説明

化学物質の毒性を予測する方法

本発明は、発生経路に対する化学物質の効果を予測するための方法及びキットに関する。特に本発明は、ヒト発生経路に対する化学物質の毒性を予測するための方法及びキットに関する。本発明の方法及びキットは、ヒト胎児発生中における細胞バイオマップ又は発生経路の変化を予測するために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞生物学、毒物学及び薬物スクリーニングの分野に関する。特に本発明は、発生経路に対する化学物質の毒性を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、化学的傷害後におけるヒトの細胞/組織又は胎児発生に関する情報を提供するように設計された方法を記載する。それは、インビボでの細胞/組織発生を模倣するための手段として、既知の刺激に応答したヒト幹細胞株のインビトロ分化を利用する。さらなる実施形態には、i)広範囲の細胞/組織マーカーの使用並びにii)早期及び後期細胞/組織マーカーの使用が含まれる。これらを総合して、いかなる発生経路がどの段階で破壊されるかを示すことができる。
【0003】
前駆細胞の分化中に、細胞は化学物質、薬物、化粧品又は催奇形物質に暴露され、発生過程に対する効果は分化の程度をモニターすることで評価される。実際、Suter(Current Opinion in Chemical Biology, 2006, 10, 362−366)は、医薬品安全性評価のための標準的な(非幹細胞)インビトロ試験の予測的価値及び限界を記載している。現行試験の多くは、既存方法の特異性欠如のために大きな欠点を有している。実際、多くの既存方法は時間がかかり、情報量が少なく、しばしば多数の実験動物の使用を必要とする。したがって、多量のデータ/情報を与えるヒト発生毒性アプローチの使用は、消費者及び患者の安全を損なうことなしに試験動物の数及び費用を低減させる可能性をもった、従来方法に対する魅力的な代替手段である。
【0004】
最近の発表では、発生中の胎児に対する化学物質の効果がハイライトされている。すべての生産児の約5%は発生上及び行動上の欠陥を有するが、その多くは化学的傷害に帰因させ得ると推定されている。さらに、欧州連合はREACH(化学物質の登録、評価及び認証)と呼ばれる新しい化学物質規則を制定した(2007年)が、これはこれまでに制定された最も複雑で包括的な規制努力であることを約束している。この法規中では、生殖毒物学及び発生毒物学に関する要求条件が極めて重要である。これらは、最高の資金投資要件及び実験動物の必要性をもたらすからである。加えて、生殖上及び発生上の配慮から、現在広く使用されている多くの物質が制限されることがある。REACHは実験動物研究に関する厳格な要件を有しているものの、法規は試験における脊椎動物の使用を控えさせ、実験室が代替方法を考慮することを要求している。確立された代替動物方法の多くにはしばしば問題があり、したがってヒトの胎児及び/又は生殖発生に対する化学的傷害の結果を正確に予測できる一層良好で改良された実験室的方法に対する大きなニーズがある。このように、ヒトの発生に対する化学物質の潜在的な毒性効果を評価するための新しい細胞ベースの方法の導入及び有効性確認に対するニーズが存在している。
【0005】
幹細胞
ヒトの発生中、毒性傷害を最も受け易い組織には、神経系、肝臓、腎臓、肺、皮膚などがある。したがって、細胞/組織特異的マーカーと共に前駆細胞株を使用するアッセイは、特定の化学物質が毒性であるか否かばかりでなく、細胞/組織が影響を受けるか否かを確認するために役立つであろう。さらに、この特許明細書中に記載されるアプローチは、早期及び後期の細胞分化マーカー(例えば、Nkx2.5及びαMHCはそれぞれ早期及び後期心臓マーカーである)を識別する能力を有するので、追加の能力付与特徴を有している。
【0006】
胚性幹(ES)細胞は、例えばニューロン細胞に分化させることができる。分化後、胚性幹細胞マーカーの発現レベル及び分化細胞マーカーの発現レベルを定量化することができる。ここでは、胚性幹細胞の分化が胎児/細胞発生を反映するための手段として使用される(例えば、図1を参照されたい)。
【0007】
化学的傷害後、発現レベルが破壊されたマーカーの同定は、どの細胞発生経路が影響を受けたかを同定することを容易にする。加えて、早期及び後期細胞マーカーの定量化は、特定の細胞タイプ(例えば、それぞれ早期及び後期マーカーであるolig2及びMOGを用いる乏突起膠細胞)の発生に対する一層徹底的な問いかけを可能にする。したがって、すべての特異的細胞マーカーの定量化は、細胞発生/分化経路全体に対する問いかけを容易にするであろう。かくして、本明細書中に記載される発明は、例えば胎児発生に関して毒性プロファイル又は毒性バイオマップを構築するために使用できる。
【0008】
幹細胞は、(すべてではないにせよ)大抵の多細胞生物において見出される細胞である。これらは、有糸細胞分裂によって自己を更新すると共に、様々な範囲の特殊化細胞タイプに分化する能力によって特徴づけられる。哺乳動物幹細胞の2つの大別されたタイプには、胚盤胞の内部細胞塊から単離される胚性幹細胞、及び成体組織中に見出される成体幹細胞がある。発生中の胚では、幹細胞はすべての特殊化胚組織に分化し得る。成体生物では、幹細胞及び前駆細胞は特殊化細胞を補給する身体の修復系として作用するばかりでなく、血液、皮膚又は腸組織のような再生器官の正常な代謝回転も維持する。現在、細胞培養によって幹細胞を増殖させ、筋肉又は神経のような各種組織の細胞と一致した特性を有する特殊化細胞に変換することができる。成体幹細胞は、神経細胞から血液細胞へのように、発生的に無関係の細胞タイプに分化することができる。幹細胞の運命は内因性及び外因性シグナルの両方によって調節され、これらのシグナルの一部は同定されている(Watt & Hogan, Science 2000, 287, 1427−1430)。
【0009】
臍帯血及び骨髄を含む各種供給源からの成体幹細胞は、医学療法において日常的に使用されている。胚性幹細胞(ES細胞)は、胚盤胞として知られる初期ステージの胚の内部細胞塊から導かれる幹細胞である。ヒトの胚は受精後4〜5日で胚盤胞に到達し、その時点でこれは50〜150個の細胞からなる。胚性幹(ES)細胞は多分化能性である。これは、かかる細胞が3つの一次胚葉(即ち、外胚葉、内胚葉及び中胚葉)のすべての誘導体に分化し得ることを意味する。これらは、成体における220以上の細胞タイプの各々を含んでいる。多分化能性は、成体において見出される多能性前駆細胞からES細胞を区別する。即ち、前者は限られた数の細胞タイプのみを形成する。分化のための刺激が与えられない場合(即ち、インビトロで増殖させた場合)、ES細胞は多数回の細胞分裂を通して多分化能性を維持する。多分化能性成体幹細胞の存在は科学的議論の的となっている。しかし、研究の結果、成体線維芽細胞培養物から多分化能性幹細胞を直接に生成できることが証明されている。その組織形成性及び潜在的に無制限の自己更新能力のため、ES細胞療法は傷害又は疾患後における再生医療及び組織置換のために提唱されている。しかし、現在まで、胚性幹細胞研究から導かれた承認済みの医学療法は存在していない。これまでのところ、成体幹細胞及び臍帯血幹細胞が何らかの疾患を治療するため成功裡に使用された唯一の幹細胞であった。
【0010】
これらの非胚性幹細胞で治療された疾患には、多数の血液及び免疫系関連遺伝的疾患、癌及び障害、若年型糖尿病、パーキンソン病、失明及び脊髄損傷がある。幹細胞療法に関する1つの技術的問題は、アロジェニック幹細胞移植に関連する移植細胞対宿主病の問題である。しかし、宿主適合性に関連するこの問題は、自己提供の成体幹細胞の使用又は治療用クローニングの経由によって解決できる。幹細胞の実用的定義は、寿命期間にわたって組織を再生する可能性をもった細胞という機能的定義である。例えば、骨髄又は造血幹細胞(HSC)に関するゴールドスタンダード試験は、1個の細胞を移植し、HSCのない個体を救い得ることである。この場合、幹細胞は新しい血液細胞及び免疫細胞を産生して効力を証明することが可能でなければならない。また、移植された個体から幹細胞を単離し、それ自体をHSCのない別の個体に移植し、幹細胞が自己更新可能であることを証明できなければならない。幹細胞の性質は、単一の細胞をその分化及び自己更新能力によって特徴づけるクローン原性アッセイのような方法を用いてインビトロで示すことができる。さらに、細胞表面マーカーの特有のセットに基づいて幹細胞を単離することができる。
【0011】
先行技術
幹細胞に関しては多くの公表された特許及び特許出願が存在している。許容される場合、以下に列挙した文献の内容は援用によって本明細書の一部をなす。
【0012】
米国特許第5843780号及び同第6200806号(Wisconsin Alumni Research Foundation)は、霊長類の胚性幹細胞を単離するための方法を記載している。
【0013】
国際公開第2007/120699号(Wisconsin Alumni Research Foundation)は、発生毒性を予測することができる低分子量細胞代謝産物(10〜1500ダルトン)のバイオマーカープロファイル、並びにヒト胚性幹細胞を用いて医薬品、リード薬物や候補薬物化合物及び他の化学物質を含む化合物をスクリーニングする方法を記載している。
【0014】
Stumman他(2009, Toxicology 257(3) 117−126)は、ニューロン細胞に変わる胚性幹細胞を用いて、メチル水銀の胚毒性危険性の評価を記載している。この論文には、特にメチル水銀の胚毒性のインビトロ予測を向上させることを目的とする発生毒性化合物用のツールとして胚性幹細胞試験が記載されている。Stumman他は、3つの決定点(即ち、細胞毒性アッセイ、RT−PCR及び免疫組織化学)に基づく予測モデルを記載している。
【0015】
国際公開第2007/063316号(Plasticell社)は、細胞シグナリング経路の潜在的モジュレーターを同定するための方法であって、(a)第1の細胞タイプを2以上の反応条件に順次に暴露することで前駆細胞を介して第2の細胞タイプに分化させ得る第1の細胞タイプの細胞を用意する段階、(b)前駆細胞が暴露された2以上の反応条件に加えて又はその1以上に代えて、潜在的モジュレーターを含む1以上の反応条件に暴露する段階、及び(c)第1の細胞タイプの分化をモニターして第2の細胞タイプの形成を判定する段階を含んでなる方法を開示している。
【0016】
Buesen他(2009, Toxicological Sciences, 108(2) 389−400)は、単一の試料からのただ1つのバイオマーカー(細胞毒性)の測定を記載している。
【0017】
国際公開第2004/013316号(University of Durham)は、細胞集団から単離された個々の哺乳動物多分化能性幹細胞から導かれるクローン性多分化能性幹細胞の1種以上の組成物を製造する方法であって、哺乳動物多分化能性幹細胞のマーカーを発現する個々の細胞を認識して結合する一定量のタグに不均質な細胞集団を暴露する段階を含んでなり、タグが回収手段を含む方法を開示している。
【0018】
国際公開第2007/002568号(Geron社)は、インビトロで培養された細胞集団中の標的組織タイプに対する薬理学的効果を迅速に判定するための系を記載している。細胞は、スクリーニングすべき薬剤によって引き起こされる毒物学的変化又は代謝変化を反映するプロモーター−レポーター構築物を含んでいる。
【0019】
米国特許第7041438号(Geron社)は、フィーダー細胞の不存在下で霊長類多分化能性幹細胞を培養するための改良系を開示している。
【0020】
米国特許出願公開第2006/0275816号(Henderson & Cheatham)は、バイオマーカーを用いて薬理学及び毒物学の機序の同定を可能にするマイクロアッセイ及び細胞ベーススクリーニング方法を記載している。
【0021】
米国特許出願公開第2004/0254736号(Michelson & Bangs)は、コンピューターモデリング及び生物学的プロセスを用いて生物学的系における潜在的毒性を同定するための方法及び装置を開示している。
【0022】
米国特許出願公開第2002/0192671(Castle & Elashoff)は、物質の毒性を評価するための方法であって、2以上の遺伝子を該物質に暴露し、コントラスト分析を用いて各遺伝子についての該物質に対する応答の分散を分析し、遺伝子セット中の各遺伝子について要約スコアを作成し、要約スコアに関してロジスティック回帰分析を実施し、ロジスティック回帰分析の結果を用いて物質の毒性に関する予測モデルを得ることを含んでなる方法を記載している。
【0023】
米国特許第7354730号(HemoGenix社)は、造血幹細胞及び前駆細胞増殖の高スループットアッセイを開示している。
【0024】
米国特許第7202081号(Hoffmann La Roche社)は、増殖している哺乳動物細胞試料を試験系として用いて物質の細胞増殖阻害活性及び細胞毒性(細胞死の誘発)を同時測定するための方法を記載している。
【0025】
米国特許第6998249号(Pharmacia社 & Upjohn社)は、所定化合物のインビボ毒性を予測するための方法を開示している。かかる方法は、3以上の相異なるアッセイを並行して実施することで所定の標的細胞における化学物質の細胞毒性の3つの相異なるパラメーターに関する情報を得ることを含み、この情報がインビボ細胞毒性を予測するために有用である。かかる方法は、幹細胞又は多重化を含む技法を記載していない。
【0026】
米国特許第6007993号(Insitut fur Pflanzengenetik und Kulturpflanzenforschung)は、始原生殖細胞から得られた胚性生殖(EG)細胞を用いてマウス及びラットからの分化した多分化能性胚性幹(ES)細胞に基づく胚毒性/催奇形性スクリーニングを行う目的で、胚発生及び分化に対する化学的に誘導された効果を検出するためのインビトロ試験方法を記載している。提唱された試験方法は、組織特異的プロモーター及びレポーター遺伝子を含む安定したトランスジェニックES又はEG細胞クローンが選択され、特定の時点で作用する胚毒性物質の存在下でES細胞を様々な発芽経路誘導体に分化させた後に組織特異的遺伝子の分化依存性発現が実施されることを特徴とする。これは、胚発生を調節する組織特異的遺伝子の化学的に誘導された活性化、抑制又は変調を検出することで追跡される。
【0027】
米国特許出願公開第2008/0280300号(Plasticell社)は、細胞シグナリング経路の潜在的モジュレーターを同定するための方法であって、(a)第1の細胞タイプを2以上の反応条件に順次に暴露することで前駆細胞を介して第2の細胞タイプに分化させ得る第1の細胞タイプの細胞を用意する段階、(b)前駆細胞が暴露された2以上の反応条件に加えて又はその1以上に代えて、潜在的モジュレーターを含む1以上の反応条件に暴露する段階、及び(c)第1の細胞タイプの分化をモニターして第2の細胞タイプの形成を判定する段階を含んでなる方法を開示している。
【0028】
米国特許出願公開第2008/0248503号は、毒性並びにリンパ造血系の残留増殖及び分化能力を予測するための化合物スクリーニング方法を記載している。
【0029】
米国特許出願公開第2008/0132424号は、増殖に関するATP測定を用いるヒト胚盤胞由来の幹細胞及び前駆細胞に基づく毒性アッセイを開示している。
【0030】
米国特許出願公開第2007/0248947号(Wisconsin Alumni Research Foundation)は、低分子量細胞代謝産物のバイオマーカープロファイル、並びにヒト胚性幹細胞又はそれから生成される系統特異的細胞を用いて医薬品、リード薬物や候補薬物化合物及び他の化学物質を含む化合物をスクリーニングする方法を記載している。かかる方法は、上記化合物の毒性(特に発生毒性)を試験すると共に、その催奇形効果を検出するためのものである。米国特許出願公開第2007/0248947号は、本明細書中に記載されるような多重方法又は細胞バイオマーカーを記載していない。
【0031】
米国特許第7541185号(Cythera社)は、内胚葉細胞集団中の細胞を、腸管由来の組織及び/又は器官を形成し得る細胞に分化させるのに有用である1以上の分化因子を同定するための方法を開示している。米国特許第7510876号(Cythera社)は、ヒト内胚葉細胞を生成するためのインビトロ方法を記載している。
【0032】
Cezar(Int.J.Pharm. Med, 2006, 20, 107−114)は、疾患及び毒性応答のインビトロモデルの生成における幹細胞技術のための重要な機会を総説している。O’Brien & Haskins(Methods in Molecular Biology, 2007, 356, 415−425)は、化合物がヒト毒性を引き起こす可能性を評価するためのマルチパラメーター、生細胞かつ致死前細胞毒性ハイコンテントスクリーニングアッセイを記載している。Bremer & Hartung(Current Pharmaceutical Design, 2004, 10, 2733−2747)は、国際盲検共同試験におけるインビボでの結果と比較した胚性幹細胞試験の有効性確認を総説している。
【0033】
Stummann他(Toxicology 2007 242, 130−43)は、胚性幹細胞を用いて、メチル水銀及びクロムの胚毒性危険性の評価を記載している。この論文には、特にメチル水銀の胚毒性のインビトロ予測を向上させることを目的とする発生毒性化合物用のツールとして胚性幹細胞試験が記載されている。Stumman他は、3つの決定点(即ち、胚性幹細胞の心臓分化アッセイに加えてマウス胚性幹細胞及び3T3線維芽細胞による細胞毒性アッセイ)に基づく予測モデルを記載している。しかし、この論文には、特定の細胞発生経路に関する早期又は後期分化バイオマーカーに対する毒素又は催奇形物質の効果が、胎児又は細胞発生を反映するための手段として記載されていない。
【0034】
Clarke他(Regen. Med. 2007, 2, 947−956)は、ハイコンテント情報を得るために各種造血組織からの一次細胞を使用することを開示している。Paquette他(Reprod. Toxicol. 2008, 83, 104−111)は、製薬業界において胚性幹細胞試験を発生毒性化合物用のツールとして適用及び使用することを記載している。
【0035】
Li他(Biol. Chem. 2008, 389, 169−177)は、成体幹細胞株の脂肪生成分化を阻害する有害薬剤(ダイオキシン)の効果を記載している。Miranda他(Methods MoI. Biol. 2008 447, 151−156)は、齧歯類胎児大脳皮質由来の神経幹細胞を実験モデルとして使用することを記載し、以後のニューロン成熟に対する先行エタノール暴露の効果を決定している。
【0036】
Adler他(Altern Lab Anim. 2008 36, 129−40)は、様々な発生成熟度を表すヒト細胞タイプ(即ち、包皮線維芽細胞、ヒト胚性幹細胞由来の前駆細胞、及びヒト胚性幹細胞)に基づく細胞生存度アッセイを開示している。
【0037】
Adler他(Toxicology in vitro, 2008 22, 200−211)は、ヒト胚性幹細胞及び多数のマーカー遺伝子に基づく発生毒性試験方法を記載している。
【0038】
Ahuja他(Toxicology 2007 231, 1−10)は、特定の細胞タイプを化学的又は物理的作用因子で処理することを記載している。その応答を測定することは、成体生物の各種器官系における毒性を試験するための近道を提供する。
【0039】
技術的問題
上述した通り、冗長で費用のかかる動物試験への復帰なしにヒト発生に対する化学物質の毒性を予測するために使用でき、しかもモデル動物系に頼るよりも綿密にヒト発生を反映する新しいアッセイに対するニーズが存在している。特に、いずれの発生経路及びいずれの組織が化学物質によって影響を受けるかを予測するアッセイに対する未達成のニーズが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
国際公開第2008/107912号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明の第1の態様では、試料中の発生経路に対する化学物質の毒性を予測する方法であって、
(i)試料中の対照未分化幹細胞集団を作用因子で処理して第1の発生経路中に第1の対照分化細胞集団を生成する段階、
(ii)前記対照未分化幹細胞集団及び/又は前記第1の対照分化細胞集団において発現される2以上のバイオマーカーのレベルを測定して対照発現レベルを決定する段階であって、前記バイオマーカーの1以上は発生経路及び/又は分化の早期ステージで発現され、前記バイオマーカーの1以上は発生経路及び/又は分化の後期ステージで発現される段階、
(iii)前記作用因子で処理する前又は後において、前記試料中の試験未分化幹細胞集団を化学物質に暴露して第1の発生経路中に第1の試験分化細胞集団を生成する段階、
(iv)前記試験未分化幹細胞集団及び/又は前記第1の試験分化細胞集団における前記2以上のバイオマーカーのレベルを測定して試験発現レベルを決定する段階、並びに
(v)前記対照発現レベルを前記試験発現レベルと比較する段階
を含んでなり、前記化学物質への暴露後における発現レベルの差が前記発生経路に対する化学物質の毒性を表す方法が提供される。
【0042】
当業者には容易に理解される通り、疑問を避けるため、本発明で使用するための未分化幹細胞は全能性幹細胞を含まない。
【0043】
好ましい態様では、本方法の段階(i)は未分化幹細胞集団を作用因子で処理してn番目の発生経路中にn番目の分化細胞集団を生成する段階を含み、次いで段階(ii)〜(v)を繰り返して前記n番目の集団における対照発現レベルと試験発現レベルとの差を決定し、化学物質への暴露後における発現レベルの差が前記n番目の発生経路に対する化学物質の毒性を表す。
【0044】
一態様では、第1の発生経路及びn番目の発生経路はネットワーク化された発生経路である。
【0045】
一態様では、本方法の段階(i)は未分化幹細胞集団を作用因子で処理して複数の発生経路中に複数の分化細胞集団を生成する段階を含み、次いで本方法は段階(ii)〜(v)を繰り返して前記複数の集団における対照発現レベルと試験発現レベルとの差を決定することを含み、化学物質への暴露後における発現レベルの差が前記複数の発生経路に対する化学物質の毒性を表す。
【0046】
好適には、複数の発生経路はネットワーク化された発生経路である。
【0047】
一態様では、幹細胞は多分化能性幹細胞である。多分化能性幹細胞は、胚性幹細胞、誘導多分化能性幹細胞又は始原生殖細胞であり得る。
【0048】
別の態様では、幹細胞は成体幹細胞である。
【0049】
好ましくは、幹細胞はヒト幹細胞である。
【0050】
一態様では、バイオマーカーの1以上が胚性幹細胞バイオマーカーである。
【0051】
別の態様では、バイオマーカーの1以上が始原生殖細胞バイオマーカーである。
【0052】
さらに別の態様では、バイオマーカーの1以上が成体幹細胞バイオマーカーである。
【0053】
好適には、胚性幹細胞バイオマーカーは、Nanog、SOX2、SSEA4、Oct4、TRA−1−60、TRA−1−81、Cripto、CD133、A2 B5、PAX6、インテグリンβ1、CEA、Tnk1、ERAS及びSTELLARからなる群から選択される。
【0054】
好適には、始原生殖細胞バイオマーカーは、DDX4、Fragilis、Stella及びNANOS2からなる群から選択される。
【0055】
一態様では、バイオマーカーの1以上が中胚葉バイオマーカーである。好ましくは、中胚葉バイオマーカーは、ブラキュリ(Brachyury)、Tbx6、TBR2、EOMES、PHOX2A、PHOX2B、PRRX1、PRRX2、MESDC2、Mesp1、Mesp2、MIER1、MIER3及びSNAILからなる群から選択される。
【0056】
別の態様では、バイオマーカーの1以上が外胚葉バイオマーカーである。好ましくは、外胚葉バイオマーカーは、EED、TIF1 gamma、KLH25、EDA、GJB6、ENC1、EDAR、SOSTDC1、NCAM及びCD99からなる群から選択される。
【0057】
さらに別の態様では、バイオマーカーの1以上が内胚葉バイオマーカーである。好ましくは、内胚葉バイオマーカーは、Ki67、Rb、カリン1、カリン2、カリン3、サイクリンE及びサイクリンE2からなる群から選択される。
【0058】
一態様では、バイオマーカーの1以上が心臓幹細胞バイオマーカーである。好ましくは、心臓幹細胞バイオマーカーは、ヒアルロナンシンターゼ1、OSR1及びSca1からなる群から選択される。
【0059】
別の態様では、バイオマーカーの1以上が心筋細胞前駆細胞バイオマーカーである。好ましくは、心筋細胞前駆細胞バイオマーカーは、ALPK3、ペリオスチン及びMesp1からなる群から選択される。
【0060】
一態様では、早期バイオマーカーは、発生経路及び/又は分化の早期ステージで発現される心筋細胞バイオマーカーである。好ましくは、早期心筋細胞バイオマーカーは、Nkx2.5、ミオカルディン、GATA4、MEF2C、HAND1、IRX4、TBX5、TBX20及び転写因子25からなる群から選択される。
【0061】
別の態様では、後期バイオマーカーは、発生経路及び/又は分化の後期ステージで発現される心筋細胞バイオマーカーである。好ましくは、後期心筋細胞バイオマーカーは、心臓トロポニンT抗体、心臓トロポニンI抗体、重鎖心臓ミオシン抗体、ミオシン軽鎖抗体、心臓FABP抗体及びαサルコメアアクチ抗体からなる群から選択される。
【0062】
さらに別の態様では、後期バイオマーカーは心室バイオマーカーである。好ましくは、心室バイオマーカーは、BMP10、HAND2及び血清応答因子からなる群から選択される。
【0063】
一態様では、早期バイオマーカーは、発生経路及び/又は分化の早期ステージで発現される神経幹細胞バイオマーカーである。好ましくは、早期神経幹細胞バイオマーカーは、アグリカンARGxxx、CD133、EMX2、ネスチン及びNeuroD1からなる群から選択される。
【0064】
別の態様では、後期バイオマーカーは、発生経路及び/又は分化の後期ステージで発現される神経幹細胞バイオマーカーである。好ましくは、後期神経幹細胞バイオマーカーは、BRN3A、Musashi 1、Msi1、NR2E1、Tailless、ヌクレオステミン、Oct6、Pax2、SOX2、SOX4、SOX10、SOX11、SOX22、ビメンチン及びCDw33からなる群から選択される。
【0065】
さらに別の態様では、バイオマーカーの1以上が神経堤細胞バイオマーカーである。好ましくは、神経堤細胞バイオマーカーは、ニューロゲニン1、ニューロゲニン2、ニューロゲニン3及びMASH1からなる群から選択される。
【0066】
一態様では、バイオマーカーの1以上が星状膠細胞バイオマーカーである。
【0067】
別の態様では、バイオマーカーの1以上がグリア細胞又は小グリア細胞バイオマーカーである。
【0068】
さらに別の態様では、バイオマーカーの1以上がプルキンエ細胞バイオマーカーである。
【0069】
一態様では、バイオマーカーの1以上がニューロン又は神経細胞バイオマーカーである。好ましくは、神経細胞バイオマーカーは、海馬ニューロン、終脳ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、コリン作動性ニューロン、感覚ニューロン、侵害受容ニューロン、運動ニューロン、錐体ニューロン、乏突起膠細胞、神経内分泌細胞、軸索、シュワン細胞、樹状突起、成長円錐、体細胞及びシナプス細胞からなる群から選択される。
【0070】
別の態様では、バイオマーカーの1以上が脂肪細胞バイオマーカーである。
【0071】
一態様では、2以上のバイオマーカーのレベルは、標識抗体との反応及び結合ラベルの測定によって定量化される。好ましくは、2以上のバイオマーカーのレベルは定量的免疫細胞化学を用いて定量化される。
【0072】
別の態様では、未分化幹細胞は2以上のバイオマーカーと機能的に連結した相異なるレポーター遺伝子を含み、2以上のバイオマーカーのレベルは相異なる遺伝子産物の測定によって定量化される。好ましくは、レポーター遺伝子は、ニトロレダクターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、ルシフェラーゼ及び蛍光タンパク質レポーター遺伝子からなる群から選択される。
【0073】
さらに別の態様では、2以上のバイオマーカーのレベルは、定量的RT−PCR、定量的免疫細胞化学、表面プラズモン共鳴及びマイクロアレイ分析からなる群から選択される方法によって定量化される。
【0074】
一態様では、本方法はさらに段階(iii)後に細胞増殖を測定する段階を含む。
【0075】
好ましい態様では、本方法は多重方法である。
【0076】
本発明の第2の態様では、上述した方法を用いて、ヒト胎児発生中における細胞バイオマップ又は発生経路の変化を予測する方法が提供される。
【0077】
本発明の第3の態様では、上述した方法を実施するためのキットであって、2以上のバイオマーカーを定量化するための手段及び該方法を実施するための取扱説明書を含んでなるキットが提供される。好ましい態様では、バイオマーカーを定量化するための手段は、抗体、酵素基質及びオリゴヌクレオチドプライマーからなる群から選択される。
【0078】
定義
本明細書中で使用される「幹細胞」は、様々な範囲の特殊化細胞タイプに分化する能力によって特徴づけられる細胞として定義される。哺乳動物幹細胞の2つの大別されたタイプには、胚盤胞の内部細胞塊から単離される胚性幹細胞、及び成体組織中に見出される成体幹細胞がある。発生中の胚では、幹細胞はすべての特殊化胚組織に分化し得る。成体生物では、幹細胞及び前駆細胞は特殊化細胞を補給する身体の修復系として作用するばかりでなく、血液、皮膚又は腸組織のような再生器官の正常な代謝回転も維持する。
【0079】
本明細書中で使用される「胚盤胞」は、初期胚形成において、胞胚腔の形成後かつ着床前に形成される構造体である。本明細書中で使用される「前駆細胞」は、特定タイプの細胞に分化しる能力を有する細胞として定義される。多くの前駆細胞は単能性又は多能性として記載される。
【0080】
本明細書中で使用される「発生経路」は、細胞分化のための経路(又は細胞分化経路)として定義され、前駆細胞が一層専門化された細胞タイプになる過程である。多細胞生物は単一の接合体から組織及び細胞タイプの複雑な系に変化するので、分化は該生物の発生中に多数回起こる。分化はまた、成体においても普通の過程である。即ち、成体幹細胞は組織修復中及び正常な細胞代謝回転中に分裂して完全に分化した娘細胞を生み出す。
【0081】
本明細書中で「分化経路」に関連して使用される「ネットワーク化された」は、2以上の細胞タイプへの分化が可能な前駆細胞を含むネットワークとして定義され、これらの細胞タイプ自体はさらに分化する能力を有し得る。この過程は、最終分化細胞タイプが生成されるまで継続される。
【0082】
本明細書中で使用される「発生生物学」は、生物が成長及び発育する過程の研究として定義される。発生生物学は、細胞増殖、分化及び形態形成の遺伝的制御、即ち組織、器官及び解剖学的構造を生じる過程を研究する。
【0083】
本明細書中で使用される「形態形成」は、生物にその形状を生じさせる生物学的過程として定義される。それは、細胞増殖、細胞分化及び細胞発生の制御と並んで、発生生物学の3つの基本的側面の1つである。形態形成過程は、生物の胚発生及び胎児発生中における細胞の組織化された空間分布を制御する。形態形成応答は、生物においては、ホルモンにより、他の生物が産生する物質から誘導化学物質又は放射性核種、汚染物質及び他の毒性薬剤にまでわたる環境化学物質により、或いは細胞の空間パターン化で誘導される機械的ストレスにより誘導され得る。形態形成は、胚、成熟生物、細胞培養物又は腫瘍細胞塊の内部において起こり得る。
【0084】
本明細書中で使用される「多分化能性」は、3つの胚葉のいずれか、即ち(例えば、胃内層、胃腸管、肺、肝臓、胸腺、上皮小体及び甲状腺を生じる)内胚葉、(例えば、筋肉、骨、血液及び尿生殖器細胞を生じる)中胚葉又は(例えば、表皮組織及び神経系を生じる)外胚葉に分化する可能性を有する幹細胞として定義される。
【0085】
本明細書中で使用される「誘導多分化能性幹細胞」は、ある種の遺伝子の偏在的発現を誘発することで、非多分化能性細胞(通例は成体体細胞)からから人工的に導かれるタイプの多分化能性幹細胞として定義される。
【0086】
本明細書中で使用される「バイオマーカー」は、タンパク質のような細胞分子であるが、低分子量代謝産物とは異なり、生物学的状態の指標として使用されるものとして定義される。それは、正常な生物学的過程、病理学的過程、或いは治療学的介入又は毒性薬剤に対する薬理学的応答の指標として客観的に測定及び評価される特性又は分子である。細胞生物学では、バイオマーカーは特定の細胞タイプによって発現される分子である(例えば、タンパク質Oct−4は胚性幹細胞を同定するためのバイオマーカーとして使用される)。バイオマーカーは、マイクロアレイ分析、レポーター遺伝子アッセイ、定量的RT−PCR又は定量的免疫細胞化学のような、当業者にとって公知の各種技法によって測定できる。
【0087】
本明細書中で使用される「早期」又は「後期」バイオマーカーは、それぞれ細胞培養又は増殖の早期又は後期段階で発現される細胞バイオマーカーとして定義される。これらのバイオマーカーは、培養又は増殖のこれら様々な段階においてアップレギュレート又はダウンレギュレートされることがある。
【0088】
本明細書中で使用される「多重アッセイ」又は「多重化」は、単一の試料からの複数の検体、分子又はバイオマーカーを測定するタイプの実験室的方法として定義される。即ち、この技法は生きている細胞に対する複数の問いかけを可能にし、高含有量の情報の生成を可能にする。多重アッセイは、単一の検体又は単一のバイオマーカーを測定する方法と区別される。
【0089】
本明細書中で使用される「n番目」は、2から1000までの正の整数(例えば、2番目、3番目、4番目、5番目、6番目、7番目、8番目、9番目、10番目、…1000番目)を意味する。
【0090】
本明細書中で使用される「作用因子」は、未分化幹細胞の分化を誘発する物理的刺激(例えば、光、熱、放射)又は化学的処理である。化学的処理は、ホルモン、増殖因子などの化学物質の混合物を含み得る。作用因子は一般に、潜在的な毒物として評価される「化学物質」と異なっている。作用因子及び化学物質が同一のものである場合、これらは本発明の方法では相異なる濃度で使用される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、発生経路ネットワーク(バイオマーカーをカッコ内に示す)への幹細胞の分化を示す模式図である。
【図2】図2は、化学物質(20)の効果が、刺激又は作用因子(30)での処理後における未分化幹細胞(10)から分化細胞(40)への分化に関して評価される本発明方法の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
幹細胞及び胚性生殖細胞マーカー
幹細胞は、i)インビトロで非限定的に分裂しかつii)各種の成熟細胞タイプに分化する能力によって特徴づけられる未分化細胞である。これらは、全部で3つの胚性胚葉(即ち、外胚葉、中胚葉及び内胚葉)の細胞タイプを生成し得る多分化能性幹細胞として類別できる。これらには、(生殖隆起から導かれる)胚性始原生殖細胞及び再プログラムされた誘導多分化能性幹細胞がある。成体幹細胞は多能性であって、特定の発生経路に沿って分化する。
【0093】
これから現れる技術は、幹細胞分化の様々な段階に対するマーカーを同定するための手段を提供することを約束している。幹細胞を含む各細胞タイプは、細胞特異的な遺伝子の発現をもたらす細胞特異的な転写調整機構によって維持される特異なシグナリングネットワークを有している。したがって、体内の274のタイプは、人体内に存在する約25000の遺伝子の組合せ発現によって定義される(Ahn, S.M.,et al., 2008 Proteomics 8, 4946−4957)。
【0094】
胚性幹細胞分化の初期ステージは3つの胚性胚葉(即ち、外胚葉、中胚葉及び内胚葉細胞)の生成を含み、すべての最終分化細胞はこれら3つの細胞タイプから導かれる。図1は、発生経路ネットワークへの幹細胞の分化を示している。バイオマーカーは、図中のカッコ内に示されている。即ち、Oct4は胚性幹細胞に関するバイオマーカーである一方、Nagginは神経幹細胞に関するバイオマーカーである。また、早期及び後期バイオマーカーも図示されている。即ち、DSS3はニューロン発生の早期ステージで発現されるバイオマーカーである一方、NeuNはニューロン発生の後期ステージで発現される。
【0095】
幹細胞集団によって示される初期分化度を評価するためには、以下の胚葉マーカーを使用できる。
【0096】
分化の後期ステージでは、一層多くの細胞/組織特異的マーカーが使用される。
【0097】
胚性幹細胞マーカー
[1]Nanog(抗体ab21603)−早期胚並びにマウス及びヒトの胚性幹(ES)細胞及び胚性生殖(EG)細胞を含む多分化能性幹細胞に対して特異的である。
【0098】
[2]SOX2(抗体ab12830)−胚性幹細胞マーカー。
【0099】
[3]SSEA4(抗体ab16287)−ステージ特異的な胚性抗原4は、胚発生の早期及び多分化能性幹細胞で発現される。
【0100】
[4]Oct4(抗体ab27985)−未分化胚性幹細胞及び胚性生殖細胞によって発現される転写因子。
【0101】
[5]TRA−1−60(抗体ab16288)−ヒトテトラカルシノーマの表面並びに胚性遺伝子及び幹細胞で発現される抗原と反応する。
【0102】
[6]TRA−1−81(抗体ab16289)−ヒトの胚性幹細胞、生殖細胞及びカルシノーマ細胞のマーカー。
【0103】
[7]Cripto(抗体ab19917)−ES細胞及び胚発生の早期に発現される。
【0104】
[8]CD133(抗体ab19898)−神経幹細胞及び胚性幹細胞を含む幹細胞及び前駆細胞に対するマーカー。
【0105】
[9]A2B5(抗体ab53521)−A2B5は、発生中の上皮細胞、乏突起膠細胞前駆細胞及び神経内分泌細胞で発現される細胞表面ガングリオシドエピトープである。
【0106】
[10]PAX6(抗体ab5790)−眼、鼻、中枢神経系及び膵臓の発生で重要な転写因子。
【0107】
[11]インテグリンβ1(抗体ab5185)−幹細胞マーカー。
【0108】
[12]CEA Carcino胚性抗原(抗体ab46538)−胎児腸発生中に発現される。
【0109】
[13]Tnk1(抗体ab70402)−胚性幹細胞のキナーゼ。
【0110】
[14]ERAS(抗体ab67696)−胚性幹(ES)細胞で発現され、そのインビトロ増殖及び腫瘍化を促進する。
【0111】
[15]STELLAR(抗体ab78559)−生殖細胞及び胚性幹細胞で富化されたタンパク質。
【0112】
始原幹細胞マーカー
[1]DDX4(抗体ab13840)−卵巣及び睾丸で発現される始原生殖細胞マーカー。
【0113】
[2]Fragilis(抗体ab15592)−生殖系列細胞の運命に関係している。
【0114】
[3]Stella(抗体ab19878)−始原生殖細胞、卵母細胞、着床前胚及び多分化能性細胞で特異的に発現される始原生殖細胞マーカー。
【0115】
[4]NANOS2(抗体ab15731)−無脊椎動物及び脊椎動物の両方において生殖細胞発生に関係する始原生殖細胞マーカー。
【0116】
中胚葉マーカー
[1]ブラキュリ(抗体ab20680)中胚葉マーカー−中胚葉形成の最も早期の指標。中胚葉分化のマーカーとして使用される。
【0117】
[2]Tbx6(抗体ab30946)−原始線条及び前体節中胚葉で発現される。
【0118】
[3]TBR2/Eomes(抗体ab23345)−Tボックスブレイン2は、発生中に中間前駆細胞によって発現される転写因子である。
【0119】
[4]PHOX2A及び2B(それぞれ抗体ab54847及びab12047)−複数の主ニューロン集団の発生に関係するホメオボックス様転写因子。
【0120】
[5]PRRX1及び2(抗体ab67631及びab77655)−対をなすホメオボックスタンパク質ファミリーのメンバー。
【0121】
[6]MESDC2(抗体ab68809)−マウス胚極性の特定のために不可欠。
【0122】
[7]Mesp1及び2(それぞれ抗体ab77013及びab23733)−Mesoderm posterior 1/2は、前部前体節中胚葉における分節/パターン化に役割を有する転写因子である。
【0123】
[8]MIER1及び3(それぞれ抗体ab26254及びab69877)−中胚葉誘導早期応答遺伝子ファミリーのメンバー。
【0124】
[9]SNAIL(抗体ab17732)−中胚葉形成のために不可欠の転写因子。
【0125】
外胚葉マーカー
EED(抗体ab4469)−遺伝子の転写抑制状態の維持に関係するポリコーム(Polycomb)グループファミリー。ES細胞の分化中に発現される。
【0126】
TIF1 gamma(抗体ab333475)−細胞分化及び発生において機能し、造血細胞の分化で役割を果たす。
【0127】
KLH25(抗体ab55953)−外胚葉神経皮質タンパク質。
【0128】
EDA(ab54386)−外胚葉器官の発生中における細胞−細胞シグナリングに関与する腫瘍壊死因子ファミリーに属する。
【0129】
GJB6(抗体ab59927)−欠損は、外胚葉由来の組織に影響を及ぼす1群の発生障害を構成する外胚葉性異形成の原因となる。
【0130】
ENC1(抗体ab56348)−外胚葉神経皮質タンパク質1。
【0131】
EDAR(抗体ab56803)−エクトジスプラシンA受容体。
【0132】
SOSTDC1(抗体ab56079)−着床に対する子宮内膜受容性/脱落膜細胞反応に対する増感の開始に関与する。
【0133】
NCAM(抗体ab6123)−網膜芽細胞腫、髄芽細胞腫、星状細胞腫及び神経芽細胞腫のような神経外胚葉由来細胞株、組織及び新生物上で発現される。
【0134】
CD99(抗体ab8855)−CD99の発現は、初生末梢神経外胚葉腫瘍由来の細胞の特性である。
【0135】
内胚葉マーカー
[1]Ki67(抗体ab833)−Ki67抗原は、活性細胞周期のすべての段階において増殖中の細胞により発現される原型の細胞周期関連核タンパク質である。
【0136】
[2]Rb(抗体2G5、ab1116)−細胞周期の負の調節体としてとして機能する腫瘍抑制遺伝子。
【0137】
[3]カリン1、2及び3(それぞれ抗体ab1868、ab1870及びab1871)−中胚葉マーカー。
【0138】
[4]サイクリンE及びE2(それぞれ抗体ab1108及びab1110)−サイクリンEはCdk2の調節サブユニットであり、哺乳動物の細胞周期中にG1/S転移を制御する。
【0139】
心筋細胞分化
i)分化を達成するためのプロトコル、ii)阻害剤の詳細及びiii)心筋細胞マーカー
前駆細胞から心筋細胞への分化は、McBurney, M.W.et al(1982) Nature 299, 165−167、Smith, S.C et al(1987) J.Cell Physiol. 131, 74−84及びPuceat, M. 2008, Methods, 45, 168−171に記載されたもののような、十分に特徴つけられかつ公表されたプロトコルを用いて可能である。これらのプロトコルを用いれば、胚性カルシノーマ細胞及び幹細胞のような多分化能性及び多能性前駆細胞から心筋細胞を生成することが可能である。
【0140】
心筋細胞分化−マウスP19由来の心筋細胞
P19細胞は、DMSOの存在下で増殖させた場合、インビトロで収縮する心筋細胞に分化するマウス多能性胚性カルシノーマ細胞である[McBurney, M.W.(1993) Int. J. Dev. Biol. 37, 135−140]。この分化は、McBurney, M.W.et al(1982) Nature 299, 165−167及びSmith, S.C et al(1987) J. Cell Physiol. 131, 74−84に記載された方法を用いて達成できる。P19細胞は、ATCC(カタログ番号CRP−1825)から商業的に入手できる。
【0141】
McBurney,M.W.et al(1982)に記載された「バルク培養」方法は、簡単に述べれば、15%(v/v)熱不活性化ウシ胎児血清、50μg/mlストレプトマイシン、50単位/mlペニシリン、β−メルカプトエタノール(100nM)及びピルビン酸塩(1mM)を含むRPMI培地中において水飽和雰囲気(5.0〜7.5%CO2)下でP19細胞を37℃で増殖させることを含んでいる。対数増殖している細胞を、100mm Ultra低結合細胞培養皿(Corning社、カタログ番号3282)内において2×104細胞/mlで分化培地(20%熱不活性化ウシ胎児血清を含みかつ1%DMSOを補充した増殖培地)中に継代培養する。4日後、細胞凝集物を、DMSOを含まない新鮮な分化培地を含む100mm Falcon組織培地皿(カタログ番号353003)に移す。分化培地及びDMSOに暴露してから約6日後、凝集物中に拍動する心筋細胞が現れる。
【0142】
Smith,S.C.et al(1987)に記載された、P19細胞を心筋細胞に分化させるための「懸滴」方法は、McBurney,M.W.et al(1982)のバルク培養方法に類似している。しかし、分化培地及びDMSOに暴露した後、少量の細胞を100mm Corning Ultra低結合細胞培養皿のルーフに移す。細胞を給湿雰囲気中に維持するため、細胞をPBS溶液の上方にさかさに配置する。4日目に分化培地を交換し、約6日目に拍動する心筋細胞が現れる。
【0143】
心筋細胞分化−胚性幹細胞由来の心筋細胞
マウス胚性幹細胞株CGR8、R1及びBS1の分化のためのプロトコルは、Puceat,M. 2008, Methods, 45, 168−171によって以前に記載されている。CGR8及びR1は、それぞれECACC(カタログ番号07032901)及びATCC(カタログ番号SCRC−1011)から商業的に入手できる。BS1細胞株は、Zeineddine,D.et a!., 2006, Dev. Cell 11, 535−546に記載されかつ特性決定された。
【0144】
本プロトコルは、分化を開始させるための細胞凝集物(胚様体としても知られる)の生成、及び心臓系統への分化効率を高めるための増殖因子の使用を含んでいる。本プロトコルは、マウス及びヒト胚性幹細胞の両方の分化に適用できる。マウス及びヒト胚性幹細胞の増殖に関する大きな相違点は、マウス細胞/が白血病抑制因子の存在下で線維芽細胞フィーダー細胞なしに増殖させ得るのに対し、ヒト細胞は伝統的に多分化能性を維持するためフィーダー細胞及びFGF2を必要とすることである。
【0145】
分化過程を開始させる24時間前に、対数増殖しているマウス胚性幹細胞を増殖培地中で2.5ngの組換えヒトBMP2(Invitrogen社)に暴露する。増殖培地は、BHK21培地(Invitrogen社)、ストレプトマイシン(50μg/ml)、ペニシリン(50単位/ml)、非必須アミノ酸(1mM)、ピルビン酸ナトリウム(1mM)、グルタミン(1mM)、メルカプトエタノール(100nM)、ウシ胎児血清(7.5%v/v)及び組換え白血病抑制因子(1単位/ml)からなっている。継代培養後、(胚様体の生成を容易にするため)細胞を分散させ、低速遠心によって回収し、組換え白血病抑制因子を含まずかつ20%(v/v)ウシ胎児血清を補充した増殖培地からなる分化培地中に25000細胞/mlで再懸濁する。すべての細胞操作は、37℃及び5〜7.5%CO2で実施する。
【0146】
細胞(500個)を100mm Corning Ultra低結合細胞培養皿の下面に20μlアリコートとして配置する。蒸発を防止するため、底部にPBSを配置する。胚様体の形成を48時間進行させる。その後、すべての胚様体を10ミリの分化培地中に静かに再懸濁し、さらに72時間インキュベートする。5日目、胚様体を0.1%ゼラチンでコートしたFalcon 100mm組織培地皿にプレーティングする。約7日後に拍動するマウス心筋細胞が現れるはずである。
【0147】
ヒト胚性幹細胞由来の心筋細胞の生成では、次の増殖培養−メルカプトエタノール(100nM)、グルタミン(1mM)、非必須アミノ酸(1mM)、15%(v/v)KOSR血清代替品(Invitrogen社)及び10ng/ml組換えヒトFGF2(Invitrogen社)を補充したKO−DMEM(Invitrogen社)を用いて、下記の対数増殖しているI−6ヒト胚性幹細胞(Technicon−Israel Institute of Technology)をE14マウス胚性繊維芽細胞上で培養する。I−6ヒト胚性幹細胞株はNIHによって承認されている。
【0148】
I−6細胞を心筋細胞に分化させるため、低下したKOSR血清代替品濃度(5%v/v)を有しかつFGF2を含まないが10ng/ml BMP2を補充した増殖培地及びFGF2受容体阻害剤SU5402(1μM、Calbiochem社カタログ番号572630)に細胞を48時間暴露する。
【0149】
マウス細胞を分化させるために設計されたものと同様なプロトコルを用いて、上述したようにヒト胚様体を生成する。コラゲナーゼCLS2(Invitrogen社)を用いてI−6細胞を酵素的に解離させた後、5% KOSR血清代替品、メルカプトエタノール(100nM)、グルタミン(1mM)及び非必須アミノ酸(1mM)を補充したKO−DMEM培地中に細胞を再懸濁し、細胞凝集を容易にするため、Corning Ultra低結合細胞培養皿に移す。約2週間後に拍動するヒト心筋細胞が認められる。
【0150】
最近、ヒト胚性幹細胞(hES2及びhES3)をマウス内胚葉様END2細胞と共培養することに基づく無血清懸濁培養方法が、Mummery C.L.et al., 2007 Curr Protoc Stem Cell Biol Chapter 1 Unit 1F.2及びMummeryC.L. (2007) Cardiomyocyte differentiation in human ES cellsに記載されている。Human Stem Cells,Chapter 4,pp 93−106(Eds. Freshney R.I., Stacey,G.N. and Auerbach,J.M.)では、END2細胞調整培地の使用のため、この方法はさらにGraichen et al. 2008 Differentiation 76 357−370によって改変されている。いずれの方法も、前述のようにして胚様体を生成することを含んでいる。
【0151】
心筋細胞分化の阻害剤
マウスHSP25の発現は、P19細胞の心筋細胞分化のために重要である。p38経路によるHSP25のリン酸化は、その機能の一部にとって重要であることが知られている。特異的阻害剤SB203580(10μM)によるp38経路の阻害は、マウスP19細胞から心筋細胞への分化を妨げることが示されている[Davidson,S.M. & Norange,M. (2000) Dev. Biol, 218, 146−160]。この研究では、分化は、単一の心臓マーカー(心臓アクチン)の存在を免疫組織化学によってモニターすると共に、心臓アクチン及び心房ナトリウム排泄ペプチドの発現をRT−PCRによってモニターすることで評価された。
【0152】
SB203580[4−(4’−フルオロフェニル)−2−(4’−メチルスルフィニルフェニル)−5−(4’−ピリジル)イミダゾール]は、Promega社(カタログ番号V1161)から商業的に入手できる。それは、MAPキナーゼ相同体p38α、p38β及びp38β2の特異的な細胞透過性阻害剤である。SB203580は、ERK、JNK、p38γ又はp38δの活性に対して顕著な効果を示さない。
【0153】
Graichen,R.et al(2008) Differentiation, 76, 357−370は、1〜10μMのSB203580が実際にヒト胚性幹細胞からの心筋細胞生成を増強することを証明した。しかし、濃度を15μMに高めると心筋細胞の数は劇的に減少し、25μMでは分化が完全に阻止された。したがって、SB203580の機能は種及び用量の両方に依存すると思われる。これらの著者はまた、別のp38MAPキナーゼ阻害剤SB202190についても同様な濃度効果を証明した。彼らはまた、ヒト胚性幹細胞の心筋細胞分化の阻害剤として、SB216763(10〜25μM、GSK−3阻害剤)、PD098059(5〜25μM、MAPKK阻害剤)、アニソマイシン(0.01〜100μM、JNK/SAPK及びp38活性化剤)、ATA(0.01〜100μM、JAK2/STAT5活性化剤)、FTT(0.01〜100μM、PKC活性化剤)及びOAG(0.01〜100μM、Ca2+依存性PKC)も報告した。
【0154】
心筋細胞分化の他の阻害剤には以下のものがある。ナトリウム/プロトン交換体1(NHE1)阻害剤EMD87580は、Lei,L.et al(2008) Shen Wu Gong Xue Bao, 24(10) 1790−1795により、DMSO誘導中におけるマウスP19胚性カルシノーマ細胞の心筋細胞分化を阻害することが証明された。Li,X.et al(2009) Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol., 196, 1, 159−170は、マウス胚性幹細胞株CGR8において同様な結果を証明した。PI−3キナーゼLY294002(50μM)は、マウス胚性幹細胞から心筋細胞への分化を阻止する[Klinz,F.,et al(1999) Exp. Cell Res., 247(1) 79−83]。
【0155】
これらの阻害剤の大部分は商業的に入手できる。例えば、SB202190(Millipore社カタログ番号19−134)、LY294002(Promega社V1201)、SB216763及びアニソマイシン(それぞれTocris Bioscience社カタログ番号1616及び1290)の通りである。
【0156】
心臓発生に対するSB203580などの阻害剤(及び化学物質、薬物又は化粧品)の効果は、前駆幹細胞の分化中にモニターすることができる。前駆細胞を阻害剤に暴露した後、当業者にとって公知である定量的免疫細胞化学のような技法により分化細胞タイプに関連する細胞/組織特異的マーカーの発現を測定して分化の程度をモニターすることで細胞発生過程に対する効果が評価される。
【0157】
図2は、刺激又は作用因子(30)で処理した後、2以上のバイオマーカー(15、45及び47)のレベルを測定することにより、未分化幹細胞(10)から分化細胞(40)への分化に対する化学物質(20)の効果を評価する本発明方法の一実施形態を示している。幹細胞(10)は、分化を誘発する刺激又は作用因子(30)への暴露前又は暴露後に化学物質(20)に暴露することができる。かくして、例えば心筋細胞発生に関して言えば、幹細胞(15)又は心筋細胞(45、47)中に存在する2以上のバイオマーカーのレベルを測定することにより、幹細胞(10)から心筋細胞(40)への分化に対する化学物質(20)の潜在的な効果を測定できる。
【0158】
心臓発生を表すマーカーには以下のものがある(Abcam社から商業的に入手できる抗体の起源も記載されている)。
【0159】
心臓幹細胞マーカー
[1]ヒアルロナンシンターゼ1(抗体ab75329)−心臓発生に関係する。
【0160】
[2]OSR1(抗体ab76689)−中内胚葉で、続いて内胚葉及び中間中胚葉で発現される転写因子。
【0161】
[3]Sca1(抗体D7、ab25031)−これは多能性造血幹細胞上で発現される。
【0162】
心筋細胞前駆細胞のマーカー
[1]ALPK3(抗体ab57526)−心筋細胞分化で役割を果たす。
【0163】
[2]ペリオスチン(抗体ab14041)−胚及び胎児心臓で発現され、最終的に原始心臓管を4室に区分する心臓内隆起に局在する。
【0164】
[3]Mesp1(抗体ab77013)−Mesp1は心臓血管系の前駆細胞の多くで発現され、心臓形態形成の過程で役割を果たすことが知られている。
【0165】
心筋細胞−早期マーカー
[1]Nkx2.5(Abcam社−ab35842)−心筋層及び心内膜の両方で発現される。
【0166】
[2]ミオカルディン抗体(Abcam社−ab22621)−ミオカルディンは、1組の心筋及び平滑筋特異的遺伝子の発現を調節する。それは、心臓発生及び平滑筋細胞系統の分化で決定的な役割を果たす。
【0167】
[3]GATA4抗体(Abcam社−ab61170)−心臓発生に関与する転写因子であって、心筋及び平滑筋細胞タイプにおける基礎遺伝子、アゴニスト遺伝子又はストレス誘発遺伝子の発現を調節することで役割を果たす。
【0168】
[4]MEF2C(抗体ab43796)−心臓形態形成及び筋形成を制御する転写活性化剤であって、血管発生にも関与する。それはまた、神経形成及び皮質構造の発生にも関与する。
【0169】
[5]HAND1(抗体ab52767)−早期心臓形態形成で本質的な役割を果たす転写調節剤である。成体では、それは心臓特異的遺伝子の発現のために必要である。
【0170】
[6]IRX4(抗体ab56032)−発生中に心臓で発現される。
【0171】
[7]TBX5(抗体ab18531)−TBX5は、心臓発生で役割を果たすことができる。
【0172】
[8]Tbx20(抗体ab42468)−発生中の心臓で発現される。
【0173】
[9]転写因子25(抗体ab67762)−インビトロでSRFの転写抑制剤として作用し、したがって心臓発生で役割を果たすことができる。
【0174】
心筋細胞−後期マーカー
[1]心臓トロポニンT抗体(Abcam社−1C11、ab8295)−心筋層のみで発現され、心臓トロポニンTはトロポニン複合体のトロポミオシン結合サブユニットである。
【0175】
[2]心臓トロポニンI抗体(Abcam社−28419C7、ab19615)−トロポニンIは、骨格筋及び心筋収縮の調節で重要な役割を果たすヘテロマー複合体の一部である。
【0176】
[3]重鎖心臓ミオシン抗体(Abcam社−3−48、ab15)−心臓MHCは、2つの異性体(α−心臓MHC及びβ−心臓MHC)として存在する。いずれもヒト心臓で発現され、β−心臓MHCが優勢な形態である。
【0177】
[4]ミオシン軽鎖抗体(&1LC−14、ab50080)−ミオシンは、2本の重鎖及び4本の軽鎖からなっている。心室ミオシン軽鎖1(Abcam社−MLM527、ab680)及び心臓ミオシン軽鎖1(1LC−14、ab50080)。
【0178】
[5]ミオシン軽鎖2抗体(Abcam社−ab48003)−ミオシン軽鎖2は心臓ミオシンβ重鎖と会合している。
【0179】
[6]心臓FABP抗体(Abcam社−67D3、ab16916)−心筋組織で発現され、骨格筋ではそれより顕著に低い濃度で発現される。
【0180】
[7]αサルコメアアクチン抗体(5C5、ab7799)−αアクチンは、アクチンのイソフォームの1つである。脊椎動物では、3群のアクチンイソフォーム、即ちα、β及びγが存在している。αアクチンは筋肉組織中に見出され、収縮装置の主成分である。この抗体はα−心筋アクチンと反応する。
【0181】
心室マーカー
[1]BMP10(抗体ab34962)−心室発生中において心筋細胞の増殖及び成熟を変調する際の必須成分。
【0182】
[2]HAND2(抗体ab56590)−発生中の心室で発現され、心臓形態形成で本質的な役割を果たす。
【0183】
サルコメアマーカー
[1]サルコメアαアクチニン抗体(Abcam社−EA−53、ab9465)−ACTN2は、骨格筋及び心筋の両方で発現される筋肉特異的なαアクチニンイソフォームをエンコードする。心筋及び骨格筋における筋管の張力繊維中のZ線及びZ点に位置している。
【0184】
[2]血清応答因子(抗体ab36747)−心臓での拍動するサルコメアの出現のために必要な心臓富化転写因子。
【0185】
他の心臓マーカー
[1]HEY2(抗体ab70133)−哺乳動物の心臓発生の重要な決定子である転写因子。
【0186】
[2]KLF13(抗体ab15701)−心臓発生のために必要な転写因子。
【0187】
[3]MEF2ファミリーの転写因子
MEF2A(抗体ab55547)−心筋及び骨格筋の発生に重要な役割を有する。
【0188】
MEF2B(抗体ab55565)−発生中に多くの筋肉関連遺伝子の発現を調節する。ある種の神経形成細胞の分化に関与する。
【0189】
MEF2D(抗体ab43797)−未分化の筋芽細胞中に存在していて、筋発生の非常に早期のステージで役割を果たし得ることを示唆している。筋形成細胞及び若干の神経形成細胞の分化に関与する。
【0190】
[4]ホスホランバン抗体(Abcam社−2D12、ab2865)−心臓筋小胞体(SR)のカルシウムポンプを調節する。
【0191】
上述した方法及びその変法は、胚性幹細胞及びカルシノーマ細胞のような前駆細胞を心筋細胞に分化させるため日常的に使用されている。この分化過程は、SB293580のような化学物質によって阻害することができる。様々な分化方法、特性決定された阻害剤及び抗体を組み合わせることは、化学的傷害後の哺乳動物細胞/組織発生に対する効果を評価するための多重定量的免疫細胞化学方法の基盤となろう。
【0192】
神経分化
i)分化を達成するためのプロトコル、ii)阻害剤の詳細及びiii)神経マーカー
前駆細胞から神経系統への分化は、下記に記載されるもののような、十分に特徴つけられかつ公表されたプロトコルを用いて可能である。これらのプロトコルを用いれば、胚性カルシノーマ細胞及び幹細胞のような多分化能性及び多能性前駆細胞からニューロン細胞を生成することが可能である。
【0193】
胚性幹(ES)細胞及びカルシノーマ(EC)細胞は、いずれも迅速に分裂してニューロンを含む各種の細胞タイプに分裂し得るので、ニューロン分化を研究するための基準の多くを満足する。ES細胞は多分化能性であるが、しばしばフィーダー細胞又は高価な増殖因子を必要とする厳しい培養条件を要求する。しかし、EC細胞は培養が容易であり、フィーダー細胞を必要とせず、比較的簡単な培地中で維持できる。EC細胞の欠点は、これらが腫瘍細胞であり、遺伝的に異常であり、限られた分化能力を示すことである。しかし、これらは分化研究のための簡単で頑強な系を提供する。
【0194】
EC細胞株NTERA2はニューロン分化を研究するために使用されており、レチノイン酸への暴露により、培養中の一次ニューロンによって生成されるものと同様なニューロンが信頼可能に生成される。レチノイン酸暴露は、Oct4、SSE3、TRA−1−60及びTRA−1−81のような幹細胞マーカーの喪失並びにNeuroD1、β−III、チューブリン及びニューロフィラメントのような神経マーカーのアップレギュレーションをもたらす。この分化過程は非常に予測可能であって一貫している。レチノイン酸への暴露及び有糸分裂阻害剤の存在下における細胞の再播種は、本質的に純粋なニューロン集団の生成を容易にする(Leypoldt F.,et al., 2001, Neurochem. 76, 806−814)。これらは本質的に機能的に成熟していて、コリン作動性、GABA作動性及びセロトニン作動性受容体のようなシナプス及び神経伝達物質表現型を発現する(Hartley et al., 1999, J. Comp. Neurol., 407, 1−10)。
【0195】
前駆細胞の神経分化
Leypoldt F.,et al.,2001(Neurochem. 76, 806−814)によって実施されたNTERA2細胞の神経分化は、簡単に述べれば以下の通りである。5%ウシ胎児血清を補充したOptiMEM(Invitrogen社)培地中において、細胞を37℃及び5%CO2で日常的に維持した。10%ウシ胎児血清を補充した高グルコースDMEM(Invitrogen社)を含む細菌学的皿内において細胞凝集法(1×106細胞/ml)を実施した。一晩後、培地に1μMトランス−レチノイン酸を添加した。培地及び培養皿は3日毎に交換した。レチノイン酸の存在を21日間維持した後、[有糸分裂阻害剤シトシン−D−アラビノフラノシド(10μg/ml)及びウリジン(1μg/ml)を補充した]凝集培地を含む、ポリ−D−リシン及びラミニン(共に10μg/ml)でコートした細胞培養処理皿に細胞凝集物を移した。これらの条件を約7日間継続し、培地は2〜3日毎に交換した。(約4週間続く)この長期プロトコルは、高率のNTERA2細胞をニューロンに効率よく分化させることを容易にする。
【0196】
NTERA2細胞からは、機能的なシナプスを発現するニューロン細胞も生成された。Hartley et al., 1999,(J. Comp. Neurol., 407, 1−10)はNTERA2細胞を一次星状膠細胞と共培養したところ、得られたニューロンはグルタミン酸作動性及びGABA作動性シナプスを生成した(加えてそのインビトロ生存度は1年超に延びた)。一次星状膠細胞は、Cadelli,D.S.and Schwab,M.E.,1991,(Ann. N.Y. Acad., Sci., 633, 234−240)の方法に従って18〜21日ラット胚の大脳半球から単離した。NTERA2ニューロン(1×105)をポリ−D−リシン及びMatrigel(商標)(BDbiosciences社)でコートしたカバースリップ上に播種し、35mm細胞培養処理皿内においてコンフルエントな星状膠細胞と共に(しかし接触はさせずに)共培養した。共培養物は、高グルコースを補充したDMEMと星状膠細胞調整培地との1:1混合物中に維持した。6週間後、電子顕微鏡写真はシナプスの存在を示し、シナプシンIの発現が免疫組織化学によって証明された。グルタミン酸作動性、GABA作動性及びNMDA伝達が、それぞれ選択的アンタゴニストCNQX(10μg/ml)、ビククリン(20μg/ml)及びAPV(100μM)を用いた電気生理学によって確認された。
【0197】
(NTERA2細胞のような)未分化ヒトES細胞はマーカーOct4、SSE3、TRA−1−60及びTRA−1−81を発現するが、これらはすべて分化後にダウンレギュレートされる。レチノイン酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はヘキサメチレンビスアセトアミドによるニューロン分化後、誘導ES細胞はESマーカーのダウンレギュレーション並びに神経ガングリオシド糖脂質GD2、GD3及びA2B5の発現増加を示す(Draper J.,et al.,2002,J.Anat.,200,249−258)。これらの細胞表面マーカーは、早期分化中の細胞から見込みのある神経前駆細胞を単離するためにしばしば使用される。神経系統から細胞を単離するための他の有用なマーカーには、N−CAM、neuroD1、NSE、ネスチン、β−チューブリン及びMusashi 1がある。乏突起膠細胞は、マーカーOlig−1、−2、−3及び−4を用いて同定できる(Jackson J.P.,et al.,2007, Techniques for neural differentiation of human EC and ES cells.In,Culture of human stem cells eds. Freshney R.I., Stacey,G.D. & Auerbach J.M. J.Wiley & Sons社)。
【0198】
前駆細胞の神経分化を促進するための方法には細胞凝集法がある。この方法は、(NTERA2、P19及びPC12細胞を含む)ES及びEC細胞の分化を誘導するため日常的に使用されている。細胞凝集法は細胞の接触を増加させ、インビボ発生及びインビトロ分化の重要な側面である細胞間シグナリングを促進する。初期の神経分化技法は血清含有培地中でレチノイン酸を使用したが、現在ではこれらは一層良好に定義された無血清方法によって置き換えられている。
【0199】
神経分化−無血清限定培地
無血清限定培地を使用する細胞凝集技法によるEC及びヒトES細胞からの神経球の生成は、NTERA2細胞からラジアルグリア細胞を生成することが示された(Marchal−Vitorion S.,et al., 2003, Cell Neurosci., 24, 198−213)。これはマルチステージプロセスであり、神経球は培地にFGF−2を補充すれば無期限に維持できる。ヒトES細胞を用いれば、FGF−2の除去後に神経球は星状膠細胞、ニューロン及び乏突起膠細胞に分化する(Zhang,S.C.et al.,2001,Nat.Biotechnol.19,1129−1130)。
【0200】
神経球を生成するため、Marchal−Vitorion S.,et al.,2003,Cell Neurosci.,24,198−213は、N2(Life Technologies社)、グルタミン(2mM)、グルコース(0.6%w/v)、インスリン(20μg/ml)、ヘパリン(2μg/ml)、EGF(20ng/ml)及びFGF(10ng/ml)を補充した無血清限定培地DMEM/F12(Invitrogen社)を含む25cm2フラスコ(1×105細胞/ml)内で増殖させたNTERA2細胞を使用した。神経分化を誘導するためには、得られた細胞凝集物又は神経球を解離させ、ポリ−D−リシンでコートした皿上に5×105細胞/cm2で播種し、増殖因子を除去した血清限定培地中でさらに10日間培養した。その後、これらのNTERA2神経球は乏突起膠細胞系統の細胞と共に高率(約50%)の未熟ニューロンを生成することが示された。
【0201】
不活性化されたマウス胚性線維芽細胞フィーダー層上で増殖させたヒトES細胞株H1及びH9を用いて、Zhang,S.C.et al., 2001,(Nat. Biotechnol. 19, 1129−1130)は、血清の不存在下だがFGF−2の存在下で神経様構造を示す神経前駆細胞を生成した。FGF−2の除去後、これらはニューロン、星状膠細胞及び乏突起膠細胞に分化した。ES/線維芽細胞共培養物の日常的維持は、20%v/v血清代替培地(Invitrogen社)、β−メルカプトエタノール(0.1mM)、ヘパリン(2μg/ml)及びEGF−2(4ng/ml)を補充したDMEM/F12培地からなるES細胞培地中で実施した。分化を誘導するためには、Dispase(商標)(0.1mg/ml、Invitrogen社)を用いてES細胞コロニーを取り出し、FGF−2を除去した限定ES細胞培地中に再懸濁した。25cm2細胞培養フラスコ内において細胞を浮遊胚様体として培養し、培地を毎日交換した。4日後、インスリン(25μg/ml)、トランスフェリン(100μg/ml)、プロゲステロン(20nM)、プトレッシン(60nM)、亜セレン酸ナトリウム(30nM)、ヘパリン(2μg/ml)及びFGF−2(20ng/ml)を補充したDMEM/F12中に胚様体を再懸濁した。分化中の胚様体を約10日間培養し、次いで付着を防ぐためにポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)でコートした新しいフラスコに移した。
【0202】
乏突起膠細胞を生成するためには、N1(Invitrogen社)及びPDGF−1(2ng/ml)を補充したDMEM中においてES細胞由来の神経前駆細胞をFGF−2の不存在下で培地した。約2週間後、典型的な乏突起膠細胞形態を有するolig4陽性細胞が認められた。
【0203】
ニューロン分化は、FGF−2(20ng/ml)の存在下でDMEM/F12、N2(Invitrogen社)、cAMP(100ng/ml)及びBDNF(10ng/ml)からなる培地中において細胞をオルニチン/ラミニン上で培養することで実施した。約10日後、付着性の球体から発する線維突起が認められた。大部分の細胞はニューロンマーカーMAP2ab及びβ−チューブリンを発現した。
【0204】
神経分化−共培養
ES及びEC神経分化の効率を高めようという追加の努力では、他の細胞株(例えば、PA6間質細胞)との共培養が使用された(Scwartz et al., 2005, Stem Cell Dev., 14, 517−534)。著者らは、PA6細胞のコンフルエントな単層上においてNTERA2細胞を(2000細胞/mlで)共培養した。PA6細胞は、10μg/mlのマイトマイシンで不活性化した。共培養物は、前述した分化培地(Leypoldt F.,et al., 2001, Neurochem. 76, 806−814)と同様な分化培地中に維持した。22日後、86%のNTERA2ニューロンにおいてチロシンヒドロラーゼを検出したが、これは成熟したドーパミン作動性表現型の存在を表していた。分化過程を容易にする因子がまだ完全には特徴づけられていないので、PA6間質細胞調整培地の使用はドーパミン作動性表現型を生成するのにあまり効果的でないことが示された。
【0205】
神経分化−単層
他の神経分化方法は、単層中におけるヒトES細胞の分化に基づいていた(Gerrard,L.,et al.,2005,Stem Cell,23,1234−1241)。これらの研究は、BMP阻害剤ノギンをES細胞培養物に添加すると神経前駆細胞の生成が生じることを示した。かかる方法では、FGF−2(20ng/ml)を補充したマウス胚性線維芽細胞調整培地中においてMatrigel(商標)(BD Biosciences社)上でES細胞を増殖させた。神経分化のためには、コンフルエントなES細胞を、100ng/mlのノギンを補充したN2B27神経分化培地(Invitrogen社)中で培養した。継代3で細胞を単一細胞に解離させ、FGF−2を補充したN2B27中で培養した。このプロトコルは、約97%の細胞が神経マーカームサシを発現する神経前駆細胞の生成をもたらした。N2B27処理細胞をポリ−L−リシン/ラミニンでコートした皿上に播種し、ソニックヘッジホッグ(300ng/ml)、FGF−8(100ng/ml)及びアスコルビン酸(160μM)を補充したN2B27培地中で2週間培養することで、チロシンヒドロラーゼを発現するニューロン及び神経前駆細胞が生成された。2週間後、ソニックヘッジホッグを除去し、BDNF(20ng/ml)、GDNF(20ng/ml)、アスコルビン酸(160μM)及びラミニン(500ng/ml)で置換した。
【0206】
この文書に記載された多くの神経分化方法のいくつかについては、Jackson J.P.,et al., 2007, Techniques for neural differentiation of human EC and ES cells(In, Culture of human stem cells eds.,Freshney R.I., Stacey,G.D. & Auerbach J.M.J.Wiley & Sons社)中に詳細な説明が示されている。例示的なプロトコルには、レチノイン酸によるヒトEC細胞神経分化の誘導、胚様体におけるヒトES細胞の神経分化、並びにヒトES細胞からの神経球の誘導及び分化がある。
【0207】
例1−レチノイン酸によるヒトEC細胞神経分化の誘導
NTERA2細胞を37℃及び空気中10%CO2で増殖培地(DMEM、4.5g/lグルコース及び10%v/vウシ胎児血清)中に維持する。NTERA2細胞を分化培地(10μMレチノイン酸を補充した増殖培地)中に75cm2フラスコ当たり1×106細胞で播種する。NTERA2細胞は2〜3日以内に神経分化を受け、約10日後にニューロンが現れる。
【0208】
例2−胚様体(細胞凝集物)におけるヒトES細胞の神経分化
対数増殖しているES細胞を胚様体(EB)培地(ノックアウトDMEM、20%ノックアウト血清リプレースメント、1%非必須アミノ酸、1mM β−メルカプトエタノール及び1mMグルタミン)中に再懸濁し、細胞付着を防止するための100mm Corning Ultra低結合細胞培養皿又は細菌培養皿内において37℃及び空気中5%CO2で培養する。培地は1日置きに交換する。懸濁状態で約21日後、分化したEBが現れる。これらをEB培地中のゼラチンコート表面上に25cm2当たり50の胚様体密度でプレーティングする。再プレーティングから約24時間後、付着した胚様体からの成長物として神経分化が見られる。
【0209】
例3−ヒトES細胞からの神経球の誘導及び分化
コンフルエントなES細胞をEB培地中に再懸濁し、25cm2細胞培養フラスコ内において37℃及び空気中5%CO2で4日間培養する。培地は毎日交換する。約4日後、DMEM/F12、N2サプリメント、FGF−2(20ng/ml)、インスリン(20μg/ml)及びヘパリン硫酸ナトリウム塩(2μg/ml)からなる神経球培地中にEBを入れ、ゼラチンでコートした25cm2フラスコ内にプレーティングする。培地は1日置きに交換する。約10日後、神経ロゼットが見られる。バチルス由来の神経メタロプロテアーゼDispase(商標)(100μg/ml、Invitrogen社)を用いて脱凝集した神経ロゼットを分離し、これらを神経球培地中に再懸濁し、DMEM/F12でコートしたフラスコ内において1%アガロース上に分配する。神経球を5日毎に新鮮な神経球培地で処理し、2〜3週間毎に継代培養する。分化試験のためには、神経球を神経球培地中においてゼラチンでコートしたフラスコ上に播種し、数回の継代後には神経球由来の細胞が培養物中において最も優勢な細胞タイプになる。これらの細胞は、通常、Musashi 1及びネスチンのような早期神経マーカーに対して陽性である。次いで、上記に略述された方法、即ちMarchal−Vitorion S., et al.,2003,(Cell Neurosci., 24, 198−213)及びZhang,S.C.et al., 2001,(Nat. Biotechnol. 19, 1129−1130)の方を用いて神経球を効率的に分化させることができる。
【0210】
神経分化の阻害剤
[1]アデノシンジアルデヒド
S−アデノシルメチオニン(AdoMet)は、DNAメチル化を含む広範囲の生物学的メチル化反応用の普遍的なメチル供与体である。遺伝子はCpG部位のメチル化によって転写的に不活性化することができ、これは時には細胞分化過程に関連する。例えば、神経分化はステージ特異的な遺伝子活性を制御する遺伝的プログラムのカスケートを要求する。これらの活性は、転写レベルばかりでなく、DNAメチル化を含む後成的修飾によっても制御される。
【0211】
AdoMet依存性メチルトランスフェラーゼによって実施されるメチル化反応は、2種の生成物、即ちメチル化基質及び副生物Ado−ホモシステイン(AdoHcy)を生成するが、後者はそれ自体がAdoMet依存性メチルトランスフェラーゼの強力な阻害剤である。AdoHcyは、酵素S−アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)によりさらに分解されてアデノシン及びホモシステインになる。したがって、SAHHの阻害はメチルトランスフェラーゼ阻害剤AdoHcyの蓄積をもたらす。アデノシンジアルデヒド(ADOx)はSAHHの強力な阻害剤であり、したがって間接的にAdoMet依存性メチルトランスフェラーゼ、ひいてはニューロン分化の強力な阻害剤である。
【0212】
P19は胚性カルシノーマ細胞であり、前述したようにレチノイン酸の存在下での細胞凝集方法でニューロンに分化させることができる。しかし、分化過程の初日に細胞をADOx(1μM)に暴露すると、i)観測される神経突起の数並びにii)ニューロンマーカーβ−チューブリン、NeuroD1及びmash1の発現レベルが減少した。したがって、ADOxはAdoMet依存性メチルトランスフェラーゼの間接阻害によってP19細胞のニューロン分化を遮断する(Hong,S.et al., 2008, Biochem. Biophys. Res. Commum., 377, 935−940)。
【0213】
[2]D−テオ−1−フェニル−2−デカノイルアミノ−3−モルホリノ−1−プロパノール(D−PDMP)
ガングリオシドは神経発生に関係していた。P19 EC細胞に関するインビトロニューロン分化モデルを用いて、Liour S.S.& Yu R.K.,2002,(Neurochemical Res. 27, 1507−1512)は、ガングリオシド生合成阻害剤であるD−テオ−1−フェニル−2−デカノイルアミノ−3−モルホリノ−1−プロパノール(D−PDMP)が神経突起の成長を阻害し、結局はP19由来ニューロンの死を引き起こすことを証明した。
【0214】
P19 EC細胞(1×106細胞/皿)を、2.5%ウシ胎児血清及び5%仔ウシ血清を補充したα−MEM(Invitrogen社)中で培養した。これらを細菌グレード皿内において5μMレチノイン酸の存在下で4日間分化誘導した後、レチノイン酸を除いた増殖培地中に分散させ、ポリリシンでコートした細胞培養皿上にプレーティングした。培地は約3日毎に交換した。レチノイン酸処理の3日前に、ガングリオシド阻害剤D−PDMP(50μM)を添加し、分化過程全体を通じて維持した。結果は、D−PDMPがi)細胞死の徴候なしに未分化P19 EC細胞の増殖を減少させ、かつii)神経突起の伸長を阻止した(注−神経突起は生じたが、正しく成長しなかった)ことを示した。他のガングリオシド阻害剤を使用することで、著者らは、ニューロン分化に対するD−PDMPの効果が単にガングリオシド生合成の阻害に関係するだけではないことを証明することができた。
【0215】
[3]インドカルバゾスタチン
インドカルバゾスタチンA、B、C及びDは、Streptomyces種によって生成され、すべてがラットPC12細胞のNGF誘導ニューロン分化の阻害剤であることが証明されている(Matsuura N et al. 2002, J. Antibiotics 55, 355−362及びFeng, Y.et al., J. Antibiotics 57. 627−633)。簡単に述べれば、0.35%グルコース、10%ウシ胎児血清及び10%ウマ血清を補充したDMEM中でPC12細胞を増殖させた。PC12細胞を96ウェルのコラーゲンタイプ1でコートしたプレートのウェル中にプレーティングした。12時間後、インドカルバゾスタチンを添加し、12時間後にNGFを添加した。神経突起の生成を観察することでニューロン分化をモニターした。
【0216】
[4]インドロカルバゾール
ラットPC12細胞のNGF誘導ニューロン分化のインドカルバゾスタチン仲介阻害に関して上記に記載したものと同様な実験において、インドロカルバゾールK−252a及びbも神経分化の有効な阻害剤であることが証明された(Matsuura N et al. 2002, J. Antibiotics 55, 355−362)。これらの化合物は、明らかに、p140 trkチロシンキナーゼNGF受容体を阻害することで神経突起伸長の阻害を仲介する。
【0217】
[5]2’−アミノ−3’−メトキシフラボン(PD98059)
PD98059は、MAPK/ERKキナーゼ1(MAPキナーゼキナーゼ1又はMEK1)の強力な細胞透過性かつ選択的阻害剤である。それはMEK1の活性化を阻止し、したがってそれに続くMAPキナーゼのリン酸化及び活性化を阻害する。Pang, L.et al., 1995(J. Biol. Chem. 270, 13585−13588)は、PD98059が細胞生存度に影響を及ぼすことなしにPC12細胞におけるNGF誘導神経突起形成を完全に阻止することを証明した。これは、MAPキナーゼ経路がPC−12細胞におけるNGF誘導ニューロン分化のために決定的に重要であるように思われることを示している。
【0218】
[6][7−(ベンゾリルアミノ)−4,9−ジヒドロ−4−メチル−9−オキソ−ピラゾロ[5,1−b]キナゾリン−2−カルボン酸]PD90780
置換ピラゾロキナゾリノンPD90780はNGFと相互作用し、それによってp140 trkチロシンキナーゼNGF受容体及び共通ニューロトロフィン受容体p75NTRに対するそれの結合を妨げる。NGFの結合を阻害することは、PC12細胞のNGFニューロン分化を阻止する(Spiegel K et al. 1995 Biochem. Biophys Res Commun. 217, 488−494)。
【0219】
[7]AG870
AG−879は、チルホスチン(tyrphostin)ファミリーのチロシンキナーゼ阻害剤の一員である。それは、EGF又はPDGF受容体のリン酸化を阻害することなく、p140 trkチロシンキナーゼNGF受容体の自己リン酸化を選択的に阻害する(IC50=10μM)。上記の化学物質と同じく、AG−879はPC12細胞におけるNGF誘導神経突起成長も阻害する(Ohmichi M et al. 1993, Biochemistry 4, 32 4650−4658)。
【0220】
神経発生に対する上記のもののような阻害剤(及び化学物質、薬物又は化粧品)の効果は、前駆幹細胞の分化中にモニターすることができる。前駆細胞を阻害剤に暴露した後、分化の程度をモニターすることで細胞発生過程に対する効果が評価される。これは、定量的免疫細胞化学のような技法により、分化細胞タイプに関連する細胞/組織特異的マーカーの発現を測定することで達成できる。
【0221】
神経発生を表す特異的な神経細胞マーカーには以下のものがある(Abcam社から商業的に入手できる抗体の詳細も記載されている)。
【0222】
神経幹細胞マーカー−早期マーカー
[1]アグリカンARCxx(抗体BC−3、ab3773)−神経前駆細胞で検出される。
【0223】
[2]CD133(抗体32AT1672、ab5558)−神経幹細胞及び胚性幹細胞に対するマーカー。
【0224】
[3]Dlx5(抗体ab54729)−神経発生中における転写調節剤。
【0225】
[4]EMX2(抗体ab11849)−Emx2は、CNSの発生中の大脳皮質においてOtx1/2と関係して細胞の運命を規定するホメオボックスタンパク質である。
【0226】
[5]ネスチン(抗体10C2、ab22035)−早期胚性神経上皮幹細胞で発現される。ネスチンは、幹細胞/前駆細胞、神経膠腫細胞に対するマーカーとして広く使用されている。
【0227】
[6]NeuroD1抗体(ab60704)−神経形成における重要な分化因子。
【0228】
神経幹細胞マーカー−後期マーカー
[1]BRN3A(抗体ab30880)−ニューロン遺伝子の調節に関係する転写因子。
【0229】
[2]BRN3B(抗体ab32264)−神経節細胞の亜集団内の網膜中に見出され、視覚系細胞の部分集合の正体を決定する。
【0230】
[3]Musashi 1/Msi1(抗体ab60600)−神経幹細胞で発現される。
【0231】
[4]NR2E1/Tailless(抗体ab66125)−脳で発現される。
【0232】
[5]ヌクレオステミン(抗体ab52784)−胚性及び成体CNS幹細胞中に見出される。
【0233】
[6]Oct6(抗体ab72681)−胚性幹細胞及び発生中の脳で発現される、早期胚形成及び神経形成に関与する転写因子。
【0234】
[7]Pax2(抗体ab55490)−中脳、後脳、脊髄、眼、耳を含む神経系の発生中に必要な転写因子。
【0235】
[8]SOX2(抗体57CT23.3.4、ab75485)−発生中の神経系で発現される転写活性化剤。
【0236】
[9]SOX4(抗体154C4a、ab70598)−CNSで発現される転写因子。発現は発生中のCNSで増加する。
【0237】
[10]SOX10(抗体ab27655)−神経堤及び末梢神経系発生のために重要な核細胞質シャトルタンパク質として作用する転写活性化剤。
【0238】
[11]SOX11(抗体ab50194)−SOX11は、発生中の神経系において重要である。
【0239】
[12]SOX22(抗体86C2a、ab54371)−胚の脳及び腎臓並びに成体の心臓で発現される転写活性化剤。
【0240】
[13]ビメンチン(抗体RV202、ab8978)−神経幹細胞マーカー。
【0241】
[14]CDw338(抗体BXP−21、ab3380)−造血細胞/神経幹細胞マーカー。
【0242】
神経堤細胞−マーカー
[1]ニューロゲニン1(抗体ab66498)−明確な前駆細胞集団で発現される転写因子。それはニューロン発生及び分化を調節する。
【0243】
[2]ニューロゲニン2(抗体ab57560)−新皮質発生を調節する転写因子。細胞増殖から神経形成への移行にはニューロゲニン2を必要とする。
【0244】
[3]ニューロゲニン3(抗体ab54743)−移動性神経堤細胞からの神経形成において重要な役割を果たす転写因子。
【0245】
[4]MASH1(抗体ab76987)−神経細胞の早期発生で発現される。脊髄、中央前脳及び腹側前脳の神経上皮に見出される。後には脳に見出される。
【0246】
星状膠細胞−マーカー
[1]星状膠細胞(抗体10E4/R5、ab3268)−星状膠細胞マーカー。
【0247】
[2]CaMKII(ab63377)−CNSのキナーゼであって、長期増強及び神経伝達物質放出で機能する。
【0248】
[3]EAAT1(抗体ab416)−前頭皮質、海馬及び基底核で発現される。
【0249】
[4]早期CD15抗体(28、ab20137)−星状膠細胞及びある種の上皮細胞で発現される。
【0250】
[5]ガングリオシドGD3(抗体MB3.6、ab78361)−すべての星状膠細胞腫がGD3抗原を発現する。
【0251】
[6]GFAP(抗体GF5、ab10062)星状膠細胞マーカー−星状膠細胞、大グリア細胞、末梢神経節中の衛星細胞、シュワン細胞及び神経幹細胞で発現される。
【0252】
[7]S100(抗体4C4.9、ab4066)星状膠細胞マーカー−星状膠細胞、シュワン細胞、上衣細胞腫及び大グリア細胞腫に局在する。
【0253】
[8]サービビン(抗体32.1、ab9178)−星状膠細胞及び若干のニューロゲニンで発現される。
【0254】
[9]他の星状膠細胞マーカーには下記のものがある。
ABCA1抗体(HJ1、ab66217)及びABCA7抗体(7A1−144、ab48265)
ALDH1L1抗体(ab56777)
トロンボスポンジン抗体(A4.1、ab3131)
グリア細胞及び小グリア細胞−早期マーカー
[1]CNTF(抗体4−68、ab78269)−CNS及びPNS内のグリア細胞で発現される。CNTFは各種の神経細胞タイプの分化を刺激する。
【0255】
[2]ツイスト(抗体2C1a、ab50887)−ツイストは、神経膠腫で発現される転写因子である。それはCNS発生及び血管形成において役割を有し得る。
【0256】
グリア細胞及び小グリア細胞−後期マーカー
[1]cCD11b(抗体ab8879)−神経組織で小グリア細胞マーカーとして常用されている。
【0257】
[2]Iba1/AIF1(抗体ab54749)−小グリア細胞によって発現されるCa2+結合ペプチド。
【0258】
[3]MRP8(抗体2C5/4、ab19860)−小グリア細胞によって発現される。
【0259】
[4]Nfasc155抗体(ab77951)−Nfasc155はグリア中の無髄軸索にある。
【0260】
[5]PAX6(抗体AD2.38、ab78545)−眼、鼻、中枢神経系及び膵臓の発生に関与する転写因子。
【0261】
[6]BLBP(抗体ab27171)−BLBPは、ラジアルグリア(主神経前駆細胞タイプ及びニューロン移動を支持する足場)用の分子マーカーとして使用できる。
【0262】
プルキンエ細胞−早期マーカー
[1]L1CAM(抗体2C2、ab24345)−神経外胚葉組織で発現される。軸索成長、神経移動及びニューロン分化の仲介に関与する。
【0263】
プルキンエ細胞−後期マーカー
[1]PTPζ(抗体ab78019)−脳で発生的に調節され、CNSで発現される。そこでは、小脳のプルキンエ細胞層、歯状回、及び側脳室の前角の上衣下層に局在している。
【0264】
[2]NSMase2(抗体ab68735)−ニューロン、プルキンエ細胞、錐体細胞、歯状回顆粒層のニューロン、及び橋核中のニューロンに限定される。また、視床下部核、梨状皮質中のニューロン、及び脳幹の核にも存在している。
【0265】
[3]アルドラーゼ(抗体1F8、ab67204)−アルドラーゼCは、脳及び神経で発現される。
【0266】
[4]プレセレベリン(抗体ab36909)−脳特異的セレベリンの前駆細胞。活性形は、小脳プルキンエ細胞の後シナプス構造及び背部蝸牛神経核のカートホイールニューロンに富化されている。
【0267】
[5]カルビンジン(抗体CL−300、ab9481)−小脳プルキンエ細胞に対するマーカー。
【0268】
ニューロン−早期マーカー
[1]PROX1(抗体ab57746)−CNSの早期発生において基本的な役割を果たす。それは、有糸分裂後で未分化の若いニューロンの遺伝子発現及び発生を調節する。
【0269】
[2]CD90(抗体1.BB.730、ab62009)−神経細胞、T細胞、早期造血前駆細胞、線維芽細胞、ニューロン及びクッパー細胞で発現される。
【0270】
[3]UCHL1/3(抗体ab75275)−ニューロン発生の調節に役割。
【0271】
[4]PLAGL1(抗体ab55659)−早期脳発生中にニューロン上皮で発現される。
【0272】
[5]HLBX9(抗体EPR3342、ab79541)−発生中の脊椎動物CNSの運動ニューロンによって選択的に発現されるホメオボックス遺伝子であり、ニューロンの運命を発生的に調節する。
【0273】
[6]NeuroD2抗体(ab66607)−ニューロン分化及び生存を誘導する。
【0274】
[7]NEUROD4抗体(ab67168)−ニューロン分化を仲介する。
【0275】
[8]NEUROD6抗体(ab77998)−ニューロン分化及び成熟に関与する。
【0276】
ニューロン−中間マーカー
[1]NNPTX2(抗体ab69858)−興奮性シナプス形成で役割を果たすニューロンの即時初期遺伝子。
【0277】
[2]ニューログリカンC(抗体ab56941)−CNSにおけるニューロン回路形成に関与する。
【0278】
[3]TBR2(抗体ab58225)−発生中に中間前駆細胞によって発現される転写因子。IPCは脳室帯(VZ)又は脳室下帯(SVZ)内で分裂し、厳密なニューロン集団を生成する。
【0279】
ニューロン−後期マーカー
[1]SIRP(抗体OX−41、ab9295)−骨髄細胞及びニューロンによって発現される。
【0280】
[2]アタキシン7(抗体ab11434)−正常脳ニューロンの細胞質中及び核膜上に位置している。
【0281】
[3]GIRK2(抗体ab30738)−ニューロン性GIRK2チャンネルはニューロンの興奮性の調節に関与し、静止電位に寄与し得る。
【0282】
[4]プロフィリン2(抗体ab55611)−プロフィリン2はニューロン特異的である。
【0283】
[5]AP180(抗体AP180−I、ab11329)−ニューロン起源の細胞に限定される発現。
【0284】
[6]PGP9.5(抗体ab27053)ニューロンマーカー−PGP9.5の発現は、ニューロン並びに拡散性神経内分泌系の細胞及びその腫瘍に対して極めて特異的である。
【0285】
[7]SorCS1(抗体ab16641)ニューロンマーカー−SorCS1の免疫反応性は、脳全体のニューロン集団中に広く行きわたっている。
【0286】
[8]Nova1(抗体ab77926)−Nova1はニューロン特異的RNA結合タンパク質である。
【0287】
[9]NSE(抗体ab944)−ニューロン特異的エノラーゼは、主としてニューロン、正常神経内分泌細胞及び腫瘍神経内分泌細胞で発現される。
【0288】
[10]HB Huタンパク質(抗体16A11、ab14370)−Huファミリーの脊椎動物ニューロンタンパク質のメンバー中に存在する保存ペプチドエピトープと特異的に結合する。
【0289】
[11]ELAVL4(抗体16C12、ab14369)−ニューロン特異的なRNAプロセシングにおいて役割を果たし得る。それは脳組織に局在している。
【0290】
[12]SAPAP3(抗体ab67224)−ニューロン細胞中のシナプス後領域に位置している。
【0291】
[13]早期Ki67抗体(PP−67、526)−Ki67はニューロンマーカーとして日常的に使用されている。
【0292】
[14]MAP2(抗体HM−2、ab11267)−MAP2は脳組織の主な微小管結合タンパク質である。
【0293】
[15]ミエリン塩基性タンパク質(抗体MBP101、ab62631)−ミエリン膜の豊富なタンパク質成分。早期脳発生において役割を有し得る。
【0294】
[16]キネシン(抗体ab25715)、キネシン2(抗体K2.4、ab24626)及びキネシン5A(抗体ab5628)−ニューロン細胞における小胞輸送に関与する。5Aはニューロン特異的である。
【0295】
[17]NeuN(抗体A60、ab77315)−ニューロン特異的核タンパク質はニューロンに対するマーカーである。NeuNは、神経系全体、小脳、大脳皮質、海馬、視床及び脊髄に見出される。
【0296】
[18]Nfasc1863(抗体ab31719)−ランヴィエ絞輪にあるニューロンで発現される。
【0297】
[19]Pin1(抗体ab12107)−アルツハイマー病の基礎にあるタウ病態に関係している。Pin1は、正常ニューロン機能の維持にとって枢要であり得る。
【0298】
[20]ニューロリギン3(抗体ab57375)−ニューロリギン3はニューロン細胞表面タンパク質である。
【0299】
[21]PDGFβ受容体(抗体Y12、ab32570)−ニューロンで発現される。
【0300】
[22]コフィリン(抗体ab54532)−コフィリンは遍在しているが、特にニューロンで発現される。
【0301】
海馬ニューロン
[1]SynGAP(抗体EPR2883Y、ab77235)−もっぱら海馬ニューロンのシナプスで発現される。
【0302】
終脳ニューロン
[1]シナプトポジン(抗体ab50485)−終脳ニューロンのスパイン装置の形成のために不可欠である。シナプス可塑性に関係している。
【0303】
ドーパミン作動性ニューロン−早期マーカー
[1]PITX3(抗体ab30734)−この転写因子はドーパミン作動性ニューロンの分化を調節する。
【0304】
[2]Nurr1(抗体ab12261)−胚性腹側中脳で発現される転写因子。ドーパミンニューロンの発生及び維持のため決定的に重要である。
【0305】
[3]AMSX1(抗体4F11、ab73883)−中脳のドーパミン作動性前駆細胞ドメインを確立するためにWint1と並行して作用し、ニューロン集団を生じる。
【0306】
ドーパミン作動性ニューロン−後期マーカー
[1]チロシンヒドロキシラーゼ(抗体185、ab10372)ニューロンマーカー−THはアドレナリン作動性ニューロンの生理学において役割を有し、ドーパミン作動性ニューロンに対するマーカーとして常用される。
【0307】
[2]ドーパミンD2受容体(抗体ab30743)−下垂体及び脳で発現される。
【0308】
ALDH1A1(抗体ab23375)−背側網膜、腹側中脳(ドーパミン作動性ニューロン)及び造血幹細胞で発現される。
【0309】
[3]DOPAデカルボキシラーゼ(抗体ab3905)−神経伝達物質(即ち、ドーパミン及びセロトニン)の合成に関係する酵素。
【0310】
コリン作動性ニューロン
[1]コリンアセチルトランスフェラーゼ(抗体ab54599)−末梢神経系及び中枢神経系の両方においてコリン作動性ニューロンに対する特異的マーカーとして役立つ。
【0311】
感覚ニューロン
[1]シンタキシン及び2(抗体4H256、それぞれab18010及びab12369)−感覚ニューロン及び小血管に達する神経の末端に局在するニューロンシンタキシン。
【0312】
侵害受容ニューロン
[1]ペリフェリン(抗体2Q135、ab17999)侵害受容(痛覚)ニューロンマーカー−末梢神経節のニューロン及びその突起に見出される。
【0313】
運動ニューロン
[1]イスレット1(抗体ab20670)神経幹細胞マーカー−神経管運動ニューロン分化及び膵島細胞の胚形成において役割を果たす転写因子。
【0314】
[2]イスレット2(抗体ab26117)神経幹細胞マーカー−運動ニューロンのサブクラスを定義する転写因子。
【0315】
錐体ニューロン−早期マーカー
[1]Emx1(抗体ab32925)−錐体ニューロンで特異的に発現されるホメオボックス遺伝子。Emx1は、錐体ニューロン及び錐体細胞系統の信頼できるマーカーである。
【0316】
[2]TBR1(抗体ab56994)−大脳皮質で発現される。早期胚形成中、それは旧皮質、辺縁皮質及び新皮質ドメインを区別する。
【0317】
錐体ニューロン−後期マーカー
[1]ヒッポカルシン(抗体ab24560)−CNSに限定され、海馬CA1領域の錐体細胞に最も豊富である。
【0318】
乏突起膠細胞−早期マーカー
[1]A2B5(抗体2Q162、ab68385)−発生中の乏突起膠細胞前駆細胞神経内分泌細胞で発現される細胞表面ガングリオシドエピトープ。
【0319】
[2]PDGFα受容体(抗体Y92、ab32570)−乏突起膠細胞前駆細胞で発現されるαサブユニット。
【0320】
[3]Olig1(抗体ab21943)−Olig1は乏突起膠細胞の形成を促進する。
【0321】
[4]Olig2(抗体ab56643)−乏突起膠細胞、脊髄運動ニューロン、及び後脳における体性運動ニューロンの発生のために必要な転写因子。
【0322】
[5]OSP(抗体ab7474)乏突起膠細胞マーカー−発生中に発現が高度に調節され、乏突起膠細胞の増殖及び分化において役割を果たし得る。
【0323】
[6]Olig3抗体(ab78006)−Olig3は、胚性中枢神経系の様々なタイプの前駆細胞で一過的に発現される。
【0324】
乏突起膠細胞−中間マーカー
[1]ソルチリン(抗体ab16640)−脳、脊髄及び筋肉で発現される。ソルチリンは、ニューロテンシンに対する受容体として作用する。ソルチリンは胚形成中に発現される。
【0325】
乏突起膠細胞−後期マーカー
[1]ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(抗体F3−87−8、ab24022)−MOGは、ミエリン化中の乏突起膠細胞の表面に見出される。
【0326】
[2]CNPase(抗体11−5B、ab6319)−乏突起膠細胞及びシュワン細胞によって発現される。
【0327】
[3]ミエリンPLP(抗体pipc1、ab9311)−CNS中に最も多く存在するミエリンタンパク質。乏突起膠細胞の発生及び軸索の生存に関与する。
【0328】
[4]CaMKII(抗体ab63377)−シナプス後膜肥厚の主成分として脳内に豊富な遍在性キナーゼ。
【0329】
神経内分泌細胞
クロモグラニンA(抗体23A1、ab36997)−神経内分泌細胞で発現される。
【0330】
軸索
[1]ニューロフィラメントは、ニューロン軸索、交感神経節細胞及び樹状突起の主構造要素をなしている。
200kDニューロフィラメント重鎖(抗体ab8135)。
160kDニューロフィラメント中鎖(抗体3H11、ab7256)。
145kDニューロフィラメント(抗体2E30、ab35953)。
68kDニューロフィラメント(抗体DA2、ab4572)。
【0331】
[2]14−3−3(抗体2Q248、ab14121)−ニューロンに局在し、神経末端に軸索輸送される。
【0332】
[3]Fez1(抗体ab53562)−細胞形態及び軸索誘導機構を調節する分子のネットワークの成分として軸索成長に関与する。
【0333】
[4]ダイネイン重鎖(抗体440.4、ab6305)及び中鎖1(抗体70.1、ab6304)−微小管で発現される。ダイネインは、軸索輸送に関係していた。
【0334】
[5]ギガキソニン(抗体ab27041)−遍在的に発現され、ニューロンの機能及び生存のために不可欠である。
【0335】
[6]リンゴ1(抗体ab23631)−マウス及びヒトの脳で発現される。
【0336】
[7]MAP1a+MAP1b(抗体HM−1、ab66021)、MAP2(抗体ab32454)、MAP1B(抗体3G5、ab3095)、MAP2a+MAP2b抗体(AP20、ab3096)−微小管はチューブリン及び微小管関連タンパク質から構成される。MAP1はニューロン特異的である。
【0337】
[8]ネトリンG1リガンド(抗体ab31983)−線条及び大脳皮質中の視床軸索で高度に発現される。NGL1は軸索成長の促進に関係する。
【0338】
[9]プレキシンB2(抗体ab41098)−この受容体は軸索誘導において重要な役割を有する。
【0339】
[10]Robo2(抗体ab72972)−Slit2及びSlit1に対する受容体であって、ニューロン発生中に神経管のニューロン走行を誘導する。
【0340】
[11]タウ(抗体ab8763)ニューロンマーカー−タウは、主として軸索上に見出されるニューロン微小管関連タンパク質である。
【0341】
[12]チューブリン(抗体YOL1/34、ab6161)微小管マーカー−チューブリンファミリーは微小管の組織化に関与する。
【0342】
シュワン細胞
[1]NGF受容体(抗体MLR2、ab61425)−シュワン細胞及びニューロンで発現される。発生中、NGFRはニューロン成長、移動、分化及び細胞死を調節する。
【0343】
[2]ミエリン(抗体pm432B5、ab58513)−ミエリンは、CNS中の乏突起膠細胞及び末梢神経系中のシュワン細胞によって産生される。
【0344】
[3]グリオメジン(抗体ab24483)−ミエリン化中のシュワン細胞によって発現され、発生中に各ミエリンセグメントの縁部に蓄積する。
【0345】
[4]Lgi4(抗体KT18、ab63289)−シュワン細胞で発現される。
【0346】
[5]ミエリンタンパク質ゼロ(抗体ab31851)−MPZの発現はシュワン細胞に限定される。それは末梢ミエリン及び神経の主構造タンパク質である。
【0347】
[6]Lgi4(抗体KT18、ab63289)−Lgi4はシュワン細胞で発現され、軸索分離及びミエリン形成を制御する。
【0348】
樹状突起−早期マーカー
Arg3.1(抗体ab23382)−脳内に富化された即時早期遺伝子であって、発現はニューロン活性によって誘導される。海馬、扁桃、視床下部、線条及び皮質中の樹状突起で発現される。
【0349】
樹状突起−後期マーカー
[1]PRIMS3(抗体ab50198)−ニューロン樹状突起及びシナプス後膜肥厚に局在している。
【0350】
[2]ドレブリン(抗体M2F6、ab12350)−ドレブリンは、アクチン動力学及びニューロン形態形成の制御に関与する主ニューロンF−アクチン結合タンパク質である。
【0351】
[3]ニューロン特異的βIIIチューブノン(抗体ab18207)−CNS及びPNSに豊富であって、胎児発生及び生後発育中に発現される。
【0352】
[4]SAP102(抗体7D3mAb119、ab69738)−シナプス関連タンパク質102は、非対称タイプ1シナプスの樹状シャフト及びスパインで検出される。
【0353】
[5]その他
濾胞樹状細胞マーカー(抗体ab8138)。
樹状細胞抗体(抗体ab8171)。
【0354】
成長円錐−早期マーカー
[1]CRMP1(抗体ab76995)、CRMP2(抗体ab54546)、CRMP5(抗体ab77158)−コラプシン応答メディエータータンパク質は、神経分化並びに神経発生中の軸索及び成長円錐誘導に関与する。
【0355】
[2]NRP2(抗体96009、ab50205)−NRP2はニューロピリンファミリーの受容体タンパク質の一員であり、心臓血管発生及び軸索誘導において役割を果たし得る。
【0356】
成長円錐−後期マーカー
[1]アグリン(抗体AGR131、ab12362)−神経筋接合部における発生中のニコチン性アセチルコリン受容体(及びその他)のクラスタリングを促進する。
【0357】
[2]BA11関連タンパク質2イソ形態3(抗体ab791)−脳特異的な血管形成阻害剤。
【0358】
[3]BAIAP2(抗体ab56588)−ニューロン成長円錐誘導に関与する、脳特異的な血管形成阻害剤。
【0359】
[4]BASP1(抗体ab79349)−脳で豊富に発現されるタンパク質。
【0360】
[5]ダブルコルチン(抗体ab28941)−細胞体中に見出され、移動するニューロンの突起及び分化中のニューロンの軸索を導く微小管結合タンパク質。
【0361】
[6]Eph受容体A1タンパク質(抗体ab55900)、A2(抗体RM−0051−8F21、ab73254)、A3(抗体6C1B6、ab76361)、A4(抗体7D3D4、ab70403)、A5(抗体ab54633)、A6(抗体ab58022)、A7(抗体ab54640)、A8(抗体ab10615)、B1(抗体5F10A4、ab66326)、B2(抗体ab54650)、B3(抗体ab54717)、B4(抗体4A12G8、5G2F8、ab66336)及びB6(抗体2A6B9、ab66325)−EPH関連受容体は、神経組織発生イベントの仲介に関係していた。発生中及び成体の神経組織は、Eph受容体及びエフリンリガンドのすべてを発現する。EPH受容体の役割は、軸索誘導及び神経堤細胞移動を仲介することにある。
【0362】
[7]エフリンA1(抗体ab7040)、A2(抗体ab65041)、A3(抗体ab66150)、A4(抗体ab53062)、B2(抗体ab75868)及びB3(抗体ab53063)−エフリンは、神経系における発生イベントの仲介に関係するEph受容体のリガンドである。
【0363】
[8]GAP43(抗体GAP−7B10、ab50608)−ニューロン成長円錐タンパク質。
【0364】
[9]GPRIN1(抗体ab74577)−GPRIN1は神経突起成長に関与する。
【0365】
[10]LIMキナーゼ(抗体ab51200)−脳及び脊髄において活性であり、そこでは神経細胞の発生に関与すると考えられている。
【0366】
[11]NCAM(抗体123C3、ab28377)−大抵の神経外胚葉由来細胞で発現される。
【0367】
[12]ニューロセルピン(抗体ab55587)−主として発生中の脳及び成体脳のニューロンによって発現される。このセルピンはCNS及びPNSの軸索成長円錐から分泌される。
【0368】
体幹
[1]ALK(抗体ALKc、ab650)−ALKは神経系中に見出され、前脳ニューロンで発現される。
【0369】
[2]メンブラリン(抗体ab21818)−中枢神経系で発現される。
【0370】
[3]ネクジン(抗体ab55501)−脳特異的な成長抑制剤。
【0371】
[4]STEP(抗体23E5、ab16967)−神経特異的なタンパク質−チロシンホスファターゼ。
【0372】
シナプス−早期マーカー
シンテニン(抗体ab19903)−ニューロンにおける発生プロファイルを調節し、激しい成長及びシナプス形成の期間に最も豊富である。
【0373】
シナプス−後期マーカー
[1]EAAT2(抗体ab77039)−グルタミン酸塩のシナプス後作用を終わらせるために不可欠である。
【0374】
[2]ニューレキシンIIα(抗体ab34245)、ニューレキシンIβ(抗体ab77596)及びNRXN3(抗体ab18523)−シナプス形成中に細胞付着分子として機能するニューロンタンパク質。
【0375】
[3]アンフィフィシン(抗体C14−23、ab16770)−シナプス小胞の細胞質表面に関連している。
【0376】
[4]バスーン(抗体SAP7F407、ab13249)−シナプス前神経末端に局在している。
【0377】
[5]SAP102(抗体ab12086)−非対称タイプ1シナプスの樹状シャフト及びスパインで検出されるシナプスタンパク質。
【0378】
[6]CASK(抗体ab11343)−ニューロンシナプスに局在している。
【0379】
[7]CPLX1(抗体ab15855)−シナプス小胞のエキソサイトーシスで機能するサイトゾルタンパク質。
【0380】
[8]CRIPT(抗体ab16422)−脳全体にわたり興奮性シナプスのシナプス後膜肥厚にPSD95と共局在するが、抑制性シナプスでは検出されない。
【0381】
[9]CSP(抗体ab79346)−シナプス小胞の細胞質表面に局在している。
【0382】
[10]CTBP2(抗体ab67161)−特殊化シナプスに対する足場として作用する。
【0383】
[11]ジストロブレビンα(抗体ab72793)−筋細胞膜に局在し、シナプスの形成及び安定性に関与し得る。
【0384】
[12]HOMER2(抗体ab75037)−グルタミン酸作動性シナプスにおける可塑性の維持に重要な役割を果たす。
【0385】
[13]HOMER3(抗体ab75038)−シナプス後膜肥厚の足場となるタンパク質。
【0386】
[14]ICA1(抗体ab55253)−神経伝達物質の分泌に役割を果たし、膵臓、心臓及び脳で豊富に発現される。
【0387】
[15]Munc13(抗体ab27077)−シナプス小胞のプライミングに関与する。
【0388】
[16]Munc18(抗体ab3451)−シナプス小胞のドッキング及び融合を調節する。それは神経伝達のために不可欠であり、シンタキシンと結合する。
【0389】
[17]ニューログリカンC(抗体ab31946)−中枢神経系で発現される。
【0390】
[18]ニューロリギン1(抗体ab56882)、ニューロリギン2(抗体ab36602)−ニューロリギンはシナプス細胞付着分子である。
【0391】
[19]PSD93(抗体ab12097)シナプスマーカー−シナプスにおいてN−メチル−D−アスパラギン酸受容体(NMDAR)を集合させる。
【0392】
[20]PSD95(抗体6G6−1C9、ab2723)−シナプス後部位に位置して、受容体、イオンチャンネル及び関連シグナリングタンパク質のクラスタリングのための足場を形成する。
【0393】
[21]ピッコロ(抗体ab20664)シナプスマーカー−シナプス接合部のシナプス前側に濃縮したシナプス前サイトマトリックスタンパク質。
【0394】
[22]RIC8(抗体ab24383)−シナプス伝達を正に調節する。
【0395】
[23]SAP97(抗体RPI197.4、ab69737)−膜関連シナプスタンパク質はシナプス末端におけるイオンチャンネルクラスタリングを容易にする。
【0396】
[24]SAPAP3(抗体ab67224)−ニューロン細胞のシナプス後膜肥厚(PSD)に局在している。
【0397】
[25]SNAP23(抗体ab57961)−シナプトソーム関連タンパク質は、細胞内小胞トラフィッキングにおける膜融合過程で重要な役割を果たす。
【0398】
[26]SNAP25(抗体ab66066)−シナプス小胞融合及びエキソサイトーシスで本質的な役割を果たすシナプス前神経末端タンパク質。
【0399】
[27]SNAP29(抗体ab56566)−膜トラフィッキング段階に関与し、シンタキシンと結合する。
【0400】
[28]SNAPIN(抗体ab37496)−シナプス小胞ドッキング及び融合のために必要なSNARE複合体の成分。
【0401】
[29]SV2A(抗体15E11、ab49572)、SV2B(抗体ab68025)及びSV2C(抗体ab33892)−すべてのシナプス小胞に存在する内在性膜糖タンパク質。
【0402】
[30]SYNPR(抗体ab75053)−シナプス小胞膜の成分であって、シナプス小胞トラフィッキングにおいて重要な役割を果たすと考えられる。
【0403】
[31]シナプシンI、II及びIII、それぞれ(抗体ab57468)、(抗体EPR3277、ab76494)及び(抗体ab68849)。シナプシンは、シナプス小胞の細胞質表面に結合するニューロンリンタンパク質である。
【0404】
[32]シナプトブレビン(抗体4E240、ab18013)−シナプス小胞とシナプス前膜とのドッキング及び/又は融合に関与している。
【0405】
[33]シナプトジャニン(抗体ab19904)−神経系で発現される。
【0406】
[34]シナプトフィシン(抗体4E206、ab18008)−脳、脊髄、網膜、副腎髄質の小胞、神経筋接合部におけるニューロンシナプス前小胞の膜に存在している。
【0407】
[35]シナプトタグミン(抗体ASV30、ab13259)−シナプス小胞の内在性膜タンパク質。
【0408】
[36]ウトロフィン(抗体DRP3/20C5、ab49174)−神経筋シナプス及び筋腱接合部に位置し、シナプス後膜の維持及び受容体のクラスタリングに関係する。
【0409】
[37]VAMP2(抗体クローン3E5、ab53407)−特にニューロンのシナプス小胞中に見出される小さい内在性膜タンパク質。
【0410】
[38]シナプトタグミンXII(抗体ab76261)−神経系における伝達物質放出の調節に関与し、小胞トラフィッキング及びエキソサイトーシスにおいてCa(2+)センサーとして役立つ。
【0411】
他の神経マーカー
[1]MEF2A(抗体ab55547)−シナプス形成全体を通じて小脳皮質の顆粒化ニューロン中に豊富である。また、心臓及び骨格筋発生においても重要な役割を有する。
【0412】
[2]MEF2B(抗体ab55565)−発生中に筋肉関連遺伝子の発現を調節する。また、ある種の神経形成細胞の分化にも関与する。
【0413】
[3]MEF2C(抗体ab43796)−心臓形態形成及び筋形成を制御する。また、神経形成及び皮質構造の発生にも関与し得る。
【0414】
[4]MEF2D(抗体ab43797)−筋形成細胞及び一部の神経形成細胞の分化に関与する。
【0415】
脂肪細胞分化
i)分化を達成するためのプロトコル、ii)阻害剤の詳細及びiii)脂肪細胞マーカー
前駆細胞から脂肪細胞への分化は、Dani C et al(1997) J. Cell Sci 110, 1279−1285に記載されたもののような、十分に特徴つけられかつ公表されたプロトコルを用いて可能である。このプロトコル及び関連するプロトコルを用いれば、多分化能性及び多能性前駆幹細胞から脂肪細胞を生成することが可能である。
【0416】
胚性幹細胞は多分化能性細胞であり、白血病抑制因子(LIF)の存在下で未分化状態に維持することができる。LIFを除去し、適当な分化剤を添加すれば、ES細胞は脂肪細胞、心臓細胞、骨格筋細胞及びニューロンを含む各種の細胞タイプへの拘束が生じる。脂肪細胞は中胚葉幹細胞、筋細胞用の共通前駆細胞、軟骨細胞及び骨細胞から生み出される。ひとたび脂肪細胞系統に拘束されると、前脂肪細胞は分化過程の最終ステージ中に成熟して脂肪細胞になる。
【0417】
したがって、脂肪生成には2つの明確な段階が存在する。即ち、i)胚様体形成から2〜5日後の段階であって、レチノイン酸を必要とし、ES細胞由来の脂肪生成に対する拘束ステージである段階、及びii)終末分化ステージに対応する段階である。後者の段階では、脂肪生成因子PPARγが要求される。脂肪生成の後期ステージに関連する機構を研究するためには、3T3L1及び3T3F442Aのような前脂肪細胞株が使用され、結果としていくつかの脂肪細胞特異的遺伝子が同定され単離された。したがって、脂肪生成の早期ステージはレチノイン酸依存性であり、後期ステージはPPARγ依存性である。
【0418】
ES細胞由来の脂肪細胞は、レチノイン酸への早期暴露、次いで古典的な脂肪生成誘導剤の適用後に生成し得る。これらの条件下では、70〜80%の胚様体において成熟脂肪細胞の大きなクラスターが存在している。レチノイン酸は、ES細胞分化のパターンに対して時間及び濃度依存的に影響を及ぼす。脂肪細胞分化中には、レチノイン酸処理は脂肪細胞に対するES細胞の早期拘束を刺激するが、前脂肪細胞成熟の後期ステージでは阻害剤として作用する。この後期阻害効果は、重要な脂肪細胞転写調節遺伝子PPARδ及びC/EBPの発現に対するレチノイン酸の抑制作用に原因している(Shao,D. and Lazar,M.A., 1997, J. Biol. Chem., 272, 21473−21478)。
【0419】
レチノイン酸及びPD98059 9(ERK経路の特異的阻害剤)によるES細胞の共処理は脂肪細胞形成を妨げるので、ERKシグナリングは脂肪生成にとって重要であるように思われる。PD98059の適用は、ES細胞からニューロン又は心筋細胞への分化には効果を及ぼさない(Bost F.,et al., 2002 Biochem J., 361, 621−627)。
【0420】
インビトロでの胚性幹細胞から脂肪細胞への分化
Dani C et al(1997)J. Cell Sci 110, 1279−1285は、マウス胚性幹細胞株ZIN40、E14TG2a及びCGR8を用いて脂肪細胞を生成した。簡単に述べれば、この方法は、ゼラチンでコートしたプレート上において、未分化細胞株を培養培地(0.25%重炭酸ナトリウム、×1 MEM必須アミノ酸、2mMグルタミン、1mMピルビン酸塩、100μMメルカプトエタノール及び10%v/vウシ胎児血清を含むMEM/BHK21培地)中で無フィーダー条件下で培養することを含んでいた。分化を阻害するために白血病抑制因子(100単位/ml)を添加した。ES細胞を脂肪細胞に分化させるためには、細胞を胚様体中の凝集物として培養した。各懸滴は20μlの培養培地中に1000個の細胞を含んでいた。これらを、PBSを満たした細菌学的プレートの蓋上に2日間維持した。形成された胚様体を、レチノイン酸(0.1%v/v)を補充した培養培地中に再懸濁し、細菌学的プレートの蓋上に維持した。胚様体を数日間維持し、次いでゼラチンでコートしたプレート上に沈降させ、85nMインスリン、2nMトリヨードチロニン及び10%ウシ胎児血清を補充した培養培地からなる分化培地中に再懸濁した。
【0421】
10〜15日後、脂質小滴で満たされた細胞クラスターが現れる。これらはオイルレッドO(トリグリセライド用の特異的染料)を用いて染色できる。結果は、脂肪生成マーカーであるアディプシン及びPPARγの発現で測定したところ、60%の胚様体が脂肪細胞陽性コロニーを形成したことを示した。
【0422】
Rosen,E.D.,et al(1999)Molecular Cell.4,611−617は、対照マウス及びPPARγ欠損マウスから導かれたES細胞(2日齢)の分化に際して、Dani,C,et al(1997)J.Cell ScL,110,1279−1285の方法の変法を使用した。実際の改変プロトコルは、簡単に述べれば、レチノイン酸を含む培地中で培養した胚性幹細胞から胚様体を生成することを含んでいた。次いで、胚様体をゼラチンでコートした6ウェルプレートに移し、5μg/mlのインスリンに暴露した。17日目、胚様体をデキサメタゾン(400ng/ml)及びPDE阻害剤メチルイソブチルキサンチン(500nM)に2日間暴露した。その後、胚様体をインスリン含有培養培地中にさらに10日間再懸濁した。このプロトコルによれば、中性脂質のオイルレッドO染色で測定したところ、胚様体中の細胞の70〜90%が脂肪細胞表現型を示した。野生型ES細胞は、分化過程の開始から4日後に早期マーカーアディプシン及びPPARγを発現した。
【0423】
マウス胚性幹細胞及びヒト成体幹細胞から脂肪細胞への分化に関する包括的な指針が、Wdziekonski B,Villageois P,and Dani(2007)Curr.Protoc.Cell Biol.Chapter 23:Unit 23.4に記載されている。これには、マウス、ヒト多能性脂肪組織由来幹細胞及びヒト中胚葉幹細胞を分化させるために必要なプロトコルが含まれている。
【0424】
脂肪生成の阻害剤
[1]ERKシグナリング阻害剤
細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)は、細胞増殖及び分化のような多数の細胞機能を調節するシグナリングカスケードに関与している。PPARγのERK仲介リン酸化は、明らかに脂肪生成を阻害する。PD98059はMEK1(ERK活性化を引き起こす酵素)の特異的阻害剤である。発生中のES細胞をレチノイン酸及びPD98059で共処理すれば、脂肪細胞形成及びES細胞における脂肪生成マーカーの発現が共に妨げられる(Bost F.,et al., 2002, Biochme J., 361, 621−627)。
【0425】
[2]HIVプロテアーゼ阻害剤
HIVプロテアーゼ阻害剤を用いる療法は、脂肪代謝の変化に関連している。Lenhard,J.M.,et al(2000)Antiviral Res.,47,121−129は、C3H10T1/2間葉幹細胞を用いて脂肪細胞分化に対するこれらの阻害の効果を研究した。これらの細胞では、脂肪生成は200nMのインスリン並びに1μMのPPARγとRXRアゴニストBRL49653及びLGD1069をそれぞれ添加することで誘導された。
【0426】
これらの条件下では、HIVプロテアーゼ阻害剤ネルフィナビル、サキナビル及びリトナビルは、脂質生成、オイルレッドO染色並びに脂肪細胞マーカーAP2及びLPLの発現の減少で測定したところ、間葉幹細胞の脂肪細胞分化を低減させた。
【0427】
Vernochet,C,et al(2003)AIDS,17,2177−2180はこの研究を拡張し、4種のマウス前脂肪細胞株(3T3−F442A、3T3−L1、Ob1771及び胚性幹細胞)の脂肪細胞分化に対する同様な範囲のHIVプロテアーゼ阻害剤の効果を評価した。分化方法は、Dani,C.,et al(1997)J.Cell Sci.,110,1279−1285に記載されたものと同様であった。
【0428】
プロテアーゼ阻害剤ネルフィナビル及びロピナビルは試験したすべての細胞において脂肪細胞分化を阻害したが、インディナビル、サキナビル及びリトナビルは3T3−L1及び3T3−F442A細胞のみの分化を阻害した。著者らは、HIVプロテアーゼ阻害剤は使用する細胞モデル系に応じて脂肪細胞分化を阻害すると結論づけた。
【0429】
[3]グリコーゲンシンターゼキナーゼ3阻害剤
脂肪生成経路に対する幹細胞の拘束に関与するシグナリングイベントは、まだ完全には特徴づけられていない。最近、Mointeiro,M.C,et al(2009)Stem Cells Dev.,18,457−463は、マウス胚性幹細胞及びレチノイン酸の早期処理を用いて、レチノイン酸の活性化は脂肪細胞分化に対するES細胞の拘束にとって必要かつ十分であることを示した。著者らはまた、ES細胞におけるレチノイン酸受容体β誘導脂肪生成がGSK3阻害剤によって阻止し得ることも証明した。
【0430】
脂肪細胞発生に対する上記のHIVプロテアーゼ阻害剤などの阻害剤(及び化学物質、薬物又は化粧品)の効果は、前駆幹細胞の分化中にモニターすることができる。前駆細胞を阻害剤に暴露した後、分化の程度をモニターすることで細胞発生過程に対する効果が評価される。これは、定量的免疫細胞化学のような技法により、分化細胞タイプに関連する細胞/組織特異的マーカーの発現を測定することで達成できる。
【0431】
脂肪細胞発生を表すマーカーには以下のものがある(Abcam社から商業的に入手できる抗体の起源も記載されている)。
【0432】
脂肪細胞−早期マーカー
C20orf3(抗体ab69162)−脂肪細胞分化に関与している。
【0433】
FNDC3B(抗体ab69854)−脂肪生成の正の調節剤。
【0434】
アディポネクチン(抗体19F1、ab22554)−脂肪細胞は脂肪細胞分化中にアディポネクチンを産生して分泌する。
【0435】
NOC3L(抗体ab74151)−脂肪細胞分化促進因子として機能する。
【0436】
AE結合タンパク質1(抗体ab54820)−脂肪細胞エンハンサー1調節配列に結合する転写抑制剤である脂肪細胞エンハンサー結合タンパク質1。
【0437】
PPARα(抗体ab8934)、γ(抗体ab12409)及びδ(抗体ab23673)−いずれも脂肪細胞分化に関与すると考えられる。
【0438】
CEBPα(抗体EP708Y、ab40761)及びβ(抗体A16、ab18336)−重要な脂肪細胞転写調節遺伝子。
【0439】
アディプシン/因子D(抗体ab8841)−脂肪細胞特異的である。
【0440】
脂肪細胞−後期マーカー
レプチン(抗体ab3583)−脂肪細胞はレプチンを産生して分泌する。
【0441】
リポタンパク質リパーゼ(抗体LPL.A4、ab21356)−脂肪細胞によって産生され分泌される。
【0442】
AEBP2(抗体2012C4a、ab74517)−AE(脂肪細胞エンハンサー)結合タンパク質2。
【0443】
FABP4(抗体ab37458)−脂肪細胞中に見出される主脂肪酸結合タンパク質。
【0444】
FABP5(抗体ab37267)−脂肪酸結合タンパク質FABP4及びFABP5は密接に関係しており、脂肪細胞で発現される。
【0445】
FDE3B(抗体ab42091)−脂肪細胞組織で発現される。
【0446】
KIAA1881(抗体ab78602)−脂肪細胞へのトリアシルグリセロールパッケージングに関与する。
【0447】
レシスチン(抗体ab3423)−脂肪細胞分泌因子であって、脂肪細胞によって特異的に分泌されるサイトカインである。
【0448】
ペリリピンA(抗体ab61682)−もっぱら脂肪細胞及びステロイド生成細胞中の脂質小滴の表面に見出される。
【0449】
ペリリピンB(抗体ab3527)−発現は脂肪細胞及びステロイド生成細胞に限定される。
【0450】
グルコース輸送体GLUT4(抗体ab654)−脂肪組織におけるインスリンによるグルコース取込みの刺激には、GLUT4細胞内部位が細胞表面に転位することが必要である。
【0451】
TUG(抗体4A11A6G11、ab32007)−GLUT4分布を変調する推定上のテザー(tether)。
【0452】
グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ抗体(ab34492)−最終分化脂肪細胞によって発現される。
検出及び定量化
細胞イメージング
セルイメージャー(例えば、IN Cell Analyzer、GE Healthcare社)を多重化モードで使用すれば、様々な特異的抗体に係留された様々な蛍光体(例えばシアニン色素、GE Healthcare社)を検出することができる。これらの蛍光体を用いることで、ESが特定の経路に沿って分化を受けるのに従い、複数の標的分子が検出及び測定される。このように機器を使用することで、定量的免疫細胞化学を用いて同一試料からの最大3種のマーカーに対する毒性化学物質の効果を測定し、かくして該化学物質の毒性プロファイルを作成することができる。さらに、この文書に記載された方法は、当業者にとって公知の技法(例えば、定量的免疫細胞化学、レポーター遺伝子アッセイ、RT−PCT及びマイクロアレイ分析)を用いて早期及び後期胚性幹細胞選択的バイオマーカーを識別するという追加の特徴を有している。
【0453】
前駆細胞が分化を受けるのに従い、これらのレポーターは、分化した細胞タイプばかりでなく元の前駆細胞にも存在している複数の細胞/組織特異的分子を同時に検出し測定することができる。加えて、(免疫細胞化学又はレポーターアッセイなどのいずれから導かれるにせよ)定量的データを生成し得る能力は、致死量以下の用量レベルの決定を可能にする。これは、薬剤開発又は化粧品産業にとって大きな価値を有し得る。
【0454】
以上、様々な態様及び好ましい実施形態に従って本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲はそれのみに限定されると考えられないことを理解すべきであり、それのあらゆる変形物及び同等物も添付特許請求の範囲の技術的範囲内に含まれることが出願人の意図である。
【符号の説明】
【0455】
10 未分化幹細胞
15 バイオマーカー
20 化学物質
30 刺激又は作用因子
40 分化細胞
45 バイオマーカー
47 バイオマーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の発生経路に対する化学物質の毒性を予測する方法であって、
(i)試料中の対照未分化幹細胞集団を作用因子で処理して第1の発生経路中に第1の対照分化細胞集団を生成する段階、
(ii)前記対照未分化幹細胞集団及び/又は前記第1の対照分化細胞集団において発現される2以上のバイオマーカーのレベルを測定して対照発現レベルを決定する段階であって、前記バイオマーカーの1以上は発生経路及び/又は分化の早期ステージで発現され、前記バイオマーカーの1以上は発生経路及び/又は分化の後期ステージで発現される段階、
(iii)前記作用因子で処理する前又は後において、前記試料中の試験未分化幹細胞集団を化学物質に暴露して第1の発生経路中に第1の試験分化細胞集団を生成する段階、
(iv)前記試験未分化幹細胞集団及び/又は前記第1の試験分化細胞集団における前記2以上のバイオマーカーのレベルを測定して試験発現レベルを決定する段階、並びに
(v)前記対照発現レベルを前記試験発現レベルと比較する段階
を含んでなり、前記化学物質への暴露後における発現レベルの差が前記発生経路に対する化学物質の毒性を表す、方法。
【請求項2】
段階(i)が未分化幹細胞集団を作用因子で処理してn番目の発生経路中にn番目の分化細胞集団を生成する段階を含み、次いで段階(ii)〜(v)を繰り返して前記n番目の集団における対照発現レベルと試験発現レベルとの差を決定し、化学物質への暴露後における発現レベルの差が前記n番目の発生経路に対する化学物質の毒性を表す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1の発生経路及び前記n番目の発生経路がネットワーク化された発生経路である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
段階(i)が未分化幹細胞集団を作用因子で処理して複数の発生経路中に複数の分化細胞集団を生成する段階を含み、次いで段階(ii)〜(v)を繰り返して前記複数の集団における対照発現レベルと試験発現レベルとの差を決定し、化学物質への暴露後における発現レベルの差が前記複数の発生経路に対する化学物質の毒性を表す、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記複数の発生経路がネットワーク化された発生経路である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記幹細胞が多分化能性幹細胞である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記多分化能性幹細胞が胚性幹細胞である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
多分化能性幹細胞が誘導多分化能性幹細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
多分化能性幹細胞が始原生殖細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記幹細胞が成体幹細胞である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
幹細胞がヒト幹細胞である、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
未分化幹細胞が2以上のバイオマーカーと機能的に連結した相異なるレポーター遺伝子を含み、2以上のバイオマーカーのレベルが相異なる遺伝子産物の測定によって定量化される、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記レポーター遺伝子が、ニトロレダクターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、ルシフェラーゼ及び蛍光タンパク質レポーター遺伝子からなる群から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
2以上のバイオマーカーのレベルが、定量的RT−PCR、定量的免疫細胞化学、表面プラズモン共鳴及びマイクロアレイ分析からなる群から選択される方法によって定量化される、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
さらに、段階(iii)後に細胞増殖を測定する段階を含む、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
当該方法が多重方法である、請求項1乃至請求項15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
請求項1乃至請求項のいずれか1項記載の方法を用いて、ヒト胎児発生中における細胞バイオマップ又は発生経路の変化を予測する方法。
【請求項18】
請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法を実施するためのキットであって、2以上のバイオマーカーを定量化するための手段及び前記方法を実施するための取扱説明書を含んでなるキット。
【請求項19】
前記手段が、抗体、酵素基質及びオリゴヌクレオチドプライマーからなる群から選択される、請求項18記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−530502(P2012−530502A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516567(P2012−516567)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003762
【国際公開番号】WO2010/149346
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(398048914)ジーイー・ヘルスケア・ユーケイ・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】