説明

半導体に固定化された酵素を具備するバイオセンサー及び方法

【課題】半導体に固定化された酵素を具備するバイオセンサー及び方法
【解決手段】本発明は、試験試料中の薬剤の存在及び/又は濃度を検出するための、官能性を持たせた半導体要素を用いる方法及びデバイスを提供する。本発明のデバイスは、(i)電子供与体の存在下において励起され得る半導体物質を含むか、又はそれと結合された表面を有する本体、前記半導体物質は、前記本体内で電流を発生することができる;及び、(ii)基質の存在下において、前記電子供与体を産する反応を触媒する、前記半導体物質に結合された酵素;を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体媒体中の検体の存在及び/又は濃度を測定するための分析方法に関する。本発明の方法は、検体の濃度又は存在が電流又は電圧の測定によって決定され、その構成が酵素反応に依存する光電気化学的方法である。
【背景技術】
【0002】
[参照文献の一覧]
以下の参照文献が、本発明の背景を理解するために適切であると考えられる。
【0003】
1. Klein, D. L.; Roth, R.; Lim, A. K. L.; Alivisatos, A. P. ; McEuen, P. L., Nature1997,389, 699-701.
2. Alivisatos, A. P., Science 1996,271, 933-937.
3. Kim, T. W.; Lee, D. U.; Yoon, Y. S., J. Appl. Phys. 2000,88, 3759-3761.
4. Bruchez, M. , Jr.; Moronne, M.; Gin, P ; Weiss, S.; Alivisatos, A. P., Science 1998, 281,2013-2015.
5. Chan, W. C. W.; Nie, S. , Science 1998,281, 2016-2018.
6. Willner, I. ; Patolsky, F. ; Wasserman, J. , Angew. Chem. Int. Ed. 2001,40, 1861-1864.
7. Tessler, N.; Medvedev, V ; Kazes, M.; Kan, S.; Banin, U. , Science 2002, 295,1506-1508.
8. Pavesi, L.; Negro, L. D.; Mazzoleni, C.; Franzo, G. ; Priolo, F., Nature 2000, 408,440-444.
9. Malko, A. V ; Mikhailovsky, A. A.; Petruska, M. A.; Hollingsworth, J. A.; Htoon, H.; Bawendi, M. G ; Klimov, V. I., Appl. Phys. Lett. 2002,81, 1303- 1305.
10. Gerion, D.; Parak, W. J.; Williams, S. C.; Zanchet, D.; Micheel, C. M.; Alivisatos, A. P. , J. Am. Chem. Soc. 2002,124, 7070-7074.
11. Pathak, S.; Choi, S.-K. ; Arnheim, N.; Thompson, M. E. , J. Am. Chem. Soc. 2001,123, 4103-4104.
12. Reynholds, III, R. A.; Mirkin, C. A.; Letsinger, R. L. , J. Am. Chem. Soc. 2000,122, 3795-3796.
13. Niemeyer, C. M. , Angew. Chem. Int. Ed. 2001,40, 4128-4158.
上記の刊行物は、これ以後、上記一覧の番号を示す事によって参照される。
【0004】
[発明の背景]
半導体量子ドットの独特な電気的及び光量子的性質が、光電子工学的応用の領域で利用されている1,2。特に、半導体ナノ粒子の光物理学的特徴が、センサー3及びバイオセンサーシステム4,6、発光ダイオード7及びレーザー8,9の開発に利用されている。タンパク質の官能性を持たせた量子サイズの半導体粒子又は抗体修飾されたナノ粒子が、生物認識現象のための発光ラベルとして提案されている10。同様に、核酸修飾された半導体ナノ粒子が、DNAハイブリダイゼーションのための発光プローブとして作用することが報告されている6,11。近年、オリゴヌクレオチド誘導体化された量子ドットが、DNA架橋結合されたナノ粒子の拡張されたネットワークを形成する建築用ブロックとして用いられ、そのアレイの光電気化学的特徴が検討されている12,13
【発明の開示】
【発明の概要】
【0005】
本発明は、典型的には粒子の形体であり、好ましくは半導体ナノ粒子である、官能性を持たせた半導体要素を、試験試料中の薬剤の存在及び/又は濃度を検出するために利用する方法及びデバイスを提供する。半導体要素は、それに酵素が結合され、基質の存在下で反応を触媒し、励起によって半導体本体の価電子帯において発生したホールのための電子供与体として働く産物を産する。検体は、酵素の能力に影響して電子供与体を発生させるようなものであり、或いは、検体は、電子供与体を生成する反応における反応体の一つである。
【0006】
よって、第一の側面に従って、本発明は以下を具備するデバイスを提供する:
(a)電子供与体の存在下において励起され得る半導体物質から成るか、又はそれと結合された表面を有する本体、前記半導体物質は、前記本体内で電流を発生することができる;及び
(b)基質の存在下において、前記電子供与体を産する反応を触媒する、前記半導体物質に結合された酵素。
【0007】
デバイスは、アッセイのために典型的には試料中で用いられる。本態様において、検体は酵素の基質であってよく、又は、酵素活性のモジュレーター、例えば、阻害剤、コファクターなどであってよい。検体の存在下において、電流が発生されるか又は変調される。これは、試験試料中で、検体の存在の指標与え得る。電流レベル又は電流の変調の程度は、試験試料中の検体の濃度の指標として役立つ。「測定(determination)」という用語は、ここでは、検体の定性的なアッセイ、即ち、検体が試験試料中に存在するかどうかの是非を得ること、並びに、定量的なアッセイ、即ち、試料中の検体の存在及び濃度を測定することの両者を意味する。
【0008】
好ましい態様に従って、本体は、半導体物質から成る粒子、より好ましくは該物質から成るナノ粒子を含む層に結合された電極である。他の好ましい態様に従って、電極自体は半導体物質から成るか、或いは半導体物質によって被覆されている。ハイブリッドシステムは、半導体物質と酵素の間で形成され、例えば電磁放射の照射による励起状態で、電子供与体の存在下において、電流が発生する。
【0009】
電流の流れは、試験試料中に生じた電子供与体を発生する反応の結果の電気的応答である。電子供与体の形成は、試験試料中の検体の存在によって影響され、或いは、検体自体が該反応における反応物の一つであってよい。「電気的応答」という用語は、電極によって記録される電気的パラメータ、或いは電極の電気的性質における、任意の測定可能な変化を意味する。電気的応答は、反応の結果の電流、変化又は潜在的な変化のフローであり得る。疑いなく認められるように、本発明は、電気的応答が測定される方法によって限定されるものではなく、従って、使用可能な任意の測定方法を、電気的応答の測定のために適用することができる。
【0010】
本発明は、電気的応答をモニタリングすることによって、試験試料中の検体の存在を定性的に検出することを可能にする。加えて、該応答の程度を測定することによって、検体の濃度をも定量的に測定することが可能である。
【0011】
酵素の例は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)、グルコースオキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、コリンオキシダーゼ等である。電子供与体は、例えば、酵素と基質の反応産物であってよく、或いは、酵素のコファクターから生成されてもよい。好ましくは、コファクターは、リンカーを介して半導体物質に結合されるか、又は試験試料中に可溶化される。
【0012】
本発明のデバイス中の電極は、導体物質又は半導体物質、例えば金、プラチナ、パラジウム、銀、炭素等から成るか、又はそれらで被覆される。本発明に用いられる半導体物質は、例えば、III−V群、III−V群の合金、II−VI群、I−VII群、及びIV群半導体から選択されて良い。III−V群の半導体の例は、InAs,GaAs,GaP,GaSb,InP,InSb,AlAs,AlP,AlSb、及びInGaAs,GaAsP,InAsPのような合金である。II−VI群の半導体の例は、CdS,CdSe,CdTe,ZnS,ZnSe,ZnTe,HgS,HgSe,HgTe等である。I−VII群の半導体の例は、CuCl,CuBr,CuI,AgCl,AgBr,AgI等である。IV群の半導体の例は、Si及びGeである。
【0013】
電磁放射による励起は、用いた半導体物質の種類、及び、その形体、例えば粒子、ナノ粒子、量子ドット、ナノロッドなどの形体によって、種々の波長で行われる。例えば、CdSナノ粒子の場合、励起エネルギーは、UV可視領域中である。励起エネルギーは、半導体物質を適切な色素で被覆することによっても調整できる。
【0014】
他の側面に従って、本発明は試験試料中の検体を測定するためのバイオセンシングシステムを提供する。該システムは、以下を具備する:
(i)照射ユニット;
(ii)作用極及び対照極を備えた反応セル、該作用極は、電子供与体の存在下において、前記照射ユニットにより励起されて前記作用極内で電流を発生する半導体物質を含む表面、又はそれに結合された表面を有する、及び、酵素の基質の存在下において、電子供与体を産する反応を触媒する、前記半導体物質に結合された酵素、前記検体は前記基質、又は酵素の触媒活性を変調し得るモジュレーターである;及び
(iii)前記作用極内で発生した電流又は電圧を判読するための測定ユーティリティ。
【0015】
また、本発明は、試験試料中の検体の存在を同定する方法をも提供する。該方法は、上記定義のバイオセンシングシステムを用意すること、アッセイされるべき試料を該システムの反応セルに導入すること、半導体粒子が励起を起こすように該システムを照射すること、及び電気的応答、検体を含まないコントロール媒体中での同じ条件下での電気的応答と比較した電気的応答における変化を測定すること、該システムにおける検体の存在を表示することを含む。
【0016】
また、本発明によって、試験試料中の検体の濃度を測定するための方法も提供される。該方法は、上記定義のバイオセンシングシステムを用意すること、アッセイされるべき試料を該システムの反応セルに導入すること、該半導体粒子の励起が起こるように該システムを照射すること及び電気的応答、既知の濃度の検体を含む媒体中での同じ条件下での電気的応答の検量線と比較した、該電気的応答の大きさを測定すること、該システム中の検体の濃度を表示すること:を具備する。
【0017】
他の側面から、本発明はさらに、試験試料中の一以上の異なる検体の存在を測定するためのバイオセンシングシステムを提供する。該システムは、以下を具備する:
(i)照射ユニット
(ii)それぞれが以下を具備する、バイオセンシングシステムのアレイを備えた反応セル:
a.作用極及び対照極、前記作用極は、電子供与体の存在下において、前記照射ユニットにより励起されて、前記作用極内で電流を発生する半導体物質を含む表面、又はそれに結合された表面を有する、及び、酵素の基質の存在下において、電子供与体を産する反応を触媒する、前記半導体物質に結合された酵素、前記検体は前記基質、又は酵素の触媒活性を変調し得るモジュレーターである;及び
b.前記それぞれの作用極内で発生した電流又は電圧を判読するための測定ユーティリティ。
【0018】
本発明を理解するため、及び、どのようにして実際に行うかを理解するために、添付の図を参照した非限定的な実施例によって幾つかの好ましい態様を説明する。
【発明の詳細な説明】
【0019】
本発明に従えば、CdSのような半導体物質のナノ粒子に共有結合的又は物理的に結合したアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を具備するバイオセンシングシステムにおいて、アセチルコリンエステラーゼの阻害剤及び活性化剤を、光電気化学的に検出することができる。
【0020】
アセチルコリン(ACh)は、シナプス及び神経反応を活性化する中心的な神経伝達物質である。神経反応を活性化させた後の神経伝達物質、AChはセリンプロテアーゼによって速やかに加水分解されて、AChEはシナプス膜の静止電位を回復する。別の試薬、例えば神経ガスジイソプロピルフルオロホスフェート(サリン)又は毒(例えば、コブラ毒)は、AChEの阻害剤又は遮断剤として作用する。酵素刺激性神経伝達の遮断は、生命システムの重要な機能を急速に麻痺させる。従って、ここに記載するアセンブリは、生物戦用の神経ガスのためのバイオセンサーとして作用するバイオマテリアル-半導体ハイブリッドデバイスとみなされる。
【0021】
CdSナノ粒子(直径3 nm)は、システアミン及びメルカプトエタンスルホン酸の保護単層でキャップされている。XPS分析は、それぞれ、ca.84%のCd2+表面基が、チオール化された分子に結合し、また、システアミンとチオールスルホネートユニットの間の比が、ca.1:10であることを示している。キャップされたCdSナノ粒子は、図1に示したように、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルシステイン酸で官能性を持たせたAu-電極に共有的に結合した。微小重量の水晶微量天秤(QCM)は、Au-水晶上のCdSナノ粒子の類似性の関係を測定し、表面に結合したCdSナノ粒子が、表面被覆度5.7×1012粒子・cm-2に相当するΔf=140Hzの変化を含むことを示した。次いで、AChEを、ブリッジングユニットとしてグルタルジアルデヒドを用いて、CdSナノ粒子に共有結合した。平行して、微小重量のQCM測定はAChの表面被覆度が3.9×10-12 mole・cm-2であることを示す。従って、ca.2.4ナノ粒子は、それぞれのAChEユニットと結合されている。
【0022】
図1に示したように、CdSナノ粒子-AChEハイブリッドシステムは、基質としてのアセチルチオコリン(1)の存在下において、光電気化学的に活性である。アセチルチオコリンの加水分解による産物の一つは、チオコリン(2)であり、これは電子供与体である。
【0023】
図2Aは、異なる濃度のアセチルチオコリンの存在下で、システムに光照射して得られた光電流作用スペクトルを示す。光電流スペクトルは、CdSナノ粒子の吸収スペクトルと重複し、半導体ナノ粒子の励起から生ずる光電流を意味している。対照実験は、アセチルチオコリンの非存在下では、システムにおいて光電流は発生しないことを明らかにしている。また、アセチルチオコリンの存在下において、AChEを欠くCdSナノ粒子単層の照射は、全く光電流を起こさない。従って、システム中の光電流の発生は、アセチルチオコリン(1)のアセテート及びチオコリン(2)への、AChE触媒加水分解に起因する。後者の産物(チオコリン)は、CdSナノ粒子の励起状態で、価電子帯で発生したホールのための供与体として作用する。従って、ホールによるチオコリンの酸化が電子孔の再結合を排除し、よって、定常状態の光電流が発生する。図2Bに示されるように、(1)の濃度が上昇するにつれ、粒子表面の(2)の濃度が高くなり、そして、光電流が増強される。
【0024】
さらなる対照実験において、異なる濃度の関係する電子供与体システアミンの存在下において、AChEで官能性を持たせたCdS単層によって発生した光電流は、類似の濃度のアセチルチオコリン(1)によって発生した光電流と類似する。これらの結果から、CdSナノ粒子インターフェースにおいて、全ての基質(1)が生物触媒プロセスによって(2)に変換されること、及び、価電子帯ホールによる(2)の酸化が効率的であり(2)のバルク溶液への拡散を防ぐことが示唆される。
【0025】
図3Aは、10 mMの(1)、及び、異なる濃度の阻害剤1,5-ビス(4-アリルジメチルアンモニウムフェニル)ペンタン-3-オンジブロミド(3)の存在下における、AChE-の官能性を持たせたCdS-ナノ粒子電極の光電流作用スペクトルを示す。(3)の濃度の上昇は、光電流を減少させる。曲線(c)に示したように、セルから阻害剤を洗い流すと、初期の光電流が殆ど回復する。
【0026】
図3Aの挿入図は、異なる濃度の(3)の存在下における光電流の阻害に対応する、ラインウィーヴァー‐ブルクプロットを示す。これらのプロットから、(3)は競合的阻害剤KI=7μMとして作用すると結論づけられる。CdSナノ粒子と結合しているAChEのアセチルチオコリン(1)に対するKM値は、KM=5mMである。この値は、溶液中のAChE及び(1)のKM=0.13mMより高い。ナノ粒子-固定化AChEの、より高いKM値は、表面結合の結果として、生体触媒のわずかな非活性化及び構造上の撹乱に起因する。
【0027】
阻害剤の存在下において観察された光電流の減少は、図3Bに模式的に示したが、これは、チオコリンの生体触媒化形成の低収率に起因し、よって、価電子帯のホールの効率的な排除が減少する。図3Cに示したように、AchEの異なる濃度の天然基質、アセチルコリン(4)の存在下において、AChE-CdSナノ粒子/(1)システムによって発生した光電流の分析において、関連する結果が得られる。アセチルコリン(4)は、活性サイトにおいて、アセチルチオコリンと競合する。結果として、アセチルコリンの上昇は、観察される光電流の減少をもたらす。酵素の、その天然基質AChへの親和性は、アセチルチオコリンに対するその親和性よりも高い。よって、AChE-CdSナノ粒子/(1)システムは、アセチルコリンに高感受性である。
【0028】
上記の例において、光電流の形成の推進力は、光発生価電子帯ホールを除去するチオコリンの生体触媒形成である。酵素阻害剤が光電流を減少させ、従って、ナノ粒子-AChEシステムがそれぞれの阻害剤のためのバイオセンサーとして作用することも示された。生物戦のためのそのようなバイオセンサーの当面の適用可能性の外、CdSナノ粒子-AChE/アセチルチオコリンシステムは、異なるバイオセンサーのための多用途の光電気化学的ラベルであってよい。
【0029】
さらなる例には、CdSナノ粒子に連結されたNAD(P)+依存性酵素が含まれる。そのような例では、コファクターがシステムに可溶化されるか又は固定化される。それぞれの基質の存在下で、酵素はNAD(P)+コファクターを還元してそれぞれの還元型NAD(P)Hを産する。還元されたコファクターは、適切な照度で、電子をCdSナノ粒子に提供でき、よって光電流が維持される。光電流は、以下の条件で生じる:(a)CdSナノ粒子が、電極表面にNAD(P)+-依存性酵素と共に共固定される、(b)それぞれのNAD(P)+コファクターが、溶液に添加されるか、又はシステムに共固定される、(c)それぞれの酵素基質が溶液に添加される、(d)適切な照度が電極表面に加えられる。図4は、考えられる二つの立体配置の概要である:(A)可溶化されたNAD+コファクターによる、及び(B)共有結合的に固定化されたNAD+コファクターによる。何れの場合でも、NAD+依存性酵素乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、それぞれの基質、乳酸と共に用いられ、これは生体触媒的に酸化されてピルベートになる。酵素反応の結果として、還元型コファクターNADH(Aでは可溶化され、Bでは固定化されている)が形成される。光電流値は、基質(乳酸)濃度と比例する:乳酸濃度が酵素飽和値以下である限り、その光強度は一定である。図5Aは、図4Aで示した可溶化されたコファクターのシステムの調製の概要であり、図5Bは図4Bで示した固定化されたコファクターのシステムの調製の概要である。図5Bの例の酵素分子は、二次元的なフィルムにおいて、架橋剤グルタルジアルデヒドによって架橋されている。この架橋結合は、酵素フィルムの安定化に、また、センシングインターフェースからの酵素の脱離を防ぐために有用である。
【0030】
異なる種類のNAD(P)+依存性酵素を用いることが可能であること、固定化方法は変更可能であること、人工的なNAD+誘導体を、用いるそれぞれの固定化方法のために変更することも可能であることに、留意されるべきである。
【0031】
本発明のバイオセンシングシステムは、試験試料中の一以上の異なる検体の存在を測定するために設計されることもできる。そのようなシステムは、照射ユニット、及びバイオセンシングシステムのアレイを備えた反応セル、該それぞれのシステム内で発生した電流を判読するための測定ユーティリティを含む。
【0032】
まとめに、本発明は、酵素-半導体ハイブリッドシステムを、酵素の活性の割合によって制御された光電流の発生に適合させた新規の概念、及び、試験試料中の検体の存在を検出するための、その使用を提供する。該システムが、例えば、基質、酵素活性阻害剤(競合的か否かに関わらず)、酵素活性の活性化剤、試験される酵素を修飾する検体等を含む任意の分子又は酵素の活性に影響する条件を検出することができることが認められるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】AChE活性、及びアセチルチオコリンの存在下における光電性電流の発生の光電気化学的アッセイのための、CdS-ナノ粒子/アセチルコリンエステラーゼ(AchE)ハイブリッドシステムの構築を説明する図。
【図2A】変動濃度のアセチルチオコリンの存在下における、光電流スペクトルを示すグラフ。
【図2B】変動濃度のアセチルチオコリンの、λ=380 nmでの光電流に対応する検量線を示す図。
【図3A】10 mMアセチルチオコリン及び異なる濃度の阻害剤1,5-ビス(4-アリジメチルアンモニウムフェニル)ペンタン-3-オンジブロミドの存在下における、AChE-の官能性を持たせたCdS-ナノ粒子電極の光電流スペクトルを示す。挿入図:(a)0μMの阻害剤(3);(b)10μMの(3);(c)20μMの(3);の存在下における、変動濃度のアセチルチオコリンの光電流に対応するラインウィーヴァー‐ブルクプロット(1)。データは、0.1Mのリン酸バッファー、pH=8.1、アルゴン下で記録した。
【図3B】電極に結合したCdS-ナノ粒子/AChEハイブリッドシステムから成る単層によって、アセチルチオコリンの存在下で発生した電流に及ぼす阻害剤の影響を説明する図。
【図3C】(a)0mMのアセチルチオコリン;(b)1mMのアセチルチオコリン;(c)2mMのアセチルチオコリンの存在下における、変動濃度のアセチルチオコリンの光電流に対応するラインウィーヴァー‐ブルクプロット。データは、0.1Mのリン酸バッファー、pH=8.1、アルゴン下で記録した。
【図4A】CdS-ナノ粒子/乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)システムの構築を説明する図。ここで、コファクターNAD+は、試験試料中に可溶化される。
【図4B】乳酸の光電気化学的検出のための、CdS-ナノ粒子/LDHシステムの構築を説明する図。ここで、コファクターNAD+はシステムに共有結合的に固定化される。
【図5A】図4Aに示したシステムの調製を示す図。
【図5B】図4Bに示した二量体の2システムの調製を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスであって:
(i)電子供与体の存在下において励起され得る半導体物質を含むか、又はそれと結合された表面を有する本体、前記半導体物質は、前記本体内で電流を発生することができる;及び
(ii)基質の存在下において、前記電子供与体を産する反応を触媒する、前記半導体物質に結合された酵素;
を具備するデバイス。
【請求項2】
前記本体が、半導体物質から成るか、又は半導体物質によって被覆されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記本体が、半導体物質を含む粒子が結合している電極である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記半導体物質は、III-V群、III-V群合金、II-VI群、I-VII群、及びIV群の半導体から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記半導体物質は、InAs,GaAs,GaP,GaSb,InP,InSb,AlAs,AlP,AlSb、InGaAs,GaAsP,InAsP,CdS,CdSe,CdTe,ZnS,ZnSe,ZnTe,HgS,HgSe,HgTe,CuCl,CuBr,CuI,AgCl,AgBr,AgI,Si及びGeから選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記半導体物質の励起は、電磁放射によるものである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記電磁放射は、UV又は可視領域におけるものである、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記半導体物質は、色素によって被覆されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記酵素は、アセチルコリンエステラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、及びコリンオキシダーゼから選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記電子供与体は、酵素と基質の間の反応産物である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記電子供与体は、酵素のコファクターから産生される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記コファクターは、NAD+及びNADP+から選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記コファクターは、リンカーを介して前記半導体物質に結合される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記酵素は、コファクターを介して前記半導体物質と結合される、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
試験試料中の検体を測定するためのバイオセンシングシステムであって:
(i)照射ユニット;
(ii)作用極及び対照極を備えた反応セル、該作用極は、電子供与体の存在下において、前記照射ユニットにより励起されて前記作用極内で電流を発生する半導体物質を含む表面、又はそれに結合された表面を有する、及び、酵素の基質の存在下において、電子供与体を産する反応を触媒する、前記半導体物質に結合された酵素、前記検体は前記基質、又は酵素の触媒活性を変調し得るモジュレーターである;及び
(iii)前記作用極内で発生した電流又は電圧を判読するための測定ユーティリティ;
を具備するシステム。
【請求項16】
試験試料中の検体の存在を同定する方法であって:請求項15に記載のバイオセンシングシステムを用意すること、試験されるべき試料を該システムの反応セルに導入すること、半導体粒子が励起を起こすように該システムを照射すること、及び電気的応答、検体を含まないコントロール媒体中での同じ条件下での電気的応答と比較した該電気的応答における変化を測定すること、該システムにおける検体の存在を表示すること:を具備する方法。
【請求項17】
試験試料中の検体の濃度を測定する方法であって:請求項15に記載のバイオセンシングシステムを用意すること、試験されるべき試料を該システムの反応セルに導入すること、該半導体粒子の励起が起こるように該システムを照射すること、及び、該電気的応答、既知の濃度の検体を含む媒体中での同じ条件下での電気的応答の検量線と比較した該電気的応答の大きさを測定すること、該システム中の検体の濃度を表示すること:を具備する方法。
【請求項18】
試験試料中の一以上の異なる検体の存在を測定するためのバイオセンシングシステムであって:
(i)照射ユニット
(ii)それぞれが以下を具備する、バイオセンシングシステムのアレイを備えた反応セル:
a.作用極及び対照極、前記作用極は、電子供与体の存在下において、前記照射ユニットにより励起されて、前記作用極内で電流を発生する半導体物質を含む表面、又はそれに結合された表面を有する、及び、酵素の基質の存在下において、電子供与体を産する反応を触媒する、前記半導体物質に結合された酵素、前記検体は前記基質、又は酵素の触媒活性を変調し得るモジュレーターである;及び
b.前記それぞれの作用極内で発生した電流又は電圧を判読するための測定ユーティリティ;
を具備するシステム。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate


【公表番号】特表2006−507492(P2006−507492A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553052(P2004−553052)
【出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【国際出願番号】PCT/IL2003/000795
【国際公開番号】WO2004/046374
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(399042546)イッスム・リサーチ・ディベロップメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシティ・オブ・エルサレム (10)
【Fターム(参考)】