説明

化粧シート

【課題】審美性に優れ、デザイン的価値が高く、壁紙等として有効に利用することができる化粧シートを提供する。
【解決手段】本発明の化粧シートは、上側シートと、紙製の下側シートとを接合した積層構造を有し、上側シートは、突き板と、その突き板の下面に保護紙とを接合したシート、または和紙であり、上側シートが、複数の切り抜き穴を有する。下側シートには、千代紙が好適である。上側シートが、格子状の切り抜き穴を有する態様と、複数の切り抜き穴が島状に配置する態様が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁紙等に使用する化粧シートに関し、特に審美性に優れ、デザイン的価値が高い化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
壁紙は、住宅等の建築物の内壁面に貼着する内装材であり、たとえば、ポリ塩化ビニルを用いる塩ビ壁紙がある。塩ビ壁紙は、施工性が良好であり、エンボス加工により立体的な装飾性を付与したシートや、発泡加工により柔軟性を付与したシートが使用されている。しかし、塩ビ壁紙は、燃焼時に有毒ガスを発生するという環境問題がある。一方、紙壁紙は、紙基材の上に、絵柄を印刷した化粧紙を積層したシートであり、施工しやすく、風合い、手触りもよく、廃棄時に有害ガスを発生しないという長所がある。しかし、塩ビ壁紙や従来の紙壁紙は装飾性が十分ではないため、審美性に優れ、デザイン的価値の高い壁紙が要望されている。また、紙壁紙は本質的に水に対して耐久力がないため、汚れた個所をスポンジや布で水洗いできないという欠点がある。また、紙は油やシンナーに弱いため、クリアー塗装ができないという欠点がある。
【0003】
一方、住宅等の建築物の内壁面に壁紙を貼着施工するときは、壁紙の裏面に糊付けし、壁材に貼着し、施工時には、壁紙と壁紙の継ぎ目部分を目立たないように仕上げることができる。しかし、施工後、乾燥するにつれて、継ぎ目部分に目開きがを生じ、目開き部分に埃が蓄積して、線状の汚れとなりやすい。目開きが生じる原因の1つは、壁紙の裏側に塗布した糊の水分が壁紙に吸収され、乾燥するにつれて壁紙が収縮するためである。もう1つの原因は、塩ビ壁紙の場合、表層を構成するポリ塩化ビニルが経時的に劣化し、収縮するためである。
【0004】
図3は、壁紙の目開きを防止する従来の方法を示す説明図である(特許文献1参照)。図3(a)は、壁紙の平面図であり、内部構造を説明するために、A部分で断裂した態様を示す。図3(b)は、壁紙を壁材に貼着したときの断面図である。図3(a)に示すように、この壁紙30は、紙基材31と化粧紙32とを積層した構造を有し、側縁部Bにおいて、化粧紙32の方が紙基材31よりw1だけ長い。このため、図3(b)に示すように、壁材33に貼着するとき、壁紙30と壁紙30bの継ぎ目部分において、壁紙30の化粧紙部分32aを、他方の壁紙30bの化粧紙32b上に重ね合わせることができる。かかる構成により、紙基材31,31bが外部に露出することがないため、壁紙の目開きを防止できると記載されている。しかし、紙シートは乾燥により本質的に収縮するため、壁紙の裏側に塗布した糊の水分が壁紙に吸収され、乾燥すると、紙基材31,31b同士が隔離し、空洞が発生し、空洞部において化粧紙32aが断裂し、剥離しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−31928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、審美性に優れ、デザイン的価値が高く、壁紙等として有効に利用することができる化粧シートを提供することにある。また、耐水性および耐油性が良好であり、クリアー塗装が可能な化粧シートを提供することを課題とする。さらに、壁材に貼着後、継ぎ目部分に目開きが生じない化粧シートを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の化粧シートは、上側シートと、紙製の下側シートとを接合した積層構造を有し、上側シートは、突き板と突き板の下面に保護紙とを接合したシート、または和紙であり、上側シートが、複数の切り抜き穴を有する。下側シートには、千代紙が好適である。上側シートが、格子状の切り抜き穴を有する態様と、複数の切り抜き穴が島状に配置する態様が好ましい。
【0008】
上側シートと、紙製の下側シートとを接合する工程と、デンプンとポリ酢酸ビニルとを含有する水溶液を上側シートに塗布し、含浸する工程と、乾燥する工程と、上側シート上にポリアクリル酸からなる保護層を形成する方法により製造する化粧シートが好ましい。また、保護層上に、トップコート層を有する態様が好ましい。
【0009】
壁紙に使用する化粧シートでは、下側シートの下に防水シートを積層した構造を有する態様が好適である。また、照明器具のシェードに使用する化粧シートでは、下側シートが、光源からの光を透過する半透明性を有する態様が好ましい。一方、本発明の化粧シートは、IT(information technology)端末用のハードケースに好ましく使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化粧シートは、装飾性が高く、壁紙等としての利用価値が大きい。また、耐水性および耐油性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の化粧シートの説明図である。
【図2】本発明の化粧シートを構成する上側シートの平面図である。
【図3】壁紙の目開きを防止する従来の方法を示す説明図である。
【図4】本発明の化粧シートを壁材に貼着したときの断面図である。
【図5】本発明の化粧シートにおける防水シートが、両面に保水層を有する態様の断面図である。
【図6】実施例1において製造した化粧シートの平面図(写真)である。
【図7】実施例2において製造した化粧シートの平面図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の化粧シートの説明図である。図1(a)は、化粧シートの構造を示す斜視図であり、図1(b)は、本発明の化粧シートの斜視図である。図1に示すように、化粧シート10は、紙製の下側シート1と、上側シート2とを接合した積層構造を有する。上側シート2は、突き板の下面に保護紙を接合したシート、または和紙であり、上側シート2は、複数の切り抜き穴3を有する。
【0013】
図1(a)に示す例では、下側シート1は千代紙であり、上側シート2が複数の切り抜き穴3を有するため、切り抜き穴3を通して、下側シート1の表面の模様が見える。このため、下側シート1と上側シート2とを接合することにより、下側シート1の表面の模様、色彩等のデザインと、上側シート2の表面の模様、色彩等のデザインとが組み合わされて、審美性に優れ、デザイン的価値の高い化粧シートを得ることができる。
【0014】
下側シートは、図1(a)に示すように、京千代紙、江戸千代紙、友禅紙、更沙紙等の千代紙が、装飾的価値を高める点で好適である。また、下側シートには、千代紙のほか、白色無地の紙、染色した無地の紙、模様を印刷した紙、雲竜紙等も好適に使用することができる。切り抜き穴を有する上側シートと下側シートとを接合することにより、上側シートのデザインと下側シートのデザインとの相乗効果が生じ、全く新しいデザイン的価値を有する装飾性の高い化粧シートを得ることができる。下側シートは、デザイン上の観点により選択するため、坪量や厚さは任意的要素であるが、たとえば、40g/m2〜120g/m2程度の紙を使用することができる。
【0015】
下側シートには、紙を使用する。紙製のシートは、施工性に優れ、焼却時に有毒ガスを発生しない長所を有する。紙は、セルロース繊維を抄き上げたウェブであり、合成繊維または無機繊維を配合することができる。セルロース繊維は、針葉樹および広葉樹等の木材から得られるが、竹やワラ等の草類繊維、またはケフナ等の靭皮繊維から得られた繊維も使用することができる。タルク、二酸化チタン等の填料、紙力増強剤、防カビ剤、着色剤、サイズ剤等を適宜添加することができる。
【0016】
上側シートには、和紙を好ましく使用することができる。和紙は、上品で柔らかな風合を有し、優れた質感があるため、デザイン的価値の高い化粧シートが容易に得られる。また、和紙は、洋紙に比べて、構成する繊維が格段に長いため、薄くとも強靭であり、保存性のよい化粧シートを製造しやすい。和紙は、伝統的な流し漉き法により製造したものを好ましく使用することができる。また、大量生産が可能な機械漉き和紙も使用することができる。和紙は、無地白色のもののほか、印刷した和紙、模様入り和紙、透かし入り和紙等を使用することができる。和紙は、デザイン的価値により選択し、接合する下側シートにより補強されるため、坪量や厚さは任意的要素であるが、たとえば、50g/m2〜120g/m2程度の和紙を使用することができる。
【0017】
上側シートには、突き板と、突き板の下面に保護紙とを接合したシートを好ましく使用することができる。突き板は、ケヤキ、ナラ、ヤチダモ等の木材を、0.2mm〜0.6mm程度に薄くスライスしたものであり、天然木の風合を生かすことができ、廉価で、反りがほとんどないという利点がある。突き板の下面に保護紙を接合することにより、強度と柔軟性が高まるため、切り抜き穴の形成時に割れを防止することができる。本明細書において、保護紙とは、突き板の下面に接合することにより、突き板の強度と柔軟性を高め、切り抜き穴の形成時の割れを防止する紙である。接合する突き板の仕様や用途等に応じて保護紙は任意に選択することができ、たとえば、40g/m2〜100g/m2程度の紙を使用する。突き板と保護紙の接合には、デンプン等の通常の糊剤を使用することができる。
【0018】
従来、突き板は、フローリング、家具、建具等の用途に使用され、突き板自体は、加工することなく、基材に接合してそのまま使用されている。かかる突き板に切り抜き加工を施して、下側シートと接合することにより、審美性の高い化粧シートを得ることができる。図1(a)には、上側シート2が、保護紙(図示していない。)を接合し、切り抜き穴3を形成した突き板である例を示す。
【0019】
上側シートは、複数の切り抜き穴を有する。図1(a)には、上側シート2が、円形の切り抜き穴3を有する態様を示すが、切り抜き穴の形状は、化粧シートの有するデザインの多様性に応じて任意に変更することができ、たとえば、楕円形、三角形、矩形、五角形以上の多角形とすることができる。同様に、切り抜き穴の配置は、図1(a)に示すように、縦横に揃えて規則的な配置とすることができる一方、不規則な配置とすることもできる。切り抜き穴の大きさも、デザイン的な観点により任意に選択することができるが、図1(a)に示す例では、直径5mmの円状に切り抜き穴が形成されている。
【0020】
図2は、本発明の化粧シートを構成する上側シートの平面図である。図2(a)は、上側シート2が、規則正しい格子状の切り抜き穴3を有する例であり、切り抜き穴3の形状は矩形である。図2(b)は、上側シート2が、不規則な切り抜き穴3を有する例であり、上側シート2において、複数の切り抜き穴3が島状に配置し、切り抜き穴3の形状は楕円形である。1枚の上側シートに、規則正しい切り抜き穴と、不規則な切り抜き穴とを形成することもできる。
【0021】
本発明の化粧シートは、上側シートと下側シートの接合工程と、樹脂の含浸および乾燥工程と、保護層の形成工程とを備える方法により製造したものが好適である。上側シートと下側シートの接合工程は、切り抜き穴を形成した上側シートと、紙製の下側シートとを接着剤により接合する。接着剤層は、上側シートまたは下側シートに形成するが、接着剤層を上側シートに形成するときは、接合に使用する接着剤の仕様に応じて、上側シートに接着剤層を形成した後、上側シートに切り抜き穴を形成し、または上側シートに切り抜き穴を形成した後、上側シートに接着剤層を形成する。
【0022】
接着剤は、デンプン糊を使用することができるが、上側シートに切り抜き穴を形成するため、非粘着性の接着剤が好適である。非粘着性の接着剤には、感熱融着型接着剤、感熱硬化型接着剤等があり、感熱融着型接着剤は、加熱とその後の冷却により、瞬時に接着が完了するため、迅速で簡便である点でより好ましい。感熱融着型接着剤は、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体、アクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体、アクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等のポリアクリル酸を好ましく使用することができる。
【0023】
また、ポリアクリル酸のほか、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリオレフィンをアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、熱融着性のポリエチレンテレフタレート等を好ましく使用することができる。また、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステル等の熱可塑性樹脂が好適である。感熱硬化型接着剤としては、ブロックイソシアネート硬化型ポリウレタン等が好ましい。
【0024】
樹脂の含浸および乾燥工程は、デンプンとポリ酢酸ビニルとを含有する水溶液を上側シートに塗布し、含浸し、その後、乾燥する。つづいて、上側シート上にポリアクリル酸からなる保護層を形成する。紙や突き板からなる上側シートは、水、油、シンナー等の溶媒に対する耐久力が低い。しかし、かかる含浸加工を施し、保護層を形成することにより、化粧シートに耐水性と耐油性を付与することができる。高い耐水性と耐油性が得られるため、化粧シートの表面から水等が染み込まず、デザインや風合の寿命が長くなり、たとえ汚れが付着しても、スポンジまたは布で簡単に水洗いすることができ、さらに、クリアー塗装も可能となる。このため、有用な用途が拡大する。本明細書において、保護層とは、化粧シートの含浸加工後、その上に形成する層をいう。
【0025】
含浸加工においては、上側シートと下側シートとの密着性を高める点で、デンプンとポリ酢酸ビニルとを含有する水溶液を使用するのが好ましい。デンプンとポリ酢酸ビニルとを併用することにより、和紙または突き板からなる上側シートと下側シートのデザインと風合等をそのまま自然な態様で保持することができる。デンプンとしては、たとえば、ヤヨイ化学工業株式会社製のアミノール(固形分濃度24質量%)を3倍希釈して使用するのが好ましい。ポリ酢酸ビニルとしては、たとえば、コニシ株式会社製のボンドCH38(固形分濃度41質量%)を3倍希釈して使用するのが好ましい。デンプンとポリ酢酸ビニルとの配合比は、固形分に換算して、1:1.5〜1.9が好ましい。また、デンプンとポリ酢酸ビニルの水溶液中の固形分濃度は、9質量%〜13質量%が好ましい。
【0026】
含浸加工は、刷毛塗り、スプレーガンによる塗装またはロール塗装等により行うことができる。含浸工程において、デンプンとポリ酢酸ビニルとを含有する水溶液の塗布量は、固形分換算で、45g/m2〜90g/m2が好ましく、55g/m2〜75g/m2がより好ましい。含浸工程の後、乾燥する。乾燥は、自然乾燥により行うことができ、熱風乾燥とすることもできる。
【0027】
保護層の形成工程では、上側シート上に保護層を形成する。保護層は、ポリアクリル酸からなる樹脂層が好ましい。ポリアクリル酸は、透明であるため、下地のデザインを忠実に表現することができる。また、含浸加工に使用するデンプンとポリ酢酸ビニルとの馴染みがよいため、化粧シートの密着性を高めることができる。さらに、ポリアクリル酸からなる樹脂は、十分な耐水性と耐油性を化粧シートに付与することができる。
【0028】
保護層は、耐水性と耐油性を高める点で、厚さは、10μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましい。一方、保護層の厚さは、乾燥を容易にする点で、60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。保護層用塗料としては、たとえば、山本窯業株式会社製セラトップECクリアー(固形分中のアクリル樹脂エマルジョン含有量90.8質量%)が好適である。保護層は、刷毛塗り、スプレーガンによる塗装またはロール塗装等により形成することができる。
【0029】
化粧シートは、含浸加工し、保護層を形成した後、保護層上にトップコート層を有する態様が、耐摩耗性等の耐久性をさらに高めることができる点で好ましい。トップコート層の形成には、たとえば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアミド、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート、フッ素樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂、紫外線硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂等を好ましく使用することができ、必要に応じて併用することができる。また、トップコート層には、艶出し剤、滑り材、帯電防止剤、結露防止剤、抗菌剤、防黴剤等を配合することができる。本明細書において、トップコート層とは、保護層上に形成する層をいう。
【0030】
トップコート層としては、たとえば、エスケー化研株式会社製のセラタイトFクリアーを好ましく使用することができる。セラタイトFクリアーは、2液反応硬化型フッ素樹脂塗料であり、たとえば、主剤(有効成分:セラミック複合フッ素樹脂)100質量部と、硬化剤(有効成分:イソシアネート)25質量部とにより常温硬化して耐摩耗性の大きく、汚れが付着しにくいトップコート層を形成することができる。トップコート層は、コート層の材質によっても異なるが、一般には、耐久性を高める点で、厚さは、10μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましい。一方、トップコート層の厚さは、乾燥を容易にする点で、60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。トップコート層は、刷毛塗り、スプレーガンまたはロール塗装等により形成することができる。
【0031】
壁紙に使用する化粧シートは、下側シートの下に防水シートを有する態様が好ましい。図4は、本発明の化粧シートを壁材に貼着したときの断面図である。図4に示す例では、化粧シート10は、下側シート1と、上側シート2と、保護層4のほか、下側シート1の片面に防水シート5を有する。防水シート5に糊剤6を形成し、化粧シート10(壁紙)を壁材7に貼着する。化粧シート10(壁紙)が防水シート5を有すると、糊剤6の水分が防水シート5により遮蔽され、糊剤6の水分が下側シート1側に移行しない。このため、下側シート1と上側シート2等は、湿潤することがなく、乾燥することもない。したがって、壁材7への貼着による化粧シート10の伸長と収縮がなくなり、化粧シート10(壁紙)同士の結合部における目開きを効果的に防止することができる。
【0032】
防水シートは、防水性と機械的強度が大きく、化学的に安定である点で、ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリカーボネート、ポリアセタール、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール等の有機系高分子からなるシートが好ましい。
【0033】
壁紙用化粧シートの防水シートとして、炭酸カルシウムを主成分とする無機質シートを好ましく使用することができる。かかる無機質シートは、粉末状の炭酸カルシウムを70質量%〜80質量%、ポリエチレンを18質量%〜28質量%、添加剤を2質量%〜5質量%含み、原料を撹拌し、分散した後、シート状に成形したものである。炭酸カルシウムを主成分とするため、燃焼時に有毒ガスが発生せず、防水性に優れるため、壁紙に使用する化粧シートの防水シートとして好適である。また、石油から製造される有機系高分子に比べて、CO2軽減に役立ち、地球の温暖化防止に寄与するものである。
【0034】
防水シートとして、これらの有機系高分子シートまたは無機質シートを使用する場合、有機系高分子シートまたは無機質シートの両面に保水層を形成する態様が好ましい。保水層を形成すると、化粧シートの下側シートと防水シートの接合と、壁材と防水シートの接合を、汎用の糊剤により容易に行うことができるようになる。また、保水層を形成すると、接合後の密着性が高まり、年数が経過しても、壁紙にひび割れ、膨れまたは剥がれ等が生じにくくなり、壁紙の安定性を高めることができる。
【0035】
図5は、本発明の化粧シートにおける防水シートが、両面に保水層を有する態様の断面図である。図5に示す例では、防水シート5は、芯材51の両面に、保水層52を有する。保水層は、芯材にコーティングすることにより容易に形成することができる。防水シート5の厚さは、壁材の仕様により異なるが、一般には100μm〜200μmが好ましい。保水層の厚さは、保水剤の種類により異なるが、通常5μm〜40μmが好ましい。保水性は、糊剤の形成を容易にし、接着性を高める点で、0.4g/cm3以上が好ましく、接着後の乾燥性を高める点で、30g/cm3以下が好ましい。本明細書において、保水性は、つぎの式により求める。
保水性(g/cm3)={湿潤時の質量(g)−乾燥時の質量(g)}÷体積(cm3
【0036】
保水層の組成は、バインダー、無機填料と少量の保水剤を含有する態様が好ましい。バインダーは、ポリオレフィン、ポリアクリル酸、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、アクリル酸−ブタジエン共重合体、メタクリル酸−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエステル等を好ましく使用することができる。無機填料は、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレー等が好適である。
【0037】
保水剤は、カルボキシメチルセルロース、キサントゲン酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系化合物、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸アンモニウム、アクリル酸系ポリマー、アクリルエマルジョンコポリマー、ビニルピロリドンコポリマー、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、酢酸ビニル−エチレン共重合エマルジョン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド等のアクリル酸系化合物、ポリビニルアルコール等のビニル系化合物等を好ましく使用することができる。
【0038】
本発明の化粧シートは、テーブルや座卓の天板、椅子の座面や背もたれ、システムキッチンや下駄箱の扉、クロゼットの扉、襖等に代表される家具や建具に使用することができ、デザイン性の高いお洒落な家具や建具を提供することができる。また、厚手の防水シートを接合した化粧シートは、300mm×300mm、450mm×450mm、450mm×900mm等の規格サイズにカットし、装飾用パネル板として利用することができる。
【0039】
本発明の化粧シートを照明器具のシェードに使用すると、和やかな風合を有するクオリティの高い照明器具が得られ、特に下側シートに和紙を使用したシェードは、暖かな優しい光がこぼれ、落ち着きと癒しを演出することができる。シェードに使用する場合、下側シートは、光源からの光を透過する半透明性を有するものが好ましく、照明器具を設置している環境によっても異なるが、光源からの光を光量に換算して20%〜50%程度透過する態様が好ましい。
【0040】
本発明の化粧シートは、iPod(携帯型デジタル音楽プレイヤー)、iPhone(iPod機能を搭載した携帯電話)、iPad(タブレット型のコンピューター)等のIT(information technology:情報処理および情報伝達(通信)の応用技術)の端末用のハードケースとして使用すると、お洒落で個性的なイメージを有するため、IT端末の販売促進に寄与する。
【0041】
実施例1
本実施例においては、図1(a)に示すように、下側シート1と上側シート2とを接合して、図1(b)に示すような化粧シート10を形成した。下側シート1には、坪量79.1g/m2の群青色の和紙(雲竜紙)を使用した。また、上側シート2には、図1(a)に示すように、直径5mmの複数の切り抜き穴3を10mm毎に形成した坪量73.3g/m2の和紙を使用した。上側シートに切り抜き穴を形成した後、上側シートの片面にデンプン糊を塗布し、下側シートを接合した。
【0042】
つぎに、含浸加工をするために、デンプンとポリ酢酸ビニルとを含有する水溶液を上側シートに塗布した。デンプンは、ヤヨイ化学工業株式会社製のアミノール(固形分濃度24質量%)を3倍希釈して使用した。ポリ酢酸ビニルは、コニシ株式会社製のボンドCH38(固形分濃度41質量%)を3倍希釈して使用した。デンプンとポリ酢酸ビニルとの配合比は、固形分に換算して、1:1.7とし、デンプンとポリ酢酸ビニルの水溶液中の濃度は、11質量%であった。
【0043】
含浸加工は、刷毛塗りにより行い、デンプンとポリ酢酸ビニルとを含有する水溶液の塗布量は、固形分換算で、65g/m2であった。含浸工程後、自然乾燥した。その後、上側シート上に保護層を形成した。保護層には、山本窯業株式会社製セラトップECクリアー(固形分中のアクリル樹脂エマルジョン含有量90.8質量%)を使用し、刷毛塗りにより、厚さ30μmの保護層を形成した。
【0044】
図6は、実施例1において製造した化粧シートの平面図(写真)である。図6に示すように、切り抜き穴を有する上側シートと下側シートとを積層した結果、上側シートである和紙のデザインと下側シートである和紙のデザインとの相乗効果により、まったく新しいイメージを有する装飾性の高い化粧シートが得られ、壁紙として利用することができた。また、含浸加工を施し、保護層を形成したため、化粧シートの表面から水等が染み込まず、汚れが付着しても、スポンジまたは布で簡単に水洗いすることができた。
【0045】
実施例2
上側シートとして、和紙の代わりに、厚さ0.5mmの突き板の下面に、坪量52.3g/m2の保護紙をデンプン糊で接合した積層体を使用した。上側シートには、1辺5mmの正方形の切り抜き穴と、直径5mmの円形の切り抜き穴と、底辺5mmで高さが5mmの直角二等辺三角形の切り抜き穴とを、各々10mm毎に形成した。また、下側シートには、坪量81.4g/m2の千代紙を使用した。それ以外の点は、実施例1と同様にして化粧シートを製造した。
【0046】
図7は、実施例2において製造した化粧シートの平面図(写真)である。図7に示すように、上側シートに突き板を使用したため、天然木の木目が前面に見え、上側シートの切り抜き穴を通して、下側シートである千代紙の模様と色彩が垣間見えるため、審美性に優れた化粧シートが得られ、デザイン性が高いお洒落な壁紙として利用することができた。また、含浸加工を施し、保護層を形成したため、耐水性と耐油性が高く、汚れが付着しても、スポンジまたは布で簡単に水洗いすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
装飾性に優れ、デザイン的価値の高い壁紙等を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 下側シート
2 上側シート
3 切り抜き穴
4 保護層
5 防水シート
6 糊剤
7 壁材
10 化粧シート
51 芯材
52 保水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側シートと、紙製の下側シートとを接合した積層構造を有し、
前記上側シートは、突き板と該突き板の下面に保護紙とを接合したシート、または和紙であり、
前記上側シートが、複数の切り抜き穴を有する化粧シート。
【請求項2】
前記下側シートは、千代紙である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記上側シートは、格子状の切り抜き穴を有する請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記上側シートは、複数の切り抜き穴が島状に配置する請求項1〜3のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項5】
上側シートと、紙製の下側シートとを接合する工程と、
デンプンとポリ酢酸ビニルとを含有する水溶液を上側シートに塗布し、含浸する工程と、
乾燥する工程と、
上側シート上にポリアクリル酸からなる保護層を形成する工程と
を備える方法により製造した請求項1〜4のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項6】
前記保護層上に、トップコート層を有する請求項5に記載の化粧シート。
【請求項7】
壁紙に使用する化粧シートであって、前記下側シートの下に防水シートを積層した構造を有する請求項1〜6のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項8】
照明器具のシェードに使用する化粧シートであって、前記下側シートは、光源からの光を透過する半透明性を有する請求項1〜6のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項9】
IT(information technology)端末用のハードケースに使用する請求項1〜6のいずれかに記載の化粧シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−228776(P2012−228776A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96593(P2011−96593)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(511102860)
【Fターム(参考)】