説明

化学処理用カートリッジおよび化学処理用カートリッジの使用方法

【課題】内容物を無駄なく確実に混合できる化学処理用カートリッジおよび化学処理用カートリッジの使用方法を提供する。
【解決手段】ウェル1〜4は、流路を介して順次、接続されるとともに、ウェル1に試薬保持部21が、ウェル2に試薬保持部22が、ウェル3に試薬保持部23が、ウェル4に試薬保持部24が、それぞれ流路を介して接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部が弾性体で形成され、前記弾性体に外部から与えられた力による変形により内容物を封止又は移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一部が弾性体で形成され、前記弾性体に外部から与えられた力による変形により内容物を封止又は移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジが知られている。この化学処理用カートリッジには、所望の化学処理の手順に即した形状、配置でウェルや流路が形成されており、カートリッジに押し付けたローラなどを移動させることにより内容物を移動させることで、容易に上記手順に従った化学処理を実行できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−226068号公報
【特許文献2】米国特許第6,645,758号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、内容物を確実に移動させることは容易でない場合もあり、内容物を無駄なく移動させ、確実な化学処理を行わせるためには、ウェルや流路の適切な設計を必要とする。例えば、内容物を運ぶ流路が長くなると流路中に内容物が残留しやすくなり、内容物の無駄が発生し、あるいは安定した化学処理ができなくなる(例えば、米国特許第6,645,758号明細書FIG.1等参照)。また、単に同一流路に複数の内容物を注入しても、確実な混合状態を作り出すことはできない。
【0005】
本発明の目的は、内容物を無駄なく確実に混合できる化学処理用カートリッジおよび化学処理用カートリッジの使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の化学処理用カートリッジは、
少なくとも一部が弾性体で形成され、前記弾性体に外部から与えられた力による変形により内容物を封止又は移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、相互に流路によって連結され、前記外力によって内容物がそれぞれ封止される隣接した2つ以上のウェルと、前記各ウェルにそれぞれ接続された試薬保持手段とを有し、この試薬保持手段を前記ウェルに対する前記外力による内容物の移動手段の作用範囲外に配置したことを特徴とする。
この化学処理用カートリッジによれば、保持部の内容物を対応するウェルに移動させた後、直列に接続されたウェルの内容物を、その接続順序に従って順次移動させることができるため、内容物を無駄なく確実に混合できる。
【0007】
前記試薬保持手段と前記ウェルの間に、流路遮へい手段を持ってもよい。
【0008】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法は、少なくとも一部が弾性体で形成され、前記弾性体に外部から与えられた力による変形により内容物を封止又は移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、前記カートリッジには、流路を介して互いに直列に連結され隣接した2つ以上のウェルと、前記複数のウェルのそれぞれに流路を介して接続され、それぞれ内容物を保持する複数の試薬保持部と、が設けられ、前記化学処理用カートリッジの使用方法は、前記化学処理用カートリッジに外部から力を与えて前記化学処理用カートリッジを変形させることで、前記保持部の内容物を対応する前記ウェルに移動させるステップと、前記化学処理用カートリッジに外部から力を与えて前記流路をそれぞれ封止するステップと、前記化学処理用カートリッジに外部から力を与えて前記化学処理用カートリッジを変形させることで、直列に接続された前記ウェルの前記内容物を、その接続順序に従って順次移動させるステップと、を備えることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジの使用方法によれば、保持部の内容物を対応するウェルに移動させた後、直列に接続されたウェルの内容物を、その接続順序に従って順次移動させるので、内容物を無駄なく確実に混合できる。
【0009】
ウェルの前記内容物を順次移動させるステップの実行時に、前記化学処理用カートリッジに外部から力を与えて前記化学処理用カートリッジを変形させることで、前記ウェルと前記保持部とを接続する前記流路を閉じるステップを備えてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化学処理用カートリッジによれば、保持部の内容物を対応するウェルに移動させた後、直列に接続されたウェルの内容物を、その接続順序に従って順次移動させることができるため、内容物を無駄なく確実に混合できる。
【0011】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法によれば、保持部の内容物を対応するウェルに移動させた後、直列に接続されたウェルの内容物を、その接続順序に従って順次移動させるので、内容物を無駄なく確実に混合できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態の化学処理用カートリッジの構成を示す平面図
【図2】図1に示す化学処理用カートリッジの断面図であり、(a)および(b)は、図1におけるI−I線断面図。
【図3】送液のためのローラの配置を示す平面図。
【図4】流路を封止する専用のローラを使用する例を示す図。
【図5】流路を封止するシャッタを使用する例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図3を参照して、本発明による化学処理用カートリッジの一実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本実施形態の化学処理用カートリッジの構成を示す平面図、図2(a)および図2(b)は、図1におけるI−I線断面図である。
【0015】
図1および図2(a)に示すように、本実施形態の化学処理用カートリッジ100は、基板100Aと、シリコンゴム等の弾性体からなるカバー100Bとから構成される。基板100Aおよびカバー100Bは所定の接着パターンで互いに接着され、非接着部分における基板100Aおよびカバー100B間の内部空間として、後述するウェル、試薬保持部および流路が形成される。この内部空間は密閉され、気密状態が維持されている。
【0016】
図1に示すように、化学処理用カートリッジ100には、ウェル1〜6と、試薬保持部21〜25と、ウェル1〜4および試薬保持部21〜25の間を接続する流路とが形成されている。また、試薬保持部21〜25およびウェル6には、試薬あるいは洗浄液等が保存されている。
【0017】
図1に示すように、ウェル1〜4は、流路を介して順次、直列に接続されるとともに、ウェル1に試薬保持部21が、ウェル2に試薬保持部22が、ウェル3に試薬保持部23が、ウェル4に試薬保持部24が、それぞれ流路を介して接続されている。
【0018】
化学処理用カートリッジ100の内部空間に液体が存在する領域では、液体による内圧によりカバー100Bが弾性変形し、図2(a)に示すようにカバー100Bが基板100Aから離れる。例えば、図2(a)では、ウェル24の領域に液体が存在する場合を示している。他の領域ではカバー100Bが基板100Aに密着し、流路31は封止される。液体がなくなるとカバー100Bが元の形状に戻り、カバー100Bが基板100Aに接面し、流路は容積ゼロの状態となっている。図2(b)は送液を行っている状態を示しており、ウェル6、および流路31に液体が存在しているため、その領域でカバー100Bが基板100Aから離れている。
【0019】
次に、本実施形態の化学処理用カートリッジにおける送液方法を説明する。
【0020】
図3は、送液のためのローラの配置を示す平面図である。
【0021】
図3に示すように、ローラ41〜56は化学処理用カートリッジ100の構成に即した位置に配置される。なお、複数のローラを用いた送液については、特開2006−26452号公報等に開示があり、本発明においても同様の構成を採用できる。
【0022】
ローラ41〜44を化学処理用カートリッジ100に押し付け、図3において右方向に同時に移動させると、ローラ41により試薬保持部21の内容物がウェル1に、ローラ42により試薬保持部22の内容物がウェル2に、ローラ43により試薬保持部23の内容物がウェル3に、ローラ44により試薬保持部24の内容物がウェル4に、それぞれ移動する。
【0023】
次に、ローラ46〜49を化学処理用カートリッジ100に押し付け、図3においてローラ間の移動幅だけ右方向に同時に移動させると、ローラ46によりウェル1の内容物がウェル2に、ローラ47によりウェル2の内容物がウェル3に、ローラ48によりウェル3の内容物がウェル4に、ローラ49によりウェル4の内容物がウェル5に、それぞれ移動する。さらに、ローラ46〜49を図3においてローラ間の移動幅だけ右方向に同時に移動させると、ローラ46によりウェル2の内容物がウェル3に、ローラ47によりウェル3の内容物がウェル4に、ローラ48によりウェル4の内容物がウェル5に、それぞれ移動する。さらに、ローラ46〜49を図3においてローラ間の移動幅だけ右方向に同時に移動させると、ローラ46によりウェル3の内容物がウェル4に、ローラ47によりウェル4の内容物がウェル5に、それぞれ移動する。さらに、ローラ46〜49を図3においてローラ間の移動幅だけ右方向に同時に移動させると、ローラ46によりウェル4の内容物がウェル5に移動する。
【0024】
このように、ローラ46〜49の移動により、試薬保持部21〜24の内容物がウェル1〜4を経由してウェル5で混合される。
【0025】
またこの間、ローラ55〜56を化学処理用カートリッジ100に押し付け、図3においてローラ間の移動幅だけ右方向に同時に移動させると、ウェル6の内容物がウェル5に移動し、試薬保持部21〜24の内容物とウェル5で混合される。
【0026】
次に、ローラ51〜54を化学処理用カートリッジ100に押し付け、図3において右方向に同時に移動させると、ローラ54によりウェル5の内容物が図示しない次のウェルへ移動する。
【0027】
このように、本実施形態の化学処理用カートリッジによれば、試薬保持部21〜24のそれぞれに対応するウェル1〜4が設けられ、対応する試薬保持部からウェルまでの距離を短くできるため、試薬保持部の内容物を無駄なくウェルまで運ぶことができ、試薬や溶液を有効に利用できる。また、試薬保持部21〜24がカートリッジ100の外縁部に配置されているため、処理や反応工程を規定する流路やウェルの配置の邪魔とならず、配置に対する自由度を高めることができる。
【0028】
また、試薬保持部21〜24の内容物を対応するウェル1〜4に移動させるステップと、それらを混合するステップとが分離されているので、確実で正確な液送が可能となり、内容物を確実に移動、混合することができる。
【0029】
さらに、個々の試薬保持部21〜24およびウェル1〜4に対応した位置にそれぞれローラを配置し、1ステップずつの液送を行っているので、個々の液送を独立して制御でき、任意のプロセスに合わせた正確な液送が保証される。また、ローラをカートリッジに押し付けた状態を維持することでローラをシャッタとして機能させることができるため、内容物の逆流や、先のウェルへの意図しない送液などを効果的に防止できる。
【0030】
また、ローラの移動を繰り返すことにより、送液が不完全であった場合等にも対応でき、送液の信頼性を高めることができる。
【0031】
図4は、流路を封止する専用のローラを使用する例を示している。
【0032】
図4において、ローラ61は試薬保持部21〜24とウェル1〜4との間の流路を封止するためのローラであり、ウェル1への内容物の逆流等を防止する機能を有する。ローラ46による送液時に、ローラ61により流路を遮断することで、試薬保持部21〜24への逆流が防止される。
【0033】
図4の例では、1つのローラ41を右方向に移動させることによって、ウェル21〜24の内容物をウェル1〜4にそれぞれ導入する。その後、ローラ46およびローラ61を右方向に移動させることで、内容物を順次、ウェル5に向けて移動する。このとき、ローラ61により試薬保持部21〜24への逆流が防止される。
【0034】
なお、ローラ61に代えてカートリッジに押し付けられるシャッタを使用してもよく、また、ローラ46およびローラ61の機能をL字状のスキージにより兼ねるようにしてもよい。
【0035】
図5は、流路を封止するシャッタを使用する例を示している。
【0036】
図5において、シャッタ62は、試薬保持部21〜24とウェル1〜4との間の流路を封止する。
【0037】
図5の例では、シャッタ62を開放した状態で、1つのローラ41を右方向に移動させることによって、ウェル21〜24の内容物をウェル1〜4にそれぞれ導入する。その後、シャッタ62により流路を閉じた状態で、ローラ46を右方向に移動させることで、内容物を順次、ウェル5に向けて移動する。このとき、シャッタ62により試薬保持部21〜24への逆流が防止される。
【0038】
なお、図5において左右方向に短いシャッタを使用し、このシャッタをカートリッジに押し付けた状態でローラ46と連動させて右方向に移動させることで、同様の効果を得てもよい。
また、前記の試薬保持部はカートリッジの最外周部に設置してもよい。これによって、試薬の導入が容易になる。
【0039】
以上説明したように、本発明の化学処理用カートリッジによれば、保持部の内容物を対応するウェルに移動させた後、直列に接続されたウェルの内容物を、その接続順序に従って順次移動させることができるため、内容物を無駄なく確実に混合できる。
【0040】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、外部から与えられた力による変形により内容物を移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジおよびその使用方法に対し、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1〜6 ウェル
21〜24 試薬保持部(保持部)
25 試薬保持部(保持部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が弾性体で形成され、前記弾性体に外部から与えられた力による変形により内容物を封止又は移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、
相互に流路によって連結され、前記外力によって内容物がそれぞれ封止される隣接した2つ以上のウェルと、
前記各ウェルにそれぞれ接続された試薬保持手段とを有し、
この試薬保持手段を前記ウェルに対する前記外力による内容物の移動手段の作用範囲外に配置したことを特徴とする化学処理用カートリッジ。
【請求項2】
前記試薬保持手段と前記ウェルの間に、流路遮へい手段を持つことを特徴とする請求項1に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項3】
少なくとも一部が弾性体で形成され、前記弾性体に外部から与えられた力による変形により内容物を封止又は移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、
前記カートリッジには、
流路を介して互いに直列に連結され隣接した2つ以上のウェルと、
前記複数のウェルのそれぞれに流路を介して接続され、それぞれ内容物を保持する複数の試薬保持部と、
が設けられ、
前記化学処理用カートリッジの使用方法は、
前記化学処理用カートリッジに外部から力を与えて前記化学処理用カートリッジを変形させることで、前記保持部の内容物を対応する前記ウェルに移動させるステップと、
前記化学処理用カートリッジに外部から力を与えて前記流路をそれぞれ封止するステップと、
前記化学処理用カートリッジに外部から力を与えて前記化学処理用カートリッジを変形させることで、直列に接続された前記ウェルの前記内容物を、その接続順序に従って順次移動させるステップと、
を備えることを特徴とする化学処理用カートリッジの使用方法。
【請求項4】
ウェルの前記内容物を順次移動させるステップの実行時に、前記化学処理用カートリッジに外部から力を与えて、前記化学処理用カートリッジを変形させることで、前記ウェルと前記保持部とを接続する前記流路を閉じるステップを備えることを特徴とする請求項3に記載の化学処理用カートリッジの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−78960(P2011−78960A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116892(P2010−116892)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】