説明

半凝固スラリーの製造方法および半凝固スラリーの製造装置

【課題】半凝固スラリーの酸化を防止することができ、鋳造された製品に鋳造欠陥を生じさせないようにすることを目的とする。
【解決手段】本発明は、容器30内で半凝固スラリーを製造する半凝固スラリーの製造方法であって、容器30内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器30の内周面に不活性ガスを用いて離型剤を塗布する工程と、容器30内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器30内に不活性ガスを充填させる工程との何れか、または双方を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半凝固スラリーの製造方法および半凝固スラリーの製造装置に関するものである。特に、溶湯を容器内で徐冷させて半凝固スラリーを製造する製造方法および製造装置に用いられて好適である。
【背景技術】
【0002】
近年、高品質な製品を鋳造できるダイカスト製法として、半凝固ダイカスト製法という製造方法が知られている。半凝固ダイカスト製法には、溶湯をカップに注ぎ込みカップ内で徐冷して半凝固スラリーを製造する、いわゆるカップ法という製造方法がある(例えば、特許文献1、2、3および4を参照)。カップ法は、安定した半凝固スラリーを製造することができるという利点を有している。
【0003】
ここで、図6を参照して、カップ法により半凝固スラリーを製造する方法について簡単に説明する。図6(a)に示すように、まず、カップ10の内周面を洗浄する。次に、図6(b)に示すように、カップ10の内周面に、圧縮空気を用いて離型剤を吹き付け、カップ10の内周面に塗布する。
【0004】
次に、図6(c)に示すように、溶融した金属である溶湯をカップ10内に注湯する。次に、図6(d)に示すように、カップ10内の注湯した溶湯を半凝固スラリー化させて、目的とする半凝固の固相率(温度)になるまで、カップ10内を徐冷しながら保持する。その後、図6(e)に示すように、製造した半凝固スラリーをダイカスト装置の射出スリーブ11に投入する。ダイカスト装置では、射出チップ12により半凝固スラリーを図示しない金型に押し込み、製品を鋳造する。このように成形された製品は、引け巣の発生が抑制されると共に機械的強度を向上させることができる。また、カップ法によれば、製造した半凝固スラリーをそのまま射出スリーブ11に投入できるために、取り扱いが容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3246358号公報
【特許文献2】特許第3549054号公報
【特許文献3】特許第3919810号公報
【特許文献4】特許第3491468号公報
【特許文献5】特開2000−15429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カップ法による半凝固スラリーの製造方法では、カップ10内で溶湯を半凝固スラリーにする工程において、溶湯が徐冷されながら半凝固スラリーになるまで高温で長時間、カップ10内に保持される。したがって、その間、半凝固スラリー表面が激しく酸化してしまうという問題がある。この半凝固スラリー表面に発生した酸化膜が、ダイカスト装置の金型に流入されるときに、巻き込まれ、鋳造された製品に鋳造欠陥が生じてしまう。
【0007】
一方、特許文献5に開示された金属成形品の製造装置では、射出スリーブと金型との間に酸化膜トラップ部材が設けられていて、半凝固スラリーが酸化膜トラップ部材を通過するときに、半凝固スラリーの表面に発生した酸化膜が除去されるようになっている。しかしながら、金型の構造が複雑になると共に確実に酸化膜を除去することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、半凝固スラリーの酸化を防止することができ、鋳造された製品に鋳造欠陥を生じさせないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る半凝固スラリーの製造方法は、容器内で半凝固スラリーを製造する半凝固スラリーの製造方法であって、容器内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器の内周面に不活性ガスを用いて離型剤を塗布する工程と、容器内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器内に不活性ガスを充填させる工程との何れか、または双方を有することを特徴とする。
また、前記離型剤を塗布する工程の前および後の少なくとも何れかにおいて、前記容器内に不活性ガスを充填させる工程を行うことを特徴とする。
また、前記容器内に不活性ガスを充填させる工程および前記離型剤を塗布する工程では、同一の吹き付けノズルによって不活性ガスの充填および離型剤の塗布を行うことを特徴とする。
また、前記容器内に溶融金属を注入する工程を有し、前記容器内に不活性ガスを充填させる工程は、前記容器内に溶融金属を注入する工程の間に行うことを特徴とする。
また、前記離型剤を塗布する工程で塗布された離型剤を、不活性ガスを用いて乾燥させる工程を有することを特徴とする。
また、前記不活性ガスは、窒素ガス、ヘリウムガスまたはアルゴンガスであることを特徴とする
本発明に係る半凝固スラリーの製造装置は、容器内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器の内周面に不活性ガスを用いて離型剤を塗布する離型剤塗布手段と、容器内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器内に不活性ガスを充填させる不活性ガス充填手段との何れか、または双方を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半凝固スラリーの酸化を防止することができ、鋳造された製品に鋳造欠陥を生じさせないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】半凝固スラリーの製造方法を説明するための図である。
【図2】鋳造する製品の一例を示す図である。
【図3】実施例1の半凝固スラリーの製造方法を説明するための図である。
【図4】実施例2の半凝固スラリーの製造方法を説明するための図である。
【図5】各製造方法によって製造された半凝固スラリーの製品の鋳造結果を示す図である。
【図6】従来の半凝固スラリーの製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態において、半凝固スラリーとは、Al−Si系、Al−Si−Mg系、Al−Mg系、Al−Zn−Mg系、Al−Cu系、Fe−C系の亜共晶合金を球状の固相と液相とが混在した半凝固状態の金属をいう。ここで、半凝固スラリーの固相率は、20〜60%の範囲である。すなわち、固相率が20%未満では、引け巣の防止やガス巻き込み防止といった半凝固スラリーのメリットが得られなくなる。また、60%以上では、流動性が悪く鋳造が困難である。半凝固スラリーのメリットを得るためには、固相率40〜60%の範囲であることが望ましい。
【0013】
また、本実施形態において、半凝固ダイカストとは、上述した半凝固スラリーを製造する工程と、製造した半凝固スラリーを金型に加圧充填させて製品を鋳造する工程とを含むものである。
【0014】
また、本実施形態において、カップ法とは、例えばステンレス製等の耐熱性のカップ(容器)に溶湯を注ぎ込み、冷却しながらカップ内で溶湯を半凝固化させる半凝固スラリーの製造方法である。なお、カップ法には、カップ内に溶湯を静かに注ぎ込み、その後、カップ内で溶湯を徐冷して半凝固スラリーを製造する製造方法(例えば特許文献1)や、カップ内に溶湯を注ぎ込み、カップ内で溶湯を攪拌する方法がある。攪拌方法には、電磁攪拌を用いる方法(例えば特許文献2)、注湯をするときの勢いを用いる方法(例えば特許文献3)、振動を加える方法(例えば特許文献4)等がある。
【0015】
上述した何れの製造方法であっても、カップから半凝固スラリーを取り出すためにカップに離型剤を塗布した後、溶湯をカップに注ぎ込み、所定の温度または所定の固相率になるまで(一般的に30秒以上)、カップ内で溶湯を保持することで、半凝固スラリーが製造できる。その後、カップから半凝固スラリーを取り出して、ダイカスト装置の射出スリーブに入れ、鋳造する。
【0016】
次に、図面に基づき、本発明に係る半凝固スラリーの製造方法の好適な実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る半凝固スラリーの製造方法を説明するための図である。以下では、半凝固スラリー製造装置が半凝固スラリーを製造する場合について説明するが、この場合に限られず、作業者が半凝固スラリーを製造してもよい。
【0017】
まず、図1(a)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、カップ20の内周面を洗浄する。ここでは、半凝固スラリー製造装置が、カップ20内に挿入した吹き付けノズル21によって、カップ20の内周面に空気を吹き付けることで洗浄する。
次に、図1(b)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、カップ20内に不活性ガスを充填させる。ここでは、半凝固スラリー製造装置が、カップ20内に挿入した、不活性ガス充填手段としての吹き付けノズル21によって、カップ20内に不活性ガスとして窒素ガスを充填させる。
【0018】
このように、カップ20内に溶湯を注入する前に不活性ガスを充填させるのは、カップ20内に充填されている空気(酸素)が、半凝固スラリーの表面に酸化膜を発生させる原因の一つだからである。すなわち、従来、カップ20内に充填されていた空気は、後述するカップ20内で溶湯を保持する工程において、溶湯の表面とカップ20内の空気とが接触するために酸化膜を発生させていた。
したがって、本実施形態のように、カップ20内に充填されていた空気を不活性ガスに入れ換えることで、後述するカップ20内で溶湯を保持する工程においても、溶湯の表面には不活性ガスが接触しているのみなので、酸化膜の発生を防止することができる。
【0019】
次に、図1(c)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、カップ20の内周面に不活性ガスを用いて離型剤を塗布する。ここでは、半凝固スラリー製造装置が、カップ20内に挿入した、離型剤塗布手段としての吹き付けノズル21によって、圧縮した不活性ガスを用いて離型剤をカップ20の内周面に吹き付ける。
【0020】
このように、離型剤を塗布するときに不活性ガスを用いるのは、離型剤を吹き付けるときに用いられていた空気(酸素)が、半凝固スラリーの表面に酸化膜を発生させる原因の一つだからである。すなわち、従来、圧縮空気を用いて離型剤を吹き付けていたために、離型剤中に酸素が取り込まれ、後述するカップ20内で溶湯を保持する工程において、溶湯と酸素が取り込まれた離型剤とが接触するために酸化膜を発生させていた。また、離型剤を吹き付けた空気がカップ20内に充満し、溶湯とカップ20内の空気とが接触するために酸化膜を発生させていた。
【0021】
したがって、本実施形態のように、圧縮した不活性ガスを用いて、離型剤を吹き付けることで、離型剤に酸素が含まれず、またカップ20内には酸素が含まれていないので、後述するカップ20内で溶湯を保持する工程においても、溶湯の表面に酸化膜の発生を防止することができる。
なお、ここでは、離型剤を塗布するときに用いられる吹き付けノズル21と不活性ガスを充填させるための吹き付けノズル21とを共通にしているため、吹き付けノズルを入れ換える必要がなく、連続して処理を行うことができる。このように同一の吹き付けノズルを用いることで、吹き付けノズルを入れ換えた場合に発生する、カップ20内への空気の介入がなく、酸化膜の発生をより防止することができる。
【0022】
次に、図1(d)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、離型剤が塗布され、不活性ガスが充填されたカップ20内に溶融金属である溶湯を注湯する。このとき、カップ20内には不活性ガスが充填されているので、カップ20内に注湯しているときの溶湯と空気との接触を低減させることができ、溶湯の酸化を抑制させる。
【0023】
次に、図1(e)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、カップ20内に注湯した溶湯を半凝固スラリー化させて、目的とする半凝固の固相率(温度)になるまで、カップ20内を徐冷しながら保持する。このとき、カップ20に接触している溶湯は、酸素が含まれていない離型剤に接触している。また、溶湯の表面は不活性ガスのみに接触しているので酸化することなく、半凝固スラリーが製造される。
【0024】
次に、図1(f)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、製造した半凝固スラリーを図示しないダイカスト装置のキャビティに連通する射出スリーブ22内に投入する。その後、ダイカスト装置の射出チップ23が、投入された半凝固スラリーをキャビティ内に送り出す。その後、ダイカスト装置が半凝固スラリーを鋳造することで、半凝固ダイカストが行われる。半凝固スラリーから鋳造された製品は、酸化膜が巻き込まれて鋳造されることがないので、鋳造欠陥がなく製品の品質を向上させることができる。
【0025】
このように、本実施形態によれば、表面に酸化膜が発生されていない半凝固スラリーを製造することができる。本実施形態では、不活性ガスとして窒素ガスを用いる場合について説明した。窒素ガスは、取り扱いが容易な上、空気と比重が同等であるため、カップ20内に窒素ガスを充填した後、溶湯を注湯するまでに、窒素ガスがカップ20外に放出され難く、優れている。なお、不活性ガスとしては、窒素に限られず、ヘリウム、アルゴン等であってもよい。
【0026】
また、本実施形態では、離型剤を塗布する前に不活性ガスをカップ20内に充填させる場合について説明した。このように、離型剤を塗布する前に不活性ガスをカップ20内に充填させることで、離型剤を吹き付けるときに離型剤に空気(酸素)が巻き込まれた状態でカップ20の内周面に塗布されることがない。なお、離型剤を塗布する前に不活性ガスをカップ20内に充填させる場合に限られず、離型剤を塗布した後に不活性ガスをカップ20内に充填させてもよい。
【0027】
次に、上述した製造方法により酸化膜の発生を防止させて製造された半凝固スラリーを用いて鋳造された製品と、従来の製造方法により製造された半凝固スラリーを用いて鋳造された製品とを比較する。
ここでは、半凝固スラリーを製造するカップとして、直径90mm、高さ290mm、抜き勾配5mm/全長、鋳込み重量3.8kgのステンレスカップを用いた。また、鋳造した製品は、図2に示すアルミナックル40である。以下では、実施例1、実施例2および比較例1で説明する製造方法によって製造した半凝固スラリーを用いて、それぞれ図2に示すアルミナックル40を50ショットずつ鋳造した。
【0028】
(実施例1)
まず、実施例1の半凝固スラリー製造方法について図3を参照して説明する。なお、実施例1では、上述した実施形態と同一の処理工程は、簡略して説明する。
まず、図3(a)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、カップ30の開口部を下方にした状態でブラシおよび圧縮空気を用いてカップ30の内周面を洗浄する。
【0029】
次に、図3(b)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、カップ30の開口部を下方にした状態で、カップ30内に挿入した吹き付けノズル31によって、カップ30内に窒素ガスを充填させる。このとき、半凝固スラリー製造装置は、吹き付けノズル31を上下に移動させたり停止させながら、5秒間、カップ30内に窒素ガスのみを吹き付ける。このようにすることで、吹き付けノズル31に詰まった物質を排除することができると共に、カップ30内に窒素ガスを充填させることができる。
【0030】
次に、図3(c)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、離型剤としてのBN液物を図示しないエジェクターで吸引し、吸引したBN液物を窒素ガス中の微細粒として、吹き付けノズル31を介して、4秒間、カップ30の内周面に吹き付ける。なお、BN液物は、BN粉末、シクロペンタンおよびバインダーを混ぜ合わせて構成される。また、半凝固スラリー製造装置は、吹き付けノズル31に離型剤を供給するために、エジェクターのキャリアガス側に直径6mmの配管で0.2MPaの圧力で吹き付けノズル31に離型剤を供給した。このようにしてカップ30の内面に離型剤が塗布される。
【0031】
次に、図3(d)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、窒素ガスのみを、吹き付けノズル31を介して、15秒間、吹き付けて、離型剤を乾燥させる。
次に、図3(e)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、不活性ガスが充填されたカップ30の開口部を上方にした状態で、給湯ロート32を用いて、カップ30内に溶湯を注湯する。ここでは、溶湯として、650℃のAl−Si−Mg系のアルミニウム合金であるAC4CH、3.8kgを注湯する。
【0032】
次に、図3(f)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、注湯された溶湯を15秒間、電磁攪拌して半凝固スラリーを生成する。さらに、半凝固スラリー製造装置は、生成した半凝固スラリーが平均588℃になるまで、カップ30内で保持する。
次に、図3(g)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、製造した半凝固スラリーを図示しないダイカスト装置のキャビティに連通する射出スリーブ33内に投入する。その後、ダイカスト装置の射出チップ34が、投入された半凝固スラリーをキャビティ内に送り出す。その後、ダイカスト装置が半凝固スラリーを鋳造することで、アルミナックルが製造される。
【0033】
(実施例2)
次に、実施例2の半凝固スラリー製造方法について図4を参照して説明する。なお、実施例2では、実施例1で説明した図3(a)から図3(d)の離型剤の乾燥工程までは、同一であり、その説明を省略する。
離型剤を乾燥させた後、図4(a)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、カップ30の開口部を上方にした状態で、給湯ロート32の直下に配置された配管35を介して、窒素ガスを流量20L/min、圧力0.4MPaで10秒間、供給する。
【0034】
続いて、図4(b)に示すように、半凝固スラリー製造装置は、直ちに、給湯ロート32を用いて、カップ30内に溶湯を注湯する。ここでは、溶湯として、650℃のAl−Si−Mg系のアルミニウム合金であるAC4CHを7秒間で注湯する。その後、半凝固スラリー製造装置は、窒素ガスの供給を停止する。このように、実施例2では、カップ30に溶湯を注湯している間、不活性ガスをカップ30内に供給する。
【0035】
その後、実施例1の図3(f)に示す工程と同様に、半凝固スラリー製造装置は、半凝固スラリーを製造する。また、実施例1の図3(g)に示す工程と同様に、ダイカスト装置は、製造された半凝固スラリーを鋳造して、アルミナックルを製造する。
【0036】
(比較例1)
次に、比較例1の半凝固スラリーの製造方法について説明する。比較例1の半凝固ラリーの製造方法は、実施例1と同一条件で、窒素ガスに代えて、圧縮空気を用いて離型剤をカップの内周面に吹き付けることで、離型剤をカップに塗布した。なお、離型剤を吹き付けノズルに供給する条件も実施例1と同一である。
また、比較例1の半凝固スラリーの製造方法は、窒素ガスに代えて、圧縮空気をカップ内に充填させ、その他の電磁攪拌条件や鋳造条件も実施例1と同一である。
【0037】
上述した実施例1、実施例2および比較例1の各製造方法で製造された半凝固スラリーの表面外観および鋳造した製品の鋳造結果を図5に示す。なお、鋳造結果として比較する箇所は、図2に示すようにアルミナックル40の一部を機械加工により切削した加工面41である。
図5に示すように、実施例1および実施例2の製造方法で製造された半凝固スラリーの表面外観は、金属光沢で滑らかであった。一方、比較例1の製造方法で製造された半凝固スラリーの表面外観は、灰色で部分的に浅い凹凸が生じていた。
【0038】
また、図5に示すように、実施例1および実施例2で製造された半凝固スラリーを用いて鋳造された製品の加工面は、酸化物が巻き込まれた巻き込み欠陥(鋳造欠陥)の発生率が0%であった。一方、比較例1で製造された半凝固スラリーを用いて鋳造された製品の加工面は、酸化物が巻き込まれた巻き込み欠陥(鋳造欠陥)の発生率が30%であった。
このように、実施例1および実施例2による半凝固スラリーの製造方法によれば、酸化膜の発生を有効に防止していることがわかる。
【符号の説明】
【0039】
20:カップ 21:吹き付けノズル 22:射出スリーブ 23:射出チップ
30:カップ 31:吹き付けノズル 32:給湯ロート 33:射出スリーブ
34:射出チップ 35:配管 40:アルミナックル 41:加工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内で半凝固スラリーを製造する半凝固スラリーの製造方法であって、
容器内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器の内周面に不活性ガスを用いて離型剤を塗布する工程と、
容器内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器内に不活性ガスを充填させる工程との何れか、または双方を有することを特徴とする半凝固スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記離型剤を塗布する工程の前および後の少なくとも何れかにおいて、前記容器内に不活性ガスを充填させる工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の半凝固スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記容器内に不活性ガスを充填させる工程および前記離型剤を塗布する工程では、同一の吹き付けノズルによって不活性ガスの充填および離型剤の塗布を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の半凝固スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記容器内に溶融金属を注入する工程を有し、
前記容器内に不活性ガスを充填させる工程は、前記容器内に溶融金属を注入する工程の間に行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の半凝固スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記離型剤を塗布する工程で塗布された離型剤を、不活性ガスを用いて乾燥させる工程を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の半凝固スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記不活性ガスは、窒素ガス、ヘリウムガスまたはアルゴンガスであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の半凝固スラリーの製造方法。
【請求項7】
容器内で半凝固スラリーを製造する半凝固スラリーの製造装置であって、
容器内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器の内周面に不活性ガスを用いて離型剤を塗布する離型剤塗布手段と、
容器内で半凝固スラリーを製造する前に、前記容器内に不活性ガスを充填させる不活性ガス充填手段との何れか、または双方を備えることを特徴とする半凝固スラリーの製造装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−104600(P2011−104600A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259290(P2009−259290)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【出願人】(595046665)株式会社リテラ (5)
【Fターム(参考)】