説明

包装容器

【課題】本発明の目的は、フィルム端の包装容器の内部への巻き戻しをより確実に防止する包装容器を提供することである。
【解決手段】本発明に係る包装容器100は、矩形の本体底面板11、本体前面板12、本体後面板13、本体左側面板14及び本体右側面板15を有し、自己密着性を有するラップフィルム1のフィルムロール40を収容する、上面が開口した容器本体10と、本体後面板の上端辺に回動可能に連接され、上面開口部を覆う天面板21及び「本体前面板の外側に重ねて配置される蓋前面板22を有する蓋体20と、ラップフィルムを切断する切断手段30と、を備える包装容器において、本体前面板には、蓋前面板と重なる部分に、本体前面板の表面よりも蓋前面板側に隆起した本体エンボス部60が設けられ、本体エンボス部の表面には、フィルム保持部50が設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状に巻回されたラップフィルムを収容する包装容器に関し、特に、ラップフィルムを所定の長さに引き出して切断した後、フィルム端の包装容器の内部への巻き戻しを安定的に防止する包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ラップフィルムは、通常、円筒状の紙管にロール状に巻回された状態で、蓋体が一体に設けられた箱形状の容器内に収容されている。使用者は、容器からフィルムを所定の長さだけを引き出して、容器の蓋を閉じた状態で、蓋体に設けられた切断手段で切断しつつ、食品などの包装を行うことができる。容器に収容されたラップフィルムは、その簡便さから、調理現場で重宝されている。しかし、ラップフィルムは、自己密着性を有し、かつ、薄肉であるため、切断したフィルム端部が容器内に巻き戻ると、再度使用する時に、ロール本体に密着したフィルム端部を剥離させて、容器から引き出す動作は、煩雑なものとなる。
【0003】
そこで、容器内へのフィルム端の巻き戻しを防止するフィルム保持部を設けた包装容器が提案されている。フィルム保持部として、粘着剤の層からなる粘着部を設ける技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、本出願人は、ラップフィルム自体の自己密着性を利用して、フィルム保持部として、ラップフィルムと接する表面をラップフィルムと同素材とした積層体を用いたラップフィルム収納容器を提案している(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭53−98032号公報
【特許文献2】特開2009−184692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示された技術は、フィルム端のフィルム保持部への接触が確実でない場合、フィルム端が保持されない場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、ラップフィルムを所定の長さに引き出して切断した後、フィルム端の包装容器の内部への巻き戻しをより確実に防止する包装容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る包装容器は、矩形の本体底面板と、該本体底面板の長辺に立設された本体前面板及び本体後面板と、前記本体底面板の短辺に立設された本体左側面板及び本体右側面板と、を有し、自己密着性を有するラップフィルムがロール状に巻回されたフィルムロールを収容する、上面が開口した容器本体と、前記本体後面板の上端辺に回動可能に連接され、前記容器本体の上面開口部を閉鎖時に、該上面開口部を覆う天面板と、該天面板に連接され、前記本体前面板の外側に重ねて配置される蓋前面板と、を有する蓋体と、前記フィルムロールから繰り出され、前記本体前面板と前記蓋前面板との間から引き出されたラップフィルムを切断する前記蓋前面板に設けられた切断手段と、を備える包装容器において、前記本体前面板には、前記蓋前面板と重なる部分に、前記本体前面板の表面よりも前記蓋前面板側に隆起した本体エンボス部が設けられ、該本体エンボス部の表面には、切断後のフィルムロール側のラップフィルム端を保持するフィルム保持部が設けられたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る包装容器では、前記フィルム保持部の最表層が、自己密着性フィルム層であることが好ましい。フィルム保持部を容易に、かつ、安定的に形成することができる。
【0009】
本発明に係る包装容器では、前記フィルム保持部は、前記容器本体側から順に配置された、粘着剤層、基材層、接着剤層及び自己密着性フィルム層の積層構造を有することが好ましい。フィルム保持部を容易に、かつ、安定的に形成することができる。
【0010】
本発明に係る包装容器では、前記蓋前面板には、該蓋前面板の表面よりも前記本体前面板側に隆起した蓋エンボス部が設けられ、該蓋エンボス部は、前記上面開口部を閉鎖時に前記本体エンボス部と当接する領域を有することが好ましい。フィルム保持部にフィルム端を確実に押し付けることができ、フィルム端の包装容器の内部への巻き戻しをより確実に防止することができる。また、使用者が親指で押さえるべき位置を視覚及び触覚によって確認することができる。
【0011】
本発明に係る包装容器では、前記蓋前面板のうち、前記本体エンボス部と当接する領域を中心とする縦横2cm拡げた領域には、前記蓋前面板の表面よりも前記本体前面板と反対側に隆起した少なくとも1個以上の滑り止め突起が設けられていることが好ましい。指が滑るのを防止して、例えば、水などで手が滑りやすい状態であっても、フィルム保持部にフィルム端をより確実に押さえ付けることができる。また、使用者が親指で押さえるべき位置を視覚及び触覚によって確認することができる。
【0012】
本発明に係る包装容器では、前記滑り止め突起は、前記蓋エンボス部のうち、前記本体エンボス部と当接する領域に設けられていることが好ましい。本体エンボス部を視覚及び触覚によって確認することができ、フィルム保持部にフィルム端をより確実に押さえ付けることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ラップフィルムを所定の長さに引き出して切断した後、フィルム端の包装容器の内部への巻き戻しをより確実に防止する包装容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る包装容器の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す包装容器の本体前面板の一部を拡大して示す部分斜視図である。
【図3】フィルム保持部の一例を示す積層断面図である。
【図4】本実施形態に係る包装容器の蓋を閉じた状態の本体エンボス部を通る断面図であり、(a)は蓋エンボス部がない形態の断面図であり、(b)は図1に示す包装容器の断面図である。
【図5】図4(b)に示す包装容器の蓋前面板の一部を拡大して示す部分斜視図である。
【図6】蓋エンボス部と本体エンボス部との位置関係を説明するための図であり、(a1)及び(b1)は断面図であり、(a2)は蓋エンボス部と本体エンボス部とが全て重なっている形態の正面図、(a3)及び(b1)〜(b3)は蓋エンボス部と本体エンボス部とが一部当接する領域を有する形態の正面図である。
【図7】滑り止め突起の配置を説明するための図であり、(a)は正面図であり、(b)は(a)のE‐E断面図である。
【図8】滑り止め突起の形態例を説明するための図であり、(a1)及び(b1)は正面図であり、(a2)及び(b2)は断面図である。
【図9】滑り止め突起の形態例を説明するための図であり、(c1)、(d1)及び(e1)は正面図であり、(c2)、(d2)及び(e2)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0016】
図1は、本実施形態に係る包装容器の一例を示す斜視図である。本実施形態に係る包装容器100は、矩形の本体底面板11と、本体底面板11の長辺に立設された本体前面板12及び本体後面板13と、本体底面板11の短辺に立設された本体左側面板14及び本体右側面板15と、を有し、自己密着性を有するラップフィルム1がロール状に巻回されたフィルムロール40を収容する、上面が開口した容器本体10と、本体後面板13の上端辺に回動可能に連接され、容器本体10の上面開口部16を閉鎖時に、上面開口部16を覆う天面板21と、天面板21に連接され、本体前面板12の外側に重ねて配置される蓋前面板22と、を有する蓋体20と、フィルムロール40から繰り出され、本体前面板12と蓋前面板22との間から引き出されたラップフィルム1を切断する蓋前面板22に設けられた切断手段30と、を備える包装容器において、本体前面板12には、蓋前面板22と重なる部分に、本体前面板12の表面よりも蓋前面板22側に隆起した本体エンボス部60が設けられ、本体エンボス部60の表面には、切断後のラップフィルム端の容器本体10内への巻き戻りを防止するフィルム保持部50が設けられている。
【0017】
図1に示す包装容器100は、厚紙、プラスチックなどの板材で形成されている。板材の厚さは、特に限定されないが、一般に0.45〜0.70mmである。容器本体10は、矩形の本体底面板11の各辺に立設された本体前面板12、本体後面板13、本体左側面板14及び本体右側面板15によって形成された上面開口部16を有する横長の略直方体形状の箱である。蓋体20は、本体後面板13の上端辺に回動可能に一体に設けられ、容器本体10の上面開口部16を覆うことができるようになっている。上面開口部16を閉鎖時には、天面板21が上面開口部16を覆い、蓋前面板22が本体前面板12の外側に重ねて配置され、蓋左側面板24及び蓋右側面板25が、それぞれ本体左側面板14及び本体右側面板15の外側に重ねて配置される。
【0018】
切断手段30は、蓋前面板22の裏面(容器本体側表面)に取り付けられ、蓋前面板22の下端辺に設けられている。切断手段30の材質及び形状は特に限定されないが、厚紙、プラスチック、金属などで形成された鋸刃状の切断刃である。図1に示す包装容器100では、蓋前面板22は、容器の幅方向(図1のW‐W´方向)の中央部が最も凸となる全体が略V字形状に形成されており、切断手段30もこの形状に合わせて略V字形状に形成されている。なお、本実施形態では、図1に示すような蓋前面板22及び切断手段30が略V字形状である形態に限定されない。例えば、蓋前面板22及び切断手段30を直線形状、略U字形状とすることができる。
【0019】
ラップフィルム1の材質は、自己密着性を有する樹脂又は樹脂組成物である。フィルムロール40は、自己密着性を有する樹脂又は樹脂組成物を単層又は積層シート状に成形してラップフィルム1を形成し、所定の長さのラップフィルム1をロール状に巻回してなる。樹脂は、例えば、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂である。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に、可塑剤を配合したものである。可塑剤は、例えば、脂肪族多価塩基酸エステル、脂肪族多価アルコールエステル、オキシ酸エステルである。本実施形態では、ラップフィルムの材質は、ポリ塩化ビニリデンに可塑剤を配合したものがより好ましい。本実施形態では、ラップフィルムの厚さは、特に限定されないが、一般に、5〜20μmである。
【0020】
図2は、図1に示す包装容器の本体前面板の一部を拡大して示す部分斜視図である。図1及び図2に示すように、本体前面板12には、蓋前面板22と重なる部分に、本体前面板12の表面よりも蓋前面板22側に隆起した本体エンボス部60が設けられている。本体エンボス部60の表面には、切断後のラップフィルム端の容器本体内への巻き戻りを防止するフィルム保持部50が設けられている。
【0021】
本体エンボス部60の形状は、特に限定されず、図1及び図2に示すように容器本体10の幅方向(図1のW‐W´方向)に沿って長辺を有する矩形とする他に、正方形、円形などの変形態様としてもよい。本体エンボス部60は、本体前面板12の面積に対して、1〜30%の面積を有することが好ましい。より好ましくは、3〜15%である。
【0022】
フィルム保持部50の形状は、特に限定されず、図1及び図2に示すように容器本体10の幅方向(図1のW‐W´方向)に沿って長辺を有する矩形とする他に、正方形、円形などの変形態様としてもよい。フィルム保持部50は、本体エンボス部60の表面積に対して、70〜100%の面積を有することが好ましい。より好ましくは、90〜100%である。
【0023】
本体エンボス部60及びフィルム保持部50を設ける位置は、図1に示すように、本体前面板12のうち、容器の幅方向(図1のW‐W´方向)の中央部に設けることが好ましい。また、図1の包装容器では、本体エンボス部60及びフィルム保持部50を1個設けているが、複数個設けてもよい。
【0024】
フィルム保持部50は、ラップフィルム1を保持できれば、特に限定されず、例えば、最表層を粘着層とすることができる。また、本実施形態に係る包装容器では、フィルム保持部50の最表層が自己密着性フィルム層であることがより好ましい。フィルム保持部の最表層を自己密着性フィルム層とすることで、使用の継続に伴うチリ、ほこりなどが付着して、フィルム保持力が低下することがなく、安定的、かつ、持続的なフィルム保持力を発揮することができる。
【0025】
自己密着性フィルム層は、本実施形態に係る包装容器に収容されるラップフィルム1の材質として例示した自己密着性を有する樹脂又は樹脂組成物である。より好ましくは、包装容器に収容されるラップフィルム1と同素材とする。自己密着性フィルム層の厚さは、ラップフィルムに対する密着保持力を発揮させるという目的からは、広い範囲から選択可能であるが、ラップフィルム1自体を用いることが経済的に好ましく、一般に5〜20μmの厚さである。このようにラップフィルム1は、非常に薄肉であり、更には、可撓性に富むため、ラップフィルム1を単体で本体エンボス部60の表面に取り付ける作業は、極めて困難であり、波打ち、端部のめくれ上がりなどのトラブルが起こりがちである。それ故、安定なフィルム保持力を有するフィルム保持部50の形成が困難である。本出願人は、特許文献2において、自己密着性フィルムを接着剤層及び基材層を含むラベル構造とすることで、容易に、かつ、安定的にフィルム保持部を形成できることを見出した。
【0026】
図3は、フィルム保持部の一例を示す積層断面図である。本実施形態に係る包装容器では、フィルム保持部50は、容器本体側から順に配置された、粘着剤層54、基材層53、接着剤層52及び自己密着性フィルム層51の積層構造を有することが好ましい。積層構造の総厚は、40〜350μmであることが好ましい。より好ましくは、75〜105μmである。
【0027】
粘着剤層54を構成する粘着剤(感圧接着剤)は、一般にラベル形成用に用いられる粘着剤を使用できる。このような粘着剤には、主剤としてゴム系、ポリウレタン系、アクリル樹脂系などの粘弾性ポリマーを用い、前記主剤にロジン系、石油樹脂などの粘着付与樹脂を配合した粘着剤が広く用いられる。粘着剤層54の厚さは、例えば、10〜100μm程度である。本実施形態は、粘着剤層54の材質及び厚さに制限されない。
【0028】
基材層53は、フィルム保持部50の剛性を支配するものである。基材層53は、一般にラベル基材として用いられる紙又はプラスチックフィルムからなり、かつ、自己密着性フィルムよりも剛性の大なるものを使用することができる。基材層53の厚さは、例えば、25〜200μm程度である。本実施形態は、基材層53の材質及び厚さに制限されない。
【0029】
接着剤層52を構成する接着剤は、例えば、アクリル樹脂系、酢酸ビニル系、エポキシ系、合成ゴム系などの主剤を酢酸エチル、アセトンなどの有機溶媒に溶解した溶剤型の接着剤、無溶剤型の接着剤又は水性エマルジョン型の接着剤である。中でも生産性に優れ、廃溶剤の処理が不要な、水系エマルジョン型の接着剤又は紫外線硬化型アクリル系樹脂を主剤とする無溶剤型の接着剤が好適に用いられる。接着剤層52の厚さは、5〜50μm程度が適当である。本実施形態は、接着剤層52の材質及び厚さに制限されない。
【0030】
さらに、基材層53の上面にフィルム保持部50であることを示す検知マークなどの印刷層56を設けることが好ましい。
【0031】
フィルム保持部50は、粘着剤層54の基材層53を設けた面とは反対面上にセパレータ(不図示)が設けられたフィルム保持部形成用ラベル構造体からセパレータを剥離しつつ、粘着剤層54を本体エンボス部60に貼り付けて形成することができる。このようにして形成することによって、フィルム保持部50を容易に、かつ、安定的に形成することができる。セパレータは、一般に基材層53よりも更に剛性が大で(すなわち腰が強く)、厚さが大なる紙又はプラスチックフィルムからなる。粘着剤層54との界面に、必要に応じてシリコーン樹脂などの離型剤を塗布することにより、剥離性を有するものが好適に用いられるが、粘着剤層54からの剥離が容易な限り、その剛性、厚さの設定は基本的には任意である。
【0032】
包装容器100は、図1に示すように横長の直方体形状であるが、一般に平面状の板材を打ち抜いて、展開図の切り抜き及び折り罫線の形成を行う打抜工程、打抜工程で得られたブランクシートを折曲げて箱を形成する製函工程を経て形成される。したがって、本体エンボス部60は、打抜工程と同時に、押し型を使用してプレス加工(エンボス加工)することによって形成するか、又は打抜工程前後で、エンボス加工工程を設けて形成することができる。本体エンボス部60の突出量は、0.05〜0.40mmとすることが好ましい。より好ましくは、0.10〜0.30mmである。0.05mm未満では、本体エンボス部60を設ける効果が得られない場合がある。0.40mmを超えると、本体前面板12と本体エンボス部60との段差が大きすぎて、容器本体10の上面開口部16を閉鎖時に、外側に重ねられた蓋前面板22が変形するおそれがある。また、エンボス加工時の伸びに追従できず基材が割れたり、切れたりする場合がある。
【0033】
フィルム保持部50の貼り付けは、打抜工程前後の平面状の板材又はブランクシートに対して行うことができる。フィルム保持部形成用ラベル構造体のセパレータを剥離しつつ貼り付けることができる公知のラベル貼付装置を用いて、連続的に貼り付けることができ、本実施形態はその方法に制限されない。
【0034】
次に、本実施形態に係る包装容器の本体エンボス部及びフィルム保持部の関係について説明する。図4(a)は、本実施形態に係る包装容器の蓋を閉じた状態の断面図である。図4(a)に示すように、容器本体内のフィルムロール40から引き出されたラップフィルム1は、上面開口部16から本体前面板12と蓋前面板22との間を経て容器の外部に導かれる。まず、所望の長さのラップフィルム1を引き出して、食品、食器などの被包装物上にほぼ水平状態で広げる。そして、一方の手で容器を把持し、親指で蓋前面板22を本体前面板12の方向に押さえ付ける。他方の手で、ラップフィルム1を水平方向へ引き、容器を把持した手で容器をα方向に捻る。この動作によって、V字状の切断手段30でラップフィルム1の中央部が切断され、そのままラップフィルム1を水平方向へ引くと、V字状に並んだ切断手段30の鋸刃に沿って、ラップフィルム1が切断される。切断されたラップフィルム1で被包装物の包装を行う。
【0035】
蓋前面板22を本体前面板12の方向に押さえ付ける動作によって、容器側に残ったラップフィルム1の端部は、フィルム保持部50によって保持される。本実施形態では、フィルム保持部50は、蓋前面板22の方向に突出した本体エンボス部60上に設けられているため、蓋前面板22を指で軽く押すだけで、ラップフィルム1がフィルム保持部50に確実に押し付けられ、安定的、かつ、より確実にフィルムの巻き戻りを防止することができる。
【0036】
図4(b)は、図1に示す包装容器の蓋を閉じた状態の断面図である。図5は、図4(b)に示す包装容器の蓋前面板の一部を拡大して示す部分斜視図である。図4(b)に示すように、本実施形態に係る包装容器では、蓋前面板22には、蓋前面板22の表面よりも本体前面板12側に隆起した蓋エンボス部70が設けられ、蓋エンボス部70は、上面開口部16を閉鎖時に本体エンボス部60と当接する領域を有することが好ましい。より好ましくは、フィルム保持部50と当接する領域を有する。蓋エンボス部70は、図5に示すように、容器を前面から見ると、僅かに窪んでいる。使用者が、蓋エンボス部70に親指を当てて蓋前面板22を本体前面板12の方向に押さえ付けることで、フィルム保持部50にラップフィルム1の端部をより小さな力で、確実に押し付けることができ、ラップフィルム1の端部が包装容器100の内部へ巻き戻されることをより確実に防止することができる。また、蓋エンボス部70を設けることによって、使用者は、親指を当てる位置を視覚で認識するだけでなく、触覚で検知することができる。蓋エンボス部70に、印刷を施すことで、作業者が親指を当てる位置であることを更に視認しやすくなる。
【0037】
蓋エンボス部70の形状は、特に限定されず、図1及び図5に示すように蓋体20の幅方向(図1のW‐W´方向)に沿って長辺を有する矩形とする他に、正方形、円形、親指に合わせた形状などの変形態様としてもよい。蓋エンボス部70の底面は、接触面積を多くできる点で、平面であることが好ましい。
【0038】
蓋エンボス部70は、本体エンボス部60と同様に、打抜工程と同時に又は打抜工程の前後にエンボス加工することで形成することができる。蓋エンボス部70の深さは、0.05〜0.40mmとすることが好ましい。より好ましくは、0.10〜0.30mmである。0.05mm未満では、蓋エンボス部70を設ける効果が得られない場合がある。0.40mmを超えると、蓋前面板22と蓋エンボス部70との段差が大きすぎて、容器本体10の上面開口部16を閉鎖時に、本体エンボス部60又は蓋エンボス部70が変形するおそれがある。また、エンボス加工時の伸びに追従できず基材が割れたり、切れたりする場合がある。
【0039】
図6は、蓋エンボス部と本体エンボス部との位置関係を説明するための図である。上面開口部16を閉鎖時に蓋エンボス部70と本体エンボス部60とは、当接する領域を有する形態であることが好ましい。当接する領域を有する形態とは、例えば、図6(a1)に示すように、蓋エンボス部70と本体エンボス部60との容器の高さ方向(図1のH‐H´方向)が一致している形態、図6(b1)に示すように、蓋エンボス部70と本体エンボス部60との容器の高さ方向が上下にずれている形態である。
【0040】
容器の高さ方向が一致している形態例を、図6(a2)及び図6(a3)に示す。図6(a2)は、蓋エンボス部70と本体エンボス部60とが容器の幅方向(図1のW‐W´方向)においても一致して、完全に重なっている形態である。図6(a3)は、蓋エンボス部70が本体エンボス部60に対して容器の幅方向(図1のW‐W´方向)において右にずれている形態である。図6(a2)のA‐A断面図及び図6(a3)のB‐B断面図はいずれも、図6(a1)に示すように容器の高さ方向が一致している。なお、図6(a3)では、本体エンボス部60に対して、蓋エンボス部70が右方向にずれている形態を示したが、本体エンボス部60に対して、蓋エンボス部70が左方向にずれている形態としてもよい。
【0041】
容器の高さ方向が上下にずれている形態例を、図6(b2)及び図6(b3)に示す。図6(b2)は、蓋エンボス部70と本体エンボス部60とが容器の幅方向(図1のW‐W´方向)において一致している形態である。図6(b3)は、蓋エンボス部70が本体エンボス部60に対して容器の幅方向(図1のW‐W´方向)において右にずれている形態である。図6(b2)のC‐C断面図及び図6(b3)のD‐D断面図はいずれも、図6(b1)に示すように容器の高さ方向が上下にずれている。なお、図6(b3)では、本体エンボス部60に対して、蓋エンボス部70が右方向にずれている形態を示したが、本体エンボス部60に対して、蓋エンボス部70が左方向にずれている形態としてもよい。
【0042】
蓋エンボス部70と本体エンボス部60とが当接する領域は、本体エンボス部60の表面積に対して、20%以上であることが好ましい。より好ましくは、50%以上であり、特に好ましくは100%である。20%未満では、フィルムをフィルム保持部50へ効率的に密着させる効果が得られない場合がある。
【0043】
図7は、滑り止め突起の配置を説明するための図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のE‐E断面図である。本実施形態に係る包装容器では、蓋前面板22のうち、本体エンボス部と当接する領域Sを中心とする縦横2cm拡げた領域(以降、滑り止め突起形成領域という。)Tには、蓋前面板22の表面よりも本体前面板12と反対側に隆起した少なくとも1個以上の滑り止め突起80が設けられていることが好ましい。例えば、水、食品などが手に付着して手が滑りやすい状態であっても、指が滑るのを防止して、フィルム保持部50にフィルム端をより確実に押さえ付けることができる。また、作業者が親指を当てるべき位置を触覚によって更に検知しやすくなる。図7に示すように、滑り止め突起80は、蓋前面板22のうち、本体エンボス部と当接する領域Sから外れた領域又は本体エンボス部と当接する領域S内のいずれにも設けることができる。
【0044】
滑り止め突起80は、本体エンボス部60と同様に、打抜工程と同時に又は打抜工程の前後にエンボス加工することで形成することができる。滑り止め突起80の直径は、1.0〜5.0mmとすることが好ましい。より好ましくは、1.5〜3.0mmである。滑り止め突起80の突出量は、0.05〜0.40mmとすることが好ましい。より好ましくは、0.10〜0.30mmである。0.05mm未満では、滑り止め突起80を設ける効果が得られない場合がある。0.40mmを超えると、エンボス加工時の伸びに追従できず基材が割れたり、切れたりする場合がある。
【0045】
図8及び図9は、滑り止め突起の形態例を説明するための図である。図8(a1)は、滑り止め突起80を、滑り止め突起形成領域T内であって、蓋エンボス部70から外れた領域にだけ設けた形態である。図8(a2)は、図8(a1)のF‐F断面図である。図8(b1)は、滑り止め突起80を、滑り止め突起形成領域T内であって、蓋エンボス部70から外れた領域及び蓋エンボス部70内の領域に設け、蓋エンボス部70から外れた領域に2段、蓋エンボス部70内の領域に3段の滑り止め突起80を設けた形態である。図8(b2)は、図8(b1)のG‐G断面図である。図9(c1)は、滑り止め突起80を、滑り止め突起形成領域T内であって、蓋エンボス部70から外れた領域及び蓋エンボス部70内の領域に設け、蓋エンボス部70から外れた領域に4段、蓋エンボス部70内の領域に1段の滑り止め突起80を設けた形態である。図9(c2)は、図9(c1)のH‐H断面図である。図9(d1)は、滑り止め突起80を、滑り止め突起形成領域T内であって、蓋エンボス部70内の領域にだけ設けた形態である。図9(d2)は、図9(d1)のI‐I断面図である。図9(e1)は、蓋エンボス部70を設けていない形態において、滑り止め突起80を、滑り止め突起形成領域T内に設けた形態である。図9(e2)は、図9(e1)のJ‐J断面図である。なお、本実施形態では、滑り止め突起80の配列及び隣接する滑り止め突起80同士の間隔は、滑り止め突起形成領域Tの形状及び面積、容器の意匠性などの各条件に応じて、適宜選択可能である。
【0046】
滑り止め突起80を、蓋エンボス部70のうち、本体エンボス部60と当接する領域に設けると、本体エンボス部60を視覚及び触覚によって確認しやすくなり、作業者が滑り止め突起80上に親指を当てることによって、フィルム保持部50にフィルム端をより確実に押さえ付けることができる点で好ましい。ただし、滑り止め突起80の総面積は、蓋エンボス部70とフィルム保持部50とが当接する領域の面積に対して、40%以下とすることが好ましい。より好ましくは、20%以下、特に好ましくは、15%以下である。40%を超えると、蓋エンボス部70とフィルム保持部50との接触面積が少なくなり、フィルムをフィルム保持部50に密着させる力が弱くなる場合がある。
【0047】
図7では、蓋エンボス部70と本体エンボス部60とが容器の高さ方向(図1のH‐H´方向)及び容器の幅方向(図1のW‐W´方向)で一致して、完全に重なっている形態を示したが、本実施形態では、これに限定されない。滑り止め突起80を設ける場合には、図6に示した蓋エンボス部70と本体エンボス部60との位置関係の形態例と図7〜図9に示した滑り止め突起80の形態例とを適宜組み合わせることができる。
【0048】
本実施形態においては、本体エンボス部60と蓋エンボス部70とを同形状及び同寸法としたが、本発明の効果を損なわない限り、変形可能である。例えば、本体エンボス部60を蓋エンボス部70よりも小さくする形態、本体エンボス部60を蓋エンボス部70よりも大きくする形態、本体エンボス部60と蓋エンボス部70との形状を異なる形状にする形態である。
【0049】
図7〜図9では、滑り止め突起80の形状を円形としたが、本発明の効果を損なわない限り、変形可能である。例えば、三角形、矩形である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、本発明に係る包装容器は、自己密着性を有するラップフィルムを所定の長さに引き出して切断した後、フィルム端の包装容器の内部への巻き戻しを安定的に防止することが可能であるため、例えば、食品、容器などの包装容器として使用されるラップフィルム、荷崩れ防止など梱包資材として使用されるラップフィルムの包装容器として好適である。
【符号の説明】
【0051】
100 包装容器
1 ラップフィルム
10 容器本体
11 本体底面板
12 本体前面板
13 本体後面板
14 本体左側面板
15 本体右側面板
16 上面開口部
20 蓋体
21 天面板
22 蓋前面板
24 蓋左側面板
25 蓋右側面板
30 切断手段
40 フィルムロール
50 フィルム保持部
51 自己密着性フィルム層
52 接着剤層
53 基材層
54 粘着剤層
56 印刷層
60 本体エンボス部
70 蓋エンボス部
80 滑り止め突起
S 蓋前面板のうち本体エンボス部と当接する領域
T 滑り止め突起形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の本体底面板と、該本体底面板の長辺に立設された本体前面板及び本体後面板と、前記本体底面板の短辺に立設された本体左側面板及び本体右側面板と、を有し、自己密着性を有するラップフィルムがロール状に巻回されたフィルムロールを収容する、上面が開口した容器本体と、
前記本体後面板の上端辺に回動可能に連接され、前記容器本体の上面開口部を閉鎖時に、該上面開口部を覆う天面板と、該天面板に連接され、前記本体前面板の外側に重ねて配置される蓋前面板と、を有する蓋体と、
前記フィルムロールから繰り出され、前記本体前面板と前記蓋前面板との間から引き出されたラップフィルムを切断する前記蓋前面板に設けられた切断手段と、
を備える包装容器において、
前記本体前面板には、前記蓋前面板と重なる部分に、前記本体前面板の表面よりも前記蓋前面板側に隆起した本体エンボス部が設けられ、
該本体エンボス部の表面には、切断後のフィルムロール側のラップフィルム端を保持するフィルム保持部が設けられたことを特徴とする包装容器。
【請求項2】
前記フィルム保持部の最表層が、自己密着性フィルム層であることを特徴とする請求項1に記載の包装容器。
【請求項3】
前記フィルム保持部は、前記容器本体側から順に配置された、粘着剤層、基材層、接着剤層及び自己密着性フィルム層の積層構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の包装容器。
【請求項4】
前記蓋前面板には、該蓋前面板の表面よりも前記本体前面板側に隆起した蓋エンボス部が設けられ、
該蓋エンボス部は、前記上面開口部を閉鎖時に前記本体エンボス部と当接する領域を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の包装容器。
【請求項5】
前記蓋前面板のうち、前記本体エンボス部と当接する領域を中心とする縦横2cm拡げた領域には、前記蓋前面板の表面よりも前記本体前面板と反対側に隆起した少なくとも1個以上の滑り止め突起が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の包装容器。
【請求項6】
前記滑り止め突起は、前記蓋エンボス部のうち、前記本体エンボス部と当接する領域に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の包装容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−30826(P2012−30826A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171052(P2010−171052)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】