説明

医療用薬液容器および薬剤入り医療用薬液容器

【課題】薬液収納室周縁のシール部分のシール不良や、収容する少量の薬剤を変質させたりすることのない、医療用薬液容器および薬剤入り医療用薬液容器を提供する。
【解決手段】薬剤を収容する主薬液収納室11と、該主薬液収納室11に接続され、主薬液収納室11に収容される薬液よりも少量の薬液を収容する少なくとも1つ以上の副薬液収納室12とを有し、これら主薬液収納室11内と副薬液収納室12内とが連通可能に仕切られた医療用薬液容器10である。そして、副薬液収納室12は、薬剤の収容前において、内部の薬剤収容空間が収容される薬剤の体積よりも大きくなるように膨出された膨出部15を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点滴液などの薬剤を収容する医療用薬液容器およびこの医療用薬液容器に薬剤を収容した薬剤入り医療用薬液容器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用薬剤には、単独で使用されるものもあるが、複数の薬剤を組み合わせて患者に投与することが多い。特に輸液によって投与する液体注射剤の場合、薬剤を混合して調製したり、主薬剤に対して少量の副薬剤を混注することが多い。この作業は無菌的に行う必要がある。この無菌的調剤作業は煩雑であり、調剤ミスの危険性を指摘されている。この調剤作業を医療用薬液容器の面から改善し、安全性と効率化を図る工夫が行なわれてきた。
【0003】
医療の分野に用いられる容器において、複数の内容物が1つの容器の中の区画された複数の室に収納されており、使用する前までは各内容物は混合されないが、使用する際に内容物を容易に混合することができる薬液容器が知られている。例えば、輸液用薬剤を輸液する直前に、複数種の薬剤を混合して輸液用薬剤を調製する薬液容器としては、合成樹脂製フィルムによって形成された袋状容器の内壁面を熱溶着したシール部を仕切部とし、袋状容器内をシール部によって仕切った複数の室に薬剤を収納した複室の薬液容器が知られている。こうした複室の薬液容器は、シール部によって形成された仕切部の一部に、破壊可能な液密栓部材が挟まれており、この液密栓を破壊して各室を連通させ、複数に分割収容されていた薬液を混合可能とするものが知られている。
【0004】
あるいはまた、シール部によって形成された仕切部の一部または全部が剥離可能な弱シールとなっており、この剥離可能な弱シールを押圧等により剥離して各室を連通させ、複数に分割収容されていた薬液を混合可能とする容器が知られている。これらの容器は、収容されている薬剤を用いて輸液を行う際に、各室を区画する仕切部を連通させ、容器内を1続きの室にすることによって、各薬剤を混合するものである。
【0005】
こうした複室の薬液容器のうち、各薬液の収納室に収容される薬液間で内容量に大きく差があるような、主薬剤収納室と少量の薬剤を収納する副薬剤収納室を有する医療用薬液容器においても用いられる連通可能な仕切り手段として、従来2室の医療用薬液容器で用いられている弱シール部を用いることが、仕切り用の別部材を用いるより製造が容易であり、また、1つの室を押圧して薬液の内圧を高めることで連通が可能となるから使用時の薬液混合も容易である。またシート材からなる容器は、可撓性が高く、通気針が不要で、輸液時の排液速度が初めから終わりまで一定に保たれるなど、衛生性、安全性、および作業性に優れており、廃棄時の体積が小さく、廃棄時の減容化にもなるため、従来のガラス瓶や全体がブロー成形で製造された医療用薬液容器に比べて好まれている。
【0006】
ところで、シート材を用いてシール部により仕切られた薬剤収納室は、シート材が平坦であるため、必然的に薬剤投入前の薬剤収納室は殆ど体積ゼロに近い状態である。シート材からなる医療用容器は、薬剤を収容することで薬剤の自重により発生する圧力によってシート材が変形し、初めて膨らんだ形となるものである。ことに、比較的小容量の副薬剤においては、少量の薬剤を入れただけでは、シート材の剛性の方が薬剤の自重により発生する圧力より強いという理由により容器が膨らむことができず、薬剤がシート間に膜のように広い面積に渡って広がるだけである。
【0007】
こうして小容量の薬剤が広い面積になって広がると、副薬剤収納室を熱シールにより封をする際に、薬剤そのものが熱シール部に触れ、シールが不良になったり、薬剤が変質するなどの問題を引き起こす。それに加えて、少量の副薬剤を収容するためには、大きな面積の収納室が必要となり、医療用容器としては過大に大きなものとなってしまい、使い勝手が悪いという問題もあった。
【0008】
こうした各薬液の収納室に収容される薬液間で内容比が大きい場合の医療用容器として、例えば、特許文献1には、収容容器の一つの仕切部に剥離可能な弱シールを用い、弱シール部を介して複数の収容容器を接合し、薬剤の用時混合可能な容器が記載されている。
しかし、このようにシート材からなる医療用容器において、シールによる仕切部で区画された小容量の副薬剤室を形成すると、副薬剤室として大きな面積を確保しなければならず、結局、医療用容器全体として非常に大きく、使い勝手の悪いものとなってしまう。
【0009】
また、特許文献2には、筒状の射出成形部材を用い、比較的小さな副薬剤収容容器部を形成し、主薬剤容器部との接合を筒状の排液用ポートを接合するのと同様の技術により接合可能な容器が記載されている。しかし、射出成形部材により形成された副薬剤収納室を主薬剤室と連通させるためには、両室間を仕切っている射出成形部材の一部を破壊して、仕切を取り除く必要がある。このため、連通操作による細片や微粒子等の発生がほとんど起こらない程度に、もしくは輸液の障害にならない程度に抑えられなければならない。このため、この射出成形部材の設計、製造ならびに生産管理が大変厳しく難しいものとなってしまう。
【0010】
さらに、副薬剤が2つ以上あって互いに予め混合して保管しておくことができず、用時混合しなければならないような場合には、この射出成形部材による副薬剤収容容器部を副薬剤の数だけ主薬剤容器部に接合しなければならず、機械的、作業的に煩雑なものになってしまう。
【0011】
特許文献3には、シートで形成された平面的な袋を用いる場合に、副薬剤収容容器部が比較的大きくなってしまうため、薬剤全体の大きさを抑えるために、袋状の副薬剤収容容器部を主薬剤容器の中に収納してしまう例が記載されている。このように、副薬剤収容容器部を主薬剤容器の中に納めるためには、副薬剤収容容器部表面の付着異物を十分に除去し、清浄な環境で主薬剤容器を開放し、副薬剤収容容器を入れなければならず、機械的、作業的にも大変煩雑なものになってしまう。
【0012】
さらに特許文献4には、比較的小容量の副薬剤を収容する容器を懸垂孔内に浸入するように形成した医療用容器が開示されている。この発明の目的は、小容量の副薬剤を、副薬剤収納室と主薬剤収納室間の仕切を連通させずに副薬剤の添加作業を忘れる危険性を極めて少なくすることにある。すなわち輸液容器を吊り下げる際に、懸垂孔内に浸入している副薬剤室が障害となり、副薬剤に注意が向けられるようにして、薬剤の混合忘れを防止する。このように副薬剤が混合されているか否かを識別するため、この小容量の副薬剤室を形成する素材は柔軟性を備えていることが好ましいことが開示されている。
【0013】
また副薬剤が混合されずに副薬剤室にあると混合薬剤室が膨らんでいるために、外部から容易に視認可能であると記載されている。これらのことから、特許文献4に記載された発明においては、副薬剤収納室を形成する素材は本質的に柔軟であり、副薬剤を収容しているときは膨らんでいるが、副薬剤が主薬剤へ混合されてしまうと膨らみがなくなるような、副薬剤収納室であることが記載されている。すなわち、本質的に柔軟な素材でかつ副薬剤がない状態では膨らみがなくなってしまうような副薬剤収容容器部は、小容量の副薬剤を収容するために大きな面積を必要とし、そのために医療用容器としては大変に大きなものとなってしまう。
【特許文献1】特開2002−165864号公報
【特許文献2】特開2003−159309号公報
【特許文献3】特開2003−62038号公報
【特許文献4】特開2000−5275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上述べてきたように、特許文献1に記載された発明では、小容量の副薬剤を収容する容器を弱シール可能な平面的な容器で作製すると、大きな面積の容器が必要となり、薬剤全体の大きさが大きくなってしまうという課題があった。また、特許文献2に記載された発明では、射出成形部材を副薬剤収容容器部とする場合は、用時混合の際に射出成形部材の一部を破壊することによって、主薬剤容器への開放が可能となる。このため破壊の際に細片や微粒子等の発生が起きないように、射出成形部材を設計・製造しなければならず、生産管理が非常に厳しくなっていた。
【0015】
さらに、特許文献3に記載された発明では、副薬剤収容容器部を主薬剤容器の中に納めるためには、副薬剤収容容器部表面の付着異物を十分に除去し、清浄な環境で主薬剤容器を開放し、副薬剤収容容器部を収納、固定する作業を行わなければならない。このような工程は、機械的に複雑な装置を必要とし、しかもそれを清浄な環境内に設置、稼働させなければならない。さらに異物混入を防止するための管理が非常に煩雑となるという課題があった。
【0016】
そして、特許文献4に記載された発明では、小容量の副薬剤を収容する容器を弱シール可能な形状で作製すると、大きな面積の容器が必要となり、薬剤全体の大きさが大きくなってしまう。そして、射出成形部材を混合薬剤容器と主薬剤容器とを区画する隔壁、あるいは混合薬剤容器そのものに使用することも開示されているが、そうした場合は剥離可能な仕切手段を用いるよりも、製造工程が煩雑かつ難しいものとなり高価なものになってしまうという課題があった。
【0017】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、薬液収納室周縁のシール部分のシール不良や、収容する少量の薬剤を変質させたりすることがなく、医療用容器として使い勝手の良い比較的コンパクトな医療用薬液容器および薬剤入り医療用薬液容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明によれば、薬剤を収容する主薬液収納室と、該主薬液収納室に接続され、前記主薬液収納室に収容される薬液よりも少量の薬液を収容する少なくとも1つ以上の副薬液収納室とを有し、これら主薬液収納室内と副薬液収納室内とが連通可能に仕切られた医療用薬液容器であって、前記副薬液収納室は、薬剤の収容前において、内部の薬剤収容空間が収容される薬剤の体積よりも大きくなるように膨出された膨出部を備えていることを特徴とする医療用薬液容器が提供される。
前記副薬液収納室が液密シールされて、前記連通可能に仕切られていることが好ましい。この際、前記液密シールは、前記主薬液収納室の外方に位置することが好ましい。
前記主薬液収納室は、可撓性のシート状部材から形成されていることが好ましい。
【0019】
前記膨出部は、2枚のシート状部材と、この2枚のシート状部材どうしを離間させて空間を形成する前記副薬液収納室に収容された離間部材とから構成されれば良い。または、前記膨出部は、シート状部材の冷間延伸または加熱延伸によって形成されればよい。または、前記副薬液収納室は、ブロー成形体であればよい。
【0020】
前記主薬液収納室が、剥離可能な液密シールによって仕切られた複数の収納室から構成されれば良い。前記医療用薬液容器の前記主薬液収納室と前記副薬液収納室のそれぞれに薬剤が収容されることを特徴とする薬剤入り医療用薬液容器が提供される。前記副薬液収納室が、ブロー成形による室の成形と、薬剤の収容、室の密封を連続的に行なう方法により製造された薬剤入り副薬液収納室であればよい。
【0021】
主薬液収納室には、糖、電解質及びアミノ酸のいずれか1種以上を含有する薬剤が収容されていることが好ましい。この際、副薬液収納室には水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン及び微量元素のいずれか1種以上を含有する薬剤が収容されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、副薬液収納室に薬剤の収容前において内部の薬剤収容空間に収容される薬剤の体積よりも大きい膨出部を予め形成しておくことによって、平坦な2枚のシート材で構成された副薬液収納室に少量の薬液を入れる場合と比較して、薬剤がシート間に膜のように広い面積に渡って広がるようなことにならず、膨出部に厚みを持って収納される。こうした膨出部に小容量の薬剤を入れることで、副薬液収納室を熱シールにより封をする際に、薬剤そのものが熱シール部に触れ、シールが不良になることが防止される。また、薬剤が熱シールに触れて変質することも防止され、良好な状態で薬剤が膨出部に収納される。さらには、副薬液収容容器の面積を小さくすることが可能となり、医療用薬液容器全体としてコンパクトで使い勝手の良いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の医療用薬液容器の一例を示す外観斜視図である。医療用薬液容器10は、第1の薬液を収容する主薬液収納室11と、この主薬液収納室11に接続され、主薬液収納室11に収容される第1の薬液よりも少量の第2の薬液を収容する副薬液収納室12とを有する。
【0024】
主薬液収納室11は、周縁部のほぼ全周が剥離不能にシールされた強シール部13を形成し、全体が例えば合成樹脂フィルムなどの可撓性を有するシート状部材から形成される。合成樹脂フィルムに用いられる樹脂としては、医療用容器の分野で用いられる樹脂であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。これらのうち、透明性、柔軟性および衛生性に優れ廉価なポリオレフィン樹脂が好ましく挙げられる。
【0025】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高圧法低密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、α−オレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂や、環状ポリオレフィン樹脂、これらの混合物などが挙げられる。こうした樹脂は、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていてもよい。
【0026】
また、この合成樹脂フィルムは、上に挙げた樹脂の1つあるいは2つ以上の樹脂を組み合わせた、単層フィルムでも良いし、さらに2つ以上の層からなる多層フィルムであってもよい。このような合成樹脂フィルムは、厚みが50〜1000μm、好ましくは100〜500μm程度のものを用いればよい。また、合成樹脂フィルムはTダイ成形によるキャストフィルム、インフレーション成形によるインフレフィルムのいずれでもよい。
【0027】
主薬液収納室11の一端には、排出口18が形成されている。この排出口18は、第1の薬液と第2の薬液とが混合された混合薬液を取り出す流出口であり、専用のアダプターや針などの排出手段の接続によって、医療用薬液容器10から混合薬液が取り出される。
また、混合薬液に他の薬液を混注する注入口として使用されることもある。この排出口18の他に、主薬液収納室の一端や他端等に別に1つあるいは2つ以上の注入口が接合されていても良い。また、排出口18は、副薬液収納室に接合されていてもかまわない。
【0028】
図2は、主薬液収納室11の一部と副薬液収納室12とを示す要部断面図である。主薬液収納室11における排出口18が形成された側とは反対側の端部には、副薬液収納室12が接続される。また、この例では、副薬液収納室12と主薬液収納室11とは、別々に形成された後、接続部14において互いに重複しつつ、剥離不能に固着されている。副薬液収納室12は、第2の薬剤の収容前において、内部の薬剤収容空間が収容される第2の薬剤の体積よりも大きくなるように膨出された膨出部15を有していて、立体的に形成されている。
【0029】
膨出部15は、例えば、シート状部材の冷間延伸または加熱延伸によって立体的に形成されれば良く、金型を用いたブロー成形によって形成されても良い。こうした膨出部15を備えた副薬液収納室12は、種々の合成樹脂により形成できる。具体的には、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。これらのうち、透明性、柔軟性および衛生性に優れ廉価なポリオレフィン樹脂が好ましく挙げられる。
【0030】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高圧法低密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、α−オレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂や、環状ポリオレフィン樹脂、これらの混合物などが挙げられる。こうした樹脂は、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていてもよい。さらにこうした膨出部15を備えた副薬液収納室には、上に挙げた種々の合成樹脂から選ばれた1つ以上の樹脂からなる単層構成としても良いし、多層構成としても良い。
【0031】
とくに脂溶性ビタミン剤のように、医療用途として一般的なポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂では吸着されてしまうような薬剤に対しては、環状ポリオレフィンを薬剤と接する最内層に用いた多層構成をとることが好ましい。
【0032】
また外気中の酸素等によって劣化する抗生物質等の薬剤が副薬液収納室に収納される場合、酸素等のガスバリア性を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体などの樹脂と、その他の樹脂からなる多層構成をとることが好ましい。さらにその多層構成で各樹脂層間の接着強度を高めるために、隣接する層を形成する樹脂の一方または両方に、共通して相溶性を有する樹脂を混合したり、あるいはその層間に新たに共通して相溶性を有する樹脂、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体などの接着性樹脂等からなる層を付加してもよい。
【0033】
また、紫外線等の光によって劣化するビタミン剤等の薬剤が副薬液として収納される場合、その薬剤に害をなす波長域の光を遮光する層を付加しても良い。例えば、紫外線を遮光するために、多層構成の副薬液収納室の外層に、酸化鉄を含有したポリオレフィン樹脂を使用したりすることが挙げられる。
【0034】
副薬液収納室が多層構成を持つ場合、その多層構成の形成は、多層の共押し出し成形により形成されてもよい。あるいは単層または多層の素材を熱ラミネートやドライラミネート等の方法により接着して目的の多層構成を得ることもできる。
【0035】
副薬液収納室12に収容される第2の薬剤(副薬剤)は、患者等に薬剤を投与する直前に、主薬液収納室11に収容された第1の薬剤(主薬剤)と用時混合される。用時混合を容易とするために、副薬液収納室12の膨出部15または主薬液収納室11を押圧することによって、副薬液収納室12内と主薬液収納室11内とが連通可能となるような液密シール16が形成されていることが好ましい。
【0036】
液密シール16は、主薬液収納室11内と副薬液収納室12内とを連通可能に仕切るように形成されるものであって、その形態に制限はないが、ヒートシールにより剥離可能に形成されるものが好ましい。さらに、例えば図2の例のように、副薬液収納室12が液密シール16されることにより、主薬液収納室11内と副薬液収納室12内とが連通可能に仕切られていることが好ましい。このような形態であると、副薬液収納室12に第2の薬剤を収容し、副薬液収納室12を液密シール16で密封してから、副薬液収納室12と主薬液収納室11とを接続することができる。この場合、接続時に、副薬液収納室12内の第2の薬剤が外気に触れないため、衛生面から好ましい。
【0037】
副薬液収納室12が液密シール16される具体的形態例としては、図2のように、主薬液収納室11の外方に位置する部分に形成される形態の他、図3や図4(a)のように、主薬液収納室11の内方に位置する部分に形成される形態も挙げられる。図3の例では、液密シール16は、主薬液収納室11と副薬液収納室12とが固着している接続部14に一致するように設けられている。図4(a)の例では、液密シール16は、主薬液収納室11と副薬液収納室12とが固着している接続部14以外の部分(この例では、副薬液収納室12の先端部分)に形成されている。
【0038】
図2、図3、図4(a)のいずれの形態であっても、副薬液収納室12内の第2の薬剤を外気に晒すことなく、副薬液収納室12と主薬液収納室11とを接続でき、衛生的であるが、医療用薬液容器の使用時における液密シール16の剥離し易さの点からは、図2および図3の形態が好ましい。すなわち、図2および図3の形態の場合には、主薬液収納室11または副薬液収納室12のどちらか一方のみを適宜選択し、押圧することで、液密シール16を容易に剥離することができる。
【0039】
一方、図4(a)の形態では、主薬液収納室11側を押圧したとしても、図4(b)に示すように、液密シール16には充分な圧力が加わらない。そのため、この液密シール16を剥離するためには、副薬液収納室12を押圧する必要がある。
よって、医療用薬液容器の使用時における液密シール16の剥離し易さの点からは、図2および図3の形態が好ましい。
【0040】
さらに、医療用薬液容器の製造し易さの点から、図2の形態と図3の形態を比較すると、図2の方が製造しやすく好ましい。すなわち、図3の形態の場合には、主薬液収納室11と副薬液収納室12とが重複し、固着している接続部14において、副薬液収納室12が液密シール16されているため、同じ箇所にヒートシール強度の異なる接続部14と液密シール16とを形成しなくてはならず、技術的な難しさがあるうえ、同じ箇所に熱的ダメージを複数回与えてしまう。そのため、図3の形態の場合には、安定した剥離強度の液密シール16を形成するのが難しい傾向がある。その点、図2のように、副薬液収納室12に形成された液密シール16が、主薬液収納室11の外方に位置していると、このような問題が生じない。
【0041】
この圧力により剥離して連通可能な液密シールの形成には、特に限定は無いものの、例えば、特開2004−000476号公報に記載された溶着部のうち強溶着部の占める面積が25%未満となる溶着を行うことによって達成可能である。あるいは、ブロー成形金型の隔壁形成部分を、金型の対向する面の間隔を、完全に溶着する間隔よりも広く、また全く溶着しない間隔よりも狭くし、充分な液密性を有しながらも、開通可能な程度の接着に留めるようにとることができる。あるいは、上記シール形状と同様に強溶着部が25%未満となるように、型形状をとることによっても達成可能である。
【0042】
副薬液収納室12と主薬液収納室11とを剥離不能に接続する接続部14は、例えば、ヒートシールによる接合、筒状部材を介した接合、あるいは、特開2001−87350号公報にあるような仕切部材を介した接合等の手段により実現される。特に副薬液収納室12の端部を主薬液収納室11に挿入しヒートシールによって接合する場合、副薬液収納室12の外面と主薬液収納室11の内面とを接合するシール温度を、副薬液収納室12の内面どうしを溶着する温度より低く設定することができるように、それぞれの室を構成するシート材を多層とし各層の樹脂を選択することによって、簡単なシール工程で副薬液収納室12と主薬液収納室11との接合が可能となる。
【0043】
あるいはこの逆に、主薬液収納室11の外面と副薬液収納室12の内面をヒートシールによって接合する場合、主薬液収納室11の外面と副薬液収納室12の内面とを接合するシール温度が、主薬液収納室11の内面どうしを溶着する温度より低く設定することができるように、それぞれの室を構成するシート材を多層とし各層の樹脂を選択することによっても、簡単なシール工程で副薬液収納室12と主薬液収納室11との接合が可能となる。図2〜4により説明した本発明の一例では、副薬液収納室12にのみ、剥離して連通可能な液密シールが施されているが、同様の液密シールは主薬液収納室11に施しても良い。また、副薬液収納室12と主薬液収納室11の両方に施すことも可能である。
【0044】
以上のような構成の医療用薬液容器に薬剤を収容した薬剤入り医療用薬液容器の作用について、図5、6を参照しつつ説明する。図5に示すように、薬剤入り医療用薬液容器10には、例えば、100mL〜5L程度の薬剤が収容され、主薬液収納室11に第1の薬剤(主薬剤)22が、副薬液収納室12に第1の薬剤22と同量か、それもよりも少ない量の第2の薬剤(副薬剤)23が収容される。具体的な副薬液収納室22の容量としては、特に限定されるものではないが、少ない場合には100mL以下、さらに場合によっては10mL以下の少量となる。
【0045】
この時、副薬液収納室12に第2の薬剤23よりも体積の大きい膨出部15を予め形成しておくことによって、平坦な2枚のシート材で構成された副薬液収納室に少量の薬液を入れる場合と比較して、薬剤がシート間に膜のように広い面積に渡って広がるようなことにならず、膨出部15で厚みを持って収容される。こうした膨出部15に少量の第2の薬剤23を入れることで、副薬液収納室12を熱シールにより封をする際に、第2の薬剤23そのものが熱シール部に触れ、シールが不良になることが防止される。また、第2の薬剤が熱シールに触れて変質することも防止され、良好な状態で第2の薬剤23が膨出部15に収容される。
【0046】
そして、こうした薬剤入り医療用薬液容器10を使用するにあたっては、図6に示すように、例えば、副薬液収納室12の膨出部15を押圧して押し潰すことによって液密シール16が剥離し、主薬液収納室11内と副薬液収納室12内とが連通される。これにより、主薬液収納室11に収容された第1の薬剤(主薬剤)22と、副薬液収納室12に収容された第2の薬剤(副薬剤)23とが混合され、混合薬剤25が形成される。
【0047】
こうした膨出部を備えた副薬液収納室は、1つの主薬液収納室に対して2つ以上形成されていても良い。図7に示すように、医療用薬液容器31の主薬液収納室32の一端側には、2つの副薬液収納室33,34が形成されている。こうした副薬液収納室33,34には、少量の薬液を品質を保って収容する膨出部35,36がそれぞれ形成されている。
【0048】
このように、1つの主薬液収納室32に対して、2つ以上の副薬液収納室33,34を接続することによって、多彩な組み合わせの混合薬液を使用時に形成することができる。
また、図7に示す2つの副薬液収納室33,34は、同時に成形され一体化されたものであることが好ましい。一体化された複数の副薬液収納室33,34と主薬液収納室32との接合は一度で完了し、副薬液収納室の数が増えても接合回数が増えることがないため、医療用薬液容器の製造が容易であり好ましい。
【0049】
なお、上述したような薬剤入り医療用薬液容器において、使用時に主薬液収納室を押圧して主薬液に圧力を加え、この圧力によって、主薬液収納室と副薬液収納室とを仕切る液密シールを剥離させ、主薬液と副薬液とを用時混合させる方式であってもよい。特に2つ以上の副薬液収納室が接合されている場合には、主薬液収納室を押圧して一度に全ての液密シールを剥離する方が簡便である。
【0050】
図8は、副薬液収納室の膨出部の構成を変えた別な実施形態である。この実施形態の医療用薬液容器41の主薬液収納室42に接続される副薬液収納室43は、2枚のシート状部材44どうしの間に離間部材45を収容し、膨出部46を形成した例である。
【0051】
こうした離間部材45は、図8に示す円筒形状のもの以外にも、球形状や円柱形状、立方体形状や直方体形状など、2枚のシート状部材44どうしを離間させて、薬剤の収容前に一定の空間を形成させるものであれば、形状は限定されない。なお、2枚のシート状部材は、1枚のシート状部材を折り曲げたシート状部材、インフレチューブからなるシート状部材でもよい。また、こうした離間部材45は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリアミト樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体及びそれらの混合物などで形成されていれば良い。
【0052】
更に、医療用薬液容器の形態としては、主薬液収納室が、連通可能な液密シールにより複数の室に分割されたものであってもよい。例えば、図9に示すように、剥離可能な液密シール51によって内部が仕切られた第1と第2の主薬液収納室52,53と、第2の主薬液収納室53に接続部59で接続される3つの副薬液収納室54,55,56とからなる医療用薬液容器58であってもよい。こうした医療用薬液容器58では、2種類の主薬液と、3種類の副薬液とを用時混合することができる。さらに第2の主薬液収納室53に、薬剤混注用の注入口を取り付けることもできる。
なお、この例の医療用薬液容器58においても、各副薬液収納室54,55,56にのみそれぞれ液密シール57a,57b,57cがなされていて、かつ、これら液密シール57a,57b,57cは第2の主薬液収納室53の外方に位置している。そのため、副薬液収納室54,55,56を液密シール57a,57b,57cで密封してから、第2の主薬液収納室53に接続でき、衛生的であるうえ、副薬液収納室54,55,56と直に接続している第2の主薬液収納室53を押圧する1回の操作で、第1の主薬液収納室52内と第2の主薬液収納室53内とを分割している液密シール51と、第2の主薬液収納室53内と各副薬液収納室54,55,56内とを仕切る液密シール57a,57b,57cのすべてを、同時に剥離可能とすることができる。よって、このような医療用薬液容器58によれば、すべての液密シール51,57a,57b,57cを順に剥離していくような煩雑な操作が不要で、薬剤の調製が容易であるとともに、3カ所の液密シール57a,57b,57cのうちいずれかを剥離し忘れるなどのトラブルも回避することができる。
【0053】
本発明の医療用薬液容器は、経中心静脈栄養法に用いられる経中心静脈栄養用キット製剤や経末梢静脈栄養用キット製剤、経腸栄養法に用いられる成分栄養剤などの容器として用いることができる。本発明の薬剤入り医療用薬液容器は、本発明の医療用薬液容器の主薬液収納室と副薬液収納室のそれぞれに薬剤が収容されたものである。主薬液収納室に収容される主薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、蒸留水等の溶解液、生理食塩水等の電解質輸液、ブドウ糖液等の糖類輸液、アミノ酸製剤等のアミノ酸輸液、脂肪乳剤等の脂肪輸液などが挙げられる。
【0054】
また、主薬液収納室が複数の室からなる場合の主薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、糖、電解質、アミノ酸及び脂肪乳剤などのいずれか1種以上を含有する栄養輸液、種々の電解質を組み合わせた血液代用輸液、糖、電解質を組み合わせた透析液などが挙げられる。また、副薬液収納室に収容される副薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン等のビタミン類、銅、鉄、マンガン、亜鉛等の微量金属、ヨウ素、補正用塩化カルシウム、インスリン、抗生物質、抗がん剤、消化性潰瘍剤、肝臓障害用剤、強心剤、鎮痛剤、解熱鎮痛消炎剤、麻酔剤、脂肪乳剤、血圧降下剤、血管拡張剤、ホルモン剤、ヘパリンなどが挙げられる。なお、収容される薬剤は液剤だけでなく、固形剤、粉剤でも構わない。
【0055】
特に副薬液収納室に液剤の薬剤を収容する場合には、ブロー成形による室の成形と、薬剤の収容、室の密封を連続的に行なう方法により製造された薬剤入りの副薬液収納室を用いることが、副薬液収納室を開口すること無く副薬液収納室への薬剤の収容を無菌的に行なえることから好ましい。
【0056】
本発明の薬剤入り医療用薬液容器の一例として、例えば、経中心静脈栄養法用の経中心静脈栄養用キット製剤として、開始液や維持液として使用される高カロリー輸液が挙げられる。高カロリー輸液の好ましい態様として、主薬液収納室には、糖、電解質及びアミノ酸のいずれか1種以上を含有する薬剤が収容され、副薬液収納室には、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン及び微量元素のいずれか1種以上を含有する薬剤が収容される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の医療用薬液容器の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す医療用薬液容器の要部断面図である。
【図3】本発明の他の一例の医療用薬液容器の要部断面図である。
【図4】(a)本発明のさらに他の一例の医療用薬液容器の要部断面図と、(b)この医療用薬液容器の主薬液収納室を押圧した際の様子を示す説明図である。
【図5】本発明の薬剤入り医療用薬液容器の作用を示す説明図である。
【図6】本発明の薬剤入り医療用薬液容器の作用を示す説明図である。
【図7】本発明の医療用薬液容器の他の実施形態を示す斜視図である。
【図8】本発明の医療用薬液容器の他の実施形態を示す斜視図である。
【図9】本発明の医療用薬液容器の他の実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
10・・医療用薬液容器、11・・主薬液収納室、12・・副薬液収納室、15・・膨出部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を収容する主薬液収納室と、該主薬液収納室に接続され、前記主薬液収納室に収容される薬液よりも少量の薬液を収容する少なくとも1つ以上の副薬液収納室とを有し、これら主薬液収納室内と副薬液収納室内とが連通可能に仕切られた医療用薬液容器であって、
前記副薬液収納室は、薬剤の収容前において、内部の薬剤収容空間が収容される薬剤の体積よりも大きくなるように膨出された膨出部を備えていることを特徴とする医療用薬液容器。
【請求項2】
前記副薬液収納室が液密シールされて、前記連通可能に仕切られていることを特徴とする請求項1に記載の医療用薬液容器。
【請求項3】
前記液密シールは、前記主薬液収納室の外方に位置することを特徴とする請求項2に記載の医療用薬液容器。
【請求項4】
前記主薬液収納室は、可撓性のシート状部材から形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の医療用薬液容器。
【請求項5】
前記膨出部は、2枚のシート状部材と、この2枚のシート状部材どうしを離間させて空間を形成する前記副薬液収納室に収容された離間部材とからなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の医療用薬液容器。
【請求項6】
前記膨出部は、シート状部材の冷間延伸または加熱延伸によって形成されたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の医療用薬液容器。
【請求項7】
前記副薬液収納室は、ブロー成形体であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の医療用薬液容器。
【請求項8】
前記主薬液収納室が、剥離可能な液密シールによって仕切られた複数の収納室からなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の医療用薬液容器。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の医療用薬液容器の前記主薬液収納室と前記副薬液収納室のそれぞれに薬剤が収容されたことを特徴とする薬剤入り医療用薬液容器。
【請求項10】
前記副薬液収納室が、ブロー成形による室の成形と、薬剤の収容、室の密封を連続的に行なう方法により製造された薬剤入り副薬液収納室からなることを特徴とする請求項9に記載の薬剤入り医療用薬液容器。
【請求項11】
主薬液収納室に糖、電解質及びアミノ酸のいずれか1種以上を含有する薬剤が収容されることを特徴とする請求項9または10に記載の薬剤入り医療用薬液容器。
【請求項12】
副薬液収納室に水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン及び微量元素のいずれか1種以上を含有する薬剤が収容されることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の薬剤入り医療用薬液容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−175212(P2006−175212A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327087(P2005−327087)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(595159530)昭和電工プラスチックプロダクツ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】