医療用ガイドワイヤ
【課題】優れた操作性と血管壁に対する安全性を両立した医療用ガイドワイヤを提供すること。
【解決手段】医療用ガイドワイヤ1Aは、先端部12を有するコア線10と、少なくともコア線10の先端部12を覆い、樹脂にて構成された被覆部30とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部50を有する医療用ガイドワイヤである。コア線10の先端部12には、連続的に外径が変化するテーパ部14と、テーパ部14の先端側に位置し、テーパ部14よりも柔軟な先端細物部16とが設けられている。テーパ部14における線径変化率が40〜55%であり、先端形状部50におけるコア線10の断面中心点と被覆部30の断面中心点は、位置が異なる。
【解決手段】医療用ガイドワイヤ1Aは、先端部12を有するコア線10と、少なくともコア線10の先端部12を覆い、樹脂にて構成された被覆部30とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部50を有する医療用ガイドワイヤである。コア線10の先端部12には、連続的に外径が変化するテーパ部14と、テーパ部14の先端側に位置し、テーパ部14よりも柔軟な先端細物部16とが設けられている。テーパ部14における線径変化率が40〜55%であり、先端形状部50におけるコア線10の断面中心点と被覆部30の断面中心点は、位置が異なる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療または検査を目的として使用されるカテーテルやイントロデューサーキット等の医療用具を、血管内の所望の部位まで導入する為に使用される医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用ガイドワイヤは、血管の診断および治療を経皮的に行う際に、カテーテルやイントロデューサーキット等の医療用具を血管内に導入、留置する際に使用される。カテーテル等の医療用具を血管に導入する際の部位は、従来フェモラル(大腿部)が主流であったが、近年患者に対する負担を軽減する為に、ブラキアル(上腕部)や特にラディアル(手首部)に移行しつつあり、分岐や蛇行を有することが多い腕部血管内で安全に用いることができ、かつ操作性に優れる、先端に例えばJ型形状を有する医療用ガイドワイヤが望まれている。
【0003】
従来、先端にJ型形状を有する医療用ガイドワイヤを導入針やカテーテル等に挿入する際、挿入を容易にする為の補助器具(インサーター)が用いられてきたが、特にJ型形状のカーブ部分の曲率半径が小さい場合は、カテーテルの交換等の際に医療用ガイドワイヤを血管内から抜去して再度インサーターに挿入する操作が煩雑であった。
【0004】
上記の点を解決する為に、医療用ガイドワイヤの先端形状に関して先端直線部の方向延長線とワイヤー基線のなす角度を40〜70°とすることにより、導入針やカテーテル、シース等にワイヤーを挿入する際の補助器具を不要としたものとして、特許文献1に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−181184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来用いられて来た、先端がJ型に形状付けされた医療用ガイドワイヤの場合、先端形状部の硬さが一様であったり、J形状部基端側のコシ(硬さ)が不十分である為に、導入針やカテーテル、シースに挿入する際の操作性が悪い場合が多かった。
【0007】
また、カテーテルの交換等、診断あるいは治療中に医療用ガイドワイヤを体外に抜去して、再度挿入する操作は頻繁に行われる操作であり、その場合従来のJ型の医療用ガイドワイヤでは、再度インサーター等の挿入補助器具を使用しなければならず、その際の操作性が極端に低下することも多い為、医師に不要な作業時間とストレスを強いてきた。
【0008】
更に、特許文献1に見られる様な、インサーター等の挿入補助器具を不要とした医療用ガイドワイヤにおいても、挿入の初期段階において、比較的先端に近い部位を保持して頻繁に持ち替えながらカテーテル等に送り込む操作が必要な場合があり、操作性に関して充分良いとは言えなかった。
【0009】
上述した従来のJ型の医療用ガイドワイヤは、手首部(ラディアル)から導入する場合、血管分岐部等のきっかけがない限り元の形状に戻らず、先端部が血管壁を引掻いたり突き当たったりする為、血管壁を損傷する可能性が大きい。更に、医療用ガイドワイヤを引抜く際に、先端が血管分岐部に引っ掛った場合、先端形状部の変形のし難さから、血管壁を損傷する可能性が更に大きくなる。
【0010】
上記の課題を解決する為に、本発明者らは鋭意検討を重ねることで、J型など先端に湾曲形状を有する医療用ガイドワイヤにおいて、導入針やカテーテル、シースに挿入する際の操作性および血管やカテーテル等管腔内での医療用ガイドワイヤ先端部の挙動を決定する要素が、コア線のテーパ部における単位長さ当りの線径増加率であることを突き止め、本発明を完成させた。また、管腔内での医療用ガイドワイヤ先端部の挙動を決定する要素が、当該線径増加率と先端形状部の硬さのバランス(例えば、コア線の先端径と、先端形状に対するコア線のテーパ起始部の位置)であることを突き止め、本発明を完成させた。従来のJ型の先端形状を有する医療用ガイドワイヤと比較して、インサーター等の挿入補助器具を不要とし、各段に優れた操作性と血管壁に対する安全性を両立した医療用ガイドワイヤを提供することを可能とした。
【0011】
これを更に詳しく説明すると、J型の先端形状を有する医療用ガイドワイヤに求められる性能としては、導入針やカテーテルおよびシースへの挿入性、分岐血管への迷入防止性、ワイヤー先端部による血管を含む管腔に対する引掻きや突当たりの起こし難さが特に重要であり、これらをバランス良く実現できる医療用ガイドワイヤを提供することを可能とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記(1)〜(6)の本発明により達成される。
(1) 先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部における線径変化率が40〜55%であり、
前記先端形状部における前記コア線の断面中心点と前記被覆部の断面中心点は、位置が異なることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【0013】
(2) 前記先端細物部の断面がほぼ円形であり、その直径が0.08〜0.13mmである上記(1)に記載の医療用ガイドワイヤ。
【0014】
(3) 前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置する上記(1)または(2)に記載の医療用ガイドワイヤ。
【0015】
(4) 先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置し、
前記先端形状部における前記コア線の断面中心点と前記被覆部の断面中心点は、位置が異なることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【0016】
(5) 前記湾曲した部分の前記コア線は、扁平である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【0017】
(6) 先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置し、
前記湾曲した部分の前記コア線は、扁平であり、前記湾曲した部分の断面において、前記湾曲した部分の曲率半径方向の厚みがそれと直交する方向の厚みよりも小さくなっていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医療用ガイドワイヤは、先端付近のコシ強度に優れており、インサーターを用いることなく至極簡便に導入針やカテーテルおよびシースに挿入することが可能であるので、操作性が向上する。また、湾曲した部分の柔軟性が増加するので、湾曲した部分を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】医療用ガイドワイヤの一構成例を示す断面図である。
【図2】医療用ガイドワイヤのコア線を示す側面図である。
【図3】医療用ガイドワイヤの他の構成例を示す断面図である。
【図4】医療用ガイドワイヤの他の構成例を示す断面図である。
【図5】医療用ガイドワイヤの他の構成例を示す断面図である。
【図6】医療用ガイドワイヤの他の構成例を示す断面図である。
【図7】図6の拡大部分端面図である。
【図8】本発明の医療用ガイドワイヤの一実施形態を示す断面図である。
【図9】図8の拡大部分端面図である。
【図10】本発明の医療用ガイドワイヤの他の実施形態を示す断面図である。
【図11】図10の拡大部分端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、医療用ガイドワイヤの一構成例を示す断面図であり、図2は、医療用ガイドワイヤのコア線を示す側面図である。
【0021】
まず、本発明の医療用ガイドワイヤの構成を、医療用ガイドワイヤの一構成例である医療用ガイドワイヤ1Aに基づいて説明する。医療用ガイドワイヤ1Aは、図1に示すように、先端部12を有するコア線10と、少なくともコア線10の先端部12を覆い、樹脂にて構成された被覆部30を有する。医療用ガイドワイヤ1Aには湾曲した部分を有する先端形状部50を有する。コア線10の先端部12には、図2に示すように、連続的に外径が変化するテーパ部14及びその先端側に有する先端細物部16を備えている。テーパ部14は、基端側に向かって外径が増加し始めるテーパ起始部14aと外径の増加が終わるテーパ終了部14bを有している。
【0022】
本発明における線径変化率は次のように求められる。図2に示すように、テーパ起始部14aの外径をφ1(mm)、テーパ終了部14bのコア外径をφ2(mm)、テーパ起始部14aからテーパ終了部14bまでの長さをL1(cm)とすると、テーパ部14の線径増加率αは、(((φ2−φ1)/φ1)×100)/L1、即ち1cm当たりの線径増加率として求められる。本発明においてαは40〜55%、より好ましくは45〜50%である。αが40%未満であると、カテーテル等へ挿入する初期段階で医療用ガイドワイヤを保持する位置はテーパ終了部14bより先端側となり、頻繁な持ち替えが必要となる。よって、医療用ガイドワイヤをカテーテル等に挿入する作業に負担を強いられる。医療用ガイドワイヤの先端部付近を保持すると、表面の潤滑性コーティングに影響を与えて滑りを損なったり、コア線の素材によっては過度に強く保持することによって曲がり癖をつけてしまったりする可能性が高くなる。αが55%より大きいと、挿入性は向上する傾向があるが、カテーテル内における操作性が劣る。また、血管内において医療用ガイドワイヤ先端がトラップされた場合に万が一コア線が破断する可能性が否定できない。
【0023】
本発明の医療用ガイドワイヤにおけるコア線10はその外径が0.33〜0.82mmである。また、コア線10の先端細物部16の断面がほぼ円形であり、その外径は0.08〜0.13mmであることが好ましく、より好ましくは0.08〜0.12mmである。カテーテル内や細い血管内において、先端が開いた状態で操作される状況が多くあり、近年、コア線10の先端細物部16の外径が0.13mmよりも大きいと、「先端が硬くて操作し難い」として忌避される傾向にある。また、コア線10の先端細物部16の外径が0.08mmより小さい場合先端の柔らかさは増すものの、製造が困難である上、引張り荷重に対して弱くなり、実使用を考えた場合体内で破断する危険性が大きくなると予想される為、好ましくない。先端細物部16の断面は、長方形や長円などの扁平な形状であってもよい。先端細物部16はテーパ部14よりも柔軟であることによって、先端細物部16が先行して血管内を進む場合でも血管に損傷を与える可能性が低くなる。
【0024】
コア線10の先端細物部16の長さは8〜15mmであることが好ましく、11〜15mmであることがより好ましい。先端細物部16が上記範囲にあることによって、特に下腕部における血管側枝に迷入しにくく、かつ、医療用ガイドワイヤの先端が血管壁を擦過しにくくなる。
【0025】
先端細物部16の断面形状は円形である。先端細物部16の断面形状は、その長さ方向でほぼ同じであるが、図3に医療用ガイドワイヤ1Bとして示すように、先端方向に徐々に細くなっていてもよい。徐々に細くすることによって、先端形状部50を広げた状態で血管内に進めたときに、医療用ガイドワイヤの最先端部分が最も柔軟であり血管内壁の損傷を防ぐ効果を更に高くすることができる。先端細物部16が先端方向に徐々に細くなる場合、その外径の変化率は前述した線径増加率αよりも小さいことが好ましい。先端細物部16の断面が扁平である場合、先端方向に徐々に断面積が小さくなることが好ましい。先端細物部16は、図1においては直線状であるが、先端形状部50と異なる方向に湾曲していても良い。例えば、先端細物部16は先端形状部50と反対の方向に湾曲することが好ましい。先端細物部16の最先端は、前記湾曲した部分によって形成される平面から所定角度(20〜90°)の方向に湾曲していても良い。
【0026】
医療用ガイドワイヤ1Aには、湾曲した部分を有する先端形状部50を有している。先端形状部50としては、図1のように、いわゆる「J型」と呼ばれる形状のほか、くちばし状や、J型とアングル型を組み合わせた形状が挙げられる。先端形状部50を有することにより、血管内表面に突き当たっても力が分散して影響が抑制される。
【0027】
医療用ガイドワイヤ1Aにおけるコア線10の先端部12のテーパ起始部14aは、先端形状部50の湾曲した部分にあることが好ましく、図1に示すように基端側から先端側を見た場合最も突出する部分(J形状の頂点T)に相当する位置の付近であることがより好ましい。医療用ガイドワイヤをカテーテル等へ挿入する際、J形状が広げ伸ばされた状態になる必要があるが、J形状等のカーブ部分(先端形状部50)の硬さに適度な異方性を付与することで、先端側の高い可撓性(広がり易さ)と基端側のコシの強さ(押込み易さ)を実現できる。
【0028】
即ちテーパ起始部がJ形状等のカーブ部分より基端側にある場合、形状部分の硬さがほぼ一様(等方性)となる。しがたって、基端側のコシの強さが不足する為、カテーテル等への挿入性改善にあまり寄与しない。逆に、テーパ起始部14aがJ形状のカーブより先端側にある場合、J形状部を広げる為に必要な力(先端形状部の広げ荷重)が大きくなる可能性がある。
【0029】
コア線10の先端部12のテーパ起始部14aが、先端形状部50の湾曲した部分にあることにより、基端側のコシの強さが生かされる為、カテーテル等への挿入性が改善される。また、J形状部を広げる為に必要な力(先端形状部の広げ荷重)が小さくて済むのでカテーテル等の内腔が小さい管腔内を通過し安くなる上、血管内の医療用ガイドワイヤを抜去する際に分岐血管に引っ掛った場合、分岐部から抜ける時に掛かる負荷が小さくなるので、分岐部への影響が少なくなる。
【0030】
コア線10の先端形状部50には、図1に示すように、コア線10の断面積が先端方向に徐々に小さくなる部分を有している。
【0031】
図3は、テーパ起始部14aが先端形状部50の湾曲した部分(湾曲部)の先端部と基端部の間にある他の実施態様を示す。この医療用ガイドワイヤ1Bは、テーパ起始部14aが先端形状部50の頂点Tよりも基端側でかつ湾曲部分の基端部よりも先端側にある。また、図4の医療用ガイドワイヤ1Cも、テーパ起始部14aが先端形状部50の頂点Tよりも基端側、かつ湾曲部分の基端部よりも先端側にある。図5の医療用ガイドワイヤ1Dは、テーパ起始部14aが先端形状部50の頂点Tよりも先端側、かつ湾曲部分の先端部よりも基端側ある。
【0032】
本発明の医療用ガイドワイヤにおけるコシ強度は、医療用ガイドワイヤ1Aにおける先端形状部50の頂点から30mm基端側のコシ強度は1.5gf以上であることが好ましく、2.0gf以上であることがより好ましい。上記位置のコシ強度が1.5gfより小さいと、カテーテル等へ挿入する初期段階において、J形状を広げ伸ばしたことによる押込み抵抗に勝てなくなり、頻繁に持ち替える必要が生じ、作業が煩雑となる為、好ましくない。このコシ強度は次のように求められる。医療用ガイドワイヤの先端形状部の頂点から50mmの位置を水平に固定し、先端形状部の頂点から30mmの位置を5mm/minで2mm押し下げた時の最大荷重を3回測定した平均値にて求められる。
【0033】
本発明の医療用ガイドワイヤにおける先端形状部の広げ荷重は15gf以下であることが好ましく、10gf以下であることがより好ましい。更には6〜10gfであることが好ましい。先端形状部の広げ荷重が15gfより大きいと、カテーテル等の内腔が小さい管腔内での通過性が悪化し、医療用ガイドワイヤ抜去時の危険性(分岐血管に引っ掛って抜ける時の、分岐部分に掛かる負荷)が大きくなる為、好ましくない。先端形状部の広げ荷重は、内径2mmのポリエチレンチューブに5mm/minで先端形状部を引込む時の最大荷重を3回測定して平均した値として求めることができる。
【0034】
医療用ガイドワイヤ1Aにおいて先端形状部50は、湾曲した部分を有するが、その湾曲した部分の曲率半径は、図1に示すようにrで示され、そのrは1〜3mmであることが好ましく、1.5〜2mmであることがより好ましい。穿刺部位がラディアルの場合、血管の内径は3〜5mmであることが多い為、曲率半径が3mmより大きいと血管内での抵抗が大きくなり操作性が悪化する上、血管壁を押し広げることで傷付ける可能性が生じる為好ましくない。また、曲率半径が小さくなる程、カテーテル等へ挿入する際、入口部に引っ掛かり難くなり、挿入性が低下する傾向がある為、1mm以上であることが好ましい。
【0035】
本発明の医療用ガイドワイヤにおける先端形状部50の開き角度は、図1に示すようにbで示される。この開き角度bは、0〜30°であることが好ましく、10〜20°であることがより好ましい。前記曲率半径と同様に、先端部の開き角度が小さい程、カテーテル等へ挿入する際、入口部に引っ掛かり難くなり挿入性が低下する傾向があり、開き角度が0°より小さいと操作性が極端に悪化する為、好ましくない。逆に開き角度が大きい程、挿入性は向上するが、開き角度が30°より大きいと、血管壁に対する医療用ガイドワイヤ先端部の角度が大きくなることで血管壁を擦過し易くなる上、抜去する際に分岐血管に引っ掛り易くなる為、血管壁を傷付ける可能性が高くなる。例えば、図1及び図5の実施態様は、開き角度が20°であり、図3及び図4の実施態様は開き角度が10°である。
【0036】
コア線10として用いられる材料としては、Ni−Ti系合金、ステンレス鋼、Cu系合金、Al系合金等の金属材料や合成樹脂など、該用途に用いられる特性を有するものであれば適宜選択して使用できるが、しなやかさの点でNi−Ti系合金が好ましい。
【0037】
コア線10の先端部12は被覆部30にて覆われている。医療用ガイドワイヤ1Aにおいてはコア線10全体を被覆部30にて覆われているが、先端部12以外は被覆部30のない態様もある。また、後述するように先端部12を親水性コーティングの施すことが可能な樹脂にて覆い、基端部は他の樹脂、例えばシリコーンやフッ素樹脂にて覆ってもよい。
【0038】
被覆部30の樹脂材料としては、コア線10に対する被覆性および樹脂外表面に潤滑性のコーティング施す必要から、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリオレフィンエラストマーや、フッ素や塩素等を含む高分子を主成分とするポリマーアロイ等、コア線を湾曲する際に妨げとならない程度の柔軟性を有する高分子材料が用いられ、外表面は血管内での操作に支障を来たさない程度に滑らかに成型される。また、該被覆材料中にはタングステン、ビスマス、バリウム等、X線造影性の高い金属微粒子を混合させることも可能である。
【0039】
上記被覆材料の外表面は、導入針やカテーテルおよびシースの内表面、更には血管内壁との摩擦抵抗を減少し、良好な操作性を実現する為に、親水性高分子によるコーティングが施される。
【0040】
該親水性高分子としては、ビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体塩、ポリエーテル類、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリビニルピロリドン等の親水基を多数有する高分子が用いることができる。
【0041】
医療用ガイドワイヤ1Aは、導入針やカテーテルおよびシースに、インサーター等の挿入補助器具を用いることなく容易に挿入できるという操作性と、心臓を含む血管内の目的部位へ導入する過程において分岐血管へ迷入することなく、血管壁を引掻いたり突き当たったりし難いという安全性を両立することできる。
【0042】
以下に医療用ガイドワイヤを参考例により説明する。
コア線10について、テーパ部のコア線径変化率(α)が40%、先端細物部16は断面が円形でありその外径(φ1)が0.11mmで、長さ約12mmで、その長さ方向でほぼ外径が同じであり、テーパ起始部14aが先端形状部50の頂点に位置する様に加工して、先端形状部50の開き角度bが約20°で曲率半径2mmのJ形状としたNi−Ti合金製コア線を作製し、その後、その外表面にウレタン樹脂を被覆し、更にその表面に潤滑性コーティングを施した、基端部外径が0.85mmの医療用ガイドワイヤを作製した。この医療用ガイドワイヤを参考例1とした。この医療用ガイドワイヤは、コシ強度は1.8gfで、広げ荷重は8.8gfであった。
【0043】
参考例2及び参考例3として、コア線径変化率αが各々55%、47%である以外は参考例1と同じ材料と構造である医療用ガイドワイヤを作製した。参考例2と参考例3の医療用ガイドワイヤは、夫々コシ強度は3.3gf、2.8gfで、広げ荷重は13.2gf、10.6gfであった。
【0044】
比較例1として、コア線径変化率αが33%である以外は参考例1と同じ材料および構造である医療用ガイドワイヤを作製した。また、比較例2として、コア線径変化率αが20%、テーパ起始部が先端形状の頂点から基端側に30mmにあって先端形状部にない医療用ガイドワイヤを作製した。さらに、比較例3としてコア線径変化率αを66%とした以外は、参考例1と同じ材料および構造である医療用ガイドワイヤを作製した。比較例1〜3の医療用ガイドワイヤについて、コシ強度は各々1.3gf、0.6gf、4.0gfで、広げ荷重は各々6.7gf、4.5gf、15.5gfであった。
【0045】
挿入性を比較する試験を次のように行った。医療用ガイドワイヤの先端形状部よりも基端側の任意位置を保持し、4フレンチの血管造影カテーテルへの挿入が可能となる先端形状部の頂点から保持位置までの最大距離を3回測定した。その結果、参考例1は、平均で8cm、参考例2は平均で10cm、参考例3は平均で9cmであった。
【0046】
本参考例の医療用ガイドワイヤにおいては、コア線のテーパ終了部は先端形状の頂点からほぼ70mmの位置であることから、αが40%以上であれば、医療用ガイドワイヤの硬さが一様となるシャフト部分を保持した状態であってもカテーテル等へ挿入可能であることを意味している。医療用ガイドワイヤの先端部分は極めて柔軟性が高く血管内の摺動性を左右するデリケートな部分であるので、医療用ガイドワイヤ挿入の初期段階において、頻繁な持ち替え等の作業負担を大幅に軽減できることは、臨床的な意義が大きい。
【0047】
比較例1について、同様の測定を実施した結果、最大距離の平均値は5cmであり、挿入初期段階において先端形状部の頂点から3cm付近が撓むことで腰砕け気味になり、持ち替え操作がやや煩雑であった。また、比較例2については、最大距離の平均値は2cmであり、挿入初期段階における持ち替え操作が更に煩雑であった。更に、比較例3は、最大距離の平均値は12cmであった。
【0048】
次に、捻り試験を次のように行った。医療用ガイドワイヤの被覆を除去した後、コア線の先端部を固定し50cmのスパンで200gfの荷重を掛けながら同一方向へ連続して捻り、破断するまでの捻り回数(捻り破断強度)を3回測定した。
【0049】
参考例2のコア線については、平均値で9回であり、最小値で7回であった。従来、医療現場で用いられて来た様々なタイプの医療用ガイドワイヤにおいて、捻り破断強度が最も低い物で本参考例と同レベルであり、実使用を考えた場合「同一方向へ5回転しても破損しない」ことが必要と考えられる為、許容できるレベルであるといえる。一方、比較例3のコア線は、破断までの平均捻り回数は6回であり、最小値は4回であったことから、実使用を考えた場合、許容されるレベルではないといえる。
【0050】
次に、参考例2の医療用ガイドワイヤを、下腕部を想定した内径3mmのシリコンチューブに6Frのシースを通して挿入した時の挙動を確認した結果、J形状が広げ伸ばされた状態でチューブ内を進むが、J形状の先端部がチューブの壁に平行に沿って滑らかに進む為、最先端部で壁を引掻くことはなかった。更に、医療用ガイドワイヤの先端部が血管分岐を想定して設置したト字状の分岐部(入口部の長径が約4mm)を乗り越えて進む為、枝管には誤進入しなかった。
【0051】
次に、比較例3の医療用ガイドワイヤを用いた血管モデルでの挙動は参考例2とほぼ同様であったが、カテーテル内に押込んで行く際の抵抗感が大きかった。このことから、テーパ部の線径変化率が大き過ぎると、医療用ガイドワイヤの操作性が悪化することが確認できた。
【0052】
次に、本発明の医療用ガイドワイヤの他の実施形態について、図6及び図7を参照しつつ説明する。前述の実施形態と同様の事項についてはその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0053】
図6に示す医療用ガイドワイヤ1Eは、湾曲した部分55の少なくとも内側の、被覆部30の表面に、軸にほぼ直交する方向に溝32を有する。溝32はらせん状に設けられている。溝32は湾曲した部分55の被覆部30の表面全周に設けられている。溝32は湾曲した部分55の被覆部30の表面にのみ設けられている。溝32の横断面は、図7に示されるように、波状となっている。波状の溝32は、例えば、ワイヤを被覆部30に該ワイヤの外径分の隙間を空けながら巻き付けて、加熱することにより得ることができる。
【0054】
溝32はらせん状の他に、環状であっても良い。溝32の代わりにスリット状であってもよい。溝32は湾曲した部分55の内側の被覆部30の表面にのみ設けられていてもよい。溝32は湾曲した部分55を含む先端形状部50の被覆部30の表面に設けられてもよい。
【0055】
医療用ガイドワイヤ1Eにおいて、湾曲した部分55の少なくとも内側の、被覆部30の表面に、軸方向にほぼ直交する溝32若しくはスリットを有することにより、湾曲した部分55の柔軟性が増加するので、湾曲した部分55を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。すなわち、J形状の先端部が広がった状態で血管の壁に平行に沿って滑らかに進む為、最先端部で血管壁を引掻くことがない。
【0056】
次に、本発明の医療用ガイドワイヤの一実施形態について、図8及び図9を参照しつつ説明する。前述の構成例と同様の事項についてはその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0057】
図8に示す医療用ガイドワイヤ1Fは、湾曲した部分55のコア線10は、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みは、それと直交する方向の厚みよりも小さくなっている。図9における上方向は、図8の左方向であり、湾曲した部分55の曲率半径の方向を表わしている。図9のA−A端面図に示すように、湾曲した部分55のコア線10の曲率半径方向の厚みは、該曲率半径方向と直交する方向の厚みよりも小さくなっている。湾曲した部分55のコア線10の断面は扁平であることが好ましい。湾曲した部分55のコア線10の断面は、例えば、短軸aを0.05mm、長軸bを0.19mmとすることができる。湾曲した部分55の被覆部30の断面において、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みは、それと直交する方向の厚みよりも小さくなっている。例えば、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みAを0.79mm、該曲率半径方向と直交する方向の厚みBを0.88mmとすることができる。図9のB−B端面図に示すように、先端細物部16のコア線10の断面はほぼ円形である。例えば、直径を0.11mmとすることができる。前記扁平のコア線10の断面積は、先端細物部16のコア線の前記円形の断面積とほぼ同じであることが好ましい。先端細物部16の被覆部30の断面はほぼ円形である。図9のC−C端面図に示すように、テーパ部14のコア線10の断面はほぼ円形である。テーパ部14のコア線10の断面積は、先端細物部16のコア線10の断面積よりも大きいことが好ましい。テーパ部14の被覆部30の被覆部30の断面はほぼ円形である。テーパ部14の被覆部30及びコア線10の断面積は、先端細物部16の被覆部30及びコア線10の断面積よりも大きいことが好ましい。湾曲した部分55の被覆部30及びコア線10の断面積は、先端細物部16の被覆部30及びコア線10の断面積よりも小さいことが好ましい。
【0058】
医療用ガイドワイヤ1Fにおいて、湾曲した部分55のコア線10が、湾曲した部分55の被覆部30の断面において、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みは、それと直交する方向の厚みよりも小さくなっていることにより、湾曲した部分55の柔軟性が増加するので、湾曲した部分55を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。湾曲した部分55の被覆部30の断面において、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みは、それと直交する方向の厚みよりも小さくなっていることにより、湾曲した部分55の柔軟性が増加するので、湾曲した部分55を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。扁平なコア線10の断面積が円形のコア線の断面積とほぼ同じであることにより、湾曲した部分55の強度を低下させずに柔軟にすることができる。
【0059】
次に、本発明の医療用ガイドワイヤの他の実施形態について、図10及び図11を参照しつつ説明する。前述の構成例および実施形態と同様の事項についてはその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0060】
図10に示す医療用ガイドワイヤ1Gは、先端形状部50におけるコア線10の断面中心点と被覆部30の断面中心点は位置が異なっている。図11における上方向は、図10の左方向であり、湾曲した部分55の曲率半径の方向を表わしている。図11のD−D端面図に示すように、コア線10と被覆部30の断面はいずれもほぼ円形である。コア線10の断面中心点10D(“☆”によって表わす)は、被覆部30の断面中心点30D(“◎”によって表わす)よりも、湾曲した部分55の曲率半径の方向にずれている。被覆部30の厚みは、コア線10に対して、湾曲した部分55の内側(図11における下側)の方が湾曲した部分55の外側(図11における上側)よりも厚くなっている。被覆部30の断面中心点30Dは、コア線10の断面内に位置していることが好ましい。図11のE−E端面図に示すように、コア線10の断面中心点10E(“☆”によって表わす)は、被覆部30の断面中心点30E(“◎”によって表わす)よりも、湾曲した部分55の曲率半径の方向にずれている。被覆部30の断面中心点30Eは、コア線10の断面外に位置していることが好ましい。
【0061】
医療用ガイドワイヤ1Gにおいて、先端形状部50におけるコア線10の断面中心点と被覆部30の断面中心点は位置が異なっていることにより、湾曲した部分55の柔軟性が増加するので、湾曲した部分55を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。
【0062】
本発明は、医療用ガイドワイヤ1A乃至1Gの前述した特徴部分を組み合わせてもよい。例えば、湾曲した部分55のコア線10が湾曲した部分55の曲率半径の方向の厚みが小さい医療用ガイドワイヤに、先端形状部50におけるコア線10の断面中心点と被覆部30の断面中心点は位置が異なるように構成してもよい。また、医療用ガイドワイヤ1A乃至1Cの中から1つの特徴部分と、医療用ガイドワイヤ1F乃至1Gの前記特徴部分の1つ又は複数を組み合わせて構成してもよい。
【0063】
本発明の医療用ガイドワイヤは、ラディアルやブラキアルおよびフェモラルから、カテーテルやシース等の医療器具を、胸部や腹部等の目的とする部位まで導入する為に使用することが可能であり、穿刺部位や目的部位によって適応範囲が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0064】
1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G 医療用ガイドワイヤ
10 コア線
10D 断面中心点
10E 断面中心点
12 先端部
14 テーパ部
14a テーパ起始部
14b テーパ終了部
16 先端細物部
30 被覆部
30D 断面中心点
30E 断面中心点
32 溝
50 先端形状部
55 湾曲した部分
70 コイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療または検査を目的として使用されるカテーテルやイントロデューサーキット等の医療用具を、血管内の所望の部位まで導入する為に使用される医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用ガイドワイヤは、血管の診断および治療を経皮的に行う際に、カテーテルやイントロデューサーキット等の医療用具を血管内に導入、留置する際に使用される。カテーテル等の医療用具を血管に導入する際の部位は、従来フェモラル(大腿部)が主流であったが、近年患者に対する負担を軽減する為に、ブラキアル(上腕部)や特にラディアル(手首部)に移行しつつあり、分岐や蛇行を有することが多い腕部血管内で安全に用いることができ、かつ操作性に優れる、先端に例えばJ型形状を有する医療用ガイドワイヤが望まれている。
【0003】
従来、先端にJ型形状を有する医療用ガイドワイヤを導入針やカテーテル等に挿入する際、挿入を容易にする為の補助器具(インサーター)が用いられてきたが、特にJ型形状のカーブ部分の曲率半径が小さい場合は、カテーテルの交換等の際に医療用ガイドワイヤを血管内から抜去して再度インサーターに挿入する操作が煩雑であった。
【0004】
上記の点を解決する為に、医療用ガイドワイヤの先端形状に関して先端直線部の方向延長線とワイヤー基線のなす角度を40〜70°とすることにより、導入針やカテーテル、シース等にワイヤーを挿入する際の補助器具を不要としたものとして、特許文献1に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−181184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来用いられて来た、先端がJ型に形状付けされた医療用ガイドワイヤの場合、先端形状部の硬さが一様であったり、J形状部基端側のコシ(硬さ)が不十分である為に、導入針やカテーテル、シースに挿入する際の操作性が悪い場合が多かった。
【0007】
また、カテーテルの交換等、診断あるいは治療中に医療用ガイドワイヤを体外に抜去して、再度挿入する操作は頻繁に行われる操作であり、その場合従来のJ型の医療用ガイドワイヤでは、再度インサーター等の挿入補助器具を使用しなければならず、その際の操作性が極端に低下することも多い為、医師に不要な作業時間とストレスを強いてきた。
【0008】
更に、特許文献1に見られる様な、インサーター等の挿入補助器具を不要とした医療用ガイドワイヤにおいても、挿入の初期段階において、比較的先端に近い部位を保持して頻繁に持ち替えながらカテーテル等に送り込む操作が必要な場合があり、操作性に関して充分良いとは言えなかった。
【0009】
上述した従来のJ型の医療用ガイドワイヤは、手首部(ラディアル)から導入する場合、血管分岐部等のきっかけがない限り元の形状に戻らず、先端部が血管壁を引掻いたり突き当たったりする為、血管壁を損傷する可能性が大きい。更に、医療用ガイドワイヤを引抜く際に、先端が血管分岐部に引っ掛った場合、先端形状部の変形のし難さから、血管壁を損傷する可能性が更に大きくなる。
【0010】
上記の課題を解決する為に、本発明者らは鋭意検討を重ねることで、J型など先端に湾曲形状を有する医療用ガイドワイヤにおいて、導入針やカテーテル、シースに挿入する際の操作性および血管やカテーテル等管腔内での医療用ガイドワイヤ先端部の挙動を決定する要素が、コア線のテーパ部における単位長さ当りの線径増加率であることを突き止め、本発明を完成させた。また、管腔内での医療用ガイドワイヤ先端部の挙動を決定する要素が、当該線径増加率と先端形状部の硬さのバランス(例えば、コア線の先端径と、先端形状に対するコア線のテーパ起始部の位置)であることを突き止め、本発明を完成させた。従来のJ型の先端形状を有する医療用ガイドワイヤと比較して、インサーター等の挿入補助器具を不要とし、各段に優れた操作性と血管壁に対する安全性を両立した医療用ガイドワイヤを提供することを可能とした。
【0011】
これを更に詳しく説明すると、J型の先端形状を有する医療用ガイドワイヤに求められる性能としては、導入針やカテーテルおよびシースへの挿入性、分岐血管への迷入防止性、ワイヤー先端部による血管を含む管腔に対する引掻きや突当たりの起こし難さが特に重要であり、これらをバランス良く実現できる医療用ガイドワイヤを提供することを可能とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記(1)〜(6)の本発明により達成される。
(1) 先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部における線径変化率が40〜55%であり、
前記先端形状部における前記コア線の断面中心点と前記被覆部の断面中心点は、位置が異なることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【0013】
(2) 前記先端細物部の断面がほぼ円形であり、その直径が0.08〜0.13mmである上記(1)に記載の医療用ガイドワイヤ。
【0014】
(3) 前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置する上記(1)または(2)に記載の医療用ガイドワイヤ。
【0015】
(4) 先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置し、
前記先端形状部における前記コア線の断面中心点と前記被覆部の断面中心点は、位置が異なることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【0016】
(5) 前記湾曲した部分の前記コア線は、扁平である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【0017】
(6) 先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置し、
前記湾曲した部分の前記コア線は、扁平であり、前記湾曲した部分の断面において、前記湾曲した部分の曲率半径方向の厚みがそれと直交する方向の厚みよりも小さくなっていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医療用ガイドワイヤは、先端付近のコシ強度に優れており、インサーターを用いることなく至極簡便に導入針やカテーテルおよびシースに挿入することが可能であるので、操作性が向上する。また、湾曲した部分の柔軟性が増加するので、湾曲した部分を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】医療用ガイドワイヤの一構成例を示す断面図である。
【図2】医療用ガイドワイヤのコア線を示す側面図である。
【図3】医療用ガイドワイヤの他の構成例を示す断面図である。
【図4】医療用ガイドワイヤの他の構成例を示す断面図である。
【図5】医療用ガイドワイヤの他の構成例を示す断面図である。
【図6】医療用ガイドワイヤの他の構成例を示す断面図である。
【図7】図6の拡大部分端面図である。
【図8】本発明の医療用ガイドワイヤの一実施形態を示す断面図である。
【図9】図8の拡大部分端面図である。
【図10】本発明の医療用ガイドワイヤの他の実施形態を示す断面図である。
【図11】図10の拡大部分端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、医療用ガイドワイヤの一構成例を示す断面図であり、図2は、医療用ガイドワイヤのコア線を示す側面図である。
【0021】
まず、本発明の医療用ガイドワイヤの構成を、医療用ガイドワイヤの一構成例である医療用ガイドワイヤ1Aに基づいて説明する。医療用ガイドワイヤ1Aは、図1に示すように、先端部12を有するコア線10と、少なくともコア線10の先端部12を覆い、樹脂にて構成された被覆部30を有する。医療用ガイドワイヤ1Aには湾曲した部分を有する先端形状部50を有する。コア線10の先端部12には、図2に示すように、連続的に外径が変化するテーパ部14及びその先端側に有する先端細物部16を備えている。テーパ部14は、基端側に向かって外径が増加し始めるテーパ起始部14aと外径の増加が終わるテーパ終了部14bを有している。
【0022】
本発明における線径変化率は次のように求められる。図2に示すように、テーパ起始部14aの外径をφ1(mm)、テーパ終了部14bのコア外径をφ2(mm)、テーパ起始部14aからテーパ終了部14bまでの長さをL1(cm)とすると、テーパ部14の線径増加率αは、(((φ2−φ1)/φ1)×100)/L1、即ち1cm当たりの線径増加率として求められる。本発明においてαは40〜55%、より好ましくは45〜50%である。αが40%未満であると、カテーテル等へ挿入する初期段階で医療用ガイドワイヤを保持する位置はテーパ終了部14bより先端側となり、頻繁な持ち替えが必要となる。よって、医療用ガイドワイヤをカテーテル等に挿入する作業に負担を強いられる。医療用ガイドワイヤの先端部付近を保持すると、表面の潤滑性コーティングに影響を与えて滑りを損なったり、コア線の素材によっては過度に強く保持することによって曲がり癖をつけてしまったりする可能性が高くなる。αが55%より大きいと、挿入性は向上する傾向があるが、カテーテル内における操作性が劣る。また、血管内において医療用ガイドワイヤ先端がトラップされた場合に万が一コア線が破断する可能性が否定できない。
【0023】
本発明の医療用ガイドワイヤにおけるコア線10はその外径が0.33〜0.82mmである。また、コア線10の先端細物部16の断面がほぼ円形であり、その外径は0.08〜0.13mmであることが好ましく、より好ましくは0.08〜0.12mmである。カテーテル内や細い血管内において、先端が開いた状態で操作される状況が多くあり、近年、コア線10の先端細物部16の外径が0.13mmよりも大きいと、「先端が硬くて操作し難い」として忌避される傾向にある。また、コア線10の先端細物部16の外径が0.08mmより小さい場合先端の柔らかさは増すものの、製造が困難である上、引張り荷重に対して弱くなり、実使用を考えた場合体内で破断する危険性が大きくなると予想される為、好ましくない。先端細物部16の断面は、長方形や長円などの扁平な形状であってもよい。先端細物部16はテーパ部14よりも柔軟であることによって、先端細物部16が先行して血管内を進む場合でも血管に損傷を与える可能性が低くなる。
【0024】
コア線10の先端細物部16の長さは8〜15mmであることが好ましく、11〜15mmであることがより好ましい。先端細物部16が上記範囲にあることによって、特に下腕部における血管側枝に迷入しにくく、かつ、医療用ガイドワイヤの先端が血管壁を擦過しにくくなる。
【0025】
先端細物部16の断面形状は円形である。先端細物部16の断面形状は、その長さ方向でほぼ同じであるが、図3に医療用ガイドワイヤ1Bとして示すように、先端方向に徐々に細くなっていてもよい。徐々に細くすることによって、先端形状部50を広げた状態で血管内に進めたときに、医療用ガイドワイヤの最先端部分が最も柔軟であり血管内壁の損傷を防ぐ効果を更に高くすることができる。先端細物部16が先端方向に徐々に細くなる場合、その外径の変化率は前述した線径増加率αよりも小さいことが好ましい。先端細物部16の断面が扁平である場合、先端方向に徐々に断面積が小さくなることが好ましい。先端細物部16は、図1においては直線状であるが、先端形状部50と異なる方向に湾曲していても良い。例えば、先端細物部16は先端形状部50と反対の方向に湾曲することが好ましい。先端細物部16の最先端は、前記湾曲した部分によって形成される平面から所定角度(20〜90°)の方向に湾曲していても良い。
【0026】
医療用ガイドワイヤ1Aには、湾曲した部分を有する先端形状部50を有している。先端形状部50としては、図1のように、いわゆる「J型」と呼ばれる形状のほか、くちばし状や、J型とアングル型を組み合わせた形状が挙げられる。先端形状部50を有することにより、血管内表面に突き当たっても力が分散して影響が抑制される。
【0027】
医療用ガイドワイヤ1Aにおけるコア線10の先端部12のテーパ起始部14aは、先端形状部50の湾曲した部分にあることが好ましく、図1に示すように基端側から先端側を見た場合最も突出する部分(J形状の頂点T)に相当する位置の付近であることがより好ましい。医療用ガイドワイヤをカテーテル等へ挿入する際、J形状が広げ伸ばされた状態になる必要があるが、J形状等のカーブ部分(先端形状部50)の硬さに適度な異方性を付与することで、先端側の高い可撓性(広がり易さ)と基端側のコシの強さ(押込み易さ)を実現できる。
【0028】
即ちテーパ起始部がJ形状等のカーブ部分より基端側にある場合、形状部分の硬さがほぼ一様(等方性)となる。しがたって、基端側のコシの強さが不足する為、カテーテル等への挿入性改善にあまり寄与しない。逆に、テーパ起始部14aがJ形状のカーブより先端側にある場合、J形状部を広げる為に必要な力(先端形状部の広げ荷重)が大きくなる可能性がある。
【0029】
コア線10の先端部12のテーパ起始部14aが、先端形状部50の湾曲した部分にあることにより、基端側のコシの強さが生かされる為、カテーテル等への挿入性が改善される。また、J形状部を広げる為に必要な力(先端形状部の広げ荷重)が小さくて済むのでカテーテル等の内腔が小さい管腔内を通過し安くなる上、血管内の医療用ガイドワイヤを抜去する際に分岐血管に引っ掛った場合、分岐部から抜ける時に掛かる負荷が小さくなるので、分岐部への影響が少なくなる。
【0030】
コア線10の先端形状部50には、図1に示すように、コア線10の断面積が先端方向に徐々に小さくなる部分を有している。
【0031】
図3は、テーパ起始部14aが先端形状部50の湾曲した部分(湾曲部)の先端部と基端部の間にある他の実施態様を示す。この医療用ガイドワイヤ1Bは、テーパ起始部14aが先端形状部50の頂点Tよりも基端側でかつ湾曲部分の基端部よりも先端側にある。また、図4の医療用ガイドワイヤ1Cも、テーパ起始部14aが先端形状部50の頂点Tよりも基端側、かつ湾曲部分の基端部よりも先端側にある。図5の医療用ガイドワイヤ1Dは、テーパ起始部14aが先端形状部50の頂点Tよりも先端側、かつ湾曲部分の先端部よりも基端側ある。
【0032】
本発明の医療用ガイドワイヤにおけるコシ強度は、医療用ガイドワイヤ1Aにおける先端形状部50の頂点から30mm基端側のコシ強度は1.5gf以上であることが好ましく、2.0gf以上であることがより好ましい。上記位置のコシ強度が1.5gfより小さいと、カテーテル等へ挿入する初期段階において、J形状を広げ伸ばしたことによる押込み抵抗に勝てなくなり、頻繁に持ち替える必要が生じ、作業が煩雑となる為、好ましくない。このコシ強度は次のように求められる。医療用ガイドワイヤの先端形状部の頂点から50mmの位置を水平に固定し、先端形状部の頂点から30mmの位置を5mm/minで2mm押し下げた時の最大荷重を3回測定した平均値にて求められる。
【0033】
本発明の医療用ガイドワイヤにおける先端形状部の広げ荷重は15gf以下であることが好ましく、10gf以下であることがより好ましい。更には6〜10gfであることが好ましい。先端形状部の広げ荷重が15gfより大きいと、カテーテル等の内腔が小さい管腔内での通過性が悪化し、医療用ガイドワイヤ抜去時の危険性(分岐血管に引っ掛って抜ける時の、分岐部分に掛かる負荷)が大きくなる為、好ましくない。先端形状部の広げ荷重は、内径2mmのポリエチレンチューブに5mm/minで先端形状部を引込む時の最大荷重を3回測定して平均した値として求めることができる。
【0034】
医療用ガイドワイヤ1Aにおいて先端形状部50は、湾曲した部分を有するが、その湾曲した部分の曲率半径は、図1に示すようにrで示され、そのrは1〜3mmであることが好ましく、1.5〜2mmであることがより好ましい。穿刺部位がラディアルの場合、血管の内径は3〜5mmであることが多い為、曲率半径が3mmより大きいと血管内での抵抗が大きくなり操作性が悪化する上、血管壁を押し広げることで傷付ける可能性が生じる為好ましくない。また、曲率半径が小さくなる程、カテーテル等へ挿入する際、入口部に引っ掛かり難くなり、挿入性が低下する傾向がある為、1mm以上であることが好ましい。
【0035】
本発明の医療用ガイドワイヤにおける先端形状部50の開き角度は、図1に示すようにbで示される。この開き角度bは、0〜30°であることが好ましく、10〜20°であることがより好ましい。前記曲率半径と同様に、先端部の開き角度が小さい程、カテーテル等へ挿入する際、入口部に引っ掛かり難くなり挿入性が低下する傾向があり、開き角度が0°より小さいと操作性が極端に悪化する為、好ましくない。逆に開き角度が大きい程、挿入性は向上するが、開き角度が30°より大きいと、血管壁に対する医療用ガイドワイヤ先端部の角度が大きくなることで血管壁を擦過し易くなる上、抜去する際に分岐血管に引っ掛り易くなる為、血管壁を傷付ける可能性が高くなる。例えば、図1及び図5の実施態様は、開き角度が20°であり、図3及び図4の実施態様は開き角度が10°である。
【0036】
コア線10として用いられる材料としては、Ni−Ti系合金、ステンレス鋼、Cu系合金、Al系合金等の金属材料や合成樹脂など、該用途に用いられる特性を有するものであれば適宜選択して使用できるが、しなやかさの点でNi−Ti系合金が好ましい。
【0037】
コア線10の先端部12は被覆部30にて覆われている。医療用ガイドワイヤ1Aにおいてはコア線10全体を被覆部30にて覆われているが、先端部12以外は被覆部30のない態様もある。また、後述するように先端部12を親水性コーティングの施すことが可能な樹脂にて覆い、基端部は他の樹脂、例えばシリコーンやフッ素樹脂にて覆ってもよい。
【0038】
被覆部30の樹脂材料としては、コア線10に対する被覆性および樹脂外表面に潤滑性のコーティング施す必要から、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリオレフィンエラストマーや、フッ素や塩素等を含む高分子を主成分とするポリマーアロイ等、コア線を湾曲する際に妨げとならない程度の柔軟性を有する高分子材料が用いられ、外表面は血管内での操作に支障を来たさない程度に滑らかに成型される。また、該被覆材料中にはタングステン、ビスマス、バリウム等、X線造影性の高い金属微粒子を混合させることも可能である。
【0039】
上記被覆材料の外表面は、導入針やカテーテルおよびシースの内表面、更には血管内壁との摩擦抵抗を減少し、良好な操作性を実現する為に、親水性高分子によるコーティングが施される。
【0040】
該親水性高分子としては、ビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体塩、ポリエーテル類、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリビニルピロリドン等の親水基を多数有する高分子が用いることができる。
【0041】
医療用ガイドワイヤ1Aは、導入針やカテーテルおよびシースに、インサーター等の挿入補助器具を用いることなく容易に挿入できるという操作性と、心臓を含む血管内の目的部位へ導入する過程において分岐血管へ迷入することなく、血管壁を引掻いたり突き当たったりし難いという安全性を両立することできる。
【0042】
以下に医療用ガイドワイヤを参考例により説明する。
コア線10について、テーパ部のコア線径変化率(α)が40%、先端細物部16は断面が円形でありその外径(φ1)が0.11mmで、長さ約12mmで、その長さ方向でほぼ外径が同じであり、テーパ起始部14aが先端形状部50の頂点に位置する様に加工して、先端形状部50の開き角度bが約20°で曲率半径2mmのJ形状としたNi−Ti合金製コア線を作製し、その後、その外表面にウレタン樹脂を被覆し、更にその表面に潤滑性コーティングを施した、基端部外径が0.85mmの医療用ガイドワイヤを作製した。この医療用ガイドワイヤを参考例1とした。この医療用ガイドワイヤは、コシ強度は1.8gfで、広げ荷重は8.8gfであった。
【0043】
参考例2及び参考例3として、コア線径変化率αが各々55%、47%である以外は参考例1と同じ材料と構造である医療用ガイドワイヤを作製した。参考例2と参考例3の医療用ガイドワイヤは、夫々コシ強度は3.3gf、2.8gfで、広げ荷重は13.2gf、10.6gfであった。
【0044】
比較例1として、コア線径変化率αが33%である以外は参考例1と同じ材料および構造である医療用ガイドワイヤを作製した。また、比較例2として、コア線径変化率αが20%、テーパ起始部が先端形状の頂点から基端側に30mmにあって先端形状部にない医療用ガイドワイヤを作製した。さらに、比較例3としてコア線径変化率αを66%とした以外は、参考例1と同じ材料および構造である医療用ガイドワイヤを作製した。比較例1〜3の医療用ガイドワイヤについて、コシ強度は各々1.3gf、0.6gf、4.0gfで、広げ荷重は各々6.7gf、4.5gf、15.5gfであった。
【0045】
挿入性を比較する試験を次のように行った。医療用ガイドワイヤの先端形状部よりも基端側の任意位置を保持し、4フレンチの血管造影カテーテルへの挿入が可能となる先端形状部の頂点から保持位置までの最大距離を3回測定した。その結果、参考例1は、平均で8cm、参考例2は平均で10cm、参考例3は平均で9cmであった。
【0046】
本参考例の医療用ガイドワイヤにおいては、コア線のテーパ終了部は先端形状の頂点からほぼ70mmの位置であることから、αが40%以上であれば、医療用ガイドワイヤの硬さが一様となるシャフト部分を保持した状態であってもカテーテル等へ挿入可能であることを意味している。医療用ガイドワイヤの先端部分は極めて柔軟性が高く血管内の摺動性を左右するデリケートな部分であるので、医療用ガイドワイヤ挿入の初期段階において、頻繁な持ち替え等の作業負担を大幅に軽減できることは、臨床的な意義が大きい。
【0047】
比較例1について、同様の測定を実施した結果、最大距離の平均値は5cmであり、挿入初期段階において先端形状部の頂点から3cm付近が撓むことで腰砕け気味になり、持ち替え操作がやや煩雑であった。また、比較例2については、最大距離の平均値は2cmであり、挿入初期段階における持ち替え操作が更に煩雑であった。更に、比較例3は、最大距離の平均値は12cmであった。
【0048】
次に、捻り試験を次のように行った。医療用ガイドワイヤの被覆を除去した後、コア線の先端部を固定し50cmのスパンで200gfの荷重を掛けながら同一方向へ連続して捻り、破断するまでの捻り回数(捻り破断強度)を3回測定した。
【0049】
参考例2のコア線については、平均値で9回であり、最小値で7回であった。従来、医療現場で用いられて来た様々なタイプの医療用ガイドワイヤにおいて、捻り破断強度が最も低い物で本参考例と同レベルであり、実使用を考えた場合「同一方向へ5回転しても破損しない」ことが必要と考えられる為、許容できるレベルであるといえる。一方、比較例3のコア線は、破断までの平均捻り回数は6回であり、最小値は4回であったことから、実使用を考えた場合、許容されるレベルではないといえる。
【0050】
次に、参考例2の医療用ガイドワイヤを、下腕部を想定した内径3mmのシリコンチューブに6Frのシースを通して挿入した時の挙動を確認した結果、J形状が広げ伸ばされた状態でチューブ内を進むが、J形状の先端部がチューブの壁に平行に沿って滑らかに進む為、最先端部で壁を引掻くことはなかった。更に、医療用ガイドワイヤの先端部が血管分岐を想定して設置したト字状の分岐部(入口部の長径が約4mm)を乗り越えて進む為、枝管には誤進入しなかった。
【0051】
次に、比較例3の医療用ガイドワイヤを用いた血管モデルでの挙動は参考例2とほぼ同様であったが、カテーテル内に押込んで行く際の抵抗感が大きかった。このことから、テーパ部の線径変化率が大き過ぎると、医療用ガイドワイヤの操作性が悪化することが確認できた。
【0052】
次に、本発明の医療用ガイドワイヤの他の実施形態について、図6及び図7を参照しつつ説明する。前述の実施形態と同様の事項についてはその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0053】
図6に示す医療用ガイドワイヤ1Eは、湾曲した部分55の少なくとも内側の、被覆部30の表面に、軸にほぼ直交する方向に溝32を有する。溝32はらせん状に設けられている。溝32は湾曲した部分55の被覆部30の表面全周に設けられている。溝32は湾曲した部分55の被覆部30の表面にのみ設けられている。溝32の横断面は、図7に示されるように、波状となっている。波状の溝32は、例えば、ワイヤを被覆部30に該ワイヤの外径分の隙間を空けながら巻き付けて、加熱することにより得ることができる。
【0054】
溝32はらせん状の他に、環状であっても良い。溝32の代わりにスリット状であってもよい。溝32は湾曲した部分55の内側の被覆部30の表面にのみ設けられていてもよい。溝32は湾曲した部分55を含む先端形状部50の被覆部30の表面に設けられてもよい。
【0055】
医療用ガイドワイヤ1Eにおいて、湾曲した部分55の少なくとも内側の、被覆部30の表面に、軸方向にほぼ直交する溝32若しくはスリットを有することにより、湾曲した部分55の柔軟性が増加するので、湾曲した部分55を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。すなわち、J形状の先端部が広がった状態で血管の壁に平行に沿って滑らかに進む為、最先端部で血管壁を引掻くことがない。
【0056】
次に、本発明の医療用ガイドワイヤの一実施形態について、図8及び図9を参照しつつ説明する。前述の構成例と同様の事項についてはその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0057】
図8に示す医療用ガイドワイヤ1Fは、湾曲した部分55のコア線10は、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みは、それと直交する方向の厚みよりも小さくなっている。図9における上方向は、図8の左方向であり、湾曲した部分55の曲率半径の方向を表わしている。図9のA−A端面図に示すように、湾曲した部分55のコア線10の曲率半径方向の厚みは、該曲率半径方向と直交する方向の厚みよりも小さくなっている。湾曲した部分55のコア線10の断面は扁平であることが好ましい。湾曲した部分55のコア線10の断面は、例えば、短軸aを0.05mm、長軸bを0.19mmとすることができる。湾曲した部分55の被覆部30の断面において、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みは、それと直交する方向の厚みよりも小さくなっている。例えば、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みAを0.79mm、該曲率半径方向と直交する方向の厚みBを0.88mmとすることができる。図9のB−B端面図に示すように、先端細物部16のコア線10の断面はほぼ円形である。例えば、直径を0.11mmとすることができる。前記扁平のコア線10の断面積は、先端細物部16のコア線の前記円形の断面積とほぼ同じであることが好ましい。先端細物部16の被覆部30の断面はほぼ円形である。図9のC−C端面図に示すように、テーパ部14のコア線10の断面はほぼ円形である。テーパ部14のコア線10の断面積は、先端細物部16のコア線10の断面積よりも大きいことが好ましい。テーパ部14の被覆部30の被覆部30の断面はほぼ円形である。テーパ部14の被覆部30及びコア線10の断面積は、先端細物部16の被覆部30及びコア線10の断面積よりも大きいことが好ましい。湾曲した部分55の被覆部30及びコア線10の断面積は、先端細物部16の被覆部30及びコア線10の断面積よりも小さいことが好ましい。
【0058】
医療用ガイドワイヤ1Fにおいて、湾曲した部分55のコア線10が、湾曲した部分55の被覆部30の断面において、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みは、それと直交する方向の厚みよりも小さくなっていることにより、湾曲した部分55の柔軟性が増加するので、湾曲した部分55を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。湾曲した部分55の被覆部30の断面において、湾曲した部分55の曲率半径方向の厚みは、それと直交する方向の厚みよりも小さくなっていることにより、湾曲した部分55の柔軟性が増加するので、湾曲した部分55を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。扁平なコア線10の断面積が円形のコア線の断面積とほぼ同じであることにより、湾曲した部分55の強度を低下させずに柔軟にすることができる。
【0059】
次に、本発明の医療用ガイドワイヤの他の実施形態について、図10及び図11を参照しつつ説明する。前述の構成例および実施形態と同様の事項についてはその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0060】
図10に示す医療用ガイドワイヤ1Gは、先端形状部50におけるコア線10の断面中心点と被覆部30の断面中心点は位置が異なっている。図11における上方向は、図10の左方向であり、湾曲した部分55の曲率半径の方向を表わしている。図11のD−D端面図に示すように、コア線10と被覆部30の断面はいずれもほぼ円形である。コア線10の断面中心点10D(“☆”によって表わす)は、被覆部30の断面中心点30D(“◎”によって表わす)よりも、湾曲した部分55の曲率半径の方向にずれている。被覆部30の厚みは、コア線10に対して、湾曲した部分55の内側(図11における下側)の方が湾曲した部分55の外側(図11における上側)よりも厚くなっている。被覆部30の断面中心点30Dは、コア線10の断面内に位置していることが好ましい。図11のE−E端面図に示すように、コア線10の断面中心点10E(“☆”によって表わす)は、被覆部30の断面中心点30E(“◎”によって表わす)よりも、湾曲した部分55の曲率半径の方向にずれている。被覆部30の断面中心点30Eは、コア線10の断面外に位置していることが好ましい。
【0061】
医療用ガイドワイヤ1Gにおいて、先端形状部50におけるコア線10の断面中心点と被覆部30の断面中心点は位置が異なっていることにより、湾曲した部分55の柔軟性が増加するので、湾曲した部分55を広げた状態で血管に挿入しても血管壁に損傷を与えにくい。
【0062】
本発明は、医療用ガイドワイヤ1A乃至1Gの前述した特徴部分を組み合わせてもよい。例えば、湾曲した部分55のコア線10が湾曲した部分55の曲率半径の方向の厚みが小さい医療用ガイドワイヤに、先端形状部50におけるコア線10の断面中心点と被覆部30の断面中心点は位置が異なるように構成してもよい。また、医療用ガイドワイヤ1A乃至1Cの中から1つの特徴部分と、医療用ガイドワイヤ1F乃至1Gの前記特徴部分の1つ又は複数を組み合わせて構成してもよい。
【0063】
本発明の医療用ガイドワイヤは、ラディアルやブラキアルおよびフェモラルから、カテーテルやシース等の医療器具を、胸部や腹部等の目的とする部位まで導入する為に使用することが可能であり、穿刺部位や目的部位によって適応範囲が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0064】
1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G 医療用ガイドワイヤ
10 コア線
10D 断面中心点
10E 断面中心点
12 先端部
14 テーパ部
14a テーパ起始部
14b テーパ終了部
16 先端細物部
30 被覆部
30D 断面中心点
30E 断面中心点
32 溝
50 先端形状部
55 湾曲した部分
70 コイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部における線径変化率が40〜55%であり、
前記先端形状部における前記コア線の断面中心点と前記被覆部の断面中心点は、位置が異なることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記先端細物部の断面がほぼ円形であり、その直径が0.08〜0.13mmである請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置する請求項1または2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置し、
前記先端形状部における前記コア線の断面中心点と前記被覆部の断面中心点は、位置が異なることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
前記湾曲した部分の前記コア線は、扁平である請求項1ないし4のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置し、
前記湾曲した部分の前記コア線は、扁平であり、前記湾曲した部分の断面において、前記湾曲した部分の曲率半径方向の厚みがそれと直交する方向の厚みよりも小さくなっていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項1】
先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部における線径変化率が40〜55%であり、
前記先端形状部における前記コア線の断面中心点と前記被覆部の断面中心点は、位置が異なることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記先端細物部の断面がほぼ円形であり、その直径が0.08〜0.13mmである請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置する請求項1または2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置し、
前記先端形状部における前記コア線の断面中心点と前記被覆部の断面中心点は、位置が異なることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
前記湾曲した部分の前記コア線は、扁平である請求項1ないし4のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
先端部を有するコア線と、少なくとも前記コア線の先端部を覆い、樹脂にて構成された被覆部とからなり、湾曲した部分を有する先端形状部を有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コア線の前記先端部には、連続的に外径が変化するテーパ部と、該テーパ部の先端側に位置し、前記テーパ部よりも柔軟な先端細物部とが設けられており、
前記テーパ部は、起始部と終了部を有し、前記起始部が前記先端形状部の前記湾曲した部分に位置し、
前記湾曲した部分の前記コア線は、扁平であり、前記湾曲した部分の断面において、前記湾曲した部分の曲率半径方向の厚みがそれと直交する方向の厚みよりも小さくなっていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−11247(P2012−11247A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229262(P2011−229262)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【分割の表示】特願2005−294010(P2005−294010)の分割
【原出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【分割の表示】特願2005−294010(P2005−294010)の分割
【原出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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