説明

医療器具及び組織再生方法

【課題】生体組織を再生するための細胞への刺激を簡易且つ迅速に付与することができる医療器具及び生体組織再生方法を提供する。
【解決手段】医療器具10は、複数の微細針11と、微細針11の基端14をそれぞれ支持して、複数の微細針11を略平行に配列する支持体12とを具備する。複数の微細針11は、基端15が支持体に支持されて略平行に配列されている。したがって、複数の微細針11の各先端は、ほぼ同じ方向を向いている。使用に際しては、支持体12が持たれることにより、複数の微細針11を一体に所望の生体組織と対向させることができる。そして、支持体12を生体組織に近づけることにより、その生体組織に各微細針11がほぼ同時に刺通される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の微細針が略平行に配列されて支持体に支持されてなる医療器具に関する。また、本発明は、生体組織の一定領域に複数本の微細針を刺通する組織再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療の分野において、生体組織を再生させる試みがなされている。生体組織を再生させる手法として、例えば、成長因子の投与、幹細胞移植などがあげられる。
【0003】
特許文献1には、生体組織再生用の移植材が開示されている。この移植材は、生体組織としての骨を再生するためのものである。移植材は、管状部材の周囲に補填材混合物及び生体適合性膜が配置されてなる。管状部材は、浸透膜や中空子膜からなる。補填材混合物は、β−TCP多孔体の顆粒、間葉系幹細胞、及びPRPを含む混合物であり、生体適合性膜は、この補填材混合物を包み込む膜である。この移植材が生体内に留置されて、管状部材に血液が流通されることにより、血液から酸素や栄養分が外部へ透過され、補填材混合物中のPRPの作用により、補填材混合物を足場とした幹細胞の効率的かつ安定した迅速な成長が促進される。そして、幹細胞の成長により形成された再生用移植骨が、骨欠損部に補填される。
【0004】
特許文献2には、細胞生理活性物質と細胞移植とを組み合わせて、生物の臓器や器官の組織を再生させる方法が開示されている。この方法において用いられる組成物は、細胞生理活性物資及び細胞を、心臓への移入に適した形態で含む。これにより、拡張型心筋症や心筋梗塞などの種々の心臓疾患を治療及び予防することができるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−334456号公報
【特許文献2】特開2005−35945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されているような移植材や幹細胞の移植は、生体適合性の適否の判断や施術に高度な専門知識及び技術を有し、さらに、検査や幹細胞の培養などの事前準備が膨大であるという問題がある。また、移植に伴う患者への侵襲も少なくない。これは、特許文献2に開示されている方法においても同様である。
【0007】
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、生体組織を再生するための細胞への刺激を簡易且つ迅速に付与することができる医療器具及び生体組織再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明にかかる医療器具は、複数の微細針と、上記微細針の基端をそれぞれ支持して、複数の微細針を略平行に配列する支持体と、を具備する。
【0009】
複数の微細針は、基端が支持体に支持されて略平行に配列されている。略平行に配列とは、微細針の軸方向が略平行であるという意味である。したがって、複数の微細針の各先端は、ほぼ同じ方向を向いている。使用に際しては、支持体が持たれることにより、複数の微細針を一体に所望の生体組織と対向させることができる。そして、支持体を生体組織に近づけることにより、その生体組織に各微細針がほぼ同時に刺通される。
【0010】
(2) 上記微細針は、生体組織に刺通された際に当該生体組織に出血等の明らかな損傷を来さない程度の径及び形状である。これにより、生体組織を損傷させることなく、生体組織を構成する細胞へ刺激を付与することができる。
【0011】
(3) 好ましくは、上記微細針は、上記支持体に密集配列されたものである。これにより、生体組織の所定領域に複数の微細針を刺通することができ、細胞の再生が一層促進される。
【0012】
(4) 本医療器具は、上記微細針が生体組織に刺通されることにより、当該生体組織に細胞再生のための刺激を付与するために使用されるものとして好適である。この細胞再生は、微細針が生体組織に刺通されることにより、生体組織を構成する細胞が刺激され、その細胞から成長因子等の分泌が促されるとともに細胞の増殖が活性化されると考えられる。
【0013】
(5) 本発明にかかる医療器具は、少なくとも先端に開口を有するガイド管と、上記ガイド管に挿入されて、当該ガイド管の軸方向へ相対移動可能な軸索と、上記軸索に連動されて、上記ガイド管の開口から出没される支持体と、略平行に配列された状態で、その基端が上記支持体に支持された複数の微細針と、を具備する。
【0014】
ガイド管に対して軸索が軸方向へ相対移動されることと連動して、ガイド管の開口から支持体が出没される。支持体には、複数の微細針が略平行に配列された状態に支持されている。使用に際しては、支持体をガイド管の開口へ没入させた状態で、その開口を先端として、ガイド管が生体の血管や腹腔へ挿入される。そして、ガイド管の開口を心筋や肝臓などの所望の生体組織付近に位置せしめ、軸索を操作することによって、ガイド管の開口から支持体を進出させる。これにより、支持体に支持された複数の微細針を所望の生体組織と対向させることができる。そして、軸索又はガイド管を操作して、支持体を生体組織に近づけることにより、その生体組織に各微細針がほぼ同時に刺通される。
【0015】
(6) 上記支持体は、上記ガイド管の開口からの出没に連動して、当該開口より大きな外形に展開される第1姿勢と、当該開口から上記ガイド管の内部へ収容可能な大きさの外形に折り畳まれる第2姿勢とに姿勢変化されるものであってもよい。
【0016】
これにより、生体組織において、ガイド管の外径より大きな領域に対して、複数の微細針をぼほ同時に刺通させることができる。
【0017】
(7) 好ましくは、上記ガイド管がカテーテルである。
【0018】
(8) 好ましくは、上記ガイド管が中空針である。
【0019】
(9) 上記微細針は、生体組織に刺通された際に当該生体組織に出血等の明らかな損傷を来さない程度の径及び形状である。これにより、生体組織を損傷させることなく、生体組織を構成する細胞へ刺激を付与することができる。
【0020】
(10) 好ましくは、上記微細針は、上記支持体に密集配列されたものである。これにより、生体組織の所定領域に複数の微細針を刺通することができ、細胞の再生が一層促進される。
【0021】
(11) 本医療器具は、上記微細針が生体組織に刺通されることにより、当該生体組織に細胞再生のための刺激を付与するために使用されるものとして好適であり、特に生体内部の組織に対して好適である。
【0022】
(12) 本発明は、生体組織の一定領域に複数本の微細針を刺通して、当該生体組織を構成する細胞を刺激する組織再生方法として捉えることができる。
【0023】
(13) 上記微細針は、生体組織に刺通された際に当該生体組織に出血等の明らかな損傷を来さない程度の径及び形状である。これにより、生体組織を損傷させることなく、生体組織を構成する細胞へ刺激を付与することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる医療器具によれば、複数の微細針が支持体に支持されて略平行に配列されているので、所望の生体組織に各微細針をほぼ同時に刺通することができる。これにより、生体組織を再生するための細胞への刺激を簡易且つ迅速に付与することができる。
【0025】
また、本発明にかかる医療器具によれば、ガイド管に対して軸索が軸方向へ相対移動されることと連動して、ガイド管の開口から支持体が出没され、その支持体には、複数の微細針が略平行に配列された状態に支持されているので、ガイド管を生体の血管や腹腔へ挿入して、その開口を心筋や肝臓などの所望の生体組織付近に位置せしめて、その生体組織に各微細針をほぼ同時に刺通することができる。これにより、生体内部の組織を再生するための細胞への刺激を簡易且つ迅速に付与することができる。
【0026】
また、本発明にかかる組織再生方法によれば、生体組織を再生するための細胞への刺激を簡易且つ迅速に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様を変更できることは言うまでもない。
【0028】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる医療器具10の外観構成を示す斜視図である。図2は、支持体12が微細針11を支持する構成を示す断面図である。なお、図1では、複数の微細針11のうち一部の微細針11にのみ参照符号が付されているが、その他の微細針11も同様のものである。
【0029】
医療器具10は、複数の微細針11が支持体12に支持されたものである。本医療器具10は、複数の微細針11が生体組織に刺通されることにより、その生体組織に細胞再生のための刺激を付与するために使用される。
【0030】
微細針11は、生体組織に刺通された際に、その生体組織に出血等の明らかな損傷が来さない程度の径及び形状である。具体的には、微細針11の最大径は0.12〜0.34mmの範囲内である。また、微細針11の針先が錐形であり、その錐形のテーパ比は、3/100〜30/100の範囲内である。微細針11の最大径及び形状が上記範囲内であれば、例えば、ヒト皮膚に微細針11を刺通しても出血等の明らかな損傷が生じない。微細針11の最大径の下限は特に限定されないが、あまりに最大径が小さければ微細針11の剛性が弱くなり、生体組織へ刺通することが困難である。なお、微細針11の最大径とは、微細針11の最も太い箇所の直径をいうが、通常は、針先以外の胴部分は一定の径である。また、微細針11において針先とは、微細針11の先端15を含むテーパ形状の部分である。錐形とは、円錐形状や角錐形状など、胴部分からテーパ形状に細くなって尖った先端15を有する形状を広く含む。また、針先のテーパ形状は必ずしも直線的に細くなる必要はなく、若干外側へ膨らむような曲面により形成されてもよい。
【0031】
なお、微細針11の長さは特に限定されず、支持体12から突出する長さが、生体組織へ刺通する深さより十分に大きければよい。微細針11を生体組織へどの程度の深さまで刺通するかは、生体組織やその状況により異なるが、好ましくは5〜15mmである。また、微細針11の素材は特に限定されないが、例えば、ステンレスなどの金属製のものが採用される。また、刺通抵抗の軽減などを目的として、微細針11にシリコン樹脂などがコーティングされてもよい。
【0032】
支持体12は、複数の微細針11を支持する。支持体12の大きさや形状は特に限定されず、例えば、図1に示されるように、微細針11が延びる方向を厚み方向とする平板形状のものであればよい。もちろん、支持体11の形状として、円盤形状や半球形状などの他の形状が採用されてもよい。支持体12の大きさは、支持すべき微細針11の本数やハンドリングなど考慮して適宜設定される。また、図1には示されていないが、支持体12の裏面側に、ハンドリングを向上させる目的で、把手や棒状部材などが設けられてもよいし、カテーテルなどの先端に支持体12が固定されてもよい。支持体12の素材として、金属製の微細針11との密着性が良好であって、医療器具として好適なものが採用され、例えば、シリコン、ポリプロピレンなどがあげられる。
【0033】
図2に示されるように、支持体12には、各微細針11に対応して支持孔13が穿たれている。支持孔13は、微細針11の外径とほぼ同等の径であり、支持体12に対して厚み方向(上下方向)に貫通されている。この支持孔13に、微細針11の基端14が挿入されて、微細針11が支持孔13の軸方向に起立した状態に支持される。なお、微細針11の先端15は、いわゆる針先である。微細針11の基端14側は、接着剤などの固定手段により支持孔13に固定されている。微細針11を支持孔13に固定する手段は、その他の公知の手段を採用することができる。これにより、生体組織に刺通された微細針11が、支持体12から脱落することが防止される。その他の微細針11も同様に固定されて、支持体12に対して一方向へ起立している。
【0034】
支持体12は、前述されたようにして、複数の微細針11を支持する。支持体12に支持された微細針11は、図1に示されるように、略平行に配列される。ここで、略平行とは、各微細針11の軸方向がほぼ平行であることをいう。ただし、各微細針11の軸方向が厳密に平行であるか否かは問題ではなく、生体組織に対して支持体12を一方向へ相対移動させることにより、複数の微細針11が生体組織に刺通可能な程度に平行であればよい。
【0035】
このようにして、複数の微細針11が支持体12により密集配列されている。ここで、密集配列とは、隣接する微細針11が非常に近い位置に配置されて複数本が一体となった状態をいう。隣接する微細針11の離間距離(ピッチ)は、例えば、複数の微細針11が起立する支持体12の上面16の面積を100mmとすると、数十本から数百本の微細針11がほぼ等間隔で配置される程度である。この微細針11のピッチは、細胞に刺激を付与する生体組織の種類や状況に応じて変更され、所望の生体組織を構成する細胞の再生が最も促進されるピッチが採用される。
【0036】
このような医療器具10は、前述されたように、所望の生体組織に対して、その生体組織を構成する細胞を再生するための刺激を付与する目的で使用される。生体としては、ヒトやほ乳類などがあげられる。生体組織として、肝臓、腎臓、心筋、皮膚、骨格筋などがあげられる。使用に際して、医療器具10は、微細針11の先端15を所望の生体組織と対向する位置へ配置される。例えば、皮膚であれば、支持体12を持ち、その皮膚の近くに医療器具10を配置すればよい。また、肝臓であれば、必要に応じて、切開により生体組織を露出させてもよい。そして、その生体組織に支持体12を近づけることにより、その生体組織に各微細針11がほぼ同時に刺通される。微細針11が刺通される深さは、生体組織の種類や状況により異なるが、好ましくは5〜15mmである。これにより、生体組織かに出血等の明らかな損傷を与えることなく、生体組織を構成する細胞へ刺激を付与することができる。そして、刺激が付与された細胞から成長因子等の分泌が促されるとともに細胞の増殖が活性化され、生体組織が再生される。
【0037】
このように、本実施形態にかかる医療器具10によれば、複数の微細針11が支持体12に支持されて略平行に配列されているので、所望の生体組織に各微細針11をほぼ同時に刺通することができる。これにより、生体組織を再生するための細胞への刺激を簡易且つ迅速に付与することができる。
【0038】
また、微細針11は、生体組織に刺通された際に、その生体組織に出血等の明らかな損傷を来さない程度の径及び形状であるので、生体組織に損傷を与えることなく、生体組織を構成する細胞へ刺激を付与することができる。
【0039】
また、微細針11は、支持体12に密集配列されているので、生体組織の所定領域に複数の微細針11をほぼ同時に刺通することができ、細胞の再生が一層促進される。
【0040】
[第2の実施形態]
図3及び図4は、本発明の第2の実施形態にかかる医療器具20の構成を示す拡大断面図である。図3においては、支持体24A,24Bが第1姿勢である医療器具20が示されており、図4においては、支持体24A,24Bが第2姿勢である医療器具20が示されている。
【0041】
医療器具20は、全体としてカテーテルを構成しており、シース21内にワイヤ22が挿入され、そのワイヤ22の先端に、複数の微細針23を支持する一対の支持体24A,24Bが連結されたものである。本医療器具20は、複数の微細針11が生体組織に刺通されることにより、その生体組織に細胞再生のための刺激を付与するために使用され、特に生体内部の組織に対して好適に使用される。
【0042】
シース21は、本発明におけるガイド管の一例である。シース21は、ポリウレタンやポリエステル、ポリエチレン、フッ素樹脂などのプラスチックで形成された管状の部材であり、基端から先端25に貫通するルーメンを有する。シース21は、生体の血管へ挿入可能な形状及び外径であり、このような形状及び外径としてカテーテルに採用される公知の形状及び外径があげられる。各図には示されていないが、シース21の基端は封止されて、後述されるワイヤ22の一端がスライド操作可能に突出されている。
【0043】
ワイヤ22は、本発明における軸索の一例である。ワイヤ22は、例えばステンレスやニッケル−チタン合金などの可撓性を有する線状の部材であり、シース21のルーメンへ挿入されて、シース21の軸方向へスライド移動可能な外径である。ワイヤ22は、シース21の軸方向の長さより長く、ワイヤ22の一端は、シース21の基端から外部へ突出されている。シース21の基端から突出されたワイヤ22の一端を操作することにより、ワイヤ22がシース21の軸方向へスライド移動される。
【0044】
一対の支持体24A,24Bは、ワイヤ22の先端に連結されている。したがって、ワイヤ22がシース21に対してスライドされると、支持体24A,24Bは、ワイヤ22と連動してシース21に対してスライドされ、シース21の先端25の開口から出没される。
【0045】
図3に示されるように、シース21の内部において、一対の支持体24A,24Bは、ワイヤ22との連結部位26から先端25側へ延出されて相互に対向配置される。換言すれば、連結部位26において一対の支持体24A,24Bが折り畳まれた状態となっている。これにより、一対の支持体24A,24Bの外形がシース21のルーメンへ収容可能な大きさとなる。このような図3に示される一対の支持体24A,24Bの状態が、本発明における第2姿勢に相当する。
【0046】
図4に示されるように、一対の支持体24A,24Bは、シース21の先端25から外部へ突出された状態において、ワイヤ22との連結部位26からワイヤ22の軸方向と直交する方向へ延出されて一つの平板形状に展開される。これにより、一対の支持体24A,24Bの外形がシース21の先端25の開口より大きくなる。このような図4に示される一対の支持体24A,24Bの状態が、本発明における第1姿勢に相当する。
【0047】
一対の支持体24A,24Bは、前述された第1姿勢と第2姿勢とに姿勢変化可能である。一対の支持体24A,24Bは、外力が付与されない状態では第1姿勢を維持するように構成されている。そして、一対の支持体24A,24Bは、第1姿勢から第2姿勢へ弾性変形可能である。一対の支持体24A,24Bの弾性変形は、例えば、支持体24A,24Bを弾性変形可能な合成樹脂製のものとして平板形状に一体成形したり、連結部位26にバネを配置して支持体24A,24Bに弾性付勢力を付与させたりすることにより実現される。
【0048】
したがって、図4に示されるように、一対の支持体24A,24Bは、シース21の先端25から進出された状態では第1姿勢を維持し、ワイヤ22が引き戻されることと連動して、一対の支持体24A,24Bがシース21の先端25の開口からルーメンへ収まる際に、先端25の開口周囲に当接されることによって、一対の支持体24A,24Bが第1姿勢から第2姿勢へ姿勢変化しながら、シース21のルーメンへ収容されて、最終的に、図3に示されるように、シース21のルーメン内へ完全に没入される。
【0049】
微細針23の最大径や形状、素材などは、第1の実施形態における微細針11と同様であり、また、各支持体24A,24Bの形状や素材などは、第1の実施形態における支持体12と同様である。また、支持体24A,24Bに対して複数の微細針23がそれぞれ密集配置されているが、微細針23の固定手段や配置は、第1の実施形態と同様である。したがって、ここではこれらの詳細な説明が省略される。
【0050】
一対の支持体24A,24Bにそれぞれ密集配置された複数の微細針23は、図4に示されるように、一対の支持体24A,24Bが第1姿勢となると、シース21の軸方向とほぼ平行となって、外部へ向かって突出する。一方、図3に示されるように、一対の支持体24A,24Bが第2姿勢となると、一対の支持体24A,24Bがほぼ対向配置されることに伴って、相互の支持体24A,24B側へ向かって突出する。
【0051】
このような医療器具20は、前述されたように、特に生体内部の所望の生体組織に対して、その生体組織を構成する細胞を再生するための刺激を付与する目的で使用される。生体としては、ヒトやほ乳類などがあげられる。生体組織として、心筋などの組織があげられる。使用に際して、予めワイヤ22を操作して一対の支持体24A,24Bを第2姿勢としてシース21のルーメンへ没入させた状態で、シース21を生体の血管へ挿入し、シース21の先端25を心筋などの所望の生体組織付近に位置せしめる。その状態において、ワイヤ22を操作して、シース21の先端25から一対の支持体24A,24Bを進出させて第1姿勢とする。これにより、支持体24A,24Bに支持された複数の微細針23が所望の生体組織と対向される。そして、ワイヤ22を、又はワイヤ22をシース21とともに操作して、支持体24A,24Bを生体組織に近づけることにより、その生体組織に各微細針23がほぼ同時に刺通される。微細針11が刺通される深さは、生体組織の種類や状況により異なるが、好ましくは5〜15mmである。これにより、生体組織に出血等の明らかな損傷を与えることなく、生体組織を構成する細胞へ刺激を付与することができる。そして、刺激が付与された細胞から成長因子等の分泌が促されるとともに細胞の増殖が活性化され、生体組織が再生される。
【0052】
このように、本実施形態にかかる医療器具20によれば、シース21に対してワイヤ22が軸方向へスライド移動されることと連動して、シース21の先端25から支持体24A,24Bが出没され、その支持体24a,24bには、複数の微細針23が略平行に配列された状態に支持されているので、シース21を生体の血管へ挿入して、その先端25を心筋などの所望の生体組織付近に位置せしめて、その生体組織に各微細針23をほぼ同時に刺通することができる。これにより、生体内部の組織を再生するための細胞への刺激を簡易且つ迅速に付与することができる。
【0053】
また、支持体24A,24Bは、シース21の先端25からの出没に連動して、先端25の開口より大きな外形に展開される第1姿勢と、先端25の開口からシース21の内部へ収容可能な大きさの外形に折り畳まれる第2姿勢とに姿勢変化されるので、生体組織において、シース21の外径より大きな領域に対して、複数の微細針23をぼほ同時に刺通させることができる。その一方で、シース21の外径を小さくして血管への挿入を容易とすることができる。
【0054】
また、微細針23は、生体組織に刺通された際に、その生体組織に出血等の明らかな損傷を来さない程度の径及び外径であるので、生体組織に損傷を与えることなく、生体組織を構成する細胞へ刺激を付与することができる。
【0055】
また、微細針23は、支持体24A,24Bに密集配列されているので、生体組織の所定領域に複数の微細針23をほぼ同時に刺通することができ、細胞の再生が一層促進される。
【0056】
なお、本実施形態では、本発明におけるガイド管の一例としてシース21が示されているが、当該ガイド管はシース21に限定されない。例えば、本発明におけるガイド管として、生検針のカヌラ(中空針)が採用されてもよい。これにより、例えば、本発明におけるガイド管としての生検針のカヌラを生体の腹腔内へ刺し入れて、そのカヌラの先端を肝臓などの所望の臓器付近に位置せしめてワイヤ22を操作することにより、そのカヌラの先端から支持体24A,24Bを出没させて、微細針23を肝臓などの所望の領域に刺通することができる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の効果を確認するための実施例及び参考例が説明される。
[ラット下肢虚血モデル]
本発明にかかる医療器具及び細胞刺激方法の効果を確認するために、ラット下肢虚血モデルを作成した。ラット下肢虚血モデルとは、閉塞性動脈硬化症(ASO)及びバージャー病(TAO)などの末梢動脈閉塞性疾患モデルである。本参考例は、国立循環器病センター動物管理員会の承認を受けて行った。
【0058】
ラット下肢虚血モデルの作成にあたっては、体重200〜300gの雄ルイスラット(株式会社SLCより購入)を用いた。ラットにペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与(50mg/kg)することにより、全身麻酔を行った。次に、ラットを仰臥位にした状態で、左鼠径部から大腿部へかけて皮切を加えた。そして、左下肢において左大腿動脈起始部から膝窩動脈までを側枝とともに結紮切除した。これにより、ラットの左下肢の血流は低下する。一方、右下肢は手術操作を一切加えず、健常な状態のままとした。
【0059】
[実施例]
前述された作業から1日経過後の上記ラット下肢虚血モデルを用いて、本発明の細胞刺激方法を実施した。針は、市販の鍼灸治療針(直径0.14mm、長さ39mm、ステンレス製、日進医療器機)を使用した。まず、ラットにペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与(50mg/kg)することにより、全身麻酔を行った。次に、ラットを仰臥位にした状態で、左大腿部内側の内転筋の直上の皮膚に10mm四方の正方形をマーキングした。そして、10mm四方の正方形の領域に、上記針100本を1本ずつ内転筋に十分届く深さ(15mm程度)まで刺し込んだ。これらの処置をラット下肢虚血モデル20頭に施した。本実施例は、国立循環器病センター動物管理員会の承認を受けて行った。
【0060】
[比較例]
前述された作業から1日経過後の上記ラット下肢虚血モデル20頭を比較例とした。
【0061】
[評価]
実施例及び比較例の評価をレーザードップラー血流計(LDPI、Moor社)を用いて行った。1回目の測定は、実施例においては、ラット下肢虚血モデル作成作業から1日経過後であって実施例の作業を行った後に、比較例においては、ラット下肢虚血モデル作成作業から1日経過後に実施例の作業をすることなく行った。測定は、ペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与(50mg/kg)することにより、全身麻酔を施した後、仰臥位にした状態で行った。
【0062】
さらに、上記のラット下肢虚血モデルを作成した日から3週間経過後における実施例及び比較例の下肢の状態について、レーザードップラー血流計にて2回目の測定をした。測定は、1回目と同様にペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与(50mg/kg)することにより、全身麻酔を施した後、仰臥位にした状態で行った。
【0063】
実施例及び比較例の評価結果を図5に示す。ラット下肢虚血モデルの作成作業から1日経過後(1回目)においては、実施例及び比較例ともに、レーザードップラー血流計画像上において、左下肢の血流の顕著な低下が明らかであった(図5における右上写真内矢印及び左上写真内矢印参照)。一方、三週間経過後(2回目)における左下肢の血流は、実施例における改善が比較例よりも顕著であることが明らかであった(図5における右下写真内矢印及び左下写真内矢印参照)。
【0064】
左下肢の血流値についての評価結果を表1に示す。なお、下肢の血流量は個体ごとに様々な要因で変化するため、左下肢の血流量は、右下肢の血流量値(Flux値)に対する左下肢の血流量値(Flux値)の比で表した。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示されるように、1回目の測定結果においては、実施例及び比較例ともに左下肢の血流が高度に低下していた。一方、2回目の測定結果においては、実施例の左下肢の血流が比較例の左下肢の血流に比べて有意に改善していた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態にかかる医療器具10の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、支持体12が微細針11を支持する構成を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態にかかる医療器具20の構成を示す拡大断面図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態にかかる医療器具20の構成を示す拡大断面図である。
【図5】図5は、実施例及び比較例の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
10,20・・・医療器具
11,23・・・微細針
12,24A,24B・・・支持体
14・・・基端
21・・・中空針(ガイド管)
22・・・ワイヤ(軸索)
25・・・先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微細針と、
上記微細針の基端をそれぞれ支持して、複数の微細針を略平行に配列する支持体と、を具備する医療器具。
【請求項2】
上記微細針は、生体組織に刺通された際に当該生体組織に出血等の明らかな損傷を来さない程度の径及び形状である請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
上記微細針は、上記支持体に密集配列されたものである請求項1又は2に記載の医療器具。
【請求項4】
上記微細針が生体組織に刺通されることにより、当該生体組織に細胞再生のための刺激を付与するために使用される請求項1から3のいずれかに記載の医療器具。
【請求項5】
少なくとも先端に開口を有するガイド管と、
上記ガイド管に挿入されて、当該ガイド管の軸方向へ相対移動可能な軸索と、
上記軸索に連動されて、上記ガイド管の開口から出没される支持体と、
略平行に配列された状態で、その基端が上記支持体に支持された複数の微細針と、を具備する医療器具。
【請求項6】
上記支持体は、上記ガイド管の開口からの出没に連動して、当該開口より大きな外形に展開される第1姿勢と、当該開口から上記ガイド管の内部へ収容可能な大きさの外形に折り畳まれる第2姿勢とに姿勢変化される請求項5に記載の医療器具。
【請求項7】
上記ガイド管がカテーテルである請求項5又は6に記載の医療器具。
【請求項8】
上記ガイド管が中空針である請求項5又は6に記載の医療器具。
【請求項9】
上記微細針は、生体組織に刺通された際に当該生体組織に出血等の明らかな損傷を来さない程度の径及び形状である請求項5から8のいずれかに記載の医療器具。
【請求項10】
上記微細針は、上記支持体に密集配列されたものである請求項5から9のいずれかに記載の医療器具。
【請求項11】
上記微細針が生体組織に刺通されることにより、当該生体組織に細胞再生のための刺激を付与するために使用される請求項5から10のいずれかに記載の医療器具。
【請求項12】
生体組織の一定領域に複数本の微細針を刺通して、当該生体組織を構成する細胞を刺激する組織再生方法。
【請求項13】
上記微細針は、生体組織に刺通された際に当該生体組織に出血等の明らかな損傷を来さない程度の径及び形状である請求項12に記載の組織再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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