説明

匣鉢内部への粉体充填方法

【課題】乾燥状態にある粉体を中央部の厚みを薄く、周縁部の厚みを厚くした表面形状として匣鉢の内部に圧密状態で充填することができる匣鉢内部への粉体充填方法を提供する。
【解決手段】匣鉢1の内部に乾燥した粉体を所定量供給したうえ、粉体表面に所定位置まで第1の押え板16を降下させながら、匣鉢1に振動を加えて粉体表面を第1の押さえ板の下面形状に従って中央が窪んだ形状に成形する。次に、成形された粉体表面を第2の押さえ板17により更に圧下して粉体を圧密化する。これにより、焼成工程の生産性の向上と焼成品質の向上とを図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥状態にある粉体を匣鉢の内部に圧密状態で充填する方法に関するものであり、特に、リチウムイオン電池の電極材のようなセラミック粉体を匣鉢内部へ充填効率よく充填するに適した匣鉢内部への粉体充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池その他の電子部品の原料となる粉体を工業的に焼成する場合には、匣鉢と呼ばれる枡状の耐熱容器に粉体を充填し、焼成炉内で焼成する方法が一般的である。この焼成工程における生産性を高めるために、匣鉢への粉体の充填効率をできるだけ高めることが求められる。
【0003】
粉体の充填効率を高める手段として、古くから振動充填法が用いられている。例えば特許文献1には、粉体を成形型の内部で圧縮する際に、0.5〜100Hzの振動を加える方法が開示されている。
【0004】
この特許文献1においては、粉体を均一厚さに圧縮している。しかし本発明者の検討結果によれば、特許文献1のように粉体を均一厚さに充填するよりも、匣鉢の中央部では充填厚さを薄くし、周縁部では厚くする方が焼成品質が向上することが判明した。これはこの種の粉体は熱伝導率が低いために匣鉢の中央下部の昇温速度が相対的に低くなり、匣鉢内部の位置によって粉体が受ける焼成温度履歴がばらつくため、焼成品質を均一化するためには匣鉢の中央部では充填厚さを薄くして熱が伝わり易くすることが有利となるためである。
【0005】
ところがこの種の粉体は水分を嫌うために湿式充填が行えないことが多く、乾燥状態ではフワフワした状態にあるため、周縁部が高くなった形状に成形することが容易ではない。すなわち、匣鉢内部に最初に粉体を充填したときには粉体表面はフラットであり、この状態から粉体の上部を上方に持ち上げることや、その形状において全体を中央が窪んだ形状に圧密化することは容易ではなく、そのための従来技術は皆無であると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−112637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来技術の問題点を解決し、乾燥状態にある粉体を中央部の厚みを薄く、周縁部の厚みを厚くした表面形状として匣鉢の内部に圧密状態で充填することができる匣鉢内部への粉体充填方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、匣鉢内部に乾燥した粉体を所定量供給したうえ、粉体表面に所定位置まで第1の押え板を降下させながら匣鉢に振動を加えて粉体表面を第1の押さえ板の下面形状に従って中央が窪んだ形状に成形し、次に成形された粉体表面を第2の押さえ板により更に圧下して粉体を圧密化することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2のように、粉体の供給、成形、圧密化の各工程を減圧ボックス内で進行させることが好ましく、その場合には請求項3のように、減圧ボックス内を焼成炉内と同じガス雰囲気とすることが好ましい。
【0010】
また請求項4のように、第1の押さえ板と第2の押さえ板とが同一の下面形状を備えたものとすることが好ましく、請求項5のように、第1の押さえ板と第2の押さえ板との下面形状が、中央部が低く、周縁部が上向きの傾斜面であることが好ましい。この場合には請求項6のように、周縁部の上向きの傾斜面が匣鉢の底面に対してなす角度を、粉体の安息角以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、匣鉢内部に乾燥した粉体を所定量供給したうえ、匣鉢に振動を加えながら粉体表面に向かって第1の押さえ板を所定位置まで降下させる。振動により粉体は流動化して周縁部では最初の表面位置よりも上方に移動し、第1の押さえ板の下面形状に従って中央が窪んだ形状成形される。しかしこのままでは密度が不十分であるので、その後に粉体表面を第2の押さえ板により更に圧下することにより、匣鉢内部の粉体はほぼ均一な密度に圧密化される。このため焼成工程において昇温が遅れがちな匣鉢中央部の粉体にも熱が伝わり易くなり、焼成品質のばらつきがなくなる。しかも匣鉢内の焼成粉体重量を従来よりも増加させることができ、その後の焼成工程の生産性を向上させることができる。
【0012】
また従来は匣鉢内部に充填された粉体の表面は自由状態にあり、充填密度のばらつきも成り行き任せであったが、本発明によれば粉体の表面状態を管理することができるので各匣鉢毎のばらつきをなくし、均一な焼成品質を得ることができる。更に本発明によれば最初の粉体供給を粉体に過大な圧力を加えることなく行うことができるので、コンタミネーションの発生を抑制できる効果もある。
【0013】
請求項2の発明によれば、減圧条件下で粉体の供給、成形、圧密化の各工程を進行させるため、粉体粒子間に存在する空気を除去することができ、その分だけ粉体の充填密度を高めることができる。また粉体中の空気を脱気することにより空中の酸素や水分による焼成品質の低下を防止することができる。更に減圧することにより粉体表面からの発塵も同時に防止され、粉体に飛散によるロスも抑制することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、減圧ボックス内を焼成炉内と同じガス雰囲気とすることにより、粉体内部の空気をより完全に雰囲気ガスに置換することができ、焼成品質の向上を図ることができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、第1の押さえ板により成形された粉体の表面形状を崩すことなく第2の押さえ板による圧密が可能となる。
【0016】
請求項5の発明によれば、匣鉢内部の粉体の焼成品質のばらつきが減少し、また請求項6の発明によれば第1の押さえ板により成形された粉体が移動中に崩れることもない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】匣鉢への粉体の供給工程を示す説明図である。
【図2】第1の押さえ板による成形工程の説明図である。
【図3】第2の押さえ板による圧密工程の説明図である。
【図4】各工程における匣鉢内部の粉体の表面形状の変化を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態では匣鉢は四角形の炭素匣鉢であり、粉体はリチウムイオン電池の正極材用のセラミック粉体である。この粉体の粒径は2〜15μmであり、水分を嫌う物質である。また焼成は窒素雰囲気中で行なわれる。しかし本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
ローラーコンベア等の適宜の搬送手段(図示せず)で搬送された空匣鉢1に対し、先ず図1に示すように内部に粉体が供給される。匣鉢1は減圧ボックス2の内部に支持され、粉体供給口3を備えた蓋4に密着される位置まで匣鉢昇降手段5によって持ち上げられた状態で、上方からスクリューフィーダ6によって粉体が供給される。1つの匣鉢1当りの粉体供給量は一定とすることが好ましく、供給経路7の途中にカットゲートなどの定量供給手段を付加することもできる。図1のように粉体は匣鉢1の内部に自然に拡がる。
【0020】
なお減圧ボックス2の内部の内部に後段の焼成炉の雰囲気ガスと同じガスである窒素ガスを供給しておけば、粉体の供給段階において粉体粒子間の空気が窒素と置換されるため、焼成工程において粉体が酸素と接触する可能性が低下することとなり好ましい。この窒素ガスは炉体との間に循環させて使用することもできる。この実施形態においては粉体に過大な圧力を加えることなく匣鉢1内への充填が行われるので、コンタミネーションの発生が抑制される。また減圧状態で粉体の供給が行われるので、発塵による粉体のロスも抑制される。しかし粉体の種類によっては酸化条件下で焼成を行うものもあり、その場合には減圧ボックス2の内部を単に減圧すればよいことはいうまでもない。
【0021】
次に所定量の粉体が供給された匣鉢1は匣鉢昇降手段5によってローラコンベヤ等の適宜の搬送手段の上に載せられ、図2に示す成形位置まで搬送される。この成形位置で匣鉢1は振動発生器11を備えた支持台12の上に載せられる。またこの支持台12はスプリング13を備えたベース14の上に支持され、昇降手段15によって所定高さまで持ち上げられる。なおこの成形位置にも減圧ボックス2が設けられている。
【0022】
匣鉢1の上方には第1の押さえ板16が押さえ板昇降手段17によって支持されている。第1の押さえ板16は匣鉢1の内側寸法よりも僅かに小さいサイズであり、その下面形状は中央部が低く、周縁部が上向きの傾斜面18である。中央部は完全なフラット形状とするよりも、図示のように僅かな湾曲面としておくことが粉体を移動させ易くなるため好ましい。周縁部の上向きの傾斜面18が匣鉢1の底面に対してなす角度αは、粉体の安息角以下としておくものとする。
【0023】
図2に示す成形位置まで搬送される間に、振動等の影響で匣鉢1内の粉体表面は図4(A)に示されるようにほぼフラットとなるが、図2に示す成形位置では、第1の押さえ板16を押さえ板昇降手段17によって粉体表面に向かって降下させながら、振動発生器11によって匣鉢1に振動を加える。その周波数は特許文献1に示されるように0.5〜100Hzとすればよく、粉体の性状(流動性、凝縮性、粒度など)に応じて適宜設定すればよい。
【0024】
この振動により粉体は流動可能な状態となるため、周縁部の粉体は最初のレベルよりも上方に移動することができ、第1の押さえ板16を粉体の最初のレベルよりも低い位置まで降下させれば、粉体表面は図4(B)のように第1の押さえ板16の下面形状に沿った形状、すなわち中央が窪んだ形状に成形される。なおこのときに第1の押さえ板16と匣鉢1との隙間から粉体が漏れることを防止するため、第1の押さえ板16の周縁部はストレート形状としておくことが好ましい。
【0025】
次に第1の押さえ板16は押さえ板昇降手段17によって持ち上げられ、匣鉢1はローラコンベヤ等の適宜の搬送手段の上に載せられ、図3に示す加圧位置まで搬送される。第1の押さえ板16は粉体の表面形状を決定するが特に加圧力を加えるものではない。このため第1の押さえ板16を持ち上げたときに粉体の形状が崩れる可能性があるが、上記したように周縁部の上向きの傾斜面18が匣鉢1の底面に対してなす角度αを粉体の安息角以下としておくことにより、表面形状の崩れを防止することができる。
【0026】
図3に示す加圧位置では、減圧ボックス2の内部に第2の押さえ板21が設けられており、前工程で成形された粉体の表面を圧下する。第2の押さえ板21はシリンダーのような圧下手段22に支持されている。またその下面形状は第1の押さえ板16の下面形状と同一としておくことが好ましい。
【0027】
図2に示す成形位置に設けられた押さえ板昇降手段17はそのストロークエンドまで第1の押さえ板16を降下させる機能を有するものであるが、図3に示す加圧位置に設けられた圧下手段22は粉体に所定の圧力を加えるためのものである。このため匣鉢1の内部の粉体の表面は図4(C)のように圧下され、全体が圧密下される。第2の押さえ板21の下面形状は第1の押さえ板16の下面形状と同一としておけば、成形された粉体の表面形状を崩すことなく、全体を均等に圧密下することができる。
【0028】
なおこの実施形態では、図2に示す成形位置から図3に示す加圧位置まで匣鉢1を移動させたが、同一位置に第1の押さえ板16と第2の押さえ板21とを併設し、同一位置でこれらの2工程を実施することもできる。
【0029】
第2の押さえ板21を上昇させると匣鉢1の内部には図4(D)に示されるように中央が窪んだ形状に粉体が圧密化され、この状態のままで焼成炉に搬送されて窒素雰囲気中で焼成される。ハンドリングの都合上、この搬送区間は大気中に開放された空間とされることがあるが、粉体の表面は圧密化されているために空気が侵入しにくく、焼成品質を低下させることもない。
【0030】
図4(D)に示されるような断面形状となるように粉体を充填して焼成を行えば、匣鉢1の中央底部にも炉内の熱が伝わり易くなるため、図4(A)のような従来の充填状態で焼成するよりも昇温速度が均等となり、匣鉢1内の場所による粉体の焼成品質のばらつきをなくすることができる。また全体が圧密化されるため、本発明によれば匣鉢1個当りの粉体重量を20〜30%増加させることができ、焼成工程の生産性を高めることができる。
【0031】
以上に説明したように、本発明によれば、乾燥状態にある粉体を中央部の厚みを薄く、周縁部の厚みを厚くした表面形状として匣鉢の内部に圧密状態で充填することができ、焼成工程の生産性と焼成品質の向上を図ることができる効果がある。
【符号の説明】
【0032】
1 匣鉢
2 減圧ボックス
3 粉体供給口
4 蓋
5 匣鉢昇降手段
6 スクリューフィーダ
7 供給経路
11 振動発生器
12 支持台
13 スプリング
14 ベース
15 昇降手段
16 第1の押さえ板
17 押さえ板昇降手段
18 傾斜面
21 第2の押さえ板
22 圧下手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
匣鉢内部に乾燥した粉体を所定量供給したうえ、粉体表面に所定位置まで第1の押え板を降下させながら匣鉢に振動を加えて粉体表面を第1の押さえ板の下面形状に従って中央が窪んだ形状に成形し、次に成形された粉体表面を第2の押さえ板により更に圧下して粉体を圧密化することを特徴とする匣鉢内部への粉体充填方法。
【請求項2】
粉体の供給、成形、圧密化の各工程を減圧ボックス内で進行させることを特徴とする請求項1記載の匣鉢内部への粉体充填方法。
【請求項3】
減圧ボックス内を焼成炉内と同じガス雰囲気とすることを特徴とする請求項2記載の匣鉢内部への粉体充填方法。
【請求項4】
第1の押さえ板と第2の押さえ板とが同一の下面形状を備えたものとすることを特徴とする請求項1記載の匣鉢内部への粉体充填方法。
【請求項5】
第1の押さえ板と第2の押さえ板との下面形状が、中央部が低く、周縁部が上向きの傾斜面であることを特徴とする請求項4記載の匣鉢内部への粉体充填方法。
【請求項6】
周縁部の上向きの傾斜面が匣鉢の底面に対してなす角度を、粉体の安息角以下としたことを特徴とする請求項5記載の匣鉢内部への粉体充填方法。
【請求項7】
粉体が電子部品の原料粉体であることを特徴とする請求項1記載の匣鉢内部への粉体充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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