説明

化粧料含浸用皮膚被覆シート及びその製造方法、並びにこれを用いたフェイスマスク

【課題】 適度な伸縮性を有する化粧料含浸用皮膚被覆シート、およびこれを用いたフェイスマスクを提供する。
【解決手段】 少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布の少なくとも一方の面に、ステープル繊維から成る繊維層が少なくとも一表面となるように積層された積層体に、水流交絡処理を施すことにより、長繊維不織布とステープル繊維が交絡し、一体化されて化粧料含浸用皮膚被覆シートを得る。
前記被覆シートの伸縮性を有する一方向が、顔の横方向に位置するように裁断することにより、貼付する部位へのフィット性が高く、取り扱い性が良好なフェイスマスクを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、痩身成分等の化粧料を含浸させ、人体の皮膚等に貼付して使用する化粧料含浸用皮膚被覆シートに関するものである。さらに、本発明は、このシートに液体化粧料を含浸させたフェイスマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化粧料を含浸したフェイスマスク等の顔面被覆化粧料シートが使用されている。化粧料を含浸させるのに適したシートとして、国際公開第2006/016601号パンフレット(特許文献1)においては、親水性繊維を50質量%以上含む親水性繊維層の一方または両方の表面に、繊度0.5dtex以下である極細繊維を10質量%以上含む極細繊維層が位置し、親水性繊維層と極細繊維層とが一体化されてなり、極細繊維層を皮膚との接触面とする、シートが提案されている。このシートは、極細繊維層を皮膚との接触面となるように使用されることを特徴とする。この特徴により、このシートは、皮膚への刺激性が少なく、かつ良好な装着性(シートの皮膚への密着性が持続する時間の長さで評価される)を有する。
【0003】
特開2007−312967号公報(特許文献2)においては、ポリエステルスパンボンド不織布に、レーヨン繊維のウェブを重ね合わせた状態で水流交絡させた二層構造のシート材を、所定形状に打ち抜いたフェイスマスクが提案されている。このフェイスマスクは、嵩張らず、使うときに広げやすく、化粧料の含浸性、密着性が良好である。
【0004】
特開2003−166161号公報(特許文献3)は、熱接着性繊維を含む構成繊維同士が部分的熱圧着部により接合された熱接着不織布の少なくとも片面に、繊度3.5dtex以下の吸水性短繊維を90mass% 以上含有し、前記吸水性短繊維のうち繊度が1dtex以下の吸水性短繊維を20mass% 以上含有してなる繊維ウェブを積層し、水流交絡させた皮膚湿潤シートを提案している。このシートは、液体含浸性に優れ、不織布表面の触感が柔軟であり、液体を含浸させときのへたりを抑制し、不織布開布性、皮膚への密着性に優れたものである。
【0005】
最近の消費者は、化粧料を含浸させる皮膚被覆シートに伸縮性および密着性を求める傾向にある。これは、伸縮性を有する皮膚被覆シートを、特にフェイスマスクとして使用すると、シートを少し伸ばして顔に貼付した後、シートの弾性回復に伴って生じる応力が、皮膚が伸びている感覚、および頬および顎(フェイスライン)が上向きに引っ張られる感覚を、利用者に与えることによる。これらの感覚は、シートの貼付中、皺が伸び、フェイスラインが持ち上げられる効果を利用者に実感させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/016601号パンフレット
【特許文献2】特開2007−312967号公報
【特許文献3】特開2003−166161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、化粧料含浸用皮膚被覆シートに伸縮性が求められていることは、既に知られている。尤も、化粧料含浸用皮膚被覆シートは、敏感な部位を被覆するので、単に伸縮性を有するだけでは不十分である。当該シートの伸縮性は、化粧料を含浸させたシートが皮膚に貼付されたときに、シートが利用者に与える感覚を考慮して、設計する必要がある。しかし、上記のいずれの文献にも、化粧料を含浸させる皮膚被覆シートの伸縮性を具体的にどの程度とするべきかについての言及はなく、また、適当な伸縮性を有する化粧料含浸用皮膚被覆シートの具体的な構成も開示されていない。さらにまた、一般に市販されているフェイスマスクのシートは、小さい力をかけると伸びる性質を有するものの、伸びた後に回復する性質を十分に有しているものではない(即ち、伸長性のみを有する)。加えて、伸縮性を有するシートは、それを連続生産すること、および加工することが難しいという問題も有する。
【0008】
また、特許文献1のように、極細繊維をシート表面に含有させると、肌触りが良好であるが、シート自体が柔軟となって、手持ち感が低下し、取り扱いしにくくなる傾向にある。
【0009】
本発明は、上記した課題を鑑みてなされたものであり、貼付する部位へのフィット性が高く、長時間使用しても突っ張り感が少ない、取り扱い性が高い化粧料含浸用皮膚被覆シート、およびこれを用いたフェイスマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、検討を重ねた結果、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布と、風合いの柔軟なステープル繊維を含む繊維層とを積層し、水流交絡により一体化することによって、取り扱い性が高く、貼付する部位へのフィット性が高く、長時間使用しても突っ張り感が少なく、かつシート表面の肌触りも良好なシートが得られることを見出し、本発明を案出するに至った。
【0011】
本発明の化粧料含浸用皮膚被覆シートは、長繊維を含み、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布の少なくとも一方の表面に、繊維長25〜80mmのステープル繊維から成る繊維層が積層されて表面層を形成してなる積層体であって、前記長繊維不織布と繊維層は、長繊維とステープル繊維が互いに水流交絡して一体化しており、前記積層体の一方向における20%伸長時の応力が0.5〜10N/5cmであり、一方向に直交する方向における20%伸長時の応力が5〜40N/5cmであり、前記積層体の一方向における20%伸長時の伸長回復率が60〜95%であり、一方向に直交する方向における20%伸長時の伸長回復率が5〜75%であることを特徴とする。
【0012】
前記化粧料含浸用皮膚被覆シートは、長繊維を含み、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布の少なくとも一方の面に、繊維長25〜80mmのステープル繊維から成る繊維層が表面となるように積層して積層体とすること、
水流交絡処理において、前記一方向が機械方向(MD方向)と直交する方向(CD方向)となるように、積層された長繊維不織布および繊維層を裁置し、水流交絡を施して、長繊維不織布と繊維層とを構成する長繊維とステープル繊維を互いに交絡させて一体化すること、
を含む、製造方法により製造することができる。
【0013】
本発明のフェイスマスクは、前記化粧料含浸用皮膚被覆シートであって、前記一方向を顔面の横方向となるように所定の形状に裁断して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化粧料含浸用皮膚被覆シートは、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布と、ステープル繊維を含む繊維層とを積層し、水流交絡により一体化した積層構造を有することを特徴とする。本発明は、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布を積層するので、貼付する部位へのフィット性が高く、長時間使用しても突っ張り感が少ない。また、長繊維不織布は、低伸長時に適度な応力を有するので、手持ち感があり、取り扱い性が良好である。さらにまた、かつシート表面にステープル繊維を含む繊維層が形成されるので、肌触りも良好である。
【0015】
本発明の化粧料含浸用皮膚シートの製造方法においては、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布を用いるので、積層体を水流交絡処理するときに発生するシートの幅入りを有効に抑制する。また、マスク形状に打ち抜きするときの裁断性が良好である。
【0016】
本発明のフェイスマスクは、特に顔面の横方向に伸縮性を有するので、小さい力で引っ張ることができ、顔面に良好に密着して剥がれにくい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の化粧料含浸用皮膚被覆シート(以下、単に「被覆シート」又は「シート」と呼ぶことがある)は、長繊維を含み、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布の少なくとも一方の表面に、繊維長25〜80mmのステープル繊維から成る繊維層が積層されて表面層を形成してなる積層体である。ここで、「表面」という用語は、不織布または層の主表面(厚さ方向と垂直な表面)を指す。
【0018】
本発明でいう長繊維は、実質的に連続した繊維のことを指し、ステープル繊維のように所定の繊維長に切断したもの、メルトブローン法のように熱風により溶融噴出されて繊維がちぎれるようなものを除く。長繊維を含む不織布としては、長繊維フィラメントを開繊しながら集積した長繊維不織布、具体的にはスパンボンド不織布が挙げられる。スパンボンド法は、押出機から樹脂を溶融押出しし、紡糸口金から樹脂を紡糸し、紡糸された繊維をエアサッカー等の気流牽引型の装置で引取り、気流とともに繊維を、捕集ベルトなどのウェブ捕集装置に載置された短繊維層上で捕集し、その後、必要に応じて、ウェブを、熱風吹き付け装置または加熱ロール等の加熱装置を用い、繊維同士を接着させることにより実施できる。別の形態としては、フィラメントが1方向に配列され延伸された一方向延伸配列繊維層が、2枚、互いに直交するように積層された経緯直交積層繊維不織布(例えば、新日石プラスト株式会社、商品名「ミライフ」など)が挙げられる。このような長繊維不織布であると、低伸長時に適度な応力を有して寸法安定性が高いので、ステープル繊維を含む繊維層を積層しても、手持ち感があり、取り扱い性が良好である。
【0019】
前記長繊維不織布は、5〜85g/m2の目付であることが好ましい。より好ましい目付は、10〜80g/m2であり、さらにより好ましくは、20〜75g/m2である。上記目付は、伸長性及び伸縮性の度合い、風合い等に応じて適宜設定される。
【0020】
前記長繊維不織布は、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布である。本発明でいう「伸縮性」とは、JIS L 1096 8.14.2に準じて測定される20%伸長時の伸長回復率が50%以上のものをいう。前記一方向と直交する方向においても伸縮性を有していてもよいが、前記一方向のほうがその直交する方向よりも伸縮性が大きいほうが好ましい。顔面へのフィット性、またはシートの製造工程性を考慮すると、一方向は伸縮性を有し、その直交する方向は伸縮性を有さずに伸長性を有することが最も好ましい。具体的には、前記積層体の一方向における20%伸長時の伸長回復率が60〜95%であり、一方向に直交する方向における20%伸長時の伸長回復率が5〜75%である。前記積層体の好ましい伸長回復率は、一方向で70〜90%であり、一方向に直交する方向で10〜70%である。
【0021】
また、前記伸長性は、JIS L 1096 8.12.1に準じて測定される20%伸長時の応力で表される。この20%伸長時の応力が小さいほど、伸長性が高いものである。具体的には、前記積層体の一方向における20%伸長時の応力が0.5〜10N/5cmであり、一方向に直交する方向における20%伸長時の応力が5〜40N/5cmである。前記積層体の好ましい伸長時応力は、一方向で1〜8.5N/5cmであり、一方向に直交する方向で8〜30N/5cmである。
【0022】
前記伸縮性及び伸長性を満たすには、長繊維不織布を構成する繊維として、熱可塑性エラストマーを含む繊維を用いることが好ましい。熱可塑性エラストマーを含んで成る繊維は、熱可塑性エラストマーを30質量%以上含む樹脂から成る繊維であることが好ましい。より好ましくは、熱可塑性エラストマーを50重量%以上含むものであり、熱可塑性エラストマーのみからなっていてよい。
【0023】
熱可塑性エラストマー(単に「エラストマー」とも呼ぶ)としては、例えば、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマーおよびアミド系エラストマー等を挙げることができる。
【0024】
スチレン系エラストマーは、好ましくは、スチレン成分を5重量%以上70重量%以下含む共重合体である。スチレン系エラストマーとしては、具体的には、スチレン・ブタジエンブロック共重合体エラストマー、およびスチレン・イソプレンブロック共重合体エラストマー、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体エラストマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体エラストマー、ならびにこれらの水素添加物であるスチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体エラストマー、およびスチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体エラストマーなどが挙げられる。水素添加ブロック共重合体において、水素添加率は80%以上であることが好ましい。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いてよい。
【0025】
オレフィン系エラストマーとしては、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、および1−オクテンなどから選択される2以上のα−オレフィンのランダムまたはブロック共重合体で、結晶化度が50%未満の低結晶性または非晶性のもので、MFRが20〜100g/10分、好ましくは50〜80g/10分の範囲にあるものが挙げられる。具体的には、オレフィン系エラストマーとして、エチレン・プロピレンランダム共重合体エラストマー、エチレン・1−ブテンランダム共重合体エラストマー、およびプロピレン・1−ブテンランダム共重合体エラストマーなどのα−オレフィンのランダム共重合体エラストマー、ならびにエチレン・プロピレンブロック共重合体エラストマー、エチレン・1−ブテンランダムブロック共重合体エラストマー、およびプロピレン・1−ブテンランダムブロック共重合体エラストマーなどのα−オレフィンのブロック共重合体エラストマーが挙げられる。
【0026】
エラストマーを含む繊維がエラストマー以外の樹脂を含む場合、その樹脂は、オレフィン系樹脂であることが好ましい。オレフィン系樹脂は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体である。これらの樹脂は成形性が良好であることから好ましく用いられる。これらの樹脂は、エラストマーを含む繊維が過度に伸縮することを防止して、繊維の伸縮性を調整するために用いることもできる。
【0027】
これらの樹脂はまた、エラストマー繊維を含む不織布のタック性(粘着性)を低下させるという観点から良好に機能し得る。タック性の低下は、積層体を一旦ロールに巻き取り、被覆シートの製造において繰り出して使用するときに、繰り出しをスムーズに行うために必要とされる。さらに、これらの樹脂は、エラストマー不織布を構成する繊維の融点を高くし、乾燥工程で不織布が硬化されにくくする効果を発揮する。あるいは、オレフィン系樹脂以外の樹脂、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはアクリル系樹脂を、エラストマーとともに使用してよい。
【0028】
エラストマーを含む繊維がエラストマー以外の樹脂を含む場合、その割合は、70質量%以下であることが好ましい。エラストマー以外の樹脂の割合が70質量%を超えると、被覆シートにおいて良好な伸縮性を得られないことがある。エラストマー不織布を構成する繊維が2以上の樹脂で形成される場合、繊維は複合形態であってよく、例えば、芯鞘型複合繊維、分割型複合繊維、または海島型複合繊維であってよい。あるいは、繊維は、混合樹脂から成る単一繊維であってよい。
【0029】
前記長繊維不織布は、エラストマーを含む繊維とエラストマーを含まない繊維が混繊されていてもよい。そのような繊維の割合は、エラストマーを含む繊維が長繊維不織布の30質量%以上を占めるように、選択されることが好ましい。その理由は上記のとおりである。エラストマーを含まない繊維は、先に説明した、エラストマー以外の樹脂で形成された合成繊維、または天然繊維もしくは再生繊維である。
【0030】
前記エラストマーを含む繊維を用いた長繊維不織布としては、スパンボンド不織布が挙げられる。スパンボンド不織布は、繊維自体にエラストマーを混合または複合にして紡糸することができ、エラストマー繊維とエラストマーを含まない繊維を混繊して紡糸することもできる。
【0031】
前記エラストマーを含む繊維を用いた長繊維不織布としては、経緯直交積層繊維不織布も挙げられる。経緯直交積層繊維不織布では、一方向に所定の伸縮性が得られるように、経方向および/または緯方向にエラストマーを含む繊維を配列させるとよい。
【0032】
前記伸縮性及び伸長性を満たす長繊維不織布としては、スパンボンド不織布が挙げられる。スパンボンド不織布は、エンボス部を形成しているので、5〜20%程度の低伸長時の過度に伸縮および伸長することが抑えられ、皮膚に貼付したときのフィット性を実現することができる。不織布表面の全面積に対するエンボス部の面積率は、5〜30%であることが好ましい。より好ましくは10〜25%である。このような範囲内にあると、適度な伸縮性および伸長性を有するだけでなく、ステープル繊維との交絡性が良好である。
【0033】
また、前記伸縮性及び伸長性を満たす長繊維不織布としては、経緯直交積層繊維不織布も挙げられる。経緯直交積層繊維不織布は、自己接着しているので、5〜20%程度の低伸長時の過度に伸縮および伸長することが抑えられ、皮膚に貼付したときのフィット性を実現することができる。
【0034】
前記伸縮性及び伸長性を満たす長繊維不織布であれば、不織布の形態は特に限定されず、例えば、不織布自体に皺、筋、凹凸などを形成させて形状による伸縮性を付与してもよい。このような不織布形状により伸縮性を付与させると、エラストマー特有のタックによる製造工程性の低下を抑えることができる。
【0035】
前記長繊維不織布は、長繊維の繊度が0.5〜10dtexであることが好ましい。より好ましくは、1〜6dtexであり、さらにより好ましくは、2〜4.4dtexである。この範囲内にあると、風合いが柔軟であり、ステープル繊維との交絡性も良好である。
【0036】
前記長繊維不織布は、一方向における20%伸長時の伸長回復率が60〜100%であり、一方向に直交する方向における20%伸長時の伸長回復率が5〜75%であることが好ましい。長繊維不織布のより好ましい伸長回復率は、一方向で70〜95%であり、一方向に直交する方向で10〜70%である。長繊維不織布の伸長回復率が上記範囲内にあると、ステープル繊維と交絡させた積層体としても所定の伸長回復率が得られるからである。
【0037】
前記長繊維不織布は、一方向における20%伸長時の応力が0.1〜10N/5cmであり、一方向に直交する方向における20%伸長時の応力が0.5〜40N/5cmであることが好ましい。長繊維不織布のより好ましい伸長時応力は、一方向で0.5〜9N/5cmであり、一方向に直交する方向で1〜35N/5cmである。長繊維不織布の伸長時応力が上記範囲内にあると、ステープル繊維と交絡させた積層体としても所定の伸長時応力が得られるからである。
【0038】
次に、前記繊維層について説明する。繊維層は、繊維長25〜80mmのステープル繊維から成る繊維層であって、前記長繊維不織布と積層されて表面層を形成する。前記ステープル繊維の繊維長は、35〜70mmであることが好ましい。繊維長が上記範囲内にあると、水流交絡処理を施したときに長繊維不織布との交絡性が良好であり、肌触りもチクチク感がなく、好ましい。
【0039】
前記繊維層に用いられる繊維としては、例えば、コットン、麻、竹、カポック、ケナフ、シルク、およびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、半合成繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、またはエチレン−プロピレン共重合体等、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体から成るポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート等から成るポリエステル繊維、ナイロン6またはナイロン66等から成るポリアミド系繊維、ならびにアクリル系繊維等の合成繊維などが挙げられる。
【0040】
前記繊維層としては、セルロース系繊維を含むことが好ましい。セルロース系繊維は、吸水性を有するので、シートの表面に形成されると皮膚への湿潤性を保持することができ、好ましい。なお、「セルロース系繊維」という用語は、生成過程の如何にかかわらず、主成分によって分類したときに、一つの種類を表すものとして使用される。
【0041】
本発明のシートを構成するのに適したセルロース系繊維は、コットン(木綿)である。コットンは、天然素材として使用された実績が長く、衣服、下着および衛生材料の素材として広く使用されていて、肌に優しい、触感がよい、および安全であるという印象を、一般の消費者に与えている。したがって、コットンを使用することによって、より消費者に受け入れられやすい製品を提供することができる。
【0042】
コットンは、不織布製造に一般的に用いられているものを任意に使用できる。具体的には、25〜60mm程度の繊維長(平均繊維長)を有するコットンを使用できる。セルロース系繊維層は、繊維長および種類の異なるコットンを複数含んでよい。本発明のシートの構成をとる場合、繊維長の長いコットンと繊維長の短いコットンが混在するセルロース系繊維層は、繊維長の長いもの(一般に、より良い触感を与える)のみからなる繊維層と同等の触感を与える。その理由は定かではないが、このことは、価格の安いコットンの使用を可能にする。例えば、セルロース系繊維層は、例えば、繊維長10mm程度のコットン(例:コーマ落綿)を含んでよい。
【0043】
あるいは、セルロース系繊維として、レーヨンもまた、好ましく用いられる。レーヨンの繊度は、0.5〜3.3dtexであることが好ましく、0.9〜2.2dtexであることがより好ましい。レーヨンは、優れた吸水性を有することから、また、工業的に生産されており、均一な繊維として容易に入手できることから、好ましく用いられる。
【0044】
前記繊維層は、セルロース系繊維を10質量%以上含み、好ましくは20〜80質量%含むことが好ましい。上記範囲内にあると、良好な触感、吸液性および保液性を得ることができる。あるいは、セルロース系繊維を使用することにより、皮膚への刺激が少なく、柔らかな触感を有するシートが得られる理由として、セルロース系繊維が、繊維表面および/またはシート表面に化粧料の層を形成することが推察される。化粧料の層は、セルロース系繊維が合成繊維と比較して高い親水性および吸水性を有することにより、形成されると考えられる。この化粧料の層は、皮膚と直接に接するものとなり、繊維が直接的に皮膚と接しないようにする又は接しにくくする。その結果、繊維が化粧料で隔てられて、繊維が化粧料から浮いた状態となり、皮膚に刺激を与えにくくなる。これに対し、合成繊維は一般に疎水性であり、化粧料となじみにくい。そのため、化粧料をシートに含浸させた後も、合成繊維の先端は化粧料に覆われずに露出しやすく、露出した先端がシートから突き出て、皮膚にチクチク感を与えやすいと考えられる。
【0045】
セルロース系繊維はまた、一度吸収した又は付着させた液体を保持する能力が高い。よって、本発明の被覆シートは、比較的低粘度の化粧料を多量に保持することができる。
【0046】
本発明の被覆シートにおいては、セルロース系繊維の吸液性および保液性を利用できる。よって、本発明のシートは、例えば、繊維層を合成繊維のみで構成したシートと比較して、目付を小さくしても、同量の化粧料を保持することができる。このことは、薄い皮膚被覆シートの提供を可能にし、したがって、例えば、所定の容積のパッケージにより多くの枚数のシートが収容されることを可能にする。
【0047】
前記繊維層は、セルロース系繊維とセルロース系繊維以外の繊維を含んでよい。例えば、合成繊維およびセルロース系繊維以外の天然繊維を含んでよい。セルロース系繊維以外の繊維の繊度は特に限定されず、好ましくはセルロース系繊維と同じ程度の繊度を有する。より具体的には、セルロース系以外の繊維は、0.1〜3.3dtexの繊度を有することが好ましく、0.5〜2.2dtexの繊度を有することがより好ましい。
【0048】
前記繊維層はまた、繊度0.5dtex以下の極細繊維を含むことが好ましい。極細繊維は、分割型複合繊維の割繊(分割)により形成されたものであることがより好ましい。分割型複合繊維を使用すると、高圧水流によって極細繊維が形成されるとともに、極細繊維同士が密に絡み合って、緻密な繊維層を得ることができるからである。より好ましい極細繊維の繊度は、0.05〜0.3dtexである。
【0049】
極細繊維を含む繊維層(以下、「極細繊維層」ともいう)は、緻密で滑らかな表面を与え、皮膚に刺激を与えにくく、良好な触感を与える。
【0050】
前記分割型複合繊維を使用する場合、分割型複合繊維は水流交絡処理前の極細繊維層に30質量%以上含まれることが好ましく、50質量%以上含まれることがより好ましい。水流交絡処理後の極細繊維層において、分割型複合繊維は各構成成分に完全に分割している必要はなく、例えば、構成成分の一部のみが分割していてよく、あるいは、極細繊維が完全に独立した繊維とならず、一本の分割型複合繊維から一本または複数本の極細繊維が枝分かれしていてもよい。このように分割型複合繊維において極細繊維の分割が途中で止まっている場合等には、極細繊維層中の極細繊維の割合を求めることが難しいことがある。このことを考慮して、上記において本発明の被覆シートを水流交絡前の分割型複合繊維の割合で特定していることに留意されたい。
【0051】
極細繊維が分割型複合繊維の割繊により形成される場合に、この被覆シートにおいて、極細繊維が所期の効果(例えば、表面の滑らかさ)をもたらすほどに含まれているか否かは、シート断面を顕微鏡等で観察することにより確認できる。例えば、シートを幅方向に平行な線に沿って切断し、皮膚接触面を含む極細繊維層の断面を観察できるように電子顕微鏡で300倍に拡大して観察したときに、シートの幅方向400μm×シートの厚さ方向200μmの領域にて極細繊維が10本以上観察されれば、極細繊維層によりもたらされる効果を得ることができる。
【0052】
分割型複合繊維は、繊維断面において構成成分のうち少なくとも1成分が2個以上に区分されてなり、構成成分の少なくとも一部が繊維表面に露出し、その露出部分が繊維の長さ方向に連続的に形成されている繊維断面構造を有する。分割型複合繊維を構成するポリマーの好ましい組み合わせは、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ナイロンなどである。
【0053】
極細繊維層は、極細繊維以外の繊維を含んでよい。例えば、繊度が、0.5dtexよりも大きい合成繊維、再生繊維または天然繊維を含んでよい。
【0054】
前記繊維層の好ましい配合としては、セルロース系繊維が70〜30質量%、分割型複合繊維が30〜70質量%である。より好ましくは、セルロース系繊維が40〜60質量%、分割型複合繊維が60〜40質量%である。セルロース系繊維と分割型複合繊維が上記範囲内にあると、吸液性と肌触り性を両立することができる。
【0055】
前記繊維層の目付は、少なくとも一方の面で、10〜160g/m2であることが好ましい。より好ましい繊維層の目付は、15〜120g/m2である。繊維層の目付が10g/m2未満であると、繊維層の厚みが小さくなるので、長繊維不織布が表面に露出して、皮膚に接触したときに、刺激を与えることがある。繊維層の目付が160g/m2を超えると、繊維同士の交絡が不十分となることがある。また、極細繊維層の目付160g/m2を超えると、被覆シートの目付が大きくなって、皮膚に密着させたときに圧迫感を与えることがある。
【0056】
前記繊維層の形態は、特に限定されないが、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブであることが好ましい。カードウェブであると、地合いが均一で、嵩高で、風合い柔軟な繊維層が得られる。
【0057】
次に、各層を積層して成る、本発明の被覆シートを、その製造方法とともに説明する。本発明の被覆シートは、前記長繊維不織布の一方または両方の面に、繊維層が表面となるように積層され、長繊維不織布とステープル繊維とが水流交絡し、一体化される。本発明の被覆シートは、各層の目付がそれぞれ前記好ましい範囲内にある目付を有し、かつ全体として、20〜260g/m2の範囲内にある目付を有し、より好ましくは50〜180g/m2の範囲内にある目付を有し、さらにより好ましくは60〜140g/m2の範囲内にある目付を有する。被覆シートの目付が小さい場合には、いずれか1層または複数の層の目付が小さくて、所期の効果(適度な伸縮性および伸長性)を得られないことがある。被覆シートの目付が大きい場合には、いずれか1層または複数の目付が大きくて、やはり所期の効果を得られないことがある。
【0058】
本発明の被覆シートは、長繊維不織布の少なくとも一方の面が繊維層で覆われている。そのため、当該少なくとも一方の外観ならびに表面の触感および風合いは、ステープル繊維から成る繊維層により支配される。シートの両方の表面が繊維層で構成されていると、例えば、エラストマー不織布が有するタック性が見られないものとなる。また、前述のとおり、繊維層は、化粧料を含浸させたときに、皮膚への刺激がより小さい、良好な触感と湿潤を与える。
【0059】
本発明の被覆シートは、水流交絡処理を利用して製造される。以下に、水流交絡処理を利用して、本発明の被覆シートを製造する方法を説明する。
【0060】
まず、積層体を製造する。積層体は、長繊維不織布の少なくとも一方の面に、繊維層が少なくとも一表面となるように積層されて、水流交絡処理が施される。水流交絡処理は、公知の方法で実施してよく、その条件は最終的に得ようとする被覆シートの目付等に応じて適宜設定してよい。水流交絡処理は、例えば、ウェブを80〜100メッシュの平織の支持体の上に載せて、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上10MPa以下の水流を、表裏面側からそれぞれ1〜4回ずつ噴射することにより実施してよい。特に、7MPa未満の低水圧で水流交絡処理すると、短繊維層の短繊維が表面に露出するのを抑制することができる。水流交絡処理した後は、水分を除去するために乾燥され、その結果、本発明の化粧料含浸用皮膚被覆シートを得ることができる。
【0061】
続いて、本発明のフェイスマスクについて説明する。本発明のフェイスマスクは、顔を被覆するのに適した形状に加工され、例えば、目、鼻および口に相当する部分に、必要に応じて打ち抜き部又は切り込み部が設けられる。あるいは、フェイスマスクは、顔の一部分(例えば、目元、口元、鼻または頬)のみを覆うような形状に加工してよい。あるいはまた、フェイスマスクは、目の周囲を覆うシートと、口の周囲を覆うシートとから成るセットとして提供してよく、あるいは3以上の部分を別々に覆うシートのセットとして提供してよい。そのような2以上のシートから成るセットは、顔全体をシートで被覆する作業を容易にする。このとき、本発明の被覆シートの伸縮性を有する前記一方向を、顔面の横方向となるように、所定の形状に打ち抜き、切り抜き、切り込み等裁断されて得られる。顔面の横方向に所定の伸縮性を有することにより、口元から、鼻または頬にかけて伸長させながら貼付したときに、フィット性が良好である。
【0062】
本発明のフェイスマスクは、本発明の被覆シート100質量部に対して、液体化粧料が200〜2000質量部、好ましくは200〜1500質量部の範囲で含浸されていることが好ましい。液体化粧料の量をこの範囲とすることによって、十分量の有効成分を皮膚に供給するとともに、液だれ等の使用時の不便を回避することができる。最適な液体化粧料の量は、被覆シートの性質、特に吸水性によって適宜決定する。好ましい態様においては、設定された使用時間中、被覆シートの飽和量以上の液体化粧料が存在するように、液体化粧料の量が調整される。
【0063】
前記液体化粧料は、有効成分として、例えば、保湿成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、痩身成分等を含むことが好ましいが、これらに限定されるものでなく、皮膚に対して特定の作用を奏することが期待される任意の成分を含んでよい。
【0064】
本発明の被覆シートは、フェイスマスク以外の用途に使用してよい。例えば、保湿成分を含む液体化粧料を含浸させた本発明の被覆シートを、首、肘または踵に貼付して使用してよい。あるいは、痩身成分を含む液体化粧料を含浸させた本発明の被覆シートを腹部または大腿部に貼付して使用してよい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により説明する。下記の実施例において、物性は下記の方法で評
価した。
【0066】
[引張強力、破断伸度]
JIS L 1096 8.12.1 A法(ストリップ法)(2006年)に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片を、幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度10±3cm/分の条件で伸長させ、試料が破断するときの応力および伸びを測定した。
【0067】
[20%伸長時の伸長回復率]
JIS L 1096 8.23.1に準じ、上記の引張強力、伸度と同条件で、試料の20%に相当する一定伸びL(mm)まで引き伸ばし、次いで同じ速度で除重する。再び同じ速度で一定伸びまで引き伸ばし、記録した荷重−伸び曲線から残留伸びL1(mm)を測り、{(L−L1)×100}/Lにより伸長回復率を求めた。
【0068】
[実施例1]
長繊維不織布として、繊度3.5dtex、目付70g/m2のオレフィン系エラストマー長繊維から成るスパンボンド不織布(商品名ストラフレックスPN5070、出光ユニテック(株)製、エンボス面積率15%)を準備した。この長繊維不織布の引張強力は縦方向が20N/5cm、横方向が14N/5cmであり、破断伸度は縦方向が380%、横方向が400%であり、20%伸長時応力は縦方向が1N/5cm、横方向が1N/5cmであった。
【0069】
繊維層として、繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの8分割型複合繊維(商品名DFS(SH)、ダイワボウポリテック(株)製)を60質量%と、繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(商品名コロナ、ダイワボウレーヨン(株)製)を40質量%とを混合した、目付25g/m2のパラレルカードウェブを2枚作製した。
【0070】
前記繊維層2枚の間に前記長繊維不織布を挟み、積層体とした後、水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、積層体表面に水圧3.5MPaの柱状水流を1回噴射し、裏返した表面に向けて水圧4MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。次いで、水流交絡処理後の積層体を、エアスルー熱処理機を用いて、100℃で乾燥して、本発明の被覆シートを得た。
【0071】
[実施例2]
長繊維不織布として、繊度3.5dtex、目付50g/m2のポリウレタン長繊維から成るスパンボンド不織布(商品名ストラフレックスUN5050、出光ユニテック(株)製、エンボス面積率15%)を準備した。この長繊維不織布の引張強力は縦方向が24N/5cm、横方向が18N/5cmであり、破断伸度は縦方向が280%、横方向が250%であり、20%伸長時応力は縦方向が5N/5cm、横方向が3N/5cmであった。
【0072】
繊維層として、実施例1と同じ構成繊維で目付30g/m2のパラレルカードウェブを2枚準備し、実施例1と同様の方法で水流交絡処理および乾燥して、本発明の被覆シートを得た。
【0073】
[実施例3]
繊維層として、繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(商品名コロナ、ダイワボウレーヨン(株)製)を70質量%と、繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレート繊維(東レ(株)製)を30質量%とを混合した、目付30g/m2のパラレルカードウェブを2枚作製した。
【0074】
前記繊維層2枚の間に実施例2で用いた長繊維不織布を挟んだ以外は、実施例1と同様の方法で水流交絡処理および乾燥して、本発明の被覆シートを得た。
【0075】
[比較例1]
中層を構成する熱接着不織布として、繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリプロピレン熱接着性繊維(T−192、ファイバービジョンズ社製)を用いた目付30g/m2の熱接着エンボス不織布を準備した。熱接着不織布の引張強力は縦方向が75N/5cm、横方向が21N/5cmであった。熱接着不織布の伸度は、縦方向が80%、横方向が90%であった。
【0076】
繊維層として、繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン繊維(商品名コロナ、ダイワボウレーヨン(株)製)80質量%と、繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレート繊維(東レ(株)製)を20質量%とを混合した、目付30g/m2のセミランダムカードウェブを2枚作製した。
【0077】
前記繊維層2枚の間に前記熱接着不織布を挟み、積層体とした後、実施例1と同様の方法で水流交絡処理および乾燥して、比較用の被覆シートを得た。
【0078】
[比較例2]
長繊維不織布として、繊度3dtex、目付15g/m2のポリプロピレン長繊維から成るスパンボンド不織布(商品名ストラテック、出光ユニテック(株)製)を準備した。この長繊維不織布の引張強力は縦方向が19N/5cm、横方向が12N/5cmであり、破断伸度は縦方向が49%、横方向が54%であり、20%伸長時応力は縦方向が8.1N/5cm、横方向が4.8N/5cmであった。
【0079】
繊維層として、繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン繊維(商品名コロナ、ダイワボウレーヨン(株)製)100質量から成る、目付35g/m2のセミランダムカードウェブを2枚作製した。
【0080】
前記繊維層2枚の間に前記長繊維不織布を挟み、積層体とした後、実施例1と同様の方法で水流交絡処理および乾燥して、比較用の被覆シートを得た。
【0081】
実施例1〜3および比較例1〜2の物性を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
実施例1〜3の不織布は、一方向(横方向)における20%伸長時の応力、および一方向に直交する方向(縦方向)における20%伸長時の応力が、比較例1〜2に比べて小さいので、伸長性が良好である。また、実施例1〜3の不織布は、一方向(横方向)における20%伸長時の伸長回復率、および一方向に直交する方向(縦方向)における20%伸長時の伸長回復率が所定の範囲を満たすので、伸縮性も良好である。
【0084】
実施例1〜3および比較例1〜2の不織布をその横方向(CD方向)が顔の横方向に一致するように、顔面の形状に打ち抜き、目、口および鼻に対応する箇所に切り込みを入れて、フェイスマスクの形状とした。これを、顔面の中央を通る縦線(鼻の延びる方向に平行な線)で1回折りたたみ、さらにその中央を通る縦線で1回折りたたみ、次いでその中央を通る横線で1回折りたたんで8つ折りにした。8つ折りにしたシートを、A6サイズのチャック付きポリエチレン袋の中に入れ、さらにそのポリエチレン袋の中に、液体化粧料としてユニリーバ・ジャパン社製、「ポンズ ダブルホワイト フレッシュローション(昼用)」を基材100質量部に対して700質量部注入し、空気ができるだけ入らないようにしてチャックした。次いで、シート及び液体化粧料の入ったポリエチレン袋を机の上に置いて、手のひらで袋の上から5回押さえた後、ポリエチレン袋のチャックを開けてシートを取り出し、液体含浸性を評価した。実施例1〜3の不織布を用いたフェイスマスクは、液体化粧料を十分に含浸していた。
【0085】
次に、液体化粧料を含浸させた前記フェイスマスクを、伸ばしながら、モニターの顔面に貼り付け、20分間顔面に密着させた。実施例1〜3を用いて作製したフェイスマスクは、モニターに、適度に皮膚が伸びる感覚を与えた。特に、顔の横方向に伸ばしながら装着するときに、皮膚への密着性が良好であった。比較例1〜2を用いて作製したフェイスマスクは、他の試料と比較して、皮膚が伸びる感覚の度合いが小さいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の化粧料含浸用皮膚被覆シートは、化粧料を含浸させた状態にて、少なくとも一方向に伸縮性を有するとともに、良好な触感を与えるので、人体のあらゆる部分、特に顔全体、鼻、目元、口元、首などの敏感な部分に貼付するのに適しており、具体的には、フェイスマスクとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維を含み、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布の少なくとも一方の面に、繊維長25〜80mmのステープル繊維から成る繊維層が積層されて表面層を形成してなる積層体であって、
前記長繊維不織布と繊維層は、長繊維とステープル繊維が互いに水流交絡して一体化しており、
前記積層体の一方向における20%伸長時の応力が0.5〜10N/5cmであり、一方向に直交する方向における20%伸長時の応力が5〜40N/5cmであり、
前記積層体の一方向における20%伸長時の伸長回復率が60〜95%であり、一方向に直交する方向における20%伸長時の伸長回復率が10〜75%である、化粧料含浸用皮膚被覆シート。
【請求項2】
前記長繊維不織布が、スパンボンド不織布である、請求項1に記載の化粧料含浸用皮膚被覆シート。
【請求項3】
前記長繊維不織布が、フィラメントが1方向に配列され延伸された一方向延伸配列繊維層2枚が、フィラメントの配列方向が互いに直交するように積層されてなる経緯直交積層繊維層である、請求項1に記載の化粧料含浸用皮膚被覆シート。
【請求項4】
前記長繊維不織布が、熱可塑性エラストマーを含む繊維を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化粧料含浸用皮膚被覆シート。
【請求項5】
前記繊維層が、分割型複合繊維の割繊により形成された極細繊維を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化粧料含浸用皮膚被覆シート。
【請求項6】
前記繊維層が、セルロース系繊維を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化粧料含浸用皮膚被覆シート。
【請求項7】
長繊維を含み、少なくとも一方向に伸縮性を有する長繊維不織布の少なくとも一方の面に、繊維長25〜80mmのステープル繊維から成る繊維層が表面になるように積層すること、
水流交絡処理において、前記一方向が機械方向(MD方向)と直交する方向(CD方向)となるように、積層された長繊維不織布および繊維層を裁置し、水流交絡を施して、長繊維不織布と繊維層とを構成する長繊維とステープル繊維を互いに交絡させて一体化すること、
を含む、
前記積層体の一方向における20%伸長時の応力が0.5〜10N/5cmであり、一方向に直交する方向における20%伸長時の応力が5〜40N/5cmであり、
前記積層体の一方向における20%伸長時の伸長回復率が60〜95%であり、一方向に直交する方向における20%伸長時の伸長回復率が10〜75%である、化粧料含浸用皮膚被覆シートの製造方法。
【請求項8】
前記長繊維不織布の一方向における20%伸長時の応力が0.1〜10N/5cmであり、一方向に直交する方向における20%伸長時の応力が0.5〜40N/5cmであり、
前記長繊維不織布の一方向における20%伸長時の伸長回復率が60〜100%であり、一方向に直交する方向における20%伸長時の伸長回復率が5〜75%である、請求項7に記載の化粧料含浸用皮膚被覆シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の化粧料含浸用皮膚被覆シートであって、前記一方向を顔の横方向となるように所定の形状に裁断して成る、フェイスマスク。

【公開番号】特開2010−281003(P2010−281003A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134518(P2009−134518)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】