説明

動質量手法によるパネルのランダム振動予測装置及び方法

【課題】パネルに搭載した各々の機器のランダム振動について、予測手法を切り換えることなく、従来のNASAの手法、インピーダンス手法の2つの手法に比べて予測誤差の小さい振動予測を行う。
【解決手段】加振されるパネルのランダム振動を予測する方法は、対象機器以外の機器を搭載したパネルについて、NASAの手法を用いて搭載機器の質量が平板全体に一様に分布していると仮定して振動を予測する。次に、対象機器は弾性体であるとして、対象機器による振動減衰効果を示す対象機器影響係数を計算する。対象機器以外の機器を搭載したパネルの振動予測結果に、対象機器を弾性体として求めた対象機器影響係数を乗じて、対象機器を搭載したパネルの応答を計算する。予測手法を切換える必要がなく、パネルの振動を精度よく予測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星の設計解析の分野で、人工衛星を構成するパネルに音響負荷を与えた時のランダム振動を予測する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙機の各搭載機器は、ロケット打上げ時の130デシベル以上の音響加振により、過酷な高周波ランダム振動環境に晒される。このため各搭載機器のランダム振動レベルをフライト環境条件として、搭載機器の設計を行う必要がある。これらのランダム振動条件は、2kHz以下の高周波応答であるため、通常は統計的エネルギー解析(Statistical Energy Analysis, SEA)により予測が行われる(非特許文献1)。
従来は、搭載機器の質量は平板全体に一様に分布していると仮定したNASAの手法(非特許文献2)、搭載機器は質点として衛星構体パネルに作用すると仮定したインピーダンス手法(非特許文献3)等を使用して、統計的エネルギー解析により搭載機器を有する衛星構体パネルの振動予測が行なわれてきた。
【0003】
ここで、統計的エネルギー解析による機器を搭載するパネルの振動予測手法について説明する。
拡散音場により両面から加振される機器を搭載しない平板の応答は、拡散音場と平板構造の2要素SEAモデルにより、片側の音響放射効率を2倍にして次式で予測することが出来る。

(A1)
ここに、
<a2> :平板の二乗加速度の時間・空間二乗平均
<p2> :二乗拡散音圧の時間・空間二乗平均
ρ0 :空気密度
0 :空気音速
S :平板の面積
2 :平板のモード密度
η2 :平板の損失係数
σrad :平板の放射効率
M :平板の質量
である。
【0004】
(i) NASA Glenn Research Centerの手法(非特許文献2)
NASAの手法は、NASA Glenn Research Centerで開発された手法であり、搭載機器の有無に関わらず平板のモード密度とクリティカル周波数が不変であるとし、機器質量は平板に一様に塗付けられていると仮定する。機器を搭載した状態で、両面音響加振するときの加速度は、

(A2)
となる。ここに、Mはパネル質量、Mcは搭載機器質量、<a2>Lは機器が有る場合の加速度である。モード密度n2と放射効率σradについては機器を搭載しないときの面密度から計算する。
【0005】
(ii) インピーダンス手法(非特許文献3)
インピーダンス手法は部分構造合成法を用いた手法である。図10に示すように、外力Fdを受ける構造pに搭載機器mがインターフェースiを介して結合されているものとする。このとき、インターフェースにおける力をFiとする。pとmが非拘束の条件で結合していない場合のiにおける機械インピーダンスをZiip、Ziimとする。また外力印加点dとiの伝達インピーダンスをZidpとすれば、iにおけるpとmの速度は、重ね合わせの原理より次式となる。

(A3)

(A4)
【0006】
インターフェース点ではpとmの速度が同一であるため、(A3)式と(A4)式を等値すれば、(A5)式が得られる。

(A5)
【0007】
次に機器mが無い場合のpのiにおける速度をXi0pとすると、Xi0pは次式で書ける。

(A6)
(A6)式を(A5)式に代入し得られるFiを(A3)式に代入すれば、

(A7)
となる。(A7)式は、pとmが結合した場合の速度と未結合時の速度を関係付ける式である。
【0008】
構造pが曲率の無い平板パネルで、振動が十分に拡散している高周波を考える場合、(A7)式中のインピーダンスは無限板インピーダンスに一致する。即ち、

(A8)
である。ここでmΛはパネルの面密度、Dは曲げ剛性、Mは質量、nはモード密度である。
【0009】
次に、搭載機器mを剛体と仮定すれば、そのインピーダンスは(A9)式である。

(A9)
【0010】
以上により、搭載機器を結合した場合の加速度<a2>Lを未結合状態の加速度<a2>0から(A10)式で求めることが出来る。

(A10)
【0011】
NASAの手法は、質量が大きく応答の小さい機器に対しては予測値が20dB以上の過剰になる場合がある。また、インピーダンス手法は、個別の機器に対する予測が可能であるが、搭載機器は剛体質量を持つ質点であると仮定しているため、高周波数では予測結果が過小になる傾向がある。そのため、従来は、周波数と機器特性により、これらの2つの手法を使い分ける必要があった。
しかし、2つの予測手法の選択基準が無いため、経験的に2つの手法から一方の手法を選択してきた。
【0012】
【非特許文献1】Lyon, R.H. and De Jong, R.G., Theory and Application of Statistical Energy Analysis (1995), Butterworth-Heinemann, New York
【非特許文献2】McNelis, Mark E., A modified VAPEPS Method for Predicting Vibroacoustic Response of Unreinforced Mass Loaded Honeycomb Panels, NASA-TM-101467 (1989), p3
【非特許文献3】Ando, S., Shi, Q., the Prediction of Random Acoustic Vibration of Equipment Mounted on Honeycomb Panel, 5th ESA Aerospace Environmental Testing Symposium, Belgium (2005-6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、パネルに搭載した各々の機器のランダム振動について、予測誤差の小さい振動予測を行うことを目的とする。
また、予測手法を切り換えることなく、従来のNASAの手法、インピーダンス手法の2つの手法に比べて予測誤差の小さいランダム振動予測を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、対象とする搭載機器の動質量特性に注目する動質量手法を使用する。
本発明の手法は、インピーダンス手法とNASAの手法を融合したものである。即ち、解析対象以外の搭載機器をNASAの手法により、構体パネルに一様に分布していると仮定する。そして、解析する対象機器の質量を動質量で表し、対象機器を搭載したときのパネルの振動の変化をインピーダンス手法により与える。
インピーダンス手法では、搭載前後の応答の関係を示す式(A7)に、力(F)と速度(V)の関係を表す機械抵抗(F/V)を代入した。本発明では、力(F)と加速度(A)の関係を表す「動質量(Apparent mass),動慣性(F/A)」を代入する。
【0015】
弾性体の動質量M ̄は、次式で書くことができる。

(1)
ここに、Mは弾性体の静質量であり、mek、ζkはそれぞれ、弾性体を結合点(有効質量定義点)で固定した境界条件におけるk次モードの有効質量と減衰係数比である。ωkをk次モードの固有振動数、ωを角周波数とする。rkは、rk=ω/ωkであり、これは正規化された周波数である。
【0016】
次に、図1に弾性体と質点の動質量について図解して示す。質点の静質量を点線で示す。質点の静質量は、周波数によらず一定であり、周波数が0Hzの静質量と同じ値となる。弾性体の動質量を実線で示す。図中のA点は、一次固有振動数f0での動質量を表す。周波数f0では動質量が大きいため、式(A7)から分かるように、機器取付点の応答は機器の存在により大きく減衰する。また、図1中のB点は一次共振周波数であり、この周波数では動質量が小さくなるため、機器取付点での機器による応答の減衰効果は低い。このように、弾性体の動質量は、共振のない一次固有振動数f0以下の振動数では静質量と同じ値をとり、一次固有振動数f0以上の振動数では、動質量は、振動数が大きくなるに従ってピークと谷が交互に現れながら減少していく。
【0017】
統計的エネルギー解析(SEA)による予測法を考える場合、周波数によって変動する動質量の周波数平均を求めることが必要となる。この周波数平均については、後述するように、モンテカルロシミュレーションにより、式(1)の周波数平均の近似解として次式が得られている。

(2-1)
ここに、f0は弾性体(前記対象機器)の一次固有振動数、fは周波数である。
【0018】
次に、式(2-1)を搭載機器の周波数平均された動質量として用いる。前述したインピーダンス手法において、機器を搭載する構造pは、既に弾性が考慮されている。そのため、搭載機器に対してのみ周波数平均をとった動質量を用いる。即ち、式(A10)中において、搭載機器質量Mcを次式で置き換える。

(2-2)
【0019】
さらに、インピーダンス手法では無視されていた解析対象の機器以外の質量をNASAの手法により、パネル全体に一様に分布しているとする。即ち、解析対象機器以外の機器が搭載されている状態での振動をNASAの手法により求め、解析対象の機器を搭載した場合の振動を対象機器の周波数平均をとった動質量を用いて解析する。
【0020】
この場合、パネルと搭載機器を含めた総質量をMtot、解析対象の機器質量をMc、パネルのみの質量をMpとする。インピーダンス手法により加速度を求める式(A10)において、搭載機器の質量Mcとして式(2-2)を用いる。解析対象機器の応答<a2>Lは、



【0021】

(3)

(4)
となる。
【0022】
式(3)で、質量を(Mtot‐Mc)としているのは、解析対象機器以外の機器の質量は、NASAの手法により、パネル全体に一様に分布していると仮定しているからである。
式(4)は、式(2-2)に従って、振動数がf<f0の場合と、f≧f0の場合とで場合分けして、動質量を用いて対象機器影響係数g(ω)を計算している。係数g(ω)は、対象機器を搭載したことによる機器取付点での振動低減(減衰)効果を示す項となるので、本明細書では対象機器影響係数と呼ぶ。
ここに、ω=2πf、ω0=2πf0である。
式(3)により、同一パネル上に取り付けられた質量と一次固有振動数が異なる複数の機器について、個別に振動応答を求めることが出来る。
【0023】
本発明の1態様は、機器を搭載するパネルが加振されるときのランダム振動を予測する装置であって、
記憶装置と、演算装置と、入力装置と、出力装置とを備え、
前記記憶装置は、
計算式を記憶するプログラム記憶部と、
前記パネル、前記搭載機器のデータを記憶するデータ記憶部と、
前記計算式により計算した計算結果を記憶する計算結果記憶部とを含み、
前記演算装置は、
前記対象機器以外の機器を搭載した前記パネルの振動応答を、搭載機器の質量がパネル体に一様に分布しているとして計算するNASA手法計算部と、
前記対象機器を弾性体として取扱い、前記対象機器を搭載したことによる振動低減効果を示す対象機器影響係数を計算する対象機器影響係数計算部と、
前記NASA手法計算部が計算した前記対象機器以外の前記搭載機器を搭載した前記パネルの振動応答に、前記対象機器影響係数計算部が計算した前記対象機器影響係数を乗じて、前記対象機器の振動予測値を計算する予測値計算部と、を備え、
前記対象機器の振動を精度良く予測する振動予測装置である。
【0024】
前記対象機器影響係数計算部は、前記対象機器の動質量を用いて、振動予測値を計算することが好ましい。
【0025】
前記対象機器の振動数が前記対象機器の一次固有振動数より小さい範囲では、前記対象機器の動質量は静質量と同じ値とし、前記対象機器の振動数が前記搭載機器の一次固有振動数より大きい範囲では、前記対象機器の振動数が大きくなるに従って、前記対象機器の動質量は次第に小さくなるとして振動予測値を計算することができる。
【0026】
前記動質量を、

ここに、Mcは動質量、f0は弾性体(前記対象機器)の一次固有振動数、fは周波数、
として、前記対象機器の前記対象機器影響係数を計算することができる。
【0027】
本発明の別の態様は、機器を搭載するパネルが加振されるときのランダム振動を予測する方法であって、
a) 対象機器以外の機器を搭載したパネルについて、搭載機器の質量がパネルに一様に分布しているとして振動を計算し、
b) 前記対象機器を弾性体として取扱い、前記対象機器を搭載したことによる振動低減効果を示す対象機器影響係数を計算し、
c) ステップa)において前記対象機器以外の機器を搭載したパネルの振動を計算した結果に、ステップb)で求めた前記対象機器影響係数を乗じて、前記対象機器の振動予測値を計算するステップと
を備えるパネルの振動を精度よく予測する振動予測方法である。
【発明の効果】
【0028】
従来は、パネルに取り付けた機器のランダム振動を予測する場合、周波数・機器特性等により予測手法の切り換えが必要であった。
本発明では、機器の動質量特性に注目した動質量手法を用いることにより、予測手法を切り換えずにランダム振動の予測を行うことができる。また、従来の2つの手法に比べて精度の高いランダム振動予測をすることができる。
そのため、設計の効率化、コストダウンに資することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
実機衛星9機(搭載機器の総数は385)について音響振動試験を行った。また、本発明の動質量手法、NASAの手法、インピーダンス手法により、振動予測を行い、振動試験結果と、振動予測結果とを比較した。
【0030】
搭載機器の音響加振によるランダム振動の周波数設計規定は20Hz〜2kHzである。また、搭載機器の一次固有振動数f0は120Hz以上であることが、人工衛星機械設計基準に規定されている。本発明の予測手法では、全ての搭載機器のf0は100Hzとした。また、予測手法で用いるSEAは第二次固有振動数以上で適用できるので、振動予測は衛星構体パネルの第二次固有振動数以上で行った。
各実機衛星の各搭載機器に対し、本発明の予測手法、NASAの手法、インピーダンス手法により、各搭載機器の取付点での振動予測を行った。また、各搭載機器の振動実験を行い、各搭載機器の取付点での振動を測定した。各搭載機器について、振動予測結果と振動試験結果とを比較し、3つの予測手法の予測誤差を計算した。
【0031】
オクターブとは2倍を意味し、オクターブバンド(1/1オクターブバンド)とは、周波数帯域の高い方の周波数f2が低い方の周波数f1の2倍となる周波数範囲、即ち、f2/f1=2となる2つの周波数の範囲のことである。一方、1/3オクターブバンドは、f2/f1=21/3=1.25となる2つの周波数範囲である。これらの周波数帯域を、f2,f1の幾何平均である中心周波数f0=√(f12)という周波数で代表させて表す。
【0032】
1/3オクターブ中心周波数ωiにおける予測結果をLpi)(dB)、音響試験結果をLmi)(dB)としたとき、予測誤差e ̄(ωi)(dB)を次式のように定義する。

(5)
ここに、
Lpi)=10×log10(<a2>L/a02), a0=1.0m/s2
である。
【0033】
式(5)により各搭載機器について、各周波数で予測誤差を求め、100Hzから2000Hzまでの1/3オクターブバンド中心周波数で、予測誤差の平均を計算した結果を図2に示す。
図2から、搭載機器の主要帯域である160Hz〜1250Hzにおいて、本発明の動質量手法を用いた振動予測結果は、インピーダンス手法、NASAの手法を用いた予測結果より予測誤差が小さいことが分かる。1250Hz以上では、NASAの手法の方が本発明の動質量手法より予測誤差が小さいが、最大でも3dB程度の差である。また、インピーダンス手法は高周波帯域で予測誤差が大きくなる傾向があるが、本発明の動質量手法は、そのようなことはないことが分かる。
以上から、本発明の動質量手法は従来のインピーダンス手法、NASAの手法よりも予測誤差が小さく、重要な周波数帯域で、予測手法の使い分けを行う必要がないことが示された。
【0034】
ブロック図
図3は、本発明のパネルの振動予測手法を自動的に選択する装置のブロック図である。装置は、中央処理装置20と、演算装置21と、記憶装置28と、入力装置32と、出力装置33とを備える。
【0035】
記憶装置28は、プログラム記憶部29と、データ記憶部30と、計算結果記憶部31とを有する。
記憶装置28のプログラム記憶部29は、式(A1)〜(A10)、式(1)〜(4)等の計算式を記憶する。データ記憶部30は、入力装置32から入力したパネルの寸法、質量、機器質量等のデータを記憶する。計算結果記憶部31は、演算装置22で式(A1)〜(A10)、式(1)〜(4)等の計算を行った振動予測結果等を記憶する。
【0036】
演算装置21は、NASA手法計算部22と、対象機器影響係数計算部23と、予測値計算部24とを有する。
NASA手法計算部22は、対象機器以外の機器を搭載した場合のパネルの振動応答を式(A2)を使用してNASAの手法により計算する。
対象機器影響係数計算部23は、中央処理装置20の指令により、プログラム記憶部29から(4)式を呼び出し、(4)式に従って、ωがω0より小さいか否かにより場合分けして、係数g(ω)を計算する。
予測値計算部24は、中央処理装置20の指令により、プログラム記憶部29から(3)式を呼び出し、対象機器影響係数計算部23で(4)式を使用して求めた対象機器影響係数g(ω)を(3)式に代入し、対象機器の振動の予測値を計算する。
【0037】
入力装置32は、キーボード等の公知の入力装置であり、パネルの面積と周長、全ての搭載機器の面積と周長を入力するのに使用される。
出力装置33は、ディスプレー等の公知の表示装置、プリンター等の印刷装置であり、パネルのランダム振動予測結果等を表示し、またはプリントアウトする。
【0038】
フローチャート
図4は、本発明の動質量法によりパネルの振動予測する方法のフローチャートである。
この方法は、ステップS01で、入力装置32により、パネルの大きさ、質量、全ての搭載機器の総重量等計算に必要なデータを入力する。
ステップS02で、中央処理装置20が、搭載機器jの予測のスタートを指令する。
ステップS03で、入力装置32により、搭載機器jの質量Mcjと一次固有振動数ω0を入力する。
【0039】
ステップS04で、パネルの総質量Mtotから対象とする搭載機器の質量Mcjを引き、質量Mtot‐Mcjをもつパネルの応答を式(A2)によりNASAの手法により計算する。
ステップS05で、中央処理装置20が、周波数ωiにおける振動予測のスタートを指令する。
ステップS06で、搭載機器jの一次固有振動数ω0がωiより大きいか否かを求める。ω0がωiと等しいかそれより小さい場合は、ステップS07に進み、式(4)によりωi>ω0の場合の対象機器振動g(ω)を計算する。
次に、ステップS08に進み、ステップS04で式(A2)により求めたNASAの手法による結果にg(ω)をかけて、式(3)により、周波数ωiでの振動予測値を求め、計算結果記憶部31に記憶する。
【0040】
ステップS06で、ω0がωiより大きい場合は、ステップS09に進み、式(4)によりωi<ω0の場合のg(ω)を計算する。
次に、ステップS10に進み、ステップS04で求めたNASAの手法による結果にg(ω)をかけて、式(3)により周波数ωiでの振動予測値を求め、計算結果記憶部31に記憶する。
【0041】
ステップS08又はステップS10からステップS11に進む。ステップS11で、全ての周波数での計算が終了したか否か求める。終了していない場合は、ステップS12で、i=i+1として、ステップS05に戻り、搭載機器jについて、次の周波数ω(i+1)における振動の予測計算を行う。
ステップS11で、全ての周波数における振動予測値の計算が終了した場合は、次のステップS13に進む。
【0042】
ステップS13では、予測が必要な全ての搭載機器の予測が終了したか否かを求める。終了していない場合は、ステップS14で、j=j+1として、ステップS02に戻り、次の搭載機器j+1の予測をスタートする。
ステップS13で、全ての搭載機器の予測が終了した場合は、次のステップS15に進む。
ステップS15では、計算結果記憶部31に記憶した振動予測値を出力装置33に出力する。出力は、ディスプレーに表示、又はプリンターでプリントアウト等することができる。
【実施例】
【0043】
人工衛星等音響振動解析システム(JANET, JAXA Acoustic Analysis Network System)には、NASAの手法とインピーダンス手法の2つの振動予測手法が組み込まれている。JANETシステムに本発明による動質量予測手法を追加した装置を作成した。
図5にJANETシステムの概略構成図を示す。この装置を使用して、振動の予測値を求め、振動の実験結果と比較した。
【0044】
図6に、衛星の振動実験装置41の概略図を示す。衛星又は機器を搭載したパネル42を実験装置に入れ、高音圧で高周波の音響振動を与える。音響振動は、例えば140dBで周波数は11kHz以下である。このときの機器を搭載したパネルの振動応答を測定する。
【0045】
図7は、本発明の実施例1として、パネルに搭載機器A1(質量22kg)を搭載した場合について、1/3オクターブ中心周波数で、音響振動の実験を行い、搭載機器A1の振動を測定した。また、搭載機器A1について1/3オクターブ中心周波数で、本発明の動質量手法、NASAの手法、インピーダンス手法を使用して、振動予測を行った。振動予測結果と振動実験結果とを比較した結果を示す。
インピーダンス手法による予測結果は、周波数200Hz付近では振動実験結果に近いが、周波数が大きくなるに従って振動実験結果から遠くなる。NASAの手法による予測結果は、周波数2000Hz付近では振動実験結果に近いが、それより低い周波数では、振動実験結果から遠くなる。本発明の動質量手法による予測結果は、周波数200Hz〜2000Hzの全範囲にわたって、振動実験結果に近いことがわかる。
【0046】
図8に、本発明の実施例2として、別のパネルに別の搭載機器B(質量35kg)を搭載した場合の振動予測結果を示す。図9に、本発明の実施例3として、別のパネルに別の搭載機器C(質量9kg)を搭載した場合の振動予測結果を示す。実施例1〜3に使用したパネル、搭載機器の条件を表1に示す。
図7〜9から、パネルの条件、対象機器の質量によらず、本発明の動質量手法を用いて計算した振動の予測値は、NASAの手法、インピーダンス手法を用いて予測した場合と比較して、振動実験結果に近いことがわかる。
【0047】
表1

【0048】
(動質量の周波数平均値の妥当性の検証)
以下に、(2-2)式に示す動質量の周波数平均が、弾性体に対し広く成り立つことを、モンテカルロシミュレーションにより検証する。

(B-1)
ここに、f0は弾性体の一次固有振動数、fは周波数である。
【0049】
図11に示すような直列に連結されたN自由度系のシステムを考える。mi(i=1,2,…,N)はi番目の質量であり、ki,ciはそれぞれi番目の質量の左側のバネのバネ定数、ダッシュポットの減衰係数である。
このN自由度系は、力fによって質量m1が加振されており、加振点で加速度U‥を観測する。この時、N自由度系の動質量は、

である。
【0050】
多様な構造に対して動質量の周波数平均値の式である式(2-2)、((B-1))が成立することを確認するために、全ての質量miとバネ定数kiを互いに独立な一様ランダム変数として与えるモンテカルロシミュレーションを行った。表B-1にモンテカルロシミュレーションの条件を示す。ランダム変数により500個の50自由度系を生成し、それぞれの動質量を計算した。減衰については、減衰係数比ζを1%, 5%, 10%と変化させて計算を行った。

【0051】
表B-1 モンテカルロシミュレーションの条件

図12〜14に、減衰係数比ζを1%, 5%, 10%とした時の動質量の計算結果を示す。図の横軸は、周波数をN自由度系のベース加振時の一次固有振動数で、正規化した周波数であり、正規化周波数で70まで、刻み幅0.2で計算した。図の縦軸は、動質量をN自由度系の総質量で正規化した動質量である。動質量の計算結果から、以下が考察される。
【0052】
1) 図12〜14は500個のN自由度系の動質量を重ね書きしたものであるが、高周波数程、動質量のピークと谷の周波数のばらつきが大きい。これは、高周波数程、構造がランダムであることを示している。
2) 減衰係数比によらず、正規化周波数1以上で、動質量は、式(B-1)を中心として周波数変動している。
3) 減衰係数比が大きくなるほど、共振ピークが抑えられるため、式(B-1)に近い動質量となっている。
4) 正規化周波数1における動質量ピークは、N自由度系の加振点が固定された場合の共振周波数であり、減衰係数比が小さいほど大きく、その値は概ね1/(2ζ)である。
以上から、式(B-1)は、周波数により変化する動質量の周波数平均値を良く近似していると考えられる。
【0053】
そこで、動質量の周波数平均を考える。正規化周波数に対し、iを整数として、バンド区間[2i/n-1/2n,2i/n+1/2n]を持つ中心周波数2i/nの1/nオクターブバンドを導入する。減衰係数比ζを1%, 5%, 10%とした時の500個のN自由度系の動質量に対し、1/1オクターブバンド周波数平均及びアンサンブル平均(N自由度系の個体間平均)を行った結果を図15に示す。二次固有振動数以上では、式(B-1)と動質量の平均値は極めて良く一致していることが分かる。
以上のモンテカルロシミュレーション結果から、式(B-1)は現実の様々な構造物の動質量の周波数平均値の良い近似を与えることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、宇宙産業、特に人工衛星の音響加振下におけるパネルのランダム振動に関する設計、解析に利用することができる。
また、宇宙産業以外でも、パネルに機器が搭載されている構造物の振動レベルを予測するのに利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】弾性体と質点の動質量を表す図。
【図2】1/3オクターブバンド中心周波数と予測誤差を示す図。
【図3】本発明によるパネルの振動予測装置のブロック図。
【図4】本発明による動質量法を用いた振動予測手法のフローチャート。
【図5】人工衛星等音響振動解析システムの構成図。
【図6】衛星の振動実験装置の概略図。
【図7】本発明の実施例1による振動予測結果と振動実験結果を示す図。
【図8】本発明の実施例2による振動予測結果と振動実験結果を示す図。
【図9】本発明の実施例3による振動予測結果と振動実験結果と設計時のスペックを示す図。
【図10】部分構造合成法を示す概念図。
【図11】直列に連結されたN自由度系の概念図。
【図12】減衰係数比ζが1%の場合の動質量計算結果。
【図13】減衰係数比ζが5%の場合の動質量計算結果。
【図14】減衰係数比ζが10%の場合の動質量計算結果。
【図15】動質量の周波数・個体間平均の計算結果。
【符号の説明】
【0056】
20 中央処理装置
21 演算装置
22 NASA手法計算部
23 対象機器影響係数計算部
24 予測値計算部
28 記憶装置
29 プログラム記憶部
30 データ記憶部
31 計算結果記憶部
32 入力装置
33 出力装置
41 振動実験装置
42 機器を搭載したパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器を搭載するパネルが加振されるときのランダム振動を予測する装置であって、
記憶装置と、演算装置と、入力装置と、出力装置とを備え、
前記記憶装置は、
計算式を記憶するプログラム記憶部と、
前記パネル、前記搭載機器のデータを記憶するデータ記憶部と、
前記計算式により計算した計算結果を記憶する計算結果記憶部とを含み、
前記演算装置は、
前記対象機器以外の機器を搭載した前記パネルの振動応答を、搭載機器の質量がパネル体に一様に分布しているとして計算するNASA手法計算部と、
前記対象機器を弾性体として取扱い、前記対象機器を搭載したことによる振動低減効果を示す対象機器影響係数を計算する対象機器影響係数計算部と、
前記NASA手法計算部が計算した前記対象機器以外の前記搭載機器を搭載した前記パネルの振動応答に、前記対象機器影響係数計算部が計算した前記対象機器影響係数を乗じて、前記対象機器の振動予測値を計算する予測値計算部と、を備え、
前記対象機器の振動を精度良く予測することを特徴とする振動予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動予測装置であって、前記対象機器影響係数計算部は、前記対象機器の動質量を用いて、振動予測値を計算する装置。
【請求項3】
請求項2に記載の振動予測装置であって、前記対象機器の振動数が前記対象機器の一次固有振動数より小さい範囲では、前記対象機器の動質量は静質量と同じ値とし、前記対象機器の振動数が前記搭載機器の一次固有振動数より大きい範囲では、前記対象機器の振動数が大きくなるに従って、前記対象機器の動質量は次第に小さくなるとして振動予測値を計算する装置。
【請求項4】
請求項3に記載の振動予測装置であって、前記対象機器の動質量を、

ここに、Mcは動質量、f0は弾性体(前記対象機器)の一次固有振動数、fは周波数、
として、前記対象機器の前記対象機器影響係数を計算する装置。
【請求項5】
機器を搭載するパネルが加振されるときのランダム振動を予測する方法であって、
a) 対象機器以外の機器を搭載したパネルについて、搭載機器の質量がパネルに一様に分布しているとして振動を計算し、
b) 前記対象機器を弾性体として取扱い、前記対象機器を搭載したことによる振動低減効果を示す対象機器影響係数を計算し、
c) ステップa)において前記対象機器以外の機器を搭載したパネルの振動を計算した結果に、ステップb)で求めた前記対象機器影響係数を乗じて、前記対象機器の振動予測値を計算するステップと、
を備えるパネルの振動を精度よく予測することを特徴とする振動予測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の振動予測方法であって、
前記ステップb)では、前記対象機器の質量として動質量を用いて、前記対象機器影響係数を求める方法。
【請求項7】
請求項6に記載の振動予測方法であって、
前記対象機器の振動数が前記対象機器の一次固有振動数より小さい範囲では、前記対象機器の動質量は静質量と同じ値とし、前記対象機器の振動数が前記搭載機器の一次固有振動数より大きい範囲では、前記対象機器の振動数が大きくなるに従って、前記対象機器の動質量は次第に小さくなるとして振動予測値を計算する方法。
【請求項8】
請求項7に記載の振動予測方法であって、前記対象機器の動質量を、

ここに、Mcは動質量、f0は弾性体(前記対象機器)の一次固有振動数、fは周波数、
として、前記対象機器の前記対象機器影響係数を計算する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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