説明

医療用器具及び医療用器具の製造方法

【課題】カテーテルの先端を薄肉化するために、ルーメンに到達しない深さの溝を備え、体腔などの内壁面に当たっても摺動抵抗が大きくならず、柔軟性を向上して操作性の良い医療用器具を提供する。
【解決手段】カテーテル10は、体腔内に挿入して用いられる長尺の医療用器具である。また、カテーテル10の軸方向に延在する凹溝65は、外周表面に設けられている。ここで、凹溝65の遠位側の端面65aは、外周表面に彫り込んで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用器具及び医療用器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠位端部を屈曲させることにより、体腔への侵入方向を操作可能な医療用器具が提供されている。
【0003】
特許文献1には、下記のような医療用チューブが記載されている。医療用チューブは、内部に形成されたルーメンと、軟質合成樹脂製内層と、該内層の外面を被覆するとともに、内層形成材料より硬質な材料により形成された外層とを備えている。さらに、医療用チューブは、先端部で、外層の外面よりルーメン方向に延びるとともに、ルーメンに到達しない深さの溝を備えている。また、この溝は、螺旋状またはリング状である。これにより、カテーテルの先端を薄肉化することで、柔軟性を向上することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−254235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者は、特許文献1に記載の医療用チューブの形状では、各溝の周縁が、個々に、体腔などの内壁面に当たるため、医療用チューブの摺動抵抗が大きくなる可能性があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
体腔内に挿入して用いられる長尺の医療用器具であって、
軸方向に延在する凹溝が外周表面に設けられており、かつ前記凹溝の遠位側の端面が前記外周表面に彫り込んで形成されていることを特徴とする医療用器具が提供される。
【0007】
本発明によれば、
体腔内に挿入して用いられる長尺の医療用器具の製造方法であって、
軸方向に延在する凹溝を外周表面に形成し、かつ前記凹溝の遠位側の端面を前記外周表面に彫り込んで形成することを特徴とする医療用器具の製造方法が提供される。
【0008】
本発明によれば、外周表面には、軸方向に延在する凹溝が設けられている。また、この凹溝の遠位側の端面は、外周表面に彫り込んで形成されている。これにより、体腔等の内壁面に対する接触面積が小さくなり、摩擦が低減する。また、遠位側の端面に血流が当たることにより、医療用器具に対する推進力を得ることができる。したがって、操作性の良い医療用器具を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、操作性の良い医療用器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係るカテーテルの構成を示す全体図である。
【図2】第1の実施形態に係るカテーテルの先端部を示す鳥瞰図(a)、側面図(b)、A部の拡大図(c)である。
【図3】第1の実施形態に係るカテーテルの先端部を示す縦断側面図である。
【図4】第1の実施形態に係るカテーテルの先端部を示す縦断側面図である。
【図5】図2(b)のIII−III断面図(a)、IV−IV断面図(b)である。
【図6】第1の実施形態の効果を説明するための図である。
【図7】第1の実施形態の効果を説明するための図である。
【図8】第2の実施形態に係るカテーテルの先端部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
本発明における医療用器具とは、内視鏡または親カテーテルなどを任意で介在させて、体腔に挿入して用いられる長尺の医療用器具である。具体的には、医療用器具は、たとえば、カテーテル、またはガイドワイヤーなどを含む。以下では、医療用器具を、カテーテルであるとして説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1〜図4を用いて、第1の実施形態に係るカテーテル10について説明する。カテーテル10は、体腔内に挿入して用いられる長尺の医療用器具である。また、カテーテル10の軸方向に延在する凹溝65は、外周表面に設けられている。ここで、凹溝65の遠位側の端面65aは、外周表面に彫り込んで形成されている。以下、詳細を説明する。
【0014】
はじめに、図1、図2を用い、カテーテル10の全体像から説明する。
【0015】
図1は、第1の実施形態に係るカテーテル10の構成を示す全体図である。図1のように、カテーテル10は、管状のシース16および本体部72を有している。
【0016】
シース16は、後述するように、内層21、外層60およびコート層64を含んでいる。ここで、内層21は、管状に形成されている。その内側には、カテーテル10の軸方向に延在するメインルーメン20が設けられている。
【0017】
また、本体部72には、可動操作部70が設けられている。可動操作部70には、ダイヤル部(不図示)が設けられており、シース16内に設けられた操作線(40)が接続されている。これにより、医師等が可動操作部70を手動操作することにより、カテーテル10の軸方向を偏向することができる。
【0018】
また、本体部72には、位置調整部80が設けられている。位置調整部80は、外周部にネジ溝が螺刻された雄ネジ部材(不図示)を有している。また、雄ネジ部材の内部には、通孔を有している。さらに、その通孔には、カテーテル10のシース16が挿通され、固定されている。これにより、位置調整部80を操作して、シース16の軸方向の位置を調整することにより、操作線40の張力を調整することができる。
【0019】
カテーテル10の近位側には、シース16の近位端部分が固定されるコネクタ90が設けられている。コネクタ90は、シース16の近位端部分に対して装着される筒状の部材である。一方、コネクタ90の後端には開口部(不図示)が形成されている。
【0020】
コネクタ90の開口部には、薬液等を充填したシリンジ(不図示)が装着される。シリンジからシース16に対して供給された薬液等は、シース16のメインルーメン(20)を通じてシース16の遠位端部DEから吐出される。
【0021】
次に、図2を用い、カテーテル10の外観形状について説明する。図2は、第1の実施形態に係るカテーテル10の先端部15を示す鳥瞰図(a)、側面図(b)、A部の拡大図(c)である。
【0022】
図2(a)のように、カテーテル10の先端部(15)には、複数の凹溝65が設けられている。この凹溝65は、シース16の外周表面に軸方向に延在している。また、凹溝65の遠位側の端面(65a)は、外周表面に彫り込んで形成されている。これにより、後述するように、体腔等の内壁面に対する接触面積が小さくなり、カテーテル10との摩擦が低減する。また、遠位側の端面(65a)に血流が当たることにより、カテーテル10に対する推進力を得ることができる。
【0023】
また、図2(b)のように、複数の凹溝65は、千鳥状に配置されている。図2(b)中、遠位端部DEに近い凹溝65から、凹溝65一つ分の距離を離間させて、軸方向と平行の位置に、凹溝65が均等に配置されている。一方、上記離間させた間には、側面方向に90度ずれた位置(図2(b)中、上下側面に)に二つの凹溝65が配置されている。この上下側面に形成された凹溝65も、軸方向に均等に配置されている。これにより、各凹溝65内に、血流が有効に導入される。したがって、血流によって、軸方向に偏りなく、推進力を得ることができる。
【0024】
また、凹溝65は、遠位端部DEから0cm以上20cm以下の位置に設けられている。これにより、特にカテーテル10の先端部15の摺動性が向上する。
【0025】
図2(c)は、図2(b)のA部の拡大図である。図2(c)のように、遠位側の端面65aは、近位側の端面65bよりも急峻に彫り込まれている。これにより、血流が近位側から滑らかに凹溝内に導入され、遠位側の端面65aを押す。したがって、カテーテル10は、血流から推進力を得ることができる。
【0026】
また、凹溝65の近位側は、外周表面に滑らかに連続している。これにより、血流が、さらに滑らかに、近位側から凹溝内に導入される。
【0027】
さらに、凹溝65のうち、幅方向の両端65cは、外周表面から軸中心方向に最も深くなる部分(以降、最深部65d)より、外周表面側に位置している。これは、凹溝65の最深部65dが、カテーテル10の側面側から見ても、外周表面に露出していないことを意味する。すなわち、凹溝65の遠位側の端面65aが外周全体に渡って形成されているような場合を含まない。これにより、凹溝65に取り入れた血流を軸方向から外すことなく、確実に遠位側の端面65aに当てることができる。
【0028】
また、凹溝65の遠位側の端面65aは、外周表面(コート層64の最表面)より軸中心側に形成されている。ここでいう「外周表面より軸中心側に形成されている」とは、外周表面より張り出していない状態であることを意味する。これにより、カテーテル10を引き戻すときに、血管の内壁に接触したり、血管の内壁を損傷させたりすることがない。
【0029】
また、複数の凹溝65は、軸方向と垂直の断面で切断したときに、少なくとも一つの凹溝65が配置されるように、軸方向に連続して設けられている。たとえば、遠位端部DEに近い凹溝65の近位側の端部65bの位置には、側面方向に90度ずれた位置において、次の凹溝65の遠位側の端面65aが形成されている。これにより、軸方向に体腔などに接する面は、少なくとも一つの非接触部分を有している。したがって、カテーテル10をスムーズに摺動させることができる。
【0030】
次に、図3〜図5を用いて、カテーテル10のシース16について、詳細を説明する。図3、図4は、第1の実施形態に係るカテーテル10の先端部15を示す縦断側面図である。
【0031】
図3は、図5(a)、図5(b)におけるII−II断面図である。
【0032】
図3のように、カテーテル10は、たとえば、樹脂材料により構成された管状の内層21と、内層の周囲に巻回された補強層50と、内層21の周囲に形成されて補強層50を内包する外層60と、を有している。
【0033】
内層21の内側には、カテーテル10の軸方向に延在するメインルーメン20が設けられている。内層21としては、たとえば、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料が用いられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)またはペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などが用いられる。
【0034】
また、外層60の内部には、メインルーメン20よりも小径のサブルーメン30が、メインルーメン20の周囲に軸方向に沿って設けられている。なお、図3中のサブルーメン30aおよびサブルーメン30bは、図5の符号と対応している。外層60としては、熱可塑性ポリマー材料が用いられる。具体的には、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などが用いられる。
【0035】
操作線40は、サブルーメン30内に摺動可能に挿通している。なお、操作線40aおよび操作線40bは、図5の符号と対応している。
【0036】
ここで、操作線40は、カテーテル10の遠位端部DEに一端が固定され、軸方向に延在している。これにより、操作線40の他端を牽引することで、軸方向を偏向することができる。
【0037】
操作線40の先端部41は、カテーテル10の遠位端部DE付近に固定されている。ここで、操作線40の先端部41を後述するマーカー66に連結しても良い。また、カテーテル10の先端部15におけるマーカー66以外の部分に固定していてもよい。
【0038】
操作線40は、サブルーメン30内の遠位端部から近位端部にわたって挿通している。なお、操作線40の近位端(不図示)は、先に述べた可動操作部70に接続されている。
【0039】
また、サブルーメン30は、外層60の内部に形成されている。本実施形態では、サブルーメン30は、後述する補強層50の外側に形成されている。これにより、サブルーメン30内を摺動する操作線40に対して、補強層50によって、メインルーメン20が保護されている。このため、仮に、操作線40がカテーテル10の遠位端部DEから外れたとしても、操作線40がメインルーメン20の周壁を開裂してしまうことがない。ただし、サブルーメン30は、この位置に形成されていることに限られない。たとえば、サブルーメン30は、補強層50の内側に形成されていてもよい。
【0040】
ここで、操作線40を挿通するサブルーメン30は、メインルーメン20から離間して設けられている。これにより、メインルーメン20を通じて薬剤等を供給したり、光学系を挿通したりする場合に、これらがサブルーメン30に脱漏することがない。
【0041】
操作線40としては、操作線40を形成する方法によって異なる材料が用いられる。後述するように、操作線40をサブルーメン30に挿通する方法としては、特に限定されることはなく、種々な方法を採用することができる。たとえば、予め操作線40が挿通されたサブルーメン30用のチューブを外層60に埋め込んでおき、外層60とともに、内層21に熱圧着する。この場合、操作線40の具体的な材料としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。
【0042】
一方、予めサブルーメン30が形成されたシース16に対して、その一端側から操作線40を挿通してもよい。この場合、操作線40は、耐熱性が求められない。したがって、当該操作線40の材料としては、上記各材料に加えて、ポリフッ化ビニリデン、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどを用いることもできる。
【0043】
カテーテル10の遠位側には、リング状のマーカー66が設けられている。マーカー66は、X線等の放射線が不透過な材料で構成されている。マーカー66は、たとえば、Ptなどの金属が用いられる。これにより、X線を照射することで、患者の体内におけるカテーテル10の遠位端部DEの位置を把握することができる。
【0044】
また、補強層50は、内層21の周囲に巻回されている。これにより、カテーテル10の形状を安定化させることができる。なお、補強層50としては、金属であることが好ましい。具体的には、ステンレススチール(SUS)、ニチノール(NiTi)等のニッケルチタン系合金、鋼、チタン、銅合金等が用いられる。なお、本実施形態では、これに限定されるものではなく、樹脂材料で形成してもよい。具体的には、たとえば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子ファイバーの細線等を用いることができる。さらに、金属製の線材料と、樹脂製の線材料とを混在させてもよい。また、線材料の断面形状は、特に限定されず、円形、楕円形、正方形、長方形、多角形等、いずれの形状であってもよい。
【0045】
また、外層60の周囲には、カテーテル10の最外層として、親水性のコート層64が設けられている。これにより、カテーテル10を、体腔等に滑らかに摺動させることができる。当該コート層64としては、たとえば、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性の樹脂材料を用いることができる。
【0046】
一方、図4(a)は、図5(a)、図5(b)におけるI−I断面図である。この図4(a)は、図5(a)、図5(b)において、サブルーメン30が設けられていない縦断側面を示している。なお、図4(b)は、図4(a)のB部の拡大図である。
【0047】
図4(a)のように、カテーテル10の外周表面には、凹溝65が形成されている。凹溝65の形成領域は、特に限定されるものではないが、たとえば、外層60の外周表面側に形成されている。さらに、外層60に形成された凹溝65に追従するように、コート層64が被覆されている。このようにして、カテーテル10の外周表面には、凹溝65が形成されている。ただし、外層60に形成されている凹溝65は、後述する凹溝65を形成する工程や、カテーテル10を使用するときに、サブルーメン30またはメインルーメン20まで貫通していないことが好ましい。また、内層21に開口が形成されないように、内層21の周囲に補強層50を巻回しておくことが好ましい。なお、凹溝65は、コート層64内のみに形成されていてもよい。
【0048】
図4(b)のように、上述したとおり、凹溝65の遠位側の端面65aが近位側の端面65bよりも急峻に彫り込まれている。
【0049】
さらに、凹溝65の遠位側の端面65aは、直角に彫り込まれている。ここでいう「直角に彫り込まれている」とは、カテーテル10の軸方向と略垂直であり、かつ、カテーテル10の外周表面から軸中心方向に向けて略直角に彫り込まれていることをいう。これにより、血流を的確に捕捉し、カテーテル10の軸方向に推進力を得ることができる。
【0050】
ここで、凹溝65における外周表面から軸中心方向への最大の深さ(最深部65dの深さ)は、1μm以上20μm以下である。好ましくは、5μm以上20μm以下である。なお、ここでは、凹溝65の最深部65dは、凹溝65のうち、遠位側の端面65aと接する底面部分である。
【0051】
最深部65dの深さが1μm以上であることにより、カテーテル10と血管の内壁面との摩擦を低減することができる。また、血液のうち、赤血球は、血漿等よりも比重が高い。また、赤血球は、直径が7μm程度、厚さが2μm強ほどの円盤状である。したがって、最深部65dの深さが5μm以上であることにより、血管にカテーテル10を摺動させる場合に、血流により比重の高い赤血球が遠位側の端面65aにぶつかる確率を上げることができる。すなわち、カテーテル10により大きな推進力を得ることができる。
【0052】
また、上記上限値以下であることにより、外層60において、補強層50およびサブルーメン30に干渉することがない。
【0053】
また、凹溝65のうち、近位側の端面65bは、親水性であっても、撥水性であってもよい。一方、遠位側の端面65aは、親水性であることが好ましい。これにより、遠位側の端面65aに、血流を集中させることができる。
【0054】
図5(a)は、図2(b)におけるIII−III断面図である。また、図5(b)は、図2(b)におけるIV−IV断面図である。
【0055】
図5(a)のように、外層60の内部には、複数のサブルーメン30が設けられている。ここでは、操作線40が挿通したサブルーメン30aおよびサブルーメン30bが、互いにメインルーメン20を挟んで対向する位置に設けられている。一方、上記サブルーメン30aおよびサブルーメン30bから90度の位置には、操作線40が挿通されていないダミーのサブルーメン30cおよびサブルーメン30dが、同様に互いにメインルーメン20を挟んで対向する位置に設けられている。このようなダミーのサブルーメン30cおよびサブルーメン30dは、カテーテル10の曲げ剛性を調整するために設けられている。これにより、カテーテル10を湾曲させたときの回転抵抗が捩じれ角度に依存することなく均一化されるため、カテーテル10のトルク操作が安定する。
【0056】
図5(a)のように、カテーテル10の外周表面には、二つの凹溝65が設けられている。ここでは、この二つの凹溝65は、サブルーメン30aとサブルーメン30bとが延在する縦断断面から反時計回りに45度の位置に配置され、メインルーメン20を挟んで対向して設けられている。
【0057】
ここで、凹溝65の断面形状は、特に限られるものではないが、凹溝65の中心が最深部65dとなる形状が好ましい。これにより、凹溝65内に侵入した血流を一点に集中させることができる。ここでは、凹溝65の断面形状は、たとえば、V字状に形成されている。そのほか、凹溝65の断面形状は、たとえば、半円状であってもよい。
【0058】
一方、図5(b)では、図5(a)とは別の二つの凹溝65が、サブルーメン30aとサブルーメン30bとが延在する縦断断面から時計回りに45度の位置に配置されている。このとき、二つの凹溝65は、互いにメインルーメン20を挟んで対向して設けられている。
【0059】
このように、サブルーメン30が複数設けられている場合、凹溝65は、メインルーメン20の外周のうち、サブルーメン30が設けられていない領域に形成されている。これにより、凹溝65の近傍におけるカテーテル10の耐圧強度が不測に低下することがない。
【0060】
ここで、第1の実施形態におけるカテーテル10の代表的な寸法について説明する。まず、メインルーメン20の半径は、200μm以上300μm以下程度である。また、内層21の厚さは、10μm以上30μm以下程度である。また、外層60の厚さは、100μm以上150μm以下程度である。また、補強層50の厚さは、20μm以上100μm以下程度である。さらに、カテーテル10の軸中心からサブルーメン30までの長さは、300μm以上400μm以下程度である。サブルーメン30の内径は、40μm以上100μm以下とすることができる。また、操作線40の太さは、30μm以上60μm以下とすることができる。以上により、カテーテル10の最外半径を、350μm以上450μm以下程度とすることができる。
【0061】
次に、第1の実施形態に係る医療用器具の製造方法について説明する。以下の製造方法は、体腔内に挿入して用いられる長尺の医療用器具の製造方法である。軸方向に延在する凹溝65を外周表面に形成し、かつ、凹溝65の遠位側の端面65aを外周表面に彫り込んで形成する。以下、詳細を説明する。
【0062】
はじめに、予め用意した芯線の外周に、樹脂材料により、内層21を被覆形成する。
【0063】
次いで、内層21の外周表面に、線材を巻回することにより、補強層50を形成する。
【0064】
次いで、補強層50を含む内層21の外周を緩く覆う寸法で、樹脂材料により、チューブ材として、別途、外層60の中間体を形成する。
【0065】
次いで、外層60のうち、サブルーメン30となる位置に、軸方向に延在する開口を形成する。そして、サブルーメン30として必要な内径を持つチューブを埋め込んで、外層60の中間体を形成する。
【0066】
次いで、外層60の中間体を、補強層50を含む内層21に被せる。さらに、これを熱収縮チューブで被覆して、全体を加熱する。これにより、外層60の中間体を、内層21の外周に圧着する。次いで、熱収縮チューブを除去した後、外層60の中間体の遠位側にマーカー66を装着する。
【0067】
次いで、上記した外層60の中間体の外側に、凹溝65に相当する位置に凸部を有する金型(不図示)を装着する。この金型には、凹溝65の遠位側の端面65aが外周表面に彫り込んで形成されるように、凸部が形成されている。次いで、加熱雰囲気下で金型を押し付けることで、凹溝65を有する外層60を形成する。
【0068】
冷却後、外層60に埋め込まれた上記チューブの内腔として形成されたサブルーメン30に、その一端側から操作線40を挿入する。次いで、操作線40の先端をマーカー66または外層60に固定する。
【0069】
なお、操作線40をサブルーメン30に挿通する方法としては、特に限定されることはなく、種々な方法を採用することができる。上記方法のほか、たとえば、予め操作線40が挿通されたサブルーメン30用のチューブを外層60に埋め込んでおき、外層60とともに、内層21に熱圧着することもできる。
【0070】
次いで、外層60の周囲に、凹溝65に追従するように、コート層64を形成する。これにより、凹溝65をカテーテル10の外周表面に形成する。最後に、芯線を、内層21から引き抜く。
【0071】
以上により、第1の実施形態のカテーテル10を形成することができる。
【0072】
次に、図6、図7を用い、第1の実施形態の効果について説明する。図6、図7は、第1の実施形態の効果を説明するための図である。
【0073】
図6は、カテーテル10の遠位側を血流220の方向に血管(200)内に挿入した場合におけるカテーテル10の断面図を示している。一般に、患者の血管200に挿入する際には、図6のように、血流220の方向(図中左方向)に挿入する。
【0074】
図6のように、第1の実施形態によれば、カテーテル10の外周表面には、軸方向に延在する凹溝65が設けられている。また、この凹溝65の遠位側の端面65aは、外周表面に彫り込んで形成されている。
【0075】
このようなカテーテル10を血流220の方向に血管200内に挿入した場合、血流220は、凹溝65内に入り込む。凹溝65内に入り込んだ血流220は、遠位側の端面65aに衝突し、流れの向きが変えられる。このとき、カテーテル10には、血流220の方向に推進力が付与される。
【0076】
次に、図7を用い、比較例と対比しながら第1の実施形態の効果を説明する。図7は、カテーテル10を血管200に摺動させた場合を示している。そのうち、図7(a)は、血管200内に挿入されたカテーテル10の遠位端部DEが、血管200の分岐点を過ぎ、A方向の血管200を摺動している状態を示している。
【0077】
図7(a)の状態から、カテーテル10の遠位端部DEを、B方向の血管200への偏向させる場合を考える。このような場合、正確にカテーテル10の位置を視認して、血管200に挿入できることは少ない。
【0078】
まず、図7(b)を用い、比較例として、凹溝65を有しないカテーテル10を用いた場合を説明する。
【0079】
図7(b)のように、比較例では、カテーテル10の遠位端部DEを偏向させるには、操作線40を牽引する方法が考えられる。この比較例では、カテーテル10の遠位端部DEを偏向させながら、血管200の分岐点を探し当てていく。
【0080】
このとき、カテーテル10の遠位端部DEは、血管200と接触しながら、偏向する。血管200がカテーテル10の外径に近い場合、カテーテル10と血管200の内壁面との接触面積が大きくなり、摩擦が生じる。このため、カテーテル10を偏向しにくい可能性がある。
【0081】
一方、図7(c)のように、第1の実施形態では、以下のように、血管200の分岐点で偏向する。
【0082】
第1の実施形態のカテーテル10には、上記した凹溝65が設けられている。これにより、血管200の内壁面に対する接触面積が小さくなり、摩擦が低減する。
【0083】
また、図7(c)のように、第1の実施形態のカテーテル10は、操作線40で微調整をするだけで、上記したように血管200の分岐点で血流220のB方向に推進力を得ることができる。これにより、血管200の内壁面を傷つけることなく、カテーテル10を、血流220のB方向に自己整合的に偏向させることができる。
【0084】
以上のように、第1の実施形態によれば、操作性の良い医療用器具を提供することができる。
【0085】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係るカテーテルの先端部を示す側面図である。第2の実施形態によれば、凹溝65の形状を除いて、第1の実施形態と同様である。以下、詳細を説明する。
【0086】
図8のように、カテーテル10の外周表面には、凹溝65が設けられている。この凹溝65の形状は、遠位側よりも途中が幅太である。この場合、凹溝65の最深部は、幅太になっている部分であってもよい。
【0087】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加え、下記のような効果を有する。第2の実施形態では、凹溝65の幅太部分で多く流量の血流220を、凹溝65の遠位側の端面65aに集中させて衝突させることが出来るため、推進力を増すことができる。
【0088】
以上、第1および第2の実施形態では、外層60の表面側に凹溝65が形成されている場合を説明したが、凹溝65はコート層64のみに形成されていてもよい。その場合は、凹溝65が形成されていない外層60を内層21の外周に形成した後に、コート層64を形成するとともに、コート層64の外周表面に凹溝65を形成する方法であってもよい。
【0089】
以上、第1および第2の実施形態では、外層60を形成する工程において、金型を用いて凹溝65を形成する場合を説明したが、切削刃を用いて凹溝65を切削する方法であってもよい。
【0090】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0091】
10 カテーテル
15 (カテーテルの)先端部
16 シース
20 メインルーメン
21 内層
30、30a、30b、30c、30d サブルーメン
40、40a、40b 操作線
41 (操作線の)先端部
50 補強層
60 外層
64 コート層
65 凹溝
65a 遠位側の端面
65b 近位側の端面
65c 両端
65d 最深部
66 マーカー
70 可動操作部
72 本体部
80 位置調整部
90 コネクタ
200 血管
220 血流
DE 遠位端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内に挿入して用いられる長尺の医療用器具であって、
軸方向に延在する凹溝が外周表面に設けられており、かつ前記凹溝の遠位側の端面が前記外周表面に彫り込んで形成されていることを特徴とする医療用器具。
【請求項2】
前記凹溝のうち、幅方向の両端は、前記外周表面から軸中心方向に最も深い部分より、前記外周表面側に位置する請求項1に記載の医療用器具。
【請求項3】
前記遠位側の前記端面が、近位側の端面よりも急峻に彫り込まれている請求項1または2に記載の医療用器具。
【請求項4】
前記凹溝の近位側は前記外周表面に滑らかに連続している請求項1から3のいずれか一項に記載の医療用器具。
【請求項5】
複数の前記凹溝が千鳥配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の医療用器具。
【請求項6】
前記複数の凹溝は、前記軸方向と垂直の断面で切断したときに、少なくとも一つの前記凹溝が配置されるように、前記軸方向に連続して設けられている請求項5に記載の医療用器具。
【請求項7】
前記遠位側の端面は、前記外周表面より軸中心側に形成されている請求項1から6のいずれか一項に記載の医療用器具。
【請求項8】
前記凹溝の形状は、前記遠位側よりも途中が幅太である請求項1から7のいずれか一項に記載の医療用器具。
【請求項9】
前記遠位側の端面が直角に彫り込まれている請求項1から8のいずれか一項に記載の医療用器具。
【請求項10】
遠位端部に一端が固定され、前記軸方向に延在しており、他端を牽引することで前記軸方向を偏向可能な操作線を備える請求項1から9のいずれか一項に記載の医療用器具。
【請求項11】
前記軸方向に延在するメインルーメンと、
前記メインルーメンの周囲に前記軸方向に沿って設けられた、前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンと、
を備え、
前記操作線は、前記サブルーメン内に摺動可能に挿通している請求項10に記載の医療用器具。
【請求項12】
前記サブルーメンおよび前記操作線は、複数設けられ、
前記凹溝は、前記メインルーメンの外周のうち、前記サブルーメンが設けられていない領域に形成されている請求項11に記載の医療用器具。
【請求項13】
前記凹溝は、遠位端部から0cm以上20cm以下の位置に設けられている請求項1から12のいずれか一項に記載の医療用器具。
【請求項14】
前記凹溝における前記外周表面から軸中心方向への最大の深さは、1μm以上20μm以下である請求項1から13のいずれか一項に記載の医療用器具。
【請求項15】
体腔内に挿入して用いられる長尺の医療用器具の製造方法であって、
軸方向に延在する凹溝を外周表面に形成し、かつ前記凹溝の遠位側の端面を前記外周表面に彫り込んで形成することを特徴とする医療用器具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−213432(P2012−213432A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79161(P2011−79161)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】