説明

医療用チューブ

【課題】内面の滑り性、並びに、全体として可撓性及び耐キンク性を有するとともに、材料コスト及び加工コストの低減を図ることが可能な医療用チューブを提供する。
【解決手段】医療用チューブ1は、曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂である内層材料で形成された内層2と、内層2の外側を覆い、曲げ弾性率が200MPa以下の熱可塑性樹脂である外層材料で形成された外層3とで構成され、内層2の厚さは、外層3の厚さの2/3以下に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に処置具などを挿入する医療用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、内視鏡挿入部を体内に挿入し、この内視鏡挿入部の内部に設けられたチャンネルチューブに様々な処置具を挿通させることで、体内における様々な処置を可能としている。このようなチャンネルチューブは、チューブ内面において、処置具を抵抗無く容易に挿入可能とするための滑り性が要求されるとともに、全体において、内視鏡挿入部の湾曲に追従して容易に湾曲可能な可撓性と、湾曲時における耐キンク性が要求される。
【0003】
内視鏡挿入部のチャンネルチューブなどとして使用可能な医療用チューブとしては、内層をフッ素樹脂で形成するとともに、外層を延伸させたPTFEで形成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような医療用チューブでは、内層がフッ素樹脂であることで、上記のような滑り性を確保することができるとともに、外層が延伸させたPTFEであることで、上記のような可撓性と耐キンク性を確保することができるとされている。
【0004】
また、内層と外層との一方が、熱可塑性エラストマー層であるとともに、他方が、他の高分子材料層であり、熱可塑性エラストマー層の曲げ剛性が他の高分子材料層の曲げ剛性以上であるカテーテルチューブが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このようなカテーテルチューブでは、曲げ剛性を上記のように設定することで、耐キンク性、形状保持性、形状復元性を有するものとされている。
【特許文献1】特開平8−142236号公報
【特許文献2】特開平9−75443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の医療用チューブによれば、フッ素樹脂を用いていることから材料コストが高くなってしまい、また、PTFEを用いていることから通常の押出成形によって成形することができないため、加工コストも高くなってしまう問題があった。ここで、使用する材料を熱可塑性樹脂とすれば、材料コストを低減し、また、通常の押出成形が可能であることで加工コストの低減も図ることができるが、この場合、フッ素樹脂を用いた場合と同等の滑り性、可撓性、及び、耐キンク性を得ることができなかった。
【0006】
また、特許文献2のカテーテルチューブによれば、曲げ剛性を上記のように設定することで耐キンク性を向上させることが可能であるものの、それぞれの曲げ剛性を大きくすると可撓性が低下してしまい、一方、それぞれの曲げ剛性を小さくすると、内面の滑り性が低下して挿入性が低下してしまう問題があった。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、内面の滑り性、並びに、全体として可撓性及び耐キンク性を有するとともに、材料コスト及び加工コストの低減を図ることが可能な医療用チューブを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の医療用チューブは、曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂である内層材料で形成された内層と、該内層の外側を覆い、曲げ弾性率が200MPa以下の熱可塑性樹脂である外層材料で形成された外層とで構成され、前記内層の厚さは、前記外層の厚さの2/3以下に設定されていることを特徴としている。
【0009】
この発明に係る医療用チューブによれば、内層を形成する内層材料及び外層を形成する外層材料がともに熱可塑性樹脂であることで、材料コストを低減し、また、通常の押出成形によって成形可能であり、加工コストの低減を図ることができる。ここで、内層材料の曲げ弾性率が400MPa以上に設定されていることで、内層内面の硬度を確保して、内面に挿入させる挿入物の滑り性を確保することができる。また、外層材料の曲げ弾性率を200MPa以下とするとともに、内層材料の曲げ弾性率を1000MPa以下とし、内層の厚さを、外層の厚さの2/3以下とすることで、上記滑り性を維持しつつ、可撓性及び耐キンク性を確保することができる。
【0010】
また、上記の医療用チューブにおいて、前記外層材料の曲げ弾性率は、前記内層材料の曲げ弾性率の3/50以上に設定されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る医療用チューブによれば、外層材料の曲げ弾性率が内層材料の曲げ弾性率の3/50以上であることで、内層の折れ曲がりを防止し、耐キンク性をさらに向上させることができる。
【0011】
また、本発明の医療用チューブは、曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂である内層材料で形成された内層と、該内層の外側を覆い、曲げ弾性率が200MPa以下の熱可塑性樹脂である中層材料で形成された中層と、該中層の外側を覆い、曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂である外層材料で形成された外層とで構成され、前記内層の厚さと前記外層の厚さとの和は、前記中層の厚さの2/3以下に設定されていることを特徴としている。
【0012】
この発明に係る医療用チューブによれば、内層を形成する内層材料、中層を形成する中層材料、及び、外層を形成する外層材料がともに熱可塑性樹脂であることで、材料コストを低減し、また、通常の押出成形によって成形可能であり、加工コストの低減を図ることができる。ここで、内層材料の曲げ弾性率が400MPa以上に設定されていることで、内面の硬度を確保して、内面に挿入させる挿入物の滑り性を確保することができる。同様に外層材料の曲げ弾性率が400MPa以上に設定されていることで、外面の硬度を確保して、この医療用チューブ自らを被挿入物に挿入させる際の滑り性を確保することができる。また、中層材料の曲げ弾性率を200MPa以下とするとともに、内層材料及び外層材料の曲げ弾性率を1000MPa以下とし、内層と外層との厚さの和を、中層の厚さの2/3以下とすることで、上記滑り性を維持しつつ、可撓性及び耐キンク性を確保することができる。
【0013】
また、上記の医療用チューブにおいて、前記中層材料の曲げ弾性率は、前記内層材料の曲げ弾性率の3/50以上に設定されているとともに、前記外層材料の曲げ弾性率の3/50以上に設定されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る医療用チューブによれば、中層材料の曲げ弾性率が内層材料及び外層材料それぞれの曲げ弾性率の3/50以上であることで、内層及び外層の折れ曲がりを防止し、耐キンク性をさらに向上させることができる。
【0014】
また、上記の医療用チューブにおいて、前記内層材料と前記外層材料とは、少なくともオレフィン系樹脂と脂肪酸アミドとを含む複合材料であることがより好ましいとされている。
この発明に係る医療用チューブによれば、オレフィン系樹脂に脂肪酸アミドが含まれた複合材料が内層材料及び外層材料として使用されていることで、内層及び外層の滑り性を良好なものとすることができる。
【0015】
さらに、上記の医療用チューブにおいて、前記内層材料及び前記外層材料を形成する前記複合材料は、前記オレフィン系樹脂100重量部に対して、前記脂肪酸アミドが0.5重量部以上混合されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る医療用チューブによれば、脂肪酸アミドを上記割合で混合することで、効果的に滑り性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の医療用チューブによれば、内面の滑り性、並びに、全体として可撓性及び耐キンク性を有するとともに、材料コスト及び加工コストの低減を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、この発明に係る第1の実施形態を示している。図1に示すように、この実施形態の医療用チューブであるチャンネルチューブ1は、内視鏡装置において体内に挿入する内視鏡挿入部の内部に基端から先端へ配設されるものであり、このチャンネルチューブ1に処置具を挿通させることで、内視鏡挿入部の先端における様々な処置を可能とするものである。このようなチャンネルチューブ1は、図1に示すように、例えば、外径D1が4mmから6mm程度、内径D2が3mmから5mm程度のものである。また、チャンネルチューブ1は、内層2と、内層2の外側を覆う外層3との2層構造となっていて、内層2の厚さが外層3の厚さに対して2/3以下となるように設定され、より好ましくは、1/9以上に設定されている。
【0018】
内層2を形成する内層材料としては、曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下となる熱可塑性樹脂が選択され、オレフィン系樹脂と脂肪酸アミドとを含む複合材料であることが好ましく、さらに、オレフィン系樹脂100重量部に対して、脂肪酸アミドが0.5重量部以上5重量部以下で混合されていることがより好ましい。このような内層材料としては、より具体的には、例えば、ポリプロピレンとスチレン系エラストマーからなる曲げ弾性率が400MPa〜1000MPaの樹脂に、上記混合比で脂肪酸アミドを混合することで、上記曲げ弾性率に設定されたものなどが用いられる。
【0019】
また、外層3を形成する外層材料としては、曲げ弾性率が200MPa以下となる熱可塑性樹脂が選択され、オレフィン系樹脂と脂肪酸アミドとを含む複合材料であることが好ましく、さらに、オレフィン系樹脂100重量部に対して、脂肪酸アミドが0.5重量部以上5重量部以下で混合されていることがより好ましい。このような外層材料としては、より具体的には、例えば、低密度ポリエチレンとEVA(エチレン酢酸ビニル)からなる曲げ弾性率が50MPa〜200MPaの樹脂に、上記混合比で脂肪酸アミドを混合することで、上記曲げ弾性率に設定されたものなどが用いられる。
【0020】
また、内層材料と外層材料との曲げ弾性率の関係としては、外層材料の曲げ弾性率が内層材料の曲げ弾性率の3/50以上であることが好ましく、また、さらに1/2以下であることがより好ましい。前者であることで、内層材料の剛性を相対的に低くし、折れ曲がれを防止し、耐キンク性をさらに向上させることができる。また、後者であることで、可撓性を確保することができる。
【0021】
次に、この実施形態のチャンネルチューブ1の作用について説明する。チャンネルチューブ1においては、上記のように内層2を形成する内層材料及び外層3を形成する外層材料がともに熱可塑性樹脂であることで、材料コストの低減を図り、また、通常の押出成形によって成形可能であり、加工コストの低減を図ることができる。また、内層2及び外層3の厚さ、並びに、各層を形成する内層材料及び外層材料の曲げ弾性率を上記の範囲に設定することで、内面の滑り性、並びに、チューブ全体としての可撓性及び耐キンク性を制御することができる。また、内層材料及び外層材料を上記のような複合材料とすることで、滑り性を制御することができる。
【0022】
すなわち、内層材料の曲げ弾性率が400MPa以上に設定されていることで、内層2の内面の硬度が低すぎて、処置具等の挿入物との接触面積が大きくなり摩擦抵抗が大きくなってしまうことが無く、滑り性を確保することができる。また、内層材料の曲げ弾性率が1000MPaより大きい場合には、硬度が高すぎて、内層の厚さを変化させても所定の可撓性及び耐キンク性を得られなくなってしまうが、曲げ弾性率を1000MPa以下に設定していることで、内層2の厚さに応じて、可撓性及び耐キンク性を確保することができる。また、外層材料の曲げ弾性率が200MPaより大きい場合には、硬度が高すぎて、外層3の厚さを変化させても所定の可撓性及び耐キンク性を得られなくなってしまうが、曲げ弾性率を200MPa以下に設定していることで、外層3の厚さに応じて、可撓性及び耐キンク性を確保することができる。そして、これらの内層材料及び外層材料で形成された内層2及び外層3の厚さを、外層3に対して内層2が2/3以下となるように設定することで、曲げ弾性率の高い内層2の影響を受けること無く、チューブ全体の可撓性を確保することが可能となり、さらに1/9以上とすることで内面の滑り性、及び可撓性をより良好なものとすることができる。
【0023】
さらに、内層材料及び外層材料が、ともに、オレフィン系樹脂及び脂肪酸アミドが含まれた複合材料で形成されていることで、内層の内面及び外層の外面のそれぞれの摩擦抵抗を低下させることができ、すなわち、それぞれの滑り性をより良好なものとすることができる。特にその混合比を、オレフィン系樹脂100重量部に対して脂肪酸アミドを0.5重量部以上として混合することで、効果的に滑り性を発揮させることができる。また、脂肪酸アミドを5重量部以下とすることで、脂肪酸アミドを含む内層材料及び外層材料について粘度の低下を抑え、成形時安定性を良好なものとすることができる。
以下に、実施例1、2として、上記チャンネルチューブ1について、各種性能試験を行った結果を示す。
【0024】
(実施例1)
表1並びに図3及び図4は、図1に示すチャンネルチューブについて、内層材料の曲げ弾性率を100MPa〜1500MPaの範囲で変化させて動摩擦係数及び挿入力量を測定した結果を示している。ここで、動摩擦係数の測定には、摩擦試験機(新東科学(株)製)を使用した。また、挿入力量の測定には、図5に示すような内視鏡20のチャンネル20aとして、図1に示すチャンネルチューブ1を使用し、処置具チューブ21を基端から先端まで挿入した状態で、進退させるのに必要な力量(N)をセンサ22によって測定することで行った。なお、チャンネル20aは、全長Lが1800mm、内径D20が3.0mmであり、また、処置具チューブ21は、材質がフッ素樹脂で、外径D21が2.5mmである。そして、内視鏡20を中間部において半径R1を60cmとして円形状に湾曲させ、また、先端部において、半径R2を30cmとして半円形状に湾曲させて、力量の測定を行った。
【0025】
【表1】

【0026】
表1並びに図3及び図4に示すように、本発明の範囲である内層材料の曲げ弾性率が400MPa以上で、摩擦係数及び挿入力量を低い値に設定することができ、すなわち挿入物の滑り性を確保することができることを確認できた。
【0027】
(実施例2)
表2から表10は、図1に示すチャンネルチューブについて、可撓性試験、最小曲げR試験、及び、吸引試験を行った結果について示している。表2に、本実施例で使用したチャンネルチューブの内層材料と外層材料との曲げ弾性率の組み合わせを示す。本実施例では、内層材料の曲げ弾性率を400、600、800、1000MPaで変化させるとともに、外層材料の曲げ弾性率を20、60、100、200MPaで変化させて各組み合わせについてチャンネルチューブを作製した。また、表2に示すように、さらに比較例として、内層材料の曲げ弾性率を1200MPaとして、外層材料の曲げ弾性率を上記のように変化させたもの、並びに、外層材料の曲げ弾性率を300MPaとして、内層材料の曲げ弾性率を上記のように変化させたものについてもチャンネルチューブを作製した。なお、表中の数字は、内層材料に対する外層材料の曲げ弾性率の比率を表している。
【0028】
また、表2において、範囲A1は、内層材料及び外層材料の曲げ弾性率が上記実施形態の範囲内であるとともに、外層材料の曲げ弾性率が内層材料の曲げ弾性率の3/50(0.06)以上に設定されているものを示し、範囲A2は、上記実施形態の範囲内で比率が3/50より小さく設定されているものを示している。また、範囲B1は、内層材料または外層材料の曲げ弾性率が上記実施形態の範囲外であるものを示している。
【0029】
【表2】

【0030】
そして、内層材料と外層材料の曲げ弾性率の各組み合わせについて、外層の厚さT3に対する内層の厚さT2の比T2/T3を、上記実施形態の範囲内として1/3、1/2、2/3、さらに上記実施形態の範囲外として5/6にそれぞれ変化させて、可撓性試験を行った。表3から表6に可撓性試験の結果を示す。ここで、可撓性試験は、チャンネルチューブの外径D1を4mm、内径D2を3mmとし、また、スパン長を250mmとして三点曲げ試験を行い、撓み量が50mmとなったときの力量(N)を測定するものであり、測定された力量に基づいて当該チャンネルチューブの可撓性の評価を行った。また、内層材料と外層材料の曲げ弾性率の各組み合わせについて、外層の厚さT3に対する内層の厚さT2の比T2/T3を上記同様に変化させて、最小曲げR試験及び吸引試験を行った。表7から表10に最小曲げR試験及び吸引試験の結果を示す。ここで、最小曲げR試験は、チャンネルチューブを図5に示すような内視鏡20のチャンネル20aに使用して、内視鏡の先端部を最小半径となるまで湾曲させて、チャンネルチューブにキンクが発生しているか否かをX線画像で確認するものであり、この結果に基づいて当該チャンネルチューブの耐キンク性の評価を行った。また、吸引試験は、チャンネルチューブ及び当該チャンネルチューブと同じ内径を有する鉄パイプとのそれぞれによって、一端を水槽に浸し、他端から真空度15kPaで吸引させ、水槽内の水の吸引量の比較を行うものである。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
【表6】

【0035】
【表7】

【0036】
【表8】

【0037】
【表9】

【0038】
【表10】

【0039】
表3から表6において、表中の数字は、可撓性試験によって測定された力量(N)を示している。表3から表6に示すように、厚さの比T2/T3が2/3以下で、範囲A1、A2、すなわち内層材料の曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下で、かつ、外層材料の曲げ弾性率が200MPa以下の範囲では、いずれにおいても可撓性試験によって得られる力量が0.90(N)以下であり、良好な可撓性を得ることができた。特に、表3における範囲A3、表4における範囲A4、並びに、表5における範囲A5では、力量が0.40(N)以下となり可撓性をより好適なものとすることができた。
【0040】
一方、表3から表5に示すように、厚さの比T2/T3が2/3以下である場合においても、範囲B1では、力量が0.90(N)より大きくなる場合があった。また表6に示すように、厚さの比T2/T3が5/6と、2/3より大きい場合には、範囲A1でも力量が0.90(N)より大きくなる場合があった。
【0041】
また、表7から表10において、表中の「OK」及び「NG」の表記は、「OK」が最小曲げR試験においてキンクが認められなかった場合を、「NG」がキンクが認められた場合を示し、数字は吸引試験において鉄パイプに対する当該チャンネルチューブの吸引量の割合を示している。表7から表9に示すように、厚さの比T2/T3が2/3以下の場合には、範囲A1、すなわち内層材料の曲げ弾性率に対して外層材料の曲げ弾性率が3/50以上の範囲ではキンクが全く認められなかった。一方、表10に示すように、厚さの比T2/T3が2/3より大きい場合には、範囲A1でもキンクが認められる場合があった。すなわち、厚さの比T2/T3を2/3以下とすることで、耐キンク性が向上することが確認できた。また、表7から表10に示すように、範囲A2、すなわち内層材料の曲げ弾性率に対して外層材料の曲げ弾性率が3/50より小さい範囲では、使用可能な状態であるものの、キンクが認められるケースが範囲A1よりは多かった。このため、内層材料の曲げ弾性率に対して外層材料の曲げ弾性率を3/50以上とすることで、耐キンク性がより向上することが確認できた。また、吸水試験においても範囲A1では厚さの比がいずれの場合においても良好な吸水量が得られることを確認できた。
【0042】
以上のように、この実施形態のチャンネルチューブ1を内視鏡挿入部の内部に配設した場合、チューブ全体の可撓性及び耐キンク性を確保することができるため、内視鏡挿入部の内、能動的に湾曲可能な湾曲部においては、湾曲操作の操作性を向上させることができるとともに、湾曲角を小さくすることができ、内視鏡による体内の治療をさらに容易なものとすることができる。また、内面の滑り性を確保することができるため、チャンネルチューブ1に処置具を挿通させる際の挿入性の向上を図ることができる。特に、内層材料に対して外層材料の曲げ弾性率の比を3/50以上とすることで、耐キンク性をさらに向上させることができる。さらに、内層材料及び外層材料をオレフィン系樹脂と脂肪酸アミドとを含む複合材料としたことによる滑り性の向上により、内面においては処置具のさらなる挿入性の向上を図ることができ、また、外面においてはチャンネルチューブ1自体を内視鏡挿入部に挿入する際の挿入性の向上を図ることができ、内視鏡の組立性の向上を図ることができる。
【0043】
[第2の実施形態]
図2は、この発明に係る第2の実施形態を示している。図2に示すように、この実施形態の医療用チューブであるチャンネルチューブ10は、第1の実施形態同様に、例えば、外径D1が4mmから6mm程度、内径D2が3mmから5mm程度のものである。また、チャンネルチューブ10は、内層11と、内層11の外側を覆う中層12と、中層12の外側を覆う外層13との3層構造となっていて、内層11と外層13との厚さの和が、中層12の厚さの2/3以下となるように設定され、より好ましくは、1/9以上に設定されている。
【0044】
内層11を形成する内層材料としては、曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下となる熱可塑性樹脂が選択され、オレフィン系樹脂と脂肪酸アミドとを含む複合材料であることが好ましく、さらに、オレフィン系樹脂100重量部に対して、脂肪酸アミドが0.5重量部以上5重量部以下で混合されていることがより好ましい。このような内層材料としては、より具体的には、例えば、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンからなる曲げ弾性率が400MPa〜1000MPaの樹脂に、上記混合比で脂肪酸アミドを混合することで、上記曲げ弾性率に設定されたものなどが用いられる。
【0045】
また、中層12を形成する中層材料としては、曲げ弾性率が200MPa以下となる熱可塑性樹脂が選択される。このような中層材料としては、より具体的には、例えば、オレフィン系エラストマーからなる曲げ弾性率が50MPa〜200MPaの樹脂などが用いられる。
【0046】
外層13を形成する外層材料としては、曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下となる熱可塑性樹脂が選択され、オレフィン系樹脂と脂肪酸アミドとを含む複合材料であることが好ましく、さらに、オレフィン系樹脂100重量部に対して、脂肪酸アミドが0.5重量部以上5重量部以下で混合されていることがより好ましい。このような外層材料としては、より具体的には、例えば、低密度ポリエチレンとスチレン系エラストマーからなる曲げ弾性率が400MPa〜1000MPaの樹脂に、上記混合比で脂肪酸アミドを混合することで、上記曲げ弾性率に設定されたものなどが用いられる。
【0047】
また、内層材料と中層材料と外層材料との曲げ弾性率の関係としては、中層材料の曲げ弾性率が内層材料及び外層材料それぞれの曲げ弾性率の3/50以上であることが好ましく、また、さらに1/2以下であることがより好ましい。前者であることで、内層材料及び外層材料の剛性を相対的に低くし、折れ曲がれを防止し、耐キンク性をさらに向上させることができる。また、後者であることで、可撓性を確保することができる。
【0048】
次に、この実施形態のチャンネルチューブ10の作用について説明する。チャンネルチューブ10においては、上記のように内層11を形成する内層材料、中層12を形成する中層材料、及び、外層13を形成する外層材料がともに熱可塑性樹脂であることで、材料コストの低減を図り、また、通常の押出成形によって成形可能であり、加工コストの低減を図ることができる。また、各層の厚さ、並びに、各層を形成する内層材料、中層材料及び外層材料の曲げ弾性率を上記の範囲に設定することで、内面及び外面の滑り性、並びに、チューブ全体としての可撓性及び耐キンク性を制御することができる。また、内層材料及び外層材料を上記のような複合材料とすることで、滑り性を制御することができる。
【0049】
すなわち、内層材料の曲げ弾性率が400MPa以上に設定されていることで、内層11の内面の硬度が低すぎて、処置具等の挿入物との接触面積が大きくなり摩擦抵抗が大きくなってしまうことが無く、滑り性を確保することができる。同様に、外層材料の曲げ弾性率が400MPa以上に設定されていることで、外層13の外面の硬度が低すぎて、チャンネルチューブ10自身を挿入させる被挿入物との接触面積が大きくなり摩擦抵抗が大きくなってしまうことが無く、滑り性を確保することができる。
【0050】
また、内層材料及び外層材料の曲げ弾性率が1000MPaより大きい場合には、硬度が高すぎて、内層及び外層の厚さを変化させても所定の可撓性及び耐キンク性を得られなくなってしまうが、曲げ弾性率を1000MPa以下に設定していることで、内層11及び外層13の厚さに応じて、可撓性及び耐キンク性を確保することができる。また、中層材料の曲げ弾性率が200MPaより大きい場合には、硬度が高すぎて、中層12の厚さを変化させても所定の可撓性及び耐キンク性を得られなくなってしまうが、曲げ弾性率を200MPa以下に設定していることで、中層12の厚さに応じて、可撓性及び耐キンク性を確保することができる。そして、上記のように、内層材料及び外層材料で形成された内層11と外層13との厚さの和が、中層材料で形成された中層12の厚さの2/3以下となるように設定することで、曲げ弾性率の高い内層11及び外層13の影響を受けること無く、チューブ全体の可撓性を確保することが可能となり、さらに1/9以上とすることで内面及び外面の滑り性、及び可撓性をより良好なものとすることができる。
【0051】
さらに、内層材料及び外層材料が、ともに、オレフィン系樹脂及び脂肪酸アミドが含まれた複合材料で形成されていることで、内層の内面及び外層の外面のそれぞれの摩擦抵抗を低下させることができ、すなわち、それぞれの滑り性をより良好なものとすることができる。特にその混合比を、オレフィン系樹脂100重量部に対して脂肪酸アミドを0.5重量部以上として混合することで、効果的に滑り性を発揮させることができる。また、脂肪酸アミドを5重量部以下とすることで、脂肪酸アミドを含む内層材料及び外層材料について粘度の低下を抑え、成形時安定性を良好なものとすることができる。
以下に、実施例3として、上記のチャンネルチューブ10について、各種性能試験を行った結果を示す。
【0052】
(実施例3)
表11から表19は、図2に示すチャンネルチューブについて、可撓性試験、最小曲げR試験、及び、吸引試験を行った結果について示している。表11に、本実施例で使用したチャンネルチューブの内層材料及び外層材料と中層材料との曲げ弾性率の組み合わせを示す。本実施例では、内層材料及び外層材料の曲げ弾性率を400、600、800、1000MPaで変化させるとともに、中層材料の曲げ弾性率を20、60、100、200MPaで変化させて各組み合わせについてチャンネルチューブを作製した。また、表11に示すように、さらに比較例として、内層材料及び外層材料の曲げ弾性率を1200MPaとして、中層材料の曲げ弾性率を上記のように変化させたもの、並びに、中層材料の曲げ弾性率を300MPaとして、内層材料及び外層材料の曲げ弾性率を上記のように変化させたものについてもチャンネルチューブを作製した。なお、表中の数字は、内層材料及び外層材料に対する中層材料の曲げ弾性率の比率を表している。
【0053】
また、表11において、範囲A11は、内層材料及び外層材料並びに中層材料の曲げ弾性率が上記実施形態の範囲内であるとともに、中層材料の曲げ弾性率が内層材料及び外層材料の曲げ弾性率の3/50(0.06)以上に設定されているものを示し、範囲A12は、上記実施形態の範囲内で比率が3/50より小さく設定されているものを示している。また、範囲B11は、内層材料及び外層材料、または、中層材料の曲げ弾性率が上記実施形態の範囲外であるものを示している。なお、本実施例では、内層材料の曲げ弾性率と外層材料の曲げ弾性率とを同じ値に設定しているが、これに限るものでは無く、上記実施形態の範囲内で異なる値に設定しても良い。
【0054】
【表11】

【0055】
そして、内層材料及び外層材料と中層材料との曲げ弾性率の各組み合わせについて、中層の厚さT12に対する内層の厚さT11と外層の厚さT13との和の比(T11+T13)/T12を、上記実施形態の範囲内として1/3、1/2、2/3、さらに上記実施形態の範囲外として5/6にそれぞれ変化させて、可撓性試験を行った。表12から表15に可撓性試験の結果を示す。また、厚さの比(T11+T13)/T12を上記同様に変化させて、最小曲げR試験及び吸引試験を行った。表16から表19に最小曲げR試験及び吸引試験の結果を示す。なお、各試験の詳細については実施例2と同様であるので省略する。
【0056】
【表12】

【0057】
【表13】

【0058】
【表14】

【0059】
【表15】

【0060】
【表16】

【0061】
【表17】

【0062】
【表18】

【0063】
【表19】

【0064】
表12から表15において、表中の数字は、可撓性試験によって測定された力量(N)を示している。表12から表15に示すように、厚さの比(T11+T13)/T12が2/3以下で、範囲A11、A12、すなわち内層材料及び外層材料の曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下で、かつ、中層材料の曲げ弾性率が200MPa以下の範囲では、いずれにおいても可撓性試験によって得られる力量が0.90(N)以下であり、良好な可撓性を得ることができた。特に、表12における範囲A13、表13における範囲A14、並びに、表14における範囲A15では、力量が0.40(N)以下となり可撓性をより好適なものとすることができた。
【0065】
一方、表12から表14に示すように、厚さの比(T11+T13)/T12が2/3以下である場合においても、範囲B11では、力量が0.90(N)より大きくなる場合があった。また表15に示すように、厚さの比(T11+T13)/T12が5/6と、2/3より大きい場合には、範囲A11でも力量が0.90(N)より大きくなる場合があった。
【0066】
また、表16から表19において、表中の「OK」及び「NG」の表記は、「OK」が最小曲げR試験においてキンクが認められなかった場合を、「NG」がキンクが認められた場合を示し、数字は吸引試験において鉄パイプに対する当該チャンネルチューブの吸引量の割合を示している。表16から表18に示すように、厚さの比(T11+T13)/T12が2/3以下の場合には、範囲A11、すなわち内層材料及び外層材料の曲げ弾性率に対して中層材料の曲げ弾性率が3/50以上の範囲ではキンクが全く認められなかった。一方、表19に示すように、厚さの比(T11+T13)/T12が2/3より大きい場合には、範囲A11でもキンクが認められる場合があった。すなわち、厚さの比(T11+T13)/T12を2/3以下とすることで、耐キンク性が向上することが確認できた。また、表16から表19に示すように、範囲A12、すなわち内層材料及び外層材料の曲げ弾性率に対して中層材料の曲げ弾性率が3/50より小さい範囲では、使用可能な状態であるものの、キンクが認められるケースが範囲11よりは多かった。このため、内層材料及び外層材料の曲げ弾性率に対して中層材料の曲げ弾性率を3/50以上とすることで、耐キンク性がより向上することを確認できた。また、吸水試験においても範囲A11では厚さの比がいずれの場合においても良好な吸水量が得られることを確認できた。
【0067】
以上から、この実施形態のチャンネルチューブ10を内視鏡挿入部の内部に配設した場合、チューブ全体の可撓性及び耐キンク性を確保することができるため、内視鏡挿入部の内、能動的に湾曲可能な湾曲部においては、湾曲操作の操作性を向上させることができるとともに、湾曲角を小さくすることができ、内視鏡による体内の治療をさらに容易なものとすることができる。また、内面の滑り性を確保することができることで、チャンネルチューブ10に処置具を挿通させる際の挿入性の向上を図ることができ、また、外面の滑り性を確保することができることで、チャンネルチューブ10自体を内視鏡挿入部に挿入する際の挿入性の向上をさせ、内視鏡の組立性の向上を図ることができる。特に、内層材料及び外層材料に対して、中層材料の曲げ弾性率の比を3/50以上とすることで、耐キンク性をさらに向上させることができる。さらに、内層材料及び外層材料をオレフィン系樹脂と脂肪酸アミドとを含む複合材料としたことによる滑り性の向上により、内面においては処置具のさらなる挿入性の向上を図ることができ、また、外面においてはチャンネルチューブ10自体のさらなる挿入性の向上を図ることができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0069】
なお、各実施形態においては、医療用チューブとして、内視鏡の内視鏡挿入部に配設されるチャンネルチューブを例に挙げたが、これに限ることはなく、滑り性、可撓性、及び、耐キンク性を有し、かつ、低コストの医療用チューブとして様々な用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るチャンネルチューブの断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るチャンネルチューブの断面図である。
【図3】チャンネルチューブに使用する内層材料について、曲げ弾性率と動摩擦係数との関係を示すグラフである。
【図4】チャンネルチューブに使用する内層材料について、曲げ弾性率と挿入力量との関係を示すグラフである。
【図5】最小曲げR試験の概要を示す側面図である。
【符号の説明】
【0071】
1、 10 チャンネルチューブ(医療用チューブ)
2、 11 内層
3、 13 外層
12 中層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂である内層材料で形成された内層と、
該内層の外側を覆い、曲げ弾性率が200MPa以下の熱可塑性樹脂である外層材料で形成された外層とで構成され、
前記内層の厚さは、前記外層の厚さの2/3以下に設定されていることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用チューブにおいて、
前記外層材料の曲げ弾性率は、前記内層材料の曲げ弾性率の3/50以上に設定されていることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項3】
曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂である内層材料で形成された内層と、
該内層の外側を覆い、曲げ弾性率が200MPa以下の熱可塑性樹脂である中層材料で形成された中層と、
該中層の外側を覆い、曲げ弾性率が400MPa以上1000MPa以下の熱可塑性樹脂である外層材料で形成された外層とで構成され、
前記内層の厚さと前記外層厚さとの和は、前記中層の厚さの2/3以下に設定されていることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項4】
請求項3に記載の医療用チューブにおいて、
前記中層材料の曲げ弾性率は、前記内層材料の曲げ弾性率の3/50以上に設定されているとともに、前記外層材料の曲げ弾性率の3/50以上に設定されていることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載された医療用チューブにおいて、
前記内層材料と前記外層材料とは、少なくともオレフィン系樹脂と脂肪酸アミドとを含む複合材料であることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項6】
請求項5に記載された医療用チューブにおいて、
前記内層材料及び前記外層材料を形成する前記複合材料は、前記オレフィン系樹脂100重量部に対して、前記脂肪酸アミドが0.5重量部以上混合されていることを特徴とする医療用チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−82321(P2009−82321A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254098(P2007−254098)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】