説明

医療用ロボットシステム

【課題】患者に対する医療用器具の位置及び角度の調整を簡易に行うことができるとともに、統合型システムとして多機能化を図りやすい医療用ロボットシステムを提供する。
【解決手段】医療用ロボットシステム10は、手術ロボット14と、可動ベッド16と、画像診断装置18とを備える。手術ロボット14は、マニピュレータ28a、28b及び内視鏡30がそれぞれ先端に取り付けられた複数のアーム22a〜22cを有する。可動ベッド16は、ステーション12上に設置され、ステーション12上で位置、向き及び姿勢を変更可能に構成されている。システム制御部42は、手術ロボット14、可動ベッド16及び画像診断装置18の動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に医療用器具を設けた手術ロボットと、可動ベッドとを備え、これらを制御して手術を行う医療用ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡下手術(内視鏡下外科手術)においては、患者の腹部等に小さな孔をいくつかあけて内視鏡(例えば、硬性鏡)、マニピュレータ(又は鉗子)等を挿入し、術者が内視鏡の映像をモニタで見ながら手術を行っている。このような腹腔鏡下手術は、開腹を必要としないため患者への負担が少なく、術後の回復や退院までの日数が大幅に低減されることから、適用分野の拡大が期待されている。
【0003】
マニピュレータシステムは、例えば特許文献1に記載されているように、マニピュレータと、該マニピュレータを制御する制御装置とから構成される。マニピュレータは、人手によって操作される操作部と、操作部に対して交換自在に着脱される作業部とから構成される。作業部は長いシャフトと、該シャフトの先端に設けられた先端動作部(エンドエフェクタとも呼ばれる。)とを有し、ワイヤによって先端の作業部を駆動するモータが操作部に設けられている。ワイヤは基端側でプーリに巻き掛けられている。制御装置は、操作部に設けられたモータを駆動して、プーリを介してワイヤを循環駆動する。
【0004】
一方、医療用マニピュレータ(鉗子マニピュレータ)をロボットアームにより駆動する医療用ロボットシステムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような医療用ロボットシステムでは、マスターアームによる遠隔操作が可能であると共に、プログラム制御により様々な動作が可能となる。医療用ロボットシステムには、ロボットアームが設けられており、手技に応じてこれらのロボットアームを使い分けることができる。例えば、ロボットアームのうち2台にはマニピュレータが設けられ、ロボットアームのうち1台には内視鏡が設けられ、体腔内を所定のモニタで確認しながら、該ロボットアームから離間して配置されたコンソール上の操作部を介して手技を行うことができる。
【0005】
なお、このような従来の医療用ロボットシステムにおいて、ロボットアームが設けられたロボット本体は、カート(移動台車)に搭載されて移動可能となっており、手術を実施する場合には、カートを手術ベッドの近傍まで移動させる。この場合、症例の内容に応じて患者(患部)に対してマニピュレータが所定の向きとなるようにロボット本体を配置する。すなわち、位置が固定された手術ベッドに対して、カートに載せたロボット本体を移動させることにより、手術ベッドに対するロボット本体の位置決め(配置)が行われる。
【0006】
また、従来、マニピュレータ、手術ベッド及び画像診断装置を組み合わせた統合型医療システムが種々提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。このような従来の統合型医療システムでは、MRIやCTのような画像診断装置をシステムの中心に据える構成が採用される。すなわち、画像診断装置の位置を固定する一方、手術ベッド及びマニピュレータを可動式とする構成が採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−61969号公報
【特許文献2】米国特許第6331181号明細書
【特許文献3】特開2003−265499号公報
【特許文献4】特開2003−299674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の統合型医療システムにおいて、上述した複数のロボットアームを有する医療用ロボット(マニピュレータユニット)を適用することが考えられる。しかしながら、マニピュレータの患者に対する挿入位置や挿入角度や症例毎に異なっており、これに対応するために、大型のロボット本体を移動させて手術ベッドに対して位置決めする必要がある。このような作業は、煩雑であり、また、これを短時間で行うことが難しい。
【0009】
また、従来技術では、画像診断装置や手術ベッドを中心としてシステムを構成する考えが採用されており、これに合わせてマニピュレータユニットを小型化する必要性が生じる可能性がある。このような小型化の必要性は、統合型のシステムの多機能化を図っていく上で不利となる。
【0010】
本発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、患者に対する医療用器具の位置及び角度の調整を簡易に行うことができるとともに、統合型システムとして多機能化を図りやすい医療用ロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は、ステーションと、前記ステーションに設けられ先端に医療用器具が取り付けられた少なくとも1つのアームユニットと、前記アームユニットの先端に設けられた医療用器具とを有する手術ロボットと、前記ステーション上に設置され、前記ステーション上での位置及び向きを変更可能な可動ベッドと、前記手術ロボット及び前記可動ベッドの動作を制御するシステム制御部とを備える、ことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、手術ロボットは固定された位置にあり、手術ロボットを基準として可動ベッドが動く構成としたので、症例毎に異なる位置及び角度の調整を、手術ロボットを移動させることなく、可動ベッドの多自由度な動きによって簡便かつ迅速に行うことができる。また、このような構成を採用することで、アームユニットを小型化する必要がなくなるため、アームユニットの構成の自由度が大きくなり、アームユニットに付加する機能に関して制約を受けない。従って、統合型のシステムとして多機能化を図りやすい。また、本発明の医療用ロボットシステムでは、手術ロボットにより手術を行っている最中に不測の事態が生じた場合には、可動ベッドをアームユニット下の作業エリアから移動させることで、術者による通常の手術に簡易かつ迅速に移行することができる。さらに、手術ロボットを移動させる必要がなくなったことで、手術ロボットの移動に伴う周辺装置との接触の可能性を本質的になくすことができ、また人の動きも発生しないため、感染等のリスクも最小限に留めることができる。
【0013】
前記可動ベッドは、前記ステーション上での姿勢を変更可能に構成されるとよい。
【0014】
上記の構成によれば、患者の腹腔内に作業スペースを作る等のために患者の身体を傾ける必要がある場合に、可動ベッドを傾けることで患者の身体を傾けて、患者の腹腔内に所望の作業スペースを容易に確保することができる。
【0015】
前記システム制御部は、前記可動ベッドの姿勢変更に合わせて前記アームユニットを協調動作させるとよい。
【0016】
上記の構成によれば、可動ベッドとアームユニットの先端に設けられたマニピュレータ及び内視鏡との位置関係を保持したまま、可動ベッドの姿勢変更を行うことができる。
【0017】
前記医療用ロボットシステムは、生体の内部状態を撮像する画像診断装置をさらに備え、前記画像診断装置は、前記画像診断装置の撮像領域に前記可動ベッドが進入可能であるように配置され、前記システム制御部は、前記アームユニット及び前記可動ベッドとともに前記画像診断装置を制御するとよい。
【0018】
上記の構成によれば、手術ロボット、可動ベッド及び画像診断装置により、診断・手術を1つのシステムで実現する統合型システムが構築される。このため、手術ロボット、可動ベッド及び画像診断装置の動作を共通の座標系で統括的に制御することが可能である。従って、例えば、画像支援ナビゲーション手術への適用に際して、三次元側計測装置等の他の機器を用いて各機器間の座標合わせを行う必要がなく、簡易な構成で画像支援ナビゲーションを構築できる。
【0019】
前記手術ロボットは、前記医療用器具として内視鏡を含み、前記医療用ロボットシステムは、さらに、前記画像診断装置により撮像した画像と、前記内視鏡で撮像した画像を表示可能なモニタを備え、前記システム制御部の作用下に、前記画像診断装置で撮像した画像データを元に、前記モニタの画面上において、手術対象部位を前記内視鏡により撮像した画像に合成した形で表示するとよい。
【0020】
上記の構成によれば、術者は、モニタの画面上のどの位置に病変部があるのかを正確かつ迅速に把握することが可能となる。
【0021】
前記手術ロボットは、前記医療用器具として内視鏡を含み、前記医療用ロボットシステムは、さらに、前記画像診断装置により撮像した画像と、前記内視鏡で撮像した画像を表示可能なモニタを備え、前記システム制御部の作用下に、前記画像診断装置で撮像した画像データを元に、前記モニタの画面上において、手術対象部位ではない特定の組織を前記内視鏡により撮像した画像に合成して明示するとよい。
【0022】
上記の構成によれば、術者は、モニタの画面上のどの位置に、手術対象部位ではない特定の組織(例えば、損傷リスクの高い組織)があるかを正確かつ迅速に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る医療用ロボットシステムによれば、患者に対する医療用器具の位置及び角度の調整を簡易に行うことができるとともに、統合型システムとして多機能化が図りやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る医療用ロボットシステムの全体構成図である。
【図2】マニピュレータの一部省略断面平面図である。
【図3】マニピュレータの先端動作部の構造を説明するための斜視図である。
【図4】コンソールに設けられた操作部の正面図である。
【図5】患者を載せた可動ベッドがMRI装置に進入した状態を示す図である。
【図6】MRI側に足が向くように患者を可動ベッドに載せた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る医療用ロボットシステム10について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態に係る医療用ロボットシステム10は、第1鉗子マニピュレータ28a、第2鉗子マニピュレータ28b(以下、単に「マニピュレータ28a」、「マニピュレータ28b」という)及び内視鏡30(カメラ)を使用して、患者36に所望の外科処置を行うものである。図1では、医療用ロボットシステム10により、腹腔鏡下手術を行う場合を示している。
【0027】
医療用ロボットシステム10は、手術室の床に設置されたステーション12と、ステーション12上に設置された手術ロボット14と、ステーション12上に設置された可動ベッド16と、可動ベッド16の近傍に設置された画像診断装置18と、これらの全体的な制御を行うコンソール20とを備える。
【0028】
ステーション12は、本体部23と、手術ロボット14を構成するアームユニット22を昇降させる昇降機構部24と、可動ベッド16を動作させるベッド動作機構部26とを有する。昇降機構部24は、本体部23から上方に延出する全体として柱状の構造部であり、各アームユニット22の根元部が接続されており、コンソール20の制御作用下に、図示しないモータ等の駆動源が駆動制御されることで、各アームユニット22を独立して昇降させることが可能である。
【0029】
ステーション12のベッド動作機構部26は、本体部23に一体的に連結しており、この例では3つの動作軸及びこれらを駆動する図示しない駆動源を有し、コンソール20の制御作用下に前記駆動源が駆動制御されることで、可動ベッド16の位置及び姿勢を多自由度(3自由度)で変更(調整)可能である。
【0030】
本実施形態において、ベッド動作機構部26は、具体的には、図1に示す矢印X方向に可動ベッド16を移動させる進退動作と、上下方向であるZ方向の軸線a1を中心として可動ベッド16を回転させる回転動作と、可動ベッド16の長手方向(前後方向)の軸線a2を中心として可動ベッド16を左右に傾動させる傾動動作とを行うことができる。ここで、矢印X方向は、昇降機構部24と画像診断装置18との離間方向である。また、さらに可動ベッド16の左右方向であるY方向の軸線を中心として可動ベッド16をシーソー状に傾動させることができる。
【0031】
手術ロボット14は、ステーション12(具体的には、昇降機構部24)に設けられた3台のアームユニット22である第1鉗子アーム22a、第2鉗子アーム22b及びカメラアーム22c(以下、単に「アーム22a」、「アーム22b」及び「アーム22c」という)とを有する。
【0032】
第1及び第2鉗子アーム22a、22bは、それぞれ先端にマニピュレータを有し、カメラアーム22cは、先端に内視鏡30を有する。マニピュレータ28a、28b及び内視鏡30は、各アーム22a〜22cに対して着脱可能に構成されている。
【0033】
本実施形態の場合、マニピュレータ28a、28b及び内視鏡30は、共通の挿入具であるトロッカー32(トラカール)を介して体腔(体内)に挿入される。このように、手術ロボット14は、1つのトロッカー32から複数の器具を体内へと挿入可能なシングルポートアクセスによる手技を行うことができる。なお、勿論、手術ロボット14は、マニピュレータ28a、28b及び内視鏡30を、別々のトロッカー32を介して体内へと挿入する複数ポートアクセスによる手技を行うこともできる。
【0034】
各アーム22a〜22cは、それぞれ複数の関節を有し、内蔵するモータの駆動によって動作する多関節アームとして構成されるとともに、ステーション12に対して昇降機構部24によって昇降可能に取り付けられている。各アーム22a〜22cは、コンソール20によって制御されることで、マニピュレータ28a、28b及び内視鏡30を動作範囲内における任意の位置で任意の姿勢に設定可能である。
【0035】
アーム22a、22bの先端に設けられたマニピュレータ28a、28bは、主に患部に対して直接的な手技を施すためのものであり、その先端には、例えばグリッパ、鋏及び電気メス等が設けられ、又は体腔の臓器等を所定の場所に退避させて広い術野を確保するためのリトラクタを設けることもできる。本実施形態の場合、各マニピュレータ28a、28bは、略同一構成からなるため、以下ではマニピュレータ28aの構成と、該マニピュレータ28aとアーム22aの接続部の構成について代表的に説明し、マニピュレータ28bについての詳細な説明は省略する。
【0036】
図2に示すように、マニピュレータ28aは、アーム22a先端の支持部材50に対して着脱自在な構成になっている。支持部材50には、3つのモータ58a〜58cが並列している。マニピュレータ28aは、支持部材50に対する接続ブロック52と、該接続ブロック52から先端方向に延在する中空の連結シャフト54と、該連結シャフト54の先端に設けられた先端動作部56とを有する。
【0037】
接続ブロック52は、所定の着脱機構により支持部材50に対して着脱及び交換が可能である。接続ブロック52は、モータ58a〜58cに係合するプーリ60a〜60cがモータ58a〜58cに対応して並列している。モータ58a〜58cとプーリ60a〜60cは、一方に非円形の凸部があり、他方に該凸部に係合する凹部が設けられており、モータ58a〜58gの回転がプーリ60a〜60cに伝達される。
【0038】
プーリ60a〜60cには、ワイヤ62a〜62cが巻き掛けられている。可撓性部材からなるワイヤ62a〜62cは環状であって、滑り止めのため一部がプーリ60a〜60cに固定され、例えば1.5回転巻き掛けられて、連結シャフト54内を延在しており、プーリ60a〜60cが回転することにより、左右から延在する2本のうち一方が巻き取られ、他方が送り出される。
【0039】
連結シャフト54は、接続ブロック52から先端方向に延在し、その先端に先端動作部56が設けられている。連結シャフト54の途中には、図示しない関節部を設けて屈曲可能に構成してもよい。そうすると、体腔内における手技で、マニピュレータ28aをリトラクタとして一層好適に作用させることができる。他のマニピュレータや臓器等を有効に回避しながら所望の臓器を押すことができるからである。
【0040】
図3に示すように、先端動作部56は、連結シャフト54の先端に設けられており、少なくとも、ワイヤ62aが巻き掛けられるプーリ(図示せず)、ワイヤ62bが巻き掛けられるプーリ(図示せず)、及びワイヤ62cが巻き掛けられるプーリ(図示せず)を有する。ワイヤ62a〜62cが、接続ブロック52のプーリ60a〜60cの回転動作よって進退することにより、先端動作部56の各前記プーリが従動的に回転し、該先端動作部56は3軸動作が可能である。この動作は、例えば、ピッチ軸(関節軸)64及びヨー軸(関節軸)66を中心とした傾動動作と、グリッパ68の開閉動作である。先端動作部56には、これら各軸による動作と共に、又は該動作に代えて連結シャフト54の軸線方向に延びたロール軸を中心とした回転動作を設けてもよい。
【0041】
再び図1を参照する。カメラアーム22cの先端に設けられた内視鏡30は、体腔内の様子を撮影するカメラであり、その画像(映像)がコンソール20のモニタ70に表示されることで、手術スタッフ(医師)は、体腔内の様子を観察しながらマニピュレータ28a、28bを操作し、患部に対して所望の手技を行うことができる。内視鏡30は、図2に示すマニピュレータ28aと略同様に、カメラアーム22cの先端の支持部材に対して着脱自在な構成となっている。
【0042】
本実施形態において、画像診断装置18は、MRI(磁気共鳴イメージング)装置18Aとして構成されており、特に、図示例では開放型MRIとして構成されている。画像診断装置18には、撮像領域34が設けられている。MRI装置の場合、磁場形成領域が撮像領域34であり、この撮像領域34内に撮像対象となる部位(患者36の特定部位)を位置させ、検出された信号を解析することでMRI画像が形成される。本実施形態の場合、患者36を載せた可動ベッド16を画像診断装置18側(X1方向側)に移動させ、可動ベッド16を撮像領域34内に進入させることで、撮像可能な状態となる。なお、画像診断装置18は、生体内部の状態を画像化するための他の装置、例えば、CT(コンピューター断層撮影)装置であってもよい。
【0043】
医療用ロボットシステム10は、各アーム22a〜22cを有する手術ロボット14をコンソール20によって駆動操作することで患者36への外科処置を遠隔的に実施することができる。
【0044】
コンソール20は、手術ロボット14の操作用入力部である3つのジョイスティック38a、38b、38cと、可動ベッド16及び画像診断装置18の操作用入力部である操作盤40と、表示手段であるモニタ70と、システム制御部42とを備える。また、コンソール20は、ステーション12、手術ロボット14、可動ベッド16及び画像診断装置18との間で、有線、無線、ネットワーク又はこれらを組み合わせた通信手段によって情報を送受信可能である。
【0045】
左右のジョイスティック38a、38bの操作により、アーム22a、22bを個別に操作が可能であり、中央のジョイスティック38cの操作により、カメラアーム22cの操作が可能である。各アーム22c〜22cは、図示しない別の操作手段により操作するように構成してもよく、また、ジョイスティック38a〜38cを適宜切り換えて使用する等してもよい。ジョイスティック38a、38bは、両手で操作しやすい左右位置に設けられている。ジョイスティック38a、38bはマスターアームであってもよい。
【0046】
ジョイスティック38a〜38cは、上下動作、捻り動作、及び全方向への傾動動作が可能であり、これらの動作に応じてアーム22a〜22cを動作させることができる。ジョイスティック38a〜38cは、手を離すと図4に示す直立の基準状態に復帰する。
【0047】
図4に示すように、ジョイスティック38a、38bは、同構造であり、人手によって握るハンドルグリップ72と、主に人差し指、中指によって押し引き操作されるトリガレバー74と、主に親指によって操作される複合入力部76とを有し、例えば、トリガレバー74を操作することにより、マニピュレータのグリッパ68を開閉することができる。複合入力部76は、中央に設けられた十字状のシーソー型スイッチ76aを有する。シーソー型スイッチ76aを操作することにより、ピッチ軸64及びヨー軸66の傾動動作が可能になる。
【0048】
ジョイスティック38cについても、上記ジョイスティック38a、38bと基本的には同構造でよく、複合入力部76のシーソー型スイッチ76aによって内視鏡30の姿勢軸を動作させることができ、また、例えば、トリガレバー74に代えて、視点固定スイッチ75を設けるとよい。勿論、内視鏡30及びカメラアーム22cの操作部として、コンソール20以外の装置にジョイスティック38c又は同様な操作部を設けてもよい。
【0049】
操作盤40には、可動ベッド16及び画像診断装置18の操作に必要な各種ボタン類や、医療用ロボットシステム10のその他の入力操作に用いられる入力部が設けられている。操作盤40に対して所定の入力操作を行うことにより、可動ベッド16の位置及び姿勢を調整することが可能であり、また、画像診断装置18による患者36体内の撮像を実行することが可能である。なお、画像診断装置18及び可動ベッド16の操作入力手段としては、操作盤40に限られず、ジョイスティック38a〜38cと同様の構成を採用してもよい。
【0050】
モニタ70には、内視鏡30の画像とMRI画像が表示される。内視鏡30の画像とMRI画像は、モニタ70の画面上で個別に表示されてもよいし、複数のウインドウにより同時に表示されてもよい。
【0051】
図1に示すシステム制御部42は、手術ロボット14、可動ベッド16及び画像診断装置18の動作を制御するものであり、当該コンソール20、換言すれば当該医療用ロボットシステム10の総合的な制御部である。システム制御部42では、手術ロボット14、可動ベッド16及び画像診断装置18の座標系が統合されている。すなわち、手術ロボット14、可動ベッド16及び画像診断装置18は、共通の座標系で統括的に制御することが可能である。
【0052】
なお、コンソール20は、手術ロボット14の全ての制御を負担している必要はなく、例えば、各アーム22a〜22cのフィードバック制御は、それぞれのロボット側に設けられていてもよい。各アーム22a〜22cは、コンソール20の制御下に動作し、プログラムによる自動動作や、コンソール20に設けられたジョイスティック(操作部)38a〜38cに倣った動作、及びこれらの複合的な動作をする構成にしてもよい。
【0053】
本実施形態に係る医療用ロボットシステム10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用及び効果について説明する。
【0054】
医療用ロボットシステム10を用いて患者36に対する診断・処置を行う場合、まず、患者36は可動ベッド16に載せられる。この場合、予め可動ベッドを医療用ロボットの作業エリアから退避する位置に進出させておき、その位置の可動ベッド16に患者36が載る。ここでは、手術を施す前に、画像診断装置18で患者36の体内の患部の状態を検査・診断するため、患者36は仰向けの状態で可動ベッド16に載せられる。
【0055】
そして、可動ベッド16は、画像診断装置18の撮像領域34に進入できるように、コンソール20の制御作用下に、長手方向をX方向に向ける。このときの可動ベッド16の方向調整は、術者(または補助者)がコンソール20の操作盤40を操作して行ってもよいし、システム制御部42において可動ベッド16の画像撮像時の方向としてプリセットした方向に自動制御で行ってもよい。
【0056】
次に、図5に示すように、患者36を載せた可動ベッド16を、患者36の患部が撮像領域34内の所定位置にくるように、画像診断装置18の撮像領域34に進入させる。撮像領域34内の所望の位置に患者36を位置させたら、画像診断装置18を作動させて、体内の所望の部位(患部)を撮像する。本実施形態の場合、MRI画像データが得られる。撮像した画像データは、コンソール20に送信され、MRI画像がモニタ70に表示される。
【0057】
画像診断装置に18より患者36の体内の状態を撮像したら、可動ベッド16を手術ロボット14側(X2方向側)に移動させ、可動ベッド16上の患者36の手術部位と医療用器具(マニピュレータ28a、28b及び内視鏡30)との相対位置合わせを行う。この場合、術者がコンソール20の手動操作により、可動ベッド16及び手術ロボット14を動作させ位置調整を行ってもよいが、得られた画像データを元に、システム制御部42の作用下に、マニピュレータと内視鏡30の位置を自動で設定してもよい。これにより、手術時間の短縮化を図ることができる。
【0058】
手術ロボット14に対する患者36の向きは、特定の方向に限定されないが、例えば、消化器系の臓器を手術対象とする場合には、図1に示すように、患者36の頭部がX1方向側を向くように可動ベッド16の向きを設定するとよい。一方、下腹部(子宮等)の臓器を手術対象とする場合には、図6に示すように、患者36の頭部がX2方向側を向くように可動ベッド16の向きを設定するとよい。この場合、可動ベッド16は、軸線a1を中心として回転動作が可能であるので、可動ベッド16の向きの設定(調整)を容易に行うことができる。
【0059】
そして、医療用ロボットシステム10による手術では、各アーム22a〜22cを駆動制御し、マニピュレータ28a、28b及び内視鏡30を、トロッカー32を通して患者36の体内に挿入し、内視鏡30によって体腔内を撮影・視認しつつ、マニピュレータ28a、28bで患部に対する所望の処置を行う。
【0060】
可動ベッド16は、X方向に移動可能であるので、手術中に診断画像を撮像したい場合には、図5に示すように、可動ベッド16をアームユニット22の下方から画像診断装置18側に自動(電動)で移動(スライド)させることで、迅速に診断画像を撮像することが可能である。また、画像診断装置18での撮像が終了したら、可動ベッド16をX2方向に移動させて元の位置へ戻すことで、迅速に手技に復帰することが可能である。
【0061】
上述したように、本実施形態に係る医療用ロボットシステム10によれば、手術ロボット14のステーション12上に可動ベッド16が設けられているので、可動ベッド16の位置調整を行うことで、アームユニット22の先端に設けられた医療用器具の患者36に対する位置及び角度を調整することができる。このように手術ロボット14は固定された位置にあり、手術ロボット14を基準として可動ベッド16が動く構成としたので、症例毎に異なる患者36に対する位置及び角度の調整を、手術ロボット14を移動させることなく、可動ベッド16の多自由度な動きによって簡便かつ迅速に行うことができる。
【0062】
また、このような構成を採用することで、アームユニット22を小型化する必要がなくなるため、アームユニット22の構成の自由度が大きくなり、アームユニット22に付加する機能に関して制約を受けない。従って、統合型のシステムとして多機能化を図りやすい。
【0063】
腹腔鏡下手術において、患者36の腹腔内に作業スペースを作る等のために患者36の身体を傾けたい場合がある。このような場合、上述したように、可動ベッド16は、軸線a2を中心とした傾動動作、軸線a3を中心とした傾動動作、あるいは軸線a2を中心とした傾動動作と軸線a3を中心とした傾動動作の複合動作が可能であるため、可動ベッド16の姿勢を水平に対して傾けることにより、患者36の身体を傾けて、患者36の腹腔内に所望の作業スペースを容易に確保することができる。
【0064】
また、このように可動ベッド16を傾けた場合に、システム制御部42の制御作用下に、可動ベッド16の姿勢変更に合わせてアームユニット22を協調動作させるとよい。これにより、可動ベッド16とアームユニット22の先端に設けられたマニピュレータ及び内視鏡30との位置関係を保持したまま、可動ベッド16の姿勢変更を行うことができる。
【0065】
上記の構成によれば、手術ロボット14、可動ベッド16及び画像診断装置18により、診断・手術を1つのシステムで実現する統合型システムが構築される。このため、上述したように、手術ロボット14、可動ベッド16及び画像診断装置18の動作を共通の座標系で統括的に制御することが可能である。
【0066】
例えば、手術ロボット14と可動ベッド16との相対位置を症例毎にプリセットしておき、症例開始時に、どの症例を行うかの指定(選択)を操作盤40に対する入力操作によって行うことで、可動ベッド16の位置が自動的に調整されるようにしてもよい。これにより、手術時間の短縮化を図ることができる。
【0067】
また、手術ロボット14、可動ベッド16及び画像診断装置18を共通の座標系で制御することにより、医療用ロボットシステム10において、画像支援ナビゲーションを構築することが容易となる。すなわち、従来技術において画像支援ナビゲーションを構築するには、レジストレーションと呼ばれる座標統合処理を行う必要があり、この座標統合には三次元側計測装置等の他の機器を用いることが必要で、システム構成が複雑となりやすい。これに対し、本実施形態に係る医療用ロボットシステム10によれば、各構成機器が共通の座標系で制御されるため、三次元側計測装置等の他の機器を用いて各機器間の座標合わせを行う必要がなく、簡易な構成で画像支援ナビゲーションを構築できる。
【0068】
このような画像支援ナビゲーションを構築する場合、例えば、システム制御部42の作用下に、画像診断装置18で撮像した画像データを元に、モニタ70の画面上において、手術対象の臓器(病変部)の位置を内視鏡30の撮像画像に合成した形で表示してもよい。これにより、術者は、モニタ70の画面上のどの位置に病変部があるのかを正確かつ迅速に把握することが可能となる。
【0069】
また、システム制御部42の作用下に、画像診断装置18で撮像した画像データを元に、モニタ70の画面上において、手術対象部位以外の特定の組織(例えば、血管等のような損傷リスクの高い組織)を内視鏡30の撮像画像に合成して明示してもよい。これにより、術者は、モニタ70の画面上のどの位置に、損傷リスクの高い組織があるかを正確かつ迅速に把握することが可能となる。
【0070】
ところで、従来の医療用ロボットシステムでは、手術を行っている最中に不足の事態が生じた場合には、ロボット本体を手術ベッドから離すように移動させ、術者が患者を取り囲めるようにする必要があったが、ロボット本体の重量が相当に大きい場合には、素早く移動させることが困難である場合があった。これに対し、本実施形態に係る医療用ロボットシステム10では、手術ロボット14により手術を行っている最中に不測の事態が生じた場合には、可動ベッド16をアームユニット22下の作業エリアから退避させることで、術者による通常の手術に簡易かつ迅速に移行することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る医療用ロボットシステム10によれば、手術ロボット14を移動させる必要がなくなったことで、手術ロボット14の移動に伴う周辺装置との接触の可能性を本質的になくすことができ、また人の動きも発生しないため、感染等のリスクも最小限に留めることができる。
【0072】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0073】
10…医療用ロボットシステム 12…ステーション
14…手術ロボット 16…可動ベッド
18…画像診断装置 22…アームユニット
30…内視鏡 34…撮像領域
42…システム制御部 70…モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステーションと、
前記ステーションに設けられ先端に医療用器具が取り付けられた少なくとも1つのアームユニットと、前記アームユニットの先端に設けられた医療用器具とを有する手術ロボットと、
前記ステーション上に設置され、前記ステーション上での位置及び向きを変更可能な可動ベッドと、
前記手術ロボット及び前記可動ベッドの動作を制御するシステム制御部とを備える、
ことを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項2】
請求項1記載の医療用ロボットシステムにおいて、
前記可動ベッドは、前記ステーション上での姿勢を変更可能に構成される、
ことを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項3】
請求項2記載の医療用ロボットシステムにおいて、
前記システム制御部は、前記可動ベッドの姿勢変更に合わせて前記アームユニットを協調動作させる、
ことを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用ロボットシステムにおいて、
生体の内部状態を撮像する画像診断装置をさらに備え、
前記画像診断装置は、前記画像診断装置の撮像領域に前記可動ベッドが進入可能であるように配置され、
前記システム制御部は、前記アームユニット及び前記可動ベッドとともに前記画像診断装置を制御する、
ことを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項5】
請求項4記載の医療用ロボットシステムにおいて、
前記手術ロボットは、前記医療用器具として内視鏡を含み、
前記医療用ロボットシステムは、さらに、前記画像診断装置により撮像した画像と、前記内視鏡で撮像した画像を表示可能なモニタを備え、
前記システム制御部の作用下に、前記画像診断装置で撮像した画像データを元に、前記モニタの画面上において、手術対象部位を前記内視鏡により撮像した画像に合成した形で表示する、
ことを特徴とする医療用ロボットシステム。
【請求項6】
請求項4記載の医療用ロボットシステムにおいて、
前記手術ロボットは、前記医療用器具として内視鏡を含み、
前記医療用ロボットシステムは、さらに、前記画像診断装置により撮像した画像と、前記内視鏡で撮像した画像を表示可能なモニタを備え、
前記システム制御部の作用下に、前記画像診断装置で撮像した画像データを元に、前記モニタの画面上において、手術対象部位ではない特定の組織を前記内視鏡により撮像した画像に合成して明示する、
ことを特徴とする医療用ロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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