説明

動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する装置および方法

【課題】動力者の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する装置および方法を提供する。
【解決手段】 装置(1)は、ブレーキライニング(3)を取り付ける取付装置(2)と、ブレーキライニング(3)に割り当てられたブレーキディスクモデル(7)を固定する固定装置(6)とを有し、この固定プロセスは、ブレーキライニング(3)がブレーキディスクモデル(7)とともに接触面(8)を圧迫することができるように行われる。さらに、装置(1)は、プレテンション装置(9)によって、ブレーキライニング(3)を、絶対値および方向に関して所定の圧力(10、10’)でブレーキディスクモデル(7)に対して押圧することができるように、取付装置(2)および/または固定装置(6)に結合される。さらに、装置(1)は、ブレーキディスクモデル(7)および/またはブレーキライニング(3)に結合することができる、ブレーキディスクモデル(7)および/またはブレーキライニング(3)の振動を励起する励振装置(13、13’)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明を、路上走行車および鉄道車両、航空機または他の交通輸送手段、ならびに可動機械部品を制動するために用いられるような、多種多様のブレーキの関連で適用することができるが、本発明およびそれが基づく問題について、動力車用、特に自動車用のディスクブレーキの例を使用して以下により詳細に説明する。
【0003】
広く普及しているディスクブレーキの設計では、ブレーキライニングが、回転しているブレーキディスクに対してブレーキピストンによって押圧される。これに関して、ブレーキディスクは、通常、回転部品、動力車の場合はホイールのハブに連結される。この種のディスクブレーキを使用する回転ホイールの制動中、ブレーキライニングとブレーキディスクとの間の接触面において摺動摩擦が発生する。この摩擦プロセスの結果として、回転ディスクの運動エネルギーが消費され熱に変換される。ブレーキライニングとブレーキディスクとの間の接触面にわたって接触圧力のより均一な分布をもたらすために、複数のブレーキピストンが使用されることも多い。
【0004】
ディスクブレーキ用のブレーキディスクを、たとえば、ねずみ鋳鉄から製造することができるが、またセラミック複合材料から製造することも可能である。セラミック複合材料は、特に、それらから製造されるブレーキディスクがより軽量であり、摩耗がより少なく、かつ腐食傾向がより低いため、この関連では有利であり得る。車両では、カーボンセラミックブレーキディスクと呼ばれる、特殊セラミック繊維複合材からなるブレーキディスクもまた使用される。
【0005】
既知のブレーキライニングでは、バックプレートとも呼ばれるキャリアプレートが設けられ、それは通常金属材料から製造され、後に制動プロセス中にブレーキディスクと接触する摩擦材料が、前記キャリアプレートに取り付けられ、たとえば接合されている。
【0006】
そして、制動プロセス中に回転するブレーキディスク上にこうしたブレーキライニングが押圧される場合、ブレーキライニングとブレーキディスクとの間の摺動および同時に摩擦相対移動により、ブレーキライニングに振動が励起される可能性があり、その振動が、特に動力車において非常に不快であると感じられるブレーキ鳴きを伴う可能性があり、したがって、可能な限りそうしたノイズを低減するよう努力がなされている。
【0007】
しかしながら、ブレーキライニングを含む実際の振動システムからは、所定のタイプの動力車の所与のディスクブレーキの少なくとも本質的な部品が組み立てられる時まで、ブレーキ鳴きは発生しないため、走行モードで発生するブレーキ鳴きの詳細な調査には高い費用がかかる。
【0008】
選択された設計のブレーキディスクと接触する同様に選択されたタイプのブレーキライニングのノイズ挙動が、使用状況下で調査されるべきである場合、たとえば、選択されたブレーキディスクおよび選択されたブレーキライニングを動力車に取り付け、続いて、それを用いて試運転を行うことが可能である。試運転の過程において行われる測定に基づき、最終的に、使用されるブレーキライニングの振動挙動に関する確定的な情報を得ようと試みることも可能である。しかしながら、こうした試運転はコストがかかりかつ時間がかかる。種々のブレーキライニングの振動挙動を、種々のタイプのブレーキディスクと接触もさせて系統的に確定し評価することに費やされる莫大な時間は、深刻な障害になる。さらに、取り付けられたブレーキライニングには通常アクセスしにくいことにより、車両に取り付けられたブレーキライニングに対するこうした調査は、測定を行うことに関連してさらに困難である。
【0009】
特許文献1は、たとえば、ディスクブレーキに対するノイズ試験装置を記載している。前記文書に提示されている装置では、ブレーキライニングは、回転するブレーキディスクに作用する。この装置では、動作状態にある実際のディスクブレーキの場合と同様に、ブレーキライニングとブレーキディスクとの間の摺動摩擦プロセスにより、ブレーキ鳴きの発生に至る可能性のある振動システムの励振ももたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公告第10 2005 059 015 B4号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2006 020 723 A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第100 06 391 A1号明細書
【特許文献4】米国特許第63 82 027 B1号明細書
【特許文献5】米国特許第61 45 382 A号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ノイズの発生基準に関して所与の設計のディスクブレーキとともに使用される所与のブレーキライニングの適合性の系統的な評価に関しては、確定することが困難でありかつ環境によってはディスクブレーキの耐用年数にわたって変化する摺動摩擦プロセスの、場合によっては未知の詳細によって、結果が影響を受けることなく、ブレーキライニングの振動挙動を正確に確定することができることが望ましい。
【0012】
したがって、本発明は、わずかな費用で、混乱を招く影響から十分に隔離された、ブレーキライニングの振動挙動の系統的な確定を可能にする装置および方法を提供するという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1の特徴を有する装置によって、かつ請求項10の特徴を有する方法によって達成される。
【0014】
したがって、動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する装置であって、ブレーキライニングを取り付ける取付装置と、ブレーキライニングに割り当てられたブレーキディスクモデルを固定する固定装置とを有する装置が提供される。ブレーキディスクモデルを固定するプロセスは、ブレーキライニングがブレーキディスクモデルとともに接触面を圧迫することができるように行われる。さらに、プレテンション装置が設けられ、それは、プレテンション装置によって、ブレーキライニングを、絶対値および方向に関して所定の圧力でブレーキディスクモデルに対して押圧することができるように、取付装置および/または固定装置に結合される。さらに、本装置は、ブレーキディスクモデルおよび/またはブレーキライニングの振動を励起する励振装置を有する。これに関連して、励振装置を、ブレーキディスクモデルおよび/またはブレーキライニングに結合することができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する方法が提供される。本発明によれば、本方法は、
− 取付装置によってブレーキライニングを取り付けるステップと、
− 固定装置によって、ブレーキライニングに割り当てられたブレーキディスクモデルを、ブレーキライニングがブレーキディスクモデルとともに接触面を圧迫するように固定するステップと、
− 取付装置および/または固定装置に結合されたプレテンション装置により、絶対値および方向に関して所定の圧力で、ブレーキライニングをブレーキディスクモデルに対して押圧するステップと、
− ブレーキディスクモデルおよび/またはブレーキライニングに結合された励振装置により、ブレーキディスクモデルおよび/またはブレーキライニングの振動を励起するステップと、
を含む。
【0016】
本発明の概念は、ブレーキライニングをブレーキディスクモデルと圧迫し、かつブレーキライニングをブレーキディスクモデルに対して所定の圧力で押圧するということである。圧力を加えるためにプレテンション装置が設けられる。圧力は、ここでは、絶対値および方向に関して事前に確定され、それを、たとえば動力車に取り付けられるディスクブレーキにおけるブレーキライニングの、制動動作においてそこで発生するような現実の締付け状態をシミュレートすることができるように選択することができる。本発明では、ブレーキディスクモデルまたはブレーキライニングまたは両方は、この目的で設けられる励振装置によって振動するように励起される。これにより、詳細が未知である摺動摩擦プロセスの結果として発生する振動の励起なしに、たとえば励振装置によって励起されるブレーキディスクモデルの振動に応じて、ブレーキライニングの振動挙動を確定することが可能になる。
【0017】
本発明の有利な洗練形態および発展形態を、図面の各図と組み合わせてさらなる従属請求項において見ることができる。
【0018】
装置の1つの有利な洗練形態では、所定の圧力により、ブレーキディスクモデルとブレーキライニングとの間に接着(adhesion)をもたらすことができる。ブレーキディスクモデルに対するブレーキライニングの接着を、プレテンション装置を用いてもたらすことができるため、ブレーキライニングとブレーキディスクモデルとの間の接触面に相対移動が発生せず、接触面においてブレーキディスクモデルの上でブレーキライニングが摺動することが有利に回避される。その結果、ブレーキライニングの振動挙動を、摺動摩擦の影響とは無関係に確定することができる。
【0019】
さらなる有利な洗練形態では、所定の圧力は、接触面に対して垂直な方向における力成分と、接触面に対して平行な方向における力成分とを有する。その結果、ブレーキディスクモデルに対するブレーキライニングの締付け、または言い換えれば押圧が、動力車における制動動作において使用されるディスクブレーキと同様の圧力で発生する。これに関連して、通常動力車において油圧手段によって生成されかつブレーキディスクに関して軸方向に作用する制動力が、接触面に対して垂直に加えられる力成分によってシミュレートされ、一方で、接触面に対して平行に加えられる力成分はブレーキディスクトルクをシミュレートする。これは、このようにブレーキライニングの振動挙動を、実際の使用状況に類似する状況下で調査することができるため有利である。
【0020】
典型的な洗練形態では、プレテンション装置は接線力スピンドルを有し、それにより、接触面に対して平行な方向において固定装置に接線力を加えることができる。
【0021】
さらにまたは別法として、この洗練形態では、プレテンション装置は軸方向力スピンドルを有し、それにより、接触面に対して垂直な方向において取付け装置に軸方向力を加えることができる。スピンドルの使用により、接線力および/または軸方向力の調整を容易に行うことができる。要件に従って、所定制限内で本装置によりブレーキライニングの振動挙動を確定するために接線力および/または軸方向力を変更することができる。その結果、種々の荷重状態または締付け状態においてブレーキライニングの振動挙動の概観を取得することが可能になる。
【0022】
1つの発展形態では、接線力スピンドルおよび/または軸方向力スピンドルは、好ましくは各々ハンドルおよび回転レバーによって作動することができる油圧スピンドルとして具現化される。これにより、装置の使用者は、比較的大きい接線力および軸方向力を手動で、したがって追加の駆動装置を必要とすることなく生成することが可能になる。特に、動力車の制動動作中にブレーキライニングとブレーキディスクとの間に作用する接線力および軸方向力に、大きさに関して匹敵する力を生成することが可能である。
【0023】
1つの有利な洗練形態では、プレテンション装置は、固定装置に作用する接線力を測定する接線力センサを有する。これに加えてまたは別法として、プレテンション装置は、この洗練形態では、取付装置に作用する軸方向力を測定する軸方向力センサを有する。こうした力センサの使用により、有利に、設定される力を測定し監視することが可能になり、それにより、ブレーキライニングの振動挙動の確定中の試験状態の正確なドキュメンテーションが促進される。
【0024】
1つの好ましい発展形態では、ブレーキライニングがブレーキディスクモデルを圧迫する時に固定装置の静的に過剰な(overdetermined)締付けを防止するために、固定装置は、取付装置に対して、特に接触面に対して平行な直線方向において変位することができるように取り付けられる。このようにすると、固定装置に加えられる接線力全体、特に接線力スピンドルを用いてプレテンション装置によって加えられる接線力を、ブレーキライニングおよびブレーキディスクモデルの接触面に有利に加えることができる。これにより、この接触に加えられる接線力の正確な確定および監視が可能になる。
【0025】
さらなる発展形態では、固定装置に少なくとも1つの開口部が設けられる。開口部は、ここでは、ブレーキディスクモデルまたはブレーキライニングの振動を励起する励振装置のプランジャを、開口部を介して差し込みかつブレーキディスクモデルまたはブレーキライニングに結合することができるように具現化される。これにより、ブレーキディスクモデルに対するアクセス可能性が提供され、それは、ブレーキディスクが動力車で使用される場合には達成することができないか、または非常に高いコストでしか達成することができないものである。これにより、本来はアクセス不可能である位置においてもブレーキディスクモデルを有利に励振することが可能になる。
【0026】
さらなる洗練形態では、固定装置は、実質的に矩形形状であるブレーキディスクモデルを固定することができるように具現化される。このように具現化されるブレーキディスクモデルを、単純な、材料が節約される方法で製造することができる。
【0027】
さらなる洗練形態では、取付装置は、ブレーキライニングを案内するガイド装置を有するように具現化され、そのガイド装置は、動力車のディスクブレーキにおいてこの目的で設けられるガイド装置に実質的に対応する。ブレーキライニングの振動挙動が確定される状況は、さらには制動動作中のブレーキライニングの使用状態にまでこのように近似される。
【0028】
本発明による装置の洗練形態では、固定装置および取付装置の剛性値は、それらの固有振動数がブレーキライニングの固有振動数と大幅に異なるように選択され、特に、それらは、後者より大幅に高く、ブレーキライニングの振動挙動を確定する目的での励振装置による振動の励起の場合、前記固有振動数は、ブレーキ鳴きの発生に対して重要な振動数範囲内において、本質的に励起されないか、または無視できる程度しか励起されない。
【0029】
1つの有利な洗練形態では、ブレーキディスクモデルと固定装置との間に分離層が設けられる。分離層は、特に、ポリマーで形成された発泡材料を有する。その結果、ブレーキディスクモデルおよび固有装置の振動を分離することができ、前記ブレーキライニングの振動挙動を確定するためには混乱を招く影響からの、ブレーキライニングのさらに優れた遮蔽を達成することができる。
【0030】
1つの洗練形態によれば、励振装置は、動電型加振器として具現化される。こうした加振器は、たとえばブレーキライニング等の部品の固有振動数および固有振動数形態を確定するためにモーダル解析で使用するのに適しており、それらにより、ブレーキディスクモデルおよび/またはブレーキライニングを正確に規定された振動数で再現可能に励起することが可能になる。
【0031】
さらなる洗練形態によれば、励振装置により、ブレーキライニングおよびブレーキディスクモデルの接触面に対して異なる角度で傾斜する空間方向において、特に接触面に対して平行な方向に、かつ接触面に対して垂直な方向に、振動を励起することができるように、励振装置をブレーキディスクモデルおよび/またはブレーキライニングに結合することができる。3つの空間方向において空間的に広大な物体が振動することができるため、これは、ブレーキライニングの振動挙動の可能で最も完全な特徴付けに対して有利である。
【0032】
さらなる洗練形態では、振動の励起中に励振装置によってブレーキディスクモデルおよび/またはブレーキライニングに動的に加えられる力を測定する力センサが設けられる。これにより、後続する評価のための試験状態のドキュメンテーションがさらに改善される。
【0033】
動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する本発明による方法の1つの発展形態によれば、所定の圧力により、ブレーキディスクモデルとブレーキライニングとの間に接着がもたらされることが条件である。装置に関して上述したように、このようにすると、摺動摩擦がブレーキライニングの振動挙動の確定に影響を与えることを有利に防止することができる。
【0034】
さらに、本発明による方法のさらなる洗練形態では、所定の圧力は、接触面に対して垂直な方向における力成分と、接触面に対して平行な方向における力成分とによって形成される。装置に関してすでに上述したように、これは、このようにすると、ブレーキライニングに対し、シミュレートされたディスクトルクとシミュレートされた制動力を与えることができるため有利であり、したがって、その振動挙動を、実際の使用状態に類似する状態で調査することができる。
【0035】
本方法の1つの発展形態では、所定の圧力が、絶対値および方向に関し、特に、所定の圧力を、接触面に対して垂直な方向における力成分と接触面に対して平行な方向における力成分とに分解することによって測定されることが条件である。これにより、力と、したがってブレーキライニングの振動挙動が確定される試験状態との監視およびドキュメンテーションが可能になる。
【0036】
本方法の1つの洗練形態では、すでに上述したように、振動の正確かつ再現可能な励起を有利に可能にする動電型加振器が、振動を励起する励振装置として使用される。
【0037】
本方法のさらなる洗練形態では、励振装置により、ブレーキライニングおよびブレーキディスクモデルの接触面に対して異なる角度で傾斜する空間方向において、特に接触面に対して水平な方向と接触面に対して垂直な方向とに振動が励起される。
【0038】
本方法の1つの好ましい洗練形態では、振動の励起の前のさらなるステップにおいて、ブレーキライニングの上に、特にブレーキライニングのバックプレートの上に1つまたは複数の加速度ピックアップが配置される。これに加えてまたは別法として、振動の励起の前のさらなるステップにおいて、ブレーキディスクモデルの上に1つまたは複数の加速度ピックアップが配置される。ブレーキライニングに設けられる加速度ピックアップにより、励振装置によって励起される振動に対するブレーキライニングの応答を測定することが可能であり、特に、この洗練形態で加速度ピックアップが配置されるバックプレートの振動挙動を、ブレーキライニング全体の振動挙動の特徴であるとみなすことができる。ブレーキディスクモデルに取り付けられる加速度ピックアップにより、励起された振動に対するブレーキディスクモデルの応答を有利に測定することができる。
【0039】
さらなる発展形態では、励振装置によって励起される振動の振動数は、異なる励起振動数での励起に対するブレーキライニングの応答を有利に確定することができるように、所定振動数範囲内で変更される。
【0040】
さらなる好ましい洗練形態では、ブレーキライニングの振動挙動を確定するために、振動の励起中に加速度ピックアップによって生成される加速度信号が、モーダル解析の形態で評価される。特に、モーダル解析の一部として、ブレーキライニングの振動形態は、それらの振幅挙動および位相挙動に関して、分離される空間方向に従って調査される。その結果、ブレーキライニングの振動挙動の概観を取得することが可能になる。
【0041】
1つの発展形態では、モーダル解析により、加速度信号を評価することによってブレーキライニングのモーダルパラメータが確定される。これには、特に、ブレーキライニングの固有振動数および固有振動数形態を確定することが含まれる。
【0042】
本方法の1つの発展形態では、振動の励起およびモーダル解析は試験ステップを形成する。試験ステップは、ここでは繰返し実行される。この発展形態では、個々の試験ステップの実行の合間に、ブレーキライニングに、その振動挙動を変化させるさまざまな装置、特に種々の方法で具現化されかつ/または配置されるダンピングプレートおよび/または種々の方法で具現化されかつ/または配置される離調体(detuning mass)が連続的に提供される。このようにすると、たとえば種々のダンピングプレートおよび離調体のそれぞれそれらだけの、または互いに組み合わせた構成が、モーダル解析の結果に対して、したがって特にブレーキライニングの固有振動形態および固有振動数に対して、与える影響を確定することが有利に可能である。したがって、ブレーキライニングの振動挙動を変化させるいくつかの選択された装置が、この挙動の事前に定義された所望の変化をもたらすか否かを確定することが可能である。
【0043】
本方法のさらなる洗練形態では、個々の試験ステップの実行の合間に、所定の圧力は、絶対値および/または方向に関して変更される。このようにすると、一連の種々の制動力およびブレーキディスクトルクについて、振動の励起に対するブレーキライニングの応答を確定することが可能であり、したがって、ブレーキライニングの振動挙動のさらにより包括的な像を取得することができる。
【0044】
さらなる洗練形態では、振動挙動を変化させる装置の選択および構成、特にダンピングプレートおよび離調体の好適な組合せおよび構成であって、ブレーキライニングの振動挙動の所望の変化、特にブレーキライニングの共鳴振動数の好適なシフトおよび/またはブレーキライニングの1つまたは複数の振動形態の振幅の減衰および/またはブレーキライニングの一次ねじれモードの減衰(extinction)をもたらす選択および構成は、試験ステップ中に実行されたモーダル解析の結果に基づいて確定される。したがって、事前に定義された方法で取り付けられた所定タイプのブレーキライニングが所定のブレーキディスク材料と相互作用する程度と、ブレーキライニングの振動挙動による事前に定義された要求が満足されるか否かと、そうでない場合に、これら要求を満足させるために好適な手段とに関する確定的な情報を取得することが有利に可能になる。特に、こうした確定的な情報は、測定機器が装備された試験車両で複雑な試験を実行する前に、すでに提供されていることが有利である。
【0045】
上記洗練形態および発展形態を、適切な場合は、任意の所望の方法で互いに結合することができる。本発明のさらなる可能な洗練形態、発展形態および実施態様もまた、後述するかまたは上述した、かつ本発明の例示的な実施形態に関連する特徴の明示的に指定されていない組合せを含む。特に、当業者はまた、本発明のそれぞれの基本形態に対して改善または補完として個々の態様を追加するであろう。
【0046】
本発明を、例示的な実施形態に基づきかつ図面の添付の図を参照して以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の例示的な実施形態による、動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する装置の略平面図を示す。
【図2】本発明のさらなる例示的な実施形態による、動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する装置の略斜視図を示す。
【図3】図2による装置のブロック図を示す。
【図4】本発明の例示的な実施形態による、動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する方法を示すフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図面の各図において、同じ参照符号は、特に明記しない限り、同一かまたは機能的に同一の構成要素を示す。
【0049】
図1は、本発明の例示的な実施形態による、動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する、平面図での装置1の略図である。図1に示すように、装置1は、ブレーキライニング3を取り付けるように設計されている取付装置2を有している。同様に図1から明らかであるように、ブレーキライニング3は、摩擦材料5が取り付けられているバックプレート4を含む。さらに、図1の装置1は、ブレーキディスクモデル7を固定する固定装置6を有しており、ブレーキディスクモデル7はブレーキライニング3に割り当てられている。ブレーキディスクモデル7は、ブレーキライニング3がブレーキディスクモデル7とともに、図1に示すように平面であり得る接触面8を圧迫することができるように、固定装置6によって固定される。
【0050】
図示する装置1はまた、取付装置2に、および固定装置6に結合されるプレテンション装置9も有している。プレテンション装置9の取付装置2への、および固定装置6への結合は、プレテンション装置9により、ブレーキライニング3を所定圧力10、10’でブレーキディスクモデル7に対して押圧することができるように実施される。同様に図1から明らかであるように、ブレーキライニング3に付与される力10は、絶対値および方向に関して、ブレーキディスクモデル7に付与される力10’に等しく、力10、10’の符号のみが互いに異なっている。図1に示しかつ接触面8に対して空間的に概して傾斜している力10’の場合、その力成分11および12を、接触面8に対して垂直な方向Aに、および/または接触面8に平行な方向Tにも示す。以下では、方向Aを軸方向とも呼び、方向Tを接線方向とも呼ぶ。
【0051】
さらに、図1は励振装置13、13’を示しており、それは、ブレーキディスクモデル7および/またはブレーキライニング3の振動を励起する役割を果たし、ブレーキディスクモデル7および/またはブレーキライニング3と結合されることが可能である。励振装置13、13’は、プランジャ14、14’を有し、例として、図1では、励振装置13、13’がそれぞれブレーキディスクモデル7に結合される、2つの可能な位置で示されている。励振装置が、たとえば、励振装置が参照符号13で示されそのプランジャが参照符号14で示されている第1位置にある場合、ブレーキディスクモデル7の振動の励起は、接触面8に対して垂直な方向Aにおいて可能となる。励振装置が参照符号13’で示されそのプランジャが参照符号14’で示されている第2位置では、ブレーキディスクモデル7の励起は、接触面8に対して平行な方向Tで発生することができる。方向AおよびTにおいて振動の励起をもたらすことが有利である場合であっても、これらの位置は、それにも関らず単なる例として理解されるべきであり、励振装置を、励振を接触面に対して異なる傾斜角度で行うことができるように向けることが完全に可能である。
【0052】
さらに、励振装置13、13’をブレーキライニング3に結合することも可能である。この結合が、ブレーキライニング3を軸方向Aに振動するように励起することができるようになされるべきである場合、ブレーキディスクモデル7に1つまたは複数の開口部(図1には示さず)を設けて、プランジャ14を、前記1つまたは複数の開口部を介してブレーキライニング3まで送り込むようにすることが好都合であり得る。
【0053】
図1による装置1では、摩擦材料5を備えたブレーキライニング3が、プレテンション装置9によって所定圧力10、10’でブレーキディスクモデル7の表面に対して押圧される場合、ブレーキライニング3は、接触面8においてブレーキディスクモデル7を圧迫するようになる。所定圧力10、10’に達すると、励振装置13、13’はその後、図1に示すように、たとえばブレーキディスクモデル7を振動させるように起動される。
【0054】
図2は、動力車の分野においてブレーキライニング3の振動挙動を確定する装置1のさらなる例示的な実施形態を示す。図1に示す例示的な実施形態に関してすでに上述したのと同じように、装置1は、ブレーキライニング3を取り付ける取付装置2と、ブレーキライニング3に割り当てられたブレーキディスクモデル7を固定する固定装置6と、プレテンション装置9と、ブレーキディスクモデル7および/またはブレーキライニング3の振動を励起する励振装置13、13’とを有している。この例示的な実施形態でもまた、ブレーキライニング3は、接触面8においてブレーキディスクモデル7を圧迫することができる。
【0055】
図2による装置1の取付装置2は、好ましくは、ブレーキライニング3を、動力車で使用されるディスクブレーキのブレーキキャリパにも取り付けられるのと本質的に同様に、取付装置2に取り付けることができるように、具現化される。図2による例示的な実施形態では、取付装置2は、ブレーキライニング3を案内するガイド装置(図示せず)を有することができ、そのガイド装置は、動力車のディスクブレーキにおいてこの目的で設けられるガイド装置に本質的に対応する。これらガイド装置は、好ましくはガイドボルトとして具現化される。これら手段により、ブレーキライニング3の振動挙動を、使用状況下で近似的に確定することができる。さらに、2つの方向AおよびTが広がる平面に対して垂直な半径方向において、ブレーキライニング3の芯合せを容易にするばね(図示せず)が設けられている。
【0056】
図2に示すように、取付装置2に急動(quick−action)閉鎖具15が設けられている。急動閉鎖具15により、動力車で使用されるディスクブレーキの所定のブレーキキャリパの変形をモデル化した取付装置2の部品を取り除き、別のブレーキキャリパの変形に類似するようにブレーキライニングを取り付けかつ案内することを可能にする部品と交換することができる。したがって、装置1を、多種多様のブレーキライニング3に対して極めて柔軟に使用することができる。
【0057】
図2がまた示すように、たとえばねずみ鋳鉄からまたはカーボンセラミックから製造されるブレーキディスクモデル7を固定する固定装置6は、リニアガイド16の上で直線状にかつ接触面8に対して本質的に平行に変位可能であるように取り付けられたキャリッジとして具現化される。これに関連して、リニアガイド16は、装置1のベースプレート17上に配置される。固定装置6は、本質的に矩形設計でありかつ本質的にブレーキディスクモデル7の寸法を有するプレート18を有している。2つの方向AおよびTが広がる平面に対して本質的に垂直に突出するプレート18の一方の側に、分離層19が設けられており、それにブレーキディスクモデル7が取り付けられている。
【0058】
図2の例示的な実施形態では、油圧スピンドルとして具現化されかつハンドル21を回転させることによって作動することができる接線力スピンドル20が、プレテンション装置9の一部として設けられている。油圧スピンドル20により、動力車で行われる制動プロセス中に作用する程度の力である接線力を、すでに、装置1の使用者によって問題なく加えることができる比較的小さい手動力によって達成することができる。ベースプレート17に取り付けられている支持ブロック22において支持される接線力スピンドル20を作動させることにより、接線力を、固定装置6に、ブレーキライニング3およびブレーキディスクモデル7の接触面8に対して平行である接線方向Tに加えることができる。加えられる接線力を測定する接線力ピックアップまたは接線力センサ23が中間に接続されることよって示す例示的な実施形態において、接線力が加えられる。
【0059】
分離層19のプレート18への連結および分離層19のブレーキディスクモデル7への連結を、接合連結として有利に実施することができる。分離層19は、ブレーキディスクモデル7の振動を固定装置6の振動から大きく分離するために、ブレーキディスクモデル7と固定装置6のプレート18との間に設けられる。これに関連して、分離層19は、好ましくはポリマーで形成された発泡材料を有する。この発泡材料を、プレテンション装置9によって固定装置6に加えられた接線力を、固定装置6のプレート18からブレーキディスクモデル7に伝達するために十分に剛性とすることができ、一方で、発泡材料は、好ましくは同時に、振動の分離を確実にするのに十分な可撓性を有するように選択される。
【0060】
固定装置6のプレート18には開口部24も設けられており、それを通して、ブレーキディスクモデル7の軸方向Aにおける振動を励起するために、励振装置13(図示せず)のプランジャ14を差し込むことができる。これに関連して、プランジャ14は、好ましくは、開口部24の側壁のいずれとも接触しておらず、代りに、開口部24に対して遊びを有している。分離層19は、プレート18の開口部24と本質的に適合するが図2には示していない開口部を有しており、それを通して、プランジャ14をある程度の遊びがあるように差し込むことも可能である。その結果、プランジャ14により、励振装置13をブレーキディスクモデル7に結合することが可能になる。図1に関してすでに示したように、ブレーキディスクモデル7にも開口部が設けられ、それがさらに開口部24と本質的に適合する場合、図示する配置を用いて、ブレーキライニング3に軸方向において振動を励起することも可能である。
【0061】
さらに、好ましくは、図2の例示的な実施形態において動電型加振器として具現化される励振装置13、13’を、図1に関してすでに説明したように、プランジャ14’が本質的に接線方向Tに伸びるように配置することも可能である。
【0062】
ブレーキライニング3およびブレーキディスクモデル7の接触面8に対して垂直な軸方向Aにおいて、取付装置2に軸方向力を加えるために、プレテンション装置9はまた、この例示的な実施形態では軸方向力スピンドル25を有し、それにより、取付装置2に軸方向力を加えることができる。図2に示す軸方向力スピンドル25もまた、油圧スピンドルとして具現化することができ、軸方向力を調整するようにハンドル26を回転させることによって作動させることができる。
【0063】
図2の例示的な実施形態では、軸方向スピンドル25は、好ましくは、取付装置2内に設けられているブレーキピストン(図2には示さず)に対して、軸方向力を測定する軸方向力センサ27を介して作用する。ブレーキピストンもまた、動力車においてブレーキライニングが使用されるディスクブレーキのブレーキピストンと本質的に同じ形状かつサイズであるように具現化されることが有利である。このディスクブレーキが複数、たとえば2つのブレーキピストンを有する場合、取付装置2はまた、複数、たとえば2つのブレーキピストンを有することも可能である。これはまた、ブレーキライニング3の振動挙動を、動力車で使用される場合にも晒される周辺的状況下で大部分を確定することができることに役立つ。軸方向力スピンドル25は、そのブレーキピストンまたは複数のブレーキピストンが設けられている場合はそれらブレーキピストンに作用する。その1つまたは複数のブレーキピストンは一方で、ブレーキライニング3をブレーキディスクモデル7に対して押圧する。ブレーキピストンはまた、好ましくは、さらなる分離層によって軸方向力スピンドル25からの振動に関して分離されており、そのさらなる分離層を、プレート18とブレーキディスクモデル7との間の分離層19と同じ材料から形成することができる。
【0064】
したがって、その結果、軸方向力スピンドル25によって加えられる軸方向力と接線力スピンドル20によって加えられる接線力とのベクトル和により、所定の圧力10、10’が形成され、それにより、ブレーキライニング3およびブレーキディスクモデル7が、図2の例示的な実施形態でもまた平坦であるそれらの接触面8において互いに対して押圧される。所定圧力10、10’は、好ましくは、ブレーキディスクモデル7とブレーキライニング3との間に接着が発生するように選択される。したがって、接触面8におけるこれら2つの部品間の摺動摩擦プロセスが防止される。
【0065】
リニアガイド16の結果として、ブレーキライニング3およびブレーキディスクモデル7が互いに押圧される際に、固定装置6の静的に過剰な締付が防止される。これにより、接線力スピンドル20を用いて固定装置6に加えられる接線力全体が、本質的に、ブレーキライニング3とブレーキディスクモデル7との接触面8に加えられる状況がもたらされる。したがって、接線力センサ23を用いて接線力を測定することにより、接触面8において接線方向Tに作用している力成分を十分なレベルの精度で知ることができる。
【0066】
振動の励起中に励振装置13、13’によってブレーキディスクモデル7および/またはブレーキライニング3に動的に加えられる力を測定するために、さらなる力センサ28(同様に図2には示さず)を設けることができる。
【0067】
固定装置6および取付装置2の剛性値は、図2に示すように、好ましくは、固定装置6および取付装置2の固有振動数がブレーキライニング3の固有振動数より大幅に高いように大きさが決められる。これにより、励振装置13、13’によって、ブレーキ鳴きの発生に対して重要な振動数範囲内で振動が励起される場合、固定装置6または取付装置2または両方の固有振動は、本質的に励起されず、または無視できる程度しか励起されない。
【0068】
図3は、図2の例示的な実施形態による装置1のブロック図を示す。本明細書では動電型加振器として具現化する励振装置13、13’によって実施されるべき機械的振動を表す信号を生成するために、信号発生器29と、ゼロ点調整装置30と、増幅器31とが設けられている。増幅器31によって増幅される信号は、動電型加振器13、13’に供給され、動電型加振器13、13’は、信号発生器29の信号を機械的振動に変換する。機械的振動は、動的に加えられる力を測定するための、中間に接続された力センサ28(上述)を介して、ブレーキディスクモデル7にその振動を励起するために加えられる。力センサ28によって測定される動的力は、力センサ28が生成する信号の形態で、データ処理装置32に渡されて処理され、望ましい場合は記憶される。データ処理装置32は、好ましくは、一般に知られているようなパーソナルコンピュータ(PC)を含む。
【0069】
また図3に示すように、固定装置6に加えられ、かつ接線力スピンドル20によって生成される接線力に対応する力と、取付装置2に加えられかつ軸方向力スピンドル25によって加えられる軸方向力が対応する力とが各々、力センサ23および27によってそれぞれ測定され、それぞれの表示装置33,34によってそれぞれ装置1の使用者に表示される。その結果、使用者には、特に接線力および軸方向力の手動調査中に、装置1を操作しながら、測定された力を監視することができる可能性が提供される。
【0070】
さらに、1つの加速度ピックアップ35または複数の加速度ピックアップ35を、ブレーキライニング3のバックプレート4に配置することができる。これに関連して、ブレーキライニング3のタイプおよび所望の測定結果に応じて、数および配置の異なる加速度ピックアップ35を設けることができる。加速度ピックアップ35によって生成される加速度信号もまた、データ処理装置32に渡され、そこで記憶することができ、望ましい場合はさらに処理することができる。加速度ピックアップ35によって生成される加速度信号は、励振装置13、13’による励振に対するブレーキライニング3の応答を含む。データ処理装置32により、事前定義された計算規則に従ってモーダル解析を行うことができ、その結果を、たとえばグラフィック形式で出力することができる。ブレーキライニング3のバックプレート4上に配置される加速度ピックアップ35の代りにまたはそれに加えて、ブレーキディスクモデルにもこうした加速度ピックアップを配置することができる。その信号をまた、データ処理装置32に転送し、それにより記憶し、望ましい場合はさらに処理することができる。
【0071】
図2および図3に示す例示的な実施形態による装置1では、特に、励振装置13、13’、力センサ23、27および28ならびに加速度ピックアップ35が、データ処理装置32と協働することにより、およそ10kHz以下の振動周波数の測定を可能にすることが条件である。
【0072】
図4は、本発明の例示的な実施形態による、動力車の分野においてブレーキライニングの振動挙動を確定する方法を示すフローチャートを示す。本方法を、たとえば、図1〜図3に関して説明した装置1によって行うことができる。
【0073】
ステップ101において、取付装置2によってブレーキライニング3を取り付ける。さらなるステップ102において、ブレーキライニング3に割り当てられるブレーキディスクモデル7を、固定装置6により、ブレーキライニング3が接触面8においてブレーキディスクモデル7を圧迫するように固定する。そして、ステップ103において、ブレーキライニング3をブレーキディスクモデル7に対して押圧する。ステップ103における押圧を、取付装置2および/または固定装置6に結合されているプレテンション装置9により、絶対値および方向に関して所定の圧力10、10’で行う。これに関連して、所定の圧力10、10’は、好ましくは、ブレーキディスクモデル7とブレーキライニング3との間に接着をもたらす。したがって、ブレーキライニング3との間にブレーキディスクモデル7の摺動が発生することは不可能であり、代りに、ブレーキライニング3およびブレーキディスクモデル7は互いに関して停止しており、それらの接触面8において、所定の圧力10、10’は、接触面8に関して垂直な軸方向Aにおける力成分11と、接触面8に関して平行な接線方向Tにおける力成分12とともに作用する。所定の圧力10、10’は、有利には、たとえば力センサ23、27を用いて、前記圧力10、10’を方向Aにおける力成分11と方向Tにおける力成分12とに分解することによって、絶対値および方向に関して測定される。
【0074】
さらなるステップ104は、ブレーキディスクモデル7および/またはブレーキライニング3に結合されている励振装置13、13’による、ブレーキディスクモデル7および/またはブレーキライニング3の振動の励起を含む。励振を、励振装置13、13’としての動電型加振器によって有利に発生させることができ、励振装置13、13’は、振動の正確かつ再現可能な励起、したがってブレーキライニング3の振動挙動の正確な確定に対して好都合なものである。ステップ104の実施中、励振装置13、13’によって励起される振動の振動数を、好ましくは所定振動数範囲内で変化させる。励起を、ブレーキライニング3およびブレーキディスクモデル7の接触面8に関して種々の角度で傾斜する方向で発生させることができるが、方向Tの励振(接線方向励振)および方向Aの励振(軸方向励振)が好ましい。
【0075】
図4に示す方法で取付装置2によってブレーキライニング3を取り付ける前に、ステップ105において、励振に対するブレーキライニング3の応答を測定するために、ブレーキライニング3上に1つまたは複数の加速度ピックアップ35を配置する。特に、加速度ピックアップ35を、ブレーキライニングのバックプレート4上に配置することができる。このようにすると、ブレーキライニング3のバックプレート4全体にわたる測定が可能である。これが望ましい場合、さらにまたは別法として、ブレーキディスクモデル7上に1つまたは複数の加速度ピックアップ35を配置することも可能である。
【0076】
ステップ106において、ステップ104における振動の励起中に加速度ピックアップ35によって生成された加速度信号を、ブレーキライニング3の振動挙動を確定するために評価する。この評価を、モーダル解析106の形態で行うことができ、その間に、ブレーキライニング3の振動形態が、それらの振幅挙動および位相挙動に関して分離される空間方向に従って調査される。特に、モーダル解析106により、たとえばブレーキライニング3の固有振動数および固有振動形態等のモーダルパラメータを確定することができる。
【0077】
振動を励起するステップ104およびモデル解析のステップ106が合わせて試験ステップ107を形成する。図4に示すように、試験ステップ107に続いて、ステップ108において、まず圧力10、10’を変更することができる。そして、ブレーキライニング3をブレーキディスクモデル7に対して押圧し、試験ステップ107を再び行う。このように試験ステップ107を繰返し行うことにより、モーダル解析106の結果が、圧力10、10’によるブレーキライニング3の異なる荷重によっていかに変化するかに関する知識を取得することが可能になる。
【0078】
個々の試験ステップ107の励振の合間に、ブレーキライニング3に、好ましくは、その振動挙動を変化させる種々の装置を連続して取り付ける。これもまた図4に示す。ブレーキライニング3の振動挙動を変化させる装置は、特に、種々の方法で具現化されかつ/または種々の方法で配置されるダンピングプレートであるが、またその代替形態としてまたはそれに加えて、種々の方法で具現化されかつ/またはブレーキライニング3の上に種々の方法で配置される離調体である。ダンピングプレートは、たとえば、ブレーキライニング3の振動の振幅を減衰させるために使用され、一方で離調体は、ブレーキライニング3の固有振動数および固有振動形態に影響を与えることができる。
【0079】
図4に示すように、試験ステップ107を実行した後、ステップ109において、ブレーキライニング3の振動挙動を変化させる装置の構成および/または選択を変更することができる。取付装置2におけるブレーキライニング3の新たな取付け101の後、上述したようにステップ102、103、104および106が続く。
【0080】
連続して行うモーダル解析106の結果を、ステップ110において、たとえばデータ処理装置32を使用して記憶し好適に処理することができる。特に、ブレーキライニング3のモーダルパラメータ、たとえばその固有振動数形態および固有振動数を、データ処理装置32を使用して確定することができる。
【0081】
後続するステップ111においてその知識を使用して、上述した方法を用いて振動挙動が確定された種々のブレーキライニング3を互いに比較し、動力車の所与のディスクブレーキで使用するのに最も好適であるように見えるものを選択することができる。さらに、ブレーキライニング3の振動挙動を変化させる種々の手段の有効性を評価することができる。上述した方法を用いて、特に離調体および/またはダンピングプレートの取付を含むこうした手段が所望の効果を達成するか否かに関する定量的かつ定性的な決定的情報を取得することができる。所望の効果には、特に、ブレーキライニング3の共鳴振動数をより低い振動数に好適にシフトさせること、およびそれに加えてまたはその代りに、ブレーキライニングの1つまたは複数の振動形態の振幅を減衰させることが含まれる。ブレーキライニング3の一次ねじれモードの減衰を目指すことも可能である。記載した方法により、これら所望の変化が、振動挙動を変化させる装置と所与のブレーキライニング3との特定の組み合わせで、どの程度まで可能であるかを検査することが可能になる。したがって、図4に関連して記載した方法により、多数のブレーキライニングタイプに対し、これらのブレーキライニングの振動挙動を特徴付けるデータ記録を作成することも可能になる。ブレーキライニングの事前選択が与えられると、たとえば新たな種類のディスクブレーキに対し、こうしたデータ記録は、必要な時間および対応するコストを低減するための効率的なプロセスに役立つことができる。
【0082】
本発明を、好ましい例示的な実施形態に基づいて上述したが、本発明はそれに限定されるものではなく、本発明の主題から逸脱することなく種々の方法で変更することができる。
【0083】
特に、本発明は、上に定義した接線(正接)方向および軸方向における励振に限定されない。代りに、半径方向、すなわち、軸方向および接線方向が広がる平面に関して垂直な方向において振動を励起することも考えられる。
【符号の説明】
【0084】
1 装置
2 取付装置
3 ブレーキライニング
6 固定装置
7 ブレーキディスクモデル
8 接触面
9 プレテンション装置
10、10’ 圧力
13、13’ 励振装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力車の分野においてブレーキライニング(3)の振動挙動を確定する装置(1)であって、
ブレーキライニング(3)を取り付ける取付装置(2)と、
前記ブレーキライニング(3)に割り当てられたブレーキディスクモデル(7)を、前記ブレーキライニング(3)がブレーキディスクモデル(7)とともに接触面(8)を圧迫することができるように固定する固定装置(6)と、
プレテンション装置(9)であって、前記プレテンション装置(9)によって、前記ブレーキライニング(3)を、絶対値および方向に関して所定の圧力(10、10’)で前記ブレーキディスクモデル(7)に対して押圧することができるように、前記取付装置(2)および前記固定装置(6)の両方またはいずれか一方に結合されるプレテンション装置(9)と、
前記ブレーキディスクモデル(7)および前記ブレーキライニング(3)の両方またはいずれか一方の振動を励起する励振装置(13、13’)であって、前記ブレーキディスクモデル(7)および前記ブレーキライニング(3)の両方またはいずれか一方に結合することができる励振装置(13、13’)と、
を有する装置。
【請求項2】
前記所定の圧力(10、10’)により、前記ブレーキディスクモデル(7)と前記ブレーキライニング(3)との間に接着をもたらすことができることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記所定の圧力(10、10’)が、前記接触面(8)に対して垂直な方向(A)における力成分(11)と、前記接触面(8)に対して平行な方向(T)における力成分(12)とを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記プレテンション装置(9)が接線力スピンドル(20)を有し、それにより、前記接触面(8)に対して平行な方向(T)において前記固定装置(6)に接線力を加えることができること、および、前記プレテンション装置(9)が軸方向力スピンドル(25)を有し、それにより、前記接触面(8)に対して垂直な方向(A)において前記取付装置(2)に軸方向力を加えることができることの、両方またはいずれか一方を特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記プレテンション装置(9)が、前記固定装置(6)に作用する前記接線力を測定する接線力センサ(23)、および前記取付装置(2)に作用する前記軸方向力を測定する軸方向力センサ(27)の両方またはいずれか一方を有することを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記ブレーキライニング(3)が前記ブレーキディスクモデル(7)を圧迫する時に、前記固定装置(6)の静的な過剰な締付けを防止するために、前記固定装置(6)が、前記取付装置(2)に対して、前記接触面(8)に対して平行な直線方向を含む所定の方向において変位することができるように取り付けられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記固定装置(6)に少なくとも1つの開口部(24)が設けられ、前記開口部(25)が、前記ブレーキディスクモデル(7)または前記ブレーキライニング(3)の振動を励起する前記励振装置(13)のプランジャ(14)を、前記開口部(24)を介して差し込みかつ前記ブレーキディスクモデル(7)または前記ブレーキライニング(3)に結合することができるように具現化されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
分離層(19)が前記ブレーキディスクモデル(7)と前記固定装置(6)との間に設けられ、前記分離層(19)が、ポリマーで形成された発泡材料を含む発泡材料を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記励振装置(13、13’)が動電型加振器として具現化されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
動力車の分野においてブレーキライニング(3)の振動挙動を確定する方法であって、
取付装置(2)によってブレーキライニング(3)を取り付けるステップ(101)と、
固定装置(6)によって、前記ブレーキライニング(3)に割り当てられたブレーキディスクモデル(7)を、前記ブレーキライニング(3)が前記ブレーキディスクモデル(7)とともに接触面(8)を圧迫するように固定するステップ(102)と、
前記取付装置(2)および前記固定装置(6)の両方またはいずれか一方に結合されたプレテンション装置(9)により、絶対値および方向に関して所定の圧力(10、10’)で、前記ブレーキライニング(3)を前記ブレーキディスクモデル(7)に対して押圧するステップ(103)と、
前記ブレーキディスクモデル(7)および前記ブレーキライニング(3)の両方またはいずれか一方に結合された励振装置(13、13’)により、前記ブレーキディスクモデル(7)および前記ブレーキライニング(3)の両方またはいずれか一方の振動を励起するステップ(104)と、
を含む方法。
【請求項11】
前記所定の圧力(10、10’)により、前記ブレーキディスクモデル(7)と前記ブレーキライニング(3)との間に接着がもらされることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記所定の圧力(10、10’)が、前記接触面(8)に対して垂直な方向(A)における力成分(11)と、前記接触面(8)に対して平行な方向(T)における力成分(12)とによって形成されることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記所定の圧力(10、10’)が、絶対値および方向に関し、前記所定の圧力(10、10’)を、前記接触面(8)に対して垂直な方向(A)における力成分(11)と前記接触面(8)に対して平行な方向(T)における力成分(12)とに分解することを含む方法によって測定されることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
動電型加振器が、前記振動を励起する(104)励振装置(13、13’)として使用されることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記振動を励起するステップ(104)の前のさらなるステップ(105)では、1つまたは複数の加速度ピックアップ(35)が、前記ブレーキライニング(3)の上であって、前記ブレーキライニング(3)のバックプレート(4)の上、前記ブレーキディスクモデル(7)の上、または前記ブレーキライニング(3)のバックプレート(4)の上でありかつ前記ブレーキディスクモデル(7)の上を含む位置に配置されることを特徴とする、請求項10〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ブレーキライニング(3)の前記振動挙動を確定するために、前記振動の励起中に前記加速度ピックアップ(35)によって生成される加速度信号が、モーダル解析(106)の形態で評価され、前記モーダル解析(106)が、前記ブレーキライニング(3)の前記振動形態を、それらの振幅挙動および位相挙動に関して分離される空間方向に従って調査することを含むことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記振動の励起(104)および前記モーダル解析(106)が、繰返し実行される試験ステップ(107)を形成し、個々の試験ステップ(107)の実行の合間に、前記ブレーキライニング(3)に、その振動挙動を変化させる装置であって、種々の方法で具現化されかつ配置される、または具現化されもしくは配置されるダンピングプレート、および種々の方法で具現化されかつ配置される、または具現化されもしくは配置される離調体の両方、いずれか一方、またはその他が連続して提供される(109)ことを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
個々の試験ステップ(107)の実行の合間に、前記予め確定された圧力(10、10’)が絶対値および方向の両方またはいずれか一方に関して変更される(108)ことを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記振動挙動を変化させる装置の、ダンピングプレートおよび離調体の好適な組合せおよび構成を含む選択および構成であって、前記ブレーキライニング(3)の共鳴振動数の好適なシフト、前記ブレーキライニング(3)の1つまたは複数の振動形態の振幅の減衰、および前記ブレーキライニング(3)の一次ねじれモードの減衰のいずれか一つ以上を含む前記ブレーキライニング(3)の前記振動挙動の所望の変化をもたらす選択および構成が、前記試験ステップ(107)中に実行される前記モーダル解析(106)の結果に基づいて確定される(111)ことを特徴とする、請求項17または18に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−220523(P2011−220523A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−84159(P2011−84159)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(510238096)ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (63)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】