化学分析前処理装置
【課題】多目的,多品種,微量液に対応が可能で、正確で再現性に富み信頼性に優れた化学分析前処理装置を得る。
【解決手段】試料液及び試薬を保持する容器(201,202,203)を試薬リザーバ102に複数個有し、試料液及び試薬を送液及び混合する化学分析前処理装置において、複数の容器を直列に接続する流路(207,208,209,210)と、流路の間に透析膜601を挟んだ透析流路2042と、を備え、容器から流路への送液及び送液の停止による戻りを行うことで混合し、その後透析流路へ流入させる。
【解決手段】試料液及び試薬を保持する容器(201,202,203)を試薬リザーバ102に複数個有し、試料液及び試薬を送液及び混合する化学分析前処理装置において、複数の容器を直列に接続する流路(207,208,209,210)と、流路の間に透析膜601を挟んだ透析流路2042と、を備え、容器から流路への送液及び送液の停止による戻りを行うことで混合し、その後透析流路へ流入させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液と試薬類を送液,混合,阻害物質を除去したりする化学分析前処理装置に関し、特にタンパク質の機能解析のために、タンパク質試料からタンパク質断片化までを行うものに好適である。
【背景技術】
【0002】
タンパク質試料からの1次構造情報を取得するため、疎水表面を有する有機ポリマー,シリカ、またはガラス製の疎水性微細粒子担体をピペットチップに充填し、溶液ハンドリングロボットを使って、タンパク質試料溶液の吸入および排出を繰り返すことによって、タンパク質を疎水性微細粒子担体固定化し、予め各試薬を充填したウェルプレートの溶液を吸入および排出することでタンパク質を断片化し、断片化されたペプチドの一次構造を取得することが知られ、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
また、各種液体の品質を評価する分析装置において、ブロックの間隙で液体流路を形成し、分析流路に攪拌部,混合部、を設け、試薬流路から流量調節弁を介して混合部に試薬を供給することが特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−301715号公報
【特許文献2】特開平10−170495号公報(図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術の特許文献1に記載のものでは、作業者がタンパク質試料をエッペンチューブなどに採取し、そこへ各試薬を分注して各過程の反応を行い、透析膜を貼り付けた専用透析容器へ各反応後の試料を移し替え、試料の透析を実施後、再度、エッペンチューブなどに透析後の試料を移し替え、分解酵素によりタンパク質の断片化を実施するなど、タンパク質試料から、タンパク質断片化までの過程は長時間にわたり、その間、拘束される。また、試料の移送のためにハンドリングロボットを搭載しているが、装置全体が大型化し、機構も複雑であるため、定期的なメンテナンスが必要になる。
【0006】
さらに、特許文献2に記載のものでは、ブロック内に流量調整弁,逆流調整弁等を必須とするため、数〜数十マイクロリットルと言う微量液を扱う場合に適用することが困難であり、正確な液量採取や希釈の調整,補正を行うことができず、試料のコンタミネーション(特に雑菌混入,純粋培養に何らかの原因で、異種の微生物が混入して発育してしまう事。)、漏洩の恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、多目的,多品種,微量液に対応が可能で、正確で再現性に富み信頼性に優れた前処理を行い、特に、多様なタンパク質の1次構造解析ニーズに対応するためタンパク質試料からタンパク質断片化までの過程を自動一貫処理するに適したものとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、試料液及び試薬を保持する容器を試薬リザーバに複数個有し、前記試料液及び試薬を送液及び混合する化学分析前処理装置において、複数の前記容器を直列に接続する流路と、前記流路の間に透析膜を挟んだ透析流路と、を備え、前記容器から前記流路への送液及び送液の停止による戻りを行うことで混合し、その後前記透析流路へ流入させるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試薬リザーバ内部で複数の容器及び透析膜を挟んだ透析流路を直列に接続し、送液及び送液の停止により混合するので、化学分析向けの前処理プロトコルを集積化することができ、多目的,多品種,微量液に対応して前処理プロトコルの全工程を信頼性を高めて一貫処理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
タンパク質機能解析分野においては、細胞内外のタンパク質の機能解析および、細胞系や無細胞系で人為的に発現したタンパク質の系統的な機能解析へのニーズが増進している。タンパク質の機能解析のためには、まずタンパク質の一次構造を解析する必要があり、その解析を行うためにはタンパク質を断片化してペプチド化する必要があるが、タンパク質は多様であり、必ずしも画一的にペプチド化はできないのが現状である。
【0011】
そこで、物質の検出や化学的組成の決定のため、化学分析前処理が行われ、一般的なタンパク質の質量分析前処理プロトコルとしては、変性・還元化工程,アルキル化工程,脱塩工程,酵素消化工程の4つの工程が必要とされる。つまり、タンパク質を含む試料に変性試薬,還元化試薬を分注後、良く攪拌して中間生成物Aを生成し、中間生成物Aにアルキル化試薬を分注後、良く攪拌して透析試料を生成し、試料中の塩を脱塩し、中間生成物Bを生成する。最後にその中間生成物Bに酵素を分注後、タンパク質の酵素消化を行い、最終生成物を生成する。この最終生成物が質量分析計によって解析される試料になる。
【0012】
図1は一実施の形態による化学分析前処理装置の概要を示す。
【0013】
化学分析前処理装置101は、試料や試薬などを保持できる複数の容器と透析流路を備えた試薬リザーバ102,透析バッファを保持できる透析バッファ容器103,各試料や試薬などの送液を可能にするエアーラインマニホールド104と圧力源となるシリンジポンプ105などで構成されている。また、試薬リザーバ102と透析バッファ容器103とエアーラインマニホールド104は固定治具106によって、それぞれが着脱可能で且つ各部品の流路の繋ぎ目が十分シールできる程度に固定されている。
【0014】
液体送液システムは、電磁弁107を搭載したエアーラインマニホールド104とシリンジ108,シリンダ固定部品109,ピストンを駆動させる支持板110,支持板110をスライドさせるドライブシャフト111と駆動源となるモーター112などから構成されている。
【0015】
図2の上図は試薬リザーバ102の上面図、下図にA−A断面図をそれぞれ示す。試薬リザーバ102には試料を保持する試料保持容器201,還元化試薬を保持し、且つ試料の還元化を実施する還元化容器202,アルキル化試薬を保持し、且つ試料のアルキル化を実施するアルキル化容器203,試料側透析流路2041,酵素を保持し、且つ酵素消化を実施する酵素消化容器205,酵素消化が完了した試料を回収し、且つ保持する試料回収容器206を設けている。そして、それらの各容器は送液流路207,208,209,210で直列に接続されている。
【0016】
図3は図2に示した試薬リザーバ102のA−A断面図と試薬リザーバ102に着脱可能で、且つ圧力のシールが可能な程度に固定された液体送液システム301の模式図を示す。液体送液システム301はシリンジポンプ105および、試薬リザーバ102の各容器内の圧力を大気開放するための電磁弁302,303,304,305,306と、シリンジポンプ105からの圧力を伝達するための電磁弁307,308,309,310,311などから構成されている。
【0017】
試料保持容器201から還元化容器202へ液体を送液するときは、試料保持容器201へ接続されている圧力伝達用の電磁弁307と還元化容器202に接続されている大気開放用の電磁弁303を開き、シリンジポンプ105を駆動する。そして、液体は試料保持容器201の底部から流出し、送液流路207を通過して、還元化容器202へと流入する。送液が完了した時点でシリンジポンプ105を停止し、両電磁弁303、307を閉じる。次に、液体をアルキル化容器203へ送液するため、電磁弁308と電磁弁304を開き、シリンジポンプ105を駆動する。送液終了後はシリンジポンプ105と両電磁弁304,308を停止する。
【0018】
液体を酵素消化容器205へ送液するときは、電磁弁309と電磁弁305を開き、シリンジポンプ105を駆動する。送液終了後はシリンジポンプ105と電磁弁305,
309は停止する。最後に液体を試料回収容器206へ送液するため、電磁弁310と電磁弁306を開き、シリンジポンプ105を駆動する。
【0019】
試料回収容器206への送液が終了後、シリンジポンプ105と両電磁弁306,310を停止する。即ち、液体を保持している容器から次段容器へと送液する時は、液体を保持している容器へ接続されている圧力伝達用の電磁弁と次段容器に接続されている大気開放用の電磁弁を開き、シリンジポンプ105を駆動する。そして、容器から容器への送液を可能にしている。送液後はシリンジポンプ105と両電磁弁を停止する。エアーラインマニホールド104と試薬リザーバ102内に残圧が発生すると、液の保持力に悪影響を及ぼすため、シリンジポンプ105,圧力伝達用の電磁弁,大気開放用の電磁弁は、全て同時に停止しても良いが、この順番で停止することが動作を確実にするうえでは望ましい。
【0020】
前処理プロトコルを実現するための基本要素は、液量が、数マイクロリットルから数十マイクロリットルオーダーの送液,2液の攪拌,透析膜を用いた試料の透析であり、試薬リザーバ102の容器形状について説明する。
【0021】
図4上図は、図2に示した試薬リザーバ102A−A要部断面図を示し、試薬リザーバ102に設けている各容器は下流(容器底部)に行くに従い徐々に容器断面が縮小する形状であり、その容器の最下底部に送液流路207,208を接続されている。送液流路
207,208は容器壁面2011に対して略垂直方向に接続されている。送液中に発生する残液を極力少なくするために送液流路207,208の断面形状は円形が望ましい。但し、液回収率が低くて良いのであれば、或いは、流路断面積が微小で断面形状のアスペクト比が1に近く、且つ送液時の流路抵抗を無視できるほどの圧力源を備えているならば、送液流路207,208の断面は矩形形状でも残液は生じない。
【0022】
送液流路207,208の容積は、試料の全液または液の一部を送液して保持できる程度の容積を有している。前段容器と次段容器を接続する流路は、省スペース化のために2次元の蛇行流路になっているが、渦巻き流路や3次元の蛇行流路でも同等の送液が実施できる。
【0023】
次に2液攪拌について説明する。図4下図は、図4上図に示した領域Bの拡大図を示す。即ち図4上図は試薬リザーバ102に設けられた試料保持容器201の底部と送液流路207の接続部の拡大図である。図に示すように容器に溶液A402と溶液B403を保持し、これからその2液を攪拌するところであり、2液の全液、或いは液の一部が一旦、送液流路207に送液され、送液を止めて、矢印404の方向即ち、試料保持容器201へ戻す方向へ送液する。そうすることによって、送液流路207から試料保持容器201へ戻ってきた流れが、容器壁面2011に衝突して、容器底部において矢印405に示すように流れが転向し、微少流量であっても2液の攪拌が効率良く、確実に行われる。さらに、一旦送液流路207に保持された2液の全部或いは一部を容器に戻した後も往復送液406を繰り返せば2液の攪拌効果は向上する。
なお、送液流路207が試薬保持容器壁面2011に対して略垂直方向に接続されているが、送液流路207から試料保持容器201への流入角度が大きければその分、攪拌の効果も大きくなる。
【0024】
次に送液流路207から還元化容器202への接続について説明する。図5上図は図2上図に示した試薬リザーバ102のA−A要部断面図を示す。図5下図は領域Cの拡大図を示す。送液流路207と還元化容器202への接続は還元化容器202へ送液された液面501よりも上方に接続部502を設ける。そして、その接続方向は容器に対して下方を向いており、試料保持容器201から送液する液体が還元化容器202の底部に保持されるように送液流路207を接続する。なお、接続する容器への接続角度は容器壁面2021に沿った角度が好ましいが、その角度を実現するためには、送液流路接続部502より下流の流路曲がり部503の曲がり角度が鋭角となり圧力損失が増大するので、流路曲がり部503の曲がり角度が鋭角にならないようにすることが良い。
【0025】
次に透析膜を用いた試料の透析について説明する。図6上図と図7上図は、図2上図に示した試薬リザーバ102のA−A断面図を示す。図6下図は、B−B要部断面図を示す。図7下図は、C−C要部断面図を示す。
【0026】
試料の前処理プロトコルは酵素消化を行うために試料中の塩701を除去する脱塩工程が含まれている。即ち、試薬リザーバ102のアルキル化容器203と酵素消化容器205の間に透析流路204をマイクロ流路で設け、化学分析の前処理プロトコルの一貫処理を実現し、脱塩工程を高速化している。
【0027】
透析流路204は、試料側透析流路2041と透析バッファ側透析流路2042を対向する位置に配置しており、それらの間に透析膜601を挟んでいる。試料および透析バッファが、試料側透析流路2041および透析バッファ側透析流路2042に対して略垂直方向へ流入する位置となるように送液流路209を接続する。アルキル化容器203から流出した試料は、送液流路209を通過して試料側透析流路2041へ流入し、保持される。一方透析バッファ容器103から流出した透析バッファは送液流路602を通過し、透析バッファ側透析流路2042へ流入し、保持される。そして、図7下図に示すように透析膜601を介して両液が接触している状態を保持し、且つ透析膜601近傍での塩濃度勾配により試料に含まれる塩701が透析バッファ側へ透析される。
【0028】
化学分析前処理装置101が実施する一般的なタンパク質の質量分析前処理プロトコルについて説明する。
【0029】
図8は、タンパク質の一般的な質量分析前処理プロトコルを示し、前処理プロトコルは、変性・還元化工程,アルキル化工程,脱塩工程,酵素消化工程の4つの工程から構成されている。つまり、タンパク質を含む試料に変性試薬,還元化試薬を分注後、良く攪拌して中間生成物Aを生成する。次に中間生成物Aにアルキル化試薬を分注後、良く攪拌して透析試料を生成する。次に透析試料と透析バッファを透析膜601を介して接触させ試料中の塩701を脱塩し、中間生成物Bを生成する。最後にその中間生成物Bに酵素を分注後、タンパク質の酵素消化を行い、最終生成物を生成する。この最終生成物が質量分析計によって解析される試料になる。
【0030】
化学分析前処理装置を使用した場合のプロトコルの実行例について説明する。
【0031】
図9上図は試薬リザーバ102と透析バッファ容器103を組み合わせた状態の上面図である。図9、中図はD−D断面図で、下図は、E−E断面図である。図10,図11,図12,図13,図14,図15はD−D断面図およびE−E断面図であり、プロトコルの各ステップである。
【0032】
図9、中図に示すように最初に試薬リザーバ102の試料保持容器201にタンパク質試料901と変性試薬902を分注する。そして、還元化容器202には還元化試薬903,アルキル化容器203にはアルキル化試薬904,酵素消化容器205には酵素905,透析バッファ保持容器1031には透析バッファ906をそれぞれ分注し、その状態を保持する。その後、試薬リザーバ102と透析バッファ容器103にエアーラインマニホールド104を組み合わせる(図示せず)。
【0033】
エアーラインマニホールド104は固定治具106によって、試薬リザーバ102と透析バッファ容器103に脱着可能で、且つ各容器から圧力を十分シールできる程度に固定されている。なお、試料,試薬類の分注,装置の組立より以降の作業は全て自動で行うため、電磁弁の開閉とシリンジポンプの駆動はすべて、事前にプログラムされたPCで自動制御される。
【0034】
プロトコルの変性・還元化工程では、まず電磁弁303と電磁弁307を開きシリンジポンプ105を駆動することによって試料保持容器201に保持されたタンパク質試料
901と変性試薬902を一旦送液流路207に送液し保持する。その後、シリンジポンプ105と電磁弁303と電磁弁307は停止する。次に、電磁弁303と電磁弁307を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって送液流路207中に保持されたタンパク質試料901と変性試薬902を試料保持容器201へと戻す。その後シリンジポンプ105と電磁弁303と電磁弁307は停止する。再度、電磁弁303と電磁弁307を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって、試料保持容器201にある変性後のタンパク質試料1001を還元化容器202へと移送する(図10)。
【0035】
一連の液体の移送は前段の容器と次段の容器の圧力差によるものであるため、それ以降のアルキル化試薬904,透析バッファ906,酵素905が保持されている容器には影響しないため、それらの試薬類はそれぞれの容器に保持された状態を維持できる。
【0036】
次に電磁弁304と電磁弁308を開き、シリンジポンプ105を駆動することにより変性後のタンパク質試料1001と還元化試薬903を送液流路208へ送液し保持する。次に、電磁弁304と電磁弁308とシリンジポンプ105は停止する。そして電磁弁304と電磁弁308を開きシリンジポンプ105を駆動することによって、送液流路
208中に保持されている変性後のタンパク質試料1001と還元化試薬903を還元化容器202へと戻す。この時、中間生成物A1101が生成される。電磁弁304と電磁弁308とシリンジポンプ105は停止する。
【0037】
再度電磁弁304と電磁弁308を開き、シリンジポンプ105を駆動することにより、中間生成物A1101をアルキル化容器203へと移送する(図11)。その後、電磁弁304と電磁弁308とシリンジポンプ105は停止する。
【0038】
次に電磁弁309と電磁弁305を開きシリンジポンプ105を駆動することによって、アルキル化容器203に保持された中間生成物A1101とアルキル化試薬904を一旦送液流路209へ送液して保持する。電磁弁309と電磁弁305とシリンジポンプ
105を停止する。電磁弁305と電磁弁309を開きシリンジポンプ105を駆動することによって送液流路209に保持された中間生成物A1101とアルキル化試薬904をアルキル化容器203へ戻す。この時、透析試料1201が生成される。電磁弁305と電磁弁309を開きシリンジポンプ105を駆動することによって、透析試料1201を試料側透析流路2041へ移送し、保持する(図12)。その後電磁弁305と電磁弁309とシリンジポンプ105は停止する。
【0039】
次に図13に示すように電磁弁1301と電磁弁1302を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって、透析バッファ906を移送し、バッファ側透析流路2042に送液し、そこに保持する(図13)。電磁弁1301と電磁弁1302とシリンジポンプ105を停止する。この状態を維持することによって、透析試料1201に含まれる塩
701を脱塩する。時間経過とともに透析膜近傍の塩濃度勾配が均一になり、透析効率が低下する。よって、一定時間が経過したら再度電磁弁1301と電磁弁1302を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって、塩濃度が高くなった透析バッファ906を透析バッファ回収容器1303へ廃液し、バッファ側透析流路2042には新鮮な透析バッファ906が送液される。
【0040】
透析試料1201は試料側透析流路2041に保持された状態を維持し、バッファ側透析流路2042に透析バッファ906を保持する。電磁弁1301と電磁弁1302とシリンジポンプ105を停止する。タンパク試料の脱塩が終了するまでこの操作を繰り返す。透析バッファ906を一定時間で交換することによって透析膜近傍の塩濃度勾配を高い状態に保ち、効率の良い脱塩を行う。また、塩701の拡散速度に見合った流速で透析バッファ906を常時、送液し続けることでも効率の良い透析が行える。脱塩が終了し中間生成物B1401が生成される。
【0041】
次に電磁弁305と電磁弁309を開き、シリンジポンプ105を駆動することにより、中間生成物B1401を酵素消化容器205へ移送する(図14)。電磁弁305と電磁弁309とシリンジポンプ105は停止する。電磁弁306と電磁弁310を開きシリンジポンプ105を駆動することにより、酵素消化容器205に保持された中間生成物
B1401と酵素905を一旦送液流路210に送液し、保持する。電磁弁306と電磁弁310とシリンジポンプ105を停止する。電磁弁306と電磁弁310を開き、シリンジポンプ105を駆動することにより、送液流路210に保持された中間生成物B1401と酵素905を酵素消化容器205に戻す。その時、最終生成物1501が生成される。電磁弁306と電磁弁310とシリンジポンプ105を停止する。最後に電磁弁306と電磁弁310を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって、最終生成物1501を試料回収容器206へと移送する(図15)。その最終生成物1501が、前処理プロトコルが完了した試料である。
【0042】
なお、前処理プロトコルの各工程において、温度制御などが必要な場合は、試薬リザーバ102内の各容器近辺にヒートブロック(図示せず)等の温度調節可能な熱源を設けると良い。また、制御するべき目標温度が低温ならば、装置全体を常時、炉の中に導入して前処理プロトコルを実行しても良い。試薬リザーバ102,透析バッファ容器103,エアーラインマニホールド104の材質は、タンパク質などの非特異吸着を回避できる材料なら何でも良い。例えばポリカーボネートやエッペンチップなどに用いられるポリプロピレンである。
【0043】
図16上図は試薬リザーバ102の第2実施形態の上面図であり、下図はF−F断面図である。送液流路207,208,209,210は必ずしも各容器の下方に位置する必要は無く、各容器と送液流路1601,1602,1603を同じ高さに設けても良く、同様の前処理性能を得ることができる。
【0044】
図17上図は試薬リザーバ102の第3実施形態の上面図であり、中図はG−G断面図、下図H−H断面図を示す。試薬リザーバ102の送液流路1701,1702,1703,2041は、必ずしも鉛直方向に蛇行する必要は無く、水平方向に蛇行して設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態である化学分析前処理装置の斜視図。
【図2】一実施の形態である試薬リザーバの上面図,断面図。
【図3】一実施の形態における液体送液システムの模式図。
【図4】一実施の形態における試薬リザーバの要部断面図。
【図5】一実施の形態における試薬リザーバ要部断面図。
【図6】一実施の形態における透析流路の断面図。
【図7】他の実施の形態における透析流路の断面図。
【図8】タンパク質質量分析前処理プロトコルを示すフローチャート。
【図9】一実施の形態における試薬リザーバの部品組立上面図,要部断面図。
【図10】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図11】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図12】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図13】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図14】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図15】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図16】他の実施の形態による試薬リザーバの上面図,断面図。
【図17】さらに、他の実施の形態による試薬リザーバの上面図,断面図。
【符号の説明】
【0046】
101…化学分析前処理装置、102…試薬リザーバ、201…試料保持容器、202…還元化容器、203…アルキル化容器、205…酵素消化容器、206…試料回収容器、207,208,209,210…送液流路、601…透析膜、2042…透析流路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液と試薬類を送液,混合,阻害物質を除去したりする化学分析前処理装置に関し、特にタンパク質の機能解析のために、タンパク質試料からタンパク質断片化までを行うものに好適である。
【背景技術】
【0002】
タンパク質試料からの1次構造情報を取得するため、疎水表面を有する有機ポリマー,シリカ、またはガラス製の疎水性微細粒子担体をピペットチップに充填し、溶液ハンドリングロボットを使って、タンパク質試料溶液の吸入および排出を繰り返すことによって、タンパク質を疎水性微細粒子担体固定化し、予め各試薬を充填したウェルプレートの溶液を吸入および排出することでタンパク質を断片化し、断片化されたペプチドの一次構造を取得することが知られ、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
また、各種液体の品質を評価する分析装置において、ブロックの間隙で液体流路を形成し、分析流路に攪拌部,混合部、を設け、試薬流路から流量調節弁を介して混合部に試薬を供給することが特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−301715号公報
【特許文献2】特開平10−170495号公報(図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術の特許文献1に記載のものでは、作業者がタンパク質試料をエッペンチューブなどに採取し、そこへ各試薬を分注して各過程の反応を行い、透析膜を貼り付けた専用透析容器へ各反応後の試料を移し替え、試料の透析を実施後、再度、エッペンチューブなどに透析後の試料を移し替え、分解酵素によりタンパク質の断片化を実施するなど、タンパク質試料から、タンパク質断片化までの過程は長時間にわたり、その間、拘束される。また、試料の移送のためにハンドリングロボットを搭載しているが、装置全体が大型化し、機構も複雑であるため、定期的なメンテナンスが必要になる。
【0006】
さらに、特許文献2に記載のものでは、ブロック内に流量調整弁,逆流調整弁等を必須とするため、数〜数十マイクロリットルと言う微量液を扱う場合に適用することが困難であり、正確な液量採取や希釈の調整,補正を行うことができず、試料のコンタミネーション(特に雑菌混入,純粋培養に何らかの原因で、異種の微生物が混入して発育してしまう事。)、漏洩の恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、多目的,多品種,微量液に対応が可能で、正確で再現性に富み信頼性に優れた前処理を行い、特に、多様なタンパク質の1次構造解析ニーズに対応するためタンパク質試料からタンパク質断片化までの過程を自動一貫処理するに適したものとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、試料液及び試薬を保持する容器を試薬リザーバに複数個有し、前記試料液及び試薬を送液及び混合する化学分析前処理装置において、複数の前記容器を直列に接続する流路と、前記流路の間に透析膜を挟んだ透析流路と、を備え、前記容器から前記流路への送液及び送液の停止による戻りを行うことで混合し、その後前記透析流路へ流入させるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試薬リザーバ内部で複数の容器及び透析膜を挟んだ透析流路を直列に接続し、送液及び送液の停止により混合するので、化学分析向けの前処理プロトコルを集積化することができ、多目的,多品種,微量液に対応して前処理プロトコルの全工程を信頼性を高めて一貫処理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
タンパク質機能解析分野においては、細胞内外のタンパク質の機能解析および、細胞系や無細胞系で人為的に発現したタンパク質の系統的な機能解析へのニーズが増進している。タンパク質の機能解析のためには、まずタンパク質の一次構造を解析する必要があり、その解析を行うためにはタンパク質を断片化してペプチド化する必要があるが、タンパク質は多様であり、必ずしも画一的にペプチド化はできないのが現状である。
【0011】
そこで、物質の検出や化学的組成の決定のため、化学分析前処理が行われ、一般的なタンパク質の質量分析前処理プロトコルとしては、変性・還元化工程,アルキル化工程,脱塩工程,酵素消化工程の4つの工程が必要とされる。つまり、タンパク質を含む試料に変性試薬,還元化試薬を分注後、良く攪拌して中間生成物Aを生成し、中間生成物Aにアルキル化試薬を分注後、良く攪拌して透析試料を生成し、試料中の塩を脱塩し、中間生成物Bを生成する。最後にその中間生成物Bに酵素を分注後、タンパク質の酵素消化を行い、最終生成物を生成する。この最終生成物が質量分析計によって解析される試料になる。
【0012】
図1は一実施の形態による化学分析前処理装置の概要を示す。
【0013】
化学分析前処理装置101は、試料や試薬などを保持できる複数の容器と透析流路を備えた試薬リザーバ102,透析バッファを保持できる透析バッファ容器103,各試料や試薬などの送液を可能にするエアーラインマニホールド104と圧力源となるシリンジポンプ105などで構成されている。また、試薬リザーバ102と透析バッファ容器103とエアーラインマニホールド104は固定治具106によって、それぞれが着脱可能で且つ各部品の流路の繋ぎ目が十分シールできる程度に固定されている。
【0014】
液体送液システムは、電磁弁107を搭載したエアーラインマニホールド104とシリンジ108,シリンダ固定部品109,ピストンを駆動させる支持板110,支持板110をスライドさせるドライブシャフト111と駆動源となるモーター112などから構成されている。
【0015】
図2の上図は試薬リザーバ102の上面図、下図にA−A断面図をそれぞれ示す。試薬リザーバ102には試料を保持する試料保持容器201,還元化試薬を保持し、且つ試料の還元化を実施する還元化容器202,アルキル化試薬を保持し、且つ試料のアルキル化を実施するアルキル化容器203,試料側透析流路2041,酵素を保持し、且つ酵素消化を実施する酵素消化容器205,酵素消化が完了した試料を回収し、且つ保持する試料回収容器206を設けている。そして、それらの各容器は送液流路207,208,209,210で直列に接続されている。
【0016】
図3は図2に示した試薬リザーバ102のA−A断面図と試薬リザーバ102に着脱可能で、且つ圧力のシールが可能な程度に固定された液体送液システム301の模式図を示す。液体送液システム301はシリンジポンプ105および、試薬リザーバ102の各容器内の圧力を大気開放するための電磁弁302,303,304,305,306と、シリンジポンプ105からの圧力を伝達するための電磁弁307,308,309,310,311などから構成されている。
【0017】
試料保持容器201から還元化容器202へ液体を送液するときは、試料保持容器201へ接続されている圧力伝達用の電磁弁307と還元化容器202に接続されている大気開放用の電磁弁303を開き、シリンジポンプ105を駆動する。そして、液体は試料保持容器201の底部から流出し、送液流路207を通過して、還元化容器202へと流入する。送液が完了した時点でシリンジポンプ105を停止し、両電磁弁303、307を閉じる。次に、液体をアルキル化容器203へ送液するため、電磁弁308と電磁弁304を開き、シリンジポンプ105を駆動する。送液終了後はシリンジポンプ105と両電磁弁304,308を停止する。
【0018】
液体を酵素消化容器205へ送液するときは、電磁弁309と電磁弁305を開き、シリンジポンプ105を駆動する。送液終了後はシリンジポンプ105と電磁弁305,
309は停止する。最後に液体を試料回収容器206へ送液するため、電磁弁310と電磁弁306を開き、シリンジポンプ105を駆動する。
【0019】
試料回収容器206への送液が終了後、シリンジポンプ105と両電磁弁306,310を停止する。即ち、液体を保持している容器から次段容器へと送液する時は、液体を保持している容器へ接続されている圧力伝達用の電磁弁と次段容器に接続されている大気開放用の電磁弁を開き、シリンジポンプ105を駆動する。そして、容器から容器への送液を可能にしている。送液後はシリンジポンプ105と両電磁弁を停止する。エアーラインマニホールド104と試薬リザーバ102内に残圧が発生すると、液の保持力に悪影響を及ぼすため、シリンジポンプ105,圧力伝達用の電磁弁,大気開放用の電磁弁は、全て同時に停止しても良いが、この順番で停止することが動作を確実にするうえでは望ましい。
【0020】
前処理プロトコルを実現するための基本要素は、液量が、数マイクロリットルから数十マイクロリットルオーダーの送液,2液の攪拌,透析膜を用いた試料の透析であり、試薬リザーバ102の容器形状について説明する。
【0021】
図4上図は、図2に示した試薬リザーバ102A−A要部断面図を示し、試薬リザーバ102に設けている各容器は下流(容器底部)に行くに従い徐々に容器断面が縮小する形状であり、その容器の最下底部に送液流路207,208を接続されている。送液流路
207,208は容器壁面2011に対して略垂直方向に接続されている。送液中に発生する残液を極力少なくするために送液流路207,208の断面形状は円形が望ましい。但し、液回収率が低くて良いのであれば、或いは、流路断面積が微小で断面形状のアスペクト比が1に近く、且つ送液時の流路抵抗を無視できるほどの圧力源を備えているならば、送液流路207,208の断面は矩形形状でも残液は生じない。
【0022】
送液流路207,208の容積は、試料の全液または液の一部を送液して保持できる程度の容積を有している。前段容器と次段容器を接続する流路は、省スペース化のために2次元の蛇行流路になっているが、渦巻き流路や3次元の蛇行流路でも同等の送液が実施できる。
【0023】
次に2液攪拌について説明する。図4下図は、図4上図に示した領域Bの拡大図を示す。即ち図4上図は試薬リザーバ102に設けられた試料保持容器201の底部と送液流路207の接続部の拡大図である。図に示すように容器に溶液A402と溶液B403を保持し、これからその2液を攪拌するところであり、2液の全液、或いは液の一部が一旦、送液流路207に送液され、送液を止めて、矢印404の方向即ち、試料保持容器201へ戻す方向へ送液する。そうすることによって、送液流路207から試料保持容器201へ戻ってきた流れが、容器壁面2011に衝突して、容器底部において矢印405に示すように流れが転向し、微少流量であっても2液の攪拌が効率良く、確実に行われる。さらに、一旦送液流路207に保持された2液の全部或いは一部を容器に戻した後も往復送液406を繰り返せば2液の攪拌効果は向上する。
なお、送液流路207が試薬保持容器壁面2011に対して略垂直方向に接続されているが、送液流路207から試料保持容器201への流入角度が大きければその分、攪拌の効果も大きくなる。
【0024】
次に送液流路207から還元化容器202への接続について説明する。図5上図は図2上図に示した試薬リザーバ102のA−A要部断面図を示す。図5下図は領域Cの拡大図を示す。送液流路207と還元化容器202への接続は還元化容器202へ送液された液面501よりも上方に接続部502を設ける。そして、その接続方向は容器に対して下方を向いており、試料保持容器201から送液する液体が還元化容器202の底部に保持されるように送液流路207を接続する。なお、接続する容器への接続角度は容器壁面2021に沿った角度が好ましいが、その角度を実現するためには、送液流路接続部502より下流の流路曲がり部503の曲がり角度が鋭角となり圧力損失が増大するので、流路曲がり部503の曲がり角度が鋭角にならないようにすることが良い。
【0025】
次に透析膜を用いた試料の透析について説明する。図6上図と図7上図は、図2上図に示した試薬リザーバ102のA−A断面図を示す。図6下図は、B−B要部断面図を示す。図7下図は、C−C要部断面図を示す。
【0026】
試料の前処理プロトコルは酵素消化を行うために試料中の塩701を除去する脱塩工程が含まれている。即ち、試薬リザーバ102のアルキル化容器203と酵素消化容器205の間に透析流路204をマイクロ流路で設け、化学分析の前処理プロトコルの一貫処理を実現し、脱塩工程を高速化している。
【0027】
透析流路204は、試料側透析流路2041と透析バッファ側透析流路2042を対向する位置に配置しており、それらの間に透析膜601を挟んでいる。試料および透析バッファが、試料側透析流路2041および透析バッファ側透析流路2042に対して略垂直方向へ流入する位置となるように送液流路209を接続する。アルキル化容器203から流出した試料は、送液流路209を通過して試料側透析流路2041へ流入し、保持される。一方透析バッファ容器103から流出した透析バッファは送液流路602を通過し、透析バッファ側透析流路2042へ流入し、保持される。そして、図7下図に示すように透析膜601を介して両液が接触している状態を保持し、且つ透析膜601近傍での塩濃度勾配により試料に含まれる塩701が透析バッファ側へ透析される。
【0028】
化学分析前処理装置101が実施する一般的なタンパク質の質量分析前処理プロトコルについて説明する。
【0029】
図8は、タンパク質の一般的な質量分析前処理プロトコルを示し、前処理プロトコルは、変性・還元化工程,アルキル化工程,脱塩工程,酵素消化工程の4つの工程から構成されている。つまり、タンパク質を含む試料に変性試薬,還元化試薬を分注後、良く攪拌して中間生成物Aを生成する。次に中間生成物Aにアルキル化試薬を分注後、良く攪拌して透析試料を生成する。次に透析試料と透析バッファを透析膜601を介して接触させ試料中の塩701を脱塩し、中間生成物Bを生成する。最後にその中間生成物Bに酵素を分注後、タンパク質の酵素消化を行い、最終生成物を生成する。この最終生成物が質量分析計によって解析される試料になる。
【0030】
化学分析前処理装置を使用した場合のプロトコルの実行例について説明する。
【0031】
図9上図は試薬リザーバ102と透析バッファ容器103を組み合わせた状態の上面図である。図9、中図はD−D断面図で、下図は、E−E断面図である。図10,図11,図12,図13,図14,図15はD−D断面図およびE−E断面図であり、プロトコルの各ステップである。
【0032】
図9、中図に示すように最初に試薬リザーバ102の試料保持容器201にタンパク質試料901と変性試薬902を分注する。そして、還元化容器202には還元化試薬903,アルキル化容器203にはアルキル化試薬904,酵素消化容器205には酵素905,透析バッファ保持容器1031には透析バッファ906をそれぞれ分注し、その状態を保持する。その後、試薬リザーバ102と透析バッファ容器103にエアーラインマニホールド104を組み合わせる(図示せず)。
【0033】
エアーラインマニホールド104は固定治具106によって、試薬リザーバ102と透析バッファ容器103に脱着可能で、且つ各容器から圧力を十分シールできる程度に固定されている。なお、試料,試薬類の分注,装置の組立より以降の作業は全て自動で行うため、電磁弁の開閉とシリンジポンプの駆動はすべて、事前にプログラムされたPCで自動制御される。
【0034】
プロトコルの変性・還元化工程では、まず電磁弁303と電磁弁307を開きシリンジポンプ105を駆動することによって試料保持容器201に保持されたタンパク質試料
901と変性試薬902を一旦送液流路207に送液し保持する。その後、シリンジポンプ105と電磁弁303と電磁弁307は停止する。次に、電磁弁303と電磁弁307を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって送液流路207中に保持されたタンパク質試料901と変性試薬902を試料保持容器201へと戻す。その後シリンジポンプ105と電磁弁303と電磁弁307は停止する。再度、電磁弁303と電磁弁307を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって、試料保持容器201にある変性後のタンパク質試料1001を還元化容器202へと移送する(図10)。
【0035】
一連の液体の移送は前段の容器と次段の容器の圧力差によるものであるため、それ以降のアルキル化試薬904,透析バッファ906,酵素905が保持されている容器には影響しないため、それらの試薬類はそれぞれの容器に保持された状態を維持できる。
【0036】
次に電磁弁304と電磁弁308を開き、シリンジポンプ105を駆動することにより変性後のタンパク質試料1001と還元化試薬903を送液流路208へ送液し保持する。次に、電磁弁304と電磁弁308とシリンジポンプ105は停止する。そして電磁弁304と電磁弁308を開きシリンジポンプ105を駆動することによって、送液流路
208中に保持されている変性後のタンパク質試料1001と還元化試薬903を還元化容器202へと戻す。この時、中間生成物A1101が生成される。電磁弁304と電磁弁308とシリンジポンプ105は停止する。
【0037】
再度電磁弁304と電磁弁308を開き、シリンジポンプ105を駆動することにより、中間生成物A1101をアルキル化容器203へと移送する(図11)。その後、電磁弁304と電磁弁308とシリンジポンプ105は停止する。
【0038】
次に電磁弁309と電磁弁305を開きシリンジポンプ105を駆動することによって、アルキル化容器203に保持された中間生成物A1101とアルキル化試薬904を一旦送液流路209へ送液して保持する。電磁弁309と電磁弁305とシリンジポンプ
105を停止する。電磁弁305と電磁弁309を開きシリンジポンプ105を駆動することによって送液流路209に保持された中間生成物A1101とアルキル化試薬904をアルキル化容器203へ戻す。この時、透析試料1201が生成される。電磁弁305と電磁弁309を開きシリンジポンプ105を駆動することによって、透析試料1201を試料側透析流路2041へ移送し、保持する(図12)。その後電磁弁305と電磁弁309とシリンジポンプ105は停止する。
【0039】
次に図13に示すように電磁弁1301と電磁弁1302を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって、透析バッファ906を移送し、バッファ側透析流路2042に送液し、そこに保持する(図13)。電磁弁1301と電磁弁1302とシリンジポンプ105を停止する。この状態を維持することによって、透析試料1201に含まれる塩
701を脱塩する。時間経過とともに透析膜近傍の塩濃度勾配が均一になり、透析効率が低下する。よって、一定時間が経過したら再度電磁弁1301と電磁弁1302を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって、塩濃度が高くなった透析バッファ906を透析バッファ回収容器1303へ廃液し、バッファ側透析流路2042には新鮮な透析バッファ906が送液される。
【0040】
透析試料1201は試料側透析流路2041に保持された状態を維持し、バッファ側透析流路2042に透析バッファ906を保持する。電磁弁1301と電磁弁1302とシリンジポンプ105を停止する。タンパク試料の脱塩が終了するまでこの操作を繰り返す。透析バッファ906を一定時間で交換することによって透析膜近傍の塩濃度勾配を高い状態に保ち、効率の良い脱塩を行う。また、塩701の拡散速度に見合った流速で透析バッファ906を常時、送液し続けることでも効率の良い透析が行える。脱塩が終了し中間生成物B1401が生成される。
【0041】
次に電磁弁305と電磁弁309を開き、シリンジポンプ105を駆動することにより、中間生成物B1401を酵素消化容器205へ移送する(図14)。電磁弁305と電磁弁309とシリンジポンプ105は停止する。電磁弁306と電磁弁310を開きシリンジポンプ105を駆動することにより、酵素消化容器205に保持された中間生成物
B1401と酵素905を一旦送液流路210に送液し、保持する。電磁弁306と電磁弁310とシリンジポンプ105を停止する。電磁弁306と電磁弁310を開き、シリンジポンプ105を駆動することにより、送液流路210に保持された中間生成物B1401と酵素905を酵素消化容器205に戻す。その時、最終生成物1501が生成される。電磁弁306と電磁弁310とシリンジポンプ105を停止する。最後に電磁弁306と電磁弁310を開き、シリンジポンプ105を駆動することによって、最終生成物1501を試料回収容器206へと移送する(図15)。その最終生成物1501が、前処理プロトコルが完了した試料である。
【0042】
なお、前処理プロトコルの各工程において、温度制御などが必要な場合は、試薬リザーバ102内の各容器近辺にヒートブロック(図示せず)等の温度調節可能な熱源を設けると良い。また、制御するべき目標温度が低温ならば、装置全体を常時、炉の中に導入して前処理プロトコルを実行しても良い。試薬リザーバ102,透析バッファ容器103,エアーラインマニホールド104の材質は、タンパク質などの非特異吸着を回避できる材料なら何でも良い。例えばポリカーボネートやエッペンチップなどに用いられるポリプロピレンである。
【0043】
図16上図は試薬リザーバ102の第2実施形態の上面図であり、下図はF−F断面図である。送液流路207,208,209,210は必ずしも各容器の下方に位置する必要は無く、各容器と送液流路1601,1602,1603を同じ高さに設けても良く、同様の前処理性能を得ることができる。
【0044】
図17上図は試薬リザーバ102の第3実施形態の上面図であり、中図はG−G断面図、下図H−H断面図を示す。試薬リザーバ102の送液流路1701,1702,1703,2041は、必ずしも鉛直方向に蛇行する必要は無く、水平方向に蛇行して設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態である化学分析前処理装置の斜視図。
【図2】一実施の形態である試薬リザーバの上面図,断面図。
【図3】一実施の形態における液体送液システムの模式図。
【図4】一実施の形態における試薬リザーバの要部断面図。
【図5】一実施の形態における試薬リザーバ要部断面図。
【図6】一実施の形態における透析流路の断面図。
【図7】他の実施の形態における透析流路の断面図。
【図8】タンパク質質量分析前処理プロトコルを示すフローチャート。
【図9】一実施の形態における試薬リザーバの部品組立上面図,要部断面図。
【図10】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図11】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図12】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図13】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図14】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図15】一実施の形態における前処理過程を説明するブロック図。
【図16】他の実施の形態による試薬リザーバの上面図,断面図。
【図17】さらに、他の実施の形態による試薬リザーバの上面図,断面図。
【符号の説明】
【0046】
101…化学分析前処理装置、102…試薬リザーバ、201…試料保持容器、202…還元化容器、203…アルキル化容器、205…酵素消化容器、206…試料回収容器、207,208,209,210…送液流路、601…透析膜、2042…透析流路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液及び試薬を保持する容器を試薬リザーバに複数個有し、前記試料液及び試薬を送液及び混合する化学分析前処理装置において、
複数の前記容器を直列に接続する流路と、前記流路の間に透析膜を挟んだ透析流路と、を備え、前記容器から前記流路への送液及び送液の停止による戻りを行うことで混合し、その後前記透析流路へ流入させることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、前記試薬リザーバには前記試料を保持する試料保持容器,還元化試薬を保持する還元化容器,アルキル化試薬を保持するアルキル化容器,前記透析流路,酵素を保持する酵素消化容器,酵素消化が完了した前記試料を回収する試料回収容器の順に設けられていることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、前記容器はその断面積が下方へ縮小する形状であり、前記流路は前記容器の底部に接続されていることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、前記流路は第1の前記容器の底部に接続され、さらに次段となる第2の前記容器の側壁となる容器壁面に接続されていることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載のものにおいて、前記流路は第1の前記容器に接続され、さらに次段となる第2の前記容器の側壁となる容器壁面で第2の前記容器の液面高さよりも高い位置に接続されることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載のものにおいて、前記流路は第1の前記容器に接続され、さらに次段となる第2の前記容器の側壁となる容器壁面に、その接続方向が容器下方となるように接続されていることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載のものにおいて、前記流路は、透析膜に対して垂直方向に接続されたことを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載のものにおいて、前記透析流路において脱塩を行うことを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項1】
試料液及び試薬を保持する容器を試薬リザーバに複数個有し、前記試料液及び試薬を送液及び混合する化学分析前処理装置において、
複数の前記容器を直列に接続する流路と、前記流路の間に透析膜を挟んだ透析流路と、を備え、前記容器から前記流路への送液及び送液の停止による戻りを行うことで混合し、その後前記透析流路へ流入させることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、前記試薬リザーバには前記試料を保持する試料保持容器,還元化試薬を保持する還元化容器,アルキル化試薬を保持するアルキル化容器,前記透析流路,酵素を保持する酵素消化容器,酵素消化が完了した前記試料を回収する試料回収容器の順に設けられていることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、前記容器はその断面積が下方へ縮小する形状であり、前記流路は前記容器の底部に接続されていることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、前記流路は第1の前記容器の底部に接続され、さらに次段となる第2の前記容器の側壁となる容器壁面に接続されていることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載のものにおいて、前記流路は第1の前記容器に接続され、さらに次段となる第2の前記容器の側壁となる容器壁面で第2の前記容器の液面高さよりも高い位置に接続されることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載のものにおいて、前記流路は第1の前記容器に接続され、さらに次段となる第2の前記容器の側壁となる容器壁面に、その接続方向が容器下方となるように接続されていることを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載のものにおいて、前記流路は、透析膜に対して垂直方向に接続されたことを特徴とする化学分析前処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載のものにおいて、前記透析流路において脱塩を行うことを特徴とする化学分析前処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−198990(P2007−198990A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19960(P2006−19960)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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