軸9とは反対側のデフケース3とシール解除部材19との間に設けられ、解除操作部23が第2のシール部材15とシール解除部材19との間に設けられているので、シール解除部材19がデフケース3と第2のシール部材15との間に配置され、トランスミッションケース5とトランスファケース11との組付けにおいてデフケース3でシール解除部材19の移動操作部21を押圧することにより、シール解除部材19を介して第2のシール部材15のシールを確実に解除することができる。
【0072】
また、解除操作部23がシール解除部材19の移動により第2のシール部材15と中空軸9との間に隙間を形成させるので、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とを確実に連通させ、収容空間17内に十分に潤滑油を流入させることができる。
【0073】
(第2実施形態)
図5,図6を用いて第2実施形態について説明する。
【0074】
本実施の形態に係る動力伝達装置201は、第2のシール部材203とシール解除部材205とは、一体に設けられている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、得られる効果は同一である。
【0075】
図5,図6に示すように、シール解除部材205は、解除操作部207が設けられた端部209側が第2のシール部材203のリップ部211と一体に設けられている。なお、第2のシール部材203とシール解除部材205とをそれぞれ別体で設けて接着などによって一体に設けてもよいし、第2のシール部材203とシール解除部材205とを連続する一部材として設けてもよい。このシール解除部材205の解除操作部207は、第2のシール部材203のリップ部211と一体に設けられているため、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、移動操作部21によってシール解除部材205がトランスファケース11側に移動され、第2のシール部材203のリップ部211を上方に押し上げる。この第2のシール部材203のリップ部211の上方への移動により、第2のシール部材203のリップ部211と中空軸9の外周面213との間に隙間が形成され、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とが連通されてトランスファオイルを収容空間17内に供給することができ、デフケース3と中空軸9との連結部7を確実に潤滑することができる。
【0076】
このような動力伝達装置201では、第2のシール部材203とシール解除部材205とが一体に設けられているので、部品点数を削減でき、組付性をさらに向上することができる。
【0077】
(第3実施形態)
図7,図8を用いて第3実施形態について説明する。
【0078】
本実施の形態に係る動力伝達装置301は、第2のシール部材303とシール解除部材305とは、一体に設けられている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、得られる効果は同一である。
【0079】
図7,図8に示すように、第2のシール部材303は、Oリングからなり、トランスファケース11と中空軸9との間に配置されたシール解除部材305と一体に設けられている。この第2のシール部材303をシール解除部材305に設けることにより、トランスファケース11の内部空間と外部とが区画される。
【0080】
シール解除部材305は、筒状に形成され、移動操作部307と、解除操作部309とを備えている。移動操作部307は、シール解除部材305の軸方向一側に設けられ、デフケース3の軸方向の端面129とシール解除部材305の軸方向一側の端面311とが当接する当接部となっている。この移動操作部307は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材305の端面311がデフケース3の端面129と当接することにより、シール解除部材305をトランスファケース11側に移動させる。このシール解除部材305の移動により、解除操作部309によって第2のシール部材303のシールが解除される。
【0081】
解除操作部309は、シール解除部材305の軸方向他側に設けられ、シール解除部材305がトランスファケース11側に移動されたときに、第2のシール部材303のシールを解除させるための中空軸9の外周に形成された溝部313を備えている。この溝部313は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材305の移動によって第2のシール部材303が溝部313の上方に位置することにより、第2のシール部材303のシールを解除させるように機能する。この解除操作部309により、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、溝部313によって第2のシール部材303のシールが解除され、シール解除部材305と中空軸9との間に隙間が形成され、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とが連通されてトランスファオイルを収容空間17内に供給することができ、デフケース3と中空軸9との連結部7を確実に潤滑することができる。なお、シール解除部材305が移動されたときに、シール解除部材305と中空軸9との間に形成される隙間を大きくするために、シール解除部材305に溝部315などを設けてもよい。
【0082】
このような動力伝達装置301では、第2のシール部材303とシール解除部材305とが一体に設けられているので、部品点数を削減でき、組付性をさらに向上することができる。
【0083】
また、第2のシール部材303をOリングなどのように簡素な構造にすることができ、シール構造を簡素化することができる。
【0084】
(第4実施形態)
図9,図10を用いて第4実施形態について説明する。
【0085】
本実施の形態に係る動力伝達装置401は、シール解除部材403は、第2のシール部材405が設けられたトランスファケース11に固定される固定部407を有し、解除操作部409は、第2のシール部材405と固定部407との間に設けられシール解除部材403の移動により第2のシール部材405と固定部407との間に隙間を形成させる。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、得られる効果は同一である。
【0086】
図9,図10に示すように、第2のシール部材405は、Oリングからなり、トランスファケース11と中空軸9との間に配置されたシール解除部材403の基部411と一体に設けられ、シール解除部材403の基部411と固定部407との間に配置されている。この第2のシール部材405をシール解除部材403の基部411と固定部407との間に設けることにより、トランスファケース11の内部空間と外部とが区画される。
【0087】
シール解除部材403は、移動可能な基部411とトランスファケース11に固定される固定部407とが別体で形成され、移動操作部413と、解除操作部409とを備えている。移動操作部413は、シール解除部材403の軸方向一側に設けられ、デフケース3の軸方向の端面129とシール解除部材403の基部411の軸方向一側の端面415とが当接する当接部となっている。この移動操作部413は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材403の基部411の端面415がデフケース3の端面129と当接することにより、シール解除部材403の基部411をトランスファケース11側に移動させる。このシール解除部材403の基部411の移動により、解除操作部409によって第2のシール部材405のシールが解除される。
【0088】
解除操作部409は、シール解除部材403の軸方向他側に設けられ、シール解除部材403の基部411がトランスファケース11側に移動されたときに、第2のシール部材405と固定部407との間のシールを解除させる。この解除操作部409により、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材403の基部411の移動によって第2のシール部材405のシールが解除され、シール解除部材403の基部411と固定部407との間に隙間が形成される。このとき、シール解除部材403の基部411の端面415とデフケース3の端面129との間はシールされていないので、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とが連通されてトランスファオイルを収容空間17内に供給することができ、デフケース3と中空軸9との連結部7を確実に潤滑することができる。
【0089】
なお、シール解除部材403の基部411が移動されたときに、シール解除部材403の基部411と固定部407との間に形成される隙間を大きくするために、シール解除部材403の基部411に溝部417などを設けてもよい。また、連結部7への潤滑油の供給を確実にするために、シール解除部材403の基部411の端面415とデフケース3の端面129との間に加えて、シール解除部材403の基部411に上方と下方とを連通する孔部419などを設けてもよい。さらに、シール解除部材403の基部411に第2のシール部材405を設けているが、シール解除部材403の基部411に溝部417などが設けられている場合には、固定部407に第2のシール部材405を一体に設けてもよい。この場合、シール解除部材403の基部411の移動によって第2のシール部材405が溝部417の上方に位置することにより、第2のシール部材405のシールが解除される。
【0090】
このような動力伝達装置401では、シール解除部材403が第2のシール部材405が設けられたトランスファケース11に固定される固定部407を有し、解除操作部409が第2のシール部材405と固定部407との間に設けられシール解除部材403の移動により第2のシール部材405と固定部407との間に隙間を形成させるので、シール解除部材403の周辺に配置された部材の形状を変更することがなく、既存の部材に対して適用でき、シール解除部材403の汎用性を向上することができる。
【0091】
(第5実施形態)
図11を用いて第5実施形態について説明する。
【0092】
本実施の形態に係る動力伝達装置501は、移動操作部505は、第2のシール部材15が設けられたトランスファケース11とは反対側のトランスミッションケース5とシール解除部材503との間に設けられ、解除操作部507は、第2のシール部材15とシール解除部材503との間に設けられている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、得られる効果は同一である。
【0093】
図11に示すように、シール解除部材503は、筒状に形成され、移動操作部505と、解除操作部507とを備えている。移動操作部505は、シール解除部材503の軸方向一側に設けられ、トランスミッションケース5の内周面に対してシール解除部材503の軸方向一側の端部が固定される固定部となっている。なお、固定部は、トランスミッションケース5の内周面に対する接着などの固定であってもよいし、接着などを必要としない程度の圧着力があればトランスミッションケース5の内周面に対する圧入などの固定であってもよい。この移動操作部505は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、固定部によってトランスミッションケース5に固定されたシール解除部材503がトランスミッションケース5と共にトランスファケース11側に移動される。このシール解除部材503の移動により、解除操作部507によって第2のシール部材15のシールが解除される。
【0094】
解除操作部507は、シール解除部材503の軸方向他側に設けられ、第2のシール部材15のリップ部133とシール解除部材503の軸方向他側の端部509とが当接する当接部511を備えている。当接部511は、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、シール解除部材503の移動により第2のシール部材15のリップ部133がシール解除部材503の端部509によって上方に押し上げられ、第2のシール部材15のリップ部133がシール解除部材503の端部509の外周に乗り上げるように機能する。この解除操作部507により、トランスミッションケース5とトランスファケース11とを組付けたときに、当接部511によって第2のシール部材15のシールが解除され、第2のシール部材15と中空軸9との間に隙間が形成される。このとき、シール解除部材503と中空軸9との間はシールされていないので、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とが連通されてトランスファオイルを収容空間17内に供給することができ、デフケース3と中空軸9との連結部7を確実に潤滑することができる。
【0095】
このような動力伝達装置501では、移動操作部505が第2のシール部材15が設けられたトランスファケース11とは反対側のトランスミッションケース5とシール解除部材503との間に設けられ、解除操作部507が第2のシール部材15とシール解除部材503との間に設けられているので、シール解除部材503がトランスミッションケース5と第2のシール部材15との間に配置され、トランスミッションケース5とトランスファケース11との組付けにおいてトランスミッションケース5とトランスファケース11とが近接することにより、シール解除部材503の解除操作部507によって第2のシール部材15のシールを確実に解除することができる。
【0096】
(第6実施形態)
図12を用いて第6実施形態について説明する。
【0097】
本実施の形態に係る動力伝達装置601は、中空軸603には、中空軸603が回転したときに、第2のシール部材605のシールを解除させ、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とを連通させるシール解除部607が設けられている。
【0098】
また、シール解除部607は、中空軸603の回転により第2のシール部材605と中空軸603との間に隙間を形成させるらせん溝609である。
【0099】
さらに、第2のシール部材605は、トランスファケース11の内部空間に収容された潤滑油に対して耐性の低い素材で形成されている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、得られる効果は同一である。
【0100】
図12に示すように、中空軸603の第2のシール部材605のリップ部611と当接する部分には、シール解除部607としてのらせん溝609が設けられている。このらせん溝609は、中空軸603が回転していないときにはらせん溝609からトランスファケース11の外部にトランスファオイルが流出しないように設定されている。このため、中空軸603が回転しないトランスファケース11の組付前の状態では、第2のシール部材605によってトランスファケース11の外部にトランスファオイルが漏洩することがない。また、らせん溝609は、中空軸603が回転したときにはらせん溝609から収容空間17に向けてトランスファオイルを流出させるオイルポンプ機能を有する。また、らせん溝609は、第2のシール部材605のリップ部611と当接しているため、中空軸603の回転によってらせん溝609による第2のシール部材605のリップ部611の摩耗を促進させ、第2のシール部材605と中空軸603との間に隙間を形成させる。また、第2のシール部材605は、トランスファオイルに対して耐性の低い素材で形成されている。このため、らせん溝609による第2のシール部材605のリップ部611の摩耗に加えて、トランスファオイルの浸食によって第2のシール部材605が劣化され、第2のシール部材605のシール解除を促進することができる。なお、中空軸603の回転により収容空間17に潤滑油を確実に供給することができるが、中空軸603が回転していない組付初期の段階では連結部7に対して必要最低限のグリスなどを塗布することが好ましい。
【0101】
このような動力伝達装置601では、中空軸603に中空軸603が回転したときに、第2のシール部材605のシールを解除させ、トランスファケース11の内部空間と収容空間17とを連通させるシール解除部607が設けられているので、中空軸603が回転することにより、トランスファケース11の内部空間に収容された潤滑油を収容空間17に供給することができる。このため、外部からの収容空間17に対する潤滑油の供給構造を必要とすることがなく、中空軸603が回転するだけで、収容空間17に潤滑油を供給することができ、連結部7を確実に潤滑することができる。
【0102】
従って、連結部7が配置された収容空間17周辺の大きな設計変更を伴うことなく、中空軸603が回転するだけで収容空間17に潤滑油を供給することができるので、連結部7の潤滑構造を簡素化でき、組付性を向上することができる。
【0103】
また、シール解除部607が中空軸603の回転により第2のシール部材605と中空軸603との間に隙間を形成させるらせん溝609であるので、中空軸603の回転によりらせん溝609によって第2のシール部材605を摩耗して確実にトランスファケース11の内部空間と収容空間17とを連通させ、収容空間17内に十分に潤滑油を流入させることができる。
【0104】
さらに、第2のシール部材605がトランスファオイルに対して耐性の低い素材で形成されているので、第2のシール部材605がトランスファオイルによって浸食され、中空軸603の回転による第2のシール部材605のシール解除を促進することができる。
【0105】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、シール解除部材が第1のケーシングと第2のケーシングとの組付けによって第2のシール部材のシールを解除する構成としているが、シール解除部材が第1のシール部材のシールを解除させて第1のケーシングの内部空間と収容空間とを連通させてもよい。
【0106】
また、第1のケーシング側をトランスミッションや差動機構などが配置された構造とし、第2のケーシング側を方向変換機構や断続機構などが配置された構造としているが、これに限らず、一体回転可能に連結する連結部を備えた第1の回転部材と第2の回転部材とを有する構造であれば第1のケーシング側や第2のケーシング側にはどのような機構が配置されてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1,201,301,401,501,601…動力伝達装置
3…デフケース
5…トランスミッションケース
7…連結部
9,603…中空軸
11…トランスファケース
13…第1のシール部材
15,203,303,405,605…第2のシール部材
17…収容空間
19,205,305,403,503…シール解除部材
21,307,413,505…移動操作部
23,207,309,409,507…解除操作部
607…シール解除部
609…らせん溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転部材と、この第1の回転部材を収容する第1のケーシングと、前記第1の回転部材と連結部を介して一体回転可能に連結される第2の回転部材と、この第2の回転部材を収容し前記第1のケーシングに組付けられる第2のケーシングと、前記第1のケーシングの内部空間と前記第2のケーシングの内部空間とを区画するシール手段とを備えた動力伝達装置であって、
前記シール手段は、前記第1のケーシングと前記第1の回転部材との間に設けられ前記第1のケーシングの内部空間と外部とを区画する第1のシール部材と、前記第2のケーシングと前記第2の回転部材との間に設けられ前記第2のケーシングの内部空間と外部とを区画する第2のシール部材とを有し、前記連結部は、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングと前記第1のシール部材と前記第2のシール部材との間に形成された収容空間に配置され、
前記収容空間には、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングとを組付けたときに、前記第1のシール部材と前記第2のシール部材とのうちいずれか一方のシール部材のシールを解除させ、ケーシングの内部空間と前記収容空間とを連通させるシール解除部材が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記シール解除部材は、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングとを組付けたときに、前記シール解除部材を移動させる移動操作部と、前記シール解除部材の移動により前記一方のシール部材のシールを解除させる解除操作部とを有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の動力伝達装置であって、
前記移動操作部は、前記一方のシール部材が設けられた回転部材とは反対側の他方の回転部材と前記シール解除部材との間に設けられ、前記解除操作部は、前記一方のシール部材と前記シール解除部材との間に設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項2記載の動力伝達装置であって、
前記移動操作部は、前記一方のシール部材が設けられたケーシングとは反対側の他方のケーシングと前記シール解除部材との間に設けられ、前記解除操作部は、前記一方のシール部材と前記シール解除部材との間に設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記解除操作部は、前記シール解除部材の移動により前記一方のシール部材と前記一方のシール部材が設けられた回転部材との間に隙間を形成させることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記シール解除部材は、前記一方のシール部材が設けられたケーシングに固定される固定部を有し、前記解除操作部は、前記一方のシール部材と前記固定部との間に設けられ前記シール解除部材の移動により前記一方のシール部材と前記固定部との間に隙間を形成させることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記一方のシール部材と前記シール解除部材とは、一体に設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項8】
第1の回転部材と、この第1の回転部材を収容する第1のケーシングと、前記第1の回転部材と連結部を介して一体回転可能に連結される第2の回転部材と、この第2の回転部材を収容し前記第1のケーシングに組付けられる第2のケーシングと、前記第1のケーシングの内部空間と前記第2のケーシングの内部空間とを区画するシール手段とを備えた動力伝達装置であって、
前記シール手段は、前記第1のケーシングと前記第1の回転部材との間に設けられ前記第1のケーシングの内部空間と外部とを区画する第1のシール部材と、前記第2のケーシングと前記第2の回転部材との間に設けられ前記第2のケーシングの内部空間と外部とを区画する第2のシール部材とを有し、前記連結部は、前記第1のケーシングと前記第2のケーシングと前記第1のシール部材と前記第2のシール部材との間に形成された収容空間に配置され、
前記第1のシール部材と前記第2のシール部材とのうちいずれか一方のシール部材と、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とのうちいずれか一方の回転部材との少なくとも一方には、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とが回転したときに、一方のシール部材のシールを解除させ、ケーシングの内部空間と前記収容空間とを連通させるシール解除部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項9】
請求項8記載の動力伝達装置であって、
前記シール解除部は、前記一方の回転部材に設けられ前記一方の回転部材の回転により前記一方のシール部材と前記一方の回転部材との間に隙間を形成させるらせん溝であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項10】
請求項8又は9記載の動力伝達装置であって、
前記一方のシール部材は、前記一方のシール部材が設けられたケーシングの内部空間に収容された潤滑油に対して耐性の低い素材で形成されていることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−144857(P2011−144857A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5080(P2010−5080)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】