化合物浸透抑制パネルを用いたハイドレート式脱塩および気化式冷却
金属、熱可塑性樹脂、または他の物質のいくつかの異なる層から作られた多孔性抑制パネルに基づく脱塩装置が、ガスハイドレートの成長を制御する高性能な熱交換器として使用される。処理対象水中に液体ハイドレート形成物質を注入した後にガスハイドレートが生成される。この液体ハイドレート形成物質はまた、ハイドレート形成点付近まで海水を冷却し、かつ、多孔性抑制パネルを冷却するべく必要な冷蔵のすべてを実行するためにも使用される。多孔性抑制部上にハイドレートが形成し、多孔性抑制部を通ってハイドレートが解離する。複合抑制パネルはまた、例えば溶解水の除去が必要とされる気体雰囲気内で使用することもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2006年6月8日出願の米国特許仮出願第60/811,760に基づきそのの優先権の利益を主張する。その内容は参照としてここに組み込まれる。
【0002】
政府の支援および利益
本発明は、2004年6月4日付けのONR契約(2005年5月18日修正および海軍研究事務所により発行):N00014−04−C−0237に基づく政府支援により行われた。政府は本発明に関する所定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般に脱塩および水処理/精製に関する。詳しくは、かかる脱塩および水処理を達成するべく使用される、浸透抑制に基づくハイドレートの形成および解離のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ガスハイドレートは、適切な圧力および温度の条件下ならびにハイドレート結晶の核生成および成長が生じる適切な方法で、所定濃度のメタンまたは任意の炭化水素ガスのようなハイドレート形成ガス、二酸化炭素、または塩素が水中に導入されて(または水蒸気がハイドレート形成ガス中に導入されて)形成される。ハイドレートはまた、ハイドレート形成に適した圧力にある所定のハイドレート形成気体および水溶液が冷却されるときにも形成される。ハイドレートの成長は、十分な圧力温度条件にのみ依存するわけではなく、溶解したハイドレート形成物質(HFM)の濃度が所定レベルに維持されている必要がある。
【0005】
知る限りにおいて、他者によるこれまで海水の脱塩および水処理のためにハイドレートを使用する試み(処理対象の水(他の水が処理されるかもしれないが、以下では海水と称する)中に気体を直接導入する試み)はいつも、比較的純粋なハイドレートの小さな破片からなるスラリーを生成する結果となっていた。(破片は、HFM気体の気泡まわりに形成されるハイドレートシェルが破砕しようとするときに形成された。)これまでのところ、海水中へのHFMの直接注入が淡水を商業的に製造するのに実現可能なプロセスとなるほど十分に、かかるスラリーを精製することは不可能である。これは、スラリーを洗浄するのに多大な低塩分水を消費しなければならないからである。
【0006】
対照的に、大量の固体ハイドレートの成長が、米国特許第6,890,444号明細書に記載されている。これによると、ハイドレートと残留する高塩分水との分離が容易となる。また、ハイドレートの核形成および成長に求められる水塊のHFM濃度、圧力および温度が所定レベルに維持される必要がある。Maxらの“Economic Geology of Natural Gas Hydrate,”Springer,Berlin,Dordrecht,2006第2章に公開されているハイドレート成長のモデルと実験によれば、水に溶解したHFMの所定の高濃度を維持した後に温度を下げることによって固体ハイドレートの成長が最適に達成されることが実証されている。例えば、米国特許第6,890,444号明細書の開示によれば、海水の脱塩は、溶解したHFMをハイドレート存在下の海水マトリクスに定量供給することで生じる。また、圧力/温度条件がハイドレート成長に適したまま維持され、さらには、かかる条件は極めて局所的である。
【0007】
米国特許第7,008,544号、第7,013,673号明細書(これらの内容は全体が参照として組み込まれる)に教示されるように、ガスハイドレートは、海洋的にまたは人工的に加圧された環境下で形成が誘発される。この環境では、圧力およびHFM濃度はハイドレート形成に適するが、温度はハイドレート形成には一般に高すぎる。特に、かかる環境においては、表面を冷却することによって、ハイドレートは表面での形成(「抑制部」ともいう)を誘発される。ハイドレート形成に対する圧力および温度条件は、表面およびその近傍に局所的に作られる。表面は細孔または穿通を有する可能性があり、これは抑制部に係る多孔性を構成する。ハイドレートは、冷却された表面が所定圧力下にあってハイドレート形成物質(HFM)が所定濃度で中に溶解する水塊に(または、水蒸気が所定濃度で溶解するHFM気体雰囲気に)入れられると、表面上でおよび表面から外方に向かって成長する。冷却された表面の温度を下げると、ハイドレートがその表面上およびその近傍に形成される。これにより細孔が充填されて浸透がブロックされる。
【0008】
かかるプロセスにおいて、ハイドレート成長は、反応物質がハイドレート不安定領域から、冷却された多孔性の抑制部近傍にある狭いハイドレート安定領域へ物質移動することによって生じる。ハイドレート成長の前線は、ハイドレート表面直上の水がハイドレートが安定となるポイントまで冷却されると、水(または気体雰囲気の場合は気体)中へ進行し多孔性の抑制部から離れていく。多孔性の抑制部が冷却されることによって成長が維持される。この冷却は、ハイドレートの発熱性結晶化に係る熱を補償する。
【0009】
抑制部の細孔をシールすることで、抑制部全体に差圧が確立維持される。具体的には、ハイドレートの真向かいにある抑制部側(「下流」側)環境の圧力を下げることによって、多孔性の抑制部に最も近いハイドレートが解離または溶融する。これにより、固体ハイドレート結晶格子に含まれていた水および気体は抑制部を通り、それらが分離される捕集領域内に向かう。このプロセスによって得られる水は塩分が低く、使用すべく捕集されて濃縮される。ハイドレートの形成/解離による水脱塩プロセスは、ハイドレートの成長および解離が同時かつほぼ同速度に進行するか、または周期的にハイドレート成長優勢とハイドレート解離優勢の期間が交互して進行する定常状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,890,444号明細書
【特許文献2】米国特許第7,008,544号明細書
【特許文献3】米国特許第7,013,673号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明は、本発明者の従来の上記特許に教示された方法および装置を著しく改善する。
【0012】
一側面において本発明は、ハイドレート形成物質を使用して処理対象水を脱塩または精製する方法を特徴とする。この方法は、処理対象水を1つ以上のHARTモジュールを含むエンクロージャ内に導入することを備える。HARTモジュールのそれぞれは1つ以上のHART抑制パネルと内部チャンバとを備える。抑制パネルの一主要面から抑制パネルの対向主要面に向かって細孔が延びる。第1冷却プロセスにおいて、ほぼエンクロージャ内にある処理対象水が、エンクロージャ内に存在する圧力条件下でHFMのハイドレートが形成される温度よりもわずかに高い温度まで冷却される。この第1冷却プロセスは、HFMをエンクロージャ内の処理対象水に導入することによって有効となる。第2冷却プロセスにおいて、HART抑制パネルにほぼ隣接する処理対象水が、エンクロージャ内に存在する圧力条件下でHFMのハイドレートが形成される温度まで冷却される。この第2冷却プロセスは、HART抑制パネルを冷蔵することによって有効となる。その結果、HFMのハイドレートが、HART抑制パネルの細孔内に形成される。形成された十分なハイドレートは、HART抑制パネルの細孔を充填して実質的にシールする。これによって、HART抑制パネルの細孔内にあるハイドレートの下流部分が解離し、精製された水およびHFMがHARTモジュールの内部チャンバに放出される。精製された水はエンクロージャから除去される。
【0013】
具体的な実施例では、エンクロージャは水塊中の深部に配置され、エンクロージャ内の圧力条件がエンクロージャより上部にある水の重量によって作り出される。この場合、HFMは、HFMの自己加圧表面レベル供給部からエンクロージャまでHFMを流すことによって、液体状態でエンクロージャに送られる。その代わりに、エンクロージャは圧力容器であってもよい。この場合、エンクロージャ内の圧力条件は、液状HFMが処理対象水に導入されるときの液状HFMのポンピングおよび/または気化によって生じる。
【0014】
さらに、圧縮された通常は気体のHFMが、処理対象水に液体状態で導入される。この場合、処理対象水内でHFMが気化膨張すると、第1冷却プロセスが生じる。その代わりに、気体のHFMが処理対象水に導入されてもよい。この場合、処理対象水内でHFMが膨張すると、第1冷却プロセスが生じる(ただし、かかる冷却は、液状HFMが処理対象水内で気化膨張する場合に生じる冷却よりも弱い)。理想的には、十分な量のHFMが処理対象水中に導入されて、エンクロージャ内の処理対象水中でHFMの飽和レベルが確立維持される。
【0015】
第2冷却プロセスについては、HART抑制パネル内の冷却ギャラリー内を内部循環する冷却された液体冷媒によって、HART抑制パネルが冷蔵される。しかし、好ましくは、HART抑制パネルは、HART抑制パネル内の冷却ギャラリーの内部を通過するHFMによって冷蔵される。後者の場合、HFMはさらに好ましくは、液体状態で冷却ギャラリー内に(最も好ましくは、冷却ギャラリーの液体HFM供給部側から冷却ギャラリーの気体側までの冷媒分配部材にわたって)導入されてHART抑制パネルの内部で気化する。HART抑制パネルの内部を通過したHFMは適宜回収されて、再び処理対象水中に導入される。
【0016】
HARTパネルを冷蔵するのに使用されたHFMに加えて、HARTモジュールの内部チャンバ内に放出されたHFMもまた回収されて、さらなる脱塩または精製のサイクルにおいて再利用される。そのためさらに、HFMは精製された水からも回収されて、さらなる脱塩または精製のサイクルで再使用される。
【0017】
方法の実施にあたり、エンクロージャから除去された精製水を補償するべく、および/またはエンクロージャから排出された高塩分の残留かん水を補償するべく、付加的な処理対象水をエンクロージャに導入してもよい。付加的な処理対象水は、ほぼ連続的に(すなわち連続的ではあるが間を置いてまたは常に)エンクロージャ内に導入される。その代わりに、新たな処理対象水が、エンクロージャ内の残留塩分が排出に係る所定の高塩分レベルまで達した後にのみ導入されてもよい。
【0018】
好ましくは、HFMは、HARTモジュールの内部チャンバの中から気体状態で、および/またはHART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収される。これらのソースの一方または双方から回収された気体HFMは、エンクロージャ内で処理対象水と混合(すなわち処理対象水に溶解)され、処理対象水中のHFMの飽和レベルを維持する助けとなる。
【0019】
他側面において本発明は、ハイドレート形成物質(HFM)を使用して処理対象水を脱塩または精製する方法を特徴とする。この方法は、処理対象水を1つ以上のHARTモジュールを含むエンクロージャ内に導入することを備える。HARTモジュールのそれぞれは1つ以上のHART抑制パネルと内部チャンバとを備える。抑制パネルの一主要面から抑制パネルの対向主要面に向かって細孔が延びる。エンクロージャ内の処理対象水中にHFMが導入される。HART抑制パネルにほぼ隣接する処理対象水が、エンクロージャ内に存在する圧力条件下でHFMのハイドレートが形成される温度まで冷却される。その結果、HFMのハイドレートが、HART抑制パネルの細孔内に形成される。形成された十分なハイドレートは、HART抑制パネルの細孔を充填して実質的にシールする。この冷却は、HART抑制パネルの内部にわたって延びる冷却ギャラリーにHFMを通してHART抑制パネルを冷蔵することによって有効となる。これによって、HART抑制パネルの細孔内にあるハイドレートの下流部分が解離し、精製された水およびHFMがHARTモジュールの内部チャンバに放出される。精製された水はエンクロージャから除去される。
【0020】
本発明のこの側面の具体的な実施例は、本発明の第1側面に関する上述の特徴の1つ以上を備える。
【0021】
他側面において、本発明は、処理対象水を脱塩または精製する装置を特徴とする。この装置は、1つ以上のHARTモジュールが中に配置されたエンクロージャを備える。HARTモジュールのそれぞれは1つ以上のHART抑制パネルと、その中に形成された内部チャンバとを備える。この抑制パネルは、それぞれの抑制パネルの一主要面からそれぞれの抑制パネルの対向主要面に向かって細孔が延びる。さらに、HART抑制パネルのそれぞれは、その内部にわたって細孔間に延びる一連の冷却ギャラリーを有する。エンクロージャにハイドレート形成物質を供給するべく第1コンジットが配置され、HARTモジュールの内部チャンバから精製水を除去するべく第2コンジットが配置される。
【0022】
好ましい実施例では、エンクロージャは水中に沈めることができ、外界の半水性環境と等圧連通して配置される。その代わりに、エンクロージャは圧力容器であってよい。
【0023】
好ましくは、HART抑制パネルの細孔は、非単調なテーパが付けられ、例えば双円錐構造を有する。さらに、かかる幾何形状を容易にするべく、HART抑制パネルは、上部および下部の抑制パネルセクションからなる複合抑制パネルであることが好ましい。さらに好ましくは、HART抑制パネルのそれぞれは、上部抑制パネルセクションと下部抑制パネルセクションとの間に配置される冷媒分配部材を備える。微細孔領域または極めて小さな(例えば約30から約80ミクロンのオーダーの)孔が、HART抑制パネルの冷却ギャラリー内に配置されて冷却ギャラリーを2つのサブギャラリーに分割する。
【0024】
他側面において本発明は、熱交換パネルを冷蔵する方法を特徴とする。この方法は、熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の第1サブギャラリーに液体冷媒を充填することと、冷媒分配部材にわたる液体冷媒を、熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の第2サブギャラリー内へ気化させることとを備える。
【0025】
さらなる他側面において本発明は、熱交換パネルを特徴とする。熱交換パネルは、下部パネルセクションに連結されて、上部および下部パネルセクション間に画定されて熱交換パネルの内部を通って延びる一連の冷却ギャラリーを有する上部パネルセクションを備える。
【0026】
好ましい実施例では、熱交換パネルは、HART抑制パネルである。熱交換パネルを通ってその一主要面からその対向主要面まで複数の細孔が延びる。より好ましくは、細孔は非単調なテーパが付けられ、例えば双円錐構造を有する。さらにより好ましくは、熱交換パネルは、冷却ギャラリーを上部サブギャラリーと下部サブギャラリーとに分割する冷媒分配部材を備える。冷媒分配部材は、冷却ギャラリー内に配置された微細孔領域を有するかまたは、冷却ギャラリー内に配置された約30から約80ミクロンのオーダーの孔を有する。
【0027】
さらに、熱交換パネルは、そのパネルの主要面にわたって分布する複数の渦巻流誘発部材(例えば突起またはディンプル)を備える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る水精製装置が水中に沈められた外洋での実施例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る水精製装置が水中に沈められた海洋底に支えられた実施例を示す模式図である。
【図3】図3aおよび3bはそれぞれ、本発明に係るHARTモジュールの模式的斜視図および模式的分解図である。
【図4】図4aおよび4bはそれぞれ、例えば図3aおよび3bのHARTモジュールで使用される多孔性HART抑制パネルの模式的斜視図および模式的側面図であり、基本的なHARTプロセスを示す。
【図5】例えば図1、図2または図31に示す装置全体で使用されるHARTモジュールのアレイを示す模式的斜視図である。
【図6】図6aおよび6bはそれぞれ、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの一実施例の一部の模式的分解図および模式的斜視図である。
【図7】図7aおよび7bはそれぞれ、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの他実施例の一部の模式的分解図および模式的斜視図である。
【図8】図8aおよび8bはそれぞれ、本発明に係る多孔性複合HART抑制パネルの一実施例の上部パネルセクションの模式的斜視図、および下部パネルセクションの模式的斜視図である。
【図9】図9aおよび9bはそれぞれ、本発明に係る多孔性複合HART抑制パネルの他実施例の上部パネルセクションの模式的斜視図、および下部パネルセクションの模式的斜視図である。
【図10】図10aは、本発明に係る多孔性複合HLART抑制パネルの他実施例の下部パネルセクションの一部の模式的斜視図であり、図10bは、図10aの左上部分の拡大図である。
【図11】図11aおよび11bはそれぞれ、冷媒分配部材を備える、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの他実施例の一部の模式的分解図および模式的斜視図である。
【図12】図12aおよび12bはそれぞれ、冷媒分配部材を備える、本発明に係る多孔性HART抑制パネルのスナップ結合実施例の一部を断面で示す模式的分解図および模式的組立図である。
【図13】本発明に係る熱交換パネル(例えば多孔性HART抑制パネル)を示す模式的斜視図である。
【図14】図13の囲み部分の拡大された模式的側面図であり、冷媒分配部材にわたる液体冷媒の気化を示す。
【図15】図15aおよび15bはそれぞれ、冷媒分配部材を備える、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの他実施例の一部の模式的分解図および模式的斜視図である。
【図16】図16a、16b、および16cは、例えば図15aおよび15bに示す多孔性HART抑制パネルの一部の模式的平面図、模式的断面図、および他の模式的断面図である。
【図17】本発明に係るHARTモジュールの他実施例の模式的断面図である。
【図18】液体HFM(液体CO2)の深度による気化熱の変化を示すグラフである。
【図19】例示的な外洋環境の深度による水温の変化を示すグラフである。
【図20】圧力/温度スペースにおけるCO2ハイドレート安定フィールドを、CO2液相線および本発明の実施における温度制御とともに示すプロットである。
【図21】図21aおよび21bは、本発明に係る装置の2つの異なる実施例の模式的断面図である。
【図22】図22aおよび22bは、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの2つの異なる実施例の模式的な詳細断面図であり、その細孔内でのハイドレート成長を示す。
【図23】図23aおよび23bは、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの2つの異なる実施例の一部の模式的斜視図であり、パネルにわたり渦巻流を誘起するための表面処理を示す。
【図24】図20に示すプロットと同様の、圧力/温度スペースにおける本発明に係るハイドレートの成長および解離のダイナミクスを示すプロットである。
【図25】圧力/温度スペースにおける環境水の塩分によるCO2ハイドレート相境界の変化を示すプロットである。
【図26】圧力/温度スペースにおける、液体HFM(液体CO2)を気化させることによって得られる冷却ポテンシャルの、深さ(圧力)による変化を示すプロットである。
【図27】本発明に係る多孔性HART抑制パネル内の1つの細孔の模式的な詳細断面図であり、ハイドレート結晶の運動力学を示す。
【図28】本発明に係る装置の他実施例の模式的斜視図である。
【図29】図28に示す装置の模式的断面図である。
【図30】異なるHFM再利用量による、本発明の実施によって回収される淡水の変化を示すプロットである。
【図31】本発明に係る装置の、圧力容器に基づく実施例を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を図面と関連して以下に詳細に説明する。
【0030】
(様々な図面が模式的であることに留意すること。したがって、同一または類似の構成要素が様々な図面に示されているとしても、最良の図示を目的とすべく寸法および比率は様々な図面ごとに変化し得る。したがって、各図に関する文章は、具体図のそれぞれが示すものと意図される概念を適切に理解する目的で参照すること。)
【0031】
本発明の実施例の詳細な記載
本発明によれば、ガスハイドレート(クラスレート)は一般に、本発明者の上記特許のアプローチを広く利用することで、浸透抑制部上に形成される。この抑制部はエンクロージャ内に収容される。エンクロージャは、自然発生的な水塊の中に沈められる(図1および図2)。または、人工的に加圧された容器であってもよい(図31)。ハイドレート形成物質(HFM)が、処理される水の中に注入される。内部冷却システム(以下でより詳細に説明する。)によって、浸透抑制部が冷却される。その結果、浸透抑制部の表面上にハイドレートが形成される。さらに、そのハイドレートは、本発明者の上記特許に教示される脱塩アプローチを利用して、浸透抑制部を介して解離され、HFMおよび相対的に精製された水が放出される。HFMは、処理される水の中にさらなる注入を目的として捕集される。精製された水は集められて(できればさらなる処理の後に)消費される。
【0032】
ここで図を参照すると、図1に示すように、開放されて可動な海洋設置態様で、本発明に係る装置が海または水塊101中につり下げられる。かかる装置の好ましい実施例は、浮動プラットフォーム28からつり下げられる。これは、例えば、船、エネルギー産業で使用されるものと同様の半水中プラットフォーム、はしけ、または浮動プラットフォームである。浮動プラットフォームは、装置がその下に配置されたままで係留されたり、偏流されたり、またはゆっくりと進行してよい。
【0033】
本発明には、エンクロージャ8内に収容される局所的なガスハイドレートを形成する装置(この装置は以下で詳細に説明する。)を備える。(ハイドレートが形成されて脱塩が生じるエンクロージャを指定すべく、そのように指定されるかかるエンクロージャの具体的な実施例が互いにわずかに異なっていても、全体にわたって参照番号9が使用される。)エンクロージャ8は、側面12が実質的に中実であるが、上面18で海水を導入するべく、および底面24で残留高塩分水を排出するべく、開口を有する。開口は、予め設定された幅、または可変制御される幅のいずれかを有する、モータ制御(不図示)を備えるバルブまたはスロットであってよい。エンクロージャ8の上面および底面の開口により、エンクロージャを通って水が流れる。以下で詳細に説明される好ましい運転モードでは、エンクロージャ8を通る水の動きは、完全に重力によってもたらされる。他の運転モードでは、水の動きは、インペラ、プロペラ、または他の水流発生手段の使用によって強制される。
【0034】
エンクロージャは、パイプ36、42を介して表面に接続される。一方のパイプ36は、プラットフォームの単数または複数のタンク32からエンクロージャ8まで液体HFMをポンピングする手段を与える。他方のパイプ42は、プラットフォーム28のエンクロージャ8から他のタンク48まで低塩分水を運ぶ。表面とエンクロージャ8との間の他の接続(不図示)は、センサに電力を供給するためのシールされた電気配線、電気機械制御、通信ケーブル、および、例えばポンプのような液圧システム対応機器を備えてよい。パイプのいずれか一方または双方は、エンクロージャの重量を支えるのに十分な強度を有するが、そのつり下げ重量を支えるべく別個の構造ケーブル(不図示)を使用してもよい。パイプは、エンクロージャ8を海中へ沈める間に、基本的に直線のセグメントから組み立てられるが、好ましい実施例は、船またはプラットフォームのデッキ内またはデッキ上のウィンチドラムから繰り出すことができる可撓性パイプを備える。かかる構成により、脱塩運転の迅速な展開および開始が可能となる。これは、浮動プラットフォームを急いで避難させる必要がある差し迫った悪天候条件の場合に、メンテナンス、クリーニング、または抽出を行うべくエンクロージャを回収するのに最適でもある。
【0035】
図2に示す固定的な海洋設置の場合は、エンクロージャ8は、海水101中の取付台52(詳細には示さない)に固定される。取付台52は、陸地102に隣接する海底に固定される。この設置において、HFM供給パイプおよび低塩分水運搬パイプ(単線59として示す)は、硬質もしくは可撓性またはそれらの組み合わせである。パイプは、エンクロージャを支持するのに十分な強度を有する必要がなく、および/または、エンクロージャ8の重量を上から支えるための別個の支持ケーブルまたは装置を必要とするわけではない。エンクロージャ8は、固定された取付台52に設置される可能性が高いが、摺動する取付台(不図示)に設置されてもよい。これにより、エンクロージャは少なくとも部分的に上に引き上げられたり、スロープ55を下ることができる。このため、海底にしっかりと固定したまま異なる水深において設置操作を行えるようにすることにより、柔軟性が得られる。
【0036】
固定された設置において、HFMを供給しかつ低塩分水を受け取る陸地の設備65は通常、システムの運転を制御して従来の処理設備(不図示)にその水70を送る。陸地の設置から出ているパイプおよび制御システムは断面積が比較的狭く、側方ドリル穴75内に納めることができる。かかる孔は、設備65から海底分岐設備80まで形成するのに比較的容易かつ安価である。海底分岐設備80は、その物理的な安全を目的として、通常の波浪作用限界深度よりも下の海底に設置することができる。海底分岐設備80を表面設備65とつなぐべくパイプの路をドリルで穴あけすることは、トンネルを掘ることと比べてはるかに安価に済ませることができる。
【0037】
固定設置は、開放された可動設置よりも安全である。これは、固定設置が相対的に小さな専有面積を有し、プロセス供給制御装置の全体が深く埋められるからである。固定された海洋設置であれば、実質的な駆動機器なしでは容易にアプローチしたり干渉することができない。さらに、悪天候であっても固定設置の運転をシャットダウンさせる可能性ははるかに少ない。また、固定設置の運転は、その資本コストが可動設置の資本コストより大きくいとしても、ほぼ確実に少ない人員で済む(固定設置に対しては船および船員のコストが不要となる)ので安価となる。
【0038】
可動および固定双方の海洋設置について、本発明の実施では、ハイドレート形成エンクロージャを、処理対象となる水塊の深部に配置することによる自然加圧が利用される。この圧力はハイドレートが形成される程度に十分高い。可動または固定いずれかの海洋設置において、エンクロージャ8およびそれに含まれる装置の具体的な実施例のいずれかが使用される。
【0039】
いずれのタイプの設置においても、エンクロージャ8の主要目的は、脱塩および水処理の装置が沈められる水の流れを抑制することである。これにより、画定された、制限または疑似制限の体積の処理対象水が与えられる。エンクロージャ8は、実際の脱塩装置を収容して物理的に保護するが、これは本発明の脱塩プロセスに統合される態様で機能する。以下で詳細に説明するように、本発明によればエンクロージャ8内部の水は冷却されるので、エンクロージャ外部の暖かい海水から処理対象水への熱伝達を最小化するべく、エンクロージャはある程度断熱される。エンクロージャのサイズおよび形状は様々であるが、ほぼ直線形状である。(ただし、可動(図1)または固定(図2)のいずれの脱塩装置に対しても、外形は任意の取付システムに合わせて修正することができる。)
【0040】
本発明におけるエンクロージャの使用態様のさらなる説明を、本発明に係る装置の他の構成要素のさらに詳細な説明とともに以下に述べる。
【0041】
背景技術の欄において上述したように、上記米国特許第7,008,544号および第7,013,673号明細書においては、ハイドレートは浸透抑制部または支持部材上に形成(またはそれに対向してもしくはその内部に蓄積)され、その後、抑制部をその一側部から他側部へ通されて解離される。これらの特許発明およびここに開示される本発明の基本的技術概念を、ハイドレート非対称抑制技術(Hydrate Asymmetric Restraint Technology)から「HART」と名付けることとする。
【0042】
本発明者のこれまでの業績で教示された抑制部は、平面であっても成形されていても、構成が比較的単純であった。基本的には、浸透プレート(平板または曲面板)に、連続的なテーパがつけられて抑制部の一表面から対向表面まで延びる複数の細孔、および、抑制部を(例えば抑制部の内部において)通って細孔と細孔との間を延びる内部冷却チャネルが設けられていた。これとは対照的に、本発明は、そうしたHART抑制部の比較的単純な構成を、さらに洗練された構成に発展させている。これにより抑制部を、洗練された熱交換器およびハイドレートが形成される支持表面として使用することができる。特に、本発明によれば、副構成要素から抑制パネルが作られる。一対の抑制パネルがフレームを介して接続され、密閉されたボックスまたは体積を形成する。この「ボックス」を「HARTモジュール」と称する。以下で詳細に述べるように、いくつかのHARTモジュールがエンクロージャ8内で接合される。(ハイドレートの形成および解離が生じる表面積を最大化するべく各HARTモジュールが一対の抑制パネルを有することが好ましいが、本発明の目的にとってはHARTモジュールが1つのみの抑制パネルを備えるだけで十分である。)
【0043】
図3aおよび3bに示すように、基本HARTモジュール301の好ましい実施例は、多孔性抑制パネル304を有する相対的に狭いテーブルまたはボックス形状の本体として構成される。多孔性抑制パネル304は、モジュール301の前面および後面(すなわち主要面)の各々を形成する。(以下で説明および記載される抑制パネルの様々な実施例はすべて、具体的な内部の幾何形状が様々な実施例でわずかに異なる場合があっても、便宜および簡便のため参照番号301を用いて標識および参照される。多孔性抑制パネルは、フレーム312にはめ込まれ、その継ぎ目は気体および液体が通過しないようにシールされる。多孔性抑制パネルは、フレームに組み込まれると、図3aに示すようにフレームと面一となるか、または、フレームに対してわずかに差し込まれるかもしくは突出する。フレーム内では、2つの多孔性抑制パネルの間に狭いチャンバ319が形成される。(図17も参照のこと。)チャンバの幅は、2つの多孔性抑制パネルがそれぞれフレーム312の取付用切欠きに完全に挿入される場合にその2つの多孔性抑制パネルを分離するスペーサ(不図示)によって決まる。スペーサは、約1インチ(2.54cm)以下にパネルを分離するのが好ましい。内部チャンバが相対的に大きな体積を有する場合、HARTモジュールの浮力は(以下で説明するように、本発明の実施中は(水中に沈められた)チャンバ内には気体および液体が存在する。)、比較的小さな体積の場合よりも大きな範囲にわたって変化する。したがって、安定した予測可能な浮力特性を与えるためには相対的に小さなチャンバ体積が好ましい。
【0044】
HARTモジュール301の構成要素および運転をさらに理解することは、抑制パネル304が果たすプロセスまたは機能の一般的な記載により容易となる。具体的には、ハイドレート内に拘束された水をハイドレートが形成された領域から除去するべく、処理対象水の制御冷却;ガスハイドレートの局所的な制御成長;およびガスハイドレートの局所的な解離という相互関連プロセスが存在する。一般的には、図4aおよび4bに示すように、固体ハイドレート306(その抑制パネル304に対する位置は図4aの垂直線で模式的に示される)は、抑制パネル304の一側部、換言すればその外表面308すなわち抑制パネルの処理対象水に露出される表面、に形成される。以下でさらに詳細に述べるように、冷却通路または「ギャラリー」が、抑制パネル304の内部を通って外表面および内表面308、309に対してほぼ平行に延び、内部冷却システムを形成する。クーラント/冷媒を冷却システム内に導入する手段321およびそこから除去する手段325も設けられる。局所的な条件をハイドレート成長に適したものとするべく抑制パネルの表面を冷却することは、冷却システムを通して冷媒を循環させることにより有効となる。好ましい実施例では、最も好ましくはHFMであるクーラント/冷媒は、液体状態で抑制パネルに入り、その中で気化されてパネルを冷却する。その代わりに、完全に冷却された液体冷媒(例えばエチレングリコール)が、冷却システムを通って循環されてもよい。冷媒は液体状態で冷却システムに入ることと冷却システムを出ることの双方を行う。
【0045】
多孔性抑制パネル上に固体ハイドレート306が形成されると、抑制パネルの細孔にハイドレートが詰まる。抑制部の上流側(図4b)で成長するハイドレートの相境界は、成長するハイドレートとそれが成長していく水との接触部位すなわちハイドレート/水界面、またはその近傍にある。システムの温度は多孔性抑制パネルの表面が最も低い。ハイドレートの熱伝導率は低いので、ハイドレートの塊を通る温度勾配が存在する。温度は通常、多孔性抑制パネルの表面からの距離に伴い増加する。したがって、ハイドレートは、ハイドレートと水との接触領域の温度が十分低い限り、反応物質(図4bにて上流領域の矢印で示すとおりの水およびHFM)の十分な供給が存在する限り、および水/ハイドレート界面がハイドレート安定領域内にある限り、多孔性抑制パネルの上流側において処理対象水に向かって外方に成長する。
【0046】
抑制パネルの細孔を充填するハイドレートが細孔を介して下流領域の圧力条件にさらされる。ハイドレートは圧力シールを形成するので、ハイドレート成長前線308における圧力および温度とは異なる圧力および温度を維持することができる。したがって、ハイドレートを解離して、それを構成するHFMおよび水が抑制パネルを通過して抑制パネルの下流側の領域に入ることができるようにするべく、抑制パネルの下流側の圧力が下げられる。(さらに、解離が急速に進行する場合、温度が0°Cよりも下がらないように、すなわち水氷が形成されないように、局所システムを加熱する必要がある。)下流領域の圧力が下げられ(および必要/所望に応じて温度が上げられ)ると、ハイドレートの不安定性および解離の物理的条件が作られる。したがって、ハイドレート成長前線308に存在するのとは異なる圧力/温度条件の第2の相境界310が、抑制パネルの表面に隣接のまたは細孔内のハイドレートに確立される。ハイドレートの内表面が、それがさらされる低圧力に起因して不安定条件のままとなるように、この第2相境界310における条件を維持することができる。したがって、HARTモジュール301全体の中にある狭いチャンバ319の圧力を下げることによって(このチャンバは下流領域にあり、この下げられた圧力は抑制パネルの細孔を通ってハイドレートに作用する)、その下げられた圧力にさらされるハイドレートの一部が、それを構成するHFM330(典型的には気体状態)および水339に解離される。その水およびHFMは抑制パネル304を通過してHARTモジュール内のチャンバ内に入り、以下に述べる手段によってHARTモジュールから除去される。上流側において高圧力(すなわち抑制部の温度に対するハイドレート相境界内の圧力)に、および下流側において相対的に低い圧力(すなわちハイドレート相境界外の圧力)にハイドレートをさらすことによって、ハイドレートはその物理的な塊の対向する両側部において同時に形成および解離ができる。
【0047】
(水は、ここに記載されるプロセスの異なるポイントにおいて塩分、温度、および気体含有量が異なるので、記載のプロセスのポイントに応じて異なる用語を用いることとする。「海水」は、その塩分または気体含有量にかかわらず原水である。これは、水分子の大量抽出が行われる水である。「捕集水」は、結晶成長プロセスを介してガスハイドレート中に組み込むことによって海水から抽出された水である。「変換水」は、ハイドレートの解離から得られるまたはその際に放出される水である。変換水は気体状HFMを含み、これもハイドレートの解離の際に放出されている。「回収水」は、放出された気体HFMから分離された水であって、本装置から除去されて水の回収に関連するパイプアセンブリまで送られた水を称する。「生成水」は、脱塩装置および水回収パイプアセンブリから除去された水であって、さらなるプロセスおよび/または市場への輸送を目的として地表面で利用可能な水を称する。)
【0048】
図3aおよび3bに戻ると、各HARTモジュール301は4つの別個のポートを有する。2つ(321、325)は、多孔性抑制パネルの冷蔵システムの運転のために設けられ、2つ(330、339)は、ハイドレートを解離することによって放出されて自然に分離される気体および水の捕集のために設けられる。液体冷媒インレット321およびその制御センサならびにバルブ323がフレームに設けられる。同様に、冷媒アウトレット325および制御センサならびにバルブ327がフレームに設けられる。バルブ327は、その出口における冷媒の特定の性質(すなわち気体または液体)に合わせて構成される。水の分離および捕集のプロセスもまた、少なくとも2つのアウトレットを必要とする。1つはモジュールの上部における気体用であり、1つはモジュールの下部における水用である。気体アウトレット330およびその制御センサならびにバルブ333が、モジュールフレームの上部に設けられる。回収水アウトレット339および制御センサならびにバルブ345が、モジュールフレームの下部に設けられる。好ましくは、バルブおよびセンサ345によって制御される水ダンプバルブ341も、汚染されているかもしれない水を排出するべく設けられる。
【0049】
各HARTモジュール301の回収水アウトレット339が捕集システム(不図示)に接続される一方で、水ダンプアウトレット341によって、水が捕集システムに入る前に水を排出することができる。水は、モジュール内の気体圧力を上げ戻して水を追い出すことにより排出されるか、または、ハイドレートの形成および解離を介しての低塩分水の連続生成により排出される。例えばスタートアップ時に、または細孔を介して海水が入り込むこと(seawater breach)により許容レベルを越えたレベルまで塩分が増加することとなる場合に、各HARTモジュール301は、水を追い出すべく気体フラッシングを用いて水をダンプするための対応機器も有する。気体フラッシングは、気体アウトレット330を介して気体を強制的にモジュール内に入れることによって行う。(未処理海水のHARTモジュール301内への所定の漏洩および製品水との混合は、回収水の塩分全体が目標製品塩分よりも低いままである限り許容される。)
【0050】
各HARTモジュール301はさらに、気体フラッシングを用いて水を排出するための手段も有する。これにより、システムのスタートアップ時に、または細孔を介して海水が入り込むことによりモジュール内の塩分が許容レベルを越えたレベルまで増加することとなる場合に、水を追い出すことができる。流れが制限される場合に不要な粒子状物質を除去するべく、(ハイドレートが存在しない場合に)液体または気体のいずれかを用いて細孔をバックフラッシングすることもできる。(製品水における所定の浮遊および/または溶解物質は、回収水の塩分全体が目標製品塩分よりも低いままである限り許容される。)
【0051】
HARTモジュール301は、エンクロージャ8内でアレイ状で運転されるように構成および配置される。図5に示す好ましい構成においては、複数のHARTモジュールが互いに並列して配置される。また、HARTモジュールは、多孔性抑制パネルを介してのガスハイドレートの解離により生成された水と気体とを分離するための最大の垂直高さを各モジュールの内部チャンバ319が与えるように配向される。所望の水生成、HARTモジュールのサイズ、および/またはエンクロージャ8のサイズに応じて、HARTモジュールの1以上の列が所定のエンクロージャ8内でアレイにされる。
【0052】
本発明に係る抑制部(すなわち多孔性抑制パネル304)は「複合的」と称される。これは、それぞれが、別個に製造された後に接合されて1つのテーパ付き細孔の多孔性抑制パネルをなす2つ以上の構成要素層からなるからである。これにより、低コストの製造、最適な冷蔵、および最適な温度制御が容易となる。複雑な形状のテーパ付き細孔の詳細な幾何形状は、実施例の一般的記載に引き続いて、ハイドレートの形成および解離のプロセスと関連して以下で述べる。多孔性抑制パネルを1以上のセクションで製造することによって、開放冷却チャネルすなわち「ギャラリー」のための複雑な内部幾何形状を達成することができる。これは、他の方法のいずれによっても実際に製造することができない。かかる内部ギャラリーは、機械加工または切削プロセスによって形成することができる。この場合、抑制パネルは、機械加工される必要があるので「厚壁」と称される。他方、「薄壁」複合抑制パネルは、例えばポリマーの直接成形のような、スタンピング、押し出し、または他の所定の工業プロセスによって作られる。薄壁抑制パネルはテーパ付き細孔壁の厚さが薄く、ほぼ確実に厚壁抑制パネルよりも安価に製造される。本発明に係る多孔性抑制パネルの上部セクションおよび下部セクションは両方ともハニカム構造を有するので、極めて薄い壁を有する実施例であっても、その構造は相当な固有強度を有する。
【0053】
図6aおよび6bに示すように、複合多孔性抑制パネル304の最も単純な実施例は2つのセクションで製造される。かかる2つのセクションは、上部セクション351および下部セクション353を備える。上部セクション351は、処理対象の水塊に面する。下部セクション353の露出面は、HARTモジュール301の内部チャンバ319に隣接する。(上部セクション351は、ハイドレート脱塩プロセスにおける水の移動方向に関して上流にある一方、下部セクション353は、多孔性抑制パネルを通る水流に関して下流にある。)ハイドレートが成長する上部セクション351と、解離が生じる下部セクション355とが、接着剤、樹脂、ろう付けもしくは半田付け、圧縮剪断もしくは超音波溶接、または製造工業で周知の他のプロセスによって接合されて、単一のユニットを形成する(図6b)。
【0054】
本実施例において、長手方向に延びる冷媒ギャラリー355は、図6bに示すように上部セクションと下部セクションとが合体された場合に多孔性抑制パネルの内部となるように、上部セクション351の内側に配置される。冷媒ギャラリーは水から隔離されるので、上部セクションと下部セクションとの間にはシール性を高めるべくガスケットまたはシーラント(不図示)が設けられる。冷媒ギャラリー355は図6aおよび6bにおいて、説明のみを目的として三角形断面で示される。なお、これらは、被処理水に面する上部セクション351の側面にあるテーパ付き細孔の隣接面の形状に「従って」いない断面形状を有することがある。
【0055】
さらに、上部および下部抑制パネルセクション351、353は、複数のテーパ付き細孔(細孔の壁の等高線で示す)を有する。これらは、複合多孔性抑制パネルを通して相互に整合されている。以下に詳細に説明するが、ハイドレートは、上部抑制パネルセクションのテーパ付き細孔内に形成され(このため、上部抑制パネルセクションの細孔はハイドレート形成領域358を構成する)、かつ、本発明の好ましい実施例では、下部抑制パネルセクションのテーパ付き細孔内で解離する。特に、下部セクション353のテーパ付き細孔の口(すなわち細孔の最大幅箇所)は、上部セクション351のテーパ付き細孔のアウトレット(すなわち最下部箇所)よりも広い。この関係により、複合テーパ付き細孔の「二重円錐」形状が得られる。換言すれば、図6bに示すように、上部および下部セクション351、353が接合される箇所357において、細孔の形状には「段」または「凹凸」が存在する。したがって、本発明者の初期の特許において示される多孔性抑制部の細孔は直径が単調減少するのに対し、本発明の複合抑制パネルの全体的または複合的な細孔は、上部セクションと下部セクションとの接合部に段を有する。各複合細孔の直径は、上部セクション351から下部セクション353に向かう方向において再び減少するまでわずかに拡大する。(かかる構成の利点は、本発明に係るハイドレートの形成および解離のダイナミクスの詳細な記載に関連して以下で説明する。)
【0056】
大きなクーラント容量が必要な場合は、下部抑制パネルセクション353に、長手方向に延びる付加的なチャネル359が設けられる。これは、図7aおよび7bに示すように、上部抑制パネルセクション351のチャネル355に対応かつ整合している。2つのセクションが合体されると、得られる冷媒ギャラリー365は、図6aおよび6bに示す実施例のそれよりも実質的に大きくなり、冷却ポテンシャルが高くなる。
【0057】
さらに冷媒ギャラリーは、図8に示すような長手方向に延びる別個のチャネルとして形成することもできる。この場合、各チャネルは単一の入口367および出口369を有する。その代わりに、図9に示すように、ギャラリーは格子パターンで交差する相互接続にしてもよい。後者の実施例では、冷媒を運ぶクーラントギャラリー267は、各細孔を完全に取り囲む。なお、図8および9に示す直交する例とは異なるチャネルまたはギャラリーの広範な配向が可能である。図8および9に示す具体例は、説明を明確にすることのみを目的として使用される。
【0058】
多孔性抑制パネルにおける冷媒ギャラリーへのインレットおよび冷媒ギャラリーからのアウトレットは、フレーム312内の所定のチャネル(不図示)と連通する。次に、フレームチャネルは、HARTモジュールのインレットポート321およびアウトレットポート325と連通する。したがって、液体クーラント(好ましくは液体HFM)は、インレットポート321を通って所定のHARTモジュール301に入り;細孔を冷却するべく所定のHARTモジュール301を備える両方の抑制パネルの冷蔵ギャラリー内を循環し(さらに、上述のように、および以下で詳細に記載するように、好ましくはその中で気化し);そして、液体状態またはより好ましくは気体状態のいずれかで所定のHARTモジュール301を出る。
【0059】
多孔性抑制パネルを通してできる限り均一な冷却を与えることは、最良のハイドレート成長にとって重要である。再循環流体冷媒を使用する冷却にとって最良の実施は、その冷媒を全体温度が下降し続けるのに十分速く冷媒を循環させることである。図10aおよび10bに示すように、多孔性抑制パネルにわたって冷蔵または冷却ポテンシャルをより平等に分配するべく、複合多孔性抑制部の下部部材の各ギャラリー375の「ヘッド」に冷媒分配マニホルド372が設けられる。分配マニホルド372の上面壁は、上部抑制パネル部材の表面、またはその他の、マニホルドの垂直方向の拡大を下部抑制パネル部材だけに限定する所定の部材(不図示)で構成される。(図6および7に示すものと同様の実施例において)マニホルドから冷蔵ギャラリー375内への冷媒の流れを規制する手段が、各冷媒ギャラリー375の端部と分配マニホルド372との間に設けられる。具体的には、この位置には端壁部材376が設けられる。端壁部材376は、冷媒の各ギャラリー内への流れを遅らせるように設計された開口379を備える。これは、冷蔵ギャラリー内に冷媒をより平等に分配する効果を有する。
【0060】
液体冷媒が(もしあれば分配マニホルドから)冷却ギャラリー内に導入される速度は、液体循環冷媒の流れを規制するHARTモジュールインレット321および/または下部パネルセクションの抑制パネルインレット383のバルブ(不図示)によって制御される。さらに、抑制パネルを通るクーラントの流速は、冷媒気化システムが使用される冷蔵ギャラリー355(例えば図6および7)内の「ヘッドスペース」圧力を制御することによって規制できる。ギャラリー内の圧力が、液体冷媒の(任意の特定温度に対する)液体/気体蒸気圧近くに維持されると、気化を遅らせることができるので冷却ポテンシャルが制御される。さらに具体的には、HARTモジュール301のアウトレットコントローラ327(図3aおよび3b)におけるポンピングによってギャラリー内の圧力を変化させると、気化速度が制御されるので温度も制御される。多孔性抑制パネルの冷媒ギャラリーシステムにできる限り均一に液体冷媒を分配すること、および液体冷媒の気化速度を制御することは、所定の多孔性抑制パネルにわたって冷却ポテンシャルすなわち均一冷却能力を平等にするのに役立つ。さらに、図10aおよび10bに示す、液体冷媒を分配するマニホルドから冷媒ギャラリーまでのシステムによって、液体冷媒が気化する場合に冷却ポテンシャルがより均一になるよう促される。
【0061】
最も均一な冷却ポテンシャルは、気化が多孔性抑制パネルの全長にわたって均一に生じるように制御可能な場合に得られる。図11aおよび11bに、この目的に対する複合浸透抑制パネル304を示す。この複合浸透抑制パネル304において、図7aおよび7bに示すものと同様の大容量冷蔵ギャラリーは、上部抑制パネルセクション351と下部抑制パネルセクション353との間に配置される「冷媒分配部材」391によって、2つのサブギャラリー(基本的には、上部および下部パネルセクション351、353それぞれにおけるチャネル355、399)に分離され、これにわたって液体冷媒が気化する。
【0062】
分配部材391の大きい方の孔393は、上部および下部パネルセクションを通って延びるテーパ付き細孔に一致する。複数の小さい孔396の線は、微細孔エリアすなわち極めて小さな孔を備えるエリアの位置を図式的に示す。この微細孔エリアすなわち冷媒分配部材391の極小孔を有するエリアによって、冷媒は、下部抑制パネルセクションの冷媒供給ギャラリー399から、上部抑制パネルセクションの冷却ギャラリー355内へ分子レベルで気化することができる。冷媒分配部材391は、(例えば約30から80ミクロンのオーダーの)小孔がドリルで穴あけされた薄い金属のような単一材料から、または、微細孔特性を有する複数の材料から製造することができる。その代わりに、分配部材内の所定位置に微細孔薄膜領域を差し込むこともできる。冷媒分配部材391には、上部および下部抑制パネルセクションのチャネルと実質的に同じパターンで分布する微細孔または極小孔のエリアが設けられる。
【0063】
(微細孔薄膜材料は、半透過性のバリアである。薄膜はポリマーであって、例えば疎水性または親水性のような様々な特性を有してよい。かかる薄膜もまた、選択的または非選択的であってよい。微細孔薄膜のために通常使用されるポリマーには、ポリプロピレンおよびポリオレフィンがある。典型的には、微細孔中空繊維薄膜が、約300ミクロンの繊維外径、および約200−220ミクロンの繊維内径を有する。典型的には、多孔率は約25から40%の範囲である。)
【0064】
この構成において、下部抑制パネルセクション353のギャラリー399(以下「冷媒供給ギャラリー」と称する)は、本装置の運転中、液体冷媒で連続的に充填される。上部セクション351の冷蔵ギャラリー355内の蒸気圧を、特定の冷媒の気体/液体転移点の下まで下げることにより、冷媒供給ギャラリー内の液体冷媒を、冷媒分配部材391の微細孔領域396を通して、上部パネルセクション351のギャラリー355内へ気化させることができる。したがって、気化がすべての細孔に均一に生じる傾向があるので、上部パネルセクション351を全体的にすなわち微細孔薄膜の気体側において冷却することができる。このプロセスは以下、「エリア気化」と称する。(下部セクション353における微細孔薄膜391の液体冷媒側の冷却は望ましくない。したがって、冷却は、必要に応じて上部パネルセクション351だけに制限されるのが望ましい。)
【0065】
一般に、抑制パネルのテーパ付き細孔表面の温度をハイドレートが安定でかつ成長するポイントまで下げる必要があるので、冷蔵は重要である。さらに、ハイドレートの発熱形成によって生じる熱は、ハイドレートが処理対象の海水中に向かって外方に連続的に成長するように、冷蔵によって除去される必要がある。エリア気化は、特に冷却ポテンシャルの微小な変化が多孔性抑制パネル全体にわたって(または、エリア気化が行われる他の任意の気化装置において)必要とされる場合に、冷却ポテンシャルの最も均一な分布を与える。均一な冷却ポテンシャル、および大面積にわたる均一な微小温度変化制御能力が重要となるのは一般に、ハイドレートが所定の抑制パネルの全表面にわたって均一な質量速度で成長することが極めて望ましいからである。図4aおよび4bに示すプロセスに従えば、ガスハイドレートが成長する冷蔵エリア全体にわたる微細スケール温度制御および温度均一性により、多孔性抑制部の上流側からの水除去および気体除去ならびに圧力シールが最適化される。
【0066】
冷却の所望量を達成するべく、冷媒供給ギャラリー399内に液体冷媒が導入される。冷蔵ギャラリー355内の気体冷媒の蒸気圧を、(任意の特定温度に対する)気体/液体転移点の下までポンピングで下げることにより、冷蔵が有効になる。冷蔵ギャラリー内の蒸気圧が、その冷媒に対する気相内にある場合、気体は低圧力において安定相なので、冷媒分配部材391またはその近くで気化が生じる。冷蔵ギャラリー355内に維持される圧力が低ければ低いほど、得られる冷却は大きくなる。このようにして、冷媒の気化量および気化速度を制御することで、冷却ポテンシャルおよび温度の所定範囲を冷蔵ギャラリー355内に維持することができる。この、圧力に基づく気化すなわち冷却ポテンシャルの制御により、ギャラリーシステムにわたる微細スケール制御および温度の均一性が促される。
【0067】
(HARTモジュールフレーム312上の気体排出部330と以下に記載の気体捕集処理システムとの間の気体抽出システム内の任意の場所に配置される)相対的に小さな気体ポンプを使用して冷蔵ギャラリー355から気体を抽出することによって、冷蔵ギャラリー355内の蒸気圧が制御される。急速なポンピングによって、気体のヘッド圧力の急速な低下による大幅な冷却が達成される。気体のヘッドスペース内の圧力低下によって、冷却はゆっくりと減少する。ポンピングの速度が、遅すぎる抽出速度まで下がると、冷媒分配部材391の気体側および液体側は圧力が平衡となる傾向がある。
【0068】
冷媒分配部材391は一般に、上部抑制パネルセクション351と下部抑制パネルセクション353との間に配置されるが、有利な結果が得られるその構成要素の正確な構成および配列は、上で図示および記載したものよりもやや複雑となる。例えば、複合多孔性抑制パネルの個々の構成要素が、(実質的に平坦な接合部で組み合わせられるのとは対照的に)互いに部分的にはまり込むように形成される場合、複合多孔性抑制パネルの組立体の強度が増加する。例えば、図12aおよび12bに示すように、上部パネルセクション351におけるテーパ付き細孔の円錐壁は、下部抑制パネルセクション353における細孔内にはまり込んでわずかに延びる。その箇所が互いに実質的にはまり込むので、組み立てられた複合抑制パネルには相当な強度が与えられる。なお、部材の形状および配置のわずかな違い(例えば、下部部材に対してスペーサを設けること)が行われてもよく、ここに詳細に記載されなくても本発明の範囲内となる。構成要素間の接合部が実質的に平坦な場合は、差圧に起因する構成要素境界沿いの剪断により、海水または冷媒の微小な漏れが生じることがある。これは、上部および下部パネルセクションの一方または双方を機械的に強化することによって回避できるが、材料が付加されて重量面で不利となる。他方、図12aおよび12bに示すように上部および下部抑制パネルセクションが互いに係合する場合は、例えば、上部抑制パネルセクションと下部抑制パネルセクションとの接合部に剪断面が形成されにくくなるので、パネルは漏れにくくなる。さらに、相互係合設計の機械的強度増加を考慮して、1つ以上の箇所を薄くかつ軽く作ることができる。
【0069】
例えば、図11a、11b、12a、および12bに示すような3つの構成要素の複合抑制パネルを使用する本発明の実施例においては、複合抑制パネル内部の冷蔵システムを、抑制パネルの外側の水相、気体相、およびハイドレート相からシールすることが重要である。したがって、かかる箇所は、溶接、加熱接着、もしくはろう付け/溶接合わせ;チタンのような特殊金属の場合の拡散溶接;または他方法により接合される。構成要素が熱可塑性である場合、または1つ以上の材料が使用される場合、かかる箇所を接合するべく接着剤または化学接着も使用できる。所定の複合多孔性抑制パネルは、少なくとも一部にOリングシールを備えてよい。以下の組立体、単一の統合抑制パネルユニットを形成するべく、3つの構成要素のすべてが、テーパ付き細孔とは完全に分離されて、液体冷媒供給ギャラリー399(および気体冷媒ギャラリー355)と堅固に接合される。
【0070】
冷媒分配部材391により、冷蔵システムの好ましい実施例において、冷却ポテンシャルの均一な分布および制御が促される。図13は一般に、冷蔵効果がどのように達成されるかを示す。ここで、上部および下部抑制パネルセクション351、353の内部の詳細は簡便のため除かれている。上述のように、冷媒分配部材391は微小孔を含む(簡便のため均一に分布して示される)。下部抑制パネルセクション353内の内部スペースが液体冷媒で占められる一方で、上部抑制パネルセクション351内の内部スペースは通常、気体冷媒で占められる。冷媒分配部材391における微細孔を通しての液体冷媒の気化を介して冷却するポテンシャルは、差圧が急速に平衡となる気体スペース全体にわたって同じである。
【0071】
冷媒分配部材391の、詳細な大幅に拡大した模式的断面(図14)には、液相と気相との関係が示される。冷蔵効果すなわち冷却の度合いは、例えば上述のポンピングのような気体側の圧力制御によって管理される。冷媒分配部材391の気体側の蒸気圧が、冷媒分配部材391の対向側の(すなわち冷媒供給ギャラリー399内の)液体冷媒の蒸気圧と平衡にある限り、分配部材391の液体側と気体側との間での冷媒の物質移動は生じない。(この状態では、システムの蒸気圧は(任意の特定温度に対する)液体冷媒の蒸気圧となる。)しかし、上部抑制パネルセクションにおけるギャラリー内の圧力が下がると、液体冷媒の蒸気圧は、気体側の圧力よりも高くなり、冷媒分配部材391における微細孔を通しての、冷媒分配部材の液体側から気体側への物質移動(図14の矢印で示す)が生じる。したがって、冷媒分配部材の気体側の圧力を変化させることにより、供給ギャラリー399内の液体冷媒の気化を規制することができる。これにより一般に、抑制パネルにおける細孔の冷却を規制することができる。
【0072】
したがって基本的に、冷媒分配部材39は、相の仕切りとして機能し、液体冷媒と気体冷媒とを分離する。冷媒分配部材391にわたり気化がほとんど生じないか、または全く生じないで冷却ポテンシャルが小さな場合、冷媒分配部材の液体側は、気体/液体転移の蒸気圧か、またはそのすぐ上に維持され、冷媒分配部材の気体側は、冷媒の蒸気圧か、またはそれよりも下に維持される。冷媒分配部材にわたる差圧を上げることにより、気化速度が上昇するので、冷却ポテンシャルが増加する。微細孔396は、特定の冷媒(例えばCO2)に対して親和性がある。したがって、図14に示すように、液体冷媒は微細孔を充填するが、差圧が過剰にならない限り、表面張力により微細孔内に保持され、液滴としてまたは表面膜として冷媒分配部材の他方側へ通過することができない。冷媒分配部材の気体側は、液体冷媒が冷媒分配部材の気体側に抜けて(wicking)いかないようにするべく、液体冷媒に対する親和性が小さい金属化表面のように金属でコーティングされる。気化は、分配部材391における気体/液体界面または気体チャンバ内で完全に生じる場合に、最も熱効率がよい。
【0073】
ほぼ同じ速度および量の気化が冷媒分配部材沿いのあらゆる箇所で生じるので、冷媒分配部材にわたり冷媒を気化することの冷却効果は、所定の抑制パネル内の気体スペース全体にわたってほぼ同じとなる。これは、液体冷媒供給ギャラリー399内の液体と冷媒ギャラリー355内の気体とが、冷媒分配部材において相互作用する個々の液圧システムを構成するからである。したがって、気化すなわち冷蔵の量を、冷蔵ギャラリー355内の圧力を変化させることによって精密に規制できるので、変動する条件および水を冷却するのに必要な熱需要へのシステム応答ならびにハイドレートが形成される温度の維持が、従来技術と比べてはるかに改善される。
【0074】
高冷却要求の期間中は冷媒分配部材の液体側と気体側との間の蒸気圧の差圧が大きくなるので、気体が充填されるはずの冷蔵ギャラリー355内へ冷媒分配部材を通って液滴が排出され、冷蔵ギャラリー355において急速に気化し、冷却を続ける。これは、液滴気化のための表面積が、冷媒分配部材の細孔エリアで通常利用可能な表面積よりも大きいからである。これは、冷却プロセスをさらに加速するので、冷却ポテンシャルを、微細孔内に露出される液体表面のみにおける気化により得られる冷却ポテンシャルよりも上へ増加させるテクニックとして使用できる。
【0075】
冷却/冷蔵に対し、冷媒分配部材391にわたる気化の代わりに、液体冷媒システムを厳密に循環させることが行われる場合は、液体冷媒が冷媒供給ギャラリー399から冷媒ギャラリー355までより容易かつ均一に通過できるように、冷媒分配部材に大きな孔(1つであっても使用されるのであれば)が設けられる。これは、このようにしないと、液体冷媒の固有粘性が、冷媒分配部材391を通るその通過速度を制限する傾向があるからである。気化の代わりに冷媒分配部材が液体を等しく分配するべく使用されるのに必要な唯一の違いは、部材における分配孔のサイズである。しかし、冷媒分配部材の全体的な利益すなわち冷却ポテンシャルの平等な分配、は基本的に変わらない。
【0076】
LCO2は、気化器システムを詰まらせる可能性のある微小粒子が中に存在しないように十分な純度を有すれば、表面供給から直接用いることができる。この通過モードであれば、解離したハイドレートから回収された気体CO2に適用されるものとは別個の特別な再圧縮を含まない。しかし、同じCO2を用いた蒸気圧縮システムが使用される可能性は高い。精製されて粒子状物質が除かれると、漏洩分を置換するのに必要なだけの補充をしながら不定に循環することができる。再循環蒸気圧縮法による多孔性抑制部の冷却のための精製/再補充システムは、エンクロージャ8の直近またはLCO2供給部の近くに実装できる。
【0077】
より一般的な考慮に戻ると、本発明に係る多孔性抑制パネルは、すべての細孔壁、すなわちハイドレートの均一成長のための熱交換用制御表面、に対して等しい厚さを有するのが好ましい。また、熱伝達が高まるようにできる限り薄いのが好ましい。このクラスの多孔性抑制パネルは「薄壁」と称され、機械加工によって限られた数、または(例えば薄い金属シートの)スタンピングもしくは(例えば流体対固体の鋳込みまたは押し出しプロセスを使用した)成形によって低コストで多数、製造できる。機械加工された構成要素(例えば図6、7、および11に示す)が、少なくとも最終的な抑制パネル構成要素と同じ厚さの金属または例えばプラスチックもしくはカーボン繊維と同様の複合材料のような他の所定材料から始められる一方で、薄壁多孔性抑制パネルは、薄いシートの材料から製造されて複雑な三次元形状に成形される。薄壁抑制パネルを作るには、スタンピングと成形の2つの基本的方法がある。スタンピングにおいては、海洋腐食に極めて耐性のあるチタン合金のような金属(またはプラスチックのような所定材料)のシートが、当該金属シートをダイに挿入して2つのダイの間で当該シートをプレスすることによって、ダイにてスタンプされる。他方、被形成構成要素は押し出しされるか、鋳込まれる。
【0078】
図15aおよび15bは、単一の多孔性抑制パネル(図15b)に組み立てられる薄壁上部抑制パネルセクション351、冷媒分配部材391、および下部抑制パネルセクション353を示す。複合抑制パネルの上流面は、ほぼ等しい厚さを有する複数の複合抑制パネルに対して図3aおよび3bに示すものとほとんど同様に、抑制パネルが支持されるフレームから外方に面する。薄壁多孔性抑制パネルは、細孔壁がいずれの場所でも薄くかつほぼ同じ厚さを有するように製造されるので、冷媒ギャラリー355および液体冷媒供給ギャラリー399は薄壁抑制パネル全体の全体積を実質的に占めることができる。これにより、薄壁抑制パネルは高効率熱交換器となる。しかし、最も重要なのは、細孔壁は一定の厚さを有するので、冷蔵ギャラリー355に隣接する上部セクション351におけるテーパ付き細孔のすべてにわたり冷却効果を均一にすることができ、均一な冷却が細孔内の均一なハイドレート成長を最適化する、という事実である。
【0079】
図16a、16b、および16cは、相対的に薄い周縁部を有する薄壁複合抑制パネルを取り付けるための(2列のみの細孔に対する)配置を示す。図16a、16b、および16cは、好ましくはプラスチックから作られる端部材470の例を示す。これは、単一の多孔性抑制パネル304の縁まわりに鋳込まれる。端部材470によって、抑制パネルの薄い周縁部は、複合多孔性抑制パネルの残り部分とほぼ同じ全体厚さになり、ほぼ均一な厚さを有する複合抑制パネルに対して上述かつ図3および4に示されるのとほぼ同様に抑制パネルがHARTモジュールフレームに取り付けられる。テーパ付き細孔の中心を通る断面図(図16b)には、上部パネルセクション351および下部パネルセクション353における細孔が示される。冷媒分配部材391は黒く塗りつぶされて示される。テーパ付き細孔の口と口との間の断面図(図16c)には、上部パネルセクション351および下部パネルセクション353の厚さがより明確に示される。分配部材391はここでも黒く塗りつぶされて示される。
【0080】
その代わりに、図17に示す好ましい実施例において、2つの多孔性抑制パネルが、(図3aおよび3bに示すフレーム312に類似する)フレーム473と一体となるように鋳込まれてもよい。2つの多孔性抑制パネルは、フレーム473とともに基本FIARTモジュール(例えば図3a、3b、4a、4b、および5に関連して前述)をなす。製造時に内部チャンバ319内にスペーサ(不図示)を付加してもよい。これにより、中心のチャンバ319は、中の圧力が本発明の装置の運転中に下げられても、一定幅を維持できる。さらに、HARTモジュールのこの構成において、フレーム自体は冷媒インレットポートおよび排出ポート(例えば、図3a、3b、4a、4b、および5に関連して上述)を含まない。それどころか、各複合抑制部の1箇所以上にインレット322およびアウトレット326が設けられる。(図17の各複合多孔性抑制パネルごとに1つのインレットおよびアウトレットが示されるが、これは説明のみを目的とする。)したがって、フレームおよび冷媒分配システムは、いくつかの異なる方法で、すなわちフレームを通るものと各複合多孔性抑制部に直結するものとの双方で、実装することができる。
【0081】
さらに、この実施例に関し、テーパ付き細孔358は、各HARTモジュール301がより薄く作られるように互いに千鳥状になるかまたは互いにずれるのが好ましい。この配置はまた、各テーパ付き細孔におけるハイドレート成長および解離のプロセス全体を向上させる。これは以下で詳細に説明する。
【0082】
ここに記載の多孔性抑制パネルの実施例すべてにおいて、より良好な熱力学的性能を達成して液体、気体、および水の流れを向上させるべく、他の装置が付加されてよい。例えば、必要に応じて、冷却のためまたはセンサシステム(主に圧力センサおよび温度センサ)を支持するために1つ以上の内部ギャラリーシステムを設けるには、複合抑制パネル内の他部材を使用して実装されてよい。さらに、不要または過剰なハイドレートが、抑制パネル上のテーパ付き細孔以外の領域に形成されるのを防ぐために、各多孔性抑制パネルの面に断熱層が付加されてもよい。例えば、生物汚染を防ぐべく、またはハイドレート成長を促すべく、陽極処理またはテフロン(登録商標)のような耐腐食材料によるコーティングによって表面を処理してもよい。
【0083】
この開示の焦点を本発明のシステム全体にまで広げ戻すと、多孔性抑制パネルがハイドレート成長を支えかつ熱交換器として機能するHARTモジュール301のアレイは、ガスハイドレートの制御成長を促すことによって脱塩を支える。かかるアレイはエンクロージャ8に設けられ、HART装置により処理される水を、好ましくは海洋環境において開放された海水から実質的または完全に隔離する。これにより、ガスハイドレートの核生成および成長に適した条件をエンクロージャ8内に維持することができる。ガスハイドレートの核生成および成長は、一部には、上述のような循環システムまたは気化モードのいずれかにおける液体冷媒によって促される。
【0084】
さらに、本発明によれば、冷媒(好ましくはこれも上述のようにハイドレート形成物質である)がいくつかの方法で有利に使用される。第1に、冷媒は、処理対象水の温度を直接制御するために使用される。具体的には、(液体二酸化炭素のような)冷媒をエンクロージャ8または圧力容器(例えば図31に示す)内の処理対象水に直接注入することにより、ハイドレート形成に適した温度の直上の所望温度まで水が冷却される。この冷媒は海水内へ放出されるときに気化および/または膨張し、冷媒は気化/膨張の際に水から熱エネルギーを吸収するからである。したがって、かかる液体または気体HFMのエンクロージャまたは圧力容器内に放出される量を規制することによって、エンクロージャまたは圧力容器内に所望の擬似的環境温度を維持することができる。さらに、HFMである冷媒を処理対象水に注入することにより、原水の温度にかかわらず(通常の天然海水温度に対して)、ハイドレート成長に適した溶解HFMの飽和(または過飽和)濃度レベルを維持することができる。(任意の特定HFMが核生成してハイドレートを成長させるのに必要な圧力は、本発明の海洋系アプリケーションでは水塊中の所定深さまでエンクロージャ8を沈めることによって、または本発明の圧力容器系アプリケーションでは圧力容器内でのポンピングおよび/または気化によって、生成される。)
【0085】
第2に、ハイドレートの制御された核生成および成長のための極めて局所的な条件が、多孔性抑制パネル上にその内部冷蔵によって作られ維持される。本発明の特に好ましい実施例では、液体冷媒(例えば液体二酸化炭素)は、本発明の実施で使用されるハイドレート形成物質であり、上述のように冷蔵プロセスの一部として気化される。この場合、液体冷媒HFMの気化により生成されたガス化HFMを、ハイドレート成長に寄与する処理対象水中に注入してよい。その代わりに、必要であれば、ガス化された液体冷媒を再圧縮し、蒸気圧縮に基づく冷蔵サイクルで再循環させてもよい。この場合、冷蔵システムの冷媒は処理対象水から隔離される。この冷媒が、本発明の実施で使用されるHFMと同じである必要はない(またはHFMである必要は全くない)。
【0086】
本発明の実施を全体的により良く理解するためには、本発明が実施される通常海水領域における圧力と温度との関係を理解すること、および溶解HFM(ここで使用される例ではCO2)の圧力、温度、および濃度をどのように操作できるのかを十分に理解することが役立つ。これは、本発明の実施では、いくつかの自然発生海洋条件および物理的プロセスが利用されるからである。この条件およびプロセスは、本発明で使用される態様で使用されるのが通常というわけではない。
【0087】
冷媒として使用される多くの物質は、アンモニア、二酸化硫黄、塩化エチル、四塩化炭素、イソブタン、プロパン、塩化メチレン、クロロフルオロカーボン(フレオンを含む)、および二酸化炭素(CO2)を含むハイドレート形成体でもある。溶解度、液体/気体界面における蒸気圧、および水(および海水に通常見られる物質)を含む様々な冷媒/ハイドレート形成体は、相当に変化するので、特定の物質を冷媒/ハイドレート形成体として選択および使用する際に考慮する必要がある。
【0088】
いくつかのハイドレート形成ガスが使用できるが、本発明の使用にとって好ましいハイドレート形成体はCO2である。CO2は、本発明を用いるガスハイドレートによる脱塩にとって好ましいHFMとなるいくつかの特性を有する。CO2は水に容易に溶解し、特に圧力下では、相対的に小さな量の水でも相当量の溶解気体を含むことができる。CO2は海水に急速に溶解する。このため、海水は、ハイドレート成長プロセスにとって重要となる拡散物質移動には良好な媒体とある。CO2ハイドレートは、実験室での実験および外洋のいずれにおいても、自発的に核生成して容易に成長することが示されている。CO2は、溶解固体を優れたハイドレート形成体であり、そのハイドレートは、溶解固形物および食塩水滴不純物に対する強固な拒否性を示す。このため、CO2は一般的に脱塩および水分離に理想的なHFMとなる。
【0089】
CO2は、不燃性であり、扱いが容易であり、かつ比較的安全である。高濃度のCO2が所定金属に対して腐食性であっても、かかる腐食は、材料を慎重に選択することにより軽減することができる。また、これは、冷蔵なしで比較的低圧力の格納容器に格納され得る液体としてほぼ全世界で市販されており、かつ、比較的低コストで入手することができる。さらに、この既に低いコストがやがて下がることが予想される。これは、一部には、地球規模の気候変動(温暖化)を軽減するべく京都合意に従い、発電のような集中的ソースからのCO2が捕集されて、海または地質貯留層のいずれかで処分されるからである。したがって、CO2の処分があるので、脱塩プロセスで使用されるCO2は実際にはコストがかかるものというよりはむしろ利益あるものとなる。さらに、濃縮CO2は強力なバイオサイドなので、装置自体の中では生物汚染がほとんど生じ得ない(しかし、それが海洋中に処分プロセスの一部として分散すると急速に生物相に無害な流出物となる。)さらに、CO2は、その現行の低コスト、入手性、非毒性、および生物医学的に良性ゆえに、優れた冷媒である。
【0090】
CO2は、本発明においては、(ハイドレートが核生成して成長するための)疑似環境水温を下げることと、水と結合して脱塩有効ハイドレートを形成するHFMを与えることとの双方を目的として使用される。したがって、本発明の最も好ましい実施例では、処理対象水へのCO2の注入およびCO2に基づく冷却が、処理対象水内でのCO2の注入/気化/膨張と、熱交換抑制パネル内の冷蔵との双方に起因して、本発明の同じプロセス全体の一部として生じる。CO2ハイドレートが適切な圧力深度領域で核生成して成長するためには、所定圧力においてHFMで海水を過飽和にする必要がある。処理対象水の温度はまず、その環境温度から必要な低温度まで下げる必要がある。圧力温度スペースでの液相から気相への相転移(以下「液相線」と称する。図20)よりも上の温度で液体CO2(LCO2)をエンクロージャ8または圧力容器に注入することによって、LCO2の激しい気化および処理対象水中への溶解が生じる。本発明によれば、CO2の注入速度は、そのすべてが処理対象水中に溶解するように制御される。微小気泡の過渡相が時々存在することがあっても、その気泡は急速に溶解する。わずかな微小気泡が過飽和水と共存するときに理想状態に達する場合があるが、注入されたCO2の残りは、システムの既存の物理的制限まで溶解している。したがって、過飽和であっても、溶解CO2の濃度を特に測定するためのエンクロージャ内または処理対象水内の装置は不要である。むしろ、本発明が運転されるエンクロージャ8または圧力容器(不図示)内のわずかな離溶(exsolved)気体ヘッドの存在が、過飽和すなわち好ましいハイドレート成長条件の存在を示すには十分となる。
【0091】
上述のように、原海水(または処理対象水)は他のいずれかの場所で循環冷却流体または他の冷蔵装置との熱伝達によって冷蔵または予備冷却され得るが、本発明では、エンクロージャ8または他の圧力容器内での直接気化により水を冷却/冷蔵するべく液体HFMを使用するのが好ましい。LCO2の気化は、物質の状態変化に応じた吸熱反応である。図18は、低緯度海洋水塊の約300メートルの深度における温度にほぼ等しい約15°Cの仮想環境海水温度を使用した、異なる水深に対するCO2の気化熱のグラフである。(例えば、図19は、大西洋中東部のカナリア諸島付近からの実測熱水曲線を示す。)気化熱データにより、水中に注入しなければならない液体および気体のCO2の量が計算され、任意の開始環境水温からエンクロージャ内の所望の水温が求められる。任意の水温/深度曲線に対しては、任意の通常海洋温度の原水を、エンクロージャ内の必要なハイドレート形成温度まで冷却するべく気化する必要がある液体HFMの量を指示する制御図が計算されてプロットされる。
【0092】
図20は、CO2ハイドレート安定(斑点領域481)の圧力/温度フィールドのプロットである。図20は、処理対象水の冷却プロセス、さらには多孔性抑制パネルを冷却してその上にガスハイドレートを形成させる効果を示す。具体的には、相境界の左側ではハイドレートは安定である。この相境界は、ハイドレート安定の圧力/温度フィールド(斑点部分)とハイドレート不安定の相境界の右側のフィールドとを分離する。(溶解したHFMの濃度もまた理解および考慮上の重要な因子であるが、本説明の目的上、処理対象水はハイドレート成長時および解離時の双方において過飽和とみなされる。)本発明によれば一般に、A点温度(本説明では約15°Cと仮定)の環境温度海水が、上述のように構成されたHARTモジュールのアレイを含むエンクロージャ8内にもたらされる。エンクロージャ内の水に、温度範囲に対するCO2気体/液体転移483よりも上の圧力(相平衡状態図に図示)でLCO2を注入すると、LCO2は気化して海水をB点まで冷却する。(初期圧力に応じて、温度の低下に伴う線はほぼ水平となる。)この点の温度は、ハイドレート形成に適したものに近いが、ハイドレートの核生成および成長するほど十分冷たいわけではない。(ますます高くなる開始水温に対して処理対象水を冷却するには、気化量を増やすことが必要となる。)
【0093】
運転条件下では、注入によってLCO2が気化された後の海水温度がモニタされる。これによりCO2の溶解速度が制御されるので、ハイドレート相境界の直上の温度が維持され、原水の温度変化が補償される。その量を越えてLCO2をさらに気化させるだけで、水中のLCO2量が増加し、エンクロージャ全体の水温がハイドレート安定フィールド内まで低下する。これにより、不要な水塊全体にわたってハイドレートが形成される。
【0094】
引き続き、多孔性抑制パネルにより与えられるさらなる冷却/冷蔵により、処理対象水の温度は、エンクロージャ内の全体的な水温であるB点からC点まで低下する。C点の温度は、多孔性抑制パネルの表面直上およびそれに隣接する部分で(すなわちテーパ付き細孔の壁上で)処理される水の温度であり、かつ、ハイドレート安定フィールド内にある。したがって、処理対象水がB点からC点までさらに冷却されると、ハイドレートは抑制パネルの細孔内で形成かつ成長する。
【0095】
十分なハイドレートが抑制パネルの細孔内で形成されてその細孔に詰まって圧力シールになると、狭いチャンバ319内の圧力は例えばポンピングによって下げられる。上述し、かつ、以下でさらに詳細に説明するように、その下げられた圧力にさらされるハイドレートの一部(理想的には、双円錐テーパ付き細孔の下部内、すなわち下部抑制パネルセクション353内に形成される細孔の一部内に突出するハイドレート)は、相対的に純粋な水(すなわち変換水)内に再び解離し、気体HFMはチャンバ319内に渡される。そこから、変換水339および気体HFM330(図3a、3b、4a、4b、および5)がHARTモジュール301から抜き出され、以下に詳細に記載するさらなる処理ステップに従って取り扱われる。
【0096】
CO2を上記のハイドレート式脱塩に使用する利点に加え、CO2(LCO2)を、沈められた装置内でのハイドレート式脱塩に使用するさらなる利点は、その液体状態と気体状態との間の転移が、海または水塊の相対的に浅い深度で受ける圧力で生じることにある。LCO2ハイドレート式脱塩が行われるCO2ハイドレート安定フィールドの圧力/温度領域は、液相線483上のハイドレート安定フィールド481内(図20)にある。(液相線の下にある高圧のハイドレート安定領域は、それに関連する著しく遅いハイドレート成長速度を有する。)したがって、エンクロージャ8およびその中にアレイ化されたHARTモジュールをこの範囲内の水深に配置した後に水温を適切に制御することにより、CO2ハイドレート形成に必要な圧力を比較的容易に達成することができる。
【0097】
ハイドレート成長条件に関しては、多孔性抑制パネル上でハイドレート成長を維持するべく、CO2はエンクロージャ内の海水中で過飽和レベルに維持する必要がある。理想的には、これは上述のように、(LCO2気化に起因して)エンクロージャ内の水温全体を、ハイドレートがエンクロージャ全体に形成する程度にまで下げることなく達成される。これは、残留水(すなわち、ハイドレートが形成されて海水から純水が抽出された際の「取り残された分」であるエンクロージャ内の高塩分かん水)が最終的にはエンクロージャから放出されるからである。水塊内全体に形成されるハイドレートは、その残留水とともに失われる傾向があるので、HFMを無駄にしたり本発明のプロセスの効率を低下させる。したがって、この懸念に対する2つのソリューションの一方または双方が実施されて、処理対象水が所望の温度および濃度に維持される。
【0098】
具体的には、より深いまたはより浅い深度のいずれかからの暖かい水を、処理対象となる環境水としてエンクロージャへ導入するか、または、単にエンクロージャのすぐ周りにある環境水と混合させる。これにより、エンクロージャ内の水中へのLCO2のさらなる気化が促される。したがって、処理対象水の温度を、不要なハイドレートが水塊中全体に形成されるほど下げることなくCO2濃度を上げることができる。(確かに、異なる温度の海水を使用して濃度および温度を平衡させることが究極的に難しいことが認められる。濃度をこのようにして上げても、連続的な脱塩プロセスを一様に与えるのに十分なほど上がることは究極的にはないかもしれない。)その代わりに、すべてに液体CO2を使用せずに、所定量の気体CO2を(溶解してもLCO2の気化と同じ冷却レベルを生成するわけではないが)エンクロージャ内の冷却水に混合させてもよい(気相からの単純溶解のエネルギー平衡を考慮するべきである)。
【0099】
さらに、ハイドレート成長条件を維持することに関し、標準的な海洋計測の装置およびテクニックを使用して、脱塩装置近傍の局所海洋学を詳細に継続モニタリングする必要がある。これにより、LCO2を注入することと気体CO2を溶解させることとの任意の平衡を管理して、エンクロージャ内の水温を所望の狭い範囲すなわち図21のほぼB点に維持するすることができる。かかるモニタリングは、本発明のプロセスの一部として異なる温度を有しおよび/または異なる深さから抜き出された水が使用される場合に特に重要である。かかる可変温度の測定により、本発明の脱塩プロセスを制御するべく仕様される運転アルゴリズムのための基本的な制御データおよび入力データが得られるからである。さらに、設置地点の特定の深さおよびその深さ(または取水口が配置される深さ)における水温を処理対象水の冷蔵要件決定に考慮するべく、各設置位置に対して図20に類似する状態図を作る必要もある。
【0100】
ここで、本発明に係る若干巨視的な説明に戻ると、海水はエンクロージャ8(または圧力容器)内にもたらされ、ここで、海水は、所定の圧力深度(上述)においてハイドレート安定点近くまで温度が下げられている間にHFMを供給される。HFMを原水に注入することは、その結果得られる気化およびそれに付随する海水の冷却とともに、完全にエンクロージャ(または圧力容器)内で行われる。さらに本発明によれば、エンクロージャ内の海水は、HFM濃度をハイドレートの結晶化が可能なほど十分高く維持するべく、連続的または定期的(ただし連続ベースで)なHFMの注入を受ける。多孔性抑制部パネル上でハイドレートが成長してハイドレート内に含まれる水(すなわち捕集水)が抑制パネルを介してHARTモジュールのチャンバ319内へ抽出されるにつれて、より多くの海水がエンクロージャ内にもたらされる。ここで、海水は、置換海水にHFMが供給されている間にエンクロージャ内に残っている残留高塩分海水(かん水)と混合される。本発明に係る一の運転モードでは、ハイドレートは、エンクロージャ内の残留海水の塩分が目標レベルまで増加するまで成長することが意図される。この目標レベルは、以下にさらに詳細に記載されるいくつかの因子によって決まる。その時点では、エンクロージャ内のすべての水を、エンクロージャのすぐ外からの新たな環境海水で置換するべくエンクロージャから出すことができる。その代わりに、本発明に係る他の運転モードでは、ほぼ連続的に(定常速度で間欠的にまたは常に)付加的な処理対象水がエンクロージャ内に導入される。残留かん水は、ほぼ同時に、すなわちエンクロージャ内の残留塩分が高すぎるレベルにまで上昇させないようにして、エンクロージャから排出される。したがって、HFMを処理対象水中へ注入してハイドレートに混入させることは、ほぼ連続的なプロセスとなるが、エンクロージャ内の処理対象水をリフレッシュしてエンクロージャを空にすることはバッチプロセスまたは連続プロセスのいずれかとなる。
【0101】
ハイドレートが抑制パネル上で成長して原海水から淡水を抽出するにつれて、エンクロージャ内の残留水(かん水)の塩分が増加する。さらに、残留水は、周囲の環境海水よりも冷たい。したがって、エンクロージャ内の残留水の密度は、周囲の環境水の密度よりも大きいので、残留水がエンクロージャ8から実質的に塊(bolus)として放出されると、残留水は自動的に下方へ沈み、エンクロージャから離れる。残留水がエンクロージャから離れるこの自然な動きによって、脱塩運転の位置からより多くの食塩水が除去されて、下方の外洋深くに入り、海洋生物圏に大きな影響を与えかねない表面から離れる。(残留水を深くにまで送ることを容易にするには、脱塩装置から下方に延びるパイプ(不図示)から残留水を排出することが有利である。)
【0102】
残留水が沈むと、通常の海水とわずかに混合し、残留水中に溶解している高レベルHFM(CO2)に起因する残留水の高塩分および低pHが緩和される。さらに、残留水の塊が沈むと、それに及ぶ圧力が増加するので、HFM(CO2)が飽和する相対レベルが増加する。したがって、残留水は沈むにつれてCO2が不飽和となり、最初は高い飽和の環境への影響は、深さが増すにつれて減少する。
【0103】
(この力学がCO2を、脱塩/水精製に使用されてきた近表面環境から除去し、より低い海洋深さに隔離する。残留水の塊が沈み続けると、それに及ぶ圧力が増加し温度が低減する。したがって、残留水中でCO2ハイドレートが形成される可能性がある。CO2ハイドレートの形成はさらに、残留海水塊の全体的な密度を増加させて、CO2ハイドレートの非浮力性ゆえにCO2の海底への沈下を加速する。したがって、脱塩/水精製を与えることに加えて、本発明は、二酸化炭素を隔離するエレガントな手段も与える。)
【0104】
本発明の実施に対してLCO2をエンクロージャ8に供給することに関し、運転が行われるシステムの深さまでLCO2をポンピングするのに必要なエネルギーコストは、あってもごくわずかである。特に、保持タンク(例えば図1の32)内の圧力は、容器が格納される場所の温度における二酸化炭素の蒸気圧である。エンクロージャまでの供給ライン(例えば図1の36)の底部における圧力は、格納タンク内の蒸気圧に、運搬パイプ内のLCO2の重量によるヘッド圧力を加えたものに等しい。ほとんどの場合、この圧力は深部の水圧よりも高い。したがって、液体二酸化炭素は、単にバルブを開けることによって、エンクロージャ8内のハイドレート形成領域まで運搬することができる。(LCO2以外の液化HFMに対しては、類似の蒸気圧を持つわけではないので、表面上の格納容器からエンクロージャまでHFMをポンピングする必要がある。)
【0105】
LCO2がエンクロージャ8に到達すると、本発明によれば、それを処理対象水中に注入するべく2つのアプローチがある。単一区画のエンクロージャにおいては、LCO2注入、混合、およびハイドレート成長のすべては単一区画内で生じる。対照的に、複数区画のエンクロージャにおいては、注入および混合は一のチャンバで生じ、ハイドレートは、HARTモジュールのアレイを収容する別個の主チャンバで成長する。いずれのタイプのエンクロージャでも、注入は相対的に擾乱されており、LCO2の処理対象水中への急速な溶解が促される。
【0106】
図21aは、エンクロージャ8の単一区画の実施例を示す。ここで、LCO2502は、複数のHARTモジュール301間に配置されたインジェクタ514に対してLCO2502を平等に分配するマニホルド505を介して導入される。運転装置のすべてが、エンクロージャの単一区画内に含まれる。LCO2の注入は、電子制御装置およびビルトインセンサ(不図示)に応答する可変バルブ516によって制御される。LCO2インジェクタにはCO2ハイドレート(またはCO2ハイドレート安定領域外に配置される場合には水氷も)が詰まり得るので、LCO2は、LCO2気化の冷却ポテンシャルが少なすぎる数のインジェクタに過度に集中しないだけの十分な数の注入点においてマニホルドにより注入することが推奨される。この実施例では、原海水530が、エンクロージャのほぼ上部においてエンクロージャ内へ取り込まれ、高塩分残留水535がエンクロージャの下部からほぼ排出される。
【0107】
本発明のこの実施例では、LCO2供給以外には未処理の原水が、ハイドレート形成のための媒体を与える。水の抽出はHARTモジュールの多孔性抑制部を介して、エンクロージャ内の残留水塩分が所望レベル(例えば通常の塩分の2倍または約64,000ppm)に達するまで行われる。この時点で、原水はエンクロージャ内の処理済の水を完全に置換して、通常塩分近くの海水が再びエンクロージャ全体を占めるようになる。その代わりに、新たな原水の取水をゆっくりにして、ハイドレート形成を介して抽出されたその水のみを実質的に置換してもよい。この運転モードは、エンクロージャ内で処理されている水を相対的に食塩水のままとするが、やがて過飽和を一定に近いレベルに維持する。どちらの場合も、エンクロージャ内の被処理水のCO2飽和が、多孔性抑制部においてハイドレートの著しい溶解が生じないほど十分に高いレベルのままに維持される。
【0108】
その代わりとして、図21bは、エンクロージャの複数区画の実施例を示す。この実施例では、LCO2は、HARTモジュール301を含む主脱塩チャンバ612とは別個のチャンバ610内で処理されている水中に注入される。チャンバ610での注入後、CO2を注入された水が、CO2ハイドレートが成長する主チャンバ領域612に注入される。注入チャンバ610は、直線複数区画エンクロージャの4側面すべてに設けられる。その代わりに、エンクロージャ8が円形または楕円形の場合、注入チャンバは、チャンバ612の全周縁に設けられる。さらに、注入チャンバ610は、HARTモジュールのアレイを保持するエンクロージャ8とは完全に別個であってもよい。しかしながら、好ましい構成は図21bに示される。
【0109】
この実施例では、原海水630は、インレットポンプ632によって注入チャンバ610内にもたらされる。LCO2502は、注入チャンバ610内にもたらされ、複数のインジェクタを支持するマニホルド614によって処理対象水に注入される。注入されていない水の細流が、エンクロージャ内外の圧力を平衡させるべく、エンクロージャ641の上部にもたらされように対応機器も設けられる。複数チャンバエンクロージャ内の水の動きは、循環ポンプ637によって制御される。これは、主脱塩チャンバ612内の捕集マニホルド639から水を引き出して注入チャンバ610の下部内に強制的に入れられる。(小さな矢印は、エンクロージャのチャンバ内の水の動きの一般的な方向を示す。)エンクロージャ内に水を強制的に入れる循環ポンプ637が一部に限り設けられるのは、微小気泡の成長を引き起こす注入プロセス自体はチャンバ610内の水を上昇させるからである。したがって、循環ポンプの主要機能は、流れを引き起こすことに加え、流れ方向を制御することにある。(水とHFMとの良好な混合を促す)別の運転モードでは循環パターンは反転される場合もあるからである。
【0110】
注入海水マニホルド645は、ハイドレートをHARTモジュールの抑制パネルの細孔内に形成するべく、インジェクタ649のシステムを介してHARTモジュール301のアレイに、(HFMが所定飽和レベルまで注入された)冷却された水を注入する。複数チャンバエンクロージャ内の複数のHARTモジュール301間での条件は、単一チャンバエンクロージャ内の条件とは異なる。具体的には、単一チャンバエンクロージャの一のチャンバ内の混合条件がLCO2の処理対象水への直接注入ゆえに極端である一方で、複数チャンバエンクロージャの主脱塩チャンバ612の混合条件は擾乱をほとんど含まないので、水流および水流速をほぼ連続的に下向きに維持することができる。エンクロージャの主チャンバ612内の残留水は、所望の塩分に達すると、エンクロージャのほぼ下部から排出535され、エンクロージャから離れて沈んでいく。エンクロージャのこの特定の構成により、海水は、注入チャンバおよび主脱塩チャンバ612を介して所望の塩分レベルに達するまで数回循環され、塩分の増加した水が排出される前にできる限り多くのHFMを利用する。これにより、本発明のプロセスの効率が高められる。
【0111】
より具体的な成長および解離のダイナミクスを以下に記載する。具体的には、多孔性抑制パネルを2つ以上のセクションにすることによって、テーパ付き細孔は、本発明者の従前の特許に係る単円錐形状で可能であったものと比べて、ハイドレートの形成および解離のプロセスを劇的に向上させる複雑な形状(例えば、上述のような双円錐形状)を有することができる。図22aは、双円錐複合多孔性抑制パネルの上部セクション353におけるハイドレート形成の理想的な場合を示す。ここで、ハイドレート765は、複合抑制パネルの上流側の細孔内で成長する。上部パネルセクション351内のテーパ付き細孔714は一般に、広口717を備える円錐断面を有する。(図12aおよび12bも参照。)上部パネルセクション内のこれらの細孔は、ハイドレート成長が促されるハイドレート形成領域を与える。多孔性抑制パネルの上部セクション351のテーパ付き細孔の下部アウトレット端部723は、その口717よりも小さい。下部抑制パネルセクション353において、テーパ付き細孔の形状および配置の同様の幾何学的関係は、下部パネルセクション内の細孔731の口729がその小径出口779よりも大きい点にも存在する。注目すべきなのは、上部セクションのテーパ付き細孔の出口またはアウトレットの直径が、下部セクションのテーパ付き細孔の口径よりも小さいことである。これによって、双円錐形状の特性とみなされる段付きまたは非単調に減少する形状が与えられる。上部抑制パネルセクション内のテーパ付き細孔の2つの端部の直径の相対比率は変化してよく、テーパ付き細孔の長手軸の長さの比も同様である。
【0112】
図22bは、別の実施例を示す。ここで、下部抑制パネルセクション353の細孔は、図22aに示す実施例よりも大きな体積を有する。大きな体積により、ハイドレートの解離が促される。この解離は、解離領域731(すなわち下部細孔)内に延びるハイドレート塊上の粗いエッジによって模式的に示される。大きな体積によって、解離プロセス中に分離しかねないハイドレート片は、ハイドレートの主要な塊765から離れて接触せずに存在できる付加的なスペースを有することができる。(これは、ハイドレートの表面積をさらに拡大させて解離および急速な水の製造を促すので有利である。)この例では、下部細孔の矩形形状が示されるが、実際の形状は使用される特定の材料、製造方法等に応じてかなり変化してもよい。下部抑制パネルセクション内の大きな細孔サイズは、水とハイドレート解離後の気体との良好な分離を容易にする。また、より多くの細孔ドレイン孔780を設けることが可能となり、内部HARTモジュールチャンバ319内を水および気体が容易に通過できるようになる。さらに、図22bに示す側方にスペースのある細孔ドレイン孔780は、多孔性抑制パネルがHART装置の運転中に垂直に向けられる場合に有利である。これは、ハイドレート解離後に分離された気体および水が、唯一の中央に配置されたドレイン孔が存在する場合よりも良好にドレイン抜きされる傾向があるからである。また、各解離領域(下部細孔)に対して2つ以上のドレイン孔が存在する場合は、(例えば、ハイドレート内にトラップされていたデブリまたは沈殿物のまれな発生により)1つまたは1つよりもさらに多くのドレイン孔がふさがれても、ハイドレート解離、気体/水分離、および精製水の製造すべてが妨げられる可能性が低くなる。さらに、本実施例においては、大きな冷媒供給ギャラリー399が存在し、これにより、冷媒の分配および全体的な冷却ポテンシャルが促される。
【0113】
処理対象海水がゆっくりと多孔性抑制パネル面を横切る場合、層流が生じる境界層が形成される。溶解したハイドレート形成反応物質が、かかる境界層を介して海水から成長ハイドレートまで横切る主要なメカニズムは、拡散である。拡散は、境界層厚さに依存するハイドレートの成長速度および純度に影響を与える重要な因子である。すなわち、境界層が薄ければ薄いほど、拡散が速度制御および純度制御現象として機能できる距離は短くなる。したがって、多孔性抑制パネル面上に、微小混合を導入して層流境界層条件を排除する擾乱条件を作るのが望ましい。これにより、ポンピングコストを低くして、ハイドレート成長速度(kinetics)を相対的に高くすることができる。ハイドレート成長前線の近傍における水の動きによる擾乱によって、連続成長に必要な溶解反応物質のハイドレートへの供給と、ハイドレートが拒絶した物質(溶解イオン、沈殿物等)のハイドレートからの除去との双方が向上される。
【0114】
擾乱および微小混合は、多孔性抑制パネルの露出面上の微小凹凸によって生じさせることができる。かかる微小凹凸は、いくつかの異なる手段によって設けることができる。それぞれの手段は、回転渦を生じさせるポテンシャルを有する。図23aに示す一実施例によれば、上部抑制パネルセクションの露出表面にわたる複数の細孔の間に、その表面から延びる微小突起810が形成される。その代わりに、図23bに示すように、微小で同様に配置されたディンプルまたはインプレッション820を露出表面に形成してもよい。このディンプル820は、(本質的に良好な混合効果を有する)渦を伝播させるが、やがて不要なハイドレートで充填されるようになる。したがって、突起は、不要なハイドレートが成長しない材料から作ることができるので、長期にわたって信頼できるフローミキサーであることがわかる。突起は、別個に形成されて上部抑制パネルセクションに取り付けられるか、または上部抑制パネルセクションが製造される材料と一体とするかのいずれかによる。しかし、多孔性抑制パネル面上の任意形状の凹凸要素でも(場合によっては突起とディンプルまたはインプレッションとの組み合わせであっても)ハイドレート成長に対して有利となる。
【0115】
本発明の実施を最適化するための2つの付加的な考慮により、多孔性抑制パネル(事実上の熱交換器)を通してハイドレート形成領域まで正確な熱除去ポテンシャルを与えることができ、処理対象水中の溶解HFMの正確な濃度を維持することができる。エンクロージャ8内の水温は、その中にもたらされる環境海水の温度により変化するので、注入される液体および気体HFMの相対比率も変化する。理想的には、ハイドレート形成領域内(すなわち上部抑制パネルセクションの細孔内)の温度は、処理対象水中のHFM飽和の一定レベルによって予測可能な成長動態が得られるように、狭い範囲内に維持される。
【0116】
さらに、本発明の実施に関しては、ハイドレートは連続モードまたはバッチモードのいずれかで成長する。連続モードにおいては、ハイドレートの成長および解離はほぼ同時に生じる。成長の前線における(すなわち上部抑制パネルセクションの細孔内のハイドレート塊の外表面における)ハイドレート成長は、下部抑制パネルセクションの細孔内のハイドレート解離にほぼ一致する。ハイドレートの成長速度がハイドレートの解離速度と平衡している場合、全体的なプロセスは連続として記載することができる。この場合、ハイドレートの再結晶化に起因する物理的質量移動と結晶構成要素のマイグレーションとの組み合わせプロセスによってハイドレートの構成要素が抑制パネルの細孔を通って動いていても、成長表面は定常状態のままのように見える。対照的に、運転のバッチモードまたは循環モードにおいては、ハイドレートの成長および解離速度は常に等しいわけではないので、成長が支配的な期間と解離が支配的な期間と(これらはある程度オーバーラップし得る)が存在する。連続的な脱塩/精製水製造に対しては、成長の循環周期または連続周期をできる限り一定なものとして確立することが有利である。
【0117】
ここで図24を参照すると、この図上の位置Cは、圧力/温度フィールドにおいてちょうどハイドレート安定範囲内にあるCO2ハイドレートに対する圧力温度成長位置の例である。この位置は、上部抑制パネルセクション内のテーパ付き細孔の口における成長ハイドレート内およびその表面に維持される。(この位置は、図20におけるハイドレート成長位置Cに相当する。)成長位置のレベルまたは位置は、異なる海水深度で水圧が変わるのに伴い変化するが、成長位置の位置は、圧力/温度スペースにおいて相境界からほぼ同じ「距離」のままであり、ハイドレート安定の準安定成長領域にある。圧力/温度状態図上の各テーパ付き細孔の下流端部内のハイドレート解離位置の例(図24のZ)は、HARTモジュール301の内部チャンバ319内の圧力と同じであるが、解離プロセスの吸熱性質により熱が消費されるので、成長位置(図24のC)よりも冷たい。
【0118】
海水の塩分はCO2ハイドレート相境界の位置すなわちハイドレートが成長する温度に影響する。したがって、本発明の実施中は、(例えば伝導率等により)塩分をモニタする必要がある。ハイドレートが原海水から水分子を抽出する際に脱塩プロセス中にエンクロージャ内の塩分が変化するので、多孔性抑制部の温度を下げる必要がある。また、ハイドレート成長に対する所定温度を維持するべく海水中へのLCO2の注入速度を調整する必要がある。この点において、およびこの効果を実証すべく、図25に、異なる水の塩分に対して算出された相境界を示す。図示された異なる相境界は、Aがゼロ重量%NaClの淡水、Bが3.4重量%NaClの平均的な海水、Cが6.7重量%NaClのスーパー塩水、Dが15重量%NaClのハイパー塩水を示す。ハイドレート相境界に加え、二酸化炭素の液体/気体転移(液相線)もE線として示す。エンクロージャ内の圧力/温度条件は、液体よりもむしろ気体がCO2の安定自由相形態のままとなるように維持する必要がある。
【0119】
多孔性抑制パネル内にCO2ハイドレートを連続的に生成するためには温度降下が必要となる。ほぼエンクロージャ内で処理される水の温度と、ハイドレート/海水界面の表面における水の温度との差は、約2°Cに維持される。しかし、塩分がハイパー塩分レベルまで上昇すると(図25のD線で表示)、かかる条件を維持するには相当な冷蔵が必要になる。したがって、処理対象海水の各「バッチ」に対しては、エンクロージャ内の塩分が天然海水塩分の2倍よりわずかに上のレベルに達するまでのみの脱塩が行われることが推奨される。このため、環境塩分が比較的低い場合、例えば、大きな河口において、または最近降雨の大きな流出があった陸地に隣接して見られるような、淡水によって自然に希釈された海洋水においては、塩分は26,000ppmNaClもの低さとなり、それに比例して多くの淡水を、上記制限に達するまでに海水から抽出できる。逆に、比較的高い塩分を有する海水の場合には、例えば、大きな蒸発量を有する地中海や紅海のような閉じられた海によく見られるように(塩分は48,000ppmNaClもの高さとなる)、それに比例して低いパーセンテージの淡水を、冷蔵コストが高額とならない範囲で得ることができる。
【0120】
本発明の実施において考慮すべき他の関係は、深度(すなわち圧力)と、気化したCO2の冷却効果との関係である。この効果は圧力に依存する。かかる関係を図26に示す。ここで、AはCO2液相線を示し(液相線の上側が気体CO2、下側が液体CO2である)、BはCO2ハイドレート形成の上(すなわち低圧)側の限界を示す。Cは、相境界から約1°C上のLCO2の一部を気化させることによって得られる、エンクロージャ内で処理される水の温度を示す(これは圧力−深度により変化する)。Dは、ハイドレート形成に必要な溶解CO2濃度に達するのに必要なLCO2の100%を気化させることによって得られる、冷却気化の実際の上限を示す(図20および24のC位置に対応)。Eは、海水から50%(体積比)の純水を除去した後のかん水の相境界を示す。
【0121】
上述のように、ハイドレートの構成要素は、本発明のプロセス運転中、連続的にテーパ付き細孔を通って移動する。図27は、この移動が生じる態様を示す。テーパ付き細孔がハイドレートによって実質的に満たされ、内部HARTチャンバ319内の圧力が下げられると、各細孔内のハイドレートにわたって差圧が生じる。テーパ付き細孔の解離領域(すなわち下部抑制パネルセクションの細孔内)の圧力は、ハイドレート安定フィールドの外(図24、Z点)にある圧力/温度スペース内の点に圧力がほぼ到達するように、センサおよびコンピュータ制御に応答してポンプにより制御される。圧力がテーパ付き細孔の下流側で下がると、各細孔内のハイドレートは差分の三軸ひずみを受けるようになる。この誘導ひずみは、水の製造プロセス全体にとって、および変換水の純度にとって有利である。差圧は、テーパ付き細孔の壁にハイドレートを物理的に押しつけ、結果的に得られるひずみ(図27に模式的なひずみベクトルの矢印(ハイドレート内(すなわちハイドレートプラグ(点描部分))内の一重軸曲線矢印)で示す)によってハイドレートは、粒界移動および欠陥転位移動を介して再結晶化する。すなわち、ひずみによってアニーリング再結晶化条件が生じる。ハイドレート内の応力が破砕を生じさせるほど十分に高い場合、その破片は、テーパ付き細孔の側壁に対して横ずれ(transpressional)するので自己シールとなる。各細孔内(一般的には中心エリアであり、縮径細孔出口に次第に向かう)のハイドレートのいくつかがそろって移動しても、ハイドレートの大部分は(特に、ひずみが最大となる細孔壁近傍において)再結晶化による物質移動を示す。すなわち、ハイドレートの水および気体構成要素の物質移動が、溶液移動と、多孔性抑制パネルの上流側から下流側への拡散下方圧力勾配とから生じる。
【0122】
アニーリング再結晶化により、各テーパ付き細孔内のハイドレート結晶凝集体が精製される。細孔内の温度変化によって再結晶化が加速される。塩イオンのような不純物は、(ハイドレート内の低圧力勾配のマージンとなる)テーパ付き細孔の口におけるハイドレート成長の前線に向かって移動する。拡散プロセスによって、不純物はこの成長前線から残留海水中に押し戻される(矢印785)。さらに、結晶凝集体の本来の傾向は、大きいまたは安定のいずれかの「生き残り」結晶が、高い表面エネルギーを有する小さいまたは不安定の「ドナー」結晶を代償として成長することにある。このプロセスにより、ハイドレートの塊における内部結晶欠陥および転位ならびに内部結晶粒界エリアが低減されるので、ハイドレート内のエネルギーは最小化される。テーパ付き細孔内のハイドレートに誘導される三軸ひずみは、この傾向を強めてハイドレート精製プロセスを促す。
【0123】
ハイドレートの一般的な移動方向を、図27の二重軸矢印によって示す。この物質移動(質量移動、延性の流れ、または再結晶化プロセスによる。これらすべては、テーパ付き細孔の長手軸にほぼ平行な最大応力軸を有する三軸差応力により生じる。)の結果、ハイドレートが、上部抑制パネルセクション内の細孔の下部アウトレット端部723(すなわちハイドレート形成領域)を通って、下部抑制パネルセクション内の細孔731(すなわち解離領域)内へ実質的に押し出される。
【0124】
解離は拡散表面現象なので、低圧力にさらされるハイドレート表面積が大きければ大きいほど、ハイドレート塊の解離は急速に生じ得る。細孔の双円錐または二連の幾何形状(図4、12、22a、22bおよび27)により、固体ハイドレートから液体の水および気体への水および気体の変換は、テーパ付き細孔の狭い開口779における比較的小さなハイドレートエリアのみが低圧力を受ける単円錐形状を有するテーパ付き細孔から作られるそれよりも、増大する。下部セクションにおける円錐状のテーパ付き細孔は、押し込まれるハイドレートよりも大きな直径を有するので、ハイドレートプラグの相当な表面積が、不安定な低圧力領域にさらされる。図22および27は、テーパ付き細孔の直径が大きい方の解離領域内への、理想的なハイドレートの押し出しを示す。ハイドレートは、ハイドレート解離領域731(図12、22a、22b、および27)内に押し込まれる際、その円錐形状を実質的に維持する。ハイドレートが解離領域において次第に下がってくると、解離条件下に長い時間置かれるので、次第に狭くなるものとして示される。
【0125】
開始水温が十分に低い(例えば15°C以下)所定の場合には、所望温度(例えば図20のB点)以下までの水の過冷却を防止するべく、処理対象水中に液体CO2の代わりに気体CO2を注入する必要がある。この場合、ハイドレートの解離からおよび/または多孔性抑制冷蔵システムから回収された気体CO2が、処理対象水中に溶解される。ハイドレートの形成および解離のすべてのサイクルからならびに多孔性抑制冷蔵システムから回収される分の気体CO2を再使用することは有利であり、閉じこめられた処理対象水に同じ気体CO2を何度も繰り返して溶解させることが望ましい。所定体積のCO2が使用される回数を主に制限するのは、ハイドレートの形成および成長から得られる残留海水(かん水)の塩分である。具体的には、上述のような高塩分残留水をエンクロージャ8から排出する必要がある所定ポイントにおいては、その排出される水に溶解したままのCO2が失われる。
【0126】
注入によって処理される水を、その初期環境温度(例えば図20のA点または約15°C)から所望温度(例えば図20のB点)まで冷却するのに必要なLCO2の量では、ハイドレート形成に必要な過飽和レベルに達するのに十分なCO2を処理対象水中に溶解させることができない。しかし、必要な過飽和レベルに達するようにより多くのLCO2を処理対象水中に注入するだけでは、エンクロージャ内の温度が十分すぎるほど低下するので、多孔性抑制パネルから離れて処理対象水中全体に不要なハイドレートを形成させる可能性がある。したがって、ハイドレート成長に必要な過飽和レベルを得るためには、エンクロージャ8内の処理対象水中に付加的なCO2を溶解する必要があるが、処理対象水の温度を下げすぎることがあってはならない。液体CO2ではなく「付加的な」気体CO2を処理対象水中に注入することによって、その要件を満たすことができる。
【0127】
図28および29は、解離ハイドレート939からおよび/または冷蔵システム941から(好ましくは双方から)気体CO2が捕集されて処理対象水に再導入(すなわち溶解)することができるセットアップを示す。2つのシステムにおける圧力が等しくされて、組み合わせられたCO2がポンプアセンブリ943内で混合される。次に気体が、エンクロージャ8の気体溶解領域(「ガストラップ」とも称する)内にポンピング945される。ガストラップでは、水位951が、それ以外の完全に浸水したエンクロージャ8の残り部分の水位よりも高く維持される。なお、ガストラップの概念および機能は、具体的に示される形態以外の様々な形態で実装してよい。さらに、ガストラップは、接続パイプシステム(不図示)により別個の容器に実装してよい。
【0128】
図29に示すように、エンクロージャから循環される海水を、CO2を含むチャンバ(例えばガストラップ948)内にスプレイまたは噴霧することができる。水が、エンクロージャ8からコンジット983を通り、ポンピングシステム985を介して、ガストラップ948内のスプレイヤまで循環する。解離したハイドレート(939)からおよび浸透抑制パネル冷蔵システムから回収されたCO2も同様である。再使用CO2システムのポンプ989は、1つを越えるCO2ストリームを等価にするポンプシステムを補充してよい。再循環水が、インジェクションマニホルド987を介して分配される。インジェクションマニホルド987からは、詰まりのないノズル(そのいくつかは市販されている)を有するスプレイヤシステムを通して再循環水がガストラップ948内の気体中に注入される。(例えば、水を通して気体をバブリングするよりもはるかに効率的に、気体を過飽和レベルまで様々な流体に溶解させるには、スパイラルジェットスプレイノズル(Spraying Systems Co,2005)が通常使用される。)所定の環境海水982もまた、ハイドレートの形成および溶解プロセスによって抽出される水を置換または補償するべくマニホルドインジェクションシステム987内に導入される。または、完全に別個のシステムによって導入されてもよい。
【0129】
冷蔵システムおよびハイドレートから水への変換システムから回収されたCO2を再使用することによって、回収水の最大量を、脱塩装置に供給される所定体積のLCO2から生成することができる。計算によれば、CO2の回収および再使用の複数サイクルを可能とするシステムによって、脱塩エンクロージャに最初に供給される1,000kgのLCO2ごとに約15,000kgまでの水を生成することができる(図30)。この収率は、システムからのCO2の唯一の損失が、高塩分残留水がエンクロージャから放出される場合に生じると仮定して計算されている。しかしながら実際には、わずかな非システム系の損失が存在する。計算では、生成水に残っている溶解CO2も考慮されている。15°Cの環境温度に対する複数のハイドレート形成サイクル中、エンクロージャ8内の残留かん水の塩分が約34,000ppmから68,000ppmまで倍増するまで長期にわたり計算されている(図25のC)。最初のCO2が消費されるまでに生成された脱塩水の実際の質量比は、当然ながら、原海水の塩分、エンクロージャから放出された時点での残留水の塩分、海水の環境温度、および他の多くの因子に依存する。しかしながら、海洋条件の通常範囲を受ける限りにおいて、この計算は、水生成能力の大規模な見積もりには十分正確である。
【0130】
ハイドレートの解離に引き続き、回収水が溶解CO2によって飽和され、エンクロージャ内の気体CO2が水蒸気によって飽和される。したがって、生成水を輸送する準備のために、第一にはHARTモジュール自体において、第二には表面設備28または65(図1および2)において、水/気体分離システムが推奨される。中間深さ(すなわち脱塩装置と表面との間)に付加的な気体分離システムを設けてもよい。かかる中間圧力深度において「抜き出される」気体の圧力は、HARTモジュール301内の解離チャンバ319で受ける圧力と、自然に炭酸が溶解した生成水が維持される環境表面圧力との間にある。生成水から発生または離溶するCO2を再使用するのが望まれる場合、そのCO2は、高圧気体CO2または液体CO2のいずれかまで再圧縮して、脱塩装置を含むエンクロージャ8に再送する必要がある。これには付加的なエネルギーが必要であり、付加的な費用がかかるが、CO2が雰囲気中に直接放出されないことが保証される。しかし、運転経済上、CO2がさらなる脱塩に対して再使用されない場合は、生成された淡水から得られるCO2の一部を雰囲気中に排出する(またはそれを防ぐべくなんらかの方法で処理する)必要があるかもしれない。
【0131】
本発明の実施に係る運転エネルギーコストは比較的低い。これは、システムの加圧が自然に行われるからである。各HFMに対して選択される深さにおける海水自体の重量がハイドレート形成に適した圧力を与える。さらに、HFM運搬システムはほとんど自己加圧であり、一般的にはHFM(LCO2)を深いところまでポンピングする必要がない。本発明の実施に係る主要エネルギーコストは、図28および29に関連して上述した循環システムの一部として水およびCO2をポンピングすることと、システム中に再注入するべくCO2を再圧縮することとに起因する。可能な最もエネルギー効率のよい運転に対しては、各HARTモジュール内の下流または水/気体回収領域の圧力を、任意の特定温度に対する液体/気体転移圧力に極めて近く維持することによって、再圧縮コストを最小化することができる。さらに、他の気体を圧縮するべくまたは流体駆動ポンプを駆動するべくLCO2気化を使用してもよい。相当なエネルギーを得るべく、淡水生成ライン(図1および2)中で膨張する気体を利用することもできる。連続的なエネルギーコストは、水を深いところから水リターンパイプの上部までポンピングすることに関連する。これは、各HARTモジュール301の内部チャンバ319内の圧力によって決まる。
【0132】
図34は、本明細書で異なるレベルのCO2再使用に対して記載したCO2/HARTシステムを使用して生成できる水の量を示す。最も高いエネルギーコストをともなう運転によれば単位二酸化炭素当たりの淡水収率が最も高くなるが、使用される単位二酸化炭素当たりで生成される淡水が最も低い量となる運転は最も少ないエネルギー量を使用する。CO2が再使用される回数に応じて、異なるコストが生じる。CO2が全く再使用されない場合、システムに必要なエネルギーは、A線(図30)で示すように(再圧縮に対して生成されるのは0kWhr/kgal)、気体CO2の再圧縮を全く含まない。この運転アプローチには、再圧縮またはポンピングのためのエネルギーは不要だが、使用される二酸化炭素のキログラム当たり、ほんの2.8キログラムの水しか生成されない。(これは、CO2が実質的に無コストとなるほど安価な場合、または、例えば、CO2の隔離および処分が脱塩水を生成することよりも重要な状況においては、許容できるかもしれない。)
【0133】
ハイドレート解離時に発生する自由気体の一部が(処理対象水中のCO2飽和レベルを上げるときに液体二酸化炭素を補充するべく)再圧縮されて再使用される場合、必要なエネルギーが極めて低いままとなる一方で、淡水生成比(使用された単位CO2当たりの生成された淡水)が増加する。この運転アプローチは図30のB線で示される。他方、ハイドレートから発生する二酸化炭素のすべてが(気体CO2の圧力において)再圧縮されてさらなるハイドレート形成のためにシステムに戻される場合、水生成は再び上昇する。この運転アプローチは図30のC線で示される。これはエネルギーコストをさらにわずかに増加させ、全体的な水生成比を一層増加させる。図30のD線は、使用された単位二酸化炭素当たりで生成され得る水の最大量を示すが、CO2を再圧縮するのに使用されるエネルギーコストが考慮されていない。
【0134】
他の運転は、二酸化炭素の処分に関連する。生成された淡水が表面にもたらされると、そこから発生する二酸化炭素は捕集かつ再圧縮されるかまたは雰囲気中に放出される必要がある。残留かん水(これは上述のように深いところまで沈む)により二酸化炭素を処分することで得た炭素ガス放出クレジットと連動して膨張気体からエネルギーを捕集することは、極めて経済的な淡水の減圧時に発生する二酸化炭素ガスの捕集、再使用、および処分をなす。
【0135】
CO2のコストは、CO2がプロセスで使用される唯一の消耗品ゆえに、生成水のコスト中の主な因子である。LCO2は、特に大量に購入する場合、最も安価な工業気体の一つである。さらに、二酸化炭素が、雰囲気中に自由に排出された場合のその地球規模の気候変動に対する負の影響に鑑み、発電からの主な不要廃棄生成物とみなされるようになったので、LCO2のコストはさらに一層低減され得る。したがって、政治上の重要課題が示すように、相当量のLCO2が、環境的に許容可能な方法で(例えば、大気中の温室効果に寄与することのない海洋の深くで)処分される安価な消耗品として間もなく入手可能となるかもしれない。さらに、CO2の処分を貨幣化するシステムがすでに存在する。したがって、CO2に基づく海洋脱塩プロセスがCO2の処分に使用される場合、このプロセスで使用される唯一の消耗品に対して究極的にはコストが全くかからない。本発明の実施中に減圧された二酸化炭素の一部は、液体二酸化炭素、エネルギー、および炭素ガス放出クレジットの市場価値機能を持つ。これは長期にわたり変化し、場合によっては場所ごとに変化する。
【0136】
主要目的がCO2の処分であれば、使用されたCO2の量に対する生成水の比も変化する。最良の水生成に対しては、エンクロージャ内の残留高塩分水は通常の海水塩分の約2倍に達するまでは排出されない。逆に、より多くのCO2を処分することが必要な場合には、残留水をより頻繁に、ただし水塊が生みの深くまで沈むことが確実となるような通常の海水に比べて十分に増加した塩分で、排出すればよい。
【0137】
最後に、処理対象水が人工的加圧装置(すなわち、水塊中に沈めることによって加圧を達成するわけではない装置)内で処理される場合は、ハイドレート成長のための条件がこの容器内に維持されるので、(圧力容器自体の他に)別個のエンクロージャは必要ない。
【0138】
上述の開示は、本発明の方法および装置の説明のみを意図したものである。当業者にとっては、開示の実施例から離れることおよび開示の実施例に対する変更が生じ得る。本発明の範囲は以下の請求項に記載される。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2006年6月8日出願の米国特許仮出願第60/811,760に基づきそのの優先権の利益を主張する。その内容は参照としてここに組み込まれる。
【0002】
政府の支援および利益
本発明は、2004年6月4日付けのONR契約(2005年5月18日修正および海軍研究事務所により発行):N00014−04−C−0237に基づく政府支援により行われた。政府は本発明に関する所定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般に脱塩および水処理/精製に関する。詳しくは、かかる脱塩および水処理を達成するべく使用される、浸透抑制に基づくハイドレートの形成および解離のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ガスハイドレートは、適切な圧力および温度の条件下ならびにハイドレート結晶の核生成および成長が生じる適切な方法で、所定濃度のメタンまたは任意の炭化水素ガスのようなハイドレート形成ガス、二酸化炭素、または塩素が水中に導入されて(または水蒸気がハイドレート形成ガス中に導入されて)形成される。ハイドレートはまた、ハイドレート形成に適した圧力にある所定のハイドレート形成気体および水溶液が冷却されるときにも形成される。ハイドレートの成長は、十分な圧力温度条件にのみ依存するわけではなく、溶解したハイドレート形成物質(HFM)の濃度が所定レベルに維持されている必要がある。
【0005】
知る限りにおいて、他者によるこれまで海水の脱塩および水処理のためにハイドレートを使用する試み(処理対象の水(他の水が処理されるかもしれないが、以下では海水と称する)中に気体を直接導入する試み)はいつも、比較的純粋なハイドレートの小さな破片からなるスラリーを生成する結果となっていた。(破片は、HFM気体の気泡まわりに形成されるハイドレートシェルが破砕しようとするときに形成された。)これまでのところ、海水中へのHFMの直接注入が淡水を商業的に製造するのに実現可能なプロセスとなるほど十分に、かかるスラリーを精製することは不可能である。これは、スラリーを洗浄するのに多大な低塩分水を消費しなければならないからである。
【0006】
対照的に、大量の固体ハイドレートの成長が、米国特許第6,890,444号明細書に記載されている。これによると、ハイドレートと残留する高塩分水との分離が容易となる。また、ハイドレートの核形成および成長に求められる水塊のHFM濃度、圧力および温度が所定レベルに維持される必要がある。Maxらの“Economic Geology of Natural Gas Hydrate,”Springer,Berlin,Dordrecht,2006第2章に公開されているハイドレート成長のモデルと実験によれば、水に溶解したHFMの所定の高濃度を維持した後に温度を下げることによって固体ハイドレートの成長が最適に達成されることが実証されている。例えば、米国特許第6,890,444号明細書の開示によれば、海水の脱塩は、溶解したHFMをハイドレート存在下の海水マトリクスに定量供給することで生じる。また、圧力/温度条件がハイドレート成長に適したまま維持され、さらには、かかる条件は極めて局所的である。
【0007】
米国特許第7,008,544号、第7,013,673号明細書(これらの内容は全体が参照として組み込まれる)に教示されるように、ガスハイドレートは、海洋的にまたは人工的に加圧された環境下で形成が誘発される。この環境では、圧力およびHFM濃度はハイドレート形成に適するが、温度はハイドレート形成には一般に高すぎる。特に、かかる環境においては、表面を冷却することによって、ハイドレートは表面での形成(「抑制部」ともいう)を誘発される。ハイドレート形成に対する圧力および温度条件は、表面およびその近傍に局所的に作られる。表面は細孔または穿通を有する可能性があり、これは抑制部に係る多孔性を構成する。ハイドレートは、冷却された表面が所定圧力下にあってハイドレート形成物質(HFM)が所定濃度で中に溶解する水塊に(または、水蒸気が所定濃度で溶解するHFM気体雰囲気に)入れられると、表面上でおよび表面から外方に向かって成長する。冷却された表面の温度を下げると、ハイドレートがその表面上およびその近傍に形成される。これにより細孔が充填されて浸透がブロックされる。
【0008】
かかるプロセスにおいて、ハイドレート成長は、反応物質がハイドレート不安定領域から、冷却された多孔性の抑制部近傍にある狭いハイドレート安定領域へ物質移動することによって生じる。ハイドレート成長の前線は、ハイドレート表面直上の水がハイドレートが安定となるポイントまで冷却されると、水(または気体雰囲気の場合は気体)中へ進行し多孔性の抑制部から離れていく。多孔性の抑制部が冷却されることによって成長が維持される。この冷却は、ハイドレートの発熱性結晶化に係る熱を補償する。
【0009】
抑制部の細孔をシールすることで、抑制部全体に差圧が確立維持される。具体的には、ハイドレートの真向かいにある抑制部側(「下流」側)環境の圧力を下げることによって、多孔性の抑制部に最も近いハイドレートが解離または溶融する。これにより、固体ハイドレート結晶格子に含まれていた水および気体は抑制部を通り、それらが分離される捕集領域内に向かう。このプロセスによって得られる水は塩分が低く、使用すべく捕集されて濃縮される。ハイドレートの形成/解離による水脱塩プロセスは、ハイドレートの成長および解離が同時かつほぼ同速度に進行するか、または周期的にハイドレート成長優勢とハイドレート解離優勢の期間が交互して進行する定常状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,890,444号明細書
【特許文献2】米国特許第7,008,544号明細書
【特許文献3】米国特許第7,013,673号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明は、本発明者の従来の上記特許に教示された方法および装置を著しく改善する。
【0012】
一側面において本発明は、ハイドレート形成物質を使用して処理対象水を脱塩または精製する方法を特徴とする。この方法は、処理対象水を1つ以上のHARTモジュールを含むエンクロージャ内に導入することを備える。HARTモジュールのそれぞれは1つ以上のHART抑制パネルと内部チャンバとを備える。抑制パネルの一主要面から抑制パネルの対向主要面に向かって細孔が延びる。第1冷却プロセスにおいて、ほぼエンクロージャ内にある処理対象水が、エンクロージャ内に存在する圧力条件下でHFMのハイドレートが形成される温度よりもわずかに高い温度まで冷却される。この第1冷却プロセスは、HFMをエンクロージャ内の処理対象水に導入することによって有効となる。第2冷却プロセスにおいて、HART抑制パネルにほぼ隣接する処理対象水が、エンクロージャ内に存在する圧力条件下でHFMのハイドレートが形成される温度まで冷却される。この第2冷却プロセスは、HART抑制パネルを冷蔵することによって有効となる。その結果、HFMのハイドレートが、HART抑制パネルの細孔内に形成される。形成された十分なハイドレートは、HART抑制パネルの細孔を充填して実質的にシールする。これによって、HART抑制パネルの細孔内にあるハイドレートの下流部分が解離し、精製された水およびHFMがHARTモジュールの内部チャンバに放出される。精製された水はエンクロージャから除去される。
【0013】
具体的な実施例では、エンクロージャは水塊中の深部に配置され、エンクロージャ内の圧力条件がエンクロージャより上部にある水の重量によって作り出される。この場合、HFMは、HFMの自己加圧表面レベル供給部からエンクロージャまでHFMを流すことによって、液体状態でエンクロージャに送られる。その代わりに、エンクロージャは圧力容器であってもよい。この場合、エンクロージャ内の圧力条件は、液状HFMが処理対象水に導入されるときの液状HFMのポンピングおよび/または気化によって生じる。
【0014】
さらに、圧縮された通常は気体のHFMが、処理対象水に液体状態で導入される。この場合、処理対象水内でHFMが気化膨張すると、第1冷却プロセスが生じる。その代わりに、気体のHFMが処理対象水に導入されてもよい。この場合、処理対象水内でHFMが膨張すると、第1冷却プロセスが生じる(ただし、かかる冷却は、液状HFMが処理対象水内で気化膨張する場合に生じる冷却よりも弱い)。理想的には、十分な量のHFMが処理対象水中に導入されて、エンクロージャ内の処理対象水中でHFMの飽和レベルが確立維持される。
【0015】
第2冷却プロセスについては、HART抑制パネル内の冷却ギャラリー内を内部循環する冷却された液体冷媒によって、HART抑制パネルが冷蔵される。しかし、好ましくは、HART抑制パネルは、HART抑制パネル内の冷却ギャラリーの内部を通過するHFMによって冷蔵される。後者の場合、HFMはさらに好ましくは、液体状態で冷却ギャラリー内に(最も好ましくは、冷却ギャラリーの液体HFM供給部側から冷却ギャラリーの気体側までの冷媒分配部材にわたって)導入されてHART抑制パネルの内部で気化する。HART抑制パネルの内部を通過したHFMは適宜回収されて、再び処理対象水中に導入される。
【0016】
HARTパネルを冷蔵するのに使用されたHFMに加えて、HARTモジュールの内部チャンバ内に放出されたHFMもまた回収されて、さらなる脱塩または精製のサイクルにおいて再利用される。そのためさらに、HFMは精製された水からも回収されて、さらなる脱塩または精製のサイクルで再使用される。
【0017】
方法の実施にあたり、エンクロージャから除去された精製水を補償するべく、および/またはエンクロージャから排出された高塩分の残留かん水を補償するべく、付加的な処理対象水をエンクロージャに導入してもよい。付加的な処理対象水は、ほぼ連続的に(すなわち連続的ではあるが間を置いてまたは常に)エンクロージャ内に導入される。その代わりに、新たな処理対象水が、エンクロージャ内の残留塩分が排出に係る所定の高塩分レベルまで達した後にのみ導入されてもよい。
【0018】
好ましくは、HFMは、HARTモジュールの内部チャンバの中から気体状態で、および/またはHART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収される。これらのソースの一方または双方から回収された気体HFMは、エンクロージャ内で処理対象水と混合(すなわち処理対象水に溶解)され、処理対象水中のHFMの飽和レベルを維持する助けとなる。
【0019】
他側面において本発明は、ハイドレート形成物質(HFM)を使用して処理対象水を脱塩または精製する方法を特徴とする。この方法は、処理対象水を1つ以上のHARTモジュールを含むエンクロージャ内に導入することを備える。HARTモジュールのそれぞれは1つ以上のHART抑制パネルと内部チャンバとを備える。抑制パネルの一主要面から抑制パネルの対向主要面に向かって細孔が延びる。エンクロージャ内の処理対象水中にHFMが導入される。HART抑制パネルにほぼ隣接する処理対象水が、エンクロージャ内に存在する圧力条件下でHFMのハイドレートが形成される温度まで冷却される。その結果、HFMのハイドレートが、HART抑制パネルの細孔内に形成される。形成された十分なハイドレートは、HART抑制パネルの細孔を充填して実質的にシールする。この冷却は、HART抑制パネルの内部にわたって延びる冷却ギャラリーにHFMを通してHART抑制パネルを冷蔵することによって有効となる。これによって、HART抑制パネルの細孔内にあるハイドレートの下流部分が解離し、精製された水およびHFMがHARTモジュールの内部チャンバに放出される。精製された水はエンクロージャから除去される。
【0020】
本発明のこの側面の具体的な実施例は、本発明の第1側面に関する上述の特徴の1つ以上を備える。
【0021】
他側面において、本発明は、処理対象水を脱塩または精製する装置を特徴とする。この装置は、1つ以上のHARTモジュールが中に配置されたエンクロージャを備える。HARTモジュールのそれぞれは1つ以上のHART抑制パネルと、その中に形成された内部チャンバとを備える。この抑制パネルは、それぞれの抑制パネルの一主要面からそれぞれの抑制パネルの対向主要面に向かって細孔が延びる。さらに、HART抑制パネルのそれぞれは、その内部にわたって細孔間に延びる一連の冷却ギャラリーを有する。エンクロージャにハイドレート形成物質を供給するべく第1コンジットが配置され、HARTモジュールの内部チャンバから精製水を除去するべく第2コンジットが配置される。
【0022】
好ましい実施例では、エンクロージャは水中に沈めることができ、外界の半水性環境と等圧連通して配置される。その代わりに、エンクロージャは圧力容器であってよい。
【0023】
好ましくは、HART抑制パネルの細孔は、非単調なテーパが付けられ、例えば双円錐構造を有する。さらに、かかる幾何形状を容易にするべく、HART抑制パネルは、上部および下部の抑制パネルセクションからなる複合抑制パネルであることが好ましい。さらに好ましくは、HART抑制パネルのそれぞれは、上部抑制パネルセクションと下部抑制パネルセクションとの間に配置される冷媒分配部材を備える。微細孔領域または極めて小さな(例えば約30から約80ミクロンのオーダーの)孔が、HART抑制パネルの冷却ギャラリー内に配置されて冷却ギャラリーを2つのサブギャラリーに分割する。
【0024】
他側面において本発明は、熱交換パネルを冷蔵する方法を特徴とする。この方法は、熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の第1サブギャラリーに液体冷媒を充填することと、冷媒分配部材にわたる液体冷媒を、熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の第2サブギャラリー内へ気化させることとを備える。
【0025】
さらなる他側面において本発明は、熱交換パネルを特徴とする。熱交換パネルは、下部パネルセクションに連結されて、上部および下部パネルセクション間に画定されて熱交換パネルの内部を通って延びる一連の冷却ギャラリーを有する上部パネルセクションを備える。
【0026】
好ましい実施例では、熱交換パネルは、HART抑制パネルである。熱交換パネルを通ってその一主要面からその対向主要面まで複数の細孔が延びる。より好ましくは、細孔は非単調なテーパが付けられ、例えば双円錐構造を有する。さらにより好ましくは、熱交換パネルは、冷却ギャラリーを上部サブギャラリーと下部サブギャラリーとに分割する冷媒分配部材を備える。冷媒分配部材は、冷却ギャラリー内に配置された微細孔領域を有するかまたは、冷却ギャラリー内に配置された約30から約80ミクロンのオーダーの孔を有する。
【0027】
さらに、熱交換パネルは、そのパネルの主要面にわたって分布する複数の渦巻流誘発部材(例えば突起またはディンプル)を備える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る水精製装置が水中に沈められた外洋での実施例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る水精製装置が水中に沈められた海洋底に支えられた実施例を示す模式図である。
【図3】図3aおよび3bはそれぞれ、本発明に係るHARTモジュールの模式的斜視図および模式的分解図である。
【図4】図4aおよび4bはそれぞれ、例えば図3aおよび3bのHARTモジュールで使用される多孔性HART抑制パネルの模式的斜視図および模式的側面図であり、基本的なHARTプロセスを示す。
【図5】例えば図1、図2または図31に示す装置全体で使用されるHARTモジュールのアレイを示す模式的斜視図である。
【図6】図6aおよび6bはそれぞれ、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの一実施例の一部の模式的分解図および模式的斜視図である。
【図7】図7aおよび7bはそれぞれ、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの他実施例の一部の模式的分解図および模式的斜視図である。
【図8】図8aおよび8bはそれぞれ、本発明に係る多孔性複合HART抑制パネルの一実施例の上部パネルセクションの模式的斜視図、および下部パネルセクションの模式的斜視図である。
【図9】図9aおよび9bはそれぞれ、本発明に係る多孔性複合HART抑制パネルの他実施例の上部パネルセクションの模式的斜視図、および下部パネルセクションの模式的斜視図である。
【図10】図10aは、本発明に係る多孔性複合HLART抑制パネルの他実施例の下部パネルセクションの一部の模式的斜視図であり、図10bは、図10aの左上部分の拡大図である。
【図11】図11aおよび11bはそれぞれ、冷媒分配部材を備える、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの他実施例の一部の模式的分解図および模式的斜視図である。
【図12】図12aおよび12bはそれぞれ、冷媒分配部材を備える、本発明に係る多孔性HART抑制パネルのスナップ結合実施例の一部を断面で示す模式的分解図および模式的組立図である。
【図13】本発明に係る熱交換パネル(例えば多孔性HART抑制パネル)を示す模式的斜視図である。
【図14】図13の囲み部分の拡大された模式的側面図であり、冷媒分配部材にわたる液体冷媒の気化を示す。
【図15】図15aおよび15bはそれぞれ、冷媒分配部材を備える、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの他実施例の一部の模式的分解図および模式的斜視図である。
【図16】図16a、16b、および16cは、例えば図15aおよび15bに示す多孔性HART抑制パネルの一部の模式的平面図、模式的断面図、および他の模式的断面図である。
【図17】本発明に係るHARTモジュールの他実施例の模式的断面図である。
【図18】液体HFM(液体CO2)の深度による気化熱の変化を示すグラフである。
【図19】例示的な外洋環境の深度による水温の変化を示すグラフである。
【図20】圧力/温度スペースにおけるCO2ハイドレート安定フィールドを、CO2液相線および本発明の実施における温度制御とともに示すプロットである。
【図21】図21aおよび21bは、本発明に係る装置の2つの異なる実施例の模式的断面図である。
【図22】図22aおよび22bは、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの2つの異なる実施例の模式的な詳細断面図であり、その細孔内でのハイドレート成長を示す。
【図23】図23aおよび23bは、本発明に係る多孔性HART抑制パネルの2つの異なる実施例の一部の模式的斜視図であり、パネルにわたり渦巻流を誘起するための表面処理を示す。
【図24】図20に示すプロットと同様の、圧力/温度スペースにおける本発明に係るハイドレートの成長および解離のダイナミクスを示すプロットである。
【図25】圧力/温度スペースにおける環境水の塩分によるCO2ハイドレート相境界の変化を示すプロットである。
【図26】圧力/温度スペースにおける、液体HFM(液体CO2)を気化させることによって得られる冷却ポテンシャルの、深さ(圧力)による変化を示すプロットである。
【図27】本発明に係る多孔性HART抑制パネル内の1つの細孔の模式的な詳細断面図であり、ハイドレート結晶の運動力学を示す。
【図28】本発明に係る装置の他実施例の模式的斜視図である。
【図29】図28に示す装置の模式的断面図である。
【図30】異なるHFM再利用量による、本発明の実施によって回収される淡水の変化を示すプロットである。
【図31】本発明に係る装置の、圧力容器に基づく実施例を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を図面と関連して以下に詳細に説明する。
【0030】
(様々な図面が模式的であることに留意すること。したがって、同一または類似の構成要素が様々な図面に示されているとしても、最良の図示を目的とすべく寸法および比率は様々な図面ごとに変化し得る。したがって、各図に関する文章は、具体図のそれぞれが示すものと意図される概念を適切に理解する目的で参照すること。)
【0031】
本発明の実施例の詳細な記載
本発明によれば、ガスハイドレート(クラスレート)は一般に、本発明者の上記特許のアプローチを広く利用することで、浸透抑制部上に形成される。この抑制部はエンクロージャ内に収容される。エンクロージャは、自然発生的な水塊の中に沈められる(図1および図2)。または、人工的に加圧された容器であってもよい(図31)。ハイドレート形成物質(HFM)が、処理される水の中に注入される。内部冷却システム(以下でより詳細に説明する。)によって、浸透抑制部が冷却される。その結果、浸透抑制部の表面上にハイドレートが形成される。さらに、そのハイドレートは、本発明者の上記特許に教示される脱塩アプローチを利用して、浸透抑制部を介して解離され、HFMおよび相対的に精製された水が放出される。HFMは、処理される水の中にさらなる注入を目的として捕集される。精製された水は集められて(できればさらなる処理の後に)消費される。
【0032】
ここで図を参照すると、図1に示すように、開放されて可動な海洋設置態様で、本発明に係る装置が海または水塊101中につり下げられる。かかる装置の好ましい実施例は、浮動プラットフォーム28からつり下げられる。これは、例えば、船、エネルギー産業で使用されるものと同様の半水中プラットフォーム、はしけ、または浮動プラットフォームである。浮動プラットフォームは、装置がその下に配置されたままで係留されたり、偏流されたり、またはゆっくりと進行してよい。
【0033】
本発明には、エンクロージャ8内に収容される局所的なガスハイドレートを形成する装置(この装置は以下で詳細に説明する。)を備える。(ハイドレートが形成されて脱塩が生じるエンクロージャを指定すべく、そのように指定されるかかるエンクロージャの具体的な実施例が互いにわずかに異なっていても、全体にわたって参照番号9が使用される。)エンクロージャ8は、側面12が実質的に中実であるが、上面18で海水を導入するべく、および底面24で残留高塩分水を排出するべく、開口を有する。開口は、予め設定された幅、または可変制御される幅のいずれかを有する、モータ制御(不図示)を備えるバルブまたはスロットであってよい。エンクロージャ8の上面および底面の開口により、エンクロージャを通って水が流れる。以下で詳細に説明される好ましい運転モードでは、エンクロージャ8を通る水の動きは、完全に重力によってもたらされる。他の運転モードでは、水の動きは、インペラ、プロペラ、または他の水流発生手段の使用によって強制される。
【0034】
エンクロージャは、パイプ36、42を介して表面に接続される。一方のパイプ36は、プラットフォームの単数または複数のタンク32からエンクロージャ8まで液体HFMをポンピングする手段を与える。他方のパイプ42は、プラットフォーム28のエンクロージャ8から他のタンク48まで低塩分水を運ぶ。表面とエンクロージャ8との間の他の接続(不図示)は、センサに電力を供給するためのシールされた電気配線、電気機械制御、通信ケーブル、および、例えばポンプのような液圧システム対応機器を備えてよい。パイプのいずれか一方または双方は、エンクロージャの重量を支えるのに十分な強度を有するが、そのつり下げ重量を支えるべく別個の構造ケーブル(不図示)を使用してもよい。パイプは、エンクロージャ8を海中へ沈める間に、基本的に直線のセグメントから組み立てられるが、好ましい実施例は、船またはプラットフォームのデッキ内またはデッキ上のウィンチドラムから繰り出すことができる可撓性パイプを備える。かかる構成により、脱塩運転の迅速な展開および開始が可能となる。これは、浮動プラットフォームを急いで避難させる必要がある差し迫った悪天候条件の場合に、メンテナンス、クリーニング、または抽出を行うべくエンクロージャを回収するのに最適でもある。
【0035】
図2に示す固定的な海洋設置の場合は、エンクロージャ8は、海水101中の取付台52(詳細には示さない)に固定される。取付台52は、陸地102に隣接する海底に固定される。この設置において、HFM供給パイプおよび低塩分水運搬パイプ(単線59として示す)は、硬質もしくは可撓性またはそれらの組み合わせである。パイプは、エンクロージャを支持するのに十分な強度を有する必要がなく、および/または、エンクロージャ8の重量を上から支えるための別個の支持ケーブルまたは装置を必要とするわけではない。エンクロージャ8は、固定された取付台52に設置される可能性が高いが、摺動する取付台(不図示)に設置されてもよい。これにより、エンクロージャは少なくとも部分的に上に引き上げられたり、スロープ55を下ることができる。このため、海底にしっかりと固定したまま異なる水深において設置操作を行えるようにすることにより、柔軟性が得られる。
【0036】
固定された設置において、HFMを供給しかつ低塩分水を受け取る陸地の設備65は通常、システムの運転を制御して従来の処理設備(不図示)にその水70を送る。陸地の設置から出ているパイプおよび制御システムは断面積が比較的狭く、側方ドリル穴75内に納めることができる。かかる孔は、設備65から海底分岐設備80まで形成するのに比較的容易かつ安価である。海底分岐設備80は、その物理的な安全を目的として、通常の波浪作用限界深度よりも下の海底に設置することができる。海底分岐設備80を表面設備65とつなぐべくパイプの路をドリルで穴あけすることは、トンネルを掘ることと比べてはるかに安価に済ませることができる。
【0037】
固定設置は、開放された可動設置よりも安全である。これは、固定設置が相対的に小さな専有面積を有し、プロセス供給制御装置の全体が深く埋められるからである。固定された海洋設置であれば、実質的な駆動機器なしでは容易にアプローチしたり干渉することができない。さらに、悪天候であっても固定設置の運転をシャットダウンさせる可能性ははるかに少ない。また、固定設置の運転は、その資本コストが可動設置の資本コストより大きくいとしても、ほぼ確実に少ない人員で済む(固定設置に対しては船および船員のコストが不要となる)ので安価となる。
【0038】
可動および固定双方の海洋設置について、本発明の実施では、ハイドレート形成エンクロージャを、処理対象となる水塊の深部に配置することによる自然加圧が利用される。この圧力はハイドレートが形成される程度に十分高い。可動または固定いずれかの海洋設置において、エンクロージャ8およびそれに含まれる装置の具体的な実施例のいずれかが使用される。
【0039】
いずれのタイプの設置においても、エンクロージャ8の主要目的は、脱塩および水処理の装置が沈められる水の流れを抑制することである。これにより、画定された、制限または疑似制限の体積の処理対象水が与えられる。エンクロージャ8は、実際の脱塩装置を収容して物理的に保護するが、これは本発明の脱塩プロセスに統合される態様で機能する。以下で詳細に説明するように、本発明によればエンクロージャ8内部の水は冷却されるので、エンクロージャ外部の暖かい海水から処理対象水への熱伝達を最小化するべく、エンクロージャはある程度断熱される。エンクロージャのサイズおよび形状は様々であるが、ほぼ直線形状である。(ただし、可動(図1)または固定(図2)のいずれの脱塩装置に対しても、外形は任意の取付システムに合わせて修正することができる。)
【0040】
本発明におけるエンクロージャの使用態様のさらなる説明を、本発明に係る装置の他の構成要素のさらに詳細な説明とともに以下に述べる。
【0041】
背景技術の欄において上述したように、上記米国特許第7,008,544号および第7,013,673号明細書においては、ハイドレートは浸透抑制部または支持部材上に形成(またはそれに対向してもしくはその内部に蓄積)され、その後、抑制部をその一側部から他側部へ通されて解離される。これらの特許発明およびここに開示される本発明の基本的技術概念を、ハイドレート非対称抑制技術(Hydrate Asymmetric Restraint Technology)から「HART」と名付けることとする。
【0042】
本発明者のこれまでの業績で教示された抑制部は、平面であっても成形されていても、構成が比較的単純であった。基本的には、浸透プレート(平板または曲面板)に、連続的なテーパがつけられて抑制部の一表面から対向表面まで延びる複数の細孔、および、抑制部を(例えば抑制部の内部において)通って細孔と細孔との間を延びる内部冷却チャネルが設けられていた。これとは対照的に、本発明は、そうしたHART抑制部の比較的単純な構成を、さらに洗練された構成に発展させている。これにより抑制部を、洗練された熱交換器およびハイドレートが形成される支持表面として使用することができる。特に、本発明によれば、副構成要素から抑制パネルが作られる。一対の抑制パネルがフレームを介して接続され、密閉されたボックスまたは体積を形成する。この「ボックス」を「HARTモジュール」と称する。以下で詳細に述べるように、いくつかのHARTモジュールがエンクロージャ8内で接合される。(ハイドレートの形成および解離が生じる表面積を最大化するべく各HARTモジュールが一対の抑制パネルを有することが好ましいが、本発明の目的にとってはHARTモジュールが1つのみの抑制パネルを備えるだけで十分である。)
【0043】
図3aおよび3bに示すように、基本HARTモジュール301の好ましい実施例は、多孔性抑制パネル304を有する相対的に狭いテーブルまたはボックス形状の本体として構成される。多孔性抑制パネル304は、モジュール301の前面および後面(すなわち主要面)の各々を形成する。(以下で説明および記載される抑制パネルの様々な実施例はすべて、具体的な内部の幾何形状が様々な実施例でわずかに異なる場合があっても、便宜および簡便のため参照番号301を用いて標識および参照される。多孔性抑制パネルは、フレーム312にはめ込まれ、その継ぎ目は気体および液体が通過しないようにシールされる。多孔性抑制パネルは、フレームに組み込まれると、図3aに示すようにフレームと面一となるか、または、フレームに対してわずかに差し込まれるかもしくは突出する。フレーム内では、2つの多孔性抑制パネルの間に狭いチャンバ319が形成される。(図17も参照のこと。)チャンバの幅は、2つの多孔性抑制パネルがそれぞれフレーム312の取付用切欠きに完全に挿入される場合にその2つの多孔性抑制パネルを分離するスペーサ(不図示)によって決まる。スペーサは、約1インチ(2.54cm)以下にパネルを分離するのが好ましい。内部チャンバが相対的に大きな体積を有する場合、HARTモジュールの浮力は(以下で説明するように、本発明の実施中は(水中に沈められた)チャンバ内には気体および液体が存在する。)、比較的小さな体積の場合よりも大きな範囲にわたって変化する。したがって、安定した予測可能な浮力特性を与えるためには相対的に小さなチャンバ体積が好ましい。
【0044】
HARTモジュール301の構成要素および運転をさらに理解することは、抑制パネル304が果たすプロセスまたは機能の一般的な記載により容易となる。具体的には、ハイドレート内に拘束された水をハイドレートが形成された領域から除去するべく、処理対象水の制御冷却;ガスハイドレートの局所的な制御成長;およびガスハイドレートの局所的な解離という相互関連プロセスが存在する。一般的には、図4aおよび4bに示すように、固体ハイドレート306(その抑制パネル304に対する位置は図4aの垂直線で模式的に示される)は、抑制パネル304の一側部、換言すればその外表面308すなわち抑制パネルの処理対象水に露出される表面、に形成される。以下でさらに詳細に述べるように、冷却通路または「ギャラリー」が、抑制パネル304の内部を通って外表面および内表面308、309に対してほぼ平行に延び、内部冷却システムを形成する。クーラント/冷媒を冷却システム内に導入する手段321およびそこから除去する手段325も設けられる。局所的な条件をハイドレート成長に適したものとするべく抑制パネルの表面を冷却することは、冷却システムを通して冷媒を循環させることにより有効となる。好ましい実施例では、最も好ましくはHFMであるクーラント/冷媒は、液体状態で抑制パネルに入り、その中で気化されてパネルを冷却する。その代わりに、完全に冷却された液体冷媒(例えばエチレングリコール)が、冷却システムを通って循環されてもよい。冷媒は液体状態で冷却システムに入ることと冷却システムを出ることの双方を行う。
【0045】
多孔性抑制パネル上に固体ハイドレート306が形成されると、抑制パネルの細孔にハイドレートが詰まる。抑制部の上流側(図4b)で成長するハイドレートの相境界は、成長するハイドレートとそれが成長していく水との接触部位すなわちハイドレート/水界面、またはその近傍にある。システムの温度は多孔性抑制パネルの表面が最も低い。ハイドレートの熱伝導率は低いので、ハイドレートの塊を通る温度勾配が存在する。温度は通常、多孔性抑制パネルの表面からの距離に伴い増加する。したがって、ハイドレートは、ハイドレートと水との接触領域の温度が十分低い限り、反応物質(図4bにて上流領域の矢印で示すとおりの水およびHFM)の十分な供給が存在する限り、および水/ハイドレート界面がハイドレート安定領域内にある限り、多孔性抑制パネルの上流側において処理対象水に向かって外方に成長する。
【0046】
抑制パネルの細孔を充填するハイドレートが細孔を介して下流領域の圧力条件にさらされる。ハイドレートは圧力シールを形成するので、ハイドレート成長前線308における圧力および温度とは異なる圧力および温度を維持することができる。したがって、ハイドレートを解離して、それを構成するHFMおよび水が抑制パネルを通過して抑制パネルの下流側の領域に入ることができるようにするべく、抑制パネルの下流側の圧力が下げられる。(さらに、解離が急速に進行する場合、温度が0°Cよりも下がらないように、すなわち水氷が形成されないように、局所システムを加熱する必要がある。)下流領域の圧力が下げられ(および必要/所望に応じて温度が上げられ)ると、ハイドレートの不安定性および解離の物理的条件が作られる。したがって、ハイドレート成長前線308に存在するのとは異なる圧力/温度条件の第2の相境界310が、抑制パネルの表面に隣接のまたは細孔内のハイドレートに確立される。ハイドレートの内表面が、それがさらされる低圧力に起因して不安定条件のままとなるように、この第2相境界310における条件を維持することができる。したがって、HARTモジュール301全体の中にある狭いチャンバ319の圧力を下げることによって(このチャンバは下流領域にあり、この下げられた圧力は抑制パネルの細孔を通ってハイドレートに作用する)、その下げられた圧力にさらされるハイドレートの一部が、それを構成するHFM330(典型的には気体状態)および水339に解離される。その水およびHFMは抑制パネル304を通過してHARTモジュール内のチャンバ内に入り、以下に述べる手段によってHARTモジュールから除去される。上流側において高圧力(すなわち抑制部の温度に対するハイドレート相境界内の圧力)に、および下流側において相対的に低い圧力(すなわちハイドレート相境界外の圧力)にハイドレートをさらすことによって、ハイドレートはその物理的な塊の対向する両側部において同時に形成および解離ができる。
【0047】
(水は、ここに記載されるプロセスの異なるポイントにおいて塩分、温度、および気体含有量が異なるので、記載のプロセスのポイントに応じて異なる用語を用いることとする。「海水」は、その塩分または気体含有量にかかわらず原水である。これは、水分子の大量抽出が行われる水である。「捕集水」は、結晶成長プロセスを介してガスハイドレート中に組み込むことによって海水から抽出された水である。「変換水」は、ハイドレートの解離から得られるまたはその際に放出される水である。変換水は気体状HFMを含み、これもハイドレートの解離の際に放出されている。「回収水」は、放出された気体HFMから分離された水であって、本装置から除去されて水の回収に関連するパイプアセンブリまで送られた水を称する。「生成水」は、脱塩装置および水回収パイプアセンブリから除去された水であって、さらなるプロセスおよび/または市場への輸送を目的として地表面で利用可能な水を称する。)
【0048】
図3aおよび3bに戻ると、各HARTモジュール301は4つの別個のポートを有する。2つ(321、325)は、多孔性抑制パネルの冷蔵システムの運転のために設けられ、2つ(330、339)は、ハイドレートを解離することによって放出されて自然に分離される気体および水の捕集のために設けられる。液体冷媒インレット321およびその制御センサならびにバルブ323がフレームに設けられる。同様に、冷媒アウトレット325および制御センサならびにバルブ327がフレームに設けられる。バルブ327は、その出口における冷媒の特定の性質(すなわち気体または液体)に合わせて構成される。水の分離および捕集のプロセスもまた、少なくとも2つのアウトレットを必要とする。1つはモジュールの上部における気体用であり、1つはモジュールの下部における水用である。気体アウトレット330およびその制御センサならびにバルブ333が、モジュールフレームの上部に設けられる。回収水アウトレット339および制御センサならびにバルブ345が、モジュールフレームの下部に設けられる。好ましくは、バルブおよびセンサ345によって制御される水ダンプバルブ341も、汚染されているかもしれない水を排出するべく設けられる。
【0049】
各HARTモジュール301の回収水アウトレット339が捕集システム(不図示)に接続される一方で、水ダンプアウトレット341によって、水が捕集システムに入る前に水を排出することができる。水は、モジュール内の気体圧力を上げ戻して水を追い出すことにより排出されるか、または、ハイドレートの形成および解離を介しての低塩分水の連続生成により排出される。例えばスタートアップ時に、または細孔を介して海水が入り込むこと(seawater breach)により許容レベルを越えたレベルまで塩分が増加することとなる場合に、各HARTモジュール301は、水を追い出すべく気体フラッシングを用いて水をダンプするための対応機器も有する。気体フラッシングは、気体アウトレット330を介して気体を強制的にモジュール内に入れることによって行う。(未処理海水のHARTモジュール301内への所定の漏洩および製品水との混合は、回収水の塩分全体が目標製品塩分よりも低いままである限り許容される。)
【0050】
各HARTモジュール301はさらに、気体フラッシングを用いて水を排出するための手段も有する。これにより、システムのスタートアップ時に、または細孔を介して海水が入り込むことによりモジュール内の塩分が許容レベルを越えたレベルまで増加することとなる場合に、水を追い出すことができる。流れが制限される場合に不要な粒子状物質を除去するべく、(ハイドレートが存在しない場合に)液体または気体のいずれかを用いて細孔をバックフラッシングすることもできる。(製品水における所定の浮遊および/または溶解物質は、回収水の塩分全体が目標製品塩分よりも低いままである限り許容される。)
【0051】
HARTモジュール301は、エンクロージャ8内でアレイ状で運転されるように構成および配置される。図5に示す好ましい構成においては、複数のHARTモジュールが互いに並列して配置される。また、HARTモジュールは、多孔性抑制パネルを介してのガスハイドレートの解離により生成された水と気体とを分離するための最大の垂直高さを各モジュールの内部チャンバ319が与えるように配向される。所望の水生成、HARTモジュールのサイズ、および/またはエンクロージャ8のサイズに応じて、HARTモジュールの1以上の列が所定のエンクロージャ8内でアレイにされる。
【0052】
本発明に係る抑制部(すなわち多孔性抑制パネル304)は「複合的」と称される。これは、それぞれが、別個に製造された後に接合されて1つのテーパ付き細孔の多孔性抑制パネルをなす2つ以上の構成要素層からなるからである。これにより、低コストの製造、最適な冷蔵、および最適な温度制御が容易となる。複雑な形状のテーパ付き細孔の詳細な幾何形状は、実施例の一般的記載に引き続いて、ハイドレートの形成および解離のプロセスと関連して以下で述べる。多孔性抑制パネルを1以上のセクションで製造することによって、開放冷却チャネルすなわち「ギャラリー」のための複雑な内部幾何形状を達成することができる。これは、他の方法のいずれによっても実際に製造することができない。かかる内部ギャラリーは、機械加工または切削プロセスによって形成することができる。この場合、抑制パネルは、機械加工される必要があるので「厚壁」と称される。他方、「薄壁」複合抑制パネルは、例えばポリマーの直接成形のような、スタンピング、押し出し、または他の所定の工業プロセスによって作られる。薄壁抑制パネルはテーパ付き細孔壁の厚さが薄く、ほぼ確実に厚壁抑制パネルよりも安価に製造される。本発明に係る多孔性抑制パネルの上部セクションおよび下部セクションは両方ともハニカム構造を有するので、極めて薄い壁を有する実施例であっても、その構造は相当な固有強度を有する。
【0053】
図6aおよび6bに示すように、複合多孔性抑制パネル304の最も単純な実施例は2つのセクションで製造される。かかる2つのセクションは、上部セクション351および下部セクション353を備える。上部セクション351は、処理対象の水塊に面する。下部セクション353の露出面は、HARTモジュール301の内部チャンバ319に隣接する。(上部セクション351は、ハイドレート脱塩プロセスにおける水の移動方向に関して上流にある一方、下部セクション353は、多孔性抑制パネルを通る水流に関して下流にある。)ハイドレートが成長する上部セクション351と、解離が生じる下部セクション355とが、接着剤、樹脂、ろう付けもしくは半田付け、圧縮剪断もしくは超音波溶接、または製造工業で周知の他のプロセスによって接合されて、単一のユニットを形成する(図6b)。
【0054】
本実施例において、長手方向に延びる冷媒ギャラリー355は、図6bに示すように上部セクションと下部セクションとが合体された場合に多孔性抑制パネルの内部となるように、上部セクション351の内側に配置される。冷媒ギャラリーは水から隔離されるので、上部セクションと下部セクションとの間にはシール性を高めるべくガスケットまたはシーラント(不図示)が設けられる。冷媒ギャラリー355は図6aおよび6bにおいて、説明のみを目的として三角形断面で示される。なお、これらは、被処理水に面する上部セクション351の側面にあるテーパ付き細孔の隣接面の形状に「従って」いない断面形状を有することがある。
【0055】
さらに、上部および下部抑制パネルセクション351、353は、複数のテーパ付き細孔(細孔の壁の等高線で示す)を有する。これらは、複合多孔性抑制パネルを通して相互に整合されている。以下に詳細に説明するが、ハイドレートは、上部抑制パネルセクションのテーパ付き細孔内に形成され(このため、上部抑制パネルセクションの細孔はハイドレート形成領域358を構成する)、かつ、本発明の好ましい実施例では、下部抑制パネルセクションのテーパ付き細孔内で解離する。特に、下部セクション353のテーパ付き細孔の口(すなわち細孔の最大幅箇所)は、上部セクション351のテーパ付き細孔のアウトレット(すなわち最下部箇所)よりも広い。この関係により、複合テーパ付き細孔の「二重円錐」形状が得られる。換言すれば、図6bに示すように、上部および下部セクション351、353が接合される箇所357において、細孔の形状には「段」または「凹凸」が存在する。したがって、本発明者の初期の特許において示される多孔性抑制部の細孔は直径が単調減少するのに対し、本発明の複合抑制パネルの全体的または複合的な細孔は、上部セクションと下部セクションとの接合部に段を有する。各複合細孔の直径は、上部セクション351から下部セクション353に向かう方向において再び減少するまでわずかに拡大する。(かかる構成の利点は、本発明に係るハイドレートの形成および解離のダイナミクスの詳細な記載に関連して以下で説明する。)
【0056】
大きなクーラント容量が必要な場合は、下部抑制パネルセクション353に、長手方向に延びる付加的なチャネル359が設けられる。これは、図7aおよび7bに示すように、上部抑制パネルセクション351のチャネル355に対応かつ整合している。2つのセクションが合体されると、得られる冷媒ギャラリー365は、図6aおよび6bに示す実施例のそれよりも実質的に大きくなり、冷却ポテンシャルが高くなる。
【0057】
さらに冷媒ギャラリーは、図8に示すような長手方向に延びる別個のチャネルとして形成することもできる。この場合、各チャネルは単一の入口367および出口369を有する。その代わりに、図9に示すように、ギャラリーは格子パターンで交差する相互接続にしてもよい。後者の実施例では、冷媒を運ぶクーラントギャラリー267は、各細孔を完全に取り囲む。なお、図8および9に示す直交する例とは異なるチャネルまたはギャラリーの広範な配向が可能である。図8および9に示す具体例は、説明を明確にすることのみを目的として使用される。
【0058】
多孔性抑制パネルにおける冷媒ギャラリーへのインレットおよび冷媒ギャラリーからのアウトレットは、フレーム312内の所定のチャネル(不図示)と連通する。次に、フレームチャネルは、HARTモジュールのインレットポート321およびアウトレットポート325と連通する。したがって、液体クーラント(好ましくは液体HFM)は、インレットポート321を通って所定のHARTモジュール301に入り;細孔を冷却するべく所定のHARTモジュール301を備える両方の抑制パネルの冷蔵ギャラリー内を循環し(さらに、上述のように、および以下で詳細に記載するように、好ましくはその中で気化し);そして、液体状態またはより好ましくは気体状態のいずれかで所定のHARTモジュール301を出る。
【0059】
多孔性抑制パネルを通してできる限り均一な冷却を与えることは、最良のハイドレート成長にとって重要である。再循環流体冷媒を使用する冷却にとって最良の実施は、その冷媒を全体温度が下降し続けるのに十分速く冷媒を循環させることである。図10aおよび10bに示すように、多孔性抑制パネルにわたって冷蔵または冷却ポテンシャルをより平等に分配するべく、複合多孔性抑制部の下部部材の各ギャラリー375の「ヘッド」に冷媒分配マニホルド372が設けられる。分配マニホルド372の上面壁は、上部抑制パネル部材の表面、またはその他の、マニホルドの垂直方向の拡大を下部抑制パネル部材だけに限定する所定の部材(不図示)で構成される。(図6および7に示すものと同様の実施例において)マニホルドから冷蔵ギャラリー375内への冷媒の流れを規制する手段が、各冷媒ギャラリー375の端部と分配マニホルド372との間に設けられる。具体的には、この位置には端壁部材376が設けられる。端壁部材376は、冷媒の各ギャラリー内への流れを遅らせるように設計された開口379を備える。これは、冷蔵ギャラリー内に冷媒をより平等に分配する効果を有する。
【0060】
液体冷媒が(もしあれば分配マニホルドから)冷却ギャラリー内に導入される速度は、液体循環冷媒の流れを規制するHARTモジュールインレット321および/または下部パネルセクションの抑制パネルインレット383のバルブ(不図示)によって制御される。さらに、抑制パネルを通るクーラントの流速は、冷媒気化システムが使用される冷蔵ギャラリー355(例えば図6および7)内の「ヘッドスペース」圧力を制御することによって規制できる。ギャラリー内の圧力が、液体冷媒の(任意の特定温度に対する)液体/気体蒸気圧近くに維持されると、気化を遅らせることができるので冷却ポテンシャルが制御される。さらに具体的には、HARTモジュール301のアウトレットコントローラ327(図3aおよび3b)におけるポンピングによってギャラリー内の圧力を変化させると、気化速度が制御されるので温度も制御される。多孔性抑制パネルの冷媒ギャラリーシステムにできる限り均一に液体冷媒を分配すること、および液体冷媒の気化速度を制御することは、所定の多孔性抑制パネルにわたって冷却ポテンシャルすなわち均一冷却能力を平等にするのに役立つ。さらに、図10aおよび10bに示す、液体冷媒を分配するマニホルドから冷媒ギャラリーまでのシステムによって、液体冷媒が気化する場合に冷却ポテンシャルがより均一になるよう促される。
【0061】
最も均一な冷却ポテンシャルは、気化が多孔性抑制パネルの全長にわたって均一に生じるように制御可能な場合に得られる。図11aおよび11bに、この目的に対する複合浸透抑制パネル304を示す。この複合浸透抑制パネル304において、図7aおよび7bに示すものと同様の大容量冷蔵ギャラリーは、上部抑制パネルセクション351と下部抑制パネルセクション353との間に配置される「冷媒分配部材」391によって、2つのサブギャラリー(基本的には、上部および下部パネルセクション351、353それぞれにおけるチャネル355、399)に分離され、これにわたって液体冷媒が気化する。
【0062】
分配部材391の大きい方の孔393は、上部および下部パネルセクションを通って延びるテーパ付き細孔に一致する。複数の小さい孔396の線は、微細孔エリアすなわち極めて小さな孔を備えるエリアの位置を図式的に示す。この微細孔エリアすなわち冷媒分配部材391の極小孔を有するエリアによって、冷媒は、下部抑制パネルセクションの冷媒供給ギャラリー399から、上部抑制パネルセクションの冷却ギャラリー355内へ分子レベルで気化することができる。冷媒分配部材391は、(例えば約30から80ミクロンのオーダーの)小孔がドリルで穴あけされた薄い金属のような単一材料から、または、微細孔特性を有する複数の材料から製造することができる。その代わりに、分配部材内の所定位置に微細孔薄膜領域を差し込むこともできる。冷媒分配部材391には、上部および下部抑制パネルセクションのチャネルと実質的に同じパターンで分布する微細孔または極小孔のエリアが設けられる。
【0063】
(微細孔薄膜材料は、半透過性のバリアである。薄膜はポリマーであって、例えば疎水性または親水性のような様々な特性を有してよい。かかる薄膜もまた、選択的または非選択的であってよい。微細孔薄膜のために通常使用されるポリマーには、ポリプロピレンおよびポリオレフィンがある。典型的には、微細孔中空繊維薄膜が、約300ミクロンの繊維外径、および約200−220ミクロンの繊維内径を有する。典型的には、多孔率は約25から40%の範囲である。)
【0064】
この構成において、下部抑制パネルセクション353のギャラリー399(以下「冷媒供給ギャラリー」と称する)は、本装置の運転中、液体冷媒で連続的に充填される。上部セクション351の冷蔵ギャラリー355内の蒸気圧を、特定の冷媒の気体/液体転移点の下まで下げることにより、冷媒供給ギャラリー内の液体冷媒を、冷媒分配部材391の微細孔領域396を通して、上部パネルセクション351のギャラリー355内へ気化させることができる。したがって、気化がすべての細孔に均一に生じる傾向があるので、上部パネルセクション351を全体的にすなわち微細孔薄膜の気体側において冷却することができる。このプロセスは以下、「エリア気化」と称する。(下部セクション353における微細孔薄膜391の液体冷媒側の冷却は望ましくない。したがって、冷却は、必要に応じて上部パネルセクション351だけに制限されるのが望ましい。)
【0065】
一般に、抑制パネルのテーパ付き細孔表面の温度をハイドレートが安定でかつ成長するポイントまで下げる必要があるので、冷蔵は重要である。さらに、ハイドレートの発熱形成によって生じる熱は、ハイドレートが処理対象の海水中に向かって外方に連続的に成長するように、冷蔵によって除去される必要がある。エリア気化は、特に冷却ポテンシャルの微小な変化が多孔性抑制パネル全体にわたって(または、エリア気化が行われる他の任意の気化装置において)必要とされる場合に、冷却ポテンシャルの最も均一な分布を与える。均一な冷却ポテンシャル、および大面積にわたる均一な微小温度変化制御能力が重要となるのは一般に、ハイドレートが所定の抑制パネルの全表面にわたって均一な質量速度で成長することが極めて望ましいからである。図4aおよび4bに示すプロセスに従えば、ガスハイドレートが成長する冷蔵エリア全体にわたる微細スケール温度制御および温度均一性により、多孔性抑制部の上流側からの水除去および気体除去ならびに圧力シールが最適化される。
【0066】
冷却の所望量を達成するべく、冷媒供給ギャラリー399内に液体冷媒が導入される。冷蔵ギャラリー355内の気体冷媒の蒸気圧を、(任意の特定温度に対する)気体/液体転移点の下までポンピングで下げることにより、冷蔵が有効になる。冷蔵ギャラリー内の蒸気圧が、その冷媒に対する気相内にある場合、気体は低圧力において安定相なので、冷媒分配部材391またはその近くで気化が生じる。冷蔵ギャラリー355内に維持される圧力が低ければ低いほど、得られる冷却は大きくなる。このようにして、冷媒の気化量および気化速度を制御することで、冷却ポテンシャルおよび温度の所定範囲を冷蔵ギャラリー355内に維持することができる。この、圧力に基づく気化すなわち冷却ポテンシャルの制御により、ギャラリーシステムにわたる微細スケール制御および温度の均一性が促される。
【0067】
(HARTモジュールフレーム312上の気体排出部330と以下に記載の気体捕集処理システムとの間の気体抽出システム内の任意の場所に配置される)相対的に小さな気体ポンプを使用して冷蔵ギャラリー355から気体を抽出することによって、冷蔵ギャラリー355内の蒸気圧が制御される。急速なポンピングによって、気体のヘッド圧力の急速な低下による大幅な冷却が達成される。気体のヘッドスペース内の圧力低下によって、冷却はゆっくりと減少する。ポンピングの速度が、遅すぎる抽出速度まで下がると、冷媒分配部材391の気体側および液体側は圧力が平衡となる傾向がある。
【0068】
冷媒分配部材391は一般に、上部抑制パネルセクション351と下部抑制パネルセクション353との間に配置されるが、有利な結果が得られるその構成要素の正確な構成および配列は、上で図示および記載したものよりもやや複雑となる。例えば、複合多孔性抑制パネルの個々の構成要素が、(実質的に平坦な接合部で組み合わせられるのとは対照的に)互いに部分的にはまり込むように形成される場合、複合多孔性抑制パネルの組立体の強度が増加する。例えば、図12aおよび12bに示すように、上部パネルセクション351におけるテーパ付き細孔の円錐壁は、下部抑制パネルセクション353における細孔内にはまり込んでわずかに延びる。その箇所が互いに実質的にはまり込むので、組み立てられた複合抑制パネルには相当な強度が与えられる。なお、部材の形状および配置のわずかな違い(例えば、下部部材に対してスペーサを設けること)が行われてもよく、ここに詳細に記載されなくても本発明の範囲内となる。構成要素間の接合部が実質的に平坦な場合は、差圧に起因する構成要素境界沿いの剪断により、海水または冷媒の微小な漏れが生じることがある。これは、上部および下部パネルセクションの一方または双方を機械的に強化することによって回避できるが、材料が付加されて重量面で不利となる。他方、図12aおよび12bに示すように上部および下部抑制パネルセクションが互いに係合する場合は、例えば、上部抑制パネルセクションと下部抑制パネルセクションとの接合部に剪断面が形成されにくくなるので、パネルは漏れにくくなる。さらに、相互係合設計の機械的強度増加を考慮して、1つ以上の箇所を薄くかつ軽く作ることができる。
【0069】
例えば、図11a、11b、12a、および12bに示すような3つの構成要素の複合抑制パネルを使用する本発明の実施例においては、複合抑制パネル内部の冷蔵システムを、抑制パネルの外側の水相、気体相、およびハイドレート相からシールすることが重要である。したがって、かかる箇所は、溶接、加熱接着、もしくはろう付け/溶接合わせ;チタンのような特殊金属の場合の拡散溶接;または他方法により接合される。構成要素が熱可塑性である場合、または1つ以上の材料が使用される場合、かかる箇所を接合するべく接着剤または化学接着も使用できる。所定の複合多孔性抑制パネルは、少なくとも一部にOリングシールを備えてよい。以下の組立体、単一の統合抑制パネルユニットを形成するべく、3つの構成要素のすべてが、テーパ付き細孔とは完全に分離されて、液体冷媒供給ギャラリー399(および気体冷媒ギャラリー355)と堅固に接合される。
【0070】
冷媒分配部材391により、冷蔵システムの好ましい実施例において、冷却ポテンシャルの均一な分布および制御が促される。図13は一般に、冷蔵効果がどのように達成されるかを示す。ここで、上部および下部抑制パネルセクション351、353の内部の詳細は簡便のため除かれている。上述のように、冷媒分配部材391は微小孔を含む(簡便のため均一に分布して示される)。下部抑制パネルセクション353内の内部スペースが液体冷媒で占められる一方で、上部抑制パネルセクション351内の内部スペースは通常、気体冷媒で占められる。冷媒分配部材391における微細孔を通しての液体冷媒の気化を介して冷却するポテンシャルは、差圧が急速に平衡となる気体スペース全体にわたって同じである。
【0071】
冷媒分配部材391の、詳細な大幅に拡大した模式的断面(図14)には、液相と気相との関係が示される。冷蔵効果すなわち冷却の度合いは、例えば上述のポンピングのような気体側の圧力制御によって管理される。冷媒分配部材391の気体側の蒸気圧が、冷媒分配部材391の対向側の(すなわち冷媒供給ギャラリー399内の)液体冷媒の蒸気圧と平衡にある限り、分配部材391の液体側と気体側との間での冷媒の物質移動は生じない。(この状態では、システムの蒸気圧は(任意の特定温度に対する)液体冷媒の蒸気圧となる。)しかし、上部抑制パネルセクションにおけるギャラリー内の圧力が下がると、液体冷媒の蒸気圧は、気体側の圧力よりも高くなり、冷媒分配部材391における微細孔を通しての、冷媒分配部材の液体側から気体側への物質移動(図14の矢印で示す)が生じる。したがって、冷媒分配部材の気体側の圧力を変化させることにより、供給ギャラリー399内の液体冷媒の気化を規制することができる。これにより一般に、抑制パネルにおける細孔の冷却を規制することができる。
【0072】
したがって基本的に、冷媒分配部材39は、相の仕切りとして機能し、液体冷媒と気体冷媒とを分離する。冷媒分配部材391にわたり気化がほとんど生じないか、または全く生じないで冷却ポテンシャルが小さな場合、冷媒分配部材の液体側は、気体/液体転移の蒸気圧か、またはそのすぐ上に維持され、冷媒分配部材の気体側は、冷媒の蒸気圧か、またはそれよりも下に維持される。冷媒分配部材にわたる差圧を上げることにより、気化速度が上昇するので、冷却ポテンシャルが増加する。微細孔396は、特定の冷媒(例えばCO2)に対して親和性がある。したがって、図14に示すように、液体冷媒は微細孔を充填するが、差圧が過剰にならない限り、表面張力により微細孔内に保持され、液滴としてまたは表面膜として冷媒分配部材の他方側へ通過することができない。冷媒分配部材の気体側は、液体冷媒が冷媒分配部材の気体側に抜けて(wicking)いかないようにするべく、液体冷媒に対する親和性が小さい金属化表面のように金属でコーティングされる。気化は、分配部材391における気体/液体界面または気体チャンバ内で完全に生じる場合に、最も熱効率がよい。
【0073】
ほぼ同じ速度および量の気化が冷媒分配部材沿いのあらゆる箇所で生じるので、冷媒分配部材にわたり冷媒を気化することの冷却効果は、所定の抑制パネル内の気体スペース全体にわたってほぼ同じとなる。これは、液体冷媒供給ギャラリー399内の液体と冷媒ギャラリー355内の気体とが、冷媒分配部材において相互作用する個々の液圧システムを構成するからである。したがって、気化すなわち冷蔵の量を、冷蔵ギャラリー355内の圧力を変化させることによって精密に規制できるので、変動する条件および水を冷却するのに必要な熱需要へのシステム応答ならびにハイドレートが形成される温度の維持が、従来技術と比べてはるかに改善される。
【0074】
高冷却要求の期間中は冷媒分配部材の液体側と気体側との間の蒸気圧の差圧が大きくなるので、気体が充填されるはずの冷蔵ギャラリー355内へ冷媒分配部材を通って液滴が排出され、冷蔵ギャラリー355において急速に気化し、冷却を続ける。これは、液滴気化のための表面積が、冷媒分配部材の細孔エリアで通常利用可能な表面積よりも大きいからである。これは、冷却プロセスをさらに加速するので、冷却ポテンシャルを、微細孔内に露出される液体表面のみにおける気化により得られる冷却ポテンシャルよりも上へ増加させるテクニックとして使用できる。
【0075】
冷却/冷蔵に対し、冷媒分配部材391にわたる気化の代わりに、液体冷媒システムを厳密に循環させることが行われる場合は、液体冷媒が冷媒供給ギャラリー399から冷媒ギャラリー355までより容易かつ均一に通過できるように、冷媒分配部材に大きな孔(1つであっても使用されるのであれば)が設けられる。これは、このようにしないと、液体冷媒の固有粘性が、冷媒分配部材391を通るその通過速度を制限する傾向があるからである。気化の代わりに冷媒分配部材が液体を等しく分配するべく使用されるのに必要な唯一の違いは、部材における分配孔のサイズである。しかし、冷媒分配部材の全体的な利益すなわち冷却ポテンシャルの平等な分配、は基本的に変わらない。
【0076】
LCO2は、気化器システムを詰まらせる可能性のある微小粒子が中に存在しないように十分な純度を有すれば、表面供給から直接用いることができる。この通過モードであれば、解離したハイドレートから回収された気体CO2に適用されるものとは別個の特別な再圧縮を含まない。しかし、同じCO2を用いた蒸気圧縮システムが使用される可能性は高い。精製されて粒子状物質が除かれると、漏洩分を置換するのに必要なだけの補充をしながら不定に循環することができる。再循環蒸気圧縮法による多孔性抑制部の冷却のための精製/再補充システムは、エンクロージャ8の直近またはLCO2供給部の近くに実装できる。
【0077】
より一般的な考慮に戻ると、本発明に係る多孔性抑制パネルは、すべての細孔壁、すなわちハイドレートの均一成長のための熱交換用制御表面、に対して等しい厚さを有するのが好ましい。また、熱伝達が高まるようにできる限り薄いのが好ましい。このクラスの多孔性抑制パネルは「薄壁」と称され、機械加工によって限られた数、または(例えば薄い金属シートの)スタンピングもしくは(例えば流体対固体の鋳込みまたは押し出しプロセスを使用した)成形によって低コストで多数、製造できる。機械加工された構成要素(例えば図6、7、および11に示す)が、少なくとも最終的な抑制パネル構成要素と同じ厚さの金属または例えばプラスチックもしくはカーボン繊維と同様の複合材料のような他の所定材料から始められる一方で、薄壁多孔性抑制パネルは、薄いシートの材料から製造されて複雑な三次元形状に成形される。薄壁抑制パネルを作るには、スタンピングと成形の2つの基本的方法がある。スタンピングにおいては、海洋腐食に極めて耐性のあるチタン合金のような金属(またはプラスチックのような所定材料)のシートが、当該金属シートをダイに挿入して2つのダイの間で当該シートをプレスすることによって、ダイにてスタンプされる。他方、被形成構成要素は押し出しされるか、鋳込まれる。
【0078】
図15aおよび15bは、単一の多孔性抑制パネル(図15b)に組み立てられる薄壁上部抑制パネルセクション351、冷媒分配部材391、および下部抑制パネルセクション353を示す。複合抑制パネルの上流面は、ほぼ等しい厚さを有する複数の複合抑制パネルに対して図3aおよび3bに示すものとほとんど同様に、抑制パネルが支持されるフレームから外方に面する。薄壁多孔性抑制パネルは、細孔壁がいずれの場所でも薄くかつほぼ同じ厚さを有するように製造されるので、冷媒ギャラリー355および液体冷媒供給ギャラリー399は薄壁抑制パネル全体の全体積を実質的に占めることができる。これにより、薄壁抑制パネルは高効率熱交換器となる。しかし、最も重要なのは、細孔壁は一定の厚さを有するので、冷蔵ギャラリー355に隣接する上部セクション351におけるテーパ付き細孔のすべてにわたり冷却効果を均一にすることができ、均一な冷却が細孔内の均一なハイドレート成長を最適化する、という事実である。
【0079】
図16a、16b、および16cは、相対的に薄い周縁部を有する薄壁複合抑制パネルを取り付けるための(2列のみの細孔に対する)配置を示す。図16a、16b、および16cは、好ましくはプラスチックから作られる端部材470の例を示す。これは、単一の多孔性抑制パネル304の縁まわりに鋳込まれる。端部材470によって、抑制パネルの薄い周縁部は、複合多孔性抑制パネルの残り部分とほぼ同じ全体厚さになり、ほぼ均一な厚さを有する複合抑制パネルに対して上述かつ図3および4に示されるのとほぼ同様に抑制パネルがHARTモジュールフレームに取り付けられる。テーパ付き細孔の中心を通る断面図(図16b)には、上部パネルセクション351および下部パネルセクション353における細孔が示される。冷媒分配部材391は黒く塗りつぶされて示される。テーパ付き細孔の口と口との間の断面図(図16c)には、上部パネルセクション351および下部パネルセクション353の厚さがより明確に示される。分配部材391はここでも黒く塗りつぶされて示される。
【0080】
その代わりに、図17に示す好ましい実施例において、2つの多孔性抑制パネルが、(図3aおよび3bに示すフレーム312に類似する)フレーム473と一体となるように鋳込まれてもよい。2つの多孔性抑制パネルは、フレーム473とともに基本FIARTモジュール(例えば図3a、3b、4a、4b、および5に関連して前述)をなす。製造時に内部チャンバ319内にスペーサ(不図示)を付加してもよい。これにより、中心のチャンバ319は、中の圧力が本発明の装置の運転中に下げられても、一定幅を維持できる。さらに、HARTモジュールのこの構成において、フレーム自体は冷媒インレットポートおよび排出ポート(例えば、図3a、3b、4a、4b、および5に関連して上述)を含まない。それどころか、各複合抑制部の1箇所以上にインレット322およびアウトレット326が設けられる。(図17の各複合多孔性抑制パネルごとに1つのインレットおよびアウトレットが示されるが、これは説明のみを目的とする。)したがって、フレームおよび冷媒分配システムは、いくつかの異なる方法で、すなわちフレームを通るものと各複合多孔性抑制部に直結するものとの双方で、実装することができる。
【0081】
さらに、この実施例に関し、テーパ付き細孔358は、各HARTモジュール301がより薄く作られるように互いに千鳥状になるかまたは互いにずれるのが好ましい。この配置はまた、各テーパ付き細孔におけるハイドレート成長および解離のプロセス全体を向上させる。これは以下で詳細に説明する。
【0082】
ここに記載の多孔性抑制パネルの実施例すべてにおいて、より良好な熱力学的性能を達成して液体、気体、および水の流れを向上させるべく、他の装置が付加されてよい。例えば、必要に応じて、冷却のためまたはセンサシステム(主に圧力センサおよび温度センサ)を支持するために1つ以上の内部ギャラリーシステムを設けるには、複合抑制パネル内の他部材を使用して実装されてよい。さらに、不要または過剰なハイドレートが、抑制パネル上のテーパ付き細孔以外の領域に形成されるのを防ぐために、各多孔性抑制パネルの面に断熱層が付加されてもよい。例えば、生物汚染を防ぐべく、またはハイドレート成長を促すべく、陽極処理またはテフロン(登録商標)のような耐腐食材料によるコーティングによって表面を処理してもよい。
【0083】
この開示の焦点を本発明のシステム全体にまで広げ戻すと、多孔性抑制パネルがハイドレート成長を支えかつ熱交換器として機能するHARTモジュール301のアレイは、ガスハイドレートの制御成長を促すことによって脱塩を支える。かかるアレイはエンクロージャ8に設けられ、HART装置により処理される水を、好ましくは海洋環境において開放された海水から実質的または完全に隔離する。これにより、ガスハイドレートの核生成および成長に適した条件をエンクロージャ8内に維持することができる。ガスハイドレートの核生成および成長は、一部には、上述のような循環システムまたは気化モードのいずれかにおける液体冷媒によって促される。
【0084】
さらに、本発明によれば、冷媒(好ましくはこれも上述のようにハイドレート形成物質である)がいくつかの方法で有利に使用される。第1に、冷媒は、処理対象水の温度を直接制御するために使用される。具体的には、(液体二酸化炭素のような)冷媒をエンクロージャ8または圧力容器(例えば図31に示す)内の処理対象水に直接注入することにより、ハイドレート形成に適した温度の直上の所望温度まで水が冷却される。この冷媒は海水内へ放出されるときに気化および/または膨張し、冷媒は気化/膨張の際に水から熱エネルギーを吸収するからである。したがって、かかる液体または気体HFMのエンクロージャまたは圧力容器内に放出される量を規制することによって、エンクロージャまたは圧力容器内に所望の擬似的環境温度を維持することができる。さらに、HFMである冷媒を処理対象水に注入することにより、原水の温度にかかわらず(通常の天然海水温度に対して)、ハイドレート成長に適した溶解HFMの飽和(または過飽和)濃度レベルを維持することができる。(任意の特定HFMが核生成してハイドレートを成長させるのに必要な圧力は、本発明の海洋系アプリケーションでは水塊中の所定深さまでエンクロージャ8を沈めることによって、または本発明の圧力容器系アプリケーションでは圧力容器内でのポンピングおよび/または気化によって、生成される。)
【0085】
第2に、ハイドレートの制御された核生成および成長のための極めて局所的な条件が、多孔性抑制パネル上にその内部冷蔵によって作られ維持される。本発明の特に好ましい実施例では、液体冷媒(例えば液体二酸化炭素)は、本発明の実施で使用されるハイドレート形成物質であり、上述のように冷蔵プロセスの一部として気化される。この場合、液体冷媒HFMの気化により生成されたガス化HFMを、ハイドレート成長に寄与する処理対象水中に注入してよい。その代わりに、必要であれば、ガス化された液体冷媒を再圧縮し、蒸気圧縮に基づく冷蔵サイクルで再循環させてもよい。この場合、冷蔵システムの冷媒は処理対象水から隔離される。この冷媒が、本発明の実施で使用されるHFMと同じである必要はない(またはHFMである必要は全くない)。
【0086】
本発明の実施を全体的により良く理解するためには、本発明が実施される通常海水領域における圧力と温度との関係を理解すること、および溶解HFM(ここで使用される例ではCO2)の圧力、温度、および濃度をどのように操作できるのかを十分に理解することが役立つ。これは、本発明の実施では、いくつかの自然発生海洋条件および物理的プロセスが利用されるからである。この条件およびプロセスは、本発明で使用される態様で使用されるのが通常というわけではない。
【0087】
冷媒として使用される多くの物質は、アンモニア、二酸化硫黄、塩化エチル、四塩化炭素、イソブタン、プロパン、塩化メチレン、クロロフルオロカーボン(フレオンを含む)、および二酸化炭素(CO2)を含むハイドレート形成体でもある。溶解度、液体/気体界面における蒸気圧、および水(および海水に通常見られる物質)を含む様々な冷媒/ハイドレート形成体は、相当に変化するので、特定の物質を冷媒/ハイドレート形成体として選択および使用する際に考慮する必要がある。
【0088】
いくつかのハイドレート形成ガスが使用できるが、本発明の使用にとって好ましいハイドレート形成体はCO2である。CO2は、本発明を用いるガスハイドレートによる脱塩にとって好ましいHFMとなるいくつかの特性を有する。CO2は水に容易に溶解し、特に圧力下では、相対的に小さな量の水でも相当量の溶解気体を含むことができる。CO2は海水に急速に溶解する。このため、海水は、ハイドレート成長プロセスにとって重要となる拡散物質移動には良好な媒体とある。CO2ハイドレートは、実験室での実験および外洋のいずれにおいても、自発的に核生成して容易に成長することが示されている。CO2は、溶解固体を優れたハイドレート形成体であり、そのハイドレートは、溶解固形物および食塩水滴不純物に対する強固な拒否性を示す。このため、CO2は一般的に脱塩および水分離に理想的なHFMとなる。
【0089】
CO2は、不燃性であり、扱いが容易であり、かつ比較的安全である。高濃度のCO2が所定金属に対して腐食性であっても、かかる腐食は、材料を慎重に選択することにより軽減することができる。また、これは、冷蔵なしで比較的低圧力の格納容器に格納され得る液体としてほぼ全世界で市販されており、かつ、比較的低コストで入手することができる。さらに、この既に低いコストがやがて下がることが予想される。これは、一部には、地球規模の気候変動(温暖化)を軽減するべく京都合意に従い、発電のような集中的ソースからのCO2が捕集されて、海または地質貯留層のいずれかで処分されるからである。したがって、CO2の処分があるので、脱塩プロセスで使用されるCO2は実際にはコストがかかるものというよりはむしろ利益あるものとなる。さらに、濃縮CO2は強力なバイオサイドなので、装置自体の中では生物汚染がほとんど生じ得ない(しかし、それが海洋中に処分プロセスの一部として分散すると急速に生物相に無害な流出物となる。)さらに、CO2は、その現行の低コスト、入手性、非毒性、および生物医学的に良性ゆえに、優れた冷媒である。
【0090】
CO2は、本発明においては、(ハイドレートが核生成して成長するための)疑似環境水温を下げることと、水と結合して脱塩有効ハイドレートを形成するHFMを与えることとの双方を目的として使用される。したがって、本発明の最も好ましい実施例では、処理対象水へのCO2の注入およびCO2に基づく冷却が、処理対象水内でのCO2の注入/気化/膨張と、熱交換抑制パネル内の冷蔵との双方に起因して、本発明の同じプロセス全体の一部として生じる。CO2ハイドレートが適切な圧力深度領域で核生成して成長するためには、所定圧力においてHFMで海水を過飽和にする必要がある。処理対象水の温度はまず、その環境温度から必要な低温度まで下げる必要がある。圧力温度スペースでの液相から気相への相転移(以下「液相線」と称する。図20)よりも上の温度で液体CO2(LCO2)をエンクロージャ8または圧力容器に注入することによって、LCO2の激しい気化および処理対象水中への溶解が生じる。本発明によれば、CO2の注入速度は、そのすべてが処理対象水中に溶解するように制御される。微小気泡の過渡相が時々存在することがあっても、その気泡は急速に溶解する。わずかな微小気泡が過飽和水と共存するときに理想状態に達する場合があるが、注入されたCO2の残りは、システムの既存の物理的制限まで溶解している。したがって、過飽和であっても、溶解CO2の濃度を特に測定するためのエンクロージャ内または処理対象水内の装置は不要である。むしろ、本発明が運転されるエンクロージャ8または圧力容器(不図示)内のわずかな離溶(exsolved)気体ヘッドの存在が、過飽和すなわち好ましいハイドレート成長条件の存在を示すには十分となる。
【0091】
上述のように、原海水(または処理対象水)は他のいずれかの場所で循環冷却流体または他の冷蔵装置との熱伝達によって冷蔵または予備冷却され得るが、本発明では、エンクロージャ8または他の圧力容器内での直接気化により水を冷却/冷蔵するべく液体HFMを使用するのが好ましい。LCO2の気化は、物質の状態変化に応じた吸熱反応である。図18は、低緯度海洋水塊の約300メートルの深度における温度にほぼ等しい約15°Cの仮想環境海水温度を使用した、異なる水深に対するCO2の気化熱のグラフである。(例えば、図19は、大西洋中東部のカナリア諸島付近からの実測熱水曲線を示す。)気化熱データにより、水中に注入しなければならない液体および気体のCO2の量が計算され、任意の開始環境水温からエンクロージャ内の所望の水温が求められる。任意の水温/深度曲線に対しては、任意の通常海洋温度の原水を、エンクロージャ内の必要なハイドレート形成温度まで冷却するべく気化する必要がある液体HFMの量を指示する制御図が計算されてプロットされる。
【0092】
図20は、CO2ハイドレート安定(斑点領域481)の圧力/温度フィールドのプロットである。図20は、処理対象水の冷却プロセス、さらには多孔性抑制パネルを冷却してその上にガスハイドレートを形成させる効果を示す。具体的には、相境界の左側ではハイドレートは安定である。この相境界は、ハイドレート安定の圧力/温度フィールド(斑点部分)とハイドレート不安定の相境界の右側のフィールドとを分離する。(溶解したHFMの濃度もまた理解および考慮上の重要な因子であるが、本説明の目的上、処理対象水はハイドレート成長時および解離時の双方において過飽和とみなされる。)本発明によれば一般に、A点温度(本説明では約15°Cと仮定)の環境温度海水が、上述のように構成されたHARTモジュールのアレイを含むエンクロージャ8内にもたらされる。エンクロージャ内の水に、温度範囲に対するCO2気体/液体転移483よりも上の圧力(相平衡状態図に図示)でLCO2を注入すると、LCO2は気化して海水をB点まで冷却する。(初期圧力に応じて、温度の低下に伴う線はほぼ水平となる。)この点の温度は、ハイドレート形成に適したものに近いが、ハイドレートの核生成および成長するほど十分冷たいわけではない。(ますます高くなる開始水温に対して処理対象水を冷却するには、気化量を増やすことが必要となる。)
【0093】
運転条件下では、注入によってLCO2が気化された後の海水温度がモニタされる。これによりCO2の溶解速度が制御されるので、ハイドレート相境界の直上の温度が維持され、原水の温度変化が補償される。その量を越えてLCO2をさらに気化させるだけで、水中のLCO2量が増加し、エンクロージャ全体の水温がハイドレート安定フィールド内まで低下する。これにより、不要な水塊全体にわたってハイドレートが形成される。
【0094】
引き続き、多孔性抑制パネルにより与えられるさらなる冷却/冷蔵により、処理対象水の温度は、エンクロージャ内の全体的な水温であるB点からC点まで低下する。C点の温度は、多孔性抑制パネルの表面直上およびそれに隣接する部分で(すなわちテーパ付き細孔の壁上で)処理される水の温度であり、かつ、ハイドレート安定フィールド内にある。したがって、処理対象水がB点からC点までさらに冷却されると、ハイドレートは抑制パネルの細孔内で形成かつ成長する。
【0095】
十分なハイドレートが抑制パネルの細孔内で形成されてその細孔に詰まって圧力シールになると、狭いチャンバ319内の圧力は例えばポンピングによって下げられる。上述し、かつ、以下でさらに詳細に説明するように、その下げられた圧力にさらされるハイドレートの一部(理想的には、双円錐テーパ付き細孔の下部内、すなわち下部抑制パネルセクション353内に形成される細孔の一部内に突出するハイドレート)は、相対的に純粋な水(すなわち変換水)内に再び解離し、気体HFMはチャンバ319内に渡される。そこから、変換水339および気体HFM330(図3a、3b、4a、4b、および5)がHARTモジュール301から抜き出され、以下に詳細に記載するさらなる処理ステップに従って取り扱われる。
【0096】
CO2を上記のハイドレート式脱塩に使用する利点に加え、CO2(LCO2)を、沈められた装置内でのハイドレート式脱塩に使用するさらなる利点は、その液体状態と気体状態との間の転移が、海または水塊の相対的に浅い深度で受ける圧力で生じることにある。LCO2ハイドレート式脱塩が行われるCO2ハイドレート安定フィールドの圧力/温度領域は、液相線483上のハイドレート安定フィールド481内(図20)にある。(液相線の下にある高圧のハイドレート安定領域は、それに関連する著しく遅いハイドレート成長速度を有する。)したがって、エンクロージャ8およびその中にアレイ化されたHARTモジュールをこの範囲内の水深に配置した後に水温を適切に制御することにより、CO2ハイドレート形成に必要な圧力を比較的容易に達成することができる。
【0097】
ハイドレート成長条件に関しては、多孔性抑制パネル上でハイドレート成長を維持するべく、CO2はエンクロージャ内の海水中で過飽和レベルに維持する必要がある。理想的には、これは上述のように、(LCO2気化に起因して)エンクロージャ内の水温全体を、ハイドレートがエンクロージャ全体に形成する程度にまで下げることなく達成される。これは、残留水(すなわち、ハイドレートが形成されて海水から純水が抽出された際の「取り残された分」であるエンクロージャ内の高塩分かん水)が最終的にはエンクロージャから放出されるからである。水塊内全体に形成されるハイドレートは、その残留水とともに失われる傾向があるので、HFMを無駄にしたり本発明のプロセスの効率を低下させる。したがって、この懸念に対する2つのソリューションの一方または双方が実施されて、処理対象水が所望の温度および濃度に維持される。
【0098】
具体的には、より深いまたはより浅い深度のいずれかからの暖かい水を、処理対象となる環境水としてエンクロージャへ導入するか、または、単にエンクロージャのすぐ周りにある環境水と混合させる。これにより、エンクロージャ内の水中へのLCO2のさらなる気化が促される。したがって、処理対象水の温度を、不要なハイドレートが水塊中全体に形成されるほど下げることなくCO2濃度を上げることができる。(確かに、異なる温度の海水を使用して濃度および温度を平衡させることが究極的に難しいことが認められる。濃度をこのようにして上げても、連続的な脱塩プロセスを一様に与えるのに十分なほど上がることは究極的にはないかもしれない。)その代わりに、すべてに液体CO2を使用せずに、所定量の気体CO2を(溶解してもLCO2の気化と同じ冷却レベルを生成するわけではないが)エンクロージャ内の冷却水に混合させてもよい(気相からの単純溶解のエネルギー平衡を考慮するべきである)。
【0099】
さらに、ハイドレート成長条件を維持することに関し、標準的な海洋計測の装置およびテクニックを使用して、脱塩装置近傍の局所海洋学を詳細に継続モニタリングする必要がある。これにより、LCO2を注入することと気体CO2を溶解させることとの任意の平衡を管理して、エンクロージャ内の水温を所望の狭い範囲すなわち図21のほぼB点に維持するすることができる。かかるモニタリングは、本発明のプロセスの一部として異なる温度を有しおよび/または異なる深さから抜き出された水が使用される場合に特に重要である。かかる可変温度の測定により、本発明の脱塩プロセスを制御するべく仕様される運転アルゴリズムのための基本的な制御データおよび入力データが得られるからである。さらに、設置地点の特定の深さおよびその深さ(または取水口が配置される深さ)における水温を処理対象水の冷蔵要件決定に考慮するべく、各設置位置に対して図20に類似する状態図を作る必要もある。
【0100】
ここで、本発明に係る若干巨視的な説明に戻ると、海水はエンクロージャ8(または圧力容器)内にもたらされ、ここで、海水は、所定の圧力深度(上述)においてハイドレート安定点近くまで温度が下げられている間にHFMを供給される。HFMを原水に注入することは、その結果得られる気化およびそれに付随する海水の冷却とともに、完全にエンクロージャ(または圧力容器)内で行われる。さらに本発明によれば、エンクロージャ内の海水は、HFM濃度をハイドレートの結晶化が可能なほど十分高く維持するべく、連続的または定期的(ただし連続ベースで)なHFMの注入を受ける。多孔性抑制部パネル上でハイドレートが成長してハイドレート内に含まれる水(すなわち捕集水)が抑制パネルを介してHARTモジュールのチャンバ319内へ抽出されるにつれて、より多くの海水がエンクロージャ内にもたらされる。ここで、海水は、置換海水にHFMが供給されている間にエンクロージャ内に残っている残留高塩分海水(かん水)と混合される。本発明に係る一の運転モードでは、ハイドレートは、エンクロージャ内の残留海水の塩分が目標レベルまで増加するまで成長することが意図される。この目標レベルは、以下にさらに詳細に記載されるいくつかの因子によって決まる。その時点では、エンクロージャ内のすべての水を、エンクロージャのすぐ外からの新たな環境海水で置換するべくエンクロージャから出すことができる。その代わりに、本発明に係る他の運転モードでは、ほぼ連続的に(定常速度で間欠的にまたは常に)付加的な処理対象水がエンクロージャ内に導入される。残留かん水は、ほぼ同時に、すなわちエンクロージャ内の残留塩分が高すぎるレベルにまで上昇させないようにして、エンクロージャから排出される。したがって、HFMを処理対象水中へ注入してハイドレートに混入させることは、ほぼ連続的なプロセスとなるが、エンクロージャ内の処理対象水をリフレッシュしてエンクロージャを空にすることはバッチプロセスまたは連続プロセスのいずれかとなる。
【0101】
ハイドレートが抑制パネル上で成長して原海水から淡水を抽出するにつれて、エンクロージャ内の残留水(かん水)の塩分が増加する。さらに、残留水は、周囲の環境海水よりも冷たい。したがって、エンクロージャ内の残留水の密度は、周囲の環境水の密度よりも大きいので、残留水がエンクロージャ8から実質的に塊(bolus)として放出されると、残留水は自動的に下方へ沈み、エンクロージャから離れる。残留水がエンクロージャから離れるこの自然な動きによって、脱塩運転の位置からより多くの食塩水が除去されて、下方の外洋深くに入り、海洋生物圏に大きな影響を与えかねない表面から離れる。(残留水を深くにまで送ることを容易にするには、脱塩装置から下方に延びるパイプ(不図示)から残留水を排出することが有利である。)
【0102】
残留水が沈むと、通常の海水とわずかに混合し、残留水中に溶解している高レベルHFM(CO2)に起因する残留水の高塩分および低pHが緩和される。さらに、残留水の塊が沈むと、それに及ぶ圧力が増加するので、HFM(CO2)が飽和する相対レベルが増加する。したがって、残留水は沈むにつれてCO2が不飽和となり、最初は高い飽和の環境への影響は、深さが増すにつれて減少する。
【0103】
(この力学がCO2を、脱塩/水精製に使用されてきた近表面環境から除去し、より低い海洋深さに隔離する。残留水の塊が沈み続けると、それに及ぶ圧力が増加し温度が低減する。したがって、残留水中でCO2ハイドレートが形成される可能性がある。CO2ハイドレートの形成はさらに、残留海水塊の全体的な密度を増加させて、CO2ハイドレートの非浮力性ゆえにCO2の海底への沈下を加速する。したがって、脱塩/水精製を与えることに加えて、本発明は、二酸化炭素を隔離するエレガントな手段も与える。)
【0104】
本発明の実施に対してLCO2をエンクロージャ8に供給することに関し、運転が行われるシステムの深さまでLCO2をポンピングするのに必要なエネルギーコストは、あってもごくわずかである。特に、保持タンク(例えば図1の32)内の圧力は、容器が格納される場所の温度における二酸化炭素の蒸気圧である。エンクロージャまでの供給ライン(例えば図1の36)の底部における圧力は、格納タンク内の蒸気圧に、運搬パイプ内のLCO2の重量によるヘッド圧力を加えたものに等しい。ほとんどの場合、この圧力は深部の水圧よりも高い。したがって、液体二酸化炭素は、単にバルブを開けることによって、エンクロージャ8内のハイドレート形成領域まで運搬することができる。(LCO2以外の液化HFMに対しては、類似の蒸気圧を持つわけではないので、表面上の格納容器からエンクロージャまでHFMをポンピングする必要がある。)
【0105】
LCO2がエンクロージャ8に到達すると、本発明によれば、それを処理対象水中に注入するべく2つのアプローチがある。単一区画のエンクロージャにおいては、LCO2注入、混合、およびハイドレート成長のすべては単一区画内で生じる。対照的に、複数区画のエンクロージャにおいては、注入および混合は一のチャンバで生じ、ハイドレートは、HARTモジュールのアレイを収容する別個の主チャンバで成長する。いずれのタイプのエンクロージャでも、注入は相対的に擾乱されており、LCO2の処理対象水中への急速な溶解が促される。
【0106】
図21aは、エンクロージャ8の単一区画の実施例を示す。ここで、LCO2502は、複数のHARTモジュール301間に配置されたインジェクタ514に対してLCO2502を平等に分配するマニホルド505を介して導入される。運転装置のすべてが、エンクロージャの単一区画内に含まれる。LCO2の注入は、電子制御装置およびビルトインセンサ(不図示)に応答する可変バルブ516によって制御される。LCO2インジェクタにはCO2ハイドレート(またはCO2ハイドレート安定領域外に配置される場合には水氷も)が詰まり得るので、LCO2は、LCO2気化の冷却ポテンシャルが少なすぎる数のインジェクタに過度に集中しないだけの十分な数の注入点においてマニホルドにより注入することが推奨される。この実施例では、原海水530が、エンクロージャのほぼ上部においてエンクロージャ内へ取り込まれ、高塩分残留水535がエンクロージャの下部からほぼ排出される。
【0107】
本発明のこの実施例では、LCO2供給以外には未処理の原水が、ハイドレート形成のための媒体を与える。水の抽出はHARTモジュールの多孔性抑制部を介して、エンクロージャ内の残留水塩分が所望レベル(例えば通常の塩分の2倍または約64,000ppm)に達するまで行われる。この時点で、原水はエンクロージャ内の処理済の水を完全に置換して、通常塩分近くの海水が再びエンクロージャ全体を占めるようになる。その代わりに、新たな原水の取水をゆっくりにして、ハイドレート形成を介して抽出されたその水のみを実質的に置換してもよい。この運転モードは、エンクロージャ内で処理されている水を相対的に食塩水のままとするが、やがて過飽和を一定に近いレベルに維持する。どちらの場合も、エンクロージャ内の被処理水のCO2飽和が、多孔性抑制部においてハイドレートの著しい溶解が生じないほど十分に高いレベルのままに維持される。
【0108】
その代わりとして、図21bは、エンクロージャの複数区画の実施例を示す。この実施例では、LCO2は、HARTモジュール301を含む主脱塩チャンバ612とは別個のチャンバ610内で処理されている水中に注入される。チャンバ610での注入後、CO2を注入された水が、CO2ハイドレートが成長する主チャンバ領域612に注入される。注入チャンバ610は、直線複数区画エンクロージャの4側面すべてに設けられる。その代わりに、エンクロージャ8が円形または楕円形の場合、注入チャンバは、チャンバ612の全周縁に設けられる。さらに、注入チャンバ610は、HARTモジュールのアレイを保持するエンクロージャ8とは完全に別個であってもよい。しかしながら、好ましい構成は図21bに示される。
【0109】
この実施例では、原海水630は、インレットポンプ632によって注入チャンバ610内にもたらされる。LCO2502は、注入チャンバ610内にもたらされ、複数のインジェクタを支持するマニホルド614によって処理対象水に注入される。注入されていない水の細流が、エンクロージャ内外の圧力を平衡させるべく、エンクロージャ641の上部にもたらされように対応機器も設けられる。複数チャンバエンクロージャ内の水の動きは、循環ポンプ637によって制御される。これは、主脱塩チャンバ612内の捕集マニホルド639から水を引き出して注入チャンバ610の下部内に強制的に入れられる。(小さな矢印は、エンクロージャのチャンバ内の水の動きの一般的な方向を示す。)エンクロージャ内に水を強制的に入れる循環ポンプ637が一部に限り設けられるのは、微小気泡の成長を引き起こす注入プロセス自体はチャンバ610内の水を上昇させるからである。したがって、循環ポンプの主要機能は、流れを引き起こすことに加え、流れ方向を制御することにある。(水とHFMとの良好な混合を促す)別の運転モードでは循環パターンは反転される場合もあるからである。
【0110】
注入海水マニホルド645は、ハイドレートをHARTモジュールの抑制パネルの細孔内に形成するべく、インジェクタ649のシステムを介してHARTモジュール301のアレイに、(HFMが所定飽和レベルまで注入された)冷却された水を注入する。複数チャンバエンクロージャ内の複数のHARTモジュール301間での条件は、単一チャンバエンクロージャ内の条件とは異なる。具体的には、単一チャンバエンクロージャの一のチャンバ内の混合条件がLCO2の処理対象水への直接注入ゆえに極端である一方で、複数チャンバエンクロージャの主脱塩チャンバ612の混合条件は擾乱をほとんど含まないので、水流および水流速をほぼ連続的に下向きに維持することができる。エンクロージャの主チャンバ612内の残留水は、所望の塩分に達すると、エンクロージャのほぼ下部から排出535され、エンクロージャから離れて沈んでいく。エンクロージャのこの特定の構成により、海水は、注入チャンバおよび主脱塩チャンバ612を介して所望の塩分レベルに達するまで数回循環され、塩分の増加した水が排出される前にできる限り多くのHFMを利用する。これにより、本発明のプロセスの効率が高められる。
【0111】
より具体的な成長および解離のダイナミクスを以下に記載する。具体的には、多孔性抑制パネルを2つ以上のセクションにすることによって、テーパ付き細孔は、本発明者の従前の特許に係る単円錐形状で可能であったものと比べて、ハイドレートの形成および解離のプロセスを劇的に向上させる複雑な形状(例えば、上述のような双円錐形状)を有することができる。図22aは、双円錐複合多孔性抑制パネルの上部セクション353におけるハイドレート形成の理想的な場合を示す。ここで、ハイドレート765は、複合抑制パネルの上流側の細孔内で成長する。上部パネルセクション351内のテーパ付き細孔714は一般に、広口717を備える円錐断面を有する。(図12aおよび12bも参照。)上部パネルセクション内のこれらの細孔は、ハイドレート成長が促されるハイドレート形成領域を与える。多孔性抑制パネルの上部セクション351のテーパ付き細孔の下部アウトレット端部723は、その口717よりも小さい。下部抑制パネルセクション353において、テーパ付き細孔の形状および配置の同様の幾何学的関係は、下部パネルセクション内の細孔731の口729がその小径出口779よりも大きい点にも存在する。注目すべきなのは、上部セクションのテーパ付き細孔の出口またはアウトレットの直径が、下部セクションのテーパ付き細孔の口径よりも小さいことである。これによって、双円錐形状の特性とみなされる段付きまたは非単調に減少する形状が与えられる。上部抑制パネルセクション内のテーパ付き細孔の2つの端部の直径の相対比率は変化してよく、テーパ付き細孔の長手軸の長さの比も同様である。
【0112】
図22bは、別の実施例を示す。ここで、下部抑制パネルセクション353の細孔は、図22aに示す実施例よりも大きな体積を有する。大きな体積により、ハイドレートの解離が促される。この解離は、解離領域731(すなわち下部細孔)内に延びるハイドレート塊上の粗いエッジによって模式的に示される。大きな体積によって、解離プロセス中に分離しかねないハイドレート片は、ハイドレートの主要な塊765から離れて接触せずに存在できる付加的なスペースを有することができる。(これは、ハイドレートの表面積をさらに拡大させて解離および急速な水の製造を促すので有利である。)この例では、下部細孔の矩形形状が示されるが、実際の形状は使用される特定の材料、製造方法等に応じてかなり変化してもよい。下部抑制パネルセクション内の大きな細孔サイズは、水とハイドレート解離後の気体との良好な分離を容易にする。また、より多くの細孔ドレイン孔780を設けることが可能となり、内部HARTモジュールチャンバ319内を水および気体が容易に通過できるようになる。さらに、図22bに示す側方にスペースのある細孔ドレイン孔780は、多孔性抑制パネルがHART装置の運転中に垂直に向けられる場合に有利である。これは、ハイドレート解離後に分離された気体および水が、唯一の中央に配置されたドレイン孔が存在する場合よりも良好にドレイン抜きされる傾向があるからである。また、各解離領域(下部細孔)に対して2つ以上のドレイン孔が存在する場合は、(例えば、ハイドレート内にトラップされていたデブリまたは沈殿物のまれな発生により)1つまたは1つよりもさらに多くのドレイン孔がふさがれても、ハイドレート解離、気体/水分離、および精製水の製造すべてが妨げられる可能性が低くなる。さらに、本実施例においては、大きな冷媒供給ギャラリー399が存在し、これにより、冷媒の分配および全体的な冷却ポテンシャルが促される。
【0113】
処理対象海水がゆっくりと多孔性抑制パネル面を横切る場合、層流が生じる境界層が形成される。溶解したハイドレート形成反応物質が、かかる境界層を介して海水から成長ハイドレートまで横切る主要なメカニズムは、拡散である。拡散は、境界層厚さに依存するハイドレートの成長速度および純度に影響を与える重要な因子である。すなわち、境界層が薄ければ薄いほど、拡散が速度制御および純度制御現象として機能できる距離は短くなる。したがって、多孔性抑制パネル面上に、微小混合を導入して層流境界層条件を排除する擾乱条件を作るのが望ましい。これにより、ポンピングコストを低くして、ハイドレート成長速度(kinetics)を相対的に高くすることができる。ハイドレート成長前線の近傍における水の動きによる擾乱によって、連続成長に必要な溶解反応物質のハイドレートへの供給と、ハイドレートが拒絶した物質(溶解イオン、沈殿物等)のハイドレートからの除去との双方が向上される。
【0114】
擾乱および微小混合は、多孔性抑制パネルの露出面上の微小凹凸によって生じさせることができる。かかる微小凹凸は、いくつかの異なる手段によって設けることができる。それぞれの手段は、回転渦を生じさせるポテンシャルを有する。図23aに示す一実施例によれば、上部抑制パネルセクションの露出表面にわたる複数の細孔の間に、その表面から延びる微小突起810が形成される。その代わりに、図23bに示すように、微小で同様に配置されたディンプルまたはインプレッション820を露出表面に形成してもよい。このディンプル820は、(本質的に良好な混合効果を有する)渦を伝播させるが、やがて不要なハイドレートで充填されるようになる。したがって、突起は、不要なハイドレートが成長しない材料から作ることができるので、長期にわたって信頼できるフローミキサーであることがわかる。突起は、別個に形成されて上部抑制パネルセクションに取り付けられるか、または上部抑制パネルセクションが製造される材料と一体とするかのいずれかによる。しかし、多孔性抑制パネル面上の任意形状の凹凸要素でも(場合によっては突起とディンプルまたはインプレッションとの組み合わせであっても)ハイドレート成長に対して有利となる。
【0115】
本発明の実施を最適化するための2つの付加的な考慮により、多孔性抑制パネル(事実上の熱交換器)を通してハイドレート形成領域まで正確な熱除去ポテンシャルを与えることができ、処理対象水中の溶解HFMの正確な濃度を維持することができる。エンクロージャ8内の水温は、その中にもたらされる環境海水の温度により変化するので、注入される液体および気体HFMの相対比率も変化する。理想的には、ハイドレート形成領域内(すなわち上部抑制パネルセクションの細孔内)の温度は、処理対象水中のHFM飽和の一定レベルによって予測可能な成長動態が得られるように、狭い範囲内に維持される。
【0116】
さらに、本発明の実施に関しては、ハイドレートは連続モードまたはバッチモードのいずれかで成長する。連続モードにおいては、ハイドレートの成長および解離はほぼ同時に生じる。成長の前線における(すなわち上部抑制パネルセクションの細孔内のハイドレート塊の外表面における)ハイドレート成長は、下部抑制パネルセクションの細孔内のハイドレート解離にほぼ一致する。ハイドレートの成長速度がハイドレートの解離速度と平衡している場合、全体的なプロセスは連続として記載することができる。この場合、ハイドレートの再結晶化に起因する物理的質量移動と結晶構成要素のマイグレーションとの組み合わせプロセスによってハイドレートの構成要素が抑制パネルの細孔を通って動いていても、成長表面は定常状態のままのように見える。対照的に、運転のバッチモードまたは循環モードにおいては、ハイドレートの成長および解離速度は常に等しいわけではないので、成長が支配的な期間と解離が支配的な期間と(これらはある程度オーバーラップし得る)が存在する。連続的な脱塩/精製水製造に対しては、成長の循環周期または連続周期をできる限り一定なものとして確立することが有利である。
【0117】
ここで図24を参照すると、この図上の位置Cは、圧力/温度フィールドにおいてちょうどハイドレート安定範囲内にあるCO2ハイドレートに対する圧力温度成長位置の例である。この位置は、上部抑制パネルセクション内のテーパ付き細孔の口における成長ハイドレート内およびその表面に維持される。(この位置は、図20におけるハイドレート成長位置Cに相当する。)成長位置のレベルまたは位置は、異なる海水深度で水圧が変わるのに伴い変化するが、成長位置の位置は、圧力/温度スペースにおいて相境界からほぼ同じ「距離」のままであり、ハイドレート安定の準安定成長領域にある。圧力/温度状態図上の各テーパ付き細孔の下流端部内のハイドレート解離位置の例(図24のZ)は、HARTモジュール301の内部チャンバ319内の圧力と同じであるが、解離プロセスの吸熱性質により熱が消費されるので、成長位置(図24のC)よりも冷たい。
【0118】
海水の塩分はCO2ハイドレート相境界の位置すなわちハイドレートが成長する温度に影響する。したがって、本発明の実施中は、(例えば伝導率等により)塩分をモニタする必要がある。ハイドレートが原海水から水分子を抽出する際に脱塩プロセス中にエンクロージャ内の塩分が変化するので、多孔性抑制部の温度を下げる必要がある。また、ハイドレート成長に対する所定温度を維持するべく海水中へのLCO2の注入速度を調整する必要がある。この点において、およびこの効果を実証すべく、図25に、異なる水の塩分に対して算出された相境界を示す。図示された異なる相境界は、Aがゼロ重量%NaClの淡水、Bが3.4重量%NaClの平均的な海水、Cが6.7重量%NaClのスーパー塩水、Dが15重量%NaClのハイパー塩水を示す。ハイドレート相境界に加え、二酸化炭素の液体/気体転移(液相線)もE線として示す。エンクロージャ内の圧力/温度条件は、液体よりもむしろ気体がCO2の安定自由相形態のままとなるように維持する必要がある。
【0119】
多孔性抑制パネル内にCO2ハイドレートを連続的に生成するためには温度降下が必要となる。ほぼエンクロージャ内で処理される水の温度と、ハイドレート/海水界面の表面における水の温度との差は、約2°Cに維持される。しかし、塩分がハイパー塩分レベルまで上昇すると(図25のD線で表示)、かかる条件を維持するには相当な冷蔵が必要になる。したがって、処理対象海水の各「バッチ」に対しては、エンクロージャ内の塩分が天然海水塩分の2倍よりわずかに上のレベルに達するまでのみの脱塩が行われることが推奨される。このため、環境塩分が比較的低い場合、例えば、大きな河口において、または最近降雨の大きな流出があった陸地に隣接して見られるような、淡水によって自然に希釈された海洋水においては、塩分は26,000ppmNaClもの低さとなり、それに比例して多くの淡水を、上記制限に達するまでに海水から抽出できる。逆に、比較的高い塩分を有する海水の場合には、例えば、大きな蒸発量を有する地中海や紅海のような閉じられた海によく見られるように(塩分は48,000ppmNaClもの高さとなる)、それに比例して低いパーセンテージの淡水を、冷蔵コストが高額とならない範囲で得ることができる。
【0120】
本発明の実施において考慮すべき他の関係は、深度(すなわち圧力)と、気化したCO2の冷却効果との関係である。この効果は圧力に依存する。かかる関係を図26に示す。ここで、AはCO2液相線を示し(液相線の上側が気体CO2、下側が液体CO2である)、BはCO2ハイドレート形成の上(すなわち低圧)側の限界を示す。Cは、相境界から約1°C上のLCO2の一部を気化させることによって得られる、エンクロージャ内で処理される水の温度を示す(これは圧力−深度により変化する)。Dは、ハイドレート形成に必要な溶解CO2濃度に達するのに必要なLCO2の100%を気化させることによって得られる、冷却気化の実際の上限を示す(図20および24のC位置に対応)。Eは、海水から50%(体積比)の純水を除去した後のかん水の相境界を示す。
【0121】
上述のように、ハイドレートの構成要素は、本発明のプロセス運転中、連続的にテーパ付き細孔を通って移動する。図27は、この移動が生じる態様を示す。テーパ付き細孔がハイドレートによって実質的に満たされ、内部HARTチャンバ319内の圧力が下げられると、各細孔内のハイドレートにわたって差圧が生じる。テーパ付き細孔の解離領域(すなわち下部抑制パネルセクションの細孔内)の圧力は、ハイドレート安定フィールドの外(図24、Z点)にある圧力/温度スペース内の点に圧力がほぼ到達するように、センサおよびコンピュータ制御に応答してポンプにより制御される。圧力がテーパ付き細孔の下流側で下がると、各細孔内のハイドレートは差分の三軸ひずみを受けるようになる。この誘導ひずみは、水の製造プロセス全体にとって、および変換水の純度にとって有利である。差圧は、テーパ付き細孔の壁にハイドレートを物理的に押しつけ、結果的に得られるひずみ(図27に模式的なひずみベクトルの矢印(ハイドレート内(すなわちハイドレートプラグ(点描部分))内の一重軸曲線矢印)で示す)によってハイドレートは、粒界移動および欠陥転位移動を介して再結晶化する。すなわち、ひずみによってアニーリング再結晶化条件が生じる。ハイドレート内の応力が破砕を生じさせるほど十分に高い場合、その破片は、テーパ付き細孔の側壁に対して横ずれ(transpressional)するので自己シールとなる。各細孔内(一般的には中心エリアであり、縮径細孔出口に次第に向かう)のハイドレートのいくつかがそろって移動しても、ハイドレートの大部分は(特に、ひずみが最大となる細孔壁近傍において)再結晶化による物質移動を示す。すなわち、ハイドレートの水および気体構成要素の物質移動が、溶液移動と、多孔性抑制パネルの上流側から下流側への拡散下方圧力勾配とから生じる。
【0122】
アニーリング再結晶化により、各テーパ付き細孔内のハイドレート結晶凝集体が精製される。細孔内の温度変化によって再結晶化が加速される。塩イオンのような不純物は、(ハイドレート内の低圧力勾配のマージンとなる)テーパ付き細孔の口におけるハイドレート成長の前線に向かって移動する。拡散プロセスによって、不純物はこの成長前線から残留海水中に押し戻される(矢印785)。さらに、結晶凝集体の本来の傾向は、大きいまたは安定のいずれかの「生き残り」結晶が、高い表面エネルギーを有する小さいまたは不安定の「ドナー」結晶を代償として成長することにある。このプロセスにより、ハイドレートの塊における内部結晶欠陥および転位ならびに内部結晶粒界エリアが低減されるので、ハイドレート内のエネルギーは最小化される。テーパ付き細孔内のハイドレートに誘導される三軸ひずみは、この傾向を強めてハイドレート精製プロセスを促す。
【0123】
ハイドレートの一般的な移動方向を、図27の二重軸矢印によって示す。この物質移動(質量移動、延性の流れ、または再結晶化プロセスによる。これらすべては、テーパ付き細孔の長手軸にほぼ平行な最大応力軸を有する三軸差応力により生じる。)の結果、ハイドレートが、上部抑制パネルセクション内の細孔の下部アウトレット端部723(すなわちハイドレート形成領域)を通って、下部抑制パネルセクション内の細孔731(すなわち解離領域)内へ実質的に押し出される。
【0124】
解離は拡散表面現象なので、低圧力にさらされるハイドレート表面積が大きければ大きいほど、ハイドレート塊の解離は急速に生じ得る。細孔の双円錐または二連の幾何形状(図4、12、22a、22bおよび27)により、固体ハイドレートから液体の水および気体への水および気体の変換は、テーパ付き細孔の狭い開口779における比較的小さなハイドレートエリアのみが低圧力を受ける単円錐形状を有するテーパ付き細孔から作られるそれよりも、増大する。下部セクションにおける円錐状のテーパ付き細孔は、押し込まれるハイドレートよりも大きな直径を有するので、ハイドレートプラグの相当な表面積が、不安定な低圧力領域にさらされる。図22および27は、テーパ付き細孔の直径が大きい方の解離領域内への、理想的なハイドレートの押し出しを示す。ハイドレートは、ハイドレート解離領域731(図12、22a、22b、および27)内に押し込まれる際、その円錐形状を実質的に維持する。ハイドレートが解離領域において次第に下がってくると、解離条件下に長い時間置かれるので、次第に狭くなるものとして示される。
【0125】
開始水温が十分に低い(例えば15°C以下)所定の場合には、所望温度(例えば図20のB点)以下までの水の過冷却を防止するべく、処理対象水中に液体CO2の代わりに気体CO2を注入する必要がある。この場合、ハイドレートの解離からおよび/または多孔性抑制冷蔵システムから回収された気体CO2が、処理対象水中に溶解される。ハイドレートの形成および解離のすべてのサイクルからならびに多孔性抑制冷蔵システムから回収される分の気体CO2を再使用することは有利であり、閉じこめられた処理対象水に同じ気体CO2を何度も繰り返して溶解させることが望ましい。所定体積のCO2が使用される回数を主に制限するのは、ハイドレートの形成および成長から得られる残留海水(かん水)の塩分である。具体的には、上述のような高塩分残留水をエンクロージャ8から排出する必要がある所定ポイントにおいては、その排出される水に溶解したままのCO2が失われる。
【0126】
注入によって処理される水を、その初期環境温度(例えば図20のA点または約15°C)から所望温度(例えば図20のB点)まで冷却するのに必要なLCO2の量では、ハイドレート形成に必要な過飽和レベルに達するのに十分なCO2を処理対象水中に溶解させることができない。しかし、必要な過飽和レベルに達するようにより多くのLCO2を処理対象水中に注入するだけでは、エンクロージャ内の温度が十分すぎるほど低下するので、多孔性抑制パネルから離れて処理対象水中全体に不要なハイドレートを形成させる可能性がある。したがって、ハイドレート成長に必要な過飽和レベルを得るためには、エンクロージャ8内の処理対象水中に付加的なCO2を溶解する必要があるが、処理対象水の温度を下げすぎることがあってはならない。液体CO2ではなく「付加的な」気体CO2を処理対象水中に注入することによって、その要件を満たすことができる。
【0127】
図28および29は、解離ハイドレート939からおよび/または冷蔵システム941から(好ましくは双方から)気体CO2が捕集されて処理対象水に再導入(すなわち溶解)することができるセットアップを示す。2つのシステムにおける圧力が等しくされて、組み合わせられたCO2がポンプアセンブリ943内で混合される。次に気体が、エンクロージャ8の気体溶解領域(「ガストラップ」とも称する)内にポンピング945される。ガストラップでは、水位951が、それ以外の完全に浸水したエンクロージャ8の残り部分の水位よりも高く維持される。なお、ガストラップの概念および機能は、具体的に示される形態以外の様々な形態で実装してよい。さらに、ガストラップは、接続パイプシステム(不図示)により別個の容器に実装してよい。
【0128】
図29に示すように、エンクロージャから循環される海水を、CO2を含むチャンバ(例えばガストラップ948)内にスプレイまたは噴霧することができる。水が、エンクロージャ8からコンジット983を通り、ポンピングシステム985を介して、ガストラップ948内のスプレイヤまで循環する。解離したハイドレート(939)からおよび浸透抑制パネル冷蔵システムから回収されたCO2も同様である。再使用CO2システムのポンプ989は、1つを越えるCO2ストリームを等価にするポンプシステムを補充してよい。再循環水が、インジェクションマニホルド987を介して分配される。インジェクションマニホルド987からは、詰まりのないノズル(そのいくつかは市販されている)を有するスプレイヤシステムを通して再循環水がガストラップ948内の気体中に注入される。(例えば、水を通して気体をバブリングするよりもはるかに効率的に、気体を過飽和レベルまで様々な流体に溶解させるには、スパイラルジェットスプレイノズル(Spraying Systems Co,2005)が通常使用される。)所定の環境海水982もまた、ハイドレートの形成および溶解プロセスによって抽出される水を置換または補償するべくマニホルドインジェクションシステム987内に導入される。または、完全に別個のシステムによって導入されてもよい。
【0129】
冷蔵システムおよびハイドレートから水への変換システムから回収されたCO2を再使用することによって、回収水の最大量を、脱塩装置に供給される所定体積のLCO2から生成することができる。計算によれば、CO2の回収および再使用の複数サイクルを可能とするシステムによって、脱塩エンクロージャに最初に供給される1,000kgのLCO2ごとに約15,000kgまでの水を生成することができる(図30)。この収率は、システムからのCO2の唯一の損失が、高塩分残留水がエンクロージャから放出される場合に生じると仮定して計算されている。しかしながら実際には、わずかな非システム系の損失が存在する。計算では、生成水に残っている溶解CO2も考慮されている。15°Cの環境温度に対する複数のハイドレート形成サイクル中、エンクロージャ8内の残留かん水の塩分が約34,000ppmから68,000ppmまで倍増するまで長期にわたり計算されている(図25のC)。最初のCO2が消費されるまでに生成された脱塩水の実際の質量比は、当然ながら、原海水の塩分、エンクロージャから放出された時点での残留水の塩分、海水の環境温度、および他の多くの因子に依存する。しかしながら、海洋条件の通常範囲を受ける限りにおいて、この計算は、水生成能力の大規模な見積もりには十分正確である。
【0130】
ハイドレートの解離に引き続き、回収水が溶解CO2によって飽和され、エンクロージャ内の気体CO2が水蒸気によって飽和される。したがって、生成水を輸送する準備のために、第一にはHARTモジュール自体において、第二には表面設備28または65(図1および2)において、水/気体分離システムが推奨される。中間深さ(すなわち脱塩装置と表面との間)に付加的な気体分離システムを設けてもよい。かかる中間圧力深度において「抜き出される」気体の圧力は、HARTモジュール301内の解離チャンバ319で受ける圧力と、自然に炭酸が溶解した生成水が維持される環境表面圧力との間にある。生成水から発生または離溶するCO2を再使用するのが望まれる場合、そのCO2は、高圧気体CO2または液体CO2のいずれかまで再圧縮して、脱塩装置を含むエンクロージャ8に再送する必要がある。これには付加的なエネルギーが必要であり、付加的な費用がかかるが、CO2が雰囲気中に直接放出されないことが保証される。しかし、運転経済上、CO2がさらなる脱塩に対して再使用されない場合は、生成された淡水から得られるCO2の一部を雰囲気中に排出する(またはそれを防ぐべくなんらかの方法で処理する)必要があるかもしれない。
【0131】
本発明の実施に係る運転エネルギーコストは比較的低い。これは、システムの加圧が自然に行われるからである。各HFMに対して選択される深さにおける海水自体の重量がハイドレート形成に適した圧力を与える。さらに、HFM運搬システムはほとんど自己加圧であり、一般的にはHFM(LCO2)を深いところまでポンピングする必要がない。本発明の実施に係る主要エネルギーコストは、図28および29に関連して上述した循環システムの一部として水およびCO2をポンピングすることと、システム中に再注入するべくCO2を再圧縮することとに起因する。可能な最もエネルギー効率のよい運転に対しては、各HARTモジュール内の下流または水/気体回収領域の圧力を、任意の特定温度に対する液体/気体転移圧力に極めて近く維持することによって、再圧縮コストを最小化することができる。さらに、他の気体を圧縮するべくまたは流体駆動ポンプを駆動するべくLCO2気化を使用してもよい。相当なエネルギーを得るべく、淡水生成ライン(図1および2)中で膨張する気体を利用することもできる。連続的なエネルギーコストは、水を深いところから水リターンパイプの上部までポンピングすることに関連する。これは、各HARTモジュール301の内部チャンバ319内の圧力によって決まる。
【0132】
図34は、本明細書で異なるレベルのCO2再使用に対して記載したCO2/HARTシステムを使用して生成できる水の量を示す。最も高いエネルギーコストをともなう運転によれば単位二酸化炭素当たりの淡水収率が最も高くなるが、使用される単位二酸化炭素当たりで生成される淡水が最も低い量となる運転は最も少ないエネルギー量を使用する。CO2が再使用される回数に応じて、異なるコストが生じる。CO2が全く再使用されない場合、システムに必要なエネルギーは、A線(図30)で示すように(再圧縮に対して生成されるのは0kWhr/kgal)、気体CO2の再圧縮を全く含まない。この運転アプローチには、再圧縮またはポンピングのためのエネルギーは不要だが、使用される二酸化炭素のキログラム当たり、ほんの2.8キログラムの水しか生成されない。(これは、CO2が実質的に無コストとなるほど安価な場合、または、例えば、CO2の隔離および処分が脱塩水を生成することよりも重要な状況においては、許容できるかもしれない。)
【0133】
ハイドレート解離時に発生する自由気体の一部が(処理対象水中のCO2飽和レベルを上げるときに液体二酸化炭素を補充するべく)再圧縮されて再使用される場合、必要なエネルギーが極めて低いままとなる一方で、淡水生成比(使用された単位CO2当たりの生成された淡水)が増加する。この運転アプローチは図30のB線で示される。他方、ハイドレートから発生する二酸化炭素のすべてが(気体CO2の圧力において)再圧縮されてさらなるハイドレート形成のためにシステムに戻される場合、水生成は再び上昇する。この運転アプローチは図30のC線で示される。これはエネルギーコストをさらにわずかに増加させ、全体的な水生成比を一層増加させる。図30のD線は、使用された単位二酸化炭素当たりで生成され得る水の最大量を示すが、CO2を再圧縮するのに使用されるエネルギーコストが考慮されていない。
【0134】
他の運転は、二酸化炭素の処分に関連する。生成された淡水が表面にもたらされると、そこから発生する二酸化炭素は捕集かつ再圧縮されるかまたは雰囲気中に放出される必要がある。残留かん水(これは上述のように深いところまで沈む)により二酸化炭素を処分することで得た炭素ガス放出クレジットと連動して膨張気体からエネルギーを捕集することは、極めて経済的な淡水の減圧時に発生する二酸化炭素ガスの捕集、再使用、および処分をなす。
【0135】
CO2のコストは、CO2がプロセスで使用される唯一の消耗品ゆえに、生成水のコスト中の主な因子である。LCO2は、特に大量に購入する場合、最も安価な工業気体の一つである。さらに、二酸化炭素が、雰囲気中に自由に排出された場合のその地球規模の気候変動に対する負の影響に鑑み、発電からの主な不要廃棄生成物とみなされるようになったので、LCO2のコストはさらに一層低減され得る。したがって、政治上の重要課題が示すように、相当量のLCO2が、環境的に許容可能な方法で(例えば、大気中の温室効果に寄与することのない海洋の深くで)処分される安価な消耗品として間もなく入手可能となるかもしれない。さらに、CO2の処分を貨幣化するシステムがすでに存在する。したがって、CO2に基づく海洋脱塩プロセスがCO2の処分に使用される場合、このプロセスで使用される唯一の消耗品に対して究極的にはコストが全くかからない。本発明の実施中に減圧された二酸化炭素の一部は、液体二酸化炭素、エネルギー、および炭素ガス放出クレジットの市場価値機能を持つ。これは長期にわたり変化し、場合によっては場所ごとに変化する。
【0136】
主要目的がCO2の処分であれば、使用されたCO2の量に対する生成水の比も変化する。最良の水生成に対しては、エンクロージャ内の残留高塩分水は通常の海水塩分の約2倍に達するまでは排出されない。逆に、より多くのCO2を処分することが必要な場合には、残留水をより頻繁に、ただし水塊が生みの深くまで沈むことが確実となるような通常の海水に比べて十分に増加した塩分で、排出すればよい。
【0137】
最後に、処理対象水が人工的加圧装置(すなわち、水塊中に沈めることによって加圧を達成するわけではない装置)内で処理される場合は、ハイドレート成長のための条件がこの容器内に維持されるので、(圧力容器自体の他に)別個のエンクロージャは必要ない。
【0138】
上述の開示は、本発明の方法および装置の説明のみを意図したものである。当業者にとっては、開示の実施例から離れることおよび開示の実施例に対する変更が生じ得る。本発明の範囲は以下の請求項に記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドレート形成物質(HFM)を使用して処理対象水を脱塩または精製する方法であって、
1つ以上のHART抑制パネルであって各抑制パネルの一主要面から各抑制パネルの対向主要面まで延びる複数の細孔を有するHART抑制パネルと内部チャンバとを各々が備える1つ以上のHARTモジュールを含むエンクロージャ内に処理対象水を導入することと、
前記エンクロージャ内に存在する圧力条件下で前記HFMのハイドレートが形成する温度よりわずかに上の温度まで、ほぼ前記エンクロージャ内にある前記処理対象水を冷却する第1冷却プロセスであって、前記第1冷却プロセスは前記エンクロージャ内の前記処理対象水中にHFMを導入することによって有効となる第1冷却プロセスと、
前記エンクロージャ内に存在する圧力条件下で前記HFMのハイドレートが形成することにより前記HART抑制パネルの前記細孔内に前記HFMのハイドレートが形成する温度まで、前記HART抑制パネルにほぼ隣接する処理対象水を冷却する第2冷却プロセスであって、前記第2冷却プロセスは、前記HART抑制パネルを冷蔵して、前記HART抑制パネルの前記細孔を充填して実質的にシールするのに十分なハイドレートを形成することによって有効となる第2冷却プロセスと、
前記HART抑制パネルの前記細孔内の前記ハイドレートの下流部分を解離させることによって、精製された水およびHFMを前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出することと、
前記エンクロージャから前記精製された水を除去することと
を含む方法。
【請求項2】
前記エンクロージャは水塊内の所定深度に配置され、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、前記エンクロージャの上にある水の重量によって作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
HFMの自己加圧表面レベル供給部からエンクロージャまでHFMを流すことによって、HFMが液体状態で前記エンクロージャに送られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件はポンピングによって作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、前記処理対象水内に導入されるときの液状HFMの気化によって作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、ポンピングと、前記処理対象水内に導入されるときの液状HFMの気化とによって作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記HFMは液体状態で前記処理対象水中に導入され、前記第1冷却プロセスは、前記HFMが気化して前記処理対象水中で膨張するときに生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中のHFMの飽和レベルを確立および維持するのに十分な量のHFMが前記処理対象水中に導入される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記HFMは気体状態で前記処理対象水中に導入され、前記第1冷却プロセスは、前記HFMが前記処理対象水中で膨張するときに生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中のHFMの飽和レベルを確立および維持するのに十分な量のHFMが前記処理対象水中に導入される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記HART抑制パネルは、前記HART抑制パネル内の冷却ギャラリー内を内部循環する、冷却された液体冷媒によって冷蔵される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記HART抑制パネルは、前記HART抑制パネル内の冷却ギャラリーの内部を通過するHFMによって冷蔵される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
HFMが液体状態で前記冷却ギャラリー内に導入されて前記HART抑制パネルの内部で気化する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記冷却ギャラリーの各々の中にあるHFMが、前記冷却ギャラリーの液体HFM供給側から前記冷却ギャラリーの気体側までの冷媒分配部材にわたって気化する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記HART抑制パネルの内部を通過したHFMを回収することと、
前記回収されたHFMを前記処理対象水中に導入することと
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出されたHFMを回収することと、
前記回収されたHFMをさらなる脱塩または精製のサイクルにおいて再利用することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記エンクロージャから除去された前記精製された水を補償するべく、および/または、前記エンクロージャから排出された高塩分残留かん水を補償するべく、前記エンクロージャ内に付加的な処理対象水を導入することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記付加的な処理対象水は、ほぼ連続的に前記エンクロージャ内に導入される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記付加的な処理対象水は、間を置いて連続的に前記エンクロージャ内に導入される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記付加的な処理対象水は、常に前記エンクロージャ内に導入される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記エンクロージャ内の残留塩分が所定の高塩分レベルに達するまで前記さらなる脱塩または精製のサイクルを行った後に、前記高塩分水を前記エンクロージャから排出して新たな処理対象水で置換することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記精製された水からHFMを回収し、さらなる脱塩/精製のサイクルにおいて前記回収されたHFMを再使用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出された前記HFMを気体状態で回収して、前記気体状の回収されたHFMを前記エンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記HART抑制パネルはHFMにより冷蔵され、HFMは前記HART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収され、前記方法は、前記気体状の回収されたHFMをエンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記HART抑制パネルはHFMにより冷蔵され、HFMは前記HART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収され(第1回収ソース)、前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出されたHFMは気体状態で回収され(第2回収ソース)、前記方法は、前記双方の回収ソースからの前記気体状の回収されたHFMを前記エンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
ハイドレート形成物質(HFM)を使用して処理対象水を脱塩または精製する方法であって、
1つ以上のHART抑制パネルであって各抑制パネルの一主要面から各抑制パネルの対向主要面まで延びる複数の細孔を有するHART抑制パネルと内部チャンバとを各々が備える1つ以上のHARTモジュールを含むエンクロージャ内に処理対象水を導入することと、
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中にHFMを導入することと、
前記エンクロージャ内に存在する圧力条件下で前記HFMのハイドレートが形成することにより前記HART抑制パネルの前記細孔内に前記HFMのハイドレートが形成する温度まで、前記HART抑制パネルにほぼ隣接する処理対象水を冷却して、前記HART抑制パネルの前記細孔を充填して実質的にシールするのに十分なハイドレートを形成することと、
前記HART抑制パネルの前記細孔内の前記ハイドレートの下流部分を解離させることによって、精製された水およびHFMを前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出することと、
前記エンクロージャから前記精製された水を除去することと
を含み、
前記冷却することは、前記HART抑制パネルの内部にわたって延びる冷却ギャラリーにHFMを通して前記HART抑制パネルを冷蔵することによって有効になる方法。
【請求項27】
前記エンクロージャは水塊内の所定深度に配置され、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、前記エンクロージャの上にある水の重量によって作られる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
HFMの自己加圧表面レベル供給部からエンクロージャまでHFMを流すことによって、HFMが液体状態で前記エンクロージャに送られる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件はポンピングによって作られる、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、前記処理対象水内に導入されるときの液状HFMの気化によって作られる、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、ポンピングと、前記処理対象水内に導入されるときの液状HFMの気化とによって作られる、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記HFMは液体状態で前記処理対象水中に導入され、ほぼ前記エンクロージャ内の処理対象水の冷却は、前記HFMが前記処理対象水中で気化するときに生じる、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中のHFMの飽和レベルを確立および維持するのに十分な量のHFMが前記処理対象水中に導入される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記HFMは気体状態で前記処理対象水中に導入され、ほぼ前記エンクロージャ内の処理対象水の冷却は、前記HFMが前記処理対象水中で膨張するときに生じる、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中のHFMの飽和レベルを確立および維持するのに十分な量のHFMが前記処理対象水中に導入される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
HFMが液体状態で前記冷却ギャラリー内に導入されて前記HART抑制パネルの内部で気化する、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
前記冷却ギャラリーの各々の中にあるHFMが、前記冷却ギャラリーの液体HFM供給側から前記冷却ギャラリーの気体側までの冷媒分配部材にわたって気化する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記HART抑制パネルの内部を通過したHFMを回収することと、
前記回収されたHFMを前記処理対象水中に導入することと
をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出されたHFMを回収することと、
前記回収されたHFMをさらなる脱塩または精製のサイクルにおいて再利用することと
をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項40】
前記エンクロージャから除去された前記精製された水を補償するべく、および/または、前記エンクロージャから排出された高塩分残留かん水を補償するべく、前記エンクロージャ内に付加的な処理対象水を導入することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記付加的な処理対象水は、ほぼ連続的に前記エンクロージャ内に導入される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記付加的な処理対象水は、間を置いて連続的に前記エンクロージャ内に導入される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記付加的な処理対象水は、常に前記エンクロージャ内に導入される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記エンクロージャ内の残留塩分が所定の高塩分レベルに達するまで前記さらなる脱塩または精製のサイクルを行った後に、前記高塩分水を前記エンクロージャから排出して新たな処理対象水で置換することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記精製された水からHFMを回収し、さらなる脱塩/精製のサイクルにおいて前記回収されたHFMを再使用することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項46】
前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出された前記HFMを気体状態で回収して、前記気体状の回収されたHFMを前記エンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項47】
HFMは前記HART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収され、前記方法は、前記気体状の回収されたHFMをエンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項48】
HFMは前記HART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収され(第1回収ソース)、前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出されたHFMは気体状態で回収され(第2回収ソース)、前記方法は、前記双方の回収ソースからの前記気体状の回収されたHFMを前記エンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項49】
処理対象水を脱塩または精製する装置であって、
1つ以上のHART抑制パネルであって各抑制パネルの一主要面から各抑制パネルの対向主要面まで延びる複数の細孔を有するHART抑制パネルと、中に形成される内部チャンバとを各々が備える1つ以上のHARTモジュールが中に配置されたエンクロージャと、
前記エンクロージャにハイドレート形成物質を供給するべく設けられた第1コンジットと、
前記HARTモジュールの内部チャンバから精製された水を除去するべく設けられた第2コンジットと
を含み、
前記HART抑制パネルは、前記複数の細孔の間において前記HART抑制パネルの内部にわたって延びる一連の冷却ギャラリーを有する装置。
【請求項50】
前記エンクロージャは水中に沈めることができ、外界の半水性環境と等圧連通して配置される、請求項49に記載の装置。
【請求項51】
前記エンクロージャは圧力容器である、請求項49に記載の装置。
【請求項52】
前記HART抑制パネルの前記細孔には非単調のテーパが付けられる、請求項49に記載の装置。
【請求項53】
前記HART抑制パネルの前記細孔は双円錐構造を有する、請求項52に記載の装置。
【請求項54】
前記HART抑制パネルは、上部抑制パネルセクションおよび下部抑制パネルセクションを含む複合抑制パネルである、請求項49に記載の装置。
【請求項55】
各HART抑制パネルは、前記上部抑制パネルセクションと前記下部抑制パネルセクションとの間に配置された冷媒分配部材を含む、請求項54に記載の装置。
【請求項56】
前記冷媒分配部材は、前記HART抑制パネルの前記冷却ギャラリー内に配置されて前記冷却ギャラリーを2つのサブギャラリーに分割する微細孔領域を含む、請求項55に記載の装置。
【請求項57】
前記冷媒分配部材は、前記HART抑制パネルの前記冷却ギャラリー内に配置されて前記冷却ギャラリーを2つのサブギャラリーに分割する、約30ミクロンから約80ミクロンのオーダーの複数のドリル穴を備える領域を含む、請求項55に記載の装置。
【請求項58】
熱交換パネルを冷蔵する方法であって、
前記熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の第1サブギャラリーに液体冷媒を充填することと、
前記熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の第2サブギャラリー内へ、冷媒分配部材にわたる前記液体冷媒を気化させることと
を含む方法。
【請求項59】
熱交換パネルであって、
下部パネルセクションに連結された上部パネルセクションと、
前記上部パネルセクションと前記下部パネルセクションとの間に画定されて、前記熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の冷却ギャラリーと
を含む熱交換パネル。
【請求項60】
前記熱交換パネルは、前記熱交換パネルを通ってその一主要面からその対向主要面まで延びる複数の細孔を備えるHART抑制パネルである、請求項59に記載の熱交換パネル。
【請求項61】
前記熱交換パネルの前記細孔には非単調のテーパが付けられる、請求項60に記載の熱交換パネル。
【請求項62】
前記熱交換パネルの前記細孔は双円錐構造を有する、請求項61に記載の熱交換パネル。
【請求項63】
前記冷却ギャラリーを上部サブギャラリーと下部サブギャラリーとに分割する冷媒分配部材をさらに含む、請求項59に記載の熱交換パネル。
【請求項64】
前記冷媒分配部材は、前記冷却ギャラリー内に配置された微細孔領域を含んで前記冷却ギャラリーを前記上部サブギャラリーと前記下部サブギャラリーとに分割する、請求項63に記載の熱交換パネル。
【請求項65】
前記熱交換パネルは、前記パネルを通ってその一主要面からその対向主要面まで延びる複数の細孔を備えるHART抑制パネルである、請求項64に記載の熱交換パネル。
【請求項66】
前記細孔には非単調のテーパが付けられる、請求項65に記載の熱交換パネル。
【請求項67】
前記細孔は双円錐構造を有する、請求項66に記載の熱交換パネル。
【請求項68】
前記冷媒分配部材は、前記冷却ギャラリー内に配置されて前記冷却ギャラリーを前記上部サブギャラリーと前記下部サブギャラリーとに分割する、約30ミクロンから約80ミクロンのオーダーの複数のドリル穴を備える領域を含む、請求項64に記載の熱交換パネル。
【請求項69】
前記熱交換パネルは、前記パネルを通ってその一主要面からその対向主要面まで延びる複数の細孔を備えるHART抑制パネルである、請求項68に記載の熱交換パネル。
【請求項70】
前記細孔には非単調のテーパが付けられる、請求項69に記載の熱交換パネル。
【請求項71】
前記細孔は双円錐構造を有する、請求項70に記載の熱交換パネル。
【請求項72】
前記熱交換パネルは、前記パネルの主要面にわたって分布する複数の渦巻流誘発部材を含む、請求項59に記載の熱交換パネル。
【請求項73】
前記渦巻流誘発部材は突起を含む、請求項72に記載の熱交換パネル。
【請求項74】
前記渦巻流誘発部材はディンプルを含む、請求項72に記載の熱交換パネル。
【請求項1】
ハイドレート形成物質(HFM)を使用して処理対象水を脱塩または精製する方法であって、
1つ以上のHART抑制パネルであって各抑制パネルの一主要面から各抑制パネルの対向主要面まで延びる複数の細孔を有するHART抑制パネルと内部チャンバとを各々が備える1つ以上のHARTモジュールを含むエンクロージャ内に処理対象水を導入することと、
前記エンクロージャ内に存在する圧力条件下で前記HFMのハイドレートが形成する温度よりわずかに上の温度まで、ほぼ前記エンクロージャ内にある前記処理対象水を冷却する第1冷却プロセスであって、前記第1冷却プロセスは前記エンクロージャ内の前記処理対象水中にHFMを導入することによって有効となる第1冷却プロセスと、
前記エンクロージャ内に存在する圧力条件下で前記HFMのハイドレートが形成することにより前記HART抑制パネルの前記細孔内に前記HFMのハイドレートが形成する温度まで、前記HART抑制パネルにほぼ隣接する処理対象水を冷却する第2冷却プロセスであって、前記第2冷却プロセスは、前記HART抑制パネルを冷蔵して、前記HART抑制パネルの前記細孔を充填して実質的にシールするのに十分なハイドレートを形成することによって有効となる第2冷却プロセスと、
前記HART抑制パネルの前記細孔内の前記ハイドレートの下流部分を解離させることによって、精製された水およびHFMを前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出することと、
前記エンクロージャから前記精製された水を除去することと
を含む方法。
【請求項2】
前記エンクロージャは水塊内の所定深度に配置され、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、前記エンクロージャの上にある水の重量によって作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
HFMの自己加圧表面レベル供給部からエンクロージャまでHFMを流すことによって、HFMが液体状態で前記エンクロージャに送られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件はポンピングによって作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、前記処理対象水内に導入されるときの液状HFMの気化によって作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、ポンピングと、前記処理対象水内に導入されるときの液状HFMの気化とによって作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記HFMは液体状態で前記処理対象水中に導入され、前記第1冷却プロセスは、前記HFMが気化して前記処理対象水中で膨張するときに生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中のHFMの飽和レベルを確立および維持するのに十分な量のHFMが前記処理対象水中に導入される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記HFMは気体状態で前記処理対象水中に導入され、前記第1冷却プロセスは、前記HFMが前記処理対象水中で膨張するときに生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中のHFMの飽和レベルを確立および維持するのに十分な量のHFMが前記処理対象水中に導入される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記HART抑制パネルは、前記HART抑制パネル内の冷却ギャラリー内を内部循環する、冷却された液体冷媒によって冷蔵される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記HART抑制パネルは、前記HART抑制パネル内の冷却ギャラリーの内部を通過するHFMによって冷蔵される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
HFMが液体状態で前記冷却ギャラリー内に導入されて前記HART抑制パネルの内部で気化する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記冷却ギャラリーの各々の中にあるHFMが、前記冷却ギャラリーの液体HFM供給側から前記冷却ギャラリーの気体側までの冷媒分配部材にわたって気化する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記HART抑制パネルの内部を通過したHFMを回収することと、
前記回収されたHFMを前記処理対象水中に導入することと
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出されたHFMを回収することと、
前記回収されたHFMをさらなる脱塩または精製のサイクルにおいて再利用することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記エンクロージャから除去された前記精製された水を補償するべく、および/または、前記エンクロージャから排出された高塩分残留かん水を補償するべく、前記エンクロージャ内に付加的な処理対象水を導入することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記付加的な処理対象水は、ほぼ連続的に前記エンクロージャ内に導入される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記付加的な処理対象水は、間を置いて連続的に前記エンクロージャ内に導入される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記付加的な処理対象水は、常に前記エンクロージャ内に導入される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記エンクロージャ内の残留塩分が所定の高塩分レベルに達するまで前記さらなる脱塩または精製のサイクルを行った後に、前記高塩分水を前記エンクロージャから排出して新たな処理対象水で置換することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記精製された水からHFMを回収し、さらなる脱塩/精製のサイクルにおいて前記回収されたHFMを再使用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出された前記HFMを気体状態で回収して、前記気体状の回収されたHFMを前記エンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記HART抑制パネルはHFMにより冷蔵され、HFMは前記HART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収され、前記方法は、前記気体状の回収されたHFMをエンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記HART抑制パネルはHFMにより冷蔵され、HFMは前記HART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収され(第1回収ソース)、前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出されたHFMは気体状態で回収され(第2回収ソース)、前記方法は、前記双方の回収ソースからの前記気体状の回収されたHFMを前記エンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
ハイドレート形成物質(HFM)を使用して処理対象水を脱塩または精製する方法であって、
1つ以上のHART抑制パネルであって各抑制パネルの一主要面から各抑制パネルの対向主要面まで延びる複数の細孔を有するHART抑制パネルと内部チャンバとを各々が備える1つ以上のHARTモジュールを含むエンクロージャ内に処理対象水を導入することと、
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中にHFMを導入することと、
前記エンクロージャ内に存在する圧力条件下で前記HFMのハイドレートが形成することにより前記HART抑制パネルの前記細孔内に前記HFMのハイドレートが形成する温度まで、前記HART抑制パネルにほぼ隣接する処理対象水を冷却して、前記HART抑制パネルの前記細孔を充填して実質的にシールするのに十分なハイドレートを形成することと、
前記HART抑制パネルの前記細孔内の前記ハイドレートの下流部分を解離させることによって、精製された水およびHFMを前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出することと、
前記エンクロージャから前記精製された水を除去することと
を含み、
前記冷却することは、前記HART抑制パネルの内部にわたって延びる冷却ギャラリーにHFMを通して前記HART抑制パネルを冷蔵することによって有効になる方法。
【請求項27】
前記エンクロージャは水塊内の所定深度に配置され、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、前記エンクロージャの上にある水の重量によって作られる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
HFMの自己加圧表面レベル供給部からエンクロージャまでHFMを流すことによって、HFMが液体状態で前記エンクロージャに送られる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件はポンピングによって作られる、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、前記処理対象水内に導入されるときの液状HFMの気化によって作られる、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記エンクロージャは圧力容器を含み、前記エンクロージャ内の前記圧力条件は、ポンピングと、前記処理対象水内に導入されるときの液状HFMの気化とによって作られる、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記HFMは液体状態で前記処理対象水中に導入され、ほぼ前記エンクロージャ内の処理対象水の冷却は、前記HFMが前記処理対象水中で気化するときに生じる、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中のHFMの飽和レベルを確立および維持するのに十分な量のHFMが前記処理対象水中に導入される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記HFMは気体状態で前記処理対象水中に導入され、ほぼ前記エンクロージャ内の処理対象水の冷却は、前記HFMが前記処理対象水中で膨張するときに生じる、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記エンクロージャ内の前記処理対象水中のHFMの飽和レベルを確立および維持するのに十分な量のHFMが前記処理対象水中に導入される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
HFMが液体状態で前記冷却ギャラリー内に導入されて前記HART抑制パネルの内部で気化する、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
前記冷却ギャラリーの各々の中にあるHFMが、前記冷却ギャラリーの液体HFM供給側から前記冷却ギャラリーの気体側までの冷媒分配部材にわたって気化する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記HART抑制パネルの内部を通過したHFMを回収することと、
前記回収されたHFMを前記処理対象水中に導入することと
をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出されたHFMを回収することと、
前記回収されたHFMをさらなる脱塩または精製のサイクルにおいて再利用することと
をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項40】
前記エンクロージャから除去された前記精製された水を補償するべく、および/または、前記エンクロージャから排出された高塩分残留かん水を補償するべく、前記エンクロージャ内に付加的な処理対象水を導入することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記付加的な処理対象水は、ほぼ連続的に前記エンクロージャ内に導入される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記付加的な処理対象水は、間を置いて連続的に前記エンクロージャ内に導入される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記付加的な処理対象水は、常に前記エンクロージャ内に導入される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記エンクロージャ内の残留塩分が所定の高塩分レベルに達するまで前記さらなる脱塩または精製のサイクルを行った後に、前記高塩分水を前記エンクロージャから排出して新たな処理対象水で置換することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記精製された水からHFMを回収し、さらなる脱塩/精製のサイクルにおいて前記回収されたHFMを再使用することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項46】
前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出された前記HFMを気体状態で回収して、前記気体状の回収されたHFMを前記エンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項47】
HFMは前記HART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収され、前記方法は、前記気体状の回収されたHFMをエンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項48】
HFMは前記HART抑制パネルを冷蔵するのに使用された後に気体状態で回収され(第1回収ソース)、前記HARTモジュールの前記内部チャンバ内に放出されたHFMは気体状態で回収され(第2回収ソース)、前記方法は、前記双方の回収ソースからの前記気体状の回収されたHFMを前記エンクロージャ内の処理対象水と混合することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項49】
処理対象水を脱塩または精製する装置であって、
1つ以上のHART抑制パネルであって各抑制パネルの一主要面から各抑制パネルの対向主要面まで延びる複数の細孔を有するHART抑制パネルと、中に形成される内部チャンバとを各々が備える1つ以上のHARTモジュールが中に配置されたエンクロージャと、
前記エンクロージャにハイドレート形成物質を供給するべく設けられた第1コンジットと、
前記HARTモジュールの内部チャンバから精製された水を除去するべく設けられた第2コンジットと
を含み、
前記HART抑制パネルは、前記複数の細孔の間において前記HART抑制パネルの内部にわたって延びる一連の冷却ギャラリーを有する装置。
【請求項50】
前記エンクロージャは水中に沈めることができ、外界の半水性環境と等圧連通して配置される、請求項49に記載の装置。
【請求項51】
前記エンクロージャは圧力容器である、請求項49に記載の装置。
【請求項52】
前記HART抑制パネルの前記細孔には非単調のテーパが付けられる、請求項49に記載の装置。
【請求項53】
前記HART抑制パネルの前記細孔は双円錐構造を有する、請求項52に記載の装置。
【請求項54】
前記HART抑制パネルは、上部抑制パネルセクションおよび下部抑制パネルセクションを含む複合抑制パネルである、請求項49に記載の装置。
【請求項55】
各HART抑制パネルは、前記上部抑制パネルセクションと前記下部抑制パネルセクションとの間に配置された冷媒分配部材を含む、請求項54に記載の装置。
【請求項56】
前記冷媒分配部材は、前記HART抑制パネルの前記冷却ギャラリー内に配置されて前記冷却ギャラリーを2つのサブギャラリーに分割する微細孔領域を含む、請求項55に記載の装置。
【請求項57】
前記冷媒分配部材は、前記HART抑制パネルの前記冷却ギャラリー内に配置されて前記冷却ギャラリーを2つのサブギャラリーに分割する、約30ミクロンから約80ミクロンのオーダーの複数のドリル穴を備える領域を含む、請求項55に記載の装置。
【請求項58】
熱交換パネルを冷蔵する方法であって、
前記熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の第1サブギャラリーに液体冷媒を充填することと、
前記熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の第2サブギャラリー内へ、冷媒分配部材にわたる前記液体冷媒を気化させることと
を含む方法。
【請求項59】
熱交換パネルであって、
下部パネルセクションに連結された上部パネルセクションと、
前記上部パネルセクションと前記下部パネルセクションとの間に画定されて、前記熱交換パネルの内部にわたって延びる一連の冷却ギャラリーと
を含む熱交換パネル。
【請求項60】
前記熱交換パネルは、前記熱交換パネルを通ってその一主要面からその対向主要面まで延びる複数の細孔を備えるHART抑制パネルである、請求項59に記載の熱交換パネル。
【請求項61】
前記熱交換パネルの前記細孔には非単調のテーパが付けられる、請求項60に記載の熱交換パネル。
【請求項62】
前記熱交換パネルの前記細孔は双円錐構造を有する、請求項61に記載の熱交換パネル。
【請求項63】
前記冷却ギャラリーを上部サブギャラリーと下部サブギャラリーとに分割する冷媒分配部材をさらに含む、請求項59に記載の熱交換パネル。
【請求項64】
前記冷媒分配部材は、前記冷却ギャラリー内に配置された微細孔領域を含んで前記冷却ギャラリーを前記上部サブギャラリーと前記下部サブギャラリーとに分割する、請求項63に記載の熱交換パネル。
【請求項65】
前記熱交換パネルは、前記パネルを通ってその一主要面からその対向主要面まで延びる複数の細孔を備えるHART抑制パネルである、請求項64に記載の熱交換パネル。
【請求項66】
前記細孔には非単調のテーパが付けられる、請求項65に記載の熱交換パネル。
【請求項67】
前記細孔は双円錐構造を有する、請求項66に記載の熱交換パネル。
【請求項68】
前記冷媒分配部材は、前記冷却ギャラリー内に配置されて前記冷却ギャラリーを前記上部サブギャラリーと前記下部サブギャラリーとに分割する、約30ミクロンから約80ミクロンのオーダーの複数のドリル穴を備える領域を含む、請求項64に記載の熱交換パネル。
【請求項69】
前記熱交換パネルは、前記パネルを通ってその一主要面からその対向主要面まで延びる複数の細孔を備えるHART抑制パネルである、請求項68に記載の熱交換パネル。
【請求項70】
前記細孔には非単調のテーパが付けられる、請求項69に記載の熱交換パネル。
【請求項71】
前記細孔は双円錐構造を有する、請求項70に記載の熱交換パネル。
【請求項72】
前記熱交換パネルは、前記パネルの主要面にわたって分布する複数の渦巻流誘発部材を含む、請求項59に記載の熱交換パネル。
【請求項73】
前記渦巻流誘発部材は突起を含む、請求項72に記載の熱交換パネル。
【請求項74】
前記渦巻流誘発部材はディンプルを含む、請求項72に記載の熱交換パネル。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図15a】
【図15b】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21a】
【図21b】
【図22】
【図23a】
【図23b】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図15a】
【図15b】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21a】
【図21b】
【図22】
【図23a】
【図23b】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公表番号】特表2009−539582(P2009−539582A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514266(P2009−514266)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/011079
【国際公開番号】WO2007/145740
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508359435)マリーン デサリネーション システムズ エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/011079
【国際公開番号】WO2007/145740
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508359435)マリーン デサリネーション システムズ エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】
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