説明

医療用複室容器、これを用いた薬剤混合の認識方法、及び薬剤入り医療用複室容器

【課題】薬剤の混合、および医療行為の正確性の確認を容易かつ正確に行うことができ、かつ簡便な手法で製造できる医療用複室容器、該医療用複室容器を用いた薬剤混合の認識方法、および薬剤入りの医療用複室容器を目的とする。
【解決手段】可撓性を有する容器本体20を有し、該容器本体20が、弱シール部26により薬剤収納室22、24に区画されており、弱シール部26における可撓性フィルム11にバーコード30が付され、可撓性フィルム12のバーコード30に対応する部分にその読み取りを妨げるバーコード読み取り阻害部40が設けられている、医療用複室容器10。また、医療用複室容器10を用いた薬液混合の認識方法、及び薬液入り医療用複室容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用複室容器、これを用いた薬剤混合の認識方法、及び薬剤入り医療用複室容器に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質やビタミン剤等を生理食塩水等に溶解若しくは希釈したり、アミノ酸輸液とブドウ糖輸液を混合して、患者に注射あるいは点滴する等、複数の薬剤を混合して患者に投与することが行われている。複数の薬剤を混合する場合、薬剤の種類によっては予め混合しておくと変質するものがある。従来、変質の可能性のある薬剤を組み合わせる場合には、使用直前にガラス容器中の薬剤に対して別の薬剤を注射器等で注入し混合していた。しかし、このような混合作業では、混合率を間違えたり、混合をし忘れたりするという人的な作業ミスを生じるおそれがあった。また、このような混合作業は、衛生性に充分配慮する必要があるが、作業ミスにより衛生的に問題が発生することがあった。さらに、作業の煩雑さに伴い、投与する患者を取り違える等の医療過誤を招くおそれがあった。
【0003】
上述のような薬剤の混合における手違いを回避する技術としては、入力された処方に基づいて2種以上の薬剤を調合するシステムが示されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、緊急性を要する場合等では、簡易な方法により薬剤の混合を正確に行う必要がある。
そこで、こうした要請に対し、容器本体を弱シール部により区画して複数の薬剤収納室を設け、該薬剤収納室にそれぞれの薬剤を混合することなく収容し、使用する際に薬剤収納室に外部から圧力を加えることにより、薬剤収納室を区画する弱シール部を剥離開通させて薬剤を混合する医療用複室容器が示されている(例えば、特許文献2)。このような医療用複室容器の使用により、正確な混合率で2種以上の薬剤を衛生的に混合することができる。
【0004】
上述のような医療用複室容器を用いた場合には、複数の薬剤を混合する作業の簡易化が図れるが、薬剤の混合の確認は目視に頼らざるを得ない。このため、弱シール部の剥離開通をし忘れるおそれがある。加えて、医療用に用いられる輸液容器は、内容物を目視で確認できるように透明な包装材料が使用されることが多い。このため、弱シール部の剥離開通の確認がし難いという問題がある。
【0005】
こうした問題に対し、容器本体の一部を固定部材により折曲状態で固定し、薬剤収納室の昇圧によって弱シール部を剥離開通すると共に、前記折曲状態を解除することで弱シール部の剥離開通が容易に確認できる医療用複室容器が示されている(例えば、特許文献3)。また、複数の空間を隔成し、かつ、外力により破断開通され、前記空間の間を医療用物質が移動可能とする破断開通部を備え、該破断開通部の近傍に配置されたRFID(Radio Frequency Identification)が、破断開通する際に通信不能に破断される医療用複室容器が示されている(例えば、特許文献4)。特許文献4の医療用複室容器は、目視に頼っていた破断開通の確認をRFIDの通信不能化により、検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−515213号公報
【特許文献2】特開2003−111818号公報
【特許文献3】特開2007−282707号公報
【特許文献4】特開2007−267869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4の医療用複室容器では、破断開通部によりRFIDを設ける複雑な機構を用いるため、その製造工程が煩雑であり、またコストが高くなってしまう。また、破断開通によるRFIDの破壊によって薬剤の混合を確認した後は、該RFIDを再度利用することができない。医療現場では、例えば個々の患者へそれぞれ必要な薬剤が確実に投与される等の医療行為の正確性を確認することも重要であり、薬剤の混合に加えて医療行為の正確性も確認できる簡便なシステムが望まれている。
【0008】
そこで本発明では、薬剤の混合、および医療行為の正確性の確認を容易かつ正確に行うことができ、かつ簡便な手法で安価に製造できる医療用複室容器、該医療用複室容器を用いた薬剤混合の認識方法、および薬剤入りの医療用複室容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]可撓性を有する透明な容器本体を有し、該容器本体が剥離可能な弱シール部により2以上の薬剤収納室に区画されており、前記弱シール部における一方の側にバーコードが付され、前記弱シール部における他方の側の前記バーコードに対応する部分に、該バーコードの読み取りを妨げるバーコード読み取り阻害部が設けられている、医療用複室容器。
[2]前記可撓性を有する容器本体が可撓性フィルムからなる、[1]に記載の医療用複室容器。
[3]2種以上の薬剤を収容した[1]又は[2]に記載の医療用複室容器を用いた薬剤混合の認識方法であって、前記弱シール部がシールされた状態とし、前記弱シール部を剥離することで前記2種以上の薬剤を混合して、前記バーコードと前記バーコード読み取り阻害部とを離間させた後、該バーコードを読み取ることで、前記弱シール部の剥離を認識する、薬剤混合の認識方法。
[4][1]又は[2]に記載の医療用複室容器に薬剤を収容した、薬剤入り医療用複室容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医療用複室容器、該医療用複室容器を用いた薬剤混合の認識方法、および薬剤入りの医療用複室容器によれば、薬剤の混合、および医療行為の正確性の確認を容易かつ正確に行うことができる。また、本発明の医療用複室容器、および薬剤入りの医療用複室容器は、簡便な手法で安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の医療用複室容器の実施形態の一例を示した斜視図である。
【図2】図1の医療用複室容器のII−II断面図である。
【図3】(A)、(B)本発明のバーコードとバーコード読み取り阻害部を示した平面図である。(C)、(D)本発明の薬液混合の認識の工程図である。
【図4】図1の医療用複室容器の弱シール部を剥離した状態を示す断面図である。
【図5】本発明の医療用複室容器のバーコードをバーコードリーダで読み取る様子の一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(医療用複室容器)
本発明の医療用複室容器の実施形態の一例について、図1〜4を用いて説明する。
医療用複室容器10は、図1に示すように、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とが、周縁部を剥離不能に融着された矩形状の容器本体20を有し、該容器本体20は可撓性を有する。また、容器本体20には、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とが剥離可能にシールされた弱シール部26が、容器本体20の短手方向に直線状に設けられ、該弱シール部26により容器本体20が第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とに区画されている。そして、第一薬剤収納室22及び第二薬剤収納室24は、容器本体20の長手方向に並んで配置されている。
【0013】
容器本体20の下端部15側には、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とで狭持された樹脂製の中空形状の排出口14が設けられている。排出口14は、輸送・保管時には、図示しないゴム栓等で閉栓されており、使用時に刺栓針が刺入できる構成となっている。加えて、排出口14には、刺栓針が刺入できる面を覆う図示しない保護フィルムが剥離可能に設けられている。そして、排出口14と第二薬剤収納室24とは連通されており、排出口14により薬剤の流出が阻止されている。また、上端部13側の周縁部には、円形の掛吊孔16が設けられている。
【0014】
弱シール部26の可撓性フィルム11側には、バーコード30が付されている(図1及び図2)。また、弱シール部26の可撓性フィルム12側のバーコード30に対応する部分には、バーコード30の読み取りを妨げるバーコード読み取り阻害部40(以下、「阻害部40」という。)が設けられている(図2)。
可撓性フィルム11は、医療用容器の分野で用いられる合成樹脂であって、透明な材質からなる。本発明における透明とは、内容物を視認できる範囲であればよく、水中での波長450nmにおける光透過率が55%以上であることが好ましい。
可撓性フィルム11に用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。なかでも、透明性、柔軟性及び衛生性に優れ、低コストである点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0015】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、α−オレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂や、環状ポリオレフィン樹脂等や、これらの混合物が挙げられる。こうした樹脂は、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていてもよい。
可撓性フィルム11は、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよい。
【0016】
可撓性フィルム11の厚みは、50〜1000μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましい。
なお、医療用複室容器10の使用時に可撓性フィルム11から剥離する等、本発明の目的に反しない態様であれば、遮光、バリア目的でアルミニウム箔やアルミニウム箔ラミネート等の金属を有するフィルムを可撓性フィルム11の外側に設けてもよい。
【0017】
可撓性フィルム12は、可撓性フィルム11で挙げたものと同じものを用いることができ、好ましい態様も同じである。
【0018】
バーコード30は(図3(A))、記載された情報をバーコードリーダ等の読み取り手段により読み取って認識できるコードであればよく、例えば、JANコードやRSSコード等のバーコード、QRコード等の二次元バーコードが挙げられる。バーコード30の大きさは規定の大きさであれば特に限定されず、用いる読み取り手段等に応じて適宜選択すればよい。
また、バーコード30の位置は、弱シール部26を剥離して、弱シール部26の可撓性フィルム11と可撓性フィルム12を離間した際に、バーコード30と阻害部40とが充分に離れる位置であればよく、弱シール部26における容器本体20の短手方向の中央部であることが好ましい。
【0019】
また、バーコード30は、図3及び図4では可撓性フィルム11の表面に付与された例を示したが、可撓性フィルム11が積層フィルムである場合には該積層フィルムの各層の層間に付与されていてもよい。
また、バーコート30のバー部分の色は、バーコードリーダからの照射光を反射し難い色が好ましい。その中でも照射光の色に対しバーコード30のバー部分が同色である場合は該バー部分の色が反射してしまい、読み取りが不可能となるため、照射光の色の同系色以外が好ましい。例えば、バーコードリーダの照射光の光源には赤色のレーザ光が多く使用されており、この場合、バーコード30のバー部分が赤色であれば、照射光に対しバーコード30のバー部分の色が反射してしまうため、バーコード30を読み取ることが不可能であり、好ましくない。
バーコード30に記載する情報としては、例えば、医療用複室容器10を識別するための識別情報等が挙げられる。
【0020】
阻害部40(図3(B))は、弱シール部26の可撓性フィルム12において、バーコード30に対応する部分に位置し、バーコードリーダ等の読み取り手段によるバーコード30の読み取りを妨げることができるものである。本発明における可撓性フィルム11は透明であるので、弱シール部26におけるバーコード30の部分は、可撓性フィルム11側から可撓性フィルム12まで透けて見える。そのため、医療用複室容器10において、弱シール部26を剥離していない状態でバーコード30を読み込もうとすると、バーコード30と阻害部40とが重なっているために、バーコード30の読み取りが妨げられる(図3(C))。これに対し、弱シール部26が剥離されて薬液が混合されると、弱シール部26において弱シールされていた可撓性フィルム11と可撓性フィルム12が離間し、それに伴ってバーコード30と阻害部40とが離れるため、阻害部40による妨げがない状態でバーコード30を読み取ることができる(図3(D))。
特に、混合された薬剤が例えば脂肪乳剤のような白色系の色である場合、バーコード30のスペース部分から照射光を反射しやすくなるため、バーコード30の読み取りが容易となり好ましい。
【0021】
阻害部40の色は、バーコード30の読み取りを妨げることができればよく、バーコード30のバー部分とスペース部分のバーコードリーダ等の照射光の反射率差を認識不可能にしやすい点から、バーコード30のバー部分と同系色であることが好ましく、同色であることがより好ましく、とりわけ、弱シール部26を通して見たときに同色となることが特に好ましい。例えば、バーコード30のバー部分が黒色の場合、阻害部40の色は黒色であることが特に好ましいが、濃い緑色、濃い青色等であってもバーコード30の読み取りを妨げることが可能である。阻害部40の色は、1色であってもよく、2色以上であってもよい。
また、バーコード30のスペース部分が有色であり、バー部分が無色透明である場合は、阻害部40をバーコード30のスペース部分と同系色または同色としてもよい。
また、阻害部40の形状もバーコード30の読み取りを妨げることができればよく、例えば、矩形状(図3(B))、円形状、楕円状等が挙げられ、任意の模様、文字が描かれていてもよい。
また、阻害部40は金属面や鏡面を有していてもよく、また印刷等によりそれら金属面、鏡面が再現されていてもよい。これらは光沢があるので、バーコードリーダ等からの照射光が阻害部40により鏡面反射を起こして非常に強い反射光が返り、その光がバーコードリーダ等の受光可能な強度を超える可能性がある。そのため、このような阻害部40をバーコード30と重ね合わせることでバーコードリーダ等でのバーコード30の読み取りを阻害しやすくなる。
また、阻害部40は、図3及び図4では可撓性フィルム12の表面に付与された例を示したが、可撓性フィルム12が積層フィルムである場合には該積層フィルムの各層の層間に付与されていてもよい。
【0022】
阻害部40の大きさは、弱シール部26がシールされた状態で、バーコード30の読み取りを妨げられる大きさであればよく、バーコード30の種類、大きさ等を勘案して決定することができる。阻害部40の大きさは、バーコード30と同じ大きさであってもよく、バーコード30に対応する部分以外の部分まで大きく形成されていてもよく、弱シール部26における可撓性フィルム12全体にわたっていてもよい。また、バーコード30が部分的(例えば、右側半分)に認識できなくなる大きさであってもよい。阻害部40の大きさは、目視であっても、バーコードリーダによりバーコード30を読み取る場合であっても、確実に弱シール部26の剥離を確認することができる点で、バーコード30と同等以上の大きさとすることが好ましい。
【0023】
バーコード30を読み取るバーコードリーダ等の読み取り手段は、バーコード30表面に対して照射光が傾斜して照射することが好ましい。バーコード30に対し、照射光が直角に照射された場合、バーコード30のスペース部分から正反射光の非常に強い光がバーコードリーダ等に返ってくることがあり、その光が受光可能な強度を超えてしまう可能性がある。この場合には、バーコード30と阻害部40が離間していても、バーコード30が読み取れなくなるおそれがある。したがって、図5(A)及び(B)に示すように、読み取り手段100をバーコード30表面に対して照射光が傾斜して照射されるように設け、照射光をバーコード30に対して傾斜させて照射させて、照射光の乱反射光を受光させることが好ましい。この場合、弱シール部26がシールされてバーコード30と阻害部40が重なり合った状態ではバーコード30の読み取りが不可能であり(図5(A))、バーコード30と阻害部40が離間したときに乱反射光のみを受光して読み取りが可能となる(図5(B))。
また、図5(C)及び(D)に示すように、阻害部40の周辺に白色部50等の反射率の高い部分を設け、読み取り手段100からの照射光をバーコード30に対して傾斜させて照射させることで、照射光の乱反射光を受光させることが好ましい。白色部50等の反射率の高い部分を設けることにより、弱シール部26がシールされた状態(図5(C))ではバーコード30の読み取りが不可能である一方、弱シール部26が離間した際(図5(D))には乱反射光の量が増大し、バーコード30を読み取りやすくなる。
【0024】
(薬剤入り医療用複室容器)
第一薬剤収納室22に第一薬剤A、第二薬剤収納室24に第二薬剤Bを充填することにより、薬剤入り医療用複室容器が得られる。
第一薬剤Aは流動性を有するものであればよく、液体、粉体等の薬剤を挙げることができる。第二薬剤Bは第一薬剤Aと同様である。ただし、医療用複室容器10は、輸液用の薬剤や、注射用の薬剤の収容に用いられることが多いため、第一薬剤A又は第二薬剤Bの一方が液体の薬剤であるか、第一薬剤A及び第二薬剤Bが共に液体の薬剤である。
【0025】
第一薬剤A、第二薬剤Bの充填量は、薬剤の種類に応じて決定できる。医療用複室容器10の容量及び形状は、弱シール部26を剥離した際のバーコード30と阻害部40との離間の程度を勘案して決定することができる。弱シール部26を剥離した際のバーコード30と阻害部40の離間の程度は、バーコードリーダ等の読み取り手段で、阻害部40の妨げのない状態でバーコード30が読み取れる距離であれば特に限定されるものではないが、例えば、バーコード30と阻害部40との離間距離は5mm以上となることが好ましい。
【0026】
(製造方法)
医療用複室容器10は、例えば次の製造方法により製造できる。
まず、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とを重ね合わせ、側端部17側の周縁部をヒートシールすることにより融着する。次いで、第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とに区画する位置に、剥離可能なシールをして弱シール部26を設ける。排出口14が下端部15側の所望の位置に位置するように、排出口14を可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とで挟み込み、下端部15側をヒートシールすることにより融着する。
【0027】
次いで、上端部13側から第一薬剤収納室22に任意の量の第一薬剤Aを充填する。その後、上端部13側をヒートシールにより融着し、融着された上端部13側の任意の位置を穿孔して、掛吊孔16を設ける。次いで、例えば、排出口14から第二薬剤収納室24内に第二薬剤Bを充填し、排出口14をゴム栓等で閉栓し、さらに剥離可能に保護フィルムで排出口14を覆う。こうして、第一薬剤Aが第一薬剤収納室22に充填され、第二薬剤Bが第二薬剤収納室24に充填された医療用複室容器10を得ることができる。
【0028】
弱シール部26の形成方法としては、例えば、容器本体20の内面側にポリエチレンとポリプロピレンの混合物等の融点や相溶性の異なる樹脂組成物からなる層を形成させた合成樹脂フィルムを用いて、高融点の樹脂の溶融温度以下でシールする方法が挙げられる。あるいは、ヒートシールを低温で行い、半溶着状態で弱接着させる方法、また、弱シール部26の形成部分に予め電子線等で架橋した可撓性材料を用いたり、強融着部分を特定の面積割合で発生させるシールバーを用いたり、あるいは、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12との間に易剥離性の樹脂テープを挟む方法等が挙げられる。
【0029】
バーコード30は、容器本体20を形成する可撓性フィルム11に予め付与しておいてもよく、可撓性フィルム11の表面に付与する場合は弱シール部26を形成した後に付与してもよい。バーコード30の付与方法としては、例えば、バー部分またはスペース部分をインクを用いてグラビア印刷やオフセット印刷等で印刷する方法、ホットスタンプにより印刷する方法、インクジェットプリンタにより印刷する方法、バーコードが印刷された透明ラベルを貼付する方法、ベタ印刷部をレーザ等により削り落としてバーコードを作成する方法等が挙げられる。
阻害部40は、容器本体20を形成する可撓性フィルム12に予め形成しておいてもよく、可撓性フィルム12の表面に形成する場合は弱シール部26を形成した後に形成してもよい。阻害部40の形成方法としては、例えば、インクを用いてグラビア印刷やオフセット印刷等で印刷する方法、ホットスタンプにより印刷する方法、インクジェットプリンタにより印刷する方法、阻害部の印刷がなされたラベル等や同系色の樹脂テープ等を貼付する方法等が挙げられる。また、阻害部40は、バーコード30と重なる面40aがバーコード30の読み取りを阻害できるものであればよく、他面40bに他の色、デザインが付与されていてもよい。
以上のような方法で、医療用複室容器10を得ることができる。
【0030】
また、医療用複質容器10の製造方法は、以下の方法であってもよい。
まず、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とを重ね合わせ、側端部17側の周縁部をヒートシールすることにより融着する。排出口14が下端部15側の任意の位置に位置するように、排出口14を可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とで挟み込み、下端部15側をヒートシールすることにより融着する。
その後、第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とに区画する位置に、剥離可能なシールをして弱シール部26を設ける。次いで、上端部13から第一薬剤収納室22に任意の量の第一薬剤Aを充填する。上端部13側をヒートシールにより融着し、融着された上端部13側の任意の位置を穿孔して、掛吊孔16を設ける。次いで、排出口14から第二薬剤収納室24内に第二薬剤Bを充填し、排出口14をゴム栓等で閉栓し、さらに剥離可能に保護フィルムで排出口14を覆う。
バーコード30は、容器本体20を形成する可撓性フィルム11に予め付与しておいてもよく、弱シール部26を形成した後に付与してもよい。また、阻害部40は、容器本体20を形成する可撓性フィルム12に予め形成しておいてもよく、弱シール部26を形成した後に形成してもよい。
【0031】
(薬剤混合の認識方法)
本発明の医療用複室容器10を用いた薬剤混合の認識方法について説明する。
まず、弱シール部26がシールされた状態の医療用複室容器10を用意する。この時点では、弱シール部26がシールされた状態、即ち、バーコード30と阻害部40とが弱シール部26を介して隣接して重なっており、バーコード30の読み取りができない状態となっている(図2及び図3(C))。
次に、医療用複室容器10の第一薬剤収納室22又は第二薬剤収納室24を外部から任意の圧力で押圧すると、弱シール部26が剥離し、第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とが連通し、第一薬剤Aと第二薬剤Bとが混合される(図4)。
【0032】
また、弱シール部26が剥離すると、可撓性フィルム11側のバーコード30と可撓性フィルム12側の阻害部40とが離間する(図3(D)及び図4)。バーコード30と阻害部40とが離間すると、阻害部40の妨げがなくなるため、バーコード30をバーコードリーダ等の読み取り手段で読み取って認識することができるようになる。バーコード30を読み取り手段で読み取ることで、弱シール部26が剥離し、第一薬剤Aと第二薬剤Bとが混合されたことを認識することができる。
【0033】
本発明の医療用複室容器によれば、弱シール部の剥離によってバーコードが読み取れるようになり、該バーコードを読み取ることにより、目視のみに頼ることなく薬剤の混合作業がされたことを容易かつ確実に確認できる。また、弱シール部を剥離した後においても、随時、薬剤が混合していることを、バーコードを読み取ることで認識できるため、医療行為の正確性を確実に確認できる。詳細には、例えば、バーコードを利用した電子カルテシステムと連動させて次のような使い方ができる。
電子カルテシステムを利用した医療現場では、患者への薬剤投与の際、カルテ上の情報と、薬剤に設けられたバーコードの情報と、患者を識別するバーコードの情報の3つの情報の照合を行う。しかし、本発明の医療用複室容器に設けられたバーコードは、薬剤の混合前は読み取ることができないため、薬剤の混合前は、そのような情報の照合を行うことができない。
本発明の薬剤入り医療用複室容器は、その弱シール部を剥離し、薬剤が混合された後に始めてバーコードの認識が可能になるため、薬剤混合後に電子カルテシステムを利用した情報の照合が可能となる。すなわち、弱シール部を剥離しないまま患者に薬剤が投与されてしまう医療過誤と、薬剤が本来投与されるべき患者以外の患者に投与されてしまう医療過誤とを同時に確実に防止することが可能となる。
また、本発明の医療用複室容器は、特許文献4のRFIDを用いる医療用複室容器に比べ、簡便かつ安価に製造することができる。
【0034】
尚、本発明の医療用複室容器は、図1〜5に例示した医療用複室容器には限定されない。例えば、弱シール部26の形状は、バーコード30が付与できる形状であれば、曲線状や円弧状に形成されていてもよい。
また、可撓性フィルム12にアルミニウム箔等の金属フィルムを積層した積層フィルムを貼り合わせた場合に、該金属フィルムによりバーコード30の読み取りを妨げることができるときは、該金属フィルムを剥離する際にバーコード30に対応する部分を可撓性フィルム12に残存させることで、阻害部40としてもよい。
【0035】
また、バーコードの読み取りが可能であるか、不可能であるかにより、薬剤の混合作業を判断する形態としては、弱シール部がシールされている状態ではバーコードの読み取りが可能であり、弱シール部が離間されるとバーコードの読み取りが不可能となる形態も考えられる。ただし、医療用複質容器10のように、弱シール部26を剥離させた後にはじめてバーコード30の読み取りが可能となる形態の方が、第一薬剤収納室22と第二薬剤収納室24とが開通した際に、開通した情報とともにバーコード30に記載されている識別情報等を読み取ることができるために好ましい。
【0036】
以上、透明な可撓性を有する容器本体が、可撓性フィルムからなる医療用複室容器を例示して説明したが、容器本体20は、該容器本体20が可撓性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ブロー成形により形成されたものであってもよい。また、医療用複室容器の弱シール部を2以上形成し、3以上の薬剤収納室が設けられたものでもよい。この場合は、各弱シール部にそれぞれバーコードとバーコード読み取り阻害部を設ければよい。
【0037】
また、本発明の薬液混合の認識方法は、バーコードの付与されていない既存の医療用複室容器に、バーコードの付与とバーコード読み取り阻害部の形成を施したものを用いて実施してもよい。この場合には、既存の複室容器を用いることができるため、医療現場で本発明を容易に実施することができる。また、3以上の多剤混合薬剤の場合には、2以上の弱シール部により3以上の薬剤収納室に区画された医療用複室容器のそれぞれの弱シール部に異なるバーコードを付与することで、全ての薬剤が正確に混合されたことを確認することが可能となり、医療過誤防止に効果的である。
【符号の説明】
【0038】
10 医療用複室容器 11、12 可撓性フィルム 20 容器本体 22 第一薬剤収納室 24 第二薬剤収納室 26 弱シール部 30 バーコード 40 バーコード読み取り阻害部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する透明な容器本体を有し、該容器本体が剥離可能な弱シール部により2以上の薬剤収納室に区画されており、
前記弱シール部における一方の側にバーコードが付され、前記弱シール部における他方の側の前記バーコードに対応する部分に、該バーコードの読み取りを妨げるバーコード読み取り阻害部が設けられている、医療用複室容器。
【請求項2】
前記可撓性を有する容器本体が可撓性フィルムからなる、請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項3】
2種以上の薬剤を収容した請求項1又は2に記載の医療用複室容器を用いた薬剤混合の認識方法であって、
前記弱シール部がシールされた状態とし、
前記弱シール部を剥離することで前記2種以上の薬剤を混合して、前記バーコードと前記バーコード読み取り阻害部とを離間させた後、該バーコードを読み取ることで、前記弱シール部の剥離を認識する、薬剤混合の認識方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の医療用複室容器に薬剤を収容した、薬剤入り医療用複室容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−172575(P2010−172575A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20266(P2009−20266)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000143880)株式会社細川洋行 (130)
【Fターム(参考)】