説明

化合物粉体、その製造方法および電気化学用途へのその使用

本発明は、式NiM1M2(O)(OH)(SOで示される化合物の粉体およびその製造方法ならびにリチウム二次電池の活物質の製造のための前駆体としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NiM1M2(O)(OH)(SOで示される化合物の粉体、その製造方法およびそれを前駆体とする電気化学的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
NiMH電池の活物質や前駆体として非常に広範囲にリチウム混合金属酸化物を使用するため、長い間、ドープされた又は被覆されたニッケル化合物の異なる多様性が研究され、合成されてきた。そのような化合物の例としては、Ni0.50Co0.20Mn0.30(OH)で示される化合物(例えば特許文献1参照)、又は、Al(OH)で被覆したNiCo(OH)(SO(例えば特許文献2参照)で示される共沈水酸化物である。
【0003】
ニッケル含有前駆体から合成されるリチウム混合金属酸化物は、すでに使用されているリチウムコバルト酸化物に加えて比較的長い間、リチウムイオン二次電池の正極活物質に使用されている。非常に高エネルギー密度を有するため、この種の二次電池は、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの移動型電子機器における電池市場を独占しつつある。
【0004】
ニッケル含有前駆体から合成されるリチウム混合金属酸化物などの化合物の例としては、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.32等がある。共沈または被覆ニッケル化合物は、個々の元素の均一分散が前駆体の初期段階で達成されるため、リチウム混合金属酸化物の前駆体として好適である。最終生成品の全ての金属元素の均一分散は、電池における製品性能において非常に重要である。
【0005】
貯蔵媒体(NiMHバッテリーやリチウムイオン二次電池)の高エネルギー化の要求のため、ワット時/リットル(Wh/l)で示される体積エネルギー密度とワット時/kg(Wh/kg)で示される重量エネルギー密度とが区別される。二次電池の体積エネルギー密度は、とりわけ、正極側と負極側の両方における電極密度(g/cm)に影響される。正極又は負極の電極密度が高いほど貯蔵媒体の体積エネルギー密度も高くなる。電極密度は、電極の製造方法と使用される正極の活物質の順に両方の影響を受ける。正極材料の密度(例えば、タップ密度や圧縮密度)が高密度になるほど、一定の電極製造条件下(例えば、電極製造または電極組成物の製造で)おいて最終的な電極密度が高くなる。この知見は既にいくつかの文献に反映されている。リチウム二次電池の正極材用リチウム混合金属酸化物の密度に対応する前駆体(例えば、共沈Ni(OH)又は被覆Ni(OH))の密度は、重要な働きを有する。
【0006】
電極製造においてある圧力を負荷させるので、粉末のタップ密度または圧縮密度は必要でなくてもよいが、この粉末を使用する電極の密度を導くものである。ある規定圧力負荷における粉末の圧縮密度は、この粉末を使用した電極密度について、より信憑性の高い結果を導く変数である。上述の圧縮密度の測定、すなわち電極製造の前提条件は、圧縮中に粒子を破壊しないことである。粒子の破壊は、先ず、電極製造の制御不能を意味し、更に、粒子の破壊は不均一性を導く。それ故、破壊された粒子の内部破砕面は、粒子の外部表面として電極のバインダーや導電性添加剤と良好な接触が出来ない。圧縮密度と正極粉末の圧縮強度を決定した文献もある(例えば特許文献3参照)。
【0007】
一般式Li(1−y)で示される基材はリチウム二次電池の正極活物質として挙げられる。ここで、0.2≦x≦1.2及び0≦y≦0.7を示し、Mは遷移金属であり、NはMと異なる遷移金属またはアルカリ土類金属である。特許文献3には、電極製造で負荷される圧力において粒子床に負荷する圧力が穏やかとなるために、粒径分布が規定された形状となる必要があること、及び電極密度がそれにより最適化されるという事実が記載されている。粒径分布に加えるに、粉末粒子は、出来るだけ小さな細孔を有するべきであり、細孔径は1μm以下であり、細孔容積は0.03cm/gを超えないようにと記載されている(水銀ポロシメータで測定)。しかしながら、そのような生成物パラメータを達成するための特別な製法技術についての記載は無い。
【0008】
圧縮密度の測定において、粉末は0.3t/cmの圧力が負荷されている。
【0009】
特許文献3の実施例において、主としてリチウムコバルト酸化物が記載されている。上述の負荷圧力0.3t/cmにより、圧縮密度2.58〜3.32g/cmの範囲を達成している。
【0010】
圧縮密度に加えて、その材料の圧力負荷後の粒径1μm未満の粒子の体積分率が0.1%を超えないということも記載されている。圧縮後に微粒子が顕著に増加することは、圧力負荷中に粒子が破壊されることを意味する。このような現象は、電極の均一性を危うくする。
【0011】
しかしながら負荷圧力0.3t/cmは電極製造中に実際に負荷される圧力とは対応しないと思われる。電極製造中、電極材料は、少なくとも1t/cmの圧力に耐える必要がある。特許文献4においては、実施例1の電極製造で2t/cmの圧力を負荷している。
【0012】
特許文献4では、リチウムに関して3種の金属元素を含み、リチウム二次電池用の活物質として使用できるリチウム混合金属酸化物(LNCO)の圧縮強度に関して記載されている。
【0013】
特許文献4で製造される物質の圧縮強度は0.001〜0.01Nである。特許文献4では、特許文献3の見解とは反対に、電極製造中に一次構成要素への粒子の崩壊は好ましいことが記載されている。特許文献4によれば、より小さい要素に崩壊した物質は、電極中に粒子が均一分散となるような流動性を有する。
【0014】
特許文献5には、リチウム混合金属酸化物の圧縮強度が議論されている。ここで挙げられている化合物は、LiNiCoMn2−aである。特許文献3には負荷圧力が0.3t/cmのみ記載されているが、特許文献5のリチウム混合金属酸化物においては50MPa以上の負荷圧力(=0.5t/cm以上)が記載されている。しかしながら、特許文献5に関連する化合物は、特許文献3におけるそれよりも狭い範囲の化合物である。特許文献5では、マンガンが必須構成成分である。特許文献5では、なぜその物質が特別な圧縮強度を有するかについて言及していない。規定された粒径範囲と規定された比表面積についてのみ記載されている。そのような特別な圧縮強度を有する物質の特殊な製法についてなんら記載がない。
【0015】
LNCO合成のためのニッケル含有前駆体の性質は、最終生成物の圧縮強度に影響を与えることは明白である。より高い耐圧性の前駆体がより高い耐圧性の最終生成物を与えると予測される。空隙率や粒子の外形状などの前駆体におけるパラメータは重要な役割を果たし、引き続いて最終生成物の圧縮強度にも影響する。
【0016】
しかしながら、特許文献5には、LNCO合成のためのニッケル含有前駆体の圧縮強度に関し言及されていない。
【0017】
すでに述べた様に、ドープ又は被覆された水酸化ニッケルの両方とも、LNCO合成のための前駆体としてだけではなく、NiMH電池の活物質にも使用されている。この分野では、確かな圧縮強度が必要である。
【0018】
特許文献6には、二次アルカリ電池の活物質として使用されるニッケル水酸化物の圧縮強度について記載されている。この文献の主たる目的は、改良された性能および改良された高温特性を有するニッケル水酸化物の合成である。この目的の範囲内で、粒子の内部構造および粒子の圧縮強度は、ニッケル水酸化物の性能および高温特性に影響する。特許文献6において、良好な性能を達成するために、粒子の半径方向の内部高次構造が必要である。この粒子の半径方向の内部構造は低い圧縮強度に関係する。それ故、この特許文献では、個々の粒子に対して島津製作所社製「MCTM−200」で測定した最大圧縮強度が40MPa以下であることがニッケル水酸化物のために好ましいと記載されている。
【0019】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0053663号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1637503号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0023113号明細書
【特許文献4】特開第2001−80920号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0220700号明細書
【特許文献6】特開第2002−304992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、更なる加工において二次粒子が破壊されず、粉末状にならない電気化学分野における前駆体としての含ニッケル化合物を提供することである。更なる加工においての二次粒子の維持は、それに引き続く製品の均一性にとって非常に重要である。同時に、最終生成品の高い電極密度および良好な電気化学特性は、そのような含ニッケル化合物により達成できる。本発明の更なる目的は、ニッケル含有前駆体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的は、NiM1M2(O)(OH)(SO(NMOS、ニッケル水酸化物、混合水酸化物と表記することもある)で示される化合物の粉体であって、M1はFe、Co、Cr、Mg、Cu及びこれらの組合せから選択される1種以上の元素を示し、M2はMn、Al、B、Ca、Sr、Ba、Si、Zn及びこれらの組合せから選択される1種以上の元素を示し、b、c、d、x、y、zはそれぞれ0.3≦b≦0.94、0.02≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.01≦x≦0.9、1.1≦y≦1.99、0.001≦z≦0.03であり、二次粒子の圧縮強度が50MPa以上であることを特徴とする粉体によって達成できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の化合物の粉体は、更なる加工において二次粒子が破壊されず、粉末状にならず、電気化学分野における前駆体としての含ニッケル化合物として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明のニッケル水酸化物を合成するための反応器の概略図である。
【図2】図2は、実施例1で合成した生成物の走査型電子顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【図3】図3は、実施例1で合成した生成物を50MPaの圧力を負荷した後の走査型電子顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【図4】図4は、実施例1と比較例1とで合成した生成物を使用して作成した電池の充電サイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の粉体NMOS化合物の二次粒子は、圧縮強度が好ましくは100MPa以上であり、更に好ましくは150MPa以上である。本発明の化合物の一部として、以下の表に示すものが挙げられる。
【0025】
【表1】

【0026】
二次粒子は、走査型電子顕微鏡写真で容易に観察できる一次粒子の集合体から成る小型でぎっしりつまったものである。粒子は、所望のいかなる形状を有していてもよい。粒子は好ましくは回転楕円体状(球状)の形状を有する。一次粒子は、結晶化プロセス中の核から形成される。
【0027】
本発明における二次粒子の圧縮強度は、上述の特許文献3(米国特許出願公開第2004/0023113号明細書)の第6ページの実施例1に記載されている方法で決定される。
【0028】
本発明のニッケル水酸化物粉体は、非常に低い空隙率によって区別される。本発明の粉体ニッケル水酸化物の空隙率は、0.05cm/g以下、好ましくは0.04cm/g以下、更に好ましくは0.03cm/g以下である。空隙率はASTM D 4222に従って決定される。
【0029】
本発明のニッケル水酸化物粉体は、回転楕円体状(球状)と規則正しい形状(非回転楕円体状粒子形状)を有することが出来る。
【0030】
本発明の好ましい粉体は、二次粒子の形状が回転楕円体状(球状)であることによって区別される。二次粒子の形状ファクターが0.8より大きく、好ましくは0.9より大きい。
【0031】
二次粒子の形状ファクターは、米国特許第5,476,530号明細書、第7及び8欄ならびに図5に記載される方法で決定される。この方法は、粒子の球形度である粒子の形状ファクターを決定する。形状ファクターは生成物の走査型電子顕微鏡写真からも決定できる。
【0032】
二次粒子の形状ファクターは、粒子の外周や粒子面積、ならびにそれらから算出される直径を評価することによっても決定できる。すなわち、直径は以下の式で算出される。
【0033】
【数1】

【0034】
粒子の形状ファクターfは、粒子の外周Uと粒子面積Aとから以下の式で導かれる。
【0035】
【数2】

【0036】
理想的な球状粒子の場合、dおよびdは等しい大きさとなり、形状ファクターは1ちょうどとなる。
【0037】
本発明のニッケル水酸化物粉体は、好ましくは、初期粉体と50MPaで圧縮した後の粉体とでASTM B 822に従って測定したD10値の差が、0.5μm以下である。D10値の変化は、粉体圧縮の結果において、圧縮後の本発明の粉体の圧縮強度の評価の指標として考えられる。
【0038】
圧縮後のD10値の減少は、粒子の一部が破壊されてより小さい粒径となることを意味する。それ故、D10値の変化は本発明の粉体の圧縮強度を決定するための定量的な数値となる。
【0039】
本発明のニッケル水酸化物粉体は、以下の式(1)で示されるように粒径分布の幅が規格化されている。
【0040】
【数3】

【0041】
Dは二次粒子の直径を示し、1.4未満であり、好ましくは1.2未満である。
【0042】
本発明のニッケル水酸化物粉体の圧縮密度は、2.4g/cm以上である。
【0043】
本発明のニッケル水酸化物粉体のASTM B 527に従って測定したタップ密度は、2.0g/cm以上、好ましくは2.3g/cm以上であることにより区別される。
【0044】
本発明は、更に金属水酸化物粉体の新規な製造方法に関し、当該方法は、(a)原料溶液を調製する工程と、(b)(a)で調製した原料溶液を計量して反応器に供給する工程と、(c)互いに正面から衝突しあうような撹拌によって形成される高乱流反応領域で原料溶液を反応させる工程と、(d)自然に反応器からあふれ出る生成物の懸濁液を放出する工程と、(e)生成物をろ過、洗浄および乾燥する工程とから成る。
【0045】
本発明の方法によれば、Al、Ti、Zr、Hf、Fe、Co、Ni、Zn、Cu、Ag等の金属の金属水酸化物を製造できる。使用する原料は、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸の上記金属またはそれらの組合せの水溶性塩の溶液である。原料溶液は、金属塩化物、金属溶媒和物または金属硝酸塩を水に溶解させることによって、又は、金属を対応する鉱酸に溶解させることによって調製する。水溶液として所望の濃度にするため、アルカリ溶液が供給される。
【0046】
本発明の製造方法は、本発明のニッケル水酸化物の製造に特に好適である。例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化物、弗化物などのハロゲン化ニッケル、又はこれらの混合物などの水溶性金属塩を前駆体として使用できる。
【0047】
本発明のニッケル水酸化物の製造方法は、図1に示すような反応器1の中で、ニッケル塩水溶液から、pH8〜14、好ましくは9〜13で、アルカリ金属水酸化物溶液、任意成分としてアンモニアをガス状または水溶液で供給し、結晶沈殿化させることにより、実施されるのが好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。結晶沈殿化はバッチ式でも半連続式でも効果があるが、連続式で行うことが好ましい。連続法では、金属塩溶液、アルカリ金属水酸化物溶液およびアンモニア溶液を反応器に同時に供給し、生成物の懸濁液が連続的に自然にあふれ出て放出されるか、又はポンプで放出する。
【0048】
原料溶液および生成物の計量と、反応器の高乱流反応ゾーンの維持の両方は本発明の製造方法において非常に重要な役割を果たす。原料溶液を完全に混合し、均一な懸濁液を達成するためには、反応器は種々の速度で回転可能な攪拌機2を備える。
【0049】
本発明の製造方法において使用される反応器は、3つのプロペラ4a、4b及び4cを有し、それぞれが共通の中心位置に配置されている撹拌シャフト3を有する。プロペラは複数枚の羽根を有することが可能であるが、3枚の羽根を有することが好ましい。生成物の性能は、反応器への原料溶液の導入位置、各プロペラ面の距離およびプロペラの羽根の迎え角に依存する。原料溶液の供給(以下、供給溶液)が2つのプロペラの間で形成される向流領域になされることにより、本発明の耐圧性で密なニッケル水酸化物が製造できる。供給溶液が中部に配置されるプロペラと上部に配置されるプロペラとの間に供給される場合、そして、プロペラの回転方向が上から見て数学的に正の向きの場合、更に上部に配置されるプロペラと下部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して30〜60°、好ましくは40〜60°、更に好ましくは45〜55°であり、中部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して120〜150°、好ましくは130〜150°、更に好ましくは135〜145°である場合、特に本発明の耐圧性で密なニッケル水酸化物が、連続作動反応器内で均一に製造できる。このような構成において、上部に配置されるプロペラと下部に配置されるプロペラが下方に流れを作り、中部に配置されるプロペラが上方に流れを作るように構成される。上記の2つの流れは互いに正面からぶつかりあい高乱流領域を形成するので、供給溶液の供給は、上部に配置されるプロペラと中部に配置されるプロペラとの間に供給される。供給溶液の完全混合を確実にし、反応器内の非常に均一な懸濁液を達成するために、反応器の充填高さ方向のある領域に3つのプロペラが垂直に配置される。以下、反応器の底部の上面からの下部、中部および上部のプロペラの高さをそれぞれa、b及びcとし、hを反応器の充填方向の高さとする。本発明の耐圧性で密なニッケル水酸化物は、下部のプロペラに関しては0.1≦a/h≦0.3、中部のプロペラに関しては0.4≦b/h≦0.6、上部のプロペラに関しては0.7≦c/h≦0.9の場合得られる。好ましくは0.2≦a/h≦0.3、0.4≦b/h≦0.5、0.7≦c/h≦0.8である。例えば、合成される固体粒子の密度、平均粒径などの具体的な目的に応じ、プロペラの角速度や直径を公知の技術に従って選択できる。それ故、3つの異なる平面に配置されるプロペラが異なる直径を有していてもよい。
【0050】
本発明の特に耐圧性のニッケル水酸化物は、上述の反応器を用いて好適に製造できる。
【0051】
本発明は、更に、中心に挿入され、異なる面に配置される3つのプロペラを有する撹拌シャフトを有し、1つのプロペラの作る流動方向が他の2つの作る流動方向と反対に成るように構成されている、沈殿反応を行うための反応器に関する。
【0052】
本発明の化合物粉体はリチウム二次電池用活物質の合成のための前駆体として特に好適である。
【実施例】
【0053】
本発明を以下の実施例および比較例を用いて更に詳述する。以下の実施例で合成されたニッケル水酸化物は、種々の物性についてそれぞれの実施例に記載の方法で測定された。それ以外は、以下の方法で測定した。
【0054】
D10、D50及びD90値は、ASTM B 822に従い、MALVERN社製Master−Sizer Sμを使用したレーザー散乱法により測定した。
【0055】
BET(比表面積)は、ASTM D 3663に従い測定した。
【0056】
タップ密度は、ASTM B 527に従い測定した。
【0057】
空隙率は、ASTM D 4222に従い測定した。
【0058】
本発明の沈殿生成物は、図1に示す反応器を使用して水溶液から結晶沈殿させることにより得た。原料溶液の完全混合および均一懸濁液の達成のため、反応器は種々のスピードで操作できる撹拌器2を有する。撹拌器には、3つのプロペラ4a、4b及び4cが共通のシャフト3に異なる面にて配置されており、プロペラ4a及び4cは下向きの流れを作り、プロペラ4bは上向きの流れを作る。
【0059】
一定温度を保つため、反応器は熱交換器5を備えている。反応器は、ポンプ6によって供給される金属硫酸塩溶液、ポンプ7によって供給されるアンモニア溶液およびポンプ8よって供給される水酸化ナトリウム溶液と、自然に反応器からあふれ出る(オーバーフロー)生成物の懸濁液9とを連続的に計量することによって、連続運転される。このオーバーフローは、反応器中の懸濁液の量を40Lに維持する。懸濁液の流出量とそれによる平均滞留時間、または滞留時間の6倍までの待機時間により実験(反応)が行われ、そして得られた懸濁液を次の2倍の滞留時間内に回収して更なる処理を行った。更なる処理は吸引ろ過により行い、1kgの生成物に対して水2Lで洗浄し、2Lの希水酸化ナトリウム水溶液(1g/L)で洗浄し、更に2Lの水で洗浄しした後、乾燥機内において(温風による)80℃で、重量が一定となるまで金属トレー上の生成物ろ過塊(ケーキ)を乾燥した。
【0060】
実施例1:
温度50℃、撹拌速度600rpmで反応器1を作動させた。硫酸金属塩溶液(Ni濃度:109.6g/L、Co濃度:2.84g/L、Zn濃度:7.58g/L)を2717g/hで、アンモニア溶液(アンモニア濃度:225g/L)を143g/hで、水酸化ナトリウム溶液(水酸化ナトリウム濃度:274.6g/L)を1621g/hでそれぞれ連続的に計量供給した。50時間経過後、反応器は定常状態に達し、流出した懸濁液を20時間回収し、上記の方法で後処理を行った。式Ni0.9192Co0.0238Zn0.05700.0101(OH)1.9839(SO0.0031で示され、残留水分0.20%の乾燥生成物8.01kgが得られた。表2に生成物の物性を示す。充電式ニッケル金属水素化試験電池におけるニッケル水酸化物の電気化学的挙動を図4に示す。1電子工程(Ni(II)→Ni(III))の相対充電容量(%OES)を、サイクル数に対してプロットされている。図2は生成物の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0061】
実施例1で得られた生成物5gに、トグリング・プレス(toggling press)内で50MPaの圧力を負荷した。生成物の性質について表2に示す。図3は圧縮後の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0062】
図3より、回転楕円体状(球状)の二次粒子の形状が圧縮後も実質的に維持され、回転楕円体状(球状)の小片に破壊されていないことがわかる。この化合物の生成物床は50MPaの圧力に、粒子が破壊されることなく耐えられる。
【0063】
比較例1:
本発明の反応器1の代わりに通常の反応器を使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。生成物の乾燥後、式Ni0.9191Co0.0238Zn0.05710.0203(OH)1.9712(SO0.0044で示され、残留水分0.22%の乾燥生成物8.014kgが得られた。表1に生成物の物性を示す。NiMeH試験電池における1電子工程の電気化学的性能をダイアグラム1(図4)に示す。
【0064】
従来の生成物と比較して、本発明の生成物は第2サイクルで最大となった後の充電容量の減少が小さいことが明白である。更に、本発明の生成物は充電容量がいくぶん高い。以上の実験結果は、このような試験電池において測定された傾向が充放電サイクルを数100回繰返す電池の使用において続くことを示している。更に、高いタップ密度と高い圧縮密度により、本発明の粉体はより高い体積容量を有する。これは、本発明の粉体が、従来のものと比較して図4に示すように性能が優れていることを意味する。生成物の物性を表2に示す。
【0065】
比較例1で得られた生成物5gを、トグリング・プレス内で50MPaの圧力を負荷した。生成物の性質について表2に示す。生成物は高い圧縮密度を有し、凝集粒子の粒径分布はわずかに変化した。
【0066】
実施例2:
温度45℃、撹拌速度900rpmで反応器1を作動させた。硫酸金属塩溶液(Ni濃度:40.81g/L、Co濃度:40.98g/L、Mn濃度:38.20g/L)を1490g/hで、アンモニア溶液(アンモニア濃度:225g/L)を95g/hで、水酸化ナトリウム溶液(水酸化ナトリウム濃度:232.7g/L)を1010g/hでそれぞれ連続的に計量供給した。90時間経過後、反応器は定常状態に達し、流出した懸濁液を36時間回収し、上記の方法で後処理を行った。式Ni0.3333Co0.3334Mn0.33330.2101(OH)1.7744(SO0.0078で示され、残留水分0.25%の乾燥生成物8.005kgが得られた。表2に生成物の物性を示す。
【0067】
実施例2で得られた生成物5gに、トグリング・プレス内で50MPaの圧力を負荷した。生成物の性質について表2に示す。
【0068】
比較例2:
通常の撹拌反応器を使用した以外は、実施例2と同様の操作により、Ni、Co及びMnの金属の混合ヒドロキシオキシサルフェート(hydroxyoxysulphate)を製造した。式Ni0.3334Co0.3333Mn0.33330.3011(OH)1.6811(SO0.0095で示され、残留水分0.26%の乾燥生成物7.995kgが得られた。表2に生成物の物性を示す。
【0069】
比較例2で得られた生成物5gに、トグリング・プレス内で50MPaの圧力を負荷した。生成物の性質について表2に示す。
【0070】
得られた生成物は、本発明のニッケル水酸化物で達成した高圧縮密度を達成できなかった。これは、実施例2で製造した本発明の生成物のタップ密度よりも実質的に小さいタップ密度を有するためである。
【0071】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiM1M2(O)(OH)(SOで示される化合物の粉体であって、M1はFe、Co、Cr、Mg、Cu及びこれらの組合せから選択される1種以上の元素を示し、M2はMn、Al、B、Ca、Sr、Ba、Si、Zn及びこれらの組合せから選択される1種以上の元素を示し、b、c、d、x、y、zはそれぞれ0.3≦b≦0.94、0.02≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.01≦x≦0.9、1.1≦y≦1.99、0.001≦z≦0.03であり、二次粒子の圧縮強度が50MPa以上であることを特徴とする粉体。
【請求項2】
圧縮強度が100MPa以上である請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
圧縮強度が150MPa以上である請求項1に記載の粉体。
【請求項4】
ASTM D 4222に従って測定した空隙率が0.05cm/g以下である請求項1〜3の何れかに記載の粉体。
【請求項5】
ASTM D 4222に従って測定した空隙率が0.03cm/g以下である請求項1〜3の何れかに記載の粉体。
【請求項6】
二次粒子が球状である請求項1〜5の何れかに記載の粉体。
【請求項7】
二次粒子の形状ファクターが0.8より大きい請求項6に記載の粉体。
【請求項8】
初期粉体と50MPaで圧縮した後の粉体とでASTM B 822に従って測定したD10値の差が、0.5μm以下である請求項1〜7の何れかに記載の粉体。
【請求項9】
初期粉体と50MPaで圧縮した後の粉体とでASTM B 822に従って測定したD90値の差が、1μm以下である請求項1〜7の何れかに記載の粉体。
【請求項10】
二次粒子の直径をDで示した場合の式(1):(D90−D10)/D50で示される粒径分布の規格化幅が1.4未満である請求項1〜9の何れかに記載の粉体。
【請求項11】
50MPaで圧縮した際の圧縮密度が2.4g/cm以上である請求項1〜10の何れかに記載の粉体。
【請求項12】
ASTM B 527に従って測定したタップ密度が2.0g/cm以上である請求項1〜11の何れかに記載の粉体。
【請求項13】
ASTM B 527に従って測定したタップ密度が2.3g/cm以上である請求項1〜12の何れかに記載の粉体。
【請求項14】
(a)原料溶液を調製する工程と、(b)(a)で調製した原料溶液を計量して反応器に供給する工程と、(c)互いに正面から衝突しあうような撹拌によって形成される高乱流反応領域で原料溶液を反応させる工程と、(d)自然に反応器からあふれ出る生成物の懸濁液を放出する工程と、(e)生成物をろ過、洗浄および乾燥する工程とから成る金属水酸化物の製造方法。
【請求項15】
反応器の中心に挿入され、異なる面に配置される3つのプロペラを有する撹拌シャフトを反応器が有する請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
プロペラが3つの羽根を有する請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
上部に配置されるプロペラと下部に配置されるプロペラが下方に流れを作り、中部に配置されるプロペラが上方に流れを作るように構成されている請求項14〜16の何れかに記載の製造方法。
【請求項18】
上部に配置されるプロペラと下部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して30〜60°であり、中部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して120〜150°である請求項14〜17の何れかに記載の製造方法。
【請求項19】
上部に配置されるプロペラと下部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して45〜55°であり、中部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して135〜145°である請求項14〜17の何れかに記載の製造方法。
【請求項20】
反応器の充填高さ方向に関連して垂直にプロペラが配置されており、hを反応器の充填方向の高さとし、反応器の底部の上面からの下部、中部および上部のプロペラの高さをそれぞれa、b及びcとした場合、0.1≦a/h≦0.3、0.4≦b/h≦0.6、0.7≦c/h≦0.9を満足する請求項14〜19の何れかに記載の製造方法。
【請求項21】
反応器の充填高さ方向に関連して垂直にプロペラが配置されており、hを反応器の充填方向の高さとし、反応器の底部の上面からの下部、中部および上部のプロペラの高さをそれぞれa、b及びcとした場合、0.2≦a/h≦0.3、0.4≦b/h≦0.5、0.7≦c/h≦0.8を満足する請求項14〜19の何れかに記載の製造方法。
【請求項22】
原料溶液の液面が、中部および上部のプロペラの高さの間の高さとなるように反応器に原料溶液を供給する請求項14〜21の何れかに記載の製造方法。
【請求項23】
沈殿反応を行うための反応器であって、当該反応器は、反応器の中心に挿入され、異なる面に配置される3つのプロペラを有する撹拌シャフトを有する反応器。
【請求項24】
プロペラが3つの羽根を有する請求項23に記載の反応器。
【請求項25】
上部に配置されるプロペラと下部に配置されるプロペラが下方に流れを作り、中部に配置されるプロペラが上方に流れを作るように構成されている請求項23又は24の何れかに記載の反応器。
【請求項26】
上部に配置されるプロペラと下部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して30〜60°であり、中部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して120〜150°である請求項23〜25の何れかに記載の反応器。
【請求項27】
上部に配置されるプロペラと下部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して45〜55°であり、中部に配置されるプロペラの迎え角が、プロペラの水平面に対して135〜145°である請求項23〜26の何れかに記載の反応器。
【請求項28】
反応器の充填高さ方向に関連して垂直にプロペラが配置されており、hを反応器の充填方向の高さとし、反応器の底部の上面からの下部、中部および上部のプロペラの高さをそれぞれa、b及びcとした場合、0.1≦a/h≦0.3、0.4≦b/h≦0.6、0.7≦c/h≦0.9を満足する請求項23〜27の何れかに記載の反応器。
【請求項29】
反応器の充填高さ方向に関連して垂直にプロペラが配置されており、hを反応器の充填方向の高さとし、反応器の底部の上面からの下部、中部および上部のプロペラの高さをそれぞれa、b及びcとした場合、0.2≦a/h≦0.3、0.4≦b/h≦0.5、0.7≦c/h≦0.8を満足する請求項23〜27の何れかに記載の反応器。
【請求項30】
請求項23〜29の何れかに記載の反応器の金属水酸化物の製造への使用。
【請求項31】
請求項14〜22の何れかに記載の製造方法で得られる化合物の粉体。
【請求項32】
リチウム二次電池用活物質の製造に使用される前駆体としての請求項1〜13の何れかに記載の化合物の粉体の使用。
【請求項33】
ニッケル金属水素化物電池用活物質としての請求項1〜13の何れかに記載の化合物の粉体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−505733(P2010−505733A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531777(P2009−531777)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008849
【国際公開番号】WO2008/043559
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(507421234)トダ・コウギョウ・ヨーロッパ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (6)
【Fターム(参考)】