説明

医療用実習装置

【課題】本発明は、患者が理解しやすい声掛けであるか否か判定し、声掛けの医療技術を向上させる医療用実習装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る医療用実習装置は、実習行為者からの音声を入力する音声入力手段102と、音声入力手段102より入力された音声を処理する音声処理手段107と、音声処理手段107の結果を出力する処理出力手段103〜105とを備える医療用実習装置である。さらに、本発明に係る医療用実習装置の音声処理手段107は、音声入力手段102より入力された音声を言語として認識する音声認識手段107cと、音声入力手段102より入力された音声を所定の基準でフィルタリングするフィルタ107bと、フィルタ107bで設定する所定の基準を調整する調整手段107aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用実習装置に係る発明であって、特に、音声認識処理を行う医療用実習装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療行為において患者に対する声掛けは、患者を安心させたり、患者から信頼を得たりする上で、医療従事者にとって重要な技術である。しかし、声掛けに対して音声認識処理を行って客観的に評価し、実習できる装置は従来存在しなかった。
【0003】
また、従来の音声認識処理では、特許文献1に示すように、長文の認識結果の信頼度を高めるために、入力された音声を発話ごとの単語系列に分割し、各単語の品詞情報、音響尤度スコア、言語尤度スコア、単語尤度スコア等の情報を各単語に付与する。そして、発話単位での平均値、分散値等の統計値と品詞情報を用いたクラス分けによる判定値から発話特徴量ベクトルに変換して推定された認識度に基づいて音声認識処理を行う。
【0004】
さらに、特許文献2では、話者が特定の単語を所定の順序で発話することによって、自動的にその人にあった最適のフィルタリング用パターンを選択し、話者が同一の場合は体調等による声の状態の変化も認識率の良い状態で音声認識処理できる。
【0005】
【特許文献1】特開2007−240589号公報
【特許文献2】特開2001−022382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、長文の解析には優れているものの、実際の医療実習の場面ではそれほどの長文を発話することがない。また、特許文献1に示す音声認識処理では、長文の解析には時間がかかってしまうことがあるため、リアルタイムな応答が必要な医療行為での声掛けには適していない。
【0007】
さらに、特許文献2では、ユーザの声に合わせたフィルタリングのパターンを選択するものであり、実際の医療実習の場面では、実習者の音声を認識することが主たる目的ではなく、患者が理解しやすい声掛けであるか否かが問われる。そのため、特許文献2に示すように、実習者ごとにあったフィルタリングのパターンを設け、変更する必要はない。
【0008】
そこで、本発明は、患者が理解しやすい声掛けであるか否か判定し、声掛けの医療技術を向上させる医療用実習装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る医療用実習装置は、実習行為者からの音声を入力する音声入力手段と、音声入力手段より入力された音声を処理する音声処理手段と、音声処理手段の結果を出力する処理出力手段とを備える医療用実習装置であって、音声処理手段は、音声入力手段より入力された音声を言語として認識する音声認識手段と、音声入力手段より入力された音声を所定の基準でフィルタリングするフィルタと、フィルタで設定する所定の基準を調整する調整手段とを備える。
【0010】
本発明の請求項2に係る医療用実習装置は、請求項1に記載の医療用実習装置であって、フィルタは、音声入力手段より入力された音声のうち所定の音量以上の音声のみを通過させる音量フィルタである。
【0011】
本発明の請求項3に係る医療用実習装置は、請求項1又は請求項2に記載の医療用実習装置であって、フィルタは、音声認識手段で認識した言語が所定の語彙であるか否かを判定する語彙フィルタである。
【0012】
本発明の請求項4に係る医療用実習装置は、請求項3に記載の医療用実習装置であって、所定の語彙は、医療専門用語である。
【0013】
本発明の請求項5に係る医療用実習装置は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の医療用実習装置であって、フィルタは、音声認識手段で認識した言語が所定の発声基準を満たしているか否かを判定する発声フィルタである。
【0014】
本発明の請求項6に係る医療用実習装置は、請求項5に記載の医療用実習装置であって、所定の発声基準は、言語のアクセント、イントネーション又は発話速度である。
【0015】
本発明の請求項7に係る医療用実習装置は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の医療用実習装置であって、音声認識手段は、認識する言語体系に変更することができる。
【0016】
本発明の請求項8に係る医療用実習装置は、請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載の医療用実習装置であって、処理出力手段は、音声処理手段の結果に基づき動作及び顔の表情の制御を行う制御手段と、制御手段からの信号に基づき動作及び顔の表情を行う駆動手段と、音声処理手段の結果に基づき音声を出力する音声出力手段とを備えた擬似患者体である。
【0017】
本発明の請求項9に係る医療用実習装置は、請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の医療用実習装置であって、処理出力手段は、音声処理手段の結果を表示する表示手段を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1に係る医療用実習装置では、調整手段がフィルタにおいてフィルタリングする所定の基準を調整するので、実習者の医療技術である声掛けに対して最適な実習を提供し、且つ客観的な評価ができることで、当該技術の向上を図ることができる。
【0019】
本発明の請求項2に係る医療用実習装置では、音量フィルタを用いて所定の音量以上の音声に対して音声認識処理を行うので、患者や装置の状況に対して最適な声掛けの実習を提供し、且つ客観的な評価ができることで、当該技術の向上を図ることができる。
【0020】
本発明の請求項3に係る医療用実習装置では、音声認識手段で認識した言語が所定の語彙であるか否かを判定する語彙フィルタを備えるので、実習者が行う声掛けがより患者に理解しやすい内容になるように実習できる。
【0021】
本発明の請求項4に係る医療用実習装置では、語彙フィルタで判定する語彙を医療専門用語とすることで、患者の理解し難い医療専門用語を避ける声掛けを行う実習ができる。
【0022】
本発明の請求項5に係る医療用実習装置では、発声フィルタで音声認識できた言語をチェックするため、実習者が行う声掛けがより患者に聞きやすい発声となるように実習できる。
【0023】
本発明の請求項6に係る医療用実習装置では、発声基準が言語のアクセント、イントネーション又は発話速度とするので、実習者が行う声掛けがより患者に聞きやすいアクセント、イントネーション又は発話速度になるように実習できる。
【0024】
本発明の請求項7に係る医療用実習装置では、音声認識手段が認識する言語体系を変更することで、様々な国で値要することが可能となり、且つ国際的な医療従事者の育成も可能になる。
【0025】
本発明の請求項8に係る医療用実習装置では、擬似患者体を備えているので、実習者の声掛けを音声処理手段で処理した結果を、擬似患者体を介して実習者にフィードバックでき、より声掛けの技術を向上させる実習が可能となる。
【0026】
本発明の請求項9に係る医療用実習装置では、表示手段を備えるので、当該表示手段を介して実習者の声掛けを音声処理手段で処理した結果を出力できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(実施の形態1)
図1に、本実施の形態に係る音声処理を含む医療用実習装置の概略図を示す。図1に示す医療用実習装置は、声掛け以外に切削等の実習も可能な総合的な医療用実習装置である。図1に示す医療用実習装置Mは、診療器具11a〜11eを備えた器具台1と、患者を模した擬似患者体2と、その擬似患者体2を載せて治療を行うための診療台3と、GUIとして各種情報を表示し、擬似患者体2に対する各種指令を受け付ける情報処理装置4とを備えている。
【0028】
器具台1は、診療台3にアームを介して回動可能に取り付けたテーブル1aの手前側に器具ホルダ1bを備え、そこにエアータービンハンドピース、マイクロモータハンドピースなどの切削工具やスケーラ、スリーウエイシリンジ、バキュームシリンジなどからなる診療器具11a〜11eを着脱可能に取り付けている。さらに、器具台1には、テーブル1aの上方に表示部5を設けて、患者のカルテを呼出表示したり、実習中の診療器具の操作内容などをモニタリングしたりできるようになっている。診療器具には、図1に示した診療器具11a〜11e以外に、口腔カメラや光重合照射器(いずれも図示せず)が設けられる。そして、これら診療器具を制御するためにフートコントローラ12aが設けられている。さらに、これら診療器具の作動状態を検出するために診療器具回路が設けられている(図示せず)。
【0029】
診療器具は、各診療器具11a〜11eを器具ホルダ1bから取り上げたことを検出して駆動したり、フートコントローラ12aの操作を検出して駆動したり、診療器具自体に設けた操作手段の操作を検出して駆動しても良い。器具ホルダ1bとしては、図1のように器具台1に設けられるものの他、診療台3に設けられるもの等、その他の診療器具11a〜11eを着脱可能に取り付け得るものも対象とされる。また、診療器具回路は、診療器具11a〜11eの回転数又は回転数に相当する電圧値、電流値、又は診療器具が作動するエア圧、エア流量、周波数、振動数、又は診療器具11a〜11eが擬似患者体2に接触する際の抑圧力や診療台3に接続されたフートコントローラ12aの操作信号を検出する。診療器具11a〜11eは、水供給源、エア供給源やエア吸引手段に接続されているが、これらは、公知であるので、詳細の説明は省略する。
【0030】
擬似患者体2は、頭部模型2aと、胴体模型2bと、左右の腕模型2cと、左右の脚部模型2dとで構成され、その内部には、擬似患者体2の姿勢、表情を変化させたり、擬似患者体2に対する診療状態を検出したりする擬似患者体駆動回路が設けられている(図3の機能ブロック図参照)。また、擬似患者体2は、人体に酷似した外観にするため、頭髪となるカツラが被せられ、人工皮膚を被せている。このような擬似患者体2は、機械系の部品で骨格を形成した従来型のものではなく、人工皮膚や人工頭髪を被せて、人体に極めて酷似させた、いわゆるアンドロイド型のロボットとして構成されており、実習中は、人と同様に診療台3に載せられて、種々の処置を行うことができ、姿勢、顔の表情を変化させるため機械的、電気的、流体的なエネルギー(作動媒体)を供給する駆動源に接続されている。擬似患者体2は、治療台3と一体型或いは連動するようにしても良く、また独立して動作する構成にしても良い。なお、擬似患者体2の構成や駆動等については、特許文献(国際公開第2008/023464号パンフレット)に詳しく記載されている。
【0031】
診療台3は、基台30に昇降可能に載置された座部シート3aと、その座部シート3aの後方に連接された傾動可能な背板シート3bと、その背板シート3bの上端に連接された傾動可能なヘッドレスト3cとを備えている。そして、診療台3は、診療状況に応じた最適位置に制御するため座部シート昇降手段、背板シート傾倒手段、ヘッドレスト傾倒手段(いずれも図示せず)が設けられ、フートコントローラ12aによって操作制御される。このような座部シート昇降手段や背板シート傾倒手段には、従来技術の油圧シリンダや電動モータ等が使用でき、ヘッドレスト傾倒手段には、電動モータ等が使用できる。
【0032】
また、診療台3には、治療用スタンドポール6が付設され、当該スタンドポールの途中を分岐させて、回動可能に突出させたアーム61,62を設けている。アーム61には、無影灯63を設け、アーム62には、実習者の診療器具11a〜11eの扱いや動き、擬似患者体2の姿勢、動き、表情の変化等を撮像する撮像カメラ64(撮像手段)と、治療時の音声などを集音するためマイク65が設置されている。なお、診療台3の近傍には、口腔内を濯ぐ際などに給水する給水栓と、排唾鉢を備えるスピットン3dが設けられている。
【0033】
情報処理装置4は、例えばワークステーション等で構成され、PC本体41と、液晶モニタ等の表示手段42と、キーボード、マウス等の操作手段43とで構成されている。表示手段42には、GUIとして、各種の情報を表示し、キーボード、マウス等の操作手段43で各種の指令を受け付ける。表示手段42は、実習時の擬似患者体2の受診状況等を表示し、必要な情報を随時呼び出して表示できる。PC本体41に特定のプログラムを内蔵し、それを稼動させることで、擬似患者体2を作動させることができる。そのため、実習教官が、実習者の状況を把握しながら、擬似患者体2の表情を操作することができる。また、擬似患者体2の各部に内蔵した各種のセンサを呼び出して、検知信号をモニタ表示させることもできる。
【0034】
背板シート3bの肩部には、システム停止操作スイッチ7が設けられている。このシステム停止操作スイッチ7は、擬似患者体2又は診療台3の少なくとも一方が誤動作した時に、システム全体(擬似患者体2、診療台3及び診療器具11a〜11e等)を停止させる緊急停止スイッチである。このシステム停止操作スイッチ7の設置位置は、実習者自らが操作しやすい点で、背板シート3bの肩部が望ましいが、器具台1やヘッドレスト3cの近傍等、実習者によるアクセス性を勘案して適宜選択設定される。また、停止対象は、システム全体が望ましいが、少なくとも擬似患者体2及び診療台3の作動が停止すれば、安全性を保つことができる。
【0035】
また、擬似患者体2の首部には、擬似患者体脱力手段を駆動する擬似患者体脱力操作スイッチ8が設けられている。この擬似患者体脱力操作スイッチ8は、擬似患者体駆動手段を駆動させるために、作動媒体(エア、水、油等)となる作動圧(エア圧、液圧等)の全部又は一部を抜くスイッチである。これら作動媒体の駆動系(管路系)の途中に開放弁(不図示)が設けられ、擬似患者体脱力操作スイッチ8を操作することにより、開放弁が開放し、作動媒体が系外に排出される。この擬似患者体脱力操作スイッチ8は、実習者のアクセス性の点で擬似患者体2の首部に設けることが望ましいが、擬似患者体2の側頭部、器具台1或いはヘッドレスト3cの近傍等、上記同様実習者によるアクセス性を勘案して適宜選択設定される。また、上記システム停止操作スイッチ7と兼用して、システムの停止後、擬似患者体2の脱力を行うようにしても良い。
【0036】
図2に、本実施の形態に係る医療用実習装置の動作を説明するためのフローチャートを示す。また、図3に、本実施の形態に係る医療用実習装置における音声処理の機能ブロック図を示す。まず、図3に示すCPU101は、PC本体41により実現され、音声認識処理等を実行する。図3に示す音声入力手段102は、マイク65により実現され、実習者の声掛けによる音声を集音する。なお、マイク65の位置は例示であって、本発明はこれに限られず、擬似患者体2の耳や胸元、実習者の胸元等に取り付けても良い。図3に示す表示手段103は、表示部5や表示手段42により実現でき、CPU101で実行した音声処理の結果等を表示する。図3に示す音声出力手段104は、擬似患者体2や情報処理装置4に設けたスピーカにより実現でき、実習者が声掛けしたことによる返事等を出力する。
【0037】
図3に示す擬似患者体駆動回路105は、擬似患者体2を駆動するための制御回路であり、実習者が声掛けすることによる擬似患者体2の反応を制御している。なお、表示手段103や音声出力手段104、擬似患者体駆動回路105は、音声処理の結果を出力する処理出力手段に該当する。図3に示すメモリ106は、CPU101で実行する音声処理のプログラムや、音声処理の結果等を記憶させる部分であり、PC本体41に設けた記憶手段や外部の記憶手段等により実現できる。図3に示す音声処理手段107は、CPU101で実行される処理であり、音声入力手段102で入力された実習者の声掛けの音声を処理する。なお、本実施の形態に係る音声処理手段107は、CPU101上で実行されるソフトウェアとして説明するが、本発明に係る音声処理手段107はこれに限られず当該ソフトウェアと同等の機能を有するハードウェアとして構成しても良い。
【0038】
この音声処理手段107には、調整機構107aと、フィルタ107bと、音声認識手段107cとを備えている。そして、フィルタ107bは、音量、語彙、発声などを所定の基準でフィルタリングする手段である。例えば、音量フィルタは、所定の音量以上の声掛けの音声を通過させる機能を有し、語彙フィルタは、音声認識手段107cで認識した言語が所定の語彙であるか否かを判定する機能を有し、発声フィルタは、音声認識手段で認識した言語が所定の発声基準を満たしているか否かを判定する機能を有している。
【0039】
音声認識手段107cは、音声入力手段102より入力された音声を言語として認識する手段である。例えば、実習者が声掛けとして「大丈夫ですか」と言葉を発した場合、音声認識手段107cは音声である「大丈夫ですか」を言語である「大丈夫ですか」というデータに変換する。なお、音声認識手段107cが認識できる言語体系は日本語に限られず、英語等の他の言語体系であっても良い。さらに、本実施の形態に係る医療用実習装置において言語体系を任意に変更することができれば、多くの国で当該装置を利用することや、国際的な医療従事者を育成することが可能となる。
【0040】
調整機構107aは、フィルタ107bにおいてフィルタリングする基準を変更する手段である。例えば、音量フィルタに対して調整機構107aを適用する場合、調整機構107aは所定の音量を変更する。これにより、音声認識手段107cへ通過する音声を調整することができる。つまり、所定の音量を高くすれば、実習者が声掛けする音量を大きくしなければ音声認識手段107cで処理されない。また、患者の年齢や性別等によって聴き取れる音量が異なるため、調整機構107aを用いて様々な患者を想定して実習することが可能となる。さらに、所定の音量を段階的に高くすることで、実習者の声掛けを段階的に訓練することもできる。なお、実習者の声掛けの音声を集音するマイクの位置によっても所定の音量を変更する必要がある。
【0041】
また、例えば、語彙フィルタに対して調整機構107aを適用する場合、調整機構107aは所定の語彙を変更する。これにより、音声認識手段107cで認識した言語が患者に理解できるか否かの基準を調整することができる。つまり、患者が理解できない語彙を所定の語彙として多く登録するように調整すれば、実習者が声掛けする際、より多くの所定の語彙以外の語彙を使用しなければならない。また、患者の年齢や性別等によって理解できる語彙が異なるため、調整機構107aを用いて様々な患者を想定して実習することが可能となる。なお、医療用実習装置として考えられる所定の語彙としては、医療用専門用語がある。
【0042】
また、例えば、発声フィルタに対して調整機構107aを適用する場合、調整機構107aは所定の発声基準を変更する。これにより、音声認識手段107cで認識した言語が患者に理解できる発声であるか否かを調整することができる。つまり、音声認識手段107cとしては認識できるが、患者にとって聞きづらい発声であれば理解できないので、実習者が声掛けする際、患者が聞き取りやすい発声にしなければならない。また、患者の年齢や性別等によって聞き取りやすい発声が異なるため、調整機構107aを用いて様々な患者を想定して実習することが可能となる。なお、所定の発声基準としては、主に言語のアクセント、イントネーション又は発話速度が考えられる。
【0043】
次に、図2に示すフローチャートを用いて本実施の形態に係る医療用実習装置の動作を説明する。まず、ステップS1では、実習者が擬似患者体2に対して声掛け(例えば「口を開けてください」)を行い、マイク65から当該声掛けの音声が入力される。ステップS2では、ステップS1で入力された音声をフィルタ107bの音量フィルタで所定の音量以上か否かのフィルタリングを行う。なお、所定の音量は、ステップS3で調整機構107aにより事前に調整しておく。ステップS2で所定の音量より小さいと判断された場合は、ステップS4に進む。ステップS4では、声掛けの音声が聞こえなかったものとして、擬似患者体2の動作・表情が無反応となるように擬似患者体駆動回路105が擬似患者体2を制御する。
【0044】
一方、ステップS2で所定の音量以上と判断された場合は、ステップS5に進む。ステップS5では、ステップS2を通過した音声に対して音声認識手段107cの処理を行い言語として認識する。ステップS5で認識した言語は、ステップS6においてフィルタ107bの語彙フィルタで所定の語彙に該当しないか否かが判断される。ステップS5で認識した言語が、所定の語彙(例えば、「口腔を開けてください」言った場合の「口腔」)に該当しない場合はステップS7に進み、該当する場合はステップS8cに進む。なお、所定の語彙は、ステップS3で調整機構107cにより事前に調整しておく。
【0045】
次に、ステップS7では、フィルタ107bの発声フィルタで所定の発声基準を満たしているか否かが判断される。発声フィルタでは、ステップS5で認識した言語に対応する音声が、所定の発声基準となる当該言語のアクセント、イントネーション又は発話速度等に合致しているか否かが判断される。所定の発声基準に該当しない場合はステップS8aに進み、該当する場合はステップS8bに進む。なお、所定の発声基準は、ステップS3で調整機構107cにより事前に調整しておく。
【0046】
ステップS8aでは、ステップS5で認識した言語が所定の発声基準を満たしていないと判断されるので、患者としては実習者の声掛けは聞こえているが、何を話しているか聞き取れない状況に対応している。そのため、ステップS8aでは、擬似患者体2の動作・表情が聞き取れないことを表す動作・表情となるように擬似患者体駆動回路105が擬似患者体2を制御する。そして、ステップS9aでは、音声出力手段104から聞き取れないことを表す音声(例えば、「よく聞こえません」や「もう一度お願いします」)を出力(音声出力A)する。
【0047】
ステップS8bでは、ステップS5で認識した言語が所定の発声基準を満たしていると判断されるので、患者としては実習者の声掛けが聞き取れ、理解できる状況に対応している。そのため、ステップS8bでは、擬似患者体2の動作・表情が声掛けに対応する動作・表情(例えば、口を開ける動作)となるように擬似患者体駆動回路105が擬似患者体2を制御する。そして、ステップS9bでは、音声出力手段104から声掛けに対応した音声(例えば「はい」)を出力(音声出力B)する。
【0048】
ステップS8cでは、ステップS5で認識した言語が所定の語彙に該当していると判断されるので、患者としては実習者の声掛けの内容が理解できない状況に対応している。そのため、ステップS8cでは、擬似患者体2の動作・表情が声掛けの内容を理解できないことを表す動作・表情となるように擬似患者体駆動回路105が擬似患者体2を制御する。そして、ステップS9cでは、音声出力手段104から声掛けの内容が理解できないことを表す音声(例えば「よく分かりません」)を出力(音声出力C)する。
【0049】
なお、ステップS8a〜c,ステップS9a〜cで出力される情報を、表示手段103に表示したり、メモリ106に記憶したりしても良い。また、本実施の形態に係る医療用実習装置の構成は例示であり、本発明はこれに限定されない。
【0050】
(実施の形態2)
実施の形態1に係る医療用実習装置では、擬似患者体2を用いた総合的な実習を行う装置に設けられる音声処理手段について説明したが、本発明はこれに限られない。
【0051】
そこで、本実施の形態に係る医療用実習装置では、一般に使用されている診療台や診療器具に音声入力手段102であるマイク、音声処理手段107を実行するCPU101を含むPC、表示手段103であるモニタ、音声出力手段104であるスピーカを取り付ける構成が考えられる。つまり、本実施の形態に係る医療用実習装置では、図1に示す概略図において、擬似患者体2、システム停止操作スイッチ7や撮像カメラ64等を設けない構成となる。また、図3に示すブロック図においても、本実施の形態に係る医療用実習装置では、擬似患者体駆動回路105を設けない以外は実施の形態1と同じとなる。
【0052】
以上のような構成を採用するため、本実施の形態に係る医療用実習装置は、図2に示したステップS8a〜cのような擬似患者体2の反応は得られないが、ステップS9a〜cのような音声のみが出力される。また、本実施の形態に係る医療用実習装置のような構成であれば、学生に対する実習装置としてのみでなく、既存の診療台等に設置して歯科医師に対する実習装置としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1に係る医療用実習装置の概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る医療用実習装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1に係る医療用実習装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0054】
1 器具台、1a テーブル、1b 器具ホルダ、2 擬似患者体、2a 頭部模型、2b 胴体模型、2c 左右の腕模型、2d 左右の脚部模型、3 診療台、3a 座部シート、3b 背板シート、3c ヘッドレスト、4 情報処理装置、5 表示部、6 治療用スタンドポール、7 システム停止操作スイッチ、8 擬似患者体脱力操作スイッチ 11a〜11e 診療器具、12a フートコントローラ、30 基台、41 PC本体、42 表示手段、43 操作手段、61,62 アーム、63 無影灯、64 撮像カメラ、65 マイク、101 CPU、102 音声入力手段、 103 表示手段、104 音声出力手段、105 擬似患者体駆動回路、106 メモリ、107 音声処理手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実習行為者からの音声を入力する音声入力手段と、
前記音声入力手段より入力された前記音声を処理する音声処理手段と、
前記音声処理手段の結果を出力する処理出力手段とを備える医療用実習装置であって、
前記音声処理手段は、
前記音声入力手段より入力された前記音声を言語として認識する音声認識手段と、
前記音声入力手段より入力された前記音声を所定の基準でフィルタリングするフィルタと、
前記フィルタで設定する前記所定の基準を調整する調整手段とを備えることを特徴とする医療用実習装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用実習装置であって、
前記フィルタは、前記音声入力手段より入力された前記音声のうち所定の音量以上の前記音声のみを通過させる音量フィルタであることを特徴とする医療用実習装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の医療用実習装置であって、
前記フィルタは、前記音声認識手段で認識した前記言語が所定の語彙であるか否かを判定する語彙フィルタであることを特徴とする医療用実習装置。
【請求項4】
請求項3に記載の医療用実習装置であって、
前記所定の語彙は、医療専門用語であることを特徴とする医療用実習装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の医療用実習装置であって、
前記フィルタは、前記音声認識手段で認識した前記言語が所定の発声基準を満たしているか否かを判定する発声フィルタであることを特徴とする医療用実習装置。
【請求項6】
請求項5に記載の医療用実習装置であって、
前記所定の発声基準は、前記言語のアクセント、イントネーション又は発話速度であることを特徴とする医療用実習装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の医療用実習装置であって、
前記音声認識手段は、認識する言語体系に変更することができることを特徴とする医療用実習装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載の医療用実習装置であって、
前記処理出力手段は、
前記音声処理手段の結果に基づき動作及び顔の表情の制御を行う制御手段と、
前記制御手段からの信号に基づき動作前記及び顔の表情を行う駆動手段と、
前記音声処理手段の結果に基づき音声を出力する音声出力手段とを備えた擬似患者体であることを特徴とする医療用実習装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の医療用実習装置であって、
前記処理出力手段は、
前記音声処理手段の結果を表示する表示手段を備えることを特徴とする医療用実習装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−32861(P2010−32861A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196029(P2008−196029)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【出願人】(502397369)学校法人 日本歯科大学 (20)
【出願人】(591076257)株式会社ココロ (11)
【Fターム(参考)】