説明

勾配構造を特徴とする生体吸収性多孔質材料

【課題】再生医療分野において細胞培養に適した基材を提供する。
【解決手段】生体吸収性ポリマーからなり、ポロシティが10〜90 %、ポアサイズが10〜800 μm、さらには表面に開孔を有し、かつ少なくとも一方の表面においてポアサイズ200 μm以上のポアが5 個/1 mm2以上存在し、かつ異なるポロシティが連続的に存在する勾配構造を特徴とする多孔質材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体吸収性多孔質材料に関する。更に詳しくは、細胞密度及び細胞漏れをコントロール可能な勾配構造を特徴とする生体吸収性多孔質材料、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大きく損傷したり失われた生体組織と臓器の治療法として、細胞の分化、増殖能を利用し元の生体組織および臓器に再構築する再生医療の研究が活発になってきている。生体内において細胞が分化・増殖する場合、細胞外マトリックスが足場として機能し、組織の構築を行っているが、組織が大きく損傷し欠損している場合、細胞自身がマトリックスを産生するまで人工及び天然材料で補う必要がある。つまり足場材料は組織構築の上で最適な環境を与える重要なファクターである。この足場材料に求められる特性としては、1)生体吸収性、2)細胞接着性、3)多孔質性、4)力学強度などが挙げられ、これらの特性を満足する材料を創生することを目的として、合成高分子(ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなど)(例えば非特許文献1,2)、天然高分子(コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサンなど)(例えば非特許文献3,4)、無機材料(ハイドロキシアパタイト、β−リン酸三カルシウム)(例えば非特許文献5)、およびこれらの複合体などがこれまで検討されている。
【0003】
前述したように、足場材料に求められる重要な特性の1つとして多孔質性がある。これは組織を再生させるのに必要な細胞への十分な酸素及び栄養を補給し、二酸化炭素や老廃物を速やかに排出する意味において重要である。そのため、足場材料の多孔質性を達成するために凍結乾燥法(例えば非特許文献6)、相分離法(例えば非特許文献7)、発泡法(例えば非特許文献8)により均一な多孔質体を作製している。
【0004】
しかし、実際の生体組織は均一な構造ではなく連続的な勾配構造を示している。例えば関節軟骨組織においては、表層部は細胞密度が低いが、下骨に近いほど細胞密度が比較的高い。つまり、より生体に近い組織を再生させるためには連続的な勾配構造を示す足場材料の開発が重要である。しかし前記従来技術では、ポアの空間的分布を制御することが困難であり、連続的な勾配構造を示す足場材料の作製には制限がある。しかし最近になってAthanasiou他(例えば特許文献1)Mikos他(例えば特許文献2)らにより、連続的な勾配構造を示す足場材料の検討が報告されている。しかし、構造が生体に非類似であったり、製造法にソルトリーチング法が使用されているためソルトを溶出させる工程が入り、製造が複雑かつ時間が掛かるなどの問題が挙げられる。これらの課題を解決するためにETHICON INCORPORATED(例えば特許文献3)により、凍結乾燥法による連続的な勾配構造を示す足場材料の検討が報告されているが、溶媒に1,4-ジオキサンを使用しているため凍結した際得られる1,4-ジオキサンの結晶サイズが小さく、これにより凍結乾燥後の足場材料のポアサイズも同様に小さくなる。そのためこの方法により得られた足場材料は細胞が入り込み難いなどの問題がある。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,607,474号明細書
【特許文献2】米国特許第5,514,378号明細書
【特許文献3】特開2001-49018号公報
【非特許文献1】Y.Ikada,H.Tsuji,Macromol.Rapid.Commun.,21,117(2000)
【非特許文献2】Mayer,E.Karamuk,T.Akaike,E.Wintermantal,J.Control.Release.,14,81(2000)
【非特許文献3】Weinberg.C.B,Bell.E,Science.,231,397(1986)
【非特許文献4】Aigner.J,Tegeler.J.A,Hutzler.P,Campoccia.D,Naumann.A,. J.Biomed.Mater.Res.,42,172(1998)
【非特許文献5】Laffargue.P.H,Marchandise.X,Bone.,25(2S),55S(1999)
【非特許文献6】K.Wang,K.E.Healy,Polymer.,36,837(1995)
【非特許文献7】P.X.Ma,R.Zhang,J.Biomed.Mater.Res.,45,285(1999)
【非特許文献8】D.J.Mooney,R.Langer,Biomaterials.,17,1417(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、生体吸収性多孔質材料、とくに再生医療分野において細胞培養に適した多孔質材料を提供することにある。詳細には、生体組織に類似した勾配構造を有することを特徴とし、かつ構造体のポアサイズが比較的大きい生体吸収性多孔質材料を簡易的な手法により提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は前記課題を解決するために、基材として生体吸収性ポリマーを選択し、さらに室温付近に融点を示しかつ凍結した際の結晶サイズが比較的大きい有機溶媒を用いた凍結乾燥法に着目し、生体組織に類似した勾配構造を特徴としかつ構造体のポアサイズが比較的大きい生体吸収性多孔質材料の開発に至った。
【0008】
本発明は、以下の通りである。
1.生体吸収性ポリマーからなり、ポロシティが10〜90 %、ポアサイズが10〜800 μm、さらには表面に開孔を有し、かつ少なくとも一方の表面においてポアサイズ200 μm以上のポアが5 個/1 mm2以上存在し、かつ異なるポロシティが連続的に存在する勾配構造を特徴とする多孔質材料。
2.該生体吸収性ポリマーが、主として脂肪族ポリエステルからなる上記1記載の多孔質材料。
3.該脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、またはそれらの共重合体からなることを特徴とする上記2記載の多孔質材料。
4.生体吸収性ポリマーと、融点が15〜30 ℃である有機溶媒とからなるポリマー溶液を調整し、次いで凍結乾燥することを特徴とする上記1記載の多孔質材料の製造方法。
5.該有機溶媒がジメチルスルホキシドであることを特徴とする上記4記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、再生医療分野において有用な生体組織に類似した勾配構造を特徴とする生体吸収性多孔質材料を提供することが可能となった。この生体吸収性多孔質材料は再生医療分野において細胞培養基材、特に軟骨再生用基材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。なお、これらの実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0011】
本発明の多孔質材料は生体吸収性ポリマーからなり、好ましくは脂肪族エステルからなる。脂肪族エステルとしては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、トリメチレンカーボネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートおよびこれらの共重合体などが挙げられる。これらのうち、脂肪族ポリエステルとしては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンおよびこれらの共重合体が好ましい。
【0012】
本発明の生体吸収性多孔質材料には、生体吸収性ポリマー以外の第2成分を含有するものであっても良い。該成分には、例えばコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンなどのタンパク質および/またはポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジンなどのポリアミノ酸および/またはポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナンなどの糖質および/またはホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどのリン脂質および/またはFGF(繊維芽細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、TGF−β(β型形質転換増殖因子)、NGF(神経増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、BMP(骨形成因子)などの細胞増殖因子などが第2成分として挙げられる。
【0013】
本発明の多孔質材料は、ポロシティが10〜90 %、ポアサイズが10〜800μm、さらには表面に開孔を有し、かつ少なくとも一方の表面においてポアサイズ200 μm以上のポアが5 個/1 mm2以上存在する。すなわち本発明の多孔質材料は構造体のポアサイズが比較的大きいことを特徴とする。
【0014】
ポロシティが10%未満であると生着する細胞数が少なく、また90%を超えると生着する細胞数は多いものの、殆どが空間であるために機械強度が低く足場材料としては好ましくない。またポアサイズが10 μm未満であると細胞が入り難く、また800 μmを超えると細胞は入るものの漏れ易く好ましくない。
さらには一方の表面においてポアサイズ200 μm以上のポアが5 個/1 mm2未満であると、細胞が入り込み難くさらには生着し難いなどの問題がある。
【0015】
本発明の多孔質材料は、異なるポロシティが連続的に存在する勾配構造を特徴とする。異なるポロシティが連続的に存在する勾配構造とは、2段階以上の勾配構造であれば良く、多段でも2段でも構わない。
中でもポロシティが大きくかつポアサイズが大きい層と、ポロシティが小さくかつポアサイズが小さい層とが段階的に存在することが好ましい。
中でもポロシティが大きく、かつポアサイズ200 μm以上のポア数が多い層と、ポロシティが小さく、かつポアサイズ200 μm以上のポア数が少ない層とが段階的に存在することが好ましい。
【0016】
2段階以上の異なるポロシティを有する構造、すなわち生体組織に類似した勾配構造を有することとなり、細胞密度及び細胞漏れをコントロールすることが可能であり、再生医療分野において細胞培養に適した基材が提供できる。
また本発明は生体吸収性ポリマーと有機溶媒とからなるポリマー溶液を調整し、次いで凍結乾燥することを特徴とする上記の多孔質材料の製造方法である。
【0017】
本発明に使用される有機溶媒としては、融点が15〜30 ℃を示す有機溶媒が好ましい。なかでもジメチルスルホキシドやスルホラン等が好ましい。融点が15 ℃以下を示す有機溶媒であると凍結乾燥後得られた成型体のポアサイズが小さく細胞培養基材としては好ましくない。また融点が30 ℃以上であると凍結はするものの乾燥中に溶媒が昇華せず成型体が得られない。さらに得られた成型体のポアサイズを考慮した場合、凍結した際得られる結晶サイズが大きいジメチルスルホキシドが最も好ましい。
【0018】
本発明で用いるポリマーと有機溶媒からなるポリマー溶液の濃度は、1〜30重量%が好ましい。1重量%以下であると得られた成型体の機械強度が低く細胞培養基材として好ましくない。また30 重量%以上であるとポリマー溶液の粘度が高くなり凍結乾燥では溶媒を十分に除去できず成型体が得られない。
本発明で用いる凍結乾燥法は特に限定はされないが、凍結する際温度勾配をつけて徐々に凍結させる方法がより均一な多孔質性材料を得る意味で好ましい。
【実施例】
【0019】
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例に使用したポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(50/50 Poly(DL-lactide-co-glycolide),Inherent viscosity:1.08dL/g in HFIP,30℃)はBirmingham Polymers,Inc、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサンは和光純薬工業(株)製を使用した。
ポロシティについては下記式により算出した。
ε=(1-ρ/ρp)×100
ρ=4m/πd2h
(ε:ポロシティ,ρ:多孔質材料の見かけ密度,m:質量,d:半径,h:厚さ, ρp:ポリマー固有密度(50/50 Poly(DL-lactide-co-glycolide:1.34g/ml))
【0020】
またポアサイズについては、試料をスッパタコーティング(Pt1.0nm)処理し、SEM(JSM−5310型(日本電子製)、加速電圧:2.0 kV、撮影角度30 °)により観察を行った。さらにこのSEM写真を用いて、ポアサイズ200 μm以上のポアの数をカウントした。
【0021】
[実施例1]
ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体1 gを、ジメチルスルホキシド19 gに溶解し濃度5 %のドープ溶液を調整した。同様にポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体1 gを、ジメチルスルホキシド9 gに溶解し濃度10 %のドープ溶液を調整した。まず5 %ドープを10 mlのフッ素樹脂製容器に5 ml流し入れ、真空脱気後凍結させた。凍結はより均一なスポンジを得るため、細胞用凍結処理容器BICELLを用いて4 ℃〜-20 ℃まで-1 ℃/min で冷却して行った。さらにその上に10 %のドープ溶液を5 ml流し入れ、同様に真空脱気後、細胞用凍結処理容器BICELLを用いて凍結させた。そして20 Paで6時間凍結乾燥を行った。サンプルをエタノールで置換し真空乾燥を行い多孔体を得た。得られた多孔体のポロシティ、ポアサイズ及びポアサイズ200 μm以上のポア数を表1に示す。図1に上部のSEM写真を、図2に下部のSEM写真をを示す。
【0022】
[比較例1]
溶媒をジメチルスルホキシドに代わり、1,4-ジオキサン(融点:11.8 ℃)を使用した以外実施例1と同様に多孔体を得た。得られた多孔体のポロシティ、ポアサイズ及びポアサイズ200 μm以上のポア数を表1に示す。図3に上部のSEM写真を、図4に下部のSEM写真をを示す。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の生体組織に類似した勾配構造を特徴とする生体吸収性多孔質材料は、再生医療分野において細胞培養基材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られた多孔体上部の走査型電子顕微鏡写真。
【図2】実施例1で得られた多孔体下部の走査型電子顕微鏡写真。
【図3】比較例1で得られた多孔体上部の走査型電子顕微鏡写真。
【図4】比較例1で得られた多孔体下部の走査型電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性ポリマーからなり、ポロシティが10〜90 %、ポアサイズが10〜800 μm、さらには表面に開孔を有し、かつ少なくとも一方の表面においてポアサイズ200 μm以上のポアが5 個/1 mm2以上存在し、かつ異なるポロシティが連続的に存在する勾配構造を特徴とする多孔質材料。
【請求項2】
該生体吸収性ポリマーが、主として脂肪族ポリエステルからなる請求項1記載の多孔質材料。
【請求項3】
該脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、またはそれらの共重合体からなることを特徴とする請求項2記載の多孔質材料。
【請求項4】
生体吸収性ポリマーと融点が15〜30 ℃である有機溶媒とからなるポリマー溶液を調整し、次いで凍結乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項5】
該有機溶媒がジメチルスルホキシドであることを特徴とする請求項4記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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