説明

医療画像データを使用するカテーテルトラッキングシステムに対する改善された較正方法

本発明は、特定の患者の事前に取得された医療画像データを活用して、該患者に対する心臓の診療において使用されるカテーテルトラッキング空間内における電磁又は音響カテーテルの較正及びトラッキングに対する改善された方法、を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事前に取得された医療画像データを使用して心臓の診療におけるカテーテルの較正及びトラッキングを向上させる方法、に係る。
【背景技術】
【0002】
医学的診断及び画像システムは、現代のヘルスケア設備において存在する。かかるシステムは、身体の状態を同定、診断、及び治療するよう非常に有益なツールを与え、外科的診断介入の必要性を大幅に低減させる。多くの場合において、主治医である内科医又は放射線科医が1つ又はそれより多くの画像モダリティを介して関連範囲及び組織の詳細画像を用いて従来の検査を完了した後にのみ、最終的な診断及び診療は進められる。
【0003】
医学的診断及び治療において最小限の侵襲的外科技術の使用の増大に伴い、人間又は動物の体内においてカテーテル又は他の医療器具を遠隔的に位置決め及びトラッキングする新しい方法が必要とされている。近年、X線フルオロスコピック画像は、標準的なカテーテルトラッキング技術である。しかしながら、患者及び臨床医療従事者によるX線量に対する過剰な被曝は、有害であり得る。故に、他のカテーテルトラッキング方法が所望される。
【0004】
複数の他の方法は、超音波トランスデューサを用いる方法、及び磁場測定を利用するものを含み、公表されている。
【0005】
カテーテル位置決めの既知である一方法は、互いに対して固定され且つ空間的基準フレームを定義付ける1つ又はそれより多くの磁場源、及び、カテーテルの先端に対して固定される1つ又はそれより多くの磁気センサを有する。センサは、源によって作られる場を測定し、続いてかかる測定は、基準フレームに対する先端の位置を定めるよう使用される。あるいは、同一の結果は、センサによって置き換えられた源及び源によって置き換えられたセンサを有して達成され得る。
【0006】
この技術は、源とその磁場の空間的形状との相対位置、並びにセンサの相対位置及び感度に関する正確な事前の知識に依存する。理想的な特性を有する源及びセンサを製造することは可能ではないため、かかる特性の純粋な理論計算は、間違っている可能性があるため、較正測定から定められなければならない。人間又は動物の体内においてカテーテルをトラックするよう磁場を使用することの1つの利点は、場が身体の存在によって視覚的に影響を及されない、ということである。これは、体内組織の磁化率が大変低いことによる。対照的に、電場及び音場は、体内組織によって強く影響を及される。結果として、磁場トラッキングシステムの較正測定は、外科処置の前に、身体の存在なく行なわれ得る。
【0007】
カテーテルに与えられる制限は、身体の関連部分への挿入が可能であるよう直径が充分に小さく且つ充分に可撓性がなければならない、ことである。例えば、心臓カテーテルの直径は、約2mmであり、且つ10mm又はそれを下回る半径まで曲がるよう充分に可撓性があるべきである。かかる要求、及びカテーテルに取り付けられたトランスデューサをカテーテルヘッドに対してしっかりと密接して固定する必要性は、該トランスデューサが小さな体積に全て含有されなければならない、ことを要求する。
【0008】
現在、NavX(ESI,St.Jude)及びLocalisaシステム(Medtronic社)等である電場型(electrical−field−based)カテーテル、又は超音波飛行時間(ultrasound−time−of−flight−based)トラッキングシステムは、較正及びデータ取得工程中の縦隔内における均質な線形電磁場又は均等な音速分配の予測に依存する。しかしながら、人間の胸腔内部の音響特性及び導電率の空間分布は、患者の生体構造及び呼吸等である運動力作用に依存して変化する。故に、胸腔内の電磁場及び音場は、決して均質及び線形ではなく、カテーテルトラッキング中の大きなエラーに繋がる。現時点では、かかるトラッキング装置は、電磁又は音速場が略均質である心室における血液プール内等である解剖学的構造内でのみ使用される。単純な線形較正方法は、カテーテル上の電磁又は音波センサを用いて体内の電場又は超音波飛行時間の何れかの測定に依存して、カテーテルのトラッキングを実行するよう使用される。かかる技術は、均質性及び非線形性における場が既存の線形場較正(linear field calibration)技術を使用する信頼性の高いトラッキングを妨げる心静脈等の他の解剖学的構造内においては、成功裏に適用されていない。
【0009】
カテーテルトラッキング及び較正システムは、1997年12月16日発行、米国特許第5,697,377号明細書(特許文献1);2005年4月14日公開、米国特許出願第20050080328号(特許文献2);2006年3月16日公開、米国特許出願第20060058643号(特許文献3);2005年9月8日公開、米国特許出願第20050197568号(特許文献4);2001年5月1日発行、米国特許第6226547号明細書(特許文献5);2005年6月2日公開、PCT国際公開番号WO 2005/048841(特許文献6);及び、「A System for Real−Time XMR Guided Cardiovascular Intervention」、K.S.Rhode外、IEEE Trans. Medical Imaging, 24,(11),Nov 2005、pp1428−1440(非特許文献1)、において記載されている。
【0010】
しかしながら、かかる技術には依然として問題が残っている。現在、NavX(ESI,St.Jude)及びLocalisaシステム(Medtronic社)等である電場型トラッキングシステムは、較正及びデータ取得工程中の均質な線形電場の予測に依存する。しかしながら、特には胸部である人体内部の導電率は、患者固有の生体構造及び呼吸動作等である他の運動力作用に依存して変化する。したがって電場は、非均質及び非線形であり、カテーテルトラッキング中の重大なエラーに繋がる。同様に、超音波型位置検出は、組織内における音波の均質性を予測する。胸部内の音速の不均一な分布は、超音波導出の位置及び向き測定を歪め、体積内における位置決めエラーを引き起こす。
【0011】
本発明によれば、較正工程及びカテーテルのトラッキングを向上させるよう電場又は音場の予測に対して使用され得る、主要な縦隔構造の分割及び多次元導電率又は音響モデルの構築に対するMDCT又はMRのいずれかからの患者固有画像データを使用する、新しいアプローチが提示される。
【特許文献1】米国特許第5,697,377号明細書
【特許文献2】米国特許出願第20050080328号
【特許文献3】米国特許出願第20060058643号
【特許文献4】米国特許出願第20050197568号
【特許文献5】米国特許第6226547号明細書
【特許文献6】PCT国際公開番号WO 2005/048841
【非特許文献1】「A System for Real−Time XMR Guided Cardiovascular Intervention」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、特定の患者に対する心臓の診療において使用されるカテーテルトラッキング空間内における電磁又は音響カテーテルの較正及びトラッキングを向上させる方法を与える、ことを目的とする。当該方法は、診療前又は診療中に、医療用スキャナから患者の測定空間に対する多量の心臓画像データを取得する段階;各組織領域の医学画像を生成するよう組織領域に従って画像データを分割する段階;各組織領域の電磁又は音響データを取得する段階;カテーテルトラッキング空間及び患者の測定空間対応するモデル空間を覆う1つ又はそれより多くの分割された組織領域に対する電磁又は音響モデル画像を生成するよう、電磁又は音響データを処理する段階;カテーテルトラッキング空間にモデル空間を登録する段階(Rregistering the model space with the catheter tracking space);信号歪み効果がもたらすカテーテルトラッキングエラーを確定するよう、診療中にモデル画像を参照してカテーテルのトラッキング行動を測定する段階;及び、信号歪みの影響を最小限に抑えるよう、トラッキング中にカテーテルの位置を補正する段階、を有する。前出のモデル画像は、データの精度に影響を及すカテーテルトラッキング空間内における1つ又はそれより多くの信号歪みを示す。
【課題を解決するための手段】
【0013】
他の目的として与えられる一方法において、診療前に心臓の多量の画像データを取得する段階は、診療前にCTシステム、MRシステム、超音波システム、3Dフルオロスコピーシステム、及びPETシステムのうち少なくとも1つを使用して多量の心臓画像データを取得する段階を有する。
【0014】
他の目的として与えられる一方法において、組織領域は、心静脈、心動脈、又は大動脈のうち少なくとも1つを更に有する。
【0015】
他の目的として与えられる一方法において、電磁モデル画像を生成するよう電磁データを処理する段階は、4D導電率モデル画像を生成するよう電磁データを処理する段階を更に有する。
【0016】
他の目的として与えられる一方法において、音響モデル画像を生成するよう音響データを処理する段階は、3D音速モデル画像を生成するよう音響データを処理する段階を更に有する。
【0017】
他の目的として与えられる一方法において、カテーテルトラッキング空間にモデル空間を登録する段階は、モデル空間内において患者に対して取り付けられる電磁又は音響可視表面マーカーを使用してカテーテルトラッキング空間にモデル空間を登録する段階を更に有する。各表面マーカーの位置は、カテーテル較正又はトラッキング中にカテーテルトラッキング空間におけるマークされた位置に置かれた基準パッチの配置に対応する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のこれらの及び他の態様は、次の実施例及び図面を参照してより詳細に説明される。
【0019】
心臓血管カテーテル手技は、従来、X線フルオロスコピック誘導のもとに実行される。この種類の誘導は、複数の不利点を有する。第一に、作られる画像が二次元(即ち2D)であるため、カテーテルの3D経路を視覚化において発生する内在する不正確性を有して撮像される対象の三次元(即ち3D)を再構築しようするためには、異なる角度から複数の写真を撮る必要がある。第二に、X線は、心臓及び血管等である軟組織領域の画像を正確には撮らない。第三に、X線撮像は、長期にわたると重大な健康上の問題を引き起こし得る放射線に操作者及び患者を曝す。
【0020】
現在、NavX(ESI,St.Jude)及びLocalisaシステム(Medtronic社)等である電場型トラッキングシステムは、較正及びデータ取得工程中の均質な線形電場の予測に依存する。しかしながら、特には胸部である人体内部の導電率は、患者固有の生体構造及び呼吸動作等である他の運動力作用に依存して変化する。したがって電場は、非均質及び非線形であり、カテーテルトラッキング中の重大なエラーに繋がる。同様に、超音波型位置検出は、組織内における音波の均質性を予測する。胸部内の音速の不均一な分布は、超音波導出の位置及び向き測定を歪め、体積内における位置決めエラーを引き起こす。
【0021】
先行技術によれば、St.Jude NavX等であるシステムは、電磁場におけるカテーテルのトラッキングに依存する。したがって、3つの直交場は、Wittkampfによる前出の特許文献1等において記載される通り、体表面電極を用いて患者に対して適用される。体内のインピーダンスが変化するため(肺、異なる組織種類等)、身体の電場(e−field)は、非常に非線形である。トラックされたカテーテルは、同様の位置に対して充分に操作され得るが、絶対測定は行なわれ得ない。故に、トラックされるカテーテルの複数のポイントから生成される(generated from point clouds of the tracked catheter)生体構造の数理モデルは、歪められる。また、トラッキングは、心室等である特定の解剖学的領域においてのみ行なわれ得る。その代わり、血管又は動脈において、トラッキングの結果は、中程度及び大きな場の歪みの非均質性による大きなエラーを有する。
【0022】
本発明において、較正工程及びカテーテルのトラッキングを向上させるよう電場又は音場の予測に対して使用され得る、主要な縦隔構造の分割及び多次元導電率又は音響モデルの構築に対するMDCT又はMRのいずれかからの患者固有画像データを使用する、新しいアプローチが提示される。
【0023】
本発明において、画像データは、この非線形空間を解析するよう、またトラッキングを血管等である他の解剖学的領域においてより正確且つ実現可能にする。臨床のワークフローにおいて、画像データは、例えば診療の開始時に得られ得、かかるデータは、典型的な身体のインピーダンスを与えられ、その後カテーテルトラッキングの空間をアンワープする(歪めない)よう(for unwarping)使用される。診療内の撮像が可能である場合、アンワープ(the unwarping)は、かかるデータに従ってアップデートされ得る。事前操作データ(Pre−operation data)は、心臓データ取得に対して対応する設定を有するCT/MRI/X線/US等であるモダリティによって得られ得る。
【0024】
本発明の開示は、カテーテルトラッキングシステムの較正を向上させるよう導電率又は音速モデル構築するようMRI又はCTでの撮像を使用して得られる、事前に取得された多次元の患者固有データを使用することを提案する。導電率モデルは、既に電気インピーダンストモグラフィーの分野において既に試用されている。心静脈及び動脈等である急速に変わる電磁又は音場特性を有する範囲における信頼性の高いトラッキングは、患者固有モデルの試用に基づいて改善された較正及びトラッキングストラテジーを使用して、実現可能となる。呼吸等である運動力の作用(解剖学上の変化、及び導電率及び音速分布における関連付けられる変化をもたらす肺の体積変化)は、医療用画像データから導出される四次元胸部モデルを使用するように考慮され得る(can be accounted)。
【0025】
胸部等の多次元導電率又は音速モデルは、図1に示される通り、医療用画像データから導出される。このデータは、興味のある生体構造内における電磁又は音場を予測するよう使用される。電磁場又は音場カテーテルトラッキングシステムの較正は、患者固有モデルを使用し向上され得、トラッキングは、急速に変化する解剖学的構造及び組織特性により、場の歪みを有する範囲においてより信頼性高く行なわれ得る。患者の動作が考慮され得(can be accounted for)、トラッキングエラーの低減がもたらされる。
【0026】
本発明は、その特定の実施例に関して説明されてきたが、多くの修正、強化、及び/又は変更が本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく達成され得る、ことは当業者によって認識される。したがって、本発明は請求項の範囲及び同等のものによってのみ制限される、ことが明確に意図される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】改善されたカテーテルトラッキングに対する導電率モデルをもたらす、医療画像及び分割された医療画像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の患者に対する心臓の診療において使用されるカテーテルトラッキング空間内における電磁又は音響カテーテルの較正及びトラッキングを向上させる方法であって:
前記診療前又は診療中に、医療用スキャナから前記患者の測定空間に対する多量の心臓画像データを取得する段階と;
各組織領域の医学画像を生成するよう組織領域にしたがって前記画像データを分割する段階と;
各組織領域の電磁又は音響データを取得する段階と;
前記カテーテルトラッキング空間及び前記患者の前記測定空間に対応するモデル空間を覆う1つ又はそれより多くの分割された組織領域に対する電磁又は音響モデル画像を生成するよう、前記電磁又は音響データを処理する段階と;
前記カテーテルトラッキング空間に前記モデル空間を登録する段階と;
信号歪み効果がもたらすカテーテルトラッキングエラーを確定するよう、診療中に前記モデル画像を参照して前記カテーテルのトラッキング行動を測定する段階と;
前記信号歪みの影響を最小限に抑えるよう、トラッキング中に前記カテーテルの位置を補正する段階と;
を有し、
前記モデル画像は、前記データの精度に影響を及す前記カテーテルトラッキング空間内における1つ又はそれより多くの信号歪みを示す、
方法。
【請求項2】
前記診療前に心臓の多量の画像データを取得する前記段階は:
前記診療前に、CTシステム、MRシステム、超音波システム、3Dフルオロスコピーシステム、及びPETシステムのうち少なくとも1つを使用して多量の心臓画像データを取得する段階、
を更に有する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記組織領域は、心静脈、心動脈、又は大動脈のうち少なくとも1つを更に有する、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
電磁モデル画像を生成するよう前記電磁データを処理する前記段階は:
4D導電率モデル画像を生成するよう前記電磁データを処理する段階、
を更に有する、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
音響モデル画像を生成するよう前記音響データを処理する前記段階は:
3D音速モデル画像を生成するよう前記音響データを処理する段階、
を更に有する、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記カテーテルトラッキング空間に前記モデル空間を登録する前記段階は:
前記モデル空間内において前記患者に対して取り付けられる電磁又は音響可視表面マーカーを使用して前記カテーテルトラッキング空間に前記モデル空間を登録する段階、
を更に有し、
各表面マーカーの位置は、カテーテル較正又はトラッキング中に前記カテーテルトラッキング空間におけるマークされた位置に置かれた基準パッチの配置に対応する、
請求項1記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−538168(P2009−538168A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511612(P2009−511612)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【国際出願番号】PCT/IB2007/051285
【国際公開番号】WO2007/138492
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】