説明

動画像雑音除去装置、その方法およびそのプログラム

【課題】信号対雑音比が低い動画像信号であっても、精度よく雑音を除去することが可能な動画像雑音除去装置を提供する。
【解決手段】動画像雑音除去装置1は、動画像信号を、時間方向にウェーブレット分解し、さらに、空間方向にウェーブレット分解する時間・空間ウェーブレット分解手段10と、時間方向および空間方向にウェーブレット分解された周波数成分に対して異なる閾値を設定し、ウェーブレット縮退を行う時間・空間ウェーブレット縮退手段30と、ウェーブレット縮退された周波数成分を、空間方向にウェーブレット再構成し、さらに、時間方向にウェーブレット再構成することで動画像信号を生成する時間・空間ウェーブレット再構成手段40と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動画像信号から雑音を除去する動画像雑音除去装置、その方法およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、静止画像から雑音(ノイズ)を除去する雑音除去法として、メディアンフィルタ(Median Filter)、TV(Total Variation)法、ウェーブレット縮退(Wavelet Shrinkage)法等の非線形処理を利用する手法が知られている。
例えば、ウェーブレット縮退法は、画像信号を離散ウェーブレット変換(DWT:Discrete Wavelet Transform)により分解(ウェーブレット分解)して求めたDWT展開係数について、閾値関数(Threshold Function)により雑音の信号レベルを“0”に向けて減衰させてから、ウェーブレット逆変換(IDWT:Inverse Discrete Wavelet Transform)を行う非線形な手法である(非特許文献1参照)。この手法を用いると、画像信号が特定のDWT展開係数に集中し、画像信号の展開係数の絶対値が雑音の展開係数の絶対値よりも大きい場合、ほぼ原画像信号の特徴を損なわずに雑音除去を行うことができる。
【0003】
一方、動画像における雑音除去法としては、動き補償とフィルタ処理とにより雑音を除去する手法が一般的である(特許文献1,2参照)。
例えば、特許文献1には、動画像において、現画像と1フレーム前の画像との差分により、現画像からノイズを減算する値を求め、ノイズを除去する技術が開示されている。また、特許文献1には、ノイズを減算する値を求める際に、現画像と1フレーム前の画像との前後画素から画像の形状判定を行い、フレーム間で形状について相関がある場合には、現画像に対するノイズ除去の割合を小さくするように制御する技術が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、動画像において、フレーム間の局所的な動きベクトルにより、前に入力されたフレームに対して動き補正を行う際に、フレーム間の低域通過フィルタの係数を制御し、動画像におけるボケを最小限に抑えて雑音を低減させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2008−113352号公報
【特許文献2】特開平7−288719号公報
【非特許文献1】D. L. Donoho, “De-noising by soft-thresholding,” IEEE Trans. Inform.Theory, vol.41, pp.613-627, May 1995.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の動画像における雑音除去法は、信号対雑音比が低い場合、動き検出精度が低下するため、自ずと雑音除去性能も低下してしまうという問題がある。
また、近年の動画像はスーパーハイビジョン(SHV)のように高精細化しており、このような高精細動画像は、撮像素子1画素あたりの受光面積が小さいため、撮影条件によって信号対雑音比が低下してしまう。よって、従来の雑音除去法では、動画像から精度よく雑音を除去することができないという問題がある。さらに、このような不要な雑音成分は、動画像の主観画質の劣化のみならず、符号化効率の低下をも招くことになる。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、信号対雑音比が低い動画像信号であっても、精度よく雑音を除去することが可能な動画像雑音除去装置、その方法およびそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するために創案されたものであり、まず、請求項1に記載の動画像雑音除去装置は、動画像信号に含まれる雑音を除去する動画像雑音除去装置であって、時間方向分解手段と、空間方向分解手段と、縮退手段と、空間方向再構成手段と、時間方向再構成手段と、を備える構成とした。
【0008】
かかる構成において、動画像雑音除去装置は、時間方向分解手段によって、動画像信号を、時間方向の高周波成分である時間高周波展開係数と時間方向の低周波成分である時間低周波展開係数とにウェーブレット分解する。この各展開係数は、動画像信号の複数のフレームごとに、1次元1階離散ウェーブレット変換を行うことで生成することができる。
【0009】
また、動画像雑音除去装置は、空間方向分解手段によって、時間高周波展開係数と時間低周波展開係数とをそれぞれ空間方向の周波数成分にウェーブレット分解する。この各展開係数は、時間高周波展開係数と時間低周波展開係数とに対して2次元1階離散ウェーブレット変換を行うことで生成することができる。
【0010】
これによって、動画像信号は、時間方向および空間方向の各周波数成分に分解されることになる。そして、動画像雑音除去装置は、周波数成分ごとの雑音特性に応じて個別に雑音を除去することが可能になる。
【0011】
すなわち、動画像雑音除去装置は、縮退手段によって、時間高周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数と、時間低周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数とにおいて、時間高周波・空間高周波展開係数よりも時間低周波・空間展開係数の方に大きい閾値を設定して、ウェーブレット縮退法により、当該閾値以下の周波数成分の信号レベルを減衰させる。これによって、動画像雑音除去装置は、信号対雑音比が大きい時間低周波成分の閾値を大きくして雑音を除去することができる。
【0012】
そして、動画像雑音除去装置は、空間方向再構成手段によって、縮退手段で信号レベルを減衰された時間高周波・空間高周波展開係数および時間低周波・空間展開係数と、空間方向分解手段で時間高周波展開係数をウェーブレット分解した空間方向の低周波成分である時間高周波・空間低周波展開係数とを、空間方向にウェーブレット再構成する。この空間方向のウェーブレット再構成は、各展開係数に対して2次元1階離散ウェーブレット逆変換を行うことで、時間高周波展開係数および時間低周波展開係数の周波数成分に再構成することができる。
【0013】
そして、動画像雑音除去装置は、時間方向再構成手段によって、空間方向再構成手段で再構成された周波数成分を、時間方向にウェーブレット再構成することで動画像信号を生成する。この時間方向のウェーブレット再構成は、各展開係数に対して1次元1階離散ウェーブレット逆変換を行うことで、周波数成分を動画像信号に再構成することができる。
【0014】
また、請求項2に記載の動画像雑音除去装置は、請求項1に記載の動画像雑音除去装置において、時間高周波・空間高周波孤立点除去手段を備える構成とした。
【0015】
かかる構成において、動画像雑音除去装置は、時間高周波・空間高周波孤立点除去手段によって、時間高周波・空間高周波展開係数を2値化処理する。このように、時間高周波・空間高周波展開係数を2値化処理することで、当該係数を2値化画像として扱うことができる。そして、動画像雑音除去装置は、時間高周波・空間高周波孤立点除去手段によって、2値化画像内で周辺画素の値と異なる独立した画素の値を周辺画素の値に置き換える等の処理を行うことで、孤立点を除去する。これによって、動画像雑音除去装置は、縮退手段がウェーブレット縮退を行う前に、時間高周波・空間高周波展開係数における雑音を除去する。
【0016】
さらに、請求項3に記載の動画像雑音除去装置は、請求項1または請求項2に記載の動画像雑音除去装置において、時間高周波・空間低周波孤立点除去手段を備える構成とした。
【0017】
かかる構成において、動画像雑音除去装置は、時間高周波・空間低周波孤立点除去手段によって、時間高周波・空間低周波展開係数を2値化処理する。このように、時間高周波・空間低周波展開係数を2値化処理することで、当該係数を2値化画像として扱うことができる。そして、動画像雑音除去装置は、時間高周波・空間低周波孤立点除去手段によって、2値化画像内で周辺画素の値と異なる独立した画素の値を周辺画素の値に置き換える等の処理を行うことで、孤立点を除去する。これによって、動画像雑音除去装置は、空間方向再構成手段がウェーブレット再構成を行う前に、時間高周波・空間低周波展開係数における雑音を除去する。
【0018】
また、請求項4に記載の動画像雑音除去装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の動画像雑音除去装置において、最大雑音特性記憶手段を備える構成とした。
【0019】
かかる構成において、動画像雑音除去装置は、最大雑音特性記憶手段に、動画像信号の元の動画像を撮影したカメラにより暗部撮影した暗部動画像信号を時間方向および空間方向にウェーブレット分解した各展開係数の最大値をカメラの雑音特性として予め記憶しておく。そして、動画像雑音除去装置は、縮退手段によって、最大雑音特性記憶手段に記憶されている各展開係数の最大値と、時間低周波・空間展開係数の絶対値との差分により算出した閾値を基準として、時間低周波・空間展開係数の信号レベルを減衰させる。これによって、動画像雑音除去装置は、時間低周波・空間展開係数における雑音を除去する。
【0020】
さらに、請求項5に記載の動画像雑音除去装置は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の動画像雑音除去装置において、中央雑音特性記憶手段を備える構成とした。
【0021】
かかる構成において、動画像雑音除去装置は、中央雑音特性記憶手段に、動画像信号の元の動画像を撮影したカメラにより暗部撮影した暗部動画像信号を時間方向および空間方向にウェーブレット分解した各展開係数の中央値をカメラの雑音特性として予め記憶しておく。そして、動画像雑音除去装置は、縮退手段によって、中央雑音特性記憶手段に記憶されている各展開係数の中央値と、時間高周波・空間高周波展開係数の絶対値との差分により算出した閾値を基準として、時間高周波・空間高周波展開係数の信号レベルを減衰させる。これによって、動画像雑音除去装置は、時間高周波・空間高周波展開係数における雑音を除去する。
【0022】
また、請求項6に記載の動画像雑音除去方法は、動画像信号に含まれる雑音を除去する動画像雑音除去方法であって、時間方向分解ステップと、空間方向分解ステップと、縮退ステップと、空間方向再構成ステップと、時間方向再構成ステップと、を含む手順とした。
【0023】
かかる手順において、動画像雑音除去方法は、時間方向分解ステップで、時間方向分解手段により、動画像信号を、時間方向の高周波成分である時間高周波展開係数と時間方向の低周波成分である時間低周波展開係数とにウェーブレット分解する。続けて、動画像雑音除去方法は、空間方向分解ステップで、空間方向分解手段により、時間高周波展開係数と時間低周波展開係数とをそれぞれ空間方向の周波数成分にウェーブレット分解する。
【0024】
そして、動画像雑音除去方法は、縮退ステップで、縮退手段により、時間高周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数と、時間低周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数とにおいて、時間高周波・空間高周波展開係数よりも時間低周波・空間展開係数の方に大きい閾値を設定して、ウェーブレット縮退法により、当該閾値以下の周波数成分の信号レベルを減衰させる。
【0025】
その後、動画像雑音除去方法は、空間方向再構成ステップで、空間方向再構成手段により、縮退手段で信号レベルを減衰された時間高周波・空間高周波展開係数および時間低周波・空間展開係数と、空間方向分解手段で前記時間高周波展開係数をウェーブレット分解した空間方向の低周波成分である時間高周波・空間低周波展開係数とを、空間方向にウェーブレット再構成する。続けて、動画像雑音除去方法は、時間方向再構成ステップで、時間方向再構成手段により、空間方向再構成手段で再構成された周波数成分を、時間方向にウェーブレット再構成することで動画像信号を生成する。
【0026】
さらに、請求項7に記載の動画像雑音除去プログラムは、動画像信号に含まれる雑音を除去するために、コンピュータを、時間方向分解手段、空間方向分解手段、縮退手段、空間方向再構成手段、時間方向再構成手段、として機能させる構成とした。
【0027】
かかる構成において、動画像雑音除去プログラムは、時間方向分解手段によって、動画像信号を、時間方向の高周波成分である時間高周波展開係数と時間方向の低周波成分である時間低周波展開係数とにウェーブレット分解する。また、動画像雑音除去プログラムは、空間方向分解手段によって、時間高周波展開係数と時間低周波展開係数とをそれぞれ空間方向の周波数成分にウェーブレット分解する。
【0028】
そして、動画像雑音除去プログラムは、縮退手段によって、時間高周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数と、時間低周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数とにおいて、時間高周波・空間高周波展開係数よりも時間低周波・空間展開係数の方に大きい閾値を設定して、ウェーブレット縮退法により、当該閾値以下の周波数成分の信号レベルを減衰させる。
【0029】
そして、動画像雑音除去プログラムは、空間方向再構成手段によって、縮退手段で信号レベルを減衰された時間高周波・空間高周波展開係数および時間低周波・空間展開係数と、空間方向分解手段で時間高周波展開係数をウェーブレット分解した空間方向の低周波成分である時間高周波・空間低周波展開係数とを、空間方向にウェーブレット再構成する。また、動画像雑音除去プログラムは、時間方向再構成手段によって、空間方向再構成手段で再構成された周波数成分を、時間方向にウェーブレット再構成することで動画像信号を生成する。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
請求項1,6,7に記載の発明によれば、動画像信号を時間方向および空間方向にウェーブレット分解した周波数成分ごとに、その特性に応じて雑音を除去することができるため、信号対雑音比が低い動画像であっても、精度よく雑音を除去することができる。また、請求項1,6,7に記載の発明によれば、動画像信号の時間高周波・空間高周波の周波数成分における雑音成分をより大きく除去するため、原信号を劣化させることなく、当該周波数成分の特性であるカメラの熱雑音や撮影時の微小なカメラブレ等を除去することができる。
【0031】
請求項2,3に記載の発明によれば、動画像信号の時間高周波・空間高周波の周波数成分や時間高周波・空間低周波の周波数成分から雑音成分を除去することができる。さらに、請求項2に記載の発明によれば、縮退手段におけるウェーブレット縮退を行う前に孤立点の雑音成分を除去するため、縮退手段において、効率的に雑音除去を行うことができる。
【0032】
請求項4,5に記載の発明によれば、時間低周波成分の信号対雑音比が、元の動画像信号の信号対雑音比よりも大きい方向に偏るという特性に応じて、時間高周波成分よりも時間低周波成分の方により大きい閾値を設定して、ウェーブレット縮退を行うため、精度よく雑音を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[動画像雑音除去方法の概要]
まず、本発明における動画像雑音除去方法(以下、本手法)の概要について説明する。本手法は、ウェーブレット縮退法を時間方向に拡張するものである。
【0034】
動画像信号を時間方向および空間方向に離散ウェーブレット分解した場合、時間低周波成分は、時間方向の信号相関が高いため、信号対雑音比が元の動画像信号よりも大きい方向に偏る。
【0035】
一方、時間高周波・空間高周波成分は、3次元スペクトルからほぼ雑音成分と考えられる。ここで、動画像信号を構成するフレームにおいて、xy座標系の時刻tにおける原画像をs(x,y,t)、雑音成分をn(x,y,t)としたとき、雑音を含んだ動画像信号F(x,y,t)は、以下の(1)式で表すことができる。
【0036】
【数1】

【0037】
この雑音成分n(x,y,t)は、動画像を撮影したカメラの熱雑音成分であるため、白色性およびガウス性を持つ。すなわち、雑音成分n(x,y,t)は、生起確率が正規分布に従い、かつ、全周波数帯でほぼ等しいエネルギー分布を持ち、時間方向および空間方向の相関が低いという特徴を有している。
【0038】
そこで、本手法は、動画像信号を時間方向および空間方向に離散ウェーブレット分解した時間低周波成分においては、ウェーブレット縮退法における閾値を大きくし、時間高周波・空間高周波成分においては、ウェーブレット縮退法における閾値を小さくすることで動画像信号の雑音を除去する。
以下、本手法を実現するための最良の実施形態について図面を参照して説明する。
【0039】
[動画像雑音除去装置の構成]
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る動画像雑音除去装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る動画像雑音除去装置の構成を示すブロック構成図である。
【0040】
この動画像雑音除去装置1は、動画像信号を時間方向および空間方向に離散ウェーブレット分解を適用し、時間方向および空間方向においてウェーブレット縮退を行うことで、動画像信号に含まれる雑音を除去するものである。ここでは、動画像雑音除去装置1は、時間・空間ウェーブレット分解手段10と、雑音特性記憶手段20と、時間・空間ウェーブレット縮退手段30と、時間・空間ウェーブレット再構成手段40と、を備えている。
【0041】
時間・空間ウェーブレット分解手段10は、外部から動画像信号を入力し、時間方向ならびに空間方向にウェーブレット分解するものである。この動画像信号は、例えば、スーパーハイビジョン(SHV)のような高精細動画像信号とすることができる。ここでは、時間・空間ウェーブレット分解手段10は、時間方向分解手段11と、空間方向分解手段12と、を備えている。
【0042】
時間方向分解手段11は、動画像信号を、時間方向にウェーブレット分解するものである。この時間方向分解手段11は、図示を省略したクロック回路から出力されるクロックに同期して、ウェーブレット係数長分のフレーム単位で動画像信号を入力し、フレームのすべての水平、垂直座標において、1次元1階離散ウェーブレット変換(DWT)を行うことで、時間方向の低周波成分である時間低周波展開係数(時間低周波成分)Lと、時間方向の高周波成分である時間高周波展開係数(時間高周波成分)Hと、にウェーブレット分解する。
【0043】
すなわち、時間方向分解手段11は、図2に示すように、時間方向のウェーブレット係数長分のフレーム画像F(t)、F(t+1)、F(t+2)、F(t+3)、…を、すべての(x,y)の画素値についてウェーブレット変換することで、時間低周波展開係数Lおよび時間高周波展開係数Hの各ウェーブレット展開係数に分解(ウェーブレット分解)する。
【0044】
なお、ウェーブレット係数およびその長さは、使用するウェーブレットによって異なる。例えば、Daubechiesの2次のウェーブレットを用いた場合、ウェーブレット係数として[−0.1294 0.2241 0.8365 0.4830]の4つの係数(ウェーブレット係数長=“4”)を用いることができる。このウェーブレット係数長が、時間方向のフレーム数となる。
この時間方向分解手段11は、ウェーブレット分解した時間低周波展開係数Lおよび時間高周波展開係数Hを空間方向分解手段12に出力する。
【0045】
空間方向分解手段12は、時間方向分解手段11で分解された時間低周波展開係数Lと時間高周波展開係数Hとをそれぞれ空間方向の周波数成分にウェーブレット分解するものである。ここでは、空間方向分解手段12は、時間低周波分解手段12aと、時間高周波分解手段12bと、を備えている。
【0046】
時間低周波分解手段12aは、時間方向分解手段11で分解された時間低周波展開係数Lを、空間方向にウェーブレット分解するものである。この時間低周波分解手段12aは、時間低周波展開係数Lに対して、2次元1階DWTを行うことで、時間低周波成分をさらに空間方向にウェーブレット分解したウェーブレット展開係数(LLL,LLH,LHL,LHH)を生成する。この生成されたウェーブレット展開係数(LLL,LLH,LHL,LHH)は、時間・空間ウェーブレット縮退手段30に出力される。
【0047】
時間高周波分解手段12bは、時間方向分解手段11で分解された時間高周波展開係数Hを、空間方向にウェーブレット分解するものである。この時間高周波分解手段12bは、時間高周波展開係数Hに対して、2次元1階DWTを行うことで、時間高周波成分をさらに空間方向にウェーブレット分解したウェーブレット展開係数(HLL,HLH,HHL,HHH)を生成する。この生成されたウェーブレット展開係数(HLL,HLH,HHL,HHH)は、時間・空間ウェーブレット縮退手段30に出力される。
【0048】
すなわち、空間方向分解手段12は、図3(a)に示すように、動画像信号を時間方向にウェーブレット分解した時間低周波展開係数Lを2次元画像としたとき、当該画像を水平および垂直方向の周波数成分に4分割したウェーブレット展開係数(LLL,LLH,LHL,LHH)を生成する。また、空間方向分解手段12は、図3(b)に示すように、動画像信号を時間方向にウェーブレット分解した時間高周波展開係数Hを2次元画像としたとき、当該画像を水平および垂直方向の周波数成分に4分割したウェーブレット展開係数(HLL,HLH,HHL,HHH)を生成する。
【0049】
なお、時間・空間ウェーブレット分解手段10が生成するウェーブレット展開係数は、図4に示すように、3次元スペクトルの領域図として表すことができる。図4は、動画像信号の時間−空間1階DWT領域図であって、空間方向における水平周波数μ(水平最高周波数μmax)、垂直周波数ν(垂直最高周波数νmax)、時間方向の時間周波数f(時間最高周波数fmax)を3軸としている。
【0050】
ここで、図5を参照して、時間方向および空間方向にウェーブレット分解されたウェーブレット展開係数の特性について説明する。図5は、図4の時間−空間1階DWT領域図に動画像信号内における動物体の移動速度のスペクトル平面を対応付けた図である。なお、図5(a)は、フレーム内の画素F(x,y)の動物体のフレーム間水平・垂直移動速度(x,y)∈mにおいて、x=1、y=1におけるスペクトル平面、図5(b)は、x=2、y=2におけるスペクトル平面を、それぞれ時間−空間1階DWT領域図に対応付けている。
【0051】
〔時間低周波成分(時間低周波展開係数L)の特性〕
まず、動画像信号の時間低周波成分である時間低周波展開係数Lの特性について説明する。
【0052】
時間低周波展開係数Lを空間方向にウェーブレット分解したウェーブレット展開係数LHH,LLH,LHLは、x≦1,y≦1の原画像s成分(前記(1)式参照)のうち、水平および垂直最高周波数μmax,νmaxに対し、μmax/2,νmax/2以上の時間低周波・空間高周波成分である。また、ウェーブレット展開係数LLLは、x>1,y>1の原画像s成分(前記(1)式参照)のうち、水平および垂直最高周波数μmax,νmaxに対し、μmax/2,νmax/2未満の時間低周波・空間低周波成分である。
【0053】
この時間低周波・空間高周波成分(LHH,LLH,LHL)、および、時間低周波・空間低周波成分(LLL)は、原画像s成分の時間方向に対する相関が、雑音成分n(前記(1)式参照)に比べて非常に高い特性を有している。
【0054】
つまり、動画像信号Fにおいて、時間低周波・空間高周波成分および時間低周波・空間低周波成分のウェーブレット展開係数の原画像s成分と雑音成分nとの絶対値差は、原画像s成分と雑音成分nとの絶対値差よりも大きい。すなわち、時間低周波成分の信号対雑音比は、元の動画像信号の信号対雑音比よりも大きい方向に偏るという特性を有している。
【0055】
これは、動画像信号から雑音を除去するには、時間高周波成分よりも時間低周波成分の方により大きい閾値を設定して、ウェーブレット縮退法を適用した方が、精度よく雑音を除去することができることを意味している。
【0056】
〔時間高周波成分(時間高周波展開係数H)の特性〕
次に、動画像信号の時間高周波成分である時間高周波展開係数Hの特性について説明する。
【0057】
時間高周波展開係数Hを空間方向にウェーブレット分解したウェーブレット展開係数HHH,HLH,HHLは、x≦2,y≦2の原画像s成分(前記(1)式参照)のうち、水平および垂直最高周波数μmax,νmaxに対し、μmax/2,νmax/2以上の時間高周波・空間高周波成分である。
この時間高周波・空間高周波成分(HHH,HLH,HHL)は、各方向エッジ成分の微小移動成分以外は、熱雑音や撮影時の微小なカメラぶれ等と考えられる。
【0058】
また、ウェーブレット展開係数HLLは、x>2,y>2の原画像s成分(前記(1)式参照)のうち、水平および垂直最高周波数μmax,νmaxに対し、μmax/2,νmax/2未満の時間高周波・空間低周波成分である。
【0059】
この時間高周波・空間低周波成分(HLL)は、前景と背景のテクスチャが大きく異なる移動領域と考えられ、原画像s成分の時間方向に対する相関が低い特性を有している。特に、原画像s成分の動領域の輝度が低く、動領域と背景の輝度差が大きい場合、動画像信号Fにおいて、時間高周波・空間低周波成分のウェーブレット展開係数の原画像s成分と雑音成分nとの絶対値差は小さい。つまり、時間高周波成分は、微小動き成分以外は、ほぼ雑音成分であることから、孤立点雑音除去法により、精度よく雑音を除去することができることを意味している。
【0060】
以上説明したような時間低周波成分と時間高周波成分の特性に基づいて、動画像雑音除去装置1は、動画像信号から雑音を除去する。図1に戻って、動画像雑音除去装置1が雑音を除去する構成について説明する。
【0061】
雑音特性記憶手段(最大雑音特性記憶手段、中央雑音特性記憶手段)20は、動画像信号の元の動画像を撮影したカメラにより暗部撮影した暗部動画像信号を時間方向および空間方向にウェーブレット分解した各展開係数の最大値および中央値をカメラの雑音特性として予め記憶するものであって、ハードディスク等の一般的な記憶装置である。
【0062】
この雑音特性記憶手段20には、図6に示すように、カメラCで撮影した動画像信号N(x,y,t)を時間方向および空間方向にウェーブレット分解(時間−空間DWT)したウェーブレット展開係数LLL,LLH,LHL,LHH,HLL,HLH,HHL,HHHのそれぞれについての最大値および中央値を記憶しておく。
【0063】
なお、この雑音特性記憶手段20に記憶するカメラの雑音特性を求める際に行う時間−空間DWTは、時間・空間ウェーブレット分解手段10で行ってもよく、この時間・空間ウェーブレット分解手段10で分解されたそれぞれのウェーブレット展開係数から、最大値および中央値を求める雑音特性生成手段(図示せず)を介して、雑音特性記憶手段20に最大値および中央値の書き込みを行ってもよい。
この雑音特性記憶手段20に記憶された雑音特性(最大値、中央値)は、時間・空間ウェーブレット縮退手段30によって参照される。
【0064】
時間・空間ウェーブレット縮退手段30は、時間・空間ウェーブレット分解手段10で分解された各ウェーブレット展開係数を、ウェーブレット縮退法により、雑音の信号レベルを“0”に向けて減衰させるものである。ここでは、時間・空間ウェーブレット縮退手段30は、時間高周波孤立点除去手段31と、縮退手段32と、を備えている。
【0065】
時間高周波孤立点除去手段31は、時間・空間ウェーブレット分解手段10の時間高周波分解手段12bで分解された時間方向の高周波成分であるウェーブレット展開係数(HLL,HLH,HHL,HHH)について、孤立点を除去するものである。ここでは、時間高周波孤立点除去手段31は、空間高周波孤立点除去手段31aと、空間低周波孤立点除去手段31bと、を備えている。
【0066】
空間高周波孤立点除去手段(時間高周波・空間高周波孤立点除去手段)31aは、空間方向分解手段12の時間高周波分解手段12bで分解されたウェーブレット展開係数のうちで、水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数HHH,HLH,HHLから孤立点を除去するものである。
【0067】
ここでは、空間高周波孤立点除去手段31aは、時間高周波・空間高周波展開係数HHH,HLH,HHLを2次元の画像(例えば、|HHH(x,y)|)とみなし、予め定めた閾値により2値化処理し、2値化画像B(x,y)上で孤立する点を除去することとする。
【0068】
例えば、空間高周波孤立点除去手段31aは、図7に示すように、時間高周波・空間高周波展開係数のうちのHHHから2値化画像B(x,y)を生成する。そして、空間高周波孤立点除去手段31aは、対象画素(x,y)の周辺画素を含む所定領域(例えば、3×3画素領域)の画素値合計B3×3(x,y)が、予め定めた閾値θH**以下であれば、当該対象画素を孤立点雑音とみなし、|HHH(x,y)|=0とする。この閾値θH**は、エッジ成分の消失を防止するため、例えば、θH**=3とする。
【0069】
なお、空間高周波孤立点除去手段31aは、他の時間高周波・空間高周波展開係数HLH,HHLについても、HHHと同様の処理により孤立点を除去する。
この孤立点が除去された時間高周波・空間高周波展開係数HHH,HLH,HHLは、縮退手段32に出力される。
【0070】
空間低周波孤立点除去手段(時間高周波・空間低周波孤立点除去手段)31bは、空間方向分解手段12の時間高周波分解手段12bで分解されたウェーブレット展開係数のうちで、時間高周波・空間低周波展開係数HLLから孤立点を除去するものである。
【0071】
この空間低周波孤立点除去手段31bは、空間高周波孤立点除去手段31aの手法と同様、図7で説明したように、時間高周波・空間低周波展開係数HLLを2値化処理し、2値化画像B(x,y)上で孤立する点を除去する。
【0072】
すなわち、空間低周波孤立点除去手段31bは、時間高周波・空間低周波展開係数HLLから2値化画像B(x,y)を生成する。そして、空間低周波孤立点除去手段31bは、対象画素(x,y)の周辺画素を含む所定領域(例えば、3×3画素領域)の画素値合計B3×3(x,y)が、予め定めた閾値θHLL以下であれば、当該対象画素を孤立点雑音とみなし、|HLL(x,y)|=0とする。この閾値θHLLは、HLLが空間低周波成分であることから、θH**よりも大きな値、例えばθHLL=4とする。
この孤立点が除去された時間高周波・空間低周波展開係数HLLは、時間・空間ウェーブレット再構成手段40に出力される。
【0073】
縮退手段32は、時間低周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数LLL,LLH,LHL,LHHと、時間高周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数HLH,HHL,HHHとにおいて、ウェーブレット縮退法により、時間高周波・空間高周波展開係数よりも時間低周波・空間展開係数の方に大きい閾値を設定して、当該閾値以下の周波数成分の信号レベルを減衰させるものである。ここでは、縮退手段32は、時間低周波縮退手段32aと、時間高周波縮退手段32bと、を備えている。
【0074】
時間低周波縮退手段32aは、空間方向分解手段12の時間低周波分解手段12aで分解されたウェーブレット展開係数(時間低周波・空間展開係数LLL,LLH,LHL,LHH)について、閾値関数を設定し、その閾値関数で演算した閾値以下の周波数成分を“0”に減衰させるものである。
【0075】
この時間低周波縮退手段32aは、雑音特性記憶手段20に記憶されている雑音特性のうち、対応する周波数成分のウェーブレット展開係数の最大値を用いて、ウェーブレット縮退を行う。すなわち、時間低周波縮退手段32aは、図8に示すように、暗部撮影した動画像信号をウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数LLL,LLH,LHL,LHHのそれぞれの最大値n(LLL),n(LLH),n(LHL),n(LHH)を用いて、ウェーブレット縮退を行う。
【0076】
具体的には、時間低周波縮退手段32aは、雑音特性記憶手段20に記憶されているウェーブレット展開係数の最大値をn(*)、離散ウェーブレット分解を行った際のウェーブレット係数長をwとしたとき、以下の(2)式に示す閾値関数を設定し、当該関数により算出される閾値Th(i,n(*))によるソフト閾値(Soft-Threshold)処理よって、周波数成分を“0”に減衰させるウェーブレット縮退を実行する。
【0077】
【数2】

【0078】
ただし、sgn(i)は、iの符号を返す関数とする。
【0079】
このように、時間低周波縮退手段32aは、前記した時間低周波成分の特性、すなわち、動画像信号Fにおいて、時間低周波・空間高周波成分および時間低周波・空間低周波成分のウェーブレット展開係数の原画像s成分と雑音成分nとの絶対値差は、原画像s成分と雑音成分nとの絶対値差よりも大きいという特性から、雑音成分の最大値を閾値とすることで、雑音成分を精度よく除去することができる。
【0080】
時間高周波縮退手段32bは、空間方向分解手段12でウェーブレット分解され、さらに、時間高周波孤立点除去手段31で孤立点が除去された水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含むウェーブレット展開係数(時間高周波・空間高周波展開係数HLH,HHL,HHH)について、閾値関数を設定し、その閾値関数で演算した閾値以下の周波数成分を“0”に減衰させるものである。
【0081】
この時間高周波縮退手段32bは、時間低周波縮退手段32aと同様、前記(2)式に示す閾値関数を設定し、閾値Th(i,n(*))によって、周波数成分を“0”に減衰させるウェーブレット縮退を行う。ただし、時間高周波縮退手段32bは、n(*)として、カメラで暗部撮影した動画像N(x,y,t)を時間方向および空間方向に離散ウェーブレット変換したウェーブレット展開係数の最大値を用いるのではなく、雑音特性記憶手段20に記憶されているウェーブレット展開係数の中央値を用いることとする。すなわち、時間高周波縮退手段32bは、図9に示すように、暗部撮影した動画像信号をウェーブレット分解した時間高周波・空間高周波展開係数HLH,HHL,HHHのそれぞれの中央値n(HLH),n(HHL),n(HHH)を用いて、ウェーブレット縮退を行う。
【0082】
このように、時間高周波縮退手段32bは、前記した時間高周波成分の特性、すなわち、動画像信号Fにおいて、時間高周波・空間低周波成分のウェーブレット展開係数の原画像s成分と雑音成分nとの絶対値差は小さいという特性から、時間低周波成分に対して設定した閾値(最大値)よりも小さい閾値(中央値)を設定して雑音を除去するため、元信号成分の劣化を抑えつつ雑音を除去することができる。
【0083】
なお、この縮退手段32において、時間高周波・空間低周波展開係数HLLについては、ウェーブレット縮退を行っていない。これは、時間高周波・空間低周波成分に縮退処理を行うと、動領域と背景との境界近傍に画像の乱れ(アーティファクト)が発生しやすくなるからである。
【0084】
この縮退手段32でウェーブレット縮退されたウェーブレット展開係数LLL,LLH,LHL,LHH,HLH,HHL,HHHは、時間・空間ウェーブレット再構成手段40に出力される。
【0085】
時間・空間ウェーブレット再構成手段40は、時間・空間ウェーブレット縮退手段30で雑音の信号レベルを減衰させたウェーブレット展開係数を、空間方向および時間方向にそれぞれウェーブレット再構成することで動画像信号を生成するものである。ここでは、時間・空間ウェーブレット再構成手段40は、空間方向再構成手段41と、時間方向再構成手段42と、を備えている。
【0086】
空間方向再構成手段41は、ウェーブレット展開係数LLL,LLH,LHL,LHH,HLL,HLH,HHL,HHHを、空間方向にウェーブレット再構成するものである。
【0087】
ここでは、空間方向再構成手段41は、時間高周波孤立点除去手段31で孤立点が除去された時間高周波・空間低周波展開係数HLLと、縮退手段32でウェーブレット縮退された時間高周波・空間高周波展開係数HLH,HHL,HHH、および、時間低周波・空間展開係数LLL,LLH,LHL,LHHとに対して、2次元1階離散ウェーブレット逆変換(IDWT)を行う。これによって、ウェーブレット展開係数LLL,LLH,LHL,LHH,HLL,HLH,HHL,HHHは、時間高周波展開係数Hと、時間低周波展開係数Lとに再構成されることになる。
【0088】
時間方向再構成手段42は、空間方向再構成手段41で再構成された周波数成分(ウェーブレット展開係数)を、時間方向にウェーブレット再構成するものである。ここでは、時間方向再構成手段42は、空間方向再構成手段41で再構成された時間高周波展開係数Hと、時間低周波展開係数Lとに対して、1次元1階IDWTを行うことで、動画像信号を生成する。
【0089】
以上説明したように動画像雑音除去装置1を構成することで、動画像雑音除去装置1は、動画像信号の時間低周波成分の信号対雑音比が、元の動画像信号の信号対雑音比よりも大きい方向に偏るという特性を利用してウェーブレット縮退により雑音を除去することができる。さらに、動画像雑音除去装置1は、動画像信号の時間高周波成分が、微小動き成分以外はほぼ雑音成分であるというと特性を利用して、孤立点雑音を適用することで、雑音を除去することができる。
【0090】
以上、本発明の最良の実施形態について説明したが、動画像雑音除去装置1は、時間高周波孤立点除去手段31を構成から省略した簡易な構成とすることも可能である。この場合、時間高周波分解手段12bは、分解した時間高周波・空間高周波展開係数HLH,HHL,HHHを、縮退手段32の時間高周波縮退手段32bに出力することとする。また、時間高周波分解手段12bは、分解した時間高周波・空間低周波展開係数HLLを、時間・空間ウェーブレット再構成手段40の空間方向再構成手段41に出力する。これによって、動画像雑音除去装置1は、ウェーブレット縮退を時間方向に適用して効果的に動画像信号の雑音を除去することができる。
【0091】
なお、動画像雑音除去装置1は、図示を省略したCPUやメモリを搭載した一般的なコンピュータで実現することができる。このとき、動画像雑音除去装置1は、コンピュータを、前記した各手段として機能させる動画像雑音除去プログラムにより動作させることができる。この動画像雑音除去プログラムは、ネットワークを介して配信することも可能であるし、CD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0092】
[動画像雑音除去装置の動作]
次に、図10を参照(構成については適宜図1参照)して、本発明の実施形態に係る動画像雑音除去装置の動作(動画像雑音除去方法)について説明する。図10は、本発明の実施形態に係る動画像雑音除去装置の動作を示す流れ図である。
【0093】
〔時間方向分解ステップ〕
まず、動画像雑音除去装置1は、時間・空間ウェーブレット分解手段10の時間方向分解手段11によって、クロック(CLK)に同期して動画像信号をフレーム単位で入力し、1次元1階離散ウェーブレット変換(DWT)を行う(ステップS1)。これによって、動画像信号は、時間方向にウェーブレット分解され、時間高周波展開係数Hと時間低周波展開係数Lとに分解される。
【0094】
〔空間方向分解ステップ〕
そして、動画像雑音除去装置1は、空間方向分解手段12によって、ステップS1で分解された時間高周波展開係数Hおよび時間低周波展開係数Lに対して、2次元1階ウェーブレット変換を行う。
【0095】
すなわち、動画像雑音除去装置1は、時間高周波分解手段12bによって、ステップS1で分解された時間高周波展開係数Hに対して、2次元1階DWTを行うことで、時間高周波成分をさらに空間方向にウェーブレット分解したウェーブレット展開係数(HLL,HLH,HHL,HHH)を生成する(ステップS2)。
【0096】
さらに、動画像雑音除去装置1は、時間低周波分解手段12aによって、ステップS1で分解された時間低周波展開係数Lに対して、2次元1階DWTを行うことで、時間低周波成分をさらに空間方向にウェーブレット分解したウェーブレット展開係数(LLL,LLH,LHL,LHH)を生成する(ステップS3)。
なお、このステップS2およびステップS3は、順番を逆にして動作させてもよいし、並行して動作させることとしてもよい。
【0097】
〔縮退ステップ〕
そして、動画像雑音除去装置1は、時間・空間ウェーブレット縮退手段30によって、ステップS2およびステップS3でウェーブレット分解されたウェーブレット展開係数に対して、ウェーブレット縮退法による縮退処理を行う。
【0098】
ここでは、まず、動画像雑音除去装置1は、時間高周波孤立点除去手段31の空間高周波孤立点除去手段31aによって、ステップS2で分解されたウェーブレット展開係数のうちで、水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数HHH,HLH,HHLから孤立点を除去する(ステップS4)。また、動画像雑音除去装置1は、時間高周波孤立点除去手段31の空間低周波孤立点除去手段31bによって、ステップS2で分解されたウェーブレット展開係数のうちで、時間高周波・空間低周波展開係数HLLから孤立点を除去する(ステップS5)。なお、このステップS4およびステップS5は、順番を逆にして動作させてもよいし、並行して動作させることとしてもよい。
【0099】
そして、動画像雑音除去装置1は、縮退手段32の時間高周波縮退手段32bによって、ステップS4で孤立点が除去された時間高周波・空間高周波展開係数HHH,HLH,HHLについて、閾値関数(前記(2)式参照)を設定し、その閾値関数で演算した閾値以下の周波数成分を“0”に減衰させるウェーブレット縮退を行う(ステップS6)。なお、このステップS6で行うウェーブレット縮退において、前記(2)式の閾値Th(i,n(*))におけるn(*)には、動画像を撮影したカメラで暗部撮影した動画像信号をウェーブレット分解した時間高周波・空間高周波展開係数HLH,HHL,HHHのそれぞれの中央値n(HLH),n(HHL),n(HHH)を用いることとする。
【0100】
また、動画像雑音除去装置1は、縮退手段32の時間低周波縮退手段32aによって、ステップS3で分解されたウェーブレット展開係数(時間低周波空間展開係数LLL,LLH,LHL,LHH)について、閾値関数(前記(2)式参照)を設定し、その閾値関数で演算した閾値以下の周波数成分を“0”に減衰させるウェーブレット縮退を行う(ステップS7)。なお、このステップS7で行うウェーブレット縮退において、前記(2)式の閾値Th(i,n(*))におけるn(*)には、動画像を撮影したカメラで暗部撮影した動画像信号をウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数LLL,LLH,LHL,LHHのそれぞれの最大値n(LLL),n(LLH),n(LHL),n(LHH)を用いることとする。
なお、このステップS6およびステップS7の順番を逆にして動作させてもよいし、並行して動作させることとしてもよい。
【0101】
〔空間方向再構成ステップ〕
そして、動画像雑音除去装置1は、時間・空間ウェーブレット再構成手段40の空間方向再構成手段41によって、ステップS5で孤立点が除去された時間高周波・空間低周波展開係数HLLと、ステップS6でウェーブレット縮退された時間高周波・空間高周波展開係数HLH,HHL,HHHと、ステップS7でウェーブレット縮退された時間低周波・空間展開係数LLL,LLH,LHL,LHHとに対して、2次元1階離散ウェーブレット逆変換(IDWT)を行う(ステップS8)。これによって、各ウェーブレット展開係数が、時間高周波展開係数Hと、時間低周波展開係数Lとに再構成される。
【0102】
〔時間方向再構成ステップ〕
そして、動画像雑音除去装置1は、時間・空間ウェーブレット再構成手段40の時間方向再構成手段42によって、ステップS8で再構成された時間高周波展開係数Hと、時間低周波展開係数Lとに対して、1次元1階離散ウェーブレット逆変換(IDWT)を行う(ステップS9)。これによって、雑音が除去された雑音除去画像が生成されることになる。
【0103】
そして、動画像雑音除去装置1は、動画像信号のフレームを入力するごとに、ステップS1〜S9の動作を順次行うことで、時系列に雑音除去画像が生成され、雑音が除去された動画像信号が生成されることになる。
【0104】
以上説明したように、動画像雑音除去装置1は、動画像信号に対して時間方向および空間方向にウェーブレット分解した後に、各ウェーブレット展開係数の特性に応じて雑音を除去するため、動画像信号から精度よく雑音を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の実施形態に係る動画像雑音除去装置の構成を示すブロック構成図である。
【図2】時間方向の離散ウェーブレット変換(DWT)を説明するための説明図である。
【図3】空間方向の離散ウェーブレット変換(DWT)を説明するための説明図である。
【図4】動画像信号の時間−空間1階離散ウェーブレット変換(DWT)領域図である。
【図5】時間−空間1階DWT領域図に動画像信号内における動物体の移動速度のスペクトル平面を対応付けた図である。
【図6】カメラの熱雑音特性を測定する手法を説明するための説明図である。
【図7】孤立点雑音を除去する手法を説明するための説明図である。
【図8】時間低周波成分のウェーブレット縮退と熱雑音特性との関係を説明するための説明図である。
【図9】時間高周波・空間高周波成分のウェーブレット縮退と熱雑音特性との関係を説明するための説明図である。
【図10】本発明の実施形態に係る動画像雑音除去装置の動作を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0106】
1 動画像雑音除去装置
10 時間・空間ウェーブレット分解手段
11 時間方向分解手段
12 空間方向分解手段
12a 時間低周波分解手段
12b 時間高周波分解手段
20 雑音特性記憶手段(最大雑音特性記憶手段、中央雑音特性記憶手段)
30 時間・空間ウェーブレット縮退手段
31 時間高周波孤立点除去手段
31a 空間高周波孤立点除去手段(時間高周波・空間高周波孤立点除去手段)
31b 空間低周波孤立点除去手段(時間高周波・空間低周波孤立点除去手段)
32 縮退手段
32a 時間低周波縮退手段
32b 時間高周波縮退手段
40 時間・空間ウェーブレット再構成手段
41 空間方向再構成手段
42 時間方向再構成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動画像信号に含まれる雑音を除去する動画像雑音除去装置であって、
前記動画像信号を、時間方向の高周波成分である時間高周波展開係数と時間方向の低周波成分である時間低周波展開係数とにウェーブレット分解する時間方向分解手段と、
前記時間高周波展開係数と前記時間低周波展開係数とをそれぞれ空間方向の周波数成分にウェーブレット分解する空間方向分解手段と、
前記時間高周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数と、前記時間低周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数とにおいて、前記時間高周波・空間高周波展開係数よりも前記時間低周波・空間展開係数の方に大きい閾値を設定して、ウェーブレット縮退法により、当該閾値以下の周波数成分の信号レベルを減衰させる縮退手段と、
この縮退手段で信号レベルを減衰された時間高周波・空間高周波展開係数および時間低周波・空間展開係数と、前記空間方向分解手段で前記時間高周波展開係数をウェーブレット分解した空間方向の低周波成分である時間高周波・空間低周波展開係数とを、空間方向にウェーブレット再構成する空間方向再構成手段と、
この空間方向再構成手段で再構成された周波数成分を、時間方向にウェーブレット再構成することで動画像信号を生成する時間方向再構成手段と、
を備えることを特徴とする動画像雑音除去装置。
【請求項2】
前記時間高周波・空間高周波展開係数を2値化処理し、孤立点を除去する時間高周波・空間高周波孤立点除去手段を備え、
前記縮退手段が、前記時間高周波・空間高周波孤立点除去手段により孤立点が除去された時間高周波・空間高周波展開係数について、周波数成分の信号レベルを減衰させることを特徴とする請求項1に記載の動画像雑音除去装置。
【請求項3】
前記時間高周波・空間低周波展開係数を2値化処理し、孤立点を除去する時間高周波・空間低周波孤立点除去手段を備え、
前記空間方向再構成手段が、前記時間高周波・空間低周波孤立点除去手段により孤立点を除去された時間高周波・空間低周波展開係数を用いて、ウェーブレット再構成を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動画像雑音除去装置。
【請求項4】
前記動画像信号の元の動画像を撮影したカメラにより暗部撮影した暗部動画像信号を時間方向および空間方向にウェーブレット分解した各展開係数の最大値を前記カメラの雑音特性として予め記憶する最大雑音特性記憶手段を備え、
前記縮退手段が、前記最大雑音特性記憶手段に記憶されている各展開係数の最大値と、前記時間低周波・空間展開係数の絶対値との差分により算出した閾値により、前記時間低周波・空間展開係数の信号レベルを減衰させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の動画像雑音除去装置。
【請求項5】
前記動画像信号の元の動画像を撮影したカメラにより暗部撮影した暗部動画像信号を時間方向および空間方向にウェーブレット分解した各展開係数の中央値を前記カメラの雑音特性として予め記憶する中央雑音特性記憶手段を備え、
前記縮退手段が、前記中央雑音特性記憶手段に記憶されている各展開係数の中央値と、前記時間高周波・空間高周波展開係数の絶対値との差分により算出した閾値により、前記時間高周波・空間高周波展開係数の信号レベルを減衰させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の動画像雑音除去装置。
【請求項6】
動画像信号に含まれる雑音を除去する動画像雑音除去方法であって、
時間方向にウェーブレット分解を行う時間方向分解手段により、前記動画像信号を、時間方向の高周波成分である時間高周波展開係数と時間方向の低周波成分である時間低周波展開係数とにウェーブレット分解する時間方向分解ステップと、
空間方向にウェーブレット分解を行う空間方向分解手段により、前記時間高周波展開係数と前記時間低周波展開係数とをそれぞれ空間方向の周波数成分にウェーブレット分解する空間方向分解ステップと、
前記時間高周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数と、前記時間低周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数とにおいて、ウェーブレット縮退法により雑音を減衰させる縮退手段により、前記時間高周波・空間高周波展開係数よりも前記時間低周波・空間展開係数の方に大きい閾値を設定して、当該閾値以下の周波数成分の信号レベルを減衰させる縮退ステップと、
空間方向にウェーブレット再構成を行う空間方向再構成手段により、前記縮退手段で信号レベルを減衰された時間高周波・空間高周波展開係数および時間低周波・空間展開係数と、前記空間方向分解手段で前記時間高周波展開係数をウェーブレット分解した空間方向の低周波成分である時間高周波・空間低周波展開係数とを、空間方向にウェーブレット再構成する空間方向再構成ステップと、
時間方向にウェーブレット再構成を行う時間方向再構成手段により、前記空間方向再構成手段で再構成された周波数成分を、時間方向にウェーブレット再構成することで動画像信号を生成する時間方向再構成ステップと、
を含むことを特徴とする動画像雑音除去方法。
【請求項7】
動画像信号に含まれる雑音を除去するために、コンピュータを、
前記動画像信号を、時間方向の高周波成分である時間高周波展開係数と時間方向の低周波成分である時間低周波展開係数とにウェーブレット分解する時間方向分解手段、
前記時間高周波展開係数と前記時間低周波展開係数とをそれぞれ空間方向の周波数成分にウェーブレット分解する空間方向分解手段、
前記時間高周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した水平または垂直方向の少なくとも一方に高周波成分を含む時間高周波・空間高周波展開係数と、前記時間低周波展開係数を空間方向にウェーブレット分解した時間低周波・空間展開係数とにおいて、前記時間高周波・空間高周波展開係数よりも前記時間低周波・空間展開係数の方に大きい閾値を設定して、ウェーブレット縮退法により、当該閾値以下の周波数成分の信号レベルを減衰させる縮退手段、
この縮退手段で信号レベルを減衰された時間高周波・空間高周波展開係数および時間低周波・空間展開係数と、前記空間方向分解手段で前記時間高周波展開係数をウェーブレット分解した空間方向の低周波成分である時間高周波・空間低周波展開係数とを、空間方向にウェーブレット再構成する空間方向再構成手段、
この空間方向再構成手段で再構成された周波数成分を、時間方向にウェーブレット再構成することで動画像信号を生成する時間方向再構成手段、
として機能させることを特徴とする動画像雑音除去プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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