説明

包接触媒及びその製造方法

【課題】複数のメソ細孔を有する殻とその殻に包接された触媒物質とを備える包接触媒及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】複数のメソ細孔を有する殻と、その殻に包接された触媒物質と、を備える包接触媒。複数のメソ細孔を有する殻と、その殻に包接された触媒物質とを備え、メソ細孔の平均細孔径が2〜30nmである包接触媒。
包接触媒の製造方法である。殻の原料を含有する油中水(W/O)エマルジョンと触媒物質の前駆体を用いて合成を行い、包接触媒を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包接触媒及びその製造方法に係り、更に詳細には、複数のメソ細孔を有する殻とその殻に包接された触媒物質を備える包接触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、触媒を高活性化する方法として、金属の粒子サイズを小さくし、金属酸化物担体上に高分散担持する方法が一般に知られている。
一方で、金属と金属酸化物担体との親和性が良くないために、触媒の焼成、還元や反応過程において、金属の凝集が起こることによって粒子サイズが大きくなり、触媒の反応活性や選択性が低下するという問題が起きることも知られている。
この問題を解決する手段として、金属超微粒子をマイクロエマルションを利用して金属酸化物で包接、固定化する方法が提案されている(特許文献1及び非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−246343
【非特許文献1】「触媒」,触媒学会,Vol.39,No.4,1997,p268−273
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の触媒にあっては、金属粒子が金属酸化物により殆んど被覆されているため、活性金属粒子と反応物とが接触し難く、触媒としての反応活性が低いという問題があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数のメソ細孔を有する殻とその殻に包接された触媒物質とを備える包接触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、殻の原料を含有する油中水(W/O)エマルジョンと触媒物質の前駆体を用いて合成を行うことなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の包接触媒は、複数のメソ細孔を有する殻と、その殻に包接された触媒物質を備えるものである。
【0007】
また、本発明の包接触媒の製造方法は、上記本発明の包接触媒を製造する方法であって、殻の原料を含有する油中水(W/O)エマルジョンと触媒物質の前駆体を用いて合成を行い、所望の包接触媒を得る方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、殻の原料を含有する油中水(W/O)エマルジョンと触媒物質の前駆体を用いて包接触媒を合成することなどとしたため、複数のメソ細孔を有する殻と、その殻に包接された触媒物質を備える包接触媒及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の包接触媒について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
上述の如く、本発明の包接触媒は、複数のメソ細孔を有する殻と、その殻に包接された触媒物質を備えるものである。
ここで、「メソ細孔」とは、IUPACが定義している直径2〜50nmの細孔を意味する。
【0010】
図1に、本発明の包接触媒の構造を概念的に示す。同図(a)は斜視図であり、同図(b)は部分断面図であり、同図(c)は拡大図である。
同図において、この包接触媒10は殻12と、触媒物質14を有しており、この殻12は中空部Hに触媒物質14を包接している。また、殻12はその表面にほぼ均一に分布する複数個のメソ細孔12pを有し、このメソ細孔12pは殻12を貫通しており、中空部Hと外部とを連通させている。
なお、殻12に包接される触媒物質14は、通常は殻12の内壁に付着しているが、内壁と離れて中空部Hに包接されている場合も本発明の範囲に含まれる。
【0011】
このような構造を有する本発明の包接触媒においては、触媒物質14が殻12に包接されているため、例えば、触媒物質12が典型的な活性金属粒子の場合において、凝集が起こり難くなり、包接触媒の耐久性を向上させることができる。
また、メソ細孔12pを介して外部から中空部Hへの反応物の移動が可能となり、更には触媒物質14の表面積が増加するため、反応物と触媒物質14との接触が容易となり、包接触媒10の反応活性を向上させることもできる。
更にまた、メソ細孔12pを有する殻12を備えるため、分子篩効果により、包接触媒における反応の選択性を向上させることができ、メソ細孔12pの細孔径を制御することができるため、包接触媒10の中空部Hにおける反応を制御することも可能である。
【0012】
本発明の包接触媒は、典型的には、上記の図1に示すような構造を有するが、メソ細孔12pの大きさは、平均細孔径で2〜30nmであることが好ましく、2〜10nmであることがより好ましい。
細孔径が2nm未満では、デカリンなどの大きな分子の出入りが十分ではなく、殻12に包接された触媒物質14を有効に利用することが困難であり、30nmを超えると、機械的強度が不十分になり易く、中空部Hの破壊を招くことがある。
【0013】
また、本発明の包接触媒においては、総数の80%以上のメソ細孔が、上述の平均細孔径の±1nmの範囲内に存在していることが好ましい。
このように、本発明の包接触媒では、メソ細孔径分布が狭い範囲に集中しているため、分子篩効果がより期待できる。例えば、サイズが小さい分子のみを中空部内に導入し、大きい分子は導入しない効果、又は直鎖炭化水素は中空部内に導入されるが、側鎖を有する炭化水素は導入されないなどの効果を活用し、触媒反応の選択性の向上や吸着物質の選択性の向上が可能となる。
【0014】
更に、本発明の包接触媒は、その平均粒子径が0.1〜5μmであることが好ましい。
平均粒子径が0.1μm未満では、機械的強度が不十分になり易く、5μmを超えると、比表面積を有意に向上することが困難になる。
なお、本発明の包接触媒において、殻の厚さは10〜1000nmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましい。
厚さが10nm未満では、機械的強度が不十分になり易く、中空部の破壊を招きやすくなり、1000nmを超えると、メソ細孔が形成できなくなる可能性がある。
【0015】
本発明の包接触媒の殻の材質については、上述の構造や特性を満足する限り特に限定されるものではないが、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)又はジルコニウム(Zr)、及びこれらの任意の混合元素を含む金属酸化物を好適に用いることができる。
このように金属酸化物で殻を形成することにより、機械的強度を向上させることができる。また、上記金属酸化物は、助触媒としても機能できるので、反応活性や選択性を向上させることが可能となる。
【0016】
本発明の包接触媒の触媒物質の材質については、反応物に対して反応活性を示せば有機物や無機物など特に限定されるものではないが、例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、銀(Ag)、鉄(Fe)及びレニウム(Re)、及びこれらの任意の混合元素を含有するものを挙げることができ、このような元素を含有する金属や金属酸化物を好適に用いることができる。
かかる触媒物質は、燃料改質反応やCO選択酸化反応をはじめとする触媒反応に特に顕著な効果を示し、反応活性や耐久性を向上させることができる。
【0017】
次に、本発明の包接触媒の製造方法について詳細に説明する。
本発明の包接触媒の製造方法は、上記本発明の包接触媒を製造する方法であって、殻の原料を含有する油中水エマルジョン(W/O型エマルジョン)と触媒物質の前駆体を用いて合成を行うものである。
より具体的には、例えば触媒物質の前駆体である触媒金属の水溶性塩を、例えば殻の原料である殻を構成する元素を含む金属アルコキシドや有機金属ハロゲン化物が溶解している油中水エマルジョンに溶解し、加水分解等により合成を行うことによって、所望の包接触媒を得ることができる。
なお、例えば触媒金属がロジウムである場合には上記水溶性塩として硝酸ロジウムを用いることができ、例えば殻がシリカである場合には上記殻を構成する元素であるケイ素を含むクロロシラン誘導体などを用いることができる。
かかるW/O型エマルジョンは、製造条件を調整することによって、エマルジョンサイズを制御し易く、従って、これと触媒物質の前駆体を用いることにより、目的に応じた粒子サイズの包接触媒を製造することができる。
更には、殻の原料や触媒物質の前駆体を適宜選択することによって、種々の目的に応じた包接触媒を製造することができる。
【0018】
また、本発明の包接触媒の製造方法においては、油中水エマルジョンを生成する過程で有機テンプレートを添加することが望ましい。
かかる有機テンプレートを添加することにより、均一な径のメソ細孔を殻に有する中空粒子を合成することが可能になる。また、有機テンプレートの種類を変えることにより、細孔径を制御することも可能である。
【0019】
このような有機テンプレートとしては、一般的なメソ細孔材料で使用するテンプレート剤でさえあれば特に限定されるものではないが、非イオン系界面活性剤のソルビタン酸モノステアレート及びアルキルトリメチルアンモニウムなどを挙げることができる。
【0020】
更に、本発明の包接触媒の製造方法においては、油中水エマルジョン中で有機金属ハロゲン化物を加水分解する工程を実施することが好ましい。
有機金属ハロゲン化物を油中水エマルジョン中で加水分解することにより、より安定した球状の包接触媒を合成することが可能となる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を若干の実施例により更に詳細に説明する。
【0022】
(実施例1)
トルエン100ml、蒸留水1.5ml、硝酸Rh0.075g、オクチルトリクロロシラン24mmol、ソリビタン酸モノステアレート0.24mmolを混合し、超音波攪拌することにより、油中水エマルジョンを調製した。
次いで、生成したエマルジョンにメチルトリクロロシランを24mmol添加し、空気中で攪拌、ろ過、洗浄、乾燥、焼成することにより、本例の包接触媒を得た。
【0023】
更に、図2に、本例で得られた包接触媒の細孔径分布(メソ細孔径の分布)を示す。平均細孔径が約4nmのシャープなピークが観察され、均一なメソ細孔が存在していることが確認された。
【0024】
(実施例2)
トルエン100ml、蒸留水1.5ml、硝酸Rh0.075g、オクチルトリクロロシラン24mmolを混合し、超音波攪拌することにより、油中水エマルジョンを調製した。
次いで、生成したエマルジョンにメチルトリクロロシランを24mmol添加し、空気中で攪拌、ろ過、洗浄、乾燥、焼成することにより、本例の包接触媒を得た。
【0025】
更に、図3に、本例で得られた包接触媒の細孔径分布(メソ細孔径の分布)を示す。5nm以下に細孔径のピークが複数観察され、大部分が1nm以下の細孔で、均一のメソ細孔が存在しないことが確認された。
【0026】
(実施例3)
トルエン100ml、蒸留水1.5ml、ジニトロジアミンPt0.075g、オクチルトリクロロシラン24mmol、ソリビタン酸モノステアレート0.24mmolを混合し、超音波攪拌することにより、油中水エマルジョンを調製した。
次いで、生成したエマルジョンにメチルトリクロロシランを24mmol添加し、空気中で攪拌、ろ過、洗浄、乾燥、焼成することにより、本例の包接触媒を得た。
【0027】
(実施例4)
トルエン100ml、蒸留水1.5ml、ジニトロジアミンPt0.075g、オクチルトリクロロシラン24mmolを混合し、超音波攪拌することにより、油中水エマルジョンを調製した。
次いで、生成したエマルジョンに、メチルトリクロロシランを24mmol添加し、空気中で攪拌、ろ過、洗浄、乾燥、焼成することにより本例の包接触媒を得た。
【0028】
[性能評価]
(エタノール水蒸気改質特性評価)
上記実施例1及び2で得られた包接触媒を32−42メッシュに整粒し、この触媒0.3gを固定層常圧流通式反応装置を用いてエタノール水蒸気反応特性を評価した。
なお、反応ガスに含まれるエタノールの分圧は1.7kPaであり、水の分圧は7.2kPaであり、ヘリウムをキャリアガスとして40ml/minの流速で触媒に供給した。また、触媒温度は400℃であった。得られた結果(エタノール転化率と生成物組成)を表1に示す。表1中の「C2生成物」とは炭素数2の生成物であり、代表的にはエチレン、アセトアルデヒド、未反応のエタノールなどが挙げられる。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、実施例1は均一のメソ細孔が存在しない実施例2と比べて反応活性が向上し、エタノール転化率が増加していることが分かる。また、H及びC1生成物(CO、CO、CH)の生成割合も増加しており、選択性が向上していることが分かる。
【0031】
(CO選択酸化反応特性評価)
上記実施例3及び4で得られた包接触媒を32−42メッシュに整粒し、この触媒0.3gを固定層常圧流通式反応装置を用いて、各触媒温度におけるCO選択酸反応特性を評価した。
なお、評価に用いたガスの組成は、CO:0.5vol%、H:30vol%、CO:15vol%、HO:27vol%、O:0.5vol%、N:27vol%であり、50ml/minの流速で触媒に供給した。得られた結果(CO転化率)を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、実施例3は均一のメソ細孔が存在しない実施例4と比べて反応活性及び選択性が向上し、CO転化率が増加していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上、本発明を若干の実施例により詳細に説明したが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲で種々の変形が可能である。
例えば、上記実施例では、エタノール水蒸気改質触媒や、燃料改質ガスとして典型的なモデルガスを用いたCO選択酸化触媒を例にとって説明したが、本発明の包接触媒の用途はこれら燃料改質に限定されるものではなく、本発明の包接触媒は、かかる触媒の優れた耐久性や選択性などが有効に発揮される分野への適用が考えられ、そのような観点からは、自動車用排気ガス浄化触媒や燃料電池用電極触媒、更には、石油精製や有機合成の不均一系化学反応における触媒としても使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の包接触媒の構造を概念的に示す説明図である。
【図2】実施例1で得られた包接触媒の細孔径分布を示すグラフである。
【図3】実施例2で得られた包接触媒の細孔径分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
H 中空部
10 包接触媒
12 殻
12p メソ細孔
14 触媒物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のメソ細孔を有する殻と、その殻に包接された触媒物質を備えることを特徴とする包接触媒。
【請求項2】
上記メソ細孔の平均細孔径が2〜30nmであることを特徴とする請求項1に記載の包接触媒。
【請求項3】
上記メソ細孔の全個数の80%以上が、上記平均細孔径の±1nmの範囲内に包含されることを特徴とする請求項2に記載の包接触媒。
【請求項4】
平均粒子径が0.1〜5μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の包接触媒。
【請求項5】
上記殻の厚さが10〜1000nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の包接触媒。
【請求項6】
上記殻がケイ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む金属酸化物から成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の包接触媒。
【請求項7】
上記触媒物質が白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、銅、銀、鉄及びレニウムから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の包接触媒。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の包接触媒を製造するに当たり、殻の原料を含有する油中水エマルジョンと触媒物質の前駆体を用いて合成を行うことを特徴とする包接触媒の製造方法。
【請求項9】
上記油中水エマルジョンを生成する過程で有機テンプレートを添加することを特徴とする請求項8に記載の包接触媒の製造方法。
【請求項10】
上記油中水エマルジョン中で有機金属ハロゲン化物を加水分解する工程を含むことを特徴とする請求項8又は9に記載の包接触媒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−130525(P2007−130525A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323669(P2005−323669)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】