説明

医薬品中間体として許容しうる高純度な光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールの製造方法

【課題】 医薬品中間体として許容しうる高純度な光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールの工業的規模での生産に適した優れた製造方法を提供する。
【解決手段】 3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルを脱エステル化することにより光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸とし、これを晶析により高純度化した後に、副反応を高度に制御した還元反応を行うことによって、医薬品中間体として許容しうる高純度な光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品中間体として許容しうる高純度な光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールの製造方法に関する。特に、アリール基が3−クロロフェニル基である光学活性1−(3−クロロフェニル)−1,3−プロパンジオールは、B型肝炎治療薬Pradefovirの合成中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
医薬品中間体においては、高い品質が要求されることから、化合物の性状に合わせて最終工程に蒸留や晶析等の精製工程が実施されるのが一般的である。
【0003】
B型肝炎治療薬Pradefovirの合成中間体として有用な光学活性1−(3−クロロフェニル)−1,3−プロパンジオールについても、幾つかの製造方法(特許文献1、2、3、非特許文献1)が知られているが、取得される粗1−(3−クロロフェニル)−1,3−プロパンジオールに対して、いずれも最終工程で蒸留による精製が施されている。しかしながら、光学活性1−(3−クロロフェニル)−1,3−プロパンジオールはジオール構造を有しているため、高沸点油状物(文献値140℃/0.2Torr)である。従い、蒸留による精製を行うには高真空、高温度が必要となり、一般的な医薬品中間体の製造設備での実施は非常に困難であった。
【0004】
また、高度な設備を用いて、蒸留精製を行った場合も、高真空、高温度条件で長時間実施することになり、不経済であるばかりでなく、熱安定性に起因する分解等も懸念される。そのため、蒸留による精製を必要としない、医薬品中間体として許容しうる高純度の光学活性1−(3−クロロフェニル)−1,3−プロパンジオールの工業的規模に適した製造方法を開発することは経済面、および品質の両面で極めて重要な課題であった。
【0005】
【特許文献1】US2003/0229225
【特許文献2】WO03/095665
【特許文献3】WO2006/033709
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.2004,126,5154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を鑑み、医薬品中間体として許容できる高い純度を有する光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールを、最終工程で蒸留する必要がなく、かつ工業的規模での実施に適した製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、容易に入手可能である光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルから、光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸へと誘導した後晶析することにより一旦高純度化し、これを副反応物の生成を高度に抑制した還元反応を実施することにより、従来の課題であった1−アリール−1,3−プロパンジオールの蒸留精製が必要のない製造法を開発するに至った。即ち、本発明は、一般式(1);
【0008】
【化2】

(式中、Arは置換基を有してもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。Rは炭素数1〜10の環状若しくは非環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜10のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。*は不斉炭素を表す。)で表される光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルを脱エステル化することにより光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸とし、これを晶析精製し、最後にカルボキシル基を還元することを特徴とする光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる方法によれば、工業的規模で操作性、経済性に優れ、医薬品中間体として許容しうる高純度な光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールを簡便且つ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細について各工程別に説明する。
【0011】
まず、一般式(1)で表される化合物から光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸を製造する工程について説明する。
【0012】
本工程の原料である一般式(1)で表される化合物の製造方法は幾つか知られており、一般式(1)で表される化合物は、例えば、3−オキソ−3−アリールプロピオン酸エステルのカルボニル基をエナンチオ選択的に還元反応を行うことにより得ることができる。3−オキソプロピオン酸エステル誘導体のエナンチオ選択的な還元反応としては、例えば、遷移金属触媒を用いて不斉還元する方法(WO2006/033709)やオキサザボロリジン誘導体を触媒とし、ボラン−THF錯体を用いて還元反応を行う方法(特許第3158507号)又は微生物を作用させることにより還元反応を行う方法(特許第2902031号)等がある。
【0013】
一般式(1)で表される光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルにおいて、Arは置換基を有してもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。具体的には、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−ニメトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、等が挙げられる。置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、エステル基、カルボキシル基、オキソ基などを挙げることができる。これらのうち、好ましいのはハロゲンが置換したフェニル基であり、特に好ましいのはクロロフェニル基、最も好ましくは3−クロロフェニル基である。
【0014】
Rは炭素数1〜10の環状若しくは非環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜10のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。
【0015】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、シクロプロピル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−へキシル基、シクロヘキシル基、n−へプチル基、シクロヘキシルメチル基、n−オクチル基、n−デシル基、などを挙げることができる。
【0016】
アラルキル基としては、ベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、2−ニトロベンジル基、3−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、2−クロロベンジル基、3−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基などを挙げることができる。
【0017】
アリール基としては、フェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−ニメトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基等が挙げられる。
【0018】
これらのうちアルキル基が好ましく、特に、メチル基又はエチル基が最も好ましい。
【0019】
置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、エステル基、カルボキシル基、オキソ基などを挙げることができる。
【0020】
*は不斉炭素を表し、R体の絶対配置を有するものであってもよく、S体の絶対配置を有するものであってもよい。
【0021】
本工程では、一般式(1)で表される化合物のエステル基を脱エステル化することにより、光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸を製造する。ここで脱エステル化とは、エステル基をカルボキシル基に変換する反応を意味する。脱エステルの方法は一般式(1)で表される化合物のRの種類にもよるが、一般的な方法、例えばPROTECTIVE GROUPS in ORGANIC SYNTHESIS THIRD EDITIONに記載の方法により実施できる。その中でも、水酸化アルカリ金属化合物を用いる方法が経済性、簡便性の点から好適に実施でき、水酸化ナトリウムを用いる方法が最も好適に実施できる。
【0022】
水酸化アルカリ金属化合物を用いる方法において、水酸化アルカリ金属化合物の使用量は一般式(1)で表される化合物のRの種類にもよるが、一般式(1)で表される化合物に対して0.5〜10モル当量の範囲で好適に使用でき、1.0〜2.0モル当量の範囲で最も好適に使用できる。
【0023】
反応には、通常、溶媒が使用される。反応溶媒としては、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン等の非プロトン性溶媒、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、および水が挙げられる。上記溶媒は単独で用いてもよいし、2以上の溶媒を混合して用いてもよい。混合して用いる場合、その混合比率に特に制限はない。上記溶媒のうち、好適なものはメタノール、エタノールである。
【0024】
反応温度としては、−30℃から用いる溶媒の沸点の範囲で選択でき、好ましくは0℃〜60℃の範囲である。また、反応時間は通常、30分から24時間を要する。
【0025】
反応終了後は、必要に応じて溶媒を留去後、反応液を水に加えるか、又は、反応液に水を加えた後、さらに酸を加えて反応液を酸性にし、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルムなどの有機溶媒で抽出、水洗浄、濃縮などの操作を経て光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸を取得することができる。
【0026】
上述のようにして得られた光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸は、本工程の原料である一般式(1)で表される化合物の純度にもよるが、一般的に不純物を含んでおり純度は低い。従い、通常、このまま還元反応を行うことにより得られる1−アリール−1,3−プロパンジオールの純度も低くなる。しかし、晶析を行うことにより高純度の光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸を取得すれば、還元反応によって得られる1−アリール−1,3−プロパンジオールの純度も高めることができる。
【0027】
晶析で用いる溶媒としては、高純度の光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸を取得できる溶媒であれば特に限定されないが、例えば酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、クロロベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの非プロトン性溶媒、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒や水などが挙げられる。上記溶媒は単独で用いてもよいし、2以上の溶媒を混合して用いてもよく、この場合、その混合比率に特に制限はない。上記溶媒のうち、好適なのは酢酸エチル/へキサン、トルエン/ヘキサンの混合溶媒、あるいはトルエンである。
【0028】
晶析での基質濃度は、溶媒に対する光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸で表される化合物の濃度として、通常、1wt/v%〜40wt/v%であるが、好ましくは1wt/v%〜30w/v%である。ここで、wt/v%=(3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸の重量(g)/溶媒の体積(ml))×100と定義される。
【0029】
反応温度としては、−30℃から用いる溶媒の沸点の範囲から選択でき、好ましくは−10℃〜60℃の範囲である。
【0030】
次工程の還元反応方法にもよるが、取得する光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸の化学純度は、95重量%以上が好ましいが、98重量%以上がさらに好ましい。また、本晶析により光学純度も向上することがある。
【0031】
かくして高化学純度、高光学純度を有する3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸が取得できる。
【0032】
次に、光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸から光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールを製造する工程について説明する。本工程においては、光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸のカルボン酸を還元剤を作用させて還元することにより光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールを製造する。
【0033】
反応は、目的生成物である1−アリール−1,3−プロパンジオールを精製する必要がないように、副反応が起こらない条件で実施される。
【0034】
反応に使用する還元剤の種類として、例えば、水素化金属化合物や水素化金属化合物と添加剤を混合したものが挙げられる。
【0035】
水素化金属化合物としては水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物が挙げられる。水素化ホウ素化合物としては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、シアノトリ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウムが挙げられる。
【0036】
添加剤としては三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、クロロトリメチルシランなどのルイス酸類や臭素、ヨウ素などのハロゲンやメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸などのブレンステッド酸などが挙げられる。これらのうち好ましいのは、水素化ホウ素ナトリウムと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、あるいは水素化ホウ素ナトリウムと硫酸の組み合わせである。
【0037】
これらのなかで、副反応を抑制できる好ましい還元剤としては水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。また、好ましい添加剤としては、硫酸、ヨウ素、クロロトリメチルシランが挙げられる。
【0038】
還元剤の使用量については、使用する還元剤の種類にもよるが、光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸に対して0.2〜10.0モル当量の範囲であり、1.0〜3.0モル当量の範囲で最も好適に使用できる。
【0039】
反応溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン等の非プロトン性溶媒やジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。上記溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。混合して用いる場合、その混合比率に特に制限はない。上記溶媒のうち、好適なものはエーテル系溶媒であり、さらに好適な溶媒はテトラヒドロフランである。
【0040】
反応温度としては、−30℃から用いる溶媒の沸点の範囲から選択でき、好ましくは−20℃〜30℃の範囲である。また、反応時間は通常、1時間から24時間を要する。
【0041】
反応終了後は、必要に応じて溶媒を留去後、反応液を水に加えるか、又は、反応液に水を加えた後、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルムなどの有機溶媒で抽出、水洗浄、濃縮などの操作を行うことにより、医薬品中間体として許容しうる高化学純度、かつ高光学純度を有する光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールを取得することができ、更なる蒸留等の精製を必要としない。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
(S)−3−(3−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸
【0044】
【化3】

300mLナス型フラスコに(S)−3−(3−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸エチル21.1g(化学純度90.9重量%、純分19.17g)を秤量し、メタノール46.2gを加えて溶解した。これに30%水酸化ナトリウム水溶液14.9gを加えて室温下で1時間攪拌した。反応液に水29.7mLを加え、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し、残渣に濃塩酸11.76g、酢酸エチル100mLを加えて抽出を行った。有機層を水10mLで洗浄後、有機層をロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した。この残渣に酢酸エチルを加えて総量を38.1gに調整した後、40℃に温度調整した。ヘキサン78.8gを20分間かけて滴下し、徐々に室温まで冷却しながら16.5時間攪拌して結晶を析出させた。析出した結晶を桐山ロートを用いて減圧濾過、湿結晶をヘキサン50mLで洗浄した後に減圧下、40℃で2時間乾燥することにより表題化合物を14.98g(化学純度96.9重量%)を得た。HPLCによる化学純度は99.3area%(99.9%ee)であった。
【0045】
化学純度測定 HPLCカラム:日本分光株式会社製 Finepack C18T−5、移動層 アセトニトリル:リン酸バッファー(pH=6.8)=1:1、流速1.0mL/min.、検出波長210nm、温度40℃)、保持時間2.4分
H−NMR(400MHz、CDCl)δ2.79(d、J=4.4Hz、1H)、2.80(d、J=8.3Hz、1H)、5.13(dd、J=4.4Hz、8.3Hz、1H)、7.24〜7.41(m、5H)
【0046】
(実施例2)
(S)−1−(3−クロロフェニル)−1,3−プロパンジオール
【0047】
【化4】

200mL三口フラスコを窒素雰囲気下とし、ボラン−THF錯体12mL(1M−THF溶液)を加えて反応容器を−5℃に冷却した。実施例1で取得した(S)−3−(3−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸7.00gをTHF21mLに溶解し、滴下ロートを用い、50分かけて滴下した。滴下後、THF10mLで滴下ロートを洗いこみ、0℃下で18時間攪拌した。反応液に水7mLを40分かけてゆっくりと滴下して反応を停止し、水14mL、30%水酸化ナトリウム水溶液27.9gを加えて40℃で70分攪拌した。ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し、残渣にトルエン70mLを加えて抽出し、有機層を水7mLで2回洗浄した。有機層をロータリーエバポレーターで減圧濃縮することにより表題化合物を含む濃縮物7.84gを得た。HPLCによる化学純度は99.1area%(溶媒であるトルエンのピークを除く)、光学純度は99.9%eeであった。
【0048】
化学純度分析 HPLC分析条件 HPLCカラム:日本分光株式会社製 FinepackC18T−5、移動相 アセトニトリル:リン酸バッファー(pH=6.8)=1:1、流速1.0mL/min.、検出波長210nm、温度40℃)、保持時間3.3分
【0049】
光学純度の分析
上記減圧濃縮前のトルエン抽出液270mg(Net.約20mg)を25mLナス型フラスコに秤量し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮後、残渣に無水酢酸110mg、ジメチルアミノピリジン120mg塩化メチレン2mLを加え、室温で攪拌することによりジアセテート体とした。反応液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮後、t-ブチルメチルエーテル10mL、1N−塩酸2mLを加えて抽出し、有機層を1N−塩酸2mL、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別、ろ液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、残渣をシリカゲルTLC(Merck社製、10×20cm、0.5mm)を用いて分離精製した(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=1:1、Rf=0.58)。得られたジアセテート体を光学活性HPLCにて分析し、光学純度を求めた。
【0050】
(HPLC分析条件 HPLCカラム:ダイセル化学工業株式会社製 CHIRALCEL OB−H、移動相 ヘキサン:2−プロパノール=9:1、流速1.0mL/min.、検出波長210nm、温度40℃)、保持時間;(S)体9.7分、(R)体12.7分
H−NMR(400MHz、CDCl)δ1.94〜1.99(m、2H)、2.31(br、1H)、3.15(d、J=2.9Hz、1H)、3.87(d、J=4.4Hz、2H)、4.93〜4.96(m、1H)、7.23〜7.38(m、5H)
【0051】
(実施例3)
(S)−1−(3−クロロフェニル)−1,3−プロパンジオール
50mL三口フラスコに水素化ホウ素ナトリウム473mgを秤量し、反応容器を窒素雰囲気下とし、THF2mLを加えて反応容器を0℃に冷却した。実施例1で取得した(S)−3−(3−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸1.00gをTHF3mLに溶解し、滴下ロートを用い、4分かけて滴下した。滴下後、THF7mLで滴下ロートを洗いこみ、10分間攪拌した。次に濃硫酸613mgをTHF3mLに溶解したものをシリンジを用いて3時間かけて滴下し、滴下後、THF1mLでシリンジを洗いこみ、0℃で18時間攪拌した。反応液に水1mLを15分間かけて滴下して反応を停止し、水7mL、30%水酸化ナトリウム水溶液5.00gを加えて室温下で3時間攪拌した。ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し、残渣にトルエンを加えて抽出し、有機層を水2mLで洗浄した。有機層をロータリーエバポレーターで減圧濃縮することにより表題化合物を含む濃縮物1.21gを得た。HPLCによる化学純度99.4area%、光学純度99.9%eeであった。
【0052】
(実施例4)
(S)−1−(3−クロロフェニル)1,3−プロパンジオール
50mLナス型フラスコに水素化ホウ素ナトリウム473mgを秤量し、反応容器を窒素雰囲気下とし、THF8mLを加えて反応容器を0℃に冷却した。ヨウ素1.40gをTHF2mLに溶解したものを滴下ロートを用い、25分間かけて滴下し、滴下後、THF1mLで滴下ロートを洗いこんだ。実施例1で取得した(S)−3−(3−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸1.00gをTHF3mLに溶解したものをシリンジを用いて20分間かけて滴下し、滴下後、THF1mLでシリンジを洗いこみ、0℃で18時間攪拌した。反応液に水1mLを18分間かけて滴下して反応を停止し、水8mL、30%水酸化ナトリウム水溶液5.10gを加えて1.5時間攪拌し、分液した。有機層をロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し、残渣にトルエン10mL、水2mLを加えて分液した。有機層をロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮することにより表題化合物を含む濃縮物1.23gを得た。HPLCによる化学純度99.5area%、光学純度99.7%eeであった。
【0053】
(実施例5)
(S)−1−(3−クロロフェニル)−1,3−プロパンジオール
50mLナス型フラスコに水素化ホウ素ナトリウム473mgを秤量し、反応容器を窒素雰囲気下とし、THF8mLを加えた。室温下、クロロトリメチルシラン1.36gをTHF1mLに溶解したものを滴下ロートを用い、15分間かけて滴下し、滴下後、THF1mLで滴下ロートを洗いこんだ。室温下で1.25時間攪拌した後に反応容器を0℃に冷却し、実施例1で取得した(S)−3−(3−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸1.00gをTHF3mLに溶解したものをシリンジを用いて滴下し、滴下後、THF1mLでシリンジを洗いこみ、0℃で19時間攪拌した。反応液に水1mLを26分間かけて滴下して反応を停止し、水5mLを加えて分液した。有機層に30%水酸化ナトリウム水溶液5.02gを加えて1.75時間攪拌し、分液した。有機層をロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し、残渣にトルエン10mL、水2mLを加えて分液した。有機層をロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮することにより表題化合物を含む濃縮物1.16gを得た。HPLCによる化学純度98.9area%、光学純度100.0%eeであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化1】

(式中、Arは置換基を有してもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。Rは炭素数1〜10の環状若しくは非環状のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜10のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。*は不斉炭素を表す。)で表される光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルを脱エステル化することにより光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸として、これを晶析精製し、その後、カルボキシル基を、水素化金属化合物を還元剤に用いて還元することを特徴とする光学活性1−アリール−1,3−プロパンジオールの製造方法。
【請求項2】
光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸の晶析精製において、化学純度を95重量%以上とすることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
光学活性3−アリール−3−ヒドロキシプロピオン酸の晶析精製において、化学純度を98重量%以上とすることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
Arが3-クロロフェニル基である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
添加剤を共存させて還元を行う請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
水素化金属化合物が水素化ホウ素化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
添加剤がブレンステッド酸またはルイス酸である請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
ブレンステッド酸が硫酸、メタンスルホン酸又はそれらの混合物である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
ルイス酸が三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体である請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
添加剤が塩素、臭素、ヨウ素又はそれらの混合物である請求項5〜9のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−73739(P2009−73739A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241816(P2007−241816)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】