説明

包接化合物

【課題】 クロロフィルを多様な有益効果を有したままで安定化させる。
【解決手段】 この包接化合物は、クロロフィルがシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体で包接されて成る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、包接化合物に関する。さらに詳述すると、本発明は、クロロフィルとシクロデキストリンとより成る包接化合物に関する。
【0002】
【従来の技術】クロロフィル(葉緑素)は、植物や藻類、細菌などの細胞質の葉緑体(クロロプラスト)中に含まれる緑色のポルフィリン系色素である。クロロフィルは、葉緑体に、クロロフィルa(青緑色)やクロロフィルb(黄緑色)等の形で含まれ、緑葉体中で光エネルギーを吸収し、励起して光合成を行う。クロロフィルは、環境ホルモン排泄作用や着色作用、創傷治癒作用、抗潰瘍作用、血清コレステロール低下作用、脱臭作用、腸の蠕動運動の亢進作用、抗変異原性、抗アレルギー作用、制ガン作用など多くの有益効果が認められて注目を集め、すでにクロロフィルを含有した胃腸薬や歯磨き剤、口臭防止用ガムなどが商品化されている。
【0003】一方、シクロデキストリンは環状構造を成し、当該環状構造の中空部分に適当な大きさの有機化合物が包接され得るため、プロスタグランジンなどの不安定な生理活性物質の安定化、臭気や苦味の除去、液状物質の粉末化、脂溶性物質の水溶性などに利用されている。このような性質を応用して、天然色素であるβ−カロチンをシクロデキストリンで包接した包接化合物に関しての特許が出願されている(特開昭62−267261号公報)。また、β−カロチンをα−シクロデキストリンで包接した包接化合物に関しての特許が出願されている(特開平4−244059号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、クロロフィルは、上述したような優れた特性を多々有し、多くの用途が期待されているにもかかわらず、現実には用途が限られていて、利用開発が進んでいるとはいえないのが現状である。これは、クロロフィルの不安定な性質によるものと考えられる。
【0005】即ち、クロロフィルは光や紫外線によって、または高温条件下で、退色や変色を起こしてしまう。これは、クロロフィル分子中のフィトールとのエステル結合がクロロフィラーゼ(加水分解酵素の一種)によって加水分解されてクロロフィライドになり、酸の影響でマグネシウム(Mg)が脱離してフェオホルバイド等が生成して褐変するためと考えられる。例えば、クロロフィルaからマグネシウムとフィトールが脱離すると、フェオホルバイドaとなる。また、クロロフィルaからマグネシウムとフィトールとCO・CHが脱離すると、ピロフェオホルバイドaとなる。クロロフィルaの構造式を化学式1に、フィトールの構造式を化学式2に、フェオホルバイドaの構造式を化学式3に、ピロフェオホルバイドaの構造式を化学式4に、それぞれ示す。
【0006】
【化1】


【0007】
【化2】


【0008】
【化3】


【0009】
【化4】


【0010】さらに、クロロフィルが退色等した場合に生成されるフェオホルバイド等は皮膚刺激を与えるなど人体に悪影響を及ぼす。これは、フェオホルバイド等が血液を介して生体内各組織細胞に運ばれると、この物質の存在下で光により活性化された酸素が細胞膜を構成している脂肪酸(アラキドン酸)等を酸化して過酸化脂質を作り、この過酸化脂質が生体膜の組織細胞の破壊やその他の各種障害を誘発し、毛細管の透過性を高めて皮膚の掻痒感を生じるためと考えられる。
【0011】そこで本発明は、クロロフィルを多様な有益効果を有したままで安定化させることができる包接化合物を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するため、本発明者等が鋭意研究・実験・検討を重ねた結果、クロロフィルをシクロデキストリンで包接することで、クロロフィルの有益な機能を有したまま、クロロフィルを安定化させることができ、退色などの不安定性を解消できることを知見するに至った。
【0013】請求項1記載の包接化合物は、かかる知見に基づくものであって、クロロフィルがシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体で包接されて成るものである。
【0014】したがって、クロロフィルは、退色・変色することなく、またフェオホルバイド等の有害物質に変化することなく、安定した状態でシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体の環状構造の中空部分に包接される。一方でクロロフィルは、例えば水分子との交換によってシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体から解離して、有効成分としての多様な効果を発揮する。
【0015】さらに、γ−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンの誘導体をホストとするとき、クロロフィルが良好に包接されて一層安定した状態となることが実験により知見された。請求項2記載の包接化合物は、かかる知見に基づくものであって、クロロフィルがγ−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンの誘導体で包接されて成るものである。
【0016】また、請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の包接化合物において、クロロフィルは熊笹から得られたものとしている。この場合、各地に多く生息し大量且つ容易に入手可能であるにもかかわらずその存在量と比較して従来十分な利用が図られていなかった熊笹を、有効に利用することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の包接化合物の実施の一形態を詳細に説明する。この包接化合物は、クロロフィルがシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体で包接されて成るものである。
【0018】クロロフィル(葉緑素)は、植物や藻類、細菌などの細胞質の葉緑体中に含まれる緑色のポリフィリン系色素であって、光合成において中心的な役割を持つマグネシウム1原子を中心に持つポリフィリンであり、多くの場合、蛋白質と複合体を作って光合成膜中に存在する。本発明に用いるクロロフィルを得る方法は特に限定されるものではない。例えば緑色の植物や藻類、細菌などから有機溶剤を用いてクロロフィルを抽出することができる。有機溶剤としては、特に限定するものでないが、脂肪族アルコール系の溶剤が望ましく、例えばエタノールやプロピレングリコールが最適である。
【0019】ここで、本発明に用いるクロロフィルとしては、特に熊笹から得られたものが望ましい。この場合、各地に多く生息し大量且つ容易に入手可能であるにもかかわらずその存在量と比較して従来十分な利用が図られていなかった熊笹を、有効に利用することができる。尚、クロロフィルには、クロロフィルa,b,c,d,e等と複数種あるが、本発明にはこれらクロロフィル全般が適用可能である。
【0020】シクロデキストリンは、デンプンから酵素反応により合成され、ブドウ糖を構成単位とする環状無還元マルトオリゴ糖である。環を構成するブドウ糖の数が、6個のもの(即ち重合度が6のもの)をα−シクロデキストリン、7個のもの(即ち重合度が7のもの)をβ−シクロデキストリン、8個のもの(即ち重合度が8のもの)をγ−シクロデキストリンという。環を構成するブドウ糖の数により環内孔のサイズが異なる。本発明者等が種々実験・検討した結果、α−シクロデキストリンはホストとしてのサイズが小さくてクロロフィルの包接がやや不完全であること、β−シクロデキストリンでもホストとしてのサイズがやや小さくてクロロフィルの包接が完全ではないこと、γ−シクロデキストリンであればクロロフィルの包接の度合いが高まりα−シクロデキストリンやβ−シクロデキストリンを用いた場合と比べてクロロフィルがより安定した状態となることが知見された。一般に市場で入手できるのはα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンの3種であるが、このうちγ−シクロデキストリンがクロロフィルを包接するホストとして最も適した物質であるといえる。α−シクロデキストリンの構造式を化学式5に、β−シクロデキストリンの構造式を化学式6に、γ−シクロデキストリンの構造式を化学式7に、それぞれ示す。
【0021】
【化5】


【0022】
【化6】


【0023】
【化7】


【0024】ただし、上記知見を外挿すると、環を構成するブドウ糖の数が9個あるいは10個、11個、…等、さらにホストとしてのサイズが大きいシクロデキストリンを用いることで、より良好にクロロフィルを安定化することができると推定される。したがって、γ−シクロデキストリンより更に重合度の高いシクロデキストリンが得られれば、これを本発明に用いても良いのは勿論である。例えば、γ−シクロデキストリンより更に重合度の高いδ−シクロデキストリン、ε−シクロデキストリンの存在が知られている。
【0025】また、シクロデキストリンの各種誘導体(例えばメチル体、ヒドロキシルプロピル体、モノアセチル体、トリアセチル体、モノクロロトリアジニル体などのシクロデキストリン各種誘導体)を、クロロフィルを包接するホストとして用いることも可能である。本発明者等が種々実験・検討した結果、母体がシクロデキストリン(特にγ−シクロデキストリン)であればクロロフィルを安定化することができ、化学修飾の各基による影響は少ないことが知見されたからである。
【0026】以下、クロロフィルがシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体で包接されて成る包接化合物を、本明細書では、クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物と呼ぶ。
【0027】クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、75%アルコール水(即ち、75重量%のアルコールと25重量%の水からなる溶液)中にクロロフィルとシクロデキストリンを例えばモル比1:1で加えてよく撹拌してから、溶媒であるアルコール水を留去してクロロフィルがシクロデキストリンで包接された包接化合物を粉末として得ることができる。また、クロロフィルに対するシクロデキストリンの使用量は、特に限定されるものでないが、例えば等モル比〜1:10モル比の範囲での使用が好適であり、等モル比〜1:2モル比の範囲での使用がより望ましい。
【0028】クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物は、その用途が特に限定されるものではなく、例えば食品や化粧品または医薬品等に適用できる。例えば、クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物を化粧品(例えば皮膚に塗布する化粧水やクリーム)に用いた場合の、クロロフィルの有効成分としての作用機構は以下の通りである。即ち、水溶液や乳化液中でクロロフィルは、シクロデキストリンと包接化合物(包接体)を形成するが、同時に水分子との交換による解離も行われる。ここで、水溶液や乳化液を入れている容器内では容器上部の液面のみが空気と接触し、解離したクロロフィルが放出する可能性のある開放系を構成している。また、包接化合物を含有する水溶液や乳液を皮膚表面に塗布した場合も、空気に触れる液表面は無限大に広がり解離したクロロフィルが放出する可能性のある開放系を構成する。そして、液表面からクロロフィルが空気中にいったん放出されると、再びクロロフィルの分子が溶液に戻ってシクロデキストリンに包接されることは皆無に近い。以上のことから、クロロフィルは、開放系において適当な水分が存在すると、シクロデキストリンから効率よく解離して有効成分としての効果を発揮する事が容易に推測できる。
【0029】次に、本発明の実施例として、クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物の製造例並びに本発明の効果を確認するための実験結果について説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を何ら限定するものではない。
【0030】
【実施例1】先ず、本実施例の実験に用いたクロロフィル−シクロデキストリン包接化合物の製造例について説明する。熊笹葉部乾重100g(湿重360g)を50mm幅に裁断し、この熊笹をエタノール500mlに浸して室温で24時間放置することでクロロフィルを抽出して、クロロフィル含有エタノール溶液を得た。次いで、このクロロフィル含有エタノール溶液100mlにシクロデキストリン1gを加え、室温で1時間撹拌して、クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物を含有したエタノール溶液を得た。ここで、上記の添加するシクロデキストリンとして、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンの3種を用いて、当該3種ごとのクロロフィル−シクロデキストリン包接化合物含有エタノール溶液を得た。加えて、比較用として、上記方法より得たクロロフィル含有エタノール溶液(シクロデキストリンを添加しないもの)を用意した。
【0031】以上の計4種の試験溶液を40日間日光暴露して、各溶液の色をデジタルカメラで撮影し、画像データを数値化するソフトウェアを用いて、退色の程度をRGB値で表して色安定性の程度を確認した。表1に測定結果を示す。
【表1】


【0032】数値の大きいほど退色が進んでいることを表している。退色の度合いは、シクロデキストリン無添加の試験溶液が最も大きく、次いで、α−シクロデキストリンを用いた試験溶液、β−シクロデキストリンを用いた試験溶液、γ−シクロデキストリンを用いた試験溶液の順であった。
【0033】尚、実験開始時において試験溶液間で既にRGB値に差が生じているのは、用いたシクロデキストリンの構造の差異等に起因するものと推定される。また、表1においては、シクロデキストリン無添加の試験溶液とα−シクロデキストリンを用いた試験溶液とは同じ結果となっているが、当該結果に至る経過は異なるものであった。図1は、試験溶液を日光暴露した経過日数を横軸に、当該経過日数に対応する試験溶液のRGB値を縦軸にとったグラフを示す。図1中の符号aはシクロデキストリン無添加の試験溶液、符号bはα−シクロデキストリンを用いた試験溶液、符号cはβ−シクロデキストリンを用いた試験溶液、符号dはγ−シクロデキストリンを用いた試験溶液の結果を示す。図1から分かるように、日光暴露試験の初期から中期にかけて、シクロデキストリン無添加の試験溶液よりもα−シクロデキストリンを用いた試験溶液の方が、RGB値の増分/経過日数で示される傾きが緩やかであった。
【0034】以上の実験結果から、シクロデキストリンがクロロフィルを包接することで、クロロフィルが安定化されること、特にγ−シクロデキストリンの利用が有効であることが確認された。
【0035】
【実施例2】本実施例の実験に用いるクロロフィル−シクロデキストリン包接化合物は、実施例1と同様の方法で製造した。ただし、添加するシクロデキストリンとして、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンの夫々のメチル体、ヒドロキシルプロピル体、モノアセチル体、トリアセチル体、モノクロロトリアジニル体の各種誘導体(化学修飾体)を用いて、15種のクロロフィル−シクロデキストリン包接化合物含有エタノール溶液を得た。加えて、実施例1と同様に、比較用としてシクロデキストリンが添加されていないクロロフィル含有エタノール溶液を用意した。
【0036】以上の計16種の試験溶液を40日間日光暴露して、各溶液の色をデジタルカメラで撮影し、画像データを数値化するソフトウェアを用いて、退色の程度をRGB値で表して色安定性の程度を確認した。表2に測定結果を示す。
【表2】


【0037】数値の大きいほど退色が進んでいることを表している。退色の度合いは、シクロデキストリン無添加の試験溶液が最も大きく、次いで、α−シクロデキストリンの各種化学修飾体を用いた試験溶液、β−シクロデキストリンの各種化学修飾体を用いた試験溶液、γ−シクロデキストリンの各種化学修飾体を用いた試験溶液の順であった。尚、実験開始時において試験溶液間で既にRGB値に差が生じているのは、用いたシクロデキストリンの構造の差異等に起因するものと推定される。
【0038】以上の実験結果から、母体がシクロデキストリンであればクロロフィルの安定化効果を発現し化学修飾の各基による影響は少ないこと、特にγ−シクロデキストリン並びにその各種化学修飾体の利用が有効であることが確認された。
【0039】
【実施例3】本実施例では、クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物の粉末を用いた実験を行った。先ず、当該クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物の粉末の製造例について説明する。実施例1と同様の方法で製造したクロロフィル−シクロデキストリン包接化合物のエタノール溶液から、エタノール溶液を留去して乾燥させた後、クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物の粉末を得た。ここで、実施例1と同様に、添加するシクロデキストリンとして、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンの3種を用いて、当該3種ごとのクロロフィル−シクロデキストリン包接化合物の粉末を得た。
【0040】以上の計3種の試験粉末を40日間日光暴露して、各粉末の色をデジタルカメラで撮影し、例えば画像データを数値化するソフトウェアを用いて、退色の程度をRGB値で表して色安定性の程度を確認した。表3に測定結果を示す。
【表3】


【0041】数値の大きいほど退色が進んでいることを表している。退色の度合いは、α−シクロデキストリンを用いた試験粉末が最も大きく、次いで、β−シクロデキストリンを用いた試験粉末、γ−シクロデキストリンを用いた試験粉末の順であった。尚、実験開始時において試験粉末間で既にRGB値に差が生じているのは、シクロデキストリンの構造の差異等に起因するものと推定される。
【0042】以上の実験結果から、シクロデキストリンによりクロロフィルを包接することによるクロロフィルの安定化効果は溶液だけでなく粉末においても同様に発現すること、粉末においてもγ−シクロデキストリンの利用が特に有効であることが確認された。
【0043】
【実施例4】本実施例では、クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物を含有した化粧品を用いた実験を行った。先ず、当該実験に用いた化粧品の製造例について説明する。実施例1と同様の方法で製造したクロロフィル−シクロデキストリン包接化合物のエタノール溶液を用いて、表4に示す処方に従って、常法により、クロロフィル−シクロデキストリン包接化合物含有化粧品(クリーム)を得た。ここで、本実施例では、添加するシクロデキストリンとして、γ−シクロデキストリンのみを用いた。
【表4】


【0044】また、比較用として、実施例1と同様の方法で製造したクロロフィル含有エタノール溶液(シクロデキストリンが添加されていないもの)を用いて、表4に示す処方のうちクロロフィル−シクロデキストリン包接化合物含有エタノール溶液を当該クロロフィル含有エタノール溶液に置き換えて、他の成分は表4に示す処方に従って、常法により、シクロデキストリンが添加されていないクロロフィル含有化粧品(クリーム)を得た。
【0045】以上の計2種の試験用化粧品(クリーム)について、3週間日光暴露する加速試験と、50℃に加温した環境下に3週間放置する加速試験とを行った。試験開始直後(試験クリームの製造直後)および試験開始から1日後、1週間後、3週間後に、各試験用化粧品(クリーム)の色をデジタルカメラで撮影し、画像データを数値化するソフトウェアを用いて、退色の程度をRGB値で表して色安定性の程度を確認した。尚、RGB値の算出は、各試験用化粧品(クリーム)について、離れた10箇所のRGB値の平均値を求めることによって行った。表5および図2に測定結果を示す。
【表5】


【0046】数値の大きいほど退色が進んでいることを表している。γ−シクロデキストリンが添加された試験用クリームは、3週間経過後においても色の変化を起こさず安定であったのに対し、γ−シクロデキストリンが添加されていない試験用クリームは、試験開始直後から著しい退色を示した。特に日光暴露の場合には、経日的にも退色が更に進行する傾向が見られた。尚、RGB値の測定結果は目視においても裏付けられた。
【0047】以上の実験結果から、シクロデキストリンによりクロロフィルを包接することによるクロロフィルの安定化効果が化粧品等のクロロフィル含有製品においても発現すること、日光暴露や加温などの過酷な条件下においてもクロロフィルの緑色が退色しない安定性が得られることが確認された。
【0048】また、上述した実施例1〜実施例4から、シクロデキストリンを添加しないクロロフィル含有試験体と比較して、シクロデキストリン(特にγ−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンの誘導体)を添加したクロロフィル含有試験体の方が、緑色が安定することが明らかとなった。この現象面から、シクロデキストリンをクロロフィル含有試験体に添加したことにより、試験体中のクロロフィルがシクロデキストリンに包接されたものと推定される。
【0049】以上のように本発明によれば、クロロフィルは、シクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体で包接されることで、退色・変色することなく、またフェオホルバイド等の有害物質に変化することなく、安定して存在している。一方でクロロフィルは、例えば水分子との交換によってシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体から解離して、有効成分としての多様な効果を発揮する。
【0050】ここで、シクロデキストリン(特にγ−シクロデキストリン)による緑色安定効果のメカニズムについて考察する。γ−シクロデキストリンのホストサイズから考えて、バルキーな分子構造をもつクロロフィルの基本骨格をゲストとして包接するのは無理があると考えられる。一方、クロロフィルの側鎖であるフィチルエステル部分は親油性の高い長鎖の脂肪族エステルなので、クロロフィルの環状孔と親和力も高いし、ゲストサイズとしても適当な大きさであると考えられる。したがって、γ−シクロデキストリンは、クロロフィルの側鎖であるフィチルエステル部分を包接していると考えられる。当該包接の作用により、クロロフィル分子中のフィトールとのエステル結合がクロロフィラーゼによって加水分解されてクロロフィライドになるのが阻害され、緑色安定効果が発揮されるものと考えられる。
【0051】また、シクロデキストリンがクロロフィルを包接することにより、緑色が褐変するのを抑制する現象は、シクロデキストリンがクロロフィルを包接することにより、クロロフィルが分解されてフェオホルバイド等が生成されるのを抑制している現象であると理解できる。そして、フェオホルバイド等の生成抑制は、結果としてクロロフィルの毒性発現抑制に通じ、クロロフィルの安全性を高めることに繋がる。本発明により、今までクロロフィルの用途開発の妨げになっていた天然色素の安定性と人体への安全性の問題が同時に改善されることになり、多くの有益な新製品を開発することが可能となる。
【0052】したがって、本発明によれば、多様なクロロフィルの機能を有したままで、従来の欠点であったクロロフィルの不安定性を解消できる包接化合物を提供することができる。この包接化合物は、例えば医薬品や化粧品または食品などの分野に広く適用できる有用な新規物質である。例えば、環境ホルモン排泄作用や着色作用、創傷治癒作用、抗潰瘍作用、血清コレステロール低下作用、脱臭作用、腸の蠕動運動の亢進作用、抗変異原性、抗アレルギー作用、制ガン作用などクロロフィルが有する有益効果を備えて、しかも光や紫外線によっても、また高温条件下においても退色や変色または有害物質への化学変化を起こすことのない又は極めて起こり難い医薬品や食品、化粧品等を提供することができる。
【0053】なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本発明に用いるクロロフィルとして、実施例では熊笹から得られたものを用いたが、この例に限定されるものではなく、他の植物や藻類、細菌などから既知又は新規の方法で得られたクロロフィルを用いても良い。また、本発明に用いるシクロデキストリンとしては、ホストとしてのサイズが好適であり尚且つ容易に入手可能であることから、γ−シクロデキストリンの採用が好適であるが、この例に限定されるものではない。γ−シクロデキストリンより更に重合度の高いシクロデキストリンが得られれば、これを本発明に用いても良いのは勿論である。
【0054】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、請求項1記載の包接化合物によれば、クロロフィルがシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体で包接されているので、クロロフィルは、退色・変色することなく、またフェオホルバイド等の有害物質に変化することなく、安定した状態で維持される。一方でクロロフィルは、例えば水分子との交換によってシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体から解離して、有効成分としての多様な効果を発揮する。したがって、クロロフィルが有する多様な有益効果を備え、しかも光や紫外線によっても、また高温条件下においても退色や変色または有害物質への化学変化を起こすことのない若しくは極めて起こり難い医薬品や食品、化粧品等を提供することができる。
【0055】さらに、請求項2記載の包接化合物のように、γ−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンの誘導体をホストとすることで、クロロフィルは良好に包接されて一層安定した状態となる。
【0056】さらに、請求項3記載の包接化合物のように、熊笹から得られたクロロフィルを用いることで、各地に多く生息し大量且つ容易に入手可能であるにもかかわらずその存在量と比較して従来十分な利用が図られていなかった熊笹を、有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の効果を確認するための実験結果を示し、試験溶液を日光暴露した経過日数を横軸に、当該経過日数に対応する試験溶液の退色の程度を表すRGB値を縦軸にとったグラフを示す。
【図2】本発明の効果を確認するための実験結果を示し、試験用化粧品を日光暴露および加温した経過日数を横軸に、当該経過日数に対応する試験用化粧品の退色の程度を表すRGB値を縦軸にとったグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 クロロフィルがシクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体で包接されて成ることを特徴とする包接化合物。
【請求項2】 クロロフィルがγ−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンの誘導体で包接されて成ることを特徴とする包接化合物。
【請求項3】 前記クロロフィルは熊笹から得られたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の包接化合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−321474(P2003−321474A)
【公開日】平成15年11月11日(2003.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−128613(P2002−128613)
【出願日】平成14年4月30日(2002.4.30)
【出願人】(597078846)株式会社 ケンテック (1)
【Fターム(参考)】