説明

動物α−アミラーゼ測定方法

【課題】動物検体を無希釈で高濃度(2500U/L)まで測定でき、さらに、動物α−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)とグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)が含まれる検体でも、α−アミラーゼを特異的に測定できる方法を提供すること。
【解決手段】α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを含む非ヒト動物検体を希釈することなく検体として用いて該検体中におけるα−アミラーゼを特異的に測定する方法において、非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖を用いて測定を行い、反応のpHが6以上7未満であることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の血液等の液体中の特定成分の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミラーゼは消化酵素の1種で、グリコシド結合を加水分解することによって、デンプン中のアミロースやアミロペクチンを、グルコース、マルトースおよびオリゴ糖に消化する。アミラーゼとしては、α−アミラーゼ(EC3.2.1.1)、β-アミラーゼ(EC3.2.1.2)、及びグルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)が知られている。α−アミラーゼは、デンプンやグリコーゲンの1,4−α−結合を不規則に切断し、多糖又はオリゴ糖を生成する。β−アミラーゼは糖鎖の非還元末端からデンプンやグリコーゲンをマルトースに分解する。グルコアミラーゼは糖鎖の非還元末端の1,4−α結合を分解してブドウ糖を生成する。
【0003】
アミラーゼ測定法としては、例えば、特公昭62−51960号公報には、非還元末端をブロックしたアミラーゼ基質を用いて溶液中でヒトα−アミラーゼを測定する方法が記載されている。また、特公平2−36238号公報には、非還元末端が保護されておらず、還元末端がカルボキシルフェニル基を用いたアミラーゼ測定法が記載されている。また、特公平5−50274号公報には、非還元末端が保護されていない基質を含む乾式分析要素を使用してヒトα−アミラーゼを測定することが記載されている。さらに、特開2003−210195号公報には、所定濃度のNaCl及び所定濃度のCaCl2を含むα−アミラーゼ活性測定用液を用いてα−アミラーゼ活性を測定した場合、至適pHが酸性側にある小麦由来のα−アミラーゼの活性を高感度に測定できることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特公昭62−51960号公報
【特許文献2】特公平2−36238号公報
【特許文献3】特公平5−50274号公報
【特許文献4】特開2003−210195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、動物検体を無希釈で高濃度(2500U/L)まで測定でき、さらに、動物α−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)とグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)が含まれる検体でも、α−アミラーゼを特異的に測定できる方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを含む非ヒト動物検体を希釈することなく検体として用いて該検体中におけるα−アミラーゼを特異的に測定する方法において、反応のpHを酸性pHにすることによって、動物検体を無希釈で高濃度まで測定でき、さらに、動物α−アミラーゼとグルコアミラーゼが含まれる検体でも、α−アミラーゼを特異的に測定できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
即ち、本発明によれば、α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを含む非ヒト動物検体を希釈することなく検体として用いて該検体中におけるα−アミラーゼを特異的に測定する方法において、非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖を用いて測定を行い、反応のpHが6以上7未満であることを特徴とする方法が提供される。
【0008】
好ましくは、非還元末端が保護され、還元末端にパラニトロフェニル基を有するオリゴ糖及び媒染剤を同一又は異なる試薬層に含有する乾式分析要素を用いて測定を行う。本発明を乾式分析要素で実現する場合には、検体を拡散させアミラーゼの酵素反応を行わせる展開反応層と、生じた色素を有効に発色させる媒染剤を含む発色層の2層の試薬層を設けることが好ましく、これらは同一の層として一体化してもよく、別の機能を有する試薬層を加えてもよい。
【0009】
好ましくは、非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖は、4,6-エチリデン−4-ニトロフェニル-α-D-マルトヘプタオシドである。
好ましくは、媒染剤は4級アンモニウム塩を含む有機ポリマーである。
好ましくは、媒染剤はポリ−コ(スチレン−メチルモルホリニウムメチルスチレン−ジビニルベンゼン)からなるラテックスである。
【0010】
好ましくは、反応のpHは6.0〜6.9である。
好ましくは、反応のpHは6.3〜6.7である。
好ましくは、α−アミラーゼ活性算出時間(WINDOW)は5分以内である。
好ましくは、α−アミラーゼ活性算出時間(WINDOW)は1分から5分である。
好ましくは、非ヒト動物検体は、イネ検体又はネコ検体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動物検体を無希釈で高濃度(2500U/L)まで測定でき、さらに、動物α−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)とグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)が含まれる検体でも、α−アミラーゼを特異的に測定できる。即ち、本発明により、イヌアミラーゼの測定域がこれまでの1200U/Lから2500U/Lまで拡大した。そして、上記の性能が達成できたため、アミラーゼ高値検体を煩雑な希釈操作することなく測定でき、ユーザーの手間を軽減させることに成功した。さらに、基質として、4,6-エチリデン−4-ニトロフェニル-α-D-マルトヘプタオシドなどの、非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖を使用することによって、イヌ検体に含まれるグルコアミラーゼの正誤差が消え、α−アミラーゼ特異的な測定が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを含む非ヒト動物検体を希釈することなく検体として用いて該検体中におけるα−アミラーゼを特異的に測定する方法に関するものであり、特に、非還元末端が保護され、還元末端にパラニトロフェニル基を有するオリゴ糖を用いて測定を行い、反応のpHが6.0以上7未満であることを特徴とする方法である。
【0013】
α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを含む非ヒト動物検体としては、特に限定されないがヒト検体と比べ多量のグルコアミラーゼが存在することが知られているイヌ検体の他、例えば、ネコ、サル、マウス、ハムスター、ウサギ、ラクダ、ヒツジ、ウシ、バッファロー、ブタなどの哺乳動物の検体を用いることができる。動物検体としてはこれらの他に ウマ、ヤギ、鳥類、爬虫類を検体とすることもできる。好ましくは、イヌ、ネコ、サル、マウス、ハムスター、ブタの検体を用いることができる。さらに好ましくは、イヌ、ネコの検体を用いることができる。
【0014】
本発明において好ましくは、非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖及び媒染剤を同一又は異なる試薬層に含有する乾式分析要素を用いて測定を行うことができる。本発明で用いる、非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖(例えば、4,6-エチリデン−4-ニトロフェニル-α-D-マルトヘプタオシド)は、α−アミラーゼの基質として、好ましくは、乾式分析要素の展開反応層に含められている。
【0015】
α―アミラーゼは、この基質と反応しα-グルコシダーゼを介してp-ニトロフェノールを生成して発色するが、酸性pHにおいてp-ニトロフェノールのイオン化が起こりにくく、発色効率が悪い。
【0016】
本発明では、このような問題を解決するために、媒染剤が、乾式分析要素の試薬層に含まれている。媒染剤としては、本発明に用いたp-ニトロフェノールのような酸性染料を結合させるカチオン性有機ポリマーを使用することができ、これらは、二級及び三級アミノ基を含むポリマー、これらの4級カチオン基を含むポリマーなどで分子量が5000〜200000、特に10000〜50000のものである。これらのうち、親水性コロイド層から他の層に移動しにくいものが好ましく、例えば、ゼラチン等の親水性コロイドと架橋するもの、水不溶性カチオン性ポリマー、及び水性ゾル(又はラテックス分散物)を好ましく用いることができる。
特に好ましいカチオン性ポリマーを以下に示す。
【0017】
(1)4級アンモニウム基をもち、かつゼラチンと共有結合できる基(例えばアルデヒド基、クロロアルカノイル基、クロロアルキル基、ビニルスルホニル基、ピリジニウムプロピオニル基、ビニルカルボニル基、アルキルスルホノキシ基など)を有するポリマー、
例えば、
【化1】

【0018】
(2)下記一般式(I)で表されるモノマーの繰り返し単位と他のエチレン性不飽和モノマーの繰り返し単位からなるコポリマーと、架橋剤(例えばビスアルカンスルホネート、ビスアレンスルホネート)との反応生成物。
一般式(I):
【化2】

1;H、アルキル基
2;H、アルキル基、アリール基
Q;2価基
3、R4、R5;アルキル基、アリール基、またはR3〜R5の少なくとも2つが結合してヘテロ環を形成してもよい。
X;アニオン
(上記のアルキル基、アリール基は置換されたものを含む。)
【0019】
(3)下記一般式(II)で表されるポリマー
一般式(II):
【化3】

x;約0.25〜約5モル%
y;約0〜約90モル%
z;約10〜約99モル%
A;エチレン性不飽和結合を少なくとも2つもつモノマー
B;共重合可能なエチレン性不飽和モノマー
Q;N、P
1、R2、R3;アルキル基、環状炭化水素基、またR1〜R2の少なくとも二つは結合して環を形成してよい。
(これらの基や環は置換されてよい。)
【0020】
(4)下記一般式(III)で表される(a), (b)及び(c)から成るコポリマー
一般式(III):
【化4】

X;水素原子、アルキル基またはハロゲン原子。(アルキル基は置換されていてもよい。)
(b);アクリル酸エステル
(c);アクリルニトリル
【0021】
(5)下記一般式(IV)で表される繰り返し単位を1/3以上有する水不溶性ポリマー。
一般式(IV):
【化5】

1、R2、R3;それぞれのアルキル基を表わし、R1〜R3の炭素数の総和が12以上のもの。(アルキル基は置換されていてもよい。)
X;アニオン
【0022】
以上の媒染剤のなかで特に好ましいのは、ポリ−コ(スチレン−メチルモルホリニウムメチルスチレン−ジビニルベンゼン)からなるラテックスである。
【0023】
本発明における反応のpHは、酸性pHであり、具体的にはpH6以上7未満であり、好ましくはpH6.0〜6.9であり、特に好ましくはpH6.3〜6.7である。
【0024】
本発明の測定方法で用いる分析要素としては、乾式分析要素を用いる。本発明で用いることができる乾式分析要素としては、支持体上に、少なくとも、p−ニトロフェノールで標識したオリゴ糖基質を含む層と、α−グルコシダーゼを含む層(以下、これらを試薬層と称する場合がある)とを含む分析要素が挙げられる。あるいは、p−ニトロフェノールで標識したオリゴ糖基質とα−グルコシダーゼとは同一の試薬層に含まれていてもよい。さらに、支持体と上記した試薬層との間には所望により、吸水層などを設けることもできる。
【0025】
本発明で用いることができる支持体としては、光不透過性(不透明)、光半透過性(半透明)、光透過性(透明)のいずれのものも用いることができるが、一般的には光透過性で水不透過性の支持体が好ましい。光透過性水不透過性支持体の材料として好ましいのものはポリエチレンテレフタレート、ポリスチレンなどである。親水性層を強固に接着させるために、下塗り層を設けたり、親水化処理を施したものを用いることが好ましい。
【0026】
展開反応層は、p−ニトロフェノールで標識したオリゴ糖基質と、α−グルコシダーゼとを含む。上述の通り、これらの成分は同一の層に含めてもよいし、異なる層として含めてもよい。試薬層の水浸透性を確保するためには、多孔性媒体からなる多孔性層とするか、親水性ポリマーバインダーからなる層とするのが好ましい。これら水浸透性層のうち、親水性ポリマーバインダーからなる連続層とするのが好ましい。
【0027】
展開反応層として多孔性層を用いる場合、その多孔性媒体は繊維質であってもよいし、非繊維質であってもよい。繊維質材料としては、例えば濾紙、不織布、織物布地(例えば平織布地)、編物布地(例えばトリコット編物布地)、ガラス繊維濾紙等を用いることができる。非繊維質材料としては、特開昭49−53888等に記載の酢酸セルロース等からなるメンブランフィルター、特開昭49−53888、特開昭55−90859(対応米国特許4,258,001)、特開昭58−70163(対応米国特許4,486,537)等に記載の無機物又は有機物微粒子からなる連続空隙含有粒状構造物層等のいずれでもよい。特開昭61−4959(対応欧州公開EP0166365A)、特開昭62−116258、特開昭62−138756(対応欧州公開EP0226465A)、特開昭62−138757(対応欧州公開EP 0226465A)、特開昭62−138758(対応欧州公開EP0226465A)等に記載の部分接着された複数の多孔性層の積層物も好適である。
【0028】
多孔性層は供給される液体の量にほぼ比例した面積に液体を展開する、いわゆる計量作用を有する展開層であってもよい。展開層としては、これらのうち織物布地、編物布地などが好ましい。織物布地などは特開昭57−66359号に記載されたようなグロー放電処理をしてもよい。展開層には、展開面積、展開速度等を調節するため、特開昭60−222770(対応:EP0162301A)、特開昭63−219397(対応西独特許公開DE3717913A)、特開昭63−112999(対応:DE3717913A)、特開昭62−182652 (対応:DE3717913A)に記載したような親水性高分子あるいは界面活性剤を含有させてもよい。
【0029】
例えば紙、布、高分子からなる多孔質膜等に本発明の試薬を予め含浸又は塗布した後、支持体上に設けた他の水浸透性層の上に、特開昭55-164356 号のような方法で接着させるのも有用な方法である。
【0030】
こうして作られる試薬層の厚さは特に制限されないが、塗布層として設ける場合には、1μm〜50μm程度、好ましくは2 μm〜30μmの範囲が適当である。ラミネートによる積層など、塗布以外の方法による場合、厚さは数十μmから数百μmの範囲で大きく変化し得る。
【0031】
親水性ポリマーバインダーからなる水浸透性層で試薬層を構成する場合、使用できる親水性ポリマーとしては、例えば、以下のものがある。ゼラチン及びこれらの誘導体(例えばフタル化ゼラチン)、セルロース誘導体(例えばヒドロキシエチルセルロース)、アガロース、アルギン酸ナトリウム、アクリルアミド共重合体、メタアクリルアミド共重合体、アクリルアミド又はメタアクリルアミドと各種ビニル性モニマーとの共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸と各種ビニル性モノマーとの共重合体などである。
【0032】
親水性ポリマーバインダーで構成される試薬層は、特公昭53−21677号(対応米国特許3,992,158)、特開昭55−164356号(対応米国特許4,292,272)、特開昭54−101398号(対応米国特許4,132,528)、特開昭61−292063号(Chemical Abstracts,106:210567y)等の明細書に記載の方法に従って、基質その他の試薬組成物と親水性ポリマーを含む水溶液又は水分散液を支持体又は検出層等の他の層の上に塗布し乾燥することにより設けることができる。
【0033】
親水性ポリマーをバインダーとする試薬層の乾燥時厚さは約2μm 〜約50μm 、好ましくは約4μm〜約30μmの範囲、被覆量では約2g/m2〜約50g/m2、好ましくは約4g/m2〜約30g/m2の範囲である。
【0034】
展開反応層には、p−ニトロフェノールで標識したオリゴ糖基質およびα−グルコシダーゼ以外に、塗布特性、拡散性化合物の拡散性、反応性、保存性等の諸性能の向上を目的として、界面活性剤、pH緩衝剤組成物、微粉末、酸化防止剤、その他、有機物あるいは無機物からなる各種添加剤を加えることができる。試薬層に含有させることができる緩衝剤の例としては、日本化学会編「化学便覧 基礎編」(東京、丸善(株)、1966年発行)1312-1320 頁、R.M.C.Dawson et al編、「Data for Biochemical Research」第2版(Oxford at the Clarendon Press,1969年発行) 476-508 頁、「Biochemistry」 5,467-477頁 (1966年) 、Analytical Biochemistry」 104,300-310 頁 (1980年) に記載のpH緩衝剤系がある。pH緩衝剤の具体例として硼酸塩を含む緩衝剤;クエン酸又はクエン酸塩を含む緩衝剤;グリシンを含む緩衝剤;ビシン(Bicine)を含む緩衝剤;HEPES を含む緩衝剤;MES を含む緩衝剤などのグッド緩衝剤等がある。
【0035】
本発明で用いることができる乾式分析要素は、例えば、特開昭49−53888号(対応米国特許3,992,158)、特開昭51−40191号(対応米国特許4,042,335)、及び特開昭55−164356号(対応米国特許4,292,272)、特開昭61−4959(対応EPC公開特許0166365A)などの各明細書に記載の方法に準じて調製することができる。
【0036】
本発明で用いることができる分析要素は一辺約10mmから約30mmの正方形またはほぼ同サイズの円形等の小片に裁断し、特公昭57−28331(対応米国特許4,169,751)、実開昭56−142454(対応米国特許4,387,990)、特開昭57−63452、実開昭58−32350、特表昭58−501144(対応国際公開WO83/00391)等に記載のスライド枠に収めて化学分析スライドとして用いることが、製造,包装,輸送,保存,測定操作等の観点で好ましい。使用目的によっては、長いテープ状でカセットまたはマガジンに収めて用いたり、又は小片を開口のあるカードに貼付または収めて用いたり、あるいは裁断した小片をそのまま用いることなどもできる。
【0037】
本発明の分析方法を用いることにより、液体試料中の被検物であるα−アミラーゼ活性を測定することができる。例えば約2μL〜約30μL、好ましくは4μL〜15μL の範囲の試料(即ち、α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを含む非ヒト動物の無希釈の検体)を試薬層に点着する。点着した分析要素を約20℃〜約45℃の範囲の一定温度で、好ましくは約30℃〜約40℃の範囲内の温度で1〜10分間インキュベーションする。分析要素内の発色又は変色を測定することによりα−アミラーゼ活性を測定することができる。点着する液体試料の量、インキュベーション時間及び温度を一定にすることにより定量分析を高精度に実施することもできる。
【0038】
上記のようにしてα−アミラーゼを定量することができるが、このときのα−アミラーゼ活性算出時間(WINDOW)は、好ましくは5分以内であり、さらに好ましくは1分から5分である。α−アミラーゼ活性算出時間の開始時間が早すぎると、干渉物質の影響や自動分析装置(アナライザー)の測定開始までのタイムラグ等により正確な値が得られなくなる場合がある。 ここで干渉物質の影響とは、特に限定はないが、ビリルビン、溶血ヘモグロビン、総蛋白、糖類(例えば、グルコースやマルトースなど)、アスコルビン酸などから受ける影響を言う。一方、α−アミラーゼ活性算出時間の終了時間が長すぎると、特にα−アミラーゼ活性の高い検体の場合においてp−ニトロフェノールで標識したオリゴ糖基質が消費されつくし、ODの変化率差が小さくなり正確な値が得られなくなる場合がある。
【0039】
本発明の乾式分析要素は、自動分析装置(アナライザー)を用いて測定することが好ましく、定量分析を高精度に実施することができる。自動分析装置は、富士フイルム社製富士ドライケムアナライザーFDC−7000やFDC−3500、FDC−5500、FDC−4000などを用いることができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
比較例1:
(1)ヒト検体測定用の乾式分析要素での測定:
発色層の作製:ゼラチン下塗りがされている厚さ180μmのポリエチレンテレフタレート無色透明平滑フイルム上に下記のように塗布し、乾燥した。
ゼラチン 14g/m2
HEPES 0.8g/m2
サーファクタント10G 0.3g/m2
ポリ−コ(スチレン−メチルモルホリニウムメチルスチレン−ジビニルベンゼン)
(重合比55:43:2)(15%ラテックス溶液) 28g/m2
ここで、塗布液は希NaOH溶液でpHを6.5に調整しておいた。
【0041】
HEPESは、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン−N‘−エタンスルホン酸を示す。
サーファクタント10Gは、ポリオキシ(2-ヒドロキシ)プロピレンノニルフェニルエーテル(オーリン社製)を示す。
【0042】
展開反応層の作製:次に上記ゼラチン層に約30g/m2の割合で水を均一供給し湿潤させた後、その上に50デニール相当のポリエチレンテレフタレート紡績糸を36ゲージ編みしたトリコット編み物布地を軽く圧力をかけて積層し、乾燥させた。上記の布地上に下記試薬を塗布・乾燥させた。
【0043】
ポリビニルピロリドン 5.0 g/m2
HEPES 6 g/m2
サーファクタント10G 1 g/m2
p-ニトロフェニル−α−D−マルトペンタオシド 2g/m2
ここで、塗布液は希HCL溶液または希NaOH溶液でpHを7.3に調整しておいた。

さらに、下記試薬を塗布・乾燥させた。
ポリビニルピロリドン 3.0g/m2
HEPES 1 g/m2
サーファクタント10G 1 g/m2
α−グルコシダーゼ 100KU/m2

ここで、塗布液は希HCL溶液または希NaOH溶液でpHを7.3に調整しておいた。
【0044】
上記の一体型多層分析要素を12mmx13mm四方のチップに切断し、スライド枠(特開昭57-63452号公報に記載)に収めて、α−アミラーゼ分析用乾式分析要素を作製した。
【0045】
(2)イヌ検体の測定:
イヌ検体を生理食塩水で3倍希釈し、比較例1(1)で作製した乾式分析要素で測定した。この乾式分析要素を使用する方法は、測定可能領域が1200U/Lまでであるので、高アミラーゼ検体が多数存在するイヌ検体の場合は、半数以上の検体を希釈する必要があったため、本実験はすべての検体を3倍希釈することで測定した。結果を図1に示す。ここで対照法は、和光純薬工業株式会社製 体外診断用医薬品 Lタイプワコー アミラーゼを使用した。
【0046】
比較例1では、希釈操作が必要であり、またイヌ検体では相関が悪かった。
【0047】
実施例1:イヌ検体測定用の乾式分析要素での測定:
(1)イヌ検体アミラーゼ測定乾式分析要素の作製:
発色層の作製:
ゼラチン下塗りがされている厚さ180μmのポリエチレンテレフタレート無色透明平滑フイルム上に下記組成の水溶液(pH6.5)を下記のように塗布し、乾燥した。
ゼラチン 14g/m2
HEPES 0.8g/m2
サーファクタント10G 0.3g/m2
ポリ−コ(スチレン−メチルモルホリニウムメチルスチレン−ジビニルベンゼン)
(重合比55:43:2)(15%ラテックス溶液) 28g/m2
ここで、塗布液は希NaOH溶液でpHを6.5に調整しておいた。
【0048】
展開反応層の作製:
次に上記ゼラチン層に約30g/m2の供給量で水を全面に供給し湿潤させた後、その上に50デニール相当のポリエチレンテレフタレート紡績糸を36ゲージ編みしたトリコット編み物布地を軽く圧力をかけて積層し、乾燥させた。上記の布地上に下記のようにpH6.5の試薬液を塗布・乾燥させた。
【0049】
ポリビニルピロリドン 4.3 g/m2
HEPES 6.4g/m2
サーファクタント10G 1.7g/m2
BG7-PNP 2.7g/m2
ここで、塗布液は希HCL溶液または希NaOH溶液でpHを6.5に調整しておいた。
【0050】
ここで、BG7-PNPは、4,6-エチリデン−4-ニトロフェニル-α-D-マルトヘプタオシドを示す。

さらに、下記試薬を塗布・乾燥させた。
ポリビニルピロリドン 2.7g/m2
HEPES 1.7g/m2
サーファクタント10G 1.0g/m2
α−グルコシダーゼ 100KU/m2
ここで、塗布液は希HCL溶液または希NaOH溶液でpHを6.5に調整しておいた。
【0051】
上記の一体型多層分析要素を12mmx13mm四方のチップに切断し、スライド枠(特開昭57-63452号公報に記載)に収めて、α−アミラーゼ分析用乾式分析要素を作製した。
【0052】
(2)イヌ血清アミラーゼの測定(多検体相関、測定域、Windowの比較)
実施例1(1)で作製した乾式分析要素に、イヌ血清を無希釈で10μl点着し、37℃でインキュベーションし、400nmの反射ODを測定した。ODrをODtに変換したのち、活性算出時間(WINDOW)を1分から4分の間で選択し、それぞれ検量線を作成し測定可能領域を調べた。検量線の代表例を図2及び図3に示す。それらから求めた測定領域を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
これらの結果から、実施例1(1)に記載の乾式分析要素でイヌ検体を測定することによって、比較例記載の乾式分析要素でイヌ検体を測定する方法と比較し、多検体相関が著しく向上し、無希釈で測定した場合の測定領域が著しく広がり、さらに測定WINDOWを変更することで測定領域を制御でき、1分後から2分まで測定すると、無希釈で2500U/Lまで定量できるという効果が得られることが実証された。
【0055】
上記の通り反応pHが6.5である乾式分析要素でイヌ検体を測定したところ、至適pHがずれているにもかかわらず定量できることがわかった。さらに、測定域が拡大され、ほとんどの検体を無希釈で測定できるように改良された。このことで、ユーザーの負荷は大きく軽減されることが見出された。
【0056】
実施例2
(1)イヌ検体アミラーゼ測定乾式分析要素の作製
試薬層(発色層および/または展開反応層)のpHを希NaOH又は希HClを用いて表2のように変化させた以外は実施例1と同様にα−アミラーゼ分析用乾式分析要素を作製した。
【0057】
【表2】

【0058】
(2)イヌ血清アミラーゼの測定
実施例2(1)で作製した乾式分析要素を富士ドライケムアナライザーFDC−7000を用いて、対照法で測定したときのアミラーゼ活性が2450U/Lのイヌ血清を無希釈で10μl点着し、37℃でインキュベーションし、400nmの反射ODを測定した。ODrをODtに変換したのち、活性算出時間(WINDOW)を1.5分〜3分とし、それぞれの乾式分析要素における検量線を作成し、測定領域におけるアミラーゼ活性およびCV値を調べた。
ここで、検量線を作成するときの対照法は、ロッシュ・ダイアグノスティックス株式会社製 膵関連試薬シリーズ「RD」リキテックAMY EPS を使用した。
検量線の代表例を図4に示す。アミラーゼ活性値およびCV値を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
ここで、CV値は5%以下を許容レベルとした。また、光学濃度ODrは0.8以上を許容レベルとした。
また、乾式分析要素でのアミラーゼ活性値が対照法のアミラーゼ活性値の±15%以内(2082〜2817U/L)を許容レベルとした。
この結果からわかるように、実施例2(1)に記載の乾式分析要素3-2または3-3でイヌ検体を測定することによって、光学濃度を確保でき良好なCV値が得られることが実証された。
一方、比較例の乾式分析要素3-1においてCV値は問題ないものの、アミラーゼ活性値の高い検体においても光学濃度が出ず、全領域において特異性が得られないものとなった。また、比較例の乾式分析要素3-4では、十分な光学濃度が得られるもののCV値が悪化する結果となった。
以上のことから、本発明に範囲において目的の効果が達成された。
【0061】
イヌ検体の代わりにネコ検体を用いて上記と同様に評価をおこなった結果を表4に示す。イヌ検体の場合と同様に、ネコ検体においても良好な結果が得られた。
【0062】
【表4】

【0063】
実施例3
実施例2(1)で作成した乾式分析要素3-3を用い、富士ドライケムアナライザーFDC−4000を用いて、イヌ血清を無希釈で10μl点着し、37℃でインキュベーションし、400nmの反射ODを測定した。ODrをODtに変換したのち、活性算出時間(WINDOW)を1〜3分、1.5分〜3分とし、それぞれの乾式分析要素における検量線を作成し、測定領域におけるアミラーゼ活性およびCV値を調べた。
【0064】
ここで、検量線を作成するときの対照法は、ロッシュ・ダイアグノスティックス株式会社製 膵関連試薬シリーズ「RD」リキテックAMY EPS を使用した。
検量線の代表例(活性算出時間(WINDOW):1.5分〜3分)を図5に示す。アミラーゼ活性値およびCV値を表5に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
ここで、CV値は5%以下を許容レベルとした。
また、乾式分析要素でのアミラーゼ活性値が対照法のアミラーゼ活性値の±15%以内(それぞれ1104〜1494U/L、1853〜2507)を許容レベルとした。
この結果からわかるように、本発明の乾式分析要素3-3とWINDOW領域を用いてイヌ検体を測定することによって、良好なCV値が得られることが実証された。以上のことから、本発明に範囲において目的の効果が達成された。
【0067】
イヌ検体の代わりにネコ検体を用いて上記と同様に評価をおこなった結果を表6に示す。イヌ検体の場合と同様に、ネコ検体においても良好な結果が得られた。
【0068】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、イヌ検体を生理食塩水で3倍希釈し、比較例1で作製した乾式分析要素で測定した結果を示す。
【図2】図2は、無希釈のイヌ検体を、実施例1(1)で作製した乾式分析要素で測定した結果の例を示す。
【図3】図3は、無希釈のイヌ検体を、実施例1(1)で作製した乾式分析要素で測定した結果の例を示す。
【図4】図4は、実施例2におけるイヌ血清アミラーゼの測定の検量線を示す。
【図5】図5は、実施例3におけるイヌ血清アミラーゼの測定の検量線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを含む非ヒト動物検体を希釈することなく検体として用いて該検体中におけるα−アミラーゼを特異的に測定する方法において、非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖を用いて測定を行い、反応のpHが6以上7未満であることを特徴とする方法。
【請求項2】
非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖及び媒染剤を同一又は異なる試薬層に含有する乾式分析要素を用いて測定を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非還元末端が保護され、還元末端にp-ニトロフェニル基を有するオリゴ糖が、4,6-エチリデン−4-ニトロフェニル-α-D-マルトヘプタオシドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
媒染剤が4級アンモニウム塩を含む有機ポリマーである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
媒染剤がポリ−コ(スチレン−メチルモルホリニウムメチルスチレン−ジビニルベンゼン)からなるラテックスである、請求項2から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
反応のpHが6.0〜6.9である、請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
反応のpHが6.3〜6.7である、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
α−アミラーゼ活性算出時間(WINDOW)が5分以内である、請求項2から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
α−アミラーゼ活性算出時間(WINDOW)が1分から5分である、請求項2から7の何れかに記載の方法。
【請求項10】
非ヒト動物検体が、イネ検体又はネコ検体である、請求項1から9の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−194036(P2008−194036A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7587(P2008−7587)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】