説明

動物プランクトン用飼料

エイコサペンタエン酸を含む微生物の細胞壁破砕処理物および、n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物、を含有する動物プランクトン用飼料を提供する。この飼料は、該飼料に含まれる脂質中に、エイコサペンタエン酸、n−6ドコサペンタエン酸および、ドコサヘキサエン酸がバランス良く含まれていることを特徴の一つとする。この飼料は、仔稚魚等の種苗生産時に問題となっている低温ストレスおよびハンドリングストレスに強い種苗(仔稚魚等)を生産可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種苗生産が行われる魚介類の生物餌料となる動物プランクトン用の飼料並びに、該飼料を給餌させた動物プランクトンを用いる仔稚魚の生産方法に関する。
人工種苗生産技術の発展により、マダイ、ヒラメ、クロダイ、トラフグ、アユ、カレイ、オニオコゼ、ガザミ等の多くの水産動物の種苗生産が可能となった。さらに、近年の飛躍的な技術の向上により、従来生産が難しいとされていた、ブリ、クエ、アカアマダイ、マグロ、タコなどの種苗生産も可能となっている。
このような魚種の種苗生産が可能となった背景には、仔稚魚の摂餌するワムシ、アルテミアへの栄養強化用飼料の改良がある。
【0002】
海産魚介類の仔稚魚期または幼生期の脂肪酸要求に関しては、高度不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(以下、「EPA」という。)およびドコサヘキサエン酸(以下、「DHA」という。)が特に重要であり、生産歩留まり向上や奇形の防除に必須の栄養成分であることが明らかにされた。
然るにEPAとDHAは、特に仔稚魚期の必須栄養素であり、餌であるワムシ、アルテミア、ミジンコ等の動物プランクトンにEPAとDHAを栄養強化したものを給餌することが今日では通常的に行われている。
栄養強化を目的とする動物プランクトン用飼料には、(1)人工的に製造されたマイクロカプセルや培養した微生物中に魚油やEPA、DHAを含む油脂分を後天的に添加した飼料と、(2)先天的にEPAやDHAを自己産生する微生物を培養したもの、の2つのタイプが存在する。
(1)のタイプは、従来よりなされている古典的な方法である(例えば、特許文献1参照)。一方、(2)のタイプである天然の微生物を用いた飼料では、EPAまたはDHAを産生する微生物を培養し濃縮したものが両者それぞれ個別に商品として存在している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、EPAを含む微生物であるナンノクロロプシスも、多くの種苗生産機関で自家培養され栄養強化に使用されている。しかし、その細胞壁が硬いため、咀嚼器官の発達したワムシには栄養強化できるが、咀嚼器官が比較的未達であるアルテミアにはそのままでは栄養強化できないという問題点があった。
そこで、現在では、高圧ホモジナイザーを用いた強制分散処理(以下、「可消化処理」という。)による細胞壁の破砕処理を用いることにより、EPAを含む微生物であるナンノクロロプシスをアルテミアの養成及び栄養強化に用いている(例えば、特許文献2参照)。
更に、最近では、n−6ドコサペンタエン酸(以下、「n−6DPA」という。)に注目とした仔稚魚用の飼料についても、種苗生産における奇形防止効果を有するとして広く実用化されている(例えば、特許文献3参照)。
以上の通り、魚介類の仔稚魚期または幼少期における生産歩留まり向上や奇形の防除において、EPAとDHAが重要な効果を示すことがわかり、現在使用され続けている。これらの効果を示すものとして、健康な種苗、すなわち魚の健苗性の評価基準としては、種苗の形、色、器官の発達具合等々、目で判断できる部分に重点が置かれていた。
しかし、近年ではさらに一歩進んで、魚の機能面の向上、例えば消化能、運動性、さらには遊泳行動、群れ行動にまで評価基準の範囲が拡大している。
【0004】
機能面で重要な評価基準は、水槽換え、移送段階の物理的ストレス、例えば網による捕獲時のハンドリングストレスへの耐性、異なる水温への適応能等があげられる(例えば、非特許文献2参照)。その中でも、特に栽培漁業における放流用種苗においては、低水温の海域へ放流する場合、放流後ストレスにより活力が低下すると、すぐさま大型魚に捕食されてしまうことが予測され、問題となっている。これを防ぐ試みとして魚礁近辺への放流など放流場所の様々な検討が行われている。
初期飼料の分野でも、健康な種苗を生産するために、従来からなされている形態異常の改善とともに、新たにストレスへの耐性等々を評価基準に用いて、様々な栄養成分的アプローチが行われている。
ヨーロッパヘダイのストレス耐性等に対するレシチンおよびEPAの効果についてされた研究においては、レシチン存在下EPAの増加によりハンドリングや温度変化によるステレス耐性を改善することが示されている(非特許文献3参照)。
マダイ仔稚魚の活力テスト(ハンドリング耐性)に対するEPAとDHAの効果についてされた研究においては、EPAでは殆ど効果なく、DHAでは比較的良好な効果を有することが示されている(非特許文献4参照)。
しかしながら、いずれの効果も十分とは言い難く、実際の種苗生産現場におけるストレス耐性や低水温適応能への効果を反映したものではなかった。また、実際の現場において十分な効果を奏するものではなかった。
以上の通り、近年、種苗生産の指標として、網による捕獲時のハンドリングストレスへの耐性、異なる水温への適応能等が重要視されているが、これらを改善させる初期飼料の栄養成分的アプローチは予備検討に止まり、極めて不十分である。特に、EPA、n−6DPAおよびDHAを中心とする総合的なアポローチは全くなされていない。
【0005】
【特許文献1】特許第1992146号
【特許文献2】特公平4−8021号公報
【特許文献3】特開平11−276091号公報
【非特許文献1】養殖臨時増刊「添加商品ベストガイド」、株式会社緑書房、平成12年3月10日、第37巻,第4号、p.186−191
【非特許文献2】高橋隆行,「種苗生産における環境とストレス」,アクアネット,湊文社,平成13年7月,第4巻,第7号,p.62−65
【非特許文献3】JINGLE LIU、外6名,Necessity of dietary lecithin and eicosapentaenoic acid for growth,survival,stress resistance and lipoprotein formation in gilthead sea bream sparus aurata,「FISHERIES SCIENCE」,日本,日本水産学会誌,2002年,第68巻,p.1165−1172
【非特許文献4】竹内俊郎,「魚類における栄養素の欠乏症と要求量」,栽培漁業技術研修事業 基礎理論コース テキスト集V 仔稚魚期の発育シリーズ,社団法人日本栽培漁業協会,平成3年,第4巻,p.20−23
【発明の開示】
【0006】
本発明の目的は、魚介類の種苗生産における種々のストレスへの耐性が付与された種苗を提供することである。
本発明の課題は、低温ストレスおよびハンドリングストレスに強い種苗を生産することができる動物プランクトン用飼料を提供することにある。
本発明者らは、これらの問題点(課題)を解決するために鋭意努力した結果、エイコサペンタエン酸(以下、「EPA」という。)を含む微生物の細胞壁破砕処理物と、n−6ドコサペンタエン酸(以下、「n−6DPA」という。)とドコサヘキサエン酸(以下、「DHA」という。)とを含む微生物を含有したものを、動物プランクトン用飼料として使用することにより、種苗生産における低水温暴露やハンドリングによるストレス防止効果を発揮することを見出し、本発明を完成させた。よって、本発明は、種苗生産において、魚介類、特に仔稚魚に低水温暴露耐性や、ハンドリングストレス耐性を付与できる飼料を提供する。
【0007】
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料において、エイコサペンタエン酸を含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のエイコサペンタエン酸含量が、10〜50質量%である動物プランクトン用飼料を提供する。
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料において、エイコサペンタエン酸を含む微生物が、真正眼点藻類ナンノクロロプシス属(Nannnochloropsis.sp)である動物プランクトン用飼料を提供する。
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料において、n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のn−6ドコサペンタエン酸含量が10〜60質量%である動物プランクトン用飼料を提供する。
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料において、n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のドコサヘキサエン酸含量が20〜80質量%である動物プランクトン用飼料を提供する。
【0008】
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料において、n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物が、シゾキトリウム属(Schizochytrium.sp)またはトラウストキトリウム属(Thraustochytrium.sp)である動物プランクトン用飼料を提供する。
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料において、エイコサペンタエン酸を含む微生物の細胞壁破砕処理物と、n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物との質量比率が、固体物として1:9〜9:1である動物プランクトン用飼料を提供する。
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料において、動物プランクトンが、ワムシ、アルテミアおよびミジンコからなる群より選ばれる1種または2種以上である動物プランクトン用飼料を提供する。
【0009】
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料において、動物プランクトン用飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のエイコサペンタエン酸含量が5〜27質量%であり、n−6ドコサペンタエン酸含量が5〜21質量%であり、かつ、ドコサヘキサエン酸含量が5〜52質量%である動物プランクトン用飼料を提供する。これにより、本発明は、EPA、n−6DHAおよびDHAに関して、特徴ある組成を有する脂質を含有する動物プランクトン用飼料を提供する。
また、本発明は、かかる動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化した栄養強化動物プランクトンを、仔稚魚の餌として用いることを特徴とする仔稚魚の生産方法を提供する。これにより、低水温暴露耐性やハンドリングストレス耐性を有する仔稚魚の生産方法を提供する。また、言い換えれば、仔稚魚に低水温暴露耐性やハンドリングストレス耐性を付与する、仔稚魚の生産方法を提供する。
本発明は、又、エイコサペンタエン酸を含む微生物の細胞壁破砕処理物、およびn−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物、を含有する、魚介類へのストレス耐性付与剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における、エイコサペンタエン酸を含む微生物の細胞壁破砕処理物および、n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物、を含有することを特徴とする動物プランクトン用飼料とは、少なくとも、(1)エイコサペンタエン酸を含む微生物の細胞壁破砕処理物と、(2)n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物、を含有する動物プランクトン用飼料をいう。
本発明における「エイコサペンタエン酸(以下、「EPA」という。)を含む微生物」とは、微生物中にEPAを含有しているものおよび/または、微生物を培養すると微生物内にEPAを産生するものをいう。EPAは、「C20:5,n−3」や「C20:5」と表記される場合がある。
具体的には、真正眼点藻類ナンノクロロプシス属(Nannnochloropsis.sp)、プラシノ藻類のテトラセルミス(Tetraselmis.sp)および、珪藻類のキートセラス(Chaetceros.sp)などが挙げられる。この中でも好ましいのは、真正眼点藻類ナンノクロロプシス属(Nannnochloropsis.sp)である。
【0011】
これらの微生物の取扱い方法は、特に限定されないが、例えば、純粋培養した培養液体中より微生物菌体のみを分離したものの濃縮物または、その乾燥物として用いるのが好ましい。
本発明における「微生物」とは、微生物に由来したものを広く含み、培養菌体、乾燥培養菌体および処理培養菌体ならびに菌体および培養上清を含む培養液を含む。詳しくは、微生物そのものの他、例えば、微生物の濃縮物、凍結乾燥物、スプレー乾燥物などを含む。
本発明における「EPAを含む微生物の細胞壁破砕処理物」とは、EPAを含む微生物に対して高圧ホモジナイザー等を用いて強制分散処理し、実質的に該微生物の細胞壁を破砕処理したものをいう(例えば、特許文献3参照)。この処理は、「可消化処理」と言われる場合がある。当該破砕処理の工程は、微生物を調整する際、いずれの時期にも限定されず、例えば、微生物を培養して菌体を集めた状態で可消化処理を施してもよく、また、菌体を収集・乾燥し、その後、当該乾燥物を任意の液体に溶かし、または懸濁させ、可消化処理を施してもよい。
【0012】
本発明におけるEPAを含む微生物のEPA含量は、特に限定されないが、例えば、EPAを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のEPA含量が、10質量%以上であり、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜48質量%、さらに好ましくは20〜45質量%、特に好ましくは23〜43質量%、最も特に好ましくは28〜38質量%である。
本発明における「脂質」とは、一般的に、「油脂」、「油分」および「油」と言われる場合もあり、例えば、Bligh−Dyer法により抽出された脂質をいう。飼料および微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中の脂肪酸含量は、従来方法により求められ、その方法は特に限定されない。例えば、分析サンプルを凍結乾燥し、該凍結乾燥物よりBligh−Dyer法で脂質を抽出してメチルエステル化した後、ガスクロマトグラフィーで脂肪酸組成を算出し、該当する脂肪酸の量を、脂質中の脂肪酸全体の量で除して求めることができる。
本発明におけるEPAを含む微生物中の脂質量は、特に限定されない。該脂質量は、微生物の培養方法により大きく影響をうけるものなので、特定することが難しいが、例えば、1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上である。
本発明におけるEPAを含む微生物のEPAの存在状態は、特に限定されない。例えば、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、脂肪酸、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル、リン脂質や糖脂質等の複合脂質のいずれであってもよい。
【0013】
本発明における「n−6ドコサペンタエン酸(以下、「n−6DPA」という。)とドコサヘキサエン酸(以下、「DHA」という。)とを含む微生物」とは、微生物中にn−6DPAとDHAを含有しているものおよび/または、培養すると微生物内にn−6DPAとDHAを産生するものをいう。n−6DPAは「C22:5、n−6」や「C22:5」と、DHAは「C22:6、n−3」や「C22:6」と表記される場合がある。
具体的には、シゾキトリウム属(Schizochytrium.sp)、トラウストキトリウム属(Thraustochytrium.sp)、ウルケニア属(Ulkenia属)および、アルトリニア属(Althornia属)などが挙げられる。この中でも好ましいのは、シゾキトリウム属(Schizochytrium.sp)またはトラウストキトリウム属(Thraustochytrium.sp)であり、より詳細には、ATCC 20888、20889、20891、24473、28209、28221、34304等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
これらの微生物の取扱い方法は、特に限定されないが、例えば、純粋培養した培養液体中より微生物菌体のみを分離したものの濃縮物および、その乾燥物として用いるのが好ましい。
【0014】
本発明におけるn−6DPAとDHAとを含む微生物中のn−6DPA含量は、特に限定されないが、例えば、n−6DPAとDHAとを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のn−6DPA含量は、5質量%以上であり、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは11〜45質量%、さらに好ましくは11〜30質量%、特に好ましくは11〜25質量%、最も特に好ましくは13〜20質量%である。
本発明におけるn−6DPAとDHAを含む微生物中のDHA含量は、特に限定されないが、例えば、n−6DPAとDHAを含む微生物の脂質中のDHA含量が、20質量%以上であり、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%、さらに好ましくは30〜60質量%、特に好ましくは30〜50質量%、最も特に好ましくは33〜43質量%である。
本発明におけるn−6DPAとDHAとを含む微生物のn−6DPAとDHA含量との割合については、特に限定されない。例えば、上記のn−6DPAとDHAとを含む微生物のn−6DPA含量と、上記のn−6DPAとDHAとを含む微生物のDHA含量との任意の割合(任意の組み合わせ)をなす微生物を、本発明で用いることができる。詳しくは、例えば、n−6DPAとDHAとを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のn−6DPA含量が10〜30質量%であり、かつ、DHA含量が30〜70質量%のものが挙げられる。
【0015】
本発明におけるn−6DPAとDHAを含む微生物中の脂質量は、特に限定されない。該脂質量は、微生物の培養方法により大きく影響をうけるものなので、特定することが難しいが、例えば、5質量%以上であり、好ましくは30質量%以上である。
本発明におけるn−6DPAとDHAを含む微生物のEPAの存在状態は、特に限定されない。例えば、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、脂肪酸、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル、リン脂質や糖脂質等の複合脂質のいずれであってもよい。
本発明にかかる動物プランクトン用飼料においては、EPAを含む微生物の細胞壁破砕処理物と、n−6DPAとDHAとを含む微生物との質量比率は、特に限定されないが、例えば、具体的には、固体物として1:9〜9:1であり、好ましくは、固体物として1:1である。
本発明で用いる微生物の存在は、通常、光学顕微鏡による形状の確認と、その油脂中の脂肪酸組成により同定することができる。例えば、n−6DPAを持つシゾキトリウム属・トラウスキトリウム属藻類は、クロロフィルを持たず、直径6〜7μmの球形の細胞である。
本発明において、固体物とは、外観が固形状、粉末状またはブロック状等であればよく、水分含量は特に限定されない。また、液状、ペースト状、懸濁状ではない。本明細書中では、固体物の範疇に含まれるものとして、特に粉末状のものを「乾燥粉末」という場合がある。
【0016】
質量比率を調整する場合、EPAを含む微生物の細胞壁破砕処理物は、上記のように固体物であればよく、水分含量が限定されないが、例えば、水分含量は、10質量%以下であり、好ましくは9〜0.1質量%、より好ましくは8〜0.1質量%である。
質量比率を調整する場合、n−6DPAとDHAとを含む微生物は、上記のように固体物であればよく、水分含量が限定されないが、例えば、水分含量は、10質量%以下であり、好ましくは8〜0.1質量%、より好ましくは7〜0.1質量%、さらに好ましくは6〜0.1質量%、特に好ましくは5〜0.1質量%、最も特に好ましくは4〜0.1質量%である。
本発明にかかる動物プランクトン用飼料は、性状は問わず、いかなる性状でも提供できる。例えば、固体(固形状、粉末状)、ペースト、液体(溶液、溶液状)または懸濁液(懸濁状)として提供できる。
また、液体(溶液、溶液状)または懸濁液(懸濁状)する場合でも、その水分に対する飼料の量は、限定されず、濃度は問わない。例えば、飼料1質量に対して、溶液0.1〜100質量を混合、溶解または懸濁させ用いることができる。
【0017】
本発明にかかる動物プランクトン用飼料の製造方法の一例を示す。
本発明において質量比率を調整するとき、それぞれの微生物を粉末状としたものを混合することにより、粉末状の動物プランクトン用飼料を提供できる。例えば、EPAを含む微生物を細胞壁破砕処理したものを凍結乾燥した水分含量8質量%以下の乾燥粉末100gと、n−6DPAとDHAとを含む微生物をスプレー乾燥した水分含量4質量%以下の乾燥粉末100gを混合したものが挙げられる。それぞれの微生物由来の乾燥粉末の混合方法は、特に限定されない。
また、それぞれの微生物を粉末状とし、それぞれを任意の液体と混合して、溶液状または懸濁状にし、その後、混合することができる。これにより、溶液状または懸濁状の動物プランクトン用飼料を提供できる。例えば、EPAを含む微生物を凍結乾燥した水分含量8質量%の乾燥粉末100gを1リットルの蒸留水に加え細胞壁破砕処理した懸濁液と、n−6DPAとDHAとを含む微生物をスプレー乾燥した水分含量4質量%の乾燥粉末100gを1リットルの蒸留水に加え攪拌した懸濁液を、混合したものが挙げられる。それぞれの微生物由来の溶液または懸濁状としたものの混合方法は、特に限定されない。また、上記の混合後の溶液状または懸濁状のものを、再度、乾燥物として、固形状または粉末状として提供することもできる。
溶液状または懸濁状の動物プランクトン用飼料を提供する場合、特に液体中の微生物量は限定されないが、通常15質量%以下で用いられ、好ましくは15〜5質量%であり、例えば、15、12.5、10、7.5、5質量%が挙げられる。
【0018】
本発明でいう動物性プランクトンとは、ワムシ(シオミズツボワムシなど)、アルテミア(ブラインシュリンプ)、ミジンコなどの一般に種苗生産において生物餌料として利用されているものをいう。これらは、同時に1種または2種以上用いても良い。
本発明において「動物プランクトン用飼料」とは、動物プランクトンに給餌させるための飼料をいう。該飼料を動物プランクトンに給餌させる主な目的は、動物プランクトンの中に栄養素(例えば、EPA、n−6DPAおよびDHAなど)を蓄積させること(栄養強化)である。
本発明において、「栄養強化動物プランクトン」とは、動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させたことにより、動物プランクトン中の栄養素(例えば、EPA、n−6DPAおよびDHAなど)が強化された動物プランクトンをいう。該栄養強化動物プランクトンは、種苗生産時に、仔稚魚に給餌して用いるものである。
本発明において動物プランクトンの一次培養および、栄養強化を伴う二次培養の条件は、当業者において通常の方法で行うことができる。具体的な培養条件は、当業者の知識の範囲で、適時修正して行うことができる。
【0019】
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料を栄養強化に使用するとき、該飼料の添加量は、特に限定されない。これは、当業者において通常の方法で行うことができる。具体的な濃度は、当業者の知識の範囲で、適時修正して行うことができる。例えば、当該飼料の固体物として、0.2g/リットルで添加することができる。詳しくは、EPAを含む微生物の固体物100gと1リットルの蒸留水に加えて細胞破壊処理をなしたものと、n−6DPAとDHAとを含む微生物の固体物100gを1リットルの蒸留水に加えて攪拌したものを混合する(従って、飼料200g/2リットルとなる)。次いで、該混合液を、動物プランクトンの培養液の中に、2ml/リットルの濃度で使用する(従って、飼料200mg/2ml/リットルなので、換算すると、飼料0.2g/リットルとなる)。
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料中のEPA、n−6DPAおよびDHAの含量は、特に限定されるものではない。
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料中のEPA含量は、特に限定されないが、例えば、該飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のEPA含量が5〜35質量%であり、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは5〜27質量%、さらに好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは5〜20質量%、最も特に好ましくは10〜20質量%である。
【0020】
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料中のn−6DPA含量は、特に限定されないが、例えば、該飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のn−6DPA含量が5〜40質量%であり、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは5〜21質量%、さらに好ましくは6〜20質量%、特に好ましくは7〜18質量%、最も特に好ましくは7〜15質量%である。
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料中のDHA含量は、特に限定されないが、例えば、該飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のDHA含量が5〜60質量%であり、好ましくは5〜55質量%、より好ましくは5〜52質量%、さらに好ましくは10〜40質量%、特に好ましくは15〜35質量%、最も特に好ましくは25〜35質量%である。
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のEPA、n−6DPAおよびDHA含量の割合については、特に限定されるものでない。例えば、上記動物プランクトン用飼料の脂質中の総脂肪酸に対するEPA、n−6DPAおよびDHA含量の任意の割合(任意の組み合わせ)をなす脂質を、本発明で用いることができる。詳しくは、例えば、かかる動物プランクトン用飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中の脂肪酸含量が、EPAが5〜27質量%であり、n−6DPAが5〜21質量%であり、かつ、DHAが5〜52質量%である動物プランクトン用飼料を提供することができる。
【0021】
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料の脂質量は、特に限定されない。該脂質量は、それぞれの微生物の培養方法や混合比率により大きく異なるものであり、一概に含量を示すことはできない。
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料の脂質の存在状態は、特に限定されない。例えば、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、脂肪酸、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル、リン脂質や糖脂質等の複合脂質のいずれであってもよい。
本発明は、別の観点からすれば、EPAを含む微生物または該細胞壁破砕物と、n−6DPAとDHAとを含む微生物との混合質量比率を調整することにより、EPA、n−6DPAおよびDHAの含量を調整する動物プランクトン用飼料および脂質の調整方法または生産方法を提供する。また、該調整方法または生産方法により得られる脂質含量を、仔稚魚の種苗生産に対して有効なEPA、n−6DPAおよびDHAの含量に調整することができる。さらに、該調整方法または生産方法により、仔稚魚の種苗生産に対して有効なEPA、n−6DPAおよびDHAの含量の飼料および油脂を提供できる。
本発明は、別の観点からすれば、脂質の総脂肪酸中の構成脂肪酸含量が、EPAが5〜27質量%であり、n−6DPAが5〜21質量%以上であり、かつ、DHAが5〜52質量%である脂質を提供できるものである。
【0022】
これらの脂質の使用方法は、特に限定されず、単独または他のもの混ぜて使用することができる。これらは、例えば、動物プランクトン用飼料、仔稚魚の生産方法など、あらゆる魚介類の種苗生産に関することに使用できるとともに、あらゆる医薬品や食品にも使用することができる。
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のEPA、n−6DPAおよびDHA含量が特定の比率である脂質および、該脂質を含有する飼料は、EPAを含む微生物および/または、n−6DPAとDHAとを含む微生物を用いなくても、各成分をそれぞれ用意して混合したり、もしくはそれぞれの成分をトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、脂肪酸、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル、リン脂質や糖脂質等の複合脂質のいずれにして、混合することによっても、実現可能である。しかしながら、本発明にかかるEPAを含む微生物および、n−6DPAとDHAを含む微生物を用いることが、製造する際に簡単であり、工業的にも効率がよく、安価に作製可能である。
また、本発明にかかるEPAを含む微生物および、n−6DPAとDHAを含む微生物を用いて動物プランクトン用飼料としたものと、各成分をそれぞれ用意して本発明にかかる動物プランクトン用飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のEPA、n−6DPAおよびDHA含量を同様の比率としたものでは、前者の方が、効果の面でも好ましい。
【0023】
種苗生産とは、魚類の場合、一般に、孵化仔魚から稚魚まで育てる工程をいう。これら種苗生産により得られた稚魚は、その後、放流や養殖に用いられる。よって、種苗生産がうまくいき、生残率が高く、活力が大きい稚魚、さらに種々のストレス耐性を備えた稚魚ができれば、その後の養殖等に大いに役立つこととなる。
本発明において、別の観点によれば、かかる動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化した栄養強化動物プランクトンを提供する。
本発明において、別の観点によれば、かかる動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化した栄養強化動物プランクトンの生産方法を提供する。
【0024】
本発明において、別の観点によれば、かかる動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化した栄養強化動物プランクトンを得る動物プランクトンの給餌方法を提供する。
本発明において、別の観点によれば、かかる動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化した栄養強化動物プランクトンを、仔稚魚の餌として用いることを特徴とする仔稚魚を提供する。
本発明において、別の観点によれば、かかる動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化した栄養強化動物プランクトンを、仔稚魚の餌として用いることを特徴とする仔稚魚の給餌方法を提供する。
本発明において、かかる動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化した栄養強化動物プランクトンを、仔稚魚の餌として用いることを特徴とする仔稚魚の生産方法を提供する。
【0025】
本発明において、別の観点によれば、かかる動物プランクトン用飼料を、仔稚魚の種苗生産に用いて得られる仔稚魚を提供する。
本発明において、別の観点によれば、かかる動物プランクトン用飼料を、仔稚魚の種苗生産に用いることを特徴とする仔稚魚の種苗生産方法を提供する。
本発明において、別の観点によれば、かかる動物プランクトン用飼料を、仔稚魚の種苗生産に用いることを特徴とする仔稚魚の生産方法を提供する。
また、本発明による動物プランクトン用飼料には、当該飼料以外の飼料成分を混合して用いることができる。当該飼料以外の飼料成分は、特に限定されず、通常の動物プランクトン用飼料として用いられているものを使用できる。例えば、淡水クロレラ、酵母、魚油、リン脂質などが挙げられる。さらに、本発明による動物プランクトン用飼料は、当該飼料と、当該飼料以外の飼料成分を同時または別個独立して、魚介類に用いることができる。
【0026】
本発明による動物プランクトン用飼料を用いて種苗生産を行うことができる魚介類は、特に限定されるものではなく、動物プランクトンを使用して種苗生産を行うすべてのものに対して用いることができる。例えば、マダイ、ヒラメ、クロダイ、トラフグ、カレイ、カサゴ、メバル、アユ、オニオコゼ、ブリ、クエ、アカアマダイ、マグロ等の魚類、ガザミ、クルマエビ等の甲殻類やタコ、イカ等の頭足類などである。この中でも、好ましくはマダイ、ヒラメ、クロダイ、トラフグ、カレイであり、さらに好ましくは、マダイ、ヒラメである。
本発明による動物プランクトン用飼料は、魚介類の生産歩留まり向上(生残率の向上)や奇形の防除等の従来の視覚で認識できる作用を保持しつつ、魚介類の機能面の向上という優れた効果を有するものである。魚介類の機能面の向上とは、視覚で認識できないが、魚介類の内的な機能面の向上をいう。例えば、水槽換えにおけるストレス、移送段階の物理的ストレス、網による捕獲時のハンドリングストレスおよび、異なる水温へ移送した時のストレスなどの耐性向上をいう。従来、魚介類の機能面が低いと、これらの工程により、魚介類は生残率が落ちてしまい、種苗生産がうまくいかない場合があった。
本発明による動物プランクトン用飼料の効果は、より詳細には、当該飼料を動物プランクトンに給餌させ栄養強化された栄養強化動物プランクトンを、仔稚魚の餌として用い、仔稚魚の種苗生産をすることにより、仔稚魚に対して上記ストレス耐性が向上されるため、仔稚魚の水槽換え時、移送時、網による捕獲時、異なる水温の水槽へ移送した時に、仔稚魚の生存率や活性が落ちるのを防ぐことができる。これにより、結果として、種苗生産が現状よりも、さらに良好になるものである。
【0027】
本発明による動物プランクトン用飼料の効果は、一般に、生産歩留まり向上(生残率の向上)や奇形の防除等の効果を有するとされている、(a)比較的EPAを多く含み、DPAやDHAをほとんど含まない微生物、(b)比較的DPAおよびDHAを多く含み、EPAを微量(脂質中の総脂肪酸に5質量%以下)含む微生物、と比較して、大きな効果を有している。特に、当該飼料は、これらと比して、仔稚魚の空中暴露に対する耐性および、低水温暴露に対する耐性について、顕著な効果を有している。
空中暴露試験では、本明細書中で言われる「ハンドリングストレス耐性」、「ハンドリングによるストレス防止効果」を測定する。該試験は、例えば、一定期間飼育後の仔稚魚を網の上に乗せ、一定時間(例えば、120秒)、空中に露出させた後、他の同水温へ移送して、一定期間(例えば、24時間)後の生残率で測定することにより行うことができる。これにより、活力が維持され、仔稚魚の生残率が高ければ(死ななければ)、当然、仔稚魚の種苗生産時における取扱い時にも、死ぬことが少なくなり、結果として、種苗生産がうまくいき、水産業に大いに役立つものである。
低水温暴露試験では、本明細書中で言われる「低水温暴露耐性(低温ストレス耐性)」、「低水温暴露によるストレス防止効果」を測定する。該試験は、例えば、水温21℃で一定期間飼育後の仔稚魚を、水温12℃、13℃、14℃または15℃の他の水槽に移送して、一定期間(例えば、30分)後の生残率で測定することにより行うことができる。これにより、活力が維持され、仔稚魚の生残率が高ければ(死ななければ)、当然、仔稚魚の種苗生産時における取扱い時にも、死ぬことが少なくなり、結果として、種苗生産がうまくいき、水産業に大いに役立つものである。
【0028】
本発明によれば、EPAを含む微生物の細胞壁破砕処理物と、n−6DPAとDHAとを含む微生物を含有したものを、動物プランクトン用飼料として使用することにより、種苗生産における仔稚魚の低水温暴露やハンドリングによるストレス防止効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、かかる動物プランクトン用飼料を、動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化された栄養強化動物プランクトンを仔稚魚の餌として用いることにより、該仔稚魚の低水温暴露耐性(低温ストレス耐性)やハンドリングストレス耐性を向上させる効果を奏する。又、本発明の動物プランクトン用飼料を与えたアルテミアやワムシなどの動物プランクトンでは、その活力が低下しないとの利点がある。
これらの効果は、従来にない、とても有効な効果であり、魚介類の種苗生産、特に仔稚魚の種苗生産に大いに役立つものである。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
[動物プランクトン用飼料の調整および、栄養強化動物プランクトンの調整]
(1−1)動物プランクトン用飼料の調整
動物プランクトン用飼料の原料として、シゾキトリウムATCC20891株の培養液100リットルから約3kgの菌体を分離した。次いで菌体を凍結乾燥処理した後、粉砕し、1.2kgの乾燥粉末を得た。この乾燥粉末100gに蒸留水を加え1リットルにし、ホモジナイザーで分散した試験飼料Aを得た。
試験飼料Aは、n−6DPAとDHAとを含む微生物に相当する。
また、ナンノクロロプシス培養液5000リットルから4kgの菌体を得て、それをスプレー乾燥した。その乾燥粉末100gを蒸留水に加え1リットルとし高圧ホモジナイザーにより細胞壁破砕処理を行い試験飼料Bを得た。
試験飼料Bは、EPAを含む微生物の細胞壁破砕物に相当する。
さらに、別にAの飼料500mlとBの飼料500mlを作成しそれぞれを混合し、試験飼料Cを得た。
試験飼料Cは、当該発明にかかる動物プランクトン用飼料に相当する。
試験飼料A〜Cを、それぞれ脂肪酸分析サンプルとした。
試験飼料の脂肪酸組成を表1に示す。脂肪酸組成は、脂肪酸分析サンプルを凍結乾燥後、Bligh−Dyer法で脂質を抽出してメチルエステル化後、ガスクロマトグラフィーで分析した。構成脂肪酸の割合(質量%)は、面積百分率より求めた。
試験飼料Aに用いた菌体の凍結乾燥品たる乾燥粉末の水分は3.7%、油分は58.5%であった。また、試験飼料Bに用いたスプレー乾燥品たる乾燥粉末の水分は7.0%、油分は7.5%であった。
【0030】
(1−2)栄養強化動物プランクトンの調整
試験飼料を添加して栄養強化する動物プランクトン培養液は、ワムシを淡水クロレラにて培養し1000個体/mlに調整、アルテミアは100個体/mlにそれぞれ調整し、いずれも水温を25℃に維持した。そこに各種試験飼料をそれぞれ2ml/リットルの濃度になるように添加した後、2時間以上経過したもの(栄養強化動物プランクトン)を脂肪酸分析サンプルに供するとともに試験魚の餌として用いた。ここで、栄養強化したワムシおよびアルテミアを、それぞれワムシA〜C、アルテミアA〜という。
栄養強化ワムシの脂肪酸組成を表2に、栄養強化アルテミアの脂肪酸組成を表3に示す。脂肪酸組成は、脂肪酸分析サンプルを凍結乾燥後、Bligh−Dyer法で脂質を抽出してメチルエステル化後、ガスクロマトグラフィーで分析した。構成脂肪酸の割合(質量%)は、面積百分率より求めた。
これらから、試験飼料の脂肪酸組成が、栄養強化した動物プランクトンの脂肪酸組成に反映していることがわかる。
以上のようにして栄養強化したワムシ、アルテミアを用いて、実施例2および3にて、それぞれマダイにより飼育試験を行った。
【0031】
表1は、各種試験飼料の脂肪酸分析値を示す。単位は、質量%である。表中の「ND」は、未検出を意味する。
表2は、各種飼料で栄養強化したワムシの脂肪酸分析値を示す。単位は、質量%である。表中の「ND」は、未検出を意味する。
表3は、各種飼料で栄養強化したアルテミアの脂肪酸分析値を示す。単位は、質量%である。
【0032】
【表1】


【0033】
【表2】

【0034】
【表3】


【実施例2】
【0035】
[栄養強化ワムシを用いたマダイにおける飼育試験および、空中露出試験]
(2−1)栄養強化ワムシを用いたマダイにおける飼育試験
実施例1で得られた試験飼料A〜Cを給餌させたワムシ(栄養強化ワムシA〜C)をそれぞれA〜C区に用いて、供試魚にマダイを使用して飼育試験を実施した。
自家採卵したマダイ受精卵を、各区12500粒にて500リットル容ポリカーボネート水槽に収容し、産卵水温で孵化させた後に、徐々に水温を上げ21℃にした。ふ化率は各区とも98%以上であり、差異はなかった。
栄養強化ワムシA〜Cの添加は、各区において、ふ化後3日目よりワムシの量を5個体/mlを維持するように調整し、1日1回給餌した。ふ化後10日目より8個体/ml維持、15日目より10個体/ml維持するようにワムシの量を調整して朝夕2回給餌し、ふ化後20日目で飼育試験を終了した。
飼育終了後の魚体を脂肪酸分析サンプルとした。
飼育終了後、魚体の脂肪酸組成を分析、各区の生残率と平均全長を算定した。
【0036】
(2−2)栄養強化ワムシを用いたマダイにおける空中露出試験
さらに、空中露出試験として、飼育終了後のマダイ100尾を網により60秒間空中に露出した後、他の同水温の水槽へ移送、24時間後の生残率をみた。
飼育試験後の魚体の脂肪酸組成を表4、飼育後の平均全長、生残率、空中露出後の生残率、の結果を表5に示す。A区は栄養強化ワムシA投与群、B区は栄養強化ワムシB投与群、C区は栄養強化ワムシC投与群をさす。脂肪酸組成は、脂肪酸分析サンプルを凍結乾燥後、Bligh−Dyer法で脂質を抽出してメチルエステル化後、ガスクロマトグラフィーで分析した。構成脂肪酸の割合(質量%)は、面積百分率より求めた。
表4中、A区では他区と比較して最もDHA組成が高く、B区ではEPA組成が最も高く、C区ではEPA、n−6DPAおよびDHA組成ともにバランス良く含まれていることがわかる。これらから試験飼料および栄養強化ワムシの脂肪酸組成が、飼育試験後の魚体中の脂肪酸組成に反映していることがわかる。
【0037】
表5より、各区の平均全長には大きな差は見られず、生残率ではB区が劣り、A区とC区は、ほぼ同等であった。空中露出試験(ハンドリングストレス試験)では、C区では95.3%と生残率が最も高く、次いでA区、B区の順であった。すなわち、EPA、n−6DPAおよびDHA組成ともにバランス良く含まれている飼料を用いた群が最も効果が大きかった。
表4は、ワムシ給餌試験後のマダイ魚体の脂肪酸組成を示す。単位は、質量%である。
表5は、各種栄養強化したワムシを給餌したマダイの試験結果を示す。単位は、質量%である。
【0038】
【表4】


【0039】
【表5】

【実施例3】
【0040】
[栄養強化アルテミアを用いたマダイにおける飼育試験、空中暴露試験および、低水温暴露試験]
(3−1)栄養強化アルテミアを用いたマダイにおける飼育試験
実施例1で得られた試験飼料A〜Cを給餌させたアルテミア(栄養強化アルテミアA〜C)をそれぞれA〜C区に用いて、供試魚にマダイを使用して飼育試験を実施した。
自家採卵したマダイ受精卵を、各区魚卵抽出油で栄養強化したワムシにより孵化後20日目まで飼育したマダイを用いた。各区の水槽に2000尾づつ、500リットル容ポリカーボネート水槽に収容し、水温を21℃とした。ふ化率は各区とも98%以上であり、差異はなかった。
孵化後30日目までは魚卵抽出油で栄養強化したワムシと、各区試験飼料で栄養強化したアルテミア(栄養強化アルテミアA〜C)を併用し、それ以降36日目まで強化アルテミアA〜Cのみの給餌とした。
魚卵抽出油で栄養強化したワムシは、朝夕2回、飼育水中で10個体/mlになるような量に調整して給餌し、栄養強化アルテミアA〜Cは、朝夕2時間以内に食べきる量を給餌し、徐々に給餌量を増加させた。
【0041】
飼育終了後の魚体を脂肪酸分析サンプルとした。
飼育終了後、魚体の脂肪酸組成を分析、各区の生残率と平均全長を算定した。
(3−2)栄養強化ワムシを用いたマダイにおける空中露出試験
また、空中暴露試験として、飼育終了後のマダイ100尾を網により120秒間の空中露出後別水槽へ移送、24時間後の生残率をみた。
(3−3)栄養強化アルテミアを用いたマダイにおける低水温暴露試験
さらに、低水温暴露試験として、飼育終了後のマダイ100尾を12℃、13℃、14℃、15℃の低水温に暴露し30分後の生残率をみた。
飼育終了後の魚体の脂肪酸組成を表6に、飼育後の平均全長、生残率、空中露出試験、低温暴露試験の生残率を表7に示す。A区は栄養強化アルテミアA投与群、B区は栄養強化アルテミアB投与群、C区は栄養強化アルテミアC投与群をさす。脂肪酸組成は、脂肪酸分析サンプルを凍結乾燥後、Bligh−Dyer法で脂質を抽出してメチルエステル化後、ガスクロマトグラフィーで分析した。構成脂肪酸の割合(質量%)は、面積百分率より求めた。
【0042】
表6中、A区では他区と比較して最もDHA組成が高く、B区ではEPA組成が最も高く、C区ではEPA、n−6DPAおよびDHA組成ともにバランス良く含まれているのことがわかる。これらから試験飼料および強化アルテミアの脂肪酸組成が、飼育試験後の魚体中の脂肪酸組成に反映していることがわかる。
表7より、各区の平均全長には大きな差は見られず、生残率にも差は見られなかった。一方、空中露出試験では、A区とB区はほぼ変らず、C区で最も高い生残率が見られた。すなわち、EPA、n−6DPAおよびDHA組成ともにバランス良く含まれている飼料を用いた群が最も効果が大きかった。
また、低水温暴露による生残率は、12℃に暴露した場合、C区で最も高い生残率、次いでA区、B区の順であった。13℃でも同様の順であった。14℃、15℃ではB区で特に低い生残率であったが、A区、C区の間には差は見られなかった。B区は、12〜15℃のすべての暴露試験において、A区およびC区と比較して特に低い生残率であった。すなわち、EPA、n−6DPAおよびDHA組成ともにバランス良く含まれている飼料を用いた群が最も効果が大きかった。
【0043】
空中露出試験でDHAが空中露出試験の耐性向上に効果があることはこれまでの報告と一致した結果であった(非特許文献4参照)。しかし、ヨーロッパヘダイではレシチン存在下でEPAの増加により低水温ストレス耐性が改善することが報告されている(非特許文献3参照)が、今回の結果では、魚体にEPAが単独存在しただけでは低水温耐性改善効果はなく、魚体にn−6DPAとDHAが存在することで若干改善され、魚体にEPAとn−6DPAとDHAがバランスよく存在することによって著しく効果のあることが明らかになった。
表6は、アルテミア給餌試験後のマダイ魚体の脂肪酸組成を示す。単位は、質量%である。
表7は、各種栄養強化したアルテミアを給餌したマダイの試験結果を示す。単位は、質量%である。
【0044】
【表6】

【0045】
【表7】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エイコサペンタエン酸を含む微生物の細胞壁破砕処理物、およびn−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物、を含有する動物プランクトン用飼料。
【請求項2】
エイコサペンタエン酸を含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のエイコサペンタエン酸含量が、10〜50質量%である請求項1に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項3】
エイコサペンタエン酸を含む微生物が、真正眼点藻類ナンノクロロプシス属(Nannnochloropsis.sp)である請求項1または2に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項4】
n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のn−6ドコサペンタエン酸含量が5〜60質量%である請求項1から3のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項5】
n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のドコサヘキサエン酸含量が20〜80質量%である請求項1から4のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項6】
n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のn−6ドコサペンタエン酸含量が5〜60質量%で、ドコサヘキサエン酸含量が20〜80質量%である請求項1から5のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項7】
n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物に含まれる脂質の総脂肪酸中のn−6ドコサペンタエン酸含量が10〜30質量%で、ドコサヘキサエン酸含量が30〜70質量%である請求項1から6のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項8】
n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物が、シゾキトリウム属(Schizochytrium.sp)またはトラウストキトリウム属(Thraustochytrium.sp)である請求項1から7のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項9】
エイコサペンタエン酸を含む微生物の細胞壁破砕処理物と、n−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物との質量比率が、固体物として1:9〜9:1である請求項1から8のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項10】
動物プランクトンが、ワムシ、アルテミアおよびミジンコからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1から9のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項11】
動物プランクトン用飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のエイコサペンタエン酸含量が5〜35質量%である請求項1から10のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項12】
動物プランクトン用飼料に含まれる脂質の総脂肪酸中のエイコサペンタエン酸含量が5〜27質量%であり、n−6ドコサペンタエン酸含量が5〜21質量%であり、かつ、ドコサヘキサエン酸含量が5〜52質量%である請求項1から11のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の動物プランクトン用飼料を動物プランクトンに給餌させることにより栄養強化した栄養強化動物プランクトンを、仔稚魚の餌として用いることを含む仔稚魚の生産方法。
【請求項14】
エイコサペンタエン酸を含む微生物の細胞壁破砕処理物、およびn−6ドコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸とを含む微生物、を含有する、魚介類へのストレス耐性付与剤。
【請求項15】
ストレス耐性がハンドリング耐性である請求項14記載のストレス耐性付与剤。
【請求項16】
ストレス耐性が低水温暴露耐性である請求項14記載のストレス耐性付与剤。

【国際公開番号】WO2005/027651
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514053(P2005−514053)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013619
【国際出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(390033259)日清マリンテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】