動脈瘤クリップおよびその製造方法
【課題】 患部に挟着させる施術時に視野の妨げとならず、かつ挟着部の開き角を大きく取ることができ、挟着に十分なバネ力を得ることができる動脈瘤クリップを提供することを課題とする。
【解決手段】 弾性に富む金属線材を折曲して形成され、その基部にループ状に巻成されたバネ部12と、先端側にたすき掛け状に延びる一対の挟着部13,13と、前記バネ部と交差部Mとの間に外方へ突出して形成された押圧部14とを備え、前記バネ部12を構成する部分の金属線材を加圧加工して小径とし、この小径部15をループ状に巻成してバネ部12としたことにある。
【解決手段】 弾性に富む金属線材を折曲して形成され、その基部にループ状に巻成されたバネ部12と、先端側にたすき掛け状に延びる一対の挟着部13,13と、前記バネ部と交差部Mとの間に外方へ突出して形成された押圧部14とを備え、前記バネ部12を構成する部分の金属線材を加圧加工して小径とし、この小径部15をループ状に巻成してバネ部12としたことにある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈瘤の根元部に挟着して動脈瘤への血液の流入を阻止し、動脈瘤の破裂による致命的なダメージを受けることを未然に防ぐための動脈瘤クリップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈の一部、特に脳内奥部の動脈に動脈瘤が出来ると、これを切除することは技術的に不可能な場合がある。このような動脈瘤を放置すると、動脈瘤内への血液の流入により益々肥大化して遂には内圧により破裂し、脳内出血に及んで致命的な結果を招く。
【0003】
このようなことから、近時では、図10(A)のように動脈aの一部に動脈瘤bが出来た場合、その動脈瘤bの根元部cに図(B)に示すように埋め込み式の動脈瘤クリップ1を挟着して該部を圧搾し、動脈瘤bへの血液の流入を阻止するようにして動脈瘤bの肥大化を防ぎ、破裂に至ることを未然に防止する技術が開発され、広く採用されて人命を救ううえで大きな貢献を果たしている。
【0004】
上記クリップ1は、図7、図8に平面図および側面図を示すように、チタン等の弾性および耐蝕性に富む金属線材を折曲して形成されたもので、基部にループ状(リング状)に巻成されたバネ部2を有し、先端側の2本の挟着部3,3がたすき掛け状に交差して延び、前記バネ部2と挟着部3,3との間が外方へ膨出された形状の押圧部4,4とされていて、この押圧部4,4に矢印P,P方向の外圧を加えることにより挟着部3,3が開き、外圧を解くことにより挟着部3,3間に動脈瘤bの根元部cを挟在した状態でバネ部2の弾性により強力に挟着され、動脈瘤bへの血液の流入を止める構造とされている。なお符号5は、挟着部3,3を確実に閉じさせるとともに、挟着部3,3が同一面内で開閉動することが確実に行われるようにするための補助バネである。
【0005】
従来から提供されているクリップ1は、金属線材のバネ部2を構成する部分(ループ状に巻成される部分)が図8および図9(C)に示すように偏平状に加工され、この偏平部分2aを通常2巻きしてバネ性を発揮するように形成されている。
【0006】
上記のクリップ1を人体内の動脈瘤bの根元部cに挟着させるには、クリップ1を保持して患部へ挿入し、前述のようにクリップ1の挟着部3,3を開いて動脈瘤bの根元部cへ位置させ、該根元部cに挟着させるための専用の鉗子が用いられる。
【0007】
この鉗子6は、参考までにその基本構成を図11(A),(B)に使用状態図として示しているように、通常の手術用鉗子と同様に一対の鋏部材7,7を交差させてその交点が軸8により枢支された鋏構造のもので、鋏部材7,7の軸8よりも先端側の鋏み部7a,7aの相対向する内面に前記クリップ1のループ状のバネ部2を受容し得る半円形状の凹部9,9が形成され、この凹部9,9内にバネ部2が位置するとき該凹部9,9の外端の加圧部10,10がクリップ1の前記押圧部4,4の頂部に位置し、鋏み部材7,7の操作部7b,7bを握ることにより鋏み部7a,7aが閉じ、これにより押圧部4,4が加圧されてクリップ1の挟着部3,3が開くようになされている。
【0008】
上記のようにしてクリップ1の挟着部3,3を開いてその挟着部3,3間に動脈瘤bの根元部cを位置させ、次いで鋏部材7,7の操作部7b,7bの握持を解放することによりクリップ1の挟着部3,3がバネ部2の弾性により閉じて動脈瘤bの根元部cを強力に圧迫し、動脈瘤bへの血液の流入を止めるようにして使用される。
【0009】
しかして上記既存のクリップ1では、バネ部2を構成している部分の金属線材が偏平状をなしているのでバネ部2の高さ(幅)Hが必然的に大きい構造となり、このクリップ1を同一患部に複数個使用する場合、隣位のクリップとの間隔が大きく空いてしまい、局所に複数のクリップ1の挟着部3,3を的確に挟着させることができなくなって、適切な処置を施すことができないという問題をもたらす。
【0010】
またクリップ1を患部に挟着させるとき、バネ部2の高さH部分が対象箇所を覆ってしまい、処置作業時に顕微鏡カメラによる二次元画像の画面を見ながら挟着させるとき視野が妨げられて的確な処置が行えなくなるという問題がある。
【0011】
さらにバネ部2を挟圧して挟着部3,3を開かせるとき、バネ部2の金属線材が偏平形状をなしているので、断面形状が円形の場合に比べて弾性変形の仕方に方向性が生じたりして単純でなくなり巻き部の間で互いに干渉を起こし単純に開きにくくなり、これにより挟着部3,3を大きく開くことができず、挟着部3,3の開度に制約を受け、十分な開き角を得ることができなくなって、動脈瘤bの根元部cへの挟着作業を難しくするという問題があった。
【0012】
また、図7乃至図9に示すクリップ1のバネ部2が偏平状に形成されているのに対し、断面形状が円形の金属線材をそのまま巻成したよりも断面形状のより細い円形にしてバネ部を構成し、挟着させるとき視野が妨げられないようにすることも考えられる。
【0013】
しかしながら、バネ部を他の部よりも単純に断面形状のより細い円形の金属線材で構成する場合には、バネ部を単純に細くしただけであるために強靱なバネ特性が失われ、十分な開き角を得ようとするとバネ部が破断するという問題がある。
【特許文献1】特開昭58−121942号公報
【特許文献2】特開2003−199750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ループ状に巻成されるバネ部の高さ(幅)をクリップを構成する金属線材をそのまま巻成したよりもさらに小さい構造とし得ながら十分なる挟着力を発揮させるバネ力を得ることができ、これにより隣位のクリップとの干渉をなくすことができるとともに施術時における視野を妨げることをなくし、かつ挟着部の開度を十分に大きくすることを可能とする動脈瘤クリップおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する手段として本発明は、弾性に富む金属線材を折曲して形成され、その基部にループ状に巻成されたバネ部と、先端側にたすき掛け状に交差して延びる一対の挟着部と、前記バネ部と交差部との間に外方へ突出して形成された押圧部とを有し、該押圧部に外圧を加えることにより挟着部が開き、外圧を解くことにより挟着部が閉じて動脈瘤の根元部に挟着され動脈瘤への血流を阻止するための動脈瘤クリップであって、前記バネ部を構成する部分の金属線材を加圧加工により小径とし、この小径部分をループ状に巻成してバネ部としたことにある。
【0016】
上記小径に加工する手段としてスウェージング法を用いることが好ましい。
【0017】
また前記小径部分の直径は他部の外径の50〜80%の範囲とするのがよい。
【0018】
金属線材の材質としては、弾性および耐蝕性の見地からTi−6−4合金等のTi合金あるいはCoとCr等からなるCr合金のいずれかを用いることが望ましい。
【0019】
動脈瘤の近隣に他の血管が存在する場合に対応するものとして、前記挟着部の前記交差部に近い位置を各外側方へ半円状に湾曲させ、動脈瘤の近隣に存在する血管を包含し得る円環状部を形成することができる。
【0020】
さらに金属線材の交差部に跨って挟着部を既存のものと同様に同一面内で開閉させるための補助バネを設けることができる。
【0021】
上記クリップの製造方法として、金属線材が直状のうちに所要長さ範囲をスウェージング加工により小径化し、この小径部分をループ状に巻成してバネ部とする工程を経てクリップを形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、クリップとしてのバネ性を付与するループ状に巻成されたバネ部の部分の金属線材が他部分より小径とされているので、複数個のクリップを隣接して挟着するようにしても隣位のクリップのバネ部同士が干渉することがなく、間隔を密にして患部に挟着することができ、これにより施術効果を著しく高めることができる。ここで、バネ部の部分の金属線材の断面形状は、実質的の円形である。
【0023】
また、バネ部の巻成部分の高さが小さくなるので、該部が施術時の視野を妨げることがなく、所定の位置に的確に挟着させることができる。
【0024】
さらにバネ部を構成する金属線材が小径となっているので、挟着部を大きく開くことができ、挟着時の作業をやり易くすることができる。
【0025】
一方、前記バネ部の金属線材をスウェージング加工により小径化する手段を用いれば、均一な太さに容易に小径化することができ、所定のバネ特性を得やすいと同時に、加工硬化によりバネ部の弾性を高めることができ、より確実な挟着に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は本発明による動脈瘤クリップ11(以下単にクリップという)の一実施形態の平面図、図2は同側面図を示している。
【0027】
上記クリップ11の基本構成は、図7,図8に示した既存のクリップと同様に、弾性および耐蝕性に富む金属線材、好ましくはTi−6−5合金からなる金属線材を折曲して形成されるもので、基部にループ状(リング状)に2巻きされたバネ部12と、先端側にたすき掛け状に交差して延びる一対の挟着部13,13と、前記バネ部12と交差部Mとの間に外方へ突出して形成された押圧部14,14とを有している。
【0028】
本発明においては、前記バネ部12を構成する部分の金属線材が加圧加工により小径化されており、この小径部15がループ状に2巻きされてバネ部12とされている。
【0029】
この小径部15の外径dは他部の外径Dに対し50〜80%の値とするのが好ましく、図示の例では小径部15以外の外径Dが1.2mm、小径部15の外径dが0.8mmとされ、挟着部13,13の閉じ時における高さhは2.0mmとされている。小径部15の外径dが他部の外径Dの50%よりも小さい場合には、小径部15自体の径が小さくなりすぎて強度が弱くなり、小径部15を加圧加工しても加圧加工による弾性の増強されたとしても十分には弾性を高めることができず、所望の開き角を得ようとすると破断してしまう。また、小径部15の外径dが他部の外径Dの80%よりも大きい場合には、小径部15の加圧加工が不十分になり十分には弾性を高めることができず、弾性が足りず所望の開き角を得ることができない。
【0030】
したがって2巻きされたバネ部12の高さh1はループ間の隙間を含んでも1.7mmであり、施術の際の顕微鏡カメラによる観察時に視野を妨げることのない構造とされている。
【0031】
なお符号16は、既存のクリップの補助バネ5と同様の機能を有する補助バネである。
【0032】
図4、図5は、図10(C)に示すように動脈瘤bの近傍に他の血管a1(動脈)が存在する場合、この血管a1を避けて動脈瘤bの根元部cに挟着させることができるようにするため、前記挟着部13,13の前記交差部Mに近い位置をそれぞれ外側方へ半円形状に湾曲させて前記血管a1を包含し得る円環状部17が形成されるようになされたものである。
【0033】
他の構成は前記図1、図2の実施形態と同様であるので、これと対応する部分には図1、図2と同一の符号を付すに留め、重複説明は省略する。
【0034】
この実施形態においても、バネ部12を構成する金属線材が小径部15とされている点は前記実施形態と全く同じである。
【0035】
上記小径部15は、図6に示すように金属線材18が直線状である段階においてバネ部12を構成するに足る必要長さ範囲Lをスウェージング加工法により加圧加工して小径部15を形成し、その金属線材18の小径部15を巻成してバネ部12とする方法によりクリップ11を形成することが効率的である。
【0036】
この方法によることにより、小径部15を容易に形成することができるとともに、スウェージング加工による加工硬化によりバネ性の高いバネ部12を有するクリップ11とすることができる。
【0037】
なお、バネ部12のループ状に巻成する巻き数は2巻きに限らず、対象箇所に応じて1巻きあるいは3巻きとすることができる。また挟着部13,13の形状についても直線状に限らず、患部の位置や形状に応じるべく湾曲形状にするなど、任意に設計することができる。
【0038】
また、バネ部2を構成する部分の金属線材をスウェージング加工により小径化した例を示したが、スウェージング加工に代えて転造加工により小径化することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による動脈瘤クリップの一実施形態を示す平面図。
【図2】同、側面図。
【図3】(A)は図1のA−A、(B)は同B−B、(C)は同C−Cの各断面図。
【図4】本発明による動脈瘤クリップの変形例を示す平面図。
【図5】同、側面図。
【図6】本発明による動脈瘤クリップの製造方法の一過程を示す一部切欠正面図。
【図7】既存の動脈瘤クリップの平面図。
【図8】同、側面図。
【図9】(A)は図7のD−D、(B)は同E−E、(C)は同F−Fの各断面図。
【図10】(A)は血管に生じた動脈瘤を示し、(B)はその動脈瘤の根元部に動脈瘤クリップを挟着した状態を示し、(C)は動脈瘤の近傍に他の血管が存在する場合に用いる動脈瘤クリップの挟着状態を示す説明図。
【図11】動脈瘤クリップを挟着させるための鉗子を示し、(A)、(B)はその作用説明図。
【符号の説明】
【0040】
1、11 動脈瘤クリップ
2、12 バネ部
3、13 挟着部
4、14 押圧部
5、16 補助バネ
6 鉗子
15 小径部
17 円環状部
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈瘤の根元部に挟着して動脈瘤への血液の流入を阻止し、動脈瘤の破裂による致命的なダメージを受けることを未然に防ぐための動脈瘤クリップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈の一部、特に脳内奥部の動脈に動脈瘤が出来ると、これを切除することは技術的に不可能な場合がある。このような動脈瘤を放置すると、動脈瘤内への血液の流入により益々肥大化して遂には内圧により破裂し、脳内出血に及んで致命的な結果を招く。
【0003】
このようなことから、近時では、図10(A)のように動脈aの一部に動脈瘤bが出来た場合、その動脈瘤bの根元部cに図(B)に示すように埋め込み式の動脈瘤クリップ1を挟着して該部を圧搾し、動脈瘤bへの血液の流入を阻止するようにして動脈瘤bの肥大化を防ぎ、破裂に至ることを未然に防止する技術が開発され、広く採用されて人命を救ううえで大きな貢献を果たしている。
【0004】
上記クリップ1は、図7、図8に平面図および側面図を示すように、チタン等の弾性および耐蝕性に富む金属線材を折曲して形成されたもので、基部にループ状(リング状)に巻成されたバネ部2を有し、先端側の2本の挟着部3,3がたすき掛け状に交差して延び、前記バネ部2と挟着部3,3との間が外方へ膨出された形状の押圧部4,4とされていて、この押圧部4,4に矢印P,P方向の外圧を加えることにより挟着部3,3が開き、外圧を解くことにより挟着部3,3間に動脈瘤bの根元部cを挟在した状態でバネ部2の弾性により強力に挟着され、動脈瘤bへの血液の流入を止める構造とされている。なお符号5は、挟着部3,3を確実に閉じさせるとともに、挟着部3,3が同一面内で開閉動することが確実に行われるようにするための補助バネである。
【0005】
従来から提供されているクリップ1は、金属線材のバネ部2を構成する部分(ループ状に巻成される部分)が図8および図9(C)に示すように偏平状に加工され、この偏平部分2aを通常2巻きしてバネ性を発揮するように形成されている。
【0006】
上記のクリップ1を人体内の動脈瘤bの根元部cに挟着させるには、クリップ1を保持して患部へ挿入し、前述のようにクリップ1の挟着部3,3を開いて動脈瘤bの根元部cへ位置させ、該根元部cに挟着させるための専用の鉗子が用いられる。
【0007】
この鉗子6は、参考までにその基本構成を図11(A),(B)に使用状態図として示しているように、通常の手術用鉗子と同様に一対の鋏部材7,7を交差させてその交点が軸8により枢支された鋏構造のもので、鋏部材7,7の軸8よりも先端側の鋏み部7a,7aの相対向する内面に前記クリップ1のループ状のバネ部2を受容し得る半円形状の凹部9,9が形成され、この凹部9,9内にバネ部2が位置するとき該凹部9,9の外端の加圧部10,10がクリップ1の前記押圧部4,4の頂部に位置し、鋏み部材7,7の操作部7b,7bを握ることにより鋏み部7a,7aが閉じ、これにより押圧部4,4が加圧されてクリップ1の挟着部3,3が開くようになされている。
【0008】
上記のようにしてクリップ1の挟着部3,3を開いてその挟着部3,3間に動脈瘤bの根元部cを位置させ、次いで鋏部材7,7の操作部7b,7bの握持を解放することによりクリップ1の挟着部3,3がバネ部2の弾性により閉じて動脈瘤bの根元部cを強力に圧迫し、動脈瘤bへの血液の流入を止めるようにして使用される。
【0009】
しかして上記既存のクリップ1では、バネ部2を構成している部分の金属線材が偏平状をなしているのでバネ部2の高さ(幅)Hが必然的に大きい構造となり、このクリップ1を同一患部に複数個使用する場合、隣位のクリップとの間隔が大きく空いてしまい、局所に複数のクリップ1の挟着部3,3を的確に挟着させることができなくなって、適切な処置を施すことができないという問題をもたらす。
【0010】
またクリップ1を患部に挟着させるとき、バネ部2の高さH部分が対象箇所を覆ってしまい、処置作業時に顕微鏡カメラによる二次元画像の画面を見ながら挟着させるとき視野が妨げられて的確な処置が行えなくなるという問題がある。
【0011】
さらにバネ部2を挟圧して挟着部3,3を開かせるとき、バネ部2の金属線材が偏平形状をなしているので、断面形状が円形の場合に比べて弾性変形の仕方に方向性が生じたりして単純でなくなり巻き部の間で互いに干渉を起こし単純に開きにくくなり、これにより挟着部3,3を大きく開くことができず、挟着部3,3の開度に制約を受け、十分な開き角を得ることができなくなって、動脈瘤bの根元部cへの挟着作業を難しくするという問題があった。
【0012】
また、図7乃至図9に示すクリップ1のバネ部2が偏平状に形成されているのに対し、断面形状が円形の金属線材をそのまま巻成したよりも断面形状のより細い円形にしてバネ部を構成し、挟着させるとき視野が妨げられないようにすることも考えられる。
【0013】
しかしながら、バネ部を他の部よりも単純に断面形状のより細い円形の金属線材で構成する場合には、バネ部を単純に細くしただけであるために強靱なバネ特性が失われ、十分な開き角を得ようとするとバネ部が破断するという問題がある。
【特許文献1】特開昭58−121942号公報
【特許文献2】特開2003−199750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ループ状に巻成されるバネ部の高さ(幅)をクリップを構成する金属線材をそのまま巻成したよりもさらに小さい構造とし得ながら十分なる挟着力を発揮させるバネ力を得ることができ、これにより隣位のクリップとの干渉をなくすことができるとともに施術時における視野を妨げることをなくし、かつ挟着部の開度を十分に大きくすることを可能とする動脈瘤クリップおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する手段として本発明は、弾性に富む金属線材を折曲して形成され、その基部にループ状に巻成されたバネ部と、先端側にたすき掛け状に交差して延びる一対の挟着部と、前記バネ部と交差部との間に外方へ突出して形成された押圧部とを有し、該押圧部に外圧を加えることにより挟着部が開き、外圧を解くことにより挟着部が閉じて動脈瘤の根元部に挟着され動脈瘤への血流を阻止するための動脈瘤クリップであって、前記バネ部を構成する部分の金属線材を加圧加工により小径とし、この小径部分をループ状に巻成してバネ部としたことにある。
【0016】
上記小径に加工する手段としてスウェージング法を用いることが好ましい。
【0017】
また前記小径部分の直径は他部の外径の50〜80%の範囲とするのがよい。
【0018】
金属線材の材質としては、弾性および耐蝕性の見地からTi−6−4合金等のTi合金あるいはCoとCr等からなるCr合金のいずれかを用いることが望ましい。
【0019】
動脈瘤の近隣に他の血管が存在する場合に対応するものとして、前記挟着部の前記交差部に近い位置を各外側方へ半円状に湾曲させ、動脈瘤の近隣に存在する血管を包含し得る円環状部を形成することができる。
【0020】
さらに金属線材の交差部に跨って挟着部を既存のものと同様に同一面内で開閉させるための補助バネを設けることができる。
【0021】
上記クリップの製造方法として、金属線材が直状のうちに所要長さ範囲をスウェージング加工により小径化し、この小径部分をループ状に巻成してバネ部とする工程を経てクリップを形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、クリップとしてのバネ性を付与するループ状に巻成されたバネ部の部分の金属線材が他部分より小径とされているので、複数個のクリップを隣接して挟着するようにしても隣位のクリップのバネ部同士が干渉することがなく、間隔を密にして患部に挟着することができ、これにより施術効果を著しく高めることができる。ここで、バネ部の部分の金属線材の断面形状は、実質的の円形である。
【0023】
また、バネ部の巻成部分の高さが小さくなるので、該部が施術時の視野を妨げることがなく、所定の位置に的確に挟着させることができる。
【0024】
さらにバネ部を構成する金属線材が小径となっているので、挟着部を大きく開くことができ、挟着時の作業をやり易くすることができる。
【0025】
一方、前記バネ部の金属線材をスウェージング加工により小径化する手段を用いれば、均一な太さに容易に小径化することができ、所定のバネ特性を得やすいと同時に、加工硬化によりバネ部の弾性を高めることができ、より確実な挟着に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は本発明による動脈瘤クリップ11(以下単にクリップという)の一実施形態の平面図、図2は同側面図を示している。
【0027】
上記クリップ11の基本構成は、図7,図8に示した既存のクリップと同様に、弾性および耐蝕性に富む金属線材、好ましくはTi−6−5合金からなる金属線材を折曲して形成されるもので、基部にループ状(リング状)に2巻きされたバネ部12と、先端側にたすき掛け状に交差して延びる一対の挟着部13,13と、前記バネ部12と交差部Mとの間に外方へ突出して形成された押圧部14,14とを有している。
【0028】
本発明においては、前記バネ部12を構成する部分の金属線材が加圧加工により小径化されており、この小径部15がループ状に2巻きされてバネ部12とされている。
【0029】
この小径部15の外径dは他部の外径Dに対し50〜80%の値とするのが好ましく、図示の例では小径部15以外の外径Dが1.2mm、小径部15の外径dが0.8mmとされ、挟着部13,13の閉じ時における高さhは2.0mmとされている。小径部15の外径dが他部の外径Dの50%よりも小さい場合には、小径部15自体の径が小さくなりすぎて強度が弱くなり、小径部15を加圧加工しても加圧加工による弾性の増強されたとしても十分には弾性を高めることができず、所望の開き角を得ようとすると破断してしまう。また、小径部15の外径dが他部の外径Dの80%よりも大きい場合には、小径部15の加圧加工が不十分になり十分には弾性を高めることができず、弾性が足りず所望の開き角を得ることができない。
【0030】
したがって2巻きされたバネ部12の高さh1はループ間の隙間を含んでも1.7mmであり、施術の際の顕微鏡カメラによる観察時に視野を妨げることのない構造とされている。
【0031】
なお符号16は、既存のクリップの補助バネ5と同様の機能を有する補助バネである。
【0032】
図4、図5は、図10(C)に示すように動脈瘤bの近傍に他の血管a1(動脈)が存在する場合、この血管a1を避けて動脈瘤bの根元部cに挟着させることができるようにするため、前記挟着部13,13の前記交差部Mに近い位置をそれぞれ外側方へ半円形状に湾曲させて前記血管a1を包含し得る円環状部17が形成されるようになされたものである。
【0033】
他の構成は前記図1、図2の実施形態と同様であるので、これと対応する部分には図1、図2と同一の符号を付すに留め、重複説明は省略する。
【0034】
この実施形態においても、バネ部12を構成する金属線材が小径部15とされている点は前記実施形態と全く同じである。
【0035】
上記小径部15は、図6に示すように金属線材18が直線状である段階においてバネ部12を構成するに足る必要長さ範囲Lをスウェージング加工法により加圧加工して小径部15を形成し、その金属線材18の小径部15を巻成してバネ部12とする方法によりクリップ11を形成することが効率的である。
【0036】
この方法によることにより、小径部15を容易に形成することができるとともに、スウェージング加工による加工硬化によりバネ性の高いバネ部12を有するクリップ11とすることができる。
【0037】
なお、バネ部12のループ状に巻成する巻き数は2巻きに限らず、対象箇所に応じて1巻きあるいは3巻きとすることができる。また挟着部13,13の形状についても直線状に限らず、患部の位置や形状に応じるべく湾曲形状にするなど、任意に設計することができる。
【0038】
また、バネ部2を構成する部分の金属線材をスウェージング加工により小径化した例を示したが、スウェージング加工に代えて転造加工により小径化することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による動脈瘤クリップの一実施形態を示す平面図。
【図2】同、側面図。
【図3】(A)は図1のA−A、(B)は同B−B、(C)は同C−Cの各断面図。
【図4】本発明による動脈瘤クリップの変形例を示す平面図。
【図5】同、側面図。
【図6】本発明による動脈瘤クリップの製造方法の一過程を示す一部切欠正面図。
【図7】既存の動脈瘤クリップの平面図。
【図8】同、側面図。
【図9】(A)は図7のD−D、(B)は同E−E、(C)は同F−Fの各断面図。
【図10】(A)は血管に生じた動脈瘤を示し、(B)はその動脈瘤の根元部に動脈瘤クリップを挟着した状態を示し、(C)は動脈瘤の近傍に他の血管が存在する場合に用いる動脈瘤クリップの挟着状態を示す説明図。
【図11】動脈瘤クリップを挟着させるための鉗子を示し、(A)、(B)はその作用説明図。
【符号の説明】
【0040】
1、11 動脈瘤クリップ
2、12 バネ部
3、13 挟着部
4、14 押圧部
5、16 補助バネ
6 鉗子
15 小径部
17 円環状部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性に富む金属線材を折曲して形成され、その基部にループ状に巻成されたバネ部と、先端側にたすき掛け状に交差して延びる一対の挟着部と、前記バネ部と交差部との間に外方へ突出して形成された押圧部とを有し、該押圧部に外圧を加えることにより挟着部が開き、外圧を解くことにより挟着部が閉じて動脈瘤の根元部に挟着され動脈瘤への血流を阻止するための動脈瘤クリップであって、
前記バネ部を構成する部分の金属線材が加圧加工により小径とされ、この小径部分をループ状に巻成してバネ部とされている
ことを特徴とする動脈瘤クリップ。
【請求項2】
前記バネ部を構成する部分の金属線材がスウェージング加工により小径化されている請求項1記載の動脈瘤クリップ。
【請求項3】
前記バネ部を構成する小径部分の直径が他の部分の金属線材の直径の50〜80%の範囲とされている請求項1または2記載の動脈瘤クリップ。
【請求項4】
前記金属線材がTi合金またはCo合金のいずれかである請求項1〜3のいずれか1項記載の動脈瘤クリップ。
【請求項5】
前記挟着部の前記交差部に近い位置を各外側方へ半円状に湾曲させて動脈瘤の近隣に存在する血管を避けるための該動脈を包含し得る円環状部が形成されている請求項1〜4のいずれか1項記載の動脈瘤クリップ。
【請求項6】
前記金属線材の交差部に跨って挟着部を同一面内で開閉させるための補助バネが取り付けられている請求項1〜5のいずれか1項記載の動脈瘤クリップ。
【請求項7】
直線状をなす金属線材の中央部所要長さ範囲をスウェージング加工を施して小径化し、この小径部分をループ状に巻成してバネ部とし、この小径部より先端側の金属線材を交差してその交差部より先端側を挟着部とすることを特徴とする動脈瘤クリップの製造方法。
【請求項1】
弾性に富む金属線材を折曲して形成され、その基部にループ状に巻成されたバネ部と、先端側にたすき掛け状に交差して延びる一対の挟着部と、前記バネ部と交差部との間に外方へ突出して形成された押圧部とを有し、該押圧部に外圧を加えることにより挟着部が開き、外圧を解くことにより挟着部が閉じて動脈瘤の根元部に挟着され動脈瘤への血流を阻止するための動脈瘤クリップであって、
前記バネ部を構成する部分の金属線材が加圧加工により小径とされ、この小径部分をループ状に巻成してバネ部とされている
ことを特徴とする動脈瘤クリップ。
【請求項2】
前記バネ部を構成する部分の金属線材がスウェージング加工により小径化されている請求項1記載の動脈瘤クリップ。
【請求項3】
前記バネ部を構成する小径部分の直径が他の部分の金属線材の直径の50〜80%の範囲とされている請求項1または2記載の動脈瘤クリップ。
【請求項4】
前記金属線材がTi合金またはCo合金のいずれかである請求項1〜3のいずれか1項記載の動脈瘤クリップ。
【請求項5】
前記挟着部の前記交差部に近い位置を各外側方へ半円状に湾曲させて動脈瘤の近隣に存在する血管を避けるための該動脈を包含し得る円環状部が形成されている請求項1〜4のいずれか1項記載の動脈瘤クリップ。
【請求項6】
前記金属線材の交差部に跨って挟着部を同一面内で開閉させるための補助バネが取り付けられている請求項1〜5のいずれか1項記載の動脈瘤クリップ。
【請求項7】
直線状をなす金属線材の中央部所要長さ範囲をスウェージング加工を施して小径化し、この小径部分をループ状に巻成してバネ部とし、この小径部より先端側の金属線材を交差してその交差部より先端側を挟着部とすることを特徴とする動脈瘤クリップの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−305230(P2006−305230A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134338(P2005−134338)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【出願人】(000132002)株式会社ジャロック (3)
【出願人】(505164818)住重フォージング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【出願人】(000132002)株式会社ジャロック (3)
【出願人】(505164818)住重フォージング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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