説明

動物食害防止ネット付緑化構造体および緑化方法ならびに動物食害防止ネット付植生基体

【課題】 鹿等の食害動物による食害を防止するため動物食害防止ネットを植生対象面から一部浮いた状態にするにあたり、コイルばねのようなスペーサを不要にしてコスト縮減を図ることができるとともに、施工性に優れた動物食害防止ネット付緑化構造体および緑化方法ならびに動物食害防止ネット付植生基体を提供すること。
【解決手段】 植生マット(植生基体の一例 )2の上方に、補強用桟体11を備えた動物食害防止ネット10を重ねた状態で植生対象面Nに敷設するとともに、前記植生マット2から前記動物食害防止ネット10が一部浮いた状態となるように前記補強用桟体11、動物食害防止ネット10及び植生マット2を固定用部材12により植生対象面Nに固定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動物による食害を防止するための動物食害防止ネット付緑化構造体および緑化方法ならびに動物食害防止ネット付植生基体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鹿等の大型草食動物による食害が、特に緑化工の妨げとなり問題となっている。すなわち、法面等の植生対象面に緑化工を施工してもこの施工に用いる緑化用植物が発芽初期段階で食害にあい、その結果、緑化による侵食防止が不十分な状態で法面等の植生対象面が放置されてしまうことが多い。
【0003】
そこで、上記食害を防止するために、下記特許文献1に示すように、金網を植生対象面としての法面から浮かせた状態で張設することによって、草食動物の侵入を防いで植物を保護することが従来より行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−137258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された方法は、コイルばねを使って金網を法面から一部浮かせた状態にしており、その分コストが嵩むという課題がある。
【0006】
また、特許文献1に記載された方法では、法面に植物を生育するため、まず始めに法面上に生育基盤を形成し、次に、生育基盤中の種子が発芽しやすい温度及び湿度に保持するため前記生育基盤を被覆する被覆材を施工する必要があり、しかも被覆材の施工では法面の法肩に予め被覆材設置用の複数のアンカーピンを打ち込み、被覆材を生育基盤の上に垂らした状態にするため前記被覆材設置用のアンカーピンに被覆材の紐を引っかけるといった作業を行い、そして始めて被覆材の上に金網を広げた状態で金網と被覆材を別途アンカーピンにより法面に対して固定し、最後に金網を法面から離すように引っ張って前記コイルばねを金網の網目から金網の下方に通すことにより前記コイルばねを被覆材と金網の間に配置して金網を被覆材から一部浮かせた状態にするといった施工がなされていることから、施工の効率化が図れないという課題があり、これに代わる新たな方法の開発が望まれている。
【0007】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、鹿等の食害動物による食害を防止するため動物食害防止ネットを植生対象面から一部浮いた状態にするにあたり、コイルばねのようなスペーサを不要にしてコスト縮減を図ることができるとともに、施工性に優れた動物食害防止ネット付緑化構造体および緑化方法ならびに動物食害防止ネット付植生基体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の動物食害防止ネット付緑化構造体は、補強用桟体を備えた動物食害防止ネットが植生基体を覆い且つ植生基体から一部浮いた状態となるように、前記補強用桟体、動物食害防止ネット及び植生基体を固定用部材により植生対象面に固定してなることを特徴としている(請求項1)。
【0009】
また、この発明は別の観点から、植生基体の上方に、補強用桟体を備えた動物食害防止ネットを重ねた状態で植生対象面に敷設するとともに、前記植生基体から前記動物食害防止ネットが一部浮いた状態となるように前記補強用桟体、動物食害防止ネット及び植生基体を固定用部材により植生対象面に固定することを特徴とする緑化方法を提供する(請求項2)。
【0010】
また、この発明はさらに別の観点から、請求項2に記載された緑化方法に用いられる動物食害防止ネット付植生基体であって、動物食害防止ネットと植生基体とは重ね合わされて端部が連結されており、且つ前記動物食害防止ネットは、前記植生基体よりも長尺であって、且つ適当間隔おきに補強用桟体を備えていることを特徴とする動物食害防止ネット付植生基体を提供する(請求項3)。
【0011】
この発明における植生対象面とは、例えば道路や山腹等の法面、河川敷、川岸、湖岸などで植生により緑化する対象となる面(施工地)を意味する。
【0012】
また、この発明における(食害)動物とは、鯨偶蹄目若しくはグレリス大目の系統に属し、植物に食害を与える動物(鹿、カモシカ、猪、ウサギなど)を特に指す。
【0013】
この発明における植生基体の例としては、
(1)図1〜図6に示すような植生マット2を挙げることができる。これは、例えば、基盤材としての緑化材料、すなわち、土壌改良材、保水材、肥料、有機質材料などの植生基材bの少なくとも一つおよび/または植物種子aなどを下部に保持する薄綿(シート)4を、ネット5の下面に保持するとともに、ネット5の複数箇所に適宜間隔おきに収容部6を設け、これら収容部6に有機質材料や保水材及び肥料等の植生基材bが収容された例えば不織布などからなる肥料袋7が挿入収容されてなる肥料袋付植生マットである。
【0014】
また、植生基体の別の例としては、
(2)図7に示すような植生シート2’を挙げることができる。これは、例えば土壌改良材、保水材、肥料、有機質材料などの植生基材bの少なくとも一つと植物種子aとを下部に保持する薄綿4と、この薄綿4を下面に保持するネット5とを備えている。
【0015】
また、植生基体のさらに別の例としては、
(3)ネット単体や、肥料袋付ネットを挙げることができる。
【0016】
そして、前記薄綿4は、例えば薄綿ラップや不織布などからなるものであり、例えば、簡単に水で解ける(分散する)水解性のシートでもよく、生分解性の繊維からなるシートでもよい。そして、前記薄綿4に代えて、薄い素材間に前記植物種子aなどとともに、植生基材bの少なくとも一つを挟在させた所謂張芝体をネット5下面に保持させることが可能である。
【0017】
なお、前記肥料袋、シート、張芝体の構成素材としては、例えばバクテリアなどの微生物で分解腐食されて経時的に消失する綿、絹、麻などの天然繊維や、再生セルロースからなるビスコースレーヨンなどの再生繊維、さらには、前述したような腐食性繊維の単独、又は、腐食性繊維と合成繊維とからなる混紡繊維を使用することも可能である。
【0018】
この発明における補強用桟体とは、例えば金属製、木製あるいはプラスチック製等の線状体、棒状体、帯状体等を含む。そして動物食害防止ネットに対する取り付けの好ましい形態として以下の形態を挙げることができる。
(1)紐、針金等の線材で補強用桟体を動物食害防止ネットに縛りつけた状態。
(2)動物食害防止ネットと補強用桟体が金属製である場合には接着、溶接等の接合手段で補強用桟体を動物食害防止ネットに接合した状態。
(3)動物食害防止ネットの目合い(網目)を縫うように補強用桟体を動物食害防止ネットに通した状態。
【0019】
なお、この発明は動物食害防止ネットへの補強用桟体の取り付け状態を上記のものに限定するものではない。
【0020】
この発明の動物食害防止ネット付植生基体においては、
(1)動物食害防止ネットと植生基体とは重ね合わされて端部が連結されている。連結手段としては、ホックリング、Cリング、結束線材等の部材を挙げることができる。
【0021】
動物食害防止ネット付植生基体を上記のように構成しているのは、工場生産された製品としての動物食害防止ネット付植生基体をロール巻きの状態で発送することができるからである。すなわち、重ね合わされている動物食害防止ネットおよび植生基体それぞれの端部同士を連結することにより両者を一体化することができる。そして、前記端部同士を連結することにより植生基体と動物食害防止ネットとを一体化することによって、工場生産の時点において植生基体と動物食害防止ネットとを重ね合わせたまま2重状態で巻くことが容易である。なお、この端部同士の連結を、施工時点で行ってもよい。いずれにしても施工時には、動物食害防止ネットと植生基体とは重ね合わされて端部が連結されていることから、動物食害防止ネット付植生基体の前記連結端部を持った状態でロール状の植生基体および動物食害防止ネット(図1〜6では植生マット2および動物食害防止ネット10)を植生対象面の法肩(植生対象面上側;図1〜6では法面上側)から下(法尻側)へ放り投げるように展開させることが可能となる。そして、展開後は、上(法肩)から順に固定用部材(例えばアンカーピン12)を打設していけばよい。
(2)また、前記動物食害防止ネットは、適当間隔おきに補強用桟体を備えた、前記植生基体よりも長尺なネットである。
【0022】
前記動物食害防止ネットが前記植生基体よりも長尺であるとは、例えば図2,4に示すように両者が平面視矩形状である場合、長手方向(図2,4に両矢印Aで示す動物食害防止ネットおよび植生基体のそれぞれ縦方向)および短手方向(図2,4に両矢印Bで示す動物食害防止ネットおよび植生基体のそれぞれ横(幅)方向;このB方向は、A方向に対して直角な方向である)の長さが、前記植生基体に比べて前記動物食害防止ネットの方が大であるということであり、これにより植生基体から一部浮いた状態で、動物食害防止ネットで植生基体を覆うことができる。
【0023】
さらに、この発明では、工場生産の段階で、補強用桟体の長手方向をB方向に沿わせながら動物食害防止ネットに取り付けるのであるが、例えば図2に示すように、A方向において隣接する例えば補強用桟体11(11b)および11(11c)間の取り付け距離Dによって植生基体2から動物食害防止ネット10が一部浮き上がる高さH〔図1(A)参照〕を調整することができる。なお、図1では、高さHを動物食害防止ネット部分10bの例えば頂点mと植生基体下面n間の高さとしている。
【0024】
そして、例えば肥料袋7が略所定間隔dおきに法肩側から法尻側に向かってA方向に沿って連続並置されている上述したような肥料袋付植生マット2を植生基体としている例えば図1,2では、法肩側から法尻側に向かってこの順で連続並置されている例えば4個の肥料袋7(7a),7(7b),7(7c),7(7d)のうち法肩側の肥料袋7(7a)および法尻側の肥料袋7(7d)間の距離D(≒3×d)を、A方向において法肩側から法尻側に向かってこの順で隣接する補強用桟体11(11a),11(11b)、11(11c)間の取り付け距離としている(図4の場合も同様にしている)。この際、補強用桟体、動物食害防止ネット及び植生基体は固定用部材により植生対象面に固定されるが、固定用部材12が肥料袋7を貫通した状態で、固定用部材12を肥料袋7一つ置きに打設される。
【0025】
そして、この発明において、適当間隔おきにとは、前記取り付け距離Dおきにということである。
【0026】
なお、前記補強用桟体の長手方向の長さは動物食害防止ネット2の横幅X(B方向に沿う長さ)と同じ程度が好ましい。
【0027】
また、この発明では、補強用桟体である線状体、棒状体の太さ、帯状体の幅(例えば短冊形状の帯状体を動物食害防止ネットに取り付けた場合のA方向に沿う長さ)は適宜設定できるものである。
【0028】
この発明において、補強用桟体、動物食害防止ネット及び植生基体を植生対象面に固定するための固定用部材としては、上述したように例えばアンカーピン12を挙げることができる。
【0029】
そして、この発明における動物食害防止ネットは、ロール巻き可能であるとともに、植生基体から浮かせることにより、その上を鹿等の食害動物が歩行しても変形しにくくするため可撓性(柔軟性)と強度を兼ね備えたものである。そして、その目合い(網目)、その線材、線径等は、生育させる植物の種類に応じて、また、以下の点を考慮して適宜選択されうる。
【0030】
例えば草本類よりも草丈の大きい樹木等の木本類も生育させる場合は草本類のみを生育させる場合に比べて広めの目合いを有する金網や合成樹脂製網が用いられる。用いる金網として、例えば目合いの広い例えば亀甲金網(六角形状に針金をねり合わせたもの)、目合いの広い例えぱ菱形金網(らせん状に繰り出した山形の波状線をひし形に組み合わせたもの)を挙げることができる。
【0031】
また、この発明において、植物として、草本類のみを用いる場合は、木本類の生育を阻害する程度の目の細かい動物食害防止ネットを使用すればよい。
【0032】
例えば図2には、一辺eを有する菱形の目合いEになるよう編込まれており、各目合いEの交点部gが溶着されていない構成の菱形金網が示されている。
【0033】
一方、図4は、前記菱形金網に比べて幾分柔らかい(より柔軟性を持つ)金網を動物食害防止ネットとして用いる場合を示している。図4には、目合いE’を持つ亀甲金網が示されている。これは、菱形の前記目合いEと略同じ面積を持つよう編込まれており、各目合いE’の交点部g’が溶着されていない構成を有する。この亀甲金網は、図2に示した菱形金網に比べて幾分柔らかいので、図3のように植生基体から一部浮かせるためには支えがないと保形性を保ことができない。そのため、支えとしてのフック付補強材(後述する)が導入される。このフック付補強材は、動物食害防止ネットとして前記菱形金網を用いる場合にも適用できることは勿論である。
【0034】
また、この発明では、植生対象面近辺の例えば森の林床などの土とともに採取した植生種子(シードバンク)による植物を導入することも可能である。この場合、植生種子(シードバンク)を植生種(草本類の種子だけ、草本類の種子と木本類の種子の混合物、木本類の種子だけ)と植生基材に混入することにより、早期の法面などの植生対象面の緑化を行いながら、この法面緑化により地域の景観にあった自然回復を達成できる利点がある。
【0035】
なお、この発明においては、前記動物食害防止ネットとして、忌避剤を混入させた合成樹脂製ネットを用いたり、忌避剤を塗布した合成樹脂製ネットまたは鉄線等よりなる金属製ネットを用いることもできる。この場合、忌避剤の効果が長時間維持することができる点で好適である。
【0036】
また、この発明においては、前記動物食害防止ネットの表面の色を白またはシルバー色にした場合、鹿等の食害動物は白黒で物を見ることから、植生対象面から浮かせた前記ネットを鹿等の食害動物から視覚的に認識しにくくでき、食害防止に寄与することができる。
【発明の効果】
【0037】
本願の請求項1、2に係る発明によれば、補強用桟体を備えた(鹿等の動物による食害を防止するための)動物食害防止ネットを植生基体から一部浮かせることにより、鹿等の食害動物を植生対象面に侵入しにくくすることができて植物の生育を確実に図ることができる。
【0038】
また、本願の請求項1、2に係る発明によれば、動物食害防止ネットを植生基体から一部浮かせるのにコイルばねのような極めて高価なスペーサを使うことなく安価な補強用桟体を使うので、コスト安にできる。
【0039】
そして、本願の請求項1に係る発明によれば、補強用桟体を備えた動物食害防止ネットが植生基体を覆い且つ植生基体から一部浮いた状態となるように、前記補強用桟体、動物食害防止ネット及び植生基体を固定用部材により植生対象面に固定してなるので、金網をアンカーピンにより法面に対して固定した後においても、金網を法面から離すように引っ張ってコイルばねを金網の網目から金網の下方に通すという手間のかかる作業を行う必要があった従来例に比べて、動物食害防止ネットを一部浮かせるための作業を軽減することができ、施工に手間がかかるおそれはなくなり、施工の効率化を図ることができる。
【0040】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、植生基体の上方に、補強用桟体を備えた動物食害防止ネットを重ねた状態で植生対象面に敷設するので、例えば植生基体の施工後にその上から動物食害防止ネットを張設するといったように植生基体および動物食害防止ネットの施工を順次施す必要はなくなる。すなわち、動物食害防止ネットを一部浮かせるための作業を軽減することができ、施工に手間がかかるおそれはなくなり、施工の効率化を図ることができる。
【0041】
また、コイルばねを金網の網目から金網の下方に通すという作業を行う従来例に比べ、本願の請求項2に係る発明の方が、施工の一層の効率化を図ることができる点で有利である。
【0042】
本願の請求項3に係る発明においては、動物食害防止ネットと植生基体とは重ね合わされて端部が連結されている。また、動物食害防止ネットは、適当間隔おきに補強用桟体を備えた、植生基体よりも長尺なネットに構成されている。
【0043】
そのため、本願の請求項3に係る発明の動物食害防止ネット付植生基体を、予め工場生産して製品とすること、および、これをロール巻きの状態で出荷することが可能である。すなわち、植生基体よりも長尺であって、且つ適当間隔おきに補強用桟体を備えている動物食害防止ネットと植生基体とは施工現場へ持ち込まれるまでに既に出荷の時点で重ね合わされており、動物食害防止ネットおよび植生基体それぞれの端部同士を連結することにより植生基体と動物食害防止ネットとを一体化することができるので、工場生産の時点において植生基体と動物食害防止ネットとを重ね合わせたまま2重状態で巻くこと(ロール巻き)が容易である。
【0044】
そして、使用にあたっては、このようにロール巻きされた状態で工場より施工現場に送られてきた動物食害防止ネット付植生基体をほどきながらこれを植生対象面に敷設する作業と、その後の補強用桟体、動物食害防止ネット及び植生基体を固定用部材により植生対象面に固定する作業を施すだけでよく、植生基体の施工後、その上から動物食害防止ネットを張設するといった手間のかかる施工を行う必要はなくなり、施工の効率化を図ることができる。すなわち、施工時には、動物食害防止ネットと植生基体とは重ね合わされて端部が連結されていることから、動物食害防止ネット付植生基体の前記連結端部を持った状態でロール状の植生基体および動物食害防止ネットを植生対象面の法肩から下(法尻側)へ放り投げるように展開させることが可能となる。そして、展開後は、上(法肩)から順に固定用部材を打設していけばよい。
【0045】
併せて、例えば植生基体と補強用桟体と動物食害防止ネットの三部材を別個に出荷する必要もなくなり、部材の紛失のおそれを軽減することができ、三部材の数合わせのための作業も不要にできて発送の効率化を図ることができる点においても本願の請求項3に係る発明は有効な発明を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(A)は、この発明の第1の実施形態における初期の施工状態を示す構成説明図である。(B)は、上記実施形態における植物生育状態を示す構成説明図である。
【図2】上記実施形態における補強用桟体を備えた動物食害防止ネットと植生マット(植生基体の一例)を重ねる前の状態を示す構成説明図である。
【図3】この発明の第2の実施形態における初期の施工状態を示す構成説明図である。
【図4】上記第2の実施形態における補強用桟体を備えた動物食害防止ネットと植生マット(植生基体の一例)を重ねる前の状態を示す構成説明図である。
【図5】この発明の第3の実施形態における補強用桟体を備えた動物食害防止ネットと植生マット(植生基体の一例)を重ねる前の状態を示す構成説明図である。
【図6】この発明の第4の実施形態における補強用桟体を備えた動物食害防止ネットと植生マット(植生基体の一例)を重ねる前の状態を示す構成説明図である。
【図7】この発明を適用可能な植生基体の別の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1,2は、補強用桟体を備えた動物食害防止ネットとして、菱形金網を用い、動物食害防止ネットで覆われる植生基体として、上述した肥料袋付植生マット2を用いたこの発明の第1の実施形態を示す。
【0048】
図1,2において、動物食害防止ネット付植生基体1は、平面視矩形状の動物食害防止ネット10と平面視矩形状の肥料袋付植生マット2とより主としてなる。
【0049】
そして、動物食害防止ネット10と肥料袋付植生マット2とは重ね合わされて動物食害防止ネット10および肥料袋付植生マット2のそれぞれA方向における一方端部同士(図示せず)が例えばホックリング等の連結手段を用いて連結されている。
【0050】
また、前記動物食害防止ネット10は、前記植生マット2よりも長尺であって、且つ適当間隔Dおきに補強用桟体11を備えている。
【0051】
前記植生マット2の縦の長さ(A方向の長さ)は3〜20mであり、前記動物食害防止ネット10の縦の長さ(A方向の長さ)は4.5〜30mであり、また、前記植生マット2の横の長さ(B方向の長さ)Wは1.0〜2.0mであり、前記動物食害防止ネット10の横の長さ(B方向の長さ)Xは1.0〜2.0mである。また、前記植生マット2にはA方向に沿って略等間隔d(≒D/3)で複数個の肥料袋7が付設されている。各肥料袋7の長手方向はB方向に沿っている。
【0052】
前記植生マット2は、植物(草本植物、木本植物等)Pの種子aを下部に保持する一枚の薄綿4をネット5の下面(法面N側)に保持するとともに、ネット5の複数箇所に適宜間隔dを有して収容部6を設け、これら収容部6に有機質材料や保水材及び肥料等の植生基材bが収容された例えば不織布などからなる肥料袋7が挿入収容されている。前記薄綿4は、例えばスフなどからなり、シート状をしているとともに、ネット5の下面に貼着されている。種子aは、例えば、水溶性糊を用いて薄綿4に接着される。ネット5は、可撓性ネットであり、例えばナイロン、ポリエステル、ポリエチレン等の耐腐食性の合成樹脂繊維やポリ乳酸系などの生分解性の合成樹脂繊維、ヤシや麻、藁などの植物繊維、紙などを用いて格子状または簾状に成型してある。
【0053】
そしてこの実施形態では、前記動物食害防止ネット10として、菱形金網を用いており、また、補強用桟体11として4mm程度の線径を有する棒状の鉄製番線を用いている。
【0054】
而して、動物食害防止ネット付植生基体1は、工場生産の段階で製品化される。すなわち、番線11の軸方向を前記動物食害防止ネット10の横方向(B方向)に沿わせながら、かつ前記動物食害防止ネット10の縦方向(A方向)における法肩側から法尻側に向かって隣接した状態で番線11(11a),11(11b),11(11c)を前記動物食害防止ネット10に取り付ける。この際、隣接する番線11(11a),11(11b),11(11c)間の取り付け距離D(≒3×d)を維持しながら、例えば、前記動物食害防止ネット10の目合い(網目)Eを縫うように番線11(11a),11(11b),11(11c)を前記動物食害防止ネット10に通すことにより取り付ける。
【0055】
さらに、番線11(11a),11(11b),11(11c)が適当間隔D(≒3×d)おきに取り付けられた前記動物食害防止ネット10および前記植生マット2それぞれの端部同士(図示せず)を例えばホックリング等の連結手段を用いて連結することにより番線11(11a),11(11b),11(11c)を備えた前記動物食害防止ネット10と前記植生マット2を一体化する。そして、一体化してある番線11,11(11b),11(11c)付の前記動物食害防止ネット10と前記植生マット2とを例えば前記連結端部の側から重ね合わせたまま2重状態で巻くことにより、ロール巻きした動物食害防止ネット付植生基体1をうるとこができ、これを工場より出荷することができる。
【0056】
また、施工にあたっては、法面(植生対象面の一例)Nの表面を整地にした後、ロール巻きしてある動物食害防止ネット付植生基体1をほどいて展開し、これを前記植生マット2を法面側に向けた状態で法面N上に敷設する。続いて、前記植生マット2から前記動物食害防止ネット10が一部浮いた状態となるように番線11(11a),11(11b),11(11c)、前記動物食害防止ネット10及び前記植生マット2をアンカーピン(固定用部材の一例)12により法面Nに固定する。この実施形態では、番線11(11a),11(11b),11(11c)を、肥料袋7一つ置きに順次肥料袋7上面に位置させている。
【0057】
すなわち、動物食害防止ネット10と肥料袋付植生マット2とは重ね合わされて端部同士が連結されていることから、動物食害防止ネット10および肥料袋付植生マット2の前記連結端部を持った状態でロール状の動物食害防止ネット付植生基体1を法面Nの法肩(法面上側)から下(法尻側)へ放り投げるように展開させて、上(法肩)から順にアンカーピン12を打設していく。
【0058】
具体的には、図1(A)に示すように、高さHを有する状態で浮き上がる上に凸の湾曲形状のネット部分10bを形成するため、図2において、A方向において隣接する番線11(11a),11(11b),11(11c)のうち法肩側の番線11(11a)を肥料袋7(7a)に沿う形で肥料袋7(7a)上面に位置させる一方、法尻側の番線11(11b)を肥料袋7(7a)から一つ置いて法尻側に位置する肥料袋7(7c)に沿う形で肥料袋7(7c)上面に位置させる。この位置決め動作と同時に、番線11(11a)、前記動物食害防止ネット10及び肥料袋7(7a)と、番線11(11b)、前記動物食害防止ネット10及び肥料袋7(7c)をそれぞれアンカーピン12により法面Nに固定する〔図1(A)参照〕。この場合、アンカーピン12は番線11(11a)、11(11b)の両端部分に打ち込まれる。そして、この動作を連続的に繰り返して法面Nを覆うように法面Nの左右上下方向に複数の連続したネット部分10bが形成される。
【0059】
そして、例えば図2において二点鎖線で示すネット部分10bのB方向両端側にも同様のネット部分が位置することになるが、二点鎖線で示すネット部分10bのそれぞれ両サイドの任意の位置R,Tにおいて二点鎖線で示すネット部分10bに隣接するネット部分同士を紐体や針金等の結束部材を用いて結束することにより、各ネット部分10bを補強することができる。
【0060】
上記のように前記植生マット2を法面N上に張設した状態とすることにより、種子aは薄綿4によって飛散・流亡することが防止されるとともに、保温効果を持った薄綿4により、種子aは発芽・成長に適した温度下・環境下に置かれることになる。また、ネット5および薄綿4により降雨や風食などによる法面Nの浸食(エロージョン)が確実に防止される。
【0061】
その後、時間が経過すると、前記植生マット2の種子aが発芽し、最終的に植物Pが繁殖する。この際、複数の前記ネット部分10bは法面Nから浮いた状態にあり、植物は各ネット部分10bによって保護されているので、鹿等の食害動物による食害を防止することができる。
【0062】
なお、この実施形態では、隣接する肥料袋7,7間の間隔dを目安にし、隣接する補強用桟体11,11間の取り付け距離D(≒3×d)を決定するとともに、番線11、前記動物食害防止ネット10及び肥料袋7をアンカーピン12により法面Nに固定する形態を示したが、植生基体として、肥料袋7を備えていない例えば図7に示すような植生シート2’にもこの発明を適用することができることは勿論である。要は、前記ネット部分10bの浮き上がる高さを、隣接する補強用桟体11,11間の取り付け距離(間隔)Dによって調整することができる構成の動物食害防止ネット付植生基体であれは、これらに限るものではない。
【0063】
図3,4は、上記実施形態で用いた菱形金網10に比べて幾分柔らかい(より柔軟性を持つ)金網を動物食害防止ネットとして用いるとともに、この動物食害防止ネット10を前記植生マット2から一部浮かせるための支えとして機能するフック付補強材を用いたこの発明の第2の実施形態を示す。なお、図3,4において、図1,2に示した符号と同一のものは同一または相当物である。
【0064】
図3,4において、前記動物食害防止ネット10として、前記菱形金網10に比べて幾分柔らかい(より柔軟性を持つ)亀甲金網を用いている。
【0065】
14は、上に凸の湾曲形状をなす合成樹脂製または金属製のフック付補強材である。この補強材14は、番線11,11に係合可能なフック15,15が両端に形成されており、また、可撓性を有しており、フック15の下面15aからの頂点Sまでの高さhはネット部分10bの浮き上がる高さHになるよう予め設定されている。
【0066】
而して、施工にあたっては、法面Nの表面を整地にした後、ロール巻きしてある動物食害防止ネット付植生基体1をほどいて展開し、これを前記植生マット2を法面側に向けた状態で法面N上に敷設する。続いて、前記植生マット2から前記ネット10が一部浮かんだ状態となるように番線11(11a),11(11b),11(11c)、前記動物食害防止ネット10及び前記植生マット2をアンカーピン(固定用部材の一例)12により法面Nに固定する。
【0067】
この際、高さHを有する状態で浮き上がらせたネット部分10bは前記ネット10として柔らかい素材のものを使用しているので、ネット部分10b単独では保形性を維持することができない。そこで、ネット部分10bを支えるためにフック付補強材14が使用される。例えば、肥料袋7(7a)の上面に前記補強材14の一方のフック15を位置させるとともに、肥料袋7(7c)の上面に前記補強材14の他方のフック15を位置させながら、一方のフック15に番線11(11a)の一方の端部を係合させ、また、他方のフック15に番線11(11c)の一方の端部を係合させた状態で番線11(11a)、前記動物食害防止ネット10、及び肥料袋7(7a)と、番線11(11c)、前記動物食害防止ネット10及び肥料袋7(7c)とをそれぞれアンカーピン12により法面Nに固定するとともに、番線11(11a)の他方の端部の側と番線11(11c)の他方の端部の側ならびに番線11(11a)の中間部と番線11(11c)の中間部についても別途補強材14を用いて同様のことを行うことにより、前記補強材14によって支持された柔らかいネット部分10bを得ることができる。
【0068】
図5は、前記動物食害防止ネット10に備わっている番線11の肥料袋7への取り付け位置をB方向に隣接して敷設されている前記植生マット2毎に肥料袋一本分ずらせてネット部分10bを形成するように構成したこの発明の第3の実施形態を示す。なお、図5において、図1〜4に示した符号と同一のものは同一または相当物である。
【0069】
図6は、複数の前記植生マット2,2とこれに対応する数の前記動物食害防止ネット10を用意する一方、複数の前記動物食害防止ネット10,10に跨がる、上記各実施形態で用いた番線11よりも長尺の番線11を用いたこの発明の第4の実施形態を示す。なお、図6において、図1〜5に示した符号と同一のものは同一または相当物である。
【0070】
この実施形態では、長尺の番線11が例えばB方向において隣接する二つの動物食害防止ネット10,10に跨がって取り付けられている。そして、適当間隔Dを介して、A方向において隣接する番線11,11同士が設けられている。
【符号の説明】
【0071】
1 動物食害防止ネット付植生基体
2 植生マット(植生基体の一例)
10 動物食害防止ネット
11 補強用桟体
12 固定用部材
N 植生対象面
D 適当間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用桟体を備えた動物食害防止ネットが植生基体を覆い且つ植生基体から一部浮いた状態となるように、前記補強用桟体、動物食害防止ネット及び植生基体を固定用部材により植生対象面に固定してなることを特徴とする動物食害防止ネット付緑化構造体。
【請求項2】
植生基体の上方に、補強用桟体を備えた動物食害防止ネットを重ねた状態で植生対象面に敷設するとともに、前記植生基体から前記動物食害防止ネットが一部浮いた状態となるように前記補強用桟体、動物食害防止ネット及び植生基体を固定用部材により植生対象面に固定することを特徴とする緑化方法。
【請求項3】
請求項2に記載された緑化方法に用いられる動物食害防止ネット付植生基体であって、動物食害防止ネットと植生基体とは重ね合わされて端部が連結されており、且つ前記動物食害防止ネットは、前記植生基体よりも長尺であって、且つ適当間隔おきに補強用桟体を備えていることを特徴とする動物食害防止ネット付植生基体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−213606(P2010−213606A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62683(P2009−62683)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】