説明

動物由来産物不含方法およびボツリヌス毒素を精製するための方法

【課題】クロストリジウム毒素を精製するための種々のクロマトグラフのAPFシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】ボツリヌス毒素A型900kDa複合体を精製するためのAPF方法であって、(a)APF方法から生じるボツリヌス毒素A型900kDa複合体の発酵培養物のサンプルを得て;(b)第一のカラムによって、ボツリヌス毒素A型900kDa複合体の捕捉を可能にするために第一のクロマトカラムの樹脂を該培養物サンプルと接触させて;(c)第一のカラムからボツリヌス毒素A型900kDa複合体を溶離して;(d)第二のカラムクロマトのカラム樹脂に第一のクロマトカラムからの溶離液を負荷し、それにより精製したボツリヌス毒素A型900kDa複合体を得る工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本出願は、Ping Wang および Stephen Donovan による「クロストリジウム菌用の培地およびクロストリジウム毒素を得るための方法」と題した2005年3月3日に出願した出願継続中の米国特許出願の一部継続出願であり、該出願は、2003年9月25日に出願した出願番号10/672876の米国特許出願の一部継続出願であり、これらの出願のすべての内容は、参照によって本明細書に引用する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、クロストリジウム毒素を精製するためのシステムおよび方法に関する。特に、本発明は、ボツリヌス神経毒を精製するためのクロマトグラフ法に関連する。治療、診断、研究または美容の目的のためのヒトまたは動物への投与に適した医薬組成物は、有効成分を含有することができる。医薬組成物はまた、1またはそれ以上の賦形剤、緩衝液、担体、安定剤、保存剤および/または充填剤を含むことができる。医薬組成物中の活性成分は、ボツリヌス毒素などの生物製剤であり得る。ボツリヌス毒素医薬組成物を製造するために用いられるボツリヌス毒素活性成分は、1またはそれ以上の動物由来産物(大量のボツリヌス毒素を得るために用いられる1またはそれ以上の培養および発酵培地中のミートブロスおよびカゼイン成分、および最終的に配合されたボツリヌス毒素医薬組成物中の血液分画または血液製剤賦形剤など)を利用する複数段階培養、発酵、および配合工程を介して得ることができる。有効成分生物製剤が動物由来産物を利用する工程を介して得られる医薬組成物の患者への投与は、患者が種々の病原体または感染体を受ける潜在的危険性を被る可能性がある。例えばプリオンは、医薬組成物に存在しうる。プリオンは、正常な蛋白質を作る同じ核酸配列から異常立体配座アイソフォームとして生じると仮定される蛋白性感染粒子である。感染性は、翻訳後レベルで正常アイソフォーム蛋白質のプリオン蛋白質アイソフォームへの「補充反応」に存在するとさらに仮定されている。明らかに正常の内因性細胞蛋白質は誘発されて、病原性プリオンコンフォメーションに誤って折り畳まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
クロイツフェルト・ヤコブ病は、伝染性物質が明らかにプリオン蛋白質の異常アイソフォームである、まれなヒト感染性海綿状脳症の神経変性障害である。クロイツフェルト・ヤコブ病の個体は、6ヶ月以内に明らかに完全な健康体から無動無言症に悪化しうる。従って、例えば、動物由来産物を用いて得られ、精製されるか、または配合されるボツリヌス毒素のような生物製剤を含む医薬組成物の投与から、クロイツフェルト・ヤコブ病のようなプリオン介在性疾患に感染する潜在的危険性が存在しうる。
【0004】
ボツリヌス毒素
クロストリジウム属は、形態および機能により分類される127以上の種菌を有する。嫌気性グラム陽性菌であるクロストリジウム・ボツリヌス菌は、ヒトおよび動物にボツリヌス中毒症として知られている神経麻痺性疾病を引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。クロストリジウム・ボツリヌス菌およびその胞子は、一般に土壌中に見出され、該菌は、在宅の缶詰作業場で不適切に滅菌され、封をされた食品容器中にて増殖することができ、これがボツリヌス中毒症の多くの場合の原因である。ボツリヌス中毒症の影響は、典型的にクロストリジウム・ボツリヌス菌培養物または胞子に感染した食料を食べた18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、明らかに内臓の内層を通って弱められることなく通過し、末梢運動神経細胞を攻撃することができる。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から呼吸筋麻痺および死まで進行しうる。
【0005】
ボツリヌス毒素A型は、ヒトに知られる最も致命的な天然の生物体である。約50ピコグラムのボツリヌス毒素A型(精製神経毒複合体)が、マウスにおけるLD50である。モル濃度基準において、ボツリヌス毒素A型は、ジフテリアより18億倍、シアン化ナトリウムより6億倍、コブロトキシン(cobrotoxin)より3000万倍およびコレラより1200万倍致死的である。文献(Singh, Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins, Natural Toxins II の63〜84ページ(第4章), B.R. Singhら編, Plenum Press, New York (1976))(ここに、0.3ngが1Uに匹敵するボツリヌス毒素A型の規定LD50は、BOTOX(登録商標)の約0.05ngが1ユニットに匹敵するという事実で補正される)。BOTOX(登録商標)は、カリフォルニア州アーバインのアラーガン社(Allergan, Inc.)から市販品として入手可能なボツリヌス毒素A型の精製神経毒複合体の商標である。1ユニット(U)のボツリヌス毒素は、それぞれ約18〜20グラムの重量の雌スイスウェブスターマウスへの腹腔内投与におけるLD50として定義される。言い換えれば、1ユニットのボツリヌス毒素は、雌スイスウェブスターマウス群の50%を殺すボツリヌス毒素の量である。7つの一般的に免疫学的に明確なボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらはそれぞれボツリヌス神経毒抗原型A、B、C1、D、E、FおよびGであり、それぞれが型特異的抗体との中和により区別される。ボツリヌス毒素の異なる抗原型は、影響する動物種および引き起こされる麻痺の重篤度および期間の点で異なる。例えば、ラットにおいて生じる麻痺率により測定したとき、ボツリヌス毒素A型は、ボツリヌス毒素B型よりも500倍強いことが測定されている。さらに、ボツリヌス毒素B型は、ボツリヌス毒素A型についての霊長類LD50の約12倍である480U/kgの用量において霊長類に非毒性であると測定されている。明らかにコリン作動性運動ニューロンに高い親和性を有して結合するボツリヌス毒素は、ニューロンに転位し、アセチルコリンのシナプス前放出を遮断する。
【0006】
ボツリヌス毒素は、例えば、過剰亢進性骨格筋により特徴付けられる神経筋障害のような治療用の臨床設定に用いられている。ボツリヌス毒素A型は、米国食品医薬品局により、12歳以上の患者における特発性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣の治療、ならびに頚部ジストニアの治療および眉間(顔面)のしわの治療のために承認されている。FDAはまた、頚部ジストニアの治療のためにボツリヌス毒素B型も承認している。ボツリヌス毒素A型の末梢(すなわち、筋肉内または皮下)注射の臨床効果は、通常注射の1週間以内に見られ、注射後数時間以内に度々見られる。ボツリヌス毒素A型の単回の筋肉注射から生じる典型的な症状軽減(すなわち弛緩性筋麻痺)期間は、約3ヶ月から約6ヶ月であり得る。
【0007】
すべてのボツリヌス毒素抗原型は、明らかに神経筋接合部の神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害するが、異なる神経分泌蛋白質に作用し、および/または異なる部位におけるこれらの蛋白質を開裂することによりそのように阻害する。ボツリヌス毒素Aは、細胞内、小胞関連蛋白質SNAP−25のペプチド結合を特異的に加水分解することができる亜鉛エンドペプチダーゼである。ボツリヌス菌E型も、25キロダルトン(kD)シナプトソーム関連蛋白質(SNAP−25)を開裂するが、ボツリヌス毒素A型と比較して、この蛋白質中の異なるアミノ酸配列を標的とする。ボツリヌス毒素B型、D型、F型およびG型は、蛋白質を異なる部位で開裂するそれぞれの抗原型で小胞関連蛋白質(VAMP、シナプトブレビン(synaptobrevin)とも称される)に作用する。最後にボツリヌス毒素C1型は、シンタキシンおよびSNAP−25の両方を開裂するために示されている。これらの作用機序の差異は、種々のボツリヌス毒素抗原型の作用の相対的有効性および/または期間に影響し得る。
【0008】
抗原型にかかわらず、毒素中毒の分子機序は類似しており、少なくとも3工程または3段階を含むようである。本方法の第一の工程において、毒素は、重鎖(H鎖)および細胞表面レセプター間の特異的な相互作用を介して標的ニューロンのシナプス前膜に結合し、該レセプターは、ボツリヌス毒素の各抗原型に対して異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端部分HCは、毒素の細胞表面への標的のために重要であるよう思われる。
【0009】
第二工程において、毒素は、毒細胞の細胞膜を通過する。毒素はまずレセプター介在性エンドサイトーシスを介して細胞によって取り込まれ、毒素を含むエンドソームを形成する。次いで毒素は、エンドソームから細胞の細胞質に抜ける。この最後の工程は、H鎖のアミノ末端部HNにより媒介されると考えられ、これは約5.5またはそれ以下のpHに応じて毒素の構造変化を誘発する。エンドソームは、エンドソーム内のpHを軽減するプロトンポンプを有することが知られている。コンフォメーション変化は、疎水性残基を毒素に暴露し、毒素がエンドソーム細胞膜にそれ自体を組み込むことを可能にする。次いで毒素は、エンドソーム細胞膜を介して細胞質ゾル内に転位する。
【0010】
ボツリヌス毒素の活性機構の最終工程は、HおよびL鎖を結合するジスルフィド結合の還元を含むようである。ボツリヌス菌およびボツリヌス毒素の完全な毒性作用は、ホロトキシンのL鎖に含まれ;L鎖は、認識、および神経伝達物質含有小胞の細胞膜の細胞質表面との結合、ならびに小胞の細胞膜との融合に不可欠な蛋白質を選択的に開裂する亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼである。ボツリヌス神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびGは、シナプトブレビン(小胞関連膜蛋白質(VAMP)とも称される)、シナプトソーム膜蛋白質の分解をもたらす。シナプス小胞の細胞質表面に存在するほとんどのVAMPは、これらの開裂事象のいずれか一つの結果として除去される。各毒素は、特異的に異なる結合を開裂する。
【0011】
ボツリヌス毒素蛋白質分子の分子量は、公知のボツリヌス毒素抗原型の7つすべてについて、約150kDである。興味深いことに、ボツリヌス毒素は、1またはそれ以上の関連無毒性蛋白質とともに、150kDのボツリヌス毒素蛋白質分子からなる複合体として、クロストリジウム・バクテリアにより放出される。従って、ボツリヌス毒素A型複合体は、クロストリジウム・バクテリアにより900kD、500kDおよび300kD体(およその分子量)として産生され得る。ボツリヌス毒素B型およびC1型は、明らかに500kD複合体としてのみ産生される。ボツリヌス毒素D型は300kDおよび500kD複合体の両方として産生される。最後に、ボツリヌス毒素E型およびF型は、およそ300kDの複合体としてのみ産生される。複合体(すなわち、約150kDより大きな分子量)は、無毒性血球凝集素蛋白質および無毒性非血球凝集素蛋白質を含むと考えられる。従って、ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素分子(神経毒成分)および1またはそれ以上の無毒性血球凝集素蛋白質および/または無毒性非血球凝集素蛋白質(後者はNTNH蛋白質と称することができる)を含有することができる。これら二つの型の無毒性蛋白質(ボツリヌス毒素分子とともに関連する神経毒複合体を含有することができる)は、ボツリヌス毒素分子への変性に対する安定性および毒素を摂取する場合の消化酸に対する保護を提供するために作用し得る。さらに、より大きな(約150kDの分子量より大きな)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉注射部位から離れて、ボツリヌス毒素の低速度の拡散を生じ得ることが可能である。毒素複合体は、複合体をpH7.3で赤血球と処理するか、または複合体を約7〜8のpHで適当な緩衝液中、例えば、カラムクロマトグラフィーのような分離方法に付すことにより、毒性蛋白質および血球凝集素蛋白質に解離させることができる。ボツリヌス毒素蛋白質は、血球凝集素蛋白質の除去に顕著な不安定性を有する。
【0012】
すべてのボツリヌス毒素抗原型は、プロテアーゼにより開裂されるか、またはニックを入れられて、神経刺激性となるべき不活性単一鎖蛋白質として、天然のクロストリジウム・ボツリヌス菌により作られる。ボツリヌス毒素抗原型A型およびG型を作る細菌株は、内因性プロテアーゼを有し、それ故、抗原型A型およびG型は、主としてその活性な形態で菌培養物から回収され得る。一方、ボツリヌス毒素抗原型C1型、D型およびE型は、蛋白非分解性菌株により合成され、それ故培養物から回収されたとき典型的に不活性化される。抗原型B型およびF型は、蛋白分解性および蛋白非分解性の両方の菌株により産生され、それ故、活性または不活性な形態のいずれかで回収することができる。しかし、例えばボツリヌス毒素B型抗原型を産生する蛋白分解性菌株でさえ、産生された毒素の一部を開裂するのみである。ニックの入った分子のニックの入っていない分子に対する正確な比は、インキュベーションの長さおよび培養物の温度に依存する。それ故、例えばある割合のボツリヌス毒素B型のいずれかの調製物は、ボツリヌス毒素A型と比べて公知の著しく低い効力のボツリヌス毒素B型が占めることになると不活性になる可能性がある。臨床製剤における不活性なボツリヌス毒素分子の存在が、その臨床効果に寄与せずに製剤の総蛋白質充填量に寄与し、これは増大した抗原性につながっている。さらに筋肉注射において、ボツリヌス毒素B型は、より短期間の活性を有し、同じ用量レベルにおけるボツリヌス毒素A型より作用が弱いということも知られている。
【0013】
インビトロ研究は、ボツリヌス毒素が脳幹組織の初代細胞培養からアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方のカリウムカチオン誘起放出を阻害することを示している。さらに、ボツリヌス毒素が脊髄ニューロンの初代培養液中で、グリシンおよびグルタミン酸塩の両方の誘発放出を阻害し、脳シナプトソーム製剤において、ボツリヌス毒素がそれぞれの神経伝達物質アセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン、CGRPおよびグルタミン酸塩の放出を阻害することが報告されている。
【0014】
種々の臨床病態を治療するためのボツリヌス毒素A型の成功は、他のボツリヌス毒素抗原型に興味をもたらした。従って、少なくともボツリヌス毒素A型、B型、E型およびF型は、ヒトにおいて臨床的に用いられている。さらに純粋な(およそ150kDa)ボツリヌス毒素は、ヒトを治療するために用いられている。例えば文献(Kohl A., et al., Comparison of the effect of botulinum toxin A (Botox (R)) wuth the highly-purified neurotoxin (NT201) in the extensor digitorum brevis muscle test, Mov Disord 2000;15(Suppl 3):165)を参照されたい。従って、ボツリヌス毒素医薬組成物は、ボツリヌス毒素複合体の使用と対照的に、純粋な(およそ150kDa)ボツリヌス毒素を用いて製造され得る。
【0015】
ボツリヌス毒素A型は、pH4〜6.8で希釈水溶液に可溶であることが知られている。上記の約7のpHで安定化する無毒性蛋白質は、具体的にpHおよび温度が上昇するにつれて、毒性の段階的な喪失を生じて神経毒から解離する。Schantz E.J., et al Preparation and characterization of botulinum toxin type A for human treatment(特に44〜45ページ), Jankovic, J., et al, Therapy with Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc (1994)の第3章。
【0016】
一般に酵素と同様に、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼである)の生物学的活性は、その3次元コンフォメーションの少なくとも一部に依存する。従って、ボツリヌス毒素A型は、熱、種々の化学的表面伸縮および表面乾燥により解毒化される。さらに公知の培養、発酵および精製により得られた毒素複合体の、医薬組成物製剤のために用いられるはるかに低い毒素濃度への希釈は、適切な安定剤が存在しなければ、毒素の急速な解毒化をもたらすことが知られている。ミリグラム量からミリリットルあたりナノグラムを含む溶液への毒素の希釈は、そのような大きな希釈における特異的な毒性の急速な喪失のため、かなり困難である。毒素は、医薬組成物を含む毒素が製剤化された後、何ヶ月かまたは何年か使用され得るので、毒素はアルブミンおよびゼラチンなどの安定化剤により安定化される。
【0017】
ボツリヌス毒素が下記の通り、種々の臨床設定に用いられることが報告されている:
(1)頸部ジストニアを治療するために、筋肉注射(複数筋肉)あたり約75〜125ユニットのBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわ(深いしわ)を治療するために、筋肉注射あたり5〜10ユニット(鼻根筋への5ユニット筋肉注射および各皺眉筋への10ユニット筋肉注射)のBOTOX(登録商標);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射により便秘を治療するために、約30〜80ユニットのBOTOX(登録商標);
(4)上眼瞼の側部瞼板前眼輪筋および下眼瞼の側部瞼板前眼輪筋を注射することにより眼瞼痙攣を治療するために、筋肉あたり約1〜5ユニットの筋肉注射されたBOTOX(登録商標);
(5)斜視を治療するために、注射すべき筋肉の大きさおよび所望の筋麻痺の程度(すなわち所望のジオプター補正量)の両方に基づき変化する注射量である、約1〜5ユニットのBOTOX(登録商標)を外眼筋に筋肉注射される;
(6)上肢痙縮を治療するために、発作に続いて、以下の5つの異なる上肢屈筋へのBOTOX(登録商標)の筋肉注射:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋(flexor digitorum sublimus):7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)とう側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。
5つの指示筋のそれぞれは、患者が各治療セッションで筋肉注射による90U〜360Uの上肢屈筋のBOTOX(登録商標)から受けるように、同じ治療セッションで注射されている。
(7)片頭痛を治療するための、25UのBOTOX(登録商標)の頭蓋骨膜注射(眉間の筋肉、前頭筋および側頭筋に対称的に注射される)は、25U注射後3ヶ月間にわたって行った片頭痛頻度、最大重篤度、関連嘔吐および急性投薬使用での減少した測定結果によって評価されるように、ベヒクルと比べて片頭痛の予防的治療としての有意な利点を示している。
【0018】
ボツリヌス毒素A型は、12ヶ月まで(European J. Neurology 6 (Supp 4): S111-S1150:1999)、状況次第で27ヶ月もの長い間、有効性を有することができることが知られている。文献(Laryngoscope 109:1344-1346:1999)。しかし、Botox(登録商標)の筋肉注射の通常期間は、典型的に約3〜4ヶ月である。
【0019】
医薬組成物を含む市販品として入手可能なボツリヌス毒素は、商標BOTOX(登録商標)(カリフォルニア州アーバインのアラーガン社より入手可能)にて販売されている。BOTOX(登録商標)は、滅菌した真空乾燥形態でパッケージされた精製ボツリヌス毒素A型複合体、ヒト血清アルブミンおよび塩化ナトリウムからなる。ボツリヌス毒素A型は、N−Zアミンカゼインおよび酵母エキスを含む培地で増殖したクロストリジウム・ボツリヌスのホール菌株の培養液から調製される。ボツリヌス毒素A型複合体は、一連の酸または酸およびエタノール沈殿による培養液から活性な高分子量の毒性蛋白質および関連血球凝集素蛋白質からなる結晶性複合体に精製される。該結晶性複合体は、真空乾燥前に、生理食塩水およびアルブミンを含む溶液に再溶解させ、滅菌ろ過(0.2ミクロン)する。BOTOX(登録商標)は、筋肉注射前に滅菌した非保存生理食塩水で再構成され得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、防腐剤を含まない滅菌した真空乾燥形態で、約100ユニット(U)のクロストリジウム・ボツリヌス毒素A型複合体、0.5ミリグラムのヒト血清アルブミンおよび0.9ミリグラムの塩化ナトリウムを含む。
【0020】
真空乾燥したBOTOX(登録商標)を再構成するために、防腐剤を含まない滅菌正常生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射)を、適当な大きさのシリンジで適量の希釈液を調製することにより用いる。BOTOX(登録商標)をバブリングまたは同様の激しい撹拌により変性するので、希釈液をバイアルに穏やかに注入する。再構成したBOTOX(登録商標)は、冷蔵庫(2℃〜8℃)内に保存することができ、無色透明の液体で粒状物質不含である。30日までその効力を保持した再構成BOTOX(登録商標)の報告がある。例えば、Guttman C., Botox retains its efficacy for blepharospasm treatment after freezing and storage, New York investigators find, EuroTimes 2000 Nov/Dec;5(8):16 を参照されたい。真空乾燥した生成物を−5℃以下で冷凍庫にて保存する。
【0021】
一般に、C.ボツリヌスの4つの生理学的群が認識される(I、II、III、IV)。血清学的に区別される毒素を産生することができる有機物は、二以上の生理学的群に由来しうる。例えば、B型およびF型毒素は、群Iまたは群IIからの菌株により産生され得る。さらにボツリヌス神経毒を産生し得る他のクロストリジウム種の菌株(C. baratii, F型; C.butyricum, E型; C. novyi, C1型またはD型)が同定されている。
【0022】
クロストリジウム・ボツリヌス類の生理学的群を表1に記載する。
表1.クロストリジウム・ボツリヌス菌の生理学的群

これらの毒素型は、クロストリジウム・ボツリヌス有機体の適当な生理学的群からの選択により産生され得る。群Iとして示される有機体は、通常蛋白分解性として称され、A型、B型およびF型のボツリヌス毒素を産生する。群IIとして示される有機体は、糖分解性であり、B型、E型およびF型のボツリヌス毒素を産生する。群IIIとして示される有機体は、ボツリヌス毒素C型およびD型でのみ産生し、有意な量のプロピオン酸の産生により群IおよびIIの有機体から区別される。群IVの有機体は、G型の神経毒のみを産生する。
【0023】
実質的に動物由来成分不含の特異的な培地を用いて破傷風毒素が得られることが知られている。例えば、米国特許第6558926号を参照されたい。しかしとりわけ、この特許に開示される「動物由来成分不含」培地でさえ、バクトペプトン(Bacto-peptone)、肉製品消化物を用いる。重要なことに、クロストリジウム・ボツリヌス菌によるボツリヌス毒素の産生に対する破傷風菌による破傷風毒素の産生には、異なる成長、異なる培地および異なる発酵パラメータならびに検討事項が必要とされる。例えば、Johnson, E.A., et al., Clostridium botulinum and its neurotoxins: a metabolic and cellular perspective, Toxicon 39 (2001), 1703-1722.を参照されたい。
【0024】
活性なボツリヌス神経毒の産生
医薬組成物における使用のためのボツリヌス毒素は、周知のシャンツ法(Schantz process)の改良版を用いるクロストリジウム・ボツリヌスの嫌気性発酵により得ることができる(例えば、Schantz E.J., et al., Properties and use of botulinum toxin and other microbial neurotoxins in medicine, Microbiol Rev 1992 Mar;56(1):80-99; Schantz E.J., et al., Preparation and characterization of botulinum toxin type A for human treatment, chapter 3 in Jankovic J, ed. Neurological Disease and Therapy. Therapy with botulinum toxin (1994), New York, Marcel Dekker;1994, 41-49ページ、および Schantz E.J., et al., Use of crystalline type A botulinum toxin in medical research, in: Lewis GE Jr, ed. Biomedical Aspects of Botulism (1981) New York, Academic Press, pages 143-50.を参照されたい。)
【0025】
クロストリジウム・ボツリヌス神経毒(純粋な毒素として、またはボツリヌス毒素複合体として)は、適当な遺伝子を有する組み換え宿主細胞の好気性発酵によっても得ることができる。例えば、1999年7月6日に発行された「ボツリヌス神経毒素のためのワクチン」と題されたウイリアムスの米国特許第5919665号および2003年11月20日に発行された「可溶性の組み換えボツリヌス毒素蛋白質」と題されたウイリアムスらの米国特許出願20030215468を参照されたい。
【0026】
さらに、ボツリヌス毒素(150キロダルトン分子)およびボツリヌス毒素複合体(300kDa〜900kDa)は、例えば、カリフォルニア州キャンベルのリスト生物学研究所(List Biological Laboratories)株式会社;応用微生物学研究センター(Centre for Applied Microbiology and Research、英国ポートンダウン);和光(大阪、日本)ならびにミズーリ州セントルイスのシグマ・ケミカルから得ることができる。医薬組成物を含む市販品として入手可能なボツリヌス毒素は、BOTOX(登録商標)(ヒト血清アルブミンおよび塩化ナトリウムのボツリヌス毒素A型精製神経毒複合体)(使用前に0.9%塩化ナトリウムと再構成される凍結乾燥粉末として、100ユニットバイアルでカリフォルニア州アーバインのアラーガン社より入手可能)、Dysport(登録商標)(ボツリヌス毒素医薬組成物におけるヒト血清アルブミンおよびラクトースのクロストリジウム・ボツリヌスA型毒素血球凝集素複合体)(使用前に0.9%塩化ナトリウムと再構成される粉末として、英国バークシャー州のイプセン社(Ipsen Limited)より入手可能)およびMyoBloc(登録商標)(カリフォルニア州サンディエゴのSolstice Neurosciences(以前はアイルランド、ダブリンのElan Corporationより入手可能)より入手可能な、ボツリヌス毒素B型、ヒト血清アルブミン、コハク酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含有する約pH5.6の注射用溶液)を含む。
【0027】
治療、診断、研究または美容の目的のために、ヒトまたは動物に対する投与に適したクロストリジウム毒素の医薬組成物を製造するために、多くの工程が必要である。これらの工程は、精製したクロストリジウム毒素を得ること、次いで、精製したクロストリジウム毒素を配合することを含むことができる。第一工程は、温嫌気性雰囲気中のような細菌増殖に導く環境中、典型的には寒天プレート上でクロストリジウム菌を培養することが可能である。培養工程は、所望の形態および他の特性を有するクロストリジウムコロニーを得ることが可能である。第二工程において、選択した培養クロストリジウムコロニーは、適当な培地で発酵され得る。発酵の特定の期間後、該クロストリジウム菌は、典型的には溶解し、クロストリジウム毒素を培地に放出する。第三に、培養培地は、バルクまたは未加工の毒素を得るために精製され得る。典型的に、バルク毒素を得るための培養培地の精製は、他の試薬中、核酸の分解および除去を容易にするために使用されるDNaseおよびRNaseのような動物由来の酵素を用いて実施される。生じたバルク毒素は、高特異的な活性を持つ高度に精製された毒素である。適当な緩衝液中で安定化後、バルク毒素は、ヒトに投与するために適当なクロストリジウム毒素の医薬組成物を製造するために1またはそれ以上の賦形剤と配合されうる。該クロストリジウム毒素の医薬組成物は、医薬活性成分として、クロストリジウム毒素を含むことができる。該医薬組成物は、1またはそれ以上の賦形剤、緩衝液、担体、安定化剤、保存料および/または充填剤も含むことができる。
【0028】
クロストリジウム毒素の発酵工程は、クロストリジウム菌全体、溶解した菌、培養の栄養分および発酵副生成物を含む培養溶液中でもたらすことができる。全体および溶解した菌のような全体的な成分を除去するためのこの培養溶液の濾過により、精製した培養液が得られる。該精製培養溶液は、クロストリジウムおよび種々の不純物を含み、バルク毒素と呼ばれる濃縮したクロストリジウム毒素を得るために処理されうる。
【0029】
1またはそれ以上の動物由来産物(例えば、牛乳カゼイン消化物、DNaseおよびRNase)を用いたバルクのクロストリジウム毒素を得るための発酵および精製方法は、公知である。ボツリヌス毒素複合体を得るためのそのような公知の非APF方法の具体例は、シャンツ法である。シャンツ法(最初の細胞培養から発酵および毒素の精製まで)は、例えば培養バイアル中の動物由来のバクトクックトミート(Bacto Cooked Meat)培地、コロニーの増殖および選択のためのコロンビア血液寒天プレート、および発酵培地中のカゼインのような動物由来の多くの産物を利用する。さらに、シャンツのバルク毒素精製方法は、発酵した培養培地を含む毒素内に存在する核酸を加水分解するために、ウシ由来のDNaseおよびRNaseを利用する。
【0030】
減量した動物由来産物を使用する破傷風トキソイドを得るための発酵プロセス(動物性蛋白質不含または「APF」発酵方法として言及する)は、公知である。例えば、デメインらの2003年5月6日に発行した「動物性成分を実質的に含まない培地を用いる破傷風毒素の生成方法」と題した米国特許第6558926号を参照されたい。クロストリジウム毒素を得るためのAPF発酵方法は、ヒトに投与するための医薬組成物に配合する際、医薬活性成分のクロストリジウム毒素に付随するウイルス、プリオンまたは他の望まない成分によるその後に生ずるバルク毒素の汚染の可能性(すでにとても低い)を減少させる潜在的な効果を有する。
【0031】
クロストリジウム毒素を生成するために、クロマトグラフィーを使用することが以下のように公知である。
1. Ozutsumi K., et al, Rapid, simplified method for production and purification of tetanus toxin, App & Environ Micro, Apr. 1985, p 939-943, vol 49, no. 4.(1985) は、破傷風毒素を精製するための高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ゲル濾過の使用を開示する。
2. Schmidt J.J., et al., Purification of type E botulinum neurotoxin by high-performance ion exchange chromatography, Anal Biochem 1986 Jul;156(1):213-219 は、ボツリヌス毒素E型を精製するためのサイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーの使用を開示する。また、リボヌクレアーゼ(RNase)の代わりに硫酸プロタミンの使用を開示する。
3. Simpson L.L., et al., Isolation and characterization of the botulinum neurotoxins
Simpson LL; Schmidt JJ; Middlebrook JL, In: Harsman S, ed. Methods in Enzymology. Vol. 165, Microbial Toxins: Tools in Enzymology San Diego, CA: Academic Press;vol 165:pages 76-85 (1988) は、重力流によるクロマトグラフィー、HPLC、親和性樹脂を用いる捕捉工程、サイズ排除クロマトグラフ、および2つの異なったイオン交換カラムの使用を含むイオン(アニオンおよびカチオン)交換クロマトグラフィーを用いるボツリヌス神経毒の精製を開示する。種々のセファデックス(Sephadex)、セファセル(Sephacel)、トリスアクリル(Trisacryl)SおよびQカラムが開示される。
4. Zhou L., et al., Expression and purification of the light chain of botulinum neurotoxin A: A single mutation abolishes its cleavage of SNAP-25 and neurotoxicity after reconstitution with the heavy chain, Biochemistry 1995;34(46):15175-81 (1995) は、ボツリヌス神経毒軽鎖融合蛋白質を精製するためのアミロース親和性カラムの使用を開示する。
5. Kannan K., et al., Methods development for the biochemical assessment of Neurobloc (botulinum toxin type B), Mov Disord 2000;15(Suppl 2):20 (2000) は、ボツリヌス毒素B型をアッセイするためのサイズ排除クロマトグラフィーの使用を開示する。
6. Wang Y-c, The preparation and quality of botulinum toxin type A for injection (BTXA) and its clinical use, Dermatol Las Faci Cosm Surg 2002;58 (2002) は、ボツリヌス毒素A型を精製するためのイオン交換クロマトグラフィーを開示する。この引例は、沈殿およびクロマトグラフィー技術の組合せを開示する。
7. Johnson S.K., et al., Scale-up of the fermentation and purification of the recombination heavy chain fragment C of botulinum neurotoxin serotype F, expressed in Pichia pastoris , Protein Expr and Purif 2003;32:1-9 (2003) は、ボツリヌス毒素F型の組み換え重鎖フラグメントを精製するためのイオン交換および疎水性相互作用の使用を開示する。
8. Published U.S. patent application 2003 0008367 A1 (Oguma) は、ボツリヌス毒素を精製するためのイオン交換および乳糖カラムの使用を開示する。
【0032】
上でまとめた精製方法は、一般的に工業的または商業的なプロセスに拡張することができない研究または実験室スケールの方法に関する。例えば、ゲル濾過および重力流によるクロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー技術は、大スケールでバリデートすることができるcGMP製造プロセスとしての使用に従わないことは周知である。別にまたはさらに、上でまとめた精製方法は、全体が900kDaのボツリヌス毒素複合体とは対照的に、ピュアな毒素(すなわち、およそ150kDaの神経毒素分子)の小スケールの精製、または神経毒素の特定成分に関連する。これも周知なことであるが、生物学的に活性で精製したボツリヌス毒素複合体を得るは、複合体の成分のみを精製するよりもかなり複雑で困難である。この事は、例えば、より大きなサイズ、脆弱性、不安定な性質のためであり、特に、二次、三次および四次分子ならびに生物活性のある安定なボツリヌス毒素複合体を得るために必要な複雑なコンフォメーションが原因である。
【0033】
さらに、ボツリヌス毒素の医薬組成物に配合するための適当なボツリヌス毒素を得るための商業スケールのプロセスを含む既存の方法には、典型的に発酵プロセスからボツリヌス毒素に付随する不純物から毒素複合体を分離するための一連の沈殿工程が含まれる。特に、沈殿技術は、ボツリヌス毒素を精製するために生物医薬産業で広く用いられている。例えば、冷アルコール分別(コーン(Cohn)の方法)または沈殿は、血漿蛋白質を除去するために用いられる。残念ながら、ボツリヌス毒素を精製するための沈殿技術は、低分解能、低生産性、操作性が困難、制御および/バリデートが困難、スケールアップまたはスケールダウンするのが困難などの欠点を有する。
【0034】
それ故必要なことは、精製プロセスにおいて、動物由来成分を利用することなく、バルクのクロストリジウム毒素を得るために、クロストリジウム毒素発酵培地を精製するためのAPF方法である。
【課題を解決するための手段】
【0035】
概要
本発明は、クロストリジウム毒素を精製するための種々のクロマトグラフのAPFシステムおよび方法を提供する。本発明のシステムおよび方法は、拡張可能でcGMP適合である。該クロストリジウム毒素は、好ましくはボツリヌス毒素であり、最も好ましくはボツリヌス毒素A型900kDa複合体である。本発明は、クロストリジウム菌の分離APF発酵(すなわち、発酵培地中のカゼインの代わりに大豆を使用)から得られるクロストリジウム毒素(例えば、ボツリヌス毒素)を精製するために、商業的、工業的スケールのAPF精製方法として用いられる。従って、本発明は、非APF精製(すなわち、DNaseおよびRNaseの使用)方法の置換を可能にし、典型的に非APF発酵後、ボツリヌス毒素を精製するために実施される。
【0036】
本発明は、シャンツ(非APF)の精製方法を本明細書に開示されたAPF毒素の精製方法に置き換えるためのクロストリジウム菌のシャンツ発酵後の有用性も有し得る。本発明はAPF発酵方法後の使用に最適化されているので、APF発酵方法後に本発明を実施するのとは対照的に、非APF発酵方法後に本発明を実施することは好ましくない。
【0037】
従って、本発明の範囲内の方法は、バルクのクロストリジウム毒素を得るために必要な工程において、好ましくはAPF発酵と組み合わせて(後に)使用して、それにより動物由来産物の使用をさらに減少させ、そしてある態様においては除くことができる。明らかにAPF発酵方法後の本発明の実施は、本質的に完全なAPF方法(発酵および精製)を実施することを可能にする。
【0038】
本発明の態様として、高収率の高度に精製した生物活性のあるクロストリジウム毒素を得るためのシステムおよび方法を提供する。本発明は、動物性成分を不含または実質的に含まないクロマトグラフシステムの使用およびクロストリジウム・ボツリヌス菌のようなクロストリジウム菌の培養方法から得られる精製した発酵液を精製するための方法の使用によって、これを達成する。
【0039】
定義
本明細書において、以下に説明される単語または用語は次の定義を有する。
【0040】
「約」とは、限定された項目、パラメータまたは用語が規定の項目、パラメータまたは用語の値の±10%前後の範囲を包含することを意味する。
【0041】
「投与」または「投与すること」とは、医薬組成物を患者に与える(すなわち投与する)工程を意味する。本明細書に開示される医薬組成物は、例えば筋肉内(i.m.)、皮内、皮下投与、くも膜下腔内投与、脳室内、腹腔内(i.p.)投与、局所(経皮)および投与の移植(すなわち、ポリマーインプラントまたはミニ浸透圧ポンプなどの遅延放出装置)経路により「局所的に投与」される。
【0042】
「動物由来成分(産物)不含」または「実質的に動物由来成分(産物)不含」とは、それぞれ「動物性蛋白質不含」または「実質的に動物性蛋白質不含」を包含し、血液由来、血液プールおよび他の動物由来産物または化合物が存在しないか、または実質的に存在しないことを意味する。「動物」とは、哺乳類(ヒトなど)、鳥、爬虫類、魚、昆虫、蜘蛛または他の動物種を意味する。「動物」はバクテリアなどの微生物を除外する。従って、本発明の範囲内における動物由来産物不含の培地または工程、もしくは実質的に動物由来産物不含の培地または工程は、ボツリヌス毒素またはクロストリジウム・ボツリヌス菌を含むことができる。例えば動物由来産物不含工程または実質的に動物由来産物不含工程は、イムノグロブリン、肉消化物、肉製品副産物および牛乳または乳製品または消化物などの動物由来蛋白質が実質的に不含または本質的に不含または完全に不含である工程を意味する。従って、動物由来産物不含工程の例は、肉製品および乳製品または肉製品副産物もしくは乳製品副産物を除外する工程(例えば、菌培養工程または菌発酵工程)である。
【0043】
「ボツリヌス毒素」とは、クロストリジウム・ボツリヌス菌、ならびに修飾、組換え、ハイブリッドおよびキメラのボツリヌス毒素により産生される神経毒を意味する。組換えボツリヌス毒素は、非クロストリジウム種により組換え的に製造されたその軽鎖および/または重鎖を有することができる。本明細書において用いる「ボツリヌス毒素」とは、ボツリヌス毒素抗原型A型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型を包含する。本明細書において用いる「ボツリヌス毒素」とは、ボツリヌス毒素複合体(すなわち300、600および900kDa複合体)ならびに純粋なボツリヌス毒素(すなわち約150kDa神経毒性分子)の両方も包含し、これらはすべて本発明の実施に有用である。「精製ボツリヌス毒素」とは、培養または発酵工程から得られるようなボツリヌス毒素に付随する他の蛋白質および不純物から単離または実質的に単離される純粋なボツリヌス毒素またはボツリヌス毒素複合体を意味する。従って、精製ボツリヌス毒素は、少なくとも90%、好ましくは95%以上および最も好ましくは99%以上の非ボツリヌス毒素蛋白質を有することができ、不純物は除去される。神経毒でないボツリヌス菌C2およびC3細胞毒素は、本発明の範囲から除外される。
【0044】
「クロストリジウム神経毒」とは、クロストリジウム・ボツリヌス菌、酪酸菌またはウェルシュ類似菌(Clostridium beratti)などのクロストリジウム・バクテリアから産生されるか、またはこれらを原産とする神経毒、ならびに非クロストリジウム種により組換え的に作られたクロストリジウム神経毒を意味する。
【0045】
「完全に不含」(すなわち用語「からなる」)とは、用いられる器具または工程の検出範囲内にて、物質が検出されないか、またはその存在が確認できないことを意味する。
【0046】
「本質的に不含」(または「本質的に〜からなる」)とは、微量の物質のみが検出されることを意味する。
【0047】
「修飾ボツリヌス毒素」とは、天然ボツリヌス毒素と比較して、削除、修飾または置換された少なくとも一つのそれのアミノ酸を有しているボツリヌス毒素を意味する。さらに、修飾ボツリヌス毒素は、組換え的に産生された神経毒または組換え的に製造された神経毒の誘導体もしくはフラグメントであり得る。修飾ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素レセプターに結合する能力または神経伝達物質のニューロンからの放出を阻害する能力などの天然ボツリヌス毒素の少なくとも一つの生物学的活性を保持する。修飾ボツリヌス毒素の一例は、一つのボツリヌス毒素抗原型(抗原型Aなど)からの軽鎖および異なるボツリヌス毒素抗原型(抗原型Bなど)からの重鎖を有するボツリヌス毒素である。修飾ボツリヌス毒素の別の例は、P物質などの神経伝達物質に結合したボツリヌス毒素である。
【0048】
「患者」とは、医学的または獣医学的介護を受けるヒトまたはヒトでない対象を意味する。従って本明細書に開示されるように、組成物は哺乳類などのいずれかの動物の治療に用いることができる。
【0049】
「医薬組成物」とは、活性成分がボツリヌス毒素であり得る製剤を意味する。単語「製剤」とは、神経毒活性成分に加えて医薬組成物中に少なくともさらに一つの成分(アルブミンおよび/または塩化ナトリウムなど)があるものを意味する。それ故、医薬組成物は、ヒト患者などの対象への診断的、治療的または美容的投与(すなわち筋肉注射もしくは皮下注射またはデポーもしくはインプラントの挿入による)に適した製剤である。医薬組成物は、凍結乾燥または真空乾燥された状態;凍結乾燥または真空乾燥された医薬組成物を生理食塩水または水と再構成した後に形成される溶液;または再構成を必要としない溶液であり得る。活性成分は、ボツリヌス毒素抗原型A型、B型、C1型、D型、E型、F型もしくはG型の一つまたはボツリヌス毒素であり得て、これらはすべてクロストリジウム・バクテリアにより自然に作ることができる。このように医薬組成物は、例えば液体または真空乾燥したような固体であり得る。医薬組成物の構成成分は、単一の組成物(すなわち、いずれかの必要な再構成流動物を除く、すべての構成成分は、医薬組成物の初期の配合時に存在する)で、または二成分系、例えば生理食塩水などの希釈剤(ここに、希釈剤は医薬組成物の初期の配合時に存在しない成分を含む)で再構成された真空乾燥組成物として含まれうる。二成分系は、長期間の棚保存の間、二成分系の第一成分と十分に適合できない成分の導入を可能にする利点を提供する。例えば再構成ベヒクルまたは希釈剤としては、例えば冷凍保存の一週間の使用期間の間、微生物増殖に対する十分な保護を提供するが、毒素を分解する2年間の冷凍庫保存の間には無くなる防腐剤を含んでもよい。長期間、クロストリジウム毒素または他の成分と適合することができない他の成分を、本法に導入することができる;すなわち、およその使用時間で、第二ベヒクル(すなわち再構成流動物)に加えてもよい。ボツリヌス毒素の活性成分の医薬組成物を製剤化する方法は、米国特許公報2003 0118598 A1に開示される。
【0050】
「実質的に不含」とは、1重量%未満レベルで医薬組成物が存在することを意味する。
【0051】
「治療用製剤」とは、治療に用いられ、それにより末梢筋の過剰亢進(すなわち痙縮)により特徴付けられる障害または疾患などの障害または疾患を緩和することができる製剤を意味する。
【0052】
以下の略語は、本明細書で用いられる:

【0053】
本発明は、クロストリジウム毒素を精製するための方法を含む。該方法は、ボツリヌス毒素の発酵培養物(液)のサンプルを得て;第一のクロマトカラム樹脂を、第一のカラムでボツリヌス毒素を捕捉することを可能にするための培養サンプルと接触させて;第一のカラムからボツリヌス毒素を溶離し;および第二のクロマトカラム樹脂に第一のクロマトカラムからの溶離液を負荷することによって精製したボツリヌス毒素を得る4工程を有することができる。「ボツリヌス毒素の発酵培養物(液)」とは、菌がボツリヌス毒素を培地に放出するために、クロストリジウム・ボツリヌス菌が発酵されてきた発酵培地を意味する。ボツリヌス毒素の発酵培養物(培地)のサンプルは、好ましくは発酵培地の精製した培養物である。
【0054】
第一のクロマトカラムおよび第二のクロマトカラムは、異なったカラムであり得て、二つの異なったカラムは、異なった精製機構を介して、ボツリヌス毒素を精製するように作用することができる。例えば、第一のクロマトカラムは、疎水性相互作用のカラムであり得て、第二のクロマトカラムは、イオン交換カラムであり得る。
【0055】
本発明の範囲内のクロストリジウム毒素を精製するための方法は、接触工程後および溶離工程前に、第一のカラムから不純物を洗い流す工程も有することができる。また本発明の範囲内のクロストリジウム毒素を精製するための方法は、負荷工程後、第二のカラムから不純物を洗い流す工程も有することができる。さらに、本発明の範囲内のクロストリジウム毒素を精製するための方法は、第二のカラムから不純物を洗い流す工程後、第二のカラムからボツリヌス毒素を溶離する工程も有することができる。
【0056】
好ましくは、本発明の範囲内のクロストリジウム毒素を精製するための方法は、APF方法であり、より好ましくは実質的に動物性蛋白質不含(「APF」)方法であり、より好ましくはボツリヌス毒素複合体のようなクロストリジウム毒素を精製するための本質的にAPF方法であるのがよい。
【0057】
本発明の範囲内のクロストリジウム毒素を精製するための方法に使用されるボツリヌス毒素の発酵培養物は、好ましくはAPF方法から生じ、より好ましくは実質的にAPF方法から生じて、最も好ましくは本質的にAPF方法から生じるのがよい。
【0058】
注目すべきは、本発明の範囲内のクロストリジウム毒素を精製するための方法は、各10Lのボツリヌス毒素の発酵培養物に対して、バッチあたり約50mg以上の収量の精製ボツリヌス毒素複合体を与えることができる。
【0059】
本発明の範囲内のクロストリジウム毒素を精製するための方法の実施によって得られる精製ボツリヌス毒素複合体は、以下の:
白色からオフホワイトな懸濁液としての外観;溶離液のmLあたり2.0〜3.6mgの濃度のボツリヌス毒素複合体;278nmの吸収に対する260nmの吸収比(A260/A278)は、0.6以下であり;精製ボツリヌス毒素のmgあたり2.4×107〜5.9×107のMLD50ユニットのMLD50ユニット/mgにおける特異的な効力;ボツリヌス神経毒A型複合体に対する免疫同一性;標準品と一致するSDS−PAGE特性;総ピーク>95%の900kDaの毒素複合体のSEC−HPLC特性;およびそのように精製したボツリヌス毒素複合体を得るために用いられる方法が頑健性があり、測定可能でバリデートされ得、および/またはcGMP適合である
特徴を有することができる。
【0060】
本発明の範囲内のボツリヌス毒素複合体を精製するためのAPF方法は、
(a)ボツリヌス毒素の発酵培養物が実質的なAPF方法から生じるボツリヌス毒素の発酵培養物のサンプルを得て;
(b)第一のカラムによるボツリヌス毒素の捕捉を可能にするために、疎水性相互作用のクロマトカラム樹脂を該培養サンプルに接触させ;
(c)疎水性相互作用のクロマトカラムの不純物を洗い流し;
(d)疎水性相互作用のカラムからボツリヌス毒素を溶離し(該溶離工程に続いて、次のイオン交換クロマトグラフィーのための疎水性相互作用のクロマトカラムからの溶離液を希釈する工程が続きうる);
(e)イオン交換カラムクロマトのカラム樹脂に疎水性相互作用のクロマトカラムからの溶離液(例えば、疎水性相互作用のクロマトカラムからの希釈した溶離液)を負荷し;
(f)イオン交換クロマトカラムから不純物を洗い流し;および
(g)イオン交換カラムからボツリヌス毒素を溶離することにより、実質的にAPF精製方法であるボツリヌス毒素を精製するための方法を介して精製ボツリヌス毒素を得る
工程を有することができる。
【0061】
上記段落で説明したAPF方法は、ボツリヌス毒素の発酵培養物のサンプルを得る工程後および疎水性相互作用のクロマトカラム樹脂を培養サンプルに接触する工程前、疎水性相互作用のクロマトグラフィーのための精製した培養物をコンディショニングする追加の工程をさらに含むことができる。さらに上記段落で説明したAPF方法は、疎水性相互作用のカラムからボツリヌス毒素を溶離する工程後およびイオン交換カラムクロマトのカラム樹脂に疎水性相互作用のクロマトカラムからの溶離液を負荷する工程前、イオン交換クロマトグラフィーのための疎水性相互作用のカラムからの溶離液をコンディショニングする工程をさらに含むことができる。
【0062】
ボツリヌス毒素を精製するためのAPF方法の詳細な態様として、方法は、
(a)ボツリヌス毒素の発酵培養物が、実質的なAPF方法から生じるボツリヌス毒素の発酵培養物のサンプルを得て;
(b)疎水性相互作用のクロマトグラフィーに対して精製した培養物をコンディショニングし;
(c)第一のカラムによって、ボツリヌス毒素の捕捉を可能にするために、疎水性相互作用のクロマトカラム樹脂を該培養サンプルと接触させ;
(d)疎水性相互作用のクロマトカラムから不純物を洗い流し;
(e)疎水性相互作用のカラムからボツリヌス毒素を溶離し;
(f)イオン交換クロマトグラフィーのための疎水性相互作用のカラムからの溶離液をコンディショニングし;
(g)イオン交換カラムクロマトのカラム樹脂に、疎水性相互作用のクロマトカラムからのコンディショニングした溶離液を負荷し;
(h)イオン交換クロマトカラムから不純物を洗い流し;および
(i)イオン交換カラムからボツリヌス毒素を溶離することによって、実質的なAPF精製方法であるボツリヌス毒素を精製するための方法を介して、精製ボツリヌス毒素を得る
工程を含むことができる。
【0063】
また、本発明の範囲内は、ボツリヌス毒素A型複合体のようなクロストリジウム毒素を精製するためのシステムである。そのようなシステムは、発酵培養液からボツリヌス毒素を捕捉するための第一のクロマトカラム樹脂;第一のカラムからボツリヌス毒素を溶離するための溶離緩衝液;第一のクロマトカラムからの溶離液からボツリヌス毒素を捕捉するための第二のカラムクロマトカラム樹脂;および第二のクロマトカラムからボツリヌス毒素を溶離するための第二の溶離緩衝液を含むことができる。
【発明の効果】
【0064】
(説明)
本発明は、クロストリジウム毒素が動物由来産物不含(APF)システムおよび方法の使用によって精製することができるという発見に基づいている。本発明は、クロストリジウム・ボツリヌス神経毒を精製するための動物由来産物不含システムおよび方法を含む。該クロストリジウム・ボツリヌス神経毒は、300kD、500kDまたは900kD(およその分子量)のようなボツリヌス毒素A型複合体またはその混合物であり得る。該クロストリジウム・ボツリヌス神経毒は、抗原型A型、B型、C型、D型、E型、F型またはG型もしくはその混合物のいずれか一つであり得る。さらに、該システムおよび方法は、組換え、ハイブリッド、キメラまたは修飾ボツリヌス毒素(軽鎖、重鎖、または一緒に両方の鎖)と組み合わせて実施されうる。
【0065】
注目すべきは、本明細書に開示されるシステムおよび方法は、測定可能であり、医薬品のための使用として、工業または商業的なプロセスから得られるボツリヌス毒素量を精製するために使用することができることを意味する。さらに、該システムおよび方法は、米国CFR(合衆国連邦行政規則集)によって必要とされるようなcGMP(承認された医薬品の製造管理および品質管理基準)の適合でもあり、それは規制基準に適合することができることを意味する。
【0066】
実験によって、クロストリジウム・ボツリヌスA型(ホール菌株)神経毒素複合体のようなクロストリジウム毒素を精製するためのAPFシステムおよび方法を開発した。該クロストリジウム毒素は、シャンツ(非APF)培養方法またはAPF培養方法のどちらかから生じる発酵培地から精製した。シャンツ法は、動物由来産物を使用する。注目すべきは、APF発酵方法は、クロストリジウム菌を培養および発酵するのに用いる培地からの栄養分として、動物由来産物(例えば、カゼインおよびミートブロス)を減少または除去することを可能にする一方、APF発酵方法は、典型的にDNaseおよびRNase酵素のような動物由来産物を利用する1またはそれ以上の精製工程が次にくる。発酵培地の精製は、バルクのクロストリジウム毒素を得るために必要である。バルクのクロストリジウム毒素(純粋な毒素または毒素複合体)は、クロストリジウム毒素の医薬組成物を配合するために用いられ得る。
【0067】
好ましくは、本発明はAPF発酵方法と組み合わせて実施されるのがよい。APF発酵方法と組み合わせて本発明を実施することは、組み合わせたAPF発酵方法およびAPF精製方法を提供する。さらに本発明のシステムおよび方法は、カゼインまたは他の動物性蛋白質に基づく発酵培地とは対照的に、APF発酵培地における操作に最適化される。非APF発酵で本発明を実施することは、得られた精製ボツリヌス毒素の低収率および/または低効力をもたらしうる。
【0068】
それ故、シャンツおよびAPFボツリヌス毒素の精製方法の両方は、ボツリヌス毒素を安定化するためにベンズアミジンのような動物由来産物、および発酵培地(例えば、実施例6および7を参照されたい)のボツリヌス毒素と共に存在する核酸を除去するためにDNaseおよびRNaseを使用するが、本発明は、ボツリヌス毒素をそのような動物由来産物を用いることなく精製することができることを可能にする。
【0069】
本発明は、ボツリヌス毒素複合体のようなクロストリジウム毒素を精製するためのシステムおよび方法を含む。典型的に、本発明の範囲内の特定のシステムは、本発明の範囲内の特定の方法と組み合わせて操作される。本発明の範囲内のシステムは、複数(好ましくは連続的なものとして)のクロマトグラフィー工程を含むことができる。本発明の範囲内の方法は、複数のクロマトカラムを介してクロストリジウム毒素の発酵培地を通過することを含むことができ、それによって高度に精製し、高い効力のクロストリジウム毒素を得ることができる。そのように精製したクロストリジウム毒素は、クロストリジウム毒素の医薬組成物を配合するために適している。本発明の範囲内のシステムおよび方法の重要なパラメーターは、使用される特定のカラム、緩衝液および操作(カラム運転)条件を含む。
【0070】
本発明の特定の態様における第一の広範な工程は、発酵培地の精製培養液を疎水性相互作用のカラム(例えば、ブチルセファロースファーストフロー[FF]カラム)に負荷することであり得る。この第一のカラムは、クロストリジウム毒素(例えば、ボツリヌス毒素複合体)を捕捉し、不純物は、カラムを貫流させる。疎水性相互作用のカラムは、発酵培地のボツリヌス毒素と共に存在する多くの不純物の分離(貫流)もしながら、ボツリヌス毒素複合体の生物活性を保持する発酵培地からのボツリヌス毒素複合体(特に、三次および四次構造を有する大きな蛋白質)の有効な捕捉を提供することを見出した。適当な緩衝液は、疎水性相互作用のカラムから捕捉した(結合した)クロストリジウム毒素を溶離するために使用される。
【0071】
本発明の特定の態様における第二の広範な工程において、第一のカラムからの溶離液は、クロストリジウム毒素をさらに精製するために第二のカラムに負荷される。好ましくは、もし第二のカラムが不純物からクロストリジウム毒素の分離のための異なった機構を提供するなら、第二のカラムクロマトグラフィー工程は、さらに有効な精製工程を提供することができることを見出した。それ故、好ましくは第二のクロマトグラフィー工程は、例えば、SPセファロース高速[HP]カラムのような異なったカラムの使用が必要となる。
【0072】
クロマトグラフィー(カラム)工程後の第二のカラムからの溶離液は、次いで高度に精製したバルクのボツリヌス毒素複合体を得るためにさらに処理される。これらの追加の処理工程は、限外濾過およびダイアフィルトレーションによる緩衝液交換、滅菌濾過および精製ボツリヌス毒素複合体の硫酸アンモニウム懸濁液の調製を含むことができる。
【0073】
本発明は、ボツリヌス毒素を精製するための測定可能でcGMP適合のシステムおよび方法を含み、表2で説明される特徴を有するバルクのボツリヌス毒素を得ることをもたらす。
表2.精製したボツリヌス神経毒の特徴

【0074】
医薬組成物を含む市販品として入手可能なボツリヌス毒素は、商標BOTOX(登録商標)(カリフォルニア州アーバインのアラーガン社から入手可能である)として、市販されている。BOTOX(登録商標)は、上記の表2で説明された特徴を有する。BOTOX(登録商標)は、滅菌中でパッケージされた精製ボツリヌス毒素A型複合体、ヒト血清アルブミン、および塩化ナトリウムからなり、真空乾燥形態である。該ボツリヌス毒素A型は、N−Zアミンカゼインおよび酵母エキス(すなわち、非APF方法)を含む、培地中で増殖するクロストリジウム・ボツリヌスのホール菌株の培養液から製造される。該ボツリヌス毒素A型複合体は、活性な高分子量の毒素蛋白質および関連する血球凝集素蛋白質からなる結晶複合体への一連の沈殿(酸沈殿を含む)工程によって、培養溶液から精製される。該結晶複合体を生理食塩水およびアルブミンを含む溶液で再溶解し、真空乾燥前に滅菌濾過(0.2ミクロン)する。BOTOX(登録商標)は、筋肉注射の前に滅菌した非保存の生理食塩水で再構成され得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、保存料を含まない滅菌した真空乾燥形態の約100ユニット(U)のクロストリジウム・ボツリヌス毒素A型複合体、0.5mgのヒト血清アルブミンおよび0.9mgの塩化ナトリウムを含む。
【0075】
真空乾燥したBOTOX(登録商標)を再構成するために、保存料の含まない滅菌した一般的な生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射液)は、適当な大きさのシリンジで適量の希釈剤で調整することにより用いられる。BOTOX(登録商標)はバブリングまたは同様の激しい攪拌によって変性されるので、希釈剤は穏やかにバイアルに注入される。BOTOX(登録商標)は、効力をほとんど損なうことなく再構成後、30またはそれ以上の日数で投与されてきたことを報告した。この期間中、再構成したBOTOX(登録商標)を冷蔵庫(2〜8℃)に保存する。再構成したBOTOX(登録商標)は、無色透明の微粒子がない形態である。真空乾燥した生成物を冷凍庫または−5℃以下で保存する。
【0076】
本発明は、生物活性のあるボツリヌス毒素を産生することができる有機体(例えば、クロストリジウム・ボツリヌス菌)の培養および発酵のために有用な、動物由来産物または動物由来副産物が不含、または実質的に含まない培地および方法の発見に基づいている。得られたボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素の活性成分の医薬組成物を製造するために使用され得る。それ故、肉または乳製品副産物のレベルを著しく軽減した増殖培地が本明細書に開示され、好ましい培地の態様は、当該動物由来産物を実質的に含まない。
【0077】
本発明は、動物由来産物がクロストリジウム・ボツリヌスの増殖のための培地に必要ではないこと、とりわけ野菜由来産物がクロストリジウム・ボツリヌスの増殖のための培地で典型的に用いられる動物由来産物と置き換えることができるという驚くべき発見を包含する。
【0078】
菌の増殖および発酵のために現在使用されている培地は、通常1またはそれ以上のクックトミートのような動物由来成分を含む。本発明によれば、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖のための好ましい培地は、培地全重量の約5%以下〜約10%までの動物由来成分を含む。より好ましくは、本発明の範囲内の培地は、動物由来産物の培地全重量の約1%以下から約5%未満を含む。最も好ましくは、ボツリヌス毒素の産生のためのクロストリジウム・ボツリヌスの増殖に用いられるすべての培地および培養液は、完全に動物由来産物を含まない。これらの培地は、これに限らないが、大小スケールのクロストリジウム・ボツリヌスの発酵培地、種菌(第一の)培地および発酵(第二の)培地に植菌するために用いられるクロストリジウム・ボツリヌスの培養液の増殖培地、ならびにクロストリジウム・ボツリヌス(例えば、貯蔵培養液)の培養液の長期間の保存のために用いられる培地を含む。
【0079】
本発明のある好ましい態様として、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖およびボツリヌス毒素の産生のための培地は、動物由来産物を置換するための大豆由来産物を含むことができる。または、大豆由来成分の代わりに、ルピナス・カンペストリス(Lupinus campestris)の脱苦味性の種菌が用いられうる。L.カンペストリスの種菌の蛋白含量は、大豆のそれとかなり類似することが知られる。好ましくは、これらの培地は、加水分解され、水に可溶である大豆またはL.カンペストリス由来産物を含む。しかしながら、不溶の大豆またはL.カンペストリスの産物も、動物由来産物を置換するために本発明内で用いられうる。大豆またはL.カンペストリス産物によって置換することができる共通の動物由来産物は、ウシ心浸出パウダー(BHI)、バクトペプトンのような動物由来ペプトン製品、加水分解カゼイン、および動物乳のような乳製品副産物を含む。
【0080】
好ましくは、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖のための大豆またはL.カンペストリス由来産物を含む培地は、実質的にすべての動物由来産物が野菜由来産物で置換されることを除いて、動物由来産物を含む一般的に用いられる増殖培地と類似している。例えば、大豆由来発酵培地は、大豆由来産物、グルコースのような炭素源、NaClおよびKClのような塩、Na2HPO4、KH2PO4のようなリン酸含有成分、鉄およびマグネシウムのような二価陽イオン、鉄粉、およびL−システインおよびL−チロシンのようなアミノ酸を含むことができる。発酵(第二の)培地の植菌のためのクロストリジウム・ボツリヌスの培地(すなわち、種菌または第一の培地)を増殖するために用いられる培地は、好ましくは大豆由来産物、NaClのような塩源、およびグルコースのような炭素源を少なくとも含む。
【0081】
本発明は、動物由来産物を実質的に含まない培地を用いるボツリヌス毒素の産生を最大限にするクロストリジウム・ボツリヌスの成長のための方法を提供する。ボツリヌス毒素の産生のためのクロストリジウム・ボツリヌスの増殖は、動物由来副産物に由来する成分を置換する大豆副産物を含む培地での発酵により生じることができる。発酵培地のための植菌は、小スケールの増殖培地(種菌培地)から生じうる。発酵工程の大きさおよび量に依存して、培養液のバイオマスを増加するための種菌培地における連続した増殖数は、変更することができる。発酵培地を植菌するための適当量のクロストリジウム・ボツリヌスに増殖するために、種菌培地における増殖を含む1工程または多工程が実施されうる。動物由来産物を含まないクロストリジウム・ボツリヌスを増殖する方法に関して、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖は、非動物由来培地で保存される培養液から生じるのが好ましい。保存した培養液、好ましくは凍結乾燥した培養液は、大豆および貧動物由来副産物から生じる蛋白質を含む培地における増殖によって産生される。発酵培地におけるクロストリジウム・ボツリヌスの増殖は、保存した凍結乾燥培養物から直接植菌することによって生じることができる。
【0082】
本発明の好ましい態様として、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖は、二段階の種菌増殖および発酵で進行する。これらの両方の段階は、嫌気性環境で実施される。種菌増殖段階は、保存培養物から微生物の量を「スケールアップ」するために一般的に用いられる。種菌増殖段階の目的は、発酵のために入手可能な微生物の量を増加することである。さらに種菌増殖段階は、保存培養液中の相対的に休眠した微生物を復活させ、活動的に増殖する培養液に成長させる。さらに、発酵培養物に植菌するために用いた生存微生物の量および数量は、保存培養物からよりも活動的に増殖した培養物からの方が、より正確に制御され得る。従って、発酵培地の植菌のための種菌培養液の増殖が好ましい。さらに、発酵培地の植菌のためのクロストリジウム・ボツリヌスの数量をスケールアップするための種菌培地の増殖を含むあらゆる連続的な工程が使用され得る。注目すべきは、発酵段階におけるクロストリジウム・ボツリヌスの増殖は、直接的な植菌によって保存培養物から直接的に進行することができる。
【0083】
発酵段階において、種菌増殖からのクロストリジウム・ボツリヌスを含む一部の種菌培地またはすべての種菌培地が、発酵培地に植菌するために用いられる。好ましくは、種菌増殖段階からのクロストリジウム・ボツリヌスを有するおよそ2〜4%の種菌培地が、発酵培地に植菌するために用いられる。発酵は、大規模な嫌気性環境中で、最大量の微生物を産生するために用いられる (Ljungdahl et al., Manual of industrial microbiology and biotechnology (1986), edited by Demain et al, American Society for Microbiology, Washington, D.C. page. 84)。
【0084】
ボツリヌス毒素は、蛋白質精製技術における通常の技術を有する者に周知な蛋白質精製方法を用いて単離し、精製され得る。例えば、コリガンらの Current Protocols in Protein Science, Wiley & Sons; Ozutsumi et al. Appl. Environ. Microbiol. 49;939-943:1985. を参照されたい。
【0085】
ボツリヌス毒素の産生に関して、クロストリジウム・ボツリヌスの培養物は、発酵培地の植菌のために種菌培地で増殖され得る。種菌培地での増殖を含む連続的な工程の数は、発酵段階で、ボツリヌス毒素の産生規模によって変更し得る。しかしながら、前に議論したように、発酵段階の増殖は、保存培養物から直接的に植菌することによって行ってもよい。動物由来種菌培地は、一般的にクロストリジウム・ボツリヌスの増殖のためのBHI、バクトペプトン、NaCl、およびグルコースからなる。前に議論したように、代替の種菌培地は、動物由来構成成分が非動物由来構成成分で置換される本発明によって調製してもよい。例えば、これに限らないが大豆由来成分は、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖およびボツリヌス毒素の産生のための種菌培地において、BHIおよびバクトペプトンを代替することができる。クロストリジウム・ボツリヌスの培養物は、不溶の大豆を含む培地で増殖することができるけれど、好ましくは大豆由来産物が水に可溶で、加水分解した大豆を含む。しかしながら、増殖のレベルおよび後の毒素産生は、可溶な大豆産物に由来する培地より多い。
【0086】
いずれの大豆由来産物源も、本発明に従って使用され得る。好ましくは、大豆は加水分解された大豆であり、加水分解は非動物性酵素を用いて実施される。加水分解された大豆源は、多様な市販品製造元から入手可能である。これらは、これに限らないが、Hy−Soy(クエストインターナショナル)、大豆ペプトン(ギブコ)、バクトソイトーン(ディフコ)、AMISOY(クエスト)、NZsoy(クエスト)、NZsoyBL4、NZsoyBL7、SE50M(DMVインターナショナルニュートリショナルズ、フレーザー、N.Y.)、およびSE50MK(DMV)を含む。最も好ましくは、加水分解された大豆源は、Hy−SoyまたはSE50MKである。他の可能な加水分解した大豆源は、公知である。
【0087】
本発明によれば、種菌培地中のHy−Soyの濃度は、25〜200g/Lの範囲である。好ましくは、種菌培地中のHy−Soyの濃度が50〜150g/Lの範囲である。最も好ましいのは、種菌培地中のHy−Soyの濃度がおよそ100g/Lである。さらに、NaClの濃度は、0.1〜2.0g/Lの範囲である。好ましくは、NaClの濃度は、0.2〜1.0g/Lの範囲である。最も好ましくは、種菌培地中のNaClの濃度は、およそ0.5g/Lである。グルコースの濃度は、0.1g/L〜5.0g/Lの範囲である。好ましくは、グルコースの濃度は、0.5〜2.0g/Lの範囲である。最も好ましくは、種菌培地中のグルコース濃度は、およそ1.0g/Lである。グルコースが種菌培地の他の成分と一緒に加圧滅菌することによって滅菌されることは本発明には好適であるが、必ずしも必要でない。増殖前の種菌培地のpHレベルは、7.5〜8.5であり得る。例えば、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖前の種菌培地のpHは、およそ8.1であり得る。
【0088】
種菌培地におけるクロストリジウム・ボツリヌスの増殖は、1またはそれ以上の段階で行うことができる。好ましくは、種菌培地の増殖は、2段階で行う。第一段階では、クロストリジウム・ボツリヌスの培養物を多量の種菌培地で懸濁し、34±1℃で嫌気性環境中、24〜48時間インキュベートする。好ましくは、第一段階の増殖は、およそ48時間行う。第二段階において、クロストリジウム・ボツリヌスを含む一部またはすべての第一段階の培地は、さらなる増殖のための第二段階の種菌培地に植菌するために用いられる。植菌後、第二段階の培地も嫌気性環境中、34±1℃で、およそ1〜4日間インキュベートする。好ましくは、第二段階の種菌培地の増殖は、およそ3日間行う。いずれの段階における種菌培地の増殖も、種菌培地での最後の増殖で発酵培地の植菌前に細胞溶解が生じないことも好適である。
【0089】
クロストリジウム・ボツリヌスの増殖のための動物由来副産物を含む標準的な発酵培地は、ミューラーおよびミラーの製法を基礎とすることができる(Mueller and Miller, MM; J. Bacteriol. 67:271, 1954)。動物由来副産物を含むMM培地中の成分は、BHIおよびNZ−CaseTTを含む。NZ−CaseTTは、動物乳で見出される蛋白質群であるカゼインの酵素消化物に由来する市販品として入手可能なペプチドおよびアミノ酸源である。本発明は、非動物由来産物が発酵培地において、BHIおよびNZ−CaseTTに置換され得ることを示す。例えばこれに限らないが、大豆由来産物は、クロストリジウム・ボツリヌスの発酵のために使用されるMM培地の動物由来構成成分を代替することができる。好ましくは、大豆由来産物は、水溶性で加水分解された大豆から生じ、前に述べたけれど、不溶な大豆産物もまた本発明を実施するために使用され得る。
【0090】
大豆由来成分源のいずれも、本発明に従って使用され得る。好ましくは、加水分解された大豆が商品名Hy−Soyとして、クエストインターナショナル(シェフィールド)から、または商品名SE50MKとして、DMVインターナショナルニュートリショナルズ(フレーザー、N.Y.)から入手される。可溶な大豆成分もまた、これに限らないが、大豆ペプトン(ギブコ)、Bac−ソイトーン(ディフコ)、AMISOY(クエスト)、NZ大豆(クエスト)、NZsoyBL4、NZsoyBL7、およびSE50MK(DMVインターナショナルニュートリショナルズ、フレーザー、N.Y.)を含む、多様な供給元から入手可能である。
【0091】
本発明の他の好ましい態様として、クロストリジウム・ボツリヌスの発酵のために使用される培地は、動物由来副産物を含まず、加水分解された大豆、グルコース、NaCl、Na2HPO4、MgSO4・7H2O、KH2PO4、L−システイン、L−チロシン、および鉄粉を含む。種菌培地用に開示されたように、加水分解された大豆は、発酵培地において、動物由来副産物取って替わることができる。これらの動物由来副産物は、BHIおよびNZ−CaseTT(酵素消化したカゼイン)を含む。
【0092】
ボツリヌス毒素の産生のための発酵培地におけるHy−Soy濃度は、好ましくは、およそ10〜100g/Lの範囲である。好ましくは、Hy−Soy濃度は、およそ20〜60g/Lの範囲である。最も好ましくは、発酵培地中のHy−Soy濃度が、およそ35g/Lである。ボツリヌス毒素の最大の産生に関して、発酵培地中の成分のとりわけ好適な濃度は、およそ7.5g/Lのグルコース;5.0g/LのNaCl;0.5g/LのNa2HPO4;175mg/LのKH2PO4;50mg/LのMgSO4・7H2O;125mg/LのL−システイン;および125mg/LのL−チロシンである。使用される鉄粉の量は、50mg/L〜2000mg/Lの範囲にすることができる。好ましくは、鉄粉の量は、およそ100mg/L〜1000mg/Lの範囲である。最も好ましくは、発酵培地中で使用される鉄粉の量は、およそ200mg/L〜600mg/Lの範囲である。
【0093】
毒素産生の最適なレベルに関して、大豆由来発酵培地の初期pH(加圧滅菌する前)は、好ましくはおよそ5.0〜7.1の範囲がよい。pH制御が、ボツリヌス毒素の回収率を改善することを見出した。好ましくは、発酵培地の初期pHは、約pH7である。実施例7で説明したように、その後pHが減少し、pH5〜5.5を維持するなら、高収量の安定なボツリヌス毒素が得られうることを見出した。種菌培地に関して記載したように、グルコースおよび鉄を含む発酵培地の成分は、好ましくは滅菌のために一緒に加圧滅菌される。
【0094】
好ましくは、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖のために用いられる第二段階の種菌培地の一部を、発酵培地に植菌するために用いる。発酵は、およそ34±1℃で、およそ7〜9日間、嫌気槽内で起こる。細菌増殖は、培地の光学密度(O.D.)を測定することによりモニターされ得る。好ましくは、細胞溶解が増殖の測定(光学密度)によって確認しながら、少なくとも48時間行った後、発酵を停止する。細胞溶解するにつれて、培地のO.D.は、減少する。
【0095】
本発明の好ましい態様として、クロストリジウム・ボツリヌスの長期間の保存および種菌培地の植菌のために使用されるクロストリジウム・ボツリヌスの培養物は、4℃で保存する前に、豆乳内で増殖させ、凍結乾燥する。保存のために凍結乾燥した動物乳中のクロストリジウム・ボツリヌスの培養物もまた、ボツリヌス毒素産生のために用いられうる。しかしながら、ボツリヌス毒素産生の間、実質的に動物由来副産物を含まない培地を維持するために、クロストリジウム・ボツリヌスの初期の培養物を豆乳および非動物乳中で保存することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
本発明の態様は、以下の図によって、説明されるか、または図示される。
【図1】「効力およびpHに対するN源(すなわち、HySoy+YE)の%」と題される図1は、(1)左側のY軸のマウスの50%致死量(MLD50)(青い棒グラフ)、および(2)左側のY軸のSNAP25活性(赤い棒グラフ)で決定されるようなボツリヌス毒素活性を示すグラフであり、該棒グラフはその頂点で示される経過した発酵時間における種々のAPF培地の値であり、また右側のY軸のpHで読み取れるAPF培地のpHを示し、X軸で示される加水分解された大豆濃縮液および酵母エキスの濃縮液の重量%量でのAPF培地に対する値を示す。すべての図1の培地は、1重量%のグルコースも含まれる。
【図2】図2は、ボツリヌス毒素を得るための非APF方法(図2の上半分)を、セルバンクの創製、培養および発酵工程を経由して、ボツリヌス毒素を得るための本発明の範囲内にあるAPF方法(図2の下半分)と比較する流れ図のまとめである。図2は、集菌および精製工程を省略する。
【図3】図3は、ブチルセファロースの高速流カラムにおけるAPF精製培養液(3.1.1培養液)の疎水性相互作用クロマトグラフィーから得られたクロマトグラムである。図3のX軸は、カラムを通過した液体(流体)のmLにおける量を表す。Y軸は、mAUにおける280nmでの吸収を表す。
【図4】図4は、SPセファロース高速カラムにおける図3のブチルカラムからの溶離液のイオン交換クロマトグラフィーから得られたクロマトグラムである。図4の軸は、図3と同じである。
【図5A】図5Aは、図3のブチルカラムの操作から得られた種々のフラクションの還元SDS−PAGEの画像である。図5Aの左側は、千ダルトン(kDa)単位の減少する分子量で垂直に印が付けられている。図5Aの底線に沿った番号1〜8は、フラクションが負荷されたレーンを表す。
【図5B】図5Bは、図4のSPカラムの操作から得られた種々のフラクションの還元SDS−PAGEの画像である。図5Bの左および底側は、図5Aのように記される。
【図6】図6は、カラム工程後(図7参照)に得られる種々のフラクション、つまりUF/DF工程、滅菌濾過工程からのフラクション、および硫酸アンモニウム沈殿工程からのフラクションの還元SDS−PAGEの画像である。図6の左および底側は、図5Aと同じように記される。
【図7】図7は、本発明の範囲内のAPFクロマトグラフィーのボツリヌス毒素精製プロセスの流れ図である。
【図8】図8は、APF発酵プロセスにおけるボツリヌス毒素A型複合体の産生の大豆蛋白質濃度の効果を比較するグラフであり、該発酵培地は、1重量%のグルコースおよび1重量%の酵母エキスが含まれる。図8において、X軸は、特定の加水分解した大豆蛋白質(HySoy)の発酵培地中の重量%濃度を表し、左側のY軸は、最終の精製したボツリヌス毒素複合体の効力を表し、右側のY軸は、式:
【数1】

[式中、OD600maxは、最大増殖時間における600nmで測定された光学密度に相当し、OD600endpointは、発酵の集菌の時間における600nmで測定された光学密度である]
で決定されるような完了した細胞溶解のパーセントを表す。
【発明を実施するための形態】
【0097】
実施例
以下の実施例は、本発明によって含まれる特定の方法を説明し、本発明の範囲を限定することを意図しない。これらの実施例内で、特に説明しない限り、「毒素」または「ボツリヌス毒素」とは、約900kDaの分子量のボツリヌス毒素A型複合体を意味する。本発明は、約900kDaの分子量のボツリヌス毒素A型複合体を精製するためのシステムおよび方法に限定されず、150kDa、300kDa、500kDaならびに他の分子量の毒素、複合体およびボツリヌス毒素抗原型の精製への調法な適用可能性を有する。
【0098】
実施例1
クロストリジウム・ボツリヌスのための動物由来産物を含まない種菌培地の調製
コントロールの種菌培地は、それぞれ1Lの培地に対して、以下の成分:NaCl(5g)、バクトペプトン(10g)、グルコース(10g)、BHI(1Lまで)、pH8.1(5N NaOHで調整した)を用いて調製されうる。
【0099】
試験用の種菌培地(動物由来産物不含)は、それぞれ1Lの培地に対して、以下の成分:NaCl(5g)、大豆ペプトン(10g)、グルコース(10g)、Hy−Soy(35g/L、1Lの培地液を調製するため)、pH8.1(5N NaOHで調整した)を用いて調製されうる。
【0100】
実施例2
動物由来産物を含まない種菌培地中のクロストリジウム・ボツリヌス培養
クロストリジウム・ボツリヌスの凍結乾燥培養物は、それぞれ1mLのコントロールおよび実施例1の試験用種菌培地で懸濁され、それぞれ10mLの各種菌培地を含むことができる2個のチューブに分け(それぞれの種菌培地)、次いで34℃で約24〜48時間インキュベートした。次いで、1mLの培養液は、(それぞれ)40mLの種菌培地を含む125mLのDeLong Bellco培養フラスコに植菌するために使用され得る。植菌された培養物は、Coy嫌気性チャンバー(Coyラボラトリープロダクツ社、グラスレイク、ミシガン州)で、33℃±1℃にて24時間インキュベートされ得る。
【0101】
実施例3
クロストリジウム・ボツリヌスのための動物由来産物を含まない発酵培地の調製
発酵基礎培地は、それぞれ2Lの培地に対して、以下の成分:グルコース(15g)、NaCl(10g)、NaH2PO4(1g)、KH2PO4(0.350g)、MgSO4・7H2O(0.1g)、システインHC(0.250g)、チロシンHCl(0.250g)、鉄粉(1g)、ZnCl2(0.250g)、およびMnCl2(0.4g)を用いて調製されうる。
【0102】
コントロールの発酵培地は、調製されたそれぞれ2Lの培地に対して、以下の成分:BHI(500mL;これは、乾燥重量が約45.5gのウシ心浸出パウダーに相当する)、NZ−CaseTT(30g)、および基礎培地(2Lまで)、pH6.8を用いて調製されうる。
【0103】
発酵基礎培地は、最初に調製され、pH6.8に調整され得る。次いで、ウシ心浸出パウダー(BHI)を調製し、pHを5N NaOHで8に調整する。次いで、BHIを基礎培地に加える。次に、NZ−CaseTTを調製する。次いで、NZ−CaseTTは、ウシ心浸出パウダーがすでに加えられた基礎培地に加えられ、HClの添加によって溶解した。次いで、pHを5N NaOHで6.8に調整する。次いで、この培地を16個の100mm試験管のそれぞれに8mlずつ分けて、次に120℃で25分間加圧滅菌する。
【0104】
試験用発酵培地(動物由来産物不含)は、コントロール用発酵培地に存在するBHIを試験用の窒素源に代替することによって調製されうる。適当な試験発酵培地の窒素源は、Hy−Soy(クエスト)、AMI−Soy(クエスト)、NZ−Soy(クエスト)、NZ−SoyBL4(クエスト)、NZ−SoyBL7(クエスト)、シェフトンD(シェフィールド)、SE50M(DMV)、SE50(DMV)、SE%)MK(DMV)、大豆ペプトン(ギブコ)、バクトソイトーン(ディフコ)、Nutrisoy2207(ADM)、Bakes Nutrisoy(ADM)、Nutrisoy flour、大豆ミール、バクト酵母エキス(ディフコ)、酵母エキス(ギブコ)、Hy−Yest412(クエスト)、Hy−Yest441(クエスト)、Hy−Yest444(クエスト)、Hy−Yest455(クエスト)、バクトモルトエキス(ディフコ)、コーンスティープ、およびプロフロ(トレイダーズ)を含む。
【0105】
試験発酵培地は、BHIが除かれ、関連の窒素源が3N HClまたは5N NaOHでpH6.8まで最初に調整されることを除いて、コントロール用発酵培地については、上で説明したように調製されうる。該培地は、16個の100mm試験管に8mlずつ配分され、次に120℃で20〜30分間加圧滅菌され得る。
【0106】
実施例4
動物由来産物を含まない発酵培地におけるクロストリジウム・ボツリヌスの増殖
40μLずつの試験種菌培地の培養液(動物由来産物を含まない)を、8mLの16個の100mm試験管中で、それぞれ8mLのコントロールまたは試験用発酵培地のアリコートを植菌するために使用できる。次いで、培養物を33±1℃で24時間インキュベートする。次いで、菌を増殖させるために、試験管を嫌気性チャンバーでインキュベートすることができる。各培地アッセイは、3個実施することができ(すなわち、同じ培地に3個の個別の植菌を含むことができる)、非植菌のコントロールもまた含むことができ、それは分光光度計のブランクとして使用され得る。増殖(光学密度、ODによって決定されるとおり)は、ターナー分光光度計(モデル330)で660nmにて24時間ごとに測定され得る。細胞溶解は、約48時間続けた後培養を停止し、次いでボツリヌス毒素産生を測定することができる。
【0107】
さらに実験は、それぞれ500mLの培地に対して、以下の成分:Hy−Soy(17.5g)、グルコース(3.75g);NaCl(2.5g);Na2HPO4(0.25g)、MgSO4・7H2O(0.025g)、KH2PO4(0.0875g)、L−システイン(0.0625g)、L−チロシン(0.0625g)、鉄粉(0.25g)、pH6.8を含むHy−Soy発酵培地で実施されうる。
【0108】
実施例5
動物由来産物を含まない発酵培地における、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖によるボツリヌス毒素産生の決定
実施例4の培養した細胞を遠心分離し、次いで上清のpHを決定した。所定のサンプルのボツリヌス毒素レベルは、標準的な抗毒素を加え、綿状沈殿までの経過時間を測定することにより測定され得る。Kf(綿状沈殿が生じるのに必要な時間(分))およびLf(綿状沈殿の限界;綿状沈殿によって達成されるような標準的な抗毒素の1国際単位に相当する)の両方を決定する。4mLの発酵ブロスを得られた培養物に対してそれぞれの発酵管から取り、全量12mLを15mLの遠心分離管で混合するために一緒に併せることができる。該管を5000rpm(3400g)で、4℃にて30分間遠心分離することができる。上清の1mLのアリコートを0.1〜0.6mLの標準的なボツリヌス毒素抗血清を含む管に加え、該管をそれらの内容物を混合するために注意深く振とうすることができる。次いで、該管を45±1℃の水浴に置き、初期時間を記録することができる。該管を頻繁にチェックし、綿状沈殿の開始時間をKfとして記録する。綿状沈殿が最初に開始する管内の毒素濃度をLfFFと表すことができる。綿状沈殿が2回目に開始する管内の毒素の濃度をLfFと表すことができる。
【0109】
平行発酵、増殖および毒素産生アッセイは、(a)コントロール用種菌培地(コントロール用発酵培地に植菌するために使用される)およびコントロール用発酵培地、ならびに(2)(動物由来産物を含まない)試験用種菌培地(試験用発酵培地に植菌するために使用される)および(動物由来産物を含まない)試験用発酵培地の両方で実施されうる。注目すべきは、動物由来産物を含まない培地中にあり、動物由来産物を含まない培養物(動物由来産物に替えて大豆由来産物を伴う)から植菌されたクロストリジウム・ボツリヌスの発酵は、およそ50またはそれ以上のLftoxinを生じることが確認されうる。最低でも、Lftoxinは、およそ10に等しい。好ましくは、Lftoxinが少なくとも20である。最も好ましくは、Lftoxinが50以上である。
【0110】
さらに種々の大豆産物は、BHIが不足する発酵培地でクロストリジウム・ボツリヌスの増殖をサポートすることが測定されうる。従って、可溶な大豆の調製は、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖のためにBHIに取って替わることができる。最適濃度は、12.5または25g/Lである。Hy−Soy(シェフィールド)は、最高の増殖を得ることができる。不溶の大豆調製品は、あまり有効ではない。
【0111】
さらにクエストのHy−Soy、DMVのSE50MK、およびクエストのNZ−Soyが、クロストリジウム・ボツリヌスの増殖のため、BHIに取って替わるそれらの能力に関して、有効な大豆産物であり得ることを示す結果を得ることができる。その結果は、増殖のために最適でありうる大豆産物(例えば、クエストのHy−Soy、DMVのSE50MK、およびクエストのNZ−Soy)もまた、毒素産生のためにBHIに取って替わることが有効であることを示しうる。毒素産生のための最適な大豆産物は、22.75g/LでのクエストのHy−Soyである。この産物のより高濃度では、より良い増殖を生じうるが、毒素産生を改善しない。同様の結果は、SE50MKで得られ、より高い濃度が増殖の増加を生じるが、毒素産生を増加させないことを提唱している。一方、NZ−Soyは、そのより高濃度において、より多くの増殖およびより多くの毒素産生を与えうる。
【0112】
最終的に大豆産物が、効率的にBHIならびにNZ−CaseTTに置き換えることができることが決定されうる。大豆由来培地からNZ−CaseTTの除去は、約2〜4倍の増殖を減少することができる。NZ−CaseTTの有無における両方の増殖のための最適な大豆産物は、SE50MKであり得る。HY−Soyは、毒素産生のためにBHIおよびNZ−CaseTTの両方に置き換われる。しかしながら、1または2日間のより長期の発酵周期が必要であり得る。HY−Soyは、毒素産生のための培地におけるBHIおよびNZ−CaseTTの両方に置き換われる。しかしながら、酵母エキスは毒素産生に対して阻害作用であり得ることを決定され得る。
【0113】
22.75g/LのHY−Soyは、毒素産生のためのBHIおよびHY−CaseTTの両方に完全に取って替わりうることを決定され得る。56.88g/LのHY−Soyが最適である増殖効果とは違って、34.13g/LのHY−Soyが毒素産生段階にとって最適である。
【0114】
従って、驚くべきことにHy−Soyまたは[Hy−Soy+Hy−Yest]が、クロストリジウム・ボツリヌスの種菌増殖のための培地において、BHIおよびバクトペプトンに取って替わるかどうかが、決定された。さらに実験は、クロストリジウム・ボツリヌスによるボツリヌス毒素産生の最大レベルを生じるための種菌培地中の構成成分の最適濃度を決定するように設計されうる。BHIおよびNZ−CaseTTを含まない種菌培地および発酵培地においてクロストリジウム・ボツリヌスによって増殖した毒素産生は、BHIおよびNZ−CaseTTを含む培地中で達成されるレベルに到達できるか、または超えることができる。
【0115】
種菌培地で増殖のためのHy−Soyまたは[Hy−Soy+Hy−Yest]の最適濃度を決定され得る。実験は、Hy−Soyがクロストリジウム・ボツリヌスの増殖のための、および次の発酵段階におけるボツリヌス毒素産生のための種菌培地における窒素源として、BHIおよびバクトペプトンに取って替えれることを確認することができる。また、Hy−Soy+Hy−Yestと比較する場合、種菌培地における窒素源としてのHy−Soyは、次の発酵工程において、より高いレベルのボツリヌス毒素を産生することができる。最高レベルの毒素を産生する種菌培地のHy−Soy濃度は、およそ62.5g/L〜100g/Lの範囲である。
【0116】
さらに実験は、発酵でのクロストリジウム・ボツリヌスによるボツリヌス毒素の最大産生のための種菌培地におけるHy−Soyの最適濃度を決定するために設計され得る。それ故、種菌培地中の30g、50g、75gおよび100gのHy−Soyは、クロストリジウム・ボツリヌスの発酵によるボツリヌス毒素の産生をすべて生じることができ、これは窒素源として、BHIおよびバクトペプトンを含む種菌培地で製造されるのと匹敵するか、またはより優るレベルのボツリヌス毒素である。
【0117】
種菌培地における100g/LのHy−Soy濃度は、次の発酵工程において、最高レベルの毒素産生が生じることを見出されうる。さらに、該データは、Hy−Soy種菌培地の播種工程1が、24時間後よりも48時間後により多く増殖することを示す。
【0118】
実施例6
ボツリヌス毒素を得るための非ATPプロセス
クロストリジウム毒素は、クロストリジウム・ボツリヌス菌の発酵によって得られた。従って、改良シャンツ(非APF)方法は、かなり強力で、高度に精製したクロストリジウム・ボツリヌス毒素(すなわち、バルク毒素)を得るために下記の通り実施した。改良シャンツ(非APF)方法は、高収量のボツリヌス毒素を与えることができる。シャンツおよび改良シャンツ方法の両方ともに、すべての発酵培地でカゼインを使用する。
【0119】
保存培養液の調製
種々のクロストリジウム菌は、ヴァージニア州、マナッサスにあるアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手可能である。または、クロストリジウム・ボツリヌスのセルバンクバイアルは、土壌を含む種々の起源からクロストリジウム・ボツリヌスを単離することまたは腐敗動物死体の(嫌気性または疑似嫌気性条件での)地中深くのサンプリングによって調製されうる。一般にクロストリジウム・ボツリヌスは、ボツリヌス中毒症と診断された患者の体液(すなわち、創傷のボツリヌス中毒の患者からの創傷交換物)のサンプルから得られうる。図1の上半分は、セルバンクバイアルの調製のため、およびボツリヌス毒素の培養および発酵のために用いられる非APF方法をまとめている。
【0120】
天然または患者源から得られるクロストリジウム・ボツリヌスは、血液寒天プレートで培養され、続いてセルバンクバイアル培地に高度に増殖したコロニーの植菌を行う。クロストリジウム・ボツリヌスのために用いたセルバンクバイアル培地は、細切れの新鮮な牛肉を含むクックドミート培地であった。活動的に増殖する培養物は、後に使用するために冷凍したクロストリジウム・ボツリヌス菌のセルバンクバイアル(すなわち、保存培養物)を調製するためにグリセロールと混合した。
【0121】
培養
クロストリジウム・ボツリヌスのセルバンクバイアルを室温で解凍し、続いて四工程の培養を行った。(1)適当な形態を有するコロニーを選択するために、解凍したセルバンクバイアルからのアリコートを前もって減じたコロンビア血液寒天プレート上で菌を筋状に培養し、34±1℃で30〜48時間嫌気性でインキュベートし、(2)次いで、選択したコロニーを、カゼイン増殖培地を含む試験管に34℃で6〜12時間植菌した。急激な増殖および最高密度(増殖選択工程)を有する管の内容物を、次いでさらに2つの漸増する嫌気性インキュベーション、すなわち(3)第一は、1Lの種菌培養ビンで、34℃にて12〜30時間のインキュベーション、続いて、(4)第二は、カゼイン増殖培地を含む25Lの種菌発酵槽で、35℃にて6〜16時間の培養によって培養した。これら2回の漸増する培養を2%カゼイン加水分解物(カゼイン[乳蛋白質]消化物)、1%酵母エキスおよび1%グルコース(デキストロース)を含む栄養培地で、水中、pH7.3にて実施した。
【0122】
発酵
該漸増する培養は、続けて制御された嫌気性雰囲気下で培地を含むカゼイン中、商業スケール(すなわち、115L)発酵槽で、35℃にて60〜96時間さらにインキュベーションを行った。菌の増殖は、通常24〜36時間後に完了し、60〜96時間の発酵の間に、ほとんどの細胞がボツリヌス毒素の溶解および放出を引き起こす。発酵培地のpHの制御は、シャンツまたは改良シャンツ方法において必要がない。毒素は、細胞溶解によって遊離され、培養液ブロスに存在するプロテアーゼによって活性化されると考えられる。適宜、グロス不純物(すなわち、全体および破裂した細胞)を除去するために、単層のデプスフィルターを用いて、この培養培地の濾過は、精製培養物と言及される澄明な溶液を得るために用意されうる。
【0123】
回収
毒素の回収は、20℃で粗の毒素を沈殿するために、硫酸を用いて、pH3.5まで低下することにより達成され得る。次いで、粗の毒素は超限外濾過によって濃縮し、続いてダイアフィルトレーションを行った。
【0124】
精製
次いで、回収した粗の毒素を消化用容器に移し、プロテアーゼ阻害剤のベンズアミジン塩酸塩の添加によって安定化した。DNaseおよびRNaseを加え、核酸を消化した。原料を含む毒素は、UF/DFおよび三段階の沈殿工程(冷エタノール、塩酸、および硫酸アンモニウム沈殿)に付した。精製したボツリヌス神経毒複合体(バルク毒素)をリン酸ナトリウム/硫酸アンモニウム緩衝液中、2〜8℃で懸濁液として保存した。
【0125】
生じたバルク毒素は、≧3×107U/mgの特異的な効力、0.60以下のA260/A278およびゲル電気泳動において明瞭なバンドパターンを有し、ボツリヌス毒素医薬組成物の配合のために使用するのに適したクロストリジウム・ボツリヌスのホールA菌株から調製した高品質の結晶の900kDボツリヌス毒素A型複合体であった。
【0126】
配合は、1またはそれ以上の賦形剤(例えば、アルブミンおよび塩化ナトリウム)と混合することにより毒素組成物を形成することでのバルク毒素の何倍もの希釈物、および該組成物を凍結乾燥、フリーズドライ、または真空乾燥することによる保存および運搬に安定な毒素組成物の形体の調製物を含みうる。
【0127】
シャンツまたは改良シャンツ方法から得られる精製したボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素分子から非毒素複合体蛋白質を分離するために、pH7〜8の緩衝液中で、イオン交換カラムから溶離されうることにより、(発酵されたクロストリジウム・ボツリヌス菌のタイプに依存する)およそ150kDの分子量および1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の特異的な効力を有する純粋なボツリヌス毒素A型;またはおよそ156kDの分子量および1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の特異的な効力を有する精製したボツリヌス毒素B型、もしくはおよそ155kDの分子量および1〜2×107LD50U/mgまたはそれ以上の特異的な効力を有する精製したボツリヌス毒素F型を与える。
【0128】
上で説明したように、一態様において、本発明は、RNaseおよびDNaseのような動物由来産物の使用の排除を含む精製培養物で実施されたこの実施例6で説明された回収精製工程を省略する。
【0129】
実施例7
ボツリヌス毒素を得るためのAPF培地および方法
この実施例7は、かなり強力で高度に精製したクロストリジウム・ボツリヌス毒素A型(すなわち、バルク毒素)を得るために実施したAPF方法を説明する。該プロセスは、他のボツリヌス毒素抗原型と共に使用され得る。
【0130】
保存培養液の調製
実施例6で説明したように、クロストリジウム・ボツリヌスは、ATCC、種々の天然資源、またはボツリヌス中毒症患者から得られる。図1の下半分は、セルバンクバイアルの調製に、およびボツリヌス毒素の培養および発酵に使用されるAPF方法をまとめる。APFセルバンクバイアルを植物寒天プレートでクロストリジウム・ボツリヌスを培養することによって調製した。植物寒天プレートは、寒天と共に大豆誘導体Hy−Soy(クエスト)を酵母エキスおよびグルコースと3:1:1(重量パーセント)比で混合し、設置することにより調製した。他の市販品として入手可能なAPF寒天プレートまたはプレートを調製するための脱水した粉末も適することがわかった。次いで、選択された高度に増殖したコロニーは、APFセルバンクバイアル培地に植菌した。使用したAPFセルバンクバイアル培地には、同様に3:1:1の比で、加水分解した大豆蛋白質、酵母エキス(動物由来産物は、酵母の培養またはそれから調製される酵母エキスの調製のための方法のいずれも全く使用されなかった)およびグルコースが含まれた。他の栄養分の比は、すなわち、6:1:1、6:0:1および6:3:1が適することもわかった。使用した加水分解された大豆(Hy−Soy)および酵母エキス(HyYest)濃縮物は、クエストインターナショナルから得られた。APF培地におけるクロストリジウム・ボツリヌス培養物は、グリセロールと併せ、クリオバイアルにアリコートし、後に使用するために凍結させた。開発されたAPF培地は、1年間または生存率がなくならなければより長い期間、クロストリジウム・ボツリヌス菌を保存するために使用され得る。クリオバイアル中のこれらの凍結培養物およびグリセロール混合物は、APFセルバンクバイアルである。
【0131】
培養
APFセルバンクバイアルを室温で解凍し、続いて単回の培養工程を行った。:1Lの種菌培養ビンを、同一のAPF培地(APFセルバンクバイアル[保存]培地は、APF発酵[増殖]培地と異なる)を用いるAPFセルバンクバイアルの内容物で直接的に(すなわち、介在する血液寒天培養または試験管増殖工程無しで)植菌し、35℃で15〜24時間、pHが7.0の初期培地と共に、嫌気性(窒素)雰囲気中で維持した。
【0132】
発酵
次に種菌培養ビンを、pHが7.0の初期培地と共に、嫌気性(窒素)雰囲気中、35℃、52〜72時間維持したAPF培地(加水分解された大豆蛋白質、酵母エキスおよび1%グルコース)を含む商業スケールの10Lの産生発酵槽に移した。発酵の開始からおよそ15時間後(培養液のpHは、自然に6.0以下に減少する)、pH5.0〜5.5の範囲のpH制御プログラムは、HClを該培養液に加えることによって開始した。活性なボツリヌス毒素の許容される収量を得るために、狭い範囲内でAPF発酵培地のpHを制御することが必要であることがわかった。従って、pH5.0〜5.5のこのpH制御は、ボツリヌス毒素の効力の減退および喪失を実質的に予防することがわかった。発酵の間、ほとんどの細胞は、溶解を起こし、ボツリヌス毒素を放出すること、および細胞溶解によって遊離された毒素が培養ブロスに存在するプロテアーゼによって活性化されることが考えられる。単層のデプスフィルターを用いるこの培養培地の濾過は、全不純物(すなわち、全体および破裂した細胞)を除去し、精製培養物と言及される澄明な溶液を生じる。
【0133】
回収
次いでボツリヌス毒素の回収は、実施例6のように行うことができる(すなわち、硫酸沈殿、続いてミクロ濾過で濃縮し、続いてダイアフィルトレーションを行った)。
【0134】
精製
次いで毒素の精製は、実施例6で説明した:すなわち、ベンズアミジン塩酸塩ならびにDNaseおよびRNaseの添加、硫酸沈殿、冷エタノール沈殿、リン酸緩衝液抽出、塩酸沈殿、リン酸緩衝液抽出およびバルク毒素の保存のとおり行うことができる。
【0135】
実施例6の回収および精製方法に代替するものとして、本発明のカラムクロマトマトグラフィー法が実施されうる。
【0136】
生じたバルク毒素は、≧3×107U/mgの特異的な効力、0.60以下のA260/A278、およびゲル電気泳動の明瞭なバンドパターンを有し、ボツリヌス毒素医薬組成物の配合の使用に適したクロストリジウム・ボツリヌスのホールA菌株から調製された高品質の結晶の900kDボツリヌス毒素A型複合体である。したがって、ボツリヌス毒素のためのこのAPF方法は、高品質の毒素を生ずることができる。
【0137】
APF方法から得られた精製ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素分子から非毒素複合体蛋白質を分離するために、pH7〜8の緩衝液中で、イオン交換カラムに通し、溶離させることにより、(発酵されたクロストリジウム・ボツリヌス菌の抗原型に依存して)およそ150kDの分子量、および1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の特異的な効力を有するボツリヌス毒素を与え;またはおよそ156kDの分子量および1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の特異的な効力を有する精製ボツリヌス毒素B型、またはおよそ155kDの分子量および1〜2×107LD50U/mgまたはそれ以上の特異的な効力を有する精製ボツリヌス毒素F型を与える。例えば、APF培地の使用によって、1.02×108LD50U/mgの特異的な効力のボツリヌス毒素と共にボツリヌス毒素A型複合体を得ることができた。
【0138】
この実施例7において、1%wtまたは2%wtのいずれかのグルコースを有するAPF培地を使用(注意:1%グルコースは、100mLの培養培地あたり1gのグルコースを意味し、2%グルコースは、2gのグルコースがそれぞれ100mLの培養培地に存在することを意味する)し、最大の菌の増殖(培養物のピーク光学密度[光学密度は、600nmで測定された]によって決定される)は、2%グルコースのAPF培地における約40時間の発酵後であるのに対し、1%グルコースAPF培地における約20時間の発酵後に起こったが、該ピーク光学密度は、培地のグルコース量がそのように変化したので、著しく異ならなかったことを見出した。細胞の自己溶解および毒素の放出は、約55時間の発酵後に、1%グルコースのAPF培地中、(活性な毒素のためのSNAP−25アッセイによって決定されるように)最大量の活性なボツリヌス毒素を生じるが、2%グルコースのAPF培地は、(活性な毒性のためのSNAP−25アッセイによって決定されるような)しばらく経ってから培地に存在する最大量の活性なボツリヌス毒素が存在し、65時間の発酵後にさらに増加したと考えられる。従って、より急激なボツリヌス毒素の放出は、より低い(1%)グルコースAPF培地の存在量の使用によって起こり、これにより、より有効な毒素産生方法(すなわち、時間単位あたり得られる毒素の量以上)がより低い(1%)グルコースAPF培地の使用によって実施されうることが示された。
【0139】
図1で示すとおり、APF培地中のボツリヌス毒素の産生のための最適なパラメーターは、以下のパラメーター:(1)APF発酵培地における加水分解された大豆濃度(図1中の「HySoy濃度」)の約6重量%。6%大豆は、100mLの培養培地あたり6gの大豆蛋白質を意味する;(2)APF発酵培地中の0%〜3%の酵母エキス濃縮物(図1の「YE濃度」);(3)嫌気性(窒素雰囲気)条件下、33〜35℃の温度での50〜72時間の発酵;(4)初期の細胞増殖後の発酵期間を通じて、pH約5.0〜5.5の間を維持された;発酵培地のpHおよび(5)APF発酵培地中の1重量%のグルコースの組合せであることも決定した。
【0140】
従って、図1で示されるとおり、より多くの蛋白質がAPF培地(Hy−SoyおよびYEの総量として)に存在するにつれて、より低い毒素安定性を生じるとともに培地のpHは増加傾向にあり、しかもpHが培地中の同一の全蛋白質栄養の含量とともに低下する場合、毒素産生の収量は、劇的に増加した。非APF方法において、全蛋白質量は、pHが上昇する傾向がなくなるように低下し、それ故、毒素産生に有害な効果を有するためにpHは上昇しない。培地のpHを約5.3〜5.5の狭い範囲内で制御する場合、図1は、(MLD50およびSNAP−25アッセイによって決定されるとおり)常により活性があることを示す。図1は、(SNAP25アッセイによって決定されるとおり)最高の毒素収量は、6%の加水分解された大豆および1%の酵母エキスからなる培地で得られることも示す。
【0141】
ボツリヌス毒素のSNAP−25の蛋白質分解活性を測定するためにELISAに基づく方法であるSNAP−25アッセイを使用した。SNAP−25は、25kDaの分子量のシナプトソーム関連蛋白質についての略語である。SNAP−25は、ニューロンのエキソサイトーシスに含まれる206個のアミノ酸の血漿膜蛋白質である。アッセイは、Ekong T.らが開示した Recombinant SNAP-25 is an effective substrate for Clostridium botulinum type A toxin endopeptidase activity in vitro, Microbiology (1997), vol 143, pages 3337-3347. の方法に基づく。アッセイは、ポリスチレンの96ウェルマイクロタイタープレートに結合する切断型SNAP−25蛋白質(206個のアミノ酸残基のペプチド)および開裂した生成物(197個のアミノ酸残基のペプチド)を認識するモノクローナル抗体を使用し、該モノクローナル抗体は、還元されたボツリヌス毒素A型によって、SNAP−25の197および198位のアミノ酸の間を酵素加水分解することによって調製される。次いで開裂した生成物に結合するモノクローナル抗体は、二次抗体(セイヨウワサビパーオキシダーゼ[HRP]と共役したヤギの抗マウスIgG)を用いて検出され、色素基質(TMB)の存在下で、色の変化を生じる。
【0142】
MLD50(マウス50%致死量)アッセイは、アッセイ開始時にそれぞれ体重17〜22グラムのメスのマウス(約4週齢)に、ボツリヌス毒素を腹腔内注射することによってボツリヌス毒素の効力を測定するための方法である。各マウスは、その頭を下に向けた仰臥位を保ち、生理食塩水中、ボツリヌス毒素のいくつかの連続希釈法のうちの一つで、25〜27の内径の3/8”〜5/8”の針を用いて、約30°の角度で低右腹部に腹腔内注射する。各希釈液について、次の72時間にかかる死亡率を記録する。希釈液は、最も濃縮した希釈液が注射されたマウスの少なくとも80%の死亡率を生じ、薄い濃度の希釈液が注射されたマウスの20%以下の死亡率を生じるように調製される。死亡率の単調減少する範囲内に含まれる4個の希釈液の最小でなければならない。単調減少する範囲は、80%以上の死亡率で開始する。4個またはそれ以上の単調減少率について、2個の最大率および2個の最小率が、減少しなければならない(すなわち、等しくない)。注射3日後の観察期間内でマウスの50%が死亡する希釈液は、1ユニット(1U)のボツリヌス毒素を含む希釈として定義される。
【0143】
注目すべきは、この実施例7のAPF方法は、少なくとも:(1)セルバンクバイアルのクックドミート培地をAPF培地に代替すること;(2)血液寒天コロニーの選択工程を排除すること;(3)次のカゼイン培地に基づく試験管増殖工程を排除すること、および(4)至るところで、非APF発酵培地をAPF培地に代替することにより実施例6の非APF方法と異なる。
【0144】
図2は、工業スケール(非APF)シャンツ方法(セルバンクの創製、培養および発酵工程を介する実施例6および実施例7の工業スケールのAPF方法)との違いのまとめを示す。図2は、回収および精製工程を省略する。
【0145】
APF培地は、クロストリジウム・ボツリヌス菌を選択するために用いられうる。それ故、実施例6および7の最初の培養工程の同時実施は、APF培地中またはAPF培地で、ボツリヌス毒素の増殖および産生をもたらす特徴を持つクロストリジウム・ボツリヌス培養物の単離および増殖を可能にする。非APF培地からAPF培地へのクロストリジウム・ボツリヌス菌の移動は、新しい環境内で増殖および産生することができない菌の選択的な死滅を介して新しい環境に適用できる菌を富栄養化し選択する。
【0146】
実施例8
ボツリヌス毒素を精製するためのクロマトグラフのシステムおよび方法
実施例8で説明される実験に使用される化学品は、下記のものが含まれる:
10N NaOH (Mallinckrodt, VWR Cat # MKH38505)
酢酸、USP/FCCグレード、99.5〜100.5%(J.T.ベイカー、Cat # JT9522-2)
硫酸アンモニウム、超高純度、99% (ICN, Cat # IC808211)
クエン酸、USP/FCCグレード、99.5〜100.5%(J.T.ベイカー、Cat # JT0119-1)
変性した無水エタノール(JTベイカー、Cat # 9299-1)
塩酸、NF/FCCグレード、36.5〜38% Mallinckrodt-MK2612-14
リン酸、NF/FCC、85%〜88% (Mallinckrodt, Cat # MK278814)
酢酸ナトリウム三水和物、99%〜101%、USP/FCC (Mallinckrodt, Cat # MK735602)
塩化ナトリウム、USP/FCCグレード、99.0〜101.0% (Mallinckrodt, Cat # MK753204)
クエン酸ナトリウム、USP/FCCグレード、99.0〜100.5% (J.T.ベイカー、Cat # JT3650-1)
水酸化ナトリウム、NF/FCCグレード、95.0〜100.5% Mallinckrodt-MK768004
第二リン酸ナトリウム7水和物、USP (Mallinckrodt, Cat # MK789604)
第一リン酸ナトリウム1水和物、USP/FCC (Mallinckrodt, Cat # MK786812)
【0147】
実験で使用するクロマトグラフィー樹脂は、下記のものを含む:
ベイカーボンドABxプレップスケール(JTベイカー、Cat # 7269-02)
ブチルセファロースFF (アマシャムバイオサイエンス、Cat # 17-0980-02)
セラミックヒドロキシアパタイトI型(バイラッド、Cat # 158-4000)
セラミックヒドロキシアパタイトII型(バイラッド、Cat # 157-4200)
ハイトラップHICセレクションキット(アマシャムバイオサイエンス、Cat # 17-1349-01)
ハイトラップIEXセレクションキット(アマシャムバイオサイエンス、Cat # 17-6002-33)
MEPハイパーゲル(サイファージェン、サンプル)
SPセファロースHP(アマシャムバイオサイエンス、Cat # 17-1087-03)
【0148】
実験で使用した装置および付属品は、下記のものを含む:
AKTA清浄器およびAKTA FPLCクロマトグラフィーシステム(アマシャムバイオサイエンス)
ボトルトップの0.22μmの真空滅菌フィルター(ナルゲン)
ラボスケール(Labscale)TFFシステムおよびバイオマックス100膜(ミルポア)を有するペリコン(Pellicon)XL50(これは、限外濾過装置である)
マスターフレックス(Masterflex)L/Sポンプ モデル#77201-62 (コール−パーマー(Cole-Parmer))
ペリコン2ミニホルダー(ミルポア)
XKおよびHRカラム(アマシャムバイオサイエンス)
【0149】
本実験で使用される緩衝液は、表3に記載される。
表3.APF精製方法で使用される緩衝液

表3において、緩衝液1および2は、カラムから不純物を洗い流すために使用した;緩衝液3および4は、カラムから結合した毒素を溶離するために使用した;緩衝液5は、ブチルカラムからの溶離液を希釈するために使用した;緩衝液6は、カラムから不純物を洗い流すために使用した;緩衝液7および8は、カラムから結合した毒素を溶離するために使用した;緩衝液8は、UF/DF透析緩衝液;溶液9は、毒素を沈殿するために使用した;溶液10および11は、使用後のカラムに残存する毒素のいずれも不活性化(浄化)するために使用した。
【0150】
実施例9
APFカラムクロマトグラフィーのボツリヌス毒素の精製(捕捉工程)プロセスで使用するための好適なクロマトカラムの選択
この実験によって、好適なクロマトカラムおよび発酵培地中に付随する不純物からボツリヌス毒素A型複合体の初期精製のための技術を確立した。
【0151】
供給原料
APF方法の発酵から得られる濾過した細胞培養物(精製培養物)および塩酸沈殿によって調製されるその抽出物の両方をクロマトカラム供給原料として評価した。カラムへの精製培養物の直接的な負荷が毒素の沈殿を予防したこと、および精製した培養物の供給原料が、はるかに扱いやすく、検証しやすいことがわかった。一方、酸沈殿によって調製される精製した培養抽出物の供給原料としての使用は、さらなる不純物の除去およびウイルスの不活性化をもたらした。方法の頑健性の特徴に関して、精製した培養物は、バルクのボツリヌス毒素複合体のクロマトグラフィー樹脂の供給原料としての塩酸沈殿の調製法の使用とは対照的に、好適な供給原料であることがわかった。それ故、精製した培養液は、好適な供給原料であった。
【0152】
本研究は、pHを下げるにつれて、蛋白質(すなわち、ボツリヌス毒素複合体)がpH約5で沈殿を開始し、少量の毒素をpH約4.0で抽出(ほとんどは、沈殿除去された)し、実質的にすべての毒素は、pH3.5〜3.8の間で溶液からの沈殿物を有することを示した。一方、ほとんどの不純物は、pH6.8でボツリヌス毒素と共抽出されることがわかった(例えば、SDS−PAGEおよびウェスタンブロットに基づく)。それ故、付随する不純物からボツリヌス毒素を分離する本発明の精製方法を実施するための供給液体の好適なpHは、pH約5〜約6.8の間であり、より好ましくは抽出に関して、pH約5.5である。
【0153】
捕捉工程
捕捉工程に関して、ボツリヌス毒素A型(ホール菌株)の細胞培養濾過液を、それぞれ特定のカラムを使用するための製造業者の特定条件下で、多くのクロマトグラフィー樹脂(以下参照)とインキュベートした。
【0154】
カラムを洗浄後、カラムに結合した蛋白質を特定の溶離緩衝液で溶離した。溶離したフラクションのすべてを回収し、SDS−PAGEで分析した。得られた結果(表4)は、1mlのハイトラップ(HiTrap)またはHR5/5カラムを用いて、クロマトグラフィーで確認した。
表4.捕捉工程の結果のまとめ

【0155】
この実験は、存在する他の基質からボツリヌス毒素の所望の分離は、疎水性型のカラムクロマトグラフィーの使用によって最良の結果に達することを明らかに示した。従って、ボツリヌス毒素は疎水性カラムに結合するが、QセファロースFFカラムのようなイオン交換カラムに結合しないことがわかった。
【0156】
疎水性カラムを評価した中で、弱い疎水性のブチルセファロースFFが、最良の分解能を与えた。それ故、結合様式におけるブチルセファロースFFまたはフロースルー(flowthru)様式におけるQセファロースFFの一方は、好適なボツリヌス毒素の捕捉工程を提供する。
【0157】
従って、有効な捕捉工程は、ブチルセファロースカラムクロマトグラフィーのような疎水性カラムを用いて実施されうることがわかった。おそらく、毒素は、疎水性相互作用を介してブチルカラムに結合する。本実験前に、ボツリヌス毒素複合体が疎水性クロマトカラムを用いた精製培養物から直接的に精製した毒素を得ることは知られていなかった。ブチルセファロースの高速流カラムは、高結合能であり、低い逆圧の高速流を許容し、それ故、不純物の速い除去が必要な捕捉工程に適することがわかった。
【0158】
実施例10
ボツリヌス毒素複合体を精製するための4つのカラムのAPFクロマトグラフシステムおよび方法
中間および研磨する精製工程
さらなる(中間体のおよび研磨する)毒素の精製工程は、好適な実施例9のQおよびブチルカラムから得られる毒素含有フラクションを用いて実施した。
【0159】
クロマトカラムの3つのタイプは、ボツリヌス毒素複合体のそのようなさらなる精製に有効であることがわかった。ヒドロキシアパタイト(HA)I型カラムは、分離を示したので、発明者が用いた好適なカラムであったが、フロースルー内に毒素が多少見つかった。スーパーデックス(Superdex)200カラムを用いるゲル濾過は、不純物からの900kDaのボツリヌス毒素複合体の精製を可能にするので、使用するためにより好適なカラムであったが、軽微な不純物バンドが、SDS−PAGEに依然存在した。
【0160】
最も好ましいカラムは、非常に良好な分解能で不純物からボツリヌス毒素を分離することを見出したSPセファロースHPカラムであった。ボツリヌス毒素は、SDS−PAGEによる分析に基づいて、SPセファロースHPクロマトグラフィー後、ピュアであった。
表5.クロマトカラム精製工程のまとめ

【0161】
実施例8および9の結果に基づき、表5に示されるとおり下記の4つのカラムクロマトグラフィー精製方法を開発した:
1.精製した培養物の初期精製のためのQセファロースFFカラムの使用。この工程において、不純物はカラムに結合し、毒素はカラムを貫流し;
2.次いで、QセファロースFFカラム工程1からの溶離液は、ブチルセファロースFFカラムを通過した。毒素はカラムに結合し、適当な緩衝液で溶出し;
3.次いで、ブチルセファロースFFからの溶離液は、ヒドロキシアパタイトI型カラムを通過した。不純物はカラムに結合し、毒素はカラムを貫流し;
4.次いで、ヒドロキシアパタイトI型からの溶離液は、SPセファロースカラムを通過した。毒素はカラムに結合し、適当な緩衝液で溶出した。
【0162】
この4つの毒素のカラム精製方法は、
APF精製培養物→Q(フロースルー)→ブチル(結合)→HA(フロースルー)→
SP(結合)→精製毒素複合体
のようにまとめられる。
【0163】
バルクのボツリヌス毒素複合体のこの4つのカラム方法は、Qカラム(工程1)に濾過した培養液の上清を直接的に負荷させる。フロースルーは、ブチルカラムに負荷する第二工程前に、0.8Mにするために硫酸アンモニウムを補充した。第三工程に関して、HAのフロースルーを脱イオン水で4倍に希釈し、第四カラム工程のSPカラムに負荷する前に、pHを4.0に調整しながら、ブチル溶離液をHAカラムに直接負荷した。この4つのカラム方法は、各工程において、取り扱う最小のサンプルが必要であり、毒素が、この精製方法の4工程の間中、穏和に緩衝する条件に曝されることを確認した。
【0164】
上で説明された4つのカラム精製方法のスケールアップは、APFボツリヌス毒素A型の発酵方法から得られた680mLの濾過培養液の上清で実施するために使用された。結果は(表6参照)、この4つのカラム方法が高収量の高度に精製したボツリヌス毒素A型複合体を生じることを示す。
表6.4つのカラム精製方法を用いるスケールアップした精製結果

【0165】
実施例11
ボツリヌス毒素複合体を精製するための更なる多段階カラムAPFクロマトグラフ方法
実施例9および10で説明された同一の手順を用いて、さらにカラムの組合せを評価した。下記の4つのさらなるカラムの組合せのそれぞれは、SDS−PAGEによって決定されるとおり、高度に精製したボツリヌス毒素複合体を得るためのAPF方法を提供することがわかった。
1.Q(フロースルー)→ブチル→SP
2.ブチル→QまたはHA(フロースルー)→SP
3.ブチル→SP→QまたはHA(フロースルー)
4.ブチル→SP
【0166】
精製した毒素は、さらに光散乱SEC−HPLC、キャピラリー電気泳動、残留DNAアッセイ、Hc−ELISA、およびMLD50によって分析された。上で説明した4つの異なった方法からの毒素間で見出された有意差は、全くなかった。結果は、表7にまとめられる。
表7.上記の異なったAPF方法1.4.で精製した毒素サンプルの品質のまとめ

【0167】
実施例12
ボツリヌス毒素複合体を精製するための二段階カラムAPFクロマトグラフ方法
実施例11で得られた結果に基づいて、二段階のカラム(ブチル→SP)のカラムクロマトグラフ方法をさらに開発するために選択した。
【0168】
第一工程の最適化:ブチルセファロースFF毒素の捕捉
供給源:供給源は、カラムに負荷される精製培養物のことである。硫酸アンモニウムは、緩衝液のpHに影響を与えることができるので、ブチルカラムにおいて、硫酸アンモニウムを置換したNaClの使用を評価した。2M NaClにするのに十分なNaClを供給源に加えることにより、ボツリヌス毒素複合体をブチルカラムに結合させることがわかった。続いて4M NaClでの供給源は、ボツリヌス毒素複合体のブチルカラムへの結合を増加した、すなわち、Hc−ELISAによって測定すると、2M NaClで供給源の使用と比較して、ブチルカラムからの毒素の収量が30%〜50%まで増加することを見出した。
【0169】
NaClの精製培養物(供給源)への添加は、少しのpH移動を引き起こした。しかしながら、許容される供給源のpHは、pH5〜pH6の間に設定し、NaCl添加後の供給源の最終pHは、pH5〜pH6内であった。従って、二段階のカラム精製方法のこの第一工程で使用するための好ましい供給源は、4M NaCl濃度を有し、pH5〜6である。固体のNaClを4M NaCl濃度を直接得るために精製した培養物に加え、次いで、この供給源をブチルカラムに加えた。結合した毒素は、1M NaCl溶離緩衝液を用いて、カラムから溶離させた。
【0170】
カラム精製方法は、親和性カラム方法を除いて、典型的に3またはそれ以上のカラムからなるので、意外なことにほとんどの不純物蛋白質がカラムから洗い流され、カラムに結合したほとんどの毒素が1M NaCl緩衝液で溶離され得た。このブチルカラムは、多くの不純物蛋白質を除去するための能力を有しているので、独特であることを見出した。従って、このカラムの使用後、ボツリヌス毒素複合体の純度は、およそ50%であった。
【0171】
次いで、洗浄工程をカラムから不純物を除去するために実施した。カラム中の不純物は、用いた精製培養物の供給源(4M NaClを含む)から生じた。最適化した洗浄工程は、1)洗浄液#1:5CVの50mM NaPi、4M NaCl、pH6.0、および2)洗浄液#2:12CVの50mM NaPi、2M NaCl、pH6.0であった。この場合において、洗浄は、精製培養物を負荷後、不純物を除去しているものの、12CVおよび5CVを比較した場合、5CVは、不純物を除去するのに充分ではないことがわかった。
【0172】
(カラムに結合した毒素を除去するための)溶離液。1.2M、1.0Mおよび0.8M NaClの毒素溶離液を評価した。毒素回収および不純物除去に基づいて、50mM NaPi中、1M NaCl、pH6.0で、毒素を溶離することを選択した。
【0173】
低塩洗浄:溶離後、カラムをさらに50mM NaPi、pH6.0で洗浄し、精製方法の特性のため、カラムに結合した残留不純物を除去した。
【0174】
浄化:カラムを使用した樹脂の廃棄前に残留毒素のいずれも不活性化するために、3CVの0.1N NaOHで浄化した。
【0175】
稼働流量:典型的な流量は、100cm/hであった。負荷する流量は、逆圧によって、90cm/h〜120cm/hであった。
【0176】
負荷量:典型的な負荷量は、床のmLあたり12.7mLの培養物、または生産スケールで、785mLの樹脂床(10cmの床の高さのBPG100カラム)に対して、10Lの培養液であった。
【0177】
床の高さ:すべてのカラムは、標準的な10cmの床の高さで詰めた。
【0178】
第二工程の最適化:SPセファロースHP精製
供給源のコンディショニング:ブチル溶離液をpH4.0の20mMクエン酸Na緩衝液で5倍に希釈し、供給源のpHを4.0に調整した。5倍希釈工程は、イオン交換クロマトグラフィーで使用するための疎水性相互作用のクロマトグラフィー溶離液の条件で実施した。最良の毒素回収のために最適な供給源のpHは、pH4.0±0.2の範囲内にあることがわかった。
【0179】
洗浄工程:負荷後、カラムを1)5CVのpH4.0の20mMクエン酸Na、続いて、2)3〜5CVのpH4.0の20mMクエン酸Na、300mMのNaClで洗浄し、結合した毒素の溶離前に不純物を除去した。
【0180】
溶離工程:毒素をpH4.0の20mMクエン酸Na、400mMのNaClで溶離した。
【0181】
高塩洗浄工程:溶離後、カラムをさらにpH4.0の20mMクエン酸Na、1MのNaClで洗浄し、強く結合した不純物を除去した。
【0182】
カラム浄化:使用した樹脂の廃棄前に、カラムを〜3CVの0.1NのNaOHで残留毒素を不活性化するために浄化した。
【0183】
流量:典型的な流量は、100cm/時であった。
【0184】
負荷:すべてのブチル溶離液をSPカラムに負荷した。
【0185】
床の高さ:すべてのカラムは、標準的な10cmの床の高さで詰めた。
【0186】
この実施例12で説明されるこの2段階のカラムのボツリヌス毒素複合体精製方法に関して実施される詳細な操作手順は、以下に説明する。
1.ブチル疎水性相互作用カラム
用いた原料および試薬
クロマトグラフィーシステム:AKTA清浄器100、アマシャムバイオサイエンス
樹脂タイプ:ブチルセファロースFF、アマシャムファルマシア
検出:UV(280nm)
平衡緩衝液/洗浄緩衝液#1:50mM NaPi、4M NaCl、pH6.0
洗浄緩衝液#2:50mM NaPi、2M NaCl、pH6.0
溶離緩衝液:50mM NaPi、1M NaCl、pH6.0
低塩洗浄緩衝液:50mM NaPi、pH6.0
浄化溶液:0.1N NaOH
滴定緩衝液:500mM NaPi、pH7.2
【0187】
手順
カラムパッキングおよびコンディショニング
少なくとも5〜10CVの平衡緩衝液、または出口pHが入口pHと同じになるまで、カラムを平衡化する。
【0188】
サンプル調製
出発原料のpH測定
固体のNaClを最終NaCl濃度が4Mになるまで、精製培養物に加える。4MのNaClの添加は、疎水性相互作用クロマトグラフィー中の供給液体として、精製培養物の使用のための精製培養物をコンディショニングする方法の一例である。もし必要なら、滴定緩衝液でpHを5.0〜6.0に調整する。
【0189】
カラム負荷
精製培養液(4MのNaClを含む)を負荷し、分析のために貫流フラクションを回収する。
【0190】
カラム洗浄#1(4MのNaCl洗浄)
カラム蛋白質を5CVの平衡緩衝液で洗浄し、不純物を除去する。分析用の洗浄フラクションを回収し、量を記録する。
【0191】
3.5.カラム洗浄#2(2MのNaCl洗浄)
カラムを15CVの洗浄緩衝液#2で洗浄し、さらに不純物蛋白質を除去した。分析用の洗浄フラクションを回収し、量を記録する。
【0192】
溶離(1M NaClの毒素ピーク溶離)
結合した毒素を5CVの溶離緩衝液で溶離する。溶離液の280nm吸収をモニターし、280nm吸収が増加し始めるときに溶離液の回収を始め、280nm吸収がベースラインに達するとき、溶離液ピークの回収を止める。毒素溶離液のフラクション量を記録する。
【0193】
低塩洗浄(0M NaClの不純物ピーク溶離)
カラムを4CVの低塩緩衝液で洗浄し、残留不純物蛋白質を除去した。分析用のフラクションを回収し、量を記録する。
【0194】
カラム浄化(0.1N NaOH)
カラムを3CVの浄化緩衝液で洗浄し、使用した樹脂の廃棄前に残留毒素を不活性化する。
【0195】
2.SP陽イオン交換(ブチル後)カラム
使用した原料および試薬
クロマトグラフィーシステム:AKTA清浄器100、アマシャムバイオサイエンス
樹脂タイプ:SPセファロースHP、アマシャムファルマシア
検出:UV(280nm)
希釈、平衡および洗浄緩衝液#1:20mMクエン酸Na、pH4.0
洗浄緩衝液#2:20mMクエン酸Na、300mM NaCl、pH4.0
溶離緩衝液:20mMクエン酸Na、400mM NaCl、pH4.0
高塩緩衝液:20mMクエン酸Na、1M NaCl、pH4.0
浄化溶液:0.1N NaOH
【0196】
手順
カラムパッキングおよびコンディショニング
カラムを5〜10CVの平衡緩衝液または出口pHが入口pHと同じになるまで平衡化する。
【0197】
サンプル調製
1Vの1MのNaClのブチル溶離液を4Vの希釈緩衝液で希釈する。導電率および負荷液のpHを測定する。必要なら、pHを4.0に調整する。
【0198】
カラム負荷
上記の希釈したブチル溶離液をSPカラムに適用し、貫流フラクションを回収する。
【0199】
カラム洗浄#1(平衡緩衝液洗浄)
SPカラムを5CVの平衡緩衝液で洗浄する。貫流フラクションとして、溶離液を回収し続ける。
【0200】
カラム洗浄#2(300mMのNaCl洗浄)
SPカラムを4CVの洗浄緩衝液#2で洗浄し、不純物蛋白質を除去する。洗浄#2のフラクション量を記録する。
【0201】
溶離(400mM NaCl溶離)
結合した毒素を3CVの溶離緩衝液で溶離する。溶離液の280nmの吸収をモニターし、280nmの吸収が増加し始めたとき、溶離液を回収し始めて、280nm吸収がベースラインに達するとき、溶離液ピークの回収を止める。毒素溶離フラクション量を記録する。
【0202】
高塩溶離(1M NaCl)
強く結合した不純物蛋白質を3CVの高塩緩衝液で溶離する。分析用フラクションを回収し、量を記録する。
【0203】
カラム浄化
SPカラムを3CVの浄化溶液で浄化し、樹脂の廃棄前に残留毒素を不活性化する。
【0204】
実施例13
ボツリヌス毒素複合体を精製するための2段階のカラムAPFクロマトグラフ方法の頑健性
実施例12の2段階のカラム方法の頑健性は、下記に説明するように一連の実験で研究された。
【0205】
培養液のpH
毒素精製における培養液のpHの効果を評価した。精製のための出発原料として、pH5.5およびpH6.5で増殖する培養物を用いて研究を行い、Hc−ELISAの結果に基づくpH6.5の培養液からの回収は、pH5.5の培養液からの回収より僅かに低いことがわかった。
【0206】
保存時間
毒素は、集菌する日にpH5.5で、および2〜8℃で培養物の保存の4日後に増殖させた培養物から精製した。毒素回収に基づく、ブチルおよびSPクロマトグラム、SDS−PAGE、およびHc−ELISAの結果に差は見出されなかった。
【0207】
カラム結合量
ブチルカラムの提案される負荷量は、樹脂のmLあたり12.7mLの培養物、またはBPG100カラム(10cmの床の高さを持つ)のための10Lの培養物であった。ブチルおよびSPカラムは、4倍以上の培養物を負荷することにより試験された。SDS−PAGEおよびHc−ELISAの結果は、ブチルおよびSPカラムの両方ともに貫流フラクション内にほとんどの毒素を示さなかった。ブチルおよびSPカラムの容量は、現在の負荷量より少なくとも4倍多い。SP溶離液内の毒素は、SDS−PAGEでピュアであった。Hc−ELISAに基づく、ブチルカラムの回収率は48%であり、SPカラムの回収率は74%であった。総収量は、UVの結果に基づいて、培養物のLあたり16mgの毒素であった。
【0208】
方法の保持時間
集菌後、培養液を同日または終夜保存後に、ブチルカラムにより行った。ブチル溶離液は、SPカラムに負荷する前に、通常終夜で保存した。予備研究は、ブチル溶離液が4日までに安定し、同一のクロマトグラムおよびSDS−PAGEパターンを与えることを示した。SP溶離液の安定性をキャピラリー電気泳動(CE)およびSEC−HPLCで評価した。結果は、2日までの間保存したサンプル間で違いを示さなかった。濾過後の毒素回収もこれらのサンプルで評価した。毒素回収は、0日目に比べて2日目に僅かに減少したが、当該減少が保存または実験の多様性のためであるかどうかは明らかではなかった。
【0209】
培養液の細胞密度
2倍に濃縮した培養物および2倍に希釈した培養物を毒素精製における培養細胞密度の効果を研究するためにブチルクロマトカラムで評価した。両方の実施によるクロマトグラムは、同一に見えた。両方の実施による不純物および毒素プロフィールは、SDS−PAGEで同一であった。Hc−ELISAの結果(表8)は、両方の実施による物質収支は、>90%であるが、2倍に濃縮した培養物の回収率は、2倍に希釈した培養物の回収率よりかなり低いことを示した。2倍に希釈した培養物の4%の喪失に比べて、2倍に濃縮した培養物の毒素溶離前に29%の毒素が喪失した。
表8.Hc−ELISAで分析したAPF毒素の物質収支

【0210】
バイオバーデン研究
バイオバーデンを、方法の異なった工程でモニターした。ブチル負荷物、3日間保存後のブチル溶離液、SP負荷液、SP溶離液、および終夜保存後のSP溶離液のサンプルを評価した。少しの汚染が記録された(〜<1CFU/ml〜35CFU/ml)。最も多くの汚染を持つサンプルは、ブチル溶離液であった。汚染は、精製プロセスを実施する非制御環境のためであり得る。
【0211】
4MのNaClの効果
培養物中の毒素における4MのNaClの効果を評価するために、4M NaClを含む培養物は、終夜で4℃を維持し、次いで、ブチルおよびSPカラムを実施した。クロマトグラフィーの結果、SDS−PAGEおよびHc−ELISAは、終夜保存後の培養物中の毒素において、4M NaClの効果が無いことを示した。
【0212】
培養(3:1:1対5:1:1)
2.5Lの5:1:1および3:1:1培養液を処理した。Hc−ELISAで分析された各精製に対する毒素の回収率は、表9にまとめられる。両方の培養液から精製された毒素は、SDS−PAGEでピュアであり、3:1:1培養液で開発された方法は、5:1:1培養液からの毒素を精製するために使用され得ることを示す。
表9.Hc−ELISAに基づく毒素の回収率

【0213】
SPセファロースHPクロマトグラフィーのための作業pH
SPセファロースHPクロマトグラフィーを異なったpH値3.5、4.2、および4.5で実施した。pH3.5は、カラム中に毒素の沈殿を生じ、400mMのNaClで溶離する毒素はなく、1MのNaClで溶出する毒素は、極少量であることがわかった。pH4.5において、毒素はSPカラムに結合しなかった。pH4.2で得られた予備試験の結果は、毒素がpH4.0ほど強く結合せず、300mMのNaClで洗浄ピーク後に広いピークとして溶離されることを示した。結果は、この工程のpHが重要であり、最適なpH範囲が狭いことを示す。
【0214】
実施例14
ボツリヌス毒素複合体を精製するための2段階のカラムAPFクロマトグラフ方法の評価
実施例12の精製方法の2段階のカラムのそれぞれからの種々の溶離液を以下に説明するように評価した。
【0215】
A.ブチルセファロースFFクロマトグラフィー
濾過した3:1:1培養物をこの実験のための供給源として使用した。ブチルセファロースFFカラム(XK50/10、カラム直径5cm、床高10cm、カラム量:196mL)上に供給源(クロストリジウム・ボツリヌスA型[ホール菌株]のシャンツ発酵から得られる精製培養物)を負荷する前に、584.4gのNaClを30分間攪拌しながら、2500mLの培養物に加えた。典型的に供給源のpHを5.81に調整し、実施流量は、92cm/時(標準的な流量は、100cm/時)に設定した。負荷量は、2800mLであった。
【0216】
負荷後、カラムを5CVまたは1000mLの50mMのNaPi、4MのNaCl、pH6.0で洗浄し、続いて、15CVまたは3000mLの50mMのNaPi、2MのNaCl、pH6.0で洗浄した。次いで、結合したボツリヌス毒素A型複合体を5CVまたは1000mLの50mMのNaPi、1MのNaCl、pH6.0でカラムから溶離した。ボツリヌス毒素複合体の溶離後、強く結合した不純物を4CVまたは800mLの50mMのNaPi、pH6.0でカラムから洗い流した。次に、カラムを2CV(400mL)の0.1NのNaOHで洗浄し、使用した樹脂の廃棄前に残留毒素を不活性化した。毒素溶離液のクロマトグラムは、図3に示される。
【0217】
図3は、用いたブチルカラムが精製培養物の供給液体中に存在する不純物からボツリヌス毒素複合体の良い分離を提供することができることを示す。280nmのUVで測定されたように、図3は、貫流ピークおよび2MのNaCl、1MのNaCl、0MのNaClおよび0.1NのNaOHのピークを示す。ピークの大きさに基づいて、ほとんどの不純物が貫流フラクションに除去されることを見出した。充分な量の不純物もまた、1MのNaClフラクション中の毒素溶離前に、2MのNaClフラクション中に除去された。
【0218】
図3は、疎水性相互作用ブチルカラムを介して、APF精製培養物(3.1.1培養物)の通過から得られたクロマトグラムである。X軸は、カラムを通過した液体のmL中の量(流出量)を示す。Y軸は、mAU中、280nmでのUV吸収を示す。さらに、導電率(グラフ線を分離する)をクロマトグラフィー中モニターした。
【0219】
図3に示すとおり、多くの蛋白質不純物は、最初のおよそ3000mL中にカラムを通過した。4MのNaClおよび2MのNaCl洗浄緩衝液は、より小さなピークではあるが、次のさらなる不純物の除去を示す原因となる。1MのNaCl(約7000mL量)の使用は、カラムからの結合した毒素複合体の溶離をもたらし、これが第二のカラムに負荷されるフラクションであった。
【0220】
B.SPセファロースHPクロマトグラフィー
図4の軸は、図3のものと同一である。図4のクロマトグラフを得るために実施した工程は、下記の通りである:
(1)実施例12から得られた100mLのブチル溶離液(図3から生じるブチルカラム溶離液)を400mLの20mMクエン酸Na緩衝液で、pH4.0にて希釈した(その結果、5倍希釈した)。この希釈したブチル溶離液のpHは、4.1であった。
(2)次いで、466mLのこの供給液をSPセファロースHPカラム(XK26/10、カラム直径2.6cm、床高10cm、カラム量:53ml)に負荷した。
(3)負荷後、カラムを5CVまたは250mLの20mMクエン酸Na、pH4.0で(図4のx軸の約450mLの点)、洗浄した。
(4)次いで、カラムを4CVまたは200mLの20mMクエン酸Na、300mMのNaCl、pH4.0(図4のx軸の約725mLの点)で洗浄した。
(5)次いで、カラムに結合したボツリヌス毒素複合体を3CVまたは150mLの20mMクエン酸Na、400mMのNaCl、pH4.0(図4のx軸上の約925mLの点)で溶離した。
(6)カラムに結合した毒素複合体の溶離後、カラムを3CVまたは150mLの20mMクエン酸Na、1MのNaCl、pH4.0でさらに洗浄し、強く結合した不純物を溶離した(図4のx軸上の1050mLの点)。
(7)次いで、カラムを3CVまたは150mlの0.1NのNaOH(図4のx軸上の1200mLの点のちょうど後)で浄化した。
【0221】
図4のクロマトグラムは、図4のx軸上の1000mLのちょうど前で、ボツリヌス毒素A型複合体(約900kDaの分子量)の溶離を示す。
【0222】
図4は、高度に精製したボツリヌス毒素複合体は、SPセファロースカラム、続くブチルカラムの使用によって得られうることを示す。図3は、広い貫流ピーク、少量の300mMのNaCl洗浄ピーク、400mMの毒素溶離ピークおよび1MのNaCl浄化ピークがあることを示す。図5Bにおいて、SDS−PAGEで分析されるとおり、貫流フラクション中に明らかな蛋白質バンドは存在せず、300mMのNaCl洗浄フラクションおよび1MのNaCl浄化フラクション中には、いくつかの不純物蛋白質のバンドがある。毒素は、400mMのNaCl溶離フラクションで溶離した。
【0223】
C.分析結果
SDS−PAGE:ブチルおよびSPカラムのクロマトカラムからの溶離フラクションは、SDS−PAGEで分析され、典型的な結果は、図5A(ブチルカラム)および図4B(SPカラム)で示される。
【0224】
図5および6は、還元SDS−PAGEの使用によって得られるゲル電気泳動である。図5および6のゲル電気泳動の記録の左側は、千ダルトンにおける上行する分子量(kDa)と共に垂直に記録される。番号1〜6、1〜7または1〜8は、図5および6のゲルに負荷されたフラクションを示す番号である。
【0225】
図5A:項目1(ゲルレーン1)「マーク12」は、ノベックス社(Novex)の標準的な分子質量の分子量マーカーであり;レーン2は、精製培養液の供給液体であり;レーン3は、ブチルカラムにおける貫流(「FT」)および4M洗浄液の使用から生じる洗浄液由来のアリコートであり;レーン4は、2M洗浄液の使用から生じるアリコートであり;レーン5は、2Mの洗浄液の最後のフラクションから生じるアリコートであり;レーン6は、1M溶離液のフラクションから生じるアリコートであり;レーン7は、1M溶離液の最後のフラクションから生じるアリコートであり;レーン8は、0M洗浄液から生じるアリコートである。
【0226】
図5Aは、ブチルカラムが多くの不純物を除去し(図5Aのカラム3〜5を参照されたい)、最初に精製したボツリヌス毒素(図5Aのカラム6〜8を参照されたい)を提供したことを示す。
【0227】
図5B:項目1(ゲルカラム1)「マーク12」は、図5Aで使用された分子量マーカーと同一であり;カラム2は、希釈したブチルカラム溶離液であり;カラム3は、カラム貫流のアリコートであり;カラム4は、300mM洗浄液から生じるアリコートであり;カラム5は、カラムから生じる溶離液からのアリコートであり;カラム6は、1M洗浄液から生じるアリコートである。図5Bは、SPカラムの使用、続くブチルカラムの使用により、高度に精製したボツリヌス毒素を提供することを示す(図5BのカラムBを参照されたい)。
【0228】
Hc−ELISA
毒素濃度は、Hc−ELISAによって分析され、毒素の重鎖濃度に基づく毒素濃度を決定するためのELISAアッセイ、および精製中の毒素の物質収支を評価した。表10は、毒素濃度および典型的な精製実施からブチルおよびSPカラム工程間の工程回収率を示す。ブチルおよびSP後の総収率は、28.6%であった。
【0229】
SEC−HPLC
SEC−HPLCからの結果は、SPクロマトグラフィーに関する工程回収率は、Hc−ELISAによる62.5%と比べて、42.9%であることを示した。これは、SPカラム工程後のボツリヌス毒素の回収率は、およそ50%であることを示す。
【0230】
規格化収率
毒素の収率は、一試行からブチルクロマトグラフィー後の培養液のLあたり22.3mg(SEC−HPLCによる)または23.4mg(Hc−ELISAによる)、およびSPクロマトグラフィー後の培養液のLあたり9.6mg(SEC−HPLCによる)または8.9mg(Hc−ELISAによる)として規格化した。従って、本明細書で説明された2段階のカラムシステムおよび方法を用いて、約50mg〜約90mgのボツリヌス毒素複合体は、それぞれ10Lの発酵培地の精製培養物(実施例6または実施例72の発酵プロセスからの例から得られたとおり)から精製されうる。
表10.典型的なブチルおよびSPクロマトグラフィー工程における毒素濃度および物質収支

【0231】
実施例15
カラムクロマトグラフィー後の毒素複合体の安定化および保存方法
1.開発根拠
クロマトカラム後、UF/DF工程による所望の濃度で、精製したボツリヌス毒素複合体を安定な緩衝液に移し、続いて、滅菌濾過することによりボツリヌス毒素医薬組成物の配合における使用に適した毒素を得ることが好ましい。精製したボツリヌス菌は、酢酸塩緩衝液中の可溶形態または硫酸アンモニウム懸濁液として保存された。
【0232】
2.UF/DF工程
ポリエーテルスルホンバイオマックス10メンブラン(NMWCO:10kDa、ミルポア)をUF/DF工程で使用した。pH4.0の50mMのNaAcをダイアフィルトレーション緩衝液として選択した。SP溶離液を〜1mg/mLで限外濾過し、次いで、8ダイアフィルトレーション量(DV)のpH4.0の50mM NaAcでダイアフィルトレーションした。
【0233】
限外濾過(UF)は、極小粒子および液体からの溶解分子を分離するための方法である。例えば、分子の形および電荷のような二次的因子も役割を果たすけれど、分離のための第一の原理は、分子の大きさである。1000〜1000000の分子量の大きさの範囲である材料は、塩および水は通過しながら限外濾過膜で保持される。コロイド状および粒子様式も保持されうる。
【0234】
ダイアフィルトレーション(DF)は、最終的に濃度が変化することなく、膜を介してより小さな分子を洗浄し、保持液中により大きな分子を残す分別方法である。DFは、塩または交換緩衝液を除去するために使用され得る。DFは、エタノールまたは他の小さな溶媒または添加物も除去することができる。ダイアフィルトレーションを行うためにいくつかの方法がある。連続的なダイアフィルトレーションにおいて、ダイアフィルトレーション溶液(水または緩衝液)を、濾過液が生じるのと同じ速度でサンプル供給容器に加える。この方法において、サンプル容器内の量は一定に維持するが、膜を自由に透過することができる小さな分子(例えば、塩)は洗い流される。例として、塩除去を用いる場合、それぞれ追加のダイアフィルトレーション量(DV)は、さらに塩濃度を減少する(ダイアフィルトレーション量は、ダイアフィルトレーション溶液を加える前のサンプル量である)。5ダイアフィルトレーション量を用いる場合、連続的なダイアフィルトレーションで〜99%までイオン強度を減少する。非連続のダイアフィルトレーションにおいて、該溶液は最初希釈され、次いで初期量に戻すまで濃縮した。次いで、このプロセスは容器内に残る小分子(例えば、塩)の必要濃度まで繰り返される。それぞれ追加のダイアフィルトレーション量(DV)は、さらに塩濃度を減少する。ダイアフィルトレーション量は、希釈溶液を加える前のサンプル量である。5ダイアフィルトレーション量を用いる場合、非連続のダイアフィルトレーションで〜96%までイオン強度を減少する。連続的なダイアフィルトレーションは、非連続的なダイアフィルトレーションのような塩軽減と同程度達成するためにより少ない濾液が必要である。
【0235】
3.0.22μm濾過工程
低蛋白質を結合する0.22μm酢酸セルロース(CA)真空ボトルトップフィルターを濾過工程のために選択した。
【0236】
4.硫酸アンモニウム沈殿工程
次いで、硫酸アンモニウム沈殿を実施した:3.5M硫酸アンモニウムを穏やかに攪拌して、最初のオパール色が出現するまで0.22μmの濾過した毒素溶液に加えた。次いで、精製したバルク毒素を2〜8℃で保存した。
【0237】
5.典型的なカラム後の方法からの結果
SP溶離液をラボスケールのTFFシステム(ミルポア)でペリコンバイオマックス10(50cm2の表面積、ミルポア)を用いて、70.5mlから18mlまで濃縮し、pH4.0の8DVの50mM NaAcでダイアフィルトレーションした。保持液(UF/DF後フラクション)を回収し、コーニング0.22μmのCAフィルター(コーニング431154)で濾過した。UF/DFシステムを酢酸塩緩衝液でリンスした。リンスフラクションを回収した。10mLの0.22μm濾過後の濾液を安定性研究のために2〜8℃で保存した。8mLの0.22μm濾過後の濾液を硫酸アンモニウム沈殿に付した。2.8mLの3.5M硫酸アンモニウムの全量を、オパール色になるまで濾過液に加えた。
【0238】
毒素の回収は、UV測定に基づいて評価し、表11に示す。SDS−PAGEの結果は、図4に示す。
【0239】
図6に示されたレーン:
レーン1は、標準分子量のM12
レーン2は、SPカラム溶離液
レーン3は、UF/DF保持液:比較のためのレーン2と同量の負荷した蛋白質を希釈したSP溶離液のUF/DF後のUF/DF保持液
レーン4は、UF/DF膜の完了後、UF/DF膜をリンスすることから生じるUF/DFリンス溶液
レーン5は、0.2μm濾過後である:UF/DF方法後およびサンプルを0.22μmフィルターで濾過した後
レーン6は、カラム後の硫酸アンモニウム懸濁液である0.22μmフィルター濾過後、ボツリヌス毒素複合体が硫酸アンモニウム中で安定であるので、サンプルを硫酸アンモニウムで沈殿した
レーン7は、UF/DF保持液(レーン3と同じ)であるが、詳細を示すために希釈していない原液
を表す。
【0240】
図6は、カラム精製方法後のUF/DF工程、0.22μm濾過、および硫酸アンモニウム沈殿は、SDS−PAGE分析で決定されるとおりボツリヌス毒素複合体の純度に影響されないことを教示する。注目すべきは、MLD50の結果は、精製したバルクのボツリヌス毒素複合体の効力が、2.9〜3.7×107MLD50ユニット/mgであることを示した。
表11.UV測定に基づく毒素の回収

*8mLの濾過後フラクション由来
【0241】
図7は、好適な動物由来蛋白質不含でボツリヌス毒素A型複合体を精製するための2段階のカラムクロマトグラフ法の流れ図である。これは、精製したクロストリジウム・ボツリヌス毒素900kDa複合体を得るための頑健性があり測定可能なcGMP適合方法である。図7において、ブチル溶離液は、pH4のクエン酸ナトリウム緩衝液で5倍希釈によってイオン交換クロマトグラフィー用にコンディショニングされることに留意する。
【0242】
図7のプロセスは、150kDaのボツリヌス毒素分子から無毒素複合体蛋白質を解離するためにpH8緩衝液中で、SPカラム溶離液をイオン交換カラムに負荷することによって、純品(すなわち、150kDaのボツリヌス毒素を含まない非毒素複合体蛋白質)を得るためにも使用され、それによって、およそ150kDの分子量、および1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の特定の効力を有するボツリヌス毒素A型(神経毒成分)を与える(カラムからの貫流中で)。この方法は、複合体をその成分に解離し、次に解離した成分を精製することによって、ボツリヌス毒素複合体(すなわち、非毒素の血球凝集素蛋白質および/または無毒素の非血球凝集素蛋白質)の他の無毒素成分を得るためにも使用され得る。
【0243】
本方法によって得られた精製した毒素複合体は、表2で説明される規格を満たすか、または勝っている。さらに典型的な収量は、10L細胞培養液からおよそ100mgの900kDa毒素複合体であり、シャンツ(非APF)法から得られた収量より多い。
【産業上の利用可能性】
【0244】
本発明の利点は、下記を含む:
1.動物由来成分または基質を方法内で使用しない。具体的には、DNaseおよびRNaseの使用を省略する。
2.表2で説明された特徴を有する精製したボツリヌス毒素A型複合体あたり約50mg以上が、10Lの発酵培地あたり得られうる。
3.精製した毒素は、頑健性のある測定可能でバリデート可能なcGMP適合である方法から得られる。頑健性は、方法が1またはそれ以上の方法のパラメーターにおいて、約±10%の変化と同等の再現性があることを意味する。バリデート可能とは、該方法が表2の特徴を持つ精製した毒素を常に得ることを意味する。cGMPは、プロセスがFDA必須の現行の医薬品の製造管理および品質管理に関する基準に適合する生産方法に容易に変換することができることを意味する。
4.最終の精製したボツリヌス毒素複合体の効力は、シャンツまたは改良シャンツ法から得られる精製したボツリヌス毒素複合体の効力(MLD50アッセイによって決定される)を満たすか超える。
5.ボツリヌス毒素複合体を精製するためのいずれの沈殿工程の省略
【0245】
種々の刊行物、特許および/または参考文献を本明細書に引用し、その内容は全体を参照によって引用する。
【0246】
本発明は、特定の好適な方法に関して、詳細に記載されているが、本発明の範囲内における他の態様、意見、および改良は可能である。例えば、多種多様な動物由来成分不含システムおよび方法(クロマトグラフィーのボツリヌス毒素精製方法を含む)は、本発明の範囲内である。
【0247】
従って、上記請求項の精神と範囲は、上で説明された好ましい態様に限定されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ボツリヌス毒素の発酵培養物のサンプルを得て;
(b)第一のカラムによって、ボツリヌス毒素の捕捉を可能にするために第一のクロマトカラムの樹脂を該培養物サンプルと接触させて;
(c)第一のカラムからボツリヌス毒素を溶離して;
(d)第二のカラムクロマトのカラム樹脂に第一のクロマトカラムからの溶離液を負荷し、それにより精製したボツリヌス毒素を得る
工程を含む、クロストリジウム毒素を精製するための方法。
【請求項2】
第一のクロマトカラムおよび第二のクロマトカラムが異なったカラムであって、2個の異なったカラムは、異なった精製機構によって、ボツリヌス毒素を精製するように作用する、請求項1の方法。
【請求項3】
第一のクロマトカラムが疎水性相互作用カラムである、請求項1の方法。
【請求項4】
第二のクロマトカラムがイオン交換カラムである、請求項1の方法。
【請求項5】
該方法が接触工程後および溶離工程前に、第一のカラムから不純物を洗い流す工程をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項6】
該方法が負荷工程後に第二のカラムから不純物を洗い流す工程をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項7】
該方法が第二のカラムから不純物を洗い流す工程後、第二のカラムからボツリヌス毒素を溶離する工程をさらに含む、請求項6の方法。
【請求項8】
該方法が実質的に動物性蛋白質不含(「APF」)法である、請求項1の方法。
【請求項9】
該方法が本質的にAPF方法である、請求項1の方法。
【請求項10】
該方法がAPF方法である、請求項1の方法。
【請求項11】
該ボツリヌス毒素の発酵培養物が実質的にAPF方法から生じる、請求項1の方法。
【請求項12】
該ボツリヌス毒素の発酵培養物が本質的にAPF方法から生じる請求項1の方法。
【請求項13】
該ボツリヌス毒素の発酵培養物がAPF方法から生じる、請求項1の方法。
【請求項14】
精製したボツリヌス毒素の収量が、各10Lのボツリヌス毒素の発酵培養物に対して、バッチあたり約50mg以上である、請求項1の方法。
【請求項15】
精製したボツリヌス毒素が、以下の特徴:
(a)白色からオフホワイトな懸濁液としての外観;
(b)溶離液のmLあたり2.0〜3.6mgのボツリヌス毒素複合体の濃度
(c)278nmの吸収に対する260nmの吸収比(A260/A278)が、0.6以下であり;
(d)精製したボツリヌス毒素のmgあたり2.4×107〜5.9×107のMLD50ユニットのMLD50ユニット/mgにおける特異的な効力;
(e)ボツリヌス神経毒タイプA複合体に対する免疫学的同一性;
(f)標準品に一致するSDS−PAGE特性;
(g)総ピークの>95%が900kDaの毒素複合体であるSEC−HPLC特性;および
(h)該方法が、頑健性があり、測定可能でバリデートされ得るcGMP適合
である、請求項1の方法。
【請求項16】
請求項1の方法によって得られる精製したボツリヌス毒素。
【請求項17】
ボツリヌス毒素を精製するためのAPF方法であって、
(a)実質的にAPF方法から生じるボツリヌス毒素の発酵培養物のサンプルを得て;
(b)第一のカラムによってボツリヌス毒素の捕捉を可能にするために疎水性相互作用クロマトカラムの樹脂を該培養サンプルと接触させて;
(c)疎水性相互作用クロマトカラムから不純物を洗い流し;
(d)疎水性相互作用カラムからボツリヌス毒素を溶離し;
(e)イオン交換カラムクロマトのカラム樹脂に疎水性相互作用クロマトカラムからの溶離液を負荷し;
(f)イオン交換クロマトカラムから不純物を洗い流し;
(g)ボツリヌス毒素をイオン交換カラムから溶離し、それによって実質的にAPF精製プロセスであるボツリヌス毒素を精製するための方法を介して、精製したボツリヌス毒素を得る
工程を含むAPF方法。
【請求項18】
ボツリヌス毒素の発酵培養物のサンプルを得る工程後および疎水性相互作用クロマトカラムの樹脂を培養サンプルと接触する工程前に、疎水性相互作用クロマトグラフ用の精製した培養液をコンディショニングする工程をさらに含む、請求項17のAPF方法。
【請求項19】
疎水性相互作用カラムからボツリヌス毒素を溶離する工程後およびイオン交換カラムクロマトのカラム樹脂に疎水性相互作用クロマトカラムからの溶離液を負荷する工程前に、イオン交換クロマトグラフ用の疎水性相互作用カラムからの溶離液をコンディショニングする工程をさらに含む、請求項17のAPF方法。
【請求項20】
ボツリヌス毒素を精製するためのAPF方法であって、
(a)実質的にAPF方法から生じるボツリヌス毒素の発酵培養物のサンプルを得て;
(b)疎水性相互作用クロマトグラフに対して、精製した培養物をコンディショニングし;
(c)第一のカラムによって、ボツリヌス毒素の捕捉を可能にするために、疎水性相互作用クロマトカラムの樹脂を該培養物サンプルに接触させて;
(d)疎水性相互作用クロマトカラムから不純物を洗い流し;
(e)疎水性相互作用カラムからボツリヌス毒素を溶離し;
(f)イオン交換クロマトグラフ用の疎水性相互作用カラムからの溶離液をコンディショニングし;
(g)イオン交換カラムクロマトのカラム樹脂に疎水性相互作用クロマトカラムからのコンディショニングした溶離液を負荷し;
(h)該イオン交換クロマトカラムから不純物を洗い流し、および
(i)イオン交換カラムからボツリヌス毒素を溶離し、それによって実質的にAPF精製方法であるボツリヌス毒素を精製するための方法を介して精製したボツリヌス毒素を得る
工程を含むAPF方法。
【請求項21】
クロストリジウム毒素を精製するためのシステムであって、
(a)発酵培養液からボツリヌス毒素を捕捉するための第一のクロマトカラム樹脂;
(b)第一のカラムからボツリヌス毒素を溶離するための溶離緩衝液;
(c)第一のクロマトカラム由来の溶離液からボツリヌス毒素を捕捉するための第二のカラムクロマトのカラム樹脂;および
(d)第二のクロマトカラムからボツリヌス毒素を溶離するための第二の溶離緩衝液
を含むシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−41356(P2012−41356A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−226128(P2011−226128)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【分割の表示】特願2007−557984(P2007−557984)の分割
【原出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】