説明

動脈瘤を非外科的にクリップする器具及び方法

本発明は、動脈瘤の非外科的なクリッピングのための器具に関する。本発明は、頭蓋内動脈瘤を含む動脈瘤を治療するために器具を使用する方法も含む。互いに捻った構造にプリセットされた、形状記憶合金からなるワイヤを、動脈瘤の頚部の反対側に配置して、動脈瘤をクリップし、ワイヤを互いに捻り合わせる。このようにして、動脈瘤の頚部が実質的に閉塞する。その結果、動脈瘤内の血栓は、動脈瘤の血流と血圧を排除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈瘤を非外科的にクリップする器具に関する。本発明は、さらに頭蓋内動脈瘤を含む動脈瘤を治療する方法も包含する。
【背景技術】
【0002】
動脈瘤は、血管が脆弱するに伴い、血管壁が異常に膨張する現象である。動脈瘤が発生し、治療の必要性が生じる可能性のある一般的な部位には、大脳動脈、冠状動脈、頚動脈、胸部大動脈、及び腹部大動脈が含まれる。動脈瘤内の血圧によって、血管が破裂することがあるため、動脈瘤は危険をもたらす。血管が破裂すると、著しく健康状態を悪化させることがあり、大脳動脈が破裂すると脳梗塞が起きる。
【0003】
ここ数十年の間、破裂性、非破裂性の頭蓋内動脈瘤の主たる外科的治療は、開頭手術を行い、外科的クリップ(『クリッピング(clipping)』)で動脈瘤の頚部(neck)を結紮することであった。かかる開頭手術には、弱点があった。外科手術は複雑で、経験豊富な外科医師と整った手術設備が必要となる。優れた医師と整った設備が揃っても、動脈瘤に罹患している多くの患者は、老齢で、心臓血管疾患や他の疾患で弱っている場合が多い。そのため、手術に適した患者数が少なくなっている。破裂前の手術に適した患者にとっても、従来の動脈瘤の手術の死亡率は、かなり高く通常2〜10%であった。従来の手術に伴う合併症(morbidity)には、心筋梗塞、腎不全、インポテンス、麻痺等が含まれる。また、手術が成功した場合にも、回復には数週間要し、長期間の入院が必要となる。動脈瘤の位置は、脳に埋没していることもあり、外からは到達できないこともあり、現在のところ他の外科的治療がない。このような場合には、動脈瘤には血管内からしか到達することができない。
【0004】
近年、多くの動脈瘤の症例が血管内から治療されている。かかる技術は、動脈瘤の嚢(sac)内に腫瘤(mass)を形成することを試みる。典型的には、マイクロカテーテルを用いて、動脈瘤にアクセスする。マイクロカテーテルの遠位端(distal tip)を動脈瘤の嚢内に配置し、マイクロカテーテルを使用して、動脈瘤の嚢内に塞栓物質(embolic material)を注入する。塞栓物質としては、例えば、デタッチャブルコイル(例:Guglielmi Detachable coils)又は、液体ポリマー等の塞栓剤が挙げられる。かかる塞栓物質には多くの欠点が伴い、その多くは塞栓物質が動脈瘤から親動脈に移動することに伴うものである。これにより、親動脈が永久にかつ不可逆的に閉塞する可能性がある。さらに、動脈瘤に充填しすぎると、動脈瘤内に望ましくない圧力が生じ、他の不利点を導く可能性がある。血管に広い範囲で接合している動脈瘤が特に注目すべきである(例えば、頚部の広い(wide neck)動脈瘤)。頚部の広い動脈瘤は、さらに、塞栓物質が動脈瘤から逸脱し、親動脈に進入する危険性がある。デタッチャブルコイルによる動脈瘤の治療は、多くの場合、長期間にわたり、複数のコイルを必要とするにも関わらず、治療結果は予測不可能で、動脈瘤からの血流を遮断することが成功しない可能性もある。
【0005】
したがって、開頭手術の効率と組み合わせて、血管内の処置が行えるような、危険を伴わない動脈瘤を治療するための器具及び方法が必要である。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、動脈瘤の治療を必要とする患者に、動脈瘤の非外科的クリッピングを行う器具に関する。本発明の装置には、ガイド針を包囲する、ガイドカテーテルが含まれる。ガイド針は、遠位端に針端(needle tip)を有する中空チューブである。各部剤の直径は、それぞれの部材が含まれる部材の中を容易にスライドできるサイズである。
【0007】
動脈瘤を治療するために本発明の装置を使用する方法も、本発明に含まれる。かかる方法において、(ガイドカテーテルとガイド針を用いて)形状記憶合金からなるワイヤを動脈瘤の頚部に留置して、例えば高熱処理によってセットされた、記憶された形状にワイヤを互いに捻じって、動脈瘤をクリップする。その結果、動脈瘤は、血管ルーメンから実質的に単離され、血流と血圧が実質的に低下する。血流と血圧が低下すると、動脈瘤が閉塞(thrombosis)し、したがって、動脈瘤が破裂する危険性を低くできる。
【0008】
本発明の方法により、どのような動脈瘤も治療することができる。一つの具体的な態様としては、動脈瘤は頭蓋内動脈瘤である。
【0009】
[発明の詳細]
図1は、動脈瘤の非外科的クリップに使用する装置を図示している。ガイドカテーテル1は、形状記憶合金3からなるワイヤを包囲するガイド針2を包囲する。
【0010】
ガイドカテーテル1は、患部(例えば、動脈瘤に近接した血管又は動脈のルーメン)に到達でき、ガイド針が通過しうるものであれば、当該技術で知られているカテーテルを含め実質的にどのようなものでもよい。
【0011】
ガイド針2は、遠位端に針端を有する中空チューブである。ガイド針は、血管壁を穿孔し、適切に形作られたガイド針が血管ルーメンから出て、再び入ることを可能にする。ガイド針は、ガイドカテーテルの中を通ることができ、血管ルーメンから出て再び入ることができるような適切な屈曲で形成され、形状記憶合金からなるワイヤを送達できるものであれば、どのような公知の物質で作製されていてもよい。かかる物質としては、金属又は強化ポリマー物質を例示することができるが、これに限定されない。
【0012】
形状記憶合金3からなるワイヤは、配置(deployment)される間真っ直ぐであり、事前に熱性機械的(thermo mechanically)に決定されたプリセットされた捻った形状に確実になる金属合金で形成され、この変換は温度ステップにより誘引される。温度ステップは、ワイヤの周りの環境の温度を、例えば熱い液体又は体温、又は抵抗性の熱を生じるワイヤに電流を通して、変更することによって影響されうる。
【0013】
形状記憶合金からなるワイヤを製造するには、どのような形状記憶合金を使用してもよい。具体的な態様では、使用される形状記憶合金は、NiTi(例えば、ニチノール)、CuZnAl、 CuAlNi又はそれらの混合物である(Otsuka and Wayman編、Cambridge University Press, October 1999, Shape Memory Materials ;及びYouji and Otsuka, International Academic Publishers, June 1998, Shape Memory Materials 参照)。
【0014】
図2は、図1に先端が示される装置を図示している。装置は、動脈瘤5に近接した血管のルーメン4内に配置されている。ガイドカテーテルは患部まで体腔を通って公知の方法で挿入することができる。患部は、MRI、血管造影図等、当該技術で公知の診断方法によって同定される。カテーテルの位置は、当該技術で公知の方法でモニターすることができる。一つの態様では、ルーメンを通るカテーテルの経路は、X線の血管造影法等のカテーテル器具の放射線不透過性を検出する器具によってモニターされる。1又は複数の放射線不透過性物質で、カテーテルを製造(全部又は一部)又はコーティング(全部又は一部)してカテーテルの放射線不透過性を増強することができる。
【0015】
器具を用いて動脈瘤を治療する方法は、ガイドカテーテル1から配置されるガイド針2を使用して開始される。ガイド針2は、血管壁を穿孔する(第1穿孔6)。ガイド針は次に第1穿孔6を通るが、動脈瘤5は血管ルーメン4の直近に位置した状態のままである。ガイド針は、動脈瘤の一方の側で動脈瘤を通り越すまで、外側の血管壁に沿って進む。ガイド針2は、血管壁を穿孔し(第2穿孔7)、動脈瘤5の直近で孔から再び血管ルーメン4に進入する。ガイド針の位置は、当該技術で公知の方法によってモニターすることができる。一つの態様では、ガイド針は血管造影法によってモニターされる。上記の手段によって、ガイド針の放射線不透過性を増強することができる。
【0016】
図3は、動脈瘤を治療するための、本発明の方法における次のステップを図示している。形状記憶合金3からなる第1ワイヤは、ガイド針2を通って、配置されることになる。
【0017】
図4は、動脈瘤を治療するための、本発明の方法における次のステップを図示している。ガイド針は、形状記憶合金3からなる第1ワイヤを動脈瘤5の一方の側付近に留置したまま、第1穿孔6及び第2穿孔7を通って、ガイドカテーテル1内に再び戻る。
【0018】
図5は、動脈瘤を治療するための、本発明の方法における次のステップを図示している。ガイド針2は、ガイドカテーテル1から2回目の配置がなされる。ガイド針2は、血管壁を穿孔する(第3穿孔8)。ガイド針2は第3穿孔8を通るが、動脈瘤5は血管ルーメン4の直近に位置させたままである。ガイド針は、次に動脈瘤5の他方の側(形状記憶合金からなる第1ワイヤと反対側の動脈瘤の側)を通り越すまで、外側の血管壁に沿って進む。ガイド針2は、血管壁を穿孔し(第4穿孔9)、動脈瘤5の直近で孔から再び血管ルーメン4に進入する。形状記憶合金10からなる第2ワイヤは、ガイド針2を通り、配置されることになる。穿孔1及び3は、異なる穿孔であってもよく、重なっていてもよい。穿孔2及び4は、異なる穿孔であってもよく、重なっていてもよい。
【0019】
図6は、動脈瘤を治療するための、本発明の方法における次のステップを図示している。ガイド針は、形状記憶合金10からなる第2ワイヤを、動脈瘤5の他方の側付近(例えば、第1ワイヤの反対の側)に留置したまま第3穿孔8及び第4穿孔9を通って、ガイドカテーテル1内に再び戻る。この時、第1ワイヤ3及び第2ワイヤ10は、動脈瘤5の頚部のいずれかの側にある。
【0020】
形状記憶合金からなる第1及び第2ワイヤは、熱したときに互いに捻りあった配置となるように事前に処理される。ワイヤの形状を事前にプリセットしているため、ワイヤに熱処理を行うことにより第1及び第2ワイヤが捻じられ、かかる配置となる。
【0021】
図7は、動脈瘤を治療するための、本発明における最後のステップを図示している。ガイドカテーテル及びガイド針は血管を介して戻り、捻った第1ワイヤ3及び第2ワイヤ10を留置して、患者から取り除かれる。第1ワイヤ3及び第2ワイヤ10は、中温を適用して互いに捻り合っている。したがって、動脈瘤の頚部は、捻ったワイヤによって、閉塞した状態となる。
【0022】
ワイヤの形状の復帰を促すために必要な熱の量は、例えば、使用する形状記憶合金の種類、ワイヤの厚み等によって異なる。一つの態様では、形状の復帰に必要な熱は、体温である。他の態様では、形状の復帰に必要な熱は、体温よりも高い。かかる態様においては、第1及び第2ワイヤの形状を復帰するために必要な中温を適用するために、いかなる手段を用いてもよい。具体的な態様では、ワイヤに中度の電流を通し、熱処理することもできる。他の具体的な態様では、ワイヤの領域を熱い液体で熱する。
【0023】
ワイヤ3及び10を捻ることによって、動脈瘤5の頚部は、捻ったワイヤ3及び10によって実質的にクリップされ、したがって、血管のルーメン4からの血流量が低下する。これは当該技術において公知の方法によって測定することができる。血流の低下は、動脈瘤の閉塞を誘引し、その後の血液の循環を停止する。
【0024】
本発明の範囲及び精神を超えることなく、上記主題に様々な変更を加えることができる。上記記載、及び添付の請求項で定義される主題は全て、本発明の記述及び図示と解釈することができる。本発明の修正及び変更は、上記の教示を参考に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ガイド針2を含む、ガイドカテーテルの概略図である。ガイド針は、形状記憶合金3からなるワイヤを包含している。ガイド針2は、遠位に鋭いチップを有する。
【図2】ルーメン4と動脈瘤5を有する血管の断面の概略図である。ガイドカテーテル1は、動脈瘤5に近接したルーメン4内に配置されている。ガイド針2は、動脈瘤5の直近の血管壁内の第1穿孔6を通って血管ルーメン4から離れる。動脈瘤5の一方の側に沿って進み、動脈瘤5より遠位の血管壁の第2穿孔7を通って血管ルーメン4に再び進入する。
【図3】ルーメン4と動脈瘤5を有する血管の断面図である。形状記憶合金3からなる第1ワイヤがガイド針2から配置されているのが示されている。ガイドカテーテル1は、動脈瘤5に近接したルーメン4に配置されたままである。
【図4】ルーメン4と動脈瘤5を有する血管の断面図である。ガイド針は、動脈瘤5の一方の側付近に配置された形状記憶合金3からなる第1ワイヤを留置したまま、第1穿孔6及び第2穿孔7を通って、ガイドカテーテル1に再び戻る。
【図5】ルーメン4と動脈瘤5を有する血管の断面図である。ガイド針2は、動脈瘤5の直近の血管壁の第3穿孔8を介して血管ルーメン4から離れ、動脈瘤5の他方の側に沿って進み、動脈瘤5の遠位の血管壁の第4穿孔9を通って、血管ルーメン4に再び進入する。形状記憶合金10からなる第2ワイヤは、ガイド針2から配置されているのが示されている。ガイドカテーテル1は、動脈瘤5に近接したルーメン4に配置されたままである。形状記憶合金3からなる第1ワイヤは、動脈瘤5の一方の側付近に配置されたままである。
【図6】ルーメン4と動脈瘤5を有する血管の断面図である。ガイド針は、動脈瘤5の他方の側付近に配置された形状記憶合金10からなる第2ワイヤを残したまま、第3穿孔8及び第4穿孔9を通って、ガイドカテーテル1に再び戻る。第1ワイヤ3と第2ワイヤ10は、動脈瘤5の頚部のいずれかの面にある。
【図7】ルーメン4と動脈瘤5を有する血管の断面図である。第1ワイヤ3と第2ワイヤ10は、互いに捻りあっている。動脈瘤5の頚部は実質的にクリップされている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、頚部によって血管と接続される血管内の動脈瘤を治療する方法であって、
a)形状記憶合金からなり、且つ動脈瘤の頚部と反対側の血管内から始まる2本のワイヤであって、捻った配置となるように事前処理されている2本のワイヤを配設するステップ、と
b)2本のワイヤを熱処理するステップ
熱処理により2本のワイヤが前記捻った配置となり、動脈瘤の頚部が実質的に閉鎖されるように圧迫することを特徴とする方法。
【請求項2】
動脈瘤が、頭蓋内動脈瘤であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
形状記憶合金が、ニチノールであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
血管壁とルーメンを有する血管内の動脈瘤を治療する方法であって、以下のステップを含む方法。
a)動脈瘤に近接するルーメン内にガイドカテーテルを配設し、ガイドカテーテルによりガイド針を配置するステップ、
b)ガイド針で動脈瘤の直近の動脈壁を穿孔するステップ、
c)ガイド針を、動脈瘤の一方の側付近に挿入するステップ、
d)ガイド針が、ルーメン内に再び進入するように、ガイド針で動脈瘤の遠位の血管壁を穿孔するステップ、
e)形状記憶合金からなる第1ワイヤを、ガイド針でガイドし、動脈瘤付近でガイド針をルーメン内に戻すステップ、
f)ガイド針で動脈瘤の直近の血管壁を穿孔するステップ、
g)動脈瘤の一方の側と反対側に位置する他方の側に沿って、ガイド針を挿入するステップ、
h)ガイド針がルーメン内に再び進入するように、ガイド針で動脈瘤の遠位の血管壁を穿孔するステップ、
i) 形状記憶合金からなる第2ワイヤを、ガイド針でガイドし、動脈瘤付近で、ガイド針をルーメン内に戻すステップ、
j)互いに捻り合った配置となるようにプリセットされた第1及び第2ワイヤを熱処理し、熱処理によって第1及び第2ワイヤが捻った配置へと実質的に復帰し、動脈瘤を血管から実質的に閉塞するステップ。
【請求項5】
動脈瘤が、頭蓋内動脈瘤であることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ステップb)及びf)において、ガイド針が同一の穿孔を通ってルーメンから出ることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項7】
ステップd)及びh)において、ガイド針が同一の穿孔を通ってルーメンに再び進入することを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項8】
形状記憶合金が、ニチノールであることを特徴とする請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−532575(P2008−532575A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553726(P2007−553726)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【国際出願番号】PCT/IB2006/000178
【国際公開番号】WO2006/082493
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(506002409)ズーリ ホルディングズ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】