説明

医療装置及びインプラントへの微生物の付着を低減する吸収性ポリエチレンジグリコレート共重合体

本発明は、医療装置及びインプラントのような材料への微生物の付着を低減することが見出された吸収性ポリエーテルエステルを目的とする。より具体的には、本発明は、ラクチドの豊富なモノマーと共重合されたポリエチレンジグリコレート(PEDG)を含む新規な非晶質共重合体を目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療装置及びインプラントとして使用される材料への微生物の付着を低減することが発見された吸収性ポリエーテルエステルを目的とする。より具体的には、本発明は、抗菌性付着バリヤを形成する能力を有するラクチドの豊富なモノマーと共重合されたポリエチレンジグリコレート(PEDG)を含む新規な非晶質共重合体を目的とする。
【0002】
ポロキサマー407又はTriton x100のような非イオン界面活性剤が医療用インプラントへの細菌の付着を低減し得ることが報告されている。Veyriesらは、「Control of Staphylococcal Adhesion to Polymethylmethacrylate and Enhancement of Susceptibility to Antibiotics by Poloxamer 407」(Antimicrobial Agents and Chemotherapy、Vol.44、No.4、Apr.2000、p.1093〜1096)において、成形外科用ポリメチルメタクリレートセメント上のポロキサマー407の抗付着効果、及び追加的な抗生活性効果の可能性を報告している。加えて、WO 2004030715号は、コンタクトレンズに適用されるポロキサマーのような、ポリエーテルを含む生体適合材料の表面への微生物の付着を阻害するための組成物を開示している。しかし、そのようなタイプの界面活性剤は本質的にヒトにおいて非吸収性であり、肝臓又は腎臓を通る経路を見出すことができないため、特定の分子量に限定される。加えて、これらの物質は、血中タンパク質によって容易に表面から除去される。
【0003】
また、ポリエチレングリコール(PEG)移植を使用する表面改質も周知であるが、PEGは人体に吸収性ではない。Koらは、「In Vitro and in Vivo Inhibition of Lectin Mediated Adhesion of Pseudomonas aeruginosa by Receptor Blocking Carbohydrates」(Inst.Hyg.、Cologne、Fed.Rep.Ger.Infection(Munich、Germany)(1987)、15(4)、237〜40に、N−アセチルノイラミン酸(NANA)受容体によって媒介される緑膿菌のインビトロ及びインビボでの付着を記述している。彼らは、特定の炭水化物での細菌レクチン受容体の遮断が臓器細胞への細菌の付着の防止のために臨床的関連性を有する可能性があると結論付けている。しかし、この参考文献は、ジグリコレート系共重合体が細菌付着を防止することを記述していない。
【0004】
Andjelicらは、「The Polyoxaesters」(Polymer International(2007)、56(9)、1063〜1077)に、滑らかなコーティング及び付着防止を含む多様な医療用途に好適な吸収性のポリオキサエステル及びそれらの半結晶質共重合体を記述している。しかし、この発明者らは、ジグリコレート系共重合体で細菌付着を防止することについては記述していない。
【0005】
US 2006051398号及びAndjelicらは、「Hydrophilic Absorbable Copolyester Exhibiting Zero−Order Drug Release」(Pharmaceutical Research(2006)、23(4)、821〜834)に、多様な医療用途に有用なポリ(エチレンジグリコレート)とグリコリドとの完全非晶質共重合体を記述している。しかし、これらの参考文献は、ラクチドの豊富なジグリコレート系共重合体で細菌の付着を防ぐことについては記述していない。
【0006】
US 2008243101号は、美容整形外科手術用途での充填物として有用なものとして、ポリ(エチレンジグリコレート)とカプロラクトンとの液体共重合体について記述している。
【0007】
US 2008103284号及びUS 2008103285号は、繊維、微小球、及びメルトブローン不織布構造を含む、多様な医療用途に有用なポリ(エチレンジグリコレート)とグリコリドとの半結晶質共重合体について記述している。しかし、これらの参考文献は、ラクチドの豊富なジグリコレート系共重合体で細菌の付着を防ぐことについては記述していない。
【0008】
すなわち、ラクチドとのポリ(エチレンジグリコレート)の共重合体については、公開文献及び特許文献に記述されておらず、また、抗菌性コーティング用途におけるそれらの潜在的有用性についての示唆も一切なされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
驚くべきことに、一般的な有機溶剤において可溶性又は分散性の吸収性ポリマーの新規な分類が、細菌の付着を減らすために医療装置及びインプラントのコーティングに有用であること、及び追加的に薬物放出システムとしても有用であることが発見された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に記述するのは、重縮合ポリエステルと、ラクチドの豊富なモノマーと、の反応生成物を含む非晶質共重合ポリエステルを含む組成物であり、この重縮合ポリエステルはジグリコール酸及び/又はその誘導体と、エチレングリコールと、の反応生成物を含み、この共重合ポリエステルは、その総重量に基づいて重縮合ポリエステルを約30〜70重量%含み、約5,000〜約30,000g/モルの平均分子量を含み、最も好ましくは有機溶剤である有機溶剤において可溶性である。これらの組成物は、例えば医療装置用コーティングとして使用されたとき、細菌付着を制限する能力を示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】20分培養試験において他のポリマーを有する対照と比較した本発明の組成物及び対照の抗付着性を図示する。
【図2】24時間培養試験において対照と比較した本発明の組成物の細菌付着の低減を示す。
【図3】24時間、48時間、72時間の間隔で他の材料と比較した本発明の組成物の抗菌性の阻害ゾーンを図示する。
【図4】本発明の組成物がインプラント上に20wt/wt%を超えるコーティング能力を有することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に記載される共重合ポリエステルは、細菌付着に対する抵抗力を有すること及び医療装置上のコーティング又はフィルムとして機能することが発見され、また、医療装置の材料を含むことができる。本発明の共重合ポリエステルは完全非晶質であるので、多様な有機溶剤に可溶性であり、このことは、本発明の組成物をコーティング又はフィルムとして適用するために有利である。
【0013】
一実施形態で、共重合ポリエステルは重縮合ポリマーと、ラクチドの豊富な組成物との反応生成物を含み、この重縮合ポリエステルはジグリコール酸及び/又はその誘導体と、エチレングリコールとの反応生成物を含む。
【0014】
別の実施形態では、重縮合ポリエステルは、ジグリコール酸及び/又はその誘導体と、酸の全モル数を基準にして最大約25モルパーセントの脂肪族二酸化合物と、エチレングリコールとの反応生成物を含む。具体的には、脂肪族二酸化合物は、3,6−ジオキサオクタン二酸、3,6,9−トリオキサアンデカン二酸、及びこれらの組み合わせを含むがこれに限定されない脂肪族α−ω−ジカルボン酸でよい。
【0015】
重縮合ポリエステルは、従来のプロセスを用いて従来の技法により合成され得る。例えば、縮合重合では、ジグリコール酸とエチレングリコールとを、高い温度と低い圧力で、触媒の存在下で重合することができる。様々な触媒を使用することができるが、有機金属化合物が有用であることが分かっている。合成の重縮合段階の触媒は、スズ系(例えば、第一スズオクトアート)であることが好ましい。最も望ましい触媒は、ジブチルスズオキシドであり、ジグリコール酸/エチレングリコールモノマー混合物中に、モノマーと触媒との十分に有効なモル比、例えば約5,000/1〜約100,000/1の範囲で存在する。例えば、10,000/1の比が、かなり適切であることが分かっている。反応は、典型的には、不活性雰囲気中でジグリコール酸のエステル化が完了するまで、約100℃〜約220℃、好ましくは約140℃〜約200℃の温度範囲で行われる。垂直撹拌反応器を使用するとき、望ましい反応温度が好ましくは180℃であることが分かっている。最適な反応温度は、反応器と触媒レベルに依存することがあるが、当業者の実験の使用にのみより見出すことができることに注意されたい。重縮合反応(大気圧での不活性ガス)の最初の段の後で、所望の分子量と粘性が達成されるまで低い圧力下で重合が行われる。
【0016】
重縮合ポリマーの重量平均分子量は、約2,000〜約10,000g/モルの範囲、好ましくは約4,000〜約7,000g/モルの範囲、最も好ましくは約5,000g/モルでよい。これは、約0.20〜約0.40dL/gの固有粘度範囲に相当する。
【0017】
重縮合ポリマーの分子量が、約2,000g/モルより低いときは、最終共重合ポリエステルの分子量が小さすぎて、多くの医療装置用途に必要な望ましい機械的性質は達成できない。我々は、一般に、所要の特性を達成するのに、約10,000g/モルより大きい重縮合ポリマーの分子量は必要ないことを発見した。しかしながら、この値が絶対的な制約ではないことを想起することができる。例えば、重縮合ポリマーの分子量が増大すると、最終共重合ポリエステルの調製に使用されるラクチド成分の量が減少する。
【0018】
共重合ポリエステルを調製するために使用される重縮合ポリエステルの量は、共重合ポリエステルの総重量を基準にして約30〜70重量%の範囲である。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「ラクチドの豊富な」組成物は、50重量%を超す、好ましくは約80〜約100重量%の、最も好ましくは100重量%の、ラクチド(l、d、dl、メソ)モノマーを含む組成物を意味する。他の、ラクチドの豊富な組成物の構成成分としては、グリコリド、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ε−カプロラクトン、Δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキザラート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びそれらの2つ以上の組合せを含むが、これらに限定されない。好ましいラクトンモノマーはラクチド(l、d、dl、メソ)である。
【0020】
別の実施形態では、共重合ポリエステルは、重縮合ポリエステルと2つ以上のラクトンとの反応生成物を含んでもよい。例えば、共重合ポリエステルは、重縮合ポリエステルと、ラクトンの全モル数を基準にして少なくとも50モルパーセントのラクチドと、第2のラクトンモノマーとの反応生成物を含んでもよい。
【0021】
本発明の共重合ポリエステルは、従来の方法を使用する従来の技術によって、ジヒドロキシポリ(アルキレンジグリコレート)ホモポリマー又は共重合体と、ラクチドの豊富な組成物と、の反応によって合成されるのが好都合なことがある。例えば、重縮合ポリエステルは、後のラクチド又はラクトン混合物との開環重合(ROP)でα,ω−ジヒドロキシ高分子開始剤として使用される。ラクトンモノマーは、高温で従来の有機金属触媒がある状態で、重縮合ポリエステルに共重合される。ROP用の触媒は、重縮合ポリエステル中に残留触媒として既に存在することもあり、合成のこの第2段階で添加される更なる触媒でもよい。ROP時に添加される適切な触媒は、有機金属触媒でよい。開環有機金属化合物触媒は、好ましくはスズ系(例えば、第一スズオクトアート)であり、好ましくはラクトンモノマーと触媒のモル比が約20,000/1〜無限(即ち、更なる添加触媒が使用されない)の範囲でモノマー混合物中に十分に有効な量で存在する。これにより、二塩基酸(例えば、ジグリコール酸)と触媒との比率が約10,000/1でジブチルスズオキシドなどのスズ−IV化合物を利用して、重縮合ポリエステルを調製し、次に、開環重合時に、ラクトンと添加触媒とのモル比が約240,000/1で第一スズオクトアートなどのスズ−II化合物を添加してもよい。あるいは、本発明の共重合ポリエステルは、ROP時に追加の触媒を添加しないで合成されてもよい。
【0022】
反応器が適切な熱伝達及び攪拌を提供することができる場合は、重縮合ポリエステルの合成に使用されるものと同じ反応器内で、重縮合段階の完了直後に、ROP段階を直ちに行うことができる。ラクチド又はラクトン混合物は、固体、スラリー、又は溶融形態として添加することができる。あるいは、ROPは、後日に個別の反応器内で行われてもよく、又は後日に重縮合ポリエステルに使用された反応器内で行われてもよい。その場合、重縮合ポリエステルは、その反応器から放出され、吸水と加水分解を最小にする環境で保管される。ラクチドモノマーを添加する場合、モノマーは、固体として添加されもよい。反応器は、閉じられ、減圧される。反応器は、通常、乾燥を可能にするために、長時間(例えば、夜通し)減圧下に保持される。次に、窒素が、反応器に導入されて圧力が1気圧より少し高くされ、パージサイクルは合計3回繰り返される。反応塊の温度は130℃まで上げる。いったんこの温度になったら攪拌器を作動する。次に、温度を150℃に上げて混合を完了する。この混合段階は、本発明の共重合ポリエステルを生成するには不可欠であり、その理由は、混合が不十分だと、ホモポリマー配列が形成されやすく、それにより結晶化が最適より大きくなる可能性があるからである。反応物が完全に混合されるように、現場分光学的プローブ(近赤外線など)をその場で好都合に使用することができる。追加触媒が添加される場合は、典型的には、バッチが完全に混合された後で添加される。温度は、最終反応温度(最も好ましい温度は190℃)まで素早く上げられ、典型的には4〜5時間その温度に保持される。正確な反応条件は触媒及びその濃度によって異なり、最終反応温度は約180℃〜220℃、より好ましくは約190℃〜約200℃まで変化してよい。反応時間は触媒及びその濃度に依存して約90分から数時間まで変化してよく、典型的には、モノマーからポリマーへの所望の転化が達成されるまで行われる。
【0023】
本発明の共重合ポリエステルを調製するために使用した代替反応スキームは、ラクチド又はラクトン混合物を溶融流として反応器に添加する工程を含む。これにより、重縮合ポリエステルは、まず典型的には溶融流として添加され、次に反応器が真空にされた。反応器を150℃に加熱する。溶融ラクチド(又は他のラクチドの豊富な混合物)を約135℃の温度で反応器に添加した。バッチ温度がわずかに低下するが、すぐに150℃に戻り、その時点で混合が開始される。この時点で、前述のプロセスに続く。
【0024】
上述の条件下、共重合ポリエステルの重縮合ポリエステルとラクチドは典型的には約5,000g/モル(すなわちDalton)〜約30,000g/モル、好ましくは約10,000g/モル〜約20,000g/モル、より好ましくは約12,000g/モル〜約16,000g/モルの重量平均分子量を有することになる。これらの分子量は、25℃でヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)の0.1g/dL溶液内で測定されたときに、典型的には約0.20〜約0.5デシリットル/グラム(dL/g)、好ましくは約0.30〜約0.40dL/gの有効な固有粘度を提供するのに十分である。
【0025】
本発明の共重合ポリエステルは完全非晶質であり、多様な有機溶剤に可溶性(アセトンに容易に溶解可能)であり、医療装置に直接コーティングすることによって適用することが可能であり、吸収性縫合糸、組織締結具、又は創傷治癒包帯のような装置の構成材料を含むことが可能である。本明細書で使用するとき、「容易に溶解可能」という用語は、溶剤の温度を上げる又は溶剤のpHを調整する必要なく本発明の組成物が有機溶剤に容易に溶解可能であることを意味する。
【0026】
例えば、本発明の材料の超薄膜コーティングは、メッシュ、フィルム、又は縫合糸に適用可能である。いったん適用したら、コーティングはその表面への細菌の付着を低減するために有用である。
【0027】
本発明の組成物を基材に適用するために好適な溶剤としては、限定はせず、エチルアセテート、アセトン、トルエン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、エチルラクテート、N−メチルピロリドン、及びベンジルアルコール、又はそれらの混合物が挙げられる。しかし、好ましい有機溶剤は無毒性のものである。本明細書で使用するとき、「無毒性」という用語は、100mg/m(すなわち、米国労働安全衛生局(OSHA)の8時間の時間加重平均(TWA)濃度を基準とする(例えば、29 CFR 1910.1000の表Z−1を参照))の許容被曝限度(PEL)を有する、塩化物でない及び/又は非発癌性の任意の有機溶媒を意味する。代表的な無毒性の溶剤としては、限定はせず、メタノール、エタノール、2−プロパノール、エチルアセテート、ブチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、及びキシレンが挙げられ、最も好ましいのはエタノール、2−プロパノール、エチルアセテート、アセトン、及びメチルエチルケトン(MEK)である。
【0028】
あるいは、多様な従来の射出成形及び押出し成形プロセスによって、本明細書に記載の共重合ポリエステルから医療装置のような物品を成形し、体内に直接使用してもよい。例えば、フィルムを形成するように共重合ポリエステルを成形してから、エチレンオキシド、γ又は電子ビーム滅菌(すなわち15〜40kGyの間)で滅菌することができる。あるいは、共重合ポリエステルは、医療用品の構成要素でもよく、即ち、共重合ポリエステルは、多層ヘルニア修復メッシュの1つの層を構成してもよく、又は高分子溶液中に懸濁され得る医療用品の少なくとも一部分に被覆されてもよい。
【0029】
一実施形態では、本発明は重縮合ポリエステルとラクチドとの吸収性共重合ポリエステル、より具体的には、ポリ(エチレン−co−エトキシエチレンジグリコレート)(PEDG−21)とラクチドとの反応生成物を含む吸収性共重合ポリエステルを含む組成物に関し、ここで、共重合ポリエステルは、共重合ポリエステルの全重量を基準にして約30〜70重量%のポリ(エチレン−co−エトキシエチレンジグリコレート)を含む。
【0030】
重縮合ポリエステルは、ジグリコール酸及び/又はその誘導体と、エチレングリコール及びジエチレングリコールとの反応生成物を含み、エチレングリコールはこのジオール混合物において優位を占める構成成分である。
【0031】
ポリ(エチレン−co−エトキシエチレンジグリコレート)(PEDG−21)は、ジグリコール酸、エチレングリコール及びジエチレングリコールの完全非晶質重縮合生成物である。2つのジオールが過剰に使用されたとき、得られた重縮合生成物は、水酸基で末端保護された末端基を含み、その場合、その後のラクチドなどのラクトンモノマーとの第2段の開環重合で高分子開始剤として働くことができる。本発明の共重合ポリエステルを調製するために使用される重縮合ポリエステルの量は、共重合ポリエステルの総重量を基準して約30〜70重量%の範囲である。重縮合ポリエステルと反応させることが可能な好適なラクチドモノマーとしては、限定はしないが、ラクチド(l、d、dl、メソ)及びそれらの組合せが挙げられる。好ましいラクチドモノマーはl(−)ラクチドである。
【0032】
別の実施形態で、本発明の共重合ポリエステルは、重縮合ポリエステルと、活性薬剤を更に含むラクチド組成物と、の反応生成物を含むことができる。本発明との組合せとしての活性薬剤の使用は、結果として得ることが意図される所望の利益に依存する。例えば、移植後に所望により局所的に放出可能な少なくとも1つの生物学的に活性な成分を有する本発明による共重合ポリエステルを含むインプラントを提供することが有利である場合がある。活性薬剤として好適な物質は自然発生物質でも合成物質でもよく、限定はされないが、例えば、抗生剤、抗微生物剤、抗菌剤、消毒剤、化学療法剤、細胞増殖抑制剤、転移阻害剤、抗糖尿病剤、抗真菌剤、婦人科用薬剤、泌尿器科用薬剤、抗アレルギー剤、性ホルモン剤、性ホルモン阻害剤、止血剤、ホルモン、ペプチドホルモン、抗鬱剤、ビタミンCなどビタミン、抗ヒスタミン、裸のDNA、プラスミドDNA、カチオン性DNA複合体、RNA、細胞構成物質、ワクチン、体内で自然発生する細胞又は遺伝子組み換え細胞が挙げられる。活性薬剤は封入された形態又は吸収された形態で存在し得る。そのような活性薬剤によって、その適用に従って患者の診断を改善し得る、又は、治療効果を達成し得る(例えば、創傷治癒の改善、又は炎症の抑制又は低減)。
【0033】
好ましいのは、例えば、ゲンタマイシン又はZEVTERA(商標)(セフトビプロールメドカリル)ブランドの抗生剤(Basel(スイス)のBasilea Pharmaceutica Ltd.から入手可能)のような薬剤を含む抗生剤としての活性薬剤の使用である。最も好ましいのは、オクテニジン、オクテニジンジヒドロクロリド(Schulke & Mayr(Norderstedt(ドイツ))のOctenisept(登録商標)消毒剤の有効成分として入手可能)、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)(Braun(スイス)のLavasept(登録商標)の有効成分として入手可能)、トリクロサン、銅(Cu)、銀(Ag)、ナノシルバー、金(Au)、セレン(Se)、ガリウム(Ga)、タウロリジン、N−クロロタウリン、Listerine(登録商標)口内洗浄剤のようなアルコール系消毒剤、N α−ラウリル−L−アルギニンエチルエステル(LAE)、ミリスタミドプロピルジメチルアミン(MAPD、SCHERCODINE(商標)Mの有効成分として入手可能)、オレアミドプロピルジメチルアミン(OAPD、SCHERCODINE(商標)Oの有効成分として入手可能)、及びステアルアミドプロピルジメチルアミン(SAPD、SCHERCODINE(商標)Sの有効成分として入手可能)のような、異なる細菌及び酵母菌に対して(体液の存在下でさえも)非常に有効な広範囲の抗微生物剤の使用であり、最も好ましくはオクテニジンジヒドロクロリド(以下、オクテニジンと呼ぶ)及びPHMBである。
【0034】
また、有効成分の可溶性に依存して、実施例11に示したように、本発明の共重合体及び活性薬剤を溶解するために溶剤系を使用してもよい。この実施例では、活性薬剤であるオクテニジンは、アセトン/水の溶剤混合物をメッシュ構成要素のディップコーティングに使用した。もちろん、エチルアセテート/メタノール混合物から作製されるような、他の好適な溶剤混合物、又は活性薬剤を溶解可能な他の溶剤を使用してもよい。
【0035】
加えて、本発明の組成物に造影剤を含めてもよい。そのような造影剤は、EP1392198B1号に記載のようなビジュアルマーカーを創出する生体適合性の染料であってもよく、EP 1324783 B1号に教示されているようなGdDTPA又はスーパーパラマグネティックナノ粒子(Resovist(商標)又はEndorem(商標))などの金属複合体のような、超音波造影又はMRI造影のためのガス又はガス生成物質のような造影剤であってもよい。EP1251794B1号に示されているような、純粋な酸化ジルコニウム、安定化された酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、炭化ジルコニウム、タンタル、五酸化タンタル、硫酸化バリウム、銀、ヨウ化銀、金、プラチナ、パラジウム、イリジウム、銅、酸化鉄、磁性があまり高くないインプラントスチール、非磁性のインプラントスチール、チタン、ヨウ化アルカリ、ヨウ化物、ヨウ素酸芳香族化合物、ヨウ素酸脂肪族化合物、ヨウ素酸オリゴマー、ヨウ素酸ポリマー、合金化が可能なそれらの物質の合金からなる群から選択されるX線可視性物質が含まれてもよい。
【0036】
本発明の組成物は、医療装置又はインプラントにコーティングすることが可能であり、場合によっては、医療装置又はインプラントの材料のほぼ全てを含むことができる。好適な医療装置及びインプラントとしては、限定はしないが、例えば縫合糸、管、血管移植片、ステント、歯科用インプラント、布地(織物、不織布、刺繍入り)、メッシュ、微小球、フリース、フィルム、発泡体、創傷包帯、及び袋が挙げられる。
【0037】
医療装置が本発明の材料を実質的に含むものでないとき、コーティングされる医療装置は、ポリヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、合成及び天然のオリゴ酸及びポリアミノ酸、ポリホスファゼン、ポリアンハイドライド、ポリオルトエステル、ポリホスフェート、ポリホスホネート、ポリアルコール、ポリサッカライド、ポリエーテル、ポリアミド、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、天然ポリアミノ酸、合成ポリアミノ酸、遺伝子操作により製造されたポリアミノ酸、コラーゲン、rhコラーゲン、絹、擬似ポリアミノ酸、ポリシアノアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、誘導体化されたセルロース、脂肪、蝋、脂肪酸、脂肪酸エステル、ポリリン酸エステル、それらの重合可能な物質の共重合体、再吸収性ガラス、金属、合金、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの物質を含むことができる。医療装置がメッシュインプラントの形態であるとき、好ましい材料は、ポリアルケン、ポリプロピレン、ポリエチレン、部分的にハロゲン化されたポリオレフィン、全体がハロゲン化されたポリオレフィン、フッ素化ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリシリコーン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、重合可能な物質の共重合体、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの物質を含む。
【0038】
従来の技法を使用して、本発明の材料を医療装置及びインプラントに適用することが可能であり、そのような技法としては、限定はしないが、ディップコーティング、スプレー、インクジェット(溶剤噴射)適用、膨潤、焼結を伴うパウダーコーティング、射出成形、及びプラズマ又はレーザー蒸着コーティングが挙げられる。
【0039】
本発明の組成物の適用は、好ましくはインプラントの約1000ppm(0.1重量%)〜約200,000ppm(20重量%)、最も好ましくは約8000ppm(0.8重量%)〜約20,000ppm(2.0重量%)を含むコーティングを形成する。
【実施例】
【0040】
実施例1.ヒドロキシ終端ポリ(エチレンジグリコレート)(PEDG)の合成
かみ合うHELICONE模様付きブレードを有するツインブレード攪拌反応器(Atlantic 10CV反応器)を使用した。反応器に、ジグリコール酸10.0kg、エチレングリコール(EG)13.9kg、ジブチルスズオキシド触媒1.86グラムを充填した後、圧力を133.3Pa(1Torr)未満に下げ、一晩真空を保持した。翌日、乾燥窒素(代わりにアルゴンでもよい)で真空を解放し、混合物の加熱を開始した。反応器の温度が150℃に達したとき、攪拌器の速度を30RPMに設定した。まもなく、主に水(エステル化の副生成物)を含有する最初の留出物が現れた。反応は、ほぼ全ての水が蒸留され及び/又は留出物にEGの最初の痕跡が現れるまで、更に約2時間165℃で継続された。最初の窒素/アルゴン段階が完了した後、バッチの温度を165℃に維持したまま圧力を完全真空まで徐々に下げた。残りの反応の間、約3.9〜6.7Pa(30〜50mTorr)の真空を維持した。ポリマーが所望の分子量になるように、溶融粘度と溶液粘度を定期的に確認した。ヒドロキシ末端保護されたポリマーが、真空下で、異なる反応時間に一部で分配された。反応時間が長いほど、材料の分子量は高い。生成物は完全非晶質の無色の強粘液体である。得られたPEDGプレポリマーの固有粘度(IV)は約0.30〜約0.40dL/gの範囲であり、約5,000〜10,000g/モルの重量平均分子量に相当する。
【0041】
実施例2.ヒドロキシ終端ポリ(エチレンジグリコレート)とL(−)−ラクチドの共重合(PLLA):共重合組成物(PEDG/PLLA 40/60重量%)
実施例1で生成したIV=0.37dL/gのポリ(エチレンジグリコレート)の一部分(36.0g)を、炉で乾燥した250ミリリットル丸底フラスコに添加した。窒素グローブボックスにL(−)−ラクチド(54.0g)と触媒(2−エチルヘキサン酸第一スズオクトアート)0.019mLを加えた。250mLフラスコの首開口部に機械的攪拌器、窒素アダプター、及び攪拌器ベアリングを加えた。室温で容器を66.7Pa(500mTorr)未満で真空吸引し、一晩おいた。段階的温度プロファイルを用いてポリマーを反応させた。翌日、窒素でフラスコを放出し、油槽に置いた。攪拌をせず、槽の温度を190℃に設定した。温度が約110℃に達した後、機械的攪拌器を4RPMに設定した。約170℃で溶解物が均質及び透明の外観を呈したとき、攪拌を2RPMに下げた。190℃で約5時間反応を保持した。5時間後、反応を停止し、窒素下で一晩冷却させた。
【0042】
全てのガラス挿入物をフラスコから取り出し、機械的攪拌器、ポリマー樹脂、及び丸底フラスコのみとした。次いで、フラスコをアルミニウムホイルで包み、液体窒素急冷によって反応フラスコからポリマー生成物を取り出した。残りのガラス破片を研削/研磨して、ポリマー生成物から除去した。ポリマーフラグメントを収集し、テフロンコーティングされたパンに載せた。パンを真空炉に入れ、一晩真空吸引した。翌日、真空炉を110℃に設定し、16時間かけてポリマーから揮発物を取り除いた。ポリマー転化率は98.5%であった。
【0043】
室温で、この共重合体は薄黄色の完全非晶質の固体であり、Fisher−Johns法で測定した軟化点は98℃である。重量平均分子量(Mw)は25,900g/モル、IVは0.65dL/gである。
【0044】
実施例3.ヒドロキシ終端ポリ(エチレンジグリコレート)とL(−)−ラクチドの共重合(PLLA):共重合組成物(PEDG/PLLA 50/50重量%)
実施例1で生成したIV=0.37dL/gのポリ(エチレンジグリコレート)の一部分(50.0g)を、炉で乾燥した250ミリリットル丸底フラスコに添加した。窒素グローブボックスにL(−)−ラクチド(50.0g)と触媒(第一スズオクトアート)0.018mLを加えた。重合手順は実施例2に記載したものと全く同じである。
【0045】
最終的なポリマー転化率は97.4%と算出された。室温で、この共重合体は薄黄色の完全非晶質の固体であり、Fisher−Johns法で測定した軟化点は83℃である。重量平均分子量(Mw)は24,000g/モル、IVは0.53dL/gである。
【0046】
実施例4.ヒドロキシ終端ポリ(エチレンジグリコレート)とL(−)−ラクチドの共重合(PLLA):共重合組成物(PEDG/PLLA 60/40重量%)
実施例1で生成したIV=0.37dL/gのポリ(エチレンジグリコレート)の一部分(60.0g)を、炉で乾燥した250ミリリットル丸底フラスコに添加した。窒素グローブボックスにL(−)−ラクチド(40.0g)と触媒(第一スズオクトアート)0.014mLを加えた。重合手順は実施例2に記載したものと全く同じである。
【0047】
最終的なポリマー転化率は98.0%と算出された。室温で、この共重合体は薄黄色の完全非晶質の固体であり、Fisher−Johns法で測定した軟化点は81℃である。重量平均分子量(Mw)は18,500g/モル、IVは0.45dL/gである。
【0048】
実施例5A.ヒドロキシ終端ポリ(エチレンジグリコレート)とL(−)−ラクチドの共重合(PLLA):共重合組成物(PEDG/PLLA 60/40重量%)
実施例1で生成したIV=0.41dL/gのポリ(エチレンジグリコレート)の一部分(60.0g)を、炉で乾燥した250ミリリットル丸底フラスコに添加した。窒素グローブボックスにL(−)−ラクチド(40.0g)と触媒(第一スズオクトアート)0.014mLを加えた。重合手順は実施例2に記載した通りであった。
【0049】
最終的なポリマー転化率は99.0%と算出された。室温で、この共重合体は薄黄色の完全非晶質の固体である。重量平均分子量(Mw)は16,800g/モル、IVは0.50dL/gである。乾燥した樹脂中の残留L(−)−ラクチドモノマーは0.6重量%であった。
【0050】
実施例5B.ヒドロキシ終端ポリ(エチレンジグリコレート)とL(−)−ラクチドの共重合(PLLA):共重合組成物(PEDG/PLLA 60/40重量%)
実施例1で生成したIV=0.31dL/gのポリ(エチレンジグリコレート)の一部分(60.0g)を、炉で乾燥した250ミリリットル丸底フラスコに添加した。窒素グローブボックスにL(−)−ラクチド(40.0g)と触媒(第一スズオクトアート)0.014mLを加えた。重合手順は実施例2に記載した通りであった。
【0051】
最終的なポリマー転化率は97.3%と算出された。室温で、この共重合体は薄黄色の完全非晶質の固体である。重量平均分子量(Mw)は11,200g/モル、IVは0.37dL/gである。乾燥した樹脂中の残留L(−)−ラクチドモノマーは0.4重量%であった。
【0052】
実施例6.多様な有機溶剤中の溶解試験
この試験に記載されるPEDG/PLLA共重合体は、アセトンに容易に溶解可能であり、いくつかの実施形態では、困難ではあるがエチルアセテート、エチルラクテート、N−メチルピロリドン、及びベンジルアルコールに溶解可能であることが判明している(すなわち、場合によっては室温での完全な溶解に18〜24時間を要する)。PEDG/PLLA共重合体は、ベンジルベンゾエートに本質的に不溶性である。また、PEDG成分に対しPLLA成分を相対的に増すにつれて、溶解性も増すことが観察された。また、下記実施例4に記載されるようにPEDG/PLLA共重合体のマイクロディスパーションが有機溶剤中に形成された事例でもなお、十分なコーティング溶液は達成された。
【0053】
実施例7.PEDG/PLLA共重合体の物性
実施例2〜4に記載した共重合体の物性を調べるために、Tetrahedronから入手可能なホットプレス(MTP−14 Tetrahedron(商標)Compression Moldingプレス)を使用して、いくつかの0.13ミリメートル(5ミル)のフィルムを圧縮成形した。多様な物性試験の結果を表1にまとめた。
【表1】

備考:
1.広がり角度は、水滴がどれだけ速くポリマーに吸収されるかの尺度である。数値が高いほど、バルクへの水の拡散が速い。
2.加水分解プロファイルのデータは、脱イオン水(pH=7.3、0.05N NaOH)において75℃で自動化された加水分解装置から得た。
【0054】
表1を参照すると、PEDG含有量がより高い共重合体で作製されたフィルムは、より低いガラス転移温度(Tg)及びより弱い引張り強度並びに弾性率を示すが、はるかに高い伸び量を呈する。更に、PEDGの濃度を増すと、フィルムの表面親水性(接触角測定による)及びバルク親水性(加水分解実験による)が増す。
【0055】
実施例8.インビトロ細菌付着検査
コーティング手順
0.13ミリメートル(5ミル)のPROLENE(登録商標)ポリプロピレンメッシュ(Ethicon,Inc.)を10cm×3mの縦長片に切断し、エチルアセテート中にそれぞれのコーティング化合物を1.5%(w/w)含有するコーティング槽を通して約3mm/sの速度で引き、空気乾燥し、所望のサイズに切断し、エチレンオキシドで滅菌した。
【0056】
71−1及び71−2とラベル付けされた、実施例4に記載した共重合体を用いた試料は、エチルアセテート中にマイクロディスパーションを形成した。71−3とラベル付けされた、実施例2に記載した共重合体でコーティングした試料は、エチルアセテートに透明な溶液を形成した。
【0057】
短期細菌付着試験−20分
この試験は20分間行った。最初の10分間は試験試料を血漿中に予め培養し、その後の10分間はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)での細菌付着を含み、これは早期細菌付着に対する良好な兆候を示す。トリクロサンではラグタイム(「遅れ時間(time-to-kill)」と呼ばれる)があるため、この「遅れ時間」の前の細菌付着を減らす何らかのものでこれを補完することは有益である。緩く付着した細菌はトゥイーン/レシチン溶液で3回漱ぐことによって除去した。残りの付着細菌は超音波処理によって除去した。細菌数は寒天平板計数によって数えた。
【0058】
表2及び図1は、細菌付着試験の結果を示す。驚くべきことに、本発明のPEDG/PLLAでコーティングされた試料は、トリクロサン、又はTriton X−100とLutron F68の組合せとしてのトリクロサンのような強力な阻害剤よりも更に細菌付着を低減した。
加えて、血液寒天付着実験で示されたように、薬剤の抗微生物活性は増加した。
【表2】

接種材料:2.85E+06コロニー形成単位(CFU)/ml
合計CFU:5.70E+07
【0059】
実施例9.タンパク質(FCS)存在下での、ポリマーでコーティングされた及びコーティングされていないグリコリド/ε−カプロラクトンフィルムへの黄色ブドウ球菌の長期付着アッセイ(24時間)
グリコリド及びε−カプロラクトン(75/25モル%)の共重合体から作製された樹脂を50μmのフィルムに押出し成形した。10〜100マイクロメートルの範囲のそのようなフィルムは腸管付着を防ぐための付着バリヤとして有用であり、付着バリヤ手術用メッシュとして有用な手術用メッシュとして組み立てることも可能である。また、約100マイクロメートルのグリコリド/ε−カプロラクトンフィルムをUltrapro Hernia System(商標)で補強部材として使用する。
【0060】
グリコリド/ε−カプロラクトンフィルムは、培養時間2分、ドロー速度(draw speed)約3mm/sで、実施例5A及び実施例5Bのアセトン中1%(w/w)溶液にディップコーティングした。
【0061】
試料は15分間乾燥し、真空にて保管し、直径2cmの円盤に切断し、エチレンオキシドを用いて滅菌し、縫合糸に使用されるアルミニウムブリスターに乾燥包装した。光学顕微鏡下で不均質性(non-homogenicity)は観察されなかった。
【0062】
試料は、トリプシン大豆ブロス(TSB)、生理食塩水、及び熱不活性化し滅菌濾過したウシ胎児血清(FCS)20%を含有する黄色ブドウ球菌培地(2mL、1E6/mL)に、シェーカー内で24時間、37℃で植菌した。緩く付着した細菌は、トゥイーン/レシチン溶液で3回漱ぐことによって試料から取り除いた。残りの付着細菌は超音波処理によって除去した。細菌数は寒天平板計数によって数えた。表3を参照すると、コーティングされていないメッシュ(対照)と比較したCFU付着の低減効果は、実施例5Aの組成物でコーティングしたフィルムでは64%、実施例5Bのものでは79%であることがわかる。これらの結果を図2にグラフで表す。
【表3】

【0063】
実施例10.阻止帯試験
実施例8からの滅菌された試料に対し、ヒツジ血液寒天を含有する阻止帯(ZOI)試験を行った。試料は24時間後に新しい平板に移動した。全てのトリクロサンコーティングされたメッシュは3日間にわたって持続作用を示した。
【0064】
ZOI試験の結果を表4に記載し、図3に示す。図3を参照すると、トリクロサンを含むポリマーコーティング又は界面活性剤コーティングされた全てのメッシュは、トリクロサンのみでコーティングされたメッシュと比べて血液寒天においてZOIの増加を示した。一方、本発明の実施例2でコーティングされたメッシュは、2日間にかけて最大のZOIを示した。トリクロサンを含まない本発明のポリマーのみでコーティングされた試料は、24時間の試験中、わずかな静菌性作用を示し、1.8mmのZOIをもたらした。
【表4】

【0065】
実施例11.大腸菌での7日間の生体内ラット感染研究
対照:メッシュ−ラミネート(AB119)
Ultrapro(登録商標)メッシュ構造を有する軽量の外科手術用0.09ミリメートル(3.5ミル)ポリプロピレンメッシュを20マイクロメートルのグリコリド/ε−カプロラクトンフィルムの間で、8マイクロメートルのポリ(p−ジオキサノン)、(PDS)フィルムを融解接着剤として用いて加熱積層した。1.5cm円盤を型抜きし、インプラントを包装し、エチレンオキシドを用いて滅菌した。
【0066】
試験品:PEDG/PLLAマトリックスに分散された1600ppmのオクテニジンを含むメッシュ−ラミネート。
記載のメッシュ−ラミネート(AB119)は、オクテニジン塩酸塩0.1%及び60/40 PEDG/PLLA共重合体(実施例5B(AB112))(w/w)0.9%を含む水/アセトン(10%/90%)(w/w)溶液にディップコーティングし、空気乾燥し、真空乾燥した。メッシュ及びフィルムをこのコーティングに含浸する。インプラントに蒸着したオクテニジンは合計1600ppmと測定された。
【0067】
直径1.5cmの円盤形インプラント(試験インプラント及び対照インプラント)を、幼年雄Sprague−Dawleyラット(体重300gm〜400gm)に皮下移植し、1 E5 CFUの大腸菌(菌株ATCC 25922)を接種した。7日後に、インプラント上及び周囲組織内の細菌を測定した。
【0068】
表5は、メッシュ上及び周囲の組織内の結果を示す。60/40 PEDG/PLLA/オクテニジンコーティングでコーティングされたメッシュは5logを越す細菌の有意な低減をもたらした(99.999%)。
【表5】

【0069】
実施例12.黄色ブドウ球菌での7日間の生体内ラット感染研究
黄色ブドウ球菌(CBE71)を用いて、インプラントにつき1つのE7細菌を接種し、実施例11に記載したのと同じ試験を行った。
【0070】
メッシュ上にPEDG/PLLA共重合体(実施例5B)コーティングを含有する試料(表6のAB74)は、1週間の移植後に対照(ポリプロピレンメッシュ)と比べて約80%の低減をもたらした。
【0071】
実施例5Bの共重合体とオクテニジンのコーティングを含有するメッシュ試料(表2のAB112)は、1週間の移植後に無菌のメッシュを示した。メッシュ上及び周囲組織に生存細菌は見つからなかった。
【表6】

【0072】
比較対照実施例ではなく追加的に、2週間の生体内ラット試験を行い、グリコリド−カプロラクトン共重合体メッシュラミネート上の1700ppmのオクテニジンコーティングの有効性を調べた。その結果、試験終了時に細菌数はインプラントにつきわずか10〜100個であった。2週間の生体内ラット研究における本発明の組成物の存在による何らかの有益な効果を確立するために本発明の組成物とオクテニジンの組合せの効果を調べるには、更なる比較実施例が必要とされる。
【0073】
実施例13.無毒性溶剤中の溶解度
本実施例は、アセトンにおける本発明の組成物の溶解度を実証する。なお、本発明の高分子組成物とオクテニジンの組合せがアセトン/水(90/10)混合液に可溶性を示したことを述べておく(すなわち、本発明のポリマーを溶液中に保存するためのアセトン、オクテニジンを溶液中に保存するための水)。
【0074】
20マイクロメートルのグリコリド−カプロラクトンフィルムの間に積層したポリプロピレンメッシュの複合体に実施例5A及び5Bの組成物をコーティングした。表7に記載(及び図4に図示)の結果は、アセトン中に溶解した本発明の組成物の実施形態が、乾燥後にメッシュ上に約200000ppm(20% w/w)以上で適用され得ることを示す。
【表7】

【0075】
本発明は、その詳細な実施例に関して図示及び説明が行われたが、当業者には、当該形態及び詳細における様々な変更が、請求される発明の主旨及び範囲から逸脱することなく行われ得ることが理解されるであろう。
【0076】
〔実施の態様〕
(1) 移植可能な医療装置であって、重縮合ポリエステルと、ラクチドの豊富な組成物と、の反応生成物を含む非晶質共重合ポリエステルを含む組成物のコーティングを含み、前記重縮合ポリエステルが、ジグリコール酸又はその誘導体と、エチレングリコールと、の反応生成物を含み、前記共重合ポリエステルが、前記共重合ポリエステルの総重量に基づいて約30〜70重量%の前記重縮合ポリエステルを含み、かつ約5,000〜約30,000g/モルの平均分子量を含み、有機溶剤において可溶性である、医療装置。
(2) 前記共重合ポリエステルが、前記共重合ポリエステルの総重量に基づいて約40〜60重量%の前記重縮合ポリエステルを含む、実施態様1に記載の医療装置。
(3) 前記共重合ポリエステルが、前記共重合ポリエステルの総重量に基づいて約50重量%の前記重縮合ポリエステルを含む、実施態様1に記載の医療装置。
(4) 重縮合ポリマーの平均分子量が、約2,000〜10,000g/モルの平均分子量を含む、実施態様1に記載の医療装置。
(5) 活性薬剤を更に含む、実施態様1に記載の医療装置。
(6) 前記活性薬剤が、天然成分、合成成分、抗生剤、化学療法剤、細胞増殖抑制剤、転移阻害剤、抗糖尿病薬剤、抗真菌剤、抗微生物剤、抗菌剤、ビタミン、婦人科用薬剤、泌尿器科用薬剤、抗アレルギー剤、性ホルモン、性ホルモン阻害剤、止血剤(haemostyptics)、ホルモン、ペプチドホルモン、ビタミン、抗鬱剤、抗ヒスタミン、裸のDNA、プラスミドDNA、カチオン性DNA複合体、RNA、細胞構成物質、ワクチン、体内で自然発生する細胞、遺伝子組み換え細胞、及びそれらの混合物からなる群から選択される、実施態様5に記載の医療装置。
(7) 前記活性薬剤が、オクテニジン、PHMB、トリクロサン、銅、銀、ナノシルバー、金、セレン、ガリウム、タウロリジン、N−クロロタウリン、アルコール、LAE、MAPD、OAPD、及びそれらの混合物からなる群から選択される抗微生物剤である、実施態様6に記載の医療装置。
(8) 前記抗微生物剤が、トリクロサンである、実施態様7に記載の医療装置。
(9) 前記抗微生物剤が、オクテニジンである、実施態様7に記載の医療装置。
(10) 前記抗微生物剤が、PHMBである、実施態様7に記載の医療装置。
【0077】
(11) 前記ラクチドの豊富な組成物が、50重量パーセントを超す(l、d、dl、メソ)ラクチドモノマーを含み、残りの構成要素が、グリコリド、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ε−カプロラクトン、Δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキザラート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン(6,8-dioxabicycloctane-7-one)、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を含む、実施態様1に記載の医療装置。
(12) 前記医療装置が、縫合糸、管、血管移植片、ステント、歯科用インプラント、布地、メッシュ、微小球、フリース、フィルム、発泡体、不織布、織布、創傷包帯、袋、刺繍入りの布地、及びそれらの組合せからなる群から選択される、実施態様1に記載の医療装置。
(13) 前記有機溶剤が、無毒性の溶剤である、実施態様1に記載の医療装置。
(14) 前記無毒性の溶剤が、エタノール、2−プロパノール、エチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、及びそれらの混合物からなる群から選択される、実施態様13に記載の医療装置。
(15) 抗微生物性付着バリヤであって、重縮合ポリエステルと、ラクチドの豊富な組成物と、の反応生成物を含む非晶質共重合ポリエステルを含み、前記重縮合ポリエステルが、ジグリコール酸又はその誘導体と、エチレングリコールと、の反応生成物を含み、前記共重合ポリエステルが、前記共重合ポリエステルの総重量に基づいて約30〜70重量%の前記重縮合ポリエステルを含み、かつ約5,000〜約30,000g/モルの平均分子量を含み、有機溶剤において可溶性である、抗微生物性付着バリヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植可能な医療装置であって、重縮合ポリエステルと、ラクチドの豊富な組成物と、の反応生成物を含む非晶質共重合ポリエステルを含む組成物のコーティングを含み、前記重縮合ポリエステルが、ジグリコール酸又はその誘導体と、エチレングリコールと、の反応生成物を含み、前記共重合ポリエステルが、前記共重合ポリエステルの総重量に基づいて約30〜70重量%の前記重縮合ポリエステルを含み、かつ約5,000〜約30,000g/モルの平均分子量を含み、有機溶剤において可溶性である、医療装置。
【請求項2】
前記共重合ポリエステルが、前記共重合ポリエステルの総重量に基づいて約40〜60重量%の前記重縮合ポリエステルを含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項3】
前記共重合ポリエステルが、前記共重合ポリエステルの総重量に基づいて約50重量%の前記重縮合ポリエステルを含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項4】
重縮合ポリマーの平均分子量が、約2,000〜10,000g/モルの平均分子量を含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項5】
活性薬剤を更に含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項6】
前記活性薬剤が、天然成分、合成成分、抗生剤、化学療法剤、細胞増殖抑制剤、転移阻害剤、抗糖尿病薬剤、抗真菌剤、抗微生物剤、抗菌剤、ビタミン、婦人科用薬剤、泌尿器科用薬剤、抗アレルギー剤、性ホルモン、性ホルモン阻害剤、止血剤、ホルモン、ペプチドホルモン、ビタミン、抗鬱剤、抗ヒスタミン、裸のDNA、プラスミドDNA、カチオン性DNA複合体、RNA、細胞構成物質、ワクチン、体内で自然発生する細胞、遺伝子組み換え細胞、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の医療装置。
【請求項7】
前記活性薬剤が、オクテニジン、PHMB、トリクロサン、銅、銀、ナノシルバー、金、セレン、ガリウム、タウロリジン、N−クロロタウリン、アルコール、LAE、MAPD、OAPD、及びそれらの混合物からなる群から選択される抗微生物剤である、請求項6に記載の医療装置。
【請求項8】
前記抗微生物剤が、トリクロサンである、請求項7に記載の医療装置。
【請求項9】
前記抗微生物剤が、オクテニジンである、請求項7に記載の医療装置。
【請求項10】
前記抗微生物剤が、PHMBである、請求項7に記載の医療装置。
【請求項11】
前記ラクチドの豊富な組成物が、50重量パーセントを超す(l、d、dl、メソ)ラクチドモノマーを含み、残りの構成要素が、グリコリド、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ε−カプロラクトン、Δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキザラート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、6,8−ジオキサビシクロクタン−7−オン、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項12】
前記医療装置が、縫合糸、管、血管移植片、ステント、歯科用インプラント、布地、メッシュ、微小球、フリース、フィルム、発泡体、不織布、織布、創傷包帯、袋、刺繍入りの布地、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の医療装置。
【請求項13】
前記有機溶剤が、無毒性の溶剤である、請求項1に記載の医療装置。
【請求項14】
前記無毒性の溶剤が、エタノール、2−プロパノール、エチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項13に記載の医療装置。
【請求項15】
抗微生物性付着バリヤであって、重縮合ポリエステルと、ラクチドの豊富な組成物と、の反応生成物を含む非晶質共重合ポリエステルを含み、前記重縮合ポリエステルが、ジグリコール酸又はその誘導体と、エチレングリコールと、の反応生成物を含み、前記共重合ポリエステルが、前記共重合ポリエステルの総重量に基づいて約30〜70重量%の前記重縮合ポリエステルを含み、かつ約5,000〜約30,000g/モルの平均分子量を含み、有機溶剤において可溶性である、抗微生物性付着バリヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−509250(P2013−509250A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536936(P2012−536936)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/054020
【国際公開番号】WO2011/053562
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】