説明

医療用ゴム栓

【課題】 針刺し特性に優れ、かつ液漏れシール性及び滅菌安定性等が良好な医療用ゴム栓を提供する。
【解決手段】 成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または水添ブロック共重合体 5〜95重量%と、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤 5〜95重量%との合計100重量%に対して、成分(C):ポリオレフィン系樹脂 1〜45重量%を含有してなる樹脂組成物を成形して得られ、かつ分子量:250,000〜350,000と、100,000〜150,000の範囲にそれぞれ少なくとも一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有する医療用ゴム栓。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物を成形して得られる医療用ゴム栓に関する。詳細には、本発明は特に針刺し特性に優れ、かつ液漏れシール性や滅菌安定性、成形加工性が良好な医療用ゴム栓に関する。
【背景技術】
【0002】
輸液バッグとは、生体に血液製剤や点滴注射液などの液体を注入する際、あるいはこれらを保存する際に使用される容器を意味する。現在、輸液バッグにはガラス製、プラスチック製などが用いられ、容器の開口部には中に充填された液体(内容液)が漏洩しないようにゴム栓が嵌合されている。輸液バッグを使用する際は、ゴム栓に対して金属針ないしはプラスチック針などの注射針が刺し込まれ、それを通じて内容液を取り出すのが一般的である。
上記の使用において、注射針は治療に応じた時間でゴム栓より抜かれるが、内容液が完全に消費された後に抜かれるものばかりではなく、内容液が輸液バッグ中に残っている状態で抜かれる場合もある。その際にゴム栓に対して要求される特性が液漏れシール性である。このシール性が不十分である場合、注射針を刺したところに形成された孔から内容液が漏洩する場合や飛散する場合がある。
【0003】
旧来、輸液バッグ用のゴム栓には液漏れシール性に優れたイソプレンゴム等の加硫ゴムが多く使用されているが、加硫ゴムは医療用用品に適さない添加剤が含まれていることに加え、成形加工性にも劣る。また、輸液バッグの主流がガラス製からプラスチック製へと変遷していくに当たり、プラスチック製の輸液バッグ本体と二色成形で融着嵌合させることが可能であることから、熱可塑性エラストマー製のゴム栓を用いる試みが行われている(特許文献1)。
【0004】
その中でもスチレン系エラストマーはゴム弾性に優れることから、加硫ゴム代替が最も期待される材料として検討され、特定の硬度範囲にあるスチレン系エラストマーが液漏れシール性、刺通強度、ハンドリング性のバランスに優れるということが開示されている(特許文献2)。
更に、1,4−ミクロ構造を有するイソプレンを含んだスチレン系エラストマーが、高い液漏れシール性を発現するということが開示されている(特許文献3)。また、石油樹脂を添加するという技術も開示されている(特許文献4)。
【0005】
しかし、これらの従来技術は何れも、針を刺しておく時間が短時間の使用を前提とした液漏れシール性については比較的良好な性能を有するものの、針を長時間刺した状態で保持し、その後針を抜いた場合においては十分な液漏れシールを発揮しないことが判明した。従って、不足した液漏れシール性を補うため、熱可塑性エラストマー製のゴム栓は、加硫ゴム製のゴム栓よりも厚く成形されるのが常である。
【0006】
ところで、輸液バッグの内容液を取り出す際に用いられる注射針としては、従来、金属針(金属製の針)が一般的であったが、金属針をプラスチック針(樹脂製の針)に代替する動きが旺盛である。これは、輸液バッグやチューブ等、注射針以外の輸液セットがプラスチック製であるため、注射針をプラスチック製にすれば分別する必要がなく廃棄が簡便であるためである。また、注射針を分別する必要が無いため、分別作業者が誤って皮膚に刺すことが無く、安全性の向上という観点からも望まれている。
【0007】
しかし、プラスチック針は金属針と比較して剛性が低いことから、同等の強度を確保し
ようとすると針の径を大きくする必要があり、それに伴ってゴム栓に針を貫通させる際の抵抗(刺通抵抗)が大きくなってしまう。加硫ゴム製のゴム栓は成形品厚みが薄いことから、プラスチック針を用いても大きな支障はないが、熱可塑性エラストマー製のゴム栓は、前述の通り成形品を厚くする必要があるため、刺通抵抗を低くすることが強く望まれている。加えて昨今、プラスチック製の輸液バッグ本体も肉薄化の傾向があるが、ゴム栓の刺通抵抗が高い場合、注射針を上手く刺せずに輸液バッグ本体が折れ曲がることも懸念される。また、針の径が大きくなることにより、液漏れシール性に関しても、より高い性能が要求されている。
このため、熱可塑性エラストマー製ゴム栓の液漏れシール性及び刺通抵抗の性能改善は急務であるが、未だ達成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−59287号公報
【特許文献2】特開平7−228749号公報
【特許文献3】特開平9−601号公報
【特許文献4】特開2007−169436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、針刺し特性に優れ、かつ液漏れシール性及び滅菌安定性等が良好な医療用ゴム栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、特定の化学構造/及び分子量分布を有するブロック共重合体を一成分として用い、更に特定量のポリオレフィン系樹脂及び炭化水素系ゴム用軟化剤を配合した熱可塑性エラストマーが、輸液バッグ用のゴム栓として高い性能を発現し、従来の課題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[11]を要旨とする。
[1] 成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックP及び共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体、ならびに該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体のうち少なくとも一方と、
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤と、
成分(C):ポリオレフィン系樹脂と、を含有する樹脂組成物を成形して得られる医療用ゴム栓であって、
該樹脂組成物中、成分(A)5〜95重量部及び成分(B)5〜95重量部の合計100重量部に対して成分(C)の含有量は1〜45重量部であり、
該樹脂組成物がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する医療用ゴム栓。
[2] 樹脂組成物がさらに、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する上記[1]に記載の医療用ゴム栓。
【0012】
[3] 成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックP及び共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体、ならびに該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体のうち少なくとも一方と、
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤と、
成分(C):ポリオレフィン系樹脂と、を含有する樹脂組成物を成形して得られる医療用ゴム栓であって、
該樹脂組成物中、成分(A)5〜95重量部及び成分(B)5〜95重量部の合計100重量部に対して成分(C)の含有量は1〜45重量部であり、
該成分(A)がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する医療用ゴム栓。
[4] 成分(A)がさらに、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する上記[3]に記載の医療用ゴム栓。
【0013】
[5] ピーク分離して得られた(A−1)の範囲に有するピークと(A−2)の範囲に有するピークとのピークシグナル強度比〔A−1/A−2〕が25/75〜95/5である、上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
[6] 成分(A)が重合体ブロックPを10重量%以上含有する上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
[7] 重合体ブロックQが、共役ジエンとしてイソプレンに由来するモノマーを有し、重合体ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4−付加構造が60〜100重量%である、上記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
[8] 成分(B)が、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、および炭素原子芳香族系オイルからなる群より選択される1種以上を含む上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
[9] 成分(C)がパーオキサイド分解型のポリオレフィン系樹脂である、上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
[10] プラスチック針用に用いる、上記[1]〜[9]のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
[11] 上記[1]〜[10]のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓を有する輸液バッグ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、針刺しが容易であり、液漏れシール性等のゴム栓適性に優れた熱可塑性エラストマー製の医療用ゴム栓が提供される。本発明の医療用ゴム栓を輸液バッグに用いることにより、加硫ゴムの代替が可能であり、従来の加硫ゴム製のゴム栓と比較して、生産性や衛生性が改良された輸液バッグ用ゴム栓が提供される。
また、本発明の医療用ゴム栓は、プラスチック針を用いても針刺しが容易であり、液漏れシール性も良好であるため、輸液セットとして全プラスチック製品として廃棄が可能となる。このため、環境面および安全面においても優れた効果を有する医療用ゴム栓が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例で用いた刺通特性を評価するための冶具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明の医療用ゴム栓は、少なくとも以下の成分(A)(B)及び(C)を含有してなる樹脂組成物を成形して得られるものである。
【0017】
<成分(A)>
本発明における成分(A)には、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、及び該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体が含まれる。成分(A)は上記ブロック共重合体及び水添ブロック共重合体のうち少なくとも一方を含む。
ここで、「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体」とは、ビニル芳香族化合物を主体とする単量体を重合したものを意味し、「共役ジエンを主体とする重合体」とは、共役ジエンを主体とする単量体を重合したものを意味する。また、本発明において「主体とする」とは、50モル%以上であることを意味する。
【0018】
重合体ブロックP(以下「ブロックP」という場合がある)を構成する単量体のビニル芳香族化合物は限定されないが、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。なお、ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0019】
重合体ブロックQ(以下「ブロックQ」という場合がある)を構成する単量体の共役ジエンは限定されないが、ブタジエン及びイソプレンの少なくとも一方を主体とすることが好ましく、より好ましくはブタジエン及びイソプレンである。なお、ブロックQには、共役ジエン以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
ブロックQは、重合後に有する二重結合を水素添加した水素添加誘導体であってもよい。ブロックQの水素添加率は限定されないが、80〜100重量%が好ましく、90〜100%が好ましい。ブロックQを前記範囲で水素添加することにより、得られる樹脂組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加するため、医療用ゴム栓として良好な特性とすることが出来る。なお、ブロックPが、原料としてジエン成分を用いた場合についても同様である。水素添加率は、13C−NMRにより測定することができる。
【0020】
ブロックQが水素添加誘導体であり、ブタジエンを主体として構成される場合は、ブロックQのミクロ構造中のブタジエンの1,4−付加構造が20〜100重量%であるのが好ましい。同様に、ブロックQがイソプレンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4−付加構造が60〜100重量%であるのが好ましい。何れの場合も、1,4−付加構造の比率を前記の範囲とすることにより、得られる樹脂組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加するため、医療用ゴム栓として良好な特性とすることが出来る。なお、1,4−付加構造の比率は、13C−NMRにより測定することができる。
【0021】
本発明における成分(A)は、重合体ブロックPを少なくとも2個と、重合体ブロックQを少なくとも1個有する構造であれば限定されず、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましい。さらに、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体は、水素添加誘導体(以下、「水添ブロック共重合体」と略記する場合がある)が更に好ましい。下記式(1
)又は(2)で表される共重合体が水添ブロック共重合体であると、熱安定性が良好になる。
P−(Q−P)m (1)
(P−Q)n (2)
(式中Pは重合体ブロックPを、Qは重合体ブロックQをそれぞれ表し、mは1〜5の整数を表し、nは2〜5の整数を表す)
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序−無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0022】
成分(A)が式(1)又は(2)で表される水添ブロック共重合体であり、ブロックQがブタジエンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のブタジエンの1,4−付加構造が20〜70重量%であるのが好ましい。同様に、ブロックQがイソプレンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4−付加構造が60〜100重量%であるのが好ましい。何れの場合も、1,4−付加構造の比率を前記の範囲とすることにより、得られる樹脂組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加するため、医療用ゴム栓として良好な特性とすることが出来る。
ブロック共重合体または水添ブロック共重合体(以下、まとめて「(水添)ブロック共重合体」と記す)としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表される(水添)ブロック共重合体よりも式(1)で表される(水添)ブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体が更に好ましい。
【0023】
成分(A)を構成するブロックPとブロックQとの重量割合は任意であるが、本発明における樹脂組成物の機械的強度及び熱融着強度の点からはブロックPが多い方が好ましく、一方、樹脂組成物の柔軟性、異形押出成形性、ブリードアウト抑制の点からはブロックPが少ない方が好ましい。
成分(A)中のブロックPの重量割合は、10重量%以上であるのが好ましく、15重量%以上であるのが更に好ましく、30重量%以上であるのが特に好ましく、一方、60重量%以下であるのが好ましく、50重量%以下であるのが更に好ましく、45重量%以下であるのが特に好ましい。
【0024】
本発明における成分(A)の製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。具体的には、例えば、特公昭40−23798号公報に記載された方法によりリチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体の水素添加(水添)は、例えば、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特開昭59−133203号公報及び特開昭60―79005号公報などに記載された方法により、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行うことができる。この水添処理では、重合体ブロック中のオレフィン性二重結合の50%以上が水添されているのが好ましく、80%以上が水添されているのが更に好ましく、且つ、重合体ブロック中の芳香族不飽和結合の25%以下が水添されているのが好ましい。
【0025】
このような水添ブロック共重合体の市販品としては、シェルケミカルズジャパン株式会社製「KRATON−G」、株式会社クラレ製「セプトン」、「ハイブラー」、旭化成株式会社製「タフテック」等が挙げられる。
非水添型のブロック共重合体の市販品としては、シェルケミカルズジャパン株式会社製「KRATON−A」、株式会社クラレ製「ハイブラー」の一部グレード、旭化成株式会社製「タフプレン」等が挙げられる。
【0026】
本発明における成分(A)の数平均分子量は限定されないが、通常30,000以上、好ましくは50,000以上、より好ましくは80,000以上であり、通常500,000以下、好ましくは400,000以下、より好ましくは300,000以下であるのが望ましい。成分(A)の数平均分子量が前記範囲内であると、成形性と耐熱性が良好であるので望ましい。
本発明における成分(A)の質量平均分子量は限定されないが、通常60,000以上、好ましくは80,000以上、より好ましくは100,000以上であり、通常550,000以下、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下であるのが望ましい。成分(A)の質量平均分子量が前記範囲内であると、成形性と耐熱性が良好であるので望ましい。
【0027】
本発明のうち一つの発明に係る医療用ゴム栓は、該医療用ゴム栓を構成する樹脂組成物の一成分である成分(A)が、特定の分子量分布を有することに特徴をもつ。
具体的には、成分(A)がゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する場合がある)分析によるスチレン換算分子量において、下記(A−1)および(A−2)の範囲内において、それぞれ1つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものである。更に望ましくは、下記(A−1)、(A−2)および(A−3)の範囲にそれぞれ1つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものであり、最も望ましくは下記(A−1)〜(A−4)の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものである。
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
なお、(A−4)分子量については、(A−1)との境界分子量及び(A−2)との境界分子量は含まないものとする。すなわち、(A−4)分子量は、150,000を超え、250,000未満を意味する。
ここで、本発明におけるピークショルダーとは、該ブロック共重合体のGPCピークをガウス・ニュートン法によって分離した際、そのショルダー部分を頂点としたピークが分離可能であり、最も強度の高いピークに対して1/20以上のピーク強度が得られるものを指す。
【0028】
なお、本発明において、分子量分布(数/質量平均分子量)の測定及びピーク分離に際して使用されるGPCの測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
機 器:東ソー株式会社製「HLC−8120GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel Super HM−M」
検出器:示差屈折率検出器(RI検出器/内蔵)
溶 媒:クロロホルム
温 度:40℃
流 速:0.5ml/分
注入量:20μL
濃 度:0.1wt%
較正資料:単分散ポリスチレン
較正法:ポリスチレン換算
較正曲線近似式:3次式
ピーク分離ソフト:東ソー株式会社製「DBFinderSP」
ピーク分離法:ガウス・ニュートン法
【0029】
また、ガウス・ニュートン法によって分離されて得られた(A−1)の範囲に有するピ
ークと(A−2)の範囲に有するピークとのピークシグナル強度比〔A−1/A−2〕が25/75〜95/5であることが望ましく、25/75〜90/10であることがより望ましく、25/75〜85/15であることが更に望ましい。
【0030】
以上のように、成分(A)として前記(A−1)〜(A−4)の分子量の範囲において、前記のピーク特性を有することにより、針刺し特性に優れ、かつ液漏れシール性及び滅菌安定性等が良好な医療用ゴム栓を得ることができる。その要因は明確ではないが、成分(A)が成分(C)の非晶部位と深く相溶することによって成分(A)の材料強度が低下し、それに伴い刺通強度が低く抑えられているものと推測され、かつ適度なタック感及び粘弾性を有しているために抜針の際の変形追従性が高くなり、液漏れシール性が高く得られているものと考えられる。
【0031】
本発明において、成分(A)として前記(A−1)〜(A−4)の分子量の範囲の何れかに特定のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものとするための手段は限定されないが、前記した製造方法により、製造条件を最適化することによって達成するか、または、市販品の(水添)ブロック共重合体の中から適宜選択して使用することによって達成できる。また、複数の製造品や市販品を適宜配合して使用することによって達成することもできる。
特に、異なる分子量分布を有する(水添)ブロック共重合体を複数用い、これらと後述する成分(B)及び成分(C)とを配合して樹脂組成物とするよりも、予め前記の通りGPC分析における複数のピークを有する(水添)ブロック共重合体として成分(A)を得た後、これらと後述する成分(B)及び成分(C)とを配合して樹脂組成物とする方が好ましい。
【0032】
本発明の医療用ゴム栓を構成する樹脂組成物は、成分(A)と後述する成分(B)との合計100重量部に対して、成分(A)が通常5重量部以上、好ましくは25重量部以上、より好ましくは30重量部以上であり、通常95重量部以下、好ましくは80重量部以下である。同様に、成分(B)は通常部重量%以上、好ましくは20重量部以上であり、通常95重量部以下、好ましくは75重量部以下、より好ましくは70重量部以下である。
【0033】
また、成分(A)として前記(A−1)および(A−2)の分子量の範囲に特定のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものを用いる場合、該特定のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する成分(A)と成分(B)との合計100重量部に対して、該特定のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する成分(A)が通常5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上であり、通常95重量部以下、好ましくは90重量部以下、より好ましくは85重量部以下である。同様に、成分(B)が通常5重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上であり、通常95重量部以下、好ましくは90重量部以下、より好ましくは85重量部以下である。
【0034】
<(成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤>
本発明においては、成分(B)として炭化水素系ゴム用軟化剤を用いる。炭化水素系ゴム用軟化剤としては、成分(A)への親和性が高いことから、鉱物油系又は合成樹脂系の軟化剤が好ましく、鉱物油系軟化剤がより好ましい。
鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30〜45%程度以上がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが炭素原子芳香族系オイルと各々呼ばれている。本発明における成分(B)としては、パラフィン
系オイル、ナフテン系オイル、および炭素原子芳香族系オイルから選択される何れかを用いることが好ましい。これらのうち、色相が良好であることから、パラフィン系オイルを用いることがより好ましい。合成樹脂系軟化剤としては、ポリブテン及び低分子量ポリブタジエン等が挙げられる。
なお、炭化水素系ゴム用軟化剤は、上述の各種軟化剤の何れか1種を単独で用いても、複数種の混合物でもよい。
【0035】
炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は、成形性の観点では低い方が好ましいが、溶出微粒子等の衛生性の観点からは高い方が望ましい。具体的には、20センチストークス以上であるのが好ましく、50センチストークス以上であるのが更に好ましく、また、一方、800センチストークス以下であるのが好ましく、600センチストークス以下であるのが好ましい。
炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は限定されないが、200℃以上であるのが好ましく、250℃以上であるのが更に好ましい。
【0036】
<成分(C):ポリオレフィン系樹脂>
本発明において、成分(C)としてはポリオフレィン系樹脂を用いる。ポリオレフィン系樹脂として具体的には、低密度ポリエチレン単独重合体、高密度ポリエチレン単独重合体、エチレン・αオレフィン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・4−メチル1−ペンテン共重合体、エチレン−メタクリル酸コポリマー等及びこれらの重合体を酸無水物などで変性し、極性官能基を付与したものなどが挙げられる。これらの中でも、成分(C)はパーオキサイド分解型のポリオレフィン系樹脂が好ましく、中でもプロピレン系樹脂であることが望ましい。ここでプロピレン系樹脂とはプロピレンを主体とするモノマーから得られる重合体を意味し、具体的にはプロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体等が好ましい。それらの中でもプロピレン単独重合体が特に望ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂は、上述の各種ポリオレフィン系樹脂の何れか1種を単独で用いても、複数種の混合物でもよい。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂は、JIS K7210(1999)の試験条件4に従って測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が、成形性の点では大きい方が好ましく、機械的強度の点では小さい方が好ましい。具体的には、ポリオレフィン系樹脂の230℃、2.16kg荷重におけるMFRが0.1g/10min以上であるのが好ましく、1g/10min以上であるのが更に好ましく、一方、50g/10min以下であるのが好ましく、30g/10min以下であるのがより好ましい。
【0038】
成分(C)の使用量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、1〜45重量部である。ブロッキングの抑止や成形性などの点では成分(C)が多い方が好ましいが、液漏れシール性や刺通抵抗の点では成分(C)が少ない方が好ましい。成分(C)の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、2重量部以上であるのが好ましく、一方、40重量部以下であるのが好ましく、25重量部以下であるのがより好ましい。
【0039】
<その他の成分>
本発明の医療用ゴム栓を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、上述の成分(A)〜(C)以外の樹脂や添加剤等を用いてもよい。
成分(A)〜(C)以外の樹脂としては、具体的には、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体等のエチレン
系共重合体;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂及びポリメチルメタクリレート系樹脂等アクリル/メタクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
【0040】
また、成分(A)〜(C)以外の添加剤等としては、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、光安定剤、結晶核剤、衝撃改良剤、顔料、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、相溶化剤、粘着性付与剤等が挙げられる。これらのその他の樹脂や添加剤等は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0041】
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が環境面で好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0042】
充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
本発明の輸液バッグ用ゴム栓の製造に、成分(A)〜(C)以外の樹脂や成分を用いる場合でも、本発明の輸液バッグ用ゴム栓の原料中における成分(A)〜(C)の合計量は、本発明の優れた効果の発現のしやすさ等の点から、樹脂組成物中60重量%以上であるのが好ましく、80重量%以上であるのが更に好ましい。なお、ここでの上限は、通常100重量%である。
【0043】
<樹脂組成物>
本発明の医療用ゴム栓は、上述の各成分を所定の割合で混合した樹脂組成物を、所定の形状に成形することにより得ることができる。
本発明における樹脂組成物を得る方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限は無い。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分布した樹脂組成物を得ることができる。
本発明における樹脂組成物は、前記の各原料成分をそのままドライブレンドした状態をも包含し、これを成形することによって医療用ゴム栓としてもよいが、より均一な混合・分散のためには、前記の各原料成分を、溶融混合して樹脂組成物としておくことが好ましい。溶融混合の方法としては、例えば、本発明における樹脂組成物の各原料成分等を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分等を順次溶融させながら混合しても良いし、各原料成分等の混合物をペレット化したり目的成形品を製造する際の成形時に溶融混合してもよい。
【0044】
前記の各原料成分を混合する際の混合方法や混合条件は、各原料成分等が均一に混合されれば特に制限は無いが、生産性の点からは、単軸押出機や2軸押出機のような連続混練
機及びミルロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機等の公知の溶融混練方法が好ましい。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃で行う例が多い。
本発明のゴム栓製造に用いられる樹脂組成物は、柔軟かつ成形性が良好である。
【0045】
本発明の医療用ゴム栓製造に用いられる樹脂組成物は、JIS K7210(1999)の試験条件4に従って測定した230℃、2.16kg荷重におけるMFRが、成形性の点では大きい方が好ましく、機械的強度の点では小さい方が好ましい。具体的には、樹脂組成物の230℃、2.16kg荷重におけるMFRが0.01g/10min以上であるのが好ましく、0.1g/10min以上であるのが更に好ましく、一方、100g/10min以下であるのが好ましく、50g/10min以下であるのがより好ましい。
【0046】
<医療用ゴム栓>
本発明の医療用ゴム栓は、上述の樹脂組成物をゴム栓形状に成形することにより得ることができる。本発明の医療用ゴム栓は、液漏れシール性が発現出来ればどのような形状でもよい。
本発明のうち一つの発明に係る医療用ゴム栓は、該医療用ゴム栓を構成する樹脂組成物が、特定の分子量分布を有することに特徴をもつ。
【0047】
具体的には、前記樹脂組成物がGPC分析によるスチレン換算分子量において、下記(A−1)および(A−2)の範囲内において、それぞれ1つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものである。更に望ましくは、下記(A−1)、(A−2)および(A−3)の範囲にそれぞれ1つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものであり、最も望ましくは下記(A−1)〜(A−4)の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものである。
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
なお、(A−4)分子量については、(A−1)との境界及び(A−2)との境界分子量は含まないものとする。すなわち、(A−4)分子量は、150,000を超え、250,000未満を意味する。
ここで、分子量分布(数/質量平均分子量)の測定及びピーク分離に際して使用されるGPCの測定条件、および、ピークショルダーの解釈については前記と同様である。なお、前記樹脂組成物がGPC測定の溶媒であるクロロホルムに不溶の成分を含有する場合は、不溶成分を濾過した溶液を用いて測定するものとする。
【0048】
また、ガウス・ニュートン法によって分離されて得られた(A−1)の範囲に有するピークと(A−2)の範囲に有するピークとのピークシグナル強度比が25/75〜95/5であることが望ましく、25/75〜90/10であることがより望ましく、25/75〜85/15であることが更に望ましい。
【0049】
本発明において、前記樹脂組成物が前記(A−1)〜(A−4)の分子量の範囲の何れかに特定のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有するものとするための手段は限定されないが、成分(A)、成分(B)、成分(C)のうち少なくとも一成分以上の成分の分子量を最適化したり、その配合組成を最適化することによって達成することが出来る。特に、成分(A)の分子量分布を最適化することによって達成することが好ま
しく、成分(A)を前記した製造方法により、製造条件を最適化することによって達成するか、または、市販品の(水添)ブロック共重合体の中から適宜選択して使用することによって達成できる。また、複数の製造品や市販品を適宜配合して使用することによって達成することもできる。
特に、異なる分子量分布を有する(水添)ブロック共重合体を複数用い、これらと成分(B)及び成分(C)とを配合して樹脂組成物とするよりも、予め前記の通りGPC分析における複数のピークを有する(水添)ブロック共重合体として成分(A)を得た後、これらと成分(B)及び成分(C)とを配合して樹脂組成物とする方が好ましい。
【0050】
本発明の医療用ゴム栓は、柔軟であることが好ましい。具体的には、JIS K6253(1993)に従って測定したデュロA硬度(タイプAデュロメータ硬度)が60以下であるのが好ましく、50以下であるのが更に好ましい。なお、デュロA硬度の下限としては、ベタツキ発生の点から10を下限値とするのがよい。
本発明の医療用ゴム栓は、該ゴム栓を医療用に用いる際の具体的用途に制限はないが、針刺しが容易であり、液漏れシール性が良好であることから、輸液バッグ用のゴム栓や、バイアル瓶用のゴム栓として用いる場合に好適であり、特に、輸液バッグ用のゴム栓として用いる場合に好適である。
【0051】
<医療用ゴム栓の製造方法>
本発明の医療用ゴム栓の製造方法は、シール性を発現させることが出来る形状に成形できれば特に制限はない。具体的には射出成形、圧縮成形、押出成形からの打ち抜き成形等が挙げられるが、これらのうち、成形サイクルや量産性を考えると、射出成形又は圧縮成形が好ましい。
成形時のシリンダー及びダイスの温度は、未溶融物の表面析出等による外観不良が起こり難い点では、高温であることが好ましく、溶融樹脂中に含まれる成分の中で最も融点が高い成分の融点より高温であることが更に好ましく、最も融点が高い成分の融点より10℃以上高いことが特に好ましく、最も融点が高い成分の融点より20℃以上高いことが最も好ましい。
【0052】
具体的には、成分(A)の融点が一般的に160℃〜240℃であることから、医療用ゴム栓を成形する際のシリンダー及びダイス温度は、170℃以上であることが好ましく、190℃以上であることが更に好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。一方、含有成分の熱分解による変色や物性低下を起こさないためには、成形時のシリンダー及びダイスの温度は、低い方が好ましい。成形時のシリンダー及びダイス温度の上限は250℃以下であることが好ましく、240℃以下であることが更に好ましい。
また、射出成形を行う場合の金型温度は、60℃以下であるのが好ましく、45℃以下であるのが更に好ましい。
【0053】
<輸液バッグ>
本発明の医療用ゴム栓を有する輸液バッグの形状、構造、材質等は限定されないが、通常、輸液バッグの本体、薬液を注入するためのポート、ゴム栓、キャップ等で構成される。
輸液バッグのゴム栓の形状は限定されないが、概略、円錐台状、円柱状、又は円盤状等が挙げられ、その直径は通常、10〜20mm程度である。輸液バッグのゴム栓の厚さ(注射針を刺通する方向の厚さ)も限定されないが、通常、4〜8mm程度である。一般に、輸液バッグに用いられる熱可塑性エラストマー製のゴム栓は、液漏れシール性を確保するために厚くすべきところ、刺通特性の観点から厚くすることが出来ない。しかしながら、本発明の医療用ゴム栓は液漏れシール性及び刺通特性の何れも良好であることから、厚みを8mm以上とした場合においても、輸液バッグに好適に用いることができる。
【0054】
本発明の医療用ゴム栓を有する輸液バッグは、内容物を取り出す際に金属製の注射針を用いてもプラスチック製の注射針を用いても、その他の材質の注射針を用いてもよい。また、用いる注射針の直径も限定されない。更には、注射針以外のものを用いてもよい。
一般に、大口径の注射針を用いると、液漏れシール性が不良となるが、本発明の医療用ゴム栓は液漏れシール性が良好であるため、外径が2mm以上、更には3mm以上の注射針を用いることができる。また、通常、プラスチック製の注射針を用いた場合は刺通特性も悪化するが、本発明の医療用ゴム栓は刺通特性が良好であることから、プラスチック製の注射針を用いる輸液バッグとしても好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
本発明の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。また、本発明で使用した成分(A)について詳細を表−1に示す。なお、GPCの測定条件は前記の通りである。
【0056】
<成分(A)>
(a−1) 株式会社クラレ製「セプトンKL−J3341」:スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:41重量%(13C−NMR測定値)、イソプレンの1,4−ミクロ構造比94%、ブタジエンの1,4−ミクロ構造比93%、質量平均分子量:337,000、数平均分子量:230,000。
(a−2) 株式会社クラレ製「セプトン4077」:スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:30重量%(13C−NMR測定値)、イソプレンの1,4−ミクロ構造比94%、ブタジエンの1,4−ミクロ構造比93%、質量平均分子量:381,000、数平均分子量:290,000。
【0057】
(a−3) シェル・ケミカル株式会社製「クレイトンG1633EU」:スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:30重量%(13C−NMR測定値)、ブタジエンの1,4−ミクロ構造比70%、質量平均分子量:380,000、数平均分子量:290,000。
(a−4) 株式会社クラレ製「セプトンS2063」:スチレン−イソプレン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:13重量%(カタログ値)、イソプレンの1,4−ミクロ構造比:100%、質量平均分子量:105,000、数平均分子量:49,000。
【0058】
(a−5) シェル・ケミカル株式会社製「クレイトンG1654HU」:スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:30重量%(13C−NMR測定値)、ブタジエンの1,4−ミクロ構造比70%、質量平均分子量:180,000、数平均分子量:150,000。
(a−6) 株式会社クラレ製「セプトンS4055」:スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:30重量%(13C−NMR測定値)、イソプレンの1,4−ミクロ構造比100%、質量平均分子量:288,000、数平均分子量:210,000。
【0059】
【表1】

【0060】
<成分(B)>
(b−1) 出光興産株式会社製「PW−90」:パラフィン系プロセスオイル。
<成分(C)>
(c−1) 日本ポリプロピレン株式会社製「ノバテックPP MA1Q」:ポリプロピレン単独重合体。MFR(230℃、2.16kg)22g/10分。
(c−2) 日本ポリプロピレン株式会社製「ノバテックPP FA3KM」:ポリプロピレン単独重合体。MFR(230℃、2.16kg)12g/10分。
<その他の成分>
(d−1) 丸尾株式会社製「ユカライトA−1」:炭酸カルシウム。
【0061】
〔実施例1〜6、比較例1〜5〕
<樹脂組成物の製造>
表−2に示す配合割合(重量部)に基づき、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX−30αII、シリンダー口径30mm)によって、設定温度180℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。
なお、実施例2、4〜6および比較例3については成分(A)を2種用いたが、混合された成分(A)としてのGPCの分離ピークの〔A−1/A−2〕シグナル強度比について、表−2に示す。
また、上記で得られた樹脂組成物を用いて、成分(A)と同様にGPC測定を行ったが、何れの実施例及び比較例の樹脂組成物についても、測定溶媒であるクロロホルムに溶解した成分の結果は、表−1及び表−2におけるGPCの測定結果とほぼ同様であった。
【0062】
〔メルトフローレート(MFR)〕
溶融混練して得られた樹脂組成物のMFRについて、JIS K7210(1999)に準拠し、230℃,21N(2.16kgf)または、230℃,49N(5kgf)の荷重にて測定した結果を表−2に示す。
【0063】
<成形体の製造>
上記で得られた樹脂組成物のペレットを用い、射出成形機(東芝機械株式会社製「IS−130t」)で80mm×120mm×2mmのプレートを成形し、これから物性評価用及び医療用ゴム栓特性評価用の試験片を打ち抜いた。射出成形の条件は、樹脂温度:180〜240℃、射出時間:2〜20秒、金型温度:20〜60℃、冷却時間:10〜40秒とした。
【0064】
<成形体の評価>
〔デュロA硬度〕
上記の通り射出成形して得られたプレートを用い、JIS K6253(1993)に従って測定した結果を表−2に示す。
〔引張特性〕
JIS K6251(2004)に準拠し、射出成形して得られたプレートを打ち抜いて得られる3号ダンベルの試験片を、オートグラフを用いて500mm/minの速度で引張って、破断するまでの伸び率(引張り伸び率)及び破断時の強度(引張り破断強度)を測定した。また、100%の伸び率を示したときの応力(100%モデュラス)及び300%の伸び率を示したときの応力(300%モデュラス)も併せて測定した。結果を表−2に示す。
【0065】
〔圧縮永久歪み〕
JIS K6262(2006)に準拠し、射出成形して得られたプレートを打ち抜いて得た直径29mmの試験片を専用治具にて圧縮し、70℃に保持したギアオーブンで加熱処理を行った。22時間後に専用治具から試験片を取り出して圧縮から開放し、その厚みの復元率を測定した。結果を表−2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
<医療用ゴム栓性能の評価(A)>
本評価では、実施例1、2、比較例1〜3の樹脂組成物を射出成形して得たプレートを重ねることにより、医療用ゴム栓と同様の形状とし、医療用ゴム栓に要求される特性について以下の方法で評価を行った。
〔刺通特性評価(1)〕
射出成形して得られたプレートを用い、直径28mmの試験片を打ち抜き、それを3枚重ねたものを図1に示す治具に取り付けた。次いで直径4mmのプラスチック針(テルモ株式会社製)を200mm/minの速度で刺し込み、刺通する(針が試験片を貫通する)までの最大荷重(刺通抵抗)と変位量(刺通伸び)を、オートグラフを用いて測定した。なお、刺通抵抗及び刺通伸びは低い方が望ましい。結果を表−3に示す。
【0068】
〔液漏れ特性評価(1)〕
射出成形して得られたプレートを用い、直径20mmの試験片を打ち抜き、それを3枚重ねたものを、500mlの水を充填した市販の500ml飲料用PETボトルの口栓部に取り付けた。口栓部には、試験片とPETボトルとの間から液漏れが無いよう、専用の冶具を取り付け、PETボトルを正立させて設置した。
次いで、この試験片に対し、垂直上方から直径4mmのプラスチック針(テルモ株式会社製)を手で針の直径が6mmになる段差部分まで刺し込み、手を離した際の戻り量をキックバック量として評価した。また、この状態で3時間放置し、プラスチック針を抜いた直後に倒立させ、連続滴下が発生するか否かを確認し、併せて1分間に滴下した水量(液漏れ量)を測定した。なお、連続滴下がなく、液漏れ量及びキックバック量が少ない方が望ましい。結果を表−3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
<医療用ゴム栓性能の評価(B)>
本評価では、実施例3〜6、比較例4、5の樹脂組成物を以下の条件で射出成形することにより医療用ゴム栓の形状とし、医療用ゴム栓に要求される特性について以下の方法で評価を行った。なお、評価(A)に比べ、評価(B)の方が、より現実的な医療用ゴム栓としての性能評価である。
ゴム栓の成形は、射出成形機(東芝機械株式会社製「IS−100t」)で100mm×100mm×6mmのプレートを成形し、これから所定形状の試験片を打ち抜くことで得た。射出成形の条件は、樹脂温度:180〜240℃、射出時間:2〜20秒、金型温度:20〜40℃、冷却時間:10〜40秒とした。
上記の通り射出成形したプレートから、直径19mmの試験片を打ち抜き、内径18.5mmの外栓に組み込むことで医療用ゴム栓とした。
【0071】
〔刺通特性評価(2)〕
上記で得た医療用ゴム栓に対し、直径4mmのプラスチック針(テルモ株式会社製)を200mm/minの速度で刺し込み、刺通する(針が試験片を貫通する)までの最大荷
重(刺通抵抗)と変位量(刺通伸び)を、オートグラフを用いて測定した。なお、刺通抵抗及び刺通伸びは低い方が望ましい。
更に、刺通抵抗及び刺通伸びの評価結果から、医療用ゴム栓としての刺通特性について以下の評価基準で判定した。結果を表−4に示す。
◎: 特に優れている。
○: 実用に際して問題はない。
×: 実用に適さない。
【0072】
〔液漏れ特性評価(2)〕
上記で得た医療用ゴム栓に110℃,30分の条件で加熱滅菌処理を施した。その後、内容量1000mlのポリエチレンテレフタレート(PET)製飲料用ボトルに40mlの水を入れ、その口栓部に医療用ゴム栓を取り付け、垂直上方から直径4mmのプラスチック針(テルモ株式会社製)を手で針の直径が6mmになる段差部分まで刺し込み、倒立状態にして24時間放置した。その後、プラスチック針を抜いて、連続滴下が発生するか否かを確認し、停止するまでに滴下した水量(液漏れ量)を測定した。なお、連続滴下がなく、液漏れした水量が少ないことが望ましい。
更に、液漏れ量及び連続滴下の評価結果から、医療用ゴム栓としての液漏れ特性について以下の評価基準で判定した。結果を表−4に示す。
◎: 特に優れている。
○: 実用に際して問題はない。
×: 実用に適さない。
【0073】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の医療用ゴム栓は、従来の熱可塑性エラストマーより製造された医療用ゴム栓と比較して、飛躍的に優れた刺通特性と液漏れシール性を兼備しており、かつ加硫ゴムと比較しても衛生性や成形性、リサイクル性に勝っていることから、輸液バッグを始めとした各種医療用ゴム栓への適応が期待される。
【符号の説明】
【0075】
1 刺通特性評価用冶具
2 プラスチック針
3 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックP及び共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体、ならびに該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体のうち少なくとも一方と、
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤と、
成分(C):ポリオレフィン系樹脂と、を含有する樹脂組成物を成形して得られる医療用ゴム栓であって、
該樹脂組成物中、成分(A)5〜95重量部及び成分(B)5〜95重量部の合計100重量部に対して成分(C)の含有量は1〜45重量部であり、
該樹脂組成物がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する医療用ゴム栓。
【請求項2】
樹脂組成物がさらに、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する請求項1に記載の医療用ゴム栓。
【請求項3】
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックP及び共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体、ならびに該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体のうち少なくとも一方と、
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤と、
成分(C):ポリオレフィン系樹脂と、を含有する樹脂組成物を成形して得られる医療用ゴム栓であって、
該樹脂組成物中、成分(A)5〜95重量部及び成分(B)5〜95重量部の合計100重量部に対して成分(C)の含有量は1〜45重量部であり、
該成分(A)がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する医療用ゴム栓。
【請求項4】
成分(A)がさらに、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及びピークショルダーのうち少なくとも一方を有する請求項3に記載の医療用ゴム栓。
【請求項5】
ピーク分離して得られた(A−1)の範囲に有するピークと(A−2)の範囲に有するピークとのピークシグナル強度比〔A−1/A−2〕が25/75〜95/5である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
【請求項6】
成分(A)が重合体ブロックPを10重量%以上含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
【請求項7】
重合体ブロックQが、共役ジエンとしてイソプレンに由来するモノマーを有し、重合体ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4−付加構造が60〜100重量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
【請求項8】
成分(B)が、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、および炭素原子芳香族系オイルからなる群より選択される1種以上を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
【請求項9】
成分(C)がパーオキサイド分解型のポリオレフィン系樹脂である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
【請求項10】
プラスチック針用に用いる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の医療用ゴム栓を有する輸液バッグ。


【図1】
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【公開番号】特開2012−25944(P2012−25944A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138539(P2011−138539)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】