説明

医療装置および治療のためのポリマーNO供与体プレドラッグナノファイバコーティング

本発明は、患者に装置を設置するまたは埋め込む時間を与える遅延期間後に、治療上有効な量の酸化窒素を生成するナノファイバに関する。したがって、酸化窒素の放出は、NOの投与が必要とされる生物の患部に限定される。遅延期間は、上述のNO−生成官能基を隔離する傾向を有するファイバを用いたNO−生成ファイバを共紡糸することにより得られる。本発明のファイバは医療装置(ステントまたは他の埋込可能な医療装置など)に組み込まれて、埋込領域における癒着または瘢痕の形成を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、酸化窒素(NO)の投与が必要とされる領域に治療上有効な量のNOを伝達するコーティングおよび医療装置に関する。特に、本発明は遅延活性化の後に酸化窒素を生成する繊維状材料に関する。本発明のナノファイバは試薬を保持しかつ隔離する機能を有し、該試薬は、活性化剤として知られている水、血液、または他の流体がナノファイバと接触した際に反応してNOガスを放出することができる。隔離作用がNO前駆体への活性化剤の拡散を遅延させる結果、該前駆体のNOへの転換が遅れる。
【0002】
NOは血小板の凝集を阻害し、平滑筋の増殖を抑制することが知られており、その結果、動脈の再狭窄を減少させることが知られている。NOが特定の部位に直接伝達された場合、医療従事者が患者に外来物または外来装置(ステントまたは他の埋込可能な装置)を導入した部位での炎症を防止または減少させることが明らかになっている。研究者らは、損傷した組織や手術のリスクがある組織および器官にNOを伝達する種々の方法を探索している。NOは全身に伝達可能であるが、このような伝達は、米国特許第5,814,656号に示されている予期せぬ副作用を生じさせることがある。理想的には、NOは制御された方法にて、損傷しているかまたは手術のリスクがある組織および器官に伝達される。本発明は、内科医に装置の埋め込みのための時間を与える遅延時間後にNOを放出するコーティングおよび医療装置を提供することにより、この要求を満たす。したがって、ほとんどの場合、NOの治療が必要な組織のみがNOの投与を受ける。
【0003】
不溶性のポリマーNONOateは、スミスらによる米国特許第5,519,020号に概して記載されているように、NOを特定の組織に経皮伝達する。しかしながら、この特許は、装置が最初に装着された時間とNOの生成が重要である時間との間の遅延が大きいような活性化の妨げについて検討していない。また、埋込可能な医療装置へのコーティングとしてポリマーNONOateを使用することは、スタムラー(Stamler)らによる米国特許第5,770,645号に記載されている。この特許は、酸化窒素の生成のいかなる様式も全く検討していない点で同様の欠点を有する。米国特許第5,770,645号の装置は活性化を阻害する要素を欠いているため、該装置が最初に埋め込まれた時点から実質的に活性である。これに対して、本発明は、酸化窒素プレドラッグ(predrug)の活性化を遅くする(または遅延させる)ために特化した要素を含む。
【0004】
おそらく、最も関連性が高い技術は、本出願の発明者ら自身による米国特許第6,737,447号であり、制御された様式で酸化窒素を放出する医療装置のためのポリマーコーティングを開示する。しかしながら、本発明との相違点は、米国特許第6,737,447号の制御された放出様式は、コーティングを架橋するためにビスエポキシドを使用することにより、材料の多孔性を制限し、これにより、コーティングへの活性化剤の拡散およびコーティングからの酸化窒素の拡散を遅くする点である。これに対して、本発明は、より疎水性の特性を有するか、または、酸化窒素前駆体の活性化を妨げる(遅くする、または遅延させる)効果を緩衝させる第2ファイバを利用する。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、NOの投与が必要とされる領域に治療上有効な量の酸化窒素(NO)を伝達するコーティングおよび医療装置に関する。特に、本発明は遅延活性化の後に酸化窒素を生じさせる繊維状材料に関する。本発明のナノファイバは、周囲のNO前駆体(以下、「プレドラック」とする)試薬を保持しかつ隔離し、および/または緩衝する機能を有し、該試薬は、活性化剤として知られている水、血液、または他の流体がナノファイバと接触した際にNOガスを放出することができる。隔離作用がNO前駆体への活性化剤の拡散を遅延させる結果、該前駆体のNOへの転換が遅れる。加えて、緩衝作用はより塩基的な環境をNO前駆体の周囲に即座に生じさせる結果、酸化窒素への転化率をより遅くする。いずれの実施形態においても、NO生成を妨げるために、隔離効果または緩衝効果の一方または両方を使用することができる。いずれのケースにおいても、隔離効果および緩衝効果はファイバ(以下、「第2ファイバ」とする)の取り込みによって生じる。
【0006】
本発明は、有効量のNOを生成するために、従来のイノベーションよりも少ない量のNOを使用する。なぜなら、本発明は、NOの投与が必要とされる場所を空間的に制限するからである。一方、従来のイノベーションのいくつかでは、血流内でNOを循環させている。したがって、本発明は相対的に少ない量で治療上有効な量のNOを生じさせることができ、ステントのコーティング、ステントを開けるのに使用するバルーン、カテーテル、真菌感染または寄生虫感染の治療や経過が悪い回復期創傷の治療のための創傷の被覆材などの製品として有用である。
【0007】
本発明の核となるコンセプトは、他の分野(すなわち、COまたは過酸化物の生成、滅菌、および化学療法)に適用可能である。特に、前駆体化合物を隔離するのに第2ファイバを使用して、活性化剤の接近を妨げたり、生成化合物の放出を遅らせたりすることは他の分野(すなわち、COまたは過酸化物の生成、滅菌、および化学療法)に適用可能である。
【0008】
本発明は、ポリマー担体ファイバ部と、酸化窒素プレドラッグ部と、活性化剤からプレドラッグを隔離する機能を有する第2ファイバとを含む医療装置に関する。さらに、本発明は、代用血管、ステント、カテーテル、創傷被覆材、および外科用糸からなる群から選ばれる医療装置に関する。さらに、本発明は、ポリマー担体ファイバ部が少なくとも1つの第二級アミン部分を含む医療装置に関する。さらに、本発明は、ポリマー担体ファイバ部がポリエチレンイミン、多糖類骨格に接合されたポリエチレンイミン、およびポリ(エチレンイミン)塩からなる群から選ばれる医療装置に関する。さらに、本発明は、ポリマー担体ファイバ部がポリ(エチレンイミン)ファイバを含む医療装置に関する。さらに、本発明は、ポリマー担体ファイバ部が電界紡糸ナノファイバを含む医療装置に関する。さらに、本発明は、酸化窒素プレドラッグ部がジアゼニウムジオラート、O−アルキル化ジアゼニウムジオラート、およびO−誘導体化ジアゼニウムジオラートからなる群から選ばれる医療装置に関する。さらに、本発明は、酸化窒素プレドラッグ部がジアゼニウムジオラートを含む医療装置に関する。さらに、本発明は、活性化剤をさらに含む医療装置に関する。さらに、本発明は、活性化剤がプロトン供与体である医療装置に関する。さらに、本発明は、活性化剤がホスフェート、スクシナート、カルボナート、アセテート、フォルメート、プロピオナート、ブチラート、脂肪酸、およびアミノ酸からなる群から選ばれるバッファーである医療装置に関する。さらに、本発明は、活性化剤が水である医療装置に関する。さらに、本発明は、移動相をさらに含む医療装置に関する。さらに、本発明は、活性化剤が酸化窒素プレドラッグ部と接触するように、移動相が活性化剤を輸送することができる医療装置に関する。さらに、本発明は、移動相が、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、フェノール、ナフトール、ポリオール、酢酸、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、およびヘキサメチルホスホラミドからなる群から選ばれる医療装置に関する。さらに、本発明は、実質的に疎水性である第2ファイバを含む医療装置に関する。さらに、本発明は、第2ファイバが、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタラート、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、およびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる医療装置に関する。
【0009】
以下の用語が特に定義される。本明細書において、「プレドラッグ」は、薬剤種を形成するために修飾されうるいずれかの化合物を意味し、ここで、修飾は、薬剤の投与が必要とされる身体患部にプレドラッグが到達する前または後で、体内または体外で起こることができる。ポリマー担体ファイバ部は、酸化窒素と可逆的に反応して官能基を形成することができる担体ポリマーを少なくとも1つ含み、該担体ポリマーはファイバ上に配置され、酸化窒素プレドラッグ部となる。ここで、「第2ファイバ部」は、装置が患者に設置または埋め込まれ、あるいは装着された際に、活性化剤(血液またはリンパ液など)からプレドラッグを隔離する1以上のファイバをいう。「活性化剤」という用語は、酸化窒素プレドラッグ部を刺激して酸化窒素を生成するいずれの化合物を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、NOの投与が必要とされる生物の患部に治療上有効な量の酸化窒素を伝達するコーティングおよび医療装置に関する。一般に、本発明はファイバ混合物の形態である。ファイバ混合物は、刺激された際にNOを生成するように誘導体化されていてもよい。重要なことに、他の「第2」ファイバは誘導体化されておらず、ファイバ混合物の目的は、ファイバ混合物に構造を提供することであり、および/またはNOの生成を促進する傾向を有する種から誘導体化されたファイバ部分を得るNOを隔離することである。あるいは、ファイバ混合物の機能は、NOの転化を遅くするために、NOプレドラッグの環境を緩衝することである。そうすることにより、第2ファイバは、本発明からNOが生じる速度を制御する傾向を有し、装置の成分のNO−収率特性の活性化を妨げる。
【0011】
本発明の例示する実施形態は、血管を開ける金属ステント上のコーティングを含む。このような装置は、ステントが最終的に配置される領域から所定距離離れた箇所を起点とする血管に金属ステントを配置することにより、患者に埋め込まなければならない。したがって、設置位置における組織は、酸化窒素の投与が必要とされる部位から所定距離離れている。このため、設置位置ならびに設置位置とステントが最終的に配置される位置との間のすべての箇所において、組織は好ましくはNOに曝されない。本発明は上述の埋め込みNO生成遅延を経てこれを達成する。
【0012】
一般に、本発明は3つの要素を含む:(1)ポリマー担体ファイバ部、(2)酸化窒素プレドラッグ、および(3)第2ファイバ部。ポリマー担体ファイバ部は、いずれかのファイバ、または、酸化窒素と可逆的に反応して官能基を形成可能な部位を有するファイバを含み、該部位はファイバ上に配置され、酸化窒素プレドラッグ部を構成する。許容しうるファイバは第二級アミン特性を含む傾向を有する。なぜなら、第二級アミンは酸化窒素と反応してジアゼニウムジオレートを形成し、酸化窒素を生成する1次反応が進行することが知られているからである。NO生成反応を促進させるために、酸化窒素プレドラッグ部、すなわち、例えばジアゼニウムジオレートは、ここで活性化剤として言及されるプロトン源と接触しかつ相互作用しなければならない。分解反応を促進するためには、非常に弱いブロンステッド酸性が必要であることから、多くの種類の化合物が活性化剤になりうると予想される。したがって、水、アルコール、多価アルコールなどはいずれも、活性化剤として機能するのに十分な酸性である。他の活性化剤は体液(特に血液、リンパ液、胆液、およびその均等物など)を含む。NOの投与が必要とされる領域へのNOの曝露を実質的に制限するために、活性化剤は、装置を患者に埋め込むまたは設置するのに必要とされる時間を妨げる。このような妨げは第2ファイバの作用によって行われ、プレドラッグと薬剤との反応を促進する傾向を有する種からプレドラッグを隔離するか、または、薬剤の形態へと転換する速度を遅くするためにプレドラッグの周囲の環境を緩衝する。好ましくは、本発明の3つの要素は単一のファイバを含むことができ、この単一ファイバは担体として機能し、プレドラッグを含み、かつ、構造を提供しおよび/またはプレドラッグを隔離する「第2」ファイバ部を有する。しかしながら、前記要素は2つまたは3つの分離した要素として提供されていてもよい。
【0013】
[ポリマー担体ファイバ部]
ポリマー担体ファイバ部は、酸化窒素と可逆的に反応して官能基を形成しうるいずれかのファイバを含み、該官能基を形成しうる部位はファイバ上に配置され、酸化窒素プレドラッグ部を構成する。許容しうるファイバは第二級アミン特性を含む傾向を有する。なぜなら、第二級アミンは酸化窒素と反応してジアゼニウムジオレートを形成し、酸化窒素(I−II)を生成する1次反応が進行することが知られているからである。許容しうる担体ファイバ部は限定されないが、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミン、ポリウレタン、およびポリアミドを含むポリマーを含む。さらに、許容しうる担体ファイバ部は、不活性な骨格(例えば、他の相対的に不活性な骨格(多糖類骨格、特にセルロース骨格など)に接合されたポリエチレンイミン)に接合された上述のポリマーのいずれかを含む。さらに、許容しうる担体ファイバ部は第二級アミン部分を含む繊維化可能な材料を含む。
【0014】
(I)PEI(ポリエチレンイミン)の構造
【化1】

【0015】
(II)PEI NONOateの構造
【化2】

【0016】
本発明に係る担体ファイバ部を形成するための好ましい材料は、重量平均分子量が約200,000を超える高密度直鎖ポリエチレンイミン(I−II)である。直鎖PEIは水やエタノールのような一般的な溶媒に可溶である。PEIファイバは当該技術分野で知られている電界紡糸プロセスによって形成可能である。また、PEIファイバは電界紡糸以外の方法にて、本発明にしたがって形成可能であることは当業者に理解されるだろう。
【0017】
当該技術分野で知られている、ファイバ内に有機ポリマーを形成するためのいずれの方法も使用可能である。例えば、湿式紡糸、乾式紡糸、融解紡糸、およびゲル紡糸はいずれも、本発明に係るファイバを形成するための許容しうる方法である。一般に、微細なデニールのファイバはより大きな表面積を有するファイバマットを得ることができるため、より多くの酸化窒素プレドラッグを生成する特性を有し、一般に性能がより高い。したがって、電界紡糸はPEIファイバを製造するためのより好ましい方法である。
【0018】
一般に、本発明は、ポリマー性担体ファイバおよび第2ファイバが多少不規則に配置されるようにポリマー性担体ファイバおよび第2ファイバが共紡糸された不織ファイバマットの形態であることができる。また、本発明は、担体ファイバが基板上に紡糸されて、第2ファイバを紡糸することによって実質的に被覆されかつ隔離された積層不織ファイバマットの形態であることができる。いずれかのケースにおいて、不織ファイバマットは医療装置(ステントなど)上においてコーティングの形態であることができる。
【0019】
[酸化窒素プレドラック部]
ほとんどの一般条件において、本発明の酸化窒素プレドラック部は、本発明の活性化剤によって酸化窒素を生成するように刺激されて酸化窒素を生成するいずれかの化学的エンティティ(entity)を含む。これらのプレドラック部は限定されないが、ジアゼニウムジオレート(しばしば「NONOate」と記載)を含むいくつかの形態であることができることは当該技術分野で理解される。さらに、これらのプレドラック部は、O−アルキル化ジアゼニウムジオレート、あるいは、O−誘導体が元のジアゼニウムジオレートに変換されうるいずれかのO−誘導体化ジアゼニウムジオレートの形態であることができることは当該技術分野で理解される。このようなO−誘導体化NONOateは通常、塩よりも安定である。特に、分解反応の活性化エネルギーは通常、非O−誘導体化形態の活性化エネルギーよりもはるかに高い。したがって、誘導体は酵素活性化剤の非存在下ではNOを生成しない傾向があるか、あるいは、誘導体はNONOateの半減期を著しく伸ばす傾向がある。非O−誘導体化ジアゼニウムジオレートの官能基(すなわち塩)は好ましくは本発明の酸化窒素プレドラッグ部であり、プロトン源(すなわち活性化剤)の存在下で1次機構によって分解することが知られている。
【0020】
PEIとNOとの反応は通常、ジアゼニウムジオレートを形成させ、PEIのエタノール中での溶解度を減少させ、さらには水中で不溶となる場合がある。NOで修飾されたPEIポリマーを水に曝すと予測可能な方法で分解しはじめ、その結果NOを放出する。PEIファイバからの典型的なNO放出のプロファイルは通常短く、典型的な時間で1〜2日である。
【0021】
[活性化剤]
一般に、活性化剤は酸化窒素を生成する酸化窒素プレドラック部を刺激するいずれかの化合物を含む。ジアゼニウムジオレートがプレドラッグである場合、許容しうる活性化剤はプロトン源(すなわちブロンステッド酸)を含む。本発明を構成する典型的な活性化剤は限定されないが、水、体液(血液、リンパ液、胆液、およびその均等物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、フェノール、ナフトール、多価アルコール、およびその均等物など)を含む。本発明の範囲内にあるさらなる活性化剤は限定されないが、ホスフェート、スクシナート、カルボナート、アセテート、フォルメート、プロピオナート、ブチラート、脂肪酸、およびアミノ酸、ならびにこれらの均等物を含む一般的な水性酸性バッファーを含む。好ましい活性化剤は限定されないが、水、体液(血液またはリンパ液など)、アルコール、一般的な水性酸性バッファー溶液を含む。
【0022】
[移動相]
活性化剤をプレドラッグへ輸送し反応を促進するための移動相を必要とする様式において、酸化窒素プレドラッグ部と活性化剤とを空間的に分離できることは、当業者に理解されるだろう。以下、このような流体を移動相とする。多くの場合において、活性化剤それ自体が通常の作業条件において流体であるため、付加的な担体流体は必要ではない。このような場合、移動相は省略することができる。許容しうる移動相は、酸化窒素生成反応が可能になるようにプレドラックと物理化学的に接触する状態に活性化剤を配置するような様式にて、活性化剤をプレドラッグ部へ輸送することができる。
【0023】
移動相は本発明の一構成要素であり、活性化剤が酸化窒素プレドラッグ部に補助なしで到達できない場合にのみ必要となる。一般に、活性化剤および酸化窒素プレドラッグが物理化学的に接触して酸化窒素が生成するように、移動相が酸化窒素へと活性化剤を運ぶ。したがって、移動相は原則として、触媒または試薬として分解には関与せず、むしろ、移動相は原則として活性化剤伝達媒体である。しかしながら、化合物がプレドラッグのNO生成を刺激することができるという事実は、該化合物を移動相として同様に分類することを妨げる。例えば、水は、NONOateがNOの生成を引き起こすために十分に酸性であるが、水は活性化剤(ホスフェートなど)を溶解し、かつ、該活性化剤をNONOateプレドラッグへ運ぶため、ホスフェートの伝達媒体として機能する。したがって、水は活性化剤および移動相の両方に分類されうる。
【0024】
許容しうる移動相は、活性化剤をプレドラッグ部へ運ぶことができる流体(好ましくは液体)を含む。より好ましくは、本発明の範囲において、移動相は、活性化剤を溶解可能な液体である。さらに好ましくは、ジアゼニウムジオレートがプレドラック部である場合、移動相は好ましくは多少極性を有する液体であり、特に、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、フェノール、ナフトール、多価アルコール、酢酸、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、およびヘキサメチルホスホラミド、ならびにその均等物などの極性溶媒である。
【0025】
[第2ファイバ]
第2ファイバの機能は、プレドラッグを活性化剤から隔離し、NOプレドラッグの周囲の領域を緩衝し、または隔離および緩衝の両方を行うことにより、プレドラッグが薬剤形態へと転化するのを遅らせることである。したがって、第2ファイバは十分な疎水特性を有していることができる。これにより、第2ファイバは物理的なバリアを構成し、活性化剤はプレドラッグと反応してNOを放出するために横切らなければならない。あるいは、第2ファイバがNOプレドラッグの周囲の環境をより塩基性にすることにより、プレドラッグが薬剤形態へと転化するのを遅らせる塩基性官能基を有することができる。したがって、NOの生成は実質的に、NOの投与が必要とされる患部に限定される。
【0026】
また、第2ファイバは部分的に、NO放出ファイバ(すなわちポリマー性担体ファイバ部)を溶解するのに用いられる。NO放出ファイバの放出はしばしば、単独のコーティングまたは装置を生成するには速度が速すぎる。むしろ、NO−生成ファイバを他のポリマーからなるファイバ(すなわち第2ファイバ)のマトリクスに埋め込むまたは共紡糸することが多いだろう。第2ファイバとして適している材料は用途によるが、一般に、機械的耐久性、生分解特性、ならびにプレドラッグを活性化剤から隔離する能力に応じて選択される。
【0027】
加えて、様々な物体(独立の(free-standing)パッチ、チューブ、またはその均等物など)に形成される材料に強度を付与できるという意味で、第2ファイバは構造ファイバである。
【0028】
第2ファイバを構成するポリマーは限定されないが、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタラート、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、およびポリビニルピロリドンを含むことができる。好ましくは、第2ファイバは実質的に疎水性である。
【0029】
第2ファイバの機能の説明として、ステントコーティングを想定する。NOで修飾されたPEIファイバのみでコーティングされたステントは、迅速にNOを放出するだろう。したがって、このコーティングは、手術のリスクがなくNOの投与が必要とされない組織にNOを大量に曝すだろう。これに対して、TECOPHILICなどのポリウレタンがPEIを用いて電界紡糸されてステントコーティングが形成される場合、水性体液がポリウレタンでドーピングされたコーティングを貫通するのに時間がかかるため、PEIのNONOate官能基は患者の血液にすぐには接触しない(TECOPHILICは、ノベオン(Noveon)IPホールディングコーポレーションの商標であり、親水性プラスチック物品の製造で使用される熱可塑性ポリウレタン化合物である)。
【0030】
好ましい実施形態において、ポリエチレンイミンナノファイバは、ポリウレタンの第2ファイバとともに医療装置または装置組成物の上に電界紡糸される。次いで、PEIの第二級アミン部分の少なくとも一部がNOと反応してジアゼニウムジオレート官能基を形成するように、ナノファイバがNOガスに曝される。別の好ましい実施形態では、PEIが電界紡糸の前にNOに曝され、これにより、電界紡糸PEIファイバはすでにジアゼニウムジオレート官能基を含む。いずれか一方の場合において、PEIのNONOate官能基はポリウレタンナノファイバによって隔離されるため、装置が埋め込まれるまで湿気および活性化剤から遮断される。NOガスは生体流体(血液、リンパ液、または汗)への曝露により生成するか、あるいは、他の活性化剤(生理学的バッファー、アルコール、または多価アルコール)への曝露により生成する。
【0031】
別の実施形態においては、上述のいずれかのファイバは、いずれかの医療装置(限定されないが、ステント、血管形成術用バルーン、カテーテルなど)上に紡糸されることができる。また、ファイバは不織ファイバマット(例えば、経皮貼布、包帯など)内に紡糸されてもよい。さらに別の実施形態においては、酸化窒素生成要素は、沈殿の様式にてポリマー性担体ファイバ内に隔離されていてもよい。さらに別の実施形態においては、NOの放出を制限するように、ファイバのデニールが制御される。例えば、より小さい半径のファイバは、より多くの硝酸プレドラッグ部を含むため、より小さい半径のファイバはNOをより多く放出する傾向がある。さらに別の実施形態においては、第2ファイバは生分解性材料または生体吸収性材料を含むため、装置またはその一部が、対象となる生物自体によって消費される傾向がある第2ファイバからなる。さらに別の実施形態においては、本発明は代用血管の形態であることができる。本発明の別の実施形態はカテーテルの形態であることができる。さらに、本発明の別の実施形態は包帯の様式における創傷被覆材である。
【0032】
本発明の具体例を説明するために、以下の実施例が提供される。しかしながら、本実施形態は本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。請求の範囲は本発明を定義するために機能すべきである。
【0033】
直鎖ポリエチレンイミン(L−PEI)の合成は、底部に排水栓を備えた2L三ツ口丸底フラスコ内で行われた。このフラスコは温度計の鞘、還流コンデンサ、滴下漏斗(addtion funnel)、スターラー、および加熱マントルを備えていた。300mlの脱イオン水を素早く攪拌しながら、分子量500,000のポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)またはポリエチルオキサゾリン(49.6g,0.5mol base)をゆっくりと添加し、得られた混合物をポリマーが溶解するまで室温で数時間攪拌した。
【0034】
攪拌された溶液に硫酸75g(0.75mol)をゆっくりと添加し、得られた混合物を100℃にて還流下で攪拌した。18時間後、かき混ぜを激しくして200mlの脱イオン水をさらに添加した。蒸留ヘッドをフラスコに設置して、約250mlの蒸留分(水およびプロピオン酸)を除去した。
【0035】
還流下で50%水酸化ナトリウム(250ml)を15分間かけて攪拌しながら添加した。粘性がある黄色(淡クリーム色)のポリマー相が攪拌羽に付着したので、200mlの脱イオン水を添加した。腐食性の相を捨て、ポリマーの塊を500mlの脱イオン水中で攪拌した。ポリマーは、85−100℃にて攪拌することにより、500mlの脱イオン水に溶解した。溶液をビーカーに注ぎ、ポリマーを冷却することにより結晶化させた。250mlの脱イオン水をさらに添加し、白いゼラチン状の塊を激しく攪拌し、ポリマーを吸引濾過により回収した。
【0036】
ポリマーを90℃で1.3Lの脱イオン水に再び溶解させ、濾過されるまで再結晶化させた。この結晶化および濾過のプロセスを3回行った。ポリマーをまず空気乾燥した後、25mmHgで40−60℃にて5日間乾燥させて97%の収率を得た。得られた半透明の固体をデシケータ内で琥珀色の容器に保存した。NMRを用いてポリマーを同定し、該ポリマーが直鎖ポリエチレンイミンであることを確認した。
【0037】
得られた半透明の固体をフラスコに移し、加熱した(55−60℃)クロロホルム/メタノール(90%:10% 比)に溶解させた。ポリマーが完全に溶解したら、得られた溶液を過剰のエチルエーテルを含む別のフラスコに移してポリマーを沈殿させた。ポリマー溶液がエチルエーテルに接触するとすぐに、白い微細な沈殿物が現れ始める。エーテルをデカンテーションして、粒子を窒素雰囲気下で乾燥させる。LPEIの大きな片は壁にこすり付けて、ドライアイス(または液体窒素)と混合し、すり鉢で砕いた後、フラスコに移して窒素流下で乾燥させた。得られた生成物を20メッシュのふるいで濾した後、デシケータ内で琥珀色の容器に保存した。
【0038】
NOで修飾された化合物は、粒子状のL−PEIを、磁気攪拌子を用いた高圧ガラス瓶(ACE ガラス)内でアセトニトリルに配置することにより調製された。攪拌混合物をアルゴンガスでパージし、減圧した後、NOガスタンクに接続した。次いで、混合物を80psiのNOに通し、継続的に攪拌しながら13日間反応させた。NOガスが放出された後、混合物をアルゴンでパージして流した。回転エバポレータを用いて溶媒を除去して生成物を単離し、エチルエーテルで3回洗浄した。得られた粒子をSievers 280i NOアナライザを用いて分析した。
【0039】
LPEINO粒子(0.05g)はエタノールおよびTHF(80:20)中でテコフレックス(Tecoflex)ポリマーの20%(w/w)溶液に懸濁させた。ポリマー溶液(LPEINO粒子/Tecoflexポリマー)は円錐状金属容器から紡糸され、電源に接続された銅ワイヤに吊り下げられ、ファイバの除去を促進するために、目的とするプレートはアルミニウムホイルで覆われた。ナノファイバを紡糸するのに使用される金属コーンの直径は1.5mmであり、間隔距離は33cmであり、室温にて30kVの電圧であった。テコフィリック(Tecophilic)ポリマーを用いたファイバを製造するために同じ手順が使用された。活性化剤に曝された場合、それぞれが規定時間を超えてNOを放出した。
【0040】
本発明の範囲および意義から逸脱しない様々な変更および置換は当業者に理解されるだろう。本発明は上述した具体的な実施形態に正式に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化窒素と可逆的に反応可能な担体ポリマーを含むポリマー担体ファイバ部と、
酸化窒素プレドラッグと、
反応種から前記プレドラッグを隔離する機能を有する第2ファイバを含む第2ファイバ部と、
を含む、医療装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記医療装置は、代用血管、ステント、カテーテル、および創傷被覆材からなる群から選ばれる、医療装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記ポリマー担体ファイバ部は、少なくとも1つの第二級アミン部分を含む、医療装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記ポリマー担体ファイバ部は、ポリエチレンイミン、多糖類骨格に接合されたポリエチレンイミン、およびポリエチレンイミン塩からなる群から選ばれる、医療装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記ポリマー担体ファイバ部は、ポリエチレンイミンファイバを含む、医療装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記ポリマー担体ファイバ部は、電界紡糸ナノファイバを含む、医療装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記酸化窒素プレドラッグ部は、ジアゼニウムジオラート、O−アルキル化ジアゼニウムジオラート、およびO−誘導体化ジアゼニウムジオラートからなる群から選ばれる、医療装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記酸化窒素プレドラッグ部はジアゼニウムジオラートを含む、医療装置。
【請求項9】
請求項1において、
活性化剤をさらに含む、医療装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記活性化剤はプロトン供与体である、医療装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記活性化剤は、ホスフェート、スクシナート、カルボナート、アセテート、フォルメート、プロピオナート、ブチラート、脂肪酸、およびアミノ酸からなる群から選ばれるバッファーである、医療装置。
【請求項12】
請求項10において、
前記活性化剤は水である、医療装置。
【請求項13】
請求項1において、
移動相をさらに含む、医療装置。
【請求項14】
請求項13において、
前記移動相は、活性化剤が前記酸化窒素プレドラッグ部と接触するように該活性化剤を輸送することができる、医療装置。
【請求項15】
請求項14において、
前記移動相は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、フェノール、ナフトール、多価アルコール、酢酸、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、およびヘキサメチルホスホラミドからなる群から選ばれる、医療装置。
【請求項16】
請求項1において、
前記第2ファイバは実質的に疎水性である、医療装置。
【請求項17】
請求項1において、
前記第2ファイバは、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタラート、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、およびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる、医療装置。
【請求項18】
請求項1において、
前記第2ファイバ部は付加的な強度を付与する、医療装置。
【請求項19】
請求項18において、
前記第2ファイバ部は、基板の補助なしで前記装置を独立の装置にするのに十分な強度を付与する、医療装置。

【公表番号】特表2007−526911(P2007−526911A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551389(P2006−551389)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/002266
【国際公開番号】WO2005/070008
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(505395700)ザ ユニバーシティ オブ アクロン (20)
【氏名又は名称原語表記】The University of Akron
【住所又は居所原語表記】302 E. Buchtel Common, Akron, OH 44325 U.S.A.
【Fターム(参考)】