説明

医薬組成物

【課題】オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤を有する軟ゼラチンカプセルの提供。
【解決手段】オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤が、長期に亘り顕著に硬くなることが無く、有効期限がより長くなることを特徴とする、コラーゲン源の酸による前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチンを含む軟ゼラチンカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟ゼラチンカプセルに関し、特にオメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤を有する軟ゼラチンカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは、ウシの骨及び皮、ブタの皮又は魚類の皮のような多数のコラーゲンの源から抽出される高分子量の水溶性タンパク質の不均質な混合物である。概要を言えば、ゼラチンには、抽出方法に依存して二つのタイプ、Aタイプゼラチン及びBタイプゼラチンがある。
【0003】
「Gelatin Processing」(US National Organic Standards Board Technical Advisory Panel Review; 1st March 2002)によると、Aタイプゼラチンは酸による前処理プロセスの直後に抽出され、ブタのゼラチンは通常、この方法で抽出される。ブタの皮から毛を取り除き、脱脂して得られた皮をチョッパー又はマセレーターに通して、皮を均一なサイズに切断する。次いで、この皮を、塩酸、リン酸又は硫酸などの食品用の無機酸でpHが1〜4としたもので8〜30時間浸漬する。次いで、酸処理したブタの皮を水で洗浄して不純物を取り除き、熱水で抽出する。この抽出物を陰イオン−陽イオン交換カラムでろ過し、灰分のレベル又は鉱物のレベルを低減させる。このゼラチン抽出物を減圧濃縮するか又は限外ろ過して15〜35%に濃縮し、ろ過し、pHを3.5〜6の間に調整し、そして50%の固体に濃縮する。この残留物を冷却し、押し出し、乾燥させ、そして必要な粒子サイズに製粉し、次いで包装する。ウシのオセインをアルカリで前処理することがより一般的ではあるが、ゼラチンの抽出前に、ウシのオセイン(脱塩された骨)を酸で前処理することも知られている。
【0004】
Bタイプゼラチンはアルカリによる前処理プロセスの直後に抽出され、そしてウシのゼラチンは通常、このようにして抽出される(同書)。骨を粉砕し、加熱、遠心分離にかけ、そして乾燥させる。抽出された骨を、ゼラチンの抽出前に脱脂し、4〜6%の塩酸で5〜7日間かけて脱塩する。このオセインを水で繰り返し洗浄して不純物を除去し、次いで1〜4%の石灰(水酸化カルシウム)スラリーで処理し、35〜70日間撹拌してpHを約12に調整し、週ごとに石灰を交換して非コラーゲン成分を除去する。次いで、このオセインを洗浄し、無機酸を添加して過剰の石灰を中和し、pHを3に調整する。全ての洗浄操作を終えた後の最終のpHは、5〜7の間である。次いで、脱塩された熱水を用いてゼラチンを抽出する。液状のゼラチン溶液を、セルロース/珪藻土のプレートとフレームフィルタとでろ過し、陰イオン−陽イオン樹脂床を用いてイオンを除いてもよい。この樹脂溶液を蒸発させて15〜45%の間の濃度とする。濃縮されたゼラチンをろ過し、pHを5〜7の間に調整し、殺菌し、冷却、そして風乾させる。次いで、必要なサイズに製粉して包装する。アルカリによるプロセスは、最大で20週間かかるかもしれない。
【0005】
ゼラチンを、たとえば、種々の食品及び、特に多数の状態を治療するための経口投与用の医薬以外の栄養補助剤を封入するために用いる。グリセリンなどの可塑剤をゼラチンに添加して、軟ゼラチンカプセルを製造してもよい。ホルムアルデヒド及びその他のアルデヒドを用いてゼラチンカプセルを硬化させて、それらが胃から腸を通過することを可能としてもよい。軟ゼラチンカプセルの大部分は、Bタイプ、たとえばウシのゼラチンから製造される。
【0006】
5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸(すなわち「EPA」)又は4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(すなわち「DHA」)などのオメガ−3多価不飽和脂肪酸が炎症性腸疾患(すなわち「IBD」)の治療に有用であることは周知である(たとえば、EP−A−0244832号、EP−A−0289204号、EP−A−0311091号及びWO−A−93/21912号を参照すること。これらの開示は番号を引用することにより本明細書に取り込むものとする。)。WO−A−96/36329号(Buserら;1996年11月21日に公開)では、EPA及びDHAの混合物を含む製剤を含む硬ゼラチンカプセルの経口投与を伴うIBDの治療が開示されている。それぞれのカプセルは、平均分子量が約800,000のポリ(アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル)を含む腸溶性材料であるEudragit(商標)NE 30−Dで被覆されたフィルムである。このカプセルは胃を通過し、次いで小腸内で崩壊して内容物を放出する。結果から、このように被覆されたカプセルの経口投与によって、クローン病における臨床的再発を防止できるかもしれないことが示される。
【0007】
US−A−2870062号(Schererら;1959年1月20日に公開)においては、「標準的なゼラチンカプセル」が、その中に封入された融解性の薬品又は吸湿性の薬品、たとえば液体の非イオン性界面活性剤、強酸と塩基との塩、塩化コリン及び抱水クロラールと接触して崩壊することが開示されている。US−A−2870062号では、骨の前駆体を酸で処理して調製された、低粘度でブルーム強度が小さいゼラチンを特別に選択して作ったカプセルの使用が開示されている。このようなカプセルは、融解性の薬品又は吸湿性の薬品と接触したままの場合でも崩壊するようには見えない。
【0008】
EP−A−0100052号(Yu;1984年2月8日に公開)では、PGE型プロスタグランジン脂肪酸複合体を含む軟ゼラチンカプセルが開示されている。比較研究から、Bタイプゼラチンから作られた軟ゼラチンカプセルがプロスタグランジン複合体の分解を加速させるのに対して、Aタイプゼラチンから作られた軟ゼラチンカプセルは、その中にプロスタグランジン脂肪酸が溶け込んでいる溶媒の安定効果を維持することが示されるように思われる。
【0009】
US−B−6234464号(Krumbholzら;2001年5月22日に公開)では、マイクロカプセル化された不飽和脂肪酸化合物もしくは脂肪酸化合物又はそれらの混合物が開示されている。マイクロカプセルの壁膜は、二つの層を含む。内部の層は、骨のゼラチン(ゼラチンAもしくはゼラチンB)、カゼインもしくはアルギン酸塩によって、又はそれらの誘導体もしくは塩から構成され、そして外部の層は、ゼラチンB、アラビアゴム、ペクチン又はキトサン又はそれらの誘導体もしくは塩から構成される。この不飽和脂肪酸は、オメガ−3脂肪酸及び/又はそのエチルエステルもしくはグリセリドでもよい。US−B−6234464号では、マイクロカプセル化された95%のEPAのエチルエステルであって、その中のそれぞれのマイクロカプセルの壁膜がゼラチンA/アラビアゴム、ゼラチンA/ペクチン又はゼラチンA/ゼラチンBの組み合わせからなる内部の層/外部の層を含むものが例示されている。
【特許文献1】EP−A−0244832号
【特許文献2】EP−A−0289204号
【特許文献3】EP−A−0311091号
【特許文献4】WO−A−93/21912号
【特許文献5】WO−A−96/36329号
【特許文献6】US−A−2870062号
【特許文献7】EP−A−0100052号
【特許文献8】US−B−6234464号
【特許文献9】GB0413729.5号
【特許文献10】GB0413730.3号
【特許文献11】EP−A−1054678号
【非特許文献1】「Gelatin Processing」(US National Organic Standards Board Technical Advisory Panel Review; 1st March 2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、たとえゼラチン内に可塑剤が存在したとしても、特定の条件下でBタイプゼラチンから作られ、かつオメガ−3多価不飽和脂肪酸を含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルは、長期に亘り硬さを維持できることを見出し、そしてその硬さがオメガ−3多価不飽和脂肪酸製剤とゼラチンそのものとの間の化学的相互作用によるものであると結論付けた。硬化されたカプセルを経口投与した場合、カプセルが崩壊し医薬製剤が放出される前に、それらは胃を通過するだけではなく小腸をも通過し、さらには大腸のほとんどを通過する可能性さえあり得るので、このような硬化効果はカプセルの有効期限を短くする可能性がある。カプセルをIBDの治療として投与する場合、小腸以降でのオメガ−3多価不飽和脂肪酸製剤の放出は、この治療では効果的とはならないだろう。従って、本発明の好ましい実施形態の一つの目的は、硬化速度を小さくさせるオメガ−3多価不飽和脂肪酸製剤を含む軟ゼラチンカプセルを提供することであり、それによって、オメガ−3多価不飽和脂肪酸を含む既存の軟ゼラチンカプセルと比べた場合の有効期限が延長された軟ゼラチンカプセルを提供することである。
【0011】
インビボでの軟ゼラチンカプセルの崩壊は、水性媒体に溶解した時だけではなく、ゼラチンにプロテアーゼの作用が働いた時にも生じる。しかしながら、オメガ−3多価不飽和脂肪酸とゼラチンとの間の化学的相互作用は抑制することができず、生産物の有効期限の全体に亘ってそれが継続するかもしれない。さらに、カプセル上を被覆することは、多くの場合、プロテアーゼの作用を妨害することになり、それによってそれらの有効性が低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様によると、オメガ−3多価不飽和脂肪酸(「PUFA」)の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤を有し、そのカプセルがコラーゲン源の酸による前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されるゼラチンを有することを特徴とする軟ゼラチンカプセルが提供される。
【0013】
このタイプの軟ゼラチンカプセルの一つの利点は、その硬化速度が、コラーゲン源のアルカリによる前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチンを含む既存の(オメガ−3多価不飽和脂肪酸製剤を含む)軟ゼラチンカプセルについてのそれよりも顕著に遅いことである。硬化速度が遅くなることは、カプセルの有効期限が長くなることに変わる。さらなる利点は、ウシの骨及び皮で作られるゼラチンから離れることが可能である。近年、ウシの海綿状脳症(すなわち「BSE」)などの海綿状脳症がヒトに感染する可能性について関心が持たれてきた。Aタイプゼラチン、すなわちコラーゲン源の酸による前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチンは、通常、ブタの皮から作られる。従って、軟ゼラチンカプセルを製造するためにこのようなゼラチンを使用することで、ウシのBタイプゼラチンからのBSEの感染についてのあらゆるリスクが避けられる。
【0014】
両タイプのゼラチンにおけるアミノ酸残基は本質的に同一である点で、ブタのゼラチン(通常はAタイプゼラチン)及びウシのゼラチン(通常はBタイプゼラチン)は基本的に同一の化学構造を有していることから、硬化速度が低下することは驚きであり、予想外である。従って、二つのタイプのゼラチンが同一のオメガ−3多価不飽和脂肪酸とそれぞれ異なって相互作用することは、当業者であっても予想できないだろう。
【0015】
オメガ−3多価不飽和脂肪酸は、遊離酸の形態で存在することが好ましい。しかしながら、薬理学的に許容される誘導体を用いてもよい。適切な誘導体の例としては、トリグリセリド、(エチルエステルなどの)エステル、アミド、(胆汁酸塩、コレステロール又はキトサンなどとの)複合体及び(ナトリウム塩又はカリウム塩などの)塩が挙げられる。好ましい実施形態においては、その製剤は、オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つから本質的になるものであるが、たとえばα−トコフェロールなどの抗酸化剤といった添加物をさらに含むことが通常である。
【0016】
この製剤は、5,8,11,14,17−エイコスペンテノン酸(すなわち「EPA」)を含むことが好ましい。EPAは、少なくとも製剤の約50重量%の量存在してもよく、製剤の約50重量%〜約60重量%が好ましいが、特定の応用例のために及び/又は治療上有効な投与量を与えるために必要なカプセルの数を最小限にするために、製剤の少なくとも約90重量%の量のEPAが存在することも望ましいだろう。
【0017】
この製剤は、4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(すなわち「DHA」)を含んでもよい。DHAは、製剤の約20重量%〜約30重量%の間の量存在してもよい。
【0018】
約100mg〜約2000mgの間の当該製剤を含む軟ゼラチンカプセルが好ましい。現時点では二つの実施形態のカプセルが好ましく、第一の実施形態では、たとえば子供向けで約500mgの当該製剤を含み、第二の実施形態では、成人向けで約1000mgを含む。
【0019】
ゼラチンが適切なコラーゲン源の酸による前処理工程を含む抽出プロセスから抽出された場合、用いるゼラチンは、ブタのゼラチン、ウシのゼラチン及び魚類のゼラチンからなる群から選択される少なくとも一つが好ましい。これらのゼラチンの混合物を用いてもよい。
【0020】
本発明の軟ゼラチンカプセルの各壁膜は通常、一層のみからなる。
【0021】
本発明の軟ゼラチンカプセルを、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、慢性関節リウマチ、乾癬又はベーチェット症候群;高脂血症又は高トリグリセリド血症;喘息;双極性障害;及び前立腺ガン又は腸ガンなどの腫瘍性疾患などの慢性的な炎症状態の治療又は予防に用いてもよい。特定の好ましい実施形態においては、この軟ゼラチンカプセルをIBD又はクローン病の治療又は予防に用いることになる。さらに、このカプセルを用いてクローン病の手術後の再発を予防してもよい。
【0022】
非経口的に投与する場合、免疫抑制剤(たとえばメトトレキサート又はサイクロスポリン)又は抗腫瘍剤(たとえばメトトレキサート)は全身性の害作用を与えることが多い。(2004年6月18日に出願された)GB0413729.5号には、腸の状態を治療するための薬剤の製造において、PUFA又は薬理学的に許容されるその塩もしくはその誘導体を、免疫抑制剤及び抗腫瘍剤の少なくとも一つと組み合わせて使用することが記載されており、ここで当該薬剤はアミノ酸残基の少なくとも一つか、又は薬理学的に許容されるその塩もしくはその誘導体を有する。(2004年6月18日に出願された)GB0413730.3号には、腸の状態を局所的に治療するための薬剤の製造において、PUFA又は薬理学的に許容されるその塩もしくはその誘導体を、免疫抑制剤及び抗腫瘍剤又は薬理学的に許容されるその塩もしくはその誘導体の少なくとも一つと組み合わせて使用することが記載されている。GB0413730.3号及びGB0413729.5号に記載された使用におけるPUFAの効果は、免疫抑制剤及び抗腫瘍剤の経口でのバイオアベイラビリティを高めることであり、それによって、投与する薬剤の量をより少なくすること及び副作用を減らすことが可能となる。GB0413729.5号及びGB0413730.3号の開示は、引用により本明細書に取り込まれる。
【0023】
メトトレキサート、サイクロスポリン、ダクチノマイシン、6−メルカプトプリン、シクロホスファミド、ミコフェノール酸塩、ダクリズマブ、ムロモナブ、プレジソロン、シロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、FK506、ミゾリビン、アザチオプリン、タクロリムス及びインフリキシマブなどの免疫抑制剤についての、ならびにメトトレキサート、ダクチノマイシン、フルオロウラシル、ブレオマイシン、エトポシド、タクソール、ビンクリスチン、ドキソルビシン、シスプラチン、ダウノルビシン及びVP−16などの抗腫瘍剤についてのこの控えめな効果を達成するために、本発明の軟ゼラチンカプセルを用いてPUFAを提供してもよい。
【0024】
EP−A−1054678号では、ステロイド減量剤としてのPUFAの使用が開示されている。本発明の軟ゼラチンカプセルを用いて、ブデソニド又はプレドニゾロンなどのステロイドを減量させるPUFAを提供することができた。EP−A−1054678号の開示は引用により本明細書に取り込まれる。
【0025】
胃を通過するまで、製剤の放出を遅延させるカプセルが好ましい。放出は、十二指腸内の膵管を通過した後に生じることが好ましく、回腸内で生じることがより好ましい。放出が空腸の中央部で生じるべきでないことが好ましい。典型的には、経口投与から少なくとも30分後まで放出が遅延し、pH5.5にて30〜60分後の間であることが好ましい。製剤の放出は、完全な状態のカプセルの壁膜に欠陥が生じた後、すなわちゼラチンの壁膜の溶解又は穿孔が生じた後に始まる。ゼラチンカプセルに多数の穴が出来ることによって放出が生じる場合、放出が維持されてもよく、このことは、特にIBD又はクローン病の治療にとって有利となろう。
【0026】
時間依存性及び/又はpH依存性の様式で、溶解に対する抵抗性を持つ腸溶性材料の少なくとも一つカプセルを被覆することによって、放出を遅延させてもよい。代替的に又は付加的に、このような腸溶性材料の少なくとも一つがカプセルのゼラチン内に溶け込む。pH依存性ではなく時間依存性の放出用被覆材料を用いることが好ましい。腸溶性材料としては、ポリ(アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル)、特に平均分子量が約800,000のEudragit NE 30−D(Roehm Pharma GmbH)などの中性のポリアクリル酸が好ましく、このものは、pH依存性ではなく時間依存性の放出用被覆材料の一例である。
【0027】
本発明の第二の態様によると、慢性的な炎症状態、高脂血症、高トリグリセリド血症、喘息、双極性障害及び腫瘍性疾患から選択される状態を経口的に治療又は予防するための、第一の側面に規定された軟ゼラチンカプセルの少なくとも一つを含む薬剤の製造における、コラーゲン源の酸による前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチンの使用が提供される。この薬剤は、炎症性腸疾患(「IBD」)又はクローン病の治療又は予防において、特定の用途を有する。この薬剤は、上記で検討されたあらゆる適切な組み合わせのうちの好ましい任意の形態を有する軟ゼラチンカプセルの少なくとも一つを含んでもよい。
【0028】
本発明の第三の態様によると、オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルを製造するための方法であって、コラーゲン源の酸による前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチン内に当該医薬製剤を封入する工程を含む当該方法が提供される。
【0029】
本発明の第四の態様によると、製剤との化学的相互作用に対する軟ゼラチンカプセルの抵抗性を改善するための、オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルにおける、コラーゲン源の酸による前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチンの使用が提供される。当該抵抗性が、オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルのそれよりも大きいことが好ましく、ここで、そのカプセルにおけるゼラチンはコラーゲン源のアルカリによる前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチンから本質的になるものである。
【0030】
本発明の第五の態様によると、軟ゼラチンカプセルの有効期限を改善するための、オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセル内での、コラーゲン源の酸による前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチンの使用が提供される。当該有効期限が、オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその誘導体の少なくとも一つを含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルのそれよりも長いことが好ましく、ここで、そのカプセルにおけるゼラチンはコラーゲン源のアルカリによる前処理工程を含む抽出プロセスによって抽出されたゼラチンから本質的になるものである。
【0031】
軟ゼラチンカプセルを、IBD、特にクローン病の治療又は予防に用いてもよい。このような治療又は上記に列挙されたその他の治療において、患者を担当する医師によって製剤の一日投与量を設定することになり、それは、年齢などの種々の因子に左右されよう。通常、とりわけIBD又はクローン病の治療においては、一日あたり約1g〜約8gの間の製剤を患者に投与する。投与は、本発明の第一の側面に従うところの軟ゼラチンカプセルを複数投与する形態でよい。一日に投与されるカプセルの総数は、それぞれのカプセル内の製剤の量に左右されよう。従って、たとえば、一日投与量として4gの製剤を、8 500mgのカプセル又は4 1000mgのカプセルのいずれかの形態で投与してもよく、一日投与量として8gの製剤を、8 1000mgのカプセルの形態で投与してもよいだろう。
【0032】
本発明の第六の態様によると、オメガ−3多価不飽和脂肪酸の遊離酸型又は薬理学的に許容されるその塩の少なくとも一つを含む医薬製剤の一日当たり治療上有効量を、本発明の第一の側面に従うところの軟ゼラチンカプセルが複数個となる形態で投与する工程を含む、慢性的な炎症状態、高脂血症、高トリグリセリド血症、喘息、双極性障害及び腫瘍性疾患から選択される状態を治療又は予防する方法が提供される。治療又は予防される状態がIBD又はクローン病である場合、治療上有効量は通常、約1g〜約8gである。カプセルは、上記で検討されたあらゆる適切な組み合わせのうちの好ましい任意の形態でよい。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施例のみを手段とした次の記載は、本発明の現時点での好ましい実施形態の記載である。
【0034】
Aタイプゼラチンのカプセルを作製し、同時に公知の方法でオメガ−3多価不飽和脂肪酸製剤をその中に封入した。ブタのAタイプゼラチン粉末を水及び可塑剤と混合し、次いで加熱して、融解したゼラチンの塊を作製した。融解したゼラチンから二枚の薄いひも状のものを製造し、カプセルの形状を決定する二つのダイロールの間を通過させた。ダイロールが熱と圧力とを互いに加えてカプセルを密封する直前に、この製剤を二枚のひも状のゼラチンの間に注入した。次いで、得られたカプセルを必要な水分含量にまで乾燥させた。
【0035】
このようにして製造されたAタイプゼラチンのカプセルの安定性を、同一の方法を用いて製造されたBタイプゼラチンカプセルの安定性と比較した。多量の両カプセルを、異なる期間(3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月及び12ヶ月)、異なる温度(25℃、30℃及び40℃)で貯蔵し、次いでPh. Eur.に従って、37℃の精製水中でカプセルが崩壊する時間を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0036】
その内容物が効果的に放出される場合、軟ゼラチンカプセルが崩壊に要する時間は30分間よりも短時間であるべきである。従って、カプセルが30分以内に崩壊しない場合、「不溶」と判断された。「測定せず」という用語は、テストを「実施しなかった」という意味であった。
【0037】
この結果から、所定の温度で貯蔵したBタイプ(ウシ)ゼラチンカプセルについては、貯蔵時間が長くなるのに従って、崩壊時間が概して長くなっていることが示される。さらに、所定の時間貯蔵したBタイプ(ウシ)ゼラチンカプセルについては、貯蔵温度が高くなるのに従って、崩壊時間が概して長くなっている。これらの結果は、Bタイプゼラチンと化学的に相互作用するオメガ−3多価不飽和脂肪酸が、結果的にカプセルの壁膜を硬化させることと一致する。
【0038】
対照的に、貯蔵時間が長くなることや、又は貯蔵温度が高くなることのいずれかに従って、Aタイプ(ブタ)ゼラチンカプセルについての崩壊時間が長くなることは実質的にない。これらの結果は、硬化の程度が、Bタイプ(ウシ)ゼラチンカプセルに比較してAタイプ(ブタ)ゼラチンカプセルの方が顕著に弱いことを示すように思われる。特に、それらのカプセルが「不溶」と分類されたような、30℃で12ヶ月、及び40℃で3ヶ月及び6ヶ月貯蔵したBタイプ(ウシ)ゼラチンカプセルについての崩壊の結果に対して、対応するAタイプ(ブタ)ゼラチンカプセルは溶解に10分も要しなかったことが注意を引かれる。
【0039】
本発明が、好ましい実施形態に関する上記の詳細な事項に限定されないこと、しかしながら、次の請求の範囲に規定された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多数の修飾物及び改変物を作製することができることが理解されるだろう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離酸形態のオメガ−3多価不飽和脂肪酸の少なくとも一つを含む医薬製剤を有する軟ゼラチンカプセルであって、該軟ゼラチンカプセルが、該軟ゼラチンカプセルの有効期限を改善するのに十分な量のAタイプ(ブタ)ゼラチンを含有するものにおいて、
該有効期限が、遊離酸形態のオメガ−3多価不飽和脂肪酸の少なくとも一つを含み、かつ、本質的にBタイプゼラチンからなるものである医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルのそれよりも長いものである、
ことを特徴とする軟ゼラチンカプセル。
【請求項2】
該製剤が5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸(すなわち「EPA」)を含む、請求項1に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項3】
EPAが該製剤の少なくとも50重量%の量存在する、請求項2に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項4】
EPAが該製剤の50重量%〜60重量%の間の量存在する、請求項2又は3に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項5】
EPAが該製剤の少なくとも90重量%の量存在する、請求項2又は3に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項6】
該製剤が4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(すなわちDHA」)を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項から依存する範囲で、DHAが該製剤の20重量%〜30重量%の間の量存在する、請求項6に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項8】
該製剤の100mg〜2000mgを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項9】
該製剤の500mgを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項10】
該製剤の1000mgを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項11】
該カプセルの壁膜が単層からなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項12】
胃を通過するまで、該カプセルが該製剤の放出を遅延させる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項13】
十二指腸内の膵管を超えるまで、該カプセルが該製剤の放出を遅延させる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項14】
該カプセルが腸溶性材料の少なくとも一つで被覆されている、請求項12又は13に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項15】
該腸溶性材料の少なくとも一つが該カプセルの該ゼラチン内に溶け込んでいる、請求項12〜14のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項16】
該腸溶性材料の一つ又は少なくとも一つが中性のポリアクリル酸ポリマーである、請求項14又は15に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項17】
該腸溶性材料の一つ又は少なくとも一つがポリ(アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル)である、請求項14〜16のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項18】
該軟ゼラチンカプセルのゼラチンがAタイプ(ブタ)ゼラチンである請求項1〜17のいずれか1項に記載の軟ゼラチンカプセル。
【請求項19】
慢性的な炎症状態、高脂血症、高トリグリセリド血症、喘息、双極性障害及び腫瘍性疾患から選択される状態を経口的に治療又は予防するための、請求項1〜18のいずれかに記載された軟ゼラチンカプセル。
【請求項20】
遊離酸形態のオメガ−3多価不飽和脂肪酸の少なくとも一つを含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルを製造するための方法であって、Aタイプ(ブタ)ゼラチン内に該医薬製剤を封入する工程を含む該方法。
【請求項21】
製剤との化学的相互作用に対する軟ゼラチンカプセルの抵抗性を改善するための、遊離酸形態のオメガ−3多価不飽和脂肪酸の少なくとも一つを含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルにおける、Aタイプ(ブタ)ゼラチンの使用であって、
該抵抗性が、遊離酸形態のオメガ−3多価不飽和脂肪酸の少なくとも一つを含み、かつ、本質的にBタイプゼラチンからなるものである医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルのそれよりも大きいものである、Aタイプ(ブタ)ゼラチンの使用。
【請求項22】
軟ゼラチンカプセルの有効期限を改善するための、遊離酸形態のオメガ−3多価不飽和脂肪酸の少なくとも一つを含む医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセル内での、Aタイプ(ブタ)ゼラチンの使用であって、
該有効期限が、遊離酸形態のオメガ−3多価不飽和脂肪酸の少なくとも一つを含み、かつ、本質的にBタイプゼラチンからなるものである医薬製剤を含む軟ゼラチンカプセルのそれよりも長いものである、Aタイプ(ブタ)ゼラチンの使用。

【公開番号】特開2012−149073(P2012−149073A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−59540(P2012−59540)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【分割の表示】特願2006−552677(P2006−552677)の分割
【原出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(501279497)ティロッツ・ファルマ・アクチエンゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】TILLOTTS PHARMA AG
【Fターム(参考)】