説明

医療用ガイドワイヤ、その製造方法、及び医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテル、又はバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体

【課題】芯線にステンレス鋼線を用いた医療用ガイドワイヤにおいて、強加工伸線を行なった芯線の温度と引張強度特性に着目して、芯線の引張強度特性を向上させる好適条件としての技術課題である製造方法等を開示するものである。
【解決手段】芯線に固溶化処理したオーステナイトステンレス鋼線を用いて、総減面率が90%から97.6%の強加工の伸線加工を行い、芯線の各機械的加工毎に好適条件の低温熱処理を繰り返し用いることにより、そして又、捻回加工後の低温熱処理、芯線への樹脂被膜成形の熱利用、及び芯線の熱伝導性等を考慮して、芯線の機械的強度特性を向上させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステンレス鋼線から成る芯線を各機械的加工した後に、一定の温度範囲の低温熱処理を加えることにより芯線の機械的強度特性を向上させた医療用ガイドワイヤとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内へ挿入する医療用ガイドワイヤは細線である為、機械的強度特性を考慮して人体への安全確保を満たさなければならず、この為種々の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、高珪素ステンレス鋼(Si:3.0%から5%)を用いて所定の加工度と低温熱処理条件等が記載され、芯線の引張強度特性向上を目的としている。
【0004】
特許文献2には、弾性形状記憶合金を用いて所定の加工条件等が記載され、品質向上を目的としている。
【0005】
特許文献3には、金属細線を用いて分割したゾーン毎に異なる捻回加工と異なる熱処理等が記載され、品質向上を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−342696号公報
【特許文献2】特開2000−512691号公報
【特許文献3】特開2005−14040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のガイドワイヤにおいては、その芯線材料として一般的に用いられるオーステナイト系ステンレス鋼線を用いているが、医療用ガイドワイヤとしての特性を満足させる為に芯線への機械的加工を施す際、予め加工度の高い強加工の伸線加工を行い、その後芯線に機械的加工を施す際、この強加工した芯線の熱影響による引張強度特性に着目して、医療用ガイドワイヤ特有の各加工工程毎に芯線の機械的加工と低温熱処理との相関性において、芯線の引張強度特性向上効果を有する工程を累積することにより、高度の引張強度特性を有する芯線から成る医療用ガイドワイヤ、及びその製造方法に関する技術思想は存在していない。
この発明の目的は、芯線にオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて強加工した芯線への熱影響による引張強度特性と医療用ガイドワイヤとしての特性を満たすべく、芯線に施す機械的加工との相関性において、最も好ましい芯線の引張強度特性を得て、術者が安全に操作できる医療用ガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、可とう性細長体から成る芯線と、芯線の先端部に芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、芯線とコイルスプリング体との先端端部に接合部材を用いて先導栓を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、芯線が固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と伸線工程後に400℃〜495℃の低温熱処理工程を設けて、伸線工程と低温熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、最終伸線工程までの総減面率を90%から97.6%とし、最終伸線工程までの低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、最終伸線工程後に380℃〜495℃の低温熱処理と、芯線先端部に研削加工、又は押圧加工の機械的加工をした後に、少なくとも機械的加工部分に180℃〜420℃(後述する樹脂被膜成形時の熱利用温度範囲)の低温熱処理を加え、最終伸線工程後の各低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が2%以上とし、各低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上であることを特徴とする。
この構成により、強加工の伸線加工後の低温熱処理と引張強度特性、及び機械的加工後の低温熱処理と引張強度特性との相関性に着目して、各工程毎に引張強度特性向上効果を有する工程を累積させて、高度の引張強度特性を有する芯線から成る医療用ガイドワイヤの提供ができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1 記載の発明に対して、最終伸線工程の後に芯線に所定量の捻回加工を行い、その後芯線に電気抵抗加熱による低温熱処理を行い、その後芯線先端部に機械的加工である研削加工、又は押圧加工を経た後、芯線の外周部へ樹脂被膜成形時に加熱する熱を利用して、一定温度範囲に制御した低温熱処理を施したことを特徴とする。
この構成により、強加工の芯線を用いて捻回加工と、その後の電気抵抗加熱による低温熱処理により芯線の加工度をより向上させて、そして機械的加工と一定温度範囲に制御した低温熱処理により、各機械的加工による残留応力を除去して引張強度特性を向上させ、その増加率の合計が10%以上向上させることができる。又、請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明に対して、芯線先端部の機械的加工後に、芯線の外周部に樹脂被膜成形前に一定の温度範囲に制御した低温熱処理を施したことを特徴とし、この構成により引張破断強度の増加率の合計を11.5%以上向上させることができる。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一つに記載の発明の芯線を用いて、芯線先端部研削加工部分の低温熱処理後に押圧加工を行ない、少なくとも押圧加工した部分に芯線先端部に装着されたコイルスプリング体外周部の樹脂被膜成形時の熱を利用して、一定の温度範囲に制御した低温熱処理を行い、押圧加工部分の引張強度特性を向上させることができる。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の発明に対して、総減面率を94%から97.6%として芯線の引張破断強度を大幅に向上させることができる。
この構成により、特に芯線に捻回加工を加えて熱処理したものと、捻回加工を加えないで熱処理したものとは引張破断強度の増加率が異なり、総減面率94%を境にして、急激な引張破断強度が増大し、高強度の引張強度特性を有する芯線から成る医療用ガイドワイヤを得ることができる。
【0012】
請求項6記載の発明は、可とう性細長体から成る芯線と、芯線の先端部に芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、芯線とコイルスプリング体との先端端部に接合部材を用いて先導栓を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、芯線が固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と伸線工程の後に400℃〜495℃で10分から180分の低温熱処理工程を設けて、伸線工程と低温熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、最終伸線工程までの総減面率を90%から97.6%とし、芯線の一端に捻回加工前の芯線の引張破断力の5%から30%の負荷荷重を加えた状態で、他端を100回/mから250回/mの捻回加工工程を設け、その後芯線に電気抵抗加熱による380℃〜495℃で30秒から60分の低温熱処理工程と、芯線先端部を研削加工、又は研削加工後に押圧加工する工程と、芯線の先端部に芯線を貫挿してコイルスプリング体を装着する工程と、接合部材を用いて芯線とコイルスプリング体とを部分的に接合させる工程と、接合部材を用いて芯線とコイルスプリング体の端部とを接合させた先導栓を形成する工程から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
この構成により、強加工伸線後の各低温熱処理と、強加工の捻回加工後の電気抵抗加熱による低温熱処理により、芯線の加工度をより向上させて各強加工工程での残留応力を除去し、引張強度特性の高い芯線から成る医療用ガイドワイヤの製造方法が提供できる。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明に対して、強加工の捻回加工後に電気抵抗加熱による低温熱処理を行い、その後一定温度範囲(400℃〜495℃)の電気抵抗加熱以外の熱処理炉等を用いた雰囲気加熱等による低温熱処理工程を設けることにより、又請求項8記載に発明は、請求項6記載の発明に対して芯線先端部の研削加工後に、芯線の樹脂被膜成形時の熱を利用して芯線に一定温度範囲(340℃〜420℃)と時間に制御した低温熱処理工程を設けることにより、前記同様引張強度特性の高い芯線から成る医療用ガイドワイヤの製造方法である。
【0014】
請求項9記載の発明は、請求項6〜8のいずれか一つに記載の発明に対して、芯線の他端の捻回数が100回/mから200回/mの捻回加工工程をとしたことを特徴とする。 この構成により、芯線の表層部と内層部との不均質をより少なくして均質化させ、曲げ変形後の残留角度をより少なくして、直線性向上、および安定した品質の芯線から成る医療用ガイドワイヤの製造方法の提供ができる。
【0015】
請求項10記載の発明は、請求項6〜9のいずれか一つに記載の発明に対して、接合部材を用いて芯線とコイルスプリング体とを接合させた後に、コイルスプリング体外周部の樹脂被膜成形時の熱を利用して、少なくともコイルスプリング体内の芯線に一定温度範囲(180℃〜300℃)と時間に制御した低温熱処理工程を設けることにより、前記同様引張強度特性の高い芯線から成る医療用ガイドワイヤの製造方法である。
【0016】
請求項11記載の発明は、請求項6〜10のいずれか一つに記載の発明に対して、芯線の伸線工程が一次伸線から最終伸線までの所定の減面率を有する複数のダイスを用いたダイス配列とすることにより、生産性が高く、安定した品質の生産が可能な高い引張強度特性を有する芯線から成る医療用ガイドワイヤの製造方法である。
【0017】
請求項12記載の発明は、接合部材が180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成る請求項1〜5のいずれかの医療用ガイドワイヤで、請求項13記載の発明は、前記接合部材から成る請求項6〜11のいずれかの医療用ガイドワイヤの製造方法である。 この構成により、芯線とコイルスプリング体とを接合部材を用いて接合する際、接合時の熱による芯線の引張破断強度を低下させることなく、むしろこの接合部材の溶融熱を利用して芯線の引張破断強度特性を向上させ、芯線と中間接合部材、又は後端接合部材との接合部、及び芯線と先導栓との接合部での芯線の引張破断強度を向上させる接合を可能とすることができる。
【0018】
請求項14記載の発明は、請求項1〜5、12のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤと、マイクロカテーテルと、ガイディングカテーテルとの組立体において、医療用ガイドワイヤの外径が0.228mmから0.254mm(0.009インチから0.010インチ)で、医療用ガイドワイヤを内径が0.28mmから0.90mmのマイクロカテーテル内へ挿入し、かつ、内径が1.59mmから2.00mmのガイディングカテーテル内へ医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルが挿入されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体である。この構成により、細径化された組立体を得ることができる。
【0019】
請求項15記載の発明は、請求項1〜5、12のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤと、バルーンカテーテルと、ガイディングカテーテルとの組立体において、医療用ガイドワイヤの外径が0.228mmから0.254mm(0.009インチから0.010インチ)で、医療用ガイドワイヤを内径が0.28mmから0.90mmのバルーンカテーテル内へ挿入し、かつ、内径が1.59mmから2.00mmのガイディングカテーテル内へ、医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルが挿入されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体である。この構成により、細径化された組立体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】医療用ガイドワイヤと芯線の正面図、及び芯線の要部拡大図である。
【図2】低温熱処理と引張強度特性図である。(実施例1、2)
【図3】低温熱処理と引張強度特性図である。(実施例6、7、8)
【図4】低温熱処理と引張強度特性図である。(実施例1、2、6、7、8)
【図5】低温熱処理有無の捻回回数と引張強度特性図である。
【図6】低温熱処理有無の捻回回数と曲げ残留角度の特性図である。
【図7】電気抵抗加熱による連続捻回製造方法の実施形態である。
【図8】温度と引張強度特性図である。
【図9】総減面率と引張強度特性図である。
【図10】医療用ガイドワイヤの他の実施例の正面図、側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の最良の実施形態を図に示すとともに説明する。
【実施例】
【0022】
図1は実施例の医療用ガイドワイヤ1を示し、芯線2の先端部21には、同軸的に外嵌めされたコイルスプリング体(以下コイル体)3を有し、コイル体3の先端側には金、白金、タングステン等の放射線不透過材コイル31から成り、その芯線2の先端部21には、中間前側接合部材41、中間後側接合部材42、後端接合部材43により、芯線2とコイル体3とが接合部材4を用いて部分的にそれぞれ接合され、又芯線2の先端端部に先丸形状の円柱状の先導栓5が接合部材4により形成されて芯線2とコイル体3とを接合している。
【0023】
そして芯線2は、先端部21の先端から約300mmは、概ね0.060mmから0.200mmの細径の線で、残りの手元部22は、約1200mmから約2700mmで太径の線から成っている。先端部21の細径部分は、先端側へ徐変縮径し、その断面形状は円形断面、又は矩形断面いずれの形状であってもよい。又、芯線2の手元側22の外周部にフッ素樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂被膜6が形成され、特にコイル体3の外周部にはウレタン樹脂等、芯線2の手元側22の外周部にはフッ素樹脂(PTFE)が被膜成形されている。
そしてその外周部には、湿潤時に潤滑特性を示すポリビニルピロリドン等の親水性被膜7が形成され、芯線2の先端部21は、前記樹脂被膜等により密閉状に包被されている。
【0024】
そして芯線2は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、総減面率が90%から97.6%の伸線加工を行ったことを特徴とする。尚、ここでいう総減面率とは、固溶化処理した線材の線径と伸線加工により伸線工程での最終仕上がり線径との間の断面積差を減少率で表したものをいう。
そして総減面率が90%以上としたのは、80%を境にして引張破断強度が増大し、90%以上で急傾斜増大するからである。(図9)これは、90%以上という強加工の伸線加工により加工度の増大に伴い繊維状組織となり、この組織の発達によるものと考えられる。そして総減面率が97.6%以下としたのは、これを超える強い加工度では、組織内に空隙が生じはじめて脆化し、これが伸線加工の限界と考えるからである。
【0025】
そして「固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線の伸線加工」としたのは、加工性のよいオーステナイト組織を得る為であり、オーステナイト系ステンレス鋼線は変態点を利用した熱処理による結晶粒の微細化ができず、冷間加工によってのみ結晶粒の微細化が可能で、伸線加工により顕著な加工硬化性を示して引張強度特性を向上させることができるからである。又オーステナイト系ステンレス鋼線を用いる理由は、マルテンサイト系ステンレス鋼線では熱処理による焼入硬化性を示して熱影響を受け易く、又フェライト系ステンレス鋼線では温度脆性(シグマ脆性、475℃脆性)の問題があるからである。
【0026】
ここで表1 は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線の引張破断強度68kgf/mm2 の線材(母材)の線径1.5mmを用いて一次伸線後、温度範囲が400℃〜495℃で10分から180分で熱処理炉を用いた炉内での雰囲気加熱による一次低温熱処理(本実施例では420℃、75分)を行ない、その後二次伸線(本実施例で最終伸線)を行い、総減面率を90%(実施例1)、及び94%(実施例2)として、その後前記同様温度範囲が400℃〜495℃で10分から180分で熱処理炉を用いた炉内での雰囲気加熱による二次低温熱処理(本実施例では450℃、120分)を加え、そして芯線2の先端部21を外径0.150mmまで研削加工を行ない、その後芯線2の手元部22に吹付け等によるPTFE等のフッ素樹脂の塗膜成形後の乾燥・焼成の為の雰囲気による加熱を、芯線2の温度による引張強度特性を考慮して340℃〜420℃の温度範囲で10分から180分の三次低温熱処理(本実施例では385℃、30分)を加えたものである。そしてこの表1をグラフ化したものが図2である。尚、ここでいう引張破断強度とは、芯線に引張力を加えて破断した値を芯線の断面積で除した値のことをいう。
【0027】
【表1】

【0028】
なお、以下において各表中における丸付数字は、文中においてカッコ付数字で示すものである。
表1によると、最終伸線(本実施例では二次伸線)前までの低温熱処理(本実施例では一次低温熱処理)による引張破断強度の増加率は、実施例1で12.6%、実施例2で13.3%となり、そして最終伸線後の各低温熱処理後の引張破断強度の増加率の合計(2)+(3)は、実施例1、2でそれぞれ2.8%、4.0%となって、前記伸線工程を含む各低温熱処理の張破断強度の増加率の合計(1)+(2)+(3)は、実施例1、2でそれぞれ15.4%、17.3%となる。特に機械的加工した研削部分の外径が0.150mmの芯線の引張破断強度を断面積換算すると、実施例1で研削加工前と比較して、4,522gfが4,575gfとなって約53gf増大し、又同様に実施例2では、約71gf増大する。
この研削加工した芯線2の先端部分は冠状動脈内の屈曲蛇行病変部へ侵入して操作される為、引張強度、及び繰り返し屈曲曲げ耐疲労特性が要求される部位であり、そして繰り返し耐久回数は応力の関数(S−N線図)で表わせる為、この部位の少しの増加率であっても、繰り返し耐久回数は飛躍的に増大することとなる。
【0029】
そして補足すれば、一次伸線後の低温熱処理の温度範囲を400℃〜495℃で10分から180分としたのは、後述するオーステナイト系ステンレス鋼線の強加工伸線での温度による引張強度特性(図8)と強加工伸線工程での生産性、及び品質の安定を考慮した為であり、又最終伸線工程後の二次低温熱処理の温度範囲を400℃〜495℃で10分から180分としたのは、前記同様オーステナイト系ステンレス鋼線の強加工伸線での温度による引張強度特性(図8)と、熱処理炉を用いた雰囲気加熱による生産性、及び品質の安定を考慮した為であり、又研削加工後の三次低温熱処理の温度範囲を340℃〜420℃で10分から180分としたのは、芯線2の少なくとも手元部22に樹脂被膜成形するフッ素樹脂(PTFE)の乾燥・焼成の為の加熱温度によるオーステナイト系ステンレス鋼線の強加工伸線での温度による引張強度特性(図8)の向上効果と生産性、及び品質の安定を考慮した為である。尚、伸線工程と低温熱処理工程を1セットとして、5セット以上繰り返してもよいが、経済性、生産性等の観点から3セット以下が望ましい。
又一次伸線工程と二次伸線工程の各工程内での減面率は、いずれを高く設定してもよいが、一次低温熱処理前に一次伸線工程の減面率を高く設定(本実施例では87.5%から94.2%)することにより、加工誘起マルテンサイト量を多くして、熱処理による結晶粒成長を抑制し、結晶粒径を小さくすることができる。そして又、経済性、生産性等の観点から一次伸線工程での減面率を高く設定し、その後の伸線工程をそれより低く設定することが望ましい。又、加工誘起マルテンサイト生成による引張破断強度向上効果をより高める為、伸線時の芯線表面温度である加工温度は、140℃以下が望ましく、湿式伸線での冷却液の設定、又は伸線時ダイスへシャワー状に吹き付ける潤滑剤の設定、及びこれらの温度設定等によりこれを達成できる。
【0030】
次に、表2は前記実施例1、2に対して、総減面率が94.8%(実施例3)、96%(実施例4)、97.6%(実施例5)の伸線加工を行ない、そして最終伸線工程後(本実施例では二次伸線)の芯線2に一定条件による捻回加工を加え、その後捻回後の状態で通電させて電気抵抗加熱による380℃〜495℃(約1.8アンペア)の温度範囲で30秒から60分(本実施例では450℃、5分)低温熱処理を行い、そして前記同様芯線2の先端部21に研削加工等の機械的加工を行い、その後前記三次低温熱処理と同様にして温度範囲を340℃〜420℃で10分から180分の熱処理炉等を用いた雰囲気加熱による低温熱処理工程(本実施例では385℃、30分)後の引張強度特性を示したものである。上記以外の低温熱処理については、実施例1、2と同様である。尚、芯線の捻回は、後述する負荷荷重(ウエイト12)を加えた状態で捻回加工を行い、その負荷荷重は捻回加工前の芯線の引張破断力の10%から30%(本実施例では20%)であり、以後実施例6〜8、11〜13も同様である。
【0031】
【表2】

【0032】
表2によると、最終伸線(本実施例では二次伸線)前までの一次低温熱処理による引張破断強度の増加率は、実施例3、4、5でそれぞれ12.5%、13.3%、12.6%となり、そして最終伸線後の各低温熱処理の引張破断強度の増加率の合計(2)+(3)は、実施例3、4、5でそれぞれ5.1%、7.9%、7.6%となって前記伸線工程を含む各低温熱処理の引張破断強度の増加率の合計(1)+(2)+(3)は、実施例3、4、5でそれぞれ17.6%、21.2%、20.2%となる。特に、捻回加工後の状態で芯線に電気抵抗加熱による低温熱処理を施すと、その引張破断強度の増加率は、前記実施例1、2よりも高い傾向を示す。(図3)
【0033】
この理由は、芯線2に用いているオーステナイト系ステンレス鋼線は、加工度の増大に伴って機械的強度は増大し、特に総減面率が90%から97.6%の伸線加工した芯線は、加工度が高く、さらに冷間状態で捻回加工を行なうことにより、熱間状態の捻回加工よりも結晶粒の微細化をより促進させて機械的強度をさらに増大させ、そして捻回加工の後、捻回時の負荷荷重を加えた状態で芯線に通電させて電気抵抗加熱による低温熱処理を行い、加工による残留応力を除去して局部的に発生している応力を平均化するほうが、引張破断強度の高い芯線2を得ることができると考えるからである。特に総減面率が94%近傍を境にして引張破断強度の急激な増加傾向がみられる。(図4)
そして又、芯線2の研削加工を容易とし、生産性を向上させることができる。この理由は、一定温度に到達した後の低温熱処理下での熱間状態で捻回加工を行なうと、加熱により結晶粒は粗大化しやすくなって芯線材料に粘さが発生しやすくなり、この為捻回加工して結晶粒を微細化させて機械的強度を増大させることが困難となる。又、捻回による発熱と通電による加熱とにより、芯線の実質的な温度制御(電流等)が困難となり、過熱状態の芯線は引張破断強度が低く、粘さを有する芯線が発生しやすくなり、そして後述する曲げ変形後の残留角度が大きくなり、さらに、その芯線の粘さからセンターレス研削機等を用いて芯線の外周研削加工時、うねり等が発生して研削加工が困難となって生産性を阻害し、常に安定した品質を得ることが至難となる。
これらの理由から、芯線に所定量の捻回加工の後に、捻回時の所定の負荷荷重を加えた状態で、芯線に通電させて低温熱処理を施したほうが引張破断強度の高い芯線を得る点で、望ましい。
【0034】
そして、補足すれば、電気抵抗加熱の低温熱処理条件として380℃〜495℃の温度範囲としたのは、後述するオーステナイト系ステンレス鋼線の強加工伸線による温度の引張強度特性(図8)と後述する捻回加工した芯線2の曲げ試験後の曲げ変形残留角度(図6)を考慮した為であり、低温加熱時間を30秒から60分以内としたのは、30秒を下回れば引張強度特性向上効果は少なく、又60分を超えれば一定値となり、若しくは、顕著な前記向上効果は得られないからである。
【0035】
次に、表3は前記実施例3、4、5に対して、一定条件による捻回加工後の状態で前記同様芯線に電気抵抗加熱による低温熱処理を行い、その後温度範囲を400℃〜495℃で10分から180分の、熱処理炉等を用いた雰囲気加熱による二次低温熱処理(本実施例では450℃、120分)を行ない、芯線2の先端部21の研削加工後は、前記実施例1〜5と同様である。そして、その表3をグラフ化したものが図3である。尚、表3のうち実施例6、7、8は前記実施例3、4、5にそれぞれ対応する。
【0036】
【表3】

【0037】
表3によると最終伸線(本実施例では二次伸線)前までの低温処理による引張破断強度の増加率は、前記実施例3〜5と同様であり、そして最終伸線後の各低温熱処理の引張破断強度の増加率の合計(2)+(3)+(4)は、実施例6、7、8でそれぞれ6.4%、9.16%、9.1%となって前記伸線工程を含む各低温熱処理の引張破断強度の増加率の合計(1)+(2)+(3)+(4)は、実施例6、7、8でそれぞれ18.9%、22.5%、21.7%となり、本実施例の中でいずれも高い値となる。
この理由は、芯線2の長軸方向へ強加工伸線した芯線2に負荷荷重を加えた状態で長軸傾斜方向へ冷間状態(室温)での強加工の捻回加工を加えることにより結晶粒の微細化をより促進させて機械的強度をさらに増大させ、その後その状態のまま(芯線に負荷荷重を加えた状態)芯線に通電して電気抵抗加熱による低温熱処理により、加工による残留応力を除去して、芯線2の表層部と内層部の硬度分布等の不均質性を一定限度に均質化によるもの、と考えることができ、そしてさらに後述するオーステナイト系ステンレス鋼線の強加工伸線による温度の引張破断強度特性を把握して、好適な温度と時間を加えることにより、芯線2の表層部と内層部の硬度差等の不均質を極めて少なくして、より均質化させ、そして局部的に発生した残留応力の除去によるもの、と考えることができる。尚、補足すれば、電気抵抗加熱の低温熱処理条件として温度範囲が380℃〜495℃で30秒から60分としたのは、前記実施例3、4、5と同様の理由による。
【0038】
次に図4は、図2と図3を合成させた図である。これから捻回加工後の状態で芯線に電気抵抗加熱による低温熱処理を施したほうが、捻回加工をしないものに低温熱処理を施したものと比較して、引張破断強度の増加率が高く、又総減面率94%近傍を境にして、引張破断強度の急激な増加傾向がみられる。
【0039】
次に表4、5は、表1、2、3のうち最終熱処理である低温熱処理(385℃、30分)後に、芯線2の先端部21の研削加工部分を板幅0.094mm、板厚0.030mmの偏平状の矩形断面形状に押圧加工した後に、前記芯線2の先端部21にコイル体3を装着後、コイル体3の外周部にポリウレタン、ポリアミド等熱可塑性樹脂を用いて押出成形、デッピング工法、樹脂収縮チューブ等の樹脂被膜成形の際に、コイル体3の外周部又はコイル体3の外周部と手元部22に180℃〜300℃で10秒から60分の樹脂被膜成形機の加熱利用、又は樹脂収縮チューブ加熱機の加熱利用による先端部21と手元部22へ低温熱処理、例えばポリウレタンであれば、200℃、5分の低温熱処理を加えたときの引張強度特性を示したものである。尚、表4のうち実施例9、10、11は前記実施例1、2、6に、又表5のうち実施例12、13は前記実施例7、8にそれぞれ対応し、この各実施例の芯線2に押圧加工を行い、低温熱処理(200℃、5分)を加えたものである。
【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
表4、5によると、芯線2の押圧加工後にコイル体3の外周部の樹脂被膜成形時の熱を利用して、一定温度範囲の低温熱処理(本実施例では200℃、5分)を施したものの引張破断強度の増加率は、実施例9、10、11でそれぞれ1.2%、1.1%、1.0%又実施例12、13では、共に0.6%増大させることができる。そして、押圧加工部位での芯線2の矩形断面積で換算すると、実施例9〜11で約6.6gf上昇し、又実施例12、13で約4.4gf上昇させることができる。このことは、芯線2と先導栓5の引張破断力が250gf近傍であること、この芯線2と先導栓5の接合部位は、狭窄病変部内で術者による手操作で繰り返し曲げ耐久性が要求され、この繰り返し曲げ耐久回数は応力の関数(S−N線図)で表わされることとを併せ考えれば、少しの増加率であっても耐久性向上に寄与することができ、そして又、本発明の実施例では、雰囲気加熱による熱処理炉を用いなくても、樹脂被膜成形、又は樹脂収縮チューブの加熱利用により必要な箇所に部分的に引張破断強度を向上させる、新たな技術思想を開示するものである。
【0043】
そしてコイル体3の外周部の樹脂被膜6の成形時の熱を利用しても引張破断強度を向上させることができるのは、芯線2の先端部21の押圧加工した矩形断面形状は前述のとおり、例えば板幅0.094mm、板厚0.030mmの矩形断面の極細線形状であり、押圧加工による局部的に集中した応力の、より平均化によるもの、と考えることができる。又芯線2の先端部21は、樹脂被膜6により密閉状態となっていて放熱しにくく、かつ、芯線先端部21は細線で、かつその先端部は偏平状の極細線であって熱影響を受けやすく(熱容量小)、かつオーステナイト系ステンレス鋼線は熱伝導率が低く、冷めにくい材料であるからである。
そして温度範囲を180℃〜300℃の温度範囲としたのは、後述するオーステナイト系ステンレス鋼線の温度による引張強度特性(図8)と、樹脂被膜成形時の合成樹脂の溶融温度、又オーステナイト系ステンレス鋼線の熱伝導性、及び樹脂被膜成形による密閉状態での保温効果を併せ考慮したからである。又、加熱時間を10秒から60分以内としたのは、10秒を下回れば引張強度向上効果は得られず、又この範囲の上限を上回れば顕著な効果は期待できず、生産性を考慮したからである。尚、この加熱時間は、樹脂被膜成形加工と成形加工後の保温効果を有する時間も含まれる。
【0044】
次に、表4、5によると、芯線2の総減面率を90%から97.6%として、前記研削加工等の機械的加工後に、前記低温熱処理をすることにより芯線2の引張破断強度を260kgf/mm2 以上とし、製品の安定した品質を考慮すると250kgf/mm2 以上とすることができ、又芯線2の総減面率を96%から97.6%として、前記同様機械的加工後に、前記低温熱処理をすることにより芯線2の引張破断強度を300kgf/mm2 以上とすることができ、高い引張強度特性を示す医療用ガイドワイヤを得ることができる。尚、本発明は高強度の芯線の為、芯線先端部に押圧加工を施す場合には、ひび割れ、欠損等の発生を抑える為、引張破断強度は400kgf/mm2 以下が好ましい。
【0045】
次に、芯線2の引張破断強度と曲げ残留角度について、以下に述べる。
【0046】
図5は、実施例6に対して、芯線2の捻回回数を変化させたときの引張破断強度(図5(イ))と、前記捻回後に低温熱処理(450℃、120分)を加えたときの引張破断強度(図5(ロ))を試料数各50個のバラツキを含めて示したものであり、又図6は、前記図5と同様に芯線2の捻回回数を変化させたときの曲げ試験後の曲げ残留角度(図6(イ))と前記捻回後に低温熱処理(450℃、120分)を加えたときの曲げ試験後の曲げ残留角度(図6(ロ))を示したものである。尚、ここでいう曲げ試験後での曲げ残留角度とは、芯線2を外径15mmの丸棒に180度曲げ、500gの負荷を20秒間保持した後、負荷を解除して芯線2の長軸方向に対する残留角度、つまり塑性変形した傾斜角度のことをいう。
【0047】
図5、6によると引張破断強度は、捻回数が100回/mから250回/mの間ではその変動幅は比較的小さく、この範囲を逸脱すると変動幅が大きくなり、つまり安定した品質を得ることはできなくなる。又、曲げ残留角度は、捻回数が100回/mから250回/mの間で小さく、この範囲を逸脱すると変動幅が大きくなる。この理由は、100回/mを下回ると捻回数が不足して芯線2の長軸方向に不均質な部分が残留していて、又250回/m〜300回/mを超えると逆に、芯線の長軸方向に概ね45度の傾きをなす滑り線(リューダース線)が発生する過捻回状態となって局部的に過捻回による不均質部分が散在発生する、と考えられるからである。従って、本発明の捻回は、前記滑り線が発生するような過捻回を意味するものではない。
そして100回/mから200回/mの間で曲げ残留角度は最も小さくなって安定し、より好ましくは、120回/mから180回/mであり、さらに好ましくはこの捻回数の10%から30%、そして最も好ましくは、20%逆捻回させることが望ましい。
具体的には、例えば120回/m一方向へ捻回後、逆方向へ12回/mから36回/m、最も好ましくは24回/m逆方向へ捻回加工を行なう。これが望ましい理由は、一方向へ強加工捻回後の逆捻回により強加工捻回の捻り方向の応力を、逆捻回させて一時的に開放することにより低温熱処理効果を高め、より直線性の高い芯線2を得ることができる、と考えられるからである。
【0048】
そして図7は、芯線2に捻回加工と電気抵抗加熱を行なう装置図である。芯線2が巻かれたボビン13から送りローラー14Aを介して保温ケース16内へ芯線2を通過させて、芯線2を回転チャック9と芯線2の長軸方向へ移動可能な固定チャック10で固定し、電流発生器8より通電可能状態にしてウエイト12を負荷した状態で移動可能な固定チャック10で芯線2を固定したまま回転チャック9にて芯線2を所定量一方向、又は逆方向へ捻回させる。具体的には、芯線2の外径が0.340mmでチャック間9、10の固定スパン間(図示L)が4000mmのとき、ウエイト12を芯線2に負荷した状態で400回から800回一方向へ捻回加工を行なう。最も好ましくは、逆方向へ前記捻回数の20%、つまり80回から160回逆方向へ捻回を加える。
そしてその捻回後の状態のまま芯線2に電気抵抗加熱を行なった後、芯線2を回転チャック9と固定チャック10からの固定を開放して、そして送りローラー14A、14Bにて芯線2を図示左側へ送り出し、切断刃15にて切断し、以後これを繰り返して連続的に直線性の優れた芯線2を得ることができる。
【0049】
つまりこの工程は、ボビン13に巻かれた芯線2を送りローラー14A、14Bを介して電気抵抗加熱による保温ケース16内へ送り出す(図示左側)工程と、送り出した後芯線2を回転チャック9と固定チャック10で固定する工程と、ウエイト12を連結させた固定チャック10のストッパー17を解除して固定チャック10を長軸方向へ移動可能状態として芯線2に負荷荷重(ウエイト12)を加える工程と、固定チャック9により所定方向へ所定量芯線を捻回加工する工程と、一定温度に保つ保温ケース16内の芯線2に電流発生器8により電流を加えて通電する工程と、その後にストッパー17を作動させて固定チャック10の芯線2の固定を解除することによるウエイト12側への移動( 図示右側) を阻止する工程と、回転チャック9と固定チャック10の芯線2の固定を解除する工程と、送りローラー14A、14Bで芯線2を送り出す(図示左側)工程と、芯線2を所定量送り出した後、切断刃15にて芯線2を切断する工程から成り、捻回して電気抵抗加熱による低温熱処理した芯線2を連続して生産できる工程である。又、芯線2を予め、所定長に切断後各チャックで固定して、前記同様捻回加工を行い、その後電気抵抗加熱による低温熱処理を行なってもよい。
【0050】
そして、電気抵抗加熱による低温熱処理温度は、380℃〜495℃で加熱加工時間は30秒から60分(本実施例では450℃、5分)である。又ウエイト12は、最終伸線工程後の捻回加工前における芯線2の引張破断強度による芯線の引張破断力の5%から30%が望ましく、より好ましくは10%から25%で最も好ましくは20%である。
具体的には、実施例8のとき、線径が0.228mmで最終伸線工程(二次伸線)後の捻回加工前の引張破断強度が302kgf/mm2 であることから芯線の引張破断力は12.32kgf(π×0.228 ×302÷4)となり、このときウエイト12は2.46kgf(12.32×0.2)が最も望ましい。
そしてこの5%から30%の範囲を逸脱すると、ウエイト12が軽いときにはうねりが発生したり、又重いときには捻回中に断線が発生したりして直線性の優れた芯線2を得ることができず、又生産性を高めることはできない。つまり、芯線2の捻回加工前の引張破断強度による引張破断力に応じてウエイト12の重さを変化させることが重要である。尚、ここでいう引張破断力とは、芯線に引張力を加えて破断するときの最大荷重のことをいう。
以上述べたように、電気抵抗加熱と捻回加工条件は、電気抵抗加熱による低温熱処理条件として、380℃〜495℃で30秒から60分、そして捻回数は100回/mから250回/mで、好ましくは100回/mから200回/mで、より好ましくは120回/mから180回/mであり、さらに好ましくは、逆方向へ前記捻回数の10%から30%、そしてウエイト12は捻回加工前の引張破断強度による芯線の引張破断力の5%から30%が望ましく、最も好ましくは20%である。そして、この全ての条件を満たすことにより医療用ガイドワイヤとして要求される引張強度特性、直線性、回転伝達性等の品質を満足させることができる。
【0051】
次に、図8は実施例3、又は6の最終伸線工程後における芯線2に低温熱処理を加えた温度と引張強度特性を示した図で、線径1.5mmの固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を総減面率94.8%伸線加工した外径0.340mmの芯線2を外周研削加工して外径0.150mmとしたときの熱影響下(各温度30分加熱)での引張強度特性を示したものである。
これによると、180℃の熱影響により引張破断強度が上昇し始め、概ね450℃近傍で最高の引張破断強度を示し、495℃まで引張強度特性向上効果が顕著にみられ、そして500℃から520℃を超えると常温時(20℃)よりも急激に引張破断強度が低下する。
この引張破断強度が急激に低下する理由は、前述のように、この固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線は、500℃から850℃に加熱されると、カーボンの析出、クロムの移動の為のエネルギーを必要とし、鋭敏化現象を生じて、特にカーボンが0.08%以下の通常のSUS304のオーステナイト系ステンレス鋼線では、700℃4分から5分程度で、この鋭敏化現象が現れ、引張破断強度が極端に低下する。
【0052】
このことは熱影響を受け易い芯線2の先端部21の細線においては著しく顕著に現れる。例えば、図1(ハ)に示した芯線2の先端部21の円形断面形状23は、外径は線径0.060mmから0.150mm程度であり、これは外径が概ね0.340mmの伸線加工したオーステナイト系ステンレス鋼線を、芯なし研削機等により、前述した寸法まで外周研削加工を行う。
そしてこのときの引張破断強度が(図8)、例えば、常温で250kgf/mm2 の時、180℃の加熱により引張破断強度は266kgf/mm2 となって、約6.4%上昇し、450℃に至っては引張破断強度が290kgf/mm2 に向上して、約16%上昇して、芯線の先端部21の芯線2の外径が0.060mmのときの引張破断力の断面積換算では706gfが819gfとなって約113gf引張強度が上昇する。その後495℃においても引張破断強度は260kgf/mm2 となって常温時よりも約4%上昇している。
そして、500℃から520℃を超えると鋭敏化現象等により引張破断強度が低下し、600℃に至っての引張破断強度は210kgf/mm2 となって、前記同様この部位の断面積で引張破断力を換算すると約819gfが約593gfとなって大幅に引張強度が低下し、極めて低い引張力で先端部21の芯線2が破断することとなる。尚、図8の前記引張破断強度の常温での250kgf/mm2 の値は、伸線工程での総減面率の大小等により変動する値であり、又このときの温度と引張破断強度特性は前記と同様な傾向を示す。
【0053】
そして又、特に、接合部材4を用いる場合には、この熱影響による芯線2の引張強度特性等を考慮した接合部材4である共晶合金を用いないと、強加工による伸線加工で加工硬化させて引張強度特性を増大させた芯線2であるにも拘らず、芯線2とコイル体3との接合時の接合部材の溶融熱によって引張強度低下を招来させることとなり、そして術者の操作中に曲げ疲労により先導栓5と芯線2との接合部が破断して先導栓5が離脱する危険を生じさせる。
【0054】
このような引張強度特性を有する為、芯線2の低温熱処理温度範囲は180℃から495℃が望ましく、前記表1、2、3における最終伸線後の低温熱処理温度450℃は好適条件であり、又機械的加工後の、特にフッ素樹脂(PTFE)被膜成形熱を利用した385℃の低温熱処理においてもその効果は顕著であり、そして前記表4、5に見られるように芯線2に押圧加工後のコイル体3の外周部に樹脂被膜成形熱を利用した200℃の低温熱処理においても、引張破断強度を向上させることができる。(図8)
このように本発明は、強加工伸線して総減面率の高いオーステナイト系ステンレス鋼線の温度による引張強度特性に着目して伸線加工後に好適な低温熱処理を行い、そして一定温度範囲に制御した状態での樹脂被膜成形時の熱を利用し、さらに保温性、熱伝導性、構造、材質とを併せ考慮して芯線2の引張強度特性を大幅に向上できる、新たな技術思想を提供するものである。
【0055】
そして次に、前述したような引張強度特性を有する為の芯線の伸線加工方法について実施例6を用いて、以下説明する。
【0056】
前述したように、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて図8に示すような高強度の引張強度特性を有する芯線2を得る為には、単純に総減面率94.8%の伸線加工のみによって得られるものではない。例えば実施例3、6では、線径1.5mmの固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を、各ダイスの減面率が4%から20%複数のダイス(10〜20個)を用いて連続伸線加工により線径0.5mmまで一次伸線加工(減面率88.9%)を行い、その後低温熱処理(420℃、75分)を行い、さらに一次伸線加工と同様一定の減面率を有する複数のダイス(5〜8個)を用いて連続伸線加工により線径0.340mmまで二次伸線加工(減面率53.8%)を行い、総減面率94.8%とすることにより所望の引張強度特性を有する芯線2、及びその先端部21を得ることができる。このとき、一次伸線加工の減面率は、二次伸線加工の減面率よりも高い減面率とするほうが結晶粒径を小さくさせ、又経済性、生産性向上等の観点からより望ましい。
補足すれば、ダイス材質は本実施例のような高強度材料の伸線の場合には、合金ダイスよりも耐磨耗性に優れるダイヤモンドダイスが望ましい。
【0057】
そして、最終伸線工程において、減面率が4%から20%複数のダイス(5個〜8個)を用いて、かつ複数のダイス(5個〜8個)のうち最終ダイスの減面率を4%から13%として最終伸線工程内で最も小さい減面率を有するダイス配列とすることにより、最終伸線工程での断線を防ぐことができ、生産性が高く、又安定した品質の芯線を得ることができる。又、本実施例のオーステナイト系ステンレス鋼線の化学成分は、重量%でC:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、Ni:6%〜16%、Cr:16%〜20%、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Mo:3%以下、残部鉄及び不可避的不純物から成る。このように高珪素ステンレス鋼(Si:3.0%〜5.0%)を用いなくても前記工程を用いることにより、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼線の芯線2を得ることができる。代表的にはSUS304、SUS316材である。
【0058】
そして次に、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を伸線加工して低温熱処理を加えたときの引張強度特性が図8に示す特性を有することから低温熱処理効果を高める別に方法について、以下説明する。
【0059】
図8に示すように、低温熱処理温度が180℃から495℃で引張破断強度の向上効果が得られることから、芯線2とコイル体3とを部分的に接合する接合部材41、42、43又は先導栓5が、180℃から495℃の溶融温度を持つ共晶合金を用いることによっても引張破断強度を向上させることができる。具体的には、接合部材41、42は幅約0.3mmから1.5mm程度で外径が0.228mmから0.340mm程度のドーナツ状の略円板形状であり、又後端接合部材43は、前記放射線透過コイル材32と線径0.200mmから0.340mm程度の芯線2との接合で、その接合形状は、幅約0.3mmから3mm程度で外径が0.228mm程から0.340mm程度の円板状、又は手元側が先細りの略円錐形状である。尚、ここでいう接合部材4を用いて部分的に接合するとは、前記例で各接合部材41〜43及び先導栓5の接合形態のことをいう。
【0060】
そしてここでいう接合部材4に用いる共晶合金とは、合金の成分比を変更することにより得られる最低融点(溶融温度)を有する特殊な合金のことをいい、具体的には、金又は銀を含む合金材で金錫系合金材として金80重量%、残部が錫で溶融温度が280℃、又銀錫系合金として銀3.5重量%、残部が錫で溶融温度が221℃、そして、金88重量%、残部がゲルマニウムで溶融温度が356℃、又銀と錫とインジウムから成り溶融温度が450℃から472℃の共晶合金であり、その代表例を表6に示す。
【0061】
【表6】

【0062】
そして、例えば、図10に示すように先導栓5の先端から50mm(図示A寸法)に位置する中間接合部材411と中間接合部材412、413との各間隔を10mm(図示B寸法)として前記同様の中間接合部材を10個配置して中間接合部材間の全長を90mmとすることにより、部分的に接合する接合部材を用いても芯線2の長尺位置(図示90mm)にわたって低温熱処理を施すことができ、芯線2の引張強度特性を高めることができる。
この方法によれば、全体加熱する雰囲気加熱による熱処理炉を用いなくても、部分的に一定の狭い範囲であっても必要部位の芯線2の引張強度を向上させることができる。そしてさらに、この構造体では、等間隔の中間接合部材411、412、413の配置とすることにより、狭窄病変長の計測が可能となる効果を併せもつことができる。尚、中間接合部材の位置、及びその範囲を前記寸法としたのは、この範囲であれば、一般的に冠状動脈に多く見られる狭窄病変位置に該当するからである。
そして補足すれば、先導栓5に共晶合金である接合部材4を用いることにより、先導栓5と芯線2の接合部での芯線2の引張破断強度を向上させることができ、その結果狭窄病変内で前記接合部での耐屈曲疲労特性を向上させることができる。尚、補足すれば、この接合工程は先端部21の機械的加工の研削工程の後の低温熱処理(385℃、30分)後に、先端部21の外周部にコイル体3を装着し、その後接合部材4を用いて接合部材41〜43、411、412、413の接合、及び先導栓5を接合する。その後コイル体3の外周部に樹脂被膜を施す工程となる。
【0063】
次に、本発明の芯線2をもつ医療用ガイドワイヤを用いることにより、芯線2の引張強度特性向上作用を利用して、芯線2を細径化することが可能となる。例えば、医療用ガイドワイヤ1の手元部22の外径が0.355mmから0.254mm(0.014インチから0.010インチ)へ、さらに樹脂被膜6の成形熱、コイル体3内の樹脂被膜密閉状態での成形余熱を利用して、先端部21の芯線2の引張強度特性を向上させることができ、その結果、芯線2の外径が0.228mm(0.009インチ)へ細径化できる。
そして、医療用ガイドワイヤをマイクロカテーテル内へ挿入し、かつ、ガイディングカテーテル内へ前記ガイドワイヤとマイクロカテーテルとを挿入する。かかる場合において、医療用ガイドワイヤ1の細径化に追従してガイディングカテーテルは7F〜8Fから5F〜6F(内径2.3mm〜2.7mmから内径1.59mm〜2.00mm)となり、この中に挿入するマイクロカテーテル(内径0.28mmから0.90mm)とともに細径化することができる。これにより低侵襲化の要請に応えることができ、又患者負担軽減に寄与することができる。尚補足すれば、前記マイクロカテーテルは、医療用ガイドワイヤとともに狭窄病変端まで導入して、医療用ガイドワイヤの前方へ押す力の反力を、前記マイクロカテーテルで支えることにより、医療用ガイドワイヤの前方への推進力を発揮させることができる。又、前記マイクロカテーテルは、多層樹脂管体、多層樹脂管体内に金属線の編組を介在させた構造の他、先端部に略円錐状の金属製チップが固着されて、複数の金属細線を多条コイル体に成形した螺旋状管体から成り、狭窄病変内の穿孔可能とした前記螺旋状管体も含まれる。
【0064】
そして次に、前記同様本発明の芯線2をもつ医療用ガイドワイヤを用いることにより、例えば、医療用ガイドワイヤ1の手元部22の外径が0.355mmから0.254mm(0.0014インチから0.010インチ)へ、さらに0.228mm(0.009インチ)へ細径化でき、そして、医療用ガイドワイヤをバルーンカテーテル内へ挿入し、かつ、ガイディングカテーテル内へ前記ガイドワイヤとバルーンカテーテルとを挿入する。かかる場合において、医療用ガイドワイヤ1の細径化に追従してガイディングカテーテルは7F〜8Fから5F〜6F(内径2.3mm〜2.7mmから内径1.59mm〜2.00mm)となり、この中へ挿入するバルーンカテーテル(内径0.28mmから0.90mm)とともに細径化することができる。これにより低侵襲化の要請に応えることができ、又患者負担軽減に寄与することができる。尚補足すれば、前記ガイディングカテーテル内へ医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとを一組として二組挿入してキッシング手技を容易に行なうことができる。ここでいうキッシング手技とは、ガイディングカテーテル内へ二組の医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとを挿入して分岐病変部にて、バルーンカテーテルのバルーン部を同時拡張させ、分岐病変部の分岐箇所の狭窄病変部を同時拡張させる手技のことをいう。
【0065】
[発明の効果]
以上説明のとおり、本発明の医療用ガイドワイヤ、及びその製造方法は伸線限界に近い強加工の伸線加工を行なったオーステナイト系ステンレス鋼線の温度による引張強度特性に着目して、好適な伸線加工と一定温度範囲の低温熱処理を繰り返しながら、そして医療用ガイドワイヤとしての直線性、回転伝達性を得る為の捻回加工と低温熱処理を行い、さらに機械的加工後に一定温度範囲の低温熱処理を加えることにより、医療用ガイドワイヤとしての特有の各加工工程毎に芯線の引張強度向上効果を累積することにより、高度の引張強度特性を有する医療用ガイドワイヤとその製造方法を提供するものである。
【0066】
そしてさらに、芯線2の先端部21の機械的加工後の手元部22の比較的高温での外周部樹脂被膜成形の乾燥・焼成加熱の利用、及び芯線2の先端部21の研削加工後、及び押圧加工後のコイル体3の外周部に樹脂被膜成形温度による加熱と、強加工芯線の温度による引張強度特性との相関性に着目して、一定温度範囲に制御した低温熱処理を加えることにより芯線2を全体的に、又は部分的であっても引張強度特性等向上させる新たな技術思想を提供するものである。
これにより医療用ガイドワイヤの先端部が極細線でありながら機械的強度特性を、より向上させ、又品質安定を図ることができる。以上の諸効果がある。
【符号の説明】
【0067】
1 ガイドワイヤ(医療用ガイドワイヤ) 5 先導栓
2 芯線 6 樹脂被膜
21 先端部(芯線) 7 親水性被膜
3 コイルスプリング体(コイル体) 8 電流発生器
31 放射線不透過材コイル 9 回転チャック
32 放射線透過材コイル 10 固定チャック
4 接合部材 11 移動ローラー
41 中間前側接合部材 12 ウエイト
42 中間後側接合部材 13 ボビン
43 後端接合部材 14A 送りローラー
14B 送りローラー
15 切断刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体との先端端部に接合部材を用いて先導栓を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線が固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と前記伸線工程後に400℃〜495℃の低温熱処理工程を設けて、
前記伸線工程と前記低温熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から97.6%とし、
前記最終伸線工程までの低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
前記最終伸線工後に380℃〜495℃の低温熱処理と、
前記芯線先端部に研削加工、又は押圧加工の機械的加工をした後に、少なくとも前記機械的加工部分に180℃〜420℃の低温熱処理を加え、
前記最終伸線工程後の各低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が2%以上とし、
前記各低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上であることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体との先端端部に接合部材を用いて先導栓を形成して、少なくとも前記芯線手元部の外周部に樹脂被膜を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線が固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と前記伸線工程後に400℃〜495℃の低温熱処理工程を設けて、
前記伸線工程と前記低温熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から97.6%とし、
前記最終伸線工程までの低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
前記最終伸線工程後に、芯線に所定量の捻回加工を行ない、その後前記芯線に電気抵抗加熱による380℃〜495℃の低温熱処理加工を行い、
その後前記芯線先端部に研削加工、又は押圧加工の機械的加工をした後に、前記芯線外周部に樹脂被膜成形の熱を利用して340℃〜420℃の低温熱処理を行い、
前記最終伸線工程後の各低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が2%以上とし、
前記各低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上であることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項2記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線先端部の機械的加工後、前記芯線の外周部の樹脂被膜成形前に400℃〜495℃の低温熱処理工程を設けて、
引張破断強度を前記芯線の機械的加工後の引張破断強度に対して増大させ、
前記各低温熱処理による引張破断強度の増加率の合計が11.5%以上であることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の芯線を用いて、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体との先端端部に接合部材を用いて先導栓を形成し、少なくとも前記コイルスプリング体の外周部に樹脂被膜を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線先端部の研削加工した部分の低温熱処理後に、押圧加工を行い、
少なくとも押圧加工した部分に前記先端部コイルスプリング体外周部の樹脂被膜成形熱を利用して180℃〜300℃の低温熱処理を行い、
少なくとも前記芯線先端部の研削加工部分、又は押圧加工部分の引張破断強度を、前記樹脂被膜成形の低温熱処理前の引張破断強度に対して増大させたことを特徴とする医療ガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線の最終伸線加工までの総減面率を94%から97.6%としたことを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体との先端端部に接合部材を用いて先導栓を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線が固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と前記伸線工程後に400℃〜495℃で10分から180分の低温熱処理工程を設けて、
前記伸線工程と前記低温熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から97.6%とし、
前記芯線の一端に捻回加工前の芯線の引張破断力の5%から30%の負荷荷重を加えた状態で、他端を100回/mから250回/mの捻回加工工程を設け、
その後前記芯線に電気抵抗加熱による380℃〜495℃で30秒から60分の低温熱処理工程と、
前記芯線先端部を研削加工、又は研削加工後に押圧加工する工程と、
前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿してコイルスプリング体を装着する工程と、
前記接合部材を用いて前記芯線と前記コイルスプリング体とを部分的に接合させる工程と、
前記接合部材を用いて前記芯線と前記コイルスプリング体の端部とを接合させた先導栓を形成する工程から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項7】
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体との先端端部に接合部材を用いて先導栓を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線が固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、
伸線工程と前記伸線工程後に400℃〜495℃で10分から180分の低温熱処理工程を設けて
前記伸線工程と前記低温熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から97.6%とし、
前記芯線の一端に捻回加工前の芯線の引張破断力の5%から30%の負荷荷重を加えた状態で、他端を100回/mから250回/mの捻回加工工程を設け、
その後前記芯線に電気抵抗加熱による380℃〜495℃で30秒から60分の低温熱処理工程と、
その後400℃〜495℃で10分から180分の低温熱処理工程を設けて、
その後前記芯線先端部を研削加工、又は研削加工後に押圧加工する工程と、
前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿してコイルスプリング体を装着する工程と、
前記接合部材を用いて前記芯線と前記コイルスプリング体とを部分的に接合させる工程と、
前記接合部材を用いて前記芯線と前記コイルスプリング体の端部とを接合させた先導栓を形成する工程から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項8】
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体との先端端部に接合部材を用いて先導栓を形成して、少なくとも前記芯線手元部の外周部に樹脂被膜を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線が固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と前記伸線工程後に400℃〜495℃で10分から180分の低温熱処理工程を設けて、
前記伸線工程と前記低温熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から97.6%とし、
前記芯線の一端に捻回加工前の芯線の引張破断力の5%から30%の負荷荷重を加えた状態で、他端を100回/mから250回/mの捻回加工工程を設け、
その後前記芯線に電気抵抗加熱による380℃〜495℃で30秒から60分の低温熱処理工程と、
前記芯線先端部を研削加工、又は研削加工後に押圧加工する工程と、
前記芯線の少なくとも手元部に樹脂被膜を成形する工程と、
その後少なくとも前記芯線先端部を研削加工、又は研削加工後の押圧加工部分に340℃〜420℃で10分から180分の低温熱処理工程を設け、
前記芯線を貫挿してコイルスプリング体を装着する工程と、
前記接合部材を用いて前記芯線と前記コイルスプリング体とを部分的に接合させる工程と、
前記接合部材を用いて前記芯線と前記コイルスプリング体の端部とを接合させた先導栓を形成する工程から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記芯線の他端の捻回数が100回/mから200回/mの捻回加工工程としたことを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記接合部材を用いて前記芯線と前記コイルスプリング体とを接合させた後に、
前記コイルスプリング体外周部に樹脂被膜を成形し、その樹脂被膜成形時の熱を利用して、少なくとも前記コイルスプリング体内の前記芯線先端部に180℃〜300℃で10分から60分の低温熱処理工程を設けたことを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記芯線の伸線工程が、一次伸線から最終伸線前の各伸線工程における減面率が4%から20%の複数のダイスを用いて連続伸線し、
最終伸線工程において減面率が4%から20%の複数のダイスを用いて連続伸線し、かつ、最終ダイスは減面率が4%から13%で、最終伸線工程内で最も減面率を小とするダイスの配列とした伸線工程の芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項12】
前記接合部材が180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項13】
前記接合部材が180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成ることを特徴とする請求項6〜11のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜5、12のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤと、マイクロカテーテルと、ガイディングカテーテルとの組立体において、
前記医療用ガイドワイヤの外径が0.228mmから0.254mm(0.009インチから0.010インチ)で、前記医療用ガイドワイヤを内径が0.28mmから0.90mmのマイクロカテーテル内へ挿入し、かつ、内径が1.59mmから2.00mmの前記ガイディングカテーテル内へ前記医療用ガイドワイヤと前記マイクロカテーテルが挿入されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体。
【請求項15】
請求項1〜5、12のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤと、バルーンカテーテルと、ガイディングカテーテルとの組立体において、
前記医療用ガイドワイヤの外径が0.228mmから0.254mm(0.009インチから0.010インチ)で、前記医療用ガイドワイヤを内径が0.28mmから0.90mmの前記バルーンカテーテル内へ挿入し、かつ、内径が1.59mmから2.00mmの前記ガイディングカテーテル内へ、前記医療用ガイドワイヤと前記バルーンカテーテルが挿入されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−41612(P2011−41612A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190470(P2009−190470)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(309023704)株式会社パテントストラ (16)
【Fターム(参考)】