説明

医療用チューブ及びその製造方法

【課題】外径が小さく薄肉で機械的特性に優れ、かつ、チューブの内壁の摩擦抵抗が小さく、チューブ内層を形成するフッ素樹脂層と、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物からなる外層が強固に融着し、人体に対して安全で、信頼性が高い医療用チューブとその製造方法を提供する。
【解決手段】
金属芯線表面に、フッ素樹脂から内層を作製し、次に、この内層の外面にポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂との混合液を塗布し、前記混合フッ素樹脂の融点を超える温度で加熱し、前記混合フッ素樹脂を外層の内側に溶融析出させ前記フッ素樹脂からなる内層と融着一体化して医療用チューブを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内層がフッ素樹脂からなり、外層がポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物からなる医療用チューブに関する。詳しくは内層内面が純粋なフッ素樹脂であるため摩擦抵抗が極めて低く、外層がポリイミド樹脂の優れた機械的特性を有し、且つ、内層と外層が強固に融着して一体化した、カテーテルなどに好適な医療用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は機械的、化学的、電気的及び耐熱性などの優れた特性を有し、フィルムやチューブなどの成形品、あるいはポリイミド前駆体溶液や塗料などの形態で市販されている。これらのポリイミド樹脂はフレキシブルプリント基板や、OA機器の転写、定着、感光などのプロセスで使用される管状物、また、耐熱電線用絶縁材料など、種々の用途に使用され、特に内径が比較的小さい(0.1〜5mm)チューブは、カテーテルや内視鏡などの医療用チューブ、あるいは電気絶縁チューブ等の用途として期待されている。
【0003】
ここで、ポリイミド樹脂チューブの1つの用途である医療用チューブについて説明する。近年、医療技術の高度な進歩に伴い、その治療方法も従来の切開手術方法に代わり、患者の体膣内に直接、カテーテル等の医療器具を挿入して治療を行うカテーテル治療方法や、胃カメラ、あるいはマイクロカメラなどの画像診断装置を用いて治療する内視鏡診断方法が主流になってきている。これらの治療方法は施術時の患者の肉体的、あるいは精神的な苦痛や不安を軽減し、且つ、施術による体力の消耗も最小限に抑え治療を行おうとするものである。医療用チューブは、このような新しい医療技術や医療現場において、カテーテルや内視鏡チューブあるいは、血液や医薬の搬送チューブなどの用途で使用されている。
【0004】
カテーテル治療法では、体内で複雑に配置されている血管や管の中に、ガイドワイヤーの誘導により、カテーテルを挿入して治療がなされる。そのためカテーテルには、血管の中に押し込みやすい特性(プッシャビリティ)、あるいはカテーテルの基端部(手元側)で操作された回転力や動的操作がカテーテルの先端部まで確実に伝達される特性(トルク伝達性)、さらに、カテーテルの先端で血管を損傷する事故を防止するために、耐キンク性や先端部の柔軟性などの特性が要求される。また、患者の苦痛や不安を軽減するためには可能な限り小径で、且つ、薄壁(厚みが薄い)で内膣が大きいことが望まれる。
【0005】
更に、これらのカテーテルは前記トルク伝達性や、プッシャビリティなどの機械的な特性に加えてカテーテル内外面の低摩擦性も要求される。すなわちカテーテル治療方法では、治療用カテーテルを疾患部まで導くガイディングカテーテル内に治療用カテーテルが挿入され、ガイドワイヤーによって疾患部まで誘導される。このような操作において、治療用カテーテルの外表面はガイディングカテーテルの内壁に接触し、また、内表面はガイドワイヤーの外面に接触することになるため、治療用カテーテルの内外表面の低摩擦性も重要な特性の1つである。
【0006】
これらのカテーテルに用いる医療用チューブにおいて、その内面の摩擦抵抗を下げる方法としては、例えば、銀メッキ軟銅線の外面にフッ素樹脂ディスパージョンをコーティングし、固化してフッ素樹脂被膜を形成した後、前記フッ素樹脂被膜表面を、化学エッチング処理し、化学エッチングしたフッ素樹脂被膜表面にポリイミドワニスをコーティングし固化し、次いで前記銀メッキ軟銅線を引き伸ばし縮径して医療用チューブを得る方法が特許文献1に開示されている。
【0007】
また、マンドレル棒上にPTFE樹脂分散液を塗布、焼き付け、焼結してから固体粒子配合PTFE樹脂分散液を塗布、焼き付け、焼結して固体粒子配合PTFE樹脂オーバーコート純PTFEチューブとし、その上層に直接又はブレード層を設けてから外側被覆層を押し出し被覆し、最後にマンドレル棒を引き抜き、内層PTFE複合カテーテルチューブを取り出すチューブの製造方法と、内層PTFE複合カテーテルチューブが特許文献2に開示されている。
【0008】
しかしながら、前記従来の方法では以下に示す問題点がある。すなわち、特許文献1に記載の方法では、医療用チューブの製造工程中で、ナトリウム−ナフタレン錯体などの溶液を用い、フッ素樹脂被膜表面を化学的な方法でエッチング処理して、ポリイミド外層と接着させる必要がある。フッ素樹脂の優れた離型性や非粘着性はフライパンや炊飯器など、多くの用途に利用されているが、当然のことながら他の物体との接着は難しく、特許文献1に開示されているように、金属ナトリウムなどを用いてフッ素樹脂表面を化学的にエッチング処理してから、他の物体と接着させる工程が必要になる。これらの表面処理は製造工程が繁雑になるばかりでなく、ナトリウム−ナフタレン錯体などによる化学エッチングは、使用する薬品の危険度も高く、また、人体内で使用するためには安全性に対しても問題が多い。
【0009】
また、特許文献2に開示された方法では、薄肉のPTFE内層チューブと、外層として押出成形するポリアミドエラストマー層との接着力を改善するために、PTFE樹脂の焼結温度以上の熱軟化点を有する二酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化チタン、ガラス粉末、チタン酸カリウムなどの無機物質粉末、若しくは有機物質を混合した固体粒子配合のPTFE中間層を設け、ポリアミドエラストマー層との密着力を改善しようとするものである。しかしながら前記無機物質粉末を混合した固体粒子配合のPTFE中間層と、ポリアミドエラストマー層とは密着の状態であり、融着や、接着された状態ではないため医療現場で使用する場合には、接着力の信頼性に対する問題が解決されていない。
【0010】
一方、本発明者らは、医療用チューブ内外面の摺動性(低摩擦化)の改良について、特許文献3でポリイミド樹脂とフッ素樹脂からなる医療用チューブをすでに提案している。該医療用チューブは、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物が加熱硬化された医療用チューブであり、混合物中のフッ素樹脂は前記チューブの内面又は内外面に溶融して析出しており、そのフッ素樹脂析出面は、低い摩擦抵抗特性を有する医療用チューブである。
【0011】
本発明者らは、特許文献3に開示のように、フッ素樹脂とポリイミド前駆体の混合物をチューブ状に成形し、該フッ素樹脂の融点以上の温度でイミド転化させることにより、該フッ素樹脂がポリイミド樹脂の表面に溶融して析出する現象に基づきさらに研究を進めた結果、あらかじめフッ素樹脂からなる内層を成形し、該内層の外面にポリイミド前駆体とフッ素樹脂の混合液を塗布してフッ素樹脂の融点を超える温度でイミド転化することにより、前記内層とポリイミド樹脂から溶融して析出したフッ素樹脂析出層がその密着した面で強固に熱融着できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【特許文献1】特開2003−340946号公報
【特許文献2】特開2000−051365号公報
【特許文献3】特開2005−205183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する多くの問題を解決し、医療用チューブの内面の摩擦抵抗が小さく、内層のフッ素樹脂層と外層のフッ素樹脂混合ポリイミド樹脂層が強固に融着し、且つ、医療用チューブを構成する材料が人体に安全で、内層、外層の接着性に対する信頼性の高い医療チューブとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、上記目的を達成するために、請求項1に記載された医療用チューブは、フッ素樹脂からなる内層と、該内層の外面に、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物からなる外層を有する医療用チューブであって、前記外層中のフッ素樹脂の一部は、該外層の内側に溶融して析出し、前記フッ素樹脂からなる内層と、融着して一体化していることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載された医療用チューブは、請求項1に記載された発明において、前記ポリイミド樹脂が、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合したポリイミド前駆体を、加熱してイミド転化したポリイミド樹脂であることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載された医療用チューブは、請求項1に記載された発明において、前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載された医療用チューブは、請求項1に記載された発明において、 前記外層中のフッ素樹脂の存在量が、3重量%以上、50重量%以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載された医療用チューブの製造方法は、金属芯線の表面を所定の厚みのフッ素樹脂で被覆して内層を成形する内層成形工程と、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合してポリイミド前駆体溶液を作製する重合工程と、前記ポリイミド前駆体溶液中、又は前記重合工程中にフッ素樹脂を添加してポリイミド前駆体とフッ素樹脂の混合液を調製する混合液調製工程と、前記混合液を前記内層の外面に所定の厚みで塗布して混合液塗布物を作製する塗布工程と、前記混合液塗布物を、イミド転化の最高温度が、前記混合液中のフッ素樹脂の融点を超える温度で加熱して多層複合物を作製するイミド転化工程と、前記多層複合物から金属芯線を引き抜き除去する芯線除去工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医療用チューブは、内層が化学的に最も安定なフッ素樹脂からなるため人体に対して安全で、且つ、離型性に優れ、チューブ内面の摩擦抵抗が極めて低くい医療用チューブを提供できる。また、外層には機械的特性に優れたポリイミド樹脂を用いた構成であるため、外径を細く、内径の大きい構造の医療用チューブを提供できる。さらに、前記内層と、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物からなる外層を該フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱してイミド転化することによって、該フッ素樹脂の溶融析出層を形成させることができ、前記内層と前記外層が強固に融着し一体化した信頼性の高い医療用チューブを提供できる。また、本発明の製造方法によれば、金属芯線の外面にフッ素樹脂からなる内層を成形する工程からスタートし、その外面にフッ素樹脂を混合したポリイミド前駆体溶液を塗布し、イミド転化する工程まで、連続したラインで製造することができるため、低コストで精度の高い医療用チューブの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の医療用チューブの一例を示す模式的断面図である。本発明の医療用チューブは、フッ素樹脂からなる内層1と、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物からなる外層2の多層構造を有し、該外層2に混合されているフッ素樹脂3の一部は、外層2の内側に溶融して析出層4を形成し、該内層1と強固に熱融着し一体化している。
【0020】
次に、前述したフッ素樹脂からなる内層と、ポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物からなる外層が熱融着して一体化する現象について説明する。ポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂粉末の混合液を用いてチューブやフィルム状に成形したのち、加熱してイミド転化を行う場合、イミド転化温度がフッ素樹脂の融点以下の温度では、フッ素樹脂はポリイミド樹脂層中に混合分散された状態で存在している。しかしながら、フッ素樹脂の融点を越える温度まで加熱すると、ポリイミド樹脂層中のフッ素樹脂は溶融し、同時にポリイミド前駆体のイミド転化の促進によってポリイミド樹脂の外面に向かって押出され、ポリイミド樹脂が海状、フッ素樹脂が島状で存在する、いわゆる海島構造の状態でポリイミド樹脂表面にフッ素樹脂の溶融析出層を形成させることができる。この析出層と、内層を形成するフッ素樹脂の外面は同じ温度で加熱されるために、それぞれのフッ素樹脂を強固に熱融着させ一体化させることができる。
【0021】
次に、本発明において前記ポリイミド樹脂は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合させたポリイミド前駆体を加熱してイミド転化したポリイミド樹脂であることが好ましい。ポリイミド前駆体を出発原料として用いた場合、薄膜加工が可能であり、厚みの薄いチューブの作製ができ、且つ、機械的特性が優れているからである。また、ポリイミド前駆体は溶液状で、粘度や固形分濃度を容易に変えることが可能であり、前駆体溶液中にフッ素樹脂や着色剤などの粉末や微粒子、あるいはバリウムなどのX線不透過剤などを均一に混合させやすいからである。また、溶液状であるため種々の形状に成形が可能であり、厚みや内径など寸法精度の高いチューブが作製できるからである。
【0022】
前記ポリイミド前駆体溶液は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの略等モルを有機極性溶媒中で重合させて得ることができる。前記、芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,3′,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2′−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。
【0023】
また、前記芳香族ジアミンの代表例としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3′−ジクロロベンジジン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニルジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、4,4′−ジアミノフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0024】
これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物、及び芳香族ジアミンは単独で、あるいは混合して使用することができる。また、ポリイミド前駆体溶液まで完成させてそれらの前駆体溶液を混合して使用することもできる。
【0025】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを重合させる有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、炭酸プロピレン、γーブチロラクトン等をあげることができ、これらの溶媒を単独でまたは混合して使用することが好ましい。
【0026】
上記、ポリイミド前駆体溶液は、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で通常は90度C以下で重合させることによって得られ、溶媒中の固形分は、作製するポリイミドチューブの形状や加工条件によって設定することができるが10〜50重量%である。
【0027】
また、有機極性溶媒中で芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを重合させると、その重合状況によって溶液の粘度が上昇するが、使用に際しては所定の粘度に希釈して使用することができる。製造条件や作業条件によって通常1〜5000ポイズの粘度で使用される。より好まし溶液粘度は10〜1500ポイズの範囲である。 また、本発明のポリイミド前駆体溶液には、イミド化剤などの機械的特性の改良剤や、体内に挿入したカテーテルの動きの状態をX線で確認するために硫酸バリウムなどの造影剤粉末などを添加することが好ましい。
【0028】
次に、本発明においてはチューブの内層を成形するために用いるフッ素樹脂と、ポリイミド前駆体溶液中に混合してチューブの外層を成形するために用いるフッ素樹脂の2つのフッ素樹脂を用いるが、これらのフッ素樹脂は特に限定する必要は無く、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。本発明において、より好ましいフッ素樹脂はPTFE、PFA、FEPである。これらのフッ素樹脂は、化学的に不活性であり、耐熱性が高く、医療用材料として安全で信頼性が高い材料だからである。
【0029】
次に、本発明においては、医療用チューブの内層を成形するフッ素樹脂材料の形態としては、フッ素樹脂の水分散液(ディスパージョン)あるいは溶液分散液であることが好ましい。フッ素樹脂水分散液は、例えば、フッ素系モノマーを乳化重合などの方法で製造し、フッ素樹脂粒子が界面活性剤で覆われた形で水中に分散されたフッ素樹脂粒子の水性分散液であり市販品を使用することができる。前記フッ素樹脂水分散液は、金属芯線の表面にディッピングなどの方法で塗膜成形でき、乾燥、焼成することによって医療用チューブの内層材料として用いることができる。
【0030】
また、前記フッ素樹脂ディスパージョン以外の材料形態としては、フッ素樹脂の粉末状のものを用いることができる。これらのフッ素樹脂粉末は、静電塗装方法などによって芯線の表面に成形後、加熱焼成し医療用チューブの内層として用いることができる。
【0031】
また、PFAやFEPなどの熱可塑性フッ素樹脂の粉末やペレットは、芯線の表面に溶融押出成形法によって所定の厚みに成形することができ、医療用チューブの内層材料として用いることができる。
【0032】
次に、ポリイミド前駆体溶液中に混合するフッ素樹脂材料の形態は、粉末状のものが好ましい。粉末状であるとポリイミド前駆体溶液に混合する場合、均一に分散させやすいからである。前記フッ素樹脂粉末の平均粒子径は、0.1〜50μmの範囲が好ましい。より好まし範囲は1.0〜30μmである。このような範囲であると粉末の凝集が少なく均一に分散できるからである。なお、前記平均粒径が0.1μm未満であると粒子が二次凝集しやすく、50μmを超えるとチューブの内面、あるいは外面にフッ素樹脂粒子に起因する凹凸が生じやすいため好ましくない。なお、前記フッ素樹脂粉末の平均粒径の測定方法はレーザー回析式粒度分布測定装置(SALD−2100:島津製作所(製))やレーザー回析/散乱式粒度分布測定装置(LA−920:堀場製作所(製))で測定することが出来る
【0033】
次に、本発明においては、ポリイミド前駆体溶液中に混合するフッ素樹脂の混合量は、ポリイミド前駆体溶液の固形分重量に対して3重量%以上、50重量%以下の範囲であることが好ましい。特に好ましくは10重量%以上、30重量%以下である。混合量が3重量%以下であると、溶融して析出してくるフッ素樹脂の量が少なく、内層のフッ素樹脂との融着力が得られにくく、また、50重量%以上の場合は、ポリイミド樹脂外層の機械強度が低下し、同時にポリイミド樹脂表面の平滑性が損なわれ、割れが生じやすくなる。
【0034】
次に、本発明の医療用チューブの一例の構造では、ポリイミド前駆体溶液中にフッ素樹脂を混合したポリイミド前駆体溶液を用いて、医療用チューブの外層を成形するために、図1に示すポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物からなる外層2の外面5の部分にもフッ素樹脂が溶融して析出し、本発明の医療用チューブでは、内面と最外面5の表面も離型性に優れ、摩擦抵抗の低い医療用チューブを提供できる。
【0035】
次に、本発明の医療用チューブの外面をさらにシリコーンゴムやナイロンなどの材料で被覆する場合には、前述した医療用チューブの最外面5の表面にフッ素樹脂が析出しているとシリコーンゴムなどの被覆材料との接着力が低下することになる。このような問題に対しては、フッ素樹脂からなる内層の外面に、フッ素樹脂を混合したポリイミド前駆体溶液を塗布し、該混合フッ素樹脂の融点よりも低い温度で加熱処理して、チューブ中間体を作製し、該中間体の外面にさらにポリイミド前駆体単体からなる溶液を所定の厚みで塗布し、その後イミド転化の最高温度を該混合フッ素樹脂の融点を越える温度で加熱することによって、外層2の外面にポリイミド樹脂単体層6が直接形成され図2に示す3層構造の医療用チューブを用いることが好ましい。
【0036】
前記ポリイミド樹脂単体層6を有する3層構造の医療用チューブは、シリコーンゴム、ウレタン樹脂、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニルなどの材料で被覆した場合であっても、接着性を向上させることができ、これらの複合構造のチューブはカテーテルや内視鏡チューブとして用いることができる。
【0037】
本発明の医療用チューブは、例えば次のような方法で製造することができる。所定の外径(チューブの内径に相当する径)の金属芯線の表面にフッ素樹脂からなる内層を所定の厚みで形成する。
【0038】
次いで芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合してポリイミド前駆体溶液とし、前記ポリイミド前駆体溶液中、又は前記重合工程中にフッ素樹脂を添加してポリイミド前駆体とフッ素樹脂の混合液を調製する。前記混合液を前記フッ素樹脂からなる内層の外面に所定の厚みで塗布して混合液塗布物を作製する。
【0039】
その後、イミド転化の最高温度を混合液中のフッ素樹脂の融点を超える温度で加熱処理し、その後、金属芯線のみを引き伸ばし外径を縮径して、金属芯線を抜き取り、本発明の医療用チューブを製造できる。本発明の医療用チューブの製造方法においてはチューブ内面がフッ素樹脂単体で成形されているため芯線を容易に抜き取ることができる。
【0040】
本発明の製造方法においては、フッ素樹脂からなる内層の成形方法はフッ素樹脂ディスパージョンを金属芯線表面にディッピング方法で塗膜形成させその後、乾燥及び焼成する方法が好ましい。ディッピング方法はスプレー塗装等と比較して、材料のロスが少なく、また工程中でディスパージョンの粘度等の管理が容易だからである。
【0041】
また、フッ素樹脂ディスパージョンを所定の厚みに重ね塗りする場合には、フッ素樹脂ディスパージョンをディッピング後、まず、フッ素樹脂の融点以下の温度で加熱処理し、ディッピングと加熱処理を繰り返して所定の厚みに成形した後、最後にフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱して焼成する方法が重ね塗り時にフッ素樹脂ディスパージョンのハジキの発生がなく好ましい。
【0042】
次に、フッ素樹脂からなる内層の外面にフッ素樹脂とポリイミド前駆体溶液の混合液を塗布する場合には、前記内層のフッ素樹脂が未焼成(フッ素樹脂の融点以下の温度で加熱処理する)の状態の表面に、前記混合液を塗布すると混合液のハジキを防止できて好ましい。さらに前記内層を完全に焼成して形成した後、コロナ放電などによって該フッ素樹脂表面を改質し、ポリイミド前駆体溶液を塗布する方法であってもよい。
【0043】
本発明の製造方法において、フッ素樹脂からなる内層と、ポリイミド樹脂外層中に混合したフッ素樹脂を融着するためには、前記外層中のフッ素樹脂の融点を越える温度で加熱する必要がある。前記融点超える温度とは、該フッ素樹脂の融点よりも10〜15度C以上、高い温度でイミド転化を完成させることが好ましい。また、加熱する時間はイミド転化の最高温度が該フッ素樹脂の融点を越える温度に到達してから30分以内であることが好ましい。30分以上になると、フッ素樹脂の熱分解や、ポリイミド樹脂の機械的特性が低下する恐れがある。
【0044】
本発明の製造方法で用いる金属芯線は、合金線、ステンレス線、銀メッキ軟銅線等を用いることができる。金属芯線は400度C近傍のイミド転化温度で酸化、変質、あるいは機械的強度が劣化しない材料であれば限定するものではなく、ステンレスあるいは銀メッキ軟銅線はより好ましい材料である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)
外径0.55mmのステンレス線を芯線として、この芯線をPTFE樹脂ディスパージョン(旭硝子(株)社製AD−912)中にディッピングして引上げ、200〜300度Cの温度で乾燥した。このディッピングと乾燥の工程を連続的に5回繰り返してステンレス芯線の表面をPTFE樹脂で被覆したPTFE樹脂被覆線を作製した。該被覆線の外径は0.564mmであった。このPTFE樹脂被覆層は医療用チューブの内層を形成するものである。
【0046】
次にポリイミド前駆体溶液として((株)IST社製PyreML、RC−5063)を用意した。このポリイミド前駆体溶液は、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンをN−メチル−2−ピロリドン中で重合した溶液であり、23度Cにおける、B型粘度計での回転粘度は50ポイズであった。また、ポリイミド前駆体溶液中の固形分は17.5重量%であった。前記ポリイミド前駆溶液に平均粒子径3.0μmのフッ素樹脂粉末(PTFE樹脂:融点327度C:デュポン社製商品名“ZONYL MP1200”)をポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して25重量%の割合になるように添加して攪拌し、均一に分散させた。その後250メッシュのステンレス金網を用いて粗い異物を濾過し、フッ素樹脂粉末とポリイミド前駆体の混合液を調製した。
【0047】
次に、前記PTFE樹脂被覆線を、前記混合液に浸漬して引き上げ、その表面にダイスを用いて均一に塗膜を形成させ、その後150〜200度Cの炉内を通過させ初期イミド転化処理を行った。この混合液の塗膜形成工程、及び初期イミド化工程を連続して6回繰り返したのち350〜400度Cの温度で7分間加熱して最終のイミド転化処理を行い、PTFE樹脂被覆線の外面にフッ素樹脂とポリイミド樹脂の混合物で被覆した外径が0.725mmの被覆線(F−PIF被覆線と記す)を作製した。
【0048】
次いで前記(F−PIF被覆線)を2mの長さに切断し、ステンレス心線の両端部を掴み、破断しないように引き伸ばし、その外径を縮径させてステンレス芯線を抜き取り、内径が0.55mm、外径が0.725mmの医療用チューブを製作した。この医療用チューブは内層が純粋なPTFE樹脂単体で成形され、その外面がフッ素樹脂粉末を混合したポリイミド樹脂からなる外層を有する医療用チューブであり、その内面はPTFE樹脂が有する低い摩擦抵抗を有していた。また、前記内層と前記外層はポリイミド樹脂から溶融して析出したフッ素樹脂の析出層によって強固に融着され、剥離することはできなかった。また、この医療用チューブは前記外層の外面(図1の5の部分)にもフッ素樹脂が溶融して析出しており医療用チューブとして内面、及び外面が摩擦抵抗の低い特性を有していた。
【0049】
(実施例2)
実施例1においてポリイミド前駆体溶液に混合するフッ素樹脂として、平均粒子径14μmのFEP樹脂粉末(デュポン社製商品名“532−8110”)をポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して20重量%の割合になるように添加した混合液を用い、最終のイミド化温度を330〜370度Cに変更した以外は、実施例1と同様の条件で医療用チューブを作製した。このチューブの内径は0.55mm、外径が0.715mmであり、内層はPTFE樹脂単体の低い摩擦係数を有し、内層と外層はFEP樹脂が溶融して析出した析出層で強固に融着され、剥離することはできなかった。また外層の外面(図1の5の部分)にもFEP樹脂が溶融して析出し、低い摩擦抵抗を有する医療用チューブが得られた。
【0050】
(実施例3)
実施例1においてフッ素樹脂からなる内層材料として、PFA樹脂ディスパージョン(デュポン(株)社製PFA920HP Plus)に変更した以外は実施例1と同様の条件で医療用チューブを作製した。このチューブの内径は0.55mm、外径が0.720mmであり、内層はPFA樹脂脂単体の低い摩擦係数を有し、内層と外層はPTFE樹脂が溶融析出した析出層で強固に融着され、剥離することはできなかった。またポリイミド外層の外面(図1の5の部分)にはPTFE樹脂が溶融して析出し、低い摩擦抵抗を有する医療用チューブが得られた。
【0051】
(実施例4)
実施例1と同様の条件で内層となるPTFE樹脂被覆線を成形した。その後、実施例1で調製した混合液を用い、前記PTFE樹脂被覆線の外面に実施例1と同様の条件で混合液の塗膜形成工程と、初期イミド化工程を6回繰り返した後、さらに、その外面にポリイミド前駆体溶液((株)IST社製PyreML、RC−5019)単体を約30μmの厚みで塗布し、初期イミド化処理後、350〜400度Cの温度で7分間加熱して最終イミド化転処理を行い、内層がPTFE樹脂、及び外層がフッ素樹脂粉末を混合したポリイミド樹脂の中間層と、さらにその外面がポリイミド樹脂単体層で被覆された3層構造の被覆線(F−PIF−PI被覆線と記す)を作製した。その後前記F−PIF−PI被覆線を2mに切断し、ステンレス線を縮径して抜き取り3層構造の医療用チューブを得た。このチューブは外径が0.731mmで内径が0.55mm、内層のフッ素樹脂層の厚みが約6μm、外層の厚みが約81μmで最外層のポリイミド単体層(図2の6)は約5μmであった。このチューブの内面はPTFE樹脂の低摩擦性を有し、3層構造の各層が強固に融着され一体化し剥離させることは出来なかった。また、ポリイミド樹脂単体層(図2の6)の表面にはフッ素樹脂は析出されていなく、一般的なポリイミド被膜特性を有し、この外面をシリコーンゴムで被覆した場合、十分な接着力が得られた。
【0052】
(実施例5)
外径0.57mmの銀メッキ銅線を用い、その外面にPFA樹脂(デュポン社製PFA940HP Plus)を溶融押出成形機で150μmの厚みで押出被覆した内層を用いた以外は実施例1と同様の条件で医療用チューブを作製した。このチューブの内面はPFA樹脂の低い摩擦抵抗を有し、この内層と外層はPTFE樹脂の析出層で強固に融着され、剥離することはできなかった。
【0053】
(比較例1)
実施例1においてポリイミド前駆体溶液中に混合するフッ素樹脂粉末の混合量をポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して2重量%の割合にした以外は実施例1と同じ条件で医療用チューブを作製した。このチューブの内面はPTFE樹脂の低い摩擦抵抗を有していたが、内層と外層を簡単に剥離することができ、医療用チューブの用途としては信頼性の低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の医療用チューブは、カテーテルや内視鏡などの医療用チューブ部材として、あるいは電気絶縁用の被覆チューブ、また内層が純粋なフッ素樹脂で構成されているため、化学分析機器などにおける溶解性、腐食性の強い薬液や溶剤の搬送チューブなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1で作製した医療用チューブの模式断面図である。
【図2】本発明の実施例4で作製した3層構造で最外層がポリイミド樹脂単体層からなる医療用チューブの模式断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 フッ素樹脂からなる内層
2 ポリイミド樹脂とフッ層樹脂の混合物からなる外層
3 外層中に混合されているフッ素樹脂
4 外層中に混合されているフッ素樹脂の外層内面の溶融析出層
5 外層中に混合されているフッ素樹脂の外層外面の溶融析出層
6 ポリイミド樹脂単体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂からなる内層と、該内層の外面にポリイミド樹脂とフッ素樹脂の混合物からなる外層を有する医療用チューブであって、前記外層中のフッ素樹脂の一部は、該外層の内側に溶融して析出し該析出層は、前記フッ素樹脂からなる内層と、融着一体化していることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂が、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合したポリイミド前駆体を、加熱してイミド転化したポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項4】
前記外層中のフッ素樹脂の存在量が、3重量%以上、50重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項5】
金属芯線の表面を所定の厚みのフッ素樹脂で被覆して前記内層を成形する内層成形工程と、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合してポリイミド前駆体溶液を作製する重合工程と、前記ポリイミド前駆体溶液中、又は前記重合工程中にフッ素樹脂を添加してポリイミド前駆体とフッ素樹脂の混合液を調製する混合液調製工程と、前記混合液を前記内層の外面に所定の厚みで塗布して混合液塗布物を作製する塗布工程と、前記混合液塗布物をイミド転化の最高温度が、前記混合液中のフッ素樹脂の融点を超える温度で加熱して多層複合物を作製するイミド転化工程と、前記多層複合物から金属芯線を引き抜き除去する芯線除去工程とを備える医療用チューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−195959(P2007−195959A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349667(P2006−349667)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】