説明

医療用具およびその製造方法

【課題】PTCA用ガイドワイヤーなどの製造においては、これまで、コーティング樹脂層の膜厚をできるだけ薄くするための各種方法が検討されているが、潤滑耐久性の確保自体が困難であった。本発明は金属基材に対して薄膜状にコーティングした場合でも、金属コイルの柔軟性を損なうことなく、潤滑性、潤滑耐久性、保水性に優れた新しい機能を有する医療を実現する。
【解決手段】医療用具を構成する基材表面に特定のポリウレタンウレア樹脂をコーティングすることによって、親水性高分子が化学的に固定化されることで、優れた湿潤時潤滑性など、本発明の目的が達成される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は耐久性に優れた湿潤時潤滑性、生体適合性を有する医療用具およびその製造方法を提供するものであり、ガイドワイヤー、カテーテル、血液フィルター、血液体外循環システム、人工肺等の医療用具の表面機能化に有用な発明である。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、気管、消化管、尿管、血管、その他の体腔、又は、組織に挿入されるカテーテル、イントロデューサーおよびこれらに挿入されるガイドワイヤーなどの医療用具は、挿入時に目的部位にアクセスするための操作性を向上し、血管内壁や粘膜などへの組織損傷を最小限にするためには、潤滑性を有する表面が必要である。その目的のために、基材表面に親水性高分子をコートして、湿潤時における潤滑性を向上している。
【0003】
特開昭59−081341号公報(特許文献1)には、材料表面上にイソシアネート基を前処理により生成させた後、親水性高分子を共有結合により固定化して表面を親水化する方法が記載されている。特開昭58−193766号公報(特許文献2)及び特開昭58−193767号公報(特許文献3)には、親水性高分子としてポリエチレンオキサイド又はポリビニルピロリドンを用い、前記方法による表面親水化が記載されている。
【0004】
一方、特開昭60−259269号公報(特許文献4)には、無水マレイン酸系共重合体を用いて、前述と同じ方法により医療用具表面を親水化する方法が記載されている。更に、特開平05−115541号公報(特許文献5)及び特開平07−047120号公報(特許文献6)には、無水マレイン系共重合体とシリル基含有フッ素系重合体とのブレンド溶液をコーティングして親水化する方法が記載されている。本方法は、シリル基の加水分解によるシロキサン結合の生成による縮合反応を促進させることにより、無水マレイン系共重合体が医療用具表面に強固に固定化されている。従って、イソシアネート基又はシリル基等の反応性官能基が存在しない場合は、無水マレイン系共重合体を医療用具表面に強固に固定化できないため、潤滑耐久性に劣ることが比較例で示されている。
【0005】
また、ガイドワイヤーなどの基材としてはステンレス鋼、ニッケル/チタン系合金などの金属材料が好ましく使用されている。しかしながら、これらの金属製基材に対して、親水性化合物を直接にコーティングした場合は、親水性化合物が簡単に剥離、脱落するという大きな問題が発生し、実用価値の無いものとなる。最近になって、これらの問題を解決するために、分子内に少なくとも1個の金属に化学吸着しうる官能基と少なくとも1の個の反応性官能基を有する接着性有機化合物をプライマーとして、ガイドワイヤーの金属表面に親水性ポリマーを被膜する方法が開示されているが(特許文献7)、これらの方法においても、手で軽くこするなどごくわずかな応力がかかっても親水性ポリマーが金属表面からから容易に剥離・脱離することから、実用的な性能は全く得られていないのが実情である。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−081341号公報
【特許文献2】特開昭58−193766号公報
【特許文献3】特開昭58−193767号公報
【特許文献4】特開昭60−259269号公報
【特許文献5】特開平05−115541号公報
【特許文献6】特開平07−047120号公報
【特許文献7】特開2007−267757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、親水性高分子を医療用具の基体表面に固定化する際、イソシアネートモノマー等、毒性の高い化合物を使用することなく、安全性の高い特定の高分子プライマーを薄くコーティングするだけの簡単な経済性に優れた製法から、耐久性に優れた湿潤時潤滑化方法を提供することにある。特に、PTCA用ガイドワイヤーに適用した場合は、金属製コイルの柔軟性を確保しつつ、優れた潤滑耐久性を付与することができることから、極めて有用である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、上記目的は、下記(A)から(J)の本発明により達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(A)湿潤時に表面が潤滑性を有する医療用具であって、該医療用具を構成する基材表面に、下記(1)(2)の条件を満足するポリウレタンウレア樹脂がコートされ、さらに、このポリウレタンウレア樹脂の上に、親水性高分子がコートされていることを特徴とする医療用具
(1)ポリウレタンウレア樹脂は高分子ジオール、ジイソシアネート、ジアミンを必須構成成分としてなり、該樹脂中のウレタン結合およびウレア結合に含まれる窒素原子の重量%が3.5%から7.0%であること
(2)ポリウレタンウレア樹脂はその分子中に、親水性高分子と反応性を有する官能基を有すること
(B)ポリウレタンウレア樹脂が親水性高分子と化学的に結合されて固定化されている(A)に記載の医療用具
(C)親水性高分子と反応性を有する官能基として、アミノ基、水酸基、チオール基、シラノール基、イソシアネート基の中から選ばれるいずれか一つ以上の官能基を有することを特徴とする請求項Aに記載の医療用具
(D)高分子ジオールが分子量600以上のポリカーボネートジオールであることを特徴とする(A)に記載の医療用具
(E)ポリカーボネートジオールが炭素数5以上のジオールを主成分とした脂肪族ポリカーボネートジオールであることを特徴とする(A)ないし(B)に記載の医療用具
(F)ジイソシアネートが炭素数6以上の脂環族ジイソシアネートまたは/および脂肪族ジイソシアネートであることを特徴とする(A)に記載の医療用具
(G)親水性高分子が無水マレイン酸共重合化合物であることを特徴とする(A)に記載の医療用具
(H)医療用具を構成する基材表面が金属材料からなることを特徴とする(A)に記載の医療用具
(I)医療用具を構成する基材の一部が金属製コイルからなることを特徴とする(A)あるいは(H)に記載の医療用具
(J)基材表面に、下記(1)(2)の条件を満足するポリウレタンウレア樹脂をコートし、さらに、無水マレイン酸共重合化合物をコートして、ポリウレタンウレア樹脂の官能基と化学的に結合させたのち、アルカリ処理することによる、耐久性に優れた潤滑性を有する医療用具の製造方法
(1)ポリウレタンウレア樹脂は高分子ジオール、ジイソシアネート、ジアミンを必須構 成成分としてなり、樹脂中のウレタン結合およびウレア結合に含まれる窒素原子の重 量%が3.5%から7.0%であること
(2)ポリウレタンウレア樹脂はその分子中に、アミノ基、水酸基、チオール基、シラノール基、イソシアネート基の中から選ばれるいずれか一つ以上の官能基を有すること
【発明の効果】
【00010】
本発明の目的は、各種基材表面に親水性高分子をコーティングする前に、特定のポリウレタンウレア樹脂をプライマーとしてコーティングすることによって、優れた潤滑性と保水性を付与するとともに、血液中においても高度な潤滑耐久性と生体適合性を有する医療器具を提供することにある。本発明に係る医療用具は湿潤時において、保水性が優れ,摩擦係数が低く、優れた潤滑性を有すると共に、実使用時における操作性に優れ、長期にわたり製品性能が変化することも無く,また,過酷な使用条件下においても潤滑性,潤滑耐久性を維持することが可能な医療用具が実現できる。また、イソシアネートモノマーなど毒性の高い化合物を使用することがないことから、安全性、信頼性にも優れている。また、製造工程が簡単であり、経済性にも優れる。特に、PTCA用ガイドワイヤーに適用した場合は、金属製コイルの柔軟性を損なうこと無く、優れた潤滑耐久性を付与することができることから極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は医療用具を構成する各種基材表面に、特定のポリウレタンウレア樹脂がコートされ、さらに、このポリウレタンウレア樹脂の上に、親水性高分子がコートされていることを特徴とする医療用具およびその製造方法に関する。本発明における特定のポリウレタンウレア樹脂は高分子ジオール、ジイソシアネート、ジアミンを必須構成成分としてなり、該樹脂中のウレタン結合およびウレア結合に含まれる窒素原子の重量%が3.5%から7.0%であること、およびその分子中に、アミノ基、水酸基、チオール基、シラノール基、イソシアネート基の中から選ばれるいずれか一つ以上の官能基を有することを特徴とする。これらの官能基を通して、親水性高分子がポリウレタンウレア樹脂と化学的に結合されて固定化されることから、潤滑耐久性の非常に優れた医療用具が得られる。また、ポリウレタンウレア樹脂中のウレタン結合およびウレア結合に含まれる窒素原子の重量%が3.5%より小さいと潤滑耐久性、接着性、耐水性が劣り、7.0%より大きいと、樹脂の溶液安定性が著しく悪くなり、均一なコーティングができなくなると共に、金属製コイルなどにコーティングした場合、コイルの柔軟性が著しく低下し、ガイドワイヤーなどの医療用具の操作性、安全性などに問題が発生する。
【0012】
該ポリウレタンウレア樹脂の構成成分である高分子ジオールとしては、分子量600以上のポリカーボネートジオール、ポリカーボネートエステルジオール、ポリカーボネートエーテルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリオレフィンジオール、あるいはそれらの混合物、共重合体など用いることができるが、潤滑耐久性、接着性、耐水性の点から最も好ましい高分子ジオールとして、ポリカーボネートジオールが挙げられる。また、高分子ジオールの数平均分子量は600以上であることが、耐水性、柔軟性、潤滑耐久性の点から必要であり、より好ましくは、1000以上、5000以下である。5000以上では、溶液安定性の低下など、品質安定性に問題が生じる。
【0013】
本発明で用いられる分子量600以上のポリカーボネートジオールはジオール成分とカーボネート化合物から公知の方法、すなわちエステル交換反応にて製造可能である。ジオールとしては、炭素数5以上のジオールを主成分とした脂肪族ポリカーボネートジオールが好適である。耐水性、潤滑耐久性の点から、ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ヘキサメチレンジオール、オクタメチレンジオール、2−エチルヘキサメチレンジオール、ノナメチレンジオール、2−メチルオクタメチレンジオールなどの炭素数6以上のジオールを主成分とするポリカーボネートジオールがより好ましい。炭素数が5より少ないジオールからなるポリカーボネートジオールを用いた場合は耐水性、潤滑耐久性、柔軟性が劣る。ここで、ポリカーボネートジオールの合成に用いられるカーボネート化合物としてはジアルキルカーボネート、ジフエニルカーボネートなどのジアリールカーボネート、アルキレンカーボネートなどが好ましく使用される。
【0014】
更に、本発明で使用可能なポリエーテルジオールとして、ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。ポリテトラメチレングリコールを使用したポリウレタンウレア樹脂は耐加水分解性に優れているが、ポリカーボネートジオール系のポリウレタンウレア樹脂に比べて、潤滑耐久性、接着性が劣る。従って、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールポリエステルジオールなどを混合して用いることも可能である。
【0015】
また、該ポリウレタンウレア樹脂の構成成分であるジイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートが溶剤溶解性の点から必要となり、ジイソシアネートの炭素数は6以上であることが、潤滑耐久性、耐水性の点から好ましい。なお、これらの脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートに対して、溶剤溶解性を損なわない範囲で芳香族ジイソシアネートを併用することができる。炭素数が6以上の脂肪族、あるいは脂環族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、などが好ましく用いられる。
【0016】
また、該ポリウレタンウレア樹脂の構成成分であるジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミンが溶剤溶解性の点から好ましい。本発明で用いられる脂肪族ジアミン、脂環族ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、水添キシリレンジアミン、などが挙げられるが、なんらこれらに限定されるものではない。これらの脂肪族ジアミン、脂環族ジアミンに対して、溶剤溶解性を損なわない範囲で芳香族ジアミンを併用することができる。
【0017】
該ポリウレタンウレア樹脂に用いられる溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、イソプロパノール、メタノール、エタノール、ダイアセトンアルコール、酢酸エチル、トルエン、キシレン、水などの溶剤が好ましく用いられる。これらの溶剤を混合して用いることで、溶液粘度の経時的な変化も認められず、溶液粘度安定性が優れる。
【0018】
親水性高分子としては、無水マレイン酸共重合化合物、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどを用いることができるが、本発明においては、特に、無水マレイン酸共重合化合物が好ましく用いられる。無水マレイン酸共重合化合物はポリウレタンウレア樹脂との高い反応性を有し、化学的に固定されていることから、潤滑耐久性など総合性能に優れている。
【0019】
また、本発明において、ガイドワイヤーなどの医療用具を構成する基材表面が金属材料である場合は、本発明のポリウレタンウレア樹脂を用いた改良効果がより顕著になる。特に、金属製コイルスプリング部分を有するPTCA用ガイドワイヤーに本発明の技術を適用した場合、コイル部分の柔軟性が損なわれること無く、優れた潤滑性と潤滑耐久性が付与できる。また、本発明のガイドワイヤーは先端部分などを曲げ加工した場合においても、コーティング樹脂層の剥離、破壊などは認められず、賦形性にも優れている。ガイドワイヤーに用いられる金属材料としては、ステンレス鋼、Ni/Ti系合金、Cu/Zn/Al系合金、Cu/Al/Ni系合金、白金、白金合金、金、タングステンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明において、無水マレイン酸共重合化合物が使用される場合は、適量の架橋剤を配合することで、潤滑耐久性や保水性が更に向上する。架橋剤の配合割合は重量比で、無水マレイン酸共重合化合物100部に対して架橋剤0.01〜1.0部の範囲であり、好ましい範囲は0.02〜0.2部である。この範囲を外れると、むしろ、潤滑性および潤滑耐久性が劣る。
【0021】
無水マレイン酸共重合化合物と架橋剤を上記の配合組成で混合した溶液を作成し、この溶液に浸漬する方法、溶液を塗布する方法、溶液を噴霧する方法など、従来から一般に採用されている方法を用いることができる。上記のコーティング溶液に用いられる溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤、テトラヒドロフランあるいはそれらの混合溶剤、など汎用的な有機溶剤が使用しうる。これらの溶剤に、0.3〜8重量%、好ましくは0.5〜5重量%の濃度に溶解してコーティング溶液を調製する。
【0022】
上記のコーティング溶液に浸漬した後、乾燥し、引き続き、60〜120℃の温度で10〜300分の加熱処理を行う。この処理によって、無水マレイン酸共重合化合物がポリウレタンウレア樹脂と化学的に反応し強固に固定されると共に、架橋構造が導入され、潤滑耐久性がさらに向上する。
【0023】
さらに、アルカリ溶液に浸漬し、無水マレイン酸共重合化合物のカルボキシル基をアルカリ塩にすることで、潤滑性、および潤滑耐久性の優れた医療用具の製造が可能となる。このアルカリ処理に用いられるアルカリとしては、上記カルボキシル基をアルカリ塩へ変換する目的を達成できるアルカリであれば使用可能であるが、潤滑耐久性の点から、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムの水溶液などで処理するのが良い結果を与える。また、アルカリ処理後、水、生理食塩水などで十分洗浄を行い、アルカリを完全に除去することが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下に本発明に係る具体的な実施例および比較例について、より詳しく説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
(ポリウレタンウレア樹脂Aの合成)
【0025】
500ccの三つ口フラスコに、イソプロパノール127gとイソホロンジアミン0.043モル(7.31g)を仕込み、均一溶液とする(鎖伸長剤溶液)。一方、500ccの三つ口フラスコに、分子量2000のポリカーボネートジオール(ニッポラ980R)0.02モル(40g)とイソホロンジイソシアネート0.06モル(13.32g)を仕込み、撹拌下、110℃で4時間反応させた後、50℃に冷却して、メチルエチルケトン297gを投入し、均一溶液とした(プレポリマー溶液)。このようにして得られたプレポリマー溶液の全量を、上記の鎖伸長剤溶液に、撹拌下に添加することで重合し、固形分濃度12.5%の末端アミノ基を有するポリウレタンウレア溶液(ポリウレタンウレア樹脂溶液A、窒素含有率4.76%)を得た。
(ポリウレタンウレア樹脂Bの合成)
【0026】
500ccの三つ口フラスコに、イソプロパノール134gとイソホロンジアミン0.045モル(7.65g)、アミノエタノール0.008モル(0.488g)を仕込み、均一溶液とする(鎖伸長剤溶液)。一方、500ccの三つ口フラスコに、分子量2000のポリカーボネートジオール(ニッポラ982R)0.02モル(40g)とイソホロンジイソシアネート0.07モル(15.54g)を仕込み、撹拌下、110℃で4時間反応させた後、50℃に冷却して、メチルエチルケトン312gを投入し、均一溶液とした(プレポリマー溶液)。このようにして得られたプレポリマー溶液の全量を、上記の鎖伸長剤溶液に、撹拌下に添加することで重合し、固形分濃度12.5%の末端水酸基を有するポリウレタンウレア溶液(ポリウレタンウレア樹脂溶液B、窒素含有量5.23%)を得た。
(ポリウレタンウレア樹脂Cの合成)
【0027】
500ccの三つ口フラスコに、イソプロパノール140g、ダイアセトンアルコール70gとイソホロンジアミン0.064モル(10.88g)を仕込み、均一溶液とする(鎖伸長剤溶液)。一方、500ccの三つ口フラスコに、分子量2000のポリカーボネートジオール(ニッポラン982R)0.01モル(20g)、分子量2000のポリテトラメチレンエーテルジオール0.01モル(20g)とイソホロンジイソシアネート0.08モル(17.76g)を仕込み、撹拌下、110℃で4時間反応させた後、50℃に冷却して、メチルエチルケトン270gを投入し、均一溶液とした(プレポリマー溶液)。このようにして得られたプレポリマー溶液の全量を、上記の鎖伸長剤溶液に、撹拌下に添加することで重合し、固形分濃度12.5%の末端アミノ基を有するポリウレタンウレア溶液(ポリウレタンウレア樹脂溶液C、窒素含有量5.87%)を得た。
(ポリウレタンウレア樹脂Dの合成)
【0028】
500ccの三つ口フラスコに、イソプロパノール110gとイソホロンジアミン0.02モル(3.4g)を仕込み、均一溶液とする(鎖伸長剤溶液)。一方、500ccの三つ口フラスコに、分子量2000のポリカーボネートジオール(ニッポラン982R)0.01モル(20g)、分子量2000のポリテトラメチレンエーテルジオール0.01モル(20g)とイソホロンジイソシアネート0.04モル(8.88g)を仕込み、撹拌下、110℃で4時間反応させた後、50℃に冷却して、メチルエチルケトン256gを投入し、均一溶液とした(プレポリマー溶液)。このようにして得られたプレポリマー溶液の全量を、上記の鎖伸長剤溶液に、撹拌下に添加することで重合し、固形分濃度12.5%の末端アミノ基を有するポリウレタンウレア溶液(ポリウレタンウレア樹脂溶液D、窒素含有率3.21%)を得た。
(ポリウレタンウレア樹脂Eの合成)
【0029】
500ccの三つ口フラスコに、イソプロパノール48gとイソホロンジアミン0.022モル(3.74g)を仕込み、均一溶液とする(鎖伸長剤溶液)。一方、500ccの三つ口フラスコに、分子量500のポリカーボネートジオール(ニッポラン982R)0.02モル(10g)とイソホロンジイソシアネート0.04モル(8.88g)を仕込み、撹拌下、110℃で4時間反応させた後、50℃に冷却して、メチルエチルケトン111gを投入し、均一溶液とした(プレポリマー溶液)。このようにして得られたプレポリマー溶液の全量を、上記の鎖伸長剤溶液に、撹拌下に添加することで重合し、固形分濃度12.5%の末端アミノ基を有するポリウレタンウレア溶液(ポリウレタンウレア樹脂溶液D、窒素含有率7.67%)を得た。
<実施例1>
【0030】
直径0.4mm、長さ20cmのSUS304製ワイヤーをアセトン中において超音波洗浄し、乾燥した。このワイヤーを上記のポリウレタンウレア溶液Aに浸漬した後、3cm/秒の速度で引き上げて、室温にて10分間放置した後、100℃、30分間の乾燥を行なった。さらに、このポリウレタンウレア樹脂を処理したワイヤーをメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合化合物<IPS社製GANTREZ−AN−169>の2.5%溶液に浸漬して、3cm/秒の速度で引き上げて、風乾した後,100℃で60分間乾燥を行なって、潤滑剤を表面に固定した。その後、1/10Nの水酸化ナトリウムの水溶液中に浸漬し、室温で30分間処理した。さらに、水洗を十分に行い,60℃で30分乾燥した。上記方法にて得られたワイヤーは水の中において優れた潤滑性を示した。また、このワイヤーを水の中において手で扱くことにより、潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが、5000回まで潤滑性を維持し,潤滑耐久性が非常に優れることが確認された。
<実施例2>
【0031】
直径0.4mm、長さ20cmのSUS304製ワイヤーをアセトン中において超音波洗浄し、乾燥した。このワイヤーを上記のポリウレタンウレア溶液Bに浸漬した後、3cm/秒の速度で引き上げて、室温にて10分間放置した後、100℃、30分間の乾燥を行なった。さらに、このポリウレタンウレア樹脂を処理したワイヤーをメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合化合物<IPS社製GANTREZ−AN−169>の2.5%溶液に浸漬して、3cm/秒の速度で引き上げて、風乾した後、100℃で60分間乾燥を行なって、潤滑剤を表面に固定した。その後、1/10Nの水酸化ナトリウムの水溶液中に浸漬し、室温で30分間処理した。さらに、水洗を十分に行い,60℃で30分乾燥した。上記方法にて得られたワイヤーは水の中において優れた潤滑性を示した。また、このワイヤーを水の中において手で扱くことにより、潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが、3500回まで潤滑性を維持し、潤滑耐久性が非常に優れることが確認された。
<実施例3>
【0032】
直径0.4mm、長さ20cmのSUS304製ワイヤーをアセトン中において超音波洗浄し、乾燥した。このワイヤーを上記のポリウレタンウレア溶液Cに浸漬した後、3cm/秒の速度で引き上げて、室温にて10分間放置した後、100℃、30分間の乾燥を行なった。さらに、このポリウレタンウレア樹脂を処理したワイヤーをメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合化合物<IPS社製GANTREZ−AN−169>の2.5%溶液に浸漬して、3cm/秒の速度で引き上げて、風乾した後,100℃で60分間乾燥を行なって、潤滑剤を表面に固定した。その後、1/10Nの水酸化ナトリウムの水溶液中に浸漬し,室温で30分間処理した。さらに、水洗を十分に行い、60℃で30分乾燥した。上記方法にて得られたワイヤーは水の中において優れた潤滑性を示した。また,このワイヤーを水の中において手で扱くことにより、潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが、5000回まで潤滑性を維持し、潤滑耐久性が非常に優れることが確認された。
<比較例1>
【0033】
直径0.4mm、長さ20cmのSUS304製ワイヤーをアセトン中において超音波洗浄し、乾燥した。このワイヤーを上記のポリウレタンウレア溶液Dに浸漬した後、3cm/秒の速度で引き上げて、室温にて10分間放置した後、100℃、30分間の乾燥を行なった。さらに、このポリウレタンウレア樹脂を処理したワイヤーをメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合化合物<IPS社製GANTREZ−AN−169>の2.5%溶液に浸漬して、3cm/秒の速度で引き上げて、風乾した後、100℃で60分間乾燥を行なって、潤滑剤を表面に固定した。その後、1/10Nの水酸化ナトリウムの水溶液中に浸漬し、室温で30分間処理した。さらに、水洗を十分に行い、60℃で30分乾燥した。上記方法にて得られたワイヤーを水の中において手で扱くことにより、潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが、200回までしか潤滑性が認められず、コート層も剥離し、潤滑耐久性が極めて劣ることが確認された。
<実施例4>
【0034】
10cmのSUS304製コイルスプリング(コイル素線0.07mm、内径0.2mm、外径0.34mm)をアセトン中において超音波洗浄し、乾燥した。このコイルスプリングを上記のポリウレタンウレア溶液Aに浸漬した後、3cm/秒の速度で引き上げて、室温にて10分間放置した後、100℃、30分間の乾燥を行なった。さらに、このポリウレタンウレア樹脂を処理したワイヤーをメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合化合物<IPS社製GANTREZ−AN−169>の2.5%溶液に浸漬して、3cm/秒の速度で引き上げて、風乾した後,100℃で60分間乾燥を行なって、潤滑剤を表面に固定した。その後,1/10Nの水酸化ナトリウムの水溶液中に浸漬し、室温で30分間処理した。さらに、水洗を十分に行い,60℃で30分乾燥した。上記方法にて得られたワイヤーは水の中において優れた潤滑性を示した。また、このワイヤーを水の中において手で扱くことにより、潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが、1000回まで潤滑性を維持し、潤滑耐久性が非常に優れることが確認された。また、コイルスプリングは柔軟であり、折れ曲がり性も良好であった。
<実施例5>
【0035】
10cmのSUS304製コイルスプリング(コイル素線0.07mm、内径0.2mm、外径0.34mm)をアセトン中において超音波洗浄し、乾燥した。このコイルスプリングを上記のポリウレタンウレア溶液Cに浸漬した後、3cm/秒の速度で引き上げて、室温にて10分間放置した後、100℃、30分間の乾燥を行なった。さらに、このポリウレタンウレア樹脂を処理したワイヤーをメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合化合物<IPS社製GANTREZ−AN−169>の2.5%溶液に浸漬して、3cm/秒の速度で引き上げて、風乾した後、100℃で60分間乾燥を行なって、潤滑剤を表面に固定した。その後、1/10Nの水酸化ナトリウムの水溶液中に浸漬し、室温で30分間処理した。さらに、水洗を十分に行い、60℃で30分乾燥した。上記方法にて得られたワイヤーは水の中において優れた潤滑性を示した。また、このワイヤーを水の中において手で扱くことにより、潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが、900回まで潤滑性を維持し、潤滑耐久性が非常に優れることが確認された。また、コイルスプリングは柔軟であり、折れ曲がり性も良好であった。
<比較例2>
【0036】
10cmのSUS304製コイルスプリング(コイル素線0.07mm、内径0.2mm、外径0.34mm)をアセトン中において超音波洗浄し、乾燥した。このコイルスプリングを上記のポリウレタンウレア溶液Eに浸漬した後、3cm/秒の速度で引き上げて、室温にて10分間放置した後、100℃、30分間の乾燥を行なった。さらに、このポリウレタンウレア樹脂Eを処理したワイヤーをメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合化合物<IPS社製GANTREZ−AN−169>の2.5%溶液に浸漬して、3cm/秒の速度で引き上げて、風乾した後、100℃で60分間乾燥を行なって、潤滑剤を表面に固定した。その後、1/10Nの水酸化ナトリウムの水溶液中に浸漬し、室温で30分間処理した。さらに、水洗を十分に行い、60℃で30分乾燥した。このようにして得られたコイルスプリングは非常に硬く、折れ曲がり性に大きな問題を生じた。また、水の中において手で扱くことにより、潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが、5回で潤滑性を消失し、コーティング層の剥離が認められた
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る医療用具は湿潤時において、保水性が優れ、摩擦係数が低く、優れた潤滑性を有すると共に、実使用時における操作性に優れ、長期にわたり製品性能が変化することも無く、過酷な使用条件下においても潤滑性、潤滑耐久性を維持することが可能な医療用具が実現できる。また、イソシアネートモノマーなど毒性の高い化合物を使用することがないことから、安全性、信頼性にも優れている。また、製造工程が簡単であり、経済性にも優れる。さらに、PTCA用ガイドワイヤーに適用した場合は、金属製コイルの柔軟性を損なうこと無く、優れた潤滑耐久性を付与することができることから極めて有用である。このように、本発明に係るコーティング技術によって、新しい機能を有する医療用具などへの展開を含めた幅広い応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤時に表面が潤滑性を有する医療用具であって、該医療用具を構成する基材表面に、下記(1)(2)の条件を満足するポリウレタンウレア樹脂がコートされ、さらに、このポリウレタンウレア樹脂の上に、親水性高分子がコートされていることを特徴とする医療用具
(1)ポリウレタンウレア樹脂は高分子ジオール、ジイソシアネート、ジアミンを必須構成成分としてなり、該樹脂中のウレタン結合およびウレア結合に含まれる窒素原子の重量%が3.5%から7.0%であること
(2)ポリウレタンウレア樹脂はその分子中に、親水性高分子と反応性を有する官能基を有すること
【請求項2】
ポリウレタンウレア樹脂が親水性高分子と化学的に結合されて固定化されている請求項1に記載の医療用具
【請求項3】
ポリウレタンウレア樹脂はその分子中に、親水性高分子と反応性を有する官能基としてアミノ基、水酸基、チオール基、シラノール基、イソシアネート基の中から選ばれるいずれか一つ以上の官能基を有することを特徴とする請求項1に記載の医療用具
【請求項4】
高分子ジオールが分子量600以上のポリカーボネートジオールであることを特徴とする請求項1に記載の医療用具
【請求項5】
ポリカーボネートジオールが炭素数5以上のジオールを主成分とした脂肪族ポリカーボネートジオールであることを特徴とする請求項1ないし2に記載の医療用具
【請求項6】
ジイソシアネートが炭素数6以上の脂環族ジイソシアネートまたは/および脂肪族ジイソシアネートであることを特徴とする請求項1に記載の医療用具
【請求項7】
親水性高分子が無水マレイン酸共重合化合物であることを特徴とする請求項1に記載の医療用具
【請求項8】
医療用具を構成する基材表面が金属材料からなることを特徴とする請求項1に記載の医療用具
【請求項9】
医療用具を構成する基材の一部が金属製コイルからなることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の医療用具
【請求項10】
基材表面に、下記(1)(2)の条件を満足するポリウレタンウレア樹脂をコートし、さらに、無水マレイン酸共重合化合物をコートして、ポリウレタンウレア樹脂の官能基と化学的に結合させたのち、アルカリ処理することによる、耐久性に優れた潤滑性を有する医療用具の製造方法
(1)ポリウレタンウレア樹脂は高分子ジオール、ジイソシアネート、ジアミンを必須構 成成分としてなり、樹脂中のウレタン結合およびウレア結合に含まれる窒素原子の重 量%が3.5%から7.0%であること
(2)ポリウレタンウレア樹脂はその分子中に、アミノ基、水酸基、チオール基、シラノール基、イソシアネート基の中から選ばれるいずれか一つ以上の官能基を有すること

【公開番号】特開2011−5206(P2011−5206A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168237(P2009−168237)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(502162859)株式会社 ティーアールエス (7)
【Fターム(参考)】