医療用中空針および医療用中空針の製造方法
【課題】本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、従来構造品に比して穿刺痛が一層軽減され得る新規な形状の刃面を備えた医療用中空針とその好適な製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に従う構造とされた医療用中空針10においては、特定の傾斜方向をもった第1〜4傾斜面26,30,32,42,42を互いに組み合わせて採用した新規形状の刃面を採用したことにより、刃面の穿刺抵抗を穿刺方向の全体に亘って略均一化させ得て、穿刺痛のピークレベルの低下と穿刺痛の感覚的な知覚時間の短縮化とによって穿刺時における患者の苦痛軽減を達成し得た。
【解決手段】本発明に従う構造とされた医療用中空針10においては、特定の傾斜方向をもった第1〜4傾斜面26,30,32,42,42を互いに組み合わせて採用した新規形状の刃面を採用したことにより、刃面の穿刺抵抗を穿刺方向の全体に亘って略均一化させ得て、穿刺痛のピークレベルの低下と穿刺痛の感覚的な知覚時間の短縮化とによって穿刺時における患者の苦痛軽減を達成し得た。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮下注射や透析、点滴、採血、輸血、輸液などに用いられる医療用中空針とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬液や血液等を体内に注射したり血液等を体内から採取する際には、注射針等の医療用中空針が用いられている。かかる医療用中空針は、細い円筒形状の針管の先端部分に傾斜した刃面が形成された尖鋭形状とされている。
【0003】
刃面の形成方法としては、種々あり、そのうちの一つに、ランセットカットと言われるカット法がある。ランセットカットは、刃面の基端側に第1傾斜面を設ける一方、刃面の先端側の周方向両側において中心軸回りで互いに反対側に等角度で傾斜し且つ中心軸に対して第1傾斜面より大きな傾斜角を有する第2傾斜面および第3傾斜面を設けたものである。
【0004】
ところで、このような医療用中空針では、穿刺に際しての患者の痛みを軽減することが重要であり、そのために、穿刺抵抗の低減が要求されている。
【0005】
なお、そのような要求に対処するために、特開平10−57490号公報(特許文献1)や特開2000−262615号公報(特許文献2)には、第1傾斜面と第2傾斜面との間および第1傾斜面と第3傾斜面との間に位置して、それぞれ第4傾斜面および第5傾斜面を設けた刃面形状が提案されている。第1傾斜面と第2傾斜面との間に位置する第4傾斜面は、第1傾斜面に対する中心軸回りで第2傾斜面より小さな回転角度(周方向傾斜角)を有していると共に、中心軸に対する軸方向傾斜角が第1傾斜面より大きく且つ第2傾斜面より小さくされている。また、第1傾斜面と第3傾斜面との間に位置する第5傾斜面は、第1傾斜面に対する中心軸回りで第3傾斜面より小さな回転角度(周方向傾斜角)を有していると共に、中心軸に対する軸方向傾斜角が第1傾斜面より大きく且つ第3傾斜面より小さくされている。
【0006】
ところが、本発明者らが検討したところ、これら特許文献1および特許文献2に記載の第1〜5傾斜面を設けた刃面形状の医療用中空針でも、未だ穿刺抵抗の低減効果に改善の余地があることが判った。特に従来構造の医療用中空針では、特許文献1の[図3]にも示されているように、穿刺に際して、先端部(刃先部分)から中間部(稜線部分)を経て基端部(ヒール部分)に至る間で穿刺抵抗が次第に大きくなっていると共に、先端部や中間部に比して基端部で穿刺抵抗が非常に大きくなる。そのために、穿刺痛が継続的に認識されると共に、最後に大きな穿刺痛を感ずるおそれがあったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−57490号公報
【特許文献2】特開2000−262615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、従来構造品に比して穿刺痛が一層軽減され得る新規な形状の刃面を備えた医療用中空針とその好適な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
医療用中空針に関する本発明の第1の態様は、円筒形状の針管の先端部分に、該針管の中心軸に対して傾斜した刃面が形成された医療用中空針において、(i)基端側に位置する第1傾斜面と、(ii)先端側に位置して該第1傾斜面に対して前記中心軸回りで互いに反対側に等角度で回転して設けられ、該中心軸に対する傾斜角度が互いに等しく且つ該第1傾斜面よりも大きな第2傾斜面および第3傾斜面と、(iii)該第1傾斜面と該第2傾斜面および該第3傾斜面との間にそれぞれ位置して前記中心軸周りの回転角度が該第1傾斜面と同じに設けられて該中心軸に対する傾斜角度が該第1傾斜面よりも大きく且つ該第2傾斜面及び該第3傾斜面よりも小さな第4傾斜面とによって、該刃面が構成されていることを特徴とする。
【0010】
このような第1の態様に従う構造の医療用中空針においては、刃面の基端側に位置する第1傾斜面と、刃面の先端側に位置する第2傾斜面および第3傾斜面との間の各稜線が、それぞれ第4傾斜面によって面取状に除かれている。これにより、かかる稜線が穿刺される際の抵抗値のピークが抑えられて、穿刺痛が軽減される。
【0011】
特に、本態様では、第2傾斜面および第3傾斜面が、何れも、第1傾斜面に対して中心軸回りで互いに反対側に回転して設けられた傾斜面とされているのに対して、第4傾斜面は、第1傾斜面に対して中心軸回りに回転して設けられた傾斜面とされていない。このように、中心軸回りの回転角度を第1傾斜面と同じとした第4傾斜面を新たに採用し、第1傾斜面と第2傾斜面との間および第1傾斜面と第3傾斜面との間にそれぞれ配したことにより、先端部から中間部を経て基端部に至る刃面の穿刺抵抗を全体に亘って略均一化させることが可能となった。その結果、刃面の全体に亘って穿刺抵抗が次第に大きくなる従来構造の医療用中空針に比べて、穿刺抵抗のピークレベル、特に先端部(刃先部分)と基端部(ヒール部分)の間の中間部における穿刺抵抗のピークレベルを抑えることができる。
【0012】
なお、本発明において、より好適には、以下の第2〜6の態様が、上記第1の態様に対して適宜に組み合わせて採用され得、それによって、穿刺抵抗の低減効果の更なる向上が図られ得る。
【0013】
すなわち、本発明の第2の態様は、上記第1の態様に係る医療用中空針において、前記第1傾斜面の前記中心軸に対する傾斜角度を10±2度とすると共に、前記第2傾斜面および前記第3傾斜面の該中心軸に対する傾斜角度を何れも18±2度とし、且つ、前記第4傾斜面の該中心軸に対する傾斜角度を12±2度としたものである。
【0014】
また、本発明の第3の態様は、上記第1又は2の態様に係る医療用中空針において、前記第4傾斜面における前記第1傾斜面側の端部を前記刃面における中心軸方向の中央位置よりも前記基端側に位置させると共に、該第4傾斜面における前記第2傾斜面および前記第3傾斜面側の端部を該刃面における中心軸方向の中央位置よりも前記先端側に位置させたものである。
【0015】
更にまた、本発明の第4の態様は、上記第1〜3の何れか1態様に係る医療用中空針において、前記第2傾斜面および前記第3傾斜面における前記基端側の端部を、前記刃面における中心軸方向で先端から基端に向かって1/4〜3/4の位置に設けたものである。
【0016】
また、本発明の第5の態様は、上記第1〜4の何れか1態様に係る医療用中空針であって、前記刃面の先端部分において前記第2傾斜面と前記第3傾斜面との間の稜線となる位置に、前記中心軸周りの回転角度が前記第1傾斜面と同じになるように第5傾斜面を設けたものである。
【0017】
なお、かかる第5の態様に係る医療用中空針では、前記第5傾斜面を前記第4傾斜面の延長面として設けることが、一層望ましい。
【0018】
一方、医療用中空針の製造方法に関する本発明の特徴とするところは、円筒形状の針管の先端部分を切削工具で加工することにより、該針管の中心軸に対して傾斜した刃面を形成する医療用中空針の製造方法であって、(I)前記中心軸に対して傾斜した第1加工面をもって研磨加工することにより前記刃面の基端側に位置する第1傾斜面を形成する工程と、(II)前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置を基準として、該針管と該研磨工具との相対位置を前記中心軸回りで一方向に所定の回転角度だけ異ならせ、該中心軸に対して該第1傾斜面より大きい傾斜角を有する第2加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の先端側において周方向一方の側に位置する第2傾斜面を形成する工程と、(III)前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置を基準として、該針管と該研磨工具との相対位置を前記中心軸回りで前記第2傾斜面と反対側に且つ該第2傾斜面と同じ回転角度だけ異ならせ、該中心軸に対して該第2傾斜面と同じ傾斜角を有する第3加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の先端側において周方向他方の側に位置する第3傾斜面を形成する工程と、(IV)前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置において、前記中心軸に対して該第1傾斜面より大きく且つ前記第2傾斜面および前記第3傾斜面より小さい傾斜角を有する第4加工面をもって切削加工することにより、前記刃面の該第1傾斜面と該第2傾斜面および該第3傾斜面との間にそれぞれ位置して該第1傾斜面と同じ回転角度の第4傾斜面を形成する工程とを、含むことにある。
【0019】
このような本発明方法に従えば、針管の中心軸回りで針管を研磨工具に対して相対的に所定角度回転させて位置決めしつつ複数回の研磨加工を施すことにより、針管の尖端部分に対して第1〜4傾斜面を備えた刃面を形成することが出来、前述の如き本発明に従う構造とされた医療用中空針を効率的に製造することができる。
【0020】
また、本発明方法では、上記の第1〜4加工面での各研磨加工の実施順序が限定されるものでないが、例えば、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面と前記第3傾斜面とをそれぞれ形成した後、前記第4傾斜面を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従う構造とされた医療用中空針においては、特定の傾斜方向をもった第1〜4傾斜面を互いに組み合わせて採用した新規形状の刃面を採用したことにより、刃面の穿刺抵抗を穿刺方向の全体に亘って略均一化させ得て、穿刺抵抗のピークレベルの低下を達成し、穿刺時における患者の苦痛軽減を図ることができる。
【0022】
また、本発明方法に従えば、針管に対する研磨工具の相対位置を変更設定しつつ複数回の研磨加工によって、第1〜4傾斜面を備えた新規形状の刃面を備えた本発明に従う構造の医療用中空針を効率的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態としての医療用中空針を示す平面図。
【図2】図1に示された医療用中空針の側面図。
【図3】図2に示された医療用中空針を、第2傾斜面の周方向回転角度(−θ)だけ、中心軸回りに回転させた状態での側面図。
【図4】図1に示された医療用中空針の刃面の斜視図。
【図5】図1に示された医療用中空針の正面図。
【図6】図1におけるVI−VI断面図。
【図7】図1に示された医療用中空針の中間加工品を示す、図1に相当する平面図。
【図8】図1に示された医療用中空針の中間加工品を示す、図2に相当する側面図。
【図9】図1に示された医療用中空針の穿刺抵抗の実測値を示すグラフ。
【図10】比較例2としての医療用中空針を示す、図1に相当する平面図。
【図11】図10に示された比較例2としての医療用中空針の側面図。
【図12】比較例1の医療用中空針の穿刺抵抗の実測値を示すグラフ。
【図13】比較例2の医療用中空針の穿刺抵抗の実測値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1〜6には、本発明の一実施形態としての医療用中空針10が示されている。この医療用中空針10は、針管12の先端側の端面において、針管12の中心軸14(図2,3参照)に対して傾斜した刃面16を備えている。
【0025】
より詳細には、実施形態として図示の針管12は、円形断面でストレートに延びる直管形状を有している。尤も、かかる針管12としては、医療用中空針10の用途等に応じて適切な大きさや形状が採用され得、例えば、先端側または基端側に向けて中心軸方向に径寸法が次第に変化するテーパ部が軸方向全長に亘ってまたは中心軸方向で部分的に形成されたテーパ付の管形状も採用可能である。また、かかるテーパ部が、刃面16の中心軸方向中途の位置から中心軸方向に向かって径寸法が次第に変化するように設けられていても良い。更にまた、針管12は、中心軸方向全長に亘ってまたは中心軸方向で部分的に湾曲形状とされていても良い。
【0026】
一方、針管12の先端側に形成された刃面16は、刃先18を含む先端部(刃先部分)20と、刃先18と反対側の端部に位置する基端部(ヒール部分)22と、それら先端部20と基端部22との間に位置する中間部24とから構成されている。なお、以下の説明における「左右」は、図1中の左右(図5,6中の左右)をいう。即ち、刃面16は、先端部20と基端部22においてそれぞれ左右が連続されて周方向に閉じていると共に、中間部24では左右に分離している。
【0027】
そして、刃面16を協働して構成する先端部20,基端部22,中間部24には、互いに異なる傾斜面が付されている。
【0028】
先ず、刃面16の基端部22には、中心軸14に対して所定角度:αだけ軸方向傾斜した第1傾斜面26が付されている。なお、刃面16の全面は、図5および図6に示される中心軸14を含む平面28に対して面対称とされている。
【0029】
また、刃面16の先端部20には、刃先18から周方向一方の側(右側)に延びる第2傾斜面30と、刃先18から周方向他方の側(左側)に延びる第3傾斜面32とが、付されている。これら第2傾斜面30と第3傾斜面32は、第1傾斜面26に対して中心軸14回りで互いに反対側に等角度で相対回転した回転角度:θ,−θを有している。換言すれば、図6に示されているように、第2傾斜面30および第3傾斜面32の両延長線34,36が、刃先18を通る平面28を二等分線とし、かかる平面28上に位置する交点38で、中心角:(180度−2θ)をもって交差している。
【0030】
しかも、これら第2傾斜面30と第3傾斜面32は、何れも、中心軸14に対して軸方向にも同じ角度で傾斜している。第2傾斜面30および第3傾斜面32の軸方向傾斜角度:βは、各傾斜面30,32が、中心軸14と交差する角度である。即ち、図2に示されている如き第1傾斜面26が直線状に見える状態の側方視から、中心軸14回りで第2傾斜面30の回転角度:−θだけ回転させることによって図3に示されている如き第2傾斜面30が直線状に見える第2傾斜面30と平行な側方視とした状態で、第2傾斜面30と中心軸14との交角が、第2傾斜面30の軸方向傾斜角度:βとなる。第3傾斜面32の軸方向傾斜角度:βも、図2に示された側方視から中心軸14回りで回転角度:θだけ回転させた状態での側方視において、第3傾斜面32と中心軸14との交角として把握され得る。
【0031】
なお、本実施形態では、先端部20の第2傾斜面30と第3傾斜面32との接続部位において、中心軸14に対して傾斜して直線的に延びる刃先稜線40が形成されている。この刃先稜線40の先端は刃先18に達しており、刃先18が尖鋭形状とされている一方、刃先稜線40の後端側には、第2傾斜面30と第3傾斜面32との間の領域に広がる先端中央傾斜面41が形成されている。この先端中央傾斜面41は、第2傾斜面30と第3傾斜面32と針管12内面との3つの面の交点である刃先稜線40の後端側の頂部を切除する状態で形成されており、特に本実施形態では、かかる先端中央傾斜面41が、後述する第4傾斜面42と同じ平面(第4傾斜面42の延長平面)とされている。
【0032】
さらに、刃面16の中間部24には、左右両側に分離した状態で、中心軸14に対して所定角度:γだけ軸方向傾斜した第4傾斜面42,42が付されている。この第4傾斜面42は、中心軸14に対して第1傾斜面26と同じ傾斜方向とされており、第1傾斜面26と異なる角度で軸方向に傾斜している。換言すれば、中心軸14に対する第4傾斜面42の回転角度が、第1傾斜面26の回転角度と同じにされている。そして、この第4傾斜面42の軸方向傾斜角度:γが、下式に示されるとおり、第1傾斜面26の軸方向傾斜角度:αより大きく且つ第2傾斜面30および第3傾斜面32の軸方向傾斜角度:βより小さくされている。
α<γ<β
【0033】
また、かかる第4傾斜面42は、刃面16の中間部24の左右両側において、それぞれ、第1傾斜面26と第2傾斜面30または第3傾斜面32とが接しないように、第1傾斜面26と第2傾斜面30との境界部分および第1傾斜面26と第3傾斜面32との境界部分に設けられている。即ち、第1傾斜面26と第2傾斜面30との間および第1傾斜面26と第3傾斜面32との間には、何れも、それらの境界部分の全体に亘って第4傾斜面42が介在している。そして、刃面16において、第1傾斜面26は第2傾斜面30と第3傾斜面32の何れとも接することなく第4傾斜面42とだけ接している。
【0034】
そして、第1傾斜面26と第4傾斜面42,42との境界線となる第1稜線44,44は、図1の平面視において、左右両側に分離した状態で、それぞれ左右方向に延びている。
【0035】
一方、第2傾斜面30と第4傾斜面42との境界線となる第2稜線46および第3傾斜面32と第4傾斜面42との境界線となる第3稜線48は、図1の平面視に表されているように、刃面16の内周縁部から外周縁部に向かって、先端部20から基端部22側に行くに従って次第に拡開する方向に傾斜して直線的に延びている。
【0036】
このように第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42および第5傾斜面としての先端中央傾斜面41からなる刃面16によれば、先端部20と中間部24と基端部22とが順次に穿刺される時点でそれぞれ発生する穿刺抵抗のピークレベルを抑えることが出来るだけでなく、それら各穿刺抵抗の大きさの差を小さくすることが可能となる。その結果、医療用中空針10を穿刺するに際しての患者の穿刺痛レベルの低下と穿刺痛の感覚的な知覚時間の短縮化とが図られて、穿刺時における患者の苦痛が和らげられる。
【0037】
かかる効果が発揮されることは、後述する実施例の測定結果からも明らかであるが、第2傾斜面30および第3傾斜面32に対して軸方向傾斜角および回転角(周方向傾斜角)を与えたことに加えて、第1傾斜面26と第2傾斜面30および第3傾斜面32との間に介在させた第4傾斜面42,42の回転角度を第1傾斜面26と同じ回転角度とすると共に、第4傾斜面42,42の軸方向傾斜角度を第1傾斜面26より大きく且つ第2傾斜面30および第3傾斜面32より小さくしたことによる意義が大きいものと考えられる。
【0038】
すなわち、刃面16の先端部20では、大きな軸方向傾斜角:βに加えて回転角度:θ、−θが付された第2傾斜面30および第3傾斜面32によって刃面を構成したことにより、穿刺抵抗のピークレベルおよび穿刺痛の低下が図られ得る。また、特に本実施形態では、先端部20に先端中央傾斜面41を形成して刃先稜線40の高さ(図2中、h1)を小さくしたことにより、先端部20の穿刺抵抗および穿刺痛の更なる低下が実現される。そして、続く中間部24では、基端部22の第1傾斜面26と同じ回転角度で軸方向傾斜角:βだけを付した第4傾斜面42によって刃面を構成したことにより、先端部20の第2傾斜面30および第3傾斜面32から中間部24の第4傾斜面42へと穿刺位置が進行する際の穿刺抵抗の変化と、中間部24の第4傾斜面42から基端部22の第1傾斜面26へと穿刺位置が進行する際の穿刺抵抗の変化とが、何れも抑えられ得る。
【0039】
先端部20の第2傾斜面30および第3傾斜面32が回転角度:θ,−θを有することで小さな穿刺抵抗を実現しているのに対して、第4傾斜面42は、それら第2傾斜面30および第3傾斜面32に比して小さな軸方向傾斜角:γを有することで穿刺抵抗が低く抑えられている。しかも、第4傾斜面42が回転角(周方向傾斜角)を有しないが故に、第2傾斜面30および第3傾斜面32と第4傾斜面42との境界線である第2稜線46,第3稜線48が、中心軸14の方向に傾斜して長く延びるように設けられていることにより、第2傾斜面30および第3傾斜面32の穿刺位置から第4傾斜面42の穿刺位置への移行が、穿刺抵抗の急激な変化を伴うことなく滑らかに実現され得る。
【0040】
さらに、中間部24の第4傾斜面42は、基端部22の第1傾斜面26と同じ回転角度とされているが故に、第4傾斜面42の穿刺位置から第1傾斜面26の穿刺位置への移行に際しても、穿刺抵抗の急激な変化が抑えられ得る。それ故、第4傾斜面42の軸方向傾斜角度:γおよび第1傾斜面26の軸方向傾斜角度:αを適切に設定することにより、中間部24および基端部22の穿刺時における穿刺抵抗のピークレベルを抑えつつ、中間部24から基端部22に亘って穿刺抵抗の急激な変化を伴うことなく穿刺を行うことが可能となる。
【0041】
加えて、刃面16の軸方向中間部分の左右両側に第4傾斜面42,42が形成されていることから、患者への穿刺に際して皮膚等の穿刺対象組織が刃面16で切り開かれることを抑止して、コアリングに対する防止効果も発揮し得る。即ち、穿刺に際して、先端部20の穿刺時には、第2傾斜面30および第3傾斜面32に回転角(周方向傾斜角)が付されていることから、外周端縁部による穿刺対象組織に対するカット作用が働くが、刃面16の軸方向中間部分の左右両側に第4傾斜面42,42が形成されることにより、第2傾斜面30および第3傾斜面32の端に形成される第2稜線46および第3稜線48の角の高さが低くなり、穿刺対象組織の切り進み(進行)が、効果的に抑えられる。
【0042】
ここにおいて、刃面16の各部具体的形状として本発明で好適に採用される範囲を、以下にまとめて挙げておく。これらの数値範囲を選択することにより、上述の如き穿刺抵抗のピークレベルの低下と穿刺時における穿刺抵抗の変動低減等の効果を一層有利に得ることが出来る。
【0043】
α(第1傾斜面の軸方向傾斜角度)は、8度〜12度の範囲で設定することが望ましく、より好適には10±1度に設定される。β(第2傾斜面および第3傾斜面の軸方向傾斜角度)は、16度〜20度の範囲で設定することが望ましく、より好適には18±1度に設定される。γ(第4傾斜面の軸方向傾斜角度)は、10度〜14度の範囲で設定することが望ましく、より好適には12±1度に設定される。θ(第2傾斜面および第3傾斜面の回転角度)は、中心角:180度−2θの値が100度〜120度となる範囲で設定することが望ましく、より好適には中心角:180度−2θの値が110±5度に設定される。L(刃面の軸方向全長)は、3.6mm〜4.0mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には3.8±0.1mmに設定される。L1(第2傾斜面および第3傾斜面の軸方向長)は、1.3mm〜1.7mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には1.5±0.1mmに設定される。L2(第2稜線および第3稜線の軸方向長)は、1.1mm〜1.5mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には1.3±0.1mmに設定される。L3(第4傾斜面の軸方向長)は、0.8mm〜1.2mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には1.0±0.1mmに設定される。L4(刃先稜線の軸方向長)は、0.12mm〜0.16mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には0.15±0.01mmに設定される。I.D(針管の内径)は、0.530mm〜0.549mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には0.5395±0.005mmに設定される。O.D(針管の外径)は、0.811mm〜0.825mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には0.818±0.005mmに設定される。
【0044】
ところで、上述の如き構造とされた医療用中空針10は、好適には以下の如き方法に従って製造される。
【0045】
先ず、適切な材質で一次成形加工された素管としての針管12を準備する。この針管12の材質としては、ステンレス鋼を含む鉄鋼材料等、従来から公知の材料が採用され得る。なお、かかる針管12の長さ(L)や内径(I.D),外径(O.D)は、目的とする医療用中空針に応じて、前記に示すように設定される。
【0046】
次いで、この素管である針管12に対して複数段階の研磨加工を施すことにより、前述の如き第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42,先端中央傾斜面41を有する刃面16を形成する。
【0047】
具体的には、先ず、所定厚さの円盤形状(円柱形状)の回転砥石を用い、針管12の先端側で目的とする第1傾斜面26の上方に、かかる回転砥石を配置する。そして、この回転砥石の回転中心軸50を、対称平面28に直交し且つ目的とする第1傾斜面26と平行に設定して(図6中の第1傾斜面の加工位置を参照)、第1加工面を形成する。このように配置した回転砥石の第1加工面を、その回転中心軸50回りで回転駆動させて、回転砥石の外周面で針管12の先端面を全面に亘って研磨加工(研削加工)することにより、第1傾斜面26を形成する。
【0048】
次に、針管12と回転砥石との相対位置を変更設定して、針管12の先端面への研磨加工を繰り返す。なお、研磨加工装置の構造上、回転砥石を位置固定して、針管12の位置を相対的に変更することが望ましい。
【0049】
すなわち、針管12と回転砥石とを、針管12の中心軸回りで周方向に相対回転させると共に、針管12の中心軸に対する傾斜方向で更に相対変位させて、針管12と回転砥石との相対位置を再設定してから第2傾斜面30を研磨加工する。具体的には、回転砥石の回転中心軸50を、目的とする第2傾斜面30の上方で且つ第2傾斜面30と平行に設定して(図6中の第2傾斜面の加工位置を参照)、第2加工面を形成する。そして、この回転砥石の第2加工面を回転中心軸50回りに回転駆動させて、その外周面によって針管12の先端部20における刃先18から右側部分を研磨加工することにより、第2傾斜面30を形成する。
【0050】
また、針管12と回転砥石とを、針管12の中心軸回りで周方向に相対回転させて、針管12と回転砥石との相対位置を再設定してから第3傾斜面32を研磨加工する。具体的には、回転砥石の回転中心軸50を、目的とする第3傾斜面32の上方で且つ第3傾斜面32と平行に設定して(図6中の第3傾斜面の加工位置を参照)、第3加工面を形成する。そして、この回転砥石の第3加工面を回転中心軸50回りに回転駆動させて、その外周面によって針管12の先端部20における刃先18から左側部分を研磨加工することにより、第3傾斜面32を形成する。
【0051】
以上の研磨加工によって、図7および図8に示されている如き中間加工品52を得ることができる。続いて、この中間加工品52の刃面16の中間部24に対して研磨加工を施し、中間部24に存在する第1傾斜面26と第2傾斜面30との境界部分および第1傾斜面26と第3傾斜面32との境界部分にそれぞれ存在する稜線54上に第4傾斜面42,42を形成し、かかる稜線54を消失させる。
【0052】
それには、目的とする第4傾斜面42の上方に回転砥石を配置して、この回転砥石の回転中心軸50を、対称平面28に直交し且つ目的とする第4傾斜面26と平行に設定して(図6中の第4傾斜面の加工位置を参照)、第4加工面を形成する。このように配置した回転砥石の第4加工面を、その回転中心軸50回りで回転駆動させて、回転砥石の外周面で針管12の先端面を研磨加工(研削加工)することにより、第4傾斜面42を形成する。なお、第4傾斜面42は、図6中の左右両側に離れて一対存在するが、それら両方の第4傾斜面42,42は1回の研磨加工により同時に形成され得る。また、かかる第4傾斜面42,42の研磨加工と同時に、同じ研磨加工面をもって先端部20における刃先稜線40の後端側の領域に研磨加工を施すことにより、先端中央傾斜面41を形成する。
【0053】
なお、上述のようにして形成される第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42,先端中央傾斜面41は、何れも、平坦面または略平坦面とされる。即ち、回転砥石の外径寸法を針管12の外径寸法に比して充分に大きくすれば、各傾斜面を略平坦面で形成することができる。また、回転砥石の回転中心軸50を、切削加工に際して、各傾斜面26,30,32,42,42の軸方向傾斜角度(α,β,γ)に対応した方向に向けて軸直角方向に平行移動させることにより、各傾斜面26,30,32,41,42,42を平坦面で形成することができる。
【0054】
また、研磨加工(研削加工)によって第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42,先端中央傾斜面41を形成した後には、外径が数十μm程度のガラスビーズを吹き付けるブラスト加工等を施してバリ取り加工を施すことが望ましい。なお、かかるブラスト加工に際しては、刃先18の尖鋭形状を保つために、刃先18を被覆しておくことが望ましい。なお、刃先18のバリは、別途に、電解処理等で除去することが望ましい。また、このようなバリ取り加工の後、医療用中空針10に対して、防錆加工や洗浄処理、滅菌処理等が施される。
【0055】
なお、第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42及び先端中央傾斜面41の研磨加工による形成順序は、上述の例示に限定されない。例えば、第1傾斜面26と第4傾斜面42,42及び先端中央傾斜面41を形成した後に、第2傾斜面30と第3傾斜面32を形成する等しても良い。また、第4傾斜面42,42と先端中央傾斜面41とを別の研磨加工で形成することも可能である。
【実施例】
【0056】
前述の図1〜6に示された構造で以下の[表1],[表2]に示された具体的形状を有する実施例としての医療用中空針について、穿刺抵抗の測定を行った結果を、図9に示す。なお、かかる測定は、厚さ0.04mmのウレタンシートの表面に対して医療用中空針の中心軸を垂直に向けて、20mm/minの一定速度で穿刺して貫通させた場合の抵抗値(gf)を計測することによって実施した。この測定結果からも、本発明に従う構造とされた医療用中空針では、先端部20、中間部24、基端部22の各穿刺時における穿刺抵抗のピークレベルが大きく立ち上がらずに低く抑えられ、且つ相互のピークレベル差も小さくされていることが認められる。なお、[表2]中のh2は、第2稜線および第3稜線の高さ(図2参照)である。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
また、比較例1として、第4傾斜面42,42および先端中央傾斜面41を設けない構造の医療用中空針を準備すると共に、比較例2として、特許文献2に記載のように第4傾斜面42,42に対しても第2,第3傾斜面と同様に周方向の傾斜角度を設定した構造の医療用中空針を準備した。そして、これら比較例1および比較例2の医療用中空針についても、上記した本発明の実施例と同じ条件で穿刺抵抗の測定を行った。なお、比較例1および比較例2の各医療用中空針における具体的形状の寸法は、上記[表1],[表2]中に、上記実施例と共に示す。また、比較例1の医療用中空針の構造は、前記実施形態において図7,8に示された中間加工品と同じであることから、[表1],[表2]に記載された比較例1の各寸法部位を表す符号を、図7,8中に記載しておく。また一方、比較例2の医療用中空針は、その構造を図10,11に示すと共に、[表1],[表2]に記載された比較例2の各寸法部位を表す符号を、図10,11中に記載しておく。
【0060】
比較例1の穿刺抵抗の測定結果を示す図12および比較例2の穿刺抵抗の測定結果を示す図13からも明らかなように、これら比較例1,2の医療用中空針では、何れも、前記した実施例と比較して、先端部20、中間部24、基端部22の各穿刺時における穿刺抵抗のピークレベルの相互差が大きく、且つピークレベルも高い。このことからも、本発明に従う実施例の医療用中空針では、従来品に比して穿刺抵抗が一層小さく、穿刺痛の軽減が図られることが理解される。
【符号の説明】
【0061】
10:医療用中空針、12:針管、14:中心軸、16:刃面、26:第1傾斜面、30:第2傾斜面、32:第3傾斜面、41:先端中央傾斜面(第5傾斜面)、42:第4傾斜面
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮下注射や透析、点滴、採血、輸血、輸液などに用いられる医療用中空針とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬液や血液等を体内に注射したり血液等を体内から採取する際には、注射針等の医療用中空針が用いられている。かかる医療用中空針は、細い円筒形状の針管の先端部分に傾斜した刃面が形成された尖鋭形状とされている。
【0003】
刃面の形成方法としては、種々あり、そのうちの一つに、ランセットカットと言われるカット法がある。ランセットカットは、刃面の基端側に第1傾斜面を設ける一方、刃面の先端側の周方向両側において中心軸回りで互いに反対側に等角度で傾斜し且つ中心軸に対して第1傾斜面より大きな傾斜角を有する第2傾斜面および第3傾斜面を設けたものである。
【0004】
ところで、このような医療用中空針では、穿刺に際しての患者の痛みを軽減することが重要であり、そのために、穿刺抵抗の低減が要求されている。
【0005】
なお、そのような要求に対処するために、特開平10−57490号公報(特許文献1)や特開2000−262615号公報(特許文献2)には、第1傾斜面と第2傾斜面との間および第1傾斜面と第3傾斜面との間に位置して、それぞれ第4傾斜面および第5傾斜面を設けた刃面形状が提案されている。第1傾斜面と第2傾斜面との間に位置する第4傾斜面は、第1傾斜面に対する中心軸回りで第2傾斜面より小さな回転角度(周方向傾斜角)を有していると共に、中心軸に対する軸方向傾斜角が第1傾斜面より大きく且つ第2傾斜面より小さくされている。また、第1傾斜面と第3傾斜面との間に位置する第5傾斜面は、第1傾斜面に対する中心軸回りで第3傾斜面より小さな回転角度(周方向傾斜角)を有していると共に、中心軸に対する軸方向傾斜角が第1傾斜面より大きく且つ第3傾斜面より小さくされている。
【0006】
ところが、本発明者らが検討したところ、これら特許文献1および特許文献2に記載の第1〜5傾斜面を設けた刃面形状の医療用中空針でも、未だ穿刺抵抗の低減効果に改善の余地があることが判った。特に従来構造の医療用中空針では、特許文献1の[図3]にも示されているように、穿刺に際して、先端部(刃先部分)から中間部(稜線部分)を経て基端部(ヒール部分)に至る間で穿刺抵抗が次第に大きくなっていると共に、先端部や中間部に比して基端部で穿刺抵抗が非常に大きくなる。そのために、穿刺痛が継続的に認識されると共に、最後に大きな穿刺痛を感ずるおそれがあったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−57490号公報
【特許文献2】特開2000−262615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、従来構造品に比して穿刺痛が一層軽減され得る新規な形状の刃面を備えた医療用中空針とその好適な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
医療用中空針に関する本発明の第1の態様は、円筒形状の針管の先端部分に、該針管の中心軸に対して傾斜した刃面が形成された医療用中空針において、(i)基端側に位置する第1傾斜面と、(ii)先端側に位置して該第1傾斜面に対して前記中心軸回りで互いに反対側に等角度で回転して設けられ、該中心軸に対する傾斜角度が互いに等しく且つ該第1傾斜面よりも大きな第2傾斜面および第3傾斜面と、(iii)該第1傾斜面と該第2傾斜面および該第3傾斜面との間にそれぞれ位置して前記中心軸周りの回転角度が該第1傾斜面と同じに設けられて該中心軸に対する傾斜角度が該第1傾斜面よりも大きく且つ該第2傾斜面及び該第3傾斜面よりも小さな第4傾斜面とによって、該刃面が構成されていることを特徴とする。
【0010】
このような第1の態様に従う構造の医療用中空針においては、刃面の基端側に位置する第1傾斜面と、刃面の先端側に位置する第2傾斜面および第3傾斜面との間の各稜線が、それぞれ第4傾斜面によって面取状に除かれている。これにより、かかる稜線が穿刺される際の抵抗値のピークが抑えられて、穿刺痛が軽減される。
【0011】
特に、本態様では、第2傾斜面および第3傾斜面が、何れも、第1傾斜面に対して中心軸回りで互いに反対側に回転して設けられた傾斜面とされているのに対して、第4傾斜面は、第1傾斜面に対して中心軸回りに回転して設けられた傾斜面とされていない。このように、中心軸回りの回転角度を第1傾斜面と同じとした第4傾斜面を新たに採用し、第1傾斜面と第2傾斜面との間および第1傾斜面と第3傾斜面との間にそれぞれ配したことにより、先端部から中間部を経て基端部に至る刃面の穿刺抵抗を全体に亘って略均一化させることが可能となった。その結果、刃面の全体に亘って穿刺抵抗が次第に大きくなる従来構造の医療用中空針に比べて、穿刺抵抗のピークレベル、特に先端部(刃先部分)と基端部(ヒール部分)の間の中間部における穿刺抵抗のピークレベルを抑えることができる。
【0012】
なお、本発明において、より好適には、以下の第2〜6の態様が、上記第1の態様に対して適宜に組み合わせて採用され得、それによって、穿刺抵抗の低減効果の更なる向上が図られ得る。
【0013】
すなわち、本発明の第2の態様は、上記第1の態様に係る医療用中空針において、前記第1傾斜面の前記中心軸に対する傾斜角度を10±2度とすると共に、前記第2傾斜面および前記第3傾斜面の該中心軸に対する傾斜角度を何れも18±2度とし、且つ、前記第4傾斜面の該中心軸に対する傾斜角度を12±2度としたものである。
【0014】
また、本発明の第3の態様は、上記第1又は2の態様に係る医療用中空針において、前記第4傾斜面における前記第1傾斜面側の端部を前記刃面における中心軸方向の中央位置よりも前記基端側に位置させると共に、該第4傾斜面における前記第2傾斜面および前記第3傾斜面側の端部を該刃面における中心軸方向の中央位置よりも前記先端側に位置させたものである。
【0015】
更にまた、本発明の第4の態様は、上記第1〜3の何れか1態様に係る医療用中空針において、前記第2傾斜面および前記第3傾斜面における前記基端側の端部を、前記刃面における中心軸方向で先端から基端に向かって1/4〜3/4の位置に設けたものである。
【0016】
また、本発明の第5の態様は、上記第1〜4の何れか1態様に係る医療用中空針であって、前記刃面の先端部分において前記第2傾斜面と前記第3傾斜面との間の稜線となる位置に、前記中心軸周りの回転角度が前記第1傾斜面と同じになるように第5傾斜面を設けたものである。
【0017】
なお、かかる第5の態様に係る医療用中空針では、前記第5傾斜面を前記第4傾斜面の延長面として設けることが、一層望ましい。
【0018】
一方、医療用中空針の製造方法に関する本発明の特徴とするところは、円筒形状の針管の先端部分を切削工具で加工することにより、該針管の中心軸に対して傾斜した刃面を形成する医療用中空針の製造方法であって、(I)前記中心軸に対して傾斜した第1加工面をもって研磨加工することにより前記刃面の基端側に位置する第1傾斜面を形成する工程と、(II)前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置を基準として、該針管と該研磨工具との相対位置を前記中心軸回りで一方向に所定の回転角度だけ異ならせ、該中心軸に対して該第1傾斜面より大きい傾斜角を有する第2加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の先端側において周方向一方の側に位置する第2傾斜面を形成する工程と、(III)前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置を基準として、該針管と該研磨工具との相対位置を前記中心軸回りで前記第2傾斜面と反対側に且つ該第2傾斜面と同じ回転角度だけ異ならせ、該中心軸に対して該第2傾斜面と同じ傾斜角を有する第3加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の先端側において周方向他方の側に位置する第3傾斜面を形成する工程と、(IV)前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置において、前記中心軸に対して該第1傾斜面より大きく且つ前記第2傾斜面および前記第3傾斜面より小さい傾斜角を有する第4加工面をもって切削加工することにより、前記刃面の該第1傾斜面と該第2傾斜面および該第3傾斜面との間にそれぞれ位置して該第1傾斜面と同じ回転角度の第4傾斜面を形成する工程とを、含むことにある。
【0019】
このような本発明方法に従えば、針管の中心軸回りで針管を研磨工具に対して相対的に所定角度回転させて位置決めしつつ複数回の研磨加工を施すことにより、針管の尖端部分に対して第1〜4傾斜面を備えた刃面を形成することが出来、前述の如き本発明に従う構造とされた医療用中空針を効率的に製造することができる。
【0020】
また、本発明方法では、上記の第1〜4加工面での各研磨加工の実施順序が限定されるものでないが、例えば、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面と前記第3傾斜面とをそれぞれ形成した後、前記第4傾斜面を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従う構造とされた医療用中空針においては、特定の傾斜方向をもった第1〜4傾斜面を互いに組み合わせて採用した新規形状の刃面を採用したことにより、刃面の穿刺抵抗を穿刺方向の全体に亘って略均一化させ得て、穿刺抵抗のピークレベルの低下を達成し、穿刺時における患者の苦痛軽減を図ることができる。
【0022】
また、本発明方法に従えば、針管に対する研磨工具の相対位置を変更設定しつつ複数回の研磨加工によって、第1〜4傾斜面を備えた新規形状の刃面を備えた本発明に従う構造の医療用中空針を効率的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態としての医療用中空針を示す平面図。
【図2】図1に示された医療用中空針の側面図。
【図3】図2に示された医療用中空針を、第2傾斜面の周方向回転角度(−θ)だけ、中心軸回りに回転させた状態での側面図。
【図4】図1に示された医療用中空針の刃面の斜視図。
【図5】図1に示された医療用中空針の正面図。
【図6】図1におけるVI−VI断面図。
【図7】図1に示された医療用中空針の中間加工品を示す、図1に相当する平面図。
【図8】図1に示された医療用中空針の中間加工品を示す、図2に相当する側面図。
【図9】図1に示された医療用中空針の穿刺抵抗の実測値を示すグラフ。
【図10】比較例2としての医療用中空針を示す、図1に相当する平面図。
【図11】図10に示された比較例2としての医療用中空針の側面図。
【図12】比較例1の医療用中空針の穿刺抵抗の実測値を示すグラフ。
【図13】比較例2の医療用中空針の穿刺抵抗の実測値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1〜6には、本発明の一実施形態としての医療用中空針10が示されている。この医療用中空針10は、針管12の先端側の端面において、針管12の中心軸14(図2,3参照)に対して傾斜した刃面16を備えている。
【0025】
より詳細には、実施形態として図示の針管12は、円形断面でストレートに延びる直管形状を有している。尤も、かかる針管12としては、医療用中空針10の用途等に応じて適切な大きさや形状が採用され得、例えば、先端側または基端側に向けて中心軸方向に径寸法が次第に変化するテーパ部が軸方向全長に亘ってまたは中心軸方向で部分的に形成されたテーパ付の管形状も採用可能である。また、かかるテーパ部が、刃面16の中心軸方向中途の位置から中心軸方向に向かって径寸法が次第に変化するように設けられていても良い。更にまた、針管12は、中心軸方向全長に亘ってまたは中心軸方向で部分的に湾曲形状とされていても良い。
【0026】
一方、針管12の先端側に形成された刃面16は、刃先18を含む先端部(刃先部分)20と、刃先18と反対側の端部に位置する基端部(ヒール部分)22と、それら先端部20と基端部22との間に位置する中間部24とから構成されている。なお、以下の説明における「左右」は、図1中の左右(図5,6中の左右)をいう。即ち、刃面16は、先端部20と基端部22においてそれぞれ左右が連続されて周方向に閉じていると共に、中間部24では左右に分離している。
【0027】
そして、刃面16を協働して構成する先端部20,基端部22,中間部24には、互いに異なる傾斜面が付されている。
【0028】
先ず、刃面16の基端部22には、中心軸14に対して所定角度:αだけ軸方向傾斜した第1傾斜面26が付されている。なお、刃面16の全面は、図5および図6に示される中心軸14を含む平面28に対して面対称とされている。
【0029】
また、刃面16の先端部20には、刃先18から周方向一方の側(右側)に延びる第2傾斜面30と、刃先18から周方向他方の側(左側)に延びる第3傾斜面32とが、付されている。これら第2傾斜面30と第3傾斜面32は、第1傾斜面26に対して中心軸14回りで互いに反対側に等角度で相対回転した回転角度:θ,−θを有している。換言すれば、図6に示されているように、第2傾斜面30および第3傾斜面32の両延長線34,36が、刃先18を通る平面28を二等分線とし、かかる平面28上に位置する交点38で、中心角:(180度−2θ)をもって交差している。
【0030】
しかも、これら第2傾斜面30と第3傾斜面32は、何れも、中心軸14に対して軸方向にも同じ角度で傾斜している。第2傾斜面30および第3傾斜面32の軸方向傾斜角度:βは、各傾斜面30,32が、中心軸14と交差する角度である。即ち、図2に示されている如き第1傾斜面26が直線状に見える状態の側方視から、中心軸14回りで第2傾斜面30の回転角度:−θだけ回転させることによって図3に示されている如き第2傾斜面30が直線状に見える第2傾斜面30と平行な側方視とした状態で、第2傾斜面30と中心軸14との交角が、第2傾斜面30の軸方向傾斜角度:βとなる。第3傾斜面32の軸方向傾斜角度:βも、図2に示された側方視から中心軸14回りで回転角度:θだけ回転させた状態での側方視において、第3傾斜面32と中心軸14との交角として把握され得る。
【0031】
なお、本実施形態では、先端部20の第2傾斜面30と第3傾斜面32との接続部位において、中心軸14に対して傾斜して直線的に延びる刃先稜線40が形成されている。この刃先稜線40の先端は刃先18に達しており、刃先18が尖鋭形状とされている一方、刃先稜線40の後端側には、第2傾斜面30と第3傾斜面32との間の領域に広がる先端中央傾斜面41が形成されている。この先端中央傾斜面41は、第2傾斜面30と第3傾斜面32と針管12内面との3つの面の交点である刃先稜線40の後端側の頂部を切除する状態で形成されており、特に本実施形態では、かかる先端中央傾斜面41が、後述する第4傾斜面42と同じ平面(第4傾斜面42の延長平面)とされている。
【0032】
さらに、刃面16の中間部24には、左右両側に分離した状態で、中心軸14に対して所定角度:γだけ軸方向傾斜した第4傾斜面42,42が付されている。この第4傾斜面42は、中心軸14に対して第1傾斜面26と同じ傾斜方向とされており、第1傾斜面26と異なる角度で軸方向に傾斜している。換言すれば、中心軸14に対する第4傾斜面42の回転角度が、第1傾斜面26の回転角度と同じにされている。そして、この第4傾斜面42の軸方向傾斜角度:γが、下式に示されるとおり、第1傾斜面26の軸方向傾斜角度:αより大きく且つ第2傾斜面30および第3傾斜面32の軸方向傾斜角度:βより小さくされている。
α<γ<β
【0033】
また、かかる第4傾斜面42は、刃面16の中間部24の左右両側において、それぞれ、第1傾斜面26と第2傾斜面30または第3傾斜面32とが接しないように、第1傾斜面26と第2傾斜面30との境界部分および第1傾斜面26と第3傾斜面32との境界部分に設けられている。即ち、第1傾斜面26と第2傾斜面30との間および第1傾斜面26と第3傾斜面32との間には、何れも、それらの境界部分の全体に亘って第4傾斜面42が介在している。そして、刃面16において、第1傾斜面26は第2傾斜面30と第3傾斜面32の何れとも接することなく第4傾斜面42とだけ接している。
【0034】
そして、第1傾斜面26と第4傾斜面42,42との境界線となる第1稜線44,44は、図1の平面視において、左右両側に分離した状態で、それぞれ左右方向に延びている。
【0035】
一方、第2傾斜面30と第4傾斜面42との境界線となる第2稜線46および第3傾斜面32と第4傾斜面42との境界線となる第3稜線48は、図1の平面視に表されているように、刃面16の内周縁部から外周縁部に向かって、先端部20から基端部22側に行くに従って次第に拡開する方向に傾斜して直線的に延びている。
【0036】
このように第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42および第5傾斜面としての先端中央傾斜面41からなる刃面16によれば、先端部20と中間部24と基端部22とが順次に穿刺される時点でそれぞれ発生する穿刺抵抗のピークレベルを抑えることが出来るだけでなく、それら各穿刺抵抗の大きさの差を小さくすることが可能となる。その結果、医療用中空針10を穿刺するに際しての患者の穿刺痛レベルの低下と穿刺痛の感覚的な知覚時間の短縮化とが図られて、穿刺時における患者の苦痛が和らげられる。
【0037】
かかる効果が発揮されることは、後述する実施例の測定結果からも明らかであるが、第2傾斜面30および第3傾斜面32に対して軸方向傾斜角および回転角(周方向傾斜角)を与えたことに加えて、第1傾斜面26と第2傾斜面30および第3傾斜面32との間に介在させた第4傾斜面42,42の回転角度を第1傾斜面26と同じ回転角度とすると共に、第4傾斜面42,42の軸方向傾斜角度を第1傾斜面26より大きく且つ第2傾斜面30および第3傾斜面32より小さくしたことによる意義が大きいものと考えられる。
【0038】
すなわち、刃面16の先端部20では、大きな軸方向傾斜角:βに加えて回転角度:θ、−θが付された第2傾斜面30および第3傾斜面32によって刃面を構成したことにより、穿刺抵抗のピークレベルおよび穿刺痛の低下が図られ得る。また、特に本実施形態では、先端部20に先端中央傾斜面41を形成して刃先稜線40の高さ(図2中、h1)を小さくしたことにより、先端部20の穿刺抵抗および穿刺痛の更なる低下が実現される。そして、続く中間部24では、基端部22の第1傾斜面26と同じ回転角度で軸方向傾斜角:βだけを付した第4傾斜面42によって刃面を構成したことにより、先端部20の第2傾斜面30および第3傾斜面32から中間部24の第4傾斜面42へと穿刺位置が進行する際の穿刺抵抗の変化と、中間部24の第4傾斜面42から基端部22の第1傾斜面26へと穿刺位置が進行する際の穿刺抵抗の変化とが、何れも抑えられ得る。
【0039】
先端部20の第2傾斜面30および第3傾斜面32が回転角度:θ,−θを有することで小さな穿刺抵抗を実現しているのに対して、第4傾斜面42は、それら第2傾斜面30および第3傾斜面32に比して小さな軸方向傾斜角:γを有することで穿刺抵抗が低く抑えられている。しかも、第4傾斜面42が回転角(周方向傾斜角)を有しないが故に、第2傾斜面30および第3傾斜面32と第4傾斜面42との境界線である第2稜線46,第3稜線48が、中心軸14の方向に傾斜して長く延びるように設けられていることにより、第2傾斜面30および第3傾斜面32の穿刺位置から第4傾斜面42の穿刺位置への移行が、穿刺抵抗の急激な変化を伴うことなく滑らかに実現され得る。
【0040】
さらに、中間部24の第4傾斜面42は、基端部22の第1傾斜面26と同じ回転角度とされているが故に、第4傾斜面42の穿刺位置から第1傾斜面26の穿刺位置への移行に際しても、穿刺抵抗の急激な変化が抑えられ得る。それ故、第4傾斜面42の軸方向傾斜角度:γおよび第1傾斜面26の軸方向傾斜角度:αを適切に設定することにより、中間部24および基端部22の穿刺時における穿刺抵抗のピークレベルを抑えつつ、中間部24から基端部22に亘って穿刺抵抗の急激な変化を伴うことなく穿刺を行うことが可能となる。
【0041】
加えて、刃面16の軸方向中間部分の左右両側に第4傾斜面42,42が形成されていることから、患者への穿刺に際して皮膚等の穿刺対象組織が刃面16で切り開かれることを抑止して、コアリングに対する防止効果も発揮し得る。即ち、穿刺に際して、先端部20の穿刺時には、第2傾斜面30および第3傾斜面32に回転角(周方向傾斜角)が付されていることから、外周端縁部による穿刺対象組織に対するカット作用が働くが、刃面16の軸方向中間部分の左右両側に第4傾斜面42,42が形成されることにより、第2傾斜面30および第3傾斜面32の端に形成される第2稜線46および第3稜線48の角の高さが低くなり、穿刺対象組織の切り進み(進行)が、効果的に抑えられる。
【0042】
ここにおいて、刃面16の各部具体的形状として本発明で好適に採用される範囲を、以下にまとめて挙げておく。これらの数値範囲を選択することにより、上述の如き穿刺抵抗のピークレベルの低下と穿刺時における穿刺抵抗の変動低減等の効果を一層有利に得ることが出来る。
【0043】
α(第1傾斜面の軸方向傾斜角度)は、8度〜12度の範囲で設定することが望ましく、より好適には10±1度に設定される。β(第2傾斜面および第3傾斜面の軸方向傾斜角度)は、16度〜20度の範囲で設定することが望ましく、より好適には18±1度に設定される。γ(第4傾斜面の軸方向傾斜角度)は、10度〜14度の範囲で設定することが望ましく、より好適には12±1度に設定される。θ(第2傾斜面および第3傾斜面の回転角度)は、中心角:180度−2θの値が100度〜120度となる範囲で設定することが望ましく、より好適には中心角:180度−2θの値が110±5度に設定される。L(刃面の軸方向全長)は、3.6mm〜4.0mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には3.8±0.1mmに設定される。L1(第2傾斜面および第3傾斜面の軸方向長)は、1.3mm〜1.7mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には1.5±0.1mmに設定される。L2(第2稜線および第3稜線の軸方向長)は、1.1mm〜1.5mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には1.3±0.1mmに設定される。L3(第4傾斜面の軸方向長)は、0.8mm〜1.2mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には1.0±0.1mmに設定される。L4(刃先稜線の軸方向長)は、0.12mm〜0.16mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には0.15±0.01mmに設定される。I.D(針管の内径)は、0.530mm〜0.549mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には0.5395±0.005mmに設定される。O.D(針管の外径)は、0.811mm〜0.825mmの範囲で設定することが望ましく、より好適には0.818±0.005mmに設定される。
【0044】
ところで、上述の如き構造とされた医療用中空針10は、好適には以下の如き方法に従って製造される。
【0045】
先ず、適切な材質で一次成形加工された素管としての針管12を準備する。この針管12の材質としては、ステンレス鋼を含む鉄鋼材料等、従来から公知の材料が採用され得る。なお、かかる針管12の長さ(L)や内径(I.D),外径(O.D)は、目的とする医療用中空針に応じて、前記に示すように設定される。
【0046】
次いで、この素管である針管12に対して複数段階の研磨加工を施すことにより、前述の如き第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42,先端中央傾斜面41を有する刃面16を形成する。
【0047】
具体的には、先ず、所定厚さの円盤形状(円柱形状)の回転砥石を用い、針管12の先端側で目的とする第1傾斜面26の上方に、かかる回転砥石を配置する。そして、この回転砥石の回転中心軸50を、対称平面28に直交し且つ目的とする第1傾斜面26と平行に設定して(図6中の第1傾斜面の加工位置を参照)、第1加工面を形成する。このように配置した回転砥石の第1加工面を、その回転中心軸50回りで回転駆動させて、回転砥石の外周面で針管12の先端面を全面に亘って研磨加工(研削加工)することにより、第1傾斜面26を形成する。
【0048】
次に、針管12と回転砥石との相対位置を変更設定して、針管12の先端面への研磨加工を繰り返す。なお、研磨加工装置の構造上、回転砥石を位置固定して、針管12の位置を相対的に変更することが望ましい。
【0049】
すなわち、針管12と回転砥石とを、針管12の中心軸回りで周方向に相対回転させると共に、針管12の中心軸に対する傾斜方向で更に相対変位させて、針管12と回転砥石との相対位置を再設定してから第2傾斜面30を研磨加工する。具体的には、回転砥石の回転中心軸50を、目的とする第2傾斜面30の上方で且つ第2傾斜面30と平行に設定して(図6中の第2傾斜面の加工位置を参照)、第2加工面を形成する。そして、この回転砥石の第2加工面を回転中心軸50回りに回転駆動させて、その外周面によって針管12の先端部20における刃先18から右側部分を研磨加工することにより、第2傾斜面30を形成する。
【0050】
また、針管12と回転砥石とを、針管12の中心軸回りで周方向に相対回転させて、針管12と回転砥石との相対位置を再設定してから第3傾斜面32を研磨加工する。具体的には、回転砥石の回転中心軸50を、目的とする第3傾斜面32の上方で且つ第3傾斜面32と平行に設定して(図6中の第3傾斜面の加工位置を参照)、第3加工面を形成する。そして、この回転砥石の第3加工面を回転中心軸50回りに回転駆動させて、その外周面によって針管12の先端部20における刃先18から左側部分を研磨加工することにより、第3傾斜面32を形成する。
【0051】
以上の研磨加工によって、図7および図8に示されている如き中間加工品52を得ることができる。続いて、この中間加工品52の刃面16の中間部24に対して研磨加工を施し、中間部24に存在する第1傾斜面26と第2傾斜面30との境界部分および第1傾斜面26と第3傾斜面32との境界部分にそれぞれ存在する稜線54上に第4傾斜面42,42を形成し、かかる稜線54を消失させる。
【0052】
それには、目的とする第4傾斜面42の上方に回転砥石を配置して、この回転砥石の回転中心軸50を、対称平面28に直交し且つ目的とする第4傾斜面26と平行に設定して(図6中の第4傾斜面の加工位置を参照)、第4加工面を形成する。このように配置した回転砥石の第4加工面を、その回転中心軸50回りで回転駆動させて、回転砥石の外周面で針管12の先端面を研磨加工(研削加工)することにより、第4傾斜面42を形成する。なお、第4傾斜面42は、図6中の左右両側に離れて一対存在するが、それら両方の第4傾斜面42,42は1回の研磨加工により同時に形成され得る。また、かかる第4傾斜面42,42の研磨加工と同時に、同じ研磨加工面をもって先端部20における刃先稜線40の後端側の領域に研磨加工を施すことにより、先端中央傾斜面41を形成する。
【0053】
なお、上述のようにして形成される第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42,先端中央傾斜面41は、何れも、平坦面または略平坦面とされる。即ち、回転砥石の外径寸法を針管12の外径寸法に比して充分に大きくすれば、各傾斜面を略平坦面で形成することができる。また、回転砥石の回転中心軸50を、切削加工に際して、各傾斜面26,30,32,42,42の軸方向傾斜角度(α,β,γ)に対応した方向に向けて軸直角方向に平行移動させることにより、各傾斜面26,30,32,41,42,42を平坦面で形成することができる。
【0054】
また、研磨加工(研削加工)によって第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42,先端中央傾斜面41を形成した後には、外径が数十μm程度のガラスビーズを吹き付けるブラスト加工等を施してバリ取り加工を施すことが望ましい。なお、かかるブラスト加工に際しては、刃先18の尖鋭形状を保つために、刃先18を被覆しておくことが望ましい。なお、刃先18のバリは、別途に、電解処理等で除去することが望ましい。また、このようなバリ取り加工の後、医療用中空針10に対して、防錆加工や洗浄処理、滅菌処理等が施される。
【0055】
なお、第1傾斜面26,第2傾斜面30,第3傾斜面32,第4傾斜面42,42及び先端中央傾斜面41の研磨加工による形成順序は、上述の例示に限定されない。例えば、第1傾斜面26と第4傾斜面42,42及び先端中央傾斜面41を形成した後に、第2傾斜面30と第3傾斜面32を形成する等しても良い。また、第4傾斜面42,42と先端中央傾斜面41とを別の研磨加工で形成することも可能である。
【実施例】
【0056】
前述の図1〜6に示された構造で以下の[表1],[表2]に示された具体的形状を有する実施例としての医療用中空針について、穿刺抵抗の測定を行った結果を、図9に示す。なお、かかる測定は、厚さ0.04mmのウレタンシートの表面に対して医療用中空針の中心軸を垂直に向けて、20mm/minの一定速度で穿刺して貫通させた場合の抵抗値(gf)を計測することによって実施した。この測定結果からも、本発明に従う構造とされた医療用中空針では、先端部20、中間部24、基端部22の各穿刺時における穿刺抵抗のピークレベルが大きく立ち上がらずに低く抑えられ、且つ相互のピークレベル差も小さくされていることが認められる。なお、[表2]中のh2は、第2稜線および第3稜線の高さ(図2参照)である。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
また、比較例1として、第4傾斜面42,42および先端中央傾斜面41を設けない構造の医療用中空針を準備すると共に、比較例2として、特許文献2に記載のように第4傾斜面42,42に対しても第2,第3傾斜面と同様に周方向の傾斜角度を設定した構造の医療用中空針を準備した。そして、これら比較例1および比較例2の医療用中空針についても、上記した本発明の実施例と同じ条件で穿刺抵抗の測定を行った。なお、比較例1および比較例2の各医療用中空針における具体的形状の寸法は、上記[表1],[表2]中に、上記実施例と共に示す。また、比較例1の医療用中空針の構造は、前記実施形態において図7,8に示された中間加工品と同じであることから、[表1],[表2]に記載された比較例1の各寸法部位を表す符号を、図7,8中に記載しておく。また一方、比較例2の医療用中空針は、その構造を図10,11に示すと共に、[表1],[表2]に記載された比較例2の各寸法部位を表す符号を、図10,11中に記載しておく。
【0060】
比較例1の穿刺抵抗の測定結果を示す図12および比較例2の穿刺抵抗の測定結果を示す図13からも明らかなように、これら比較例1,2の医療用中空針では、何れも、前記した実施例と比較して、先端部20、中間部24、基端部22の各穿刺時における穿刺抵抗のピークレベルの相互差が大きく、且つピークレベルも高い。このことからも、本発明に従う実施例の医療用中空針では、従来品に比して穿刺抵抗が一層小さく、穿刺痛の軽減が図られることが理解される。
【符号の説明】
【0061】
10:医療用中空針、12:針管、14:中心軸、16:刃面、26:第1傾斜面、30:第2傾斜面、32:第3傾斜面、41:先端中央傾斜面(第5傾斜面)、42:第4傾斜面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の針管の先端部分に、該針管の中心軸に対して傾斜した刃面が形成された医療用中空針において、
基端側に位置する第1傾斜面と、
先端側に位置して該第1傾斜面に対して前記中心軸回りで互いに反対側に等角度で回転して設けられ、該中心軸に対する傾斜角度が互いに等しく且つ該第1傾斜面よりも大きな第2傾斜面および第3傾斜面と、
該第1傾斜面と該第2傾斜面および該第3傾斜面との間にそれぞれ位置して前記中心軸周りの回転角度が該第1傾斜面と同じに設けられて該中心軸に対する傾斜角度が該第1傾斜面よりも大きく且つ該第2傾斜面及び該第3傾斜面よりも小さな第4傾斜面と
によって、該刃面が構成されていることを特徴とする医療用中空針。
【請求項2】
前記第1傾斜面の前記中心軸に対する傾斜角度が10±2度であり、
前記第2傾斜面および前記第3傾斜面の該中心軸に対する傾斜角度が何れも18±2度であり、
前記第4傾斜面の該中心軸に対する傾斜角度が12±2度である
請求項1に記載の医療用中空針。
【請求項3】
前記第4傾斜面における前記第1傾斜面側の端部が、前記刃面における中心軸方向の中央位置よりも前記基端側に位置していると共に、
該第4傾斜面における前記第2傾斜面および前記第3傾斜面側の端部が、該刃面における中心軸方向の中央位置よりも前記先端側に位置している
請求項1又は2に記載の医療用中空針。
【請求項4】
前記第2傾斜面および前記第3傾斜面における前記基端側の端部が、前記刃面における中心軸方向で先端から基端に向かって1/4〜3/4の位置に設けられている請求項1〜3の何れか1項に記載の医療用中空針。
【請求項5】
前記刃面の先端部分において前記第2傾斜面と前記第3傾斜面との間の稜線となる位置に、前記中心軸周りの回転角度が前記第1傾斜面と同じになるように第5傾斜面が設けられている請求項1〜4の何れか1項に記載の医療用中空針。
【請求項6】
前記第5傾斜面が前記第4傾斜面の延長面である請求項5に記載の医療用中空針。
【請求項7】
円筒形状の針管の先端部分を研磨工具で加工することにより、該針管の中心軸に対して傾斜した刃面を形成する医療用中空針の製造方法であって、
前記中心軸に対して傾斜した第1加工面をもって研磨加工することにより前記刃面の基端側に位置する第1傾斜面を形成する工程と、
前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置を基準として、該針管と該研磨工具との相対位置を前記中心軸回りで一方向に所定の回転角度だけ異ならせ、該中心軸に対して該第1傾斜面より大きい傾斜角を有する第2加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の先端側において周方向一方の側に位置する第2傾斜面を形成する工程と、
前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置を基準として、該針管と該研磨工具との相対位置を前記中心軸回りで前記第2傾斜面と反対側に且つ該第2傾斜面と同じ回転角度だけ異ならせ、該中心軸に対して該第2傾斜面と同じ傾斜角を有する第3加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の先端側において周方向他方の側に位置する第3傾斜面を形成する工程と、
前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置において、前記中心軸に対して該第1傾斜面より大きく且つ前記第2傾斜面および前記第3傾斜面より小さい傾斜角を有する第4加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の該第1傾斜面と該第2傾斜面および該第3傾斜面との間にそれぞれ位置して該第1傾斜面と同じ回転角度の第4傾斜面を形成する工程と
を含むことを特徴とする医療用中空針の製造方法。
【請求項8】
前記第1傾斜面と前記第2傾斜面と前記第3傾斜面とをそれぞれ形成した後、前記第4傾斜面を形成する請求項7に記載の医療用中空針の製造方法。
【請求項1】
円筒形状の針管の先端部分に、該針管の中心軸に対して傾斜した刃面が形成された医療用中空針において、
基端側に位置する第1傾斜面と、
先端側に位置して該第1傾斜面に対して前記中心軸回りで互いに反対側に等角度で回転して設けられ、該中心軸に対する傾斜角度が互いに等しく且つ該第1傾斜面よりも大きな第2傾斜面および第3傾斜面と、
該第1傾斜面と該第2傾斜面および該第3傾斜面との間にそれぞれ位置して前記中心軸周りの回転角度が該第1傾斜面と同じに設けられて該中心軸に対する傾斜角度が該第1傾斜面よりも大きく且つ該第2傾斜面及び該第3傾斜面よりも小さな第4傾斜面と
によって、該刃面が構成されていることを特徴とする医療用中空針。
【請求項2】
前記第1傾斜面の前記中心軸に対する傾斜角度が10±2度であり、
前記第2傾斜面および前記第3傾斜面の該中心軸に対する傾斜角度が何れも18±2度であり、
前記第4傾斜面の該中心軸に対する傾斜角度が12±2度である
請求項1に記載の医療用中空針。
【請求項3】
前記第4傾斜面における前記第1傾斜面側の端部が、前記刃面における中心軸方向の中央位置よりも前記基端側に位置していると共に、
該第4傾斜面における前記第2傾斜面および前記第3傾斜面側の端部が、該刃面における中心軸方向の中央位置よりも前記先端側に位置している
請求項1又は2に記載の医療用中空針。
【請求項4】
前記第2傾斜面および前記第3傾斜面における前記基端側の端部が、前記刃面における中心軸方向で先端から基端に向かって1/4〜3/4の位置に設けられている請求項1〜3の何れか1項に記載の医療用中空針。
【請求項5】
前記刃面の先端部分において前記第2傾斜面と前記第3傾斜面との間の稜線となる位置に、前記中心軸周りの回転角度が前記第1傾斜面と同じになるように第5傾斜面が設けられている請求項1〜4の何れか1項に記載の医療用中空針。
【請求項6】
前記第5傾斜面が前記第4傾斜面の延長面である請求項5に記載の医療用中空針。
【請求項7】
円筒形状の針管の先端部分を研磨工具で加工することにより、該針管の中心軸に対して傾斜した刃面を形成する医療用中空針の製造方法であって、
前記中心軸に対して傾斜した第1加工面をもって研磨加工することにより前記刃面の基端側に位置する第1傾斜面を形成する工程と、
前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置を基準として、該針管と該研磨工具との相対位置を前記中心軸回りで一方向に所定の回転角度だけ異ならせ、該中心軸に対して該第1傾斜面より大きい傾斜角を有する第2加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の先端側において周方向一方の側に位置する第2傾斜面を形成する工程と、
前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置を基準として、該針管と該研磨工具との相対位置を前記中心軸回りで前記第2傾斜面と反対側に且つ該第2傾斜面と同じ回転角度だけ異ならせ、該中心軸に対して該第2傾斜面と同じ傾斜角を有する第3加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の先端側において周方向他方の側に位置する第3傾斜面を形成する工程と、
前記第1傾斜面を研磨加工する前記研磨工具の前記針管に対する相対位置において、前記中心軸に対して該第1傾斜面より大きく且つ前記第2傾斜面および前記第3傾斜面より小さい傾斜角を有する第4加工面をもって研磨加工することにより、前記刃面の該第1傾斜面と該第2傾斜面および該第3傾斜面との間にそれぞれ位置して該第1傾斜面と同じ回転角度の第4傾斜面を形成する工程と
を含むことを特徴とする医療用中空針の製造方法。
【請求項8】
前記第1傾斜面と前記第2傾斜面と前記第3傾斜面とをそれぞれ形成した後、前記第4傾斜面を形成する請求項7に記載の医療用中空針の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−115336(P2012−115336A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265769(P2010−265769)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]