説明

医薬用組成物及び薬剤

【課題】
長期投与や大量摂取又はアルコールとの同時摂取による肝機能障害の発症を低減できるアセトアミノフェンを含む医薬用組成物の提供を目的とする。
【解決手段】
本発明の医薬用組成物は、植物由来イソフラボンとアセトアミノフェン又はその誘導体を含む構成を有することで(1)アセトアミノフェンが含まれているので、鎮痛解熱作用を有する。(2)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェン又はその誘導体による薬効を阻害しない。(3)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェン又はその誘導体による活性酸素の発生を抑える。(4)植物由来のイソフラボンによる抗炎症作用と肝臓庇護作用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトアミノフェンを主剤とする鎮痛解熱剤等の薬剤の長期服用による肝機能障害の発症を予防する医薬用組成物及びアセトアミノフェンの大量摂取による肝機能障害の予防および治療に用いられる薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アセトアミノフェン(化学名:パラ−アセチルアミノフェノール)は鎮痛解熱剤として広く使われている。鎮痛剤は胃を荒らす副作用が強いものが多い中でアセトアミノフェンは胃を荒らす副作用が小さいので、鎮痛剤アスピリンの代替薬としても多く用いられている。またアセトアミノフェンは単独で使われるだけでなく、アスピリンとアセトアミノフェンとカフェインを配合したAAC処方やアセトアミノフェンとエテンザミドとカフェインを配合したACE処方などが広く知られている。また市販の感冒薬にも解熱・鎮痛への有効成分として配合されている。
しかし、一方でアセトアミノフェンを長期に服用したり、大量に摂取したり、アルコールとともに摂取した場合に時として重篤な肝臓障害を引き起こすことが知られている。摂取されたアセトアミノフェンが肝細胞のチトクロームP−450代謝経路に入りグルタチオンを消費枯渇させ、酸化活性代謝物の処理不能となり細胞壊死を引き起こすことがアセトアミノフェンによる肝臓障害誘導のメカニズムの一つと考えられている。
そこでアセトアミノフェンによる肝機能障害の治療薬としてはグルタチオン前駆体であるNAC(N−アセチルシステイン)が使われている。しかし、現在のところアセトアミノフェンによる肝機能障害の治療薬としてはNACが唯一であり、アセトアミノフェンによって生じる肝機能障害や肝炎の治療や予防に有効な薬物はまだ開発中のままである。
これらの肝臓障害への対策として(特許文献1)は5〜50mgのメチオニンと10〜500mgニコチンアミドをアセトアミノフェンを含む組成物に加えることを開示している。
【0003】
一方でアセトアミノフェンは新医薬又は新薬剤の効能を評価する標準肝毒性指標としてよく使用されており(非特許文献1)、培養細胞を使った評価実験が多数実施されている。
【0004】
また(特許文献2)にはアセトアミノフェンなどの薬物によって引き起こされる肝機能障害、肝炎などの予防及び治療のための、甘草抽出物またはそれから単離されたリキリチゲニンというフラバノンを活性成分として配合した医薬組成物が開示されている。
【0005】
一方、植物由来のイソフラボンがもつ様々な薬効が知られており、(特許文献3)にはイソフラボンを含む肝臓脂肪症や脂肪性肝炎などの疾患を処置する組成物が開示されている。(非特許文献2)には植物由来のイソフラボンの一つであるゲニステインが抗炎症作用を持つことが報告されている。(非特許文献3)には同じくゲニステインが非アルコール性脂肪肝を予防する可能性について報告されている。
また(特許文献4)には脂肪肝などのメタボリックシンドロームの予防、改善、または治療に用いる組成物としてイソフラボン類を含む組成物が開示されており、イソフラボンがエストロゲン様作用を介して脂肪細胞の分化を促進するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−530688
【特許文献2】特表2009−522382
【特許文献3】特表2002−542192
【特許文献4】特開2008−291002
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Pharmacol.Exp.Ther.187、195−202(1973)、D.J.Jollow et al.
【非特許文献2】Laboratory Investigation,89(2009)811−822,B.Relic et al.
【非特許文献3】Journal of Gastroenterology and Hepatology,22(2007)2009−2014,M.Yalniz et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に記載の技術はアセトアミノフェンまたはその誘導体を長期に服用することで引き起こされる肝炎発症のリスクを低減することができるかどうかの効果が明らかでない。またアセトアミノフェンの鎮痛解熱剤としての効果を妨げないかも不明である。
(2)(特許文献2)に記載の技術は甘草抽出物およびその精製物であるリキリチゲニンが、食品として一般的でない植物を原料としているので、原料を安定して大量に入手できない。またアセトアミノフェンの鎮痛解熱剤としての効果を妨げずにアセトアミノフェンによる肝炎を予防あるいは治療できるかどうか不明である。
(3)(特許文献3)及び(特許文献4)では、イソフラボンが肝機能の改善効果があっても、アセトアミノフェンの鎮痛解熱剤としての効果を妨げずにアセトアミノフェンによる肝炎のリスクを低減したり、アセトアミノフェンの摂取による肝炎を治療できるかどうか不明である。
(4)(非特許文献2)及び(非特許文献3)では、植物イソフラボンの一種であるゲニステインが抗炎症作用や非アルコール性脂肪肝の予防に役立つ作用があることからは、ゲニステインがアセトアミノフェンの鎮痛解熱剤としての効果を妨げずにアセトアミノフェンによる肝炎を予防あるいは治療できる可能性を導き出せない。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、長期投与や大量摂取又はアルコールとの同時摂取による肝機能障害の発症を低減できるアセトアミノフェンを含む医薬用組成物の提供を目的とする。 また本発明は、アセトアミノフェンの誤飲用などによる肝機能障害やアルコールとアセトアミノフェンの同時摂取による肝機能障害の症状改善と治療に用いる薬剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の医薬用組成物は、植物由来イソフラボンとアセトアミノフェン又はその誘導体を含む構成を有している。
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)アセトアミノフェンが含まれているので、鎮痛解熱作用を有する。
(2)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェン又はその誘導体による薬効を阻害しないので、組成物が期待した強さの鎮痛解熱作用を発揮できる。
(3)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェン又はその誘導体による活性酸素の発生を抑えるので、アセトアミノフェンを長期に又は大量に投与されても肝機能障害を起こしにくい。
(4)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェン又はその誘導体による活性酸素の発生を抑えるので、本組成物をアルコールとともに摂取しても肝機能障害を起こしにくい。
(5)植物由来のイソフラボンを含むので、その抗炎症作用と肝臓庇護作用によりアセトアミノフェンの効果を高める。
【0011】
ここで植物由来イソフラボンとはポリフェノールの分類の一つで、C6−C3−C6の骨格を持つフラボノイドの位置異性体であり、その配糖体として大豆や葛などのマメ科植物が多く含有していることが知られており、ゲニステイン、ダイズインなどがある。抗酸化作用などがあることから健康維持によい効果をもつのではないかと期待されている。
【0012】
この医薬用組成物は標準用量のアセトアミノフェンまたはその誘導体と植物イソフラボンとを含む。アセトアミノフェンの標準用量は通常、成人に対して1回300〜500mg、1日900〜1500mgを投与する。なお年齢、症状によって適宜増減する。また、空腹時の投与は避けることが望ましい。小児科領域のおける解熱鎮痛では通常、幼児及び小児の体重1kgあたり1回10〜15mgを投与する。投与間隔は4〜6時間以上とし、1日総量として60mg/kgを限度とする。なお、年齢、症状により適宜増減する。ただし、成人の用量を超えない。また空腹時の投与は避けることが望ましい。
アセトアミノフェン100重量部に対して植物イソフラボンを0.36〜3.6重量部の比率が好ましい。植物イソフラボンの配合比率が0.36重量部未満ではアセトアミノフェンよる細胞内活性酸素発生を抑制する効果が減少し、アセトアミノフェンによる肝細胞死を抑制する効果が低下する傾向があり好ましくない。3.6重量部を超えると植物イソフラボンの持つエストロゲン様の効果が強くなり好ましくない。
【0013】
医薬溶組成物の形状は経口投与に適切なカプセル、錠剤、カプレット、液剤、ドライシロップ、散剤もしくは懸濁剤として、又は皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射等に適切な滅菌溶剤もしくは懸濁液などが使用できる。また抗炎症作用をもつ薬剤、ビタミン類、鎮咳作用をもつ薬剤などを含んでいてもよい。
【0014】
本発明の請求項2に記載の発明は請求項1に記載の医薬用組成物であって、前記植物由来イソフラボンがマメ科植物由来である構成を有している。
この構成により、請求項1の作用に加え以下のような作用を有する。
(1)マメ科植物は食用、油用、飼料用、薬原料用として多く栽培されており、原料の大量生産やその精製物の入手が容易である。またその成分に関する研究も進んでおり、医薬用組成物としての利用がしやすい。
(2)マメ科植物は窒素固定能力をもつ根粒細菌と共生しており、痩せた土地であっても栽培できるので世界中の様々な土地で生産可能であり、原料調達が容易である。
【0015】
ここでマメ科植物としては大豆、小豆、豌豆、インゲン豆、花豆、イナゴ豆、なた豆、アカシア、ルピナスなど食用、飼料用、搾油用、薬用、園芸用など多種の栽培品種の他、スズメノエンドウ、ヌスビトハギ、イヌエンジュ、モンキーポッドなど世界中の野生種が利用できる。
【0016】
本発明の請求項3に記載の発明は請求項2に記載の医薬用組成物であって、前記マメ科植物由来イソフラボンが大豆由来である構成を有している。
この構成により、請求項2の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)大豆は食用、油用、飼料用として世界各地で大量に栽培されており、原料の大量生産やその精製物の入手が用意である。栽培から収穫、その利用までの工業的な技術蓄積が多くあり、原料としての使用が容易である。
(2)アジア各地で長年に渡って食用とされてきたため、安全性が高い。また品種改良の歴史も長く、多くの技術蓄積があり、有効成分を選択的に生産する品種の開発も容易である。
【0017】
ここで大豆由来イソフラボンとしてはダイズイン、ゲニステイン、グリシテイン、およびそれらの配糖体であるダイジン、ゲニスチン、グリシチンなどの誘導体が知られている。
【0018】
本発明の請求項4に記載の発明は請求項1乃至3の内いずれか1に記載の医薬用組成物であって、前記植物由来イソフラボンがゲニステイン、ダイズイン、グリシテインおよびそれらの誘導体の内のいずれか1以上を含む構成を有している。
この構成により、請求項1乃至3の効果に加え、以下のような作用を有する。
(1)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは肝細胞のエストロゲンレセプタに結合して肝細胞死を抑制する。
(2)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは肝細胞内の活性酸素の生成を抑制し、それによる肝細胞死を抑制する。
(3)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは抗炎症作用をもつのでアセトアミノフェンの鎮痛解熱作用に抗炎症作用を付加することが期待される。
【0019】
ここでゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは植物体の粉砕物、又は粗精製物、精製物が利用できる。
【0020】
本発明の請求項5に記載のアセトアミノフェン又はその誘導体の摂取による肝機能障害治療又は肝機能障害の発症を予防するための薬剤は、植物由来イソフラボンを含む構成を有している。
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェンによる肝細胞内の活性酸素の発生を抑制するので、肝機能障害を起こしにくい。
(2)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェンによる肝細胞死を抑制するので、肝毒性化合物をアルコールとともに摂取していても肝機能障害を起こしにくい。
(3)植物由来のイソフラボンを含むので、その抗炎症作用と肝臓庇護作用により患者の苦痛を和らげるとともに回復を促す。
【0021】
ここで、アセトアミノフェン又はその誘導体による肝機能障害の治療に従来より用いられてきたNACを医薬用組成物に含めることができる。タウリンやメチオニンなど肝臓庇護作用をもつ成分を含めてもよい。
【0022】
本発明の請求項6に記載の発明は請求項5に記載の薬剤であって、前記植物由来イソフラボンがマメ科植物由来である構成を有している。
この構成により、請求項6の作用に加え以下のような作用を有する。
(1)マメ科植物は食用、油用、飼料用、薬原料用として多く栽培されており、原料の大量生産やその精製物の入手が用意である。またその成分に関する研究も進んでおり、医薬用組成物としての利用がしやすい。
(2)マメ科植物は窒素固定能力をもつ根粒細菌と共生しており、痩せた土地であっても栽培できるので世界中の様々な土地で生産可能であり、原料調達が容易である。
【0023】
本発明の請求項7に記載の発明は請求項6に記載の医薬用組成物であって、前記マメ科植物由来イソフラボンが大豆由来である構成を有している。
この構成により、請求項6の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)大豆は食用、油用、飼料用として世界各地で大量に栽培されており、原料の大量生産やその精製物の入手が用意である。栽培から収穫、その利用までの工業的な技術蓄積が多くあり、原料としての使用が容易である。
(2)アジア各地で長年に渡って食用とされてきたため、安全性が高い。また品種改良の歴史も長く、多くの技術蓄積があり、有効成分を選択的に生産する品種の開発も容易である。
【0024】
本発明の請求項8に記載の発明は請求項5乃至7の内いずれか1に記載の薬剤であって、前記植物由来イソフラボンがゲニステイン、ダイズイン、グリシテインおよびそれらの誘導体の内のいずれか1以上を含む構成を有している。
この構成により、請求項6乃至8の効果に加え、以下のような作用を有する。
(1)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは肝細胞のエストロゲンレセプタに結合してアセトアミノフェンによる肝細胞死を抑制する。
(2)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは肝細胞内の活性酸素の生成を抑制し、アセトアミノフェンによる肝細胞死を抑制する。
(3)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは抗炎症作用をもつので抗炎症作用により患者の苦痛を和らげることが期待される。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)アセトアミノフェンが含まれているので、鎮痛解熱作用を有する医薬用組成物を提供することができる。
(2)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェン又はその誘導体による薬効を阻害しないので、鎮痛解熱作用が高く、肝機能を損なう恐れの低い医薬用組成物を提供することができる。
(3)植物由来のイソフラボンを含むので、その抗炎症作用と肝臓庇護作用により、鎮痛解熱作用に加えて、抗炎症作用をもつ、安全性の高い医薬用組成物を提供することができる。
(4)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェン又はその誘導体による活性酸素の発生を抑えるので、組成物を長期に又は大量に投与されても肝機能障害を起こしにくい医薬用組成物を提供することができる。
(5)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェン又はその誘導体による活性酸素の発生を抑えるので、組成物をアルコールとともに摂取しても肝機能障害を起こしにくい医薬用組成物を提供することができる。
【0026】
請求項2に記載の発明によれば、
(1)マメ科植物は食用、油用、飼料用、薬原料用として多く栽培されており、原料の大量生産やその精製物の入手が容易である。またその成分に関する研究も進んでおり、医薬用組成物としての利用がしやすい医薬用組成物を提供することができる。
(2)マメ科植物は窒素固定能力をもつ根粒細菌と共生しており、痩せた土地であっても栽培できるので世界中の様々な土地で生産可能であり、原料調達が容易である医薬用組成物を提供することができる。
【0027】
請求項3に記載の発明によれば、
(1)大豆は食用、油用、飼料用として世界各地で大量に栽培されており、原料の大量生産やその精製物の入手が用意である。栽培から収穫、その利用までの工業的な技術蓄積が多くあり、原料としての使用が容易である医薬用組成物を提供することができる。
(2)アジア各地で長年に渡って食用とされてきたため、安全性が高い。また品種改良の歴史も長く、多くの技術蓄積があり、有効成分を選択的に生産する品種の開発も容易である医薬用組成物を提供することができる。
【0028】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは肝細胞のエストロゲンレセプタに結合して肝細胞死を抑制するので組成物を長期に又は大量に投与されても肝機能障害を起こしにくい医薬用組成物を提供することができる。
(2)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは肝細胞内の活性酸素の生成を抑制し、それによる肝細胞死を抑制するので組成物を長期に又は大量に投与されても肝機能障害を起こしにくい医薬用組成物を提供することができる。
(3)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは抗炎症作用をもつのでアセトアミノフェンの鎮痛解熱作用に抗炎症作用を付加することが期待されるので鎮痛解熱作用に加えて、抗炎症作用をもつ、安全性の高い医薬用組成物を提供することができる。
【0029】
請求項5に記載の発明によれば、
(1)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェンによる肝細胞内の活性酸素の発生を抑制するので、アセトアミノフェンまたはその誘導体の長期服用や大量摂取などによる肝機能障害を発症前に防ぐ薬剤を提供することができる。
(2)植物由来のイソフラボンがアセトアミノフェンによる肝細胞内の活性酸素の発生を抑制するので、アセトアミノフェンまたはその誘導体の長期摂取や大量摂取又はアルコールとの同時摂取による肝機能障害の症状を改善・治療できる薬剤を提供することができる。
(3)植物イソフラボンの抗炎症作用と肝臓庇護作用により患者の苦痛を和らげるとともに回復を促すことができる薬剤を提供することができる。
【0030】
請求項6に記載の発明によれば、
(1)マメ科植物は食用、油用、飼料用、薬原料用として多く栽培されており、原料の大量生産やその精製物の入手が用意である。またその成分に関する研究も進んでおり、医薬用組成物としての利用がしやすく、安全性の高い、アセトアミノフェンまたはその誘導体の長期服用や大量摂取などによる肝機能障害を発症前に防ぐ薬剤を提供することができる。
(2)マメ科植物は窒素固定能力をもつ根粒細菌と共生しており、痩せた土地であっても栽培できるので世界中の様々な土地で生産可能でありので原料調達が容易であり、アセトアミノフェンまたはその誘導体による肝機能障害の症状を改善・治療できる薬剤を提供することができる。
【0031】
請求項7に記載の発明によれば、
(1)大豆は食用、油用、飼料用として世界各地で大量に栽培されており、原料の大量生産やその精製物の入手が用意である。また栽培から収穫、その利用までの工業的な技術蓄積が多くありので原料調達が容易で、アセトアミノフェンまたはその誘導体の長期服用や大量摂取などによる肝機能障害を発症前に防ぐ薬剤を提供することができる。
(2)アジア各地で長年に渡って食用とされてきたため、その含有成分に対する研究も進んでおり、安全性が高いので、安全性の高い、アセトアミノフェンまたはその誘導体による肝機能障害の症状を改善・治療できる薬剤を提供することができる。
【0032】
請求項8に記載の発明によれば、
(1)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは肝細胞のエストロゲンレセプタに結合してアセトアミノフェンによる肝細胞死を抑制するので、アセトアミノフェンまたはその誘導体の長期服用や大量摂取などによる肝機能障害を発症前に防ぐ薬剤を提供することができる。
(2)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは肝細胞内の活性酸素の生成を抑制し、アセトアミノフェンによる肝細胞死を抑制するのでアセトアミノフェンまたはその誘導体による肝機能障害の症状を改善・治療できる薬剤を提供することができる。
(3)ゲニステイン、ダイズイン、グリシテインは抗炎症作用をもつので、患者の苦痛を和らげ、アセトアミノフェンまたはその誘導体による肝機能障害の症状を改善・治療できる薬剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】アセトアミノフェンによる肝細胞死の発生を示す図
【図2】アセトアミノフェンによる肝細胞死をゲニステインが抑制することを示す図
【図3】細胞内活性酸素生成に対するゲニステインの効果を示す図
【図4】ゲニステインがアセトアミノフェンの細胞保護作用を阻害しないことを示す図
【図5】アセトアミノフェンによる肝細胞死を他の植物イソフラボンが抑制することを示す図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
(1)アセトアミノフェンまたはその誘導体を含む医薬用組成物に植物性イソフラボンを添加し、製剤とする。
この組成物は標準用量のアセトアミノフェンまたはその誘導体を植物性イソフラボンと一緒に含む。これらは、経口投与に適切なカプセル、錠剤、カプレット、液剤、ドライシロップ、散剤もしくは懸濁剤として、又は皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射等に適切な滅菌溶剤もしくは懸濁剤として製剤とされる。
(2)(1)の変形としてはアセトアミノフェンまたはその誘導体を投与される患者に対して別途植物性イソフラボンを含む医薬用組成物を投与することもできる。植物性イソフラボンとしては精製されたイソフラボンである必要はなく、例えば大豆を加熱粉砕したものでもよい。
(3)アセトアミノフェンを含む鎮痛解熱作用を持つ医薬用組成物にゲニステインを添加して製剤とする。ゲニステインはアセトアミノフェンの作用を阻害しないので、標準投与量のアセトアミノフェン100重量部にに対してゲニステインを0.36〜3.6重量部加えて製剤とする。なおゲニステインだけを別の製剤として同時投与することも可能である。なおゲニステインをダイズイン、グリシテインなどの他の植物イソフラボンやゲニスチン、グリシチンなどの植物イソフラボンの配糖体等の誘導体に代えてもよい。
(4)アセトアミノフェンの大量摂取した患者が肝機能障害を発症することを抑えるためにゲニステインなどの植物イソフラボンを含む医薬用組成物を経口あるいは注射によって投与する。経口投与に適切なカプセル、錠剤、カプレット、液剤、ドライシロップ、散剤もしくは懸濁剤として、又は皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射等に適切な滅菌溶剤もしくは懸濁剤として製剤とするが、ゲニステインなどの植物イソフラボンの添加量は1日当たり10〜30mgとする。NAC、メチオニンの内1以上を同時に投与してもよい。
(5)アセトアミノフェンの長期投与あるいは大量摂取やエタノールとの同時摂取によって肝機能障害を発生している患者の症状を改善するために、ゲニステインを含む医薬用組成物を経口あるいは注射によって投与する。経口投与に適切なカプセル、錠剤、カプレット、液剤、ドライシロップ、散剤もしくは懸濁剤として、又は皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射等に適切な滅菌溶剤もしくは懸濁剤として製剤とするが、ゲニステインの添加量は単回投与当たり10〜30mgとする。NAC、メチオニンの内1以上を同時に投与してもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(準備作業)
(1)表1に記載した薬剤液を調製した。
(2)(1)で調製した薬剤液を用い、表2に記載した試薬含有培地を作成した。
なおコントロールに用いた細胞培養用培地はダルベッコ変法イーグル培地(通称DMEM培地)(以下標準培地という)であり、それに表2に記載の条件で薬剤を添加して試薬含有培地を作成した。
(3)NCTC(マウス肝非実質細胞)を5×104細胞/mLの細胞密度で標準培地を入れた細胞培養用プレートに播種した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
(比較実験例1)アセトアミノフェン(AAP)による肝細胞障害(経時的変化)
(1)24時間後に培地を表2に記載のAAP含有培地またはコントロール用の標準培地に交換した。
(2)次いで8時間、10時間、12時間、24時間、48時間、72時間後に細胞を回収し、以下に示したトリパンブルー色素排除法によりそれぞれの細胞生存率を測定した。まず、トリパンブルーと細胞浮遊液を1:1で混合し、10分静置の後、トリパンブルーで染色された細胞(死細胞)と染色されなかった細胞(生細胞)の数をカウントした。
【0039】
(実験例1)ゲニステインの細胞生存率に対する効果
(1)24時間後に培地を表2に記載の試薬含有培地に交換した。
(2)さらに48時間後に細胞を回収し、トリパンブルー色素排除法により細胞生存率を測定した。
【0040】
比較実験例1の結果を図1に示す。縦軸が細胞生存率を表し、アセトアミノフェンを加えて8時間、10時間、12時間、24時間、48時間、72時間後の生存率の変化を各点が示している。コントロール(標準培地)では生細胞の比率に大きな変動はないが、アセトアミノフェンを添加された培地では24時間から48時間の間で急激に細胞が障害を受けて死ぬことが示された。よって以降のアセトアミノフェンによる肝細胞障害に対する各種薬物添加の効果を調べる実験では薬物添加後48時間後の細胞生存率を比較して行うこととした。
【0041】
実験例1の結果を図2に示す。縦軸が薬物添加から48時間経過ごの細胞生存率を表す。アセトアミノフェン(AAP)による細胞死がゲニステイン(GNS)の添加によって抑制され細胞生存率が大きくなっている。
4−ヒドロキシタモキシフェン(4−OHT)はエストロゲンレセプタに結合するエストロゲン拮抗剤の1種である。フルベストラント(Fulvestrant)もエストロゲンレセプタに結合するエストロゲン拮抗剤の1種であるが、さらにエストロゲンレセプタに不可逆的に結合してダウンレギュレーションすることでエストロゲンレセプタを介したシグナルを減少させることが知られている。これらのエストロゲン拮抗剤をゲニステインと同時投与すると細胞生存率がゲニステイン単独の場合より減少している。これよりアセトアミノフェンによる肝細胞障害死をゲニステインがエストロゲンレセプタを介して抑制する可能性が強く示唆された。またアセトアミノフェンによる肝機能障害の治療薬として使用されているNACがゲニステイン同様に肝細胞障害死の抑制効果を持つことが示された。
以上より、ゲニステインはエストロゲンレセプタに結合する能力を介してアセトアミノフェンによる肝細胞死の抑制効果を示すこと、またその効果は従来薬のNACと匹敵することが分かった。
【0042】
次にアセトアミノフェンが肝細胞死を引き起こすメカニズムの一つと考えられている酸化活性代謝物の処理不能による細胞内活性酸素生成にゲニステインがどう影響するのかを調べた。
(1)準備として表1の薬剤液に加えて、表3の薬剤を調製した。
(2)(1)で調製した薬剤液を用い、表2記載した試薬含有培地を作成した。
(3)NCTC(マウス肝非実質細胞)を5×105細胞/mLの細胞密度で標準培地を入れた細胞培養用プレートに播種した。
(実験例2)
(1)24時間後に培地を表2に記載の試薬含有培地に交換した。
(2)さらに30分後に培地を交換し生理食塩水で洗浄した。
(3)DCFDA含有生理食塩水を添加して、45分間静置した。
(4)励起波長485nm、測定波長520nmで蛍光測定した。
【0043】
【表3】

【0044】
実験例2の結果を図3に示す。2’,7’−ジクロロフルオレシンジアセテート(DCFDA)は細胞透過性の蛍光標識試薬で細胞内の活性酸素の働きを受けて蛍光を発するように変化する。したがって測定された蛍光強度は細胞内の活性酸素の量を示している。縦軸がその蛍光強度として測定された細胞内活性酸素量を表す。アセトアミノフェン(AAP)の添加によって細胞内活性酸素の量が増加していることが分かる。この細胞内活性酸素量の増加をゲニステイン(GNS)が抑制し、正常細胞(コントロール)と同等の量に抑えることが示された。アセトアミノフェンによる肝機能障害の治療薬として使われているN−アセチルシステイン(NAC)も同様にアセトアミノフェンによる細胞内活性酸素量の増加を抑えている。
一方ゲニステインにエストロゲンレセプタ拮抗阻害剤を併用してもさらなる効果を示すことはなかった。したがってゲニステインによる細胞内活性酸素量の増加抑制はエストロゲンレセプタを介さない経路によるものと考えられる。先の実験例1の結果と併せると、アセトアミノフェンによる肝細胞死をゲニステインが減少させるのは、NACと同じ細胞内活性酸素の生成を抑制する経路と、それとは別のエストロゲンレセプタを介する経路による未知の作用があるものと考えられる。
【0045】
次にアセトアミノフェンの鎮痛効果をゲニステインが阻害しないかを調べた。鎮痛効果を示すモデル系として一般的によく使われる培養細胞に対する細胞保護作用を利用する系を使用した。
まず準備として、表4の試薬液を調製した。そして表5に記載した試薬含有培地を作成した。コントロールには実験例1と同じ標準培地を使用した。また各試薬含有培地はその標準培地に試薬を添加して作成した。
(実験例3)
(1)CHO−K1(チャイニーズハムスター卵巣細胞)を1×105細胞/mLの細胞密度で細胞培養用プレートに播種した。
(2)24時間後に培地を試薬含有培地に交換した。
(3)さらに24時間後に細胞を回収し、トリパンブルー色素排除法により生細胞と死細胞の数をカウントした。
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
大腸菌リポポリサッカライド(LPS)は炎症誘発物質であり、これを作用させるとCHO−K1細胞は細胞障害を起こして壊死する。これにアセトアミノフェンを作用させるとアセトアミノフェンによる細胞保護効果により細胞の壊死が抑制される。LPSによる細胞の壊死からアセトアミノフェンによって保護されるので、アセトアミノフェンの細胞保護効果と呼ばれ、アセトアミノフェンによる解熱鎮痛作用のin vitroモデルとされている。
この細胞保護効果をゲニステイン(GNS)が阻害しないかを検討した実験例3の結果を図4に示す。縦軸が生細胞の割合(%)を示す。LPS添加から24時間で約半数の細胞が死ぬのに対してアセトアミノフェンを添加するとその細胞保護効果で死ぬ細胞が減り、生細胞の割合が増加している。アセトアミノフェンとゲニステインを同時添加された場合とアセトアミノフェン単独添加の場合と比較して生細胞の割合はほとんど変化していない。よってアセトアミノフェンの細胞保護効果に対してゲニステインは変化を与えないことが示された。したがって、アセトアミノフェンの解熱鎮痛作用をゲニステインが阻害しないと考えられる。
【0049】
(実験例4)
ゲニステイン同様に植物イソフラボンとしてよく知られているダイズインとグリシテインについて、ゲニステイン(最終濃度100μM)をダイズイン(最終濃度100μM)又はグリシテイン(最終濃度100μM)に代えた以外は実験例2と同様にして調べた。
【0050】
実験例4の結果を図5に示す。縦軸が蛍光強度として測定された細胞内活性酸素量を表す。アセトアミノフェン(AAP)による細胞内活性酸素生成をダイズインおよびグリシテインはゲニステインと同様に抑制することが示された。したがってダイズイン、グリシテインはゲニステインと同様にアセトアミノフェンによる肝細胞障害を防ぐ効果と、アセトアミノフェンによる肝機能障害を治療する効果を示すものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、アセトアミノフェン又はその誘導体を含む医薬用組成物の肝毒性を抑制し、安全に投与できる医薬要素生物を提供することを可能とする。またアセトアミノフェンの大量摂取による肝機能障害には、これまでN−アセチルシステイン(NAC)だけが唯一の治療薬であったが、新たな治療用の薬剤を提供することを可能とする。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来イソフラボンとアセトアミノフェン又はその誘導体を含むことを特徴とする医薬用組成物。
【請求項2】
前記植物由来イソフラボンがマメ科植物由来イソフラボンであることを特徴とする請求項1に記載の医薬用組成物。
【請求項3】
マメ科植物由来イソフラボンが大豆由来イソフラボンであることを特徴とする請求項2に記載の医薬用組成物。
【請求項4】
前記植物由来イソフラボンがゲニステイン、ダイズイン、グリシテインおよびそれらの誘導体の内のいずれか1以上からなることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1に記載の医薬用組成物。
【請求項5】
アセトアミノフェン又はその誘導体の摂取による肝機能障害の治療又は肝機能障害の発症を予防するための薬剤であって、植物由来イソフラボンを有効成分とすることを特徴とする薬剤。
【請求項6】
前記植物由来イソフラボンがマメ科植物由来イソフラボンであることを特徴とする請求項5に記載の薬剤。
【請求項7】
マメ科植物由来イソフラボンが大豆由来イソフラボンであることを特徴とする請求項6に記載の薬剤。
【請求項8】
前記植物由来イソフラボンがゲニステイン、ダイズイン、グリシテインおよびそれらの誘導体の内のいずれか1以上からなることを特徴とする請求項5乃至7の内いずれか1に記載の薬剤。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−46677(P2011−46677A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199068(P2009−199068)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】