説明

医療用ガイドワイヤ

【課題】先端部が形態順応性に優れ、先端部に引き続く基端部がトルク伝達性に優れ、先端部と基端部の接合強度が高い医療用ガイドワイヤを提供すること。
【解決手段】形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材11と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材12とを有し、先端側部材11の基端側端面11aと基端側部材12の先端側端面12aとを接合端面として両部材を接合する。先端側部材と基端側部材の各接合端面11a、12aの間にはロウ材が浸入可能な隙間14が設けられ、先端側部材11と基端側部材12の接合部15の外周面を覆う接続部材16と同接合部15の外周面との間にはロウ材が浸入可能な隙間17が設けられ、上記隙間14と17にロウ材13が充填されて先端側部材11と基端側部材12とが接合され、上記接続部材16は接合部15の外周ならびに接合部15に引き続く先端側部材11の一部の外周を覆っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療や検査を必要とする血管、消化管、気管、その他体腔(以下「要治療管」という)内に導入される細い管状のカテーテルを案内するのに用いられる医療用ガイドワイヤ(以下「ガイドワイヤ」ともいう)に関し、特に、先端部と基端部とを性能の異なる金属線材で構成した医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
治療や検査を必要とする人体の要治療管内にカテーテルを導入する際には、カテーテルの導入に先だって医療用ガイドワイヤを所要部位まで導入している。医療用ガイドワイヤとして重要な性能は、手元操作によって要治療管内にスムーズに挿入できて、カテーテルを目的部位に正確に案内導入できることである。このため、医療用ガイドワイヤには、その先端部が複雑に蛇行する要治療管内に対応し、且つ要治療管の内壁を傷つけることなく挿入し得る形態順応性を備えるとともに、先端部に続く基端部が手元での微妙な操作量でも先端部に正確にトルクを伝達するトルク伝達性を備えていることが要求される。
【0003】
医療用ガイドワイヤの構造は用途に応じて各種のものがあるが、例えば、図7に示すように、所定長さの芯材50の周囲を合成樹脂51で被覆したものが知られている。芯材50には、ガイドワイヤとしての挿入部分に柔軟性を付与するため、先端部52は先端に向かって次第に断面積が減少する先細状に形成されている。
【0004】
上記芯材には、ステンレス鋼線またはピアノ線が従来から用いられている。しかし、この種の芯材を用いたガイドワイヤは、先端部分を先細形状にしても柔軟性に欠け、複雑に蛇行する分岐血管等に対しては適用し難いという問題があった。
【0005】
そこで、芯材として、超弾性合金であるNi−Ti系合金などを用いたガイドワイヤが提案されている。超弾性合金からなる芯材は、柔軟でかなりの範囲までの変形(約8%の歪み)に対しても復元性を有するため、手元操作中、折れ曲がりが生じ難く、且つ曲がりぐせがつきにくいなどの利点を有しているが、芯材が超弾性の単一材料からなるため、全体として形態順応性を充分に備えているが、伝達可能トルク及びねじり剛性がステンレス鋼線またはピアノ線に比較して劣るため、基端部のトルク伝達性に難点がある。
【0006】
このように、ガイドワイヤとして必要とされる形態順応性とトルク伝達性を一種類の材料で満たすことは困難である。そこで、図8に示すように、特許文献1には、ガイドワイヤの先端側部材と基端側部材を異なる材料で構成し、形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材とトルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを接合して1本のガイドワイヤとすることが提案されている。
【0007】
図8に示す従来のガイドワイヤ1は、材料の異なる第1ワイヤ2(先端側部材)と第2ワイヤ3(基端側部材)とからなり、第1ワイヤ2の細径部4に形成された第一切欠部5と第2ワイヤ3の細径部6に形成された第2切欠部7とが互いに重なり合った状態に配置され、この重なり合った部分の外周を覆うように管状接続部材8が設けられ、第1ワイヤ2の細径部4および第2ワイヤ3の細径部6の外周面と管状接続部材8の内周面との間の隙間にはロウ材9が充填されて第1ワイヤ2と第2ワイヤ3が接合されている。
【特許文献1】特開2004−16359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8に示すガイドワイヤのように、先端側(挿入側)と基端側(操作側)を異なる部材で構成し、形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを接合して1本のガイドワイヤとすると、形態順応性とトルク伝達性を備えたガイドワイヤを得ることは可能である。しかし、このようにガイドワイヤを2種類の部材で接合した構成とする場合、図8に示すガイドワイヤ1では、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3が、接合部の外周に配置した管状接続部材8の内周面と第1ワイヤ2および第2ワイヤ3の各外周面との間の隙間に充填されたロウ材9だけで接合される構成であるため、管状接続部材8の長さが短いと、接合強度が不足する。そのため、所定の接合強度を確保するために管状接続部材8の長さを長くする必要があるが、管状接続部材8の長さを長くすると、ロウ材9を隙間に充填する際の加熱時間が長くなり、その結果、管状接続部材8の両側で第1ワイヤ2と第2ワイヤ3が熱の影響を受けてその金属特性が変化してしまい、ガイドワイヤの形態順応性およびトルク伝達性が損なわれてしまう恐れがある。
【0009】
また、近年の医療技術の急速な進歩に伴って、複雑な分岐血管に対しても適用できるようにするため、医療用ガイドワイヤには、先端部の形態順応性と基端部のトルク伝達性を、より一層向上することが求められている。そして、ガイドワイヤ先端部は、より一層細径化することが要望されており、細径化が進むことで取り扱いが煩雑になり、全体の組立作業が困難になる。その結果、先端部と基端部との充分な接合強度を得ることが難しくなったり、製品間における接合強度のバラツキが大きくなることがある。
【0010】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、先端部が形態順応性に優れ、先端部に引き続く基端部がトルク伝達性に優れ、先端部と基端部の接合強度が高い医療用ガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の医療用ガイドワイヤは、形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを有し、先端側部材の基端側端面と基端側部材の先端側端面とを接合端面として両部材を接合してなる医療用ガイドワイヤにおいて、先端側部材と基端側部材の接合端面の間にはロウ材が浸入可能な隙間が設けられ、先端側部材と基端側部材の接合部外周面を覆う接続部材と同接合部外周面との間にはロウ材が浸入可能な隙間が設けられ、上記隙間にロウ材が充填されて先端側部材と基端側部材とが接合され、上記接続部材は接合部外周ならびに接合部に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っていることを特徴としている。
【0012】
このように、先端側部材と基端側部材の接合端面の間にはロウ材が浸入可能な隙間(第1の隙間)を設けるとともに、先端側部材と基端側部材の接合部外周面を覆う接続部材と同接合部外周面との間にはロウ材が浸入可能な隙間(第2の隙間)を設け、第1の隙間と第2の隙間にロウ材を充填して先端側部材と基端側部材とを接合するようにしたので、ロウ材が先端側部材と基端側部材の接合部外周面と接続部材内周面との間の間隙(第2の隙間)だけでなく、先端側部材と基端側部材の接合端面の間の間隙(第1の隙間)にも充填されて、先端側部材および基端側部材が端面同士ならびに接続部材内周面との間でロウ接合され、接続部材内の先端側部材と基端側部材の全面が接合部となるので、先端部と基端部の接合強度が高い医療用ガイドワイヤを提供することができる。
【0013】
さらに、接続部材は接合部外周ならびに接合部に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っているので、手元での微妙な操作を正確に先端部に伝達することが可能になる。すなわち、先端側部材は形態順応性の良好な金属線材から形成されているので、基端側部材に比べてやや剛性が低い。そのため、基端側部材の操作に対応して先端側部材を要治療管内にスムーズに挿入できないことがある。しかし、接続部材は接合部外周ならびに接合部に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っているので、基端側部材から先端側部材に至る剛性の変化が滑らかになり、基端部での手元操作を正確に先端部に伝達し、柔軟で形態順応性に優れた先端部を随意に要治療管内に挿入することが可能になる。
【0014】
接合端面が先端側部材および基端側部材の軸線に対して傾斜した傾斜面であることが好ましい。先端側部材および基端側部材の各接合端面の面積を増大させることができ、接合強度を向上することができるからである。
【0015】
接合端面および接合部外周面には、ロウ材の充填前に予めNiメッキが施されていることが好ましい。ロウ材による接合面の密着強度を向上することができるからである。
【0016】
また、形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを有し、先端側部材の基端側端面と基端側部材の先端側端面とを接合端面として両部材を接合してなる医療用ガイドワイヤにおいて、先端側部材と基端側部材の接合端面には芯材を挿入可能な長孔を先端側部材および基端側部材の軸線方向に設けるともに、先端側部材と基端側部材の接合端面の間にはロウ材が浸入可能な隙間を設け、上記長孔に芯材を挿入し、上記接合端面にロウ材を充填して先端側部材と基端側部材とを接合することが好ましい。ロウ材が先端側部材と基端側部材の接合端面の間の間隙だけでなく、芯材と先端側部材および基端側部材との隙間にも充填されて、先端側部材および基端側部材が端面同士ならびに芯材の外周面との間でロウ接合され、先端側部材と基端側部材の接合面積を大きくすることができるので、先端部と基端部の接合強度が高い医療用ガイドワイヤを提供することができる。しかも、接合部外周を覆う接続部材のような突起物がないので、柔軟で形態順応性に優れた先端部をよりスムーズに要治療管内に挿入することが可能である。
【0017】
接合端面および長孔内面には、ロウ材の充填前に予めNiメッキが施されていることが好ましい。ロウ材による接合面の密着強度を向上することができるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医療用ガイドワイヤは上記のように構成されているので、次の効果を奏する。
(1)請求項1記載の発明によれば、接続部材内の先端側部材と基端側部材の全面が接合部となるので、先端部と基端部の接合強度が高い医療用ガイドワイヤを提供することができるとともに、接続部材は接合部外周ならびに接合部に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っているので、基端側部材から先端側部材に至る剛性の変化が滑らかになり、基端部での手元操作を正確に先端部に伝達し、柔軟で形態順応性に優れた先端部を随意に要治療管内に挿入することができる。
(2)請求項2記載の発明によれば、先端側部材および基端側部材の各接合端面の面積を増大させることができ、接合強度を向上することができる。
(3)請求項3および5記載の発明によれば、ロウ材による接合面の密着強度を向上することができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、先端側部材と基端側部材の接合面積を大きくすることができるので、先端部と基端部の接合強度が高い医療用ガイドワイヤを提供することができるとともに、接合部外周を覆う接続部材がないので、柔軟で形態順応性に優れた先端部をよりスムーズに要治療管内に挿入することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0020】
形態順応性の良好な金属線材としては、限定されるものではないが、例えば、Ni−Ti系合金、Cu−Al−Ni系合金、Cu−Zn−Al系合金などを挙げることができる。
【0021】
トルク伝達性に優れた金属線材としては、限定されるものではないが、例えば、ステンレス鋼、ピアノ線などを用いることができる。中でも、高珪素ステンレス鋼を好ましく用いることができる。この高珪素ステンレス鋼の組成を重量%で表した場合、C=0.08%以下、Si=3.0〜5.0%、Mn=3.0%以下、Ni=4.0〜12.0%、Cr=12.0〜24.0%、Mo=0.9〜2.0%、Cu=0.5〜2.0%で、残部が鉄および不可避的不純物からなるものを用いることができる。この高珪素ステンレス鋼は、引張り強さや衝撃値が高く、強靱性に富んだ材料であり、優れたトル伝達性が要求される基端部の材料として好ましい。この高珪素ステンレス鋼は析出硬化系のステンレス鋼であり、高強靱性を珪素の働きに依存するものであって、充分な強靭性を付与するには3%以上の珪素を含有する必要があるが、炭素の含有は不必要であるばかりでなく含有量が高くなって0.08%を超えると靭性が低下する。また、珪素が5%を超えても靭性が低下する傾向を示すので避けるべきである。モリブデンはフェライト生成元素であり、銅およびマンガンはオーステナイト生成元素であることが知られており、上記範囲内でモリブデンと銅とマンガンを含有することにより、オーステナイトとフェライトの2相組織が得られ、耐食性が向上する。
【0022】
接続部材としては、ステンレス鋼、TiまたはTi系合金、アルミニウムもしくはアルミニウム系合金、マグネシウムもしくはマグネシウム系合金、Ni−Ti系合金、Cu系合金、またはNi系合金は、いずれもロウ材との接着性が良好で適度の弾性および引張り強度を備えているので、接続部材を構成する材料として好ましく用いることができる。また、接続部材の形状としては、例えば、パイプ、パイプに多数の孔をあけたもの、メッシュ状パイプ(線材をパイプ状に編んだもの)、コイル状線材(線材をコイル状に巻いたもの)などを用いることができる。
【0023】
先端側部材と基端側部材を接合するロウ材としては、接合対象材料に濡れやすく、接合作業に適した溶融温度範囲を持ち、接合界面の隙間に毛細管力により浸入し、継手として必要な機械的、電気的、化学的性質を有することが好ましい。限定されるものではないが、硬ロウ材としては、アルミニウム合金ロウ、リン銅ロウ、銀ロウ、金ロウなどがあり、軟ロウ材としては、亜鉛、鉛などの単体金属、Sn−Pb系合金、Cd−Zn系合金、Pb−Ag系合金、Sn−Ag系合金などを挙げることができる。中でもステンレス鋼やNiとの相溶性に優れた銀ロウが好ましい。銀ロウは流動性が高いので、毛細管現象により僅かな隙間に瞬時に流れ込むことが可能であるという点で、本発明のロウ材として好ましく用いることができる。さらに、医療用途であるということを考慮すると、カドミウムを含まず且つ低融点のものが好ましい。融点が低ければ、加熱時間も短くて済むので、加熱による接合部近傍の金属線材の特性変化をより小さく抑えることができるからである。
【0024】
ロウ接に際しては、接合対象材料と溶融ロウが濡れやすくなるように、接合界面に存在する酸化物のような物質を溶解、除去し、さらに酸化の防止のためにフラックスを使用することが好ましい。ロウ接のための熱源としては、例えば、高周波誘導加熱、抵抗加熱、超音波などを挙げることができるが、極く短時間の加熱によりロウ材を溶融して接合部の隙間に充填することができるという点で、高周波誘導加熱が好ましい。高周波誘導加熱によれば、ピンポイントに電磁波エネルギーを集中させて局部的な加熱ができるので、極く短時間でロウ材を溶融させて接合部の隙間に充填させることができる。その結果、ロウ材充填時の加熱によって接合部近傍の金属線材の特性が変化するのを抑えることができるという効果がある。
【0025】
先端側部材の直径は、限定されるものではないが、0.1〜0.34mm程度とし、最先端部に向けて先細状となるようなテーパ形状とすることにより、先端部の剛性変化を滑らかにすることは先端部の柔軟性を高める上で好ましい。なお、医療用ガイドワイヤの直径は規格により0.34mmと定められている。
【0026】
限定されるものではないが、ガイドワイヤの全長(先端側部材と基端側部材の合計長さ)は1500〜1800mm程度とし、先端側部材の長さは500〜1000mm程度とすることが、ガイドワイヤの操作性を高める上で好ましい。
【0027】
先端側部材および基端側部材の軸線方向に設ける長孔の直径は、限定されるものではないが、挿入される芯材の直径よりも僅かに大きくし、具体的には0.08〜0.30mm程度とし、長孔に挿入する芯材の長さは、1〜10mm程度が好ましく、この芯材の長さよりも僅かに大きくなる程度に長孔の長さを設定するのが好ましい。ロウ材の浸入する隙間を確保するためである。
【実施例1】
【0028】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、適宜修正や変更が可能である。
【0029】
図1(b)は、所定長さ(1600mm)の本発明の医療用ガイドワイヤ10の側面図であり、図1(c)は図1(b)の接合部を拡大した図である。上記したように、ガイドワイヤ10の長さは用途に応じて1500〜1800mmの範囲で選択される。
【0030】
図1(c)において、ガイドワイヤ10は形態順応性の良好なNi−Ti系合金(Niが51%で残部がTi)の金属線材から形成された長さ600mmの先端側部材11と、トルク伝達性に優れた高珪素ステンレス鋼の金属線材から形成された長さ1000mmの基端側部材12とを有し、先端側部材11の基端側端面11aと基端側部材12の先端側端面12aを接合端面として、両端面が対向するように配置されている。先端側部材11の直径は0.26mmであり、基端側部材12の直径も同じく0.26mmである。高珪素ステンレス鋼の基端側部材12は、次に説明するようなプロセスを経て製造された。すなわち、重量%で、C=0.02%、Si=3.5%、Mn=2.0%、Ni=6.0%、Cr=16.0%、Mo=1.0%、Cu=1.5%で、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成の直径6.0mmの線材を直径0.34mmに縮径し、この直径0.34mmの高珪素ステンレス鋼製の線材に機械加工により真直加工を施した後、0〜600℃の温度下で10分間保持するという熱処理を行った後、センタレス研削により直径0.26mmに加工した。
【0031】
なお、図1(b)に示すガイドワイヤ10の全体を合成樹脂で被覆することができ、先端側部材11のみを合成樹脂で被覆することもできる。その合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン、シリコンゴムなどを用いることができる。
【0032】
先端側部材11の基端側端面11aと基端側部材12の先端側端面12aは、先端側部材11および基端側部材12の軸線方向に対して傾斜した傾斜面とされている。先端側部材11と基端側部材12は、傾斜面とされた端面11aと12aの間にリング状に配置されたロウ材13が浸入可能な第1の隙間14を設けて配置され、先端側部材11と基端側部材12の接合部15の外周面を覆うとともに接合部15に引き続く先端側部材11の一部の外周を覆う接続部材であるコイル状線材16が、同コイル状線材16と接合部15外周面との間にロウ材13が浸入可能な第2の隙間17を設けて配置され、第1の隙間14と第2の隙間17にロウ材13が充填されて先端側部材11の基端側端面11aと基端側部材12の先端側端面12aが接合される。図1(c)の灰色の着色部がロウ材13が充填されたロウ接部分を示す。ロウ材13による接合密着強度を向上するために、接合端面11a、12aおよび接合部15の外周面には、ロウ材13の充填前に予めNiメッキが施されている。コイル状線材16は、SUS304製の厚さtが0.04mmで、幅wが0.2mmである矩形断面(図1(d)参照)の平バネであり、全長Lは15mmであり、接合部15の外周を覆うコイル状線材16の長さdは3mmであり、コイル状線材16の外径Dは0.34mmである。
【0033】
コイル状線材16の長さLは、5〜50mmが好ましい。コイル状線材16の長さが5mmより短いと、基端側部材から先端側部材に至る剛性変化の滑らかさに欠けるので、基端部での手元操作を正確に先端部に伝達することがやや難しくなり、また、50mmより長くなると、剛性の小さい先端側部材の長さが不足して先端部での微妙な動作をすることがやや難しくなる。
【0034】
また、接合部15の外周を覆うコイル状線材16の長さdは、2〜5mmが好ましい。2mmより短いと、接合強度が不足し、また、5mmより長くなると、ロウ材による接合面積が過大となり、接合部の加熱時間が長くなることによって接合部近傍の金属線材の特性が変化することがある。
【0035】
コイル状線材16の厚さtは0.01〜0.05mmとし、幅wは0.07〜0.30mmの矩形断面とすることが好ましい。適度の剛性を有することで、柔軟性と操作性を兼備することができるからである。
【0036】
第1の隙間14および第2の隙間17の寸法は、3〜10μmが好ましい。3〜10μmであれば、隙間に毛細管現象でロウ材13が浸入しやすいからである。第1の隙間14および第2の隙間17の寸法が3μmより小さいと、ロウ材13が浸入しにくくなるという不都合がある。第1の隙間14および第2の隙間17の寸法が10μmより大きいと、先端側部材11と基端側部材12がコイル状線材16から抜けやすくなるという不都合がある。この実施例1における第1の隙間14および第2の隙間17は、それぞれ5μm、10μmである。
【0037】
先端側部材11および基端側部材12のそれぞれの接合端面11a、12aの傾斜角α、βは、先端側部材11の接合端面11aの軸線に対する傾斜角αに対して基端側部材12の接合端面12aの軸線に対する傾斜角βを若干大きくすることで、第1の隙間14が僅かに楔形となるようにするのが好ましい。そのようにすることで、隙間にロウ材が浸入しやすくなる。この実施例における傾斜角α、βは、それぞれ、22゜、25゜である。
【0038】
この実施例1のガイドワイヤ10は以下に説明するようにして製造した。まず、先端側部材11と基端側部材12をそれぞれ所定材料で所定寸法に形成し、図1(a)に示すように、先端側部材11の基端側端面11aが下になり基端側部材12の先端側端面12aが上になるように、コイル状線材16の両側に配置した。
【0039】
そして、図1(b)に示すように、先端側部材11と基端側部材12をコイル状線材16内に押し込んで、先端側部材11と基端側部材12の接合部外周面とコイル状線材16内周面との間の隙間(第2の隙間17、図1(c)参照)の寸法がコイル状線材16の全長および全周にわたり均一となり、先端側部材11と基端側部材12の各接合端面11a、12aの間の隙間(第1の隙間14、図1(c)参照)の寸法が所定の大きさとなる位置に保持し、コイル状線材16の端部にロウ材(銀ロウ)13をリング状に置いた状態で高周波誘導加熱装置(図示せず)によりコイル状線材16を加熱した。符号18は高周波誘導加熱装置のコイルを示す。
【0040】
この加熱により、図1(c)に示すように、コイル状線材16の端部に置かれたロウ材13が溶融して、まず、第2の隙間17に流入し、引き続いて第1の隙間14に流入し、かくして、第1の隙間14および第2の隙間17にロウ材13が充填されて、先端側部材11と基端側部材12が接合された。接合部15の外周を覆うコイル状線材16の長さは短く、高周波誘導加熱装置による加熱であるため、ロウ材13は溶融した瞬間に瞬時にして第2の隙間17を経て第1の隙間14に到達し、第1の隙間14および第2の隙間17へのロウ材13の充填を瞬時に行うことができた。
【0041】
加熱温度は、ロウ材13の溶融温度に応じて設定することができ、一般的には、550〜900℃であるが、ロウ材13を構成する銀ロウの融点ならびにコイル状線材16およびコイル状線材16の両側の先端側部材11および基端側部材12が受ける熱による金属特性の変化を考慮すると、650〜700℃が好ましい。加熱温度をこのように設定し、高周波誘導加熱装置により接合部を局部的に加熱して熱源を集中し、接合部をピンポイントで加熱することで、コイル状線材16の両側の先端側部材11および基端側部材12への熱影響を最小限に抑えることができる。
【0042】
なお、上記実施例1では、先端側部材11の基端側端面11aと基端側部材12の先端側端面12aは、先端側部材11および基端側部材12の軸線方向に対して傾斜した傾斜面とされているが、図2(a)(b)に示すように、接合端面を凹凸構造にして、先端側部材19と基端側部材20または先端側部材21と基端側部材22を接合することもできる。
【0043】
さらに、接合部での径差を極力小さくして滑らかに要治療管内に挿入することができるようにするために、図3に示すように、先端側部材23と基端側部材24を接合する接合部材25の両端部に樹脂等の部材26を肉盛りすることができる。
【実施例2】
【0044】
図4(a)は、本発明の医療用ガイドワイヤの実施例2の断面図である。図4(a)において、ガイドワイヤ27は形態順応性の良好なNi−Ti系合金(Niが51%で残部がTi)の金属線材から形成された先端側部材28と、トルク伝達性に優れた同上高珪素ステンレス鋼からなる金属線材から形成された基端側部材29とを有している。先端側部材28と基端側部材29には、それぞれ後記する芯材の直径よりも僅かに大径の長孔30と31が先端側部材28と基端側部材29の軸線方向に設けられている。ロウ材による接合密着強度を向上するために、長孔30と31の内面にはNiメッキが施されている。
【0045】
図4(b)に示すように、長孔30と31に芯材32を挿入し、先端側部材28と基端側部材29をロウ材が浸入可能な隙間を設けて配置する。ロウ材による接合密着強度を向上するために、接合端面28aと29aには、Niメッキが施されている。
【0046】
そして、接合部にロウ材33を置いた状態で高周波誘導加熱装置(図示せず)により接合部を加熱する。符号34は高周波誘導加熱のコイルを示す。この加熱により、接合部に置かれたロウ材33が溶融して、接合端面28aと29aを経て長孔の隙間にロウ材33が充填されて、先端側部材28と基端側部材29が接合される。高周波誘導加熱による加熱であるため、ロウ材33は溶融した瞬間に瞬時にして接合端面を経て長孔内に充填されるので、接合部の両側の先端側部材28および基端側部材29への熱影響を最小限に抑えることができる。
【実施例3】
【0047】
次に、接合強度、トルク伝達性および曲げ性を従来のガイドワイヤと比較するために、まず、比較例として図8に示す構造に類似する医療用ガイドワイヤを製造した。すなわち、第1ワイヤ2(実施例1の先端側部材11に相当)を実施例1と同じ材料(Ni−Ti系合金)で直径0.26mm、長さ600mmとし、第2ワイヤ3(実施例1の基端側部材12に相当)を実施例1と同じ材料(高珪素ステンレス鋼)で直径0.26mm、長さ1000mmとし、管状接続部材8(実施例1のコイル状線材16に相当)を実施例1と同じ材料(SUS304)で外径を0.34mm、厚みを0.04mm、長さを15mmとし、ロウ材9充填用の隙間を第2の隙間17と同じ寸法(10μm)に設定し、ロウ材(銀ロウ)を加熱して上記隙間に充填したものを製造した。
(1)接合強度
図1(b)に示す形状の本発明の医療用ガイドワイヤ10と比較例の医療用ガイドワイヤについて、引張試験機による引張試験を行って各供試材の破断荷重を測定することにより、接合強度を比較した。その結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に明らかなように、本発明の医療用ガイドワイヤの接合強度は比較例のものに比べて極めて高く、本発明の医療用ガイドワイヤは強力に接合されることが分かる。
(2)トルク伝達性
図5はガイドワイヤのトルク伝達性を評価するための試験装置の概略斜視図である。図5に示す装置を用いて、図1(b)に示す形状の本発明の医療用ガイドワイヤと比較例の医療用ガイドワイヤについて、基端部35にアーム36を取り付け、このアーム36を矢印方向に10度づつゆっくりと180度回転させ、先端部37に生じるトルクを先端部37に取り付けたアーム38を介して電子天秤39により測定した。以下の表2には、上記方法により測定したトルクを比較例のガイドワイヤのものを100とするトルク伝達性指数により示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に明らかなように、本発明の医療用ガイドワイヤのトルク伝達性指数は比較例のものに比べて高く、本発明の医療用ガイドワイヤは優れたトルク伝達性を有していることが分かる。
(3)曲げ性
実際のガイドワイヤとしての操作性を知るために、以下に説明するような方法で曲げ性を調査した。すなわち、図6(a)に示すように、図1(b)に示す本発明の医療用ガイドワイヤを曲げると、基端側部材40から先端側部材41に至る剛性の変化が滑らかであるから、接合部42を対称中心として、ほぼ真円に近い形状に曲げることができた。
【0052】
しかし、比較例の医療用ガイドワイヤは、基端側部材と先端側部材の剛性が大きく異なるため、図6(b)に示すように、比較例の医療用ガイドワイヤを曲げると、接合部43を境として、剛性の小さい先端側部材に相当する第1ワイヤ2の曲率半径が小さく、剛性の大きい基端側部材に相当する第2ワイヤ3の曲率半径が大きいという、いびつな形状になった。
【0053】
このように、本発明の医療用ガイドワイヤは基端側部材から先端側部材に至る剛性の変化が滑らかであり、基端側部材での操作を先端側部材にほぼ正確に伝達することが可能である。その結果、先端部を随意に要治療管内に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1(a)は本発明の医療用ガイドワイヤの一実施例の製造方法を説明する図であり、図1(b)は、本発明の医療用ガイドワイヤの一実施例の側面図であり、図1(c)は図1(b)の接合部を拡大した図であり、図1(d)はコイル状線材の断面図である。
【図2】図2(a)(b)は、本発明の医療用ガイドワイヤ接合方法の別の実施例を示す側面図である。
【図3】本発明の医療用ガイドワイヤ接合方法のさらに別の実施例を示す側面図である。
【図4】図4(a)(b)は、本発明の医療用ガイドワイヤのさらに別の実施例の製造方法を説明する図である。
【図5】ガイドワイヤのトルク伝達性を評価するための試験装置の概略斜視図である。
【図6】図6(a)(b)はガイドワイヤの曲げ性を比較する図である。
【図7】従来の医療用ガイドワイヤの断面図である。
【図8】従来の別の医療用ガイドワイヤの接合部の断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 ガイドワイヤ
11 先端側部材
11a 基端側端面
12 基端側部材
12 基端側部材
12a 先端側端面
13 ロウ材
14 第1の隙間
15 接合部
16 コイル状線材
17 第2の隙間
18 高周波誘導加熱装置のコイル
19 先端側部材
20 基端側部材
21 先端側部材
22 基端側部材
23 先端側部材
24 基端側部材
25 接合部材
26 肉盛り部材
27 ガイドワイヤ
28 先端側部材
28a 接合端面
29 基端側部材
29a 接合端面
30 長孔
31 長孔
32 芯材
33 ロウ材
34 高周波誘導加熱装置のコイル
35 基端部
36 アーム
37 先端部
38 アーム
39 電子天秤
40 基端側部材
41 先端側部材
42 接合部
43 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを有し、先端側部材の基端側端面と基端側部材の先端側端面とを接合端面として両部材を接合してなる医療用ガイドワイヤにおいて、先端側部材と基端側部材の接合端面の間にはロウ材が浸入可能な隙間が設けられ、先端側部材と基端側部材の接合部外周面を覆う接続部材と同接合部外周面との間にはロウ材が浸入可能な隙間が設けられ、上記隙間にロウ材が充填されて先端側部材と基端側部材とが接合され、上記接続部材は接合部外周ならびに接合部に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
接合端面が先端側部材および基端側部材の軸線に対して傾斜した傾斜面であることを特徴とする請求項1記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
接合端面および接合部外周面には、ロウ材の充填前に予めNiメッキが施されていることを特徴とする請求項1または2記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを有し、先端側部材の基端側端面と基端側部材の先端側端面とを接合端面として両部材を接合してなる医療用ガイドワイヤにおいて、先端側部材と基端側部材の接合端面には芯材を挿入可能な長孔を先端側部材および基端側部材の軸線方向に設け、先端側部材と基端側部材の接合端面の間にはロウ材が浸入可能な隙間が設けられ、上記長孔に芯材を挿入し、上記接合端面にロウ材が充填されて先端側部材と基端側部材とが接合されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
接合端面および長孔内面には、ロウ材の充填前に予めNiメッキが施されていることを特徴とする請求項4記載の医療用ガイドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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