説明

医療材料用高分子化合物および該高分子化合物を用いたバイオチップ用基板

【課題】 基板をコーティングした場合に、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、かつ、高密度で生理活性物質をスポットすることを可能とする医療用高分子化合物を提供すること。
【解決手段】 生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)およびアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)を共重合して得られる医療材料用高分子化合物であって、共重合体において、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の組成比が高められた医療材料用高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質を固定化する機能を有する医療材料用高分子化合物、該高分子材料を含む表面コーティング材料、該高分子化合物を用いたバイオチップ基板に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子活性の評価や疾患プロセス、薬物効果の生物学的プロセスを含む生物学的プロセスを解読するための試みにおいては、伝統的にゲノミクスに焦点が当てられてきたが、プロテオミクスは、細胞の生物学的機能についてより詳細な情報を提供することができる。プロテオミクスは、遺伝子レベルというよりもむしろ、タンパク質レベルでの発現を検出し、定量することによる、遺伝子活性の定性的かつ定量的な測定を含む。また、タンパク質の翻訳後修飾、タンパク質間の相互作用など遺伝子にコードされない事象の研究をも含む。
【0003】
膨大なゲノム情報の入手が可能となった今日、プロテオミクス研究はますます迅速高効率化(ハイスループット化)が求められている。この目的の分子アレイとしてDNAチップが実用化されてきた。一方、生体機能において最も複雑で多様性の高いタンパク質の検出に関しては、プロテインチップが提唱され、最近研究が進められている。プロテインチップとは、タンパク質またはそれを捕捉する分子をチップ(微小な基板や粒子)表面に固定化したものの総称である。
【0004】
しかし、現状の生理活性物質固定化用チップは、一般にDNAチップの延長線上に位置付けられて開発がなされているため、ガラス基板や粒子において、タンパク質またはそれを捕捉する分子を表面に固定化する検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
これらのバイオチップを用いた被検物質の検出または定量のために、しばしば蛍光標識が用いられている。しかしながら、蛍光標識の多くは、ガラスやプラスチックの基板に非特異吸着されやすいという問題がある。また、タンパク質も基板に非特異吸着されやすい。蛍光標識やタンパク質が非特異的に基板に吸着すると、検出を目的として基板を使用した場合におけるバックグランドが上がり、検出感度が低下してしまう。定量を目的として基板を使用した場合には、大きな誤差の原因となり、正確な定量ができなくなってしまう。したがって、非特異吸着を抑制することが生理活性物質固定化用チップの開発において重要な要素となる。
【0006】
例えば、特許文献1や2の発明においては、生理活性物質固定のためのアミノ基含有ポリマーと親水性ポリマーを組み合わせることで、この目的を達成しようとした。基材の親水性を高めることで非特異吸着を抑制することが可能になった。
【0007】
しかしながら、親水性を高めることは、基材表面に水を落とした時の前進接触角を低くすることでもあり、その結果、生理活性物質を含む水溶液を基材表面にスポットした場合に、スポット面積が広がり、さらにスポット外周部がにじんで真円のスポットにならないなどの問題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−091245号公報
【特許文献2】特表2010−008378号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、基板をコーティングした場合に、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、かつ、スポット面積が広がらずに高密度で生理活性物質をスポットすることを可能とする医療用高分子化合物を提供すること、および該高分子化合物を用いたバイオチップ用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)およびアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)を共重合して得られる医療材料用高分子化合物であって、共重合体において、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の組成比が高められた医療材料用高分子化合物でコーティングされた基材が、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、かつ、生理活性物質を含む水溶液を滴下した場合においてスポット面積が広がらず、高密度で生理活性物質を基材に固定化しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
【0012】
(1) 生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)およびアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)を共重合して得られる医療材料用高分子化合物であって、共重合体において、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の組成比が50〜80mol%である医療材料用高分子化合物。
【0013】
(2) 生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b),アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)および架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)を共重合して得られる医療材料用高分子化合物であって、共重合体において、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の組成比が50〜80mol%である医療材料用高分子化合物。
【0014】
(3) 生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の官能基がアルデヒド基、活性エステル、エポキシ基、ビニルスルホン基、ビオチン、およびビオチンと特異的に反応する分子から選ばれる少なくとも一つの官能基である、(1)または(2)に記載の医療材料用高分子化合物。
【0015】
(4) 生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)が下記の一般式[1]で表される活性エステルを有するモノマーである、(1)〜(3)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中Rは水素原子またはメチル基を示し、Yは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基またはアルキル基を示す。Wは活性エステル基を示す。qは1〜20の整数を示す。qが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるYは、それぞれ同一であっても、または異なるアルキレングリコール残基の連鎖であってもよい。)
(5) 前記活性エステルがp−ニトロフェニルエステルまたはN−ヒドロキシスクシンイミドエステルである、(3)または(4)に記載の医療材料用高分子化合物。
【0018】
(6) アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)がn―ブチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、およびシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも一つのモノマーである、(1)〜(5)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【0019】
(7) アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)が下記の一般式[2]で表されるモノマーである、(1)〜(5)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【0020】
【化2】

【0021】
(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基を示し、pは1〜100の整数を示す。繰り返されるXは、同一であっても、または異なるアルキレングリコール残基の連鎖であってもよい。)
(8) アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)がメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである、(1)〜(7)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【0022】
(9) 前記メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのエチレングリコールの平均連鎖が3〜100である、(8)に記載の医療材料用高分子化合物。
【0023】
(10) 架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)の架橋可能な官能基がアルコキシシリル、エポキシ、および(メタ)アクリルから選ばれる少なくとも一つの官能基である、(1)〜(9)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【0024】
(11) 架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)が下記の一般式[3]で表されるアルコキシシリルを有するモノマーである、(1)〜(10)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【0025】
【化3】

【0026】
(式中Rは水素原子またはメチル基を示し、Zは炭素数1〜20のアルキル基を示す。A、A、Aのうち、少なくとも1個は加水分解可能なアルコキシ基であり、その他はアルキル基を示す。)
(12) (1)〜(11)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物を含む医療材料用表面コーティング材料。
【0027】
(13) (1)〜(11)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物を含む層を基板表面に形成したバイオチップ用基板。
【0028】
(14) 前記基板がプラスチック製である、(13)に記載のバイオチップ用基板。
【0029】
(15) 前記バイオチップ用基板が、スライド、96穴プレート、マイクロフルイディクス、ビーズ担体である基板。
【0030】
(16) 前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである、(14)に記載のバイオチップ用基板。
【0031】
(17) (1)〜(11)のいずれか記載の医療材料用高分子化合物を含む溶液を基板表面に塗布した後、該高分子化合物を架橋させる、(13)〜(16)のいずれか記載のバイオチップ用基板の製造方法。
【0032】
(18) (13)〜(16)のいずれか記載のバイオチップ用基板に生理活性物質を固定化したバイオチップ。
【0033】
(19) 前記生理活性物質が核酸、ビオチンと特異的に反応する分子、アプタマー、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質から選ばれる少なくとも一つの生理活性物質である、(18)に記載のバイオチップ。
【0034】
(20) 前記ビオチンと特異的に反応する分子が、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンである、(19)に記載のバイオチップ。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、基材表面をコーティングした場合に、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、高密度で生理活性物質をスポットすることが可能な医療用高分子化合物を提供できる。さらに該高分子化合物を用いたバイオチップ用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1の高分子化合物でコーティングされたスライド基板にアビジンを固定化し、その後、ビオチン−BSAをスポットした結果を示す写真である。
【図2】比較例3の高分子化合物でコーティングされたスライド基板にアビジンを固定化し、その後、ビオチン−BSAをスポットした結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の高分子化合物は、生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)およびアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)を共重合して得られることを特徴とする。
【0038】
この高分子化合物は、生理活性物質を固定化する性質、高い疎水性という性質、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質を併せ持つポリマーで、生理活性物質を固定化する官能基が生理活性物質を固定化する役割を果たし、アルキル基が高い疎水性をもたらす役割を果たし、アルキレングリコール残基が生理活性物質の非特異的吸着を抑制する役割を果たす。
【0039】
本発明に用いる生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の官能基としては、化学的に活性な基、受容体基、リガンド基などがあるが、これらに限定されない。具体的な例としては、アルデヒド基、活性エステル、エポキシ基、ビニルスルホン基、ビオチン(その誘導体を含む。以下、同様)、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ヒドロキシル基、アクリレート基、マレイミド基、ヒドラジド基、アジド基、アミド基、スルホネート基、ビオチンと特異的に反応する分子(アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンなど)、金属キレートなどがあるがこれらに限定されない。これらの中でも生理活性物質に多く含まれるアミノ基との反応性の点からアルデヒド基、活性エステル、エポキシ基、ビニルスルホン基が好ましく、また生理活性物質と結合定数が高いビオチンや、ビオチンと特異的に反応する分子が好ましい。
【0040】
本発明に使用する生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)は、特に構造を限定しないが、下記の一般式[2]で表される(メタ)アクリル基と活性エステル基が炭素数1〜10のアルキレングリコール残基の連鎖またはアルキル基を介して結合した化合物であることが好ましい。
【0041】
【化4】

【0042】
式[1]で、アルキレングリコール残基Yの炭素数は1〜10であり、より好ましくは1〜6であり、さらに好ましくは2〜4であり、よりさらに好ましくは2〜3であり、最も好ましくは2である。アルキレングリコール残基Yの繰り返し数qは1〜20の整数であり、より好ましくは2〜18の整数であり、さらに好ましくは3〜16の整数であり、最も好ましくは4〜14の整数である。繰り返し数2以上20以下の場合は、繰り返されるアルキレングリコール残基の炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。
【0043】
本発明に使用する「活性エステル基」は、エステル基の片方の置換基に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応に対して活性化されたエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味するものとして、各種の化学合成、たとえば高分子化学、ペプチド合成などの分野で慣用されているものである。実際に、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類などがアルキルエステルなどに比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。
【0044】
このような活性エステル基としては、たとえばp−ニトロフェニル活性エステル基、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、コハク酸イミド活性エステル基、フタル酸イミド活性エステル基、5−ノルボルネン−2、3−ジカルボキシイミド活性エステル基などが挙げられるが、p−ニトロフェニル活性エステル基またはN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基が好ましく、p−ニトロフェニル活性エステル基が最も好ましい。
【0045】
本発明に使用する「ビオチンと特異的に反応する分子」としては、特にアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンが好ましい。ビオチンとアビジンとの相互作用は非常に強く、特異性も高い。また、低分子であるビオチンを生理活性物質へ導入することも容易なため、物質固定化のための強力なツールとなる。
【0046】
ビオチンと特異的に反応する分子は、上記の活性エステル基に固定化することもできる。この場合、反応性のしやすさを考慮すると、活性エステルは、p-ニトロフェニルエステルまたはN-ヒドロキシスクシンイミドエステルであることが好ましい。
【0047】
本発明に使用する生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の好ましい組成比は1〜50mol%であり、より好ましくは1〜30mol%、最も好ましくは1〜20mol%である。
【0048】
本発明に使用するアルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ネオペンチル(メタ)アクリレート、iso−ネオペンチル(メタ)アクリレート、sec−ネオペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、iso−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、iso−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、iso−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、iso−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、iso−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、iso−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、iso−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、iso−ペンタデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、iso−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、iso−オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、n―ブチルメタクリレートもしくはn−ドデシルメタクリレートもしくはn−オクチルメタクリレートが好ましい。共重合体において、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の好ましい組成比は50〜80mol%であり、より好ましくは60〜80mol%である。
【0049】
このような組成比とすることにより、共重合体の疎水性を高めることができる。これにより基材表面に水溶液を落とした時の前進接触角を高くすることができるため、基材表面に生理活性物質を含む水溶液をスポットした場合に、スポット面積が広がらず、高密度で生理活性物質をスポットすることが可能となる。
【0050】
本発明に使用するアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)は、特に構造を限定しないが、一般式[2]で表される(メタ)アクリル基と炭素数1〜10のアルキレングリコール残基Xの連鎖からなる化合物であることが好ましい。
【0051】
【化5】

【0052】
式中のアルキレングリコール残基Xの炭素数は1〜10であり、より好ましくは1〜6であり、さらに好ましくは2〜4であり、よりさらに好ましくは2〜3であり、最も好ましくは2である。アルキレングリコール残基Xの繰り返し数pは、1〜100の整数であり、より好ましくは2〜100の整数であり、さらに好ましくは2〜95の整数であり、最も好ましくは20〜90の整数である。繰り返し数2以上100以下の場合は、繰り返されるアルキレングリコール残基Xの炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。
【0053】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)としては、例えばメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基の一置換エステルの(メタ)アクリレート類、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールを側鎖とする(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール
(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、入手性からメトキシポリエチレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0054】
本発明に使用するアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)の好ましい組成比は10〜40mol%であり、より好ましくは10〜30mol%である。
【0055】
本発明に使用する高分子化合物は、上記モノマー以外に、架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)を含んでもよい。
【0056】
本発明に使用する架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)は、架橋可能な官能基の反応が高分子化合物合成中に進行しないものであれば特に制限されるものではない。
【0057】
架橋可能な官能基としては、例えば加水分解によりシラノール基を生成する官能基やエポキシ基、(メタ)アクリル基、グリシジル基などが用いられるが、架橋処理が容易なことから加水分解によりシラノール基を生成する官能基やエポキシ基、グリシジル基が好ましく、より低温で架橋できることから加水分解によりシラノール基を生成する官能基が好ましい。
【0058】
加水分解によりシラノール基を生成する官能基とは、水と接触すると容易に加水分解を受けシラノール基を生成する基であり、例えば、ハロゲン化シリル基、アルコキシシリル基、フェノキシシリル基、アセトキシシリル基などを挙げることができる。ハロゲンを含まないことからアルコキシシリル基、フェノキシシリル基、アセトキシシリル基が好ましく、なかでもシラノール基を生成し易い点からアルコキシシリル基が最も好ましい。
【0059】
加水分解によりシラノール基を生成する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーは、(メタ)アクリル基とアルコキシシリル基が炭素数1〜20のアルキル鎖を介して、または直接結合した一般式[3]で表されるエチレン系不飽和重合性モノマーであることが好ましい。
【0060】
【化6】

【0061】
アルコキシシリル基を含有するエチレン系不飽和重合性モノマーとしては、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロペニルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、8−(メタ)アクリロキシオクタニルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロキシウンデニルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロキシアルキルシラン化合物などを挙げることができる。なかでも3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシランがアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーとの共重合性が優れている点、入手が容易である点などから好ましい。これらのアルコキシシリル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーは、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0062】
本発明に使用する架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)の好ましい組成比は1〜20mol%であり、より好ましくは2〜15mol%、最も好ましくは2〜10mol%である。
【0063】
本発明の高分子化合物の合成方法は、特に限定されるものではないが、合成の容易さから、少なくとも生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)およびアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)を含む混合物を、重合開始剤存在下、溶媒中でラジカル重合することが好ましい。混合物は、さらに、架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)を含むことが好ましい。
【0064】
溶媒としてはそれぞれのエチレン系不飽和重合性モノマーが溶解するものであればよく、例えば、2−ブタノン、メタノール、エタノール、t−ブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルムなどを挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。プラスチック基材に該高分子化合物を塗布する場合は、エタノール、メタノールが基材を変性させないため好ましい。
【0065】
重合開始剤としては通常のラジカル開始剤ならいずれでもよく、例えば、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(以下「AIBN」という)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1
−カルボニトリル)などのアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリルなどの有機過酸化物などを挙げることができる。
【0066】
本発明の高分子化合物の化学構造は、その結合方式がランダム、ブロック、グラフトなどいずれの形態をなしていてもよい。
【0067】
本発明の高分子化合物の分子量は、高分子化合物と未反応のエチレン系不飽和重合性モノマーとの分離精製が容易になることから、数平均分子量は5000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。
【0068】
本発明の高分子化合物は、基材表面を該高分子化合物でコーティングすることにより、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質、高い疎水性という性質、特定の生理活性物質を固定化する性質を容易に付与することが可能である。さらに、高分子主鎖同士を架橋させる性質を併せ持つことから、基材表面をコーティングした後に、架橋させることが可能である。これにより、基材上の高分子に不溶性を付与することができ、基材洗浄による信号低下を低減することができる。
【0069】
基材表面への高分子化合物のコーティングは、例えば有機溶剤に高分子化合物を0.05〜10重量%濃度になるように溶解した高分子溶液を調製し、浸漬、吹きつけなどの公知の方法で基材表面に塗布した後、室温下ないしは加温下にて乾燥させることにより行われる。
【0070】
その後、架橋可能な官能基に応じた任意の方法で高分子の主鎖同士を架橋させることができる。架橋可能な官能基が加水分解によりシラノール基を生成する官能基の場合の高分子化合物のコーティングについては、有機溶剤中に水を含有させた混合溶液を用いてもよい。含有される水により加水分解が生じ、該合成高分子中にシラノール基が生成し、さらに加熱することにより主鎖同士が結合され、高分子化合物が不溶になる。
【0071】
含水量が少ないとシラノール基の生成が不十分で、架橋結合が弱くなる。一方、含水量が多くなると高分子化合物が溶媒に不溶となるおそれがある。理論上加水分解によりシラノール基を生成するのに必要な水が含有されていれば十分であるが、溶液の調製の容易さを考えると、含水量が約0.01〜15重量%程度のものが好ましい。
【0072】
有機溶剤としては、2−ブタノン、エタノール、メタノール、t−ブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトンなどの単独溶媒またはこれらの混合溶剤が使用される。中でも、エタノール、メタノールがプラスチック基材を変性させず、乾燥させやすいため好ましい。また、溶液中で高分子化合物を加水分解させる場合にも、水と任意の割合で混ざるので好ましい。
【0073】
本発明の高分子化合物を溶解した溶液を基材表面に塗布した後、乾燥させる工程において、高分子化合物中のシラノール基は、他の高分子化合物中のシラノール基、水酸基、アミノ基などと脱水縮合して架橋を形成する。さらに基材表面に水酸基、カルボニル基、アミノ基などがある場合も同様に脱水縮合し、基材表面と化学的に結合することができる。シラノール基の脱水縮合により形成される共有結合は加水分解されにくい性質があるので、基材表面にコーティングされた高分子化合物は容易に溶解したり、基材から脱離してしまうことはない。シラノール基の脱水縮合は加熱処理により促進される。高分子化合物が熱により変成されない温度範囲内、例えば、60〜120℃で5分間〜24時間加熱処理することが好ましい。
【0074】
本発明に使用するバイオチップ用基板の素材は、ガラス、プラスチック、金属その他を用いることができるが、表面処理の容易性、量産性の観点から、プラスチックが好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。バイオチップ用基板の形状としては、例えば、スライド、96穴プレート、マイクロフルイディクス、ビーズ担体などが挙げられる。
【0075】
熱可塑性樹脂としては、蛍光発生量の少ないものが好ましく、たとえばポリエチレン、ポリプロピレンなどの直鎖状ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、含フッ素樹脂などを用いることが好ましく、耐熱性、耐薬品性、低蛍光性、成形性に特に優れる飽和環状ポリオレフィンを用いることがより好ましい。ここで飽和環状ポリオレフィンとは、環状オレフィン構造を有する重合体単独または環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体を水素添加した飽和重合体をさす。
【0076】
基材表面と表面にコーティングされる高分子化合物との密着性を高めるために、基材表面を活性化することが好ましい。活性化する手段としては酸素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、窒素雰囲気下、空気雰囲気下などの条件下でプラズマ処理する方法、ArF、KrFなどのエキシマレーザーで処理する方法があるが、酸素雰囲気下でプラズマ処理する方法が好ましい。
【0077】
本発明の高分子化合物を基材に塗布することで容易に基材に生理活性物質の非特異的吸着を抑制されたバイオチップ基板を作製できる。さらに該高分子化合物を架橋することで、基材上の高分子化合物に不溶性を付与することができる。これらのことより、該高分子化合物を塗布した基材はバイオチップに好適に用いることができる。
【0078】
本発明のバイオチップ基板を使用して各種の生理活性物質を固定化することができる。固定化する生理活性物質は核酸、アプタマー、ビオチンと特異的に反応する分子、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質などがある。例えば核酸を固定化する場合は、活性エステル基との反応性を高めるため、アミノ基を導入することが好ましい。アミノ基の導入位置は分子鎖末端あるいは側鎖であってもよいが、分子鎖末端にアミノ基が導入されていることが好ましい。
【0079】
固定化する生理活性物質にビオチンを、一般的な方法で導入することで、基材表面に固定化されたビオチンと特異的に反応する分子によって、効果的に目的の生理活性物質を固定化することが可能となる。より反応性を高めるために、ビオチンの導入位置は生理活性物質の末端や外側であることが望ましい。生理活性物質の合成法が進歩してきた事で、任意の位置にビオチンを導入できるようになってきており、生理活性を発現するために重要な部位に影響を及ぼさないような位置で生理活性物質を担体表面に固定化することが可能である。
【0080】
本発明において生理活性物質をバイオチップ基板上に固定化する際には、生理活性物質を溶解または分散した液体を点着する方法が好ましい。生理活性物質を溶解または分散した液体のpHは6.0〜8.0であることが好ましく、pH6.5〜7.5がより好ましい。この範囲外のpHの場合には、生理活性物質や生理活性物質を固定化する分子が変性・分解するおそれがある。
【0081】
点着後、静置することにより、生理活性物質が表面に固定化される。例えばアミノ化された核酸を用いた場合は室温から80℃において1時間静置することにより、固定化が可能である。処理温度は高いほうが好ましい。生理活性物質を溶解または分散させる液体としてはアルカリ性であることが好ましい。
【0082】
洗浄後は生理活性物質を固定化した以外の基板表面の官能基を不活性化処理する。活性エステルやアルデヒド基の場合はアルカリ化合物、あるいは一級アミノ基を有する化合物で行うことが好ましい。
【0083】
アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸ナトリウム、水酸化リチウム、リン酸カリウムなどを好ましく用いることができる。
【0084】
一級アミノ基を有する化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、グリシン、9−アミノアクアジン、アミノブタノール、4−アミノ酪酸、アミノカプリル酸、アミノエタノール、5−アミノ2,3−ジヒドロー1,4−ペンタノール、アミノエタンチオール塩酸塩、アミノエタンチオール硫酸、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、リン酸二水素2−アミノエチル、硫酸水素アミノエチル、4−(2−アミノエチル)モルホリン、5-アミノフルオレセイン、6−アミノヘキサン酸、アミノヘキシルセルロース、p−アミノ馬尿酸、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、5−アミノイソフタル酸、アミノメタン、アミノフェノール、2−アミノオクタン、2−アミノオクタン酸、1−アミノ2−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、3−アミノプロペン、3−アミノプロピオニトリル、アミノピリジン、11−アミノウンデカン酸、アミノサリチル酸、アミノキノリン、4−アミノフタロニトリル、3−アミノフタルイミド、p−アミノプロピオフェノン、アミノフェニル酢酸、アミノナフタレンなどを好ましく用いることができ、アミノエタノール、グリシンが最も好ましい。
【0085】
このように生理活性物質を固定化することによって得られたバイオチップは免疫診断、遺伝子マイクロアレイ、タンパク質マイクロアレイ、マイクロフルイディスクデバイスを含めた多くの分析システムにおいて使用することができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(高分子化合物の合成例)
ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PEGMA、平均Mn=約475、Aldrich製)、メタクリル酸n−ブチル(BMA、関東化学社製)、p−ニトロフェニルオキシカルボニル−ポリエチレングリコールメタクリレート(MEONP)、3−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン(MPDMS、GELEST、INC.製)をそれぞれ表1の組成になるように2−ブタノン(キシダ化学製)に溶解させ、モノマー混合溶液を作製した。
【0087】
【表1】

【0088】
さらに0.01mol/Lになるように2、2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN 和光純薬社製)を添加し、均一になるまで撹拌した。その後、アルゴンガス雰囲気下、100℃で1晩反応させた後、反応溶液をアセトン/ヘキサン=2/8(体積比)中に滴下し、沈殿を収集した。得られた高分子化合物を重クロロホルム溶媒中1H―NMRで測定し、3.3ppm付近に現れるPEGMAの末端メトキシ基に帰属されるピーク、1.4〜1.7ppm付近に現れるBMAのメチレンに帰属されるピーク、7.6および8.4ppm付近に現れるMEONPのベンゼン環に帰属されるピーク、0.6ppm付近に現れるMPDMSのSiに結合したメチル基に帰属されるピーク、のそれぞれの積分値より、高分子化合物の組成比を算出した。表2に結果を示した。
【0089】
【表2】

【0090】
(スライド基板)
環状ポリオレフィン樹脂(日本ゼオン社製、ZEONEX480)をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工してスライド基板を作製した。酸素雰囲気化のプラズマ処理によって基板表面に酸化処理を施した。
【0091】
この固相基板を前記各高分子化合物の0.3重量%エタノール溶液に浸漬後、100℃/1晩加熱乾燥することにより、基板表面に前記各高分子化合物を含む層を導入した
(接触角の測定)
前期各高分子化合物導入したスライド基板表面の表面接触角を測定した。
(アビジンの固定化)
10μg/mL濃度のアビジン(NeutrAvidin、PIERCE社製 31000) 1.2Mリン酸水素2カリウム溶液に前記スライド基板を浸漬し、室温で2時間アビジン固定化反応を行い、反応後、0.05% TritonX100(和光純薬工業、194854)/ PBSで3回洗浄した。
(ブロッキング)
ブロッキング液として、0.02Mドデシルアミン(和光純薬工業、585-13411)0.1M塩化ナトリウム溶液(8N NaOHでpH9に調整)を調製した。前記アビジン固定化スライド基板に対して前記ブロッキング液を入れ1時間反応し、未反応の活性エステルを反応させた。反応後、ミリQ水(超純水)で5回洗浄した。
(蛍光測定)
ビオチン−BSA(シグマアルドリッチ社製、A8549−10MG)を炭酸バッファーに溶解した。蛍光試薬Cy3−Dye(GEヘルスケア社製、PA23001)を300μg/mLになるように前記溶液に加え反応し、ビオチン−BSA−Cy3を合成した。合成後、精製カラム(GEヘルスケア社 17−0851−01)でBiotin−BSA−Cy3を精製した。
【0092】
400μLの前記ビオチン−BSA−Cy3精製溶液を0.05% TritonX100/PBS3.6mLに加え全部で4mLに調整した。スポティング装置(ニップンテクノクラスタ社製、pixsys4500)ビオチン−BSA−Cy3精製溶液5nLを前記アビジン固定化スライド基板にスポッティングした。
【0093】
蛍光量の測定には、マイクロアレイスキャナー「ScanArray」(Packard BioChip Technologies社製)を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT 感度50%、励起波長543nm、測定波長570nmとした。
【0094】
【表3】

【0095】
なお、実施例1および比較例3の蛍光測定の結果は、それぞれ図1と図2に示した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の高分子化合物でコーティングした基材は、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、かつ、高密度で生理活性物質をスポットすることが可能であるため、本発明の高分子化合物は、バイオチップ用基板の作製において有用であり、医療分野などにおいて大きく貢献しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)およびアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)を共重合して得られる医療材料用高分子化合物であって、共重合体において、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の組成比が50〜80mol%である医療材料用高分子化合物。
【請求項2】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b),アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)および架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)を共重合して得られる医療材料用高分子化合物であって、共重合体において、アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の組成比が50〜80mol%である医療材料用高分子化合物。
【請求項3】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の官能基がアルデヒド基、活性エステル、エポキシ基、ビニルスルホン基、ビオチン、およびビオチンと特異的に反応する分子から選ばれる少なくとも一つの官能基である、請求項1または2に記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項4】
生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)が下記の一般式[1]で表される活性エステルを有するモノマーである、請求項1〜3のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【化1】

(式中Rは水素原子またはメチル基を示し、Yは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基またはアルキル基を示す。Wは活性エステル基を示す。qは1〜20の整数を示す。qが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるYは、それぞれ同一であっても、または異なるアルキレングリコール残基の連鎖であってもよい。)
【請求項5】
前記活性エステルがp−ニトロフェニルエステルまたはN−ヒドロキシスクシンイミドエステルである、請求項3または4に記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項6】
アルキル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)がn―ブチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、およびシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも一つのモノマーである、請求項1〜5のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項7】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)が下記の一般式[2]で表されるモノマーである、請求項1〜5のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【化2】

(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基を示し、pは1〜100の整数を示す。繰り返されるXは、同一であっても、または異なるアルキレングリコール残基の連鎖であってもよい。)
【請求項8】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)がメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである、請求項1〜7のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項9】
前記メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのエチレングリコールの平均連鎖が3〜100である、請求項8に記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項10】
架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)の架橋可能な官能基がアルコキシシリル、エポキシ、および(メタ)アクリルから選ばれる少なくとも一つの官能基である、請求項1〜9のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項11】
架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(d)が下記の一般式[3]で表されるアルコキシシリルを有するモノマーである、請求項1〜10のいずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【化3】

(式中Rは水素原子またはメチル基を示し、Zは炭素数1〜20のアルキル基を示す。A、A、Aのうち、少なくとも1個は加水分解可能なアルコキシ基であり、その他はアルキル基を示す。)
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか記載の医療材料用高分子化合物を含む医療材料用表面コーティング材料。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか記載の医療材料用高分子化合物を含む層を基板表面に形成したバイオチップ用基板。
【請求項14】
前記基板がプラスチック製である、請求項13に記載のバイオチップ用基板。
【請求項15】
前記バイオチップ用基板が、スライド、96穴プレート、マイクロフルイディクス、ビーズ担体である基板。
【請求項16】
前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンである、請求項14に記載のバイオチップ用基板。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれか記載の医療材料用高分子化合物を含む溶液を基板表面に塗布した後、該高分子化合物を架橋させる、請求項13〜16のいずれか記載のバイオチップ用基板の製造方法。
【請求項18】
請求項13〜16のいずれか記載のバイオチップ用基板に生理活性物質を固定化したバイオチップ。
【請求項19】
前記生理活性物質が核酸、ビオチンと特異的に反応する分子、アプタマー、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、および糖タンパク質から選ばれる少なくとも一つの生理活性物質である、請求項18に記載のバイオチップ。
【請求項20】
前記ビオチンと特異的に反応する分子が、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンである、請求項19に記載のバイオチップ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−52843(P2012−52843A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193769(P2010−193769)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】