説明

動脈硬化性疾患のリスク検査法及び該リスク検査用キット

【課題】確度が高く臨床上有用な動脈硬化性疾患のリスク検査(易罹患性の判定)を可能にする。
【解決手段】以下のステップ(i)〜(iv)を含む、動脈硬化性疾患のリスク検査法を提供が提供される:(i)被験者から採取された核酸検体及び血液検体を用意するステップ;(ii)前記核酸検体においてレジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型を解析し、該多型に関する遺伝子型を決定するステップ;(iii)前記血液検体中のレジスチン濃度を測定するステップ;及び(iv)前記ステップ(ii)で決定した遺伝子型と、前記ステップ(iii)で得られたレジスチン濃度から動脈硬化性疾患のリスクを判定するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動脈硬化性疾患のリスク検査法及び該リスク検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化性疾患には、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などが含まれる。これらの動脈硬化性疾患は主に生活習慣に起因して発症すると考えられている。これまで動脈硬化性疾患のリスクファクターとして高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙、ストレスなどが利用されてきたが、同じリスクファクターを保有していたとしても実際に動脈硬化性疾患に罹患するかどうかについては個人差によるところが大きいことから、動脈硬化性疾患への罹患を決定する因子として遺伝的背景が存在すると予想されている。
2001年に脂肪細胞より分泌されるタンパク質として同定され、またインスリン抵抗性を惹起する物質として報告されたレジスチンは(非特許文献1)、その後もっぱら肥満とインスリン抵抗性や糖尿病とを結ぶ物質として探求されたが、ヒトにおいてその生理的役割は明確ではなかった。ところが近年、レジスチンが血管内皮細胞を活性化し、動脈硬化促進に関わる接着因子を誘導することが明らかにされた(非特許文献2、3)。また、Osawaらは、レジスチン遺伝子のプロモーター領域(-420位)に存在する遺伝子多型がレジスチンのヒトでの血中レベルを規定していることを報告している(非特許文献4)。また、レジスチンの遺伝子多型と虚血性脳血管疾患が相関することも報告された(非特許文献5)。一方、本発明者らは先の研究の成果として、血清レジスチン濃度と糖尿病大血管症との間に相関が認められることを報告した(非特許文献6)。
【0003】
【非特許文献1】Steppan CM, 2001; Nature 209; 307-312
【非特許文献2】Verma S, 2003; Circulation, 736-740
【非特許文献3】Kawanami D, 2004; BBRC 314; 415-419
【非特許文献4】Osawa H, 2004; Am Hum Geet 75; 678-686
【非特許文献5】Kunnari A, 2005; Diabet Med 22; 583-589
【非特許文献6】Nakashima E, 2005: Diabetologia 48; supp A411
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、確度が高く臨床上有用な動脈硬化性疾患のリスク検査(易罹患性の判定)を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題の下で本発明者らは、遺伝的背景及び環境因子の影響の結果を反映するレジスチンの発現量に注目し、レジスチンの遺伝子多型に加えてレジスチンのタンパク発現量を指標とすれば動脈硬化性疾患の易罹患性を高い確度で判定できると考えた。この仮定を検証すべく本発明者らは、レジスチンの遺伝子多型及び血中レジスチンレベルと虚血性脳血管障害の有病率との関連を検討した。その結果、レジスチンの遺伝子多型と血中レジスチンレベルを指標に区分すれば(即ち遺伝子多型に基づいて設定された区分をレジスチンの血中レベルの相違に基づいて細分化すれば)、遺伝子多型のみで区分した場合と比較して、最高リスク区分と最低リスク区分間のリスク差及びリスク比が大きくなることが明らかとなった。また、二つの指標(遺伝子多型と血中レジスチンレベル)を用いて設定された各区分のリスクを比較したところ、驚くべきことに遺伝子多型に基づいて設定された3区分の境界を越えてリスクの順位が入れ換わること(例えば(1)遺伝子多型のみで評価した際の低リスク区分(CC区分)の中でレジスチンの血中レベルが高いことで規定される亜区分(CC&High区分)のリスクが、遺伝子多型のみで評価した際の中程度リスク区分(CG区分)の中でレジスチンの血中レベルが低いことで規定される亜区分(CG&Low区分)のリスクよりも高くなること、(2)遺伝子多型のみで評価した際の中程度リスク区分(CG区分)の中でレジスチンの血中レベルが高いことで規定される亜区分(CG&High区分)のリスクが、遺伝子多型のみで評価した際の高リスク区分(GG区分)の中でレジスチンの血中レベルが低いことで規定される亜区分(GG&Low区分)のリスクよりも高くなること)が明らかとなった。以上のように、二つの指標、即ちレジスチンの遺伝子多型とレジスチンの発現量を組み合わせて用いれば、区分間のリスク差がより明確で且つより正確なリスク順位を反映したリスク区分を設定することができ、確度の高いリスク判定を可能にすることが判明した。
本発明は主として以上の知見に基づくものであり、以下のリスク検査法などを提供する。
[1]以下のステップ(i)〜(iv)を含む、動脈硬化性疾患のリスク検査法:
(i)被験者から採取された核酸検体及び血液検体を用意するステップ;
(ii)前記核酸検体においてレジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型を解析し、該多型に関する遺伝子型を決定するステップ;
(iii)前記血液検体中のレジスチン濃度を測定するステップ;及び
(iv)前記ステップ(ii)で決定した遺伝子型と、前記ステップ(iii)で得られたレジスチン濃度から動脈硬化性疾患のリスクを判定するステップ。
[2]前記ステップ(iv)において、以下の二つの基準によってリスクを判定することを特徴とする、[1]に記載のリスク検査法:
(a)前記遺伝子型がCC型、CG型、GG型の順にリスクが高くなる;
(b)前記レジスチン濃度が高いとリスクが高くなる。
[3]前記ステップ(iv)において、以下の(A)〜(D)からなる群より選択される一以上の基準によってリスクを判定することを特徴とする、[1]に記載のリスク検査法:
(A)前記レジスチン濃度が低くても前記遺伝子型がGG型であればリスクが比較的高い;
(B)前記遺伝子型がCC型でも前記レジスチン濃度が高ければリスクが比較的高い;
(C)前記遺伝子型がGG型であり、且つ前記レジスチン濃度が高いときに最もリスクが高い;
(D)前記遺伝子型がCC型であり、且つ前記レジスチン濃度が低いときに最もリスクが低い。
[4]前記血液検体として血清が用いられる、[1]〜[3]のいずれかに記載のリスク検査法。
[5]前記動脈硬化性疾患が虚血性脳血管障害である、[1]〜[4]のいずれかに記載のリスク検査法。
[6]レジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型解析用核酸と、及び
血液検体中のレジスチン濃度を測定するための成分と、を含む動脈硬化性疾患のリスク検査用キット。
[7]レジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型解析用核酸の動脈硬化性疾患のリスク検査用試薬としての使用であって、使用時に並行して血液検体中のレジスチン濃度の測定が実施される前記使用。
[8]レジスチンに特異的結合性を有する物質の動脈硬化性疾患のリスク検査用試薬としての使用であって、使用時に並行してレジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型解析が実施される前記使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(動脈硬化性疾患のリスク検査法)
本発明の第1の局面は動脈硬化性疾患のリスク検査法に関する。本発明において動脈硬化性疾患のリスクとは、硬化性疾患の易罹患性(動脈硬化性疾患への罹りやすさ)をいう。
動脈硬化性疾患には心筋梗塞、狭心症、脳血管障害(脳梗塞や一過性脳虚血発作などの虚血性脳血管障害、脳出血などの出血性脳血管障害を含む)、閉塞性動脈硬化症等が含まれる。本発明の対象疾患は、好ましくは脳血管障害であり、さらに好ましくは脳血管障害の中でも虚血性脳血管障害である。
本発明のリスク検査法では以下のステップ、即ち(i)被験者から採取された核酸検体及び血液検体を用意するステップ;(ii)前記核酸検体においてレジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型を解析し、該多型に関する遺伝子型を決定するステップ;(iii)前記血液検体中のレジスチン濃度を測定するステップ;及び(iv)前記ステップ(i)で決定した遺伝子型と、前記ステップ(ii)で測定したレジスチン濃度から動脈硬化性疾患のリスクを判定するステップが実施される。以下、各ステップについて詳細に説明する。
【0007】
1.ステップ(i)(検体を用意するステップ)
ステップiでは被験者から採取された核酸検体及び血液検体を用意する。本発明では、動脈硬化性疾患のリスク(易罹患性)判定を必要とする者(被験者)に由来する核酸検体及び血液検体が使用される。核酸検体は、被験者の血液、皮膚細胞、粘膜細胞、毛髪等から公知の抽出方法、精製方法を用いて調製することができる。多型解析対象であるレジスチン遺伝子を含むものであれば任意の長さのゲノムDNAを核酸検体として用いることができる。尚、核酸検体において解析対象の遺伝子が完全な状態(即ち、遺伝子の全長が存在する状態)でなくても、少なくとも解析される多型部位が存在している限りにおいて断片的、部分的な状態であってもよい。
一方、血液検体としては全血、血漿、又は血清を用いることができる。血漿や血清の調製は常法に従えばよい。
【0008】
被験者は特に限定されない。即ち、動脈硬化性疾患のリスク判定が必要な者に対して広く本発明を適用することができる。ここでの「動脈硬化性疾患のリスク判定が必要な者」には動脈硬化性疾患の患者とそれ以外の者が含まれ、前者についての判定結果はより適切な治療方針の決定に役立ち、治療効果の向上、患者のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上を促す。一方、後者(動脈硬化性疾患の患者以外の者)についての判定結果は動脈硬化性疾患の予防や早期診断に役立つ。即ち、リスクが高いとの情報に基づいて生活習慣の改善等を図れば、動脈硬化性疾患への罹患可能性を低下させることができる。また、リスクが高いとの情報は動脈硬化性疾患の検診を受診させる契機となり、これによって動脈硬化性疾患の早期診断(早期発見)が可能となる。
【0009】
2.ステップ(ii)(多型解析ステップ)
このステップでは、ステップ(i)で用意した核酸検体においてレジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型(以下、「RETN(-420C→G)多型」ともいう。尚、当該表記は転写開始点を1としたときの塩基番号-420位置の多型が、矢印の前又は後の塩基である二つの遺伝子型からなることを意味する。)を解析し、当該多型に関する遺伝子型(本明細書において「対象遺伝子型」ともいう)を決定する。
本明細書におけるレジスチン遺伝子の塩基番号及び多型位置は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)が提供する公共のデータベースであるGenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.html)やMolecular Databases(例えばdbSNP:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)に登録されている公知の配列を基準として表される。
ヒトレジスチン遺伝子は、For genomic structure of the RETN gene [accession number NT_077812]及びRETN cDNA [accession number NM_020415]としてGenBankに登録されている。一方、RETN(-420C→G)多型は、レジスチン遺伝子のプロモーター領域に存在する(refSNP ID:rs1862513 (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/snp_ref.cgi?rs=rs1862513)。尚、配列番号1の配列(Fasta sequence,>gnl|dbSNP|rs1862513|allelePos=201|totalLen=701|taxid=9606|snpclass=1|alleles='C/G'|mol=Genomic|build=119)において201番目(S)が当該多型位置である。
【0010】
本発明において「多型を解析する」とは、解析対象の多型に関して核酸検体がどのような遺伝子の型を有するかを調べることを意味し、多型が存在する位置の塩基(塩基配列)の種類を調べて決定することと同義である。本発明において「遺伝子の型」とは、特定のアリルの存否で表される分類、又はアリルの組合せである遺伝子型で表される分類のことをいう。従って、本発明における「多型を解析するステップ」では、核酸試料中における特定の多型のアリルの存否、又は遺伝子型(アリルの組合せ)が調べられ、決定される。具体的には、RETN(-420C→G)多型部位がC(シトシン)のアリル(-420Cアリル)又はG(グアニン)のアリル(-420Gアリル)の存否、或いはRETN(-420C→G)多型に関して核酸検体がCC型(-420Cアリル同士のホモ接合)、CG型(-420Cアリルと-420Gアリルのヘテロ接合)、及びGG型(-420Gアリル同士のホモ接合)のいずれであるかが調べられ、決定される。
【0011】
RETN(-420C→G)多型を解析する方法は特に限定されるものではなく例えばアリル特異的プライマー(及びプローブ)を用い、PCR法による増幅、及び増幅産物の多型を蛍光又は発光によって解析する方法や、PCR(polymerase chain reaction)法を利用したPCR-RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵素断片長多型)法、PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造多型)法(Orita,M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86, 2766-2770(1989)等)、PCR-SSO(specific sequence oligonucleotide:特異的配列オリゴヌクレオチド)法、PCR-SSO法とドットハイブリダイゼーション法を組み合わせたASO(allele specific oligonucleotide:アリル特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法(Saiki, Nature, 324, 163-166(1986)等)、又はTaqMan-PCR法(Livak, KJ, Genet Anal,14,143(1999),Morris, T. et al., J. Clin. Microbiol.,34,2933(1996))、Invader法(Lyamichev V et al., Nat Biotechnol,17,292(1999))、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法(Haff LA, Smirnov IP, Genome Res 7,378(1997))、RCA(rolling cycle amplification)法(Lizardi PM et al., Nat Genet 19,225(1998))、DNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法(Wang DG et al., Science 280,1077(1998)等)、プライマー伸長法、サザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(Southern,E., J. Mol. Biol. 98, 503-517(1975))等、公知の方法を採用できる。さらに、解析対象の多型部分を直接シークエンスすることにより解析してもよい。尚、これらの方法を任意に組み合わせて多型解析を行ってもよい。また、PCR法又はPCR法を応用した方法などの核酸増幅法により核酸試料を予め増幅(核酸試料の一部領域の増幅を含む)した後、上記いずれかの解析方法を適用することもできる。
【0012】
多数の核酸検体を解析する場合にはアリル特異的PCR法、アリル特異的ハイブリダイゼーション法、TaqMan-PCR法、Invader法、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法、RCA(rolling cycle amplification)法、又はDNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法等、多数の検体を比較的短時間で解析することが可能な解析方法を用いることが特に好ましい。
【0013】
以上の方法では、各方法に応じたプライマーやプローブ等の核酸(本発明において「多型解析用核酸」ともいう)が使用される。多型解析用核酸の例としては、解析対象の多型を含む遺伝子において当該多型部位を含む一定領域(部分DNA領域)に相補的な配列を有する核酸(プローブ)を挙げることができる。また、解析対象の多型を含む遺伝子において当該多型部位を含む一定領域(部分DNA領域)に相補的な配列を有し、当該多型部分を含むDNAフラグメントを特異的に増幅できるように設計された核酸(プライマー)を挙げることができる。このような核酸としては例えば、-420位塩基がC(シトシン)であるレジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-420位塩基がG(グアニン)であるレジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸が該当する。
【0014】
多型解析用核酸の他の具体例としては、解析対象の多型部位がいずれかの遺伝子型である場合にのみ当該多型部位を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットを挙げることができる。より具体的には解析対象の多型部位を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、多型部位がいずれかの遺伝子型であるアンチセンス鎖の当該多型部位を含む部分DNA領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、センス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとからなる核酸セットを例示することができる。このような核酸セットとしては例えば、レジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-420位塩基がC(シトシン)であるレジスチン遺伝子のアンチセンス鎖において-420位塩基を含む部分DNA領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、センス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとからなる核酸セット、又は-420位塩基がG(グアニン)であるレジスチン遺伝子のアンチセンス鎖において-420位塩基を含む部分DNA領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、センス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとからなる核酸セットが該当する。ここで、増幅される部分DNA領域の長さはその検出に適した範囲で適宜設定され例えば50bp〜200bp、好ましくは80bp〜150bpである。
【0015】
以上の核酸プライマー、核酸プローブは単なる一例であって、核酸プライマーであれば目的の増幅反応を支障なく行える限度において、他方核酸プローブであれば目的のハイブリダイゼーション反応を支障なく行える限度において一部の塩基配列に改変が施されたものであってもよい。ここでの「一部の改変」とは、塩基の一部が欠失、置換、挿入及び/又は付加されていることを意味する。改変にかかる塩基数は例えば1〜7個、好ましくは1〜5個、更に好ましくは、1〜3個である。尚、このような改変は、原則として多型部位に対応する塩基以外の部分において行われる。
【0016】
多型解析用核酸(プローブ、プライマー)には、解析方法に応じて適宜DNA断片又はRNA断片が用いられる。多型解析用核酸の塩基長はその機能が発揮される長さであればよく、プライマーとして用いられる場合の塩基長の例としては10〜50bp程度、好ましくは15〜40bp程度、更に好ましくは15〜30bp程度である。
尚、プライマーとして用いられる場合には増幅対象(鋳型)に特異的にハイブリダイズし、目的のDNAフラグメントを増幅することができる限り鋳型となる配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。プローブの場合も同様に、検出対象の配列と特異的なハイブリダイズが行える限り、検出対象の配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、1〜数個、好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個である。
多型解析用核酸(プライマー、プローブ)はホスホジエステル法など公知の方法によって合成することができる。尚、多型解析用核酸の設計、合成等に関しては成書(例えばMolecular Cloning,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を参考にすることができる。
【0017】
以下の実施例に示すように、RETN(-420C→G)多型の解析は、PCR-RFLP法によって簡便に行うことができる。PCR-RFLP法に使用する増幅用プライマーは、解析対象の多型部位を含むDNA断片を特異的に増幅でき、以降の操作に適切な長さの増幅産物を生じさせ得るものであれば、その配列、長さ等は特に問わない。RETN(-420C→G)多型解析に使用することができる増幅用プライマーセットの一例を以下に示す。
順方向(forward)プライマー: GGGCATTTGGGTATGAATGT(配列番号2)
逆方向(reverse)プライマー: TGGGTTGGAGTCAGGTCTGT(配列番号3)
【0018】
一方、PCR-RFLP法用の制限酵素についても、解析対象の多型部位の相違を反映した消化産物を生じさせ得るものであれば特に限定されない。例えば、RETN(-420C→G)多型解析に使用することができる制限酵素の一例としてBbsIを挙げることができる。
【0019】
本発明における多型解析用核酸を予め標識物質で標識しておくことができる。このような標識化核酸を用いることにより例えば、増幅産物の標識量を指標として多型の解析を行うことができる。また、多型を構成する各遺伝子型の遺伝子における部分DNA領域をそれぞれ特異的に増幅するように設計された2種類のプライマーを互いに異なる標識物質で標識しておけば、増幅産物から検出される標識物質及び標識量によって核酸試料の遺伝子型を判別できる。このような標識化プライマーを用いた検出方法の具体例としては、多型を構成する各遺伝子型のセンス鎖にそれぞれ特異的にハイブリダイズする2種類の核酸プライマー(アリル特異的センスプライマー)をフルオレセインイソチオシアネートとテキサスレッドでそれぞれ標識し、これら標識化プライマーとアンチセンス鎖に特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとを用いて多型部位を含む部分DNA領域を増幅し、得られた増幅産物における各蛍光物質の標識量を測定して多型を検出する方法を挙げることができる。尚、ここでのアンチセンスプライマーを例えばビオチンで標識しておけば、ビオチンとアビジンとの特異的な結合を利用して増幅産物の分離を行うことができる。
【0020】
多型解析用核酸の標識に用いられる標識物質としては32Pなどの放射性同位元素、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、テキサスレッドなどの蛍光物質を例示でき、標識方法としてはアルカリフォスファターゼ及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いた5'末端標識法、T4 DNAポリメラーゼやKlenow断片を用いた3'末端標識法、ニックトランスレーション法、ランダムプライマー法(Molecular Cloning,Third Edition,Chapter 9,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)などを例示できる。
以上の多型解析用核酸を不溶性支持体に固定化した状態で用いることもできる。固定化に使用する不溶性支持体をチップ状、ビーズ状などに加工しておけば、これら固定化核酸を用いて多型の解析をより簡便に行うことができる。
【0021】
3.ステップ(iii)(レジスチン濃度測定ステップ)
このステップでは、ステップ(i)で用意した血液検体中のレジスチン濃度を測定する。血液検体中のレジスチン濃度は、これに限定されるものではないが、好ましくは免疫学的手法を利用して測定する。免疫学的手法によれば迅速に且つ感度よくレジスチン濃度を測定できる。また、操作も簡便である。免疫学的手法によるレジスチン濃度の測定ではレジスチンに特異的結合性を有する物質が使用される。当該物質としては通常は抗レジスチン抗体が使用されるが、レジスチンに特異的結合性を有し、その結合量を測定可能な物質であれば抗レジスチン抗体に限らず使用することができる。
免疫学的手法の中でもELISA法(サンドイッチELISAや競合ELISA等)を利用してレジスチン濃度を測定することが好ましい。ELISA法は検出感度が高いことや特異性が高いこと、定量性に優れること、操作が簡便であること、多検体の同時処理に適することなど、多くの利点を有する。ELISA法を利用する場合の具体的な操作法の一例を以下に示す。まず、抗レジスチン抗体を不溶性支持体に固定化する。具体的には例えばマイクロプレートの表面を抗モノクローナル抗体で感作する(コートする)。このように固相化した抗体に対して血液検体を接触させる。この操作の結果、固相化した抗レジスチン抗体に対する抗原(レジスチン)が検体中に存在していれば免疫複合体が形成される。洗浄操作によって非特異的結合成分を除去した後、酵素を結合させた抗体を添加することで免疫複合体を標識し、次いで酵素の基質を反応させて発色させる。そして、発色量を指標として免疫複合体を検出する。尚、ELISA法の詳細については数多くの成書や論文に記載されており、各方法の実験手順や実験条件を設定する際にはそれらを参考にできる。また、レジスチン測定用のキットとしてHuman Resistin Quantikine ELISA Kit(R&D systems製)、Resistin ELISA(Biovendor Laboratory Medicine製、コスモ・バイオ株式会社販売)、Resistin ELISA Kit(Alexis Corporation製、コスモ・バイオ株式会社販売)、ヒトレジスチンELISAキット/Resistin ELISA Kit(American Research Products,Inc製、コスモ・バイオ株式会社販売)、Resistin ELISA Development(Pepro Tech Ec, Inc.製、コスモ・バイオ株式会社販売)などのELISAキットが市販されており、本発明ではこれらのキットを利用してレジスチン濃度を測定してもよい。
【0022】
4.ステップ(iv)(リスク判定ステップ)
このステップでは、ステップ(ii)で決定された、レジスチン遺伝子のRETN(-420C→G)多型に関する遺伝子型(対象遺伝子型)と、ステップ(iii)で得られたレジスチン濃度から動脈硬化性疾患のリスクを判定する。つまり本発明では動脈硬化性疾患のリスクを判定するために対象遺伝子型とレジスチン濃度という二つの指標を併用する。
後述の実施例に示した検討の結果、対象遺伝子型がCC型、CG型、GG型の順に動脈硬化性疾患のリスクが高くなる傾向にあること、及び血中レジスチン濃度が高いと動脈硬化性疾患のリスクが高くなる傾向にあることが明らかとなった。この知見に基づいて本発明の好ましい一態様では、(a)対象遺伝子型がCC型、CG型、GG型の順にリスクが高くなる、及び(b)レジスチン濃度が高いとリスクが高くなる、という二つの基準によってリスクを判定する。更に好ましくは、(A)レジスチン濃度が低くても対象遺伝子型がGG型であればリスクが比較的高い、(B)対象遺伝子型がCC型でもレジスチン濃度が高ければリスクが比較的高い、(C)対象遺伝子型がGG型であり、且つレジスチン濃度が高いときに最もリスクが高い、及び(D)対象遺伝子型がCC型であり、且つレジスチン濃度が低いときに最もリスクが低い、からなる群より選択される一以上の基準に基づきリスクを判定する。当該判定手法の具体例を以下に列挙する。
(1)対象遺伝子型がGG型でレジスチン濃度が高い場合に高リスクと判定し、それ以外であれば低リスクと判定する。
(2)対象遺伝子型がGG型でレジスチン濃度が高い場合に高リスクと判定し、対象遺伝子型がGG型でレジスチン濃度が低い場合、対象遺伝子型がCG型でレジスチン濃度が高い場合、又は対象遺伝子型がCC型でレジスチン濃度が高い場合に中程度のリスクと判定し、対象遺伝子型がCG型でレジスチン濃度が低い場合、又は対象遺伝子型がCC型でレジスチン濃度が低い場合に低リスクと判定する。
(3)対象遺伝子型がGG型の場合(レジスチン濃度の高低は考慮されない)、対象遺伝子型がCG型でレジスチン濃度が高い場合、又は対象遺伝子型がCC型でレジスチン濃度が高い場合に高リスクと判定し、対象遺伝子型がCG型でレジスチン濃度が低い場合、又は対象遺伝子型がCC型でレジスチン濃度が低い場合に低リスクと判定する。
(4)対象遺伝子型がGG型でレジスチン濃度が高い場合に高リスクと判定し、対象遺伝子型がCC型でレジスチン濃度が低い場合に低リスクと判定し、それ以外であれば中程度のリスクと判定する。
レジスチン濃度の高低を分ける境界値として、ある集団を対象としてレジスチン濃度を測定したときの中央値又は平均値を用いることができる。ここでの「ある集団」とは例えば、特定の疾患(例えば糖尿病)の患者集団、特定の疾患に罹患した特定の年齢層(例えば30代、40代、50代など)の集団、病歴や年齢などに関係なく無作為に集めた集団である。レジスチン濃度の高低を分ける境界値は例えば血清濃度1.0 nm/ml〜48.0 nm/mlの範囲内において設定することができる。具体的な境界値としては血清濃度10.8 ng/mlを例示することができる。尚、以上ではレジスチン濃度の範囲を高低の二つに分けることにしたが、これに限られるものではない。即ち、レジスチン濃度の範囲を3以上に分けた上で区分の設定をしてもよい。
【0023】
リスク判定手法の別の例を以下に示す。まず、対象遺伝子型の違いによって3区分(CC型、CG型、及びGG型)を設定し、次いで各区分をレジスチン濃度の高低でさらに2分することで合計6区分((1)CC型でレジスチン濃度低い区分(CC&Low)、(2)CC型でレジスチン濃度が高い区分(CC&High)、(3)CG型でレジスチン濃度が低い区分(CG&Low)、(4)CG型でレジスチン濃度が高い区分(CG&High)、(5)GG型でレジスチン濃度が低い区分(GG&Low)、(6)GG型でレジスチン濃度が高い区分(GG&High))とする。以上のようにして設定した6区分をリスクの高低に従いランク付けする。例えば、後述の実施例に示す知見に基づいて、最高リスク(GG&High)、高リスク(CG&High)、中程度リスク(GG&Low、CC&High)、低リスク(CG&Low)、及び最低リスク(CC&Low)とする。そして、多型解析結果とレジスチン濃度の測定結果より被験者がどのランクに属するかを決定することによって被験者のリスクが求められる。
以上の例ではリスクの高低によって5ランクを設定することにしたが、これよりも多い又は少ないランク数としてもよい。例えば、最高リスク(GG型High)、高リスク(CG型High、GG型Low、CC型High)、中程度リスク(CG型Low)、及び低リスク(CC型Low)の4ランクや、高リスク(GG型High、CG型High)、中程度リスク(GG型Low、CC型High)、及び低リスク(CG型Low、CC型Low)の3ランク、高リスク(GG型High、CG型High、GG型Low、CC型High)及び低リスク(CG型Low、CC型Low)の2ランクのようにランクを設定することができる。
【0024】
(動脈硬化性疾患のリスク検査用キット)
本発明の第2の局面は、本発明のリスク検査法に使用されるキット(動脈硬化性疾患のリスク検査用キット)を提供する。本発明のキットにはRETN(-420C→G)多型解析用核酸と、血液検体中のレジスチン濃度を測定するための成分(レジスチン濃度測定用成分)とが含まれる。RETN(-420C→G)多型解析用核酸は、それが適用される解析方法(上述したアリル特異的核酸等を用いたPCR法を利用する方法、PCR-RFLP法、PCR-SSCP、TaqMan-PCR法、Invader法等)において、解析対象であるRETN(-420C→G)多型部分を含むDNA領域を特異的に増幅できるもの(プライマー)又は特異的に検出できるもの(プローブ)として設計される。多型用核酸の詳細については既に多型解析ステップの欄で説明したが、キットの成分として利用可能な多型解析用核酸又は多型解析用核酸のセットの具体例を以下に示す。
(1)-420位塩基がCであるレジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する非標識又は標識核酸
(2)-420位塩基がGであるレジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する非標識又は標識核酸
(3)(1)の核酸と(2)の核酸との組合せ
(4)核酸検体中のレジスチン遺伝子の-420位塩基がCである場合にのみ、該レジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット
(5)核酸検体中のレジスチン遺伝子の-420位塩基がGである場合にのみ、該レジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット
(6)(4)の核酸セットと(5)の核酸セットとの組合せ
(7)レジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-420位塩基がCであるレジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー、及び/又は-420位塩基がGであるレジスチン遺伝子において-420位塩基を含む部分DNA領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、レジスチン遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット
(8)-420位がCであるレジスチン遺伝子のアンチセンス鎖において-420位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、-420位塩基がGであるレジスチン遺伝子のアンチセンス鎖において-420位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びレジスチン遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸又は前記第2核酸とともに使用されてレジスチン遺伝子の-420位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット
【0025】
一方、レジスチン濃度測定用成分についても測定方法に応じた物質が採用される。例えば免疫学的測定法の実施に必要な抗レジスチン抗体(例えばELISA法用として固相化抗レジスチン抗体と標識化抗レジスチン抗体の組合せ)をレジスチン濃度測定用成分として用いることができる。
多型解析用核酸を使用する際(即ち多型解析の際)に必要な試薬(DNAポリメラーゼ、制限酵素、緩衝液、発色試薬など)や容器、器具等、及び/又はレジスチン濃度測定用成分を使用する際(即ちレジスチン濃度の測定の際)に必要な試薬(緩衝液、ブロッキング用試薬、発色試薬など)や容器、器具等を本発明のキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0026】
<レジスチン遺伝子の多型及び血清レジスチン濃度と虚血性脳血管障害との関連性>
レジスチン遺伝子のプロモーター領域に存在する多型(RETN(-420C→G)多型)及び血清レジスチン濃度と虚血性脳血管障害との関連性を以下の通り検討した。
【0027】
1.実験材料及び実験方法
名古屋大学附属病院に通院中の外来(2型糖尿病)患者376名を被験者とした。虚血性脳血管障害の診断は、神経学的徴候と症状及び頭部CT又はMRI法による画像診断によって行った。ラクナ梗塞又は脳塞栓症は除外した。本研究は名古屋大学医学部倫理委員会の承認のもと、各患者より書面での合意を得た上で実施された。
各患者より常法で採血した後、血清を分離した。血清レジスチン濃度はHuman Resistin Quantikine ELISA Kit(R&D systems、Minneapolis、MN)を用いて測定した。尚、患者の身体計測及び各一般血液学的・生化学的検査も行った。
一方、患者血液よりDNAをQIAamp DNA Blood Mini Kit (Qiagen)を用いて抽出し、以下の手順でPCR-RFLP法による遺伝子多型タイピング解析を行った。
まず、患者ゲノムDNA30ngを用い以下の条件でPCRを行った。
順方向プライマー:GGGCATTTGGGTATGAATGT(配列番号2)
逆方向プライマー:TGGGTTGGAGTCAGGTCTGT(配列番号3)
反応液(10μl):1XPCR-混合液(0.2μmolの順方向プライマー及び逆方向プライマー、0.2mmolデオキシリボヌクレオチド混合液、2mM MgCl2、0.5 U Taq DNA polymerase(TAKARA BIO INC Japan))
PCR条件:(1)5分間の熱変性(94℃)、(2)30秒間の熱変性(94℃)、30秒間のアニーリング(58℃)、1分間の伸長(72℃)を30サイクル、(3)5分間最終伸長反応(72℃)
【0028】
得られたPCR-産物をBbsI制限酵素で切断後、アガロースゲル電気泳動法にて分離し、遺伝子多型を判定した。
統計解析はSPSS for Windows(登録商標) program version 12.0(SPSS, Chicago, IL, USA)を用いて行った。統計手法としてはStudent’s T検定、χ2検定を用いた。
【0029】
2.結果・考察
多型解析結果及び血清レジスチン濃度の測定結果を集計し、表にまとめた(図1及び2)。図1の表(表1)は、多型解析結果、即ちRETN(-420C→G)多型に関する遺伝子型のみに基づいて被験者を区分し、各区分のリスクを示したものである。一方、図2の表(表2)は遺伝子型と血清レジスチン濃度に基づいて被験者を区分したものであり、この表では遺伝子型の相違に基づく3区分を更に血清レジスチン濃度に基づき二分することで合計6区分が設定されている。尚、全被験者のレジスチン濃度の中央値を、レジスチン濃度の高低を分ける(10.8 ng/ml)とした。
【0030】
脳イベントが認められる被験者数の割合(区分内の脳イベントありの被験者数/区分内の総被験者数(%))が高い区分ほど高リスクであると評価される。遺伝子型のみに基づいて被験者を区分した場合の各区分(表1)を、脳イベントリスクの高い方から順に並べると(1)GG区分(リスク0.157、最高リスク区分)、(2)CG区分(リスク0.127、中程度リスク区分)、(3)CC区分(リスク0.072、最低リスク区分)となり、最高リスク区分と最低リスク区分間のリスク差及びリスク比はそれぞれ0.085及び2.18となる。一方、遺伝子型と血清レジスチン濃度を指標にして被験者を区分した場合の順位はリスクの高い方から順に(1)GG&High区分(リスク0.167、最高リスク区分)、(2)CG&High区分(リスク0.147、高リスク区分)、 (3)CC&High区分(リスク0.135、中等度リスク区分)、(4)GG&Low区分(リスク0.133、中程度リスク区分)、(5)CG&Low区分(リスク0.089、低リスク区分)、(6)CC&Low区分(リスク0.043、最低リスク区分)となる。ここで、最高リスク区分と最低リスク区分間のリスク差及びリスク比をそれぞれ求めると0.167-0.043=0.124(リスク差)及び0.167/0.043=3.88(リスク比)となり、いずれも遺伝子型のみを指標にした場合の対応する値(0.085及び2.18)よりも高い。このように、遺伝子型と血清レジスチン濃度を指標にすることによって、遺伝子型のみを指標にした場合よりも最高リスク区分と最低リスク区分間のリスク差及びリスク比がいずれも高くなる。このことは、多型解析結果と血清レジスチン濃度の測定結果を利用したリスク判定法は確度が高いことを意味する。
【0031】
一方、表2より、同一の遺伝子型であっても血清レジスチン濃度の高低の違いによってリスク評価が大幅に異なることが分かる。例えば遺伝子型がCCの者は高リスク区分(CC&High)と最低リスク区分(CC&Low)に分かれる。しかも、驚くべきことに遺伝子型に基づく3区分(CC型、CG型、及びGG型)の境界を越えたリスク順位の入れ替わりが生じている。例えばCC&High区分(遺伝子型のみに基づけば、この区分に含まれる被験者は最低リスクと評価される)のリスクの方がGG&Low区分(遺伝子型のみに基づけば、この区分に含まれる被験者は最高リスクと評価される)のリスクやCG&Low区分(遺伝子型のみに基づけば、この区分に含まれる被験者は中程度リスクと評価される)のリスクよりも高い。また同一遺伝子型であるCC型群のみを考えると(この群が一番多い)、同一遺伝子型でありながら血清レジスチン濃度の高低でHigh区分0.135 vs. Low区分0.043と極めてそのリスクが異なる(リスク差0.131、リスク比3.14).このように一部の被験者について、遺伝子型のみに基づいて判定した場合のリスクと、遺伝子型及び血清レジスチン濃度を用いて判定した場合のリスクが大幅に異なる結果となった。このことは、遺伝子型のみを用いて判定した場合、実際のリスクを正確に反映しない判定結果が出される者が存在すること、及びこれらの者については遺伝子型と血清レジスチン濃度を併用することによって実際のリスクにより符号したリスク判定を行えること、を意味する。
以上の考察から明らかなように、多型解析結果と血清レジスチン濃度の測定結果を併用すれば、多型解析結果のみを用いた場合に比較して確度の高いリスク判定が可能であることが示された。
尚、表2より、RETN(-420C→G)多型に関する遺伝子型及びレジスチン濃度と脳イベントのリスクとの間に以下の規則性が認められる。
(a)遺伝子型がCC型、CG型、GG型の順にリスクが高くなる傾向にあること。
(b)レジスチン濃度が高いとリスクが高くなる傾向にあること。
(A)レジスチン濃度が低くても遺伝子型がGG型であればリスクが比較的高いこと。
(B)遺伝子型がCC型でもレジスチン濃度が高ければリスクが比較的高いこと。
(C)遺伝子型がGG型であり、且つレジスチン濃度が高いときに最もリスクが高いこと。
(D)遺伝子型がCC型であり、且つレジスチン濃度が低いときに最もリスクが低いこと。
【0032】
次に、区分の設定を変えて同様のリスク評価を行った。図3に示す表(表3)では遺伝子型に関して二分し、更に血清レジスチン濃度に関して二分することで被験者を合計4区分に分けている。同様に図4の表(表4)では遺伝子型の相違に基づく3区分を更に血清レジスチン濃度に基づき三分することで合計6区分が設定されている。尚、血清レジスチン濃度で三分する場合、各群間の人数比が等しくなるように、8.3 ng/ml未満をレジスチン濃度が低い、8.3 ng/ml〜15.0 g/mlをレジスチン濃度が中程度、15.0 ng/ml以上をレジスチン濃度が高いと規定した。
表3及び表4をそれぞれ表1に比較すれば、遺伝子型と血清レジスチン濃度を併用することによって、遺伝子型のみを用いた場合よりも最高リスク区分と最低リスク区分間のリスク差及びリスク比がいずれも高くなることがわかる。特に、表4に示したように6区分を設定した場合は、最高リスク区分と最低リスク区分間のリスク差及びリスク比が特に大きい。また、表3に示したように4区分を設定した場合、区分間のリスクの差がより明確に表れる。
【0033】
一方、表2の場合と同様に表3及び表4においても、遺伝子型に基づく3区分(CC型、CG型、及びGG型)の境界を越えたリスク順位の入れ替わりが生じている。例えば表3では、CC&High区分(遺伝子型のみに基づけば、この区分に含まれる被験者は最低リスクと評価される)のリスクの方がCG_GG&Low区分(遺伝子型のみに基づけば、この区分に含まれる被験者は最高リスク又は中程度リスクと評価される)のリスクよりも高い。同様に表4では、CC&High区分(遺伝子型のみに基づけば、この区分に含まれる被験者は最低リスクと評価される)のリスクの方がCG_GG&Mid区分(遺伝子型のみに基づけば、この区分に含まれる被験者は最高リスク又は中程度リスクと評価される)のリスクよりも高い。このように、表3又は表4のように区分を設定した場合においても一部の被験者について、遺伝子型のみに基づいて判定した場合のリスクと、遺伝子型及び血清レジスチン濃度を用いて判定した場合のリスクが大幅に異なる結果となった。このように、表3又は表4のように区分を設定した場合も、多型解析結果及び血清レジスチン濃度測定結果を併用すればより確度の高いリスク評価ができることが示された。
尚、表3及び表4より、RETN(-420C→G)多型に関する遺伝子型及びレジスチン濃度と脳イベントのリスクとの間に以下の規則性が認められる
(a)’遺伝子型がCC型よりもCG型又はGG型の方がリスクが高い傾向にあること。
(b)レジスチン濃度が高いとリスクが高くなる傾向にあること。
(A)’レジスチン濃度が低くても遺伝子型がCG型又はGG型であればリスクが比較的高いこと。
(B)遺伝子型がCC型でもレジスチン濃度が高ければリスクが比較的高いこと。
(C)’遺伝子型がCG型又はGG型であり、且つレジスチン濃度が高いときに最もリスクが高いこと。
(D)遺伝子型がCC型であり、且つレジスチン濃度が低いときに最もリスクが低いこと。
【0034】
以上の考察から明らかなように、RETN(-420C→G)多型に関する解析結果と血清レジスチン濃度の測定結果を併用すれば、リスク評価のランクが細分化されることにより詳細な判定結果が得られることはもとより、より確度の高い虚血性脳血管障害のリスク評価が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のリスク検査法は、動脈硬化性疾患に関して確度が高く臨床上有用なリスク情報(易罹患性に関する情報)を与える。動脈硬化性疾患の患者についてのリスク情報は、より適切な治療方針の決定に役立ち、個々の患者に合わせたオーダーメード医療を可能とする。これによって治療効果の向上、及び患者のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上が図られる。また、無駄な医療行為を未然に防止することによる医療経済への貢献も期待される。一方、動脈硬化性疾患の患者以外についてのリスク情報は動脈硬化性疾患の予防や早期診断に役立つ。即ち、リスクが高いとの情報に基づいて生活習慣の改善等を図れば、動脈硬化性疾患への罹患可能性を低下させることができる。また、リスクが高いとの情報は動脈硬化性疾患の検診を受診させる契機となり、これによって動脈硬化性疾患の早期診断(早期発見)が可能となる。
【0036】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】レジスチン遺伝子多型の解析結果を集計した表(表1)である。CC:遺伝子型がCCの区分、CG:遺伝子型がCGの区分、GG:遺伝子型がGGの区分。
【図2】レジスチン遺伝子多型の解析結果と血清レジスチン濃度の測定結果を集計した表(表2)である。この表では以下の6区分が設定されている。CC&Low:遺伝子型がCCで且つ血清レジスチン濃度が低い区分、CC&High:遺伝子型がCCで且つ血清レジスチン濃度が高い区分、CG&Low:遺伝子型がCGで且つ血清レジスチン濃度が低い区分、CG&High:遺伝子型がCGで且つ血清レジスチン濃度が高い区分、GG&Low:遺伝子型がGGで且つ血清レジスチン濃度が低い区分、GG&High:遺伝子型がGGで且つ血清レジスチン濃度が高い区分。
【図3】レジスチン遺伝子多型の解析結果と血清レジスチン濃度の測定結果を集計した表(表3)である。この表では以下の4区分が設定されている。CC&Low:遺伝子型がCCで且つ血清レジスチン濃度が低い区分、CC&High:遺伝子型がCCで且つ血清レジスチン濃度が高い区分、CG_GG&Low:遺伝子型がCG又はGGで且つ血清レジスチン濃度が低い区分、CG_GG&High:遺伝子型がCG又はGGで且つ血清レジスチン濃度が高い区分。
【図4】レジスチン遺伝子多型の解析結果と血清レジスチン濃度の測定結果を集計した表(表4)である。この表では以下の6区分が設定されている。CC&Low:遺伝子型がCCで且つ血清レジスチン濃度が低い区分、CG_GG&Low:遺伝子型がCG又はGGで且つ血清レジスチン濃度が低い区分、CC&Mid:遺伝子型がCCで且つ血清レジスチン濃度が中程度の区分、CG_GG&Mid:遺伝子型がCG又はGGで且つ血清レジスチン濃度が中程度の区分、CC&High:遺伝子型がCCで且つ血清レジスチン濃度が高い区分、CG_GG&High:遺伝子型がCG又はGGで且つ血清レジスチン濃度が高い区分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(i)〜(iv)を含む、動脈硬化性疾患のリスク検査法:
(i)被験者から採取された核酸検体及び血液検体を用意するステップ;
(ii)前記核酸検体においてレジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型を解析し、該多型に関する遺伝子型を決定するステップ;
(iii)前記血液検体中のレジスチン濃度を測定するステップ;及び
(iv)前記ステップ(ii)で決定した遺伝子型と、前記ステップ(iii)で得られたレジスチン濃度から動脈硬化性疾患のリスクを判定するステップ。
【請求項2】
前記ステップ(iv)において、以下の二つの基準によってリスクを判定することを特徴とする、請求項1に記載のリスク検査法:
(a)前記遺伝子型がCC型、CG型、GG型の順にリスクが高くなる;
(b)前記レジスチン濃度が高いとリスクが高くなる。
【請求項3】
前記ステップ(iv)において、以下の(A)〜(D)からなる群より選択される一以上の基準によってリスクを判定することを特徴とする、請求項1に記載のリスク検査法:
(A)前記レジスチン濃度が低くても前記遺伝子型がGG型であればリスクが比較的高い;
(B)前記遺伝子型がCC型でも前記レジスチン濃度が高ければリスクが比較的高い;
(C)前記遺伝子型がGG型であり、且つ前記レジスチン濃度が高いときに最もリスクが高い;
(D)前記遺伝子型がCC型であり、且つ前記レジスチン濃度が低いときに最もリスクが低い。
【請求項4】
前記血液検体として血清が用いられる、請求項1〜3のいずれかに記載のリスク検査法。
【請求項5】
前記動脈硬化性疾患が虚血性脳血管障害である、請求項1〜4のいずれかに記載のリスク検査法。
【請求項6】
レジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型解析用核酸と、及び
血液検体中のレジスチン濃度を測定するための成分と、を含む動脈硬化性疾患のリスク検査用キット。
【請求項7】
レジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型解析用核酸の動脈硬化性疾患のリスク検査用試薬としての使用であって、使用時に並行して血液検体中のレジスチン濃度の測定が実施される前記使用。
【請求項8】
レジスチンに特異的結合性を有する物質の動脈硬化性疾患のリスク検査用試薬としての使用であって、使用時に並行してレジスチン遺伝子の塩基番号-420位の多型解析が実施される前記使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−202415(P2007−202415A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21852(P2006−21852)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】